(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】誘導システム
(51)【国際特許分類】
F41G 7/22 20060101AFI20230731BHJP
F42B 15/01 20060101ALI20230731BHJP
F41G 7/30 20060101ALI20230731BHJP
G01S 13/66 20060101ALI20230731BHJP
G01S 13/38 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
F41G7/22
F42B15/01
F41G7/30
G01S13/66
G01S13/38
(21)【出願番号】P 2019190146
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】蜂須 裕之
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-7464(JP,A)
【文献】特開2010-38636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41G 7/22
F42B 15/01
F41G 7/30
G01S 13/66
G01S 13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を使用して目標を追跡する飛しょう体と、前記飛しょう体を前記目標に誘導するためのステップドFM方式の連続波による照射電波を送信する誘導装置とを備える誘導システムであって、
前記誘導装置は、
前記照射電波に対する前記目標からの反射電波を受信する手段と、
前記照射電波と受信した反射電波とを用いて同期検波を含む帯域合成処理により前記目標までの距離を算出する手段と、
算出した前記目標までの距離を用いて、指令情報を含んだ照射電波を前記飛しょう体へ送信する手段と、
を有し、
前記飛しょう体は、
前記照射電波に対する前記目標からの反射電波と前記誘導装置から直接到来する照射電波を受信する手段と、
前記誘導装置から直接受信した照射電波と前記反射電波とを用いて同期検波を含む帯域合成処理により前記目標を検出して観測する手段と、
を有する、誘導システム。
【請求項2】
前記誘導装置の前記目標までの距離を算出する手段は、
前記飛しょう体発射時に得られる前記目標までの距離に基づいて、周波数ステップ幅に相当する検出距離幅の繰り返し数から前記目標までの第1の距離情報を算出し、前記反射電波から前記検出距離幅内での前記目標までの第2の距離情報を算出し、前記第1の距離情報と前記第2の距離情報とを合算して前記目標までの距離を算出する、
請求項1記載の誘導システム。
【請求項3】
上記誘導装置の前記目標までの距離を算出する手段は、
前記反射電波に対する帯域合成処理中のFFT(高速フーリエ変換)処理時に、前記飛しょう体発射時に得られる前記目標の速度から前記目標のドプラ周波数を算出して、前記目標を分離して抽出する手段と、
複数の前記目標毎に前記FFT処理時に分離して抽出した結果に対して、個別に位相補正処理および逆FFT処理を施して、複数の前記目標毎に前記第2の距離情報を算出する手段と、
を含む請求項2記載の誘導システム。
【請求項4】
前記誘導装置は、
複数の前記目標までの距離に応じて前記ステップドFM方式の照射電波の周波数ステップ幅を可変制御する手段をさらに含む、
請求項3記載の誘導システム。
【請求項5】
前記飛しょう体の前記目標を観測する手段は、前記誘導装置から直接到来する照射電波に含まれる、前記目標に誘導するための指令情報に基づいて前記目標を検出する条件を設定する、請求項1乃至4いずれか記載の誘導システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、誘導システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波を使用して目標を検出、追跡する飛しょう体を誘導する誘導システムには、各種の方式が開発されている。セミアクティブ方式(semi-active radar homing)は、誘導装置を搭載する飛しょう体と、地上等に設置されている照射誘導装置(イルミネータ:illuminator)とが連携してホーミング(homing)を実施するものである。
【0003】
セミアクティブ方式(semi-active radar homing)では、照射誘導装置が目標に向けて電波を照射し、飛しょう体が目標から反射した電波を受信することでホーミングを実施する。さらに、照射誘導装置は同じ電波を使用して目標、飛しょう体の位置、速度を観測することも可能である。
【0004】
このときに照射する電波の形態を、連続型のステップドFM方式によるものとした場合、受信波による帯域合成処理により、照射誘導装置、飛しょう体のそれぞれにおいて高い距離分解能で目標のレンジプロファイルを得ることができる。
【0005】
セミアクティブ方式においては、飛しょう体の目標への誘導を目的とすることから電波照射形態は連続波となる。そのため、連続型のステップドFM方式により得られるレンジプロファイルは、ステップドFMでの周波数ステップ幅に相当する検出距離幅の範囲で、観測されるレンジ方向のすべての観測結果が折り返して重畳されるものとなる。
【0006】
