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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-26
(45)【発行日】2023-08-03
(54)【発明の名称】トナー用エステル組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20230727BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
G03G9/097 365
G03G9/087 331
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019115592
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021001975
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】平井 規晋
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/047296(WO,A1)
【文献】特開2013-238840(JP,A)
【文献】特開2011-018030(JP,A)
【文献】特開2015-049496(JP,A)
【文献】特開2017-049581(JP,A)
【文献】特開2019-168530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が12以上28以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)を90モル%以上含むカルボン酸成分と炭素数が2以上14以下の脂肪族ジオール(al-2)を90モル%以上含むアルコール成分との縮合物を含有するエステル組成物であり、酸価と水酸基価の和が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であるトナー用エステル組成物と、結着樹脂を含有する、静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂がポリエステル樹脂である、静電荷像現像用トナー
【請求項2】
炭素数が2以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)を90モル%以上含むカルボン酸成分と炭素数が12以上28以下の脂肪族モノアルコール(al-1)を90モル%以上含むアルコール成分との縮合物を含有するエステル組成物であり、酸価と水酸基価の和が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下であるトナー用エステル組成物と、結着樹脂を含有する、静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂がポリエステル樹脂である、静電荷像現像用トナー
【請求項3】
エステル組成物の数平均分子量が300以上1,500以下である、請求項1又は2記載の静電荷像現像用トナー
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用エステル組成物、該エステル組成物を含有したトナー用結着樹脂組成物及び静電荷像現像用トナーに関する。さらに詳しくは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナー用のエステル組成物、該エステル組成物を含有したトナー用結着樹脂組成物及び静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、結着樹脂、着色剤、ワックス、および、非晶性ポリエステルを含有するトナー粒子を有するトナーであって、該結着樹脂は、ビニル系樹脂を含有し、該非晶性ポリエステルは、炭素数のピーク値が25~102である脂肪族モノカルボン酸に由来する構造、及び/又は、炭素数のピーク値が25~102である脂肪族モノアルコールに由来する構造を、分子鎖の末端に有する非晶性ポリエステルであるトナーに関する発明が開示されている。
【0003】
特許文献2には、2価のアルコール成分とジカルボン酸成分を重合して得られる非晶性ポリエステル樹脂中に、直鎖状飽和脂肪族ポリエステルユニットで構成される結晶性ポリエステル樹脂が分散し、離径剤としてモノエステル系ワックスが添加されており、トナー中の結晶性樹脂の分散径が100nm以上500nm以下であり、前記エステルワックス分散径が200nm以上1000nm以下で分散していることを特徴とするトナーに関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-159781号公報
【文献】特開2017-83524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の合成エステルワックスは、トナー用結着樹脂との親和性が低いためトナーの低温定着性への寄与が限定的である。また、合成エステルワックスは結着樹脂中での分散性が不十分であり、配合量にも制限があるため、トナーの耐ホットオフセット性及び耐久性を向上させることが困難である(例えば、特許文献1、2等)。一方、カルナバワックス等の天然物から抽出された天然エステルワックスは、結着樹脂との相溶性は良好であるものの、結着樹脂のガラス転移温度を下げるため、トナーの保存性に課題がある。
【0006】
本発明は、トナーの低温定着性、保存性、耐ホットオフセット性及び耐久性の向上に有効なトナー用エステル組成物、該エステル組成物を含有したトナー用結着樹脂組成物及び静電荷像現像用トナーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
〔1〕 炭素数が12以上28以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)を90モル%以上含むカルボン酸成分と炭素数が2以上14以下の脂肪族ジオール(al-2)を90モル%以上含むアルコール成分との縮合物を含有するエステル組成物であり、酸価と水酸基価の和が0.1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である、トナー用エステル組成物、
〔2〕 炭素数が2以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)を90モル%以上含むカルボン酸成分と炭素数が12以上28以下の脂肪族モノアルコール(al-1)を90モル%以上含むアルコール成分との縮合物を含有するエステル組成物であり、酸価と水酸基価の和が0.1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である、トナー用エステル組成物、
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕記載のエステル組成物と結着樹脂を含有する、トナー用結着樹脂組成物、並びに
〔4〕 前記〔3〕記載のエステル組成物と結着樹脂を含有する、静電荷像現像用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトナー用エステル組成物は、トナー用結着樹脂や静電荷像現像用トナーに用いることで、良好な低温定着性、保存性、耐ホットオフセット性及び耐久性を発揮するという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のトナー用エステル組成物は、特定の縮合物を含む合成エステル組成物であり、縮合物として、炭素数が12以上28以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)と炭素数が2以上14以下の脂肪族ジオール(al-2)との縮合物及び/又は炭素数が2以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)と炭素数が12以上28以下の脂肪族モノアルコール(al-1)との縮合物を含有している点に1つの特徴を有する。
