(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/50 20160101AFI20230726BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20230726BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20230726BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20230726BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20230726BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20230726BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20230726BHJP
B60W 30/184 20120101ALI20230726BHJP
【FI】
B60W20/50
F16D48/02 640H
B60K6/485 ZHV
B60K6/543
B60W10/06 900
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60W30/184
(21)【出願番号】P 2019201330
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸円 和博
(72)【発明者】
【氏名】山崎 義暢
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-228121(JP,A)
【文献】特開2017-019399(JP,A)
【文献】特開2013-071499(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151657(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046150(WO,A1)
【文献】特開2015-077849(JP,A)
【文献】特開2016-199157(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0001963(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 10/30
B60W 20/00 - 20/50
F16D 48/02
B60W 30/184
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを備えた車両に適用される車両用制御装置であって、
前記エンジンに連結される電動モータと、
前記エンジンと車輪との間の動力伝達経路に設けられ、作動油供給時に締結状態に制御される一方、作動油排出時に解放状態に制御される油圧クラッチと、
通電状態と非通電状態とに制御されるソレノイドを備え、前記ソレノイドの非通電時に前記油圧クラッチに作動油を供給する一方、前記ソレノイドの通電時に前記油圧クラッチから作動油を排出する電磁制御弁と、
前記エンジンを運転状態に制御し、かつ前記油圧クラッチを締結状態に制御し、エンジン動力を前記車輪に伝達するエンジン走行モードを実行する第1走行制御部と、
前記エンジンを停止状態に制御し、かつ前記油圧クラッチを解放状態に制御し、車両を慣性走行させる慣性走行モードを実行する第2走行制御部と、
前記慣性走行モードが実行された状態のもとで、前記ソレノイドが通電状態から非通電状態に陥った場合に、前記電動モータを駆動してエンジン回転数を上昇させるフェイルセーフ制御部と、
を有する、車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記電動モータは、前記エンジンのクランク軸にベルト機構を介して連結されるモータジェネレータである、
車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用制御装置において、
前記エンジンが停止した状態のもとで、前記電磁制御弁に作動油を供給するオイルポンプを有する、
車両用制御装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の車両用制御装置において、
前記油圧クラッチと前記車輪との間の動力伝達経路に設けられる無段変速機を有する、
車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを備えた車両に適用される車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、動力源としてエンジンが設けられるとともに、エンジンと駆動系との間に油圧クラッチ等のクラッチが設けられている(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-199157号公報
