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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20230731BHJP
【FI】
E02F9/20 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019007203
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2020117869
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】川島 宏治
(72)【発明者】
【氏名】平田 政貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】水野 博之
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-189904(JP,A)
【文献】特開2017-139931(JP,A)
【文献】特開2017-139930(JP,A)
【文献】特開2001-112282(JP,A)
【文献】特開2013-028962(JP,A)
【文献】特開2018-172941(JP,A)
【文献】国際公開第2011/122489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動する電動機と、
前記油圧ポンプを駆動する他の駆動手段と、
前記電動機の回転角を推定し、推定した回転角に基づき前記電動機を制御する制御装置と、を備え、
前記回転角の推定値と実際値との誤差が収束するまでの間、又は、前記電動機の電流値が所定閾値以下で抑制されるまでの間、前記他の駆動手段による前記油圧ポンプの回転に伴い前記電動機が回転させられている状態で、前記電動機を間欠的に通電させる、
作業機械。
【請求項2】
前記制御装置は、前記他の駆動手段による前記油圧ポンプの回転に伴い前記電動機が回転させられている状態で、前記電動機を通電させ、前記回転角を推定しながら前記電動機を制御する動作を間欠的に繰り返す、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記制御装置は、前記他の駆動手段による前記油圧ポンプの回転に伴い前記電動機が回転させられている状態で、前記電動機を通電させ、測定結果に依らない初期値を基準として前記回転角を推定しながら前記電動機を制御する前記動作を間欠的に繰り返す、
請求項2に記載の作業機械。
【請求項4】
自機の起動に伴う前記他の駆動手段による前記油圧ポンプの始動時に、前記電動機を間欠的に通電させる、
請求項1乃至の何れか一項に記載の作業機械。
【請求項5】
前記電動機に関する異常の発生後、該異常から復帰するときに、前記他の駆動手段による前記油圧ポンプの回転に伴い前記電動機が回転させられている状態で、前記電動機を間欠的に通電させる、
請求項1乃至の何れか一項に記載の作業機械。
【請求項6】
前記他の駆動手段は、エンジンであり、
前記電動機は、前記エンジンをアシストして前記油圧ポンプを駆動する、
請求項1乃至の何れか一項に記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプを電動機及び他の駆動手段(例えば、エンジン)等の複数の駆動手段で駆動可能な作業機械が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-028962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動機の回転角を検出するセンサを搭載する代わりに、回転角を推定しながら電動機を制御するセンサレス制御技術が作業機械に適用される場合がある。
【0005】
しかしながら、センサレス制御技術を用いる場合、電動機がサーボONされる際の電動機の回転角の初期位置が既知である必要がある。そのため、通常、他の駆動手段及び油圧ポンプが回転していない状態、つまり、電動機が他の駆動手段の作用で回転させられていない状態で、回転角の初期位置が検出される。電動機が回転している場合、電動機の誘起電圧を無視できず、巻線インダクタンスの変化を利用して回転角を検出できないからである。よって、例えば、作業機械の起動時に、他の駆動手段で油圧ポンプを始動可能であるにも関わらず、回転角の初期値の検出処理の終了まで油圧ポンプの始動を待つ必要がある等、作業開始できるまでの所要時間が相対的に長くなる可能性がある。
【0006】
そこで、上記課題に鑑み、油圧ポンプを駆動する電動機のセンサレス制御が採用される場合の作業効率を向上させることが可能な作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態では、
油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動する電動機と、
前記油圧ポンプを駆動する他の駆動手段と、
前記電動機の回転角を推定し、推定した回転角に基づき前記電動機を制御する制御装置と、を備え、
前記回転角の推定値と実際値との誤差が収束するまでの間、又は、前記電動機の電流値が所定閾値以下で抑制されるまでの間、前記他の駆動手段による前記油圧ポンプの回転に伴い前記電動機が回転させられている状態で、前記電動機を間欠的に通電させる、
作業機械が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上述の実施形態によれば、油圧ポンプを駆動する電動機のセンサレス制御が採用される場合の作業効率を向上させることが可能な作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ショベルの側面図である。
図2】ショベルの構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図3】比較例に係るショベルの起動時における動作を示すシーケンス図である。
図4A】一実施形態に係るショベルの起動時における動作を示すシーケンス図である。
図4B】インバータ(制御回路)によるサーボ開始制御処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
