(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】細胞外ベシクル(EV)の組成物およびその医学的使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/14 20150101AFI20230731BHJP
A61K 35/16 20150101ALI20230731BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230731BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230731BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230731BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230731BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20230731BHJP
【FI】
A61K35/14
A61K35/16
A61P9/10
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12Q1/02
C12Q1/68 100Z
(21)【出願番号】P 2019519681
(86)(22)【出願日】2017-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2017075966
(87)【国際公開番号】W WO2018069408
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-10-09
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518361044
【氏名又は名称】ユニシテ エーファウ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ブリッツィ マリア フェリーチェ
(72)【発明者】
【氏名】カムッシ ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】ランギーノ アンドレア
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】Mildner, M. et al.,Secretome of peripheral blood mononuclear cells enhances wound healing,PLoS One,2013年,Vol.8, No.3,e60103,doi:10.1371/journal.pone.0060103
【文献】Vicencio, J. M. et al.,Plasma exosomes protect the myocardium from ischemia-reperfusion injury,Journal of the American College of Cardiology,2015年,Vol.65, No.15,p.1525-1536,doi:10.1016/j.jacc.2015.02.026
【文献】Montemurro, T. et al.,Angiogenic and anti-inflammatory properties of mesenchymal stem cells from cord blood: soluble factors and extracellular vesicles for cell regeneration,European Journal of Cell Biology,2016年04月16日,Vol.95, No.6-7,p.228-238,doi:10.1016/j.ejcb.2016.04.003
【文献】Doeppner, T. R. et al.,Extracellular Vesicles Improve Post-Stroke Neuroregeneration and Prevent Postischemic Immunosuppression,Stem Cells Translational Medicine,2015年,Vol.4, No.10,p.1131-1143,doi:10.5966/sctm.2015-0078
【文献】Rani, S., Ritter, T.,The Exosome - A Naturally Secreted Nanoparticle and its Application to Wound Healing,Advanced Materials,2015年12月17日,Vol.28, No.27,p.5542-5552,doi:10.1002/adma.201504009
【文献】Sanz-Nogues. C., O'Brien, T.,In vitro models for assessing therapeutic angiogenesis,Drug Discovery Today,2016年09月,Vol.21, No.9,p.1495-1503,doi:10.1016/j.drudis.2016.05.016
【文献】江口 竜一 ラファエル ほか,動物細胞の培養における血清の影響と成長因子の探査,化学と生物,2012年,第50巻,第5号,p.383-384
【文献】中川 俊人,In vitro試験からのヒト体内動態予測,日本薬理学雑誌,2010年,第135巻,第2号,p.84-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
C12N 5/00- 5/28
G01N 33/00-33/98
C12Q 1/00- 1/70
PubMed
医中誌WEB
J-STAGE
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外ベシクル(EV)の医薬調製物を製造する方法であって、
血液成分の複数の調製物
のそれぞれからEV
サンプルを
調製するステップと
、
力価試験において、各EVサンプルの血管新生促進活性を試験するステップ、ここで、前記力価試験が細管形成アッセイ及びBrdU細胞増殖アッセイの一方又は両方であるステップと、
所定の血管新生促進活性を超えるサンプル
(活性EVサンプル)を、医薬調製物へのさらなる処理用に選択するステップと、
2つ以上の活性EVサンプルをプールするステップとを含む、方法。
【請求項2】
力価試験が細管形成アッセイ及びBrdU細胞増殖アッセイの両方である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
力価試験が細管形成アッセイであり、細管形成アッセイが以下のステップ:
- 細管形成アッセイによりサンプルの活性を測定するステップ;
- 細管形成アッセイにより陰性対照の活性を測定するステップ;
- 細管形成アッセイにより陽性対照の活性を測定するステップ;
- 以下の式:
【数1】