【文献】特許第6457912号公報
【文献】特許第3948147号公報
【文献】特許第3513072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の走行モードとして、油圧クラッチを解放することで駆動系からエンジンを切り離し、車両を慣性で走行させるようにした慣性走行モードがある。この慣性走行モードを実行することにより、駆動系からエンジンを切り離して走行抵抗を抑えることができるため、車両のエネルギー効率を高めて燃費性能を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、油圧クラッチを解放する慣性走行モードにおいて、油圧クラッチを制御する電磁制御弁に断線等の通電異常が発生した場合には、油圧クラッチが締結されてしまう虞がある。このように、慣性走行モードにおいて油圧クラッチが締結されることは、大きな締結ショックを発生させて乗員に違和感を与えてしまう要因となっていた。このため、慣性走行モードで油圧クラッチが締結される場合であっても、油圧クラッチの締結ショックを低減することが求められている。
【0006】
本発明の目的は、慣性走行モードで油圧クラッチが締結される場合であっても、油圧クラッチの締結ショックを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用制御装置は、エンジンを備えた車両に適用される車両用制御装置であって、前記エンジンに連結される電動モータと、前記エンジンと車輪との間の動力伝達経路に設けられ、作動油供給時に締結状態に制御される一方、作動油排出時に解放状態に制御される油圧クラッチと、通電状態と非通電状態とに制御されるソレノイドを備え、前記ソレノイドの非通電時に前記油圧クラッチに作動油を供給する一方、前記ソレノイドの通電時に前記油圧クラッチから作動油を排出する電磁制御弁と、前記エンジンを運転状態に制御し、かつ前記油圧クラッチを締結状態に制御し、エンジン動力を前記車輪に伝達するエンジン走行モードを実行する第1走行制御部と、前記エンジンを停止状態に制御し、かつ前記油圧クラッチを解放状態に制御し、車両を慣性走行させる慣性走行モードを実行する第2走行制御部と、前記慣性走行モードが実行された状態のもとで、前記ソレノイドが通電状態から非通電状態に陥った場合に、前記電動モータを駆動してエンジン回転数を上昇させるフェイルセーフ制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、慣性走行モードが実行された状態のもとで、ソレノイドが通電状態から非通電状態に陥った場合に、電動モータを駆動してエンジン回転数を上昇させる。これにより、油圧クラッチの締結ショックを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態である車両用制御装置が適用された車両を示す図である。
【
図2】(A)および(B)は、走行モード毎にパワートレインの作動状況を示す図である。
【
図3】バルブボディの油圧回路の一部を示す図である。
【
図4】パワートレインの制御系の一部を示す図である。
【
図5】セーリング走行モードにおけるフェイルセーフ制御の実行状況を示すタイミングチャートである。
【
図6】フェイルセーフ制御の有無による車両加速度の変化を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
[パワートレイン]
図1は本発明の一実施の形態である車両用制御装置10が適用された車両11を示す図である。
図1に示すように、車両11には、エンジン12および無段変速機13を備えたパワートレイン14が搭載されている。エンジン12と無段変速機13との間には、トルクコンバータ15および前進クラッチ16が設けられている。また、無段変速機13と車輪17との間には、出力軸18およびデファレンシャル機構19が設けられている。エンジン12から出力されたエンジン動力は、トルクコンバータ15および前進クラッチ16を経て無段変速機13に伝達され、無段変速機13からデファレンシャル機構19等を経て車輪17に伝達される。なお、本発明の一実施の形態である車両用制御装置10は、後述するコントローラ81の各制御部によって構成されるだけでなく、パワートレイン14の一部を含めて構成されている。
【0012】
[無段変速機]
前進クラッチ16と車輪17との間の動力伝達経路20には、無段変速機13が設けられている。この無段変速機13は、プライマリ軸21に設けられるプライマリプーリ22と、セカンダリ軸23に設けられるセカンダリプーリ24と、を有している。プライマリプーリ22にはプライマリ油室22aが区画されており、セカンダリプーリ24にはセカンダリ油室24aが区画されている。また、プライマリプーリ22およびセカンダリプーリ24には、プーリ間で動力を伝達する駆動チェーン25が巻き掛けられている。このような無段変速機13においては、プライマリ油室22aとセカンダリ油室24aとの油圧を調整することにより、駆動チェーン25の巻き付け径を変化させることができ、プライマリ軸21からセカンダリ軸23に対する無段変速が可能となる。
