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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 39/06 20060101AFI20230726BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20230726BHJP
   B01F 23/60 20220101ALI20230726BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230726BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230726BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20230726BHJP
【FI】
C08L39/06 ZNM
C08L27/18
C08K3/04
C08K3/34
C08K7/00
B01F23/60
B32B27/20 Z
B32B27/30 Z
C09K23/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020546727
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2019027852
(87)【国際公開番号】W WO2020054210
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2018172490
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠希
(72)【発明者】
【氏名】下岡 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】桑嶋 佳子
(72)【発明者】
【氏名】日高 知哉
(72)【発明者】
【氏名】山崎 穣輝
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/017759(WO,A1)
【文献】特開2004-349240(JP,A)
【文献】特開昭61-284761(JP,A)
【文献】国際公開第2016/204142(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B01F 23/00- 23/80
B32B 27/00- 27/42
H01B 1/00- 1/24
H01B 5/00- 5/16
C09K 23/00- 23/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラー、フルオロモノマーとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体、及び、溶媒を含み、
前記無機フィラーは、カーボンフィラー及びセラミックフィラーからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記フルオロモノマーは、テトラフルオロエチレンであり、
前記アミド結合を有する重合性ビニル化合物は、N-ビニルラクタム化合物であり、
前記共重合体は、全単量体単位に対して、フルオロモノマー単位が55~36モル%、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が45~64モル%、他の単量体単位が0~5モル%である共重合体であり、
前記共重合体の重量平均分子量が30000~300000であり、
前記無機フィラーと前記共重合体との質量比(無機フィラー/共重合体)が、0.1~1.0である組成物。
【請求項2】
前記無機フィラーは、カーボンフィラーである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーは、繊維状カーボンである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記無機フィラーは、カーボンナノチューブである請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
基材と、前記基材上に形成された、請求項1~4のいずれかに記載の組成物から形成される塗膜とを備える積層体。
【請求項6】
請求項5記載の積層体を備える導電性部材。
【請求項7】
無機フィラーを溶媒に分散させるための分散剤であって、フルオロモノマーとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体からなり、
前記無機フィラーは、カーボンフィラー及びセラミックフィラーからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記フルオロモノマーは、テトラフルオロエチレンであり、
前記アミド結合を有する重合性ビニル化合物は、N-ビニルラクタム化合物であり、
前記共重合体は、全単量体単位に対して、フルオロモノマー単位が55~36モル%、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が45~64モル%、他の単量体単位が0~5モル%である共重合体であり、
前記共重合体の重量平均分子量が30000~300000であり、
前記無機フィラーと前記共重合体との質量比(無機フィラー/共重合体)が0.1~1.0となる割合で使用される分散剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
インク、ゴム、導電性フィルム、電気化学デバイス(電池等)等の、無機フィラーを用いる分野では、無機フィラーを分散媒に均一に分散させるために、分散剤が一般的に使用されている。
【0003】
例えば、リチウムイオン電池等の二次電池分野では、正極用導電助剤として使用されるカーボンフィラー(アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等)を分散させるための分散剤として、ポリビニルピロリドン(PVP)が広く用いられている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0004】
また、分散剤以外の分野では、親水化剤、水生生物付着防止材料、生体適合性材料等として、テトラフルオロエチレンとN-ビニルピロリドンとの共重合体を用いることが提案されている(例えば、特許文献4~6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-162877号