を適用することにより、細管形成アッセイにおけるサンプルの活性%を算出するステップ
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
力価試験がBrdU細胞増殖アッセイであり、BrdU細胞増殖アッセイが以下のステップ:
- BrdU細胞増殖アッセイによりサンプルの活性を測定するステップ;
- BrdU細胞増殖アッセイにより陰性対照の活性を測定するステップ;
- BrdU細胞増殖アッセイにより陽性対照の活性を測定するステップ;
- 以下の式:
【数2】
を適用することにより、BrdU細胞増殖アッセイにおけるサンプルの活性%を算出するステップ
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
血液成分が血清である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に虚血性疾患、虚血性傷害の治療的処置および創傷癒合(wound healing)における、細胞外ベシクル調製物(EV)の新規な治療的応用に関する。焦点は、血管の虚血性疾患または傷害の処置、例えば急性心筋梗塞、急性脳血管疾患、急性および慢性末梢動脈疾患または急性腎臓虚血の処置にある。
【背景技術】
【0002】
末梢動脈疾患(PAD)は、末梢動脈のアテローム硬化によって生じる、広範囲にわたる状態である。外科手術または血管内介入が、依然として血流改善のための標準的治療であるが、血行再建術が成功を収めた後でさえも、大部分の患者は持続性な、または再発する症状に悩まされる。これは、PADのための新規な治療選択肢が未だ満足のゆくものではないことを意味する。
新たな毛細血管の形成(新血管形成)は、虚血後の組織をレスキューする際の重要なイベントである。一連の膨大な前臨床および臨床データは、幹細胞が、血管形成を改善することにより治癒プロセスに関与しうることを示している。さらに、組織の損傷部位における幹細胞の一時的な検出から、パラクリン機構が主に幹細胞の作用に関与しうることが示唆されている。かかるパラクリン機構の中には、エンドサイトーシスによりエンドソーム膜区画から導出されるベシクルである「エキソソーム」、および細胞形質膜の出芽(budding)により生成するベシクルである「エクトソーム/マイクロベシクル」が含まれる。エキソソームおよびエクトソーム/マイクロベシクルは、特徴および生物学的活性が重複するため、最近では、「細胞外ベシクル」(EV)というより包括的な用語が提案されている。EVは、生理的状態でもおよび病理学的状態でも、強力な細胞間コミュニケーションに関与するビヒクルである。最近の研究では、EVカーゴの輸送が受容細胞の運命を決定し得ることを示す証拠が得られている。実際、受容細胞への、核酸およびタンパク質を含むEVカーゴの輸送は、それらの作用の中でも最も重要な機構である。
これまで、最も研究されたEVは、それらの由来する細胞の効果を模倣する能力から、幹細胞により放出されるものであった。病理学的条件に応じて、標的細胞に対する様々な表現型の変化が示された。幹細胞由来のEVの作用機構を特徴づけるために、トランスクリプトームおよびプロテオミクス分析が行われた。特に、骨髄または脂肪組織から導出される間葉系幹細胞から回収されたEVにより、強い血管新生促進プロファイルが示された。これは、虚血関連疾患を含む臨床的設定におけるこれらのEVの潜在的なインパクトを示唆するものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、幹細胞由来のEVの使用には、かかるEVの単離の際、使用されるEVを十分な数で得るために膨大な量の幹細胞のインビトロ培養を必要とする、という欠点が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
先行技術のこれらおよび他の欠点を解決するため、本発明者らは、血液および血液画分(例えばEVの潜在的供給源である血清および血漿)を試験した。事実、特定の微小環境の中で放出されるEVは局所的に作用することができるか(パラクリン作用)、または、それらは起源の細胞から所定の距離をおいて作用することもできる(内分泌作用)。内分泌作用は、主に末梢体液中のEVの循環に依存する。これは、血液が、EVが標的に接近する際に用いられる天然の環境でありうることを意味する。さらに、EVは全ての血球により分泌され、また血流中において回収できるが、しかしながら、それらの機能の大部分は未知のままである。
後述する例において詳細に例示されるように、上記の試験により本発明者らは、力価試験において測定した結果、血管内皮成長因子(VEGF)を参照血管新生促進成長因子として用いた場合に、血液成分に由来するEVが強い血管新生促進活性を有し、それにより、血液成分に由来するEVが、特に虚血性疾患および虚血性傷害の治療的処置または創傷癒合において効果的であることを見出した。
【0005】
したがって、本発明の第1の態様は、血管新生促進治療による虚血性疾患もしくは虚血性傷害の処置または創傷癒合における使用のための、血液成分から単離された細胞外ベシクル(EV)組成物である。本明細書では、血液成分から単離された細胞外ベシクルを略して「sEV」と記載する。
本発明のEV組成物により処置される虚血性疾患または虚血性傷害は、好ましくは血管の疾患または傷害である。さらにより好ましくは、それは急性心筋梗塞、急性脳血管疾患、急性および慢性末梢動脈疾患、または急性腎臓虚血からなる群から選択される。
本発明の使用のためのsEVが単離される血液成分は、好ましくは血液、血清または血漿である。より好ましくは、sEVは、健常なドナーの供血から調製される。
【0006】
上記の実施形態の全てにおいて、本発明の使用のための組成物は、本質的に血液、血清、血漿中に、またはサイズ排除に基づく馴化培地中に存在する全てのEVを捕捉しているバルク調製物であることが好ましい。
上記の実施形態の全てにおいて、EVはヒト細胞に由来するのが好ましい。
さらに、上記の実施形態の全てにおいて、組成物は医薬調製物であってもよく、それは上記で定義されるEVならびに薬学的に許容される担体、ビヒクルまたは希釈剤を含む。担体、ビヒクルまたは希釈剤、ならびに所望の医薬剤形の調製物に必要とされる他のいかなる賦形剤の選択も、当業者の技量の範囲内である。
【0007】
当業者は必要とされるEVの投与量を決定することも可能であり、それは主に処置される状態および患者の特徴に依存する。一般に、EVの治療的有効投与量は、通常、処置される対象の体重1kgあたり1×1011~5×1012個のEVの範囲である。本発明によるEV組成物は、いかなる適切な医薬剤形でも調製できる。
上記したように、本発明者らは、血液成分から単離されたEVが強い血管新生促進活性を有し、特に虚血性疾患および虚血性傷害の処置において、または創傷癒合においてそれらが効果的であることを見出した。
当然ながら、本発明の第1の態様に係る、血液成分から単離されたEVを含む組成物と同等の血管新生活性を有するEVを含むいかなる組成物も、それからEVが調製される供給源にかかわりなく、虚血性疾患および虚血性傷害の処置、また創傷癒合において同様に、または少なくとも同等に効果的である。
