(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】欠点検査方法および欠点検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/18 20180101AFI20230725BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20230725BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20230725BHJP
【FI】
G01N23/18
G01N23/04
G06T7/00 610
G06T7/00 350C
(21)【出願番号】P 2019141964
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2018145645
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】谷野 貴広
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-158454(JP,A)
【文献】特開2014-187818(JP,A)
【文献】特開2009-074825(JP,A)
【文献】特開平05-281199(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0015520(US,A1)
【文献】特開2018-87699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01B 15/00 - G01B 15/08
A61B 6/00 - A61B 6/14
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01B 11/00 - G01B 11/30
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる複数の経路でX線を放射するX線放射手段と、被検査物を透過したX線を検出する1つ以上のX線検出手段と、画像処理手段、とを備え、前記画像処理手段は、前記X線検出手段が取得した1つ以上の画像に対して学習済みのニューラルネットワーク(a)を用いて欠点候補を検出する欠点候補検出手段と、前記X線検出手段が取得した複数の画像から学習済みのニューラルネットワーク(b)を用いて欠点候補の高さ位置を算出する高さ位置算出手段と、前記高さ位置から欠点候補の良否を判断する選別手段と、で構成され
、
前記X線検出手段が取得した複数の画像が互いに異なる複数の経路で放射されたX線を検出して取得されたものである、欠点検査装置。
【請求項2】
前記複数の画像を合成した1つの2次元画像データを説明変数とし、2次元の畳込みニューラルネットワークにより前記欠点候補の高さ位置を目的変数として回帰する、欠点候補の高さ位置算出手段を有する、請求項1に記載の欠点検査装置。
【請求項3】
前記複数の画像から1つの3次元画像データを構成し、該3次元画像データを説明変数とし、3次元の畳込みニューラルネットワークにより前記欠点候補の高さ位置を目的変数として回帰する、欠点候補の高さ位置算出手段を有する、請求項1に記載の欠点検査装置。
【請求項4】
前記X線放射手段が、2つ以上のX線放射手段を備えている、請求項1~3のいずれか1項に記載の欠点検査装置。
【請求項5】
前記X線放射手段が、1つ以上のX線放射手段と、被検査物に対して2か所以上の異なる位置からX線を放射するよう前記少なくとも1つ以上のX線放射手段を移動させるX線放射位置移動手段と、を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の欠点検査装置。
【請求項6】
前記X線放射手段が、1つ以上のX線放射手段と、被検査物を2か所以上の位置に移動させる被検査物位置移動手段と、を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の欠点検査装置。
【請求項7】
被検査物が高圧タンク用部材である請求項1~6のいずれか1項に記載の欠点検査装置。
【請求項8】
互いに異なる複数の経路でX線を放射し、被検査物を透過したX線を1つ以上の位置で検出し、検出した1つ以上のX線画像に対して学習済みのニューラルネットワーク(a)を用いて欠点候補を検出し、検出した複数のX線画像に対して学習済みのニューラルネットワーク(b)を用いて欠点候補の高さ位置を算出し、
前記検出した複数のX線画像が互いに異なる複数の経路で放射されたX線を検出して取得されたものである、
前記高さ位置から欠点候補の良否を選別する、欠点検査方法。
【請求項9】
前記複数の
X線画像を合成した1つの2次元画像データを説明変数とし、2次元の畳込みニューラルネットワークにより前記欠点候補の高さ位置を目的変数として回帰する、欠点候補の高さ位置算出手段を有する、請求項8に記載の欠点検査方法。
【請求項10】
前記複数の
X線画像から1つの3次元画像データを構成し、該3次元画像データを説明変数とし、3次元の畳込みニューラルネットワークにより前記欠点候補の高さ位置を目的変数として回帰する、欠点候補の高さ位置算出手段を有する、請求項8に記載の欠点検査方法。
【請求項11】
前記互いに異なる複数の経路でX線を放射する方法が、2つ以上の位置からX線を放射する、請求項8~10のいずれか1項に記載の欠点検査方法。
【請求項12】
前記互いに異なる複数の経路でX線を放射する方法が、被検査物に対して2か所以上の異なる位置からX線を放射するよう、X線の放射位置を移動させる、請求項8~10のいずれか1項に記載の欠点検査方法。
【請求項13】
前記互いに異なる複数の経路でX線を放射する方法が、1つ以上の位置からX線を放射し、被検査物を2か所以上の位置に移動させる、請求項8~10のいずれか1項に記載の欠点検査方法。
【請求項14】
被検査物が高圧タンク用部材である請求項8~13のいずれか1項に記載の欠点検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠点検査方法ならびに欠点検査装置に関する。より詳細には、本発明は、高精度で被検査物の指定深さ領域の欠点の有無を検出することのできる、検査方法ならびに検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスや複合材料、樹脂成形品をはじめとする工業製品は、微細化、複雑化が進み、さらに、高度な耐久性・堅固性が必要とされており、これら工業製品の安全性や品質に対する要求は、厳しさを増して来ている。被検査物の外観からは観測できない、被検査物内部の空隙やクラック、異物といった内部の欠点を、被検査物を破壊することなく検査するX線による非破壊検査は、これらの課題解決に有効な手段であり、X線非破壊検査に対するニーズが高まって来ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2014-501818号公報
