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特許7315783ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体、多層フィルム、及び医薬用ブリスターパック
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  • 特許-ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体、多層フィルム、及び医薬用ブリスターパック 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体、多層フィルム、及び医薬用ブリスターパック
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/08 20060101AFI20230719BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20230719BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20230719BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230719BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230719BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230719BHJP
   A61J 1/03 20230101ALI20230719BHJP
【FI】
C08L27/08
C08K3/32
C08K5/01
B32B27/30 101
B32B27/18 Z
B65D65/40
A61J1/03 370
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022509543
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009353
(87)【国際公開番号】W WO2021193031
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2020059045
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 隆晴
(72)【発明者】
【氏名】山崎 有亮
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-058078(JP,A)
【文献】特公昭47-029373(JP,B1)
【文献】特開平08-239536(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102766231(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103059202(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105367701(CN,A)
【文献】特開2013-163799(JP,A)
【文献】特開2007-169665(JP,A)
【文献】特開2005-048109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00- 27/24
C08K 3/00- 13/08
B32B 27/00- 27/42
B65D 65/00- 65/46
A61J 1/00- 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデンに由来する構造単位を含むハロゲン化ビニルポリマーを含み、樹脂固形分に対して0質量%超2.5質量%未満の親水性指数が41.0未満であるアニオン性の両親媒性化合物を含み、表面張力が45mN/m以上であり、
ピロリン酸ナトリウムを含む、
ことを特徴とするハロゲン化ビニルポリマーの水分散体。
【請求項2】
前記樹脂固形分に対して0.12質量%超のノニオン性の両親媒性化合物を含む、請求項1に記載のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が、該ハロゲン化ビニルポリマーと異なる高分子からなるベースフィルムに塗布された層を有する、ことを特徴とする多層フィルム。
【請求項4】
ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された前記層を二層以上有する、請求項3に記載の多層フィルム。
【請求項5】
ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された前記層のうち少なくとも一層の厚さが10μm以上である、請求項3又は4に記載の多層フィルム。
【請求項6】
ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された前記層のうち少なくとも一層の厚さが30μm以上である、請求項3~5のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項7】
含水率が1質量%以下である、請求項3~6のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項8】
ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された前記層のフーリエ変換赤外分光度計で計測される相対結晶化度が1.1以上である、請求項3~7のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項9】
請求項3~8のいずれか一項に記載の多層フィルムを有する、ことを特徴とする医薬品用ブリスターパック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体、多層フィルム、及び医薬用ブリスターパックに関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品の品質保持の為には、大気中の酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気といった気体を遮断、密閉する必要がある。種々の樹脂の中でも、塩化ビニリデン系共重合体ラテックスは、フィルムに塗布されると高い水蒸気や酸素のバリア性を発現するため、食品や医薬品包装用途に適している。
【0003】
近年、これらのフィルム用途においては、より高いガスバリア性が求められている。それを解決するには、ラテックスを重ね塗りし、バリア層を厚くすることが有効であるが、従来のラテックスでは塗面外観が荒れ、透明性が損なわれる問題があった。具体的には、ラテックス水分散体の表面張力が適正範囲でなければレベリング不良を起こし、重ね塗り(リコート)の際にゆず肌模様となり、さらに医薬品用のブリスターパック成形時等に高温で成形を行うとフィルム中に発泡が生じていた。
上記の課題を鑑み、種々の検討がなされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭48-58078号公報
【文献】特開2000―239468号公報
【文献】特公昭47-29373号公報
【文献】特開平8-239536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、乳化重合でビニリデンクロリド共重合体ラテックスを得る際に、両親媒性化合物としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを樹脂固形分に対し2.5質量部を配合することが開示されている。ただし、ここでは、両親媒性化合物は適切に重合を進めるため添加されることを目的とし、多量に配合されたため、成形時に発泡を生じ、リコート性も不十分であり、本願の効果は得られなかった
【0006】
特許文献2には、塩化ビニリデン系共重合体ラテックスに対して消泡剤として特定のノニオン性両親媒性化合物を0.005から0.12質量部を含有することが開示されている。しかしながら、添加が少量すぎるため塗工性が不十分であった。
【0007】
特許文献3には、全界面活性剤の50重量%以上がアニオン性両親媒性物質を含む重合体を基材に重層塗布を行う際に55重量%以上がノニオン性両親媒製物質を含む塩化ビニリデン系共重合体を介して重層塗布されていたが、含水率・結晶化度が不十分のために成形時に発泡を生じて本願の効果は得られなかった。
【0008】
特許文献4には、水酸基含有ラジカル重合性単量体を用いてドデシルスルホン酸ナトリウムを用いた実施例の記載があったが含水率が不十分なために成形時に発泡を生じて本願の効果は得られなかった。
【0009】
従って、本発明は、重ね塗りの塗工性に優れ、レベリング不良、ゆず肌模様、フィルム成形時に発泡を生じず、均一な塗膜が得られる水分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の両親媒性化合物を特定量、ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体に配合することにより、重ね塗りの際に塗工性が優れ、レベリング不良、ゆず肌模様、発泡を生じず、均一な塗膜が得られることを発見した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