本発明において、縮合物とはエステル基を1個以上有する化合物であり、本発明のエステル組成物は、カルボキシル基及び/又はヒドロキシ基を有しており、トナー用結着樹脂との親和性が高い。そのため、トナーの定着時に結着樹脂の可塑剤として作用し、低温定着性が向上する。その一方で、前記縮合物は常温では結晶化しているため、トナー用結着樹脂のガラス転移温度を低下させることがなく、保存性も良好である。また、前記縮合物は、結着樹脂中の分散性が高いため、耐ホットオフセット性と耐久性を向上させることができる。
【0010】
脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)の炭素数は、12以上であり、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、さらに好ましくは18以上であり、そして、低温定着性の観点から、28以下であり、好ましくは26以下、より好ましくは24以下、さらに好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下である。
【0011】
脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)は、飽和脂肪族であっても不飽和脂肪族であってもよいが、本発明では、低温定着性の観点から、飽和脂肪族モノカルボン酸系化合物であることが好ましい。
【0012】
従って、脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、これらの酸のアルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、ステアリン酸又はベヘン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。なお、アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、前記脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)の炭素数に含めない。
【0013】
脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)の炭素数は、2以上であり、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは8以上であり、そして、低温定着性の観点から、14以下であり、好ましくは12以下である。
【0014】
脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)は、飽和脂肪族であっても不飽和脂肪族であってもよいが、本発明では、低温定着性の観点から、飽和脂肪族ジカルボン酸系化合物であることが好ましい。
【0015】
従って、脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)としては、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、セバシン酸が好ましい。なお、アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、前記脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)の炭素数に含めない。
【0016】
脂肪族モノアルコール(al-1)の炭素数は、12以上であり、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、さらに好ましくは18以上であり、そして、低温定着性の観点から、28以下であり、好ましくは26以下、より好ましくは24以下、さらに好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下である。
【0017】
脂肪族モノアルコール(al-1)は、飽和脂肪族であっても不飽和脂肪族であってもよいが、本発明では、低温定着性の観点から、飽和脂肪族モノアルコール(al-1)であることが好ましい。
【0018】
従って、脂肪族モノアルコール(al-1)としては、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。これらの中では、ステアリルアルコールが好ましい。
【0019】
脂肪族ジオール(al-2)の炭素数は、2以上であり、好ましくは4以上、より好ましくは6以上であり、そして、低温定着性の観点から、14以下であり、好ましくは12以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下である。
【0020】
脂肪族ジオール(al-2)は、飽和脂肪族であっても不飽和脂肪族であってもよいが、本発明では、低温定着性の観点から、飽和脂肪族ジオール(al-2)であることが好ましい。
【0021】
従って、脂肪族ジオール(al-2)としては、エチレングリコール1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール等が挙げられる。これらの中では、エチレングリコール又は1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0022】
これらの中では、トナーの低温定着性、保存性、耐ホットオフセット性及び耐久性の向上の観点から、セバシン酸を含むカルボン酸成分とステアリルアルコールを含むアルコール成分との縮合物、ベヘン酸を含むカルボン酸成分とエチレングリコールを含むアルコール成分との縮合物、ステアリン酸を含むカルボン酸成分と1,6-ヘキサンジオールを含むアルコール成分との縮合物が好ましく、セバシン酸を含むカルボン酸成分とステアリルアルコールを含むアルコール成分との縮合物がより好ましい。
【0023】
そこで、本発明では、トナー用エステル組成物として、以下の第一及び第二の態様のトナー用エステル組成物を提供する。
【0024】
第一の態様のトナー用エステル組成物は、炭素数が12以上28以下の脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)を90モル%以上含むカルボン酸成分と炭素数が2以上14以下の脂肪族ジオール(al-2)を90モル%以上含むアルコール成分との縮合物を含有するエステル組成物であり、酸価と水酸基価の和が0.1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であるエステル組成物である。
【0025】
脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)の含有量は、カルボン酸成分中、90モル%以上であり、好ましくは95モル%以上、より好ましくは100モル%である。
【0026】
脂肪族ジオール(al-2)の含有量は、アルコール成分中、90モル%以上であり、好ましくは95モル%以上、より好ましくは100モル%である。
【0027】
第二の態様のトナー用エステル組成物は、炭素数が2以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)を90モル%以上含むカルボン酸成分と炭素数が12以上28以下の脂肪族モノアルコール(al-1)を90モル%以上含むアルコール成分との縮合物を含有するエステル組成物であり、酸価と水酸基価の和が0.1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であるエステル組成物である。
【0028】
脂肪族モノアルコール(al-1)の含有量は、アルコール成分中、90モル%以上であり、好ましくは95モル%以上、より好ましくは100モル%である。
【0029】
脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)の含有量は、90モル%以上であり、好ましくは95モル%以上、より好ましくは100モル%である。
【0030】
第一及び第二の態様において、脂肪族モノカルボン酸系化合物(ca-1)又は脂肪族ジカルボン酸系化合物(ca-2)以外のカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸系化合物、3価以上のカルボン酸系化合物等が挙げられる。なお、これらのカルボン酸系化合物には、カルボン酸に加えて、カルボン酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキルエステルが含まれる。また、脂肪族モノアルコール(al-1)又は脂肪族ジオール(al-2)以外のアルコール成分としては、芳香族ジオール、3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0031】
本発明のエステル組成物は、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを、不活性ガス雰囲気中、好ましくはエステル化触媒の存在下、さらに必要に応じて、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは130℃以上、より好ましくは170℃以上、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下の温度で縮合させて製造することができる。
【0032】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、t-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0033】
第一及び第二のトナー用エステル組成物は、いずれも酸価と水酸基価の和が0.1mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である点で共通している。
【0034】
エステル組成物の酸価と水酸基価の和が0.1mgKOH/g以上であると、結着樹脂との親和性が高いため、結着樹脂を可塑化できるので低温定着性に優れる。また、親和性が高いためトナー中でのエステル組成物の分散が良く、耐久性に優れる。また、酸価と水酸基価の和が50mgKOH/g以下であると、結着樹脂と相溶により、トナーのガラス転移温度が向上するため保存性が改善する。これらの観点から、エステル組成物の酸価と水酸基価の和は、0.1mgKOH/g以上であり、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、さらに好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、50mgKOH/g以下であり、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mgKOH/g以下である。
【0035】
エステル組成物の酸価と水酸基価の和は、アルコール成分とカルボン酸成分の比率、及び反応率により調整することができる。例えば、アルコール成分の比率を高めると水酸基価の高いエステル組成物が得られ、カルボン酸成分の比率を高めると酸価の高いエステル組成物が得られる。また、反応度を低くすると酸価及び水酸基価の高いエステル組成物が得られ、反応度を高くすると酸価及び水酸基価の低いエステル組成物が得られる。
【0036】
エステル組成物の酸価は、低温定着性の観点から、好ましくは0.1mgKOH/g以上、より好ましくは0.3mgKOH/g以上であり、そして、吸湿性の観点から、好ましくは45mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mgKOH/g以下、さらに好ましくは10mgKOH/g以下、さらに好ましくは5mgKOH/g以下、さらに好ましくは2mgKOH/g以下である。
【0037】
エステル組成物の水酸基価は、低温定着性の観点から、好ましくは0.2mgKOH/g以上、より好ましくは2mgKOH/g以上、さらに好ましくは10mgKOH/g以上、さらに好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、吸湿性の観点から、好ましくは45mgKOH/g以下、より好ましくは40mgKOH/g以下、さらに好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは25mgKOH/g以下である。
【0038】
エステル組成物の数平均分子量は、保存性の観点から、好ましくは300以上、より好ましくは400以上、さらに好ましくは600以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは1,500以下、より好ましくは1,350以下、さらに好ましくは1,200以下、さらに好ましくは1,000以下である。
【0039】
エステル組成物は、結晶性であり、融点を有するものである。エステル組成物の融点は、保存性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。ここで、エステル組成物の融点は、後述の吸熱の最高ピーク温度に相当する。
【0040】
本発明のエステル組成物は、その効果が発揮される静電荷像現像用トナーの原料として用いられることが好ましく、本発明ではさらに、本発明のエステル組成物を含有したトナー用結着樹脂組成物及び静電荷像現像用トナーを提供する。
【0041】
本発明のトナー用結着樹脂組成物は、本発明のエステル組成物と結着樹脂を含有するものである。
【0042】
結着樹脂としては、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-塩化ビニル共重合体、スチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル共重合体等のスチレンもしくはスチレン置換体を含む単重合体又は共重合体であるスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド樹脂、脂肪族又は脂環式炭化水素樹脂等が挙げられるが、本発明では、低温定着性の観点から、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0043】
本発明において、ポリエステル樹脂は、非晶質ポリエステル樹脂であっても結晶性ポリエステル樹脂であってもよいが、耐久性の観点から、非晶質ポリエステル樹脂が好ましい。
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.2以下の樹脂である一方、非晶質樹脂は、結晶性指数が1.4を超える、好ましくは1.5を超える、より好ましくは1.6以上の樹脂であるか、または、0.6未満、好ましくは0.5以下の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0044】
ポリエステル樹脂は、2価以上のアルコールを含むアルコール成分と2価以上のカルボン酸系化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物である。
【0045】
非晶質ポリエステル樹脂のアルコール成分としては、低温定着性の観点から、式(I):
【0046】
【化1】
【0047】
(式中、OR及びROはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン基及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の値は、1以上、好ましくは1.5以上であり、そして、16以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である)