図4C】一実施形態に係るショベルの起動時における動作に対応する各種状態の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
[ショベルの概要]
まず、図1を参照して、作業機械の一例としてのショベルの概要を説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るショベルの一例を示す側面図である。
【0013】
本実施形態に係るショベル(作業機械の一例)は、下部走行体1と、旋回機構2を介して旋回可能に下部走行体1に搭載される上部旋回体3と、作業装置としてのブーム4、アーム5、及びバケット6と、オペレータが搭乗するキャビン10を備える。
【0014】
下部走行体1は、例えば、左右一対のクローラを含み、それぞれのクローラが走行油圧モータ1A,1B(図2参照)で油圧駆動されることにより、自走する。
【0015】
上部旋回体3は、後述する旋回用電動機21(図2参照)により旋回機構2が電気駆動されることにより、下部走行体1に対して旋回する。
【0016】
ブーム4は、上部旋回体3の前部中央に俯仰可能に枢着され、ブーム4の先端には、アーム5が上下回動可能に枢着され、アーム5の先端には、バケット6が上下回動可能に枢着される。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、それぞれ、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9により油圧駆動される。
【0017】
キャビン10は、上部旋回体3の前部左側に搭載され、その内部には、オペレータが着座する操縦席や後述する操作装置26等が設けられる。
【0018】
[ショベルの構成]
次に、図1に加えて、図2を参照して、本実施形態に係るショベルの構成について説明する。
【0019】
図2は、本実施形態に係るショベルの駆動系を中心とする構成の一例を示すブロック図である。
【0020】
尚、図中にて、機械的動力ラインは二重線、高圧油圧ラインは太い実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御ラインは細い実線でそれぞれ示される。
【0021】
<ショベルの油圧駆動系>
本実施形態に係るショベルの油圧駆動系は、上述の如く、下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6のそれぞれを油圧駆動する走行油圧モータ1A,1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9等の油圧アクチュエータを含む。また、本実施形態に係る油圧駆動系は、主に、エンジン11と、電動発電機12と、減速機13と、メインポンプ14と、コントロールバルブ17を含む。
【0022】
尚、電動発電機12については、ショベルの電気駆動系の説明部分で詳述する。
【0023】
エンジン11(他の駆動手段の一例)は、油圧駆動系におけるメイン動力源であり、上部旋回体3の後部に搭載される。エンジン11は、後述するエンジンコントローラ(ECM:Engine Control Module)30Cの制御下で、所定の目標回転数で定回転する。エンジン11は、例えば、軽油を燃料とするディーゼルエンジンであり、減速機13を介してメインポンプ14、パイロットポンプ15を駆動する。また、エンジン11は、減速機13を介して電動発電機12を駆動し、電動発電機12に発電させる。
【0024】
減速機13は、例えば、上部旋回体3の後部に搭載され、エンジン11及び後述する電動発電機12が接続される2つの入力軸と、メインポンプ14及びパイロットポンプ15が直列に同軸接続される1つの出力軸を有する。減速機13は、エンジン11及び電動発電機12の動力を所定の減速比でメインポンプ14及びパイロットポンプ15に伝達することができる。また、減速機13は、エンジン11の動力を所定の減速比で、電動発電機12とメインポンプ14及びパイロットポンプ15とに分配して伝達することができる。
【0025】
メインポンプ14(油圧ポンプの一例)は、上部旋回体3の後部に搭載され、高圧油圧ライン16を通じてコントロールバルブ17に作動油を供給する。メインポンプ14は、エンジン11、或いは、エンジン11及び電動発電機12により駆動される。メインポンプ14は、例えば、可変容量式油圧ポンプであり、後述するショベルコントローラ30Aの制御下で、レギュレータ(不図示)が斜板の角度(傾転角)を制御する。これにより、メインポンプ14は、ピストンのストローク長を調整し、吐出流量(吐出圧)を制御することができる。
【0026】
コントロールバルブ17は、上部旋回体3の中央部に搭載され、オペレータによる操作装置26に対する操作に応じて、油圧駆動系の制御を行う油圧制御装置である。コントロールバルブ17は、上述の如く、高圧油圧ライン16を介してメインポンプ14と接続され、メインポンプ14から供給される作動油を、油圧アクチュエータとしての走行油圧モータ1A(右用),1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9に供給可能に構成される。具体的には、コントロールバルブ17は、メインポンプ14から油圧アクチュエータのそれぞれに供給される作動油の流量と流れる方向を制御する複数の油圧制御弁(方向切換弁)を含むバルブユニットである。
【0027】
<ショベルの電気駆動系>
本実施形態に係るショベルの電気駆動系は、油圧駆動系をアシストする構成要素として、電動発電機12と、電流センサ12s1と、電圧センサ12s2と、インバータ18Aを含む。また、本実施形態に係るショベルの電気駆動系は、被駆動要素(具体的には、上部旋回体3)の電気駆動に関する構成要素として、旋回用電動機21と、電流センサ21sと、レゾルバ22と、メカニカルブレーキ23と、旋回減速機24と、インバータ18Bを含む。
【0028】
