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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/00 20060101AFI20230726BHJP
   F02B 23/08 20060101ALI20230726BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20230726BHJP
   F02F 3/26 20060101ALI20230726BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
F02B23/00 A
F02B23/08 A
F02B23/10 310A
F02F3/26 A
F02F1/24 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019134230
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021017850
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 貴之
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-502932(JP,A)
【文献】特開2007-085221(JP,A)
【文献】特開2007-285273(JP,A)
【文献】特開平06-093861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/00
F02F 1/00 , 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドに設けられた点火プラグと、
前記シリンダヘッドに設けられ、前記点火プラグの周囲を囲うように配されたヘッド隔壁と、
前記シリンダヘッドに設けられ、噴射孔が前記ヘッド隔壁外に露出するインジェクタと、
前記シリンダヘッドに連結されるシリンダブロックに形成されるシリンダと、
前記シリンダ内に配されるピストンと、
前記ピストンの冠面に設けられ、前記ヘッド隔壁と前記ピストンの摺動方向において対向し、前記インジェクタから離隔するほど高さが漸増し、前記インジェクタに近接する側の前記冠面からの高さが、前記インジェクタから離隔する側の前記冠面からの高さより低いピストン隔壁と、
を備えるエンジン。
【請求項2】
前記ピストン隔壁の内壁面には、前記インジェクタの噴射方向に沿って延在する溝が形成される請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記ヘッド隔壁は、前記インジェクタに近接する側の前記シリンダヘッドの内壁面からの高さが、前記インジェクタから離隔する側の前記シリンダヘッドの内壁面からの高さより高い請求項1または2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記ヘッド隔壁と前記ピストン隔壁との間には、前記ヘッド隔壁と前記ピストン隔壁とが最も近接した状態で、周方向の少なくとも一部において隙間が形成される請求項1から3のいずれか1項に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンは、燃費を向上させるため、理論空燃比よりも薄い(すなわち、リーン)混合気で希薄燃焼を行う場合がある。しかし、エンジンは、希薄燃焼を行う場合、混合気が着火し難いという問題がある。
【0003】
特許文献1には、ピストンの冠面に形成されたピストン隔壁と、シリンダヘッドの点火プラグの周囲を囲うように形成されたヘッド隔壁とを備えるエンジンについて開示がある。ピストンが上死点に達したとき、ピストン隔壁とヘッド隔壁は、互いに近接し、内部に副燃焼室を形成する。
【0004】
インジェクタは、副燃焼室に燃料を直接噴射することで、副燃焼室内の混合気の濃度を副燃焼室外の混合気の濃度より濃くする。エンジンは、副燃焼室で混合気を燃焼させることで、希薄燃焼の着火性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-93861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、インジェクタは、副燃焼室に燃料を直接噴射するため、インジェクタの噴射孔がヘッド隔壁内に露出するように配する必要がある。しかし、その場合、シリンダヘッドには、インジェクタおよび点火プラグの双方を密に配する必要があり、インジェクタおよび点火プラグをシリンダヘッドに搭載することが困難であった。