で表される化合物が好ましい。式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0048】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0049】
他のアルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、グリセリン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0050】
非晶質ポリエステル樹脂のカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸系化合物、脂肪族ジカルボン酸系化合物、3価以上のカルボン酸系化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、保存性の観点から、芳香族ジカルボン酸系化合物を含有していることがより好ましい。
【0051】
芳香族ジカルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、低温定着性の観点から、テレフタル酸又はイソフタル酸がより好ましく、テレフタル酸がさらに好ましい。
【0052】
芳香族ジカルボン酸系化合物の含有量は、カルボン酸成分中、低温定着性の観点から、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上であり、そして、100モル%以下、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下である。
【0053】
脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルケニル基で置換されていてもよいコハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられるが、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルケニル基で置換されたコハク酸系化合物を含有していることが好ましい。当該コハク酸としては、好ましくは炭素数6~14のアルキル基又はアルケニル基で置換されたコハク酸であり、より好ましくは炭素数8~12のアルキル基又はアルケニル基で置換されたコハク酸である。具体的には、オクチルコハク酸やドデセニルコハク酸(テトラプロペニルコハク酸)等が挙げられる。
【0054】
3価以上のカルボン酸系化合物としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸、これらの酸の無水物及びアルキル基の炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられ、これらの中では、トリメリット酸系化合物が好ましい。
【0055】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0056】
カルボン酸成分とアルコール成分との当量比(COOH基/OH基)は、ポリエステル樹脂の軟化点を調整する観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.75以上であり、そして、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.05以下である。
【0057】
非晶質ポリエステル樹脂は、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中、好ましくはエステル化触媒の存在下、さらに必要に応じて、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、好ましくは130℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは210℃以上、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下の温度で重縮合させて製造することができる。
【0058】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられ、錫化合物が好ましい。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。重合禁止剤としては、t-ブチルカテコール等が挙げられる。重合禁止剤の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0059】
なお、本発明において、ポリエステル樹脂は、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステル樹脂であってもよい。変性されたポリエステル樹脂としては、例えば、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステル樹脂が挙げられるが、変性されたポリエステル樹脂のなかでは、ポリエステル樹脂をポリイソシアネート化合物でウレタン伸長したウレタン変性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0060】
非晶質ポリエステル樹脂の軟化点は、保存安定性の観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは110℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは130℃以下である。
【0061】
なお、本発明では、結着樹脂は、耐久性の観点から、軟化点の異なる非晶質ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。2種の樹脂の軟化点の差は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上であり、そして、好ましくは70℃以下、より好ましくは50℃以下である。
【0062】
軟化点が高い方の非晶質ポリエステル樹脂Hの軟化点は、トナーの耐久性及び耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上であり、そして、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。
また、軟化点が低い方の非晶質ポリエステル樹脂Lの軟化点は、トナーの耐久性を向上させる観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、そして、トナーの低温定着性を向上させる観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは115℃以下、さらに好ましくは110℃以下、さらに好ましくは105℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
【0063】
ポリエステル樹脂の軟化点は、例えば、架橋剤として作用する3価以上の原料モノマー(3価以上のカルボン酸系化合物及び3価以上のアルコール)の使用量によって調整することができる。
非晶質ポリエステル樹脂Hにおいて、3価以上の原料モノマーの含有量は、原料モノマー総量中、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
また、非晶質ポリエステル樹脂Lにおいて、3価以上の原料モノマーの含有量は、原料モノマー総量中、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは0モル%である。
【0064】
非晶質ポリエステル樹脂Hと非晶質ポリエステル樹脂Lの質量比(非晶質ポリエステル樹脂H/非晶質ポリエステル樹脂L)は、好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上、さらに好ましくは40/60以上、さらに好ましくは50/50以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、さらに好ましくは60/40以下である。
