IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両制御装置 図1
  • 特許-車両制御装置 図2
  • 特許-車両制御装置 図3
  • 特許-車両制御装置 図4
  • 特許-車両制御装置 図5
  • 特許-車両制御装置 図6
  • 特許-車両制御装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20230720BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20230720BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20230720BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20230720BHJP
   F16H 61/12 20100101ALI20230720BHJP
【FI】
F02D29/02 K
F02D29/00 F
F02D29/00 C
F16H63/50
F16H59/70
F16H61/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019183580
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021059994
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】服部 裕介
(72)【発明者】
【氏名】寺井 晃一郎
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-070404(JP,A)
【文献】特許第4400409(JP,B2)
【文献】特開2018-091360(JP,A)
【文献】特開2016-070237(JP,A)
【文献】特開2018-145864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
F02D 29/00
F16H 63/50
F16H 59/70
F16H 61/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの回転出力を変速する変速機と
を備える車両を制御する車両制御装置であって、
前記変速機における減速比を大きくする側への変速動作に応じて前記エンジンのトルクを一時的に所定のトルクアップ要求値だけ増加させるトルクアップ要求を発生するトルクアップ要求部と、
前記トルクアップ要求値に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させるエンジン制御部と、
前記トルクアップ要求値を時間積分した値がトルクアップ要求値積算値閾値より大きい場合に、トルクアップ要求値積算値異常を判定する異常判定部とを備えること
を特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記エンジン制御部は、前記トルクアップ要求値積算値異常が判定された場合には、前記トルクアップ要求値に応じた前記エンジンの出力トルクの増加を禁止すること
を特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記トルクアップ要求値積算値閾値は、前記トルクアップ要求値に応じた前記エンジンの出力トルクの増大を行った場合における所定の車間距離を隔てて走行する他車両との衝突予測時間に基づいて設定されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記トルクアップ要求値積算値閾値は、前記車両の走行速度の増加に応じて低下すること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記トルクアップ要求値積算値閾値は、前記車両と前方を走行する他車両との車間距離の減少に応じて低下すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記異常判定部は、前記トルクアップ要求の継続時間がトルクアップ要求継続時間閾値より大きい場合に、トルクアップ要求継続時間異常を判定すること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記エンジン制御部は、前記トルクアップ要求継続時間異常が判定された場合には、前記トルクアップ要求値に応じた前記エンジンの出力トルクの増加を禁止すること
を特徴とする請求項6に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記異常判定部は、前記トルクアップ要求継続時間異常が判定された場合には、前記トルクアップ要求値を時間積分した値をクリアすること
