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特許7318187ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230725BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20230725BHJP
   C08L 23/20 20060101ALI20230725BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230725BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20230725BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/12
C08L23/20
B32B27/32 Z
B32B27/32 E
H01G4/32 511L
B32B15/08 Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018158223
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2019044171
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2017164179
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中西 佑太
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
(72)【発明者】
【氏名】今西 康之
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-257777(JP,A)
【文献】特開2015-146374(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043217(WO,A1)
【文献】特開2014-055276(JP,A)
【文献】国際公開第2016/182003(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148547(WO,A1)
【文献】特開2016-084410(JP,A)
【文献】特開2014-011181(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167328(WO,A1)
【文献】特開2006-143975(JP,A)
【文献】特開2001-002805(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103937098(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0042323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
B32B 1/00 - 43/00
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
H01G 4/00 - 4/10
H01G 4/14 - 4/22
H01G 4/224
H01G 4/255 - 4/30
H01G 4/32 - 4/40
H01G 13/00 - 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムに、ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂としてポリメチルペンテンを、0.1質量%以上、4質量%以下含み、前記フィルムが3層以上の積層フィルムであって、表層(A層、フィルムの厚みを100%としたときに表面側から最小0.5%から最大30%までの厚み)のポリプロピレンと非相溶のポリメチルペンテンの含有量が内層(B層)より大きく、フィルムをキシレンで完全溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)が、フィルム全質量に対して1.5質量%未満であり、フィルムのメソペンタッド分率が0.970以上であり、フィルムを示差走査熱量計(DSC)で30℃から260℃まで20℃/minで昇温し、ついで260℃から30℃まで20℃/minで降温し、さらに30℃から260℃まで20℃/minで再昇温させたときの融解ピーク温度(Tm2)が164℃以上であり、該DSC曲線の100℃から180℃領域における融解熱量が105J/g以上であり、フィルムの少なくとも一方の表面の算術平均高さSaが5~20nm、かつ、最大高さSzが100~500nmである、ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
フィルムの少なくとも一方の表面の光沢度が130%以上150%未満である、請求項に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
DSCで30℃から260℃まで20℃/minで昇温させたときのフィルムの融解ピーク温度(Tm1)が174℃以上である、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
フィルム厚みが0.5μm以上10μm以下である、請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる金属膜積層フィルム。
【請求項6】
請求項に記載の金属膜積層フィルムを用いてなるフィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等に優れるため、包装用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途等の様々な用途に用いられている。
【0003】
この中でもコンデンサ用途では、ポリプロピレンの優れた耐電圧性、低損失特性から直流用途、交流用途に限らず高電圧コンデンサ用に特に好ましく用いられている。
【0004】
最近では、各種電気設備がインバーター化されつつあり、それに伴いコンデンサの小型化、大容量化の要求が一層強まってきている。そのような市場、特に自動車用途(ハイブリッドカー用途含む)や太陽光発電、風力発電用途の要求を受け、ポリプロピレンフィルムの絶縁破壊電圧を向上させ、生産性、加工性を維持させつつ、一層の薄膜化が必須な状況となってきている。
【0005】
かかるポリプロピレンフィルムは、絶縁破壊電圧の向上、生産性、加工性および耐熱性の観点からフィルムの結晶性を高めると同時に使用環境温度での優れた寸法安定性を有することが特に重要である。ここで耐熱性という観点では、将来的に、SiCを用いたパワー半導体用途を考えた場合、使用環境の温度がより高温になると言われている。コンデンサとしてさらなる耐熱化と耐電圧性の要求から、110℃を超えた高温環境下でのフィルムの絶縁破壊電圧の向上が求められている。しかしながら、非特許文献1に記載のように、ポリプロピレンフィルムの使用温度上限は約110℃といわれており、このような温度環境下において絶縁破壊電圧を安定維持することは極めて困難であった。
【0006】
これまでポリプロピレンフィルムにおいて薄膜でかつ、高温環境下での性能を得るための手法として、例えば、ポリプロピレン樹脂を主成分とするポリプロピレン樹脂組成物にポリメチルペンテンを含有し表面に微細な凹凸を形成させる手法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。また離型用途ではポリメチルペンテンは低表面自由エネルギーであることを利用し剥離性、平滑性に優れた二軸延伸ポリプロピレンフィルムの開発もなされている。(例えば特許文献3、4)また特許文献5では、融点140℃以下のフェノール系酸化防止剤とポリメチルペンテンを添加しコロナ処理を施すことで加工時のブロッキング発生が少なく、巻取り後の素子において密着強度の高いコンデンサ用フィルムを提案されている。しかしながら、特許文献1~5に記載のポリプロピレンフィルムは、いずれも115℃の環境下での絶縁破壊電圧の向上が十分ではなく、さらにコンデンサとしたときの高温環境下での耐電圧性と信頼性についても、十分とは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-191059号公報
【文献】特開2014-114419号公報
【文献】特開2014-030974号公報
【文献】特開2008-189795号公報
【文献】特開平09-270361号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】河合基伸、「フィルムコンデンサ躍進、クルマからエネルギーへ」、日経エレクトロニクス、日経BP社、2012年9月17日号、p.57-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、高温環境下でもより高い絶縁破壊電圧を示し、コンデンサとしたときに高温環境下でも耐電圧性および信頼性を発現できるポリプロピレンフィルム、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ね、特許文献1~5に記載のポリプロピレンフィルムの高温環境下での絶縁破壊電圧、並びにコンデンサとしたときの耐電圧性および信頼性が十分ではない理由について、以下のように考えた。
【0011】
すなわち、特許文献1、2および5のポリプロピレンフィルムについてはポリプロピレン樹脂の立体規則性が十分に高くないため結晶性が低いこと、特許文献3、4に記載のポリプロピレンフィルムについてはポリメチルペンテンの含有量が多いため延伸時にボイドを生じフィルムの絶縁破壊強度を低下させることがあること、さらに特許文献5に記載のポリプロピレンフィルムに関しては単膜構成であるために易滑性に優れるフィルムを得るには多量のポリメチルペンテンを含有する必要がありフィルムの絶縁破壊強度が低下、またフィルム表面が粗面になりすぎること、である。
