(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20230726BHJP
F16H 48/08 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
F16H57/04 B
F16H57/04 J
F16H48/08
(21)【出願番号】P 2019214113
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足森 崇志
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-028279(JP,A)
【文献】特開平11-051159(JP,A)
【文献】特開平8-247260(JP,A)
【文献】実開昭54-031780(JP,U)
【文献】実公昭49-024819(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブピニオンギアに与えられる駆動力を左右のサイドギアに伝達するディファレンシャルギアを備え、
前記ディファレンシャルギアは、
前記ドライブピニオンギアに接続されるドライブピニオンシャフトと、
前記ドライブピニオンシャフトの外周面に対して所定のギャップを設けつつ前記ドライブピニオンシャフトの外周面を覆うバッフル部と、
を有し、
前記バッフル部は、
周方向の一部において軸方向に亘って前記バッフル部の内外を連通させる切欠き部と、
前記切欠き部の鉛直上部側において接線方向に張り出すツバ部と、
前記切欠き部より鉛直下方において開口する開口部と、
を有する車両。
【請求項2】
前記ツバ部における前記切欠き部側に位置する内面には、基端部側に対して先端部側が前記ドライブピニオンギア側に位置するように延びる溝部が形成される請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記バッフル部は、鉛直上方側の外面において軸方向に亘って突出する樋部を有する請求項1または2に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディファレンシャルギアを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、ドライブピニオンギアに与えられる駆動力を左右のサイドギアに伝達するディファレンシャルギアが設けられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ディファレンシャルギアでは、ドライブピニオンギアに接続されるドライブピニオンシャフトの作動を潤滑にさせるために、ドライブピニオンシャフトにオイルを接触させている。しかし、ドライブピニオンシャフトの周囲のオイルの量が多いと、ドライブピニオンシャフトの作動を潤滑させることに反して、オイルがドライブピニオンシャフトの回転を抑制するように作用することがある。
【0005】
そこで、本発明は、ドライブピニオンシャフトの周囲のオイルを適量とすることが可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両は、ドライブピニオンギアに与えられる駆動力を左右のサイドギアに伝達するディファレンシャルギアを備え、ディファレンシャルギアは、ドライブピニオンギアに接続されるドライブピニオンシャフトと、ドライブピニオンシャフトの外周面に対して所定のギャップを設けつつドライブピニオンシャフトの外周面を覆うバッフル部と、を有し、バッフル部は、周方向の一部において軸方向に亘ってバッフル部の内外を連通させる切欠き部と、切欠き部の鉛直上部側において接線方向に張り出すツバ部と、切欠き部より鉛直下方において開口する開口部と、を有する。
【0007】
また、ツバ部における切欠き部側に位置する内面には、基端部側に対して先端部側がドライブピニオンギア側に位置するように延びる溝部が形成されてもよい。
【0008】
また、バッフル部は、鉛直上方側の外面において軸方向に亘って突出する樋部を有してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ドライブピニオンシャフトの周囲のオイルを適量とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態による車両1の構成を示す概略図である。
【
図2】リアディファレンシャルギアの構成を示す透視平面図である。
【
図3】リアディファレンシャルギアを横方向から見た透視側面図である。
【
図4】バッフル部の構成を示すIV-IV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態による車両1の構成を示す概略図である。