一般的に、パルス波による電波照射では、パルス波の到来する遅延時間から距離そのものを観測し、さらにパルス幅を検出距離幅の1/2にすることで前述した不具合を解消している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】「High-Resolution Radar Second Edition, Chapter 5 :Synthetic High-Range-Resolution Radar, Donald R. Wehner, Artech House, Boston/London (March 1987)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
連続して電波を照射する場合には、電波が連続波であることから距離の直接的な観測が困難となる。加えて、連続型のステップドFM方式による電波送信で、その受信波を帯域合成処理する場合には、観測されるレンジ方向のすべての結果が検出距離幅内に折り返されて重畳されることとなる。そのため、観測する目標が複数となる場合には、複数の目標それぞれの観測距離と、複数の目標間の相互関係等を決定することができない。
【0009】
そこで、目的は、周波数が段階状に変化する電波を繰り返し連続して照射する連続型のステップドFM方式を採用しながら、目標までの距離と複数目標間の相互関係とを観測することが可能な誘導システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の誘導システムは、電波を使用して目標を追跡する飛しょう体と、前記飛しょう体を前記目標に誘導するためのステップドFM方式の連続波による照射電波を送信する誘導装置とを備える誘導システムであって、前記誘導装置は、前記照射電波に対する前記目標からの反射電波を受信する手段と、前記照射電波と受信した反射電波とを用いて同期検波を含む帯域合成処理により前記目標までの距離を算出する手段と、算出した前記目標までの距離を用いて、指令情報を含んだ照射電波を前記飛しょう体へ送信する手段と、有し、前記飛しょう体は、前記照射電波に対する前記目標からの反射電波と前記誘導装置から直接到来する照射電波を受信する手段と、前記誘導装置から直接受信した照射電波と前記反射電波とを用いて同期検波を含む帯域合成処理により前記目標を検出して観測する手段と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る誘導システムの構成を示すブロック図。
【
図2】実施形態に係る誘導装置および飛しょう体の誘導制御装置の構成を示すブロック図。
【
図3】実施形態に係る誘導システムの動作形態に対応する照射電波および反射電波の状態を示す図。
【
図4】実施形態に係る誘導システムの照射電波の一例および反射電波の受信処理の一例を示す図。
【
図5】実施形態に係る飛しょう体で実行される位相補正処理の詳細を説明する図。
【
図6】実施形態に係る飛しょう体で実行される逆FFT(帯域合成)処理の詳細を説明する図。
【
図7】実施形態に係る目標距離の検出の課題を説明する図。
【
図8】実施形態に係る目標距離の検出方法を説明する図。
【
図9】実施形態に係る複数の目標を検出する場合の第1の課題を説明する図。
【
図10】実施形態に係る複数の目標の分離方法の内容を説明する図。
【
図11】実施形態に係る複数の目標を検出する場合の第2の課題を説明する図。
【
図12】実施形態に係る周波数ステップ幅を変えた場合の観測結果を例示する図。
【
図13】実施形態に係る周波数ステップ幅の判定基準を説明する図。
【
図14】実施形態に係る周波数ステップ幅を変えた場合の観測結果を例示する図。
【
図15】実施形態に係る誘導装置が観測時に実行する連続波の帯域合成処理の詳細を示すフローチャート。
【
図16】実施形態に係る飛しょう体での目標選択の課題を説明する図。
【
図17】実施形態に係る誘導装置から飛しょう体へ誘導開始指令を含めた照射電波を送信している状態を例示する図。
【
図18】実施形態に係る誘導開始時に飛しょう体が目標からの反射電波を分離、選択する場合の処理を説明する図。
【
図19】実施形態に係る誘導装置が指令を送出するまでの処理内容を示すフローチャート。
【
図20】実施形態に係る飛しょう体が誘導装置から指令情報を受信して目標を検出するまでの処理内容を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照して、実施形態を説明する。
[誘導システムの構成]
図1は、本実施形態の誘導システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、誘導システムは、空間内を目標7に向けて飛行する飛しょう体1と、例えば地上に設置された誘導装置6から構成される。誘導装置6は、セミアクティブ方式の誘導システムにおけるイルミネータに相当する。
【0013】
飛しょう体1は、誘導制御装置2、弾頭3、推進装置4、および操舵装置5を搭載している。誘導制御装置2は、後述するように、誘導装置6と連携して飛しょう体1を目標7に誘導し、および弾頭3を起爆する各種制御を実行する。推進装置4は、飛しょう体1を飛行させるための推進機構である。操舵装置5は、誘導制御装置2により算出される、目標7に誘導(ホーミング:homing)するための操舵信号に応じて飛しょう体1の飛行を制御する。
【0014】
一方、誘導装置6は、レーダを搭載し、当該レーダからステップドFM方式の照射電波10を、飛行中の飛しょう体1および目標7に向けて照射する。誘導装置6は、目標7から反射する反射電波13と飛しょう体1から反射する反射電波14を受信する。誘導装置6は、受信した反射電波13、14を帯域合成処理して、飛しょう体1と目標7のそれぞれの距離、速度を観測するとともに、飛しょう体1と目標7の相対位置や相対速度等を得る。
【0015】