【0012】
以上の考察を踏まえて、本発明者らはさらに検討を重ね、ポリプロピレン樹脂の融点および結晶量を示す融解熱量が一定以上であり、かつ、フィルムの少なくとも一方の表面の算術平均高さ(Sa)、および最大高さ(Sz)が所定の範囲内でありことにより上記の課題を解決できることを見出した。したがって、本発明の構成は、フィルムに、ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂としてポリメチルペンテンを、0.1質量%以上、4質量%以下含み、前記フィルムが3層以上の積層フィルムであって、表層(A層、フィルムの厚みを100%としたときに表面側から最小0.5%から最大30%までの厚み)のポリプロピレンと非相溶のポリメチルペンテンの含有量が内層(B層)より大きく、フィルムをキシレンで完全溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)が、フィルム全質量に対して1.5質量%未満であり、フィルムのメソペンタッド分率が0.970以上であり、フィルムを示差走査熱量計(DSC)で30℃から260℃まで20℃/minで昇温し、ついで260℃から30℃まで20℃/minで降温し、さらに30℃から260℃まで20℃/minで再昇温させたときの融解ピーク温度(Tm2)が164℃以上であり、再昇温させたときの吸熱を示す該DSC曲線の100℃から180℃領域における融解熱量の総和が105J/g以上であり、フィルムの少なくとも一方の表面の算術平均高さSaが5~20nm、かつ、最大高さSzが100~500nmであるポリプロピレンフィルムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高温環境下でも高い絶縁破壊電圧を示し、コンデンサとしたときに高温環境下でも耐電圧性および信頼性を発現できるポリプロピレンフィルム、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリプロピレンフィルムは、フィルムを示差走査熱量計(DSC)で30℃から260℃まで20℃/minで昇温し、ついで260℃から30℃まで20℃/minで降温し、さらに30℃から260℃まで20℃/minで再昇温させたときの融解ピーク温度(Tm2)が164℃以上であり、該DSC曲線の100℃から180℃領域における融解熱量の総和が105J/g以上であり、フィルムの少なくとも一方の表面の算術平均高さSaが5~20nm、かつ、最大高さSzが100~500nmである、ポリプロピレンフィルムである。なお、本発明において、ポリプロピレンフィルムをフィルムと呼ぶ場合がある。また、本発明のポリプロピレンフィルムは微多孔フィルムではないので、多数の空孔を有していない。
【0015】
ここで、フィルムを示差走査熱量計(DSC)で昇温して融解せしめ、ついで降温したのち、再度昇温させる際に得られる融解ピーク温度(Tm2)は、一般に「2ndRUNの融解ピーク温度」と呼ぶ。また、フィルムを示差走査熱量計(DSC)で最初に昇温させる際に得られる融解ピーク温度(Tm1)は「1stRUNの融解ピーク温度」と呼ぶ。
【0016】
本発明のポリプロピレンフィルムは、高温環境下でも高い絶縁破壊電圧を示し、コンデンサとしたときに高温環境下でも耐電圧性および信頼性を発現させるために、フィルムを示差走査熱量計(DSC)で30℃から260℃まで20℃/minで昇温し、ついで260℃から30℃まで20℃/minで降温し、さらに30℃から260℃まで20℃/minで再昇温させたときの再昇温時の融解ピーク温度(Tm2)が164℃以上であることが好ましい。より好ましくは165℃以上、さらに好ましくは166℃以上である。上限は特に限定されないが、175℃とすることが好ましい。Tm2が164℃未満の場合は、結晶構造の安定性が不十分と考えられ、部分的に絶縁破壊しやすくフィルムの絶縁破壊電圧を低下させたり、コンデンサとした場合に高温環境下において容量低下やショート破壊を引き起こす場合がある。ここで、本発明のポリプロピレンフィルムが後述するポリプロピレンとポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂とを含むフィルムである場合には、非相溶樹脂の融解ピーク温度がポリプロピレンの2ndRUNの融解ピーク温度(Tm2)とは別の温度に観測される場合があるが、本発明においては164℃以上200℃以下に観測されるピークを本発明のポリプロピレンフィルムの融解ピーク温度(Tm2)と定義するものである。このとき、融解ピーク温度が前記温度範囲の中で2つ以上観測される場合や、ショルダーと言われる多段型のDSCチャートに観測できるピーク温度(2つ以上のピークが重なり合ったチャートの場合に観測される)の場合があるが、本発明においてはDSCチャートの縦軸熱流(単位;mW)の絶対値が最も大きいピークの温度を本発明のポリプロピレンフィルムの融解ピーク温度(Tm2)と定義するものである。
【0017】
さらに本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、30℃から260℃まで20℃/minで昇温し、ついで260℃から30℃まで20℃/minで降温し、さらに30℃から260℃まで20℃/minで再昇温させたときの再昇温時(2ndRUN)のDSC曲線の100℃から180℃領域における融解熱量の総和は105J/g以上であることが好ましい、より好ましくは108J/g以上,さらに好ましくは110J/g以上である。上限は特に限定されないが130J/gである。上記融解熱量が105J/g未満の場合にはフィルムを構成する結晶と非晶の非晶成分が多く存在していることを意味し、フィルムの絶縁破壊電圧を低下させたり、コンデンサとした場合に高温環境下において容量低下やショート破壊を引き起こす場合がある。ここで、融解熱量の総和は、非相溶の熱可塑性樹脂やそのほかの添加化合物を含むフィルム全体の融解熱量で示す。非相溶の熱可塑性樹脂やそのほかの添加化合物は少量であって、本発明のポリプロプレンの高い結晶性に由来する融解熱量に対して、影響は小さいためである。
【0018】
上述した本発明のポリプロピレンフィルムのDSC融解ピーク温度およびDSC曲線の100℃から180℃領域における2ndRUNの融解熱量をそれぞれ上記した好ましい範囲内に制御するには、たとえば後述する高メソペンタッド分率、低CXSのポリプロピレン原料の使用により達成可能である(高メソペンタッド分率、低CXSについては後述する)。
【0019】
また本発明のポリプロピレンフィルムは表面を適度に粗面化しフィルム層間間隙の均一性、フィルム同士あるいは搬送ロールとのすべり易さ、コンデンサ素子作成時の加工性およびコンデンサとしての信頼性を得る観点から、少なくとも一方の表面の算術平均高さSaが5~20nmであることが好ましく、より好ましくは7~18nm、さらに好ましくは9~15nmである。少なくとも一方の表面のSaが5nm未満であるとフィルムの滑りが極端に低下することでハンドリング性が悪くなり、シワの発生など、素子加工性が劣る場合がある。またコンデンサとして連続使用する際にシワ等の影響で容量変化が大きくなったり、フィルムを積層したコンデンサとした場合にフィルム層間の適度な隙間がないため自己回復機能(セルフヒーリング)が動作し難くコンデンサの信頼性が低下する場合がある。他方、少なくとも一方の表面のSaが20nmを超えると、表面粗さが大きくなるため局所的に厚みが薄い箇所が発生しやすくなり、耐電圧の低下に影響する場合がある。
【0020】
また本発明のポリプロピレンフィルムは、表面を適度に粗面化しフィルム層間間隙の均一性、フィルム同士あるいは搬送ロールとのすべり易さ、コンデンサ素子作成時の加工性およびコンデンサとしての信頼性を得る観点から、少なくとも一方の表面の最大高さSzが100~500nmであることが好ましく、より好ましくは100~350nm、さらに好ましくは100~200nmである。少なくとも一方の表面のSzが100nm未満であるとフィルムの滑りが極端に低下することでハンドリング性が悪くなり、シワの発生など、素子加工性が劣る場合がある。また、コンデンサとして連続使用する際にシワ等の影響で容量変化が大きくなったり、フィルムを積層したコンデンサとした場合にフィルム層間の適度な隙間がないため自己回復機能(セルフヒーリング)が動作し難くコンデンサの信頼性が低下する場合がある。他方、少なくとも一方の表面のSzが500nmを超える場合は、粗大突起として影響し、耐電圧の低下や厚み均一性が得られにくく、コンデンサとして連続使用時にシワ等の影響で容量変化が大きくなったりする場合がある。
【0021】
ここで本発明のフィルムのSaおよびSzを上記した好ましい範囲内に制御するにはたとえば、後述する製膜時の溶融シート冷却固化時の冷却温度などの条件や幅方向の延伸前の予熱温度を好ましい範囲内で制御すること、またポリプロピレンとポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂とをブレンドした樹脂を含むフィルムの表面を構成し、そのブレンド比率を好ましい範囲内で制御すること、により達成可能である。
【0022】
本発明のポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂を、フィルムの質量に対し0.1質量%以上、4質量%以下含むことが好ましい。フィルムに含有される非相溶の熱可塑性樹脂の割合は、より好ましくは0.5~3.5質量%、さらに好ましくは1~3質量%である。該熱可塑性樹脂の含有量が0.1質量%未満の場合は、フィルム表面効率よく凹凸が形成されないために、すべり性が悪くコンデンサ素子加工に劣る場合がある。一方で、該熱可塑性樹脂の含有量が4質量%を超える場合には、ポリプロピレンとの相溶性が低いため樹脂同士の界面接着性に劣り、延伸時にボイドを生じフィルムの絶縁破壊強度を低下させ、コンデンサとしたときに耐圧低下を招くことがある。
