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特許7315601車両制御装置、車両制御システム、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230719BHJP
   B60W 50/14 20200101ALN20230719BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W50/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021034419
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2022134920
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岸 裕治
(72)【発明者】
【氏名】洪 銘蔚
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 豪軌
(72)【発明者】
【氏名】天野 真輝
(72)【発明者】
【氏名】宮川 晃一
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-184650(JP,A)
【文献】特開2019-127081(JP,A)
【文献】特開2019-043405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 30/12
B60W 50/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行車線から逸脱しないようにするために車両の操舵制御を行う操舵制御部と、
前記車両の状態を表す状態量であって前記操舵制御に対する運転者の感覚と相関する状態量を算出する算出部と、
前記算出部で算出された前記状態量が、前記操舵制御に対する運転者の主観評価に基づいて設定された第1閾値を超えた場合に、前記状態量が前記第1閾値以下になるように前記操舵制御の制御パラメータを変更するパラメータ変更部と、
を備えた車両制御装置。
【請求項2】
予め定めた一定の値が前記第1閾値として予め設定されている、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
車両が走行車線から逸脱しないようにするために車両の操舵制御を行う操舵制御部と、
前記車両の状態を表す状態量であって前記操舵制御に対する運転者の感覚と相関する状態量を算出する算出部と、
前記算出部で算出された前記状態量が、前記操舵制御に対する運転者の感覚に基づいて設定された第1閾値を超えた場合に、前記状態量が前記第1閾値以下になるように前記操舵制御の制御パラメータを変更するパラメータ変更部と、
を備え、
前記操舵制御を開始するときの前記状態量を変化させて少なくとも1人の被験者による主観評価を行い、前記被験者が前記操舵制御を許容できると評価したときの前記状態量の最大値が、前記第1閾値として予め設定されている、
車両制御装置。
【請求項4】
前記操舵制御部は、車両が走行車線から逸脱する可能性がある場合に、逸脱を回避する方向に前記車両の進路を変更するように操舵制御を行う、
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記状態量が、前方注視モデルにおける前方注視角であって、車速に応じて予め定めた距離だけ前記車両より先の前記走行車線中央上にある目標点へ向かう方向と、前記車両の進行方向とがなす角度である前方注視角である、
請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記前方注視角は、直線走行している場合には、前記走行車線に対する車両のヨー角と、前記走行車線中央に対する車両の横位置偏差と、前記車速に応じて予め定めた距離とから算出される、
請求項5に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記制御パラメータは、車両が走行車線から逸脱する可能性の有無を判定し、前記操舵制御の開始可否を判定するための判定指標の閾値である第2閾値であり、前記第2閾値を低下させることにより前記操舵制御の開始タイミングを早くして、前記状態量を前記第1閾値以下にする、
請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項8】
車両が走行車線から逸脱しないようにするために車両の操舵制御を行う操舵制御部と、
前記車両の状態を表す状態量であって前記操舵制御に対する運転者の感覚と相関する状態量を算出する算出部と、