図1では、車両1の前後左右の各方向をクロスされた矢印で例示している。車両1は、エンジン10、変速機12、フロントディファレンシャルギア14、前輪16、カップリング18、プロペラシャフト20、リアディファレンシャルギア22および後輪24を含む。
【0013】
エンジン10は、車両1の駆動源である。なお、車両1は、エンジン自動車に限らず、駆動源としてモータを含む電気自動車であってもよいし、エンジンとモータとが並行して設けられるハイブリッド電気自動車であってもよい。
【0014】
エンジン10の出力軸は、変速機12に接続される。変速機12は、例えば、無段変速機などである。変速機12は、フロントディファレンシャルギア14に接続される。フロントディファレンシャルギア14は、前輪16に接続される。フロントディファレンシャルギア14は、変速機12を通じて入力される駆動力を左右の前輪16に伝達する。また、フロントディファレンシャルギア14は、左右の前輪16の回転速度差を吸収する。
【0015】
カップリング18は、クラッチを含む。カップリング18は、クラッチの一方側が変速機12に接続され、クラッチの他方側がプロペラシャフト20に接続される。カップリング18は、変速機12を通じて入力される駆動力のうちクラッチの締結力に従った駆動力をプロペラシャフト20に伝達する。
【0016】
プロペラシャフト20は、リアディファレンシャルギア22に接続される。リアディファレンシャルギア22は、後輪24に接続される。リアディファレンシャルギア22は、プロペラシャフト20を通じて入力される駆動力を左右の後輪24に伝達する。また、リアディファレンシャルギア22は、左右の後輪24の回転速度差を吸収する。
【0017】
図2は、リアディファレンシャルギア22の構成を示す透視平面図である。リアディファレンシャルギア22は、筐体30を含む。筐体30内には、リアディファレンシャルギア22を構成する各部、具体的には、ドライブピニオンシャフト32、ドライブピニオンギア34、リングギア36、枠体38、左サイドギア40、右サイドギア42、左サイド軸44、右サイド軸46、ディファレンシャルピニオンギア48およびディファレンシャルピニオン軸50が収容される。
【0018】
ドライブピニオンシャフト32は、円柱状に形成される。ドライブピニオンシャフト32は、軸受60を通じて筐体30に支持される。ドライブピニオンシャフト32は、軸周りに回転可能である。
【0019】
ドライブピニオンギア34は、ドライブピニオンシャフト32における内側端に接続される。ドライブピニオンギア34の先端は、円錐台状のはすば歯車となっている。ドライブピニオンギア34は、スラスト軸受62、64を通じて筐体30に支持される。ドライブピニオンギア34は、ドライブピニオンシャフト32と一体となって軸周りに回転可能となっている。
【0020】
ドライブピニオンシャフト32におけるドライブピニオンギア34とは反対側端は、筐体30外においてプロペラシャフト20に連結される。ドライブピニオンシャフト32およびドライブピニオンギア34には、プロペラシャフト20を通じて駆動力が与えられる。
【0021】
リングギア36は、円環の板状に形成される。リングギア36における一方側の表面の外縁付近は、法線方向に突出しており、はすば歯車となっている。リングギア36の法線方向とドライブピニオンギア34の軸方向とは、垂直に交差する。リングギア36は、ドライブピニオンギア34に噛み合わされる。
【0022】
枠体38は、例えば、中心部が中空のU字状に形成される。枠体38の両端は、リングギア36の表面に固定される。
【0023】
左サイドギア40および右サイドギア42は、枠体38の内側に位置する。左サイドギア40および右サイドギア42は、円錐台状の歯車となっている。左サイドギア40および右サイドギア42は、歯車の面同士が向き合うように対向配置される。左サイドギア40および右サイドギア42は、各々の軸がリングギア36の軸の延長線上に位置するように配置される。
【0024】
左サイド軸44は、左サイドギア40から軸方向に延びており、リングギア36を貫通している。左サイド軸44は、軸受66を通じて筐体30に支持される。左サイド軸44は、左サイドギア40と一体となって軸周りに回転可能となっている。左サイド軸44における左サイドギア40とは反対側端は、筐体30外において左の後輪24の車軸70に連結される。
【0025】
右サイド軸46は、右サイドギア42から軸方向に延びており、枠体38を貫通している。右サイド軸46は、軸受66を通じて筐体30に支持される。右サイド軸46は、右サイドギア42と一体となって軸周りに回転可能となっている。右サイド軸46における右サイドギア42とは反対側端は、筐体30外において右の後輪24の車軸70に連結される。
【0026】