飛しょう体1は、目標7から反射する反射電波12を受信すると共に、誘導装置6からの照射電波10も直接受信し、照射電波10を使用して目標7からの反射電波12の検波処理等を実行する。また、誘導装置6は、飛しょう体1に対する指令情報を重畳した照射電波11を、飛しょう体1に向けて照射する。このとき、飛しょう体1は、誘導装置6から受信した電波が、当該指令情報を含む照射電波11であるか否かを、照射電波11に含まれる特定符号等に基づいて常に判定している。飛しょう体1の誘導制御装置2は、誘導装置6から受信した電波が照射電波11である場合に、重畳されている指令情報を復調して当該指令情報に対応する各種の処理を実行する。
【0016】
なお、本実施形態の誘導装置6は、地上に設置される地上装置でもよいし、また、船舶等に搭載される搭載装置でもよい。
【0017】
図2は、誘導装置6、および飛しょう体1の誘導制御装置2の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、誘導装置6は大別して、電波送受信系20と信号処理系27を含む。電波送受信系20は、情報変調器21、拡散変調器22、特定変調器23、照射切換器24、送信周波数変換器25、受信周波数変換器26、送信アンテナ29Aおよび受信アンテナ29Bを含む。
【0018】
一方、飛しょう体1の誘導制御装置2は、後方アンテナ30、前方アンテナ31、高周波処理部32、モノパルス合成器33、および信号処理部34を含む。飛しょう体1では、後方アンテナ30において、誘導装置6から照射される照射電波11を常に受信し、高周波処理部32により処理する。高周波処理部32は、周波数変換器35、拡散復調器36、および情報復調器37を含み、受信した照射電波11から受信情報を復調する。情報復調器37は、拡散復調器36により指令判定があると復調した場合に、指令情報を復調して信号処理部34に出力する。
[誘導システムの動作]
以下、
図2乃至
図20を参照して、本実施形態の誘導システムの動作および効果を説明する。まず、本誘導システムの基本的な動作について
図2及び
図3を用いて説明する。
図3は、誘導システムの動作形態に対応する照射電波および反射電波の状態を示す図である。その後、
図4乃至
図6を用いて、連続型のステップドFM方式による電波送信と受信波の帯域合成処理について説明する。
【0019】
まず、
図2及び
図3を参照して、誘導システムの動作形態が「観測形態」の場合について説明する。「観測形態」では、
図3(A)に示すように、誘導装置6は、飛しょう体1と目標7に向けて照射電波10を送出する。具体的には、
図2に示すように、信号処理系27の信号処理器28は切換指示を照射切換器24に出力し、照射切換器24は切換指示に応じて(観測または誘導)側への切換を実行する。この場合、特定変調器23は、ステップドFM(stepped frequency modulation)波形と呼ばれる、段階的に周波数が変化する連続送信波を生成し、照射電波10として送信周波数変換器25および送信アンテナ29Aを経由して空間に放射する。
【0020】
次に、誘導装置6は、目標7と飛しょう体1から反射電波13と反射電波14を受信する。具体的には、目標7と飛しょう体1のそれぞれから反射電波13と反射電波14を受信アンテナ29Bで受信する。信号処理器28は、受信した反射電波13と反射電波14を、受信周波数変換器26を経由して入力し、帯域合成処理により、目標7と飛しょう体1について高い距離分解能を有する観測結果を得ることが可能となる。
【0021】
なお、この「観測形態」の段階では、飛しょう体1は拡散復調器36において指令判定「なし」を出力し、特に制御動作を実行しない。
【0022】
誘導装置6の信号処理器28は、飛しょう体1と目標7の距離、速度等の観測結果から、飛しょう体1と目標7の相対距離や相対速度等を算出し、これに基づいて誘導開始判定処理を実施する。誘導開始判定処理においては、飛しょう体1が誘導開始する地点に到達しているか否かを判定する。ここで誘導開始点への到達判定は、飛しょう体1と目標7の相対距離が所定の距離相当となるかで判定する。判定の結果、飛しょう体1が誘導開始する地点に到達していると判定した場合には、「指令形態」となり、誘導開始指令の情報を含む照射電波11を飛しょう体1に向けて送出する。
【0023】
「指令形態」では、
図3(B)に示すように、誘導装置6は、飛しょう体1に向けて指令情報を重畳した照射電波11を送出する。具体的には、電波送受信系20では、照射切換器24は、信号処理器28からの切換指示に応じて、(指令)側への切換を実行する。一方、情報変調器21は、信号処理器28から出力される指令情報を、例えばFSK(frequency shift keying:周波数シフトキーイング)等のデジタル変調を実行し、拡散変調器22に出力する。拡散変調器22は、拡散コードによる変調を実行する。さらに、電波送受信系20は、照射切換器24を経て、送信周波数変換器25でキャリア周波数を所定周波数に変換し、送信アンテナ29Aから指令情報が重畳された照射電波11を空間に放射する。
【0024】
一方、飛しょう体1の誘導制御装置2は、後方アンテナ30で、照射電波11を受信し高周波処理部32の拡散復調器36にて指令判定が「あり」と判定し、さらに情報復調器37において指令情報を復調して誘導開始指令に含まれる各種指令情報(後述)を信号処理部34に出力する。
【0025】
飛しょう体1の誘導制御装置2は、誘導装置6から受信した照射電波11が誘導開始指令であると判定すると、動作形態を「誘導形態」へ移行する。
【0026】
誘導装置6も誘導開始指令を送出後、動作形態を「誘導形態」に移行する。「誘導形態」では、
図3(C)に示すように、「観測形態」のときと同じ動作を再開する。具体的には、ステップドFM方式の照射電波10を、飛行中の飛しょう体1および目標7に向けて照射し、目標7から反射する反射電波13と飛しょう体1から反射する反射電波14を受信する。受信した反射電波13、14を帯域合成処理して、飛しょう体1と目標7の相対位置や相対速度等の観測を継続する。