を特徴とする請求項6に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び変速機を協調制御してダウンシフト(減速比が増加する方向の変速)時にエンジンのトルクアップを行う車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを走行用動力源とする自動車等の車両においては、エンジンの回転出力を変速する変速機が設けられる。
変速機において、減速比を大きくする方向への変速(ダウンシフト)を行う際に、変速イナーシャによる急激な車両減速を抑制するため、変速動作と同期して一時的にエンジンのトルクアップを行うブリッピング制御を行うことが知られている。
【0003】
このようなブリッピング制御に関する従来技術として、例えば特許文献1には、ダウンシフト中に内燃機関の出力を増大させる出力増大制御を実施する内燃機関制御装置であって、障害物との距離を検出し、検出された相対距離、相対速度等に基づいて出力増大制御を規制することが記載されている。
特許文献2には、ダウンシフト中にエンジン出力を増加させるブリッピング制御を行う車両において、算出された減速度がダウンシフト要求時の減速度よりも小さい場合には、ダウンシフト変速中のエンジン回転数が最大許容エンジン回転数を超えることを抑制するために、通常よりもブリッピング量を低下させることが記載されている。
特許文献3には、ダウンシフト時にトルクを増加させる際に、トルク増加許可時間が経過した時点で、回転速度を維持するために必要な増加分を超える大きなトルク増加分が設定されている場合は、直ちにトルク増加制御を終了させ、過大なエンジントルクが発生している状態が無用に継続する不都合を回避して、自動変速機の保護を図ることが記載されている。
特許文献4には、ブリッピング制御を行う車両の制御装置において、トルクアップ要求履歴がある場合、トルクアップ要求量が適正な値であるか否かを判定するブリッピング異常判定部を設けることが記載されている。
特許文献5には、道路下り勾配及びエンジン回転数変化率から設定される2次元マップに基づき決定されるエンジン回転数の閾値と、ダウンシフト変速中のエンジン回転数とを比較した結果に基づいてブリッピング制御を禁止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016- 70237号公報
【文献】特開2010- 7491号公報
【文献】特許第4400409号
【文献】特開2016- 70404号公報
【文献】特開2015-117662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブリッピング制御の実行時に、何らかの異常によってエンジントルクが過度に大きくなると、車両がドライバの意に反する加速をすることが懸念される。
このような現象を防止するため、従来例えばブリッピング制御中のエンジントルクに上限値を設けるフィルタや、エンジントルクの上昇可能時間に制限をかけるフィルタ、また、これらの組み合わせによるフィルタ等が提案されている。
しかし、このような上限値に達しない状態であっても車両が加速してハザードが発生する場合があり、さらなる安全性の向上が求められている。
また、こうしたフィルタの上限値を早期に異常判定が成立するよう変更した場合、過度にトルクアップ要求値が制限され適切なブリッピング制御が行えない場合があり得る。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、変速時のトルクアップ要求に異常が生じた場合の安全性を向上した車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、エンジンと、前記エンジンの回転出力を変速する変速機とを備える車両を制御する車両制御装置であって、前記変速機における減速比を大きくする側への変速動作に応じて前記エンジンのトルクを一時的に所定のトルクアップ要求値だけ増加させるトルクアップ要求を発生するトルクアップ要求部と、前記トルクアップ要求値に応じて前記エンジンの出力トルクを増加させるエンジン制御部と、前記トルクアップ要求値を時間積分した値がトルクアップ要求値積算値閾値より大きい場合に、トルクアップ要求値積算値異常を判定する異常判定部とを備えることを特徴とする車両制御装置である。
トルクアップ要求部におけるトルクアップ要求値が過度に大きく設定された場合、車両がドライバの意に反する加速をすることが問題となる。特に、自車両の前方を同方向へ走行する先行車への衝突(追突)などのハザードを回避することは安全上重要である。