ディファレンシャルピニオンギア48は、枠体38の内側に位置する。ディファレンシャルピニオンギア48は、円錐台状の歯車となっている。ディファレンシャルピニオンギア48は、ディファレンシャルピニオン軸50を通じて枠体38に支持される。ディファレンシャルピニオンギア48は、ディファレンシャルピニオン軸50周りに回転可能となっている。ディファレンシャルピニオンギア48は、左サイドギア40および右サイドギア42に噛み合わされる。
【0027】
リアディファレンシャルギア22では、ドライブピニオンシャフト32およびドライブピニオンギア34が回転すると、リングギア36が回転する。リングギア36が回転すると、リングギア36とともに枠体38が回転する。枠体38が回転すると、ディファレンシャルピニオンギア48が枠体38とともにリングギア36の軸周りに公転する。そうすると、左サイドギア40および右サイドギア42がディファレンシャルピニオンギア48の公転に従って回転する。左の後輪24は、左サイドギア40の回転に従って回転し、右の後輪24は、右サイドギア42の回転に従って回転する。
【0028】
左右の後輪24の回転速度が等しい場合、ディファレンシャルピニオンギア48はディファレンシャルピニオン軸50周りに自転しない。一方、左右の後輪24の回転速度差がある場合、ディファレンシャルピニオンギア48が自転することで、左右の後輪24の回転速度差が吸収される。このようにして、リアディファレンシャルギア22は、ドライブピニオンギア34に与えられる駆動力を左サイドギア40および右サイドギア42に伝達する。
【0029】
本実施形態のリアディファレンシャルギア22は、バッフル部80を含む。バッフル部80は、筐体30内に収容される。バッフル部80は、ドライブピニオンシャフト32の外周面に対して所定のギャップを設けつつ、ドライブピニオンシャフト32の外周面を覆うように設けられる。所定のギャップは、ドライブピニオンシャフト32の外周面と筐体30の内面との間隔より狭い。バッフル部80は、大凡、スラスト軸受62から軸受60に亘ってドライブピニオンシャフト32の軸方向に延在する。バッフル部80は、例えば、不図示の支持部などを介して筐体30に支持される。バッフル部80については、後に詳述する。
【0030】
図3は、リアディファレンシャルギア22を横方向から見た透視側面図である。
図3では、車両1の上下前後の各方向をクロスされた実線の矢印で示す。
【0031】
リアディファレンシャルギア22の筐体30内には、
図3のハッチングで示すように、オイル82が収容される。オイル82は、リアディファレンシャルギア22の各部の作動を潤滑にさせるために収容されている。また、リアディファレンシャルギア22には、オイル82に圧力を与える油圧機構が設けられていない。オイル82は、自重によって筐体30内における鉛直下方に貯留される。
【0032】
ドライブピニオンシャフト32は、車両1が前進する方向の駆動力が与えられると、実線の矢印A10で示すように、車両1の後方から見て反時計回り方向に回転する。このとき、リングギア36は、実線の矢印A12で示すように、ドライブピニオンギア34からリングギア36方向を見たときに時計回り方向に回転する。そうすると、オイル82は、破線の矢印A14で示すように、リングギア36の回転に従って鉛直上方に掻き上げられて、ドライブピニオンギア34の鉛直上方へ移動する。そして、オイル82の一部は、破線の矢印A16で示すように、スラスト軸受62の隙間を通じてドライブピニオンシャフト32側に移動する。
【0033】
ここで、仮に、バッフル部80が設けられていないとする。この場合、ドライブピニオンシャフト32側に移動されたオイル82は、ドライブピニオンシャフト32上に直接的に落下する。また、ドライブピニオンシャフト32の鉛直下部は、貯留されたオイル82に浸漬される。この場合、ドライブピニオンシャフト32の周囲に存在するオイル82の量が比較的多くなる。そうすると、ドライブピニオンシャフト32は、オイル82によって作動が潤滑にされることに反して、オイル82の粘性などによって回転が抑制されるおそれがある。
【0034】
これに対して、本実施形態のリアディファレンシャルギア22では、ドライブピニオンシャフト32の周囲にバッフル部80が設けられる。このため、スラスト軸受62の隙間を通じてドライブピニオンシャフト32側に移動したオイル82は、バッフル部80上に落下する。
【0035】
図4は、バッフル部80の構成を示すIV-IV線断面図である。
図4では、車両1の後方から前方を見た場合を示す。
図4では、車両1の上下左右の各方向をクロスされた実線の矢印で示す。また、
図5は、バッフル部80の構成を示す斜視図である。
図5では、車両1の後方斜め下から前方斜め上を見た場合を示す。
図5では、車両1の上下前後の各方向をクロスされた実線の矢印で示す。なお、
図4および
図5では、ドライブピニオンシャフト32の回転方向を
