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特許7316215熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20230720BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20230720BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230720BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230720BHJP
   A47K 13/02 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L23/08
C08K3/34
C08K3/22
A47K13/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019540019
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2019023370
(87)【国際公開番号】W WO2020004046
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2018124142
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018150082
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 早苗
(72)【発明者】
【氏名】城谷 幸助
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭雄
(72)【発明者】
【氏名】大江 意和
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-225730(JP,A)
【文献】特開2016-088986(JP,A)
【文献】特開平05-179112(JP,A)
【文献】特開2000-063531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、(B)ワラステナイト5~35質量部、(C)ハロゲン系難燃剤5~35質量部、(D)アンチモン化合物1~15質量部、および(E)オレフィン系エラストマ1~7質量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)熱可塑性ポリエステルが、(A-1)ポリブチレンテレフタレート80~96質量部および(A-2)ポリエチレンテレフタレート4~20質量部からなる請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)ワラステナイトの平均繊維長が50μm以上である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
さらに前記(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、(F)安定剤を0.3~1.0質量部配合してなる請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなるトイレ回り部材として使用される成形品。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる便座として使用される成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物と、それを成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステルであるポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記することがある。)樹脂は、電気特性、耐薬品性、耐熱性、寸法安定性などに優れているため、各種自動車部品、電気電子部品、機械部品、日用品、水回り部品および建設部品などの用途に広く使用されている。
【0003】
ここでいう水回り部品とは、浴室コントロールパネル、ハンドドライヤー、冷蔵庫部品、キッチン部品、便座、便蓋、温水洗浄便座部品(洗浄ノズル、本体ケース、便座、便蓋等)等をいう。このような水回り部品は、電気電子部品であるため難燃性が必要であり、また日常的に使用されるものであるため良外観、耐候変色性が要求される。
【0004】
陶器調外観、耐傷性に優れる樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ウォラストナイト、アクリロニトリル・スチレン共重合体を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。また、表面硬度、外観性および耐久性に優れる樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート、アクリル系樹脂、相溶化剤、無機充填剤を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
さらに、機械的強度、剛性、表面硬度、寸法安定性等に優れる樹脂組成物として、ポリトリメチレンテレフタレート、熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ウォラストナイト、難燃剤を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3)。さらにまた、表面外観、耐摩耗性、耐衝撃性に優れる樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ワラストナイト、熱可塑性エラストマを配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献4)。
【0006】
さらにまた、外観性、機械特性に優れる樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ワラステナイト、ゴム質重合体を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献5)。また、機械特性、外観性、寸法安定性に優れる樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、多官能性化合物、無機強化材を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献6)。