【文献】特開2017-54649号
【文献】特開2016-25077号
【文献】国際公開第2016/133206号
【文献】国際公開第2016/204142号
【文献】国際公開第2016/204217号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、無機フィラーの分散性、及び、耐酸化性に優れた組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、無機フィラー、フルオロモノマーとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体、及び、溶媒を含むことを特徴とする組成物に関する。
【0008】
上記無機フィラーと上記共重合体との質量比(無機フィラー/共重合体)が、0.1~100であることが好ましい。
【0009】
上記共重合体は、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種のフルオロモノマーとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体であって、全単量体単位に対して、フルオロモノマー単位が65~7モル%であり、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が35~93モル%であることが好ましい。
【0010】
上記無機フィラーは、カーボンフィラーであることが好ましい。
【0011】
上記無機フィラーは、繊維状カーボンであることも好ましい。
【0012】
上記無機フィラーは、カーボンナノチューブであることも好ましい。
【0013】
本開示は、基材と、上記基材上に形成された、上記組成物から形成される塗膜とを備える積層体にも関する。
【0014】
本開示は、上記積層体を備える導電性部材にも関する。
【0015】
本開示は、無機フィラーを溶媒に分散させるための分散剤であって、フルオロモノマーとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体からなることを特徴とする分散剤にも関する。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、無機フィラーの分散性、及び、耐酸化性に優れた組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示を具体的に説明する。
本開示は、無機フィラー、フルオロモノマーとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体、及び、溶媒を含むことを特徴とする組成物に関する。
本開示の組成物は、上記共重合体を含むので、ポリビニルピロリドン(PVP)等を使用する場合と比較して、無機フィラーの分散性(溶媒に対する無機フィラーの分散性)、及び、耐酸化性に優れる。
本開示の組成物は、また、上記共重合体が比較的少量であっても、無機フィラーの分散性、及び、耐酸化性に優れる。
本開示の組成物は、また、長時間(例えば、調製後7日以上)経過しても、無機フィラーの分散性に優れる。
本開示の組成物は、また、粘度変化が小さい。
【0018】
上記無機フィラーとしては、カーボンフィラー、セラミックフィラー、金属フィラー等が挙げられる。
【0019】
上記カーボンフィラーとしては、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャネルブラック等)、繊維状カーボン(カーボン繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノブラシ等)、シート状カーボン(グラフェン等)、球状カーボン(フラーレン等)、ナノポーラスカーボン、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)等が挙げられる。
なかでも、繊維状カーボンが好ましく、カーボンナノチューブ(CNT)がより好ましい。
【0020】
上記カーボンブラックは、平均粒子径が0.1nm~100μmであることが好ましく、1nm~50μmであることがより好ましい。
上記平均粒子径は、粒度分布計や電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0021】
上記繊維状カーボンは、平均繊維径が0.1nm~500nmであることが好ましく、1~200nmであることがより好ましい。
上記繊維状カーボンは、また、平均繊維長/平均繊維径の比率が1~5000であることが好ましく、1~500であることがより好ましい。
上記平均繊維径及び平均繊維長は、粒度分布計や電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0022】
上記シート状カーボンは、単層又は、いくつかのシートが積層した多層であってもよく、多層である場合は50層以下が好ましく、10層以下がより好ましい。
上記積層数は、ラマン分光法により測定することができる。
上記シート状カーボンは、一層の平均厚みが0.1~1nmであることが好ましく、0.2~0.4nmであることがより好ましい。
上記シート状カーボンは、シートを広げたときの最長部分の平均長さが0.1nm~1000μmであることが好ましく、1nm~100μmであることがより好ましい。
上記平均長さは、電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0023】
上記球状カーボンは、平均粒子径が0.1nm~100μmであることが好ましく、0.1nm~1μmであることがより好ましい。
上記平均粒子径は、粒度分布計や電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0024】
上記セラミックフィラーとしては、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、ケイ素、アルミニウム、ベリリウム等の無機窒化物類、炭化物類、ホウ化物類、酸化物類等の粒子が挙げられ、具体的には、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、ベリリア、窒化ジルコニウム、ホウ化ジルコニウム、窒化チタン、酸化チタン、酸化シリコン、炭化タンタル、炭化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化ケイ素、ホウ化アルミニウム、ホウ化チタン等の粒子が挙げられる。