前記算出部で算出された前記状態量が、前記操舵制御に対する運転者の感覚に基づいて設定された第1閾値を超えた場合に、前記状態量が前記第1閾値以下になるように前記操舵制御の制御パラメータを変更するパラメータ変更部と、
を備え、
前記第1閾値は、前記操舵制御を開始する前の前記運転者の操舵パターンに基づいて、前記運転者毎に設定される、
車両制御装置。
【請求項9】
前記車両の横位置偏差が予め定めた第3閾値以上になった後で運転者が操舵を開始したときの前記状態量の許容値が、初期設定された前記第1閾値の初期値未満の場合は、前記許容値で前記第1閾値の初期値を更新する、
請求項8に記載の車両制御装置。
【請求項10】
前記第1閾値は、数値、又は2次元マップ上の境界線として与えられる、
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の車両制御装置と、
前記車両に積載され、前記車両の状態を表す状態量の算出に用いられる情報を検出する情報検出部と、
前記操舵制御の制御対象となるステアリング装置と、
を備えた車両制御システム。
【請求項12】
コンピュータを、
車両が走行車線から逸脱しないようにするために車両の操舵制御を行う操舵制御部、
前記車両の状態を表す状態量であって前記操舵制御に対する運転者の感覚と相関する状態量を算出する算出部、
前記算出部で算出された前記状態量が、前記操舵制御に対する運転者の主観評価に基づいて設定された第1閾値を超えた場合に、前記状態量が前記第1閾値以下になるように前記操舵制御の制御パラメータを変更するパラメータ変更部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行車線から逸脱する可能性がある場合にハンドル操作をアシスト(以下、「操舵アシスト」という。)して車両の進路を変更する技術など、システムの介入により運転支援を行う技術が多数開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の車両制御システムは、目標パスに追従するように車両を制御するシステムにおいて、許容される横変位量と走行軌跡の上限周波数とからなる許容限界正弦波を設定し、その時間微分との関係からなる判定基準をもとに、パス追従制御の継続可否を判断することを特徴としている。この技術は、目標パスへの追従制御を行うに際して、実際に生じる車両のふらつきが制御で収束できる場合と、許容限界を迎えた場合とを区別し、システムの安全性を担保するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-111980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、運転者の視点に立ったとき、車両のふらつきが制御で収束できると判定された場合、すなわちシステムとしては安全と判断された場合であっても、システムの作動タイミングが運転者の感覚とはずれていて、違和感として感じられることがあり、制御システムに対する安心感が低下してしまう。これは、制御システムの判断・判別の過程において運転者の感覚が考慮されていないことによる。
【0006】
本発明は、システムの介入による操舵制御を作動させる際の運転者の違和感を低減し、システムに対する安心感の向上を図ることができる車両制御装置、車両制御システム、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様に係る車両制御装置は、車両が走行車線から逸脱しないようにするために車両の操舵制御を行う操舵制御部と、前記車両の状態を表す状態量であって前記操舵制御に対する運転者の感覚と相関する状態量を算出する算出部と、前記算出部で算出された前記状態量が、前記操舵制御に対する運転者の感覚に基づいて設定された閾値を超えた場合に、前記状態量が前記閾値以下になるように前記操舵制御の制御パラメータを変更するパラメータ変更部と、を備える。
【0008】
本開示の第2の態様に係る車両制御システムは、本開示に係る車両制御装置と、前記車両に積載され、前記車両の状態を表す状態量の算出に用いられる情報を検出する情報検出部と、前記操舵制御の制御対象となるステアリング装置と、を備える。
【0009】
本開示の第3の態様に係るプログラムは、コンピュータを、車両が走行車線から逸脱しないようにするために車両の操舵制御を行う操舵制御部、前記車両の状態を表す状態量であって前記操舵制御に対する運転者の感覚と相関する状態量を算出する算出部、前記算出部で算出された前記状態量が、前記操舵制御に対する運転者の感覚に基づいて設定された閾値を超えた場合に、前記状態量が前記閾値以下になるように前記操舵制御の制御パラメータを変更するパラメータ変更部、として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、システムの介入による操舵制御を作動させる際の運転者の違和感を低減し、車両制御システムに対する安心感の向上につなげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】操舵アシスト処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図2】前方注視角を説明するための模式図である。