【0007】
さらに、表面硬度、外観性、耐熱性に優れる樹脂組成物として、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、アクリル系樹脂、ウォラストナイト、相溶化剤、エポキシ化合物を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献7)。
【0008】
さらにまた、剛性、耐衝撃性、熱安定性、色相、難燃性に優れる樹脂組成物として、熱可塑性ポリエステル樹脂、顆粒状無機フィラー、ゴム性重合体、リン系化合物を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献8)。また、難燃性に優れる樹脂組成物として、ポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、アンチモン化合物等の難燃剤を配合してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-150484号公報
【文献】特開2008-150598号公報
【文献】特開2007-260927号公報
【文献】特開2000-86873号公報
【文献】特開2007-254611号公報
【文献】特開2009-173900号公報
【文献】特開2010-24337号公報
【文献】特開2007-284502号公報
【文献】特開2015-110716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方で海外では、高級感のある外観から、水回り部品に熱硬化性樹脂のユリア樹脂が好んで使用されているが、ユリア樹脂は耐熱老化性に乏しく、ヒーター等の熱源を組み込む製品への適用ができないという課題がある。
このような背景から、ユリア樹脂のような高級感のある外観であり、かつ耐熱老化性(難燃性)、強度および耐候変色性を有する材料が求められる。
【0011】
しかしながら、特許文献1~5および7に記載の樹脂組成物からなる成形品は、難燃剤を含まず難燃性が不十分であった。また、特許文献1に記載の樹脂組成物からなる成形品は、アクリロニトリル・スチレン共重合体を含むため、ユリア樹脂のような高級感のある外観を満足するものではなかった。さらに、特許文献2、3および9に記載の樹脂組成物からなる成形品は、エラストマのような衝撃改質材を含まないため衝撃強度が不十分であった。
【0012】
また、特許文献1、2、4および7に記載の樹脂組成物からなる成形品は、ワラステナイトの配合量が多く、ユリア樹脂のような高級感のある外観を満足するものではなかった。さらに、特許文献6、8に記載の樹脂組成物からなる成形品は、強化材として、ガラス繊維やタルクを使用しているため、ユリア樹脂のような高級感のある外観を満足するものではなかった。さらにまた、特許文献1~9に記載の樹脂組成物からなる成形品は、安定剤(耐候剤)を含まないため耐熱変色性が不十分であった。
【0013】
このように従来の熱可塑性ポリエステル樹脂からなる樹脂組成物では、ユリア樹脂のような高級感のある外観、難燃性、衝撃強度、耐候変色性を両立する材料の開発は難しかった。
【0014】
本発明は、上記の課題に鑑み、成形性に優れ、ユリア樹脂のような高級感のある外観であり、難燃性、衝撃強度および耐候変色性に優れた成形品を得ることのできる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は次の構成を有する。
(1)(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、(B)ワラステナイト5~35質量部、(C)ハロゲン系難燃剤5~35質量部、および(D)アンチモン化合物1~15質量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(2)前記(A)熱可塑性ポリエステルが、(A-1)ポリブチレンテレフタレート80~96質量部および(A-2)ポリエチレンテレフタレート4~20質量部からなる(1)に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【0016】
(3)前記(B)ワラステナイトの平均繊維長が50μm以上である(1)または(2)に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(4)さらに前記(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、(E)オレフィン系エラストマを1~7質量部配合してなる(1)から(3)のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(5)さらに前記(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、(F)安定剤を0.3~1.0質量部配合してなる(1)から(4)のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【0017】
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
(7)(1)から(5)のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなるトイレ回り部材として使用される成形品。
(8)(1)から(5)のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形してなる便座として使用される成形品。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は成形性に優れ、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形品はユリア樹脂のような高級感のある外観を有し、さらに難燃性、衝撃強度、耐候変色性に優れるため、浴室コントロールパネル、ハンドドライヤー、冷蔵庫部品、キッチン部品、便座、便蓋、温水洗浄便座部品(洗浄ノズル、本体ケース、便座、便蓋等)として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に用いられる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸(あるいは、そのエステル形成誘導体)と、ジオール(あるいは、そのエステル形成誘導体)とを主成分とする重縮合反応によって得られる重合体ないしは共重合体などが挙げられる。
