(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置、外歯歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20230726BHJP
B24C 1/10 20060101ALI20230726BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
F16H1/32 A
B24C1/10 D
B24C11/00 Z
B24C1/10 G
(21)【出願番号】P 2019013541
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 瞬
(72)【発明者】
【氏名】為永 淳
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197608(JP,A)
【文献】特開2002-120116(JP,A)
【文献】特開2011-173236(JP,A)
【文献】特開2018-095209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
B24C 1/10
B24C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心体と、前記外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、を備えた偏心揺動型減速装置であって、
前記外歯歯車は、第1貫通孔と、当該第1貫通孔と周方向または径方向に隣接して設けられる第2貫通孔と、を有し、
前記第1貫通孔の内周面は、前記第2貫通孔と対向する部分を含む塑性加工が施された第1部分を有
し、
前記第1貫通孔の内周面は、塑性加工が施されていない第2部分を有することを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記第2貫通孔は、前記外歯歯車の中心に設けられ、前記偏心体が挿通される孔であり、前記第1貫通孔は、前記外歯歯車の中心からオフセットして設けられ、前記第2貫通孔と径方向に隣接する請求項
1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記第2貫通孔は、前記外歯歯車の中心からオフセットして設けられ前記偏心体が挿通される孔であり、前記第1貫通孔は、前記外歯歯車の中心からオフセットして設けられ、前記第2貫通孔と周方向に隣接する請求項
1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心体と、前記外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、を備えた偏心揺動型減速装置であって、
前記外歯歯車は、第1貫通孔と、当該第1貫通孔と周方向または径方向に隣接して設けられる第2貫通孔と、を有し、
前記第1貫通孔の内周面は、前記第2貫通孔と対向する部分を含む表面の圧縮残留応力が高い第1部分と、
表面の圧縮残留応力が前記第1部分の1/5
以下である第2部分と、を有することを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心体と、前記外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、を備えた偏心揺動型減速装置であって、
前記外歯歯車は、第1貫通孔と、当該第1貫通孔と周方向または径方向に隣接して設けられる第2貫通孔と、を有し、
前記第1貫通孔の内周面は、前記第2貫通孔と対向する部分を含む塑性加工が施された第1部分を有し、
前記第2貫通孔は、前記外歯歯車の中心に設けられ、前記偏心体が挿通される孔であり、前記第1貫通孔は、前記外歯歯車の中心からオフセットして設けられ、前記第2貫通孔と径方向に隣接し、
前記第1部分は、表面から60μmにおける圧縮残留応力が表面の圧縮残留応力より高いことを特徴とす
る偏心揺動型減速装置。
【請求項6】
偏心揺動型減速装置において、偏心体に揺動されて内歯歯車と内接噛合する外歯歯車の製造方法であって、
前記外歯歯車は、第1貫通孔と、当該第1貫通孔と周方向または径方向に隣接して設けられる第2貫通孔と、を有し、
第1貫通孔の内周面に塑性加工を施す塑性加工工程を含
み、
前記塑性加工工程は、第1貫通孔の第2貫通孔に対向する部分を含む第1部分に塑性加工を施し、残りの第2部分には塑性加工を施さないことを特徴とする外歯歯車の製造方法。
【請求項7】
前記塑性加工は、メディアを噴射するショットピーニングによる加工であり、
前記塑性加工工程は、外歯歯車を回転させて固定噴射ノズルからメディアを噴射することを特徴とする請求項
6に記載の外歯歯車の製造方法。
【請求項8】
前記塑性加工工程は、
外歯歯車に第1メディアを噴射する第1工程と、
第1メディアの噴射を受けた外歯歯車に第2メディアを噴射する第2工程と、