【0027】
一方、飛しょう体1は、「誘導形態」へ移行後、目標7からの反射電波12および誘導装置6からの照射電波10を受信処理する。具体的には、前方アンテナ31を経由して、照射電波10と反射電波12を受信する。モノパルス合成器33は、照射電波10および反射電波12に基づいて、目標7を検出するために必要なΣ系(合成)受信信号と測角処理(方位角と高低角の算出)に必要なΔ系(誤差)受信信号を生成する。高周波処理部32は、同期検波器(Σ系)38および同期検波器(Δ系)39を含み、照射電波10を用いて同期検波を実行し、Σ検出信号およびΔ検出信号として信号処理部34に出力する。信号処理部34は、Σ検出信号とΔ検出信号を使用して、飛しょう体1を目標7へホーミング(誘導)するための操舵信号を算出して操舵装置5に出力する。
【0028】
これ以降、飛しょう体1が目標7と会合するまで「誘導形態」が継続される。
【0029】
次に、
図4乃至
図6を使用して、誘導装置6の観測に必要となる、ステップドFMによる受信波と帯域合成処理について説明する。
【0030】
誘導装置6は、
図4(A)、
図4(B)に示すように、ステップドFM波形の連続送信波を生成し、照射電波11として送出する。
図4(C)に示すように、目標7から得られる反射波としての反射電波(連続受信波)12を時間差を持って受信する。誘導装置6では、連続送信波を電波送受信系20の送信周波変換器25で分けて、反射電波12を受信した受信周波数変換器26において同期検波を実施する。同期検波後の信号を、信号処理器28に送って帯域合成処理を実施する。
【0031】
信号処理器28においては、
図4(D)に示すように、同期検波後の信号をハイレートサンプルする。これは、観測対象である飛しょう体1や目標7の速度によって生じるドプラ周波数を正しく観測できるタイミングでサンプルする。ハイレートサンプルの後、FFT(Fast Fourier Transform)処理を実施し、
図4(E)に示すように、位相補正処理と逆FFT(帯域合成)処理を実行する。これにより、
図4(F)に示すように、高い距離分解能を持つレンジプロファイルを得る。
【0032】
図5は、飛しょう体1で実行される位相補正処理の詳細を説明する図である。位相補正処理は、目標検出判定処理と、相対速度算出処理と、代表値位相補正処理とを実行する。
【0033】
図5(A)に示すように、目標検出判定処理では、各周波数ステップ#1~#N毎のFFT処理結果から、一定の閾値を超える目標信号を抽出する。抽出した目標信号(複素数)を「代表値」A
ie
-jφi(i=1,2,…,N)とし、その時の周波数を「ドプラ周波数」f
diとする。
【0034】
図5(B)に示すように、相対速度算出処理では、各周波数ステップ#1~#N毎に抽出した「代表値」の「ドプラ周波数」からそれぞれ相対速度Vi=(C/2)(f
di/f
i)を算出し、それらの平均値を「補正相対速度」として算出する。、
図5(C)に示すように、代表値位相補正処理では、各周波数ステップ#1~#N毎の「代表値」A
ie
-jφiに対して、「補正相対速度」から算出される位相量に相当する補正を実施して、周波数ステップ#1を位相基準点とした「代表値(位相補正後)」を算出する。
【0035】
図6は、飛しょう体1で実行される逆FFT(帯域合成)処理の詳細を説明する図である。
図6(A)は、各周波数ステップ#1~#N毎に算出した「代表値(位相補正後)」の振幅と位相を例示している。これら各周波数ステップ#1~#N毎の「代表値(位相補正後)」を使用して、逆FFT処理を実行することで、
図6(B)に示すように、高分解能化した目標7のレンジプロファイルが算出できる。同図(B)中、
検出距離幅R
syn=(C/2)(1/ΔF)
(但し、C :光速、ΔF:周波数ステップ幅、R
syn:検出距離幅、ΔR
syn:検出距離分解能、B
syn:全観測帯域幅。)
で与えられ、離散的観測のために、この検出距離幅の範囲内で、
検出距離分解能ΔR
syn=(C/2)(1/(N・ΔF))=(C/2)(1/B
syn)
での目標7の高分解能化されたレンジプロファイルを算出できる。
【0036】
(目標距離検出の課題)
次に、連続波の帯域合成処理で目標7までの距離を特定する、目標距離の検出方法について説明する。
帯域合成により得られる、高分解能化されたレンジプロファイルは、周波数ステップの幅に相当する検出距離幅によって限定される。そのため、検出距離幅以上の距離を計測すると、処理後の結果が、この検出距離幅で折り返して重畳されるものとなる。例えば、時間的に離散したパルス波を使用した形態では、
図7(A)に示すように、パルス波の送信タイミングから目標で反射した同パルス波を受信するまでのパルス遅延時間に相当する目標までの距離を得て、さらに、
図7(A)中にVIIA-VIIBで示す、パルス幅相当の距離が、検出距離の幅の1/2より小さくなるようにパルス幅を設定することで、前記の検出距離幅の折り返しによる課題を回避している。
【0037】
しかしながら、本実施形態で採用するステップドFM方式のような連続波を送受信する場合には、
図7(B)、
図7(C)で示すように、連続波から距離に相当する情報を直接得ることができないため、観測結果から目標7までの絶対距離を求める必要がある。
【0038】
そこで本実施形態において観測結果から目標7までの距離を求める方法を以下に示す。本実施形態では、事前に得ている目標距離を先見情報として活用し、目標が検出されるまでの検出距離幅の繰り返し数による「粗距離」と、目標が検出されたレンジプロファイルの「精距離」との加算により、目標7までの距離を算出する。