【0013】
[前進クラッチ]
エンジン12と車輪17との間の動力伝達経路30には、油圧クラッチである前進クラッチ16が設けられている。この前進クラッチ16は、トルクコンバータ15のタービン軸31に連結されるクラッチハブ32と、プライマリ軸21に連結されるクラッチドラム33と、を有している。また、クラッチハブ32には摩擦プレート32aが組み付けられており、クラッチドラム33には摩擦プレート32aに対向する摩擦プレート33aが組み付けられている。さらに、クラッチドラム33にはピストン34が収容されており、クラッチドラム33とピストン34との間には締結油室35が区画されている。締結油室35に作動油を供給して油圧を上げることにより、ピストン34を前進移動させて摩擦プレート32a,33aを互いに係合させることができ、前進クラッチ16を締結状態に切り替えることができる。一方、締結油室35から作動油を排出して油圧を下げることにより、ピストン34を後退移動させて摩擦プレート32a,33aの係合を解除することができ、前進クラッチ16を解放状態に切り替えることができる。つまり、締結油室35に作動油を供給する作動油供給時には、前進クラッチ16が締結状態に制御される一方、締結油室35から作動油を排出する作動油排出時には、前進クラッチ16が解放状態に制御される。なお、締結油室35の油圧を調整することにより、前進クラッチ16をスリップ状態に制御することができ、前進クラッチ16の締結力を自在に調整することができる。
【0014】
[スタータジェネレータ]
エンジン12のクランク軸40には、ベルト機構41を介してスタータジェネレータ(電動モータ,モータジェネレータ)42が連結されている。このスタータジェネレータ42は、発電機および電動機として機能する所謂ISG(Integrated Starter Generator)である。スタータジェネレータ42は、クランク軸40に駆動されて発電する発電機として機能するだけでなく、エンジン始動時等にクランク軸40を駆動する電動機として機能する。スタータジェネレータ42は、ステータコイルを備えたステータ43と、フィールドコイルを備えたロータ44と、を有している。また、スタータジェネレータ42には、ステータコイルやフィールドコイルの通電状態を制御するため、インバータ、レギュレータ、マイコンおよび各種センサ等からなるISGコントローラ45が設けられている。ISGコントローラ45によってフィールドコイルやステータコイルの通電状態を制御することにより、スタータジェネレータ42の発電電圧、発電トルク、力行トルク等を制御することができる。
【0015】
[走行モード]
図2(A)および(B)は、走行モード毎にパワートレイン14の作動状況を示す図である。図示する車両11は、走行モードとして、エンジン動力を用いて車両11を走行させるエンジン走行モードと、エンジン12を停止させて車両11を慣性走行させるセーリング走行モード(慣性走行モード)と、を有している。
図2(A)にはエンジン走行モードを実行したときのパワートレイン14の作動状況が示されており、
図2(B)にはセーリング走行モードを実行したときのパワートレイン14の作動状況が示されている。
【0016】
図2(A)に示すように、エンジン走行モードを実行する際には、エンジン12が運転状態に制御され、前進クラッチ16が締結状態に制御される。このように、エンジン走行モードにおいては、前進クラッチ16を締結することにより、車輪17に対してエンジン12を接続することができ、エンジン動力を用いて車両11を走行させることができる。また、
図2(B)に示すように、セーリング走行モードを実行する際には、車両走行中に、エンジン12が停止状態に制御され、前進クラッチ16が解放状態に制御される。このように、セーリング走行モードにおいては、前進クラッチ16を解放することにより、車輪17からエンジン12を切り離して走行抵抗を抑えることができ、車両11を慣性で走行させることができる。このセーリング走行モードを実行することにより、運動エネルギーを有効に活用して車両11を走行させることができる。
【0017】
なお、走行状況に基づき走行モードを選択するため、後述するように、セーリング走行モードを実行するためのセーリング条件が設定されている。このセーリング条件が成立する場合には、走行モードとしてセーリング走行モードが実行される一方、セーリング条件が成立しない場合には、走行モードとしてエンジン走行モードが実行される。
【0018】
[油圧系]
