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特許7322244冗長性を備えた早期損傷把握システム、冗長性を備えた早期損傷把握方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】冗長性を備えた早期損傷把握システム、冗長性を備えた早期損傷把握方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20060101AFI20230731BHJP
   G08B 31/00 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
G01V1/00 D
G08B31/00 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022089794
(22)【出願日】2022-06-01
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591280197
【氏名又は名称】株式会社構造計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100175064
【弁理士】
【氏名又は名称】相澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】正月 俊行
(72)【発明者】
【氏名】梁川 幸盛
(72)【発明者】
【氏名】古川 欽也
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-032868(JP,A)
【文献】特開2006-017576(JP,A)
【文献】特開2003-344550(JP,A)
【文献】特許第6609403(JP,B2)
【文献】特開2006-292589(JP,A)
【文献】特許第5015970(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2014/0324356(US,A1)
【文献】特開2010-218557(JP,A)
【文献】特開2015-201189(JP,A)
【文献】特開平9-43392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G08B23/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の地震計と、
前記地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む通知を利用者の端末装置に配信する早期損傷把握サーバと、
前記構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の第2の地震計と、
前記地震計のデータを使用せず、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を前記端末装置に配信する第2の早期損傷把握サーバと、を含み、
前記早期損傷把握サーバと前記第2の早期損傷把握サーバとは互いに依存せず、独立に動作する
冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項2】
前記第2の早期損傷把握サーバは、前記早期損傷把握サーバによる前記通知の配信が行われない場合に、前記第2の通知を配信する
請求項1記載の冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項3】
配信サーバをさらに有し、
前記早期損傷把握サーバ及び前記第2の早期損傷把握サーバは、前記通知及び前記第2の通知を、前記端末装置に代えて前記配信サーバに送信し、
前記配信サーバは、前記第2の通知を受信し、かつ前記通知を受信できないとき、前記第2の通知を前記端末装置に配信する
請求項1記載の冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項4】
前記早期損傷把握サーバは、前記構造物の地震応答解析モデルを予め保持しており、前記地震計の計測データを前記構造物の地震応答解析モデルに入力することにより前記構造物の挙動を推定し、前記挙動に基づいて前記損傷を推定する
請求項1記載の冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項5】
前記早期損傷把握サーバは、前記構造物に設けられた複数の前記観測点間の前記計測データの差分に基づいて前記構造物の挙動を推定し、前記挙動に基づいて前記損傷を推定する
請求項1記載の冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項6】
前記第2の早期損傷把握サーバは、前記構造物の地震応答解析モデル及び表層地盤の地震応答解析モデルを予め保持しており、前記第2の地震計の計測データを前記表層地盤の地震応答解析モデルに入力することにより前記表層地盤の挙動を推定し、前記表層地盤の挙動を前記構造物の地震応答解析モデルに入力することにより前記構造物の挙動を推定し、前記挙動に基づいて前記損傷を推定する
請求項1記載の冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項7】
前記第2の早期損傷把握サーバは、前記第2の地震計の計測データ及び前記表層地盤の地震応答解析モデルに基づいて求めた前記表層地盤の挙動と、前記地震計の計測データに基づいて求めた前記表層地盤の挙動と、の差分が小さくなるように前記表層地盤の地震応答解析モデルに含まれる物性値を変更する
請求項6記載の冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項8】
前記第2の早期損傷把握サーバは、前記第2の地震計の計測データ、前記表層地盤の地震応答解析モデル及び前記構造物の地震応答解析モデルに基づいて求めた前記構造物の挙動又は損傷と、前記地震計の計測データに基づいて求めた前構造物の挙動又は損傷と、の差分が小さくなるように前記構造物の地震応答解析モデルに含まれる物性値を変更する
請求項6記載の冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項9】
構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の第2の地震計と、
前記構造物に設けられた観測点における地震動に基づいて前記構造物の損傷を推定する早期損傷把握サーバによる通知の配信が行われない場合に、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を端末装置に配信する第2の早期損傷把握サーバと、を含む
冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項10】
構造物に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の地震計と、
前記構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の第2の地震計と、
早期損傷把握サーバと、を含み、
前記早期損傷把握サーバは、前記地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む通知を利用者の端末装置に配信し、
前記地震計のデータを使用せず、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を前記端末装置に配信する