図3】前方注視角と主観評価結果との関係の一例を示すグラフである。
図4】被験者毎の前方注視角の許容閾値の一例を示すグラフである。
図5】主観評価結果とヨー角/横位置偏差との関係の一例を示すグラフである。
図6】第1の実施形態に係る車両制御システムの構成の一例を示すブロック図である。
図7】第1の実施形態に係る制御パラメータ変更処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】第2の実施形態に係る車両制御システムの構成の一例を示すブロック図である。
図9】第2の実施形態に係る前方注視角の閾値変更処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図10】操舵アシストを行わない場合の前方注視角とハンドル操作量との経時変化の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態では、操舵アシストを伴う運転支援を行う車両制御システムの事例として車線逸脱防止システムを想定している。
【0013】
<操舵アシスト制御>
まず、本開示の前提となる「操舵アシスト制御」について説明する。
操舵アシスト制御では、運転者による車両の運転中に、車両が走行車線から逸脱する可能性がある場合に、システムの介入による操舵制御を作動させて車両の進路を変更する。操舵アシスト制御の手法は種々知られているが、例えば以下の手順で実行することができる。なお、以下では、車両の走行車線から逸脱を「車線逸脱」と略称する。
【0014】
図1は操舵アシスト処理の流れの一例を示すフローチャートである。操舵アシスト処理のプログラムは、後述する情報処理部12(図6参照)のCPUによって実行され、運転が開始された後に開始される。
【0015】
まず、ステップ100で、CPUは、最新の制御パラメータを取得する。例えば、後述する「判定指標の閾値」や「警報作動のタイミング」が、操舵アシスト制御の制御パラメータに相当する。
【0016】
次に、ステップ102で、CPUは、車両情報を取得する。ここで車両情報には、車両の横位置偏差、横位置偏差の変化速度、走行車線に対する車両のヨー角など、車両状態を表す1つ又は複数の状態量が含まれる。これらの車両情報は、後述する車両・周囲情報検出部14(図6参照)の検出情報に基づいて取得される。
【0017】
次に、ステップ104で、CPUは、判定指標を算出する。判定指標は、車線逸脱の可能性の判定、ひいては操舵アシスト制御の開始可否の判定のため指標である。判定指標は、例えば下記式(2)に示すように、ステップ102で取得された1つ又は複数の状態量の各々を変数とする関数で表現される。例えば、判定指標を、車両の横位置偏差としてもよい。
判定指標=f(横位置偏差、横位置偏差の変化速度、ヨー角、...) (2)
【0018】
次に、ステップ106で、CPUは、算出された判定指標が、予め定めた閾値を超えたか否かを判断する。算出された判定指標が閾値を超えた場合は、ステップ108に進む。一方、算出された判定指標が閾値以下の場合は、車線逸脱の可能性は無いため、ルーチンを終了する。
【0019】
次に、ステップ108で、CPUは、車線変更するか否かを判断する。例えば、後述するウインカー操作部16B(図6参照)が操作された場合は、運転者による意図的な車線変更が行われる。判定指標が閾値を超えており、かつ車線変更しない場合は、システムの介入による操舵アシストが必要であるため、ステップ110に進む。一方、車線変更する場合は、操舵アシストは不要であるため、ルーチンを終了する。
【0020】
次に、ステップ110で、CPUは、操舵制御量を算出する。例えば、操舵制御量は、車両の進路を目標コースに近づけて車線逸脱を回避し、判定指標の値を低下させるために必要な操舵制御量であり、走行車線に対する車両のヨー角等から算出される。
【0021】
次に、ステップ112で、CPUは、予め定めたタイミングで警報を作動させる。例えば、システムの介入による操舵制御の作動と略同時に、後述する警報装置19(図6参照)を作動させて警報音を発生させる等して、車線逸脱の可能性があり、システムが介入することを運転者に報知する。
【0022】
次に、ステップ114で、CPUは、ステップ110で算出された操舵制御量に従って、システムの介入による操舵制御を行い、ルーチンを終了する。
