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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】複合化高分子電解質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20230725BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230725BHJP
   H01M 8/1069 20160101ALN20230725BHJP
   H01M 8/1058 20160101ALN20230725BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230725BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
H01M8/1069
H01M8/1058
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019059031
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020161314
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩永 慶二
(72)【発明者】
【氏名】國田 友之
(72)【発明者】
【氏名】野村 和夫
【審査官】鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第5678754(JP,B2)
【文献】特開2013-016407(JP,A)
【文献】特開2014-135132(JP,A)
【文献】特開2016-219099(JP,A)
【文献】特開2015-076201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 1/06
H01M 8/1069
H01M 8/1058
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料と高分子電解質溶液の塗布膜とを連続して複合化する複合化高分子電解質膜の製造方法であって、
前記高分子電解質溶液を基材上に流延塗布して塗布膜を形成する第1の塗布工程と、
支持基材上に積層された多孔質材料を前記支持基材から離する工程と、
前記支持基材から剥離された多孔質材料に張力を付与する工程と、
前記張力が付与された多孔質材料と前記塗布膜とを複合化する工程と、を有する
複合化高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質材料に張力を付与する工程における力が、0.5N/m以上9.0N/m以下である
請求項1に記載の複合化高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記張力を付与する工程において、前記多孔質材料を幅方向に拡布す
請求項1または2に記載の複合化高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質材料と前記高分子電解質溶液の塗布膜とを複合化した後、高分子電解質溶液をさらに積層塗布する第2の塗布工程を有する
請求項1~3のいずれか1項に記載の複合化高分子電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合化高分子電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す1種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも高分子電解質型燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
燃料電池は通常、発電を担う反応が生じるアノードおよびカソードの電極と、アノードとカソードとの間のプロトン伝導体からなる高分子電解質膜とが、膜電極複合体(以下、MEAともいう)を構成し、MEAがセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成される。具体的には、アノード電極においては、触媒層で燃料ガスが反応してプロトンおよび電子を生じ、電子は電極を経て外部回路に送られ、プロトンは電極電解質を介して電解質膜へと伝導する。一方、カソード電極においては、触媒層で酸化ガスと電解質膜から伝導してきたプロトンと外部回路から伝導してきた電子とが反応して水が生成される。
【0004】
固体高分子形燃料電池においてはエネルギー効率の一層の向上が要求されている。エネルギー効率を向上させるためには、電極構造を工夫して電極反応の反応活性点を増加させるとともに、電解質ポリマーを電極触媒層にも配合し、速やかに水素イオンが移動できるようにする。発生した水素イオンを速やかに対極まで移動可能にするためには、電極触媒層と電解質膜との接触が良好にして、また電解質膜自体の膜抵抗を低くする必要がある。そのためには膜厚はできるだけ薄い方が好ましい。しかしながら、電解質膜を薄くすると、機械的強度が低下し、MEAを製造する際に、加工しにくくなったり、取り扱いにくくなったりする。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、多孔質材料の空隙に高分子電解質を充填した複合化高分子電解質膜が有効であり、この複合化高分子電解質膜の連続した製造方法として、基材上に高分子電解質溶液を流延塗布した後に多孔質材料を複合化する方法が提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-76201号公報