図3と同様に実線の矢印A10で示す。
【0036】
バッフル部80は、大凡円筒状に形成される。バッフル部80内には、ドライブピニオンシャフト32が挿通される。バッフル部80の内面は、ドライブピニオンシャフト32の外周面に対向している。つまり、バッフル部80の内面とドライブピニオンシャフト32の外周面との間には、所定のギャップ102が形成される。ギャップ102は、例えば、オイル82の粘性などを考慮して設定される。
【0037】
バッフル部80は、切欠き部110、ツバ部112、開口部114および樋部116を有する。切欠き部110は、
図4で示すように、バッフル部80の周方向の一部においてバッフル部80の内外を連通させる。切欠き部110は、
図5で示すように、バッフル部80の軸方向に亘って設けられる。切欠き部110は、例えば、バッフル部80における鉛直方向中央より上方に設けられる。切欠き部110は、バッフル部80の軸方向に沿った鉛直面に対して、ドライブピニオンシャフト32が大凡鉛直下方に向かって回転する側に位置する。
【0038】
ツバ部112は、
図4で示すように、切欠き部110の鉛直上部側において、バッフル部80の接線方向に張り出している。具体的には、ツバ部112は、切欠き部110の鉛直上部に連続する基端部120から切欠き部110側に直線的に延びている。基端部120から接線方向に延びた先端部122は、基端部120より鉛直下方に位置する。つまり、ツバ部112は、基端部120に対して先端部122が鉛直下方に位置するように傾斜している。先端部122は、例えば、切欠き部110の鉛直下部124より鉛直上方に位置する。また、先端部122の水平方向の位置は、例えば、切欠き部110の鉛直下部124よりもドライブピニオンシャフト32から離隔する方向にある。なお、ツバ部112は、基端部120から先端部122に向かって曲線的に延びてもよい。
【0039】
開口部114は、切欠き部110の鉛直下部124よりも鉛直下方に設けられる。開口部114は、外部に開口している。換言すると、開口部114は、バッフル部80の内外を連通させる。開口部114は、バッフル部80の軸方向に延びている。
【0040】
切欠き部110の鉛直下部124は、例えば、オイル82の上面(油面)より鉛直上方に位置する。また、開口部114は、少なくとも一部がオイル82の上面以下に位置するように設けられる。
【0041】
樋部116は、ツバ部112における鉛直上方側の外面130に設けられる。樋部116は、ツバ部112の外面130から法線方向に突出する。樋部116の上端は、例えば、基端部120以下に位置する。樋部116は、バッフル部80の軸方向に延びている。
【0042】
また、
図5で示すように、ツバ部112における鉛直下方側の内面132には、溝部140が形成される。溝部140は、ツバ部112の内面132から外面130側に窪んでいる。溝部140は、ツバ部112の基端部120から先端部122に向かって延びている。溝部140は、基端部120側に対して先端部122側がドライブピニオンギア34側に位置するように斜めに延びている。溝部140は、バッフル部80の軸方向に並列して複数形成される。なお、
図5では、溝部140が4個形成される例を挙げているが、溝部140の数は、この例に限らない。例えば、溝部140の数は、1個でもよい。
【0043】
スラスト軸受62の隙間を通じてドライブピニオンシャフト32側に移動されたオイル82は、ドライブピニオンシャフト32上に直接的に落下せず、バッフル部80上に落下する。例えば、
図4の破線の矢印A20で示すように、オイル82がツバ部112の外面130に落下したとする。オイル82は、自重によってツバ部112の外面130上を先端部122に向かって移動する。オイル82の一部は、樋部116によって堰き止められる。
【0044】
ツバ部112の外面130に落下したオイル82のうち樋部116から溢れたオイル82は、ツバ部112の先端部122から落下し、バッフル部80の周囲に貯留される。
【0045】
また、樋部116で堰き止められたオイル82の一部は、樋部116に沿ってドライブピニオンギア34から離隔する方向に移動する。樋部116に沿って移動されたオイル82の一部は、ドライブピニオンギア34から比較的遠い位置(例えば、軸受60付近)において、樋部116から溢れてツバ部112の先端部122から落下する。つまり、リアディファレンシャルギア22では、ドライブピニオンシャフト32におけるドライブピニオンギア34とは反対側方向に、オイル82を適切に行き渡らせることができる。また、樋部116に沿って移動されたオイル82の一部は、軸受60に到達する。このため、リアディファレンシャルギア22では、軸受60をオイル82によって適切に潤滑させることができ、ドライブピニオンシャフト32の回転が抑制されることを防止することが可能となる。
