(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】パワーユニットの振動抑制装置
(51)【国際特許分類】
B60K 5/12 20060101AFI20230726BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230726BHJP
F16F 15/027 20060101ALI20230726BHJP
F16F 9/53 20060101ALI20230726BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
B60K5/12 Z
F16F15/02 B
F16F15/027
F16F9/53
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2019176554
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】平尾 敏廣
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 直人
(72)【発明者】
【氏名】莊司 武
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-28299(JP,A)
【文献】特開2010-142058(JP,A)
【文献】特開2011-201433(JP,A)
【文献】特開2001-39290(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0149240(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 5/12
F16F 15/02
F16F 9/53
B60L 15/20
B60W 10/06
B60W 10/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行用動力源を有するパワーユニットと、
前記パワーユニットが搭載される車体と、
前記パワーユニットと前記車体との間に設けられた弾性体と
を備える車両のパワーユニットの振動抑制装置であって、
前記パワーユニットのピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆を検出するピッチング検出部と、
前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記弾性体のばね特性と減衰特性との少なくとも一方を、前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる弾性体制御部とを有
し、
前記弾性体は、前記パワーユニットの前記ピッチング挙動において一方へ変位する場合と他方へ変位する場合とでばね特性と減衰特性との少なくとも一方を異ならせたこと
を特徴とするパワーユニットの振動抑制装置。
【請求項2】
車両の走行用動力源を有するパワーユニットと、
前記パワーユニットが搭載される車体と、
前記パワーユニットと前記車体との間に設けられた弾性体と
を備える車両のパワーユニットの振動抑制装置であって、
前記パワーユニットのピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆を検出するピッチング検出部と、
前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記弾性体のばね特性と減衰特性との少なくとも一方を、前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる弾性体制御部とを有し、
前記ピッチング検出部は、前記パワーユニットの出力軸と車輪との回転速度差に基づいて前記ピッチング挙動を検出すること
を特徴とするパワーユニットの振動抑制装置。
【請求項3】
前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記パワーユニットの出力を前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる出力制御部を有すること
を特徴とする請求項1
又は請求項2に記載のパワーユニットの振動抑制装置。
【請求項4】
車両の走行用動力源を有するパワーユニットと、
前記パワーユニットが搭載される車体と、
前記パワーユニットと前記車体との間に設けられた弾性体と
を備える車両のパワーユニットの振動抑制装置であって、
前記パワーユニットのピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆を検出するピッチング検出部と、
前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記パワーユニットの出力を前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる出力制御部を有
し、