【文献】特開平4-9606号公報
【文献】特開2004-191112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的なX線透過撮像により得られたX線検査画像においては深さ方向に情報が重なるため、欠点の高さ位置を情報として取り出すことが困難であるという課題がある。
【0005】
例えば、両面基板での電子部品実装において、接合不具合をX線透視により検査し、表面側(あるいは裏面側)の接合不具合のみを欠点と定義して検出したい場合でも、一般的なX線透過撮像においては、得られたX線検出画像において、裏面側(あるいは表面側)の欠点像が重なり、裏面側(あるいは表面側)の接合不具合も欠点として検出してしまう。すなわち、表面側の欠点と裏面側の欠点を分けて検出することが困難である。
【0006】
また、航空宇宙用途などへの適用が期待されている、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、積層板として用いられることが多く、繊維強化されている面内方向には高い剛性を有するものの、面外方向の剛性は弱く、異方性の高い材料である。面外方向へのストレスに対し、層間剥離が発生するという課題があるが、積層板の層間剥離について、どの層間で剥離が発生したかを知ることは、製品の品質管理、設計、改良上有用である。すなわち、例えば、第k層/第k+1層間の剥離のみを欠点と定義して、他の層間剥離と区別して検出したい場合があるが、一般的なX線透過撮像においては、全ての層間剥離の像が重なって検出されるため、第k層/第k+1層間に剥離があるかを判断することが困難である。
【0007】
また、近年注目を集める燃料電池電気自動車に搭載される高圧水素用タンクは、その一例を挙げると、軽量で成形性に優れた樹脂製のライナー部材と、ライナー部材の外側を覆う繊維強化樹脂層からなる。特許文献1に記載の成形品を用いて作製した高圧ガスタンクは、高圧ガス(特に高圧水素ガス)の充填および放圧を繰り返した際に、変形等が発生することがあり、歩留まり低下の要因となっていた。このような突発的な異常は、発生要因が不明であり、またその検査方法もなかった。そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、タンクの変形等の要因が、例えば2つの成形品に分けて製造される高圧タンク用部材を接合した部位に存在する不純物や空隙に因ることを突き止めた。樹脂成形品の接合に一般的に用いられる溶着による接合方法を用いた場合、十分に溶着させるために接合部を押し込む工程が発生する。この工程で接合部には溶融した樹脂の盛り上がり(以下、バリと記す)が生じる。このバリの中の空隙や不純物は高圧タンク用部材の変形等を発生させる要因とはならない。しかし、樹脂製成形品の内部の検査には、特許文献2に記載の検査方法にある通り、X線を透過させその透過量の変化によって内部の不純物や空隙の有無を検出することが一般的である。この実施の形態を
図2、
図3に示す。一般的なX線透過撮像による検査構成では判別出来ない欠点と非欠点部分の一例を説明するための模式図である。説明を簡便にするため、
図3では、高圧タンク用部材2はX線放射手段1側の接合断面部のみを表示している。この構成では、X線放射手段1から放射されたX線は検査すべき接合部分とバリ部分の両方を透過するため、X線放射手段1から放射されたX線の透過量の変化が、接合部の空隙もしくは不純物によるものなのか、バリ部分の空隙もしくは不純物によるものなのかを判別することは難しかった。また、複数方向からのX線の照射によって欠点の発生位置を特定することも良く用いられるが、その発生位置からも、その部分がバリなのか、接合部なのかを判別することは難しかった。
【0008】
X線で深さ方向の情報を得る手段としてX線コンピュータ断層撮影(computed tomography、略称:CT)が知られている。X線CTはX線を利用して物体を走査しコンピュータを用いて処理することで、物体の内部画像を構成する技術である。CT機能により複雑な内部形状や欠点の位置情報を得ることができる。しかしながら、CTには、測定に時間を要する、被検査物の大きさに制限がある、装置が高価である、などの課題があり、生産ラインのインライン検査に用いることは困難である。
【0009】
一方、異なる光学条件の複数の検査画像を撮像して、ニューラルネットワークの処理により被検査物の良否を判断する方法が特許文献3に開示されている。ニューラルネットワークは人間の脳内にある神経回路網を数式モデルで表現したものであり、画像認識の分野において近年注目を集めている。しかしながら、特許文献3に記載の検査方法は欠点候補の高さ位置を算出するアルゴリズムを具備していないため、欠点候補の高さ位置によって欠点の良否が分かれる場合には、適用することができない。
【0010】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、欠点候補の高さ位置によって欠点か否かを判別する必要のある工業製品等被検査物のX線非破壊検査において、高精度で欠点の有無を検出することができる、インライン検査に適合した検査方法ならびに検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明の一態様に関する欠点検査装置は、互いに異なる複数の経路でX線を放射するX線放射手段と、被検査物を透過したX線を検出する1つ以上のX線検出手段と、画像処理手段、とを備え、前記画像処理手段は、前記X線検出手段が取得した1つ以上の画像に対して学習済みのニューラルネットワーク(a)を用いて欠点候補を検出する欠点候補検出手段と、前記X線検出手段が取得した複数の画像から学習済みのニューラルネットワーク(b)を用いて欠点候補の高さ位置を算出する高さ位置算出手段と、前記高さ位置から欠点候補の良否を判断する選別手段と、で構成されることを特徴とする。
【0012】
本発明の欠点検査装置は、前記複数の画像を合成した1つの2次元画像データを説明変数とし、2次元の畳込みニューラルネットワークにより前記欠点候補の高さ位置を目的変数として回帰する、欠点候補の高さ位置算出手段を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の欠点検査装置は、前記複数の画像から1つの3次元画像データを構成し、該3次元画像データを説明変数とし、3次元の畳込みニューラルネットワークにより前記欠点候補の高さ位置を目的変数として回帰する、欠点候補の高さ位置算出手段を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の欠点検査装置は、前記X線放射手段が、2つ以上のX線放射手段を備えていることが好ましい。
【0015】
また、本発明の欠点検査装置は、前記X線放射手段が、1つ以上のX線放射手段と、前記被検査物に対して2か所以上の異なる位置からX線を放射するよう前記少なくとも1つ以上のX線放射手段を移動させるX線放射位置移動手段と、を備えることが好ましい。
【0016】