パワートレイン14には、無段変速機13や前進クラッチ16等に作動油を供給する油圧系50が設けられている。油圧系50は、トルクコンバータ15のハウジング51にチェーン機構52を介して連結されるメカポンプ53と、ポンプ用モータ54に連結される電動ポンプ55と、を有している。また、油圧系50は、複数の電磁弁や油路によって構成されるバルブボディ56を有している。エンジン12が作動するエンジン走行モードにおいては、エンジン12によってメカポンプ53が駆動され、メカポンプ53からバルブボディ56に作動油が供給される。また、エンジン12が停止するセーリング走行モードにおいては、ポンプ用モータ54によって電動ポンプ55が駆動され、電動ポンプ55からバルブボディ56に作動油が供給される。つまり、電動ポンプ55は、エンジン12が停止した状態のもとでバルブボディ56に作動油を供給するオイルポンプである。
【0019】
図3はバルブボディ56の油圧回路の一部を示す図である。
図3に示すように、メカポンプ53および電動ポンプ55の吐出ポート53a,55aには、セカンダリ圧路60が接続されている。セカンダリ圧路60には、セカンダリプーリ24のセカンダリ油室24aが接続されるとともに、セカンダリ圧制御弁61の調圧ポート61aが接続されている。このようなセカンダリ圧制御弁61は、セカンダリ油室24aに供給するセカンダリ圧を、無段変速機13の目標伝達トルクや目標変速比等に基づき調圧する。また、セカンダリ圧路60はプライマリ圧制御弁62の入力ポート62aに接続されており、プライマリ圧制御弁62の出力ポート62bから延びるプライマリ圧路63はプライマリプーリ22のプライマリ油室22aに接続されている。このようなプライマリ圧制御弁62は、プライマリ油室22aに供給するプライマリ圧を、無段変速機13の目標変速比やセカンダリ圧等に基づき調圧する。
【0020】
また、セカンダリ圧路60から分岐する分岐油路64には、前進クラッチ16に作動油を供給制御するクラッチ圧制御弁70が接続されている。電磁制御弁であるクラッチ圧制御弁70は、図示しないスプール弁軸を収容するバルブ本体71と、バルブ本体71のスプール弁軸を軸方向に駆動するソレノイド72と、を有している。クラッチ圧制御弁70のバルブ本体71には、分岐油路64が接続される入力ポート71a、クラッチ油路73が接続される出力ポート71b、および排出油路74が接続される排出ポート71cが形成されている。なお、クラッチ油路73は前進クラッチ16の締結油室35に接続されており、排出油路74は下方のオイルパン75に向けて開放されている。
【0021】
前進クラッチ16に作動油を供給するクラッチ圧制御弁70は、ソレノイド72の非通電時に入力ポート71aと出力ポート71bとを連通させる所謂ノーマルオープンタイプ(常開式)の電磁制御弁である。すなわち、ソレノイド72に対する通電が遮断される非通電時には、スプール弁軸が軸方向の一方に移動し、バルブ本体71の入力ポート71aと出力ポート71bとが互いに連通する。このようなオイル供給状態にクラッチ圧制御弁70を制御することにより、入力ポート71aから出力ポート71bに作動油を案内することができるため、分岐油路64からクラッチ油路73を介して締結油室35に作動油を供給することができ、前進クラッチ16を締結状態に制御することができる。
【0022】
一方、ソレノイド72に対して通電を行う通電時には、スプール弁軸が軸方向の他方に移動し、バルブ本体71の入力ポート71aが遮断されて出力ポート71bと排出ポート71cとが互いに連通する。このようなオイル排出状態にクラッチ圧制御弁70を制御することにより、出力ポート71bから排出ポート71cに作動油を案内することができるため、締結油室35からクラッチ油路73を介して排出油路74に作動油を排出することができ、前進クラッチ16を解放状態に制御することができる。なお、ソレノイド72に対する通電量を制御することにより、スプール弁軸を任意の位置で停止させることができるため、前進クラッチ16の締結油室35の油圧を自在に調整することができ、前進クラッチ16をスリップ状態に制御することができる。
【0023】
[制御系]
続いて、パワートレイン14の制御系80について説明する。
図4はパワートレイン14の制御系80の一部を示す図である。なお、
図4において、
図1および
図3に示した部品と同様の部品については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0024】
図4に示すように、パワートレイン14の制御系80は、マイコン等からなるメインコントローラ81を有している。メインコントローラ81は、エンジン走行モードを実行する第1走行制御部82と、セーリング走行モードを実行する第2走行制御部83と、走行状況等に応じて走行モードを選択する走行モード選択部84と、を有している。また、メインコントローラ81は、クラッチ圧制御弁70の通電異常を検出する異常検出部85と、クラッチ圧制御弁70の通電異常時にスタータジェネレータ42を制御するフェイルセーフ制御部86と、を有している。また、パワートレイン14の制御系80は、バルブボディ56や電動ポンプ55等を制御するため、マイコン等からなるミッションコントローラ87を有している。さらに、パワートレイン14の制御系80は、スロットルバルブやインジェクタ等のエンジン補機88を制御するため、マイコン等からなるエンジンコントローラ89を有している。