塩化ビニリデンに由来する構造単位を含むハロゲン化ビニルポリマーを含み、樹脂固形分に対して0質量%超2.5質量%未満の親水性指数が41.0未満であるアニオン性の両親媒性化合物を含み、表面張力が45mN/m以上であり、ピロリン酸ナトリウムを含む、ことを特徴とするハロゲン化ビニルポリマーの水分散体。
[2]
前記樹脂固形分に対して0.12質量%超のノニオン性の両親媒性化合物を含む、[1]に記載のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体。
[3]
[1]又は[2]に記載のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が、該ハロゲン化ビニルポリマーと異なる高分子からなるベースフィルムに塗布された層を有する、ことを特徴とする多層フィルム。
[4]
ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された前記層を二層以上有する、[3]に記載の多層フィルム。
[5]
ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された前記層のうち少なくとも一層の厚さが10μm以上である、[3]又は[4]に記載の多層フィルム。
[6]
ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された前記層のうち少なくとも一層の厚さが30μm以上である、[3][5]のいずれかに記載の多層フィルム。
[7]
含水率が1質量%以下である、[3][6]のいずれかに記載の多層フィルム。
[8]
ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された前記層のフーリエ変換赤外分光度計で計測される相対結晶化度が1.1以上である、[3][7]のいずれかに記載の多層フィルム。
[9]
[3][8]のいずれかに記載の多層フィルムを有する、ことを特徴とする医薬品用ブリスターパック。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体は、上記構成を有するため、重ね塗りの際に塗工性が優れ、レベリング不良、ゆず肌模様、フィルム成形時に発泡を生じず、均一な塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】塗工性の評価基準である。(a)は〇の評価であり、(b)は△の評価であり、(c)は×の評価である。
図2】リコート性の評価基準である。(a)は〇の評価であり、(b)は△の評価であり、(c)は×の評価である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0015】
[ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体]
本実施形態のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体は、ハロゲン化ビニルポリマーを含み、樹脂固形分100質量%に対して、親水性指数が41.0未満であるアニオン性の両親媒性化合物を0質量%超2.5質量%未満含む。これにより重ね塗りの際に塗工性が優れ、レベリング不良、ゆず肌模様が起こり難く、また、フィルム成形時の発泡を生じず均一な塗膜が得られる。
本実施形態のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体は、さらに、樹脂固形分100質量%に対して、ノニオン性の両親媒性化合物を0.12質量%超含んでいてもよい。
上記ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体は、少なくともハロゲン化ビニルを含む単量体が乳化重合されたものが好ましい。
なお、本明細書において、ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体を、単に水分散体と称する場合がある。また、本実施形態の水分散体中の樹脂固形分は、水分散体中に含まれる全ての固形樹脂の総量をいい、ハロゲン化ビニルポリマーのみであってもよいし、他の樹脂成分を含んでいてもよい。
【0016】
(ハロゲン化ビニルポリマー)
上記ハロゲン化ビニルポリマーは、少なくともハロゲン化ビニルに由来する構造単位を含み、さらにハロゲン化ビニルと共重合可能な単量体を含んでいてもよい。
なお、本明細書において、ハロゲン化ビニルと共重合可能な単量体を、共重合単量体と称する場合がある。
【0017】
上記ハロゲン化ビニルとしては、ビニル基の水素原子の一つ以上がハロゲン原子で置換された構造を有する化合物が挙げられ、例えば、エチレン構造の水素原子の一つもしくは複数がハロゲン原子で置換された化合物であってもよい。上記ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素が挙げられる。
【0018】
上記ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系単量体、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフッ化エチレン、フルオロエチレン等のフッ素系単量体、臭化ビニル、臭化ビニリデン、トリブロモエチレン、テトラブロモエチレン等の臭素系単量体、等が挙げられる。上記ハロゲン化ビニルは、一種または二種以上を選択して用いることができる。これらの中でも、塩素系単量体が重合のし易さの点で優れており、特に塩化ビニリデンがバリア機能の点で優れている。
【0019】
ハロゲン化ビニルと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル、及びアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。上記共重合単量体は、一種または二種以上を選択して用いることができる。この中でも、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、アクリル酸が好ましく、より好ましくはアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリロニトリル、アクリル酸であり、特にアクリル酸メチル、アクリル酸が塗膜の柔軟性の点からも好ましい。
【0020】
上記ハロゲン化ビニルポリマーは、ハロゲン化ビニルポリマー100質量%に対して、ハロゲン化ビニル(例えば、ハロゲン化エチレン)に由来する構造単位を50質量%以上含む共重合体であることが好ましい。ハロゲン化ビニル(例えば、ハロゲン化エチレン)に由来する構造単位の質量割合をこの範囲とすることで、バリア性と成膜性とに優れる。上記質量割合は、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。また、良好な成膜性が発現する観点から、99質量%以下が好ましく、96質量%以下がより好ましく、94質量%以下が特に好ましい。
【0021】
本実施形態の水分散体中のハロゲン化ビニルポリマーの質量割合は、塗工性の観点から、ハロゲン化ビニルポリマーを固形分として20質量%以上を含むことが好ましく、塗工性に一層優れる観点から、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは55質量%以上である。また、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、65質量%以下が特に好ましい。
ハロゲン化ビニルポリマーの質量割合は、乾燥減量法で測定された値のことを指し、以下の方法で測定される。CEM社製のSMART System 5を用いてグラスファイバーパットにスポイトを用いて水分散体(例えば、ラテックス)を2~4g滴下し出力40%で昇温した後の(乾燥質量/水分散体の質量)×100で固形分(質量%)を算出する。
【0022】
本実施形態の水分散体中のハロゲン化ビニルポリマーは粒子状であることが好ましい。
上記ハロゲン化ビニルポリマーの平均粒子径は、フィルム状に塗布した際の表面平滑性が優れる観点から、50nm以上が好ましく、75nm以上がより好ましく、100nm以上がさらに好ましく、125nm以上が特に好ましい。また、良好なフィルムが得られる観点から、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下がさらに好ましい。
この平均粒子径は、動的光散乱法で測定された値のことを指し、以下の方法で測定される。大塚電子製FPAR-1000でガラスセル(マルエム製セントチューブ STS-2)に純水にて100倍希釈したハロゲン化ビニルポリマーの水分散体を5~9cc分注し、動的光散乱法で測定する。
【0023】
(アニオン性の両親媒性化合物)
上記アニオン性の両親媒性化合物とは、水に溶解した際に電離しアニオン性を示す両親媒性化合物のことである。本明細書において、アニオン性とは、H-NMRにより測定される水中で親水基の部分がマイナスイオンに電離する両親媒性物質であることをいう。また、ノニオン性とは、H-NMRにより測定される構造中に水中でイオンが解離しない水酸基やエーテル結合をもっている両親媒性物質であることをいう。
【0024】
上記アニオン性の両親媒性化合物の親水性指数は、41.0未満である。