【文献】特許第5678754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に記載された技術では、支持基材のない多孔質材料を使用しているため、例えば多孔質材料を取り扱うときに誤って表面に接触すると、接触した痕や皺が深部まで残りやすい。また、接触した箇所においては、多孔質材料の空隙がつぶれる場合があるため、発電特性や耐久特性が低下する可能性がある。さらに、接触した箇所は痕が残りやすいため検査工程で外観不良として判定される場合もあり、製品収率が悪化する可能性がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、支持基材上に配置された多孔質材料を用いることによって、高品質かつ高収率な複合化高分子電解質膜を製造できる複合化高分子電解質膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明に係る複合化高分子電解質膜の製造方法は、多孔質材料と高分子電解質溶液とを連続して複合化する複合化高分子電解質膜の製造方法であって、前記高分子電解質溶液を基材上に流延塗布する第1の塗布工程と、支持基材上に積層された多孔質材料から前記多孔質材料を剥離する工程と、前記多孔質材料に張力を付与する工程と、を有する。
【0010】
本発明の一態様に係る複合化高分子電解質膜の製造方法は、上記の発明において、前記張力を付与する工程において、前記多孔質材料を幅方向に拡布する手段を有する。
【0011】
本発明の一態様に係る複合化高分子電解質膜の製造方法は、上記の発明において、前記張力を付与する工程における前記多孔質材料に付与する張力が、0.5N/m以上9.0N/m以下である。
【0012】
本発明の一態様に係る記載の複合化高分子電解質膜の製造方法は、上記の発明において、前記多孔質材料と前記高分子電解質溶液とを複合化した後、前記高分子電解質溶液をさらに積層塗布する第2の塗布工程を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明による複合化高分子電解質膜の製造方法によれば、生産安定性に優れ、高品質な複合化高分子電解質膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態による複合化高分子電解質膜の製造方法を説明するための図である。
図2】本発明の第2の実施形態による複合化高分子電解質膜の製造方法を説明するための図である。
図3】本発明の第3の実施形態による複合化高分子電解質膜の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0016】
〔複合化高分子電解質膜の製造方法〕
本発明の実施形態による複合化高分子電解質膜の製造方法は、支持基材上に多孔質材料が配置されて、支持基材から多孔質材料を剥離する工程が必須である。さらに、多孔質材料に張力を付与し、かつ複合化することによって、皺のない複合化高分子電解質膜を得ることができる。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態による複合化高分子電解質膜の製造方法の一例を示す図である。図1に示すように、まず、流延塗布用口金12から供給される高分子電解質溶液を基材11上に流延塗布することにより、基材11の表面に塗布膜10を形成する。一方、巻き出しロール20から、支持基材21と、支持基材21に積層された多孔質材料22とが巻き出される。支持基材21は、ニップロール23,24を通過した後に巻き取りロール26に搬送されて巻き取られる。一方、多孔質材料22は、ニップロール23,24において支持基材21から剥離されて、ガイドロール25を通過して、高分子電解質溶液の塗布膜10に複合化する。これにより、複合化高分子電解質膜30が製造される。
【0018】
ここで、多孔質材料22に付与する張力は、0.5N/m以上が好ましい。張力を0.5N/m以上にすることによって、皺や折れの発生のない連続的に安定した複合化を実現できる。一方、9.0N/mを超えると、多孔質材料の伸びや破断する可能性があることから、多孔質材料22に付与する張力は、9.0N/m以下が好ましい。
【0019】
本発明の第1の実施形態において、張力の調整方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ガイドロール25に多孔質材料22の張力を検出するテンションピックアップユニットを取り付け、ニップロール23,24の回転数を制御することによって張力を調整する方法がある。他の方法としては、ガイドロール25の回転軸にブレーキユニットを取り付け、回転トルクを制御することによって張力を付与する方法がある。
【0020】
(多孔質材料)
本発明の第1の実施形態において用いられる多孔質材料22は、プロトン伝導性を遮断したり妨害したりしない材料であれば特に限定されず、多孔質フィルム、不織布、抄紙などが使用できる。多孔質材料としては、耐熱性の観点や物理的強度の補強効果を鑑みて、脂肪族高分子、芳香族系高分子、または含フッ素高分子が好適に用いられる。ここで、脂肪族系高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、およびエチレン-ビニルアルコール共重合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