【0007】
そこで、インジェクタの噴射孔をヘッド隔壁外に露出するように配し、副燃焼室外から副燃焼室内に向けて燃料を噴射させることも考えられる。インジェクタの噴射孔をヘッド隔壁外に露出するように配することで、インジェクタおよび点火プラグをシリンダヘッドに搭載することが容易になる。しかし、その場合、副燃焼室に供給すべき燃料を、副燃焼室内に導入させることが難しく、希薄燃焼の着火性が悪化するという問題があった。
【0008】
本発明は、希薄燃焼の着火性を向上させることが可能なエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のエンジンは、シリンダヘッドと、シリンダヘッドに設けられた点火プラグと、シリンダヘッドに設けられ、点火プラグの周囲を囲うように配されたヘッド隔壁と、シリンダヘッドに設けられ、噴射孔がヘッド隔壁外に露出するインジェクタと、シリンダヘッドに連結されるシリンダブロックに形成されるシリンダと、シリンダ内に配されるピストンと、ピストンの冠面に設けられ、ヘッド隔壁とピストンの摺動方向において対向し、インジェクタから離隔するほど高さが漸増し、インジェクタに近接する側の冠面からの高さが、インジェクタから離隔する側の冠面からの高さより低いピストン隔壁と、を備える。
【0010】
ピストン隔壁の内壁面には、インジェクタの噴射方向に沿って延在する溝が形成されてもよい。
【0011】
ヘッド隔壁は、インジェクタに近接する側のシリンダヘッドの内壁面からの高さが、インジェクタから離隔する側のシリンダヘッドの内壁面からの高さより高くてもよい。
【0012】
ヘッド隔壁とピストン隔壁との間には、ヘッド隔壁とピストン隔壁とが最も近接した状態で、周方向の少なくとも一部において隙間が形成されてもよい。
【0013】
本発明によれば、希薄燃焼の着火性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】エンジンの構成を示す概略図である。
図2】本実施形態の副燃焼室形成構造の概略斜視図である。
図3】本実施形態の副燃焼室形成構造の概略側面図である。
図4】本実施形態のピストン隔壁の概略上面図である。
図5】ヘッド隔壁とピストン隔壁とが近接した状態を示す図である。
図6】インジェクタを先端側から見た図である。
図7図6に示すVII-VII線概略断面図である。
図8】複数の噴射孔から燃料が噴射される様子を示した図である。
図9】噴射孔から燃料が噴射される様子を示した図である。
図10】副燃焼室内に供給された燃料の様子を示した図である。
図11】点火プラグが燃料を点火する様子を示した図である。
図12】比較例の副燃焼室形成構造の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、エンジン10の構成を示す概略図である。図1に示すように、エンジン10は、シリンダブロック12と、シリンダヘッド14とを含んで構成される。
【0017】
シリンダブロック12には、シリンダボア16が形成される。シリンダボア16は、シリンダブロック12に複数形成されてもよいし、単数(1つ)形成されてもよい。シリンダボア16には、ピストン18が配され、ピストン18は、シリンダボア16内を摺動自在に移動することができる。
【0018】
ピストン18には、コネクティングロッド20が接続される。シリンダブロック12には、シリンダヘッド14が連結される。シリンダヘッド14の内壁面と、シリンダボア16の内壁面と、ピストン18の冠面18aとによって囲まれた空間が燃焼室22として形成される。
【0019】
シリンダブロック12には、シリンダヘッド14が連結される側と反対側に、クランクケース24が一体的に形成される。ただし、クランクケース24は、シリンダブロック12と別体的に形成されてもよい。
【0020】
クランクケース24内には、クランク室24aが形成される。クランク室24a内には、クランクシャフト26が回転自在に支持される。クランクシャフト26には、コネクティングロッド20が連結される。これにより、ピストン18は、コネクティングロッド20を介してクランクシャフト26に連結される。
【0021】