【0039】
図8は、この目標距離の検出方法を説明する図である。
図8(A)は、ステップドFM方式の連続波の観測によって
図8(B)のレンジプロファイルが得られるまでの検出距離幅の繰り返し状態を例示している。
図8(C)に示すように、目標距離の先見情報(R
1)を使用して、検出距離幅(R
syn)から繰り返し数n
1を、「n
1=Int(R
1/R
syn)」で算出する。
【0040】
これを使用して、目標7までの「粗距離」R
syn・n
1を算出する。次に
図8(D)に示すように目標7が検出された検出距離幅内のレンジプロファイルからの「精距離」δR
1を使用して、粗距離と精距離から目標7までの精度の高い距離「R
syn・n
1+δR
1」を算出することができる。
【0041】
一旦、目標距離が確定されて以降は、検出距離幅内での目標7の移動状況から、順次、距離の算出を継続して実施できる。ここで、目標7の移動状況は、
図5において補正相対速度として得られている速度情報を活用する。
【0042】
(複数の目標検出時の第1の課題)
到来する目標7が複数であった場合、連続波での観測では、それら各目標7からの反射波がすべて受信される。そのため、検出距離幅で各目標7の高分解能化されたレンジプロファイルが重畳され、そのままでは各目標7の位置関係が不明となる。
【0043】
図9は、複数の目標7を検出する場合の課題を例示している。
図9(A)に示すように、誘導装置6からの照射電波10が、飛しょう体1と2つの目標7と照射された場合、誘導装置6で検出される反射波は、
図9(B)-(1)~
図9(B)-(3)に示す波形が重畳した状態で誘導装置6に受信されることとなる。
【0044】
したがって、誘導装置6で算出できる検出距離は、
図9(C)に示す各検出距離幅内での飛しょう体1、第1(1)の目標7、第2(2)の目標7の距離に対応し、
図9(D)に示すように、1つの検出距離幅内で3つの内容が重畳された結果となる。
【0045】
帯域合成処理でレンジプロファイルを得る際、位相補正を実施する必要から、相対速度を検出するためにFFT処理を実行する。このFFT処理の段階で、各目標(飛しょう体も含む)の速度が異なる場合には、目標毎に代表値が異なるものとなる。
【0046】
そこで、事前に得られている各目標(飛しょう体も含む)の速度の先見情報を活用することで各目標のドプラ周波数を算出して、位相補正処理の代表値抽出の段階で目標を分離する。この分離により、それぞれを個別に位相補正処理と逆FFT処理を実施することで、目標毎の高分解能化されたレンジプロファイルを得ることができる。最終的に、先見情報としての目標距離と合わせることで、全目標の距離関係を正しく認識することが可能となる。
【0047】
図10は、その具体的な複数目標の分離方法の内容を説明する図である。先見情報として、誘導装置6から飛しょう体1までの距離R
m、飛しょう体1の移動速度V
m、誘導装置6から第1(1)の目標7までの距離R
1、第1(1)の目標7の移動速度V
1、誘導装置6から第2(2)の目標7までの距離R
2、第2(2)の目標7の移動速度V
2が得られているものとする。
【0048】
図10(A)に示すように、位相補正処理の代表値抽出を行う段階で、先見情報として既に取得されている目標速度V
m,V
1,V
2に基づいて、それぞれFFT処理結果での予想ドプラ周波数f
dpm,f
dp1,f
dp2を「f
dpi=(2V
i/C)F
0」によりそれぞれ算出する。ここで、F
0はステップ周波数#1~#nの平均値とする。
【0049】
これらの予想ドプラ周波数を中心にドプラ分離幅±ΔF/2の範囲を各目標(飛しょう体も含む)の抽出対象範囲として抽出を実施する。ここで、ΔFは、ステップ周波数の最小値と最大値により生じるドプラ周波数差を考慮して設定する。
【0050】
各抽出範囲において、目標の代表値が分離されるので、それぞれ
図10(B)に示すように位相補正処理および逆FFT処理を実施することにより、
図10(C)に示すように、それぞれに対応するレンジプロファイルを得ることができ「精距離」δR
m,δR
1,δR
2をそれぞれ求めることができる。
【0051】
一方で、
図10(D)に示すように、先見情報として既に得られている目標までの距離R
m,R
1,R
2から、検出距離幅R
synを除数として距離繰り返し数n
m,n
1,n
2を算出することで、それぞれの「粗距離」が算出できる。最終的に、
図10(E)に示すように目標毎に「粗距離」と「精距離」とを加算することで、それぞれの目標までの各距離が得られて、距離情報の統合が可能となる。
【0052】
(複数の目標検出時の第2の課題)
到来する目標7が複数であり、且つ目標速度がほぼ同じで接近してくる場合には、ドプラ周波数の差による分離が困難となるので、高分解能化したレンジプロファイル上で分離する必要が生じる。しかしながら、各目標の目標距離間隔が周波数ステップ幅で決まる検出距離幅にほぼ一致する場合には、レンジプロファイルでほぼ同様の「精距離」となる場合、レンジプロファイルが重複するために、それら目標を分離して認識することが困難となる。
【0053】
図11は、複数の目標7の目標速度がほぼ同じであり、且つ目標距離間隔がほぼ検出目標距離幅であるような観測位置を検出する場合の課題を例示している。
図11(A)は、例えば3つの第1(1)~第3(3)の目標7が誘導装置6のある方向に到来しつつある場合の、3つの第1(1)~第3(3)の目標7の検出距離の抽出を例示している。このとき、第2(2)の目標7と第3(3)の目標7の速度がほぼ同様であり、両目標の目標距離間隔が周波数ステップ幅に応じた検出距離幅とほぼ同様であるものとする。