【0065】
非晶質ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、保存安定性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは65℃以下である。
【0066】
非晶質ポリエステル樹脂の酸価は、低温定着性の観点から、好ましくは4mgKOH/g以上、より好ましくは8mgKOH/g以上であり、そして、吸湿性の観点から、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mgKOH/g以下である。
【0067】
非晶質ポリエステル樹脂の水酸基価は、低温定着性の観点から、好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは20mgKOH/g以上であり、そして、吸湿性の観点から、好ましくは80mgKOH/g以下、より好ましくは60mgKOH/g以下である。
【0068】
非晶質ポリエステル樹脂の上記物性は、非晶質ポリエステル樹脂が2種以上のポリエステルからなる場合は、それらの加重平均値が上記範囲内となることが好ましい。
【0069】
ポリエステル樹脂が軟化点の異なる2種のポリエステル樹脂からなる場合、前記非晶質ポリエステル樹脂Lの代わりに、結晶性ポリエステル樹脂を含有していてもよい。
【0070】
結晶性ポリエステル樹脂としては、例えば、炭素数2以上16以下の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分と炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物を含有するカルボン酸成分との重縮合物が好ましい。
【0071】
アルコール成分に含まれる炭素数2以上16以下の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられ、1種であっても、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0072】
炭素数2以上16以下の脂肪族ジオールは、低温定着性の観点から、水酸基を炭素鎖の末端に有しているα,ω-脂肪族ジオールであることが好ましく、α,ω-直鎖アルカンジオールであることがより好ましい。
【0073】
脂肪族ジオールの炭素数は、低温定着性の観点から、2以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上であり、そして、保存性の観点から、16以下、好ましくは14以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下である。
【0074】
炭素数2以上16以下の脂肪族ジオールの含有量は、低温定着性の観点から、結晶性ポリエステル樹脂のアルコール成分中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0075】
他のアルコール成分としては、炭素数17以上の脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価以上のアルコール等が挙げられる。
【0076】
カルボン酸成分に含まれる炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、コハク酸(炭素数:4)、フマル酸(炭素数:4)、アジピン酸(炭素数:6)、スベリン酸(炭素数:8)、アゼライン酸(炭素数:9)、セバシン酸(炭素数:10)、ドデカン二酸(炭素数:12)、テトラデカン二酸(炭素数:14)、側鎖にアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸、これらの酸の無水物、これらの酸のアルキル基の炭素数が1以上3以下であるアルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、セバシン酸が好ましい。
【0077】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数は、低温定着性の観点から、4以上、好ましくは6以上、より好ましくは8以上であり、そして、保存性の観点から、14以下、好ましくは12以下である。
【0078】
炭素数4以上14以下の脂肪族ジカルボン酸系化合物の含有量は、低温定着性の観点から、結晶性ポリエステル樹脂のカルボン酸成分中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0079】
他のカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸系化合物、炭素数15以上の脂肪族ジカルボン酸系化合物、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸系化合物、これらの酸の無水物及び炭素数が1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。
【0080】
結晶性ポリエステル樹脂のカルボン酸成分とアルコール成分の当量比(COOH基/OH基)は、保存性の観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0081】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応条件は、140℃以上250℃以下、好ましくは180℃以上230℃以下の温度で行うこと以外は、上述のポリエステル樹脂の反応条件の同様である。
【0082】
結晶性ポリエステル樹脂の軟化点は、保存性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、さらに好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0083】
結晶性ポリエステル樹脂の融点は、保存性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0084】
結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、低温定着性の観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは8mgKOH/g以上であり、そして、保存性の観点から、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mgKOH/g以下である。
【0085】
結晶性ポリエステル樹脂の水酸基価は、低温定着性の観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは8mgKOH/g以上、さらに好ましくは10mgKOH/g以上、さらに好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、保存性の観点から、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mgKOH/g以下である。
【0086】
前記非晶質ポリエステル樹脂Hと結晶性ポリエステル樹脂の質量比(非晶質ポリエステル樹脂H/結晶性ポリエステル樹脂)は、保存性の観点から、好ましくは75/25以上、より好ましくは80/20以上、さらに好ましくは85/15以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは99/1以下、より好ましくは95/5以下である。
【0087】
なお、本発明の結着樹脂組成物が2種以上の樹脂を含有する場合、それらの樹脂の混合物を結着樹脂として用いてもよく、トナーを製造する際に、それらの樹脂を直接原料の混合に供してもよい。