【0023】
図1に示す「操舵アシスト処理」は、運転者による車両の運転中、車両が停止するまで繰り返し実行される。これにより、車両が走行車線から逸脱する可能性がある場合に、システムの介入による操舵制御により車両の進路が変更され、車線逸脱が回避される。
【0024】
<本開示の概要>
上述した操舵アシスト処理は、車線逸脱に対するシステム介入のタイミング、即ち、システムの介入による操舵制御の作動開始のタイミングによっては、運転者に違和感を与えてしまい、場合によってはシステムへの信頼性や安心感の低下を引き起こす。本発明は、システムの介入による操舵制御を作動する際のドライバの違和感を低減し、運転者にとって安心感のある車両制御システムを実現するものである。
【0025】
以下に説明する通り、発明者らは、車線逸脱に対するシステムの介入のタイミングに関する運転者の評価は、システム介入時の前方注視角と相関関係があることを見出した。即ち、前方注視角の閾値は、運転者の感覚に基づいて設定することが可能であるとの知見を得た。
【0026】
本開示の車両制御システムは、制御状態判定に用いる前方注視角の閾値を、運転者の感覚に基づいて設定することで、車両制御システムの判断・判別の過程に運転者の感覚特性を反映させることができ、運転者にとって違和感のある条件での作動を低減することができるというものである。
【0027】
(前方注視角)
ここで「前方注視角」の定義について説明する。
図2は前方注視角を説明するための模式図である。前方注視モデルでは、運転者が車両の前方(進行方向)L[m]の目標コース上の点(所定時間後の目標点)を注視し、現在の車両の姿勢のまま現在の進行方向にL[m]進むとする。車線逸脱に対するシステムでは、目標コースは走行車線の車線中央であり、前方注視角を算出する際の前方注視点は、所定時間後(例えば、数秒後)の走行車線中央上の点とすればよい。
【0028】
車両の重心位置の走行車線中央からの横方向のずれが、車両の横位置偏差εである。
L[m]先の目標点が「前方注視点」であり、矢印で示す車両の進行方向と、走行車線中央上の前方注視点へ向かう方向とがなす角が「前方注視角θgaze」である。前方注視角θgazeは、前方注視点まで距離L、走行車線に対する車両のヨー角θ、及び横位置偏差εから、下記式(1)の関係を用いて求めることができる。
【0029】
【数1】
【0030】
次に、前方注視角と運転者の主観評価結果との相関関係について説明する。
図3は前方注視角と主観評価結果との関係の一例を示すグラフである。車線逸脱に対するシステムの介入のタイミングを一定とし、前方注視角の値を種々変更して特定の運転者による介入タイミングの主観評価を行った。評価結果は「許容できる」を0、「許容できない」を1の2値で表し、前方注視角に対してプロットした。評価結果をシグモイド関数で近似したときの近似値が0.5となるときの前方注視角を閾値とすると、前方注視角の閾値は約2degとなる。
【0031】
図4は被験者毎の前方注視角の許容閾値の一例を示すグラフである。複数の運転者(被験者)について主観評価を行い、被験者毎に得られた許容閾値をプロットした。図示した例では、被験者IDが「1~10」の10人の被験者により主観評価を行った。被験者IDが「5」と「10」の2人は「許容できる」と回答している。複数の運転者から得られた前方注視角の閾値について平均値を求めると、平均値はやはり約2degとなる。
【0032】
図5は主観評価結果とヨー角/横位置偏差との関係の一例を示すグラフである。前方注視角は、ヨー角と横位置偏差という複数の状態量を組み合わせたマップで表すこともできる。図3と同様に、システムの介入タイミングに関して特定の運転者による主観評価を行った。評価結果は「許容できる」を〇、「許容できない」を△で表し、システム介入時の車両状態(横位置偏差・ヨー角)に対してプロットした。
【0033】
目標ラインからの横位置偏差が1を超えると車線はみだしの状態になる。横位置偏差が0.5を超えると「許容できない」とする評価が増える。しかしながら、横位置偏差が小さくても、ヨー角が大きい場合には「許容できない」と評価されていることがわかる。点線で表された斜めの直線は、前方注視角の値(1.0deg、1.5deg、2.0deg、2.5deg)を表している。この直線を境界線として、前方注視角が約2degを超える領域では「許容できない」とする評価の割合が顕著に増加することが分かる。
【0034】
上記の通り、前方注視角が所定値以上で、車線逸脱に対するシステムの介入が行われると、運転者はこれを許容することができない。したがって、運転者が「許容できない(例えば、介入が遅い)」と感じないタイミングでシステムが介入できるように、前方注視角の閾値を設定することで、運転者にとって違和感のある条件での作動を低減することができる。以下、本開示の実施形態を具体的に説明する。