【0054】
図11(B)は、このときに誘導装置6で得られるFFT処理の結果を例示する。飛しょう体1、クラッタ、第1(1)の目標7に加えて、第2(2)の目標7と第3(3)の目標7が重複された状態で検出されている。
図11(C)は、帯域合成処理の結果から特に観測開始時刻に得られるレンジプロファイル中の、第2(2)の目標7と第3(3)の目標7に相当するレンジプロファイル結果を示すものである。
【0055】
さらに、
図11(D)は、両目標のレンジプロファイルとレンジプロファイルから得られる精距離の時間変化を示すものである。このように、目標間隔が検出距離幅相当で速度が同じである場合には、分離が不可能で複数の目標であることが認識できない。
【0056】
ところで、
図12(A)に示すように、誘導装置6からも到来する第1(1)の目標7に対してステップドFM方式の連続波を送信し、
図12(B)に示すように、目標7での反射波を誘導装置6で受信して、帯域合成処理により検出距離幅を算出する場合、得られる検出距離幅R
synは、ステップドFM方式の周波数ステップ幅により、前述した如く、
R
syn=(C/2)(1/ΔF)
(但し、C:光速、ΔF:周波数ステップ幅、R
syn:検出距離幅、
ΔR
syn:検出距離分解能、B
syn:全観測帯域幅。)
で与えられる。
【0057】
したがって、周波数ステップ幅を異なる値にすることで、検出距離幅範囲における目標の観測位置を変えることができる。
【0058】
図12(C)は、周波数ステップ幅1で第1(1)の目標7を観測した結果、
図12(D)は周波数ステップ幅1よりも小さい、周波数ステップ幅2で第1(1)の目標7を観測した結果を示す。同一の目標7であっても、周波数ステップ幅を変えることで、レンジプロファイル内での目標7の観測位置を変えることができる。
【0059】
このように、対象としたい目標7と他の目標7との目標距離間隔が、検出距離幅(Rsyn)の整数倍に近い数値であると、各目標7の検出距離が重複してしまうことに鑑みて、本実施形態では、帯域合成での周波数ステップ幅を制御して、目標距離間隔とは異なる検出距離幅となるようにする。
【0060】
以下、具体的な周波数ステップ幅の確定方法について説明する。
(1)まず対象となる1つの目標を選択し、目標「0(ゼロ)」とする。
(2)次に、対象外の目標から1つを選択し、目標「T」とする。
(3)周波数ステップ幅の範囲を選定する。より詳細には、
(3-1)先見情報による目標「0」の距離R
0と目標「T」の距離R
Tから、距離差「ΔR
T=|R
T-R
0|」を算出する。
(3-2)周波数ステップ幅の数値ΔF
S(i)(但し、i=1,2,…,m)を使用範囲から順次(m個)選択し、それぞれ選択した周波数ステップ幅から検出距離幅
「R
syn=C/(2・ΔF
S(i))」
を算出する。
(3-3)算出した検出距離幅に対する距離差の剰余「δR
T=MOD(ΔR
T,R
syn)」を算出する。
(3-4)算出した距離差剰余δR
Tが、
図13における許容範囲
「D
PF<δR
T<R
syn-D
PF」
となるか否かを、選択した周波数ステップ幅の数値全てに対して判定する。
図13中、0からD
PFまでの範囲R13Aと、R
syn-D
PFからR
synまでの範囲R13Bが、対象目標「0」に対して隔離させたい範囲となるもので、D
PFは距離分解能の数倍程度に設定する。
【0061】
(3-5)距離差剰余δRTが許容範囲となった周波数ステップ幅を使用可能なものとして、周波数ステップ幅の範囲を確定する。
(4)対象外目標「T」すべてに対して前記(2)-(3)の処理を実施して、共通となる範囲から周波数ステップ幅を確定する。
【0062】
図14は、前述した計算によって周波数ステップ幅の制御を実施した結果を例示する図である。
図14(A)に示すように、レンジプロファイルにおいて、
図11(C)とは異なって、第2の目標(2)と第3の目標(3)とで観測開始時刻での精距離を分離して観測できていることが理解できる。
【0063】
誘導装置6は、観測開始時(XIV)以降、通常の距離検出の処理として
図14(B)に示すように観測毎の距離変化を予測し続けることで、複数の目標を分離したまま認識する状態を継続できる。
【0064】
以上を考慮して、誘導装置6では以下に示すような連続波の帯域合成処理を実行する。
図15は、誘導装置6が観測形態または誘導形態で実行する連続波の帯域合成処理の詳細を示すフローチャートである。
【0065】
当初に誘導装置6では、
図10で示した飛しょう体1の発射前等での目標7の距離と速度の情報を先見情報として別途取得、入力する(ステップS101)。
【0066】
次に誘導装置6では、先見情報中の目標距離のデータから、複数の目標7の距離間隔を算出し、レンジプロファイルでの重複を回避するために、
図13を用いて説明したように適正な周波数ステップ幅を算出して選択する(ステップS102)。
【0067】
以後、観測形態または誘導形態を開始するものとして、ステップドFM方式の連続波による照射電波10の送信と目標7からの反射による反射電波13の受信、および同期検波処理(ステップS103)、ハイレートサンプル処理(ステップS104)、FFT処理(ステップS105)を連続型の帯域合成処理として実行する。
【0068】
さらに、先見情報の目標速度のデータから各目標7のドプラ周波数を算出して推定し、
FFT処理の結果からドプラ周波数で代表値を分離抽出する(ステップS106)。
【0069】
その後、分離抽出した1つの代表値に対して、位相補正処理と逆FFT処理とを実行して高分解能化したレンジプロファイルを算出する(ステップS107)。
【0070】