芳香族系高分子としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルフィドスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド、芳香族ポリアミド、およびポリアミドイミドなどが挙げられる。さらに、セルロースやポリ乳酸なども使用可能である。
【0022】
含フッ素高分子としては、分子内に炭素-フッ素結合を少なくとも1個有する熱可塑性樹脂が使用されるが、脂肪族系高分子の水素原子の全てまたは大部分がフッ素原子によって置換された構造のものが好適に使用される。具体例としては例えば、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン-ペルフルオロアルキルエーテル)、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの熱可塑性樹脂の中でも、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン)が好ましく、特に、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0023】
多孔質材料22は、以上に列挙した材料の中でも、ポリベンゾイミダゾール(以下、「PBI」と略記する)が、化学的安定性、機械強度に優れ、複合化高分子電解質膜として機械的強度や耐熱性を向上させることができるため好適である。
【0024】
(支持基材)
本発明は、多孔質材料22に対する外部からの保護のために、支持基材21を用いる必要がある。ここで、支持基材21の材質は特に限定されないが、多孔質材料22を積層または剥離することが可能な、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアリレート、およびポリ塩化ビニルからなる群から選択される、1種または2種以上の樹脂から形成されるものを用いることが好ましい。
【0025】
(高分子電解質)
本発明に用いる高分子電解質の例としては、イオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレンなどの、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマー、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるイオン性基を有するパーフルオロ系イオン伝導性ポリマーが挙げられる。
【0026】
ここで、イオン性基は、スルホン酸基(-SO2(OH))、硫酸基(-OSO2(OH))、スルホンイミド基(-SO2NHSO2R(Rは有機基を表す。))、ホスホン酸基(-PO(OH)2)、リン酸基(-OPO(OH)2)、カルボン酸基(-CO(OH))およびこれらの金属塩からなる群より選択される1種以上を好ましく採用することができる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基のいずれかを有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0027】
溶液の製膜時においては、製膜装置の材質による不純物の混入や、加熱によるイオン性基の分解を軽減するために、これらのイオン性基はあらかじめ金属塩として導入しておくことが好ましい。この場合、製膜後に酸性溶液と接触させることによって、金属塩をプロトンに置換してイオン性基に変換することができる。金属塩を形成する金属は、イオン性基と塩を形成するものであればよい。環境負荷およびコストの観点から、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。電解質膜へのイオン性基の導入は、重合後のポリマーにイオン性基の金属塩または誘導体を導入する方法で行ってもよく、またはモノマーにイオン性基の金属塩を導入後、該モノマーを重合する方法で行っても構わない。
【0028】
流延塗布において使用する溶剤は、高分子電解質を溶解可能または分散可能であれば、特に制限されるものではなく、適宜実験的に選択できる。例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられ、単独でも2種以上の混合物でもよい。
【0029】
基材11への高分子電解質溶液の流延塗布の方法としては、従来公知の方法が採用することができ、具体的には、ナイフコート、ダイレクトロールコート(コンマコート)、グラビアコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、リバースコート、およびスクリーン印刷などの方法が適用可能である。特に、連続的に流延塗布を行う場合には、ダイコートやコンマコートが好ましい。
【0030】
基材11上に流延塗布した高分子電解質溶液からの溶媒の蒸発は、加熱、熱風、赤外線ヒーターなどの従来公知の方法を採用できる。溶媒の乾燥時間や温度、風速、風向など適宜実験的に決めることができる。
【0031】
また、上述したように、金属塩となっているイオン性基をイオン型に変換するためには、酸性溶液と高分子電解質膜を接触させる工程を有することが好ましい。この場合、使用する酸性溶液は特に限定されず、塩酸、硫酸、燐酸、硝酸など無機酸の水溶液が好適である。特に、生産性や作業性の観点から、硫酸が好ましく用いられる。酸性溶液の濃度、温度は適宜実験的に決定できるが、作業性、生産性の観点から、酸濃度が0.1%以上30%以下の水溶液が好ましく、1%以上20%以下の水溶液がさらに好ましい。高分子電解質膜と接触させる酸性溶液の温度は、室温以上80℃以下であることが好ましく、処理時間の短縮のためには40℃以上であることが好ましい。