親水性指数が小さいことにより、両親媒性化合物が適度な疎水性を発現する。それによりハロゲン化ビニルポリマーの表面(例えば、粒子表面)を修飾し、乾燥時にハロゲン化ビニルポリマーとの相溶性が良好となる。そのため、乾燥時に粒子内に取り込まれ、表面にブリードせずに塗膜できる。その結果、表面張力ムラを生じにくく、重ね塗りの際にレベリング不良を起こしにくい。また、保水性が小さいために乾燥時にフィルム中の水分の蒸散を促進し、成膜後の塗膜の含水率を低減できるため、フィルム成形時の発泡を抑制できる。親水性指数は低いほど上述の効果が得られやすく、好ましくは38.0以下、より好ましくは34.0以下である。下限は特に設定されるものではないが、両親媒性化合物の水溶解性及びハロンゲン化ビニルポリマーとの親和性を勘案すると、1.0以上が好ましく、より好ましくは5.0以上であり、さらに好ましくは10.0以上であり、特に好ましくは20.0以上である。
上記親水性指数は、以下の方法で算出することができる。
親水性指数=(水中で電離する塩類を含む両親媒性化合物の化学構造に占める親水基の分子量)/(水中で電離する塩類を含む両親媒性化合物の分子量)×100
なお、分子量は、後述するH-NMRによる測定で同定された物質について、その構成原子に基づき、計算により算出する。
ここでいう親水基とは、静電的作用や水素結合などによって水分子と弱い結合をつくり、水中で安定になる原子団のことである。上記親水基の種類は特に限定されるものではないが、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、スルホコハク酸基、アミノ酸基、単糖類、二糖類、多糖類、グリセリンなどが挙げられ、疎水基とエステル結合、エーテル結合等で結合したものである。これらの親水基は、構造中の一部の水素が、カリウム、ナトリウム、カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属等の塩類で置換されたものである。
水分散体にアニオン性の両親媒性化合物が複数種含まれる場合の親水性指数は、上述の式を用いて各成分単体の値を求め、それらの質量比から平均をとった値を用いることとする。
【0025】
本実施形態の水分散体中のアニオン性の両親媒性化合物の質量割合は、水分散体をフィルム塗布する際のリコート性が優れ、乾燥時の発泡が抑制される観点から、水分散体中に含まれる樹脂固形分100質量%に対して、0質量%超2.5質量%未満であり、好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下であり、特に好ましくは0.7質量%以下である。また、良好な塗工性が得られる観点から、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましく、0.3質量%以上が特に好ましく、0.4質量%以上が格段に好ましい。
【0026】
上記アニオン性の両親媒性化合物とは、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、ジェミニ型の両親媒性化合物、が挙げられる。
【0027】
上記カルボン酸塩にはセッケンがある。セッケンに分類されるものには、オクタン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ペルフルオロオクタン酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウム、ココイルグルタミン酸ナトリウム、アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩がある。
【0028】
上記硫酸エステル塩に分類されるものは、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステルおよび硫酸化脂肪酸があげられ、アルキル基を持っている高級アルコールを硫酸化した化合物を用いてもよい。高級アルコール硫酸エステル塩は、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、ミリスチル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩等がある。高級アルキルエーテル硫酸エステル塩は、高級アルコールにエチレンオキサイドを付加させて硫酸エステル塩にした総称である。これらを硫酸化して用いられる両親媒性化合物は、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム塩、ミリスチルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、セチルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、オレイルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、セカンダリーアルコールエチレンオキサイド付加物硫酸エステル塩等がある。硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステルおよび硫酸化脂肪酸は、水酸基や二重結合を持っている脂肪酸や脂肪酸エステルを硫酸化によって硫酸エステル塩型のアニオン両親媒性化合物としたものの総称である。高級脂肪酸の高級脂肪族アルコールのエステル化したロウを硫酸化して中和したものの総称を硫酸化油と言い、例えば、ひまし油を硫酸化したロート油、硫酸化オリーブ油、硫酸化牛脂、硫酸化落花生油、硫酸化マッコー鯨油及びこれらのエステル類などが挙げられる。
【0029】
スルホン酸塩は、一般的にR-SONaで表される構造を有するものの総称で、例えば、1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1-オクタンスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム、1-ドデカンスルホン酸ナトリウム、ペルフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンジスルホン酸ナトリウムナフタレントリスルホン酸ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ペルフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム等がある。尚、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムにはトルエンスルホン酸ナトリウム、クメンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが含まれる。
【0030】
リン酸エステル塩とは、ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウムなどが挙げられる。尚、これらにエチレンオキサイドを付加したものも含まれる。
【0031】
ジェミニ型の両親媒性化合物は、一分子中に二つの脂肪酸鎖があるものであり、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。
【0032】
アニオン性の両親媒性化合物は、上述の親水性指数の範囲を満たせば、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
好ましいアニオン性の両親媒性化合物としては、セッケン類、スルホン酸塩類、ジェミニ型化合物が挙げられ、より好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸Na等のアルキルベンゼンスルホン酸Na、アルキルスルホン酸Na、パルミチン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩が挙げられ、さらに好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸Na、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩が挙げられ、特に好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸Naである。
【0033】
(ノニオン性の両親媒性化合物)
本実施形態の水分散体に用いることができるノニオン性の両親媒性化合物とは、水中でイオン解離しない水酸基やエーテル結合(ポリオキシエチレン鎖等)など親水基をもっている両親媒性化合物のことである。
【0034】
上記ノニオン性の両親媒性化合物としては、エステル型、エーテル型、エステルエーテル型、アルカノールアミド型、アルキルグリコシド、高級アルコール、が挙げられる。
エステル型としては、例えば、ラウリル酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが挙げられる。
エーテル型としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類でペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルなどが挙げられる。
エステルエーテル型としては、例えば、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリエチレンヘキシタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリエチレングリコール等が挙げられる。