ここで、先行車までの車間距離が一定であると仮定した場合、車両の前後方向の加速度と、追突が生じるまでの時間の積は一定となる。
ここで、所定の変速比における加速度は、エンジンの出力トルクと比例するため、加速度と追突が生じるまでの時間の積は、エンジンのトルクと追突が生じるまでの時間の積に読み替えることが可能である。
本発明によれば、トルクアップ要求値を時間積分した値が、トルクアップ要求値積算値閾値より大きい場合に、トルクアップ要求値積算値異常を判定することにより、例えば比較的高いトルクアップ要求値が短時間要求された場合、比較的低いトルクアップ要求値が長時間要求された場合のいずれにおいても、トルクアップ要求値の異常を検出することができ、ハザードの発生を防止して車両の安全性を向上することができる。
特に、後者の場合にはトルクアップ要求値の大きさそのものにより異常を判定する既存の技術においては適切な判定が困難であったが、本発明によれば適切に異常判定を成立させることができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記エンジン制御部は、前記トルクアップ要求値積算値異常が判定された場合には、前記トルクアップ要求値に応じた前記エンジンの出力トルクの増加を禁止することを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置である。
これによれば、トルクアップ要求に異常が生じている場合にエンジンの出力トルクの増加を禁止することにより、車両がドライバの意に反する加速を行うことを防止できる。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記トルクアップ要求値積算値閾値は、前記トルクアップ要求値に応じた前記エンジンの出力トルクの増大を行った場合における所定の車間距離を隔てて走行する他車両との衝突予測時間に基づいて設定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両制御装置である。
これによれば、先行車との車間距離及び変速機の変速比として任意の値を設定することにより、車両諸元からトルクアップ要求値積算値閾値を容易に求めることができ、先行車との衝突等を適切に防止することができる。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記トルクアップ要求値積算値閾値は、前記車両の走行速度の増加に応じて低下することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両制御装置である。
これによれば、衝突時の被害が甚大となる傾向がある高速走行時においては、トルクアップ要求値積算値閾値を小さく設定して異常判定が成立しやすい傾向とすることにより、車両の安全性を確保することができる。
【0010】
請求項5に係る発明は、前記トルクアップ要求値積算値閾値は、前記車両と前方を走行する他車両との車間距離の減少に応じて低下することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の車両制御装置である。
これによれば、先行車との車間距離が小さく衝突までの余裕時間が短い場合にはトルクアップ要求値積算値閾値を小さく設定して異常判定が成立しやすい傾向とすることにより、車両の安全性を確保することができる。
【0011】
請求項6に係る発明は、前記異常判定部は、前記トルクアップ要求の継続時間がトルクアップ要求継続時間閾値より大きい場合に、トルクアップ要求継続時間異常を判定することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の車両制御装置である。
これによれば、トルクアップ要求に係るトルクアップ要求値は小さいがその継続時間が異常に長い場合に、トルクアップ要求継続時間異常を判定することにより、トルクアップ要求の異常を適切に検出することができる。
【0012】
請求項7に係る発明は、前記エンジン制御部は、前記トルクアップ要求継続時間異常が判定された場合には、前記トルクアップ要求値に応じた前記エンジンの出力トルクの増加を禁止することを特徴とする請求項6に記載の車両制御装置である。
これによれば、異常なトルクアップ要求値に基づいて出力トルクが増加させることを防止できる。
【0013】
請求項8に係る発明は、前記異常判定部は、前記トルクアップ要求継続時間異常が判定された場合には、前記トルクアップ要求値を時間積分した値をクリアすることを特徴とする請求項6に記載の車両制御装置である。