【0020】
上記ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、2,5-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、4,4’-p-ターフェニレンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸などが挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0021】
これらのジカルボン酸は2種以上を混合して使用してもよい。なお、少量であればこれらのジカルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸を一種以上混合して使用することができる。
【0022】
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびそれらの混合物などが挙げられる。なお少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを1種以上共重合せしめてもよい。分子量400~6,000の長鎖ジオールを2種以上用いてもよい。分子量400~6,000の長鎖ジオールは、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂を形成する原料の20質量%以下が好ましい。
【0023】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリヘキシレンテレフタレート(PHT)、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート、ポリシクロヘキサン-1,4-ジメチロールテレフタレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートなどの共重合ポリエステルが挙げられる。これらのうち、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートが好ましく使用できる。なお、ここで「/」は共重合体を意味する。
【0024】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量は、特に限定されないが、耐加水分解性の点で、50eq/t以下であることが好ましく、30eq/t以下であることがより好ましく、20eq/t以下であることがさらに好ましい。カルボキシル基量の下限値は0eq/tであってもよい。なお、本発明において、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル基量は、熱可塑性ポリエステル樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0025】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、成形性の点で、o-クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36~1.60の範囲にあることが好ましい。固有粘度が0.36以上であれば、機械特性に優れる成形品を得ることができる。0.70以上がより好ましい。一方、固有粘度が1.60以下であれば、流動性をより向上させることができる。
【0026】
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などを挙げることができる。バッチ重合法および連続重合法のいずれでもよく、また、エステル交換反応および重縮合反応を経る方法、ならびに直接重合による重縮合反応による方法(直接重合法)のいずれも適用することができるが、カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合法が好ましく、コストの点で、直接重合法が好ましい。
【0027】
なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましく、重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイドおよびブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられるが、これらの内でも有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、さらに、チタン酸のテトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルが好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルが特に好ましい。これらの重合反応触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。重合反応触媒の添加量は、機械特性、成形性および色調の点で、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.005~0.5質量部の範囲が好ましく、0.01~0.2質量部の範囲がより好ましい。
【0028】
また、本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は2種類以上を混ぜて使用することができる。混ぜて使用する場合は、成形性と成形品外観の観点から、(A-1)ポリブチレンテレフタレート80~96質量部および(A-2)ポリエチレンテレフタレート4~20質量部の合計100質量部とすることが好ましい。
【0029】
本発明に用いられる(A-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶化特性、耐熱性、成形性、耐薬品性および電気絶縁性に優れている。
【0030】