また、本発明の欠点検査装置は、前記X線放射手段が、1つ以上のX線放射手段と、被検査物を2か所以上の位置に移動させる被検査物位置移動手段と、を備えることが好ましい。
【0017】
また、本発明の欠点検査装置は、被検査物が高圧タンク用部材であることが好ましい。
【0018】
また、上記課題を解決する本発明の一態様に関する欠点検査方法は、互いに異なる複数の経路でX線を放射し、被検査物を透過したX線を1つ以上の位置で検出し、検出した1つ以上のX線画像に対して学習済みのニューラルネットワーク(a)を用いて欠点候補を検出し、検出した複数のX線画像に対して学習済みのニューラルネットワーク(b)を用いて欠点候補の高さ位置を算出し、前記高さ位置から欠点候補の良否を選別する、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の欠点検査方法は、前記複数の画像を合成した1つの2次元画像データを説明変数とし、2次元の畳込みニューラルネットワークにより前記欠点候補の高さ位置を目的変数として回帰する、欠点候補の高さ位置算出手段を有することが好ましい。
【0020】
また、本発明の欠点検査方法は、前記複数の画像から1つの3次元画像データを構成し、該3次元画像データを説明変数とし、3次元の畳込みニューラルネットワークにより前記欠点候補の高さ位置を目的変数として回帰する、欠点候補の高さ位置算出手段を有することが好ましい。
【0021】
また、本発明の欠点検査方法は、前記互いに異なる複数の経路でX線を放射する方法が、2つ以上の位置からX線を放射することが好ましい。
【0022】
また、本発明の欠点検査方法は、前記互いに異なる複数の経路でX線を放射する方法が、被検査物に対して2か所以上の異なる位置からX線を放射するよう、X線の放射位置を移動させることが好ましい。
【0023】
また、本発明の欠点検査方法は、前記互いに異なる複数の経路でX線を放射する方法が、1つ以上の位置からX線を放射し、前記被検査物を2か所以上の位置に移動させることが好ましい。
【0024】
また、本発明の欠点検査方法は、被検査物が高圧タンク用部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、深さ方向に欠点候補が複数存在する可能性があり、欠点候補の高さ位置によって欠点か否かを判別する必要のある被検査物に対して、欠点の有無を高精度で検出することができる、インライン検査に適合した、欠点検査装置および欠点検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、一般的なX線透過撮像による検査構成を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、一般的なX線透過撮像による検査構成では判別出来ない欠点と非欠点部分の一例を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、複数の経路でX線を照射した場合の欠点と非欠点部分のX線検出手段における検出位置の違いを説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、X線検出手段での取得画像の一例である。
【
図6】
図6は、画像処理手段の処理の流れを説明するためのフロー図である。
【
図7】
図7は、X線検出手段での取得画像をセルに細分化した一例である。
【
図8】
図8は、複数の経路でX線を照射して得られた複数のX線検出画像における特定セルを隣接して並べた模式図である。
【
図9】
図9は、欠点候補の高さ位置を出力するニューラルネットワークに入力する合成2次元画像の一例である。
【
図10】
図10は、複数の経路でX線を照射して得られた複数のX線検出画像における特定セルを積層して並べた模式図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態において、X線放射手段を移動させる手段を設けた構成を説明するための模式図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施形態において、被検査物を移動させる手段を設けた構成を説明するための模式図である。
【
図13】
図13は、本発明の一実施形態において、その他の構成例1を説明するための模式図である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施形態において、その他の構成例2を説明するための模式図である。
【
図15】
図15は、高圧タンク用部材の接合部断面を拡大して示した模式図である。
【
図16】
図16は、高圧タンク用部材の接合部をX線放射手段1側から見た上面の模式図である。
【
図17】
図17は、高圧タンク用部材の接合部のX線検出画像の一例の模式図である。
【
図18】
図18は、実施例において、セルの配置方法を説明するための模式図である。
【
図19】
図19は、実施例において、複数の経路でX線を照射して得られた複数のX線検出画像における特定セルを隣接して並べた模式図である。
【
図20】
図20は、実施例において、目視で計測した欠点候補高さ位置と、本発明による欠点候補高さ位置の予測値とをプロットして示した図である。
【
図21】
図21は、実施例において、複数の経路でX線を照射して得られた複数のX線検出画像における特定セルを積層して並べた模式図である。
【
図22】
図22は、実施例において、目視で計測した欠点候補高さ位置と、本発明による欠点候補高さ位置の予測値とをプロットして示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<高圧タンク用部材の検査装置>
以下、本発明の欠点検査装置に適用した実施形態を、被検査物が高圧タンク用部材である場合について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明は以下の説明に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施例は改変することができる。
【0028】
まず、検査対象である高圧タンク用部材および高圧タンクの概要について説明する。高圧タンクは、圧縮ガスや液化ガスなどの高圧ガスを充てんするための容器のことであり、たとえば高圧ガスが水素の場合では燃料電池自動車搭載用容器、高圧水素輸送用容器、および水素ステーション蓄圧器などがある。高圧タンクの構造は、特に限定されない。一例を挙げると、高圧タンクは、高圧タンク用部材であるライナー部材と、ライナー部材を覆う1または複数の補強層と、燃料電池に高圧ガスを供給するための供給系統(弁部材、各種配管系統等)からなる。
【0029】
高圧タンクの形状は特に限定されない。一例を挙げると、高圧タンクは、略円筒状である。高圧タンクは、タンク内へ高圧ガスを充填し、または、タンク内から高圧ガスを取り出すための開口部が形成されている。開口部は、供給系統によって閉止される。本発明において、高圧タンク用部材とは、高圧タンクを構成する部材のことであり、ライナー部材や、ライナー部材に補強層を形成した後の部材などが挙げられる。
【0030】