を含み、
前記第1メディアの大きさと前記第2メディアの大きさとは、互いに異なることを特徴とする請求項
6に記載の外歯歯車の製造方法。
【請求項9】
前記第1メディアは、前記第2メディアより大きいことを特徴とする請求項
8に記載の外歯歯車の製造方法。
【請求項10】
前記第2メディアは、前記第1メディアより硬いことを特徴とする請求項
8または9に記載の外歯歯車の製造方法。
【請求項11】
前記塑性加工工程は、複数枚の外歯歯車を重ねた状態でメディアを噴射することを特徴とする請求項
7から10のいずれかに記載の外歯歯車の製造方法。
【請求項12】
前記塑性加工工程は、同じ偏心揺動型減速装置に組み込まれる複数枚の外歯歯車を重ねた状態でメディアを噴射することを特徴とする請求項
11に記載の外歯歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置および外歯歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、特許文献1に、内歯歯車と、内歯歯車に内接噛合する外歯歯車とを備える動力伝達装置を開示した。特許文献1に記載の動力伝達装置は、入力軸の回転に応じて偏心回転する偏心体用軸受と、外歯歯車の自転成分を取り出す内ピンとを有している。外歯歯車には、偏心体用軸受が嵌合するための孔と、内ピンが嵌合するための孔とが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、外歯歯車を有する偏心揺動型減速装置の小型化について検討し、以下の認識を得た。
このような偏心揺動型減速装置を小型化するために外歯歯車の軸方向の肉厚を減らすことが考えられる。外歯歯車を薄くすると、偏心体用軸受や内ピンが接触する部分の面積が減少する。接触面積が減少すると、同じ荷重でも応力は増加し、その部分に応力割れが生じやすくなり、耐久性が低下するという問題がある。
【0005】
このような問題は、薄型化に限らず小径化によって外歯歯車の径方向の肉厚を減らすことによっても生じうる。また、減速装置のサイズは変えずに許容トルクを大きくした場合、換言すれば単位許容トルクあたりのサイズを小型化した場合にも同様のことが言える。つまり、偏心揺動型減速装置では小型化と耐久性とは二律背反の関係にある。
このことから、本発明者らは、特許文献1に記載の動力伝達装置には、小型化と耐久性とを両立させる観点で改善の余地があることを認識した。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたもので、小型化しても耐久性の低下を抑制できる偏心揺動型減速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の偏心揺動型減速装置は、外歯歯車と、外歯歯車を揺動させる偏心体と、外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、を備えた偏心揺動型減速装置であって、外歯歯車は、第1貫通孔と、当該第1貫通孔と周方向または径方向に隣接して設けられる第2貫通孔と、を有する。第1貫通孔の内周面は、第2貫通孔と対向する部分を含む塑性加工が施された第1部分を有する。
【0008】
本発明の別の態様もまた、偏心揺動型減速装置である。この装置は、外歯歯車と、外歯歯車を揺動させる偏心体と、外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、を備えた偏心揺動型減速装置であって、外歯歯車は、第1貫通孔と、当該第1貫通孔と周方向または径方向に隣接して設けられる第2貫通孔と、を有する。第1貫通孔の内周面は、第2貫通孔と対向する部分を含む表面の圧縮残留応力が高い第1部分と、表面の圧縮残留応力が第1部分の1/5以上である第2部分と、を有する。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、外歯歯車の製造方法である。この方法は、偏心揺動型減速装置において、偏心体に揺動されて内歯歯車と内接噛合する外歯歯車の製造方法であって、外歯歯車は、第1貫通孔と、当該第1貫通孔と周方向または径方向に隣接して設けられる第2貫通孔と、を有する。第1貫通孔の内周面に塑性加工を施す塑性加工工程を含む。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型化しても耐久性の低下を抑制できる偏心揺動型減速装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
【
図2】
図1の偏心揺動型減速装置の外歯歯車を示す正面図である。
【
図3】
図1の外歯歯車の製造方法の一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図4】
図1の外歯歯車の塑性加工工程を模式的に示す模式図である。
【
図5】第2実施形態の偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