アルカノールアミド型としては、例えば、ラウリル酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドなどが挙げられる。
アルキルグリコシドとしては、例えば、オクチルグルコシド、デシルグルコシド、ラウリルグルコシドなどが挙げられる。
高級アルコールとしては、例えば、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどが挙げられる。
【0035】
ノニオン性の両親媒性化合物は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
上記ノニオン性の両親媒性化合物としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシアルキレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルが好ましい。
【0036】
ノニオン性の両親媒化合物は、臨界ミセル濃度(CMCともいう)が低いほど、リコート性が優れるため好ましい。上記臨界ミセル濃度は、0.15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.10質量%以下であり、さらに好ましくは0.06質量%以下である。また、両親媒性化合物の水溶解性及びハロンゲン化ビニルポリマーとの親和性を勘案すると、0.001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.03質量%以上である。
臨界ミセル濃度は、以下の方法で測定できる。まず、両親媒性化合物を水に0.001質量%、0.005質量%、0.010質量%、0.015質量%、0.020質量%、0.025質量%、0.030質量%、0.035質量%、0.040質量%、0.045質量%、0.050質量%、0.055質量%、0.060質量%、0.065質量%、0.070質量%、0.075質量%、0.080質量%、0.085質量%、0.090質量%、0.095質量%、0.1質量%の濃度で溶解した水溶液を作製し、それぞれをウィルヘルミー法により表面張力を測定する。表面張力の測定は、20℃55%RH恒温室内で自動表面張力計CBVP-Z(協和界面化学製)を用いて測定する。得られた表面張力を濃度毎(質量%)にプロットすると、低濃度側から濃度が高くなるにつれ表面張力が低下するが、ある濃度以降では値が一定となる。この変曲点における濃度(質量%)を臨界ミセル濃度とする。
水分散体にノニオン性の両親媒性化合物が複数含まれる場合の臨界ミセル濃度は、上述の方法からノニオン性の両親媒性化合物の各成分単体の値を求め、それら質量比から平均をとった値を用いることとする。
【0037】
上記ノニオン性の両親媒性化合物の質量割合としては、フィルム塗工時の塗工性の観点から、ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体中の樹脂固形分100質量%に対して、0.12質量%超が好ましく、より好ましくは0.15質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、特に好ましくは0.5質量%以上である。また、良好な塗工性が得られる観点から、1.5質量%以下が好ましく、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0038】
アニオン性の両親媒性化合物及び/またはノニオン性の両親媒性化合物の定性・定量は、以下の方法によって行われ、H-NMRとLC/MSのいずれの方法も可能である。
【0039】
<H-NMRによる分析>
(A)ラテックス10mlを取り凍結乾燥を行う。溶媒の残存量が全質量の0.1質量%以下であることを確認する。得られた凍結乾燥物0.5gをテトラヒドロフラン10mlに溶解する。(B)上述のテトラヒドロフラン溶液に、メタノール40mlを滴下し再沈殿する。次にこの液を、ろ過し、沈殿物を取り除く。このろ液を用いてエバポレーターにより濃縮乾固する。(C)濃縮乾固物にテトラヒドロフラン/メタンノール1対1(容積比)の溶媒5mlを加え溶解する。(D)得られた溶液1mlを風乾した後、重テトラヒドロフラン/重メタノール1対1溶媒で溶解したサンプルに、内部標準物質としてマレイン酸10μlを添加する。このサンプルを、以下の条件で、H-NMRで測定し、定性・定量する。
H-NMRの測定条件
(装置)JEOL RESONANCE社製 ECS400型
(観測核(観測周波数)):1H(399.78MHz)
(パルスプログラム):single pulse(1H)
(積算回数):256回(1H)18000回(13C)
(ロック溶媒):THF―d8
(化学シフト基準):THF(1H:1.80ppm 13C:67.38ppm)
【0040】
<LC/MSによる分析>
上述の<H-NMRによる分析>と同様にして、(B)の前処理を経た濃縮乾固物を得て、メタノールを加え20~100倍希釈を行いLC/MSにて測定を行う。
LC/MSの測定条件
(装置)Waters社製 UPLC型、/Waters社製 MS Synapt G2型
(使用カラム):Imtakt社製、Candenza CD-C18HT(2mmI.D.×30mm)
(カラム温度):40℃
(検出):PDA200~400nm
(流速):0.3ml/min
(移動相):A=10mM酢酸アンモニウム水溶液、B=アセトニトリル
(グラジェエント):
Time(min) A% B%
0min 98 2
10min 0 100
15min 0 100
15.1min 98 2
20min 98 2
注入量:2μl
イオン化:ESI+、ESI-
スキャンレンジ:m/z 50~1200
【0041】
以下に、特徴的なm/zを示す。
【表1】
【0042】
定性後に検出された濃度既知の両親媒性化合物の標準試薬3点以上を用いて、同条件で測定し目的成分の特徴的なm/zのマスクロマトグラムのピーク面積から検量線を作成する。検量線を用いて、サンプル溶液中の乳化剤濃度を定量する。未知試料の場合はそれぞれの両親媒性化合物で見られる特徴的なm/zを参照に定性を行う。
【0043】
(ピロリン酸ナトリウム)
本実施形態のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体は、さらに、ピロリン酸ナトリウムを含んでいてもよい。上記ピロリン酸ナトリウムとは、化学式Naで表される化合物のことをいう。
【0044】
ピロリン酸ナトリウムを添加すると、ハロゲン化ポリマーの水分散体の粘度が低減する。これにより塗工時のレベリング性が向上する。特にロールコーターやバーコーターなどで発生する外観不良の原因となるリビング模様の発生を防ぐことができる。
上記ピロリン酸ナトリウムの質量割合は、ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体中の樹脂固形分100質量%に対して、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは0.18質量%以上であり、最も好ましくは0.25質量%以上である。また、上限は、10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。質量割合を0.05質量%以上とすることで粘度の低減効果が得られ、リビング模様などの外観不良の発生を防ぐ効果が得られる。
【0045】
本実施形態の水分散体の溶媒は、水のみであってもよいし、水と他の溶媒(例えば、2,2,4トリメチル1,3-ペンタンジオール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ2-ヘチルヘキシルエーテル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、メタノール等の成膜助剤等)を含んでいてもよい。他の溶媒を含む場合、樹脂固形分100質量部に対して20質量部以下であることが好ましい。
【0046】
本実施形態の水分散体100質量%中の、水分散体に含まれる樹脂固形分の質量割合は、20質量%以上であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上である。さらに好ましくは50質量%以上である。
また、水分散体中に含まれる樹脂固形分100質量%に対する、ハロゲン化ビニルポリマーの質量割合は、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0047】
(特性)
以下に、本実施形態のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体の特性について説明する。
本実施形態の水分散体の表面張力は、30mN/m以上であることが好ましく、より好ましくは40mN/m以上である、さらに好ましい範囲は45mN/m以上である。表面張力の測定は20℃55%RH恒温室内で自動表面張力計CBVP-Z(協和界面化学製)を用いてプレート法で測定することができる。
表面張力が上記範囲にある場合は、ベースフィルム表面又はベースフィルム上のアンカーコート層表面に均一に塗布され、塗膜が緊密に成膜されるために境界面での欠陥が生じにくく、バリア性を発揮する。また、高温成形時でも発泡が生じにくくなる。
【0048】
ここで成膜不良について説明する。
リビング模様とはベースフィルムが走行する方向に沿って塗工面にできる、周期的な畝状(縦筋・リブ状)の表面欠陥のことをいう。レベリング不良とは、塗膜が平滑にならず、塗装時に生じた塗膜の凹凸がそのまま残る現象のことをいう。ゆず肌とは塗工乾燥後の塗膜が柑橘類(オレンジ等)の皮肌に似た表面の凹凸または波状模様になることをいう。