本発明に用いられる(A-2)ポリエチレンテレフタレート樹脂は、耐薬品性、電気特性に優れている。また、結晶化速度が適度に低いため、金型転写性に優れ、外観の良好な成形品を得ることができる。本発明に用いられる(A-2)ポリエチレンテレフタレートとしては、フィルム成形工程、溶融紡糸工程および射出成形工程からなる群から選ばれる1種の工程を経たポリエチレンテレフタレート樹脂を含むことが好ましい(以下、再生材と略記することもある)。これらの工程を経たポリエチレンテレフタレートは、これらの工程を経ていないバージンのポリエチレンテレフタレートと比較して、熱履歴を多く受けているため、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の流動性が向上する。ポリエチレンテレフタレートは、前記工程を複数回経てもよいし、2種以上の工程を経てもよいが、工程回数および工程種類が多ければ多いほど、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の流動性がより向上する。具体的には、いわゆる工場等から出る再生材と、一般の消費者によって消費された後に出る再生材があり、前者はPETの重縮合または加工の際の生産廃棄物、例えば射出成形加工の際のスプルー、射出成形加工または押し出しの際の出発品、あるいは押し出された板またはフィルムからの縁部の断片が挙げられる。後者は、エンドユーザーによる利用の後に収集され、且つ処理されたプラスチック物品等である。量的に広く普及している物品は、ミネラルウォーター、ソフトドリンクおよびジュース用のブロー成形PETボトルである。
【0031】
再生材は、粉砕材でも顆粒の形態でもよいが、消費者によって消費された後に出る再生材は、分離されて精製された後、押出機内で溶融されて造粒される。これにより、多くの場合、さらなる加工段階のための操作性、流動性、および計量性が良くなる。
【0032】
本発明に用いられる(B)ワラステナイトとは、針状結晶をもつ天然白色鉱物:珪灰石(メタケイ酸カルシウム)であり、化学式CaSiOで表され、通常SiOを50質量%以上、CaOを45質量%~47質量%、その他にFe、Al、MgO等を含有している。(B)ワラステナイトを配合することで、成形品の強度(剛性)が向上し、ユリア樹脂のような高級感のある外観を発現する。本発明においては、(B)ワラステナイトの平均繊維径が4.0~40μm、好ましくは5.0~20μmであり、且つアスペクト比L/Dが8~30、好ましくは15~25である。本発明で平均繊維径とは、マイクロトラックレーザー解析法で粒度分布を測定し、数平均した数値を指す。また、アスペクト比L/Dとは、同様の方法で測定したワラステナイト繊維の平均繊維長(L)と平均繊維径(D)との比で表されるものである。ワラステナイトの平均繊維径が4.0μm以上であると十分な補強効果が得られ剛性に優れ、40μm以下であると靱性の低下を抑制することができ、好ましい。また(B)ワラステナイトのアスペクト比が8以上では、十分な補強効果が得られるため成形品の剛性に優れ、アスペクト比が30以下であると、得られる成形品の表面外観が良好であり、好ましい。
【0033】
本発明における(B)ワラステナイトの平均繊維長は、50μm以上であることが好ましい。(B)ワラステナイトの平均繊維長が50μm以上であると、得られる成形品の耐候変色性、および成形品の強度が向上する。より好ましくは80~200μmの範囲であり、さらに好ましくは、110~170μmの範囲である。また、(B)ワラステナイトは、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシランなどのビニルシラン化合物、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン化合物、ステアリン酸、オレイン酸、モンタン酸、ステアリルアルコールなどの長鎖脂肪酸または長鎖脂肪族アルコールなどで表面処理されたものが好ましく用いられる。
【0034】
本発明に用いられる(C)ハロゲン系難燃剤は、樹脂に難燃性を付与する目的で添加されるハロゲンを含む物質であれば特に限定されるものではなく、具体的には、デカブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモ無水フタル酸、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモベンゼン、1,1’-スルホニルビス[3,5-ジブロモ-4-(2,3-ジブロモプロポキシ)]ベンゼン、ポリジブロモフェニレンオキサイド、テトラブロモビスフェノール-S、トリス(2,3-ジブロモプロピル-1)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、トリブロモフェニルアリルエーテル、トリブロモネオペンチルアルコール、ブロム化ポリスチレン、ブロム化ポリエチレン、テトラブロモビスフェノール-A、テトラブロモビスフェノール-A誘導体、テトラブロモビスフェノール-A-エポキシオリゴマーまたはポリマー、テトラブロモビスフェノール-A-カーボネートオリゴマーまたはポリマー、ブロム化フェノールノボラックエポキシなどのブロム化エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2-ヒドロキシジエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(アリルエーテル)、テトラブロモシクロオクタン、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、ポリペンタブロモベンジルアクリレート、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、ジブロモネオペンチルグリコール、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、ジブロモクレジルグリシジルエーテル、N,N’-エチレン-ビス-テトラブロモフタルイミドなどが挙げられる。なかでも、入手容易性の点から、テトラブロモビスフェノール-A-エポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノール-A-カーボネートオリゴマー、ポリペンタブロモベンジルアクリレートが好ましく、耐加水分解性の点から、テトラブロモビスフェノール-A-エポキシオリゴマーがさらに好ましい。
【0035】