シリンダヘッド14には、吸気ポート28および排気ポート30が形成される。吸気ポート28および排気ポート30は、燃焼室22と連通する。吸気ポート28は、吸気の上流側に1つの開口が形成され、燃焼室22に臨む吸気の下流側に2つの開口が形成される。つまり、吸気ポート28は、吸気の上流から下流に向かう途中で流路が2つに分岐する。吸気ポート28と燃焼室22との間には、吸気バルブ32の傘部が配される。吸気バルブ32は、不図示のカムシャフトの回転に伴って移動し、吸気ポート28を燃焼室22に対して開閉する。
【0022】
シリンダヘッド14の外壁面のうち、吸気ポート28が開口する上流端部14aには、インテークマニホールド34が連結される。インテークマニホールド34および吸気ポート28の内部には、吸気が流通する吸気流路36が形成される。
【0023】
排気ポート30は、燃焼室22に臨む排気の上流側に2つの開口が形成され、排気の下流側に1つの開口が形成される。つまり、排気ポート30は、排気の上流から下流に向かう途中で流路が1つに統合される。排気ポート30と燃焼室22との間には、排気バルブ38の傘部が配される。排気バルブ38は、不図示のカムシャフトの回転に伴って移動し、排気ポート30を燃焼室22に対して開閉する。
【0024】
シリンダヘッド14の外壁面のうち、排気ポート30が開口する下流端部14bには、エキゾーストマニホールド40が連結される。排気ポート30およびエキゾーストマニホールド40の内部には、排気が流通する排気流路42が形成される。
【0025】
シリンダヘッド14には、先端が燃焼室22内に位置するようにインジェクタ44および点火プラグ46が設けられる。本実施形態では、インジェクタ44は、シリンダヘッド14の側面に配置(サイド配置)される。
【0026】
具体的に、インジェクタ44は、吸気ポート28(吸気バルブ32)に対し、点火プラグ46と反対側に配される。ただし、インジェクタ44は、排気ポート30(排気バルブ38)に対し、点火プラグ46と反対側に配されてもよい。
【0027】
インジェクタ44は、吸気ポート28を介して燃焼室22に流入した吸気に対し、燃料を噴射する。点火プラグ46は、所定のタイミングで放電することにより吸気と燃料との混合気を点火する。
【0028】
吸気と燃料との混合気は、点火プラグ46の点火により燃焼する。かかる燃焼により、ピストン18がシリンダボア16内で往復運動を行う。ピストン18の往復運動は、コネクティングロッド20を通じてクランクシャフト26の回転運動に変換される。
【0029】
ところで、エンジン10は、燃費を向上させるため、理論空燃比よりも薄い(すなわち、リーン)混合気で希薄燃焼を行う。しかし、従来のエンジンは、希薄燃焼を行う場合、混合気が着火し難いという問題がある。
【0030】
そこで、本実施形態のエンジン10は、副燃焼室形成構造48を備える。副燃焼室形成構造48は、ヘッド隔壁50と、ピストン隔壁52とを含んで構成される。
【0031】
ヘッド隔壁50は、シリンダヘッド14に設けられ、燃焼室22内に配される。ヘッド隔壁50は、大凡円筒形状である。ヘッド隔壁50の外径(直径)は、ピストン18の外径(直径)よりも小さい。ヘッド隔壁50は、点火プラグ46の周囲を囲うように配される。点火プラグ46は、燃焼室22の頂点(中心)に配される。
【0032】
ピストン隔壁52は、ピストン18の冠面18aに設けられ、燃焼室22内に配される。ピストン隔壁52は、大凡円筒形状である。ピストン隔壁52の外径および内径は、ヘッド隔壁50の外径および内径と大凡等しい。
【0033】
ピストン隔壁52は、ピストン18の冠面18aのうち、ピストン18の摺動方向(シリンダボア16の中心軸方向)においてヘッド隔壁50と対向する位置に配される。ピストン隔壁52は、ピストン18の冠面18aの中心に配される。ピストン隔壁52の中心軸は、ピストン18の中心軸と大凡等しい。ピストン隔壁52は、ピストン18と一体的に移動し、ヘッド隔壁50と近接する方向、および、ヘッド隔壁50から離隔する方向に移動する。
【0034】
図2は、本実施形態の副燃焼室形成構造48の概略斜視図である。図2に示すように、ヘッド隔壁50は、ピストン隔壁52と対向する側の端部にテーパ部54が形成される。テーパ部54は、ピストン18の摺動方向(図2中、両矢印方向)と直交する面(以下、基準面という)に対し傾斜している。
【0035】
テーパ部54には、ピストン隔壁52側に突出する複数の突起56が形成される。複数の突起56は、ヘッド隔壁50の全周に亘って等間隔に形成される。ただし、複数の突起56は、ヘッド隔壁50の全周に亘って不等間隔に形成されてもよい。
【0036】