フィルム成形時の発泡とは、乾燥後に塗膜に持ち込んだ余剰の水分が、成形時に塗膜内部から水分が気化し、発泡が起こり成形後の外観不良となる現象である。成形方法に特に制限は無いが、真空成形、圧空成形、プレス成形などが挙げられる。従来のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体は、重ね塗りをしたのちに成形をすると外観不良を起こしやすく、例えば樹脂固形分で40g/m以上の厚さで塗工したフィルムを130℃以上で成形した際などに外観不良が起こりやすかった。本実施形態の水分散体を塗布した層は発泡が生じにくく外観不良を起こしにくいため、例えば、100~140℃でプレス成形する場合や、140~180℃で真空成形する場合でも外観が良好な成形体(例えば、ブリスターパック)を得ることができる。
【0049】
[多層フィルム]
本実施形態の多層フィルムは、ベースフィルムに、上述の本実施形態のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層を有する。上記ベースフィルムは、水分散体層に含まれるハロゲン化ビニルポリマーと異なる高分子からなる多層フィルムであることが好ましい。
なお、本明細書において、本実施形態のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体が塗布された層を、水分散体層と称する場合がある。
【0050】
(ベースフィルム)
上記ベースフィルムとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド及びポリプロピレン製のフィルムが挙げられる。一般的にはポリ塩化ビニル製のフィルムが用いられる、ベースフィルム(本明細書において、基材と称する場合がある)の厚さは、使用するベースフィルムにより違いがあるが、通常8~300μmである。
【0051】
上記多層フィルムは、上記水分散体層のみで構成されることに限定されず、ハロゲン化ポリマー以外の重合性に富む単量体を主体として機能的に調整された共重合体の層を、水分散体層と組み合わせて(例えば、積層させて)使用することも可能である。
【0052】
上記多層フィルムを構成するベースフィルムに、本実施形態のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体を塗布する場合は、ベースフィルムに直接、該水分散体を塗布して、水分散体層を形成することも可能であるが、ベースフィルムと水分散体層との密着性を向上させるために、予め塗布前にベースフィルム表面を活性化させることが好ましい。
ベースフィルム表面を活性化させる方法としては、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、強酸液処理、電子線処理、紫外線処理、火炎処理などを施して、ベースフィルム表面に、水酸基、カルボキシル基、エステル基、エーテル結合、アミノ基、イミノ基、アミド基、硫酸基などの親水性成分を導入する方法が挙げられる。
【0053】
(アンカーコート層)
本実施形態の多層フィルムにおいて、さらにベースフィルムと水分散体層との密着性を向上させる方法として、ベースフィルム表面にアンカーコート剤を塗布し、乾燥後にアンカーコート層を形成させた後に、ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体を塗布する方法が挙げられる。
【0054】
ベースフィルム表面上に塗布するアンカーコート剤としては、例えば、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、イソシアネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、オキサゾリン系樹脂、カルボイミド系樹脂の中から選ばれる1種以上を含むアンカーコート剤が挙げられ、好ましくはポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、イソシアネート系樹脂から選ばれるアンカーコート剤である。アンカーコート剤の形態には制限は無く、有機溶媒を含む溶液型、水溶液型、水性エマルション型のいずれであっても良い。
【0055】
アンカーコート剤の塗布には、一般的なフィルムコーティング分野で実施される方法を使用できる。例えば、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法などのグラビア法、ロールコーティング法、バーコーティング法、ドクターナイフ法、エアーナイフ法を用いたいずれも使用できる。
塗布後は、40℃~180℃の熱風乾燥、熱ロール乾燥などの加熱乾燥や、赤外線乾燥など公知の方法により乾燥処理することができる。
【0056】
上記アンカーコート層の厚さは、表面の平滑性、及びベースフィルムとアンカーコート層との密着性保持のため、好ましくは0.1~2μmである。ベースフィルムとの密着性を上げるためには、好ましくは上述のベースフィルム表面の活性化を行った後に、アンカーコート層形成を実施し、ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体を塗布することが好ましい。
【0057】
(水分散体層)
本実施形態のフィルムにおいて、上記水分散体層は、2層以上設けてもよい。水分散体層は連続して2層以上設けられていてもよいし、他の層を介して設けられていてもよい。なお、本明細書において、ハロゲン化ビニルポリマーの水分散体を重ね塗りして形成した層は、1つの層とする。水分散体層が連続して2層以上設けられるとは、構成成分が異なる水分散体層が積層していることをいう。
上記水分散体層は、ベースフィルムの少なくとも一方の表面において、表面の少なくとも一部に積層して設けられることが好ましく、表面全体に積層して設けられることがより好ましい。
本実施形態の多層フィルムは、ベースフィルムの少なくとも一方の表面上に上記水分散体層が設けられることが好ましく、両表面上に設けられることがより好ましい。
【0058】
上記水分散体層の厚さは、バリア性の観点から、3μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上、さらに好ましくは60μm以上、さらに好ましくは70μm以上、さらに好ましくは90μm以上、特に好ましくは120μm以上である。上限は、成膜性や耐衝撃性の観点から、1000μm以下が好ましく、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下、特に好ましくは150μm以下であり、100μm以下であってもよく、90μm以下であってもよい。
上記水分散体層の乾燥塗膜厚さは、バリア性の観点から、3μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上、さらに好ましくは60μm以上、さらに好ましくは70μm以上、さらに好ましくは90μmであり、特段にこのましくは120μm以上である。上限は特に設定されないが、成膜性や耐衝撃性の観点から、1000μm以下が好ましく、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下であり、さらに好ましくは200μm以下であり、さらに好ましくは150μm以下であり、特に好ましくは100μm以下であってもよく、90μm以下であってもよい。
上記厚さは、厚いほどフィルムの水蒸気、酸素バリア性が優れるが、フィルムをブリスター成形等の成形する際の加熱が不均一となるため発泡を生じやすくなり、ブリスター成形体も硬く医薬品を押し出しにくく、さらに薄黄色の着色が濃くなり外観を損なう。本実施形態のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体は、特定の両親媒性化合物を含むため、上記のトレードオフを生じにくくなり、適切なバリア性が得られる厚さにおいて、発泡、押し出し性、外観が優れたフィルム、成形体が得られる。
乾燥塗膜の上記厚さは、下記の方法で測定される。
本実施形態の水分散体を塗布した多層フィルムを、ミクロトーム(ライカ社製RM2245)を用いて割断し、電子顕微鏡(日立社製TM4000plus)を用いて観察し水分散体層の乾燥塗膜の厚さを測定する。
【0059】
上記水分散体層におけるハロゲン化ビニルポリマーの乾燥後塗膜質量は、バリア性の観点から、5g/m以上であることが好ましく、より好ましくは40g/m以上、さらに好ましくは50g/m以上、更に好ましくは60g/m以上、更に好ましくは70g/m以上、特に好ましくは80g/m以上、格段に好ましくは90g/m以上である。上限は、成膜性や耐衝撃性の観点から、1600g/m以下が好ましく、より好ましくは1200g/m以下、さらに好ましくは800g/m以下、特に好ましくは500g/m以下、格段に好ましくは300g/m以下、きわめて好ましくは160g/m以下である。
上記水分散体層が複数ある場合は、各層の厚さ、塗膜質量は同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0060】
本実施形態の多層フィルムは、含水率が3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下である。この水分量が少ないほど、本実施形態の水分散体を塗布した多層フィルムを、加熱成形する際に発泡を生じにくく、フィルムの透明性が優れるため好ましい。含水率が小さいほど、上述の効果が優れるため下限は設定されるものではないが、現実的な範囲としては、0.01質量%以上が好ましい。ここでいう含水率とは、カールフィッシャー法で測定される水分値のことである。