【0032】
酸性溶液と高分子電解質膜とを接触させた後には、遊離酸の洗浄および液滴除去を行うことが好ましい。遊離酸の洗浄は、水槽への浸漬、シャワーなどを組み合わせ、洗浄液がpH6~8となるまで洗浄することが好ましい。液滴除去は、圧縮空気等の気体を吹き付ける方法や、布やスポンジロールや不織布ロールで液滴を吸収したり、当該ロールに減圧ポンプなどを組み合わせて吸引したりする方法が好ましい。
【0033】
液滴除去の後は、主に高分子電解質膜に含有する水分量をコントロールするため、さらに乾燥を行うことが好ましい。乾燥条件などは後の工程の要求により適宜実験的に決定されるが、皺や反り、破れなどが発生しない条件が好ましい。特に皺防止としては、枠張りや、テンターおよびサクションロールなどで膜を固定しながら乾燥する方法を行うことが好ましい。
【0034】
(基材)
本発明において、基材11の材質は特に限定されないが、高分子電解質溶液を流延塗布することが可能であり、安価であることから、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアリレート、およびポリ塩化ビニルからなる群より選択される1種または2種以上の樹脂から形成されるものを用いるのが好ましい。これらの中でも特に、透明性およびコストの観点から、ポリエチレンテレフタレートから形成されたものが好ましい。
【0035】
(第2の実施形態)
〔拡布〕
本発明は、多孔質材料に張力を付与する工程において拡布する手段を有してもよい。ここで、拡布する手段とは、幅方向に対し張力を付与する手段である。拡布することによって複合化する前に多孔質材料22の皺の発生を抑制できる。図2は、第2の実施形態による拡布した場合の複合化高分子電解質膜の製造方法の一例を示す図である。図2に示すように、拡布用ロール27は、複合化する位置とガイドロール25との間に配置される。拡布する手段は従来公知の方法を使用できる。拡布する手段は、具体的に例えば、ピンチエキスパンダ、クラウンロール、マイクログルーブコンケーブロール、およびエキスパンダーロールなどが挙げられる。
【0036】
(第3の実施形態)
〔第2の塗布工程〕
本発明による複合化高分子電解質膜の製造方法は、多孔質材料を高分子電解質溶液の流延塗布膜に複合化した後、かつ乾燥前に、さらに第2の塗布工程を含んでもよい。図3は、第3の実施形態による第2の塗布工程を有する複合化高分子電解質膜の製造方法の一例を示す図である。図3に示すように、第1の塗布工程により基材11上に高分子電解質溶液の塗布膜10を形成し、多孔質材料22を複合化した後、さらに流延塗布用口金13から供給された高分子電解質溶液を積層塗布することによって、塗布膜14を形成することによって、複合化高分子電解質膜31が製造される。
【0037】
以下、本発明の実施例についてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されない。
【0038】
〔外観評価方法〕
外観評価方法においては、まず、ロールからA4サイズにカットした複合化高分子電解質膜を検査台に載置する。その後、上方から白色蛍光灯で光を照射して、50cmの距離から目視観察した際の状態を以下の通り評価した。
○:表面に皺、色ムラ等が視認できない。
△:表面に5個以下の皺、色ムラ等が視認できる。
×:表面全体に無数の皺、色ムラ等が視認できる。
【0039】
(実施例1)
〔ポリベンゾイミダゾールからなる多孔質材料の製造〕
窒素雰囲気下、重合溶媒にポリリン酸(PAA)を用い、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)22.7g(106mmol)、4,4’-オキシビス安息香酸(OBBA)27.3g(106mmol)を秤取り、3質量%溶液となるようにポリリン酸(PPA)を加えて、撹拌しながら徐々に温度を上げ、140℃で12時間撹拌し、重縮合を行った。反応後、室温まで冷却し、イオン交換水に注いで凝固させた後、水酸化ナトリウム水溶液によって中和した。濾過し、イオン交換水で洗浄した後、80℃の温度で一晩減圧乾燥し、目的のポリベンゾイミダゾールを得た。重量平均分子量は42万、Tgは427℃であった。得られたポリベンゾイミダゾールを、8重量%の濃度になるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、エレクトロスピニングユニット(カトーテック社製)を使用して、電圧を20kV、シリンジポンプ吐出速度を0.12mL/時、シリンジとターゲットとの距離を100mmとした条件で紡糸し、不織布状の多孔質材料22を製造した。得られた多孔質材料22を80℃の温度で1時間減圧乾燥させた後、支持基材21としての厚みが125μmのカプトン(商標登録)フィルム上に積層させ、窒素雰囲気中において400度の温度で10分加熱した。これによって、繊維径が150nm、厚みが7μmのポリベンゾイミダゾール繊維からなる多孔質材料22が得られた。
【0040】
〔高分子電解質溶液の製造〕
(下記一般式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成)
【化1】
【0041】