【
図7】
図5の偏心揺動型減速装置の外歯歯車を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態、比較例および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0014】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して、第1実施形態に係る偏心揺動型減速装置10の構成について説明する。
図1は、第1実施形態の偏心揺動型減速装置10を示す側面断面図である。本実施形態の偏心揺動型減速装置10は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車及び外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた運動成分を出力部材から被駆動装置に出力する偏心揺動型減速装置である。
【0015】
偏心揺動型減速装置10は、主に、入力軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24、26とを備える。以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0016】
入力軸12は、駆動装置(不図示)から入力される回転動力によって回転中心線周りに回転させられる。本実施形態の偏心揺動型減速装置10は、入力軸12の回転中心線が内歯歯車16の中心軸線Laと同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0017】
本実施形態の入力軸12は、外歯歯車14を揺動させるための複数の偏心体12aを有する偏心体軸である。偏心体12aの軸芯は、入力軸12の回転中心線に対して偏心している。本実施形態では3個の偏心体12aが設けられ、隣り合う偏心体12aの偏心位相は120°ずれている。入力軸12の入力側の端部には、駆動装置の出力部材から動力を受けるためのスプライン12bが形成される。
【0018】
偏心体12aの外周には、ころ軸受30を介して3枚の外歯歯車14が組み込まれている。各外歯歯車14は、内歯歯車16に内接噛合している。外歯歯車14が3列に並んで組み込まれているのは、伝達容量の増大、および偏心位相をずらすことによる低振動、低騒音化を意図したためである。各列の構成は、偏心位相が異なっている以外は同一である。
【0019】
図2は、入力側から視た外歯歯車14を示す正面図である。外歯歯車14は、複数の偏心体12aのそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車14は、ころ軸受30を介して対応する偏心体12aに回転自在に支持される。外歯歯車14には、内ピン32が貫通する第1貫通孔13と、ころ軸受30が当接する第2貫通孔15とが設けられる。
図2に示すように、第1貫通孔13と第2貫通孔15とは互いに径方向に隣接する。
【0020】
第1貫通孔13は、外歯歯車14の中心からオフセットして設けられる。第1貫通孔13は、後述する内ピン32に対応して複数設けられる。この例では、周方向に60°間隔で6つの第1貫通孔13が設けられる。第2貫通孔15は、外歯歯車14の中心に設けられ、偏心体12aが挿通される孔である。
【0021】
図1に示すように、ケーシング22は、全体として筒状をなし、その内周部には内歯歯車16が設けられる。内歯歯車16は、外歯歯車14と噛み合う。本実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22と一体化された内歯歯車本体と、この内歯歯車本体に回転自在に支持され、当該内歯歯車16の内歯を構成する外ピン16a(ピン部材)とで構成されている。内歯歯車16の内歯数(外ピン16aの数)は、外歯歯車14の外歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0022】
キャリヤ18、20は、外歯歯車14の軸方向側部に配置される。キャリヤ18、20には、外歯歯車14の入力側の側部に配置される第1キャリヤ18と、外歯歯車14の反入力側の側部に配置される第2キャリヤ20とを含む。キャリヤ18、20は円盤状をなし、入力軸軸受34を介して入力軸12を回転自在に支持する。
【0023】
第1キャリヤ18と第2キャリヤ20は内ピン32を介して連結される。内ピン32は、外歯歯車14の軸芯から径方向にオフセットした位置において、複数の外歯歯車14を軸方向に貫通する。本実施形態の内ピン32は、第2キャリヤ20と一体的に設けられる。内ピン32は、キャリヤ18、20と別体に設けられていてもよい。内ピン32は、内歯歯車16の中心軸線La周りに所定の間隔で複数設けられる。本実施形態では、周方向に60°間隔で6つの内ピン32が設けられる。
【0024】