・ライナー部材
ライナー部材は、高圧タンクの筐体を構成するタンク容器の部材である。ライナー部材の形状は特に限定されない。一例を挙げると、ライナー部材は、略円筒状であり、内部に収容空間が形成されている。収容空間には、高圧ガスが充填される。ライナー部材には、上記の開口部が形成されている。ライナー部材は、1の部材から構成されてもよいが、製作の容易さから一般的には複数に分割された部材から構成される。この場合、複数に分割された部材は、接合等によって一体化され得る。また、ライナー部材を作製する方法は、ブロー成形、射出成形等が挙げられる。一方、本発明の欠点検査方法は、ライナー部材が射出成形によって複数に分割された部材を接合する接合面の検査に好適に用いられる。
【0031】
ライナー部材の材質は特に限定されない。一例を挙げると、ライナー部材は、樹脂製、アルミニウムや鉄等の金属製等である。これらの中でも、樹脂製のライナー部材は、接合部に空隙や不純物が形成された場合に、高圧タンクに成形された後で変形や破壊等が起こりやすい。しかしながら、本発明の欠点検査方法は、後述するとおり、空隙や不純物を適切に検出し得る。そのため、本発明の欠点検査方法は、ライナー部材が樹脂製である場合に、特に好適である。樹脂は、X線吸収率がより高く、後述するX線検出器によってライナー部材における不純物等がより精度よく検出される点から、ライナー部材に、ポリオレフィン樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体およびポリアミド樹脂のうち少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。
【0032】
また、ライナー部材は、ポリアミド樹脂を含むことがより好ましい。ポリアミド樹脂は、X線吸収率が高いため、ポリアミド樹脂中の空隙や樹脂不純物等が検出されやすい。また特に、高圧ガスが水素ガスである場合、水素ガスは低分子量であるため、ライナー部材に溶け込みやすい。その結果、ライナー部材の接合部にわずかな空隙や不純物が存在する場合であっても、水素ガス用の高圧タンクは、接合部での変形や破壊等が生じやすい。後述する本発明の欠点検査方法によれば、このような空隙や樹脂不純物等は、容易に検出され得る。そのため、本発明の欠点検査方法は、ライナー部材がポリアミド樹脂製である場合に、特に不純物等が精度よく検出され、適切に判別され得る。
【0033】
・補強層
ライナー部材は、ライナー部材を補強するために、1または複数の補強層によって外表面が覆われることが好ましい。補強層の材料は特に限定されない。一例を挙げると、補強層は、繊維強化樹脂層である。繊維強化樹脂層を構成する繊維強化樹脂としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック等が例示される。これらの繊維強化樹脂は、併用されてもよい。また、それぞれの繊維強化樹脂からなる補強層がライナー部材を二重に覆ってもよい。繊維強化樹脂層は、繊維強化樹脂がたとえば、炭素繊維強化プラスチックである場合、ライナー部材の外表面に巻き付けられる炭素繊維強化プラスチック等の強化繊維と、強化繊維同士を結着する熱硬化性樹脂とから主に構成される。
【0034】
検査方法の説明に戻る。本発明の欠点検査方法は、上記高圧タンクのうち、補強層が設けられる前のライナー部材の接合面に対して実施されることが好ましい。具体的な検査方法は、X線放射装置から、ライナー部材にX線を放射し、ライナー部材を透過したX線を、X線検出器を用いて検出することにより、ライナー部材が良品であるか不良品であるかを検査する。
【0035】
本発明の欠点検査装置を説明するための模式図を
図1に示す。X線放射手段1は、高圧タンク用部材2にX線を放射するための機器である。X線放射装置の形状および寸法は特に限定されない。また、X線放射手段1は、X線放射装置を駆動するための図示しない電源ケーブル等が付帯されてもよい。この場合、電源ケーブル等は、高圧タンク用部材2と干渉しない形状、寸法であることが好ましい。また放射されたX線は、複数の経路で高圧タンク部材にX線を照射する必要がある。本発明ではX線放射手段1a,1b,1cおよび1dの4つのX線放射手段によって、X線が放射される。放射されるX線は、X線放射手段側の高圧タンク用部材と、後述のX線検出手段側の高圧タンク用部材とを透過して、X線検出手段3によって検出される。なお、X線放射手段1の配置は特に規定しないが、複数のX線放射手段の少なくとも1つは、X線放射手段側の接合面とX線検出手段側の接合面との両方が透過経路とならないように配置することが好ましい。ここでは、高圧タンク用部材の接合面を挟み込む形でX線放射手段1a,1b,1cおよび1dが並行配置され、いずれもX線放射手段側の接合面とX線検出手段側の接合面との両方が照射経路とならないように配置されている。
【0036】
高圧タンク用部材2は、2分割された樹脂成形品を円筒形に接合した高圧タンク用部材として例示されている。
【0037】
X線検出手段3は、高圧タンク用部材2を透過したX線を検出するための機器である。X線検出手段は、少なくとも1つ以上のX線検出器で構成されればよく、1つのX線検出手段で複数のX線放射手段1からの放射されるX線を検出する場合は、複数のX線放射手段から異なるタイミングでX線を放射してX線を検出するのでもよいし、複数のX線放射手段1の個数に併せて、複数のX線検出手段を配置して、同時にX線を検出してもよいし、1つのX線検出手段で、複数のX線放射手段1から放出されるX線を検出できる位置に、X線検出手段を移動させてもよい。一般的には、空隙であればX線は透過しやすいため周囲よりも強く検出され、不純物であれば不純物の比重と高圧タンク用部材を構成する樹脂材料の比重の大小に応じて強弱いずれかで検出される。また、バリ部分は通常の高圧タンク部材よりも肉厚が増すため、全体的に弱く撮像される。なお、基準マーカ8は、高圧タンク用部材2の表面高さ位置を正確に求めるための基準であるので、X線検出手段に明確に検出できることが好ましいことから、樹脂で形成されることが多い高圧タンク用部材に対して、X線がより透過しにくい金属材料を用いることが好ましい。また、基準マーカ8は、高圧タンク用部材2の表面高さ位置を精度良く求めるために使用するものであるので、X線検出手段3で複数個が検出されるように複数個を配置しても良い。また、基準マーカ8による高圧タンク用部材の表面高さを精度良く求める手段としては、高圧タンク用部材の固定位置が機械的に高精度に位置決めされる機構(図示しない)を用意することで、基準マーカ8に類するものを配置せずに、あらかじめ定める高さ位置基準値を設定してもよい。また、高圧タンク用部材の固定位置の高さ位置を高精度に測定する測定手段(図示しない)を用いて、高さ位置基準値を逐次測定してもよい。なお、本発明の実施形態の説明としては、基準マーカ8がX線検出手段3の検出範囲内に入る位置に一つ配置されているものとして、以降説明する。
【0038】