攪拌器、温度計および留出管を備えた500mLフラスコに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン(DHBP)を49.5g、エチレングリコールを134g、オルトギ酸トリメチルを96.9g、およびp-トルエンスルホン酸一水和物を0.50g、仕込み溶解する。その後、78~82℃の温度で2時間保温しつつ攪拌した。さらに、内温を120℃まで徐々に昇温させ、ギ酸メチル、メタノール、およびオルトギ酸トリメチルの留出が止まるまで加熱を行った。得られた反応液を室温まで冷却した後、反応液を酢酸エチルによって希釈し、有機層を100mLの容量の5%炭酸カリウム水溶液で洗浄し分液した後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタンを80mL加えて結晶を析出させ、濾過し、乾燥させて、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランを52.0g分得た。この結晶をGC分析したところ、99.8%の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランと、0.2%の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンとが得られた。
【0042】
(下記一般式(G2)で表されるジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成)
【化2】
【0043】
150mLの発煙硫酸(50%SO3)(和光純薬社試薬)中に、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを109.1g(アルドリッチ試薬)投入して、100℃の温度で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHによって中和した後、食塩を200g加えて合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液によって再結晶させ、上述した一般式(G2)で示される、ジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。構造はH-NMRで確認した。不純物は、キャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析を行った。
【0044】
(下記一般式(G3)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’の合成)
【化3】
(式(G3)中、mは正の整数を表す。)
【0045】
まず、かき混ぜ機、窒素導入管、およびDean-Starkトラップを備えた1000mLの三口フラスコに、炭酸カリウムを16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、K-DHBPを25.8g(100mmol)、および4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを20.3g(アルドリッチ試薬、93mmol)投入する。続いて窒素置換後に、300mLのN-メチルピロリドン(NMP)および100mLのトルエン中において160℃の温度で脱水後、昇温させてトルエンを除去した後、180℃の温度で1時間重合を行った。多量のメタノールを用いて再沈殿させることによって精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端OM基、なお、OM基のMはNaまたはKを表し、以降の表記も同様)を得た。数平均分子量は約10000であった。
【0046】
かき混ぜ機、窒素導入管、およびDean-Starkトラップを備えた500mLの三口フラスコに、炭酸カリウムを1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa1(末端OM基)を20.0g(2mmol)投入する。続いて窒素置換後、100mLのN-メチルピロリドン(NMP)および30mLのシクロヘキサン中において100℃の温度で脱水後、昇温させてシクロヘキサンを除去する。その後、デカフルオロビフェニルを4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)入れて、105℃の温度で1時間反応を行った。多量のメタノールで再沈殿させることによって精製を行い、上述した式(G3)で示されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)を得た。数平均分子量は約11000であり、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’の数平均分子量は、リンカー部位(分子量630)を差し引いた値10400と求められた。
【0047】
(下記一般式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa2の合成)
【化4】
(式(G4)において、Mは、NaまたはKを表す。)
【0048】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mLの三口フラスコに、炭酸カリウムを27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、K-DHBPを12.9g(50mmol)、4,4’-ビフェノールを9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、ジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを39.3g(93mmol)、および18-クラウン-6エーテルを17.9g(和光純薬、82mmol)入れる。続いて窒素置換後、300mLのN-メチルピロリドン(NMP)および100mLのトルエン中において170℃の温度で脱水後、昇温させてトルエンを除去し、180℃の温度で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、上述した式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端OM基)を得た。数平均分子量は約16000であった。