ピストン隔壁52は、ヘッド隔壁50と対向する側の端部にテーパ部58が形成される。テーパ部58は、基準面に対し傾斜している。テーパ部58の基準面に対する傾斜角度は、テーパ部54の基準面に対する傾斜角度と大凡等しく、テーパ部58は、テーパ部54と大凡平行である。
【0037】
テーパ部58には、ヘッド隔壁50側に突出する複数の突起60が形成される。複数の突起60は、複数の突起56とピストン18の摺動方向において互い違いに位置している。複数の突起60は、ピストン隔壁52の全周に亘って等間隔に形成される。ただし、複数の突起60は、ピストン隔壁52の全周に亘って不等間隔に形成されてもよい。
【0038】
図3は、本実施形態の副燃焼室形成構造48の概略側面図である。図4は、本実施形態のピストン隔壁52の概略上面図である。図3に示すように、ヘッド隔壁50は、点火プラグ46を囲繞し、ヘッド隔壁50内に点火プラグ46を収容している。インジェクタ44は、点火プラグ46から離隔して配され、ヘッド隔壁50外に配される。インジェクタ44の噴射孔は、ヘッド隔壁50内に露出せずに、ヘッド隔壁50外に露出している。
【0039】
ヘッド隔壁50は、インジェクタ44の噴射方向(図3中、矢印方向)に沿ってシリンダヘッド14の内壁面からの高さ(ピストン18の摺動方向の長さ)が変化する。換言すれば、ヘッド隔壁50は、ピストン18の摺動方向と直交し点火プラグ46を通過する断面からの高さが、インジェクタ44の噴射方向に沿って変化する。具体的に、ヘッド隔壁50は、インジェクタ44の噴射方向上流側の高さが、インジェクタ44の噴射方向下流側の高さより高い。換言すれば、ヘッド隔壁50は、インジェクタ44に近接する側の高さが、インジェクタ44から離隔する側の高さより高い。
【0040】
ヘッド隔壁50は、インジェクタ44から離隔する(インジェクタ44の噴射方向の下流側)ほど、高さが漸減する。つまり、ヘッド隔壁50は、インジェクタ44に最も近接する部位の高さが最も高く、インジェクタ44から最も離隔する部位の高さが最も低い。
【0041】
ピストン隔壁52は、インジェクタ44の噴射方向(図3中、矢印方向)に沿ってピストン18の冠面18aからの高さが変化する。具体的に、ピストン隔壁52は、インジェクタ44の噴射方向上流側の高さが、インジェクタ44の噴射方向下流側の高さより低い。換言すれば、ピストン隔壁52は、インジェクタ44に近接する側の高さが、インジェクタ44から離隔する側の高さより低い。
【0042】
ピストン隔壁52は、インジェクタ44から離隔する(インジェクタ44の噴射方向の下流側)ほど、高さが漸増する。つまり、ピストン隔壁52は、インジェクタ44に最も近接する部位の高さが最も低く、インジェクタ44から最も離隔する部位の高さが最も高い。
【0043】
ピストン隔壁52内には、窪み部62が形成される。窪み部62は、ピストン18の冠面18aに対し、シリンダヘッド14(ヘッド隔壁50)から離隔する方向に窪んでいる。窪み部62の底面には、溝64が形成される。このように、ピストン隔壁52の内壁面には、窪み部62および溝64が形成される。
【0044】
図4に示すように、溝64は、窪み部62の中央部に形成される。また、図3および図4に示すように、溝64は、インジェクタ44の噴射方向(図3および図4中、矢印方向)に沿って延在する。図3に示すように、溝64は、窪み部62(ピストン隔壁52)の中心軸およびインジェクタ44の噴射方向(図3中、矢印方向)含む断面形状が円弧形状(曲線形状)である。溝64は、窪み部62(ピストン隔壁52)の中心に近接するほど、深さが深くなる。
【0045】
図5は、ヘッド隔壁50とピストン隔壁52とが近接した状態を示す図である。図5に示すように、ヘッド隔壁50およびピストン隔壁52は、互いに近接すると、燃焼室22内を2つの空間に区画する。ヘッド隔壁50およびピストン隔壁52は、燃焼室22を、主燃焼室22aと、副燃焼室22bとに区画する。
【0046】
主燃焼室22aは、シリンダヘッド14(図1参照)の内壁面と、シリンダボア16(図1参照)の内壁面と、ピストン18の冠面18aと、ヘッド隔壁50の外壁面と、ピストン隔壁52の外壁面とで囲まれた空間により形成される。
【0047】
副燃焼室22bは、ヘッド隔壁50の内壁面とピストン隔壁52の内壁面とで囲まれた空間により形成される。主燃焼室22aは、副燃焼室22bよりもピストン18の径方向外側に形成される。
【0048】