好ましいテトラブロモビスフェノール-A-エポキシオリゴマーとしては、例えば、ICL社製のF-2100L(商品名)などを挙げることができる。好ましいテトラブロモビスフェノール-A-カーボネートオリゴマーとしては、帝人化成(株)製“ファイヤガード”(登録商標)FG-8500(商品名)などを挙げることができる。好ましいポリペンタブロモベンジルアクリレートとしては、例えば、ICL社製のFR1025(商品名)などを挙げることができる。
【0036】
本発明に用いられる(D)アンチモン化合物は、(C)ハロゲン系難燃剤と併用することで、難燃性を向上することができる。(D)アンチモン化合物としては、例えば三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ハロゲン化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、などが挙げられるが、入手容易性の点から、三酸化アンチモンが好ましい。好ましい三酸化アンチモンとしては、例えば、鈴裕化学(株)製“ファイアカット”(登録商標)AT-3(商品名)などが挙げられる。
【0037】
本発明に用いる(D)アンチモン化合物の平均粒径としては特に限定はされないが、好ましくは1.0~2.0μmで、さらに好ましくは1.0~1.5μmである。(D)アンチモン化合物の粒径が上記範囲内であると、比較的少ない添加量で高度な難燃性が得られる。
【0038】
本発明に用いられる(E)オレフィン系エラストマは、α-オレフィンと、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルと、を共重合成分とするグリシジル基含有共重合体からなる。(E)オレフィン系エラストマを配合することで、得られる成形品の衝撃強度が向上する。
α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを共重合成分とするグリシジル基含有共重合体は、α-オレフィン、α,β-不飽和酸のグリシジルエステル、および必要に応じてこれらと共重合可能な不飽和モノマーを共重合することにより得られる共重合体である。全共重合成分中、α-オレフィン、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルを60質量%以上用いることが好ましい。
【0039】
α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-オクテン等を挙げることができる。これらを二種以上用いてもよい。
α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどを挙げることができる。これらを二種以上用いてもよい。メタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
【0040】
また、上記成分と共重合可能な不飽和モノマーとしては、例えば、ビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアクリル酸およびメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレンなどを挙げることができる。これらを二種以上用いてもよい。
【0041】
本発明に用いられる(E)オレフィン系エラストマは、ISO1133:1997に従った190℃、2160g荷重で測定したメルトフローレート(以下MFRと略す)が1g/10分~15g/10分であることが好ましい。MFRを1g/10分以上とすることで、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の流動性がより向上し、15g/10分以下とすることで、インサート成形品とした際の耐冷熱衝撃性がより向上する。
【0042】
本発明に用いられる(E)オレフィン系エラストマの好ましい例としては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸エステル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらを二種以上用いてもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物から得られる成形品の衝撃強度がより向上する点から、上記グリシジル基含有共重合体は、α-オレフィンと、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルと、不飽和モノマーとを共重合成分とするグリシジル基含有三元共重合体であることが好ましく、具体的には、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体がより好ましい。特に好ましいエチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体は、例えば、ARKEMAからロタダー(登録商標)AX8900という商品名で入手できる。
【0043】
本発明に用いられる(F)安定剤とは、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤であり、これを配合することで耐光変色を抑制することができるものである。紫外線吸収剤としては、例えば2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタンなどに代表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤、また4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、メチル-3-[3-tert-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート-ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0044】