なお、X線検出手段3は汎用のX線検出器でもよい。一例を挙げると、X線検出手段3は直接変換方式のX線検出器でもよく、間接変換方式のX線検出器でもよい。より具体的には、X線検出手段3はX線フィルム、イメージインテンシファイア、コンピューテッドラジオグラフィ(CR)、フラットパネルディテクタ(FPD)等である。
【0039】
X線検出手段3のX線検出素子の配列は、2次元に検出素子が配列されたエリアセンサ方式でもよいし、1次元に検出素子が配列されたラインセンサ方式のX線検出器でもよい。いずれの検出方式を用いるかによって、検査範囲を順次変更する方式は最適化すればよい。エリアセンサ方式を採用する場合はエリアセンサの検査視野に応じて逐次的に視野を切り替える機構を用意すればよく、ラインセンサ方式を採用する場合は連続的に検査視野を移動させる機構を用意すればよい。
【0040】
なお、X線検出手段3は、たとえばX線フィルムが用いられる場合と比べて現像工程等が不要となり、検査に要する時間が短縮化され得る点から、間接変換方式のFPDであることが好ましい。
【0041】
間接変換方式のFPDは、直接変換方式の検出器と比べて、使用可能温度等の制約がない。そのため、間接変換方式のX線検出器は、取扱性が優れる。さらに、間接変換方式のFPDは、セル方式シンチレータを備えることが好ましい。間接変換方式のFPDにおいては、放射線を可視光に変換するために、シンチレータパネルが使用される。シンチレータパネルは、ヨウ化セシウム(CsI)等のX線蛍光体を含み、放射されたX線に応じて、X線蛍光体が可視光を発光し、その発光をTFT(thin film transistor)やCCD(charge-coupled device)で電気信号に変換することにより、X線の情報をデジタル画像情報に変換する。しかしながら、間接変換方式のFPDは、X線蛍光体が発光する際に、蛍光体自体によって、可視光が散乱してしまう等により、画像の鮮鋭性が低くなりやすい。一方、セル方式シンチレータが採用されたFPDは、隔壁で仕切られたセル内に蛍光体が充填されており、光の散乱の影響を抑え得る。その結果、セル方式シンチレータを具備するFPDは、鮮鋭度が高く、高圧タンク用部材2中の不純物や空隙を高感度に検出し得る。
【0042】
本発明の欠点検査方法において使用されるX線検出手段3は、大面積かつ高鮮鋭なセル方式シンチレータを容易に形成し得る点から、ガラス粉末を含有する感光性ペーストを用いて、ガラスを主成分とする隔壁をフォトリソグラフィーにより加工して作製されたセル方式シンチレータであることがより好ましい。X線検出手段3のセンサーのピクセルサイズは特に限定されない。一例を挙げると、センサーのピクセルサイズは、20~300μmであることが好ましい。ピクセルサイズが20μm未満である場合、高圧タンク用部材2の変形や破壊に寄与しない微小な不純物まで検出し良品を不良品と誤って判断する傾向がある。また、このようなピクセルサイズでは、画像データが膨大となり、信号読み出し、画像処理に要する時間が長くなる傾向がある。一方、ピクセルサイズが300μmを超える場合、不純物等を充分に検出できない可能性がある。
【0043】
画像処理手段4は、X線検出手段3と接続されており、X線検出手段3によって取得される1つ以上の画像に対して学習済みのニューラルネットワーク(a)を用いて欠点候補を検出する欠点候補検出手段と、複数の画像から学習済みのニューラルネットワーク(b)を用いて欠点候補の高さ位置を算出する高さ位置算出手段と、前記高さ位置から欠点候補の良否を判断する選別手段と、で構成される。ニューラルネットワーク(a)と(b)とは、出力される目的変数が異なるため、一般には、ニューラルネットのニューロン同士のつながりの強さである“重み”や、畳込みフィルタ等が異なるネットワークとなる。学習係数,中間層のユニット数,層の段数等のハイパーパラメータもそれぞれ別に最適化設計してもよい。 画像処理手段4における処理の流れを、
図6を用いて説明する。
図6は、画像処理手段の処理の流れを説明するためのフロー図である。X線検出画像10a、10b、10c、10dは、それぞれ、X線照射手段1a、1b、1c、1dから放射されるX線をX線検出手段3で検出した検出画像である。検出画像は、X線の検出の強弱を輝度値で出力し、X線を強く検出した場所は輝度値が大きく(明るく)、X線を弱く検出した場所は輝度値が小さく(暗く)なる。
【0044】
S101は欠点候補検出手段で、X線検出画像から欠点候補となる領域を検出するものであり、2次元の画像データとして入力されるX線検出画像に対して学習済みのニューラルネットワーク(a)を用いて欠点候補を検出する。検出は複数のX線検出画像のうち少なくとも1つのX線検出画像に対して実施すればよく、本発明の実施例においては、X線放射手段1aにより放射されたX線を検出したX線検出画像10aに対して実施している。欠点候補検出について、その方法の一例を詳細に述べる。
図7に示すように、広域のX線検出画像10aを複数のセルに分割し、セル内に欠点候補が存在する場合においても、その数が1つになるように細分化する。
図7においては、11a、12a、13a、14aの4つのセルに分割して模式的に示した。X線検出画像10aのセル11a、12a、13a、14aに対して、欠点候補の有無をディープラーニングによるクラス分類アルゴリズムを用いて決定する。具体例を挙げると、各セルの2次元画像データを説明変数として2次元畳込みニューラルネットワークで構成したディープラーニングのモデルに入力し、分類のクラスを目的変数として出力することにより欠点候補の有無を判別する。具体的には、各セルを“欠点候補無し”というクラスと“欠点候補有り”という2つのクラスに分類する。前記クラス分類は、さらに、欠点候補の種類を分類するアルゴリズムを備えてもよい。すなわち、各セルを“欠点候補無し”というクラスと“欠点候補1有り”、“欠点候補2有り”、“欠点候補3有り”・・・、“欠点候補n有り”というn+1個のクラスに分類する。また、基準マーカ8が存在する場合には、基準マーカが有ることを示すクラス“基準マーカ有り”を追加する。なお、本ニューラルネットワークによるクラス分類アルゴリズムを実施するためには、事前学習が不可欠である。事前学習では、セルの2次元画像とそのクラス分類とを紐付けした教師データを複数用意し、教師データを正しく予測できるよう学習処理を行う。すなわち、ニューラルネットのニューロン同士のつながりの強さである“重み”や、畳込みフィルタ等を最適化することで、セルの2次元画像からクラス分類することが可能なモデルを構築する。なお、教師データにおけるセル画像のクラス分類は手動で行う。教師データとして必要なデータ数は、クラスの数やセル画像の複雑さにもよるため一概に言うことは難しいが、データ数が多いほど好ましく、クラス毎に50データ以上あると分類精度が高くなり、クラス毎に100データ以上であると分類精度がより高くなる。
【0045】
S102は高さ位置算出手段であり、複数のX線検出画像に検出された同一点の高さを測定する。この高さ位置算出の原理に対する理解を深めるため、
図4および
図5を用いて詳しく説明する。