なかでも、アルミナ、酸化チタン、酸化シリコンが好ましい。
【0025】
上記セラミックフィラーは、平均粒子径が0.01nm~100μmであることが好ましく、0.1nm~10μmであることがより好ましい。
上記平均粒子径は、粒度分布計や電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0026】
上記金属フィラーとしては、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、スズ、アルミニウム等の金属粒子が挙げられる。
なかでも、金、銀、銅が好ましい。
【0027】
上記金属フィラーは、平均粒子径が0.01nm~100μmであることが好ましく、0.1nm~1μmであることがより好ましい。
上記平均粒子径は、粒度分布計や電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0028】
上記無機フィラーとしては、導電性無機フィラーが好ましく、カーボンフィラー、金属フィラーがより好ましく、カーボンフィラーが更に好ましい。
【0029】
上記共重合体は、フルオロモノマー単位及びアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位を含む共重合体であり、本明細書において、フルオロモノマー/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体と記載することがある。
本開示の組成物において、上記共重合体は、上記無機フィラーを上記溶媒に分散させる分散剤として機能するものであってよい。
【0030】
上記フルオロモノマー/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体としては、分散性及び耐酸化性が一層向上することから、全単量体単位に対して、フルオロモノマー単位が99.9~0.1モル%、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が0.1~99.9モル%であるものが好ましい。また、フルオロモノマー単位が65~7モル%、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が35~93モル%であることがより好ましい。また、フルオロモノマー単位が55~15モル%、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が45~85モル%であることが更に好ましい。また、フルオロモノマー単位が45~20モル%、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が55~80モル%であることが特に好ましい。
【0031】
アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が99.9モル%を超えると、耐酸化性が悪化するおそれがある。また、アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位が0.1モル%未満であると、界面活性能が低下し、分散性が悪化するおそれがある。
【0032】
また特にフルオロモノマー単位とアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位とのモル比(フルオロモノマー単位/アミド結合を有する重合性ビニル化合物単位)が0.07~1.50の範囲であるものが好ましく、0.25~1.25の範囲であるものがより好ましい。更に好ましくは、0.25~0.82の範囲である。モル比が小さすぎると、耐酸化性が悪化するおそれがあり、モル比が大きすぎると、分散性が悪化するおそれがある。
【0033】
上記フルオロモノマーとしては、(1)sp混成炭素原子に結合したフッ素原子を有するオレフィン、(2)一般式:CH=CX-COORf(式中、XはCl、H又はアルキル基、Rfはフルオロアルキル基)で表されるモノマー、(3)一般式:CH=CH-Rf(式中、Rfはフルオロアルキル基)で表されるモノマー、(4)一般式:CH=CH-ORf(式中、Rfはフルオロアルキル基)で表されるモノマー等が挙げられる。
上記アルキル基としては、炭素数1~3のアルキル基が挙げられ、メチル基が好ましい。
上記フルオロアルキル基としては、炭素数1~12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基が好ましい。
上記フルオロモノマーとしては、ポリマー主鎖を構成する炭素原子に結合したフッ素原子を上記共重合体に導入でき、それによって上記共重合体の耐酸化性が向上することから、(1)が好ましく、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、モノフルオロエチレン、トリフルオロスチレン、及び、一般式:CH=CFRf(式中、Rfは炭素数1~12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基)で表されるフルオロモノマーからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、及び、トリフルオロスチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
また、上記フルオロモノマーとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、モノフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテル、フルオロアルキルエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、トリフルオロスチレン、及び、一般式:CH=CFRf(式中、Rfは炭素数1~12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基)で表されるフルオロモノマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、TFE、CTFE、フッ化ビニリデン及びHFPからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、TFE及びフッ化ビニリデンからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