光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3-オキシ-[4-(2,2,6,6-テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系の光安定剤を挙げることができる。これらの安定剤は、2種以上を組み合わせることによって相乗的な効果が得られることがあるので、併用して使用してもよい。耐光変色の抑制により効果的である点から、上記安定剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましく、具体的には4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール、および2,2’メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]の併用が最も好ましい。4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノールは、例えば、BASF社からTinuvin(登録商標)234という商品名で入手できる。2,2’メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]は、例えば、(株)ADEKAからアデカスタブ(登録商標)LA-31という商品名で入手できる。
【0045】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における(B)ワラステナイトの配合量は、前記(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、5~35質量部の範囲である。(B)ワラステナイトの配合量が5質量部未満であると、得られる成形品の外観が不良となり、ユリア樹脂に似た高級感のある外観の成形品を得ることができない。(B)ワラステナイトの配合量が35質量部を超えると、得られる成形品の衝撃強度が低下する。
【0046】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における(C)ハロゲン系難燃剤の配合量は、前記(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、5~35質量部の範囲である。(C)ハロゲン系難燃剤の配合量が5質量部未満であると、難燃性が不足する。(C)ハロゲン系難燃剤の配合量が35質量部を超えると、得られる成形品の衝撃強度が低下し、得られる成形品の外観が不良となる。
【0047】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における(D)アンチモン化合物の配合量は、前記(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、1~15質量部の範囲である。(D)アンチモン化合物の配合量が1質量部未満であると、難燃性が不足する。(D)アンチモン化合物の配合量が15質量部を超えると、得られる成形品の衝撃強度が低下する。なお、(D)アンチモン化合物は、(A)熱可塑性ポリエステルとして使用しうるPBTを重合する際の触媒として添加する場合もある。この場合は、重合時に添加した触媒量も、本発明の(D)アンチモン化合物の配合量に含める。
【0048】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における(E)オレフィン系エラストマの配合量は、前記(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、1~7質量部の範囲であることが好ましい。(E)オレフィン系エラストマの配合量が1質量部以上であると、得られる成形品の衝撃強度を維持することができる。(E)オレフィン系エラストマの配合量が7質量部以下であると難燃性が良好であり、ユリア樹脂に似た高級感のある外観の成形品を得ることができる。
【0049】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における(F)安定剤の配合量は、前記(A)熱可塑性ポリエステル100質量部に対し、0.3~1.0質量部の範囲であることが好ましい。(F)安定剤の配合量が、0.3質量部以上であると、長期間の光照射による変色が小さく、耐候変色性に優れる。(F)安定剤の配合量を、1.0質量部以下とすることで、成形品としたときに(F)安定剤が成形品表面にブリードアウトすることを抑制できる。
【0050】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、それを構成する各成分同士が反応した反応物を含むが、当該反応物はその構造を特定することが実際的でない事情が存在する。そのため、本発明は、各成分の配合量で発明を特定するものである。
【0051】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、抗菌剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、良流動化剤などの各種添加剤を配合することができる。
【0052】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、前記(A)~(D)成分ならびに必要により(E)成分、(F)成分およびその他成分が均一に分散されていることが好ましい。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法としては、例えば、単軸あるいは二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなどの公知の溶融混練機を用いて、各成分を溶融混練する方法を挙げることができる。各成分は、予め一括して混合しておき、それから溶融混練してもよい。なお、各成分に含まれる水分は少ない方がよく、必要により予め乾燥しておくことが望ましい。
【0053】
また、溶融混練機に各成分を投入する方法としては、例えば、単軸あるいは二軸の押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口から(A)熱可塑性ポリエステル、(C)ハロゲン系難燃剤、(D)アンチモン化合物、(E)オレフィン系エラストマ、(F)安定剤および必要に応じてその他成分を供給し、スクリュー吐出口手前側に設置した副投入口から(B)ワラステナイトを供給し溶融混練する方法が挙げられる。
【0054】
溶融混練温度は、流動性および機械特性により優れるという点で、200℃以上が好ましく、240℃以上がより好ましい。また、320℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。ここで溶融混練温度とは、溶融混練機の設定温度を指し、例えば二軸押出機の場合、シリンダ温度を指す。