前記弾性体は、前記パワーユニットの前記ピッチング挙動において一方へ変位する場合と他方へ変位する場合とでばね特性と減衰特性との少なくとも一方を異ならせたこと
を特徴とするパワーユニットの振動抑制装置。
【請求項5】
車両の走行用動力源を有するパワーユニットと、
前記パワーユニットが搭載される車体と、
前記パワーユニットと前記車体との間に設けられた弾性体と
を備える車両のパワーユニットの振動抑制装置であって、
前記パワーユニットのピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆を検出するピッチング検出部と、
前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記パワーユニットの出力を前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる出力制御部を有し、
前記ピッチング検出部は、前記パワーユニットの出力軸と車輪との回転速度差に基づいて前記ピッチング挙動を検出すること
を特徴とす
るパワーユニットの振動抑制装置。
【請求項6】
前記ピッチング検出部は、アンチロックブレーキ制御又はトラクションコントロール制御の介入時に前記ピッチング挙動の前兆を検出すること
を特徴とする請求項1
又は請求項4に記載のパワーユニットの振動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるパワーユニットの振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジン、モータ等の走行用動力源や、トランスミッション等からなるパワーユニットは、車体への振動伝搬を絶縁するため、ゴム等の弾性体を有するマウントを介して車体に取り付けられている。
車両のパワーユニット支持構造に関する従来技術として、例えば特許文献1には、回生制動初期のパワーユニットの振動を抑制し、制動の応答性を高めるため、マウントブッシュとして可変オリフィスの制御によってバネ定数を変更可能とした液封可変オリフィスマウントとし、車両の減速時にバネ定数を大きくしてパワーユニットに振れを抑制することが記載されている。
特許文献2には、回転電機、遊星歯車機構、減速装置、及び、差動装置を含む動力伝達装置を含む駆動ユニットのマウント装置において、回生制動時に回転電機で発生する振動とは逆相の振動を発生するようマウント装置を作動させることが記載されている。
特許文献3には、パワーユニットの振幅及び周波数及びサスペンション部品の加速度を基準信号とし、車体の加速度を誤差信号としてこの誤差信号が最小となるように、車体とパワーユニットの間に装着された加振手段の作動を適応制御することが記載されている。
特許文献4には、電動走行時にモータが収納されたトランスミッションケースにモータの駆動に伴って生じる振動の周波数範囲における動ばね定数が所定値以上の状態となるようトランスミッションマウントを制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平 9-215104号公報
【文献】特開2007-255556号公報
【文献】特開平 6-109072号公報
【文献】特開2011-218923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パワーユニットの支持構造においては、振動及び騒音の抑制の観点からは、弾性体のバネ定数を極力低くすることが好ましいが、この場合、パワーユニットのピッチングによる変位量(振幅)を抑制することが困難となる。
特に、走行用動力源として電動モータを有する電動車両の場合には、一般的な内燃エンジンに対して低速トルクが大きいことから、ピッチング挙動の発生がよりシビアとなる傾向にある。
これに対し、例えばパワーユニットの支持剛性を可変とし、ピッチング挙動が発生しやすい所定の条件下で剛性を高めることも考えられるが、単純に剛性を高めた場合には振動絶縁性能が損なわれ、ピッチング挙動は抑制できたとしてもそれ以外の振動、騒音が問題となることが懸念される。
また、上記特許文献2,3に記載したように、パワーユニットの振動を抑制する方向にパワーユニットを加振することも考えられるが、この場合、加振装置やその駆動装置などが必要となって装置構成が複雑化し、車両の重量、コスト等も増加してしまう。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、パワーユニットの支持剛性を過度に高くすることなく簡単な構成によりパワーユニットのピッチング挙動に起因する車体振動を抑制したパワーユニットの振動抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、車両の走行用動力源を有するパワーユニットと、前記パワーユニットが搭載される車体と、前記パワーユニットと前記車体との間に設けられた弾性体とを備える車両のパワーユニットの振動抑制装置であって、前記パワーユニットのピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆を検出するピッチング検出部と、前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記弾性体のばね特性と減衰特性との少なくとも一方を、前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる弾性体制御部とを有し、前記弾性体は、前記パワーユニットの前記ピッチング挙動において一方へ変位する場合と他方へ変位する場合とでばね特性と減衰特性との少なくとも一方を異ならせたことを特徴とするパワーユニットの振動抑制装置である。