これによれば、トルクアップ要求継続時間異常の成立に応じてトルクアップ要求値を時間積分した値をクリアすることにより、実際には危険性は低いにもかかわらずトルクアップ要求値積算値異常が判定されることを防止できる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、変速時のトルクアップ要求に異常が生じた場合の安全性を向上した車両制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を適用した車両制御装置の第1実施形態を備える車両の構成を模式的に示すブロック図である。
図2】第1実施形態の車両制御装置におけるダウンシフト時の動作を示すフローチャートである。
図3】第1実施形態の車両制御装置におけるトルクアップ要求の異常判定を示すフローチャートである。
図4】車両の加速度と先行車への衝突予測時間との相関の一例を示す図である。
図5】車両のエンジントルクと先行車への衝突予測時間との相関の一例を示す図である。
図6】トルクアップ要求に応じたトルクアップ要求値の時間推移の一例を示す図である。
図7】本発明を適用した車両制御装置の第2実施形態におけるトルクアップ要求の異常判定を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した車両制御装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の車両制御装置は、例えば、エンジンにより前輪、後輪を駆動するAWDシステムを有する4輪の乗用車等の自動車に設けられるものである。
図1は、第1実施形態の車両制御装置を有する車両の構成を模式的に示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、車両1は、エンジン10、トルクコンバータ20、ロックアップクラッチ30、前後進切替部40、バリエータ50、フロントディファレンシャル60、リアディファレンシャル70、トランスファクラッチ80等からなるパワートレーンを有する。
【0018】
エンジン10は、車両の走行用動力源として用いられる内燃機関である。
エンジン10として、例えば、4ストロークのターボ過給直噴ガソリンエンジンを用いることができる。
エンジン10は、その本体及び補器類をエンジン制御ユニット110によって制御され、ドライバのアクセル操作等に基づいて設定されるドライバ要求トルクに応じた出力トルクを発生する。
【0019】
トルクコンバータ20は、エンジン10の出力を、前後進切替部40に伝達する流体継手である。
トルクコンバータ20は、車両が停止状態からエンジントルクを伝達可能な発進デバイスとしての機能を有する。
トルクコンバータ20は、エンジン10の出力軸と連結されたインペラ、前後進切替部40の入力軸と連結されたタービン、及び、これらの間に配置されたステータ等を有する。
【0020】
ロックアップクラッチ30は、トルクコンバータ20に設けられ、インペラとタービンとの回転速度差を許容する非締結状態と、インペラとタービンとを拘束(直結)する締結状態とを切替可能なクラッチ装置である。
ロックアップクラッチ30の締結、非締結は、トランスミッション制御ユニット120により制御される。
【0021】
前後進切替部40は、トルクコンバータ20とバリエータ50との間に設けられ、トルクコンバータ20とバリエータ50とを直結する前進モード(Dレンジ、Mレンジ)と、トルクコンバータ20の回転出力を逆転させてバリエータ50に伝達する後退モード(Rレンジ)とを、トランスミッション制御ユニット120からの指令に応じて切り替えるものである。
前後進切替部40は、例えば、プラネタリギヤセット等を有して構成されている。
【0022】
バリエータ50は、前後進切替部40から伝達されるエンジン10の回転出力を、無段階に変速する変速機構部である。
バリエータ50は、例えば、プライマリプーリ51、セカンダリプーリ52、チェーン53等を有するチェーン式無段変速機(CVT)である。
【0023】
プライマリプーリ51は、車両の駆動時におけるバリエータ50の入力側(回生発電時においては出力側)に設けられ、エンジン10の回転出力が入力される。
セカンダリプーリ52は、車両の駆動時におけるバリエータ50の出力側(回生発電時においては入力側)に設けられている。
セカンダリプーリ52は、プライマリプーリ51と隣接しかつプライマリプーリ51の回転軸と平行な回転軸回りに回動可能となっている。
チェーン53は、環状に形成されてプライマリプーリ51及びセカンダリプーリ52に巻き掛けられ、これらの間で動力伝達を行うものである。
プライマリプーリ51及びセカンダリプーリ52は、それぞれチェーン53を挟持する一対のシーブを有するとともに、トランスミッション制御ユニット120による変速制御に応じて各シーブ間の間隔を変更することによって、有効径を無段階に変更可能となっている。
【0024】
フロントディファレンシャル60は、バリエータ50から伝達される駆動力を、左右の前輪に伝達するものである。