冗長性を備えた早期損傷把握システム。
【請求項11】
1以上の地震計が、構造物に設けられた観測点における地震動を計測する計測ステップと、
早期損傷把握サーバが、前記地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む通知を利用者の端末装置に配信する配信ステップと、
1以上の第2の地震計が、前記構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する第2の計測ステップと、
第2の早期損傷把握サーバが、前記地震計のデータを使用せず、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を前記端末装置に配信する第2の配信ステップと、を含み、
前記早期損傷把握サーバと前記第2の早期損傷把握サーバとは互いに依存せず、独立に動作する
冗長性を備えた早期損傷把握方法。
【請求項12】
1以上の第2の地震計が、構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する第2の計測ステップと、
前記構造物に設けられた観測点における地震動に基づいて前記構造物の損傷を推定する早期損傷把握サーバによる通知の配信が行われない場合に、第2の早期損傷把握サーバが、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を端末装置に配信する第2の配信ステップと、を含む
冗長性を備えた早期損傷把握方法。
【請求項13】
1以上の地震計が、構造物に設けられた観測点における地震動を計測する計測ステップと、
1以上の第2の地震計が、前記構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する第2の計測ステップと、
早期損傷把握サーバが、
前記地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む通知を利用者の端末装置に配信する配信ステップと、
前記地震計のデータを使用せず、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を前記端末装置に配信する第2の配信ステップと、を含む
冗長性を備えた早期損傷把握方法。
【請求項14】
請求項11乃至13のいずれか1項記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冗長性を備えた早期損傷把握システム、冗長性を備えた早期損傷把握方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物をはじめとする構造物に予め地震計を取り付けておき、地震の発生時にコンピュータが地震計からの情報を取得及び加工することによって、構造物の被害を推定するシステムが存在する。(例えば特許文献1乃至3参照)
【0003】
また、構造物とは異なる位置に設置された地震計からの情報をコンピュータが取得し、構造物の位置における地盤特性や構造物の構造特性等に基づいて、地震計が設置されていない構造物の被害を推定するシステムも存在する。(例えば特許文献4乃至6参照)
【0004】
図1に、上述のような地震による構造物の被害を推定するシステム(以下、構造物ヘルスモニタリングシステム10と称する)の典型的な構成を示す。構造物内外に設置された地震計101の計測データは、ネットワーク102を介して、データセンタやクラウドに設けられた収集サーバ103にアップロードされる。収集サーバ103は、収集した計測データを、ネットワーク104を介して、データセンタやクラウドに設けられた早期損傷把握サーバ105に転送する。早期損傷把握サーバ105は、取得した計測データを分析して構造物の損傷を推定し、構造物の損傷状況の予測や立入り可否等の情報を、ネットワーク106を介して、利用者の端末装置107(スマートフォン等)に通知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-168008号公報
【文献】特開2017-194309号公報
【文献】特開2019-203713号公報
【文献】特開2017-096737号公報
【文献】特開2018-200313号公報
【文献】特開2020-176836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
構造物ヘルスモニタリングシステム10にとって最も重要なことは、地震災害の発生時にシステムが確実に作動することである。しかし、従来の構造物ヘルスモニタリングシステム10では、地震災害の発生時に確実に稼働するための対策、すなわちシステムの冗長性の確保が十分ではなかった。構造物ヘルスモニタリングシステム10の十分に確実な稼働を保証するためには、地震計101、ネットワーク102、収集サーバ103、サーバ間のネットワーク104、早期損傷把握サーバ105と利用者間のネットワーク106などの構成要素が、地震災害発生時にどれも欠けることなく健全性を保つよう冗長化されている必要がある。このような冗長構成を実現するための典型的な手法は、構成要素それぞれを多重化することであるが、これを実現するためには相応のコストが必要であり、利用者にとって過大な負担を与えてしまう。したがって、従来の構造物ヘルスモニタリングシステム10の提供者は、地震発生災害時にシステムが確実に稼働することを保証しておらず、サービス停止等を免責事項として扱うことが一般的であった。
【0007】
そこで、従来の構造物ヘルスモニタリングシステム10の問題点であった地震災害発生時における動作の不確実性を比較的低いコストで抑制しつつ、構造物の損傷状況を早期に通知するという所期の目的を達成するための手段を提供することが求められている。同時に、推定精度についても高いレベルを維持することが望まれる。
【0008】
本発明はこのような問題の解決を意識したものであり、冗長性を備えた早期損傷把握システム、冗長性を備えた早期損傷把握方法及びプログラムを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムは、構造物に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の地震計と、前記地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む通知を利用者の端末装置に配信する早期損傷把握サーバと、前記構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の第2の地震計と、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を前記端末装置に配信する第2の早期損傷把握サーバと、を含む。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムにおいて、前記第2の早期損傷把握サーバは、前記早期損傷把握サーバによる前記通知の配信が行われない場合に、前記第2の通知を配信する。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムは、配信サーバをさらに有し、前記早期損傷把握サーバ及び前記第2の早期損傷把握サーバは、前記通知及び前記第2の通知を、前記端末装置に代えて前記配信サーバに送信し、前記配信サーバは、前記第2の通知を受信し、かつ前記通知を受信できないとき、前記第2の通知を前記端末装置に配信する。