【0008】
いかなる供給源由来のEVを含む組成物による血管新生促進活性も力価試験により定量化でき、該試験は、BrdU細胞増殖アッセイにより、または細管形成インビトロアッセイにより、またはBrdU細胞増殖アッセイおよび細管形成インビトロアッセイの両方により、EV活性を試験することを含む。これらの実施形態の全てにおいて、BrdU細胞増殖アッセイおよび/または細管形成インビトロアッセイでは、陽性対照および陰性対照が使用される。両方法において、基本的な成長培地は、好ましくは内皮細胞用の基本培地である。
BrdUアッセイは、好ましくはマトリゲルに播種されたHMEC細胞を使用する。BrdU細胞増殖アッセイにおいて、陽性対照に血清(好ましくは10%の血清)が添加される。陰性対照は、血清を添加しないことを除き、陽性対照と同じ培地である。BrdUアッセイは、好ましくは標的細胞当たり10000 EVの濃度に基づき行う。
【0009】
細管形成インビトロアッセイは、好ましくはHUVEC細胞を使用する。細管形成インビトロアッセイにおいて、VEGF(好ましくは10ng/mlのVEGF)が陽性対照に添加される。陰性対照は、VEGF添加がないことを除き、陽性対照と同じ培地である。細管形成インビトロアッセイは、好ましくは標的細胞当たり50000 EVの濃度に基づき行う。
測定されたEVの活性が、測定された陽性対照の活性の所定のパーセンテージを超える(例えば測定された陽性対照の活性の>50%)場合、試験されたEV調製物は活性であると考えられる。
【0010】
本発明に係る組成物の同定において適する力価試験は、本発明者らにより実施される実験に係る後述の説明において、特に本願明細書の例のパラグラフ1.4.1および1.4.2においてさらに詳述する。
【0011】
本発明の第2の態様は、血管新生促進治療により良好な影響を受ける疾患または傷害の処置における使用のための、または創傷癒合における使用のためのEVを含む組成物であり、
- BrdU細胞増殖アッセイにより組成物の活性を測定するステップ;
- BrdU細胞増殖アッセイにより陰性対照の活性を測定するステップ;
- BrdU細胞増殖アッセイにより陽性対照の活性を測定するステップ;
- 以下の式:
【数1】
を用いることにより、BrdU細胞増殖アッセイにおける組成物の活性%を算出するステップ
を含む力価試験において測定したとき、該組成物は少なくとも50%の活性%を有する。
【0012】
本発明のこの態様の代替の実施形態は、血管新生促進治療により良好な影響を受ける疾患または傷害の処置における使用のための、または創傷癒合における使用のための細胞外ベシクル(EV)の組成物であり、
- 細管形成アッセイにより組成物の活性を測定するステップ;
- 細管形成アッセイにより陰性対照の活性を測定するステップ;
- 細管形成アッセイにより陽性対照の活性を測定するステップ;
- 以下の式:
【数2】
を用いることにより、細管形成アッセイにおける組成物の活性%を算出するステップ
を含む力価試験において測定したとき、該組成物は少なくとも50%の活性%を有する。
【0013】
さらなる好ましい一実施形態において、BrdU細胞増殖アッセイおよび細管形成インビトロアッセイは、陽性対照の活性に対する、所定のEV組成物の活性を試験するために用いられ、該試験においては、BrdU細胞増殖アッセイおよび細管形成アッセイから得られた平均%活性値が比較される。
開示される実施形態のいずれかに係るEV組成物は、BrdUアッセイにより測定した場合の培養細胞の増殖を促進するその能力により、培養細胞の増殖を促進するための培養培地への添加剤としての使用に適する。
さらに、上記の力価試験は、複数の体液調製物から、または細胞培養の馴化培地から単離されたEVのスクリーニングに、またさらなる処理に用いるための血管新生促進活性を有する調製物の同定に適する。
【0014】
したがって、本発明の第3の態様は、細胞外ベシクル(EV)の医薬調製物を製造する方法に関し、該方法は、
複数の体液調製物から、または細胞培養の馴化培地からEVを単離するステップと、
単離されたEVから、所定のEV濃度の1つまたは複数のサンプルを調製するステップと、
力価試験において、各EVサンプルの活性を試験するステップと、
所定の活性を超えるサンプルを、医薬調製物へのさらなる処理用に選択するステップと
を含み、
2つ以上の活性EVサンプルをプールするステップを含んでもよい。
本願明細書の後半で例示する実験結果は、健常なドナーの血清または他の血液成分に由来するEVが、インビトロおよびインビボで血管新生シグナルを誘導することができ、またsEVをプールした場合であってもこの効果が失われないことを示す。sEVはまた、PADのインビボ前臨床モデルにおいて再灌流を改善する。
【0015】
トランスクリプトーム解析およびプロテオミクス解析の結果、TGFb1およびアンジオスタチンは、最も関連が深いmRNAであり、血清または他の血液成分に由来するsEVにより担持されるタンパク質であることが明らかとなっている。この実験による発見に基づけば、有効成分としてTGFb1およびアンジオスタチンを含む組成物は、本発明において使用するEVと同じまたは同等の血管新生促進活性を発揮することが想定される。
したがって、本発明はまた、血管新生促進治療による虚血性疾患もしくは虚血性傷害の処置または創傷癒合における使用のための、トランスフォーミング成長因子β1(TGFb1)、TGFb1をコードする核酸またはTGFb1発現誘導剤を担持する細胞外ベシクル(EV)、ならびに、アンジオスタチンまたはアンジオスタチン放出を誘導できる剤を担持する細胞外ベシクル(EV)を含む組成物に関する。
【0016】
限定されないが、TGFb1の発現を誘導できる剤は例えばTGFb、ID1、IFNG、THBS1、SERPINE1、hsa-miR-17-5、hsa-miR-21またはhsa-miR-24であり、アンジオスタチンの放出を誘導できる剤は、例えばメタロプロテアーゼ、エラスターゼ、前立腺特異抗原(PSA)、13KDセリンプロテアーゼまたは24KDエンドペプチダーゼである。
トランスフォーミング成長因子β1(TGFb1)またはTGFb1をコードする核酸またはTGFb1発現を誘導する剤を担持するEV、ならびにアンジオスタチンまたはアンジオスタチン放出を誘導できる剤を担持するEVは、適切な天然供給源を用いて単離してもよく、または、活性成分の所望の組合せを含むよう設計されてもよい。
上記で定義される本発明の組成物は、好ましくは医薬組成物である。前記医薬組成物は、上記の活性成分に加えて、とりわけ、選択された医薬剤形、投与ルートおよび投与レジメン、ならびに患者の特徴および処置される疾患などを考慮し、当業者により選択される薬学的に許容される賦形剤および/または担体および/または希釈剤をさらに含む。
本発明は、後述する例により詳細に理解されるが、それは例示のみを目的として提供されるものであり、その際、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】Guavaフローサイトメーターにより実施されるsEVのFACS解析結果を示す表である。種々の細胞集団の表面抗原の発現を%値で表す。解析から、血清由来のEVは、種々の血球集団由来の不均一な集合体であることが示された。%値を平均値±SDとして表す。