フロントディファレンシャル60は、最終減速装置、及び、左右前輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
フロントディファレンシャル60と左右前輪のハブとの間には、駆動力を伝達する回転軸であるドライブシャフトが設けられている
バリエータ50とフロントディファレンシャル60との間は、歯車軸機構等を介して連動するよう直結されている。
【0025】
リアディファレンシャル70は、バリエータ50からトランスファクラッチ80、図示しないプロペラシャフト等を介して伝達される駆動力を、左右の後輪に伝達するものである。
リアディファレンシャル70は、最終減速装置、及び、左右後輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
リアディファレンシャル70と左右後輪のハブとの間には、駆動力を伝達する回転軸であるドライブシャフトが設けられている。
【0026】
トランスファクラッチ80は、バリエータ50からリアディファレンシャル70へ駆動力を伝達する後輪駆動機構の途中に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
トランスファクラッチ80は、例えば、接続時の締結力(伝達トルク容量・前輪駆動機構と後輪駆動機構との拘束力)を無段階に変更可能な電磁式の湿式多板クラッチである。
トランスファクラッチ80の締結力(拘束力)は、トランスミッション制御ユニット120によって制御されている。
トランスファクラッチ80は、締結力を変更することによって、前後輪の駆動トルク配分を調節可能となっている。
【0027】
車両1は、さらにエンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120等を有する。
エンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120は、例えば、CPUなどの情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等をそれぞれ有して構成されている。
エンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120は、例えばCAN通信システムなどの車載LANを介して、あるいは、直接に通信可能となっている。
エンジン制御ユニット110は、エンジン10及びその補器類を統括的に制御する動力源制御部である。
エンジン制御ユニット110には、アクセルペダルセンサ111が接続されている。
アクセルペダルセンサ111は、ドライバが加速要求を入力する図示しないアクセルペダルの操作量(踏込量)を検出するものである。
エンジン制御ユニット110は、アクセルペダルセンサ111が検出するアクセルペダルの操作量等に基づいて、ドライバ要求トルクを設定するとともに、エンジン10の実際の出力トルクがドライバ要求トルクと一致するよう、エンジン10及びその補機類を制御する。
【0028】
トランスミッション制御ユニット120は、ロックアップクラッチ30、前後進切替部40、バリエータ50等を統括的に制御するものである。
トランスミッション制御ユニット120は、例えばドライバ要求トルク、車速等の車両の走行状態に応じて、ロックアップクラッチ30の締結力、バリエータ50における変速比等を制御する。
また、トランスミッション制御ユニット120は、ドライバによる走行レンジ選択操作に応じて、前進かつ自動変速状態(Dレンジ)前進かつ手動変速状態(Mレンジ)、後退状態(Rレンジ)、中立状態(Nレンジ)、パーキングロック状態(Pレンジ)を切り替える。
【0029】
トランスミッション制御ユニット120は、トランスファクラッチ80の締結力(拘束力)を制御するAWD制御部121を有する。
【0030】
トランスミッション制御ユニット120は、ドライバ等のユーザが上述したMレンジにおけるシフトアップ操作、ダウンシフト操作等を入力する変速操作部122を備えている。
変速操作部122は、例えば、ステアリングコラムカバーから突出し、ドライバの手指により操作されるパドルスイッチとして構成されている。
【0031】
Mレンジが選択されている場合には、トランスミッション制御ユニット120は、ステップ状に設定された複数の変速比を、ドライバのアップシフト操作、ダウンシフト操作に応じてステップ状に順次切り替えるようバリエータ50を制御する。
ここで、アップシフトとは、バリエータ50における減速比を小さくする側の変速を指し、ダウンシフトとは、バリエータ50における減速比を大きくする側の変速を指すものとする。
【0032】