【0055】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することにより、各種成形品に加工し利用することができる。射出成形時の温度は、流動性をより向上させる観点から230℃以上が好ましい。成形品としては例えば、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などが挙げられる。
【0056】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品は、ユリア樹脂に似た高級感ある外観を有する点が特徴である。ユリア樹脂に似た外観とは、成形品の光沢度および写像性により評価することができる。本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品は、その光沢度が58~82の範囲であることが好ましい。好ましくは65~79の範囲であり、さらに好ましくは67~79の範囲である。なお、光沢度は、光沢計(たとえば、スガ試験機(株)製、デジタル変角光沢計UGV-5Dなど)を用いて入射角20°、受光角20°の条件にて測定した値である。
【0057】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品は、前述の光沢度を有し、かつ写像性が13~33の範囲であることが好ましい。好ましくは15~30の範囲である。なお、写像性は、写像性測定器(例えば、スガ試験機(株)製、写像性測定器ICM-1DP)を用いて反射60°、櫛幅0.5mmの条件にて測定した値である。
【0058】
本発明において、上記各種成形品は、自動車部材、電気・電子部材、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。特に、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、成形性に優れ、難燃性、衝撃強度、耐候変色性に優れ、ユリア樹脂のような高級感のある外観を有する成形品を得ることができるため、浴室コントロールパネル、ハンドドライヤー、冷蔵庫部品、キッチン部品、便座、便蓋、温水洗浄便座部品(洗浄ノズル、本体ケース、便座、便蓋等)として好適に用いられる。
【実施例
【0059】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。実施例、比較例で使用する原料の略号および内容を以下に示す。
(A)熱可塑性ポリエステル
(A-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製“トレコン”(登録商標)1200M(商品名)
(A-2)ポリエチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)T900F(商品名)
(B)ワラステナイト
(B-1)NYCO社製“NYGLOS8”(商品名)、平均粒子径=8μm、繊維長136μm、表面処理無し
(B-2)NYCO社製“NYGLOS12”(商品名)、平均粒子径=12μm、繊維長156μm、表面処理無し
(B-3)NYCO社製“NYGLOS5”(商品名)、平均粒子径=5μm、繊維長65μm、表面処理無し
(B-4)NYCO社製“NYAD1250”(商品名)、平均粒子径=3μm、繊維長9μm
【0060】
(C)ハロゲン系難燃剤
(C-1)テトラブロモビスフェノール-A-エポキシオリゴマー:ICL製 F-2100L(商品名)
(C-2)トリブロモフェノール・テトラブロモビスフェノール-A-テトラブロモビスフェノール-A-グリシジルエーテル重縮合物:坂本薬品工業(株)製 SR-T3040(商品名)
(C-3)テトラブロモビスフェノールAポリカーボネートオリゴマー:帝人化成(株)製“ファイヤガード”(登録商標)FG-8500(商品名)
(C-4)ポリペンタブロモベンジルアクリレート:ICL製 FR-1025(商品名)
(C-5)臭素化変性エポキシ樹脂:DIC(株)製“プラサーム”(登録商標)ECX-30(商品名)
(D)アンチモン化合物:三酸化アンチモン:鈴裕化学(株)製“ファイアカット”(登録商標)AT-3(商品名)
【0061】
(E)オレフィン系エラストマ:エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体:ARKEMA製“ロタダー”(登録商標)AX8900(商品名)、MFR:6g/10分(190℃、2.16kgf)
(E’)その他のエラストマ
(E’-1)オレフィン系エラストマ:エチレン/1-ブテン共重合体:三井化学(株)製“タフマー”(登録商標)A0550S(商品名)、MFR:0.5g/10分(190℃、2.16kgf))
(E’-2)ポリエステル系エラストマ:ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール 東レデュポン製“ハイトレル” (登録商標)4047N(商品名)
(F)安定剤
(F-1)4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)-2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール:BASF社製 “Tinuvin”(登録商標)234(商品名)
(F-2)2,2’メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]:(株)ADEKA製“アデカスタブ”(登録商標)LA-31(商品名)
【0062】
実施例および比較例においては、次に記載する測定方法によってその特性を評価した。
(1)成形性
日精樹脂工業(株)製、射出成形機“PS40”を用い、シリンダ温度260℃、金型温度80℃、冷却時間15秒の成形条件で開口部を有する小箱成形品(幅30mm×奥行き30mm×高さ30mm、厚み1.5mm)を側面のピンゲートから成形した。成形時において、流動性が悪く充填不可能なものや、あるいは充填した後の成形品突き出し時に試験片が変形したものや、突き出し箇所が大きく挫屈するようなものを成形性不良として表中「C」で示した。充填後、成形品突出し時に変形が起こらないものは「B」で示した。さらに冷却時間を8秒に短縮した場合に、成形品突出し時に変形が起こらないものは「A」で示した。