ポリプロピレンフィルムが複数の層が積層されたフィルムの場合を以下に説明する。複数の層が、2つの層からなる場合と、3つ以上の層からなる場合があるが、本発明において、複数の層はいずれもポリプロピレンが主成分のフィルム層が積層されたものである。2つの層からなる場合、一方をA層、もう一方をB層といい、A層とB層は積層された面の反対面が、表にさらされた表面となる。このような積層状態のフィルムを、A/Bと表記する。3つの層からなる場合、表面の層をA層、内層をB層とする。このような積層状態のフィルムをA/B/Aと表記する。さらに、層の数が4層以上の場合、B層は内層にある2つ以上複数の層であり、A層は最表面にある層である。このような積層状態のフィルムをA/B/B/Aと表記する。ここで、少なくともフィルムの表層(A層)に、ポリプロプレンとは非相溶の熱可塑性樹脂をポリプロピレン樹脂に対し0.1質量%以上、4質量%以下含む積層フィルムは、上述のフィルムのSaおよびSzを好ましい範囲内に制御することができる。これは、フィルムの表面の粗さが表層(A層)に依存することを意味し、内層(B層)におけるポリプロプレンからなる層は、高い結晶性に影響を及ぼさないよう、前記非相溶の熱可塑性樹脂を含まない内層(B層)でもよいし、表層と同じく、非相溶の熱可塑性樹脂を0.1質量%以上、4質量%以下とした内層(B層)としてもよい。表面に効率良く表面に凹凸を形成させるという観点から、表層A層における非相溶の熱可塑性樹脂の含有量は、内層B層より大きくすることが好ましい。また、該ポリプロピレンと非相溶の熱可塑性樹脂を含む構成層(A層)の質量に対して0.1質量%以上、4質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5~3.5質量%、さらに好ましくは1~3質量%である。A層/B層/A層のようにA層が複数存在する場合には、各A層のポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂の含有量が0.1質量%以上、4質量%以下であることが好ましい。
【0023】
積層の方法としては、ラミネートによるフィルム同士を貼り合わせる方法、共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式、コーティングによる方法などが挙げられる。これらの積層の方法のうち、生産効率およびコストの観点から、溶融共押出による積層方法、コーティングによる積層方法が好ましい。また積層はフィルム厚さ方向に2層以上、より好ましくは3層以上積層されてなる構成が好ましい。具体的には少なくとも一方の表面をA層とする2層以上の構成であり、たとえばA層/B層の2層構成、より好ましくはA層/B層/A層の3層構成およびA層をフィルム両表面の最外層とする4層以上の構成である。
次に、一般的にポリプロピレンフィルムの表面を粗面化形成する方法として、結晶変態を利用する手法を好ましく用いることができる。フィルム製造工程において溶融押出後のキャスティング(冷却)ドラム上で固化させる温度を60℃以上に高温にすることでβ晶系球晶を形成し、延伸工程で、熱的に不安定なβ晶をα晶に結晶変態させることで、フィルム表面に凹凸を形成するが、結晶変態の過程で形成されるボイドが絶縁欠陥となり耐電圧が低下する場合がある。一方で、本発明のポリプロピレンフィルムはA層をポリプロピレンとポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂とをブレンドした樹脂からなる構成とし、フィルム製造工程において溶融押出後の冷却ドラム上で固化させる温度を60℃未満、好ましくは40℃未満、より好ましくは30℃未満にすることで優先的に微小なα晶系球晶、もしくはメゾ相を形成することが好ましい。このため、本発明のポリプロピレンフィルムは、延伸工程で結晶変態によるボイド形成がなく、絶縁欠陥を実質的に発生させることなく、薄いフィルムであっても、コンデンサ素子加工適性に優れ、高温環境でも高い耐電圧性を発揮することができる。ここでメゾ相とは結晶と非晶の中間の秩序状態を示し、スメクチック晶やスメチカ晶とも呼ばれ、メゾ相は溶融状態から非常に速い冷却速度で固化させた際に生じることが知られている。該メゾ相は中間相のため延伸工程において均一構造を形成するため、絶縁欠陥の低減に好ましい構造である。また、ポリプロピレンと該ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂とをブレンドした樹脂からなる構成層においては、そのドメイン構造を利用した表面凹凸を付与することができるため、延伸工程で結晶変態に伴うボイド形成などの、絶縁欠陥を発生させることなく、薄いフィルムであってもコンデンサ素子加工適性に優れ、高温環境でも高い耐電圧性を発揮することができる。ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂として、例えば、ポリメチルペンテン系樹脂などを好ましく用いることができ、その含有量を上記した樹脂含有量に制御することで、高い耐電圧性を維持したまま表面に適度な凹凸を付与することができる。
ここで本発明のフィルムはポリプロピレンと該ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂とをブレンドした樹脂からなる構成層において、ポリプロピレン樹脂がメゾ相構造を形成してから延伸することにより、延伸に伴うポリプロピレンと該ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂との樹脂界面での剥離を抑制することができるため、ボイド形成がなく、絶縁欠陥を実質的に発生させることなく、薄いフィルムであっても、コンデンサ素子加工適性に優れた表面凹凸、高温環境でも高い耐電圧性を発揮するものである。
【0024】
ここで本発明のポリプロピレンフィルムは厚さ方向に2層以上積層した構成である場合には、フィルム全厚みに対するA層の厚みの割合(両表面がA層である場合はそれら合わせた厚み割合)は製膜性や表面形状を制御する点から1%~60%であることが好ましく、5~40%がより好ましく、5~25%が最も好ましい。A層の割合が大きすぎるとボイド起因で高温環境での耐電圧性を低下させてしまったり、他方、A層の割合が小さすぎるとフィルム表面に凹凸を効率良く形成できない場合があり、コンデンサ素子加工適性が得られなくなる場合がある。ここでA層の厚みは、例えば、フィルム断面を作成し、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いた断面観察を行うことにより行う。断面観察で、ポリプロピレンと該ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂とをブレンドした樹脂からなる構成層のA層もしくはA層とB層との樹脂界面を判定することが可能で、断面画像からA層の厚みを計測する。
【0025】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて積層構造をとる場合には、内層(B層)はポリプロピレンで構成され、B層を構成するフィルム全質量を100質量%に対して、内層中のポリプロピレンは非相溶の熱可塑性樹脂の含有量が0~4質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0~3質量%、さらに好ましくは0~2質量%である。コストを抑えて効率よく表面に凹凸を形成させるという観点から、内層B層の該熱可塑性樹脂含有量は少ないほどよい。また内層の該熱可塑性樹脂の含有量が4質量%を超える場合には、ポリプロピレンとの相溶性が低いため樹脂同士の界面接着性に劣り、延伸時にボイドを生じフィルムの絶縁破壊強度を低下させ、コンデンサとしたときに耐圧低下を招くことがある。
【0026】
本発明のポリプロピレンフィルムに用いられるポリプロピレンは、主としてプロピレンの単独重合体からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の不飽和炭化水素による共重合成分などを含有してもよいし、プロピレンの単独ではない重合体がブレンドされていてもよい。このような共重合成分やブレンド物を構成する単量体成分として例えばエチレン、プロピレン(共重合されたブレンド物の場合)、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテンー1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。共重合量またはブレンド量は、絶縁破壊電圧、耐熱性の点から、共重合量では1mol%未満とすることが好ましく、ブレンド量では10質量%未満とするのが好ましい。
【0027】
本発明ポリプロピレンフィルムは、少なくとも一方の表面にポリプロピレンとポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂とをブレンドした樹脂構成とすることで形成される海島構造を利用して表面凹凸を付与できる。ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂としては、上述したポリプロピレン以外の樹脂を用いることができるが、ポリプロピレンとは非相溶だが比較的親和性が高く、ドメインサイズを小さくできることから特にポリメチルペンテン系樹脂が好ましい。またポリメチルペンテン系樹脂の融点としては、ポリプロピレンとは非相溶であるがブレンドしたときの押出安定性、およびドメイン海島構造を利用して表面凹凸を付与する観点から、好ましくは205~240℃、より好ましくは220~240℃であり、4-メチルペンテン-1からなる重合体である三井化学(株)より“TPX”(登録商標)シリーズとして販売されている“TPX” (登録商標) MXシリーズ同DXシリーズなどを好ましく用いることができる。