上記含水率は、下記の方法で測定される。
京都電子工業株式会社製の測定ユニットMKC-710M、水分気化装置ADP-611、コントロールユニットMCU-710を用いて、ADP-611へ窒素200ml/minの流量で30分以上パージを行い、ハロゲン化ビニルポリマーを塗布した多層フィルムを、0.1000g±0.05gを試料ボードにのせて、180℃3分間パージを行った後、160℃で測定を行う。サンプルを入れ替えて3回繰り返し操作を行い、3回の平均値を含水率とする。
【0061】
上記水分散体層は、フーリエ変換赤外分光光度計(全反射測定法)で測定される相対結晶化度(CI値)が1.1以上であることが好ましく、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.4以上、さらに好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上、特に好ましくは1.8以上である。この値は高いほど、多層フィルム中の水分散体層の強度が高くなる、その結果、多層フィルム中に微量に含まれる水分が、加熱成形時に膨化しにくくなり、目視可能な気泡に成長しにくく、外観が優れたものとなる。この値は、高ければ高いほど上述の効果が奏されるため、上限は特に設定されないが、現実的な範囲としては、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
上記相対結晶化度(CI値)は下記の方法で測定される。
島津製作所製のIRAffinity-1Sを用いて、分解能4cm-1に設定し塩化ビニリデンの塗工面に赤外線を当ててATR法にて測定を行う。
結晶化が進行すると、コンフォメーション変化により塩素がC-C双極子モーメントを強めることから1046cm-1の吸収が強くなることが知られている。それを利用してIRチャート上に800cm-1から1320cm-1を直線状に結び、1046cm-1(ポリ塩化ビニリデンのC-C結合)/1070cm-1(ポリ塩化ビニリデン骨格のCH結合)で求められるピーク高さの比を相対結晶化度(CI値)と呼ぶ。
【0062】
上記ベースフィルムにハロゲン化ビニルポリマーの水分散体を塗布し水分散体層を形成する方法は、一般的なフィルムコーティング分野で実施する方法を使用できる。塗布方法としては、ダイレクトグラビア法などのグラビア法、2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法などのロールコーティング法、ドクターナイフ法、エアーナイフ法、ダイコート法、バーコーティング法、ディッピング法、スプレーコート法などを適用することができるが、生産性が良く容易に水分散体層を形成できることから、好ましくはグラビア法、ロールコーティング法、エアーナイフ法であり、より好ましくはグラビア法が採用される。塗布時の水分散体の塗布量は、所望する水分散体層の厚さにより異なり、特に限定されない。一回又は複数回の塗布及び乾燥を繰り返し、所望する水分散体層を形成することができるが、乾燥が不十分となったり溶媒が残留したりしない塗布量を設定すれば、フィルム物性を効果的に発揮することができる。また、乾燥方法は、特に限定されないが、自然乾燥する方法や、所定の温度に設定したオーブンの中で乾燥させる方法、コーター付属の乾燥機、アーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤー等を用いる方法を挙げることができる。さらに、乾燥条件は乾燥させる方法によって適宜選択することができるが、例えばオーブンの中で乾燥させる方法においては、温度60~200℃にて、1秒間~5分間程度乾燥することが好ましい。
【0063】
上記水分散体層は、ハロゲン化ビニルポリマー100質量部に対して、ワックスを0.001~5質量部含有していてもよい。結晶化速度、バリア性発現のバランスから、好ましくは0.005~3質量部、より好ましくは0.01~1質量部である。ワックスは、1種類のみを含有してもよいし、2種以上のワックスからなるワックス組成物を含有してもよい。ワックス(又はワックス組成物)を含有する場合は、水分散体層を形成する前のハロゲン化ビニルポリマーの水分散体中に添加することができる。ワックスを添加することにより滑り性の向上、ブロッキング防止の効果が得られる。上記ワックスの種類に特に限定はなく、天然又は合成ワックスを使用することが可能であるが、例えば、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、蜜ロウ、シナロウ、オゾケライト及びモンタン酸ワックス、これらのエステル化物を単独で、又は主成分として含む組成物として、使用することができる。中でも、ポリオレフィンワックスの使用が好ましい。塩化ビニリデン共重合体にワックスを添加する場合は結晶化が進みやすくなる事により初期の物性が変化するので、フィルム中の水分散体層の形態に応じてワックスの質量割合を調整することが好ましい。
【0064】
上記水分散体層を表層以外に設ける場合は、該水分散体層はワックスを含まない層とすることが好ましい。ワックスを含まない場合は、塗膜硬化が緩やかに進み、フィルムの耐衝撃性が良好である。
【0065】
本実施形態の多層フィルムは、ブリスターパックとして用いることができ、特に医薬品用ブリスターパックとして用いることが好ましい。
ブリスターパック用フィルムとして使用する際に、本発明以外のバリア性のあるハロゲン化ポリマーを併用してもよい。
【0066】
本実施形態の多層フィルムにおいて、ベースフィルム、アンカーコート層及び水分散体層の何れかの間に、成形形状保持のために汎用的な樹脂フィルムをラミネートして使用してもよい。ラミネートされるフィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルが挙げられ、厚さは、例えば1~100μmである。
【0067】
(特性)
以下に、本実施形態の多層フィルムの特性について説明する。
本実施形態の多層フィルムの酸素透過率は、例えば、厚さ250μmの延伸ポリ塩化ビニルフィルムにハロゲン化ビニルポリマーの水分散体を塗布したフィルムの場合、23℃で0.1MPa気圧の条件で2.3cc/m/day未満であることが好ましい。
【0068】
本実施形態の多層フィルムの水蒸気透過率は、例えば、厚さ250μmの延伸ポリ塩化ビニルフィルムにハロゲン化ビニルポリマーの水分散体を塗布したフィルムの場合、38℃、湿度100%の条件下で2.0g/m/day未満であることが好ましい。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。また、実施例、比較中で単に部又は%と記載されている場合、別途の明示の表示がない限り、質量部又は質量%を表す。尚、物性評価は以下の方法により行った。
【0070】
(実施例1)
ガラスライニングを施した耐圧反応器中に最終のモノマー添加量を100部とした場合に、純水57部、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.03部、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.4部を仕込み、攪拌しながら脱気を行ったのち、内容物の温度を45℃に保った。別の容器に組成質量比がVDC/MA/AA=90.4/9.5/0.1となる原料モノマー混合物を作製した。原料モノマー混合物の内20部を上記耐圧反応器中に一括添加し、内圧が降下するまで重合した。続いて、残りのモノマー混合物80部を連続的に定量して圧入した。並行してt-ブチルハイドロパーオキサイド0.028部を純水3.75部に溶解した開始剤、Dアラボアスコルビン酸ナトリウム0.012部を純水3.0部に溶解した還元剤、及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.5部を純水3.8部に溶解した乳化剤を連続的に定量圧入した。この間内容物を攪拌しながら45℃に保ち、内圧が十分に降下するまで反応を進行させた。
重合収率は99.8%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は仕込み比にほぼ等しい。かくして得られた塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスの粒子径は169nmであった。得られたラテックスを水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去したのち、12%ピロリン酸ナトリウムを用いてpHを3.0に調整後、純水で固形分を50~60%に調整し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液を用いて、ラテックス中の樹脂固形分に対して、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.6部添加して調製した。
【0071】
(実施例2)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をジアルキルスルホコハク酸エステル塩18%水溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0072】