パワーユニットのピッチング挙動の振幅等が同等であっても、その波形が正弦波に対して崩れた波形である場合には、振動ピークの周波数帯域が広がることで振動エネルギが低減し、乗員が体感する振動レベルが抑制される。
本発明によれば、弾性体のばね特性と減衰特性との少なくとも一方をピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させることにより、挙動の方向に応じて固有振動数を変化させ、パワーユニットのピッチング挙動量の波形を正弦波に対して崩れた波形とすることができ、乗員が体感する振動レベルを低減し、不快感を抑制することができる。
また、ピッチング挙動における一方側への動きと他方側への動きの速さを異ならせることが可能となり、ピッチング挙動の波形を正弦波からより乖離させることができる。
請求項2に係る発明は、車両の走行用動力源を有するパワーユニットと、前記パワーユニットが搭載される車体と、前記パワーユニットと前記車体との間に設けられた弾性体とを備える車両のパワーユニットの振動抑制装置であって、前記パワーユニットのピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆を検出するピッチング検出部と、前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記弾性体のばね特性と減衰特性との少なくとも一方を、前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる弾性体制御部とを有し、前記ピッチング検出部は、前記パワーユニットの出力軸と車輪との回転速度差に基づいて前記ピッチング挙動を検出することを特徴とするパワーユニットの振動抑制装置である。
これによれば、一般的な車両であれば通常検出しているパラメータを利用して、新規なセンサ等を設けることなくパワーユニットのピッチング挙動を適切に検出することができる。
【0006】
請求項3に係る発明は、前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記パワーユニットの出力を前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる出力制御部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーユニットの振動抑制装置である。
請求項4に係る発明は、車両の走行用動力源を有するパワーユニットと、前記パワーユニットが搭載される車体と、前記パワーユニットと前記車体との間に設けられた弾性体とを備える車両のパワーユニットの振動抑制装置であって、前記パワーユニットのピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆を検出するピッチング検出部と、前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記パワーユニットの出力を前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる出力制御部を有し、前記弾性体は、前記パワーユニットの前記ピッチング挙動において一方へ変位する場合と他方へ変位する場合とでばね特性と減衰特性との少なくとも一方を異ならせたことを特徴とするパワーユニットの振動抑制装置である。
これらの各発明によれば、パワーユニットの出力をパワーユニットのピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させることにより、ピッチング挙動の振動エネルギを変位方向に応じて変化させ、パワーユニットのピッチング挙動量の波形を正弦波に対して崩れた波形とすることができ、乗員が体感する振動レベルを低減し、不快感を抑制することができる。
【0007】
また、請求項4に係る発明によれば、ピッチング挙動における一方側への動きと他方側への動きの速さを異ならせることが可能となり、ピッチング挙動の波形を正弦波からより乖離させることができる。
【0008】