算出したレンジプロファイルにおける目標7の観測位置から「精距離」を得る一方で、先見情報の目標距離のデータから検出距離幅の折り返し回数を算出してそれらの積により「粗距離」を算出し、さらに「粗距離」と「精距離」とを加算して精度の高い目標7までの距離を算出する(ステップS108)。
【0071】
その後、誘導装置6では目標速度の異なる各代表値に関してステップS107,S108の処理をすべて終了したか否かを判断する(ステップS109)。
【0072】
ここですべての代表値に関する処理をまだ終えていないと判断した場合(ステップS109のNO)、誘導装置6は未処理の代表値を1つ選択した上でもステップS107からの処理に戻って、同様の処理を実行する。
【0073】
こうしてすべての代表値に関して、ステップS107~S109の処理を繰り返し実行し、それぞれの目標距離のデータを算出する。
【0074】
すべての代表値に関して目標距離のデータを算出した後、ステップS109において、対象となる代表値に関する処理を終えたと判断すると(ステップS109のYES)、その時点ですべての目標7に関する距離と速度のデータを観測結果から算出した最新値に更新するべく保持した上で(ステップS110)、次の検出フレームでの処理を実行するべく、ステップS103からの処理に戻る。
【0075】
(飛しょう体1での目標選択の課題)
次に飛しょう体1での目標選択の課題とその対策とについて説明する。
図17に、あらためて、誘導装置6が指令形態で飛しょう体1へ照射電波11により誘導開始指令を送出している状況を示す(
図3(B)の指令形態)。このとき、誘導開始指令には、飛しょう体1がホーミングを選択する目標情報等も含まれる。
【0076】
照射電波11中に含まれる目標情報の内容は、例えば
(i)誘導開始時刻:飛しょう体1が誘導を開始する時刻。発射時を基準に、誘導装置6と飛しょう体1とで同期をとった時刻カウンタを使用する。
(ii)予想相対距離:誘導開始時刻での、飛しょう体1と選択する目標7との相対距離の予想値。
(iii)予想相対速度:誘導開始時刻での、飛しょう体1と選択する目標7との相対速度の予想値。
(iv)送信周波数:ステップドFM方式の連続送信波の周波数の平均値。
(v)周波数ステップ幅:ステップドFM方式の連続送信波の周波数ステップ幅。
からなる。
【0077】
飛しょう体1は誘導開始指令に含まれる誘導開始時刻に達すると、誘導形態に移行する。
図16は、飛しょう体1の誘導形態移行後の、目標7からの反射電波12の受信状況を示す。
【0078】
図16(A)は、到来する複数、例えば3つの目標7に対して誘導装置6から照射電波10が送信された状態を示す。
図16(B)に示すように、発射された飛しょう体1においては、照射電波10が第1(1)の目標7、第2(2)の目標7、および第3(3)の目標7からそれぞれ反射された反射電波12が受信される。
【0079】
図16(C)に示すように、飛しょう体1では、飛しょう体1の観測位置を0(ゼロ)とした第1(1)~第3(3)の目標7まで観測結果が得られるので、誘導装置6からの誘導開始指令に含まれる目標情報(予想相対速度と予想相対距離)に基づいて、検出対象とする目標7を選択する必要がある。
【0080】
ここで、飛しょう体1を基準とした場合の、第1(1)の目標7までの相対距離をRC1、第1(1)の目標7の相対速度をVC1、第2(2)の目標7までの相対距離をRC2、第2(2)の目標7の相対速度をVC2、第3(3)の目標7までの相対距離をRC3、第3(3)の目標7の相対速度をVC3とする。
【0081】
図18は、誘導開始時に飛しょう体1で目標7からの反射電波12を分離、選択する場合の処理を説明する図である。飛しょう体1では、誘導開始時刻に達した時点で、予想相対距離と予想相対速度とから、目標検出条件である待受ドプラ周波数と待受精距離とを算出して、目標7の検出を実施する。これにより、誘導装置6の指定する目標を選択可能とする。目標7を分離、検出して以降は、検出した目標情報を次のサイクルの検出に向けて目標検出条件である待受ドプラ周波数と待受精距離とを更新する。
【0082】
図18(A)は、#1~#Nの周波数ステップ毎にFFT処理により得られた結果を示す。ここで誘導装置6からの指令情報に含まれる予想相対速度V
CP2と送信周波数
F
0とに基づいて、図中に一点鎖線で示す待受ドプラ周波数f
dP2のバンクを検出し、この近傍範囲(±(ΔF/2))の信号を代表値として抽出する。ここで、待受ドプラ周波数は「f
dP2=2・(V
CP2/c)・F
0」で与えられる。
【0083】
飛しょう体1では、抽出した結果に対して、
図18(B)に示すように、位相補正処理と逆FFT処理とを実施してレンジプロファイルを得る。
【0084】
一方で、指令情報中の予想相対距離R
CP2と周波数ステップ幅ΔFとを用いて、次式「δR
CP2=Mod(R
CP2/R
syn)」(但し、R
syn=(C/2)(1/ΔF))により検出距離幅範囲内の待受精距離δR
CP2を算出する。
図18(D)に示すように、算出した待受精距離δR
CP2を用いてレンジプロファイル中の近傍範囲(±(ΔR/2))の信号(図では「目標(2)の信号」)を目標として抽出することにより、第2の目標7の観測毎の距離変化を予測し続けることで、複数の目標中から指令された目標のみを分離したまま認識する状態を継続できる。
【0085】
以上の説明を取り纏めて、誘導装置6と飛しょう体1の双方で実行される処理の流れを以下に説明する。
図19は、誘導装置6が指令を送出するまでの処理内容を示すフローチャートである。目標条件の指定に際して、誘導装置6は、飛しょう体1の誘導開始時において飛しょう体1で観測される目標7の情報、すなわち予想相対速度と予想相対距離とを算出し、飛しょう体1への誘導開始指令に含めて送出する。このように選択するための目標情報を含めて送出することで、飛しょう体1が複数の目標7から1つを選択することが実現可能となる。