【0028】
本発明のポリプロピレンフィルムは、少なくとも一方の表面の光沢度が130%以上150%未満であることが好ましく、より好ましくは132%以上148%未満、さらに好ましくは135%以上146%未満である。上記光沢度が130%未満の場合、フィルム表面での光散乱密度が高いことから、表面が過度に粗面化していることを意味し、フィルムの絶縁破壊電圧を低下させる場合がある。他方、光沢度が150%以上の場合は表面が平滑化されていることを意味し、フィルムの滑りが極端に低下しやすくなる場合がある。そのため、ハンドリング性が悪化し、シワが発生しやすくなり、素子加工性が劣ったりすることがある。
【0029】
本発明のポリプロピレンフィルムは、耐電圧特性を向上させながら素子加工性を有する観点から、フィルムを重ね合わせた際の静摩擦係数(μs)が0.3以上0.95未満であることが好ましい。μsが0.3未満であると、フィルムが滑りすぎて製膜時の巻き取りや素子加工時に巻きずれが発生する場合がある。μsが0.95を超えると、フィルムの滑りが極端に低下し、ハンドリング性に劣ったり、シワが発生しやすくなったり、素子加工性が劣ったりすることがある。μsは、より好ましくは0.4以上0.85以下、さらに好ましくは0.5以上0.75以下である。
【0030】
本発明のポリプロピレンフィルムはDSCで30℃から260℃まで20℃/minで昇温させたときの1stRUNの融解ピーク温度(Tm1)が174℃以上であることが好ましい。より好ましくは176℃以上、さらに好ましくは178℃以上である。ピーク温度の上限については200℃とするものである。Tm1が高いほどフィルムの結晶化度が高いことを意味し、高温環境下での絶縁破壊電圧向上の観点から好ましい。ここで本発明のポリプロピレンフィルムがポリプロピレンとポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂とを含むフィルムである場合には、非相溶樹脂の融解ピーク温度がポリプロピレンのピーク温度とは別の温度に観測される場合があるが、本発明においては174℃以上200℃以下に観測されるピークを本発明のポリプロピレンフィルムの1stRUNの融解ピーク温度(Tm1)とする。このとき、融解ピーク温度が前記温度範囲の中で2つ以上観測される場合や、ショルダーと言われる多段型のDSCチャートに観測できるピーク温度(2つ以上のピークが重なり合ったチャートの場合に観測される)の場合があるが、本発明においてはDSCチャートの縦軸熱流(単位;mW)の絶対値が最も大きいピークの温度をTm1とする。ここで本発明のポリプロピレンフィルムDSC1stRUN融解ピーク温度(Tm1)と2ndRUN融解ピーク温度(Tm2)の関係は、(Tm1)が(Tm2)より高い((Tm1)>(Tm2)と表す)。(Tm1)が高くなるのは、ポリプロピレンフィルムの製造時における延伸および熱処理工程の影響を受けることで分子鎖配向や結晶サイズの増大により融解ピーク温度が高温化することによるものである。
【0031】
本発明のポリプロピレンフィルムは、フィルムのメソペンタッド分率が0.970以上であることが好ましい。より好ましくは0.975以上、さらに好ましくは0.980以上である。メソペンタッド分率は核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、該数値が高いものほど結晶化度が高く、DSC2ndRUN融解ピーク温度(Tm2)が高くなり、高温環境下での絶縁破壊電圧を向上できるので好ましい。メソペンタッド分率の上限については特に規定するものではない。本発明では、高メソペンタッド分率のポリプロピレン樹脂は、特に、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒によるものが好ましく、電子供与成分の選定を適宜行う方法等が好ましく採用され、これによるポリプロピレン樹脂は分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上、<2,1>エリトロ部位欠損は0.1mol%以下とすることができ、このようなポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。ポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率が0.970未満の場合、ポリプロピレンの規則性が低い為、フィルムの高温環境下での強度や絶縁破壊電圧の低下を招いたり、金属膜を蒸着により形成する工程やコンデンサ素子巻き取り加工での、フィルム搬送中に破膜する場合がある。
【0032】
本発明のポリプロピレンフィルムはキシレンで完全溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXSと表す。また、冷キシレン可溶部とも言う)が、フィルム全質量に対して1.5質量%未満であることが好ましい。ここで冷キシレン可溶部(CXS)は、立体規則性が低い、分子量が低い等の理由で結晶化し難い成分に該当すると考えられる。CXSが1.5質量%を超える場合にはフィルムの絶縁破壊電圧が低下したり、熱寸法安定性が低下したり、もれ電流が増加する等の問題を生じることがある。従って、CXSはより好ましくは1.3質量%以下、更に好ましくは1.1質量%以下である。このようなCXS含有量とするには、使用するポリプロピレン樹脂を得る際の触媒活性を高める方法、得られたポリプロピレン樹脂を溶媒あるいはプロピレンモノマー自身で洗浄する方法等の方法が使用できる。
【0033】
本発明のポリプロピレンフィルムに用いられるポリプロピレンは、製膜性の点から、好ましくはメルトフローレート(MFR)が1~10g/10分(230℃、21.18N荷重)、より好ましくは2~5g/10分(230℃、21.18N荷重)であることが、製膜性の点から好ましい。メルトフローレート(MFR)を上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。
【0034】
本発明のポリプロピレンフィルムに用いられるポリプロピレンは、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、塩素捕捉剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤を含有してもよい。これらの中で、酸化防止剤の種類および添加量の選定は、長期耐熱性の観点から重要である。すなわち、かかる酸化防止剤としては立体障害性を有するフェノール系のもので、そのうち少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。その具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、BASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)またはテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1010:分子量1177.7)等を併用することが好ましい。これら酸化防止剤の総含有量はポリプロピレン全量に対して0.1~1.0質量%の範囲が好ましい。酸化防止剤が少なすぎると長期耐熱性に劣る場合がある。酸化防止剤が多すぎるとこれら酸化防止剤のブリードアウトによる高温下でのブロッキングにより、コンデンサ素子に悪影響を及ぼす場合がある。より好ましい総含有量は0.2~0.7質量%であり、特に好ましくは0.2~0.4質量%である。
【0035】
本発明のポリプロピレンフィルムは、特に高温環境下で用いられる自動車用途(ハイブリッドカー用途含む)等に要求される薄膜の耐熱フィルムコンデンサ用に好適である観点から、フィルム厚みは0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.6μm以上8μm以下、さらに好ましくは0.8μm以上6μm以下であり、上記耐熱フィルムコンデンサ用途としては特性と薄膜化によるコンデンササイズのバランスから0.8μm以上4μm以下が最も好ましい。
以上の説明した実施態様の一例により、本発明のポリプロピレンフィルムは、130℃でのフィルム絶縁破壊電圧が420V/μm以上となる。高温環境下でも高いフィルムの絶縁破壊電圧を有効に得るためには、たとえば、立体規則性が高く、または、含まれるCXS量が1.5質量%未満のポリプロピレン原料を用いること、ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂をブレンドする場合には、ポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂を0.1質量%以上、4質量%以下添加すること、キャスティングドラム温度を好ましい範囲内に制御すること等のフィルム製膜工程の条件(製膜方法については後述する)が好ましい方法として挙げられる。
【0036】
本発明のポリプロピレンフィルムは、コンデンサ用誘電体フィルムとして好ましく用いられるものであるが、コンデンサのタイプは限定されるものではない。具体的には電極構成の観点では金属箔とフィルムとの併せ巻きコンデンサ、金属蒸着フィルムコンデンサのいずれであってもよいし、絶縁油を含浸させた油浸タイプのコンデンサや絶縁油を全く使用しない乾式コンデンサにも好ましく用いられる。しかしながら本発明のフィルムの特性から、特に金属蒸着フィルムコンデンサとして好ましく使用される。形状の観点では、巻回式であっても積層式であっても構わない。
【0037】