また、分散性及び耐酸化性が一層向上する点で、上記フルオロモノマーは、フッ化エチレン(1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されたエチレン)及びフッ化プロピレン(1つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されたプロピレン)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0034】
上記重合性ビニル化合物は、アミド結合を有しており、アミド結合に加えて重合性ビニル基を有している。上記アミド結合は、カルボニル基と窒素原子の間の結合をいう。
上記重合性ビニル基としては、ビニル基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、アクリル基等が挙げられる。
【0035】
上記アミド結合を有する重合性ビニル化合物としては、N-ビニル-β-プロピオラクタム、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-γ-バレロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-ヘプトラクタム等のN-ビニルラクタム化合物、N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド等の非環状のN-ビニルアミド化合物、N-アリル-N-メチルホルムアミド、アリル尿素等の非環状のN-アリルアミド化合物、1-(2-プロペニル)-2-ピロリドン等のN-アリルラクタム化合物、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド化合物が挙げられる。
【0036】
上記アミド結合を有する重合性ビニル化合物としては、また、
【化1】
(式中、R及びRは独立にH又は炭素数1~10のアルキル基)で示される化合物、
【化2】
(式中、R及びRは独立にH又は炭素数1~10のアルキル基)で示される化合物等も挙げられる。
【0037】
なかでも、N-ビニルラクタム化合物又は非環状のN-ビニルアミド化合物が好ましく、N-ビニル-β-プロピオラクタム、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-γ-バレロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドン、及び、N-ビニル-ヘプトラクタムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、N-ビニル-2-ピロリドン、及び、N-ビニル-2-ピペリドンからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、N-ビニル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0038】
上記フルオロモノマー/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体は、本開示の組成物の効果を損なわない範囲で、フルオロモノマー単位及びアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位以外の他の単量体単位を有していてもよい。他の単量体単位としては、ビニルエステルモノマー単位、ビニルエーテルモノマー単位、ポリエチレングリコールを側鎖に有する(メタ)アクリルモノマー単位、ポリエチレングリコールを側鎖に有するビニルモノマー単位、長鎖炭化水素基を有する(メタ)アクリルモノマー単位、長鎖炭化水素基を有するビニルモノマー単位等が挙げられる。他の単量体単位の合計は、0~50モル%であってよく、0~40モル%であってよく、0~30モル%であってよく、0~15モル%であってよく、0~5モル%であってよい。
【0039】
上記フルオロモノマー/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体は、実質的にフルオロモノマー単位及びアミド結合を有する重合性ビニル化合物単位のみからなることが好ましい。
【0040】
上記フルオロモノマー/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体は、重量平均分子量が10000以上であることが好ましく、15000以上がより好ましく、20000以上が更に好ましく、30000以上が特に好ましい。より好ましくは、15000~500000であり、更に好ましくは、20000~300000、特に好ましくは30000~300000である。上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0041】
本開示の組成物において、上記無機フィラーと上記共重合体との質量比(無機フィラー/共重合体)は、0.1~100であることが好ましい。上記質量比は0.2以上であることがより好ましく、0.4以上であることが更に好ましく、また、50以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましく、5以下であることが特に好ましい。
本開示の組成物は、上記共重合体が比較的少量(上記質量比が比較的大きい)であっても、無機フィラーの分散性、及び、耐酸化性に優れる。
【0042】
本開示の組成物は、更に、溶媒を含む。上記溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられるが、有機溶媒が好ましい。
【0043】
上記有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒;キシレン、トルエン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素系溶媒;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素系溶媒;それらの混合溶剤等が挙げられる。
【0044】
上記溶媒の量は、上記無機フィラー100質量部に対し、10万~1000万質量部であることが好ましく、50万~500万質量部であることがより好ましい。
【0045】
本開示の組成物は、上記無機フィラーが上記溶媒に分散した分散液であることが好ましい。本開示の組成物は上記共重合体を含むので、上記無機フィラーが上記溶媒に極めて良好に分散する。
本開示の組成物は、塗料組成物であってもよい。
【0046】