電動発電機12(電動機の一例)は、油圧駆動系に対するアシスト動力源であり、上部旋回体3の後部に搭載される。電動発電機12は、例えば、IPM(Interior Permanent Magnet)モータである。電動発電機12は、インバータ18Aを介してキャパシタ19を含む蓄電系120や旋回用電動機21と接続される。電動発電機12は、インバータ18Aを介してキャパシタ19や旋回用電動機21から供給される三相交流電力で力行運転し、エンジン11をアシストする態様で、減速機13を介してメインポンプ14及びパイロットポンプ15を駆動する。また、電動発電機12は、エンジン11により駆動されることにより発電運転を行い、発電電力をキャパシタ19や旋回用電動機21に供給することができる。電動発電機12の力行運転と発電運転との切替制御は、後述するハイブリッドコントローラ(以下、「HBコントローラ」)30Bの制御下で、インバータ18Aにより実現されてよい。
【0029】
電流センサ12s1は、電動発電機12の三相(U相、V相、W相)のそれぞれの電流を検出する。電流センサ12s1は、例えば、電動発電機12とインバータ18Aの間の電力経路に設けられる。電流センサ12s1により検出される旋回用電動機21の三相それぞれの電流に対応する検出信号は、一対一の通信線やCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを通じて、直接、インバータ18Aに取り込まれる。また、当該検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、一度、HBコントローラ30Bに取り込まれ、HBコントローラ30B経由で、インバータ18Aに入力されてもよい。以下、電圧センサ12s2の検出信号についても同様である。
【0030】
電圧センサ12s2は、電動発電機12の三相のそれぞれの印加電圧を検出する。電流センサ21sは、例えば、電動発電機12とインバータ18Aの間の電力経路に設けられる。電圧センサ12s2により検出される旋回用電動機21の三相それぞれの印加電圧に対応する検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、直接、インバータ18Aに取り込まれる。
【0031】
インバータ18A(制御装置の一例)は、HBコントローラ30Bの制御下で、電動発電機12を駆動制御する。インバータ18Aは、例えば、直流電力を三相交流電力に変換したり、三相交流電力を直流電力に変換したりする変換回路と、変換回路をスイッチ駆動する駆動回路と、駆動回路の動作を規定する制御信号(例えば、PWM(Pulse Width Modulation)信号)を出力する制御回路を含む。
【0032】
具体的には、インバータ18Aの制御回路は、電流センサ12s1及び電圧センサ12s2の検出信号に基づき、逐次、電動発電機12の回転軸の回転角等を推定してよい。例えば、当該制御回路は、例えば、既知の拡張誘起電圧(EEFM:Extended Electromotive Force)モデルに基づき、電動発電機12の回転軸の回転角や回転速度等を推定する。そして、当該制御回路は、逐次導出される回転角や回転速度の推定値に基づき、電動発電機12の動作状態を把握しながら、電動発電機12の駆動制御(以下、「センサレス制御」)を行ってよい。これにより、電動発電機12には、回転角や回転位置を検出する所定のセンサ(例えば、ロータリエンコーダ等)が設けられる必要が無い。そのため、メカニカルなセンサを削減することができ、ショベルのコストを抑制することができると共に、センサの汚れ等による検出不良を抑制することができる。
【0033】
尚、インバータ18Aの制御回路は、電圧センサ12s2による電動発電機12の印加電圧の検出値の代わりに、HBコントローラ30Bから入力される、或いは、自身が制御の過程で生成する電動発電機12の電圧指令値を用いて、電動発電機12の回転軸の回転角等を推定してもよい。この場合、電圧センサ12s2は、省略されうる。また、インバータ18Aの駆動回路及び制御回路の少なくとも一方は、インバータ18Aの外部(例えば、HBコントローラ30B(制御装置の一例))に設けられてもよい。
【0034】
旋回用電動機21は、下部走行体1と上部旋回体3との間を接続する旋回機構2に設けられ、HBコントローラ30Bの制御下で、上部旋回体3を旋回駆動する力行運転、及び回生電力を発生させて上部旋回体3を旋回制動する回生運転を行う。旋回用電動機21は、インバータ18Bを介して蓄電系120に接続され、インバータ18Bを介してキャパシタ19や電動発電機12から供給される三相交流電力により駆動される。また、旋回用電動機21は、インバータ18Bを介して、回生電力をキャパシタ19や電動発電機12に供給する。これにより、回生電力で、キャパシタ19を充電したり、電動発電機12を駆動したりすることができる。旋回用電動機21の力行運転と回生運転との切替制御は、HBコントローラ30Bの制御下で、インバータ18Bにより実現されてよい。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。
【0035】
電流センサ21sは、旋回用電動機21の三相(U相、V相、W相)のそれぞれの電流を検出する。電流センサ21sは、例えば、旋回用電動機21とインバータ18Bの間の電力経路に設けられる。電流センサ21sにより検出される、旋回用電動機21の三相それぞれの電流に対応する検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、直接、インバータ18Bに取り込まれる。また、当該検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、一度、HBコントローラ30Bに取り込まれ、HBコントローラ30B経由で、インバータ18Bに入力されてもよい。以下、レゾルバ22の検出信号についても同様である。
【0036】
レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転位置(回転角)等を検出する。レゾルバ22により検出された回転角に対応する検出信号は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワーク等を通じて、直接、インバータ18Bに取り込まれる。
【0037】
メカニカルブレーキ23は、HBコントローラ30Bの制御下で、旋回用電動機21の回転軸21Aに対して、機械的に制動力を発生させる。これにより、メカニカルブレーキ23は、上部旋回体3の旋回制動を行ったり、上部旋回体3の停止状態を維持させたりすることができる。