図6は、インジェクタ44を先端側から見た図である。図7は、図6に示すVII-VII線概略断面図である。図7中、燃料の流れを実線矢印で示し、信号の流れを破線矢印で示す。図6に示すように、インジェクタ44は、内管66と、外管68とを含んで構成される二重管構造である。
【0049】
内管66は、インジェクタ44の中心部に配され、外管68は、内管66よりもインジェクタ44の径方向外側に配される。内管66は、インジェクタ44の中心軸と直交する断面が大凡円形状である。外管68は、インジェクタ44の中心軸と直交する断面が大凡円環形状である。
【0050】
インジェクタ44の先端には、内管66と連通する1つの噴射孔66aが形成される。噴射孔66aは、インジェクタ44の中心軸上に位置する。また、インジェクタ44の先端には、外管68と連通する複数(本実施形態では、12個)の噴射孔68aが形成される。複数の噴射孔68aは、インジェクタ44の周方向に等間隔に配される。ただし、複数の噴射孔68aは、インジェクタ44の周方向に不等間隔に配されてもよい。
【0051】
図7に示すように、内管66には、内管ニードル66bと、内管スプリング66cと、内管ソレノイド66dとが配される。内管ニードル66bは、内管66の噴射孔66aに近接(当接)するとき、噴射孔66aを閉塞する。内管ニードル66bは、内管66の噴射孔66aから離隔するとき、噴射孔66aを開放する。
【0052】
内管スプリング66cは、内管ニードル66bを噴射孔66aに近接する方向に押圧する。内管ソレノイド66dは、詳しくは後述するように、電力が供給されると内管ニードル66bを吸引し、噴射孔66aから離隔させる。
【0053】
外管68には、外管ニードル68bと、外管スプリング68cと、外管ソレノイド68dとが配される。外管ニードル68bは、外管68の噴射孔68aに近接(当接)するとき、噴射孔68aを閉塞する。外管ニードル68bは、外管68の噴射孔68aから離隔するとき、噴射孔68aを開放する。
【0054】
外管スプリング68cは、外管ニードル68bを噴射孔68aに近接する方向に押圧する。外管ソレノイド68dは、詳しくは後述するように、電力が供給されると外管ニードル68bを吸引し、噴射孔68aから離隔させる。
【0055】
内管ソレノイド66dおよび外管ソレノイド68dは、ECU100と電気的に接続される。ECU100は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含むマイクロコンピュータでなり、エンジン10(図1参照)を統括制御する。本実施形態では、ECU100は、エンジン10を制御する際、駆動制御部102として機能する。
【0056】
駆動制御部102は、エンジン10およびエンジン10が搭載される車両に設けられた各種センサから出力される信号に基づいて、インジェクタ44の燃料噴射量および燃料噴射タイミングを決定する。駆動制御部102は、決定した燃料噴射量および燃料噴射タイミングに基づいて、内管ソレノイド66dおよび外管ソレノイド68dを制御する。
【0057】
つぎに、エンジン10が希薄燃焼を行う際の動作について説明する。駆動制御部102は、エンジン10の吸気行程あるいは圧縮行程時に、外管ソレノイド68dに電力を供給し、外管ニードル68bを複数の噴射孔68aから離隔させる。外管ニードル68bが複数の噴射孔68aから離隔すると、インジェクタ44は、複数の噴射孔68aを介して燃焼室22に燃料を噴射する。このとき、内管ニードル66bは、噴射孔66aに近接し、噴射孔66aを閉塞している。
【0058】
図8は、複数の噴射孔68aから燃料Fが噴射される様子を示した図である。図8に示すように、複数の噴射孔68aは、ピストン18の冠面18aの外周部に向けて燃料Fを噴射する。燃料Fは、ピストン隔壁52外の主燃焼室22aに供給される。
【0059】
このとき、ECU100は、燃焼室22と連通する2つの吸気ポート28(図1参照)のうち一方を閉じるように制御することで、燃焼室22内にスワール流を発生させる。例えば、ECU100は、2つの吸気ポート28に配された2つの吸気バルブ32(図1参照)のうち一方を開状態に制御し、他方を閉状態に制御することで、燃焼室22内にスワール流を発生させる。
【0060】
燃焼室22内にスワール流が発生することで、複数の噴射孔68aから噴射された燃料Fは、主燃焼室22a内をピストン18の周方向に移動する。これにより、複数の噴射孔68aから噴射された燃料Fは、ピストン18の外周側に位置する主燃焼室22aから、ピストン18の中央側に位置する副燃焼室22bに流入し難くなる。
【0061】