図4は、複数の経路でX線を照射した場合の欠点と非欠点部分のX線検出手段における検出位置の違いを説明するための模式図である。説明を簡便にするため、高圧タンク用部材2はX線放射手段1側の接合断面部のみを表示している。高圧タンク用部材2の接合部に接合部の空隙欠点6が存在し、バリ部分にバリ内の空隙7が存在し、さらに高圧タンク用部材2の表面に基準マーカ8が存在する場合、X線検出器3には、X線放射手段1aから放射されたX線によっては、接合部の空隙欠点6はX線検出器3上のXa1の座標位置に、バリ内の空隙7はXa2の座標位置に、基準マーカ8はXa3の座標位置に撮像され、
図5に示すX線検出画像10aのような画像として検出される。X線放射手段1bから放射されたX線によっては、接合部の空隙欠点6はX線検出器3上のXb1の座標位置に、バリ内の空隙7はXb2の座標位置に、基準マーカ8はXb3の座標位置に撮像され、
図5に示すX線検出画像10bのような画像として検出される。このとき、接合部の空隙欠点6の高さ位置Hd0は、X線放射手段1aおよびX線放射手段1bからX線検出器3までの距離をf、X線放射手段1aとX線放射手段1bとの間隔をwとすると、式1として算出される。
(式1)Hd0=f×w/(|Xa1-Xb1|)
また、バリ内の空隙7の高さ位置Hf0は、式2として算出される。
(式2)Hf0=f×w/(|Xa2-Xb2|)
それぞれの高さ位置HdおよびHfは、X線放射手段からの距離を示す値であるので、基準マーカ8の高さ位置に対してどの程度の高低差があるのかを高さ位置情報として有する必要があるため、基準マーカ8の高さ位置Hm0を、式3として算出する。
(式3)Hm0=f×w/(|Xa3-Xb3|)
これにより、欠点である接合部の空隙欠点6の高圧タンク用部材表面からの高さ位置Hd1は式4で求められる。
(式4)Hd1=Hd0-Hm0
同じように、欠点ではないバリ内の空隙7の高圧タンク用部材表面からの高さ位置Hf1は式5で求められる。
(式5)Hf1=Hf0-Hm0
この高さ位置算出処理を逐次的に実行するため、本発明の実施形態においては学習済みのニューラルネットワーク(b)を用いて処理を実行する。
【0046】
ニューラルネットワーク(b)を用いた高さ位置算出について、その方法の一例を詳細に述べる。前記の欠点候補検出手段を用いて、“欠点候補有り”とクラス分類されたX線検出画像のセルにおいて、高さ位置算出を実行する。X線検出画像10a、10b、10c、10dのそれぞれセル12a、12b、12c、12dを例にして高さ位置算出方法を説明する。
図8に示すようにセル12a、12b、12c、12dの4つの画像を並べて1つの画像(
図9に示す2次元画像15)を合成する。合成した1つの2次元画像データ15を説明変数として2次元の畳込みニューラルネットワークで構成したディープラーニングのモデルに入力し、欠点候補の高さ位置を目的変数として回帰することにより高さ位置算出を行う。基準マーカ8の高さ位置についても、欠点候補の高さ位置算出方法と同様に、“基準マーカ有り”とクラス分類されたX線検出画像10a、10b、10c、10dのそれぞれセル13a、13b、13c、13dの4つの画像を並べて1つの画像を合成する。合成した1つの2次元画像データを説明変数として2次元の畳込みニューラルネットワークで構成したディープラーニングのモデルに入力し、基準マーカの高さ位置を目的変数として回帰する。
【0047】
また、高さ位置算出処理には、3次元の畳込みニューラルネットを用いてもよい。その場合、一例をあげると、
図10に示すようにセル12a、12b、12c、12dの4つの2次元画像を積み重ねて、積み重ねた方向に4つの格子点を有する、1つの3次元画像データを構成する。例えば、1つのセルが64×64ピクセルの2次元画像データである場合、4つの2次元画像を積み重ねることで、64×64×4ボクセルの3次元画像データが得られる。該3次元画像データを説明変数として、3次元の畳込みニューラルネットワークで構成したディープラーニングのモデルに入力し、欠点候補の高さ位置、または基準マーカ8の高さ位置を目的変数として回帰する。
【0048】
本ニューラルネットワークによる高さ位置算出アルゴリズムを実施するためには、事前学習が不可欠である。事前学習では、欠点候補のある前記4つのセル画像を並べて合成した1つの2次元画像(または、前記4つのセル画像を積み重ねて合成した1つの3次元画像)と、その高さ位置とを紐付けした教師データを複数用意し、教師データを正しく予測できるよう学習処理を行う。すなわち、ニューラルネットのニューロン同士のつながりの強さである“重み”や、畳込みフィルタ等を最適化することで、合成した2次元画像(または3次元画像)から高さ位置を算出することが可能なモデルを構築する。なお、教師データにおける高さ位置は手動で算出する。教師データとして必要なデータ数は、セル画像の複雑さにもよるため一概に言うことは難しいが、データ数が多いほど好ましく、200データ以上あると測定精度が高くなり、500データ以上であると測定精度がより高くなる。
【0049】
この手法によって算出された高さ情報に対して、基準マーカ8に対応する部位の高さをHm0として取得し、各欠点候補の高さからHm0を差分すると、基準マーカ8よりも高い位置、すなわち高圧タンク用部材2における基準マーカ8が存在する表面よりもX線検出手段3側にある高さ部位は正の値を持つ高さ情報が出力され、基準マーカ8よりも低い位置、すなわち高圧タンク用部材2における基準マーカ8が存在する表面よりもX線放射手段1側にある高さ部位は負の値を持つ高さ情報が出力される。
【0050】
S103は選別手段である。
【0051】
選別手段5は、欠点候補の高さ位置算出値の情報から欠点候補が欠点であるか否かを選別する。具体的には、あらかじめ定める高さ閾値として、高さ上限値と下限値を設定し、この閾値の範囲内となる高さ位置算出値を有する欠点候補を、接合部に発生した欠点と判断し、この閾値の範囲内となる高さ位置算出値を有する欠点候補を、接合部の上下に存在するバリ内に存在する空隙や不純物、もしくは誤検出であると判断する。閾値としては、高圧タンク用部材の接合部の肉厚設計値を元にした下限値と上限値が好適に用いられる。すなわち、閾値の下限値には、接合面に空隙や不純物が生じても設計上許容される深さ値が用いられ、閾値の下限値には、接合部の肉厚設計値から深さ値を差し引いた値が用いられる。本発明の実施の形態においては、誤検出領域9およびバリ内の空隙7はあらかじめ定める高さ上限値を下回るため、欠点と判定されず、接合部の空隙欠点6のみが高さ上限値と下限値の範囲内となったため、欠点として選別される。
【0052】
以上、本発明の一実施形態について、複数のX線放射経路を得るためにX線放射手段1を複数個備えた構成を例にして図面を参照して説明した。本発明は、たとえば次のような変形実施形態を採用することができる。
(1)複数のX線放射経路を得るため、X線放射手段1を、X線検出手段3におけるX線の検出のたびに移動させる構成。模式図を
図11に示す。
図11は、本発明の一実施形態において、X線放射手段を移動させる手段を設けた構成を説明するための模式図である。X線放射手段を移動させる手段は、移動方向がX線検出手段3に対して平行な方向で、かつ接合面に直行する向きとなる構成であることが好ましい。