本発明のポリプロピレンフィルムは、上述した特性を与えうる原料を用い、二軸延伸、熱処理および弛緩処理されることによって得られることが好ましい。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、テンター同時二軸延伸法、テンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、フィルムの製膜安定性、結晶・非晶構造、表面特性、機械特性および熱寸法安定性を制御する点においてテンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0038】
次に、本発明のポリプロピレンフィルムの製造方法を説明する。まず、ポリプロピレンを支持体上に溶融押出して未延伸ポリプロピレンフィルムとする。この未延伸ポリプロピレンフィルムを長手方向に延伸し、次いで幅方向に延伸して、逐次二軸延伸せしめる。その後、熱処理および弛緩処理を施して二軸配向ポリプロピレンフィルムを製造する。以下、より具体的に説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0039】
まず、ポリプロピレン樹脂を単軸押出機から溶融押出し、濾過フィルターを通した後、230~280℃、より好ましくは230~260℃の温度でスリット状口金から押し出す。積層構成とする場合には、ポリプロピレン樹脂と非相溶の樹脂をポリプロピレン樹脂に予めコンパウンドした原料AをA層用の単軸押出機に供給し、ポリプロピレン樹脂原料BをB層用の単軸押出機に供給し、200~280℃、より好ましくは200~260℃にて溶融共押出によるフィードブロック方式でA層/B層/A層の3層構成に積層された樹脂をスリット状口金から溶融シートを押し出し、10~110℃の温度に制御された冷却ドラム上で固化させ未延伸ポリプロピレンフィルムを得る。
【0040】
未延伸ポリプロピレンフィルムではメゾ相構造を有していることがより好ましく、メゾ相分率として20%以上が好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。ここで未延伸ポリプロピレンフィルムのメゾ相分率を算出するには、未延伸ポリプロピレンフィルムを広角X線回折で測定し、X線回折プロファイルを用いて算出する。得られたX線回折プロファイルをピーク分離ソフトウェアで処理してメゾ相とα晶、非晶のプロファイルとに分離し、メゾ相分率を算出する。本発明において、メゾ相を形成している、またはメゾ相構造を有するとは、上記メゾ相分率が20%以上であることをいう。α晶に由来する回折プロファイルとは、回折角(2θ)が10~30度の範囲での広角X線回折測定において観測される、14.1度付近、16.9度付近、18.6度付近、21.6度付近および21.9度付近の5つのピークからなるものである。メゾ相に由来する回折プロファイルとは、15度付近と21度付近の2つのブロードなピークからなるものである。非晶に由来する回折プロファイルとは、回折角が16.2度付近のブロードなピークであり、溶融状態のポリプロピレン樹脂を広角X線回折で測定することで得られる。
【0041】
溶融シートのキャスティングドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法、エアーチャンバー法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、平面性が良好でかつ表面粗さの制御が可能なエアーナイフ法が好ましい。また、フィルムの振動を生じさせないために製膜下流側にエアーが流れるようにエアーナイフの位置を適宜調整することが好ましい。
【0042】
二軸延伸フィルムの機械特性を向上させたり、電気特性を向上させたり、表面粗さを制御し、表面の光沢度を高めたりする観点から、キャスティングドラムの温度は、より好ましくは10~90℃、さらに好ましくは10~60℃、最も好ましくは10~30℃である。特に、キャスティングドラムの温度を10~30℃とすることで未延伸ポリプロピレンフィルムのメゾ相分率を高め、該未延伸ポリプロピレンフィルムがメゾ相構造を有するようにすることができる。
【0043】
次に、未延伸ポリプロピレンフィルムを二軸延伸し、二軸配向せしめる。ここで本発明のポリプロピレンフィルムにおいてはフィルムの耐電圧を向上させる観点からメゾ相構造を有する未延伸ポリプロピレンフィルムを、少なくとも一方向に2倍以上延伸する工程を有することが好ましい。未延伸ポリプロピレンフィルムのメゾ相分率が20%以上の場合は、80~130℃、好ましくは90~120℃に保たれたロール間に通して予熱し、引き続き該未延伸ポリプロピレンフィルムを80~130℃、好ましくは90~120℃の温度に保ち長手方向に2~15倍、好ましくは4.6~12倍、より好ましくは5.0~11倍、最も好ましくは5.6~10倍に延伸した後、室温まで冷却する。
【0044】
次いで長手方向に一軸延伸せしめたフィルムの端部をクリップで把持したまま、テンターに導く。ここで本発明においては幅方向へ延伸する直前の予熱工程の温度を幅方向の延伸温度+1~+15℃、好ましくは+3~+14℃、より好ましくは+5~+13℃とすることが長手方向に高配向したフィブリル構造がより強化され、結晶化度が向上する。かつ長手方向の延伸過程で配向の進行が不十分な分子鎖をあらかじめ緩和させることで余分な緊張がほぐされ熱寸法安定性を向上させる観点、さらには長手方向の延伸で配向したフィルム表面フィブリルの凸形状を顕著化でき、二軸延伸後のフィルム表面凹凸を形成できる観点で好ましい。予熱温度が延伸温度+5℃未満の場合は結晶化度や熱寸法安定性の向上が得られなかったり表面凹凸が形成されなかったり、他方、予熱温度が延伸温度+15℃より高い場合には、延伸工程でフィルムが破れたりする場合がある。
【0045】
次いでフィルムの端部をクリップで把持したまま幅方向へ延伸する温度(幅方向の延伸温度)は140~170℃、好ましくは145~160℃で幅方向に7~15倍、より好ましくは9~12倍、最も好ましくは9.2~11.5倍に延伸する。
【0046】
ここで、面積倍率は50倍以上であることが耐電圧性向上の観点で好ましい。本発明において、面積倍率とは、長手方向の延伸倍率に幅方向の延伸倍率を乗じたものである。面積倍率は、55倍以上であることがより好ましく、特に好ましくは60倍以上である。
【0047】
本発明においては、続く熱処理および弛緩処理工程ではクリップで幅方向を緊張把持したまま幅方向に2~20%の弛緩を与えつつ、145℃以上165℃以下の温度(1段目熱処理温度)で熱固定(1段目熱処理)した後に、再度クリップで幅方向を緊張把持したまま130℃以上、前記の熱固定温度(1段目熱処理温度)未満の条件で熱処理を施し(2段目熱処理)、さらに緊張把持したまま80℃以上、前記の熱固定温度(2段目熱処理温度)未満の条件で熱固定(3段目熱処理)を施す多段方式の熱処理を行うことが、フィルム厚みの均一性、延伸で進行させた分子鎖配向を十分に固定・安定化し結晶化度を向上させることでDSC1stRUN融解ピーク温度(Tm1)を高め、かつ熱寸法安定性を向上させ、コンデンサとしたときの耐電圧性、信頼性を得る観点から好ましい。
【0048】
弛緩処理においては、熱寸法安定性を高める観点から、弛緩率は2~20%が好ましく、5~18%がより好ましく、8~15%がさらに好ましい。20%を超える場合はテンター内部でフィルムが弛みすぎ製品にシワが入り蒸着時にムラを発生させる場合があったり、機械特性の低下が生じたり、他方、弛緩率が2%より小さい場合は十分な熱寸法安定性が得られず、コンデンサとしたときの高温環境下で容量低下やショート破壊を引き起こす場合がある。
【0049】
多段式の熱処理を経た後はテンターの外側へ導き、室温雰囲気にてフィルム端部のクリップ解放し、ワインダ工程にてフィルムエッジ部をスリットし、フィルム厚み0.5μm以上10μm以下のフィルム製品ロールを巻き取る。ここでフィルムを巻取る前に蒸着を施す面に蒸着金属の接着性を良くするために、空気中、窒素中、炭酸ガス中あるいはこれらの混合気体中でコロナ放電処理を行うことが好ましい。
【0050】
なお、本発明のポリプロピレンフィルムを得るための製造条件について具体的に例を挙げると、以下の通りである。
・少なくとも片表面、もしくは全層にポリプロピレンと非相溶の樹脂をブレンドしていること。
・ポリプロピレン樹脂のCXS量が1.5質量%未満であること。
・メゾ相構造を有する未延伸ポリプロピレンフィルムを少なくとも一方向に2倍以上延伸していること。
・面積延伸倍率が50倍以上であること。
・幅方向の延伸前の予熱温度が幅方向の延伸温度+5~+15℃であること。
・1段目の熱処理温度が、145℃以上165℃以下であること。
・2段目の熱処理温度が、130℃以上1段目の熱処理温度未満であること。
・3段目の熱処理温度が、80℃以上2段目の熱処理温度未満であること。
・フィルム厚み0.5μm以上10μm以下であること。
【0051】
続いて、本発明のポリプロピレンフィルムを用いてなる金属膜積層フィルム、それを用いてなるフィルムコンデンサ、およびそれらの製造方法について具体的に例を挙げて説明する。
【0052】
本発明の金属膜積層フィルムは、本発明のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる。
【0053】
また、本発明の金属膜積層フィルムの製造方法は、上記のポリプロピレンフィルムの製造方法により得られるポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を設ける金属膜付与工程を有する。
【0054】
本発明において、上記したポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を設けて金属膜積層フィルムとする金属膜付与工程の方法は特に限定されないが、例えば、ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、アルミニウムまたは、アルミニウムと亜鉛との合金を蒸着してフィルムコンデンサの内部電極となる蒸着膜等の金属膜を設ける方法が好ましく用いられる。このとき、アルミニウムと同時あるいは逐次に、例えば、ニッケル、銅、金、銀、クロムなどの他の金属成分を蒸着することもできる。また、蒸着膜上にオイルなどで保護層を設けることもできる。ポリプロピレンフィルム表面の粗さが表裏で異なる場合には、粗さが平滑な表面側に金属膜を設けて金属膜積層フィルムとすることが耐電圧性を高める観点から好ましい。