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムにおいて、前記早期損傷把握サーバは、前記構造物の地震応答解析モデルを予め保持しており、前記地震計の計測データを前記構造物の地震応答解析モデルに入力することにより前記構造物の挙動を推定し、前記挙動に基づいて前記損傷を推定する。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムにおいて、前記早期損傷把握サーバは、前記構造物に設けられた複数の前記観測点間の前期計測データの差分に基づいて前記構造物の挙動を推定し、前記挙動に基づいて前記損傷を推定する。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムにおいて、前記第2の早期損傷把握サーバは、前記構造物の地震応答解析モデル及び表層地盤の地震応答解析モデルを予め保持しており、前記第2の地震計の計測データを前記表層地盤の地震応答解析モデルに入力することにより前記表層地盤の挙動を推定し、前記表層地盤の挙動を前記構造物の地震応答解析モデルに入力することにより前記構造物の挙動を推定し、前記挙動に基づいて前記損傷を推定する。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムにおいて、前記第2の早期損傷把握サーバは、前記第2の地震計の計測データ及び前記表層地盤の地震応答解析モデルに基づいて求めた前記表層地盤の挙動と、前記地震計の計測データに基づいて求めた前記表層地盤の挙動と、の差分が小さくなるように前記表層地盤の地震応答解析モデルに含まれる物性値を変更する。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムにおいて、前記第2の早期損傷把握サーバは、前記第2の地震計の計測データ、前記表層地盤の地震応答解析モデル及び前記構造物の地震応答解析モデルに基づいて求めた前記構造物の挙動又は損傷と、前記地震計の計測データに基づいて求めた前構造物の挙動又は損傷と、の差分が小さくなるように前記構造物の地震応答解析モデルに含まれる物性値を変更する。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムは、構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の第2の地震計と、前記構造物に設けられた観測点における地震動に基づいて前記構造物の損傷を推定する早期損傷把握サーバによる通知の配信が行われない場合に、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を端末装置に配信する第2の早期損傷把握サーバと、を含む。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システムは、構造物に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の地震計と、前記構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の第2の地震計と、早期損傷把握サーバと、を含み、前記早期損傷把握サーバは、前記地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む通知を利用者の端末装置に配信し、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を前記端末装置に配信する。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握方法は、1以上の地震計が、構造物に設けられた観測点における地震動を計測する計測ステップと、早期損傷把握サーバが、前記地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む通知を利用者の端末装置に配信する配信ステップと、1以上の第2の地震計が、前記構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する第2の計測ステップと、第2の早期損傷把握サーバが、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を前記端末装置に配信する第2の配信ステップと、を含む。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握方法は、1以上の第2の地震計が、構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する第2の計測ステップと、前記構造物に設けられた観測点における地震動に基づいて前記構造物の損傷を推定する早期損傷把握サーバによる通知の配信が行われない場合に、第2の早期損傷把握サーバが、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を端末装置に配信する第2の配信ステップと、を含む。
一実施の形態によれば、冗長性を備えた早期損傷把握方法は、1以上の地震計が、構造物に設けられた観測点における地震動を計測する計測ステップと、1以上の第2の地震計が、前記構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する第2の計測ステップと、早期損傷把握サーバが、前記地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む通知を利用者の端末装置に配信する配信ステップと、前記第2の地震計の計測データに基づいて前記構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を前記端末装置に配信する第2の配信ステップと、を含む。
一実施の形態によれば、プログラムは、上記方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、冗長性を備えた早期損傷把握システム、冗長性を備えた早期損傷把握方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来の構造物ヘルスモニタリングシステムの構成を示す図である。
図2】実施の形態1にかかる早期損傷把握システム1の構成を示すブロック図である。
図3】収集サーバ103の機能構成を示すブロック図である。
図4】早期損傷把握サーバ105の機能構成を示すブロック図である。
図5】収集サーバ203の機能構成を示すブロック図である。
図6】早期損傷把握サーバ205の機能構成を示すブロック図である。
図7】実施の形態1にかかる早期損傷把握システム1の動作を示すフローチャートである。
図8】実施の形態2にかかる早期損傷把握システム1の構成を示すブロック図である。
図9】実施の形態2にかかる早期損傷把握システム1の動作を示すフローチャートである。
図10】地盤モデルのチューニング処理の一例を示すフローチャートである。
図11】構造物モデルのチューニング処理の一例を示すフローチャートである。
図12】早期損傷把握システム1の他の構成を示すブロック図である。
図13】早期損傷把握システム1の他の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
<実施の形態1>
図2は、本発明の実施の形態1にかかる早期損傷把握システム1の構成を示すブロック図である。
【0014】
早期損傷把握システム1は、構造物ヘルスモニタリングシステム10、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20を含む。
【0015