【0086】
処理当初に誘導装置6では、観測された複数の目標7から、飛しょう体1がホーミングする1つの目標7を選択する(ステップS201)。
【0087】
誘導装置6は、選択した目標7の運動と、同じく観測されている飛しょう体1の運動と目標7との相対運動を計算する(ステップS202)。
【0088】
誘導装置6は、相対運動の計算結果から、飛しょう体1が選択した目標7を検出可能となる距離に達する時刻を求め、その時刻を誘導開始時刻として設定する(ステップS203)。
【0089】
さらに誘導装置6は、求めた誘導開始時刻において予想される、飛しょう体1と目標7との相対距離と相対速度をそれぞれ予想相対距離、予想相対速度とする(ステップS204)。
【0090】
こうして必要なデータを算出した誘導装置6は、誘導開始時刻となる前に飛しょう体1に対して指令情報を送出する(ステップS205)。送出する指令情報中には、前述したように、(i)誘導開始時刻、(ii)予想相対距離、(iii)予想相対速度、(iv)送信周波数、(v)周波数ステップ幅が含まれる。
【0091】
次に、誘導装置6からの指令情報を受信する飛しょう体1での動作について説明する。
図20は、飛しょう体1が誘導装置6から指令情報を受信して、目標7を検出するまでの処理内容を示すフローチャートである。
【0092】
飛しょう体1においては、観測形態において誘導装置6から誘導開始指令を含んだ照射電波11が送られてくるのを待機する(ステップS301)。
【0093】
誘導開始指令を受信したと判断した時点で(ステップS301のYES)、飛しょう体1では受信した誘導開始指令を復調し、含まれている目標情報等を取得する。
図18でも説明したように、この取得した目標情報から、予想相対距離、予想相対速度を、誘導開始時刻での目標検出条件として初期設定する(ステップS302)。
【0094】
誘導装置6は、設定した誘導開始時刻となったか否かを繰り返し判断することで、誘導開始時刻となるのを待機する(ステップS303)。
誘導開始時刻となったと判断した時点で(ステップS303のYES)、飛しょう体1は目標検出を開始し、ステップドFM方式の連続波の受信と同期検波処理(ステップS304)、ハイレートサンプル処理(ステップS305)、FFT処理(ステップS306)を随時実行して、連続型の帯域合成処理を実施する。
【0095】
このとき飛しょう体1においては、
図4にも示した如く、同期検波処理において誘導装置6から直接受信した連続波を基準とする点が、誘導装置6側での処理帯域合成処理と異なる点である。
【0096】
飛しょう体1では、
図18でも説明したように、帯域合成処理によって算出した待受ドプラ周波数の近傍の代表値のみを抽出して、高分解能化したレンジプロファイルを算出し、算出したレンジプロファイルの待受精距離の近傍の信号を目標として分離、抽出する(ステップS307)。
【0097】
さらに飛しょう体1は、抽出した目標7へホーミング(誘導)するための誘導(操舵)信号を算出して操舵装置5に出力する(ステップS308)。
【0098】
その後、次の検出フレームでの処理に備えて、目標の距離、速度等に関する目標検出条件を観測した最新値に更新設定した上で(ステップS309)、再びステップS304からの処理に戻る。
【0099】
その後、同様に誘導形態での動作を続行し、飛しょう体1が対象とする目標7と接近して弾頭起爆までそのままの飛しょう状態を維持する。
【0100】
以上詳述した如く本実施形態によれば、周波数が段階状に変化する電波を繰り返し連続して照射する連続波を用いたステップドFM方式を採用しながら、誘導装置6と飛しょう体1とが連携して目標7までの距離と複数目標間の相互関係とを観測することが可能となる。
【0101】
また本実施形態では、飛しょう体1において誘導装置6からの照射電波に含まれる、目標7に誘導するための指令情報から目標7の検出条件を復調し、復調した検出条件に基づいて目標7を観測するものとしたので、複数の目標7に対しても誘導装置6からの指令に基づいた目標7のみを選択することが可能となる。
【0102】
さらに本実施形態では、誘導装置6が目標7からの反射電波に対する帯域合成処理中のFFT処理時に、照射電波送出時に得られる複数の目標7の速度からそれら目標7のドプラ周波数を算出し、各目標7を分離して抽出した上で、複数の目標7毎にFFT処理時に個別に位相補正処理および逆FFT処理を施して、複数の目標7毎に精距離を算出するものとしたので、複数の目標7を分離して認識することができる。
【0103】
加えて本実施形態では、複数の目標7までの距離に応じてステップドFM方式の照射電波の周波数ステップ幅を可変制御するため、複数の目標7が1つの周波数ステップ幅に相当する検出距離幅の範囲内で同様の観測位置にある場合でも、周波数ステップ幅を可変することで複数の目標7を分離して認識できる。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
1…飛しょう体、2…誘導制御装置、3…弾頭、4…推進装置、5…操舵装置、
6…誘導装置、7…目標、20…電波送受信系、21…情報変調器、
22…拡散変調器、23…特定変調器、24…照射切換器、
25…送信周波数変換器、26…受信周波数変換器、27…信号処理系、
29A…送信アンテナ、29B…受信アンテナ、30…後方アンテナ、
31…前方アンテナ、32…高周波処理部、33…モノパルス合成器、
34…信号処理部、35…周波数変換器、36…拡散復調器、37…情報復調器、
38…同期検波器(Σ系)、39…同期検波器(Δ系)。