【0088】
エステル組成物の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは8質量部以上であり、そして、耐久性の観点から、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。エステル組成物は、従来のエステルワックスに比べて結着樹脂中の分散性が高いため、配合量を増加することが可能であり、多めに配合することで、さらに、耐ホットオフセット性及び耐久性が向上させることができる。
【0089】
本発明の静電荷像現像用トナーは、本発明のエステル組成物と結着樹脂を含有するものである。結着樹脂については、前記トナー用樹脂組成物において記載したものと同様である。なお、結着樹脂の含有量は、静電荷像現像用トナー中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%であり、そして、好ましくは100質量%未満、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは92質量%以下である。
【0090】
本発明の静電荷像現像用トナーには、エステル組成物及び結着樹脂以外に、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤を含有してもよく、着色剤、離型剤及び荷電制御剤が含有していることが好ましい。
【0091】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料、磁性体等を使用することができる。例えば、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントレッド122、ピグメントグリーンB、ローダミン-Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が挙げられる。なお、本発明において、トナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0092】
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0093】
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス又はそれらの酸化物;脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を用いることができる。これらの中では、耐ホットオフセット性の観点から、パラフィンワックスが好ましい。
【0094】
離型剤の融点は、トナーの転写性の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下、さらに好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
【0095】
離型剤の含有量は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。
【0096】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0097】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業(株)製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業(株)製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業(株)製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業(株)製)等;スチレン-アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成(株)製)等が挙げられる。
【0098】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業(株)製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット(株)製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリエント化学工業(株)製)、「TN-105」(保土谷化学工業(株)製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0099】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0100】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、エステル組成物、結着樹脂、着色剤、離型剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0101】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0102】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0103】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは150nm以下、さらに好ましくは90nm以下、さらに好ましくは60nm以下である。
【0104】
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0105】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0106】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例
【0107】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定することができる。
【0108】
〔エステル組成物の数平均分子量〕
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター「DISMIC-25JP」(ADVANTEC社製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー社製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー社製)
【0109】
〔エステル組成物及び樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、0℃にて1分間維持する。その後、昇温速度10℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。エステル組成物においてはこの吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0110】
〔エステル組成物及び樹脂の酸価〕
JIS K 0070:1992の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、非晶質樹脂はアセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に、エステル組成物及び結晶性樹脂はクロロホルム:ジメチルホルムアミドの混合溶媒(クロロホルム:ジメチルホルムアミド=7:3(容量比))に、それぞれ変更する。
【0111】
〔エステル組成物及び樹脂の水酸基価〕
JIS K 0070:1992の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒からテトラヒドロフランに変更する。