【0025】
メインコントローラ81や各種コントローラ45,87,89は、CAN等の車載ネットワーク90を介して互いに通信自在に接続されている。メインコントローラ81は、各種コントローラや各種センサからの情報に基づいて、パワートレイン14の各作動部を制御する。メインコントローラ81に接続されるセンサとして、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルセンサ91、ブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキセンサ92、および車両11の走行速度を検出する車速センサ93がある。また、メインコントローラ81に接続されるセンサとして、エンジン12の回転速度を検出するエンジン回転センサ94、タービン軸31の回転速度を検出するタービン回転センサ95、プライマリ軸21の回転速度を検出するプライマリ回転センサ96、およびセカンダリ軸23の回転速度を検出するセカンダリ回転センサ97等がある。
【0026】
なお、メインコントローラ81の第1走行制御部82は、前述したエンジン走行モードを実行する際に、エンジンコントローラ89を介してエンジン12を運転状態に制御し、ミッションコントローラ87およびバルブボディ56を介して前進クラッチ16を締結状態に制御する。また、メインコントローラ81の第2走行制御部83は、前述したセーリング走行モードを実行する際に、エンジンコントローラ89を介してエンジン12を停止状態に制御し、ミッションコントローラ87およびバルブボディ56を介して前進クラッチ16を解放状態に制御する。さらに、メインコントローラ81は、ISGコントローラ45を介してスタータジェネレータ42を制御し、ミッションコントローラ87を介して電動ポンプ55を制御する。
【0027】
また、パワートレイン14の制御系80には、各種アクチュエータや各種コントローラに電力を供給する電源回路100が設けられている。電源回路100は、スイッチSW1を介して互いに並列接続される第1電源系101および第2電源系102を有している。第1電源系101は、鉛バッテリ等の第1蓄電体103と、これに接続されるポンプ用モータ54やコントローラ81等の電機負荷と、によって構成されている。第2電源系102は、リチウムイオンバッテリ等の第2蓄電体104と、これに接続されるスタータジェネレータ42と、によって構成されている。また、第2蓄電体104とスタータジェネレータ42との間にはスイッチSW2が設けられている。なお、スイッチSW1,SW2については、メインコントローラ81によって開閉制御することが可能である。
【0028】
[セーリング走行モード]
続いて、セーリング走行モードについて説明する。前述したように、セーリング走行モードとは、車両11を慣性で走行させる走行モードであり、加速走行が要求されない状況下で実行される走行モードである。このセーリング走行モードを開始するセーリング条件として、例えば、エンジン走行モードでの走行中に車速が所定速度を上回り、かつアクセルペダルの踏み込みが解除される、という条件が設定されている。また、セーリング条件として、登坂路を走行していないことや、クルーズコントロール中であること等を付加しても良い。
【0029】
メインコントローラ81の走行モード選択部84は、エンジン走行モードでの走行中に所定車速を上回り、かつアクセルペダルの踏み込みが解除されている場合に、エンジン走行モードからセーリング走行モードへの切り替えを決定する。このように、セーリング走行モードへの切り替えが決定されると、メインコントローラ81の第2走行制御部83は、エンジンコントローラ89に制御信号を出力してエンジン12を停止状態に制御し、ミッションコントローラ87に制御信号を出力して前進クラッチ16を解放状態に制御する。前述したように、前進クラッチ16を解放状態に制御する際には、ミッションコントローラ87から通電ライン105を介してソレノイド72に通電が為され、前進クラッチ16の締結油室35からクラッチ圧制御弁70を介して作動油が排出される。つまり、セーリング走行モードの実行中は、ミッションコントローラ87からクラッチ圧制御弁70のソレノイド72に対する通電が継続される。
【0030】
[フェイルセーフ制御]