請求項5に係る発明は、車両の走行用動力源を有するパワーユニットと、前記パワーユニットが搭載される車体と、前記パワーユニットと前記車体との間に設けられた弾性体とを備える車両のパワーユニットの振動抑制装置であって、前記パワーユニットのピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆を検出するピッチング検出部と、前記ピッチング挙動又は前記ピッチング挙動の前兆の検出に応じて、前記パワーユニットの出力を前記ピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させる出力制御部を有し、前記ピッチング検出部は、前記パワーユニットの出力軸と車輪との回転速度差に基づいて前記ピッチング挙動を検出することを特徴とするパワーユニットの振動抑制装置である。
これによれば、一般的な車両であれば通常検出しているパラメータを利用して、新規なセンサ等を設けることなくパワーユニットのピッチング挙動を適切に検出することができる。
【0009】
請求項6に係る発明は、前記ピッチング検出部は、アンチロックブレーキ制御又はトラクションコントロール制御の介入時に前記ピッチング挙動の前兆を検出することを特徴とする請求項1又は請求項4に記載のパワーユニットの振動抑制装置である。
これによれば、車輪側からパワーユニット側への加振力が著大となり得る制御の介入時にピッチング挙動の前兆があるものとして、制振制御を介入させることにより、ピッチング挙動が著大となることを未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、パワーユニットの支持剛性を過度に高くすることなく簡単な構成によりパワーユニットのピッチング挙動に起因する車体振動を抑制したパワーユニットの振動抑制装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用したパワーユニットの振動抑制装置の第1実施形態が設けられるパワーユニットの構成を模式的に示す図である。
【
図2】第1実施形態のパワーユニットの振動抑制装置の制御システム構成を示す図である。
【
図3】第1実施形態のパワーユニットの振動抑制装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】第1実施形態のパワーユニットの振動抑制装置において防振制御を介入させた場合のピッチング挙動を示す図である。
【
図5】本発明を適用したパワーユニットの振動抑制装置の第2実施形態の動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明を適用したパワーユニットの振動抑制装置の第3実施形態の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用したパワーユニットの振動抑制装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態のパワーユニットの振動抑制装置は、例えば、エンジン-電気ハイブリッド車両である乗用車等の自動車に搭載されるものである。
図1は、第1実施形態のパワーユニット振動抑制装置が設けられるパワーユニットの構成を模式的に示す図である。
【0013】
パワーユニット1は、エンジン100及びトランスミッション200を剛体的に結合して構成されている。
エンジン100は、例えば、水平対向4気筒のガソリン直噴エンジンである。
トランスミッション200は、変速機構、モータジェネレータ、AWDトランスファ、フロントディファレンシャル等を、共通の筐体であるトランスミッションケース210に収容して構成されたトランスアクスルである。
【0014】
トランスミッションケース210には、トルクコンバータ220、入力クラッチ230、前後進切換部240、変速機構部250、出力クラッチ260、フロントディファレンシャル270、トランスファクラッチ280、モータジェネレータ290等が収容されている。
【0015】
トルクコンバータ220は、エンジン100の出力軸と入力クラッチ230の入力軸との間に設けられた流体継手である。
トルクコンバータ220は、エンジン100の出力軸と接続されたインペラ、入力クラッチ230の入力軸と接続されたタービン、及び、これらの間に配置されたステータ等を有する。
また、トルクコンバータ220は、図示しないトランスミッション制御ユニットからの指令に応じて、インペラとタービンとを拘束するロックアップクラッチを備えている。
【0016】
入力クラッチ230は、トルクコンバータ220と前後進切換部240との間で駆動力を伝達可能な接続状態と、駆動力が遮断される切断状態とを選択可能なクラッチである。
入力クラッチ230は、例えば、車両がモータジェネレータ290の出力のみで走行するEV走行モードなどにおいて切断される。
【0017】
前後進切換部240は、入力クラッチ230と変速機構部250との間に設けられ、入力クラッチ230の出力軸と変速機構部250の入力軸とが直結される前進状態と、回転が逆転される後進状態とを切り換えるものである。
前後進切換部240は、例えば、プラネタリギア機構などを有して構成されている。
【0018】
変速機構部(バリエータ)250は、前後進切換部240から入力される回転を、所定の変速比で減速又は増速するものである。