本開示の組成物は、用途等に応じて、その他の成分を更に含んでもよい。上記その他の成分としては、フッ素系ポリマー(但し、上記フルオロモノマー/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体を除く)、非フッ素系ポリマー、有機フィラー、電極活物質等の電極材料、インク顔料等が挙げられる。
【0047】
上記フッ素系ポリマーは、フッ素含有エチレン性単量体を重合してなるものであり、フッ素含有エチレン性単量体とフッ素非含有エチレン性単量体とを重合してなるものであってもよい。フッ素含有エチレン性単量体とフッ素非含有エチレン性単量体は、それぞれ1種又は2種以上を使用してもよい。
【0048】
上記フッ素含有エチレン性単量体としては、例えば、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、トリクロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234yf)、下記一般式(i):
CX =CX(CF (i)
(式中、X、X及びXは、同一又は異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、nは、1~10の整数を表す。)で表されるフルオロオレフィン、下記一般式(ii):
CF=CF-ORf (ii)
(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0049】
上記フッ素非含有エチレン性単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、塩化ビニル、下記一般式(iii):
【化3】
(式中、R11~R13は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、X11は、主鎖が原子数1~19で構成される分子量472以下の原子団である。)で表される単量体(iii)等が挙げられる。
上記単量体(iii)としては、下記式(iii-1):
【化4】
(式中、R11~R13は、上述したとおりであり、X111は、主鎖が原子数1~18で構成される分子量456以下の原子団である。)で表される単量体(iii-1)が好ましい。
【0050】
上記フッ素系ポリマーとしては、フッ化ビニリデンホモポリマー、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとを含む共重合体、フッ化ビニリデンと単量体(iii)とを含む共重合体、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンと単量体(iii)とを含む共重合体、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとを含む共重合体、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンと単量体(iii)とを含む共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと単量体(iii)とを含む共重合体等が好ましい。
【0051】
本開示の組成物は、リチウムイオン電池等の二次電池の電極形成用組成物として好適に使用することができる。
二次電池の電極には導電剤が含まれるが、導電剤の分散性が悪いと、電極全体に導電性が付与されず性能が悪化する。また、導電剤を増量してこの問題に対処しようとすると、エネルギー密度が低下するおそれがある。
本開示の組成物は、上記無機フィラーが導電剤(カーボンフィラー等の導電性無機フィラー)である場合も、その分散性に優れる。また、上記共重合体が比較的少量であっても優れた分散性を発揮することができる。その結果、二次電池の性能を向上させることができる。
また、従来電池分野で分散剤として一般に使用されているPVPは、耐酸化性が低く、4.45V以上の高電圧で分解し、ガス発生や抵抗増加の原因となるおそれがある。
本開示の組成物は、耐酸化性に優れるので、高電圧の二次電池にも適用できる。
また、本開示の組成物は、分散剤としてPVPを使用した場合と比較して、電極合剤スラリーとした場合の粘度変化が小さい。
【0052】
本開示の組成物を二次電池の電極形成用組成物として使用する場合は、上記導電性無機フィラー、上記共重合体及び上記溶媒を含むことが好ましく、更に、電極活物質、結着剤、増粘剤等を含んでもよい。上記結着剤としては、例えば、上述したフッ素系ポリマー(但し、上記フルオロモノマー/アミド結合を有する重合性ビニル化合物共重合体を除く)が挙げられる。
本開示の組成物は、二次電池の正極形成用組成物として特に好適に使用することができる。
【0053】
本開示は、基材と、上記基材上に形成された、上述した本開示の組成物から形成される塗膜とを備える積層体にも関する。
【0054】
上記基材の材料としては、金属、セラミック、樹脂、ガラス等が挙げられる。
【0055】
上記金属としては、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等が挙げられる。上記セラミックとしては、陶器、磁器、アルミナ材、ジルコニア材、酸化ケイ素材等が挙げられる。上記樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、フルオロシリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等が挙げられる。
【0056】
上記基材は、二次電池用の集電体であってもよい。上記集電体(正極集電体及び負極集電体)としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等が挙げられる。中でも、正極集電体としては、アルミ箔等が好ましく、負極集電体としては銅箔等が好ましい。
【0057】
本開示の積層体は、本開示の組成物を上記基材に塗布し、必要に応じて乾燥、硬化、プレス等を行うことにより製造できる。
上記組成物から形成される塗膜は、上記基材上に直接形成されてもよく、他の層を介して形成されてもよい。
【0058】
上記組成物から形成される塗膜の厚みは、用途にもよるが、例えば、1~1000μmであってよい。
【0059】
本開示の積層体は、導電性部材として好適に使用できる。この場合、上記無機フィラーは導電性無機フィラーであることが好ましい。
本開示の積層体を備える導電性部材も、本開示の1つである。上記導電性部材は、例えば、二次電池の電極であることが好ましい。
【0060】