【0055】
本発明では、必要により、金属膜を形成後、金属膜積層フィルムを特定の温度でアニール処理を行なったり、熱処理を行なったりすることができる。また、絶縁もしくは他の目的で、金属膜積層フィルムの少なくとも片面に、ポリフェニレンオキサイドなどのコーティングを施すこともできる。
【0056】
本発明のフィルムコンデンサは、本発明の金属膜積層フィルムを用いてなる。また、本発明のフィルムコンデンサの製造方法は、上記本発明の金属膜積層フィルムを用いる。
【0057】
例えば、上記した本発明の金属膜積層フィルムを、種々の方法で積層もしくは巻回すことにより本発明のフィルムコンデンサを得ることができる。巻回型フィルムコンデンサの好ましい製造方法を例示すると、次のとおりである。
【0058】
ポリプロピレンフィルムの片面にアルミニウムを減圧状態で蒸着する。その際、長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着する。次に、表面の各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、表面が一方にマージンを有した、テープ状の巻取リールを作成する。左もしくは右にマージンを有するテープ状の巻取リールを左マージンおよび右マージンのもの各1本ずつを、幅方向に蒸着部分がマージン部よりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、巻回体を得る。
【0059】
両面に蒸着を行う場合は、一方の面の長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着し、もう一方の面には長手方向のマージン部が裏面側蒸着部の中央に位置するようにストライプ状に蒸着する。次に表裏それぞれのマージン部中央に刃を入れてスリットし、両面ともそれぞれ片側にマージン(例えば表面右側にマージンがあれば裏面には左側にマージン)を有するテープ状の巻取リールを作製する。得られたリールと未蒸着の合わせフィルム各1本ずつを、幅方向に金属化フィルムが合わせフィルムよりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、巻回体を得る。
【0060】
以上のようにして作成した巻回体から芯材を抜いてプレスし、両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサを得ることができる。フィルムコンデンサの用途は、鉄道車輌用、自動車用(ハイブリットカー、電気自動車)、太陽光発電・風力発電用および一般家電用等、多岐に亘っており、本発明のフィルムコンデンサもこれら用途に好適に用いることができる。その他、包装用フィルム、離型用フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途でも用いることができる。
【0061】
特性値の測定方法、並びに効果の評価方法は次のとおりである。
【0062】
(1)フィルム厚み
ポリプロピレンフィルムの任意の10箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下で接触式のアンリツ(株)製電子マイクロメータ(K-312A型)を用いて測定した。その10箇所の厚みの平均値をポリプロピレンフィルムのフィルム厚みとした。
【0063】
(2)フィルムの融解ピーク温度および融解熱量(DSC2ndRUN融解ピーク温度Tm2およびDSC2ndRUNにおける100℃から180℃領域における融解熱量)
示差走査熱量計(セイコーインスツル製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgのポリプロピレンフィルムを30℃から260℃まで20℃/minの条件で昇温する。次いで、260℃で5分間保持した後、20℃/minの条件で30℃まで降温する。さらに、30℃で5分間保持した後、30℃から260℃まで20℃/minの条件で再昇温する。この再昇温時に得られる吸熱カーブのピーク温度をDSC2ndRUN融解ピーク温度(Tm2)とした。このとき、融解ピーク温度が前記温度範囲の中で2つ以上観測される場合や、ショルダーと言われる多段型のDSCチャートに観測できるピーク温度(2つ以上のピークが重なり合ったチャートの場合に観測される)の場合があるが、本発明においてはDSCチャートの縦軸熱流(単位;mW)の絶対値が最も大きいピークの温度を本発明のポリプロピレンフィルムのDSC融解ピーク温度(Tm2)とする。また、上記測定で得られたDSC曲線において、100℃から180℃領域における融解熱量をDSC2ndRUNにおける100℃から180℃領域における融解熱量として算出した。なお、測定n数は3回行い、(Tm2)および融解熱量はそれぞれ平均値を用いた。
【0064】
(3)フィルムの融解ピーク温度(DSC1stRUN融解ピーク温度Tm1
示差走査熱量計(セイコーインスツル製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgのポリプロピレンフィルムを30℃から260℃まで20℃/minの条件で昇温する。この昇温時に得られる吸熱カーブのピーク温度をDSC1stRUN融解ピーク温度(Tm1)とした。このとき、融解ピーク温度が前記温度範囲の中で2つ以上観測される場合や、ショルダーと言われる多段型のDSCチャートに観測できるピーク温度(2つ以上のピークが重なり合ったチャートの場合に観測される)の場合があるが、本発明においてはDSCチャートの縦軸熱流(単位;mW)の絶対値が最も大きいピークの温度を本発明のポリプロピレンフィルムのDSC融解ピーク温度(Tm1)とする。なお、測定n数は3回行い、(Tm1)はその平均値を用いた。
【0065】
(4)算術平均高さ(Sa)、最大高さ(Sz),
測定は(株)菱化システムのVertScan2.0 R5300GL-Lite-ACを使用して行い、付属の解析ソフトにより撮影画面を多項式4次近似面補正にてうねり成分を除去し、次いで補間処理(高さデータの取得ができなかった画素に対し周囲の画素より算出した高さデータで補う処理)を行った。ISO25178に基づいてSaおよびSz求め、一方の面内の任意の5箇所で測定を行った平均値を算出した。
測定条件は下記のとおり。
製造元:株式会社菱化システム
装置名:VertScan2.0 R5300GL-Lite-AC
測定条件:CCDカメラ SONY HR-57 1/2インチ(1.27センチ)
対物レンズ 10x
中間レンズ 0.5x
波長フィルタ 520nm white
測定モード:Phase
測定ソフトウェア:VS-Measure Version5.5.1
解析ソフトフェア:VS-Viewer Version5.5.1
測定面積:1.252×0.939mm
【0066】
(5)フィルムの光沢度
JIS K-7105(1981)に準じ、スガ試験機株式会社製 デジタル変角光沢計UGV-5Dを用いて入射角60°受光角60°の条件でキャスティングドラム接触面側の表面を測定した5点のデータの平均値を光沢度(%)とした。
【0067】
(6)静摩擦係数(μs)
東洋精機(株)製スリップテスターを用いて、JIS K 7125(1999)に準じて、25℃、65%RHにて測定した。なお、測定は2枚のフィルムのフィルム長手方向を一致させ、かつ、フィルムの一方の表面とその反対面をそれぞれ重ねて行った。同じ測定を各サンプル毎に5回行い、得られた値の平均値を算出し、当該サンプルの静摩擦係数(μs)とした。
【0068】
(7)130℃でのフィルム絶縁破壊電圧(V/μm)
130℃に保温されたオーブン内でフィルムを1分間加熱後、その雰囲気中でJIS C2330(2001)7.4.11.2 B法(平板電極法)に準じて測定した。ただし、下部電極については、JIS C2330(2001)7.4.11.2のB法記載の金属板の上に、同一寸法の株式会社十川ゴム製「導電ゴムE-100<65>」を載せたものを電極として使用した。絶縁破壊電圧試験を30回行い、得られた値をフィルムの厚み(上記(1))で除し、(V/μm)に換算し、計30点の測定値(算出値)のうち最大値から大きい順に5点と最小値から小さい順に5点を除いた20点の平均値を130℃でのフィルム絶縁破壊電圧とした。
【0069】
(8)冷キシレン可溶部(CXS)の質量%
原料の場合はポリプロピレン樹脂、フィルムの場合はフィルム試料について0.5gを135℃のキシレン100mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶させた。その後、再結晶ポリプロピレンをろ過により除去して、ろ過液のキシレン中に溶解しているポリプロピレン系成分を液体クロマトグラフ法にて定量する(X(g))。サンプリングした試料0.5gの精量値(X0(g))を用いて下記式
CXS(質量%)=(X/X0)×100
から算出した。
【0070】
(9)メソペンタッド分率
原料の場合はポリプロピレン樹脂、フィルムの場合はフィルム試料について凍結粉砕にてパウダー状にし、60℃のn-ヘプタンで2時間抽出し、ポリプロピレン中の不純物・添加物を除去した後、130℃で2時間以上減圧乾燥したものをサンプルとする。該サンプルを溶媒に溶解し、13C-NMRを用いて、以下の条件にてメソペンタッド分率(mmmm)を求めた。
【0071】
測定条件
・装置:Bruker製DRX-500
・測定核:13C核(共鳴周波数:125.8MHz)
・測定濃度:10質量%