変速機構部250は、例えば、チェーン式無段変速機(CVT)として構成されている。
変速機構部250は、プライマリプーリ251、セカンダリプーリ252、チェーン253等を有して構成されている。
プライマリプーリ251は、変速機構部250の入力軸に設けられている。
セカンダリプーリ252は、プライマリプーリ251と隣接し、プライマリプーリ251の回転中心軸と並行に配置された変速機構部250の出力軸に設けられている。
プライマリプーリ251、セカンダリプーリ252は、軸方向に相対変位して間隔を変更することができる一対のシーブをそれぞれ有して構成されている。
チェーン253は、プライマリプーリ251、セカンダリプーリ252に掛け回され、これらの間で動力を伝達する環状の部材である。
変速機構部250は、トランスミッション制御ユニットからの指令に応じてプライマリプーリ251、セカンダリプーリ252のシーブ間隔を変化させることによって有効径を変化させ、変速比を無段階に変化させることができる。
【0019】
出力クラッチ260は、変速機構部250のセカンダリプーリ252からフロントディファレンシャル270及びトランスファクラッチ280に動力を伝達可能な接続状態と、動力を遮断する切断状態とを切り換えるものである。
出力クラッチ260は、例えば、車両の停車中にエンジン100の出力によってモータジェネレータ290を駆動して発電を行い、バッテリに充電する場合などに切断される。
【0020】
フロントディファレンシャル270は、出力クラッチ260から伝達される動力を減速するとともに、図示しないフロントドライブシャフトを介して図示しない前輪へ伝達するものである。
フロントディファレンシャル270は、最終減速装置、及び、旋回などによる左右前輪の回転速度差を吸収する差動機構などを有する。
【0021】
トランスファクラッチ280は、出力クラッチ260から伝達される動力を、図示しないプロペラシャフトを介して後輪を駆動する図示しないリアディファレンシャルに伝達する動力伝達機構に設けられたクラッチである。
トランスファクラッチ280の締結力(拘束力)は、車両の走行状態に応じて、トランスミッション制御ユニットからの指令に応じて適宜変更される。
【0022】
モータジェネレータ290は、変速機構部250のプライマリプーリ251と同軸に配置された回転電機である。
モータジェネレータ290は、単独で、あるいは、エンジン100の出力をアシストして、車両の走行用動力源として機能する。
また、モータジェネレータ290は、回生発電などにより図示しないバッテリに充電する機能を備えている。
モータジェネレータ290の出力は、後述するモータジェネレータ制御ユニット440により制御されている。
【0023】
上述したパワーユニット1は、エンジンマウント310、トランスミッションマウント320、ピッチングストッパ330を介して車体に取り付けられている。
エンジンマウント310は、エンジン100の下部と、車体のエンジンルーム下部に設けられたサスペンションクロスメンバ311との間に設けられた弾性体マウントである。
エンジンマウント310は、例えば、車幅方向に離間して一対設けられている。
【0024】
トランスミッションマウント320は、トランスミッションケース210の下部と、車体のフロア下部に設けられたトランスミッションクロスメンバ321との間に設けられた弾性体マウントである。
【0025】
ピッチングストッパ330は、トランスミッションケース210の上部と、車体のバルクヘッド部に設けられたブラケット331との間に設けられた弾性体マウントである。
ピッチングストッパ330は、主として、パワーユニットのピッチング方向の挙動を抑制する機能を有する。
ピッチングストッパ330は、前後方向にほぼ沿って延在するロッド状の部材の前後を、ゴム等の弾性体を有する弾性体マウント(弾性体ブッシュ)を介してトランスミッションケース210及びブラケット331にそれぞれ連結して構成されている。
この弾性体マウントの少なくとも一方は、後述する可変剛性マウント420となっている。
【0026】
図2は、第1実施形態のパワーユニットの振動抑制装置の制御システム構成を示す図である。
パワーユニットの振動抑制装置400は、防振制御ユニット410、可変剛性マウント420、マウント制御部430等を有して構成されている。
防振制御ユニット410には、モータジェネレータ制御ユニット440、車速センサ450が接続されている。
【0027】
防振制御ユニット410は、パワーユニット1のピッチング挙動に応じて可変剛性マウント420の剛性を制御し、ピッチング挙動の波形を正弦波から崩すことにより、振動ピークの周波数帯域を分散させて乗員が体感する振動を抑制する機能を有する。
防振制御ユニットは、パワーユニット1のピッチング挙動を検出するピッチング検出部411を有する。ピッチング検出部411によるピッチング挙動の検出手法については後に詳しく説明する。
【0028】
可変剛性マウント420は、ピッチングストッパ330に組み込まれた状態において、パワーユニットのピッチング挙動に沿った方向(例えば、第1実施形態の場合には前後方向)の剛性を変更可能となっている。