【
図2A】ナノサイト(Nanosight)LM10システムにより解析されるsEV数の分布(18人の健常者)に関する図である。健常なドナーバッグから回収したsEVの平均粒子濃度は、6、16×10
8粒子/mlに対応する。
【
図2B】ナノサイト解析結果を示す。sEV直径は約210nmであり、モード粒径は183nmである。
【
図2C】2×10
11の全粒子数から開始し、解析した全てのサンプル(n=18)において、sEVのRNAおよびタンパク質の回収量が、300~500ng(RNA)の範囲および約1μg(タンパク質)と同様であったことを示す図である。データを平均±SDとして表す。#および*は、p値<0.05。
【
図3】BrdUおよびインビトロ細管形成アッセイにより分析したときの、単一の血清由来のEVの血管新生促進活性を示す表である。18のsEVサンプル中の14が、VEGF活性の50%を超える値を示した。
【
図4A】単一およびプールされたEV調製物の間のインビトロ比較を示す図である。顕著な血管新生促進活性を有するsEVをプールし、それらの生物学的活性を解析した。プールされたsEVは、単一のsEV調製物に匹敵する生物学的効果を示した。
【
図4B】単一およびプールされたEV調製物の間のインビボ比較を示す図である。インビボ実験は、インビボSCIDマウスモデルを用いて実施した。ECをsEV(5×10
4個のsEV/細胞)で処置し、マトリゲルと混合し、SCIDマウスに皮下注入した。sEVはインビボ血管新生促進活性を示す。プールされたsEVを解析したとき、同様の効果が検出された。
【
図5】レーザードップラー血流測定による灌流の定量分析の結果、健常者の血清に由来するEV(S-EV)が、手術の7日後に対照(CTL)と比較し、虚血後肢の灌流を顕著に促進したことを示す図である。データを平均±SDとして表す。*はp値<0.05(Mann Whitneyノンパラメトリック検定)。
【
図6】手術の7日後における、虚血後肢の腓腹筋の毛細管密度の定量分析の結果を示す。抗CD31 mAbを使用した免疫蛍光分析は、対照(CTL)と比較し、EVが毛細管密度を顕著に増加させたことを示す図である。データを平均±SDとして表す。*はp値<0.05(t検定)。
【
図7】手術の7日後における、筋肉の損傷領域の定量分析の結果、および虚血後肢からのヘマトキシリン-エオシン染色された腓腹筋の筋繊維を示す図である。対照(CTL)と比較し、sEVは筋肉の損傷を顕著に減少させる。データを平均±SDとして表す。*はp値<0.05(t検定)。
【
図8】リアルタイムPCR解析による比較の結果を示す図である。有効なsEVは、血管新生促進性のmiR-126、miR17-5p、miR-92a、miR-21およびmiR-24を富化させた(有効なsEV 対 無効なsEV、変動係数はmiR-126の17%からmiR-21の33%の範囲)。
【
図9】最初の15の血管新生mRNA、およびsEVにより発現したタンパク質を、mRNAおよびタンパク質マイクロアレイ解析により同定した図である。TGFβ1およびアンジオスタチンはいずれの場合も検出された。
【
図10】sEVの転写物とタンパク質との間のクロスマッチ(以下の有意な正の相関)を示す:サイトカイン対サイトカイン相互作用(富化GOスコア:3,7、p値:4,67E-06)、血管内皮遊走の正の制御(富化GOスコア:3,5、p値:3,49E-04)、内皮細胞の遊走(富化GOスコア:3,1、p値:5,03E-05)、VEGFシグナル伝達経路(富化GOスコア:3,1、p値:0,01)、マトリックスメタロプロテイナーゼの活性化および細胞外マトリックス組織化(富化GOスコア:3,4、p値:9,17E-06)。機能性アノテーション富化分析は、FunrichソフトウェアおよびCytoscapeのgeMANIAプラグインを用いて実行した。
【
図11】sEVがEC上の63の血管新生関連遺伝子を上方制御し、21の遺伝子を下方制御したことを示す表である。
【
図12】VEGF処置により、48の遺伝子の上方制御および36の遺伝子の下方制御が示された表である。対照サンプルに対する増加/減少倍率として結果を表した。
【
図13】sEVおよびVEGF処置を表すベン図である。対照サンプル(未処置のEC)に対して顕著な増加倍率を示した、上方制御された転写物(変化倍率≧3)。
【
図14】GOベースの機能性解析の結果、EVに応答して形成された毛細管様構造から回収されたECにおける、TGF-βのシグナル伝達経路の関連遺伝子の富化が見られた(P<0.01)ことを示す表である。
【
図15】血管新生の活性化段階に関連する遺伝子の発現と、sEV投与が相関することを示す図である。最も代表的な遺伝子のクラスターは、ALK1シグナル伝達イベントおよび経路に関連する遺伝子からなる。
【
図16】sEV処置およびVEGF処置の生物学的経路を比較したヒストグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を以下の例でさらに例示するが、それは例示のみを目的として提供されるものであり、添付の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定することを目的とするものではない。
【実施例】
【0019】
1. 方法
1.1. 血清EVの単離
所内の血液バンク審査委員会(Review Board of Blood Bank)によるインフォームドコンセントおよび承認の後、健常な血液ドナー(n=18)からのヒト血清が、トリノ健康科学都市(Citta della Salute e della Scienza di Torino)の血液バンクにより提供された。全てのヒトおよび動物実験は、欧州ガイドライン(European Guidelines)および方針に従い実施され、またチューリン大学の倫理委員会により、およびイタリア保健院(Italian Institute of Health)により承認された。20分間、3,000rpmで血清を遠心単離して残渣を除去することにより、110mlの血清バッグから各ドナー由来のsEVを得た。上清を次に4℃で2時間、100,000で超遠心分離した。次にEVペレットを、DMSOを1%含有するRPMIで1mlの最終量で再懸濁し-80℃で保存した。次にsEVを解凍し、生物学的アッセイおよび分子的解析に用いた。
【0020】
1.2. Guava FACS解析
sEV FACS解析を、Guava easyCyte(商標)フローサイトメーター(ミリポア社、ドイツ)により実施した。
単核細胞/マクロファージ(CD14、CD15)、白血球(CD45)、接着分子(alpha6、CD44、CD29)、内皮細胞(CD31、KDR)および血小板(CD42b、CD62P、P SEL)に対する特異的マーカーを認識する抗体と、健常なドナーからのsEVとをインキュベートした。FITC、またはPEマウスの非免疫アイソタイプIgG(ベクトンディッキンソン社、Franklin Lakes、NJ)を対照として使用した。sEVを、4℃で1時間、特異的抗体または対照アイソタイプ抗体とインキュベートし、FACSにより解析した。