内ピン32は、その先端部が第1キャリヤ18に形成された有底凹部18cに嵌入されており、第1キャリヤ18の入力側から挿入されたボルト36と共に第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とを連結している。
【0025】
内ピン32は、外歯歯車14に形成された第1貫通孔13を貫通している。内ピン32の外周面32sには、摺動促進部材としてローラ35が回転自在に被せられている。ローラ35は、第1キャリヤ18の入力側と、第2キャリヤ20の反入力側とによって軸方向に移動規制される。ローラ35と第1貫通孔13の間には外歯歯車14の揺動成分を吸収するための遊びとなる隙間が設けられる。ローラ35と第1貫通孔13の内壁面とは一部で接触する。なお、ローラ35はなくてもよい。
【0026】
被駆動装置(不図示)に回転動力を出力する部材を出力部材とし、偏心揺動型減速装置10を支持するための外部部材に固定される部材を被固定部材とする。本実施形態の出力部材は第2キャリヤ20であり、被固定部材はケーシング22である。出力部材は、被固定部材に主軸受24、26を介して回転自在に支持される。
【0027】
主軸受24、26には、第1キャリヤ18とケーシング22の間に配置される第1主軸受24と、第2キャリヤ20とケーシング22の間に配置される第2主軸受26とが含まれる。本実施形態において、主軸受24、26は、いわゆる背面組み合わせの状態で配置される。第1、第2キャリヤ18、20の外周は、それぞれ第1、第2主軸受24、26の内輪を構成している。本実施形態では、主軸受24、26として、球状の転動体42を有するアンギュラ玉軸受を例示する。主軸受24、26は、この他にも、後述するテーパーローラ軸受、アンギュラコロ軸受等の転がり軸受であってもよい。
【0028】
以上のように構成された偏心揺動型減速装置10の動作を説明する。駆動装置から入力軸12に回転動力が伝達されると、入力軸12の偏心体12aが入力軸12を通る回転中心線周りに回転する。偏心運動する偏心体12aが第2貫通孔15ところ軸受30を介して接触することにより外歯歯車14が揺動する。このとき、外歯歯車14は、自らの軸芯が入力軸12の回転中心線周りを回転するように揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれる。この結果、入力軸12が一回転する毎に、外歯歯車14と内歯歯車16との歯数差に相当する分、外歯歯車14及び内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態においては、外歯歯車14が自転し、内ピン32を介して第2キャリヤ20から減速回転が出力される。
【0029】
図2を参照して、外歯歯車14をさらに説明する。外歯歯車14の第2貫通孔15は、ころ軸受30の外輪軌道面として機能するため、ころ軸受30の転動体荷重を受ける。小型化のために、第1貫通孔13と第2貫通孔15の間の肉厚を減らすことが考えられる。しかし、第1貫通孔13と第2貫通孔15の間の肉厚が薄いと、同じ転動体荷重であっても応力は増加し、その部分で応力割れが生じやすくなる。また、第1貫通孔13と第2貫通孔15の間の肉厚は同じでも、高トルクで運転した場合には、転動体荷重が大きくなることで応力は増加し、同様に応力割れが生じやすくなる。
【0030】
転動体荷重を受けたとき、外歯歯車14の応力分布は、この荷重を受ける第2貫通孔15側で圧縮応力であり、第1貫通孔13側で引張応力である。このため、引張応力を受ける第1貫通孔13側を起点とし、例えば、
図2の符号Dに示すような応力割れが発生する可能性がある。そこで、本実施形態の外歯歯車14では、所定の部分に塑性加工を施し、その加工による圧縮残留応力によって荷重の引張応力の影響を緩和している。
【0031】
図2に示すように、本実施形態では、第1貫通孔13の内周面13bには、第2貫通孔15と対向する対向部分13fを含む塑性加工が施された第1部分13eが設けられる。この場合、塑性加工の圧縮残留応力によって、転動体荷重による応力割れの発生を抑制できる。第1部分13eは、内周面13bの対向部分13fの両側に延びてもよい。第1部分13eは、連続的に設けられてもよいし、断続的に設けられてもよい。本実施形態の第1部分13eは、正面視で円弧状に内周面13bの20%~70%の範囲に設けられている。
【0032】
塑性加工を施す範囲が広いと、加工時間が延びて加工コストが増加することが考えられる。このため、本実施形態では、第1貫通孔13の内周面13bには、塑性加工が施されていない第2部分13hが設けられる。この場合、加工コストの低減および加工時間の短縮を図れる。第2部分13hは、内周面13bの対向部分13fとは反対側の部分13jを含んでもよいし、部分13jの両側に延びてもよい。本実施形態の第2対向部分13fは、第1部分13eを除く範囲に設けられている。なお、「塑性加工が施されていない部分」とは、意図して塑性加工が施されていないが、何らかの理由により僅かに残留応力を有する部分を含む。