続いて、セーリング走行モードでのフェイルセーフ制御について説明する。前述したように、セーリング走行モードの実行中は、クラッチ圧制御弁70のソレノイド72に対する通電が継続される。ここで、セーリング走行モードが実行された状態のもとで、ソレノイド72に接続される通電ライン105に断線等が発生し、クラッチ圧制御弁70のソレノイド72が通電状態から非通電状態に陥った場合には、クラッチ圧制御弁70がオイル排出状態からオイル供給状態に切り替えられ、前進クラッチ16が解放状態から締結状態に切り替えられる。つまり、エンジン12が停止するセーリング走行モードであることから、前進クラッチ16の前後に大きな回転速度差が生じた状態のもとで、前進クラッチ16が締結状態に切り替えられる。このように、前進クラッチ16が締結された場合には、大きな締結ショックを発生させてしまう虞がある。
【0031】
この前進クラッチ16の締結ショックを回避するため、メインコントローラ81には異常検出部85およびフェイルセーフ制御部86が設けられている。メインコントローラ81の異常検出部85は、クラッチ圧制御弁70のソレノイド72の通電状況を監視する機能を有している。この異常検出部85は、ソレノイド72の電流や電位等に基づいてソレノイド72に通電が為されているか否か、つまりソレノイド72が通電状態であるか否かを判定することが可能である。そして、異常検出部85によってソレノイド72が非通電状態に陥ったことが検出されると、フェイルセーフ制御部86によってスタータジェネレータ42が力行状態に制御される。このように、スタータジェネレータ42を電動機として駆動してエンジン回転数を上昇させることにより、通電ライン105の断線等によって前進クラッチ16が完全に締結される前に、前進クラッチ16の前後に生じる回転速度差(以下、クラッチ前後の回転速度差と記載する。)を縮小することができ、前進クラッチ16の締結ショックを低減することができる。
【0032】
ここで、
図5はセーリング走行モードにおけるフェイルセーフ制御の実行状況を示すタイミングチャートであり、
図6はフェイルセーフ制御の有無による車両加速度の変化を示す線図である。なお、
図5には、前進クラッチ16の締結油室35の油圧を「クラッチ圧」として記載し、スタータジェネレータ42を「ISG」として記載している。
【0033】
図5に時刻t1で示すように、セーリング走行モードにおいては、ソレノイド72が通電状態に制御されるため(符号a1)、クラッチ圧制御弁70がオイル排出状態に制御される(符号b1)。これにより、前進クラッチ16の締結油室35から作動油が排出されるため、前進クラッチ16のクラッチ圧は「0」に維持される(符号c1)。なお、エンジン12が停止するセーリング走行モードにおいては、スタータジェネレータ42も停止状態に維持されている(符号d1)。また、セーリング走行モードにおいては、クランク軸40の回転速度であるエンジン回転数Neが「0」であり(符号e1)、プライマリ軸21の回転速度であるプライマリ回転数Npは車速や変速比に連動するため(符号f1)、クラッチ前後の回転速度差は「N1」になる。
【0034】
続いて、時刻t2で示すように、通電ライン105の断線等によってソレノイド72が非通電状態に陥ると(符号a2)、クラッチ圧制御弁70がオイル排出状態からオイル供給状態に切り替えられる(符号b2)。これにより、前進クラッチ16の締結油室35に対して作動油が供給され始めるため、前進クラッチ16のクラッチ圧は徐々に上昇する(符号c2)。また、ソレノイド72が非通電状態に陥ったことが検出されると(符号a2)、時刻t3で示すように、スタータジェネレータ42が力行状態に制御される(符号d2)。これにより、スタータジェネレータ42によってクランク軸40が回転駆動されるため、エンジン回転数Neが急速に立ち上げられる(符号e2)。
【0035】
その後、時刻t4で示すように、上昇する前進クラッチ16のクラッチ圧が所定値P1に到達すると(符号c3)、前進クラッチ16は締結力を急速に増やしながら締結されるため、前進クラッチ16の回転速度差N2が急速に解消される(符号e3)。このように、ソレノイド72が非通電状態に陥った場合には、スタータジェネレータ42を駆動してエンジン回転数Neを上昇させるようにしたので、クラッチ締結前にクラッチ前後の回転速度差N2を縮小することができ、前進クラッチ16の締結ショックを低減することができる。これにより、
図6に実線Gaで示すように、車両前後に作用する加速度の振幅を抑制することができ、乗員に対して大きな違和感を与えることなく、断線等に伴うクラッチ締結に対処することができる。
【0036】
また、
図5に時刻t5で示すように、スタータジェネレータ42は、所定時間に渡って力行状態に保持された後に、力行トルクの出力を停止する停止状態に制御される(符号d3)。また、クラッチ圧制御弁70のソレノイド72が非通電状態に陥った場合には、前進クラッチ16を解放することが困難であるため、走行モードがエンジン走行モードに切り替えられ、その後のセーリング走行モードは禁止される。なお、スタータジェネレータ42を力行状態に制御する場合には、第1電源系101と第2電源系102との間に設けられるスイッチSW1を切断状態つまりOFF状態に制御しても良い。これにより、第1電源系101と第2電源系102とを互いに切り離すことができるため、スタータジェネレータ42の消費電力が急増する場合であっても、コントローラ81等の瞬間的な電圧低下を防止することができ、フェイルセーフ制御を適切に実行することができる。