駆動制御部102は、エンジン10の圧縮行程の終了間際(すなわち、燃焼行程の開始直前)に、内管ソレノイド66dに電力を供給し、内管ニードル66bを噴射孔66aから離隔させる。内管ニードル66bが噴射孔66aから離隔すると、インジェクタ44は、噴射孔66aを介して燃焼室22に燃料Fを噴射する。このとき、複数の噴射孔68aは、外管ニードル68bに近接し、外管ニードル68bを閉塞している。
【0062】
図9は、噴射孔66aから燃料Fが噴射される様子を示した図である。図9に示すように、噴射孔66aは、ピストン18の冠面18aの中央部に向けて燃料Fを噴射する。燃料Fは、ピストン隔壁52内の副燃焼室22bに供給される。このとき、ピストン隔壁52は、ヘッド隔壁50に近接しており、副燃焼室22bが閉じかかっている。
【0063】
ここで、駆動制御部102は、複数の噴射孔68aを介して主燃焼室22aに供給する燃料Fの供給量と、噴射孔66aを介して副燃焼室22bに供給する燃料Fの供給量とを大凡等しくする。しかし、副燃焼室22bの容積は、主燃焼室22aの容積に比べて小さいため、副燃焼室22bの空燃比は、主燃焼室22aの空燃比よりも小さくなる。換言すれば、副燃焼室22b内の混合気は、主燃焼室22aの混合気よりもリッチになる。本実施形態では、副燃焼室22bの空燃比を理論空燃比とし、主燃焼室22aの空燃比を理論空燃比よりも大きくする(すなわち、リーン混合気とする)。
【0064】
図10は、副燃焼室22b内に供給された燃料Fの様子を示した図である。図10に示すように、副燃焼室22b内に供給された燃料Fは、窪み部62に流入し、窪み部62の底面に形成される溝64に到達する。溝64に到達した燃料Fは、溝64の延在方向、すなわち、インジェクタ44(図9参照)の噴射方向(図10中、白抜き矢印方向)に沿って移動する。
【0065】
上述したように、溝64は、断面が円弧形状に形成される。したがって、燃料Fは、溝64の円弧形状に沿って移動し、図10に示すように、副燃焼室22b内にタンブル流を形成する。このように、ピストン隔壁52の内壁面に溝64が形成されることで、副燃焼室22b内にタンブル流を発生させることができる。
【0066】
このとき、上述したように、主燃焼室22aではスワール流が形成されるため、主燃焼室22aの流れが副燃焼室22b内に流入し難く、副燃焼室22b内でのタンブル流の形成が阻害され難くなっている。また、主燃焼室22aではスワール流が形成されているため、主燃焼室22aの流れが副燃焼室22b内に流入し難く、副燃焼室22b内のリッチな混合気と主燃焼室22a内のリーンな混合気とが混合され難くなっている。
【0067】
図11は、点火プラグ46が燃料Fを点火する様子を示した図である。図11に示すように、ヘッド隔壁50およびピストン隔壁52は、エンジン10の燃焼行程時において、内部に副燃焼室22bを形成する。点火プラグ46は、エンジン10の燃焼行程時に、駆動制御部102により点火される。点火プラグ46が点火されると、副燃焼室22b内の燃料F(図10参照)は、着火し、燃焼する。上述したように、副燃焼室22bの空燃比は理論空燃比となっているため、点火プラグ46は、副燃焼室22b内の燃料Fを容易に着火させることができる。
【0068】
副燃焼室22b内で燃焼した燃料Fの火炎は、複数の突起56、60の間の隙間を介して、副燃焼室22bから主燃焼室22aに図11中、白抜き矢印方向に向かって放射状に流出する。主燃焼室22aに流出した火炎は、主燃焼室22a内の混合気を燃焼させる。
【0069】
このとき、副燃焼室22b内で燃焼した燃料Fの火炎は、副燃焼室22bの中心から径方向外側に向かってジェット状に噴射されるため、主燃焼室22a内で発生する希薄燃焼(リーン燃焼)が失火し難い。
【0070】
図12は、比較例の副燃焼室形成構造148の概略側面図である。図12に示すように、比較例のエンジン10Aは、副燃焼室形成構造148を備える。比較例の副燃焼室形成構造148は、本実施形態の副燃焼室形成構造48のテーパ部54、58の代わりに、平行部154、158を備える点のみ相違する。
【0071】
平行部154、158は、ピストン18の摺動方向(図12中、両矢印方向)と直交する面(すなわち、基準面)と平行に形成される。インジェクタ44は、エンジン10Aの圧縮行程の終了間際(すなわち、燃焼行程の開始直前)に、噴射孔66aから副燃焼室22b内に向けて燃料Fを噴射する。このとき、燃料Fのうち、図12中、ハッチングで示した部分は、ピストン隔壁52の外壁面に到達し、副燃焼室22b内に流入し難くなる。
【0072】