【0033】
また、本実施形態では、第2貫通孔15には、塑性加工が施されていない。この理由は、第2貫通孔15に加わる転動体荷重の応力は、概ね圧縮応力であるため、第1貫通孔13と比べて必要性が低いからである。また、ころ軸受30が第2貫通孔15の内周面に接触するため、塑性加工によって表面粗さが粗くなることは好ましくない。
【0034】
この塑性加工としては、所定の部分に弾性限度以上の応力を加えて圧縮残留応力を有する塑性変形を生じさせる加工法であれば種々の方法を採用できる。本実施形態では、この塑性加工として、メディアを噴射するショットピーニングによる加工(以下、単に「ショットピーニング」という)を採用している。つまり、第1部分13eは、塑性加工としてショットピーニングが施されている。この場合、ショットピーニングを採用しているため、簡易かつ安価に塑性加工を行うことができる。
【0035】
塑性加工による残留応力を説明する。以下、残留応力を数値で示すとき、圧縮応力は「マイナス」を付した負の数値で示し、引張応力は符号を付さない正の数値で表される。また、「ある値以上」はその値から正方向側の値を意味し、「ある値以下」はその値から負方向側の値を意味する。
【0036】
また、圧縮残留応力が「ある値より高い」とは、残留応力がその値より負方向側の値であることを意味し、圧縮残留応力が「ある値より低い」とは、残留応力がその値より正方向側の値であることを意味する。
【0037】
まず、素材表面の残留応力を説明する。転動体荷重の引張応力は、接触面である表面に加えられる。このため、塑性加工は素材の表面に圧縮残留応力を有するものであることが望ましい。本発明者らの検討によれば、第1部分13eの表面の残留応力が-800MPa以下であれば、転動体荷重による応力割れの発生を抑制できることが確認されている。また、応力割れをより効果的に抑制する観点から、第1部分13eの表面の残留応力は、-1100MPa以下であることが好ましい。なお、これらの残留応力は、対向部分13fにおいて測定されてもよい。
【0038】
次に、素材内部の残留応力を説明する。転動体荷重の引張応力は、表面だけでなく素材内部にも影響を及ぼす。したがって、塑性加工は、素材内部にも圧縮残留応力を有することが望ましい。本発明者らの検討によれば、第1部分13eの表面から60μmの圧縮残留応力が、表面の圧縮残留応力より高ければ、転動体荷重による応力割れの発生を抑制できることが確認されている。応力割れをより効果的に抑制する観点から、第1部分13eの表面から60μmの残留応力は、好ましくは-1000MPa以下であり、より好ましくは-1300MPa以下である。なお、これらの残留応力は、対向部分13fにおいて測定されてもよい。
【0039】
また、加工時間を短くする観点から、第2部分13hの表面の圧縮残留応力は、第1部分13eの表面の圧縮残留応力の1/5以下であってもよい。なお、第2部分13hの表面の残留応力は、第1部分13eの表面の圧縮残留応力に対して絶対値で1/5以下の圧縮残留応力であるか、または引張残留応力である、と表現することもできる。例えば、第1部分13eの表面の残留応力が-800MPaの場合、第2部分13hの表面の残留応力は、-160MPa以上であってもよく、引張応力であってもよい。この場合、塑性加工を第1部分13eに集中することができるので、全体の加工時間を短くできる。
【0040】
以下、実施例における残留応力を説明する。第1部分13eの残留応力は、少なくとも表面から深さ140μmまでの範囲で圧縮残留応力であった。第1部分13eの圧縮残留応力は、表面において-1300MPaであり、表面から深さ40μmまでの範囲で-1300~-1400MPaであり、深さ60μmで-1550MPa(最高値)であった。また、この圧縮残留応力は、深さ60μmから深さ140μmまでの範囲で徐々に低くなり、深さ140μmで-700MPaであった。つまり、実施例では、塑性加工による圧縮残留応力付与効果は、少なくともこの領域にまで及んでいた。また、この圧縮残留応力は、表面から深さ100μmまでの範囲で-1000MPaより高かった。
【0041】
次に、
図3、
図4を参照して、外歯歯車14の製造方法S80の一例を説明する。
図3は、外歯歯車14の製造方法S80の一例を概略的に示すフローチャートである。
図4は、外歯歯車14の塑性加工工程S88を模式的に示す模式図である。外歯歯車14の製造方法S80は、円盤を形成する工程S82と、外歯を形成する工程S84と、第1、第2貫通孔13、15を形成する工程S86と、第1貫通孔13の内周面に塑性加工を施す塑性加工工程S88と、を含む。以下、製造途中の外歯歯車14を「ワーク」という。
【0042】