【0037】
前述したように、本発明の一実施の形態である車両用制御装置10は、スタータジェネレータ42を駆動してエンジン回転数Neを上昇させることにより、断線等に起因する前進クラッチ16の締結ショックを低減している。これに対し、
図5に破線で示すように、スタータジェネレータ42の停止状態を維持し(符号x1)、エンジン回転数Neを「0」に維持していた場合には(符号x2)、クラッチ締結前にクラッチ前後の回転速度差N3が縮小されていないため、前進クラッチ16の締結ショックを低減することが困難である。この場合には、
図6に破線Gbで示すように、車両前後に作用する加速度の振幅が大きくなり、クラッチ締結によって乗員に大きな違和感を与えてしまう虞があるが、前述したように、スタータジェネレータ42を駆動してエンジン回転数Neを上昇させることにより、締結ショックを低減して違和感等の問題を解消することができる。
【0038】
また、スタータジェネレータ42を駆動してエンジン回転数Neを上昇させるようにしたので、断線等に起因して前進クラッチ16が締結される場合であっても、駆動チェーン25のスリップを防いで無段変速機13を保護することができる。つまり、セーリング走行モード中に前進クラッチ16を締結することは、回転中のプライマリプーリ22に停止中のエンジン12やトルクコンバータ15を接続することであり、プライマリプーリ22を急減速させて駆動チェーン25のスリップを招く要因である。しかしながら、スタータジェネレータ42を駆動することにより、クラッチ締結前にクランク軸40やトルクコンバータ15を回転させることができるため、プライマリプーリ22の急減速を防いで駆動チェーン25のスリップを防止することができる。
【0039】
さらに、セーリング走行モードにおけるフェイルセーフ制御は、ソレノイド72が非通電状態に陥った場合にスタータジェネレータ42を駆動する、という簡単な構成であることから、コストアップを抑制しつつ断線等に伴うクラッチ締結に対処することができる。つまり、前進クラッチ16の締結原因である断線等を発生させないように、通電ライン105を金属板のバスバーによって構成したり、クラッチ圧制御弁70を2系統で制御したりする必要が無いため、パワートレイン14のコストアップを抑制することができる。
【0040】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、車両用制御装置10が適用される車両としては、動力源としてエンジン12のみを備えた車両11に限られることはなく、動力源としてエンジンおよび走行用モータを備えたハイブリッド車両であっても良い。また、前述の説明では、ソレノイド72の通電異常として、通電ライン105の断線を例示しているが、これに限られることはなく、ソレノイド72が非通電状態に陥る状況であれば、如何なる通電異常であっても良い。例えば、通電ライン105の短絡であっても良く、ソレノイド72を構成するコイルの断線や短絡であっても良く、ソレノイド72の通電を制御するミッションコントローラ87の異常であっても良い。また、前述の説明では、セーリング走行モードにおいて作動油を供給するオイルポンプとして、ポンプ用モータ54に駆動される電動ポンプ55を用いているが、これに限られることはなく、エンジン停止中に駆動されるオイルポンプであれば如何なるオイルポンプであっても良い。例えば、走行中に回転するプライマリ軸21等によって駆動されるオイルポンプを採用しても良い。
【0041】
前述の説明では、前進クラッチ16として摩擦クラッチを用いているが、これに限られることはなく、前進クラッチ16として噛合クラッチを用いても良い。また、前述の説明では、パワートレイン14に設けられる変速機構として無段変速機13を用いているが、これに限られることはなく、変速機構として平行軸式や遊星歯車式等の変速機構を用いても良い。なお、エンジン走行モードを実行する際には、エンジン12を始動してから前進クラッチ16を締結しても良く、前進クラッチ16を締結してからエンジン12を始動しても良い。また、セーリング走行モードを実行する際には、エンジン12を停止してから前進クラッチ16を解放しても良く、前進クラッチ16を解放してからエンジン12を停止しても良い。
【符号の説明】
【0042】
10 車両用制御装置
11 車両
12 エンジン
13 無段変速機
16 前進クラッチ(油圧クラッチ)
17 車輪
20 動力伝達経路
30 動力伝達経路
42 スタータジェネレータ(電動モータ,モータジェネレータ)
55 電動ポンプ(オイルポンプ)
70 クラッチ圧制御弁(電磁制御弁)
72 ソレノイド
82 第1走行制御部
83 第2走行制御部
86 フェイルセーフ制御部
Ne エンジン回転数