【0021】
1.3. ナノ粒子のトラッキング解析
ナノサイトLM10システム(Nanosight社、Amesbury、英国)によりsEVを解析した。簡潔には、sEV調製物を滅菌した0.9%の生理食塩水で希釈(1:1000)し、Nanoparticle Analysis SystemおよびNTA 1.4 Analytical Softwareを備えたナノサイトLM10により解析した。各患者の全EV数は、前記装置により得られた値(微小粒子/ml)を、分析のために行った希釈倍率、およびsEVを再懸濁したマイクロリットル数で乗算することにより得た。
【0022】
1.4. sEV力価試験
予備的試験において、ヒトの微小血管内皮細胞(HMEC)に対する最良の生物学的応答を得るのに必要なsEVの数を評価するため、投与量応答曲線を作成した。略語ECを試験全体にわたり用いる。4つの異なるsEVサンプルを用いることにより、5×104個sEV/標的細胞が最も効果的なsEV投与量であることがわかった。ゆえに、5×104個EV/標的細胞を、インビトロ試験全体にわたり採用した。
したがって、単一のサンプル由来のsEVについて、BrdU細胞増殖アッセイ、またはインビトロ細管形成アッセイ、またはそれらの両方により、それらの血管新生促進活性を評価した。
【0023】
sEVの効力(活性%として表す)を評価するため、陰性および陽性対照を用いた。BrdUアッセイにおいて、陰性対照として無血清培地を用い、陽性対照として10%の血清を含有する培地を用いた。インビトロ血管新生アッセイにおいて、陽性対照として10ng/mlのVEGFを含有する培地を、陰性対照としてVEGF無添加の培地を用いた。
以下の式を適用した:
【数3】
VEGF(すなわち陽性対照)による血管新生能力の50%超の値は、効果的なsEVと考えられた。
異なる2つのsEVサンプル(1:1)を混合することにより、sEVのプールを得た。プールされたsEVをまた、BrdU細胞増殖アッセイおよびインビトロ血管新生アッセイにより評価した。
実施したBrdU細胞増殖アッセイおよびインビトロ血管新生アッセイの詳細を以下に示す。
【0024】
1.4.1 BrdU細胞増殖アッセイ
HMEC細胞(ATCC CRL 3243)を、EBM(LONZA)+10%のFBS培地300μl中、96ウェル(ウェル当たり3000個の細胞)に播種した。24時間後に、HMEC細胞を、3時間、FBSフリーのDMEMで飢餓状態にし、次にFBSフリーのDMEM中、ウェル当たり30×106個のEV(標的細胞当たり10000個のEV)と共に再懸濁して刺激した。FBSフリーDMEMおよびDMEM+10%FBSを、陰性および陽性対照として用いた。4時間のEV刺激の後、10μlのBrdU(BrdU最終濃度10μM)を各ウェルに添加し、HMEC細胞を18時間インキュベートした。
【0025】
刺激およびBrdUとのインキュベートの後、BrdUの標識を、BrdU標識および検出キット(ROCHE社)により検出した。簡潔には、96ウェルプレートを250μlのRPMI+10%FBSで3回洗浄し、細胞を30分、-20℃にて、200μlの冷却済み固定剤(70%エタノール+0.5M HCl)で固定し、次に250μlのRPMI+10%FBSで再度3回洗浄した。プレートを、37℃で30分間、100μlのヌクレアーゼ溶液と共にインキュベートし、250μlのRPMI+10%FBSで3回洗浄し、次に37℃で30分間、100μlの抗-BrdU-POD Fabフラグメントと共にインキュベートした。プレートを100μlのパーオキシダーゼ基質で満たして室温で2~30分間置き、プレートを490nmの参照波長を用いてマイクロタイタープレートリーダーにおいて405nmで読み取った。
効果の%を算出するため、EV刺激されたサンプルに由来するODを、以下のように測定した。すなわち、陰性対照(FBS無しDMEM)のODを効果0%として設定し、陽性対照(DMEM+10%FBS)のODを効果100%として設定し、EV刺激されたサンプルのODを、以下の式により効果の%として換算した:
(サンプルOD-陰性対照OD)/(陽性対照OD-陰性対照OD)×100
【0026】
1.4.2 インビトロ細管形成アッセイ
24ウェルプレートを、成長因子を減らしたマトリゲルの薄層で被覆し、37℃で1時間静置した。1.25×109個のEV(標的細胞当たり50000個EV)を再懸濁させたFBSフリーの500μlのEBM(内皮基本培地)(LONZA社)と共に、マトリゲル被覆ウェルにHUVEC細胞(ATCC CRL 1730)を播種(1ウェルあたり25000細胞)した。陰性および陽性対照として、FBS無しEBMおよびFBS無しEBM+10ng/mlのhVEGF(Abcam社)を使用した。24時間後に、各ウェル5枚の顕微鏡写真を撮影し、毛細管様構造をImageJソフトウェアによりカウントし、EVサンプルの視野当たりの毛細管様構造の平均カウント数を算出した。
【0027】
効果の%を算出するため、毛細管様構造の平均カウントを、以下のように測定した。すなわち、陰性対照(FBS無しEBM)の毛細管様構造のカウント(CLSC)を0%とし、陽性対照(FBS無しEBM+10ng/mlのVEGF)のCLSCを100%とし、サンプルのCLSCを以下の式により効果の%として換算した:
(サンプルCLSC-陰性対照CLSC)/(陽性対照CLSC-陰性対照CLSC)×100。
sEVの力価は、全体的効果パーセンテージに関して表される、BrdUおよびインビトロ細管形成試験の効果のパーセンテージの算術平均として算出した。
【0028】
1.5 動物試験
動物試験は、国立衛生研究所(National Institute of Health)の実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従い実施した。前述のように、皮下組織から基底膜の固体ゲルへの血管成長を測定することにより、血管新生を評価した(Lopatina T, Bruno S, Tetta C, Kalinina N, Porta M, Camussi G. Platelet-derived growth factor regulates the secretion of extracellular vesicles by adipose mesenchymal stem cells and enhances their angiogenic potential. Cell Commun Signal. 2014;12(1):26. doi:10.1186/1478-811X-12-26)。最初に、EC(1×106細胞/注入)を、sEV(EC 1×106個当たり、5×1010個EV)と共に一晩インキュベートした。