【0035】
<第1の実施形態>
次に、車両制御システムについて説明する。
図6は第1の実施形態に係る車両制御システムの構成の一例を示すブロック図である。図6に示すように、本実施に形態に係る車両制御システム10は、情報処理部12、車両・周囲情報検出部14、運転操作検出部16、ステアリング装置18、及び警報装置19を備えている。
【0036】
車両・周囲情報検出部14は、車両の周囲の状況を撮像するカメラ等の撮像部14A、車両の速度を検出する車速センサ14B、車両の加速度を検出する加速度センサ14C、及び車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ14Dを備えている。車両・周囲情報検出部14は、これらの車両に搭載されたカメラやセンサにより、自車両に関する情報(例えば、加速度、車速、ヨーレートなど)と、走行車線などの外部環境の情報とを検出する。車両・周囲情報検出部14は、検出した情報を情報処理部12に出力する。
【0037】
運転操作検出部16は、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ16A、及び方向指示器であるウインカーの操作を検出するウインカー操作部16Bを備えている。運転操作検出部16は、これらの車両に搭載されたセンサ等により運転者の操作(例えば、ハンドル操作量、車線変更動作など)を検出する。本実施形態では、操舵角センサ16Aにより運転者のハンドル操作量を検出し、ウインカー操作部16Bの操作の有無からハンドル操作が車線変更を意図した操作か否かを判別する。運転操作検出部16は、検出した情報を情報処理部12に出力する。
【0038】
ステアリング装置18は、パワーステアリング装置であり、モータを駆動制御することによって車輪を転舵することができる。警報装置19は、例えば、警報音を鳴らしたり、図示しない表示部に警報画面を表示したり、警報灯を点滅させる等の方法により、運転者に警報を報知する装置である。
【0039】
情報処理部12は、コンピュータで構成されており、CPU、ROM、RAM、記憶部、及び入出力インターフェースを備えている。CPUは、ROMや記憶部に記憶された制御プログラムを読み出し、RAMをワークエリアとして制御プログラムを実行する。情報処理部12は、入出力インターフェースを介して外部との間で情報をやり取りする。
【0040】
情報処理部12は、機能部として、車両状態算出部20、制御状態判定部22、制御パラメータ変更部24、車両制御部26、及び閾値記憶部28を備えている。車両制御部26には、制御パラメータ記憶部27、及び操舵アシスト制御部30が含まれている。情報処理部12のCPUが制御プログラム(例えば、操舵アシスト処理や制御パラメータ変更処理のプログラム)を実行することで、コンピュータが、各機能部として機能する。
【0041】
車両状態算出部20は、車両・周囲情報検出部14で得られた情報をもとに、制御状態判定に必要な車両状態を表す状態量を算出する。本実施形態では、車両状態算出部20は、車両・周囲情報検出部14で検出された情報から車両の横位置偏差と車両のヨー角とが算出されると共に、車両の横位置偏差と車両のヨー角とから前方注視角が算出される。
【0042】
制御状態判定部22は、車両状態算出部20で算出された1つ以上の状態量をもとに操舵アシスト制御の制御状態が運転者にとって適切な状態となっているかを判定し、制御状態が適切でないと判定された場合には不適状態判定フラグを上げる。本実施形態では、制御状態判定部22は、車両状態算出部20で算出された前方注視角の絶対値と、閾値記憶部28に記憶された前方注視角の閾値とを比較し、前者の方が大きい場合には不適状態判定フラグを上げる。
【0043】
制御パラメータ変更部24は、制御状態判定部22の判定結果に基づいて車両制御の制御パラメータを変更する。
【0044】
車両制御部26は、最新の制御パラメータ(制御パラメータが変更された場合には、変更後の制御パラメータ)に応じて車両制御を行う。本実施形態では、制御パラメータ変更部24によって変更された制御パラメータは、制御パラメータ記憶部27に記憶される。操舵アシスト制御部30は、制御パラメータ記憶部27から最新の制御パラメータを取得し、取得した制御パラメータに応じてステアリング装置18、警報装置19を作動させる。
【0045】
なお、本実施形態では、制御プログラムがROMや記憶部に予め記憶されている形態について説明するが、制御プログラムは、光磁気ディスク、CD-ROM、USBメモリなどのコンピュータ読み取り可能な可搬型の記録媒体に格納されて提供されてもよく、ネットワークを介して提供されてもよい。
【0046】