(実施例3)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をアルキルスルホン酸ナトリウムとジアルキルスルホコハク酸エステル塩を79対29の質量割合で混合し18%水溶液に調整したものに変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した
【0073】
(実施例4)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をパルチミン酸ナトリウム18%水溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0074】
(参考例1)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩18%水溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0075】
(参考例2)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をポリオキシアルキレンデシルエーテル18%水溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0076】
(参考例3)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液を参考例2と臨界ミセル濃度の異なるポリオキシアルキレンデシルエーテル18%水溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0077】
(参考例4)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をポリオキシエチレンオレイルエーテル18%水溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0078】
(比較例1)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をアルキルスルホン酸ナトリウム18%水溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0079】
(比較例2)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム18%水溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0080】
(実施例5)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液の添加量を0.05部に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0081】
(実施例6)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液の添加量を0.3部に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0082】
(実施例7)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液の添加量を2.4部に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0083】
(比較例3)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液の添加量を2.5部に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0084】
(参考例5)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をポリオキシエチレンオレイルエーテル18%水溶液に変更し、配合量を0.13部に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0085】
(参考例6)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をポリオキシエチレンオレイルエーテル18%水溶液に変更し、配合量を0.3部に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0086】
(参考例7)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をポリオキシエチレンオレイルエーテル18%水溶液に変更し、配合量を1.5部に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調製した。
【0087】
(比較例4)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム18%水溶液をポリオキシエチレンオレイルエーテル18%水溶液に変更し、配合量を0.12部に変更した以外は実施例1と同様の方法でハロゲン系水分散体を調整した。
【0088】
(実施例8)
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム厚さ250μmに、プライマーとしてアクリルウレタン系アンカーコート剤Emurdur381A(BASF社製)をメイヤーロッド#4を用いて乾燥後塗膜重量が2g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行った。このフィルムに実施例1で得られた塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスをメイヤーロッドにより乾燥後塗膜膜厚が3μmとなるように塗布し、乾燥条件は熱風乾燥循環乾燥機にて85℃、15秒、風速4m/sの乾燥処理を行った。
【0089】
(実施例9)
乾燥後塗膜膜厚が10μmとなるように塗布した以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0090】
(実施例10)
乾燥後塗膜膜厚が20μmとなるように重ね塗りした以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0091】
(実施例11)
乾燥後塗膜膜厚が30μmとなるように重ね塗りした以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0092】
(実施例12)
乾燥後塗膜膜厚が60μmとなるように重ね塗りした以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0093】
(実施例13)
乾燥後塗膜膜厚が100μmとなるように重ね塗りした以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0094】
(実施例14)
乾燥後塗膜膜厚が1μmとなるように塗布した以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0095】
(比較例5)
塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスを塗布せずに延伸ポリ塩化ビニルフィルム250μmのみとした。
【0096】
(実施例15)
VDC/MAN/MMA/AA=91.5/5.2/2.4/0.9となるように重合した以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0097】
(実施例16)
乾燥後塗膜膜厚が70μmとなるように重ね塗りした以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0098】
(実施例17)
乾燥後塗膜膜厚が90μmとなるように重ね塗りした以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0099】
(実施例18)
乾燥後塗膜膜厚が120μmとなるように重ね塗りした以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0100】
(実施例19)
乾燥後塗膜膜厚が150μmとなるように重ね塗りした以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0101】
(実施例20)
乾燥後塗膜膜厚が180μmとなるように重ね塗りした以外は実施例8と同様の方法で試験片を作製した。
【0102】
(実施例21)実施例12と同様の方法で作製した塩化ビニリデン系共重合体を塗布した塩化ビニルシートを40℃50%RHの恒温室内で7時間静置した後に試験片とした。
【0103】
(実施例22)
実施例12と同様の方法で作製した塩化ビニリデン系共重合体を塗布した塩化ビニルシートを40℃50%RHの恒温室内で14時間静置した後に試験片とした。
【0104】
(実施例23)
実施例12と同様の方法で作製した塩化ビニリデン系共重合体を塗布した塩化ビニルシートを40℃50%RHの恒温室内で17時間静置した後に試験片とした。
【0105】
(実施例24)
実施例12と同様の方法で作製した塩化ビニリデン系共重合体を塗布した塩化ビニルシートを40℃50%RHの恒温室内で26時間静置した後に試験片とした。
【0106】
(実施例25)
乾燥温度を95℃にした以外は実施例12と同様の方法で試験片を作製した。