【0038】
旋回減速機24は、旋回用電動機21の回転軸21Aと接続され、旋回用電動機21の出力(トルク)を所定の減速比で減速させることにより、トルクを増大させて、上部旋回体3を旋回駆動する。即ち、力行運転の際、旋回用電動機21は、旋回減速機24を介して、上部旋回体3を旋回駆動する。また、旋回減速機24は、上部旋回体3の慣性回転力を増速させて旋回用電動機21に伝達し、回生電力を発生させる。即ち、回生運転の際、旋回用電動機21は、旋回減速機24を介して伝達される上部旋回体3の慣性回転力により回生発電を行い、上部旋回体3を旋回制動する。
【0039】
インバータ18Bは、HBコントローラ30Bの制御下で、旋回用電動機21を駆動制御する。インバータ18Bは、例えば、直流電力を三相交流電力に変換したり、三相交流電力を直流電力に変換したりする変換回路と、変換回路をスイッチ駆動する駆動回路と、駆動回路の動作を規定する制御信号(例えば、PWM信号)を出力する制御回路を含む。
【0040】
具体的には、インバータ18Bの制御回路は、電流センサ21s及びレゾルバ22の検出信号に基づき、旋回用電動機21に関する速度フィードバック制御及びトルクフィードバック制御を行う。
【0041】
<ショベルの蓄電系>
本実施形態に係るショベルの蓄電系120は、キャパシタ19と、昇降圧コンバータ100と、DCバス110を含む。蓄電系120は、例えば、電気駆動系のインバータ18A,18Bと共に、上部旋回体3の右側前部に搭載される。
【0042】
キャパシタ19は、電動発電機12や旋回用電動機21に電力を供給すると共に、電動発電機12や旋回用電動機21の発電電力を充電する蓄電装置の一例である。また、キャパシタ19と昇降圧コンバータ100を含む負荷側のメイン回路との間を遮断するリレー(以下、「遮断リレー」)が設けられる。これにより、キャパシタ19は、ショベルの停止時やショベルの異常時(例えば、転倒等の事故発生時)に、HBコントローラ30Bによる制御下で、メイン回路と切り離される。そのため、オペレータの不在時の異常や、オペレータの在席時の異常に起因して、キャパシタ19に非常に大きな短絡電流が流れるような事態を抑制することができる。遮断リレーは、例えば、キャパシタ19と昇降圧コンバータ100との間の正極側及び負極側の双方の電力経路に設けられる。
【0043】
昇降圧コンバータ100は、キャパシタ19の電力を昇圧し、DCバス110に出力したり、DCバス110に供給される電力を降圧し、キャパシタ19に蓄電させたりする。昇降圧コンバータ100は、電動発電機12及び旋回用電動機21の運転状態に応じて、DCバス110の電圧値が一定の範囲内に収まるように昇圧動作と降圧動作を切り替える。昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス110の電圧検出値、キャパシタ19の電圧検出値、及びキャパシタ19の電流検出値に基づき、HBコントローラ30Bにより実現されてよい。
【0044】
DCバス110は、インバータ18A,18Bと昇降圧コンバータ100との間に設けられ、キャパシタ19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を制御する。
【0045】
<ショベルの操作系>
また、本実施形態に係るショベルの操作系は、パイロットポンプ15、操作装置26、圧力センサ29等を含む。
【0046】
パイロットポンプ15は、上部旋回体3の後部に搭載され、パイロットライン25を介して操作装置26にパイロット圧を供給する。パイロットポンプ15は、例えば、固定容量式油圧ポンプであり、エンジン11、或いはエンジン11及び電動発電機12により駆動される。
【0047】
操作装置26は、例えば、レバー26A,26Bと、ペダル26Cを含む。操作装置26は、キャビン10の操縦席付近に設けられ、オペレータがそれぞれの被駆動要素(例えば、下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等)の操作を行うための操作入力手段である。換言すれば、操作装置26は、それぞれの被駆動要素を駆動する油圧アクチュエータ(例えば、走行油圧モータ1A,1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9等)や電動アクチュエータ(旋回用電動機21等)の操作を行うための操作入力手段である。操作装置26(レバー26A,26B、及びペダル26C)は、油圧ライン27を介して、コントロールバルブ17に接続される。これにより、コントロールバルブ17には、操作装置26における下部走行体1、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の操作状態に応じたパイロット信号(パイロット圧)が入力される。そのため、コントロールバルブ17は、操作装置26における操作状態に応じて、それぞれの油圧アクチュエータを駆動することができる。また、操作装置26は、油圧ライン28を介して圧力センサ29に接続される。
【0048】
圧力センサ29は、上述の如く、油圧ライン28を介して操作装置26と接続され、操作装置26の二次側のパイロット圧、即ち、操作装置26における各被駆動要素の操作状態に対応するパイロット圧を検出する。圧力センサ29は、ショベルコントローラ30Aに接続され、操作装置26における下部走行体1、上部旋回体3、ブーム4、アーム5、及びバケット6等の操作状態に応じた検出信号(圧力検出値)は、ショベルコントローラ30Aに取り込まれる。
【0049】
<ショベルの制御系>
本実施形態に係るショベルの制御系は、制御装置30と、スタータモータ11stと、HMI(Human Machine Interface)50を含む。
【0050】
制御装置30は、ショベルコントローラ30Aと、HBコントローラ30Bと、エンジンコントローラ30Cを含む。
【0051】