(制御パラメータ変更処理)
次に、図6図7を参照して「制御パラメータ変更処理」について説明する。
図7は第1の実施形態に係る制御パラメータ変更処理の流れの一例を示すフローチャートである。「制御パラメータ変更処理」のプログラムは、情報処理部12のCPUによって実行され、操舵アシスト処理が開始されるときに開始される。なお、制御パラメータ変更処理は、操舵アシスト処理と並列に実行される。
【0047】
まず、ステップ200で、CPUは、閾値記憶部28から予め定めた前方注視角の閾値を読み出す。
【0048】
次に、ステップ202で、CPUは、車両・周囲情報検出部14で検出された情報から車両の横位置偏差と車両のヨー角とを算出する。なお、車両の横位置偏差、車両のヨー角の算出については、既存の手法のいずれを用いて求めてもよい。
【0049】
次に、ステップ204で、CPUは、例えば前記式(1)に従って、車両の横位置偏差と車両のヨー角とから前方注視角を算出する。
【0050】
次に、ステップ206で、CPUは、ステップ204で得られた前方注視角が、予め定めた閾値を超えたか否かを判断する。ステップ204で得られた前方注視角が閾値を超えた場合は、ステップ208に進む。一方、ステップ204で得られた前方注視角が閾値以下の場合は、ルーチンを終了する。
【0051】
次に、ステップ208で、CPUは、制御状態が適切でないと判定して、不適状態判定フラグを立てる。例えば、システム介入が遅い場合には、制御状態が適切でないと判定される。
【0052】
次に、ステップ210で、CPUは、不適状態判定フラグに応じて、システムの介入タイミングが適切なものとなるように制御パラメータを変更して、ルーチンを終了する。例えば、システム介入が遅い場合、CPUは、システムの介入による操舵制御の開始判定に用いる上記の「判定指標の閾値」を小さい値に変更する、「警報作動のタイミング」をシステムの介入による操舵制御の開始前に変更する等、システム構成に即した制御パラメータの変更を行う。
【0053】
このように「判定指標の閾値」を下げることにより、システムの介入による操舵制御の作動開始のタイミングを早くすることができる。また、「警報作動のタイミング」をシステムの介入による操舵制御の作動開始前とすることで、システムが介入する状態にあることを運転者に事前に通知することができる。
【0054】
本実施形態では、制御パラメータ変更処理を一定周期毎に繰り返すことで、制御状態を常に判定し、その結果に応じて制御パラメータを変更することができる。これにより前方注視角が閾値以下になるまで制御パラメータが変更され、システムの介入タイミングのずれによる運転者の違和感が解消されて、運転者の感覚にあった制御が実現される。
【0055】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、前方注視角の閾値を一定値としているが、運転者によって違和感を生じる感度が異なることから、第2の実施形態では、操舵アシスト処理が実行される前の、運転者によるハンドル操作情報を基に、運転者毎に閾値を変更する。
【0056】
図8は第2の実施形態に係る車両制御システムの構成の一例を示すブロック図である。図8に示す車両制御システム10Aは、操作・車両情報記憶部32及び閾値更新部34が追加された以外は、図6に示す第1の実施形態に係る車両制御システム10と同じ構成であるため、同じ構成部分には同じ符号を付して説明を省略する。
【0057】
操作・車両情報記憶部32は、車両状態算出部20で算出された車両の横位置偏差が、予め定めた横位置偏差の閾値より大きい場合には、運転操作検出部16で検出されたハンドル操作量と、前方注視角の算出結果とを記憶する。
【0058】
閾値更新部34は、操作・車両情報記憶部32に記憶されたデータ量が一定以上となった場合、閾値更新のための新しい閾値を算出する。
【0059】
閾値記憶部28には最初は予め設定された初期閾値が記憶されている。閾値更新部34は、運転者の許容値と初期閾値とを比較して、運転者の許容値の方が小さい場合には、運転者の許容値で閾値記憶部28に記憶された閾値を更新する。初期閾値の方が小さい場合には、閾値の更新は行わない。
【0060】
情報処理部12のCPUが、次に説明する「前方注視角の閾値変更処理」のプログラムを実行することで、コンピュータが、操作・車両情報記憶部32及び閾値更新部34の各機能部として機能する。
【0061】
(前方注視角の閾値変更処理)
次に、図8図9を参照して、前方注視角の閾値変更処理について説明する。
図9は第2の実施形態に係る前方注視角の閾値変更処理の流れの一例を示すフローチャートである。前方注視角の閾値変更処理のプログラムは、情報処理部のCPUによって実行され、運転者による運転が開始されると開始される。
【0062】