本開示は、無機フィラーを溶媒に分散させるための分散剤であって、フルオロモノマーとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体からなることを特徴とする分散剤にも関する。
本開示の分散剤は、上記共重合体からなるので、ポリビニルピロリドン(PVP)等からなる分散剤と比較して、無機フィラーの分散性(溶媒に対する無機フィラーの分散性)、及び、耐酸化性に優れる。
本開示の分散剤は、また、使用量が比較的少量であっても、無機フィラーの分散性、及び、耐酸化性に優れる。
本開示の分散剤は、また、長時間(例えば、調製後7日以上)経過しても、無機フィラーの分散性に優れる組成物(無機フィラー分散液)を与えることができる。
本開示の分散剤は、また、粘度変化が小さい組成物(無機フィラー分散液)を与えることができる。
【0061】
本開示の分散剤における上記共重合体としては、本開示の組成物におけるフルオロモノマーとアミド結合を有する重合性ビニル化合物との共重合体と同様の共重合体を使用することができ、好ましい例も同様である。
本開示の分散剤は、上記共重合体のみからなるものであってよい。
【0062】
本開示の分散剤を適用する対象となる無機フィラー及び溶媒としては、本開示の組成物に使用可能な無機フィラー及び溶媒と同様のものが挙げられ、好ましい例も同様である。
【0063】
本開示の分散剤は、上記無機フィラーと上記共重合体との質量比(無機フィラー/共重合体)が0.1~100となる割合で使用することが好ましい。上記質量比は0.2以上であることがより好ましく、0.4以上であることが更に好ましく、また、50以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましく、5以下であることが特に好ましい。
本開示の分散剤は、使用量が比較的少量(上記質量比が比較的大きい)であっても、無機フィラーの分散性、及び、耐酸化性に優れる。
【0064】
本開示の分散剤は、上記無機フィラーを、上記無機フィラー100質量部に対し10万~1000万質量部の上記溶媒に分散させるための分散剤であることが好ましく、50万~500万質量部の上記溶媒に分散させるための分散剤であることがより好ましい。
【0065】
本開示の組成物、積層体及び分散剤は、無機フィラーの分散性や、耐酸化性が要求される種々の分野で好適に使用することができる。
例えば、インク、ゴム、導電性フィルム、電気化学デバイス(電池等)等に好適に使用することができる。なかでも、二次電池に使用することが好ましく、二次電池の電極に使用することがより好ましい。
【実施例
【0066】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
実施例及び比較例では、以下の成分を使用した。
SWCNT:単層CNT(CNTs2、SUSN社製)
アルミナ:平均粒径0.5μmのアルミナ粒子(市販品)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン(水溶性有機溶媒、東京化成社製)
PVP K30:重量平均分子量4.0×10のポリビニルピロリドン(東京化成社製)
分散剤1:重量平均分子量4.6×10、テトラフルオロエチレン単位48mol%、N-ビニル-2-ピロリドン単位52mol%の共重合体
分散剤2:重量平均分子量4.5×10、テトラフルオロエチレン単位36mol%、N-ビニル-2-ピロリドン単位64mol%の共重合体
添加剤1:PVdF(ポリフッ化ビニリデン)(#7200、クレハ製)
【0068】
<分散液の調製>
実施例1
SWCNT(10mg)と分散剤1(100mg)をNMP(100g)に加え、超音波(37kHz)で1時間処理してSWCNTの分散液1を調製した。
【0069】
実施例2
実施例1の分散剤1を100mgから50mgに変更して分散液2を調製した。
【0070】
実施例3
実施例1の分散剤1を100mgから20mgに変更して分散液3を調製した。
【0071】
実施例4
実施例1の分散剤1を100mgから10mgに変更して分散液4を調製した。
【0072】
実施例5
実施例3の分散剤1を分散剤2(20mg)に変更して分散液5を調製した。
【0073】
実施例6
実施例3の無機フィラーをアルミナ(10mg)に変更して分散液6を調製した。
【0074】
実施例7
実施例6の分散剤1を分散剤2(20mg)に変更して分散液7を調製した。
【0075】
実施例8
実施例3の分散液3に添加剤1(100mg)を追加して分散液8を調製した。
【0076】
実施例9
実施例5の分散液5に添加剤1(100mg)を追加して分散液9を調製した。
【0077】
比較例1
SWCNT(10mg)をNMP(100g)に加え、超音波(37kHz)で1時間処理してSWCNTの分散液10を調製した。
【0078】
比較例2
SWCNT(10mg)とPVP K30(100mg)をNMP(100g)に加え、超音波(37kHz)で1時間処理してSWCNTの分散液11を調製した。
【0079】
比較例3
比較例2のPVP K30を100mgから20mgに変更して分散液12を調製した。
【0080】
比較例4
比較例3の分散液12に添加剤1(100mg)追加して分散液13を調製した。
【0081】
<分散性評価>
分散液1~13を室温で5時間静置し、5mLスクリュー管に各サンプルを約2mL入れ、目視観察にて沈殿の有無を確認した。更に同分散液を静置して7日後の沈殿の有無を確認した。沈殿が見られたものを×、見られなかったものを○と評価した。
結果を表1に示す。
【0082】
<耐酸化性評価>
LSV(リニアスイープボルタンメトリー)法による測定を行い、耐酸化性を評価した。LSV測定は、1.0MのLiPFを電解質とし、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比3:7で混合した溶液を標準測定溶媒として用いた。標準測定溶媒にPVP K30、分散剤1、分散剤2をそれぞれ1.0重量%添加し、更にそれぞれの溶液にSWCNTを0.1質量%添加して3種の測定溶液を調製した。測定容器に予め調製した各測定溶液を入れ、作用極に白金電極、対極及び参照極にリチウム電極を浸したものをLSV測定用セルとし、OCV(Open Circuit Voltage)から掃引速度5mV/sで、酸化側に8V(vs.Li/Li)まで電位を掃引させ、反応開始電位を測定した。反応開始電位は、応答電流が5mA/cmとなった時点の電位として判断した。
結果を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】