工程S82において、冷間鍛造によって、素材から円盤状のワークを形成する。工程S84において、別の冷間鍛造によって、円盤状のワークに外歯を形成する。工程S86において、抜き打ちによって、外歯を形成したワークに第1、第2貫通孔13、15を形成する。工程S88において、ワークの第1貫通孔13の内周面に塑性加工を施す。外歯歯車14には、必要に応じて、表面硬化をするための熱処理、熱歪みを修正する仕上げ研磨、低摩擦化のための化成処理などが施されてもよい。この製造方法S80はあくまでも一例であり、工程の順序を入れ替えてもよいし、工程の一部を、削除、追加、変更してもよい。
【0043】
塑性加工工程S88を説明する。ワーク(外歯歯車14)は塑性加工装置80によって塑性加工される。この例の塑性加工工程S88は、鋼球などのメディア(ショットと称されることがある)を空気圧または遠心力等によって加速し、噴射ノズルから噴射して加工対象に吹き付けるショットピーニングによる加工である。
【0044】
塑性加工工程S88では、ワーク全体に塑性加工を施してもよいし、ワークの選択的な部分に塑性加工を施してもよい。本実施形態では、塑性加工工程S88は、第1貫通孔の第2貫通孔に対向する部分を含む第1部分に塑性加工を施し、残りの第2部分には塑性加工を施さない。この場合、加工時間を短くできる。
【0045】
塑性加工工程S88では、静止状態のワークにメディアを噴射してもよいし、回転状態のワークにメディアを噴射してもよい。本実施形態では、ワーク(外歯歯車14)を回転させて固定噴射ノズルからメディアを噴射する。この場合、ワークの周方向の残留応力のレベルや変形のバラツキを小さくできる。
【0046】
塑性加工工程S88では、ショットピーニングを1回だけ施してもよいし、ショットピーニングを複数回施してもよい。本実施形態では、塑性加工工程S88は、ワーク(外歯歯車14)に第1メディアM1(鋼球)を噴射する第1工程S88aと、第1メディアM1の噴射を受けたワーク(外歯歯車14)に第2メディアM2(鋼球)を噴射する第2工程S88bと、を含んでいる。この場合、加工特性の異なる複数のメディアを用いるので、所望の残留応力分布を得やすい。塑性加工装置80は、第1工程S88aおよび第2工程S88bに用いられてもよい。
【0047】
第1メディアM1と第2メディアM2の大きさは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。本実施形態では、第1メディアM1の大きさと第2メディアM2の大きさとは、互いに異なる。この場合、異なる大きさのメディアを用いることにより、所望の残留応力分布を得やすい。特に、第1メディアM1は第2メディアM2より大きい。
【0048】
第1メディアM1と第2メディアM2の硬さ(硬度)は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。本実施形態では、第1メディアM1の硬さと第2メディアM2の硬さとは、互いに異なる。特に、第2メディアM2は、第1メディアM1より硬い。
【0049】
塑性加工工程S88では、1つのワークを個別に塑性加工してもよいし、複数枚のワークを重ねた状態でメディアを噴射して塑性加工してもよい。重ねて加工する場合、トータルの加工時間を短くできる。
【0050】
塑性加工工程S88では、重ねて加工するワークの数に限定はないが、本実施形態では、同じ偏心揺動型減速装置10に組み込まれる複数枚(この例では3枚)のワーク(外歯歯車14)を重ねた状態で第1メディアM1または第2メディアM2を噴射する。複数枚のワークを異なった時期や別の加工機械で塑性加工すると、加工機械や時期の違いによって残留応力のレベルや分布が不揃いになるところ、複数枚のワークを重ねて加工する場合は、残留応力のレベルや分布が揃いやすい。残留応力分布が揃うことにより、複数枚の一部のみが割れやすいなどの問題を生じにくく、また、加工のバラツキによるアンバランスを生じにくい。
【0051】
塑性加工装置80を説明する。塑性加工装置80は回転駆動されるターンテーブル82と、噴射ノズル84とを含む。ターンテーブル82には、3枚のワーク(外歯歯車14)が装着され、ターンテーブル82と一体に矢印Rの方向に回転駆動される。ワーク(外歯歯車14)の塑性加工をしない部分には、その部分を覆うカバー部材が設けられてもよい。この例では、ターンテーブル82から突出するピン形状の部材82pは、第2貫通孔15に挿通されてカバー部材として機能する。噴射ノズル84は、第1部分13eの部分13fに向けてセットされる。このため、部分13fの近傍が集中的に塑性加工され、第2部分13hの部分13jは殆ど塑性加工されない。第2部分13hを覆うカバー部材を設けてもよい。
【0052】
噴射ノズル84とターンテーブル82とは、ワークの厚さ方向に相対的に移動可能に構成されてもよく、メディアを噴射しながらワークの厚さ方向に相対的に往復運動してもよい。この場合、残留応力のレベルや分布の厚さ方向のバラツキを抑制できる。ターンテーブル82は、連続回転してもよいし、第1貫通孔13の位置に対応して停止と回転を繰り返す間欠回転してもよい。
【0053】