エンジン制御ユニット110とトランスミッション制御ユニット120は、協調制御により、Mモードにおけるダウンシフト時に、エンジン10の出力トルクを一時的に増加させ、変速時のイナーシャに起因する車体のショックを抑制するブリッピング制御を行う。
図2は、第1実施形態の車両制御装置におけるダウンシフト時の動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0033】
<ステップS01:ブリッピング制御許可判断>
エンジン制御ユニット110は、ブリッピング制御によるトルクアップ要求が許可された状態であるか否かを判別する。
ブリッピング制御によるトルクアップ要求が許可された状態である場合はステップS02に進み、例えば何等かの故障や、ユーザによる設定等により許可されていない状態である場合は、ステップS07に進む。
【0034】
<ステップS02:ダウンシフト要求有無判断>
トランスミッション制御ユニット120は、変速操作部122にドライバからダウンシフト操作が入力されたか否かを判断する。
ダウンシフト操作が入力された場合には、ダウンシフト要求があったものとしてステップS03に進む。
【0035】
<ステップS03:ブリッピング制御可能状態判断>
トランスミッション制御ユニット120は、ステップS01において取得したブリッピング制御許可情報と現在のバリエータ50のプーリ回転数からブリッピング制御が可能であるか否かを判別する。
ブリッピング制御を実行可能である場合はステップS04に進み、実行不可能である場合はステップS07に進む。
【0036】
<ステップS04:トルクアップ要求値算出>
トランスミッション制御ユニット120は、バリエータ50のプライマリプーリ51の現在の回転速度、変速終了後の回転速度、変速時間などに基づいて、変速イナーシャによる車両減速を抑制するブリッピング制御のため要求されるトルクアップ要求値を算出する。
トルクアップ要求値は時間経過に応じて推移する値であり、トランスミッション制御ユニット120は、トルクアップの開始から終了までの時系列に沿った一連のデータとしてトルクアップ要求値を算出する。
その後、ステップS05に進む。
【0037】
<ステップS05:トルクアップ要求値異常判定>
エンジン制御ユニット110は、ステップS04において算出されたトルクアップ要求値及びその時間履歴に異常がないか判別する。
この異常判定処理の内容については、後に図3等を参照して詳しく説明する。
異常判定が成立した場合はステップS06に進み、成立しない場合はステップS07に進む。
【0038】
<ステップS06:トルクアップ要求値=0>
エンジン制御ユニット110は、トルクアップ要求に係るトルクアップ要求値を0とする。
その後、ステップS07に進む。
【0039】
<ステップS07:トルクアップ要求値判断>
エンジン制御ユニット110は、トルクアップ要求に係るトルクアップ要求値を、アクセルペダルセンサ101の検出値等に基づいて設定されるドライバ要求トルクと比較する。
トルクアップ要求に係るトルクアップ要求値がドライバ要求トルク以上である場合はステップS08に進み、その他の場合はステップS09に進む。
(トルクアップ要求値とドライバ要求トルクとの最大値(MAX)取り)
【0040】
<ステップS08:トルクアップ要求値に応じたエンジン制御>
エンジン制御ユニット110は、トルクアップ要求に係るトルクアップ要求値にエンジン10の出力トルクが一致するようエンジン10の出力制御を行う。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0041】
<ステップS09:ドライバ要求トルクに応じたエンジン制御>
エンジン制御ユニット110は、ドライバ要求トルクにエンジン10の出力トルクが一致するようエンジン10の出力制御を行う。
その後一連の処理を終了(リターン)する。
【0042】
図3は、第1実施形態の車両制御装置におけるトルクアップ要求の異常判定(図2におけるステップS05)を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0043】
<ステップS101:トルクアップ要求値判断>
エンジン制御ユニット110は、トルクアップ要求に係るトルクアップ要求値が0より大きいか否かを判別する。
トルクアップ要求値が0より大きい場合はステップS102に進み、その他の場合はステップS107に進む。
【0044】
<ステップS102:トルクアップ要求値を積算>
エンジン制御ユニット110は、時系列の一連のトルクアップ要求値を時間で積分し、トルクアップ要求値積算値を算出する。
その後、ステップS103に進む。
【0045】
<ステップS103:トルクアップ継続時間カウントアップ>
エンジン制御ユニット110は、直近のブリッピング制御において行われたトルクアップの継続時間を計時するタイマをカウントアップする。