次に、オスの重症複合免疫不全(SCID)マウス(6週齢)の皮下に、事前に刺激したECと混合した、0.5mlの氷冷済BDマトリゲルマトリックス・成長因子減少タイプ(Matrigel Matrix Growth Factor Reduced)(BD Biosciences社、Franklin Lakes、NJ)を注入した。非刺激の同数のECを陰性対照として用いた。マトリゲルプラグを10日後に切除し、4時間4%パラホルムアルデヒドで固定した。マトリゲル含有パラフィン切片(5~8μm厚)をトリクローム染色法により染色した。血管のルーメン領域は、前述のように測定した(Lopatina T, Bruno S, Tetta C, Kalinina N, Porta M, Camussi G. Platelet-derived growth factor regulates the secretion of extracellular vesicles by adipose mesenchymal stem cells and enhances their angiogenic potential. Cell Commun Signal. 2014;12(1):26. doi:10.1186/1478-811X-12-26)。
【0029】
1.5.1 後肢虚血のマウスモデル
SCIDマウス(Charles River Laboratories社)(7~8週齢および18~22gの体重)に、ゾラゼパムを80mg/Kgでi.m.注射し麻酔した。手術後に動物を慎重にモニターし、必要に応じケトロラク(Ketorolac、5mg/Kg)を投与し痛覚を消失させた。
無菌条件下、各マウスの左の後肢の中央部の皮膚を小切開した。左の大腿動脈の近位端部および伏在動脈の遠位部を結紮し、解体し、切除した。覆っている皮膚を、滅菌済みの6-0絹糸で縫合した。予備実験において、種々のsEV数およびsEV投与ルートを評価した。後者については、静脈内(iv)もしくは筋肉内(i.m.)単独で、または様々な組合せを含めた。動物の苦痛および処置に対する反応を考慮し、最良の投与経路が以下の通りと判断した:T0(1×1010 iv)、T1およびT2(0.5×1010 i.m.)。組織学的解析のため、動物を7日目に安楽死させた。
【0030】
1.5.2 後肢血流のモニタリング
麻酔後、脱毛クリームを使用して両足から毛髪を除去し、次にマウスを3分間、37℃でヒートプレートに配置し、温度差を最小化した。Laser Doppler Blood Flow(LDBF)アナライザ(PeriScan PIM 3 System、Perimed社、Stockholm、Sweden)を使用して後肢血流を測定した。手術の直前、および手術後0、3、7日目に、LDBF分析を後肢および足に対し実施した。種々のカラー画素を使用し、レーザー周波数の変化として血流を示した。スキャン後、保存したイメージを分析し、血流を定量化した。環境中の照明および温度により生じるデータ変動を排除するため、後肢血流を、左(虚血性)と右(非虚血性)のLDBFの比として表した。
【0031】
1.5.3 毛細管密度の評価
腓腹筋の中の毛細管密度を、免疫蛍光分析により定量化した。筋肉サンプルをOCT化合物(Miles社)に包埋し、液体窒素中で瞬間凍結した。組織切片(5μm厚)を調製し、マウスCD31に対するモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社、Santa Cruz、CA)を用いる免疫蛍光法により毛細管内皮細胞を同定した。各組織塊の3つの異なる断面からの15のランダムに選ばれた顕微鏡視野を基に、マウス試料ごとの毛細管内皮細胞をカウントした。毛細管密度を、高倍率(x400)1視野あたりのCD-31陽性箇所の数として表した。
【0032】
1.5.4 組織学
虚血および非虚血の肢の腓腹筋を、手術後7日目に切除し、8時間、4%パラホルムアルデヒドで直ちに固定し、さらにパラフィン包埋した。組織切片をヘマトキシリン-エオジンで染色した。光学顕微鏡を用い、×200の倍率でスライドを観察した。全筋繊維を、ならびに再生プロセスを表す小さい直径および複数の中心核を有する繊維をカウントするため、虚血性の肢部の全ての傷害領域からイメージを得た。全ての非虚血性の肢部から得たランダムなイメージを対照とした。
【0033】
1.6 タンパク質アレイ
種々のsEV由来のタンパク質を、NP40溶解バッファー(150mMのNaCl、50mMのTRIS-HCl(pH 8)、1%のNP40)により抽出した。2つの非オーバーラップアレイの組合せを含み、60のヒト血管新生タンパク質の発現を定量的に測定する、Quantibody(登録商標)Human Angiogenesisアレイ1000(Ray Biotech社)を使用し、血管新生タンパク質のプロファイリングを実施した。サンプル毎にタンパク質25μgをロードした。データからバックグラウンドを減算し、タンパク質濃度をアレイの種々の標準曲線から得た。機能性アノテーション富化分析は、FunrichソフトウェアおよびCytoscapeのgeMANIAプラグインを用いて実行した。
【0034】
1.7 mRNA血管新生マイクロアレイ・プロファイル
sEVの全RNAを、オールインワン(All in One)(Norgen社、Thorold、ON、カナダ)抽出法を使用して単離した。RNA濃度および純度は、NanoDrop1000分光光度計により検出した。260~280nmの吸光度が1.8~2.0のサンプルを採用した。
製造業者の指示に従い、RT2 First Strandキット(SA Biosciences社)を用いcDNAを合成した。sEVサンプルごとにcDNAを200ngローディングし、Angiogenesis RT2 Profiler PCR Array(PAHS 024、SA Biosciences社)を用いた遺伝子発現プロファイリングを実施した。血管新生における84の主要な遺伝子の発現プロファイルを分析した(ウェブサイト:http://www.sabiosciences.comに利用可能な遺伝子のリスト)。StepOne Plus(登録商標)システム(AB Applied Biosciences社)を使用して定量的逆転写酵素PCR(RT-PCR)を実施した。遺伝子発現の相対値を、ΔΔCT法を用いて測定した。sEV投与により形成される細管様構造に対しても、Angiogenesis RT2 Profiler PCR Arrayを行った。ECを回収し、RNeasy Miniキット(Qiagen、GmbH、Germany)で精製し、Angiogenesis RT2 Profiler PCR Arrayを使用しcDNAに逆転写し、処理した。PCRアレイに存在する5つの内因性制御遺伝子:β-2-ミクログロブリン(B2M)、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT1)、60S酸性リボソームタンパク質P0(RPLP0)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)およびb-アクチン(ACTB)を用いて正規化した。各処置サンプルの、対照サンプルに対する変化倍率は、2-ΔΔCtに対応した。ECの処置の有無による遺伝子発現の変化を、増加/減少倍率として示した。Expression SuiteおよびFunrich Softwareを使用し、データをさらに分析した。