【0046】
バッフル部80の周囲に貯留されたオイル82の一部は、リングギア36によるオイル82の撹拌に応じて、リングギア36側に自然循環される。
【0047】
また、バッフル部80の周囲に貯留されたオイル82の一部は、破線の矢印A22で示すように、開口部114を通じてギャップ102に流入される。換言すると、ドライブピニオンシャフト32の周りのオイルは、ギャップ102内に流入されたオイル82のみとなる。つまり、リアディファレンシャルギア22では、ドライブピニオンシャフト32の周りのオイルが適量となっている。
【0048】
ドライブピニオンシャフト32は、実線の矢印A10で示すように、車両1の後方から見て反時計回りに回転される。ギャップ102に流入されたオイル82は、破線の矢印A24で示すように、ドライブピニオンシャフト32の回転に従ってギャップ102内をドライブピニオンシャフト32の回転方向と同方向(時計回り方向)に移動する。
【0049】
ギャップ102を移動したオイル82は、破線の矢印A26で示すように、切欠き部110を通じてギャップ102から排出される。この際、オイル82は、遠心力によってツバ部112の内面132に押し当てられつつ、内面132の溝部140に沿ってバッフル部80外に排出される。このため、オイル82は、ドライブピニオンギア34に向かう方向に斜めに排出される。これにより、オイル82のリングギア36側への循環が促進される。
【0050】
なお、車両1では、リアディファレンシャルギア22にバッフル部80を設ける例を挙げていた。しかし、バッフル部80は、フロントディファレンシャルギア14に設けられてもよい。
【0051】
また、車両1では、樋部116をツバ部112の外面130に設ける例を挙げていた。しかし、樋部116は、ツバ部112の外面130に限らず、バッフル部80における鉛直上方側の外面に設けられてもよい。例えば、樋部116は、バッフル部80の軸方向に沿った鉛直面に対してツバ部112とは反対側に設けられてもよい。
【0052】
以上のように、本実施形態の車両1では、ディファレンシャルギア(具体的には、リアディファレンシャルギア22)のドライブピニオンシャフト32にバッフル部80が設けられる。バッフル部80は、周方向の一部において軸方向に亘ってバッフル部80の内外を連通させる切欠き部110と、切欠き部110の鉛直上部側において接線方向に張り出すツバ部112と、切欠き部110より鉛直下方において開口する開口部114と、を有する。
【0053】
したがって、本実施形態の車両1では、ドライブピニオンシャフト32の周囲のオイル82を適量とすることが可能となる。このため、本実施形態の車両1では、ドライブピニオンシャフト32の回転が抑制されることを防止できる。その結果、本実施形態の車両1では、駆動力の伝達損失を抑制でき、燃費を向上することができる。また、本実施形態の車両1では、バッフル部80が設けられていない態様に比べ、ディファレンシャルギア内に収容するオイル82の量を減少させることも可能である。
【0054】
また、本実施形態の車両1において、ツバ部112における切欠き部110側に位置する内面132には、基端部120側に対して先端部122側がドライブピニオンギア34側に位置するように延びる溝部140が形成される。このため、本実施形態の車両1では、筐体30内のオイル82を、より効率よく循環させることができ、オイル82による潤滑の効果を向上させることが可能となる。
【0055】
なお、オイル82を積極的に循環させなくても十分な場合には、ツバ部112における溝部140を省略してもよい。
【0056】
また、本実施形態の車両1のバッフル部80は、鉛直上方側の外面において軸方向に亘って突出する樋部116を有する。このため、本実施形態の車両1では、ドライブピニオンギア34とは反対側にオイル82を適切に行き渡らせることができる。その結果、本実施形態の車両1では、ドライブピニオンシャフト32とバッフル部80とのギャップ102において、ドライブピニオンシャフト32の軸方向に亘ってオイル82をより適切に流通させることができる。
【0057】
なお、オイル82をドライブピニオンギア34とは反対側に積極的に移動させなくても十分な場合には、樋部116を省略してもよい。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ディファレンシャルギアを備える車両に利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 車両
22 リアディファレンシャルギア
32 ドライブピニオンシャフト
34 ドライブピニオンギア
40 左サイドギア
42 右サイドギア
80 バッフル部
110 切欠き部
112 ツバ部
114 開口部
116 樋部
120 基端部
122 先端部
132 内面
140 溝部