・溶媒:ベンゼン:重オルトジクロロベンゼン=1:3混合溶液(体積比)
・測定温度:130℃
・スピン回転数:12Hz
・NMR試料管:5mm管
・パルス幅:45°(4.5μs)
・パルス繰り返し時間:10秒
・データポイント:64K
・積算回数:10000回
・測定モード:complete decoupling
解析条件
LB(ラインブロードニングファクター)を1としてフーリエ変換を行い、mmmmピークを21.86ppmとした。WINFITソフト(Bruker製)を用いて、ピーク分割を行う。その際に、高磁場側のピークから以下のようにピーク分割を行い、更にソフトの自動フィッテイングを行い、ピーク分割の最適化を行った上で、mmmmのピーク分率の合計をメソペンタッド分率(mmmm)とする。
(1)mrrm
(2)(3)rrrm(2つのピークとして分割)
(4)rrrr
(5)mrmr
(6)mrmm+rmrr
(7)mmrr
(8)rmmr
(9)mmmr
(10)mmmm。
【0072】
同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたメソペンタッド分率の平均値を当該サンプルのメソペンタッド分率とした。
【0073】
(10)未延伸ポリプロピレンフィルムのメゾ相分率(広角X線回折)
キャスト工程後の未延伸ポリプロピレンフィルムを幅方向に10mm、長手方向に20mmに切り出した。その試料を用いて、室温中で、回折角(2θ)が5~30度の範囲で測定を行った。詳細な測定条件を下記する。
・装置:nano viwer(株式会社リガク製)
・波長:0.15418nm
・X線入射方向:Through方向(フィルム表面に垂直に入射)
・測定時間:300秒
次に、得られた回折プロファイルをピーク分離ソフトウェアで処理してメゾ相、α晶、非晶のプロファイルの3成分に分離する。解析ソフトウェアとして、WaveMetrics,inc社製のIGOR Pro(Ver.6)ソフトウェアを用いた。解析を行うにあたり、以下の様な仮定を行った。
・ピーク形状関数:ローレンツ関数
・ピーク位置:非晶=16.2度、メゾ相=15.0度、21.0度
α晶=14.1度、16.9度、18.6度、21.6度、21.9度
・ピーク半値幅:非晶=8.0、メゾ相(15.0度)=3.5、メゾ相(21.0度)=2.7
非晶、メゾ相の半値幅は上記の値で固定するが、α晶は固定しない。
【0074】
得られたピーク分離結果に対して、メゾ相に由来する15度と21度にピークを有する回折プロファイルの面積(m15とm21)を算出し、α晶に由来する14.1度、16.9度、18.6度、21.6度および21.9度にピークを有する回折プロファイルの面積(α14.1とα16.9とα18.6とα21.6とα21.9)を算出しこれを下記式
(式)メゾ相分率(%)=100×(m15+m21)/(m15+m21+α14.1+α16.9+α18.6+α21.6+α21.9
のとおり算出することにより、メゾ相に由来するプロファイルの面積の割合を求め、これをメゾ相分率とした。
【0075】

(12)フィルムコンデンサ特性の評価(115℃での耐電圧および信頼性)
後述する各実施例および比較例で得られたフィルムのコロナ放電処理を施したフィルム表面(フィルム処理表面が不明な場合は、フィルム両面のうち濡れ張力が高い方のフィルム表面)に、(株)アルバック製真空蒸着機でアルミニウムを膜抵抗が8Ω/sqで長手方向に垂直な方向にマージン部を設けた所謂T型マージンパターンを有する蒸着パターンで蒸着を施し、幅50mmの蒸着リールを得た。
【0076】
次いで、このリールを用いて(株)皆藤製作所製素子巻機(KAW-4NHB)にてコンデンサ素子を巻き取り、メタリコンを施した後、減圧下、128℃の温度で10時間の熱処理を施し、リード線を取り付けコンデンサ素子に仕上げた。
【0077】
こうして得られたコンデンサ素子10個を用いて、115℃高温下でコンデンサ素子に250VDCの電圧を印加し、該電圧で10分間経過後にステップ状に50VDC/1分で徐々に印加電圧を上昇させることを繰り返す所謂ステップアップ試験を行なった。
【0078】
<素子加工性>
下記基準で判断した。上記と同様にしてコンデンサ素子を作成し、目視により素子の形状を確認した。
◎:コンデンサ素子の端面フィルムのズレ、シワ、変形がなく、後の工程に全く支障がないレベル
○:コンデンサ素子の変形が僅かにあるが後の工程で問題がないレベル
×:コンデンサ素子の変形、シワ、端面ズレが生じており、後の工程に支障を来すレベル
◎、○は使用可能である。×では実用が困難である。
【0079】
<耐電圧>
この際の静電容量変化を測定しグラフ上にプロットして、該容量が初期値の70%になった電圧をフィルムの厚み(上記(1))で割り返して耐電圧評価とし、以下の通り評価した。
◎:400V/μm以上
○:380V/μm以上400V/μm未満
△:360V/μm以上380V/μm未満
×:360V/μm未満
◎、○は使用可能である。△、×では実用上の性能に劣る。
【0080】
<信頼性>
静電容量が初期値に対して8%以下に減少するまで電圧を上昇させた後に、コンデンサ素子を解体し破壊の状態を調べて、信頼性を以下の通り評価した。
◎:素子形状の変化は無く貫通状の破壊は観察されない。
○:素子形状の変化は無くフィルム10層以内の貫通状破壊が観察される。
△:素子形状に変化が認められる若しくは10層を超える貫通状破壊が観察される。
×:素子形状が破壊する。
◎は問題なく使用でき、○では条件次第で使用可能である。△、×では実用上の性能に劣る。
【実施例
【0081】

以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。
【0082】
(実施例1)
表層(A層)と内層(B層)を含む積層フィルムにおいて、A層にA原料、B層にB原料を用いた。A層用の樹脂は、メソペンタッド分率が0.984、融点が168℃で、メルトフローレート(MFR)が2.2g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が0.8質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂98重量%と、ポリメチルペンテン系樹脂として三井化学(株)製“TPX”(登録商標)(MX002、融点が224℃)2重量%をブレンドし、260℃に設定した押出機で混練押出し、ストランドを水冷後チップ化し、ポリプロピレン樹脂原料(A1)とした。内層(B層)用の樹脂は、非相溶の熱可塑性樹脂含まないもので、メソペンタッド分率が0.984、融点が168℃で、メルトフローレート(MFR)が2.2g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が0.8質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂100重量%とした。表層(A層)用の原料(A1)と内層(B層)用の原料をそれぞれ単軸押出機に供給し、樹脂温度260℃で溶融させ、80μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロックを用いてA/B/Aの3層積層で積層厚み比が1/8/1(フィルム全厚みに対する表面層A層の割合は20%)となるよう押出量を調節し、その溶融積層ポリマーをTダイより吐出させ、該溶融シートを25℃に保持されたキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させ冷却固化し未延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該未延伸ポリプロピレンフィルムを複数のロール群にて段階的に84℃まで予熱し、引き続き125℃の温度に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に6.2倍に延伸した。引き続き該フィルムをテンターに導き、フィルム幅手の両端部をクリップで把持したまま167℃のTD予熱温度(TD延伸温度より+8℃高い)で予熱し、次いで159℃の温度で幅方向に11.0倍延伸した。さらに1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に8%の弛緩を与えながら155℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま140℃で熱処理を行った。最後に3段目の熱処理として120℃の熱処理を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、次いでフィルム表面(キャスティングドラム接触面側)に25W・分/mの処理強度で大気中でコロナ放電処理を行い、フィルム厚み2.4μmのフィルムをフィルムロールとして巻き取った。本実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、コンデンサ素子加工性に優れ、またコンデンサとしての信頼性、耐電圧はともに優れたものであった。
【0083】
参考例1
参考例1のポリプロピレン樹脂(A1)を単軸の溶融押出機に供給し、樹脂温度260℃で溶融させ、80μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、その溶融ポリマーをTダイより吐出させ、該溶融シートを25℃に保持されたキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させ冷却固化し実質的に単層構成の未延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該未延伸ポリプロピレンフィルムの二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件については、実施例1と同様にして厚み2.3μmのポリプロピレンフィルムを得た。本実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ素子加工性に優れ、コンデンサとしての耐電圧も優れていたが、信頼性は条件次第で使用可能なものであった。