以上が、第1実施形態の説明である。第1実施形態の偏心揺動型減速装置10によれば、小型化しても耐久性の低下を抑制可能な偏心揺動型減速装置を提供できる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、
図5~
図7を参照して、第2実施形態に係る偏心揺動型減速装置10の構成について説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
図5は、第2実施形態の偏心揺動型減速装置10を示す側面断面図であり、
図1に対応する。
図6は、
図5のA-A線に沿った断面図である。
【0055】
第1実施形態はセンタークランクタイプの偏心揺動型減速装置を例に説明した。本実施形態の偏心揺動型減速装置は、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型減速装置である。偏心揺動型減速装置10は、主に、入力歯車70、入力軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24、26とを備える。本実施形態は、第1実施形態と比べ、主には、複数の入力歯車70および入力軸12を備え、外歯歯車14の数と外歯歯車14の貫通孔の点で異なる。
【0056】
複数の入力歯車70は、内歯歯車16の中心軸線La周りに配置される。本図では一つの入力歯車70のみを示す。入力歯車70は、その中央部に挿通される入力軸12により支持され、入力軸12と一体的に回転可能に設けられる。入力歯車70は、中心軸線La上に設けられる回転軸(不図示)の外歯部と噛み合う。回転軸には、不図示の駆動装置から回転動力が伝達され、その回転軸の回転により入力歯車70が入力軸12と一体的に回転する。
【0057】
本実施形態の入力軸12は、内歯歯車16の中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に間を置いて複数(例えば、3本)配置される。本図では一つの入力軸12のみを示す。各入力軸12には、互いに偏心位相は180°ずれた2個の偏心体12aが軸方向に並んで設けられている。
【0058】
偏心体12aの外周には、ころ軸受30を介して2枚の外歯歯車14が組み込まれている。各外歯歯車14は、内歯歯車16に内接噛合している。各外歯歯車14の構成は、偏心位相が異なっている以外は同一である。
【0059】
図7は、本実施形態の外歯歯車14を示す正面図であり、
図2に対応する。外歯歯車14には、内ピン32が貫通する第1貫通孔13と、ころ軸受30が当接する第2貫通孔15と、外歯歯車14の中心に設けられた第3貫通孔17とが設けられる。
図7に示すように、第1貫通孔13と第2貫通孔15とは、外歯歯車14の中心からオフセットして設けられ、互いに周方向に隣接する。
【0060】
第1貫通孔13は、内ピン32に対応して複数設けられる。この例では、周方向に120°間隔で3つの第1貫通孔13が設けられる。第1貫通孔13は、角が丸みを帯びた略三角形状を呈する。
図6に示すように、本実施形態の第1貫通孔13は、内ピン32とは接触しない。つまり、第1実施形態の内ピン32は、外歯歯車14の自転を伝達する機能と第1キャリヤ18および第2キャリヤ20を連結する機能を有していたが、第2実施形態の内ピン32は、第1キャリヤ18および第2キャリヤ20を連結する機能は有するものの、外歯歯車14の自転を伝達する機能は有しない。そのため、第2実施形態の内ピン32は、キャリヤピンと称されることもある。第2貫通孔15は、入力軸12に対応して複数設けられ、偏心体12aが挿通される円形の孔である。この例では、周方向に120°間隔で3つの第2貫通孔15が設けられる。
【0061】
以上の本実施形態の偏心揺動型減速装置10の動作を説明する。駆動装置から回転軸に回転動力が伝達されると、回転軸から複数の入力歯車70に回転動力が振り分けられ、各入力歯車70が同じ位相で回転する。各入力歯車70が回転すると、入力軸12の偏心体12aが入力軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心体12aにより外歯歯車14が揺動する。外歯歯車14が揺動すると、第1実施形態と同様、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれ、外歯歯車14及び内歯歯車16の一方の自転が発生する。外歯歯車14の自転成分は、入力軸12を介してキャリヤ18、20に伝達される。入力軸12の回転は、外歯歯車14と内歯歯車16の歯数差に応じた減速比で減速されて、出力部材から被駆動装置に出力される。
【0062】
本実施形態では、偏心体12aからの転動体荷重を受けたとき、外歯歯車14の応力分布は、この荷重を受ける第2貫通孔15側で圧縮応力であり、第1貫通孔13側で引張応力である。このため、引張応力を受ける第1貫通孔13側を起点とし、例えば、
図7の符号Dに示すような応力割れが発生する可能性がある。そこで、本実施形態の外歯歯車14では、所定の部分に塑性加工を施し、その加工による圧縮残留応力によって転動体荷重の引張応力の影響を緩和している。