【0049】
(イオン性基を含有するセグメントとしてオリゴマーa2、イオン性基を含有しないセグメントとしてオリゴマーa1、リンカー部位としてオクタフルオロビフェニレンを含有するポリケタールケトン(PKK)系ブロックコポリマーb1の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mLの三口フラスコに、炭酸カリウムを0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、イオン性基を含有するオリゴマーa2(末端OM基)を16g(1mmol)投入する。続いて窒素置換後、100mLのN-メチルピロリドン(NMP)および30mLのシクロヘキサン中において100℃の温度で脱水後、昇温させてシクロヘキサンを除去し、イオン性基を含有しないオリゴマーa1’(末端フルオロ基)を11g(1mmol)投入して、105℃の温度で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールによって再沈殿させることで精製を行い、ブロックコポリマーb1を得た。重量平均分子量は約28万であった。
【0050】
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を820gに、得られたブロックコポリマーb1を180g添加し、撹拌機によって3分間撹拌して、ポリマー濃度が18重量%の透明な高分子電解質溶液を得た。
【0051】
〔多孔質材料の張力調整〕
図1に示す製造方法に従って、ガイドロール25の回転軸にパーマヒストルクコントローラー(小倉クラッチ社製、PHT1.2D)を取り付け、ガイドロール25のブレーキ調整を行った。次に、あらかじめ420mm幅にスリットした多孔質材料22とカプトンフィルムの積層フィルムを巻き出し、ニップロール23を通過した後にカプトンフィルムから多孔質材料22を剥離した。ガイドロール25を通過させた後の多孔質材料22をバネばかりによって引張して張力を測定したところ、1.0N/mであった。
【0052】
〔複合化高分子電解質膜の製造〕
ロール状の基材フィルム(東レ社製、“ルミラー”(登録商標)T60、厚み:125μm)に上述した高分子電解質溶液をスリットダイコーターによって流延塗布した。この際、塗布幅は450mmであった。この塗布膜10に多孔質材料22を複合化し、150℃の温度の熱風乾燥炉において溶媒を除去した。さらにこの上層に高分子電解質溶液を積層塗布して、合計の厚みが10μmの実施例1による複合化高分子電解質膜30を製造した。
【0053】
(実施例2)
実施例2においては、多孔質材料の張力を3.0N/mに変更する以外は、実施例1と同様にして複合化高分子電解質膜を作製した。
【0054】
(実施例3)
実施例3においては、図2に示す製造プロセスに従って、ガイドロール25と複合化する位置との間に、ピンチエキスパンダ(東洋機械社製、PEX-11A)を設置し、多孔質材料22を拡布した以外は実施例1と同様にして複合化高分子電解質膜30を製造した。
【0055】
(比較例1)
上述した実施例1~3と比較するための比較例1においては、あらかじめカプトンフィルムと多孔質材料22とを剥離させ、巻き取ったロール状の多孔質材料22を図1に示す製造プロセスに従って、高分子電解質溶液と複合化させて複合化高分子電解質膜を製造した。
【0056】
上述したように得られた、実施例1~3および比較例1による複合化高分子電解質膜30の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0057】
上述した本発明による複合化高分子電解質膜30,31は、種々の用途に適用可能である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、固体高分子形燃料電池などの燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置、電気化学式水素ポンプ、水電解式水素発生装置が挙げられる。これにより、エネルギー効率の一層の向上が実現できる。また、複合化高分子電解質膜30,31は、例えば、人工皮膚などの医療用途、ろ過用途、耐塩素性逆浸透膜などのイオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途、加湿膜、防曇膜、帯電防止膜、脱酸素膜、太陽電池用膜、ガスバリアー膜に適用してもよい。
【0058】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付のクレームおよびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10,14 塗布膜
11 基材
12,13 流延塗布用口金
20 巻き出しロール
21 支持基材
22 多孔質材料
23,24 ニップロール
25 ガイドロール
26 巻き取りロール
27 拡布用ロール
30,31 複合化高分子電解質膜
図1
図2
図3