【0063】
(2)外観
(2-1)光沢度
日精樹脂工業(株)製、射出成形機“PS40”を用いて、フィルムゲートにて80mm×80mm×厚み3mmの角板を作製した。射出条件は、シリンダ温度260℃、金型温度80℃、射出時間10秒、冷却時間10秒、射出圧力は各樹脂組成物の充填下限圧力+10MPaで実施した。得られた試験片の光沢度をスガ試験機(株)製、デジタル変角光沢計UGV-5Dを用いて、入射角20°、受光角20°の条件にて測定した。
(2-2)写像性
(2-1)と同様にして得られた試験片の写像性をスガ試験機(株)製、写像性測定器ICM-1DPを用いて反射60°のモードで測定し、櫛幅0.5mmの測定値を写像性とした。
試験片の光沢度58~82の範囲、かつ写像性が13~33の範囲であれば、ユリア樹脂のような高級感のある外観と判断した。
【0064】
(3)衝撃強度
(2-1)と同様にして得られた試験片を、デュポン衝撃試験器にセットし、1kg荷重を落下させた時に割れが発生しない高さ(cm)を計測した。測定は5cm刻みで行った。割れが発生しない高さが高いほど、衝撃強度に優れる。40cm以上であれば、衝撃強度は良好と判断した。
【0065】
(4)難燃性
(株)日本製鋼所製、射出成形機“J55AD”を用いて、一点ゲートにて棒状の試験片(125.0×13.0×3mm厚)を作製した。射出条件は、シリンダ温度260℃、金型温度80℃で実施した。得られた試験片を23℃、50%RH環境下で24h放置後、UL94に準拠して測定した。試験は試験片10本を行い、UL94に従って判定を行った。
【0066】
(5)耐候変色性
(2-1)と同様にして得られた試験片を、スガ試験機(株)製、サンシャインウェザーメータS80HBにて、63℃、60分サイクル(降雨12分)の条件で200時間処理した。処理前後試験片の色調をスガ試験機(株)製、カラーコンピュータSM-5-IS-2Bにて、D65-10度視野、φ12mmの集光レンズ、反射モードの条件で測定し、得られたL、a、bの値からΔEを算出した。ΔEが小さいほど、耐候変色性に優れる。ΔEが7.0以下であれば、耐候変色性は良好であると判断した。
【0067】
[実施例1~28]
表1および表2に示す配合組成に従い、(A)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分(または(E’)成分)および(F)成分をシリンダ温度260℃に設定したスクリュー径37mmφの二軸押出機(東芝機械(株)製、TEM37)の元込め部から、(B)成分についてはサイドから供給し、溶融混練を行った。ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化し、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物について、上記方法で評価した結果を表1および表2に記した。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
得られた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、いずれも成形性に優れ、衝撃強度、耐候変色性に優れ、ユリア樹脂のような高級感のある外観を有する成形品を得ることができた。実施例1~6に示すように、(A-1)ポリブチレンテレフタレートの配合量が多いほど、成形性が向上し、(A-2)ポリエチレンテレフタレートの配合量が多いほど、光沢度、写像性が高くなる傾向にある。特に(A-2)ポリエチレンテレフタレートを4~20質量部配合した場合には、よりユリア樹脂に似た高級感のある外観の成形品を得ることができる。
【0071】
実施例4、7、8に示すように、(B)ワラステナイトの配合量が多いほど、光沢度、写像性が低くなる傾向にあり、よりユリア樹脂に似た高級感のある外観の成形品を得ることができる。耐候変色性も向上する傾向にある。また、(B)ワラステナイトの配合量が少ないほど、衝撃強度は高くなる傾向にある。
【0072】
実施例9、10に示すように(C)ハロゲン系難燃剤の配合量が多いほど、難燃性は良好となり、(C)ハロゲン系難燃剤の配合量が少ないほど、衝撃強度は高くなる傾向にある。実施例4および11~14に示すように、(C)ハロゲン系難燃剤として(C-1)テトラブロモビスフェノール-A-エポキシオリゴマーを使用した場合に、耐候変色性が良好である。
【0073】
実施例15、16に示すように(D)アンチモン化合物の配合量が多いほど、難燃性は良好となり、(D)アンチモン化合物の配合量が少ないほど、衝撃強度は高くなる傾向にある。
【0074】
実施例17~19に示すように(E)オレフィン系エラストマの配合量が多いほど、衝撃強度は高くなる傾向にあり、(E)オレフィン系エラストマの配合量が少ないほど、難燃性は良好である。
実施例4、20、21に示すように、(E)オレフィン系エラストマは、他のエラストマ(E’)を使用した場合より、耐候変色性や衝撃強度が良好である。
【0075】
実施例22~25に示すように(F)安定剤の配合量が多いほど、耐候変色性は良好となる傾向にある。また、実施例4および26~28に示すように、(B)ワラステナイトの平均繊維長が長いほど、衝撃強度、耐候変色性は良好となる傾向にある。実施例1または3の組成となるように配合した場合は、成形性、外観、衝撃強度、耐候変色性のバランスが最も優れたものであった。
【0076】
[比較例1~6]
表3に示す配合組成に変更した以外は実施例1~28と同様にして、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。
【0077】
【表3】
【0078】
比較例1に示すように(B)ワラステナイトの配合量が、35質量部を超えると、成形性と衝撃強度が低下した。一方、比較例2に示すように(B)ワラステナイトの配合量が、5質量部未満であると、光沢度が高くなり、ユリア樹脂のような高級感のある外観とはならなかった。また、比較例3に示すように、(C)ハロゲン系難燃剤の配合量が35質量部を超えると、衝撃強度、耐候変色性が低下した。一方、比較例4に示すように(C)ハロゲン系難燃剤の配合量が5質量部未満であると、難燃性が低下した。
【0079】
比較例5に示すように、(D)アンチモン化合物の配合量が15質量部を超えると、衝撃強度が低下した。一方、比較例6に示すように(D)アンチモン化合物の配合量が1質量部未満であると、難燃性が低下した。