このような剛性の変化は、例えば、弾性部材の内部に形成された空洞部に磁気粘性流体を封入するとともに、磁気粘性流体に作用する磁界を変化させること等により実現することが可能である。この場合、磁場の変化に応じて、弾性体の剛性(ばね特性)だけでなく、減衰特性も併せて変化させることが可能である。
また、弾性体の内部に複数の空間部を設けて液体を封入するとともに、空間部間を連通させる通路を開閉させたり、流路抵抗(絞り)を変化させて剛性、減衰特性を変化させてもよい。
また、弾性体に巻き付けた紐状あるいは帯状の部材を、モータ等のアクチュエータで牽引する牽引力を変化させ、弾性体のプリロードを変化させて特性を変化させてもよい。
また、可変剛性マウント420は、剛性可変手段を機能させない状態において、パワーユニットがピッチング挙動の一方側へ変位する際の剛性と、他方側へ変位する際の剛性とが異なるようになっている。
このような特性は、例えば、弾性体の一部にすぐり等の低剛性部を設けたり、あるいは、硬質部材をインサートするなどの高剛性部を設けることによって得ることができる。
【0029】
マウント制御部430は、防振制御ユニット410からの指令に応じて可変剛性マウント420の剛性が変化するよう、剛性可変手段を駆動するドライバ装置である。
マウント制御部430は、防振制御ユニット410と協働して弾性体制御部として機能する。
【0030】
モータジェネレータ制御ユニット440は、上述したモータジェネレータ290及びその補機類を統括的に制御する出力制御部である。
モータジェネレータ制御ユニット440は、モータジェネレータ290の駆動時における出力トルク、回転速度や、回生時における発電量等を制御するものである。
モータジェネレータ290は、出力軸に設けられたロータの回転角度位置を検出するポジションセンサ291を備えている。
ポジションセンサ291の出力は、モータジェネレータ制御ユニット440を介して、防振制御ユニット410に伝達される。
ポジションセンサ291の出力から演算されるロータの回転速度は、変速機構部250やフロントディファレンシャル270等の減速比を乗算することによって、パワーユニット1の出力軸(フロントドライブシャフト)の回転速度に換算することが可能である。
【0031】
車速センサ450は、車輪を回転可能に支持するハブ部に設けられ、車輪の回転速度に比例する周波数の車速信号を出力するものである。
車速センサ450が出力する車速信号は防振制御ユニット410に伝達され、防振制御ユニット410は車輪の回転速度を逐次演算する。
【0032】
以下、第1実施形態のパワーユニットの振動抑制装置の動作について説明する。
図3は、第1実施形態の振動抑制装置400の動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0033】
<ステップS01:車速変動検出>
防振制御ユニット410は、車速センサ450の出力に基づいて、車輪の回転速度変動を検出する。
その後、ステップS02に進む。
【0034】
<ステップS02:モータジェネレータ回転速度変動検出>
防振制御ユニット410は、モータジェネレータ290のポジションセンサ291の出力に基づいて、モータジェネレータ290のロータの回転速度変動を検出する。
ロータの回転速度変動は、トランスミッション200における減速比を乗じることにより、トランスミッション200の出力軸の回転速度変動に読み替えることができる。
その後、ステップS03に進む。
【0035】
<ステップS03:ピッチング挙動量算出>
防振制御ユニット410のピッチング検出部411は、ステップS01において検出した車輪の回転速度変動と、ステップS02において検出したモータジェネレータ290のロータの回転速度変動とに基づいて、パワーユニットのピッチング挙動量を算出する。
具体的には、車輪の回転速度と、ロータの回転速度から換算されるフロントドライブシャフトの回転速度との差分に基づいて、パワーユニットのピッチング挙動量(ピッチング挙動の角速度)を算出することができる。
その後、ステップS04に進む。
【0036】
<ステップS04:ピッチング挙動量判断>
防振制御ユニット410は、ステップS03において算出したピッチング挙動量を予め設定された閾値と比較する。
ピッチング挙動量が閾値以上である場合は、防振制御を介入するためにステップS05に進み、その他の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0037】
<ステップS05:マウント剛性制御>
防振制御ユニット410は、マウント制御部430に指令を与え、可変剛性マウント420の剛性を、ピッチング挙動の周波数と同じ周波数で変化するようピッチング挙動と同期させて制御する。
例えば、パワーユニット1が車体に対して一方側へ揺動する際には可変剛性マウント420の剛性が相対的に高くなるようにし、他方側へ揺動する際には相対的に低くなるようにする。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0038】