なお、第2の実施の形態では、前方注視角の閾値変更処理が終了するまで、操舵アシスト処理は開始されない。即ち、前方注視角の閾値変更処理は、操舵アシスト処理に先立って実行される。
【0063】
まず、ステップ300で、CPUは、車両・周囲情報検出部14で検出された情報から、車両のヨー角と車両の横位置偏差とを取得する。
【0064】
次に、ステップ302で、CPUは、車両のヨー角と車両の横位置偏差とから、前方注視角を算出する。
【0065】
次に、ステップ304で、CPUは、運転操作検出部16で検出されたハンドル操作量を取得する。
【0066】
次に、ステップ306で、CPUは、算出された車両の横位置偏差が、予め定めた閾値を超えたか否かを判断する。車両の横位置偏差が閾値を超えた場合は、ステップ308に進む。一方、車両の横位置偏差が閾値以下の場合は、車線中央付近でのハンドル操作であるため、ステップ312に進む。
【0067】
次に、ステップ308で、CPUは、車線変更するか否かを判断する。上述した通り、ウインカー操作部16Bが操作された場合は、運転者による意図的な車線変更である。車両の横位置偏差が閾値を超えており、かつ車線変更しない場合は、データを蓄積する必要があるため、ステップ310に進む。一方、車線変更する場合は、ステップ312に進む。
【0068】
次に、ステップ310で、CPUは、ステップ302で算出した前方注視角と、ステップ304で取得したハンドル操作量とを対応付けて記憶する。
【0069】
次に、ステップ312で、CPUは、操作・車両情報記憶部32に蓄積された蓄積データ量が、予め定めた閾値を超えたか否かを判断する。蓄積データ量が閾値以下の場合は、閾値更新は行わずに、ステップ300に戻る。ステップ300からステップ312までの処理が繰り返し実行されることで、操作・車両情報記憶部32には、前方注視角とハンドル操作量との関係を表すデータが蓄積される。一方、蓄積データ量が閾値を超えた場合は、更新判定に十分なデータが収集されたものとして、ステップ314に進む。
【0070】
次に、ステップ314で、CPUは、運転者の前方注視角の許容値を算出する。図10は、操舵アシストを行わない場合の前方注視角とハンドル操作量との経時変化の様子を示す模式図である。蓄積されたデータを時間に対してプロットすると、図10に示すような運転者に固有の操舵パターンが得られる。図10から分かるように、運転者がハンドル操作を開始したときの前方注視角の値が、その運転者の前方注視角に対する許容値となる。
【0071】
次に、ステップ316で、CPUは、ステップ314で算出した前方注視角の許容値が、初期閾値未満か否かを判断する。前方注視角の許容値が初期閾値未満の場合は、初期閾値が運転者の許容範囲を超えているので、ステップ318に進む。一方、前方注視角の許容値が初期閾値以上の場合は、閾値更新は行わずにルーチンを終了する。
【0072】
次に、ステップ318で、CPUは、ステップ314で算出した運転者の許容値で、閾値記憶部28に記憶された閾値を更新して、ルーチンを終了する。
【0073】
第2の実施形態で用いられる前方注視角の閾値は、対象の運転者自身が運転操作をする場合、どの程度の前方注視角の範囲を許容しているかが反映された値となる。従って、前方注視角の閾値を一定値とする場合に比べて、さらに運転者の感覚にあった制御が実現される。
【0074】
<変形例>
なお、上記各実施形態で説明した車両制御装置、車両制御システム、及びプログラムの構成は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において変更してもよいことは言うまでもない。
【0075】
本実施形態では、操舵アシストを伴う運転支援を行う車両制御システムの事例として車線逸脱防止システムを想定しているため、運転者の感覚に基づいて前方注視角の閾値を設定しているが、操舵アシストを伴う運転支援を行う車両制御システムは、車線逸脱防止システムには限定されない。車線逸脱防止以外の目的で、操舵アシストを伴う運転支援を行う場合には、制御状態判定に必要な車両状態を表す状態量として、前方注視角以外の他のパラメータが用いられてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 車両制御システム
10A 車両制御システム
12 情報処理部
14 車両・周囲情報検出部
16 運転操作検出部
18 ステアリング装置
19 警報装置
20 車両状態算出部
22 制御状態判定部
24 制御パラメータ変更部
26 車両制御部
27 制御パラメータ記憶部
28 閾値記憶部
30 操舵アシスト制御部
32 操作・車両情報記憶部
34 閾値更新部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10