その後、ステップS104に進む。
【0046】
<ステップS104:トルクアップ要求値積算値判断>
エンジン制御ユニット110は、ステップS102において算出したトルクアップ要求値積算値を、所定の閾値と比較する。
トルクアップ要求値積算値が閾値以上である場合はステップS106に進み、それ以外の場合はステップS105に進む。
【0047】
以下、トルクアップ要求値積算値の閾値の設定手法について説明する。
図4は、車両の加速度と先行車への衝突予測時間との相関の一例を示す図である。
図4において、縦軸は車両の前後方向加速度を示し、横軸は所定の車間距離で走行する先行車との衝突予測時間(ハザードに至るまでの時間)を示している。
ダウンシフト開始時(トルクアップ開始時)の車間距離が一定である場合に、例えば加速度がg1,g2,g3である場合の衝突予測時間(トルクアップ開始から衝突までの時間)はそれぞれt1、t2,t3になり、g1とt1との積、g2とt2との積、g3とt3との積は、一定の値となる。
【0048】
図5は、車両のエンジントルクと先行車への衝突予測時間との相関の一例を示す図である。
図5において、縦軸はエンジンの出力トルクを示し、横軸は所定の車間距離で走行する先行車との衝突予測時間を示している。
図4において示した加速度は、バリエータ50における変速比が一定であると仮定すると、エンジン10の出力トルクに換算することができる。
例えば、エンジントルクと、車両の加速度との間には、以下の関係が成り立つ。

エンジントルク[Nm]
=(加速度[G] × タイヤ半径[m] × 車重[kg] × 9.8)
÷(変速比 × ファイナルギア比 ×セカンダリリダクションギア比)

このとき、変速比は、ダウンシフト終了時の変速比(ダウンシフトの前後を通じて減速比が最も大)を用いることができる。理由は、比較的低いエンジントルクでも加速しやすく、ハザードのリスクが生じやすいためである。
ダウンシフト開始時の車間距離が一定である場合に、例えばトルクがT1,T2,T3である場合の衝突予測時間はそれぞれt1、t2,t3になり、T1とt1との積、T2とt2との積、T3とt3との積は、一定の値となる。
そこで、この一定値に所定のマージンを考慮した値をトルクアップ要求値積算値閾値とすることによって、トルクアップ要求値の大小に関わらず、適切に衝突防止を図ることができる。
【0049】
ここで、トルクアップ要求値積算値閾値は、例えば一定の値とすることができる。
また、トルクアップ要求値積算値閾値は、例えばステレオカメラ装置やミリ波レーダ装置等の測距装置により検出される先行車と自車両との車間距離の減少に応じて低下する構成とすることができる。
また、トルクアップ要求値積算値閾値は、車両の走行速度(車速)の増加に応じて低下する構成とすることができる。
【0050】
<ステップS105:トルクアップ継続時間判断>
エンジン制御ユニット110は、ステップS103でカウントアップしたトルクアップ継続時間を予め設定された閾値と比較する。
図6は、トルクアップ要求に応じたトルクアップ要求値の時間推移の一例を示す図である。
図6において、横軸は時間を示し、縦軸はトルクアップ要求値を示している。
図6に示すように、正常時においては、トルクアップ要求値は、予め設定されたトルクアップ終了基準時間までにゼロとなるようにその推移が設定される。
しかし、トルクアップ要求値の算出に何らかの異常がある場合には、トルクアップ終了基準時間を超過してトルクアップ要求値が継続的に設定される場合がある。
ここで、トルクアップ要求値が比較的大きい場合には、上述したトルクアップ要求値積算値が閾値を超過して異常判定が成立するが、トルクアップ要求値が比較的小さい場合にはこの異常判定は成立しない。
そこで、本判定においては、トルクアップ終了基準時間を閾値とし、この閾値を超過してトルクアップ要求値が継続的に設定される場合に、異常を判定している。
トルクアップ継続時間が閾値(トルクアップ終了基準時間)以上となった場合はステップS106に進み、その他の場合は一連の処理を終了(図2のステップS07に進む)する。
【0051】
<ステップS106:異常判定成立>
エンジン制御ユニット110は、異常判定を成立させ、一例の処理を終了(図2のステップS06に進む)する。
【0052】
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)トルクアップ要求値を時間積分した値がトルクアップ要求値積算値閾値より大きい場合に、トルクアップ要求値積算値異常を判定することにより、例えば比較的高いトルクアップ要求値が短時間要求された場合、比較的低いトルクアップ要求値が長時間要求された場合のいずれにおいても、トルクアップ要求値の異常を検出することができ、車両の安全性を向上することができる。