図4は、第1実施形態のパワーユニットの振動抑制装置において防振制御を介入させた場合のピッチング挙動を示す図である。
図4において、横軸は時間を示し、縦軸はパワーユニット1の車体に対するピッチング方向の変位を示している。
ステップS05のような制振制御を介入させない場合には、パワーユニット1は、
図4に破線で示すような略正弦波状のピッチング挙動を示す。
これに対し、制振制御を介入させた場合には、
図4に実戦で示すように、正弦波に対してピッチング挙動の波形を崩すことができる。
これにより、振動ピークが特定の周波数に定まらなくなって広帯域化し、乗員が体感するピッチング振動を抑制することができる。
【0039】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)パワーユニット1のピッチング挙動の振幅等が同等であっても、その波形が正弦波に対して崩れた波形である場合には、振動ピークの周波数帯域が広がることで振動エネルギが低減し、乗員が体感する振動レベルが抑制される。
第1実施形態においては、可変剛性マウント420の剛性、減衰特性をパワーユニット1のピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させることにより、ピッチング挙動量の波形を正弦波に対して崩れた波形とすることができ、乗員が体感する振動レベルを低減し、不快感を抑制することができる。
(2)可変剛性マウント420を、パワーユニット1のピッチング挙動において一方へ変位する場合と他方へ変位する場合とで剛性が異なるように構成したことにより、ピッチング挙動における一方側への動きと他方側への動きの速さを異ならせることが可能となり、ピッチング挙動の波形を正弦波からより乖離させることができる。
(3)ピッチング検出部411は、パワーユニット1の出力軸の回転速度差に読み替えることが可能なモータジェネレータ290のロータの回転速度差と、車輪との回転速度差に基づいてピッチング挙動を検出することにより、一般的な車両であれば通常検出しているパラメータを利用して、新規なセンサ等を設けることなくパワーユニット1のピッチング挙動を適切に検出することができる。
【0040】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用したパワーユニットの振動抑制装置の第2実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態において、上述した第1実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0041】
第2実施形態においては、第1実施形態におけるパワーユニットのピッチング周期と同期した可変剛性マウント420の制御に代えて、以下説明するモータジェネレータ290の出力制御を行っている。
図5は、第2実施形態の振動抑制装置400の動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0042】
<ステップS11:車速変動検出>
防振制御ユニット410は、車速センサ450の出力に基づいて、車輪の回転速度変動を検出する。
その後、ステップS12に進む。
【0043】
<ステップS12:モータジェネレータ回転速度変動検出>
防振制御ユニット410は、モータジェネレータ290のポジションセンサ291の出力に基づいて、モータジェネレータ290のロータの回転速度変動を検出する。
その後、ステップS13に進む。
【0044】
<ステップS13:ピッチング挙動量算出>
防振制御ユニット410のピッチング検出部411は、ステップS01において検出した車輪の回転速度変動と、ステップS02において検出したモータジェネレータ290のロータの回転速度変動とに基づいて、パワーユニットのピッチング挙動量を算出する。
その後、ステップS14に進む。
【0045】
<ステップS14:ピッチング挙動量判断>
防振制御ユニット410は、ステップS03において算出したピッチング挙動量を予め設定された閾値と比較する。
ピッチング挙動量が閾値以上である場合は、防振制御を介入するためにステップS15に進み、その他の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0046】
<ステップS15:駆動力制御>
防振制御ユニット410は、モータジェネレータ制御ユニット440に指令を与え、モータジェネレータ290の出力トルクを、ピッチング挙動の周波数と同じ周波数で変化するようピッチング挙動と同期させて制御する。
例えば、車輪の回転速度に対してロータの回転速度が増加傾向にある場合にはモータジェネレータ290の出力トルクを低下させ、減少傾向にある場合にはモータジェネレータ290の出力トルクを増加させるようにする。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0047】