ショベルコントローラ30A、HBコントローラ30B、及びエンジンコントローラ30C等は、それぞれの機能が任意のハードウェア、或いは、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせにより実現されてよい。例えば、ショベルコントローラ30A、HBコントローラ30B、及びエンジンコントローラ30C等は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)等のメモリ装置(主記憶装置)と、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性の補助記憶装置と、I/O(Input-Output)インタフェース装置等を含むマイクロコンピュータを中心に構成されてよい。
【0052】
ショベルコントローラ30Aは、HBコントローラ30B及びエンジンコントローラ30Cを含む各種コントローラと連携し、ショベルの駆動制御を行う。例えば、ショベルコントローラ30Aは、HBコントローラ30B及びエンジンコントローラ30C等の各種コントローラとの双方向通信に基づき、ショベル全体(ショベルに搭載される各種機器)の動作を統合的に制御してよい。
【0053】
HBコントローラ30Bは、ショベルコントローラ30Aから入力される各種情報(例えば、操作装置26の操作状態に対応する圧力センサ29の検出値を含む制御指令等)に基づき、電気駆動系の駆動制御を行う。例えば、HBコントローラ30Bは、圧力センサ29により検出される、操作装置26の操作状態に対応する検出値に基づき、インバータ18Aを駆動し、電動発電機12の運転状態(力行運転及び発電運転)の切替制御を行う。また、例えば、HBコントローラ30Bは、圧力センサ29により検出される、操作装置26の操作状態に対応する検出値に基づき、インバータ18Bを駆動し、旋回用電動機21の運転状態(力行運転及び回生運転)の切替制御を行う。また、例えば、HBコントローラ30Bは、圧力センサ29により検出される、操作装置26の操作状態に対応する検出値に基づき、昇降圧コンバータ100を駆動し、昇降圧コンバータ100の昇圧運転と降圧運転、換言すれば、キャパシタ19の放電状態と充電状態との切替制御を行う。
【0054】
また、HBコントローラ30Bは、電気駆動系に関する自己診断機能を有し、電気駆動系に関する各種異常を検出してもよい。
【0055】
具体的には、HBコントローラ30Bは、電動発電機12の異常やインバータ18Aに関する異常、つまり、電動発電機12に関する異常を検出してよい。例えば、HBコントローラ30Bは、電動発電機12やインバータ18Aの温度、電流、電圧等をモニタリングすることにより、温度異常、電流異常(例えば、過電流)、電圧異常(例えば、過電圧)等を検出してよい。また、HBコントローラ30Bは、インバータ18Aの半導体スイッチ、抵抗、コンデンサ、ダイオード等の構成要素の異常等を検出してもよい。
【0056】
エンジンコントローラ30Cは、ショベルコントローラ30Aから入力される各種情報(例えば、エンジン11の設定回転数やエンジン11の設定回転数に対応するショベルの運転モード等を含む制御指令)に基づき、エンジン11の駆動制御を行う。具体的には、エンジンコントローラ30Cは、制御対象のスタータモータ11stやエンジン11の燃料噴射装置等のアクチュエータに制御指令を出力することで、エンジン11の駆動制御を実現する。
【0057】
また、エンジンコントローラ30Cは、エンジン11に関する自己診断機能を有し、エンジン11に関する各種異常を検出してもよい。例えば、エンジンコントローラ30Cは、エンジン11の燃料噴射装置等の各種アクチュエータの異常、クランク角センサ等の各種センサの異常、排気系の異常等を検出してよい。
【0058】
スタータモータ11stは、図示しない補機バッテリ(例えば、鉛蓄電池)からの電力で作動し、エンジンコントローラ30Cの制御下で、エンジン11のクランクシャフトを強制的に回転させ、エンジン11を始動させる。具体的には、スタータモータ11stは、電動発電機12よりも相対的に小さい助勢度でエンジン11をアシストすることで、エンジン11を始動させる。
【0059】
HMI50は、キャビン10内に設けられ、オペレータと、ショベルとの間のインタフェース機能を担う。HMI50は、通知(表示)手段(例えば、警告灯等を含む計器盤やディスプレイ等)や操作手段(例えば、操作装置26、ディスプレイのタッチパネル、操縦席周辺に配置される各種ボタン、スイッチ、トグル等)を含む。
【0060】
[電動発電機の制御方法の具体例]
次に、図3図4図4A図4C)を参照して、インバータ18Aによる電動発電機12の制御方法の具体例について説明する。
【0061】
<比較例に係る電動発電機の制御方法>
まず、図3を参照して、比較例に係るショベルのインバータ18Acによる電動発電機の制御方法について説明する。
【0062】
図3は、比較例に係るショベルの起動時における動作を説明する図である。具体的には、図3は、比較例に係るショベルの起動時における動作の一例を示すシーケンス図である。
【0063】
尚、比較例に係るショベルのインバータ18Ac、エンジンコントローラ30Cc、及びHMI50cは、本実施形態に係るショベルのインバータ18A、エンジンコントローラ30C、及びHMI50のそれぞれに対応する構成要素である。
【0064】
図3に示すように、ステップS102にて、オペレータは、HMI50c(例えば、キーシリンダ等)に対するキー操作を行っている。
【0065】
ステップS104にて、HMI50cは、オペレータのキー操作に伴い、キースイッチをONにする。これにより、インバータ18Ac及びエンジンコントローラ30C等への電源供給が開始される。
【0066】
尚、具体的には、キースイッチがONにされることで、本実施形態のHBコントローラに相当する電気駆動系のコントローラが起動され、当該コントローラが電気駆動系の電源スイッチをONにすることにより、インバータ18Aへの電源供給が開始される態様であってよい。以下、図4AのステップS204の場合についても同様である。
【0067】
ステップS106にて、インバータ18Acは、その起動の直後、電動発電機の回転角の初期位置(以下、「初期回転角」)を検出する。具体的には、インバータ18Acは、停止状態にある電動発電機の巻線インダクタンスに基づき初期回転角を検出してよい。
【0068】