【0035】
2. 結果
2.1 sEVの特徴解析
sEV中の種々の細胞集団(血小板、内皮、単核細胞、白血球および接着分子標識)の表面抗原を、Guava FACS解析により試験した。解析から、血清由来のEVは種々の血球集団から来ている不均一な集合体であることが示された(
図1)。
ナノサイト分析においては、健常なドナー間でのsEVの数およびサイズの顕著な違いに留意しなかった。110mlのバッグから回収したsEVの平均粒子濃度は約6.16×10
8粒子/mlであり(
図2A)、sEVの直径は約210nm、183nmのモード粒径であった(
図2B)。2×10
11個の全粒子から、sEVのRNAおよびタンパク質の回収量は、分析した全サンプル(n=18)において、300~500ng(RNA)および約1μg(タンパク質)と同等であった(
図2C)。
血管新生促進活性によりsEVを選択するため、内部対照としてVEGFを使用した「力価試験」を実施した。ECの増殖および管状構造の形成を誘導する能力の解析において、VEGFの血管新生促進効果の約50%を示すときに、効果的なsEVであるものとした。
図3に示すように、18のうちの14のsEVサンプルが、VEGF活性の50%超の値を示した。さらにこれらの結果を評価するため、顕著な血管新生促進活性を有するsEVを選択してプールし、それらの生物学的活性を解析した。注目すべきは、これらのプールされたsEVが、個別的なsEV調製物に匹敵する生物学的効果を示すことが立証されたことである(
図4A)。これは、プールされたときでもsEV生物活性が失われなかったことを示す。
【0036】
2.2 sEVはインビボ血管新生を誘導する
本発明者らの力価試験を確認するため、インビボSCIDマウスモデルを使用しインビボ実験を実施した。その際、ECをsEV(5×10
4個sEV/細胞)で処置し、マトリゲルと混合し、SCIDマウスに皮下注入した。1週後に、丘疹を除去し、解析した。
図4Bに示すように、インビボで解析した場合もsEVは血管新生促進活性を示す。プールされたsEVを解析したときも、同様の効果が検出された(
図4B)。
【0037】
2.3 sEVは、PADのマウスモデルにおいて再灌流の回復を改善する
ヒトのPADを模倣する虚血後肢マウスモデルにおいて、sEVの血管新生効果を評価した。全量で2×10
10個のsEVを、手術後毎日(介入の直後(T0)に1x10
10、1日目(T1)および2日目(T2)に0.5×10
10)投与した。投与方法の違いが血管新生の効果に影響するか否かを評価するため、sEVを以下のいずれかで投与した
i)T0、T1およびT2に尾静脈内に静注により投与(データ示さず)、
ii)T0、T1およびT2に虚血性後肢の筋肉内に直接投与(データ示さず)、および
iii)T0に静注により、T1およびT2に筋肉内に投与。介入の直後にsEVを静注し、続いて筋内投与することが最良の応答を誘導することがわかった。虚血後肢の血液灌流を、Laser Doppler Perfusionイメージングを使用して評価した。手術直後、虚血性および非虚血性の後肢の比率が、CTL群では0.13±0.06、およびsEV群(n=10/群)では0.12±0.04に減少した。sEV処置群において、後肢灌流の比率は、CTL群と比較し、手術後7日目に顕著に増加した(0.89±0.26 対 0.6±0.18(p<0.05))(
図5)。虚血後肢の毛細管密度は、一貫して、対照群と比較し、sEV処置マウスにおいて顕著に増加した(22.4±5.5 対 11.2±1.8(p<0.05))(
図6)。
組織の損傷(腓腹筋)の解析から、sEV処置マウスの筋肉では、筋肉の損傷領域が減少し(
図7)、また血管密度が増加することがわかった。ゆえに、本発明者らのモデルでは、sEVは虚血により誘導される損傷からの保護を提供すると考えられる。
【0038】
2.4 sEV-カーゴ分析
上記の結果を踏まえ、sEVにより担持される血管新生関連miR、mRNAおよびタンパク質の、かかる機能効果を発揮する際の寄与を解析した。その際、第一に、新血管形成に関与することが公知のmiR(Caporali A, Emanueli C. MicroRNAs in postischemic vascular repair. Cardiol Res Pract. 2012;1(1). doi:10.1155/2012/486702)を評価した。
図8において示されるリアルタイムPCR解析は、有効なsEVが、無効なsEVと比較し、周知の血管新生促進miRであるmiR-126、miR17-5p、miR-92a、miR-21およびmiR-24を顕著に富化したことを立証するものである(有効なsEV 対 無効なsEVの変動係数CVは、miR-126の17%からmiR-21の33%にわたる)。
mRNAおよびタンパク質マイクロアレイ分析に基づき、第一の15の血管新生mRNAおよびsEVにより発現されるタンパク質を選択した(
図9)。TGFb1およびアンジオスタチンがmRNAおよびタンパク質において共通に検出されることが観察された(TGFb1:28.8のmRNA平均Ct値および6.3ng/mlのタンパク質量、アンジオスタチン:28.2のmRNA平均Ct値および11.5ng/mlのタンパク質量)。
【0039】
sEVの転写物とタンパク質との間のクロスマッチから、以下の有意な正の相関が示された:マトリックスメタロプロテイナーゼの活性化および細胞外マトリックス組織化(富化GOスコア:3.4、p値:9.17E-06)、サイトカイン対サイトカイン相互作用(富化GOスコア:3.7、p値:4.67E-06)、内皮細胞の遊走(富化GOスコア:3.1、p値:5.03E-05)、血管内皮遊走の正の制御(富化GOスコア:3.5、p値:3.49E-04)、VEGFシグナル伝達経路(富化GOスコア:3.1、p値:0.01)(
図10)。
【0040】
2.5 インビトロでのsEV処置による遺伝子パターン調節
血管新生促進のきっかけを誘導する際のsEVカーゴの生物学的関連性を確認するため、sEVまたはVEGF(陽性対照)に応答して形成される毛細管様構造から回収されたECに対するmRNA-血管新生マイクロアレイ解析を行い、未処置のEC(内部対照)と比較した。
sEVおよびVEGFにより発揮される血管新生促進効果がほぼ同等であったにもかかわらず、異なる遺伝子発現のパターンが検出され、すなわち、sEV処置(4つのサンプルを解析)により、63の血管新生関連遺伝子が上方制御され、21の遺伝子が下方制御され(
図11~12)、一方、VEGF処置により、48の遺伝子が上方制御され、36の遺伝子が下方制御された(
図12)。各処置において、対照サンプル(未処置のEC)と比較し≧3の増加倍率で上方制御された転写物について、さらなる試験に供した。これに基づき、以下の10種の最も高発現する遺伝子を選択した。sEV処置については、PTGS1、ID1、THBS1、SERPINE1、FN1、SERPINF1、ERBB2、TIE1、IFNGおよびCXCL9であり、VEGF処置については、IL6、VEGFA、VEGFC、PTGS1、PGF、TIE1、PECAM1、ID1、JAG1およびNOS3である(