(2)複数のX線放射経路を得るため、被検査物(模式図では高圧タンク用部材2)を、X線検出手段3における検出のたびに移動させる構成。模式図を
図12に示す。
図12は、本発明の一実施形態において、被検査物を移動させる手段を設けた構成を説明するための模式図である。被検査物を移動させる手段は、移動方向がX線検出手段3に対して平行な方向で、かつ到着面に直行する向きにとなる構成であることが好ましい。
【0053】
また、本発明の全ての実施形態は、例えば以下のいずれかのさらなる変形実施形態を組み合わせることもできる。
(1)X線放射手段を、被検査物の内部に挿入した構成。模式図を
図13に示す。X線放射手段が検査対象の被検査物の開口部に対して小さい場合、本構成を実現することができる。被検査物が高圧タンク用部材の場合、本構成では、放射されたX線は高圧タンク用部材の1層のみしか通過しないため、X線放射手段1を高圧タンク用部材2の外側に設置する場合に比べてノイズが少なく、高精度な検査を実現できる。
(2)X線検出手段を、被検査物の内部に挿入した構成。模式図を
図14に示す。X線検出手段が検査対象の被検査物の開口部に対して小さい場合、本構成を実現することができる。被検査物が高圧タンク用部材の場合、本構成においても、放射されたX線は高圧タンク用部材の1層のみしか通過しないため、X線検出手段3を高圧タンク用部材2の外側に設置する場合に比べてノイズが少なく、高精度な検査を実現できる。
【実施例】
【0054】
図12に模式図を示した変形例について、より具体的な実施形態を説明する。
図12において、X線放射手段1からX線検出器3までの距離が323mm、X線放射手段1から高圧タンク用部材2の上部(
図12の符号16で示す領域)の基準マーカ(
図15の17aまたは18a)までの距離が51mmとなるように検査装置および被検査物である高圧タンク用部材を配置した。
図15は、
図12において、符号16で示す領域を拡大して示した模式図である。接合部における符号20および符号22の領域はバリであり、空隙があっても品質に問題はない。符号21の領域は空隙が存在してはならない接合部である。バリ内の空隙は欠点とは判定せず、接合部の空隙欠点のみを欠点として選別する。本実施例においては符号21の領域の厚みを2mmに設計したため、検出された欠点候補がX線放射手段1から51mm以上53mm以下の高さ位置に存在する場合に、欠点として選別する。
【0055】
前記記載の基準マーカの素材はステンレスであり、X線撮像前に予め、接合部近くに形成した。基準マーカの膜厚は、ミリメートルオーダーに対しては無視できる程度に十分薄くした。基準マーカ17aと基準マーカ18aとの中間に接合部が配置されるように基準マーカを位置決めした。また、
図16に示すように、基準マーカは接合部の長手方向に沿って5mm間隔で複数配置した。なお、
図16は接合部をX線放射手段1側から見た上面図である。X線検出手段3はセル方式シンチレータを具備するFPDを用いた。FPDの画素ピッチは縦方向および横方向にそれぞれ127μm間隔で、画素数は1920×1536である。
【0056】
高圧タンク用部材を
図15の2aに示す位置から2bに示す位置まで3mm刻みで3度移動させ、2aの初期位置、および、3度の移動の度にFPDで撮像を行い、4つのX線検出画像を得た。2aの位置において、得られたX線検出画像の模式図を
図17に示す。次に、
図18に示すように、基準マーカ17a1と18a1、17a2と18a2、17a3と18a3、17a4と18a4、17a5と18a5、17a6と18a6、17a7と18a7のそれぞれ中点を通るように、80×80ピクセルのセルを24個一列に並べた(符号19a)。なお、セルの中心点の
図18における横方向の座標が、基準マーカ間の中点の横方向の座標と一致するようにセルを配置する。このようにして、高圧タンク用部材を2aに配置したX線撮像により、24個のセル画像を得た。他の3つの移動位置におけるX線検出画像においても、同様の方法で基準マーカの中間に配置したセルにより、24個のセル画像を得た。4つのX線検出画像において、基準マーカからの相対位置が同じである各セルを
図19の24a~24dに示す配置で画像合成し、160×160ピクセルの合成画像を計24個作成した。高圧タンク用部材の別の接合箇所についても、前記と同様の手順によりX線撮像を行い、
図19と同様の合成画像を作成した。複数の接合箇所のX線撮像により、計2880個の合成画像を得た。なお、本実施例においては、X線検出画像を基準マーカ位置でオフセットし、欠点候補が存在する可能性があるエリアを基準マーカ間の80ピクセル幅に限定しているが、発明を実施するための形態で述べたようにオフセットやエリア限定を行わなくてもよい。
【0057】
合成画像2880個を目視検査すると、欠点候補の存在する合成画像は172個であった。この172個を“欠点候補有り”というクラスに分類した。残りの合成画像の中から無作為に172個を選択し、“欠点候補無し”というクラスに分類した。“欠点候補有り”と分類された合成画像の例を
図19に示す。
図19の24aに示す初期位置の欠点候補位置から、24dに示す3度の移動後の欠点候補位置までの画像におけるシフト量α(単位:ピクセル)を“欠点候補有り”に分類された172個の合成画像について、目視で計測した。なお、欠点候補が基準マーカよりX線検出手段3側に存在する場合は欠点候補が
図19の24a~24dに示したようにセル内を移動する。欠点候補の
図19のシフト方向を正に定義する。欠点候補が基準マーカよりX線放射手段1側に存在する場合には、欠点候補のシフト量は負の値に観測される。
【0058】
αピクセルのシフト量を高さ位置Hに換算する方法を説明する。高圧タンク用部材を
図15の2aに示す位置から2bに示す位置まで9mm移動させた際、X線検出器3において撮像される基準マーカの座標は変化し、その移動距離は式3を変形して以下の式6として算出される。X線放射手段1からX線検出器3までの距離f=323mm、
図4におけるX線放射手段1aとX線放射手段1bとの間隔wは、被検査物の移動距離に相当し、w=9mm、基準マーカ8の高さ位置Hm0=51mmを入力すると、基準マーカのX線検出器における移動距離は57mmである。
(式6)|Xa3-Xb3|=f×w/Hm0=323×9/51=57mm
本実施例においては基準マーカ位置でオフセットした上でセル画像を切り出しており、セル画像から観察される欠点候補のシフト量がαピクセルの場合、オフセットする前の元のX線検出画像における欠点候補の移動距離ΔXは、式7として算出される。
(式7)ΔX=|Xa3-Xb3|-0.127α(mm)=57-0.127α(mm)
従って、欠点候補の高さ位置H(mm)は、式8で算出される。
(式8)H=f×w/ΔX=(323×9)/(57-0.127α)
Hが51mm以上53mm以下の場合に、欠点として選別する。
【0059】