ステップS108にて、インバータ18Acは、電動発電機の初期回転角の検出完了に伴い、エンジンコントローラ30Ccに向けてエンジンの始動許可通知を送信する。このとき、始動許可通知は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、直接的に、エンジンコントローラ30Ccに取り込まれてもよいし、例えば、本実施形態に係るショベルコントローラ30Aに相当する上位コントローラに取り込まれた後に、上位コントローラからエンジンコントローラ30Ccに入力される態様であってもよい。
【0069】
そして、ステップS110にて、インバータ18Acは、電動発電機のサーボ制御を開始する。これにより、インバータ18Acは、後述のステップS112によるエンジンの始動に伴い、検出した初期回転角を基準として電動発電機の回転角を推定しながら電動発電機のセンサレス制御を行い、エンジンの回転をアシストし、回転数を上昇させることができる。
【0070】
一方、ステップS112にて、エンジンコントローラ30Ccは、始動許可通知の受信に応じて、スタータを駆動させ、エンジンの始動を開始させる。
【0071】
そして、エンジンコントローラ30Ccは、エンジンの始動完了後、エンジンの回転数を増加させると共に、ステップS114にて、エンジンの回転数が所定の運転回転数(例えば、1000rpm(round per minute))へ到達したことに応じて、運転回転数到達通知をHMI50cに送信する。このとき、運転回転数到達通知は、一対一の通信線やCAN等の車載ネットワークを通じて、直接的に、HMI50cに送信されてもよいし、例えば、上位コントローラに送信された後に、上位コントローラ経由でHMI50cに入力されてもよい。以下、図4のステップS212の場合についても同様である。
【0072】
ステップS116にて、HMI50cは、キャビンのオペレータに対して、例えば、視覚的な表示や音声等により、操作許可の通知を行う。
【0073】
ステップS118にて、オペレータは、HMI50cからの操作許可の通知を受けて、比較例に係るショベルの操作を開始する。
【0074】
このように、比較例に係るショベルでは、エンジンの始動前に、電動発電機の初期回転角を検出する処理が行われるため、エンジンの始動開始が相対的に遅くなる。そのため、結果として、ショベルの起動からオペレータが実際にショベルを操作することができるようになるまでの所要時間が相対的に長くなる可能性がある。
【0075】
<本実施形態に係る電動発電機の制御方法>
続いて、図4A図4Cを参照して、本実施形態に係るショベルのインバータ18Aによる電動発電機12の制御方法について説明する。
【0076】
図4A図4Cは、本実施形態に係るショベルの起動時における動作を説明する図である。具体的には、図4Aは、本実施形態に係るショベルの起動時における動作を示すシーケンス図である。図4Bは、インバータ18A(制御回路)による位置合わせ試行処理の一例を概略的に示すフローチャートである。図4Cは、本実施形態に係るショベルの起動時における動作に対応する各種状態の時間変化を示す図(グラフ410~440)である。より具体的には、図4Cにおいて、グラフ410~440は、ショベルの起動状態或いは停止状態の別、電動発電機12のサーボON或いはサーボOFFの別、電動発電機12の回転軸の回転角(実線)、及び電動発電機12の電流値のそれぞれの時間変化を示す。また、図4Cにおいて、グラフ410の点線は、インバータ18Aにより推定される電動発電機12の回転角(以下、「推定回転角」)の時間変化を示す。
【0077】
図4Aに示すように、ステップS202,S204は、図3のステップS102,S104と同様であるため、説明を省略する。
【0078】
ステップS206にて、エンジンコントローラ30Cは、キースイッチONに伴う電源供給の開始に伴い、スタータモータ11stを駆動させ、エンジン11の始動を開始させる。
【0079】
一方、インバータ18Aは、キースイッチONに伴う電源供給の開始に伴い、エンジン11の始動と並行して、センサレス制御において絶対的な回転角の推定の際の基準となる回転角の初期値を、電動発電機12の実際の回転角に合わせるための制御(以下、「位置合わせ試行制御」)を行う。位置合わせ試行制御では、試行的に電動発電機12のサーボ制御を開始(つまり、サーボON)させ、その後、停止(つまり、サーボOFF)させる動作を繰り返す。
【0080】
具体的には、図4Bに示すように、ステップS302にて、インバータ18Aは、電動発電機12の回転軸の初期位置(初期値)を所定値(以下、「仮値」)θpに仮設定し、ステップS304に進む。
【0081】
ステップS304にて、インバータ18Aは、電動発電機12をサーボONし、サーボ制御を試行的に開始する。具体的には、インバータ18Aは、初期値としての仮値θpを基準として電動発電機12の回転軸の回転角を推定しながら、推定した回転角に基づき、電動発電機12のサーボ制御を行う。
【0082】
ステップS306にて、インバータ18Aは、電動発電機12の電流検出値(つまり、電流センサ12s1の検出値)が所定の閾値ithを超えたか否かを判定する。電動発電機12の電流検出値が相対的に高い過電流状態の場合、回転角の初期値が実際の初期回転角から大きくずれている可能性が高く、サーボ制御を適切に継続できないからである。インバータ18Aは、電動発電機12の電流検出値が閾値ithを超えていない場合、ステップS308に進み、閾値ithを超えている場合、ステップS310に進む。
【0083】
尚、ステップS306にて、電動発電機12の電流検出値が閾値ithを超えたか否かを判定する代わりに、仮値θpを基準とする推定回転角が(所定時間内に)ゼロに収束するか否かを判定してもよい。
【0084】
ステップS308にて、インバータ18Aは、試行的なサーボ制御開始から所定時間以上が経過したか否か、つまり、サーボ制御開始から閾値ith以下で安定した状態が所定時間以上継続しているか否かを判定する。インバータ18Aは、試行的なサーボ制御開始から未だ所定時間が経過していない場合、ステップS306に戻って、ステップS306,S308の処理を繰り返し、所定時間が経過している場合、位置合わせが成功したと判断して今回の処理を終了する。
【0085】
一方、ステップS310にて、インバータ18Aは、一旦、サーボ制御を停止し、つまり、電動発電機12をサーボOFFし、ステップS312に進む。