以上説明した第2実施形態においては、モータジェネレータ290の出力トルクと相関するパワーユニット1の出力を、パワーユニット1のピッチング挙動と同じ周波数で周期的に変化させることにより、パワーユニット1のピッチング挙動量の波形を正弦波に対して崩れた波形とすることができ、乗員が体感する振動レベルを抑制することができる。
なお、このようなパワーユニット1の出力制御は、単独で、あるいは、第1実施形態のような可変剛性マウント420の剛性制御と併せて行うことが可能である。
【0048】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用したパワーユニットの振動抑制装置の第3実施形態について説明する。
第3実施形態においては、パワーユニット1の実際のピッチング挙動の発生を条件とせず、アンチロックブレーキ制御又はトラクションコントロール制御の介入時にピッチング挙動の前兆があるものとして制振制御を介入させることを特徴とする。
【0049】
図6は、第3実施形態の振動抑制装置400の動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0050】
<ステップS21:アンチロックブレーキ制御・トラクションコントロール制御介入状態検出>
防振制御ユニット410は、車両におけるアンチロックブレーキ制御、トラクションコントロール制御の介入状態を検出する。
アンチロックブレーキ制御は、制動による車輪の固着(ホイールロック)又はその兆候に応じて、当該車輪のホイルシリンダ液圧を周期的に減圧して車輪の回転を回復させるものである。
トラクションコントロール制御は、駆動力が過大なことによる車輪の空転(ホイールスピン)を検出した際に、パワーユニット1の出力抑制及び当該車輪への制動力負荷により空転を抑制するものである。
各制御の介入有無に関する情報を取得した後、ステップS22に進む。
【0051】
<ステップS22;アンチロックブレーキ制御・トラクションコントロール制御介入有無判断>
防振制御ユニット410は、アンチロックブレーキ制御、トラクションコントロール制御のいずれか一方が介入しているか否かを判別する。
いずれか一方が介入している場合はステップS23に進み、それ以外の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0052】
<ステップS23:マウント剛性制御・駆動力制御>
防振制御ユニット410は、第1実施形態のステップS05と同様のマウント剛性制御、及び、第2実施形態のステップS15と同様の駆動力制御を行う。
なお、これらの制御のうちいずれか一方のみを行う構成としてもよい。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0053】
以上説明した第3実施形態によれば、車輪側からパワーユニット1側への加振力が著大となり得る制御の介入時に、ピッチング挙動の前兆があるものとして、制振制御を介入させることにより、パワーユニット1のピッチング挙動が著大となることを未然に防止することができる。
【0054】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車両、パワーユニット、及び、振動抑制装置の構成は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、各実施形態において車両はエンジン電気ハイブリッド車両であったが、本発明はこれに限らず、エンジンあるいは電動モータのみを走行用動力源とする車両にも適用することができる。また、駆動方式、変速機構部の構成、パワーユニットのレイアウト等も特に限定されない。
(2)第1、第2実施形態においては、パワーユニットの出力軸回転速度変化と車輪の回転速度変化とに基づいてピッチング挙動を検出し、第3実施形態においてはアンチロックブレーキ制御、トラクションコントロール制御の介入時にピッチング挙動の前兆を検出していたが、ピッチング挙動及びその前兆を検出する手法はこれらに限らず適宜変更することができる。
(3)パワーユニットを支持する弾性体の構成、配置等は、各実施形態の構成に限らず、適宜変更することが可能である。また、弾性体のばね特性、減衰特性を変化させる手法も限定されない。
【符号の説明】
【0055】
1 パワーユニット 100 エンジン
200 トランスミッション 210 トランスミッションケース
220 トルクコンバータ 230 入力クラッチ
240 前後進切換部 250 変速機構部
251 プライマリプーリ 252 セカンダリプーリ
253 チェーン 260 出力クラッチ
270 フロントディファレンシャル 280 トランスファクラッチ
290 モータジェネレータ
310 エンジンマウント 311 サスペンションクロスメンバ
320 トランスミッションマウント
321 トランスミッションクロスメンバ
330 ピッチングストッパ 331 ブラケット
400 振動抑制装置 410 防振制御ユニット
411 ピッチング検出部 420 可変剛性マウント
430 マウント制御部
440 モータジェネレータ制御ユニット
450 車速センサ