【0112】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0113】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0114】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最高ピーク温度を離型剤の融点とする。
【0115】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0116】
〔トナーの体積中位粒径〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマン・コールター(株)製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマン・コールター(株)製)
電解液:アイソトンII(ベックマン・コールター(株)製)
分散液:電解液にエマルゲン109P(花王(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機(機械名:(株)エスエヌディー製US-1、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mLを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mLに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0117】
エステル組成物の製造例1
表1に示す原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、140℃から200℃まで8時間かけて昇温を行った。その後200℃で、8.0kPaにて表1に示す酸価に達するまで反応を行い、エステル組成物(エステルE1~エステルE6)を得た。
【0118】
【表1】
【0119】
樹脂製造例1
表2に示すアルコール成分、無水トリメリット酸以外のカルボン酸成分、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃にて10時間反応を行った。その後、無水トリメリット酸を添加し、220℃、8.0kPaにて表2に示す軟化点に達するまで反応を行い、非晶質ポリエステル樹脂(樹脂A1~樹脂A3)を得た。
【0120】
樹脂製造例2
表2に示すアルコール成分、カルボン酸成分、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、140℃から200℃まで8時間かけて昇温を行った。その後200℃で、8.0kPaにて表に示す軟化点に達するまで反応を行い、結晶性ポリエステル樹脂(樹脂C1)を得た。
【0121】
【表2】
【0122】
実施例1~9及び比較例1~3(実施例4、5は参考例である)
表3に示す結着樹脂100質量部及びエステル組成物と、着色剤「ECB-301」(フタロシアニンブルー、大日精化社製)5質量部、荷電制御剤「LR-147」(日本カーリット社製)1質量部、及び離型剤「HNP-9」(パラフィンワックス、日本精蝋社製、融点:79℃)2質量部を、ヘンシェルミキサーでよく攪拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱設定温度は90℃であり、混練物の温度は140℃、混練物の供給速度は10kg/h、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を140℃から50℃まで1.5時間で冷却し、50℃で、冷却ローラーで圧延冷却した後、45℃で4時間静置後、ジェットミルで体積中位粒径(D50)5.5μmのトナー粒子を得た。
【0123】
得られたトナー粒子100質量部に対し、外添剤「アエロジル R-972」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製、疎水化処理剤:DMDS、平均粒子径:16nm)1.5質量部及び「RY-50」(日本アエロジル社製、疎水化処理剤:シリコーンオイル、平均粒子径40nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、トナーを得た。
【0124】
試験例1〔低温定着性及び耐ホットオフセット性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、未定着の状態で印刷物を得た(印刷面積:2cm×12cm、付着量:0.5mg/cm2)。その後、総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度300mm/sec)を用い、定着ロールの温度を100℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で未定着状態の印刷物の定着試験を行った。得られた印刷物の画像部分にセロハン粘着テープ「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆(株)製、幅:18mm、JIS Z 1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。なお、印刷に用いた紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ(株)製、75g/m2)を使用した。
テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前×100)が最初に90%を超える定着ローラーの温度を最低定着温度とした。結果を表3に示す。最低定着温度が低いほど、低温定着性に優れる。
また、上記で得られた定着画像を目視で判断し、ホットオフセットが見られた定着ロールの最低温度をホットオフセット温度とした。ホットオフセット温度が高いほど、耐ホットオフセット性に優れる。
【0125】
試験例2〔保存性〕
トナー4gを、温度50℃、湿度45%の環境下で72時間放置した。放置後、トナー凝集の発生程度を目視にて観察し、以下の評価基準に従って、保存性を評価した。結果を表3示す。
<評価基準>
A:48時間後及び72時間後も凝集は全く認められない。
B:48時間後で凝集は認められないが72時間後ではわずかに凝集が認められる。
C:48時間後で凝集は認められないが72時間後では明らかに凝集が認められる。
D:48時間以内で既に凝集が認められる。
【0126】
試験例3〔耐久性〕
レーザプリンタ「ページプレスト N-4」(カシオ計算機(株)製、定着:接触定着方式、現像:非磁性一成分現像方式、現像ロール径:2.3cm)にトナーを実装し、温度40℃相対湿度45%の条件下にて黒化率5.5%の斜めストライプのパターンにて、耐刷を行った。途中、500枚ごとに黒ベタ画像を印字し、画像上のスジを確認した。画像上にスジが目視にて観察された時点までの印字枚数を、現像ロールにトナーが融着・固着したことによりスジが発生した枚数として、以下の評価基準に従って、耐久性を評価した。結果を表3に示す。スジの発生した枚数が多いほど、トナーの耐久性に優れる。その枚数は、3,000枚以上が好ましく、4,000枚以上がより好ましく、5,000枚以上がさらに好ましい。
【0127】
【表3】
【0128】
以上の結果より、実施例1~9のトナーは、低温定着性、保存性、耐オフセット性、及び耐久性がいずれも良好であることが分かる。
これに対し、エステル組成物を含有していない比較例1のトナーは、低温定着性、耐オフセット性、及び耐久性に欠けており、酸価と水酸基価の和が実質的に0であるエステル組成物を含有した比較例2のトナーは、低温定着性と耐久性に欠けている。エステル組成物として天然エステルワックスを含有した比較例3のトナーは、保存性と耐久性に欠けている。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明のトナー用エステル組成物は、静電荷像現像法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナー用結着樹脂及び静電荷像現像用トナーに好適に用いられるものである。