そのため、インジェクタ44から副燃焼室22b内に向けて燃料Fを噴射しても、副燃焼室22b内の空燃比が理論空燃比になり難く、点火プラグ46は、副燃焼室22b内の燃料Fを着火し難くなる。その結果、比較例のエンジン10Aは、希薄燃焼を行うことが困難になる。
【0073】
これに対し、本実施形態の副燃焼室形成構造48は、ヘッド隔壁50に形成されたテーパ部54およびピストン隔壁52に形成されたテーパ部58を備える。ピストン隔壁52は、テーパ部58を備えることで、インジェクタ44に近接する側の冠面18aからの高さが、インジェクタ44から離隔する側の冠面18aの高さより小さくなる。
【0074】
これにより、図9に示すように、インジェクタ44の噴射孔66aから噴射される燃料Fは、ピストン隔壁52の外壁面に阻害され難く、ピストン隔壁52内に流入し易くなる。その結果、副燃焼室22b内の空燃比を理論空燃比とすることができ、点火プラグ46は、副燃焼室22b内の燃料Fを容易に着火させることができる。したがって、本実施形態のエンジン10は、希薄燃焼を容易に行うことができる。
【0075】
以上のように、本実施形態のエンジン10は、テーパ部54、58が形成された副燃焼室形成構造48を備える。これにより、エンジン10は、希薄燃焼の着火性を向上させることができる。
【0076】
また、ピストン隔壁52は、溝64を備える。これにより、副燃焼室22b内にタンブル流を形成することができ、急速燃焼により副燃焼室22b内の燃焼安定性を向上させることができる。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0078】
上記実施形態では、副燃焼室22b内の空燃比が理論空燃比となる例について説明した。しかし、これに限定されず、副燃焼室22b内の空燃比は、理論空燃比と異なっていてもよい。例えば、副燃焼室22b内の空燃比は、主燃焼室22a内の空燃比より小さく(濃く)、かつ、通常の点火プラグで点火可能な範囲において理論空燃比より大きく(薄く)設定されてもよい。
【0079】
上記実施形態では、ヘッド隔壁50に形成された複数の突起56が、ピストン隔壁52に形成された複数の突起60と、ピストン18の摺動方向において互い違いに位置する例について説明した。しかし、これに限定されず、複数の突起56は、複数の突起60とピストン18の摺動方向に対向して配置されてもよい。また、上記実施形態では、複数の突起56と複数の突起60の双方が形成される例について説明した。しかし、ヘッド隔壁50およびピストン隔壁52は、副燃焼室22b内で燃焼した燃料Fの火炎が副燃焼室22bの中心から径方向外側に向かってジェット状に噴射される構造(隙間)を有すればよい。したがって、ヘッド隔壁50およびピストン隔壁52には、複数の突起56と複数の突起60の双方が形成されなくてもよい。例えば、ヘッド隔壁50には、複数の突起56が形成され、ピストン隔壁52には、複数の突起60が形成されなくてもよい。また、ヘッド隔壁50には、複数の突起56が形成されずに、ピストン隔壁52には、複数の突起60が形成されてもよい。換言すれば、ヘッド隔壁50とピストン隔壁52との間には、ヘッド隔壁50とピストン隔壁52とが最も近接した状態で、周方向の少なくとも一部において副燃焼室22bと主燃焼室22aとを連通する隙間が形成されていればよい。つまり、ヘッド隔壁50とピストン隔壁52との間には、周方向の少なくとも一部において副燃焼室22b内で燃焼した燃料Fの火炎が流出するための隙間が形成されていればよい。
【0080】
上記実施形態では、ピストン隔壁52内に窪み部62が形成される例について説明した。しかし、窪み部62は、必須の構成ではない。したがって、ピストン隔壁52内には、窪み部62が形成されていなくてもよい。また、上記実施形態では、ピストン隔壁52内に溝64が形成される例について説明した。しかし、溝64は、必須の構成ではない。したがって、ピストン隔壁52内には、溝64が形成されていなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、エンジンに利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
12 シリンダブロック
14 シリンダヘッド
18 ピストン
18a 冠面
44 インジェクタ
46 点火プラグ
50 ヘッド隔壁
52 ピストン隔壁
64 溝
66a、68a 噴射孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12