【0086】
ステップS312にて、インバータ18Aは、サーボOFFから所定時間が経過したか否かを判定する。インバータ18Aは、サーボOFFから所定時間が経過していない場合、所定時間が経過するまで待機し(つまり、本ステップの処理を繰り返し)、所定時間が経過した場合、再度、ステップS302以降の処理を繰り返す。
【0087】
例えば、図4Cに示すように、時刻t1にて、グラフ410のように、ショベルが起動されると(図4AのステップS202,S204)、エンジン11が始動され(図4AのステップS206)、グラフ430のように、エンジン11の回転開始に伴い、電動発電機12の回転数が上昇し始める。
【0088】
これと並行して、時刻t1にて、グラフ420のように、電動発電機12の試行的なサーボ制御が開始され、つまり、電動発電機12がサーボONされ、仮値θpを基準として電動発電機12の回転角が推定されながら電動発電機12のサーボ制御が行われる(図4BのステップS302,S304)。このとき、グラフ430のように、時刻t1付近における仮値θpと電動発電機12の実際の回転角との差が相対的に大きくなっている。そのため、グラフ430,440のように、推定回転角が実際の回転角に収束する前に、時刻t2にて、電動発電機12の電流検出値が閾値ithを超えてしまっている。よって、時刻t2にて、電動発電機12は、一旦、サーボOFFされ、電動発電機12の試行的なサーボ制御が一旦打ち切られる(図4BのステップS306のYES、ステップS310)。
【0089】
サーボOFFから所定時間が経過した後(図4BのステップS312)、時刻t3にて、電動発電機12は、再度、サーボONされ、仮値θpを基準として電動発電機12の回転角が推定されながら電動発電機12のサーボ制御が行われる(図4BのステップS302,S304(2回目))。このとき、グラフ430のように、時刻t1から時刻t3までの間に、エンジン11の回転数が上昇し、それに合わせて、電動発電機12の回転数も上昇するため、仮値θpと電動発電機12の実際の回転角との差が相対的に小さくなっている。そのため、グラフ430,440のように、電動発電機12の電流検出値が閾値ithを超える前に推定回転角が実際の回転角に収束し、時刻t3以降にて、電動発電機12の電流検出値が閾値ith以下に抑えられる(図4BのステップS308のYES)。つまり、本例では、2回目の試行的なサーボ制御により、位置合わせが成功し、試行的なサーボ制御から継続的なサーボ制御に移行している。
【0090】
図4Aに戻り、位置合わせ試行制御に伴う位置合わせが成功すると、ステップS210にて、インバータ18Aは、そのまま、電動発電機12のサーボ制御を開始する、つまり、電動発電機12の試行的なサーボ制御から継続的なサーボ制御に移行する。これにより、インバータ18Aは、位置合わせした初期値(仮値θp)を基準として電動発電機12の回転角を推定しながら電動発電機12のセンサレス制御を行い、エンジン11の回転をアシストし、回転数を上昇させることができる。
【0091】
一方、エンジンコントローラ30Cは、エンジン11の始動完了後、エンジン11の回転数を増加させると共に、ステップS212にて、エンジン11の回転数が所定の運転回転数へ到達したことに応じて、運転回転数到達通知をHMI50に送信する。
【0092】
ステップS214,S216は、図3のステップS116,S118と同様であるため、説明を省略する。
【0093】
このように、エンジン11の回転に伴い電動発電機12が回転させられるため、図4B図4Cのように、試行的なサーボ制御を繰り返すうちに、測定結果に依らない任意の初期値(仮値θp)と実際の電動発電機12の回転角との間が相対的に近づいてくる。そのため、インバータ18Aは、上述の比較例の場合のように、電動発電機12の初期状態(初期回転角)を検出せずとも、位置合わせ試行制御に基づき、適切にサーボ制御を開始させることができる。よって、ショベルの起動からオペレータが実際にショベルを操作することができるようになるまでの所要時間を相対的に短くし、ショベルの作業効率を向上させることができる。
【0094】
尚、位置合わせ試行制御は、エンジン11の始動時に代えて、或いは、加えて、エンジン11によるメインポンプ14の回転に伴い電動発電機12が回転させられている状態で、電動発電機12をサーボONさせる必要がある他のタイミングに適用されてもよい。例えば、位置合わせ試行制御は、電動発電機12に関する異常が検出され、電動発電機12(インバータ18A)が停止された後に、電動発電機12(インバータ18A)が再起動等により異常から復帰するタイミングで適用されてもよい。電動発電機12に関する異常の場合、必ずしもエンジン11を停止させる必要がなく、エンジン11の回転に伴い電動発電機12が回転させられている状態で、サーボ制御を開始させる必要があるからである。
【0095】
[本実施形態の作用]
次に、本実施形態に係るショベルの作用について説明する。
【0096】
本実施形態に係るショベルは、油圧アクチュエータと、油圧アクチュエータに作動油を供給するメインポンプ14と、メインポンプ14を駆動する電動発電機12と、メインポンプ14を駆動するエンジン11と、を備える。そして、本実施形態に係るショベルは、エンジン11の回転に伴い電動発電機12が回転させられている状態で、電動発電機12を間欠的に通電させる。
【0097】
具体的には、本実施形態に係るショベルは、電動発電機12の回転角を推定し、推定した回転角に基づき電動発電機12を制御するインバータ18A(制御回路)を備える。そして、インバータ18Aは、エンジン11によるメインポンプ14の回転に伴い電動発電機12が回転させられている状態で、電動発電機12を通電させ、回転角を推定しながら電動発電機12を制御する動作を間欠的に繰り返す。
【0098】