(2)トルクアップ要求値に異常が生じている場合に、エンジン10の出力トルクの増加を禁止することにより、車両がドライバの意に反する加速を行うことを防止できる。
(3)トルクアップ要求値積算値閾値は、トルクアップ要求値に応じたエンジンの出力トルクの増大を行った場合における所定の車間距離を隔てて走行する他車両との衝突予測時間に基づいて設定されることで、先行車との車間距離及び変速機の変速比として任意の値を設定することにより、車両諸元からトルクアップ要求値積算値閾値を容易に求めることができ、先行車との衝突等を適切に防止することができる
(4)トルクアップ要求値積算値閾値を、車両の走行速度の増加に応じて低下させることにより、衝突時の被害が甚大となる傾向がある高速走行時においては、トルクアップ要求値積算値閾値を小さく設定して異常判定が成立しやすい傾向とすることができ、車両の安全性を確保することができる。
(5)トルクアップ要求値積算値閾値を、先行車との車間距離の減少に応じて低下させることにより、先行車との車間距離が小さく衝突までの余裕時間が短い場合にはトルクアップ要求値積算値閾値を小さく設定して異常判定が成立しやすい傾向とすることで、車両の安全性を確保することができる。
(6)トルクアップ継続時間が所定の閾値より大きい場合に異常を判定することにより、トルクアップ要求に係るトルクアップ要求値は小さいがその継続時間が異常に長い場合に、トルクアップ要求継続時間異常を判定することが可能となり、トルクアップ要求の異常を適切に検出することができる。
(7)トルクアップ継続時間に係る異常が判定された場合には、トルクアップ要求に応じたエンジンの出力トルクの増加を禁止することにより、異常なトルクアップ要求に基づいて出力トルクが増加させることを防止できる。
【0053】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した車両制御装置の第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、上述した第1実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0054】
図7は、第2実施形態の車両制御装置におけるトルクアップ要求の異常判定を示すフローチャートである。
図7に示すように、第2実施形態においては、ステップS105においてトルクアップ継続時間が閾値以上となった場合に、ステップS107に進み、トルクアップ要求値積算値、及び、トルクアップ継続時間をクリアするようになっている。
【0055】
以上説明した第2実施形態によれば、比較的低いトルクアップ要求値が長時間にわたって要求されるような安全性に影響がない異常の場合には、ブリッピング制御を禁止しないことにより車両の利便性を向上することができる。
また、トルクアップ要求値の積算値をクリアすることにより、安全性に問題がない状態で異常判定が成立することを防止できる。
【0056】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車両制御装置及び車両の構成は、上述した各実施形態に限定されることなく、適宜変更することが可能である。
例えば、各実施形態の車両制御装置において複数のユニット等により実現されている機能を、単一のユニット等に集約してもよい。一方、各実施形態において単一のユニット等により実現されている機能を、複数のユニット等に分割してもよい。
また、実施形態でエンジン制御ユニットにより実行されている機能の一部または全部を、トランスミッション制御ユニットあるいはその他の制御ユニットで行ってもよい。また、トランスミッション制御ユニットにより実行されている機能の一部または全部を、エンジン制御ユニットあるいはその他の制御ユニットで行ってもよい。
(2)各実施形態において、変速機は一例としてチェーン式無段変速機であったが、本発明はこれに限らず、他種の無段変速機、プラネタリギヤセット等を用いたステップAT、DCT、AMTなどの各種自動変速機であってもよい。
また、ダウンシフト時のブリッピング機能を有する手動変速機搭載車両にも本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 車両 10 エンジン
20 トルクコンバータ 30 ロックアップクラッチ
40 前後進切替部 50 バリエータ
51 プライマリプーリ 52 セカンダリプーリ
53 チェーン 60 フロントディファレンシャル
70 リアディファレンシャル 80 トランスファクラッチ
110 エンジン制御ユニット 111 アクセルペダルセンサ
120 トランスミッション制御ユニット
121 AWD制御部 122 変速操作部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7