【0084】
(実施例3)
メソペンタッド分率が0.973、融点が165℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.0g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が1.3質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂98重量%と、ポリメチルペンテン系樹脂として三井化学(株)製“TPX”(登録商標:MX002、融点が224℃)2重量%をブレンドし、260℃に設定した押出機で混練押出し、ストランドを水冷後チップ化し、ポリプロピレン樹脂原料(A2)とした。A層用のポリプロピレン樹脂(A2)を用い、B層用のポリプロピレン樹脂は上記のメソペンタッド分率が0.973、融点が165℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.0g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が1.3質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂100質量%を用い、キャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とした以外は実施例1と同様にして厚み2.4μmのポリプロピレンフィルムを得た。本実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、コンデンサ素子加工性は優れ、コンデンサとしての耐電圧および信頼性やや劣るものの実使用上問題のないレベルであった。
【0085】
(実施例4)
A層のポリメチルペンテン系樹脂を4重量%となるようブレンドし、260℃に設定した押出機で混練押出し、ストランドを水冷後チップ化してポリプロピレン樹脂原料(A3)とした。次いでB層のポリメチルペンテン系樹脂を2重量%となるようブレンドし260℃に設定した押出機で混練押出し、ストランドを水冷後チップ化してポリプロピレン樹脂原料(B1)とした。A層およびB層に上記したポリプロピレン樹脂原料(A3)および(B1)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして厚み2.4μmのポリプロピレンフィルムを得た。本実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ素子加工性に優れ、コンデンサとしての耐電圧も優れていたが、信頼性は条件次第で使用可能なものであった。
【0086】
(実施例5)
フィルム厚みを6.0μmとし、MD延伸倍率とTD予熱温度およびTD延伸温度、熱固定温度を表1の条件に変更した以外は実施例1と同様にしてポリプロピレンフィルムを得た。本実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、コンデンサ素子加工性、耐電圧に優れ、信頼性はやや劣るものの実使用上問題のないレベルであった。
【0087】
(比較例1)
使用するポリプロピレン原料、ポリメチルペンテンとのブレンド比は実施例1と同様にして、溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度を95℃、未延伸ポリプロピレンフィルムを複数のロール群にて予熱する温度を120℃、周速差を設けたロール間で延伸する温度を140℃とし、TD予熱温度とTD延伸温度を同一温度、面積延伸倍率が48倍、熱固定温度は1段のみとした以外は実施例1と同様にして厚み2.4μmのポリプロピレンフィルムを得た。本比較例1のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性を1に示す。コンデンサ素子特性に関しては、加工性に優れる一方で、コンデンサとしての耐電圧は不十分で実用上に耐えられない程度であり、信頼性は信頼性評価では10層を超える貫通状破壊が観察された。
【0088】
(比較例2および比較例3)
比較例2ではメソペンタッド分率が0.984、融点が168℃で、メルトフローレート(MFR)が2.2g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が0.8質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂95重量%と、ポリプロピレンと非相溶性のポリメチルペンテン系樹脂として三井化学(株)製“TPX”(登録商標:MX002、融点が224℃)5重量%をブレンドし、260℃に設定した押出機で混練押出し、ストランドを水冷後チップ化し、ポリプロピレン樹脂原料(A4)とした。該ポリプロピレン樹脂(A4)を単層構成とし、熱処理工程を2段処理とし、キャスティングドラム温度とMD、TD延伸等の製膜条件とした以外は実施例1と同様にして、厚み2.5μmのポリプロピレンフィルムを得た。比較例3では、ポリプロピレンと非相溶の熱可塑性樹脂含有量をA層、B層ともに0重量%とし、キャスティングドラム温度とMD、TD延伸等の製膜条件とした以外は実施例1と同様にして、厚み2.4μmのポリプロピレンフィルムを得た。比較例2のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、コンデンサ素子は加工性が良好であるが、耐電圧が劣り、信頼性も実使用で問題が生じるレベルであった。比較例3のフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、コンデンサ素子加工性は変形、シワ、端面ズレが生じることがあり後の工程に支障がでる恐れがあるものであった。また、コンデンサとしての耐電圧が低く、信頼性評価において素子形状に変化が認められ実使用に耐えられないレベルのものであった。
【0089】
(比較例4)
メソペンタッド分率が0.967、融点が164℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.1g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が0.8質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂98重量%と、ポリメチルペンテン系樹脂として三井化学(株)製“TPX”(登録商標:MX002、融点が224℃)2重量%をブレンドし、260℃に設定した押出機で混練押出し、ストランドを水冷後チップ化し、ポリプロピレン樹脂原料(A5)とした。A層用のポリプロピレン樹脂は(A5)を用い、B層用のポリプロピレン樹脂は上記の0.967、融点が164℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.1g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が0.8質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂100重量%を用い、溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件等は表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして、厚み2.4μmのポリプロピレンフィルムを得た。本比較例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、コンデンサ素子加工性は優れるものであったが、コンデンサとしての耐電圧が低く、信頼性評価において素子形状に変化が認められ実使用に耐えられないレベルのものであった。
【0090】
(比較例5)
メソペンタッド分率が0.965、融点が163℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.5g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が1.8質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂98重量%と、ポリメチルペンテン系樹脂として三井化学(株)製“TPX”(登録商標:MX002、融点が224℃)2重量%をブレンドし、260℃に設定した押出機で混練押出し、ストランドを水冷後チップ化し、ポリプロピレン樹脂原料(A6)とした。A層用のポリプロピレン樹脂は(A6)を用い、B層用のポリプロピレン樹脂は上記の0.967、融点が164℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.1g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が0.8質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂100重量%を用い、溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件等は表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして、厚み2.3μmのポリプロピレンフィルムを得た。本比較例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、コンデンサ素子特性に関しては、加工性に優れる一方で、コンデンサとしての耐電圧は不十分で実用上に耐えられない程度であり、信頼性は信頼性評価では10層を超える貫通状破壊が観察された。
【0091】
【表1】