【0063】
図7に示すように、本実施形態では、第1貫通孔13の内周面13bには、第2貫通孔15と対向する対向部分13fを含む塑性加工が施された第1部分13eが設けられる。この場合、塑性加工の圧縮残留応力によって、転動体荷重による応力割れの発生を抑制できる。この例では、第1貫通孔13は周方向の両側で第2貫通孔15と対向するので、周方向に離隔された2箇所の対向部分13fが存在する。このため、第1部分13eは2箇所の対向部分13fに対応して2箇所設けられる。各第1部分13eは、内周面13bに沿って対向部分13fの両側に延びてもよい。2箇所の第1部分13eは一部でつながっていてもよいし、つながっていなくてもよい。各第1部分13eは、連続的に設けられてもよいし、断続的に設けられてもよい。
【0064】
図7に示すように、本実施形態では、第1貫通孔13の内周面13bには、塑性加工が施されていない第2部分13hが設けられる。この例では、第2部分13hは、外歯歯車14の外周と対向する部分13mを含みその両側に設けられる。第2部分13hは、外歯歯車14の中心に設けられた第3貫通孔17と対向する部分13nの近傍にも塑性加工が施されていない部分が設けられてもよい。
【0065】
本実施形態では、第2貫通孔15および第3貫通孔17には、塑性加工が施されていない。
【0066】
第2実施形態における第1部分13eの表面から内部に至る残留応力の状況も第1実施形態と同様である。第1実施形態で説明した外歯歯車14の製造方法S80は、本実施形態の外歯歯車14にも適用できる。
【0067】
以上が、第2実施形態の説明である。第2実施形態の偏心揺動型減速装置10によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏し、小型化しても耐久性の低下を抑制可能な偏心揺動型減速装置を提供できる。
【0068】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。
【0069】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0070】
第1実施形態の説明では、外歯歯車14に施す塑性加工が、ショットピーニングである例を示したが、本発明はこれに限定されない。外歯歯車14に施す塑性加工は、例えば、ローレット加工や、硬い工具を押し付けるような手法による塑性加工などであってもよい。また、塑性加工は、異なる複数種類の塑性加工方法が組み合わされてもよい。
【0071】
第1実施形態の説明では、ショットピーニングが2回施される例を示したが、ショットピーニングは、1回であってもよいし、3回以上であってもよい。
【0072】
第1実施形態の説明では、ショットピーニングのメディアが鋼球である例を示したが、ショットピーニングは公知の様々な種類や形状のメディアにより行われてもよい。
【0073】
第1実施形態の説明では、一つの噴射ノズル84を用いる例を示したが、複数の噴射ノズル84を用いてショットピーニングを施してもよい。例えば、ワーク(外歯歯車14)の軸方向両側に離隔して設けられた複数の噴射ノズル84を用いてもよいし、径方向に離隔して設けられた複数の噴射ノズル84を用いてもよい。
【0074】
第1実施形態では外歯歯車14が3枚の例を、第2実施形態では外歯歯車14が2枚の例を示したが、外歯歯車14は、所望の特性に応じて、1枚であってもよいし、4枚以上であってもよい。
【0075】
第1、第2実施形態の説明では、内ピン32が貫通する孔について塑性加工を施す例を示したが、塑性加工は、転動体荷重を受ける貫通孔に隣接する別の貫通孔の内周面に施されてもよい。例えば、第2実施形態の第3貫通孔17の内周面に塑性加工が施されてもよい。
【0076】
第1実施形態では、第1主軸受24および第2主軸受26が内輪を有しない例を説明したが、本発明はこれに限られない。第1主軸受24と第2主軸受26との少なくとも一方は、内輪を有する軸受であってもよい。
【0077】
実施形態の出力部材はキャリヤ18、20であり、外部部材にはケーシング22が固定される例を説明した。この他にも、出力部材はケーシング22であり、外部部材にはキャリヤ18、20が固定されてもよい。
【0078】
上述の各変形例は第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0079】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0080】
10・・偏心揺動型減速装置、 12・・入力軸、 12a・・偏心体、 13・・第1貫通孔、 13b・・内周面、 14・・外歯歯車、 15・・第2貫通孔、 16・・内歯歯車、 18、20・・キャリヤ、 22・・ケーシング、 24・・主軸受、 30・・ころ軸受、 32・・内ピン、 35・・ローラ、 80・・塑性加工装置、 84・・噴射ノズル。