図13)。また、
図13において示されるベン図は、PTGS1、ID1およびTIE1遺伝子が、両方の処置で共通することを示す。
【0041】
sEV処置と関連する分子事象を詳細に吟味するため、種々のGeneオントロジー(GO)データベースを参照した。GOベースの機能解析では、sEVに応答して形成された毛細管様構造から回収されたECにおいて、TGFb1シグナル伝達経路に関連する遺伝子の富化が観察された(P<0.001)(
図14)。留意すべきは、さらに詳細なGO解析の結果、sEV投与が、TGFb/ALK1媒介血管新生の活性化段階に関係する遺伝子の発現と相関することがわかったことである(
図15)。実際、最も代表的な遺伝子クラスターは、ALK1シグナル伝達イベントおよび経路(
図15)に関係する遺伝子からなるものであった。後者の結果は、最も高発現する遺伝子の1つとしてID1(
図11または
図13)を同定したトランスクリプトーム解析をさらに裏付けるものである。
図16(sEVおよびVEGFにより媒介される生物学的経路間の比較を示す)は、sEVの作用機構中、ALK1カスケードが最も関連性が深いことをさらに裏付けるものである。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕細胞外ベシクル(EV)の医薬調製物を製造する方法であって、
複数の体液調製物から、または細胞培養の馴化培地からEVを単離するステップと、
単離されたEVから、所定のEV濃度の1つまたは複数のサンプルを調製するステップと、
力価試験において、各EVサンプルの活性を試験するステップと、
所定の活性を超えるサンプルを、医薬調製物へのさらなる処理用に選択するステップと
を含み、
2つ以上の活性EVサンプルをプールするステップを含んでもよい、方法。
〔2〕力価試験が前記〔2〕から〔8〕までのいずれか1項に定義される、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕EVがヒト細胞由来である、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕血管新生促進治療による虚血性疾患もしくは虚血性傷害の処置または創傷癒合における使用のための、血液成分から単離された細胞外ベシクル(EV)(EV)の組成物。
〔5〕血管新生促進治療により良好な影響を受ける疾患または傷害の処置における使用のための、または創傷癒合における使用のための細胞外ベシクル(EV)の組成物であって、
- BrdU細胞増殖アッセイにより組成物の活性を測定するステップ;
- BrdU細胞増殖アッセイにより陰性対照の活性を測定するステップ;
- BrdU細胞増殖アッセイにより陽性対照の活性を測定するステップ;
- 以下の式:
【数1】
を適用することにより、BrdU細胞増殖アッセイにおける組成物の活性%を算出するステップ
を含む力価試験において測定したとき、少なくとも50%の活性%を有する組成物。
〔6〕陽性対照が、10%の血清を補充した内皮基本培地を使用し、細胞当たり10000個のEVによるHMEC細胞の刺激を含む、HMEC細胞ベースのBrdU細胞増殖アッセイであり、
陰性対照が、同じ細胞および血清を補充されない培地を使用したBrdU細胞増殖アッセイである、前記〔5〕に記載の組成物。
〔7〕力価試験が本明細書の例1.4.1に従い実施される、前記〔5〕または〔6〕に記載の組成物。
〔8〕血管新生促進治療により良好な影響を受ける疾患または傷害の処置における使用のための、または創傷癒合における使用のための細胞外ベシクル(EV)の組成物であって、
- 細管形成アッセイにより組成物の活性を測定するステップ;
- 細管形成アッセイにより陰性対照の活性を測定するステップ;
- 細管形成アッセイにより陽性対照の活性を測定するステップ;
- 以下の式:
【数2】
を適用することにより、細管形成アッセイにおける組成物の活性%を算出するステップ
を含む力価試験において測定したとき、少なくとも50%の活性%を有する組成物。
〔9〕陽性対照が、10ng/mlのVEGFを補充した内皮基本培地を使用し、細胞当たり50000個のEVによる細胞の刺激を含む、HUVEC細胞ベースのインビトロ細管形成アッセイであり、
陰性対照が、同じ細胞およびVEGFを補充されない培地を使用したインビトロ細管形成アッセイである、前記〔8〕に記載の組成物。
〔10〕力価試験が本明細書の例1.4.2に従い実施される、前記〔8〕または〔9〕に記載の組成物。
〔11〕前記〔2〕から〔4〕までのいずれか1項に記載のBrdU細胞増殖アッセイと、前記〔5〕からまで7のいずれか1項に記載の細管形成インビトロアッセイの両方を含む力価試験において測定したとき、少なくとも50%の活性%を有する、前記〔5〕から〔10〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔12〕EVが、血液成分から単離された細胞外ベシクル(sEV)である、前記〔5〕から〔11〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔13〕健常なドナーの供血から調製される、前記〔5〕から〔12〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔14〕EVが、細胞培養の馴化培地から単離された細胞外ベシクルである、前記〔5〕から〔11〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔15〕医薬調製物である、前記〔4〕から〔14〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔16〕処置される対象の体重1kgあたり1×10
11
~5×10
12
個のEVを含む、前記〔4〕から〔15〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔17〕血清または血漿または馴化培地に存在する全てのEVを捕捉しているバルク調製物である、前記〔4〕から〔16〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔18〕EVがヒト細胞由来である、前記〔4〕から〔17〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔19〕疾患または傷害が、血管の疾患または傷害である、前記〔4〕から〔18〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔20〕疾患または傷害が、急性心筋梗塞、急性脳血管疾患、急性および慢性末梢動脈疾患または急性腎臓虚血である、前記〔4〕から〔18〕までのいずれか1項に記載の組成物。
〔21〕培養細胞の増殖を促進するための培養培地への添加剤としての、前記〔4〕から〔18〕までのいずれか1項に記載の組成物の使用。