“欠点候補無し”に分類された172個の合成画像と、“欠点候補有り”に分類された172個の合成画像との、合計344個の合成画像から、比率80%に相当する275個の画像を無作為に選択し、“欠点候補無し”か“欠点候補有り”かをクラス分類する教師データとして2次元畳込みニューラルネットワーク(a)に学習させた。ニューラルネットワーク(a)はGoogle社が開発しオープンソースで公開しているTensorFlowを利用し、TensorFlow上で動くオープンソースニューラルネットワークライブラリであるKerasを用い、webページ(https://github.com/keras-team/keras/blob/master/examples/cifar10_cnn.py)に記載のサンプルコードをもとに発展させたコードで実装した。残りの比率20%に相当する69個の画像を検証データとして、学習済みの前記2次元畳込みニューラルネットワーク(a)に入力し、“欠点候補無し”か“欠点候補有り”かクラス分類したところ、分類の正答率は93%であった。教師データの数を増やせば、予測精度がさらに高まることが期待できる。なお、本実施例においては、4つのセル画像を合成した合成画像を入力データとしたが、例えば、2a位置におけるセル画像だけを用いてクラス分類するニューラルネットを構成することも可能である。
【0060】
次に、“欠点候補有り”に分類された172個の合成画像と、その欠点候補の高さ位置データとを用意し、80%に相当する137個の画像を無作為に選択し、それぞれの欠点候補の高さ位置を回帰するよう2次元畳込みニューラルネットワーク(b)に学習させた。ニューラルネットワーク(b)はニューラルネットワーク(a)と同様に、前記webページに記載のサンプルコードをもとに発展させたコードで実装した。なお、サンプルコードは分類問題用であるが、欠点候補の高さ位置を回帰する回帰問題であるため、出力層ででは活性化関数をソフトマックス関数から線形関数に変更した。学習後、残り20%に相当する35個の画像を検証データとして欠点候補の高さ位置を予測させた。予め目視で計測した欠点候補高さ位置と、ニューラルネットワークによる欠点候補高さ位置の予測値とを、それぞれ、横軸および縦軸にプロットして
図20に示す。実測値と予測値の相関の強さを表す決定係数R
2を式9で算出するとR
2=0.59であった。なお、式9において検証データのサンプル数nは35である。
(式9)
【0061】
【0062】
検証データの35個の欠点候補の中で、目視検査による高さ位置測定から欠点と選別されたデータは10個であり、欠点でないと選別されたデータは25個であった。ニューラルネットの予測値を用いて欠点か否かを選別した場合、欠点であるデータの分類正答率は80%、欠点でないデータの分類正答率も80%であった。本実施例においては、高さ位置算出のための教師データが137個であるが、教師データの数を増やせば、予測精度がさらに高まることが期待できる。
【0063】
次に、“欠点候補有り”に分類された172個の2次元合成画像をそれぞれ合成前の4枚に再度分割した上で、4枚の2次元画像を積み重ねて、積み重ねた方向に4つの格子点を有する、1つの3次元画像データを構成する。以下では図を用いてより具体的に説明する。
図19では4つのX線検出画像において、基準マーカからの相対位置が同じである各セル画像24a~24d(それぞれ80×80ピクセル)を隣接して平面に並べて、1つの160×160ピクセルの2次元合成画像を作成したが、
図21に示すように各セル画像24a~24dを積み重ねて、積み重ねた方向に4つの格子点を有する、80×80×4ボクセルの1つの3次元画像データを構成する。以上のようにして、“欠点候補有り”に分類される172個の3次元合成画像データと、その欠点候補の高さ位置データとを用意し、80%に相当する137個の画像を無作為に選択し、それぞれの欠点候補の高さ位置を回帰するよう3次元畳込みニューラルネットワーク(b)に学習させた。3次元畳込みニューラルネットワーク(b)は2次元畳込みニューラルネットワーク(b)と同様に、前記webページに記載のサンプルコードをもとに発展させたコードで実装した。なお、サンプルコードは2次元畳込みニューラルネット用であるため、畳込みフィルタやプーリング層等を3次元に変更した。学習後、残り20%に相当する35個の画像を検証データとして欠点候補の高さ位置を予測させた。予め目視で計測した欠点候補高さ位置と、ニューラルネットワークによる欠点候補高さ位置の予測値とを、それぞれ、横軸および縦軸にプロットして
図22に示す。実測値と予測値の相関の強さを表す決定係数R
2を式9で算出するとR
2=0.50であった。なお、式9において検証データのサンプル数nは35である。
【0064】
検証データの35個の欠点候補の中で、目視検査による高さ位置測定から欠点と選別されたデータは10個であり、欠点でないと選別されたデータは25個であった。ニューラルネットの予測値を用いて欠点か否かを選別した場合、欠点であるデータの分類正答率は80%、欠点でないデータの分類正答率は72%であった。本実施例においては、高さ位置算出のための教師データが137個であるが、教師データの数を増やせば、予測精度がさらに高まることが期待できる。
【符号の説明】
【0065】
1 X線放射手段
1a X線放射手段
1b X線放射手段
1c X線放射手段
1d X線放射手段
2 高圧タンク用部材
3 X線検出手段
4 画像処理手段
5 選別手段
6 接合部の空隙欠点
7 バリ内の空隙
8 基準マーカ
9 誤検出領域
10a X線放射手段aによるX線検出画像a
10b X線放射手段bによるX線検出画像b
10c X線放射手段cによるX線検出画像c
10d X線放射手段dによるX線検出画像d
11a X線検出画像aのセル11
11b X線検出画像bのセル11
11c X線検出画像cのセル11
11d X線検出画像dのセル11
12a X線検出画像aのセル12
12b X線検出画像bのセル12
12c X線検出画像cのセル12
12d X線検出画像dのセル12
13a X線検出画像aのセル13
13b X線検出画像bのセル13
13c X線検出画像cのセル13
13d X線検出画像dのセル13
14a X線検出画像aのセル14
14b X線検出画像bのセル14
14c X線検出画像cのセル14
14d X線検出画像dのセル14
15 合成2次元画像
16 検査箇所
17a 基準マーカ
17b 基準マーカ
18a 基準マーカ
18b 基準マーカ
17a1 基準マーカ
17a2 基準マーカ
17a3 基準マーカ
17a4 基準マーカ
17a5 基準マーカ
17a6 基準マーカ
17a7 基準マーカ
18a1 基準マーカ
18a2 基準マーカ
18a3 基準マーカ
18a4 基準マーカ
18a5 基準マーカ
18a6 基準マーカ
18a7 基準マーカ
19a セル
20 バリ領域
21 接合部領域
22 バリ領域
23 接合部
24a 被検査物の初期位置でのX線検出画像から切り出したセル画像
24b 被検査物を3mm移動させた位置でのX線検出画像から切り出したセル画像
24c 被検査物を6mm移動させた位置でのX線検出画像から切り出したセル画像
24d 被検査物を9mm移動させた位置でのX線検出画像から切り出したセル画像