これにより、インバータ18Aは、電動発電機12の初期状態を把握することなく、電動発電機12をサーボONし、例えば、所定値(仮値θp)を基準(初期状態)として回転角を推定しながらサーボ制御を行うと共に、サーボ制御を適切に継続できない場合、サーボOFFする一連の動作を繰り返すことができる。そして、この一連の動作が繰り返されるうちに、エンジン11の回転に伴い電動発電機12の回転角が変化し、所定値(仮値θp)と実際の電動発電機12の回転角との差異が小さくなり、インバータ18Aは、サーボ制御を適切に継続できるようになる。そのため、インバータ18Aは、電動発電機12の初期状態を把握することなく、最終的に継続的なサーボ制御に移行することができる。よって、オペレータが作業開始できるまでの所要時間を短縮することで、電動発電機12のセンサレス制御が適用される場合の作業効率を向上させることができる。
【0099】
また、本実施形態では、インバータ18A(制御回路)は、電動発電機12の回転角の推定誤差が収束するまでの間、又は、電動発電機12の電流値が所定閾値以下で抑制されるまでの間、一連の動作を間欠的に繰り返す。
【0100】
これにより、インバータ18Aは、電動発電機12の回転角の推定誤差が収束するか、或いは、電動発電機12の電流検出値が所定閾値(閾値ith)以下に抑えられるかを把握することにより、サーボ制御を継続可能であると判断することができる。よって、インバータ18Aは、電動発電機12の初期状態を把握することなく、上述の一連の動作を繰り返す中で、電動発電機12のサーボ制御の継続可否を判断し、適切に継続的なサーボ制御に移行することができる。
【0101】
より具体的には、インバータ18Aは、エンジン11によるメインポンプ14の回転に伴い電動発電機12が回転させられている状態で、電動発電機12を通電させ、測定結果に依らない初期値(例えば、仮値θp)を基準として電動発電機12の回転角を推定しながら電動発電機12を制御する動作を間欠的に繰り返す。
【0102】
これにより、インバータ18Aは、具体的に、測定結果に依らない初期値を基準としながら、上述の一連の動作を繰り返し、最終的に継続的なサーボ制御に移行することができる。
【0103】
また、本実施形態に係るショベル(インバータ18A)は、自機の起動に伴うエンジン11によるメインポンプ14の始動時に、電動発電機12を間欠的に通電させる。
【0104】
これにより、インバータ18Aは、自機の起動に伴うメインポンプ14の始動時に、電動発電機12の初期状態を把握することなく、電動発電機12のサーボ制御を開始することができる。よって、ショベルの起動に伴うメインポンプ14の始動時において、オペレータが作業開始できるまでの所要時間を短縮し、ショベルの作業効率を向上させることができる。
【0105】
また、本実施形態に係るショベル(インバータ18A)は、電動発電機12に関する異常の発生後、該異常から復帰するときに、エンジン11によるメインポンプ14の回転に伴い電動発電機12が回転させられている状態で、電動発電機12を間欠的に通電させる。
【0106】
これにより、インバータ18Aは、電動発電機12に関する異常発生に伴い一旦停止され、再起動等による異常からの復帰時に、電動発電機12の初期状態を把握することなく、電動発電機12のサーボ制御を開始することができる。よって、電動発電機12に関する異常に伴い一旦停止された電動発電機12が異常から復帰するときに、オペレータが作業開始できるまでの所要時間を短縮し、ショベルの作業効率を向上させることができる。
【0107】
[変形・変更]
以上、本発明を実施するための形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0108】
例えば、上述した実施形態において、ショベルの代わりに、油圧駆動系の動力源としてのエンジン及び電動発電機を備える任意の作業機械(産業用車両、フォークリフト、クレーン等)が適用されてもよい。
【0109】
また、上述の実施形態及び変形例において、ショベル等の作業機械は、キャビン10内のオペレータにより操作される代わりに、作業機械の外部からリモート操作されてもよい。例えば、作業機械は、所定の外部装置と通信可能な通信デバイスを有し、通信デバイスを通じて、外部装置からリモート操作に関する操作信号を受信し、操作信号に応じて、コントロールバルブ17やインバータ18A,18Bが制御される態様であってよい。
【0110】
また、上述の実施形態及び変形例において、ショベル等の作業機械は、キャビン10内のオペレータによる操作や、外部装置からの操作信号に基づくリモート操作に依らず、自律的に所定の作業を行ってもよい。
【0111】
また、上述の実施形態及び変形例において、メインポンプ14は、その始動時を除き、電動発電機12の動力だけで駆動されてもよい。即ち、上述した実施形態及び変形例において、ショベル等の作業機械は、エンジン11が省略され、蓄電系120の電力だけで駆動される電動作業機械であってもよいし、エンジン11が発電用途に利用されるシリーズ方式のハイブリッド作業機械であってもよい。この場合、メインポンプ14及びパイロットポンプ15は、通常、電動発電機12の動力だけで駆動される。また、メインポンプ14及びパイロットポンプ15は、その始動時において、主に、スタータモータ11stに相当する始動手段、具体的には、相対的に助勢度の低い他の電動機(他の駆動手段の一例)である程度の回転数(例えば、200~300rpm)まで回転させられ、その後、電動発電機12の動力だけで駆動される。よって、インバータ18Aは、他の電動機によるメインポンプ14の始動時において、他の電動機の回転(具体的には、他の電動機によるメインポンプ14の回転)に伴い電動発電機12が回転させられている状態で、電動発電機12を間欠的に通電させてよい。これにより、上述の実施形態及び変形例と同様の作用・効果を奏する。
【符号の説明】
【0112】
1A,1B 走行油圧モータ(油圧アクチュエータ)
7 ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)
8 アームシリンダ(油圧アクチュエータ)
9 バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)
11 エンジン(他の駆動手段)
11st スタータモータ
12 電動発電機(電動機)
14 メインポンプ(油圧ポンプ)
18A インバータ(制御装置)
30 制御装置
30A ショベルコントローラ
30B ハイブリッドコントローラ(制御装置)
30C エンジンコントローラ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C