【0107】
(実施例26)
乾燥温度を90℃にした以外は実施例12と同様の方法で試験片を作製した。
【0108】
(実施例27)
乾燥時間を80℃にした以外は実施例12と同様の方法で試験片を作製した。
【0109】
実施例、参考例、比較例で得られた試料を用いて、以下の評価を行った。結果を表2~8に示す。
【0110】
(1)発泡性
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム厚さ250μmに、プライマーとしてアクリルウレタン系アンカーコート剤Emurdur381A(BASF社製)をメイヤーロッド#4を用いて乾燥後塗膜重量が2g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行った。このフィルムに、実施例、参考例、比較例で得られた塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスをメイヤーロッドにより1回の乾燥後塗膜重量が10~15g/mとなるように塗布し、20℃55%RH恒温恒湿槽内で熱風循環装置にて60℃、60秒、風速6m/sの乾燥処理を行い、乾燥後塗膜重量80~100g/mとなるまで重ね塗りした。
170℃に調温した真空乾燥機DP32(ヤマト科学社製)内部に金属製のトレーを置いてトレー上に、上記フィルムを鋏を用いて9cm角の正方形に切り取り、静置後3分間加熱し、170℃を保った状態で真空ポンプPX―51(ヤマト科学社製)をもちいて真空度-9.3kPa以上で真空加熱した。真空加熱後にフィルムを取り出して目視で判定を実施した。比較例1を同条件で塗布したフィルムを比較として評価の基準は以下の4段階とした。
◎(優れる):全てのサンプルで、肉眼でフィルム表面に発泡が肉眼で確認できない
〇(やや優れる):一部のサンプルで、肉眼で発泡が確認できるサンプルが含まれる
△(良好):全てのサンプルで、56.3cm当たりのフィルム表面の発泡の個数を計測したときに1~150個の肉眼で確認できる発泡が起こるが実用上の問題はない。
×(不良):全てのサンプルで、56.3cm当たりのフィルム表面の発泡の個数を計測したときに150個以上の肉眼で確認できる発泡が起こり実用上好ましくない。
【0111】
(2)塗工性
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム厚さ250μmに、プライマーとしてアクリルウレタン系アンカーコート剤Emurdur381A(BASF社製)をメイヤーロッド#4を用いて乾燥後塗膜重量が2g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、4m/s、15秒の乾燥処理を行った。このフィルムに実施例、参考例、比較例で得られた塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスをメイヤーロッドにより1回の乾燥後塗膜重量が10~15g/mとなるように塗布し、20℃55%RH恒温恒湿槽内で熱風循環装置にて60℃、60秒、風速9m/sの乾燥処理を行い、塗工フィルムを作製した。
上記フィルムを目視で判定を実施した。比較例1を同条件で塗布したフィルムを比較として評価の基準は以下の4段階とした。塗工性の評価基準を、図1に示す。
◎(優れる):塗工面が均一で全く欠陥がない
〇(やや優れる):塗工面はほぼ均一だが、額縁現象が目視により若干確認できる。
△(良好):塗工面はリビング模様状の欠陥が目視で確認でき、額縁現象が目視により若干確認されるものの実用上の問題はない
×(不良):塗工面にリビング模様状の欠陥が目視で確認でき、額縁現象が顕著に発生し目視により観察され、実用上好ましくない
【0112】
(3)リコート性
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム厚さ250μmに、プライマーとしてアクリルウレタン系アンカーコート剤Emurdur381A(BASF社製)をメイヤーロッド#4を用いて乾燥後塗膜重量が2g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行った。このフィルムに実施例、参考例、比較例で得られた塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスをメイヤーロッドにより1回の乾燥後塗膜重量が10~15g/mとなるように塗布し、20℃55%RH恒温恒湿槽内で熱風循環装置にて60℃、60秒、風速6m/sの乾燥処理を行い、乾燥後塗膜重量80~100g/mとなるまで重ね塗りした。
上記フィルムを目視で判定を実施した。比較例1を同条件で塗布したフィルムを比較として評価の基準は以下の4段階とした。リコート性の評価基準を、図2に示す。
◎(優れる):塗工面が均一で全く欠陥がない
〇(やや優れる):塗工面に若干ムラがある。
△(良好):ゆず肌やリビング現象が起こり、透明性に劣るが実用上の問題はない
×(不良):ゆず肌やリビング現象が起こり、透明性に欠き実用上好ましくない。
【0113】
(4)バリア性
コロナ放電処理を施した延伸ポリ塩化ビニルフィルム厚さ250μmに、プライマーとしてアクリルウレタン系アンカーコート剤Emurdur381A(BASF社製)をメイヤーロッド#4を用いて乾燥後塗膜重量が2g/mとなるように塗布し、熱風循環乾燥機中にて85℃、15秒の乾燥処理を行った。このフィルムに実施例、参考例、比較例で得られた塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスを異なる番手のメイヤーロッドにより1回の乾燥後塗膜重量が3~15g/mとなるように塗布し、乾燥条件は熱風乾燥循環乾燥機にて85℃、15秒、風速4m/sの乾燥処理を行い、乾燥後塗膜重量3~150g/mとなるまで重ね塗りした。
バリア性の評価として、フィルムの酸素透過率を測定した。上記塗工フィルムを、室温で相対湿度100%にて十分調湿した後、OX-TRAN100(Modern Control社製)を用い、23℃、相対湿度80%にて酸素透過率を測定した。
また、バリア性の評価として、フィルムの水蒸気透過率を測定した。上記塗工フィルムを室温で相対湿度100%にて十分調湿した後、PERMATRANW3/31(Modern Control社製)を用い38℃、相対湿度100%にて水蒸気透過率を測定した。
また、上記塗工フィルムを大型回転式ミクロトームOSK 97LF506(オガワ精機社製)用いて切り出し切片を作製し、マイクロスコープKH-7700(HIROX社製)を用いて切片の断面を観察して膜厚を測定した。
【0114】
(5)臨界ミセル濃度
両親媒性化合物を水に0.001質量%、0.005質量%、0.010質量%、0.015質量%、0.020質量%、0.025質量%、0.030質量%、0.035質量%、0.040質量%、0.045質量%、0.050質量%、0.055質量%、0.060質量%、0.065質量%、0.070質量%、0.075質量%、0.080質量%、0.085質量%、0.090質量%、0.095質量%、0.1質量%の濃度で溶解した水溶液を作製し、それぞれをウィルヘルミー法により表面張力を測定した。表面張力の測定は、20℃55%RH恒温室内で自動表面張力計CBVP-Z(協和界面化学製)を用いて測定した。得られた表面張力を濃度毎(質量%)にプロットすると、低濃度側から濃度が高くなるにつれ表面張力が低下するが、ある濃度以降では値が一定となる。この変曲点における濃度(質量%)を臨界ミセル濃度とした。
【0115】
(6)表面張力
表面張力の測定は、20℃55%RH恒温室内で自動表面張力計CBVP-Z(協和界面化学製)を用いてプレート法で測定した。
【0116】
(7)膜厚
実施例、比較例で得られた多層フィルムを、ミクロトーム(ライカ社製RM2245)を用いて割断し、電子顕微鏡(日立社製TM4000plus)を用いて観察し水分散体操の乾燥塗膜の厚さを測定した。
【0117】
(8)含水率
京都電子工業株式会社製の測定ユニットMKC-710M、水分気化装置ADP-611、コントロールユニットMCU-710を用いて、ADP-611へ窒素200ml/minの流量で30分以上パージを行い、ハロゲン化ビニルポリマーを塗布した多層フィルムを0.1000g±0.05gを試料ボードにのせて、180℃3分間パージを行った後、160℃で測定を行う。サンプルを入れ替えて3回繰り返し操作を行い、3回の平均値を含水率とした。
【0118】
(9)相対結晶化度
島津製作所製のIRAffinity-1Sを用いて、分解能4cm-1に設定し塩化ビニリデンの塗工面に赤外線を当ててATR法にて測定を行った。
結晶化が進行すると、コンフォメーション変化により塩素がC-C双極子モーメントを強めることから1046cm-1の吸収が強くなることが知られている。それを利用してIRチャート上に800cm-1から1320cm-1を直線状に結び、1046cm-1(ポリ塩化ビニリデンのC-C結合)/1070cm-1(ポリ塩化ビニリデン骨格のCH結合)で求められるピーク高さの比を相対結晶化度(CI値)とした。
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
【表7】
【0125】
【表8】
【産業上の利用の可能性】
【0126】
本発明により作製された優れた塩化ビニリデン系ラテックスは、厚塗りしても外観を損なわず水蒸気や酸素のバリア性に優れている事から、食品や医薬品包装用フィルム、紙、一般家庭用品等の種々の材料への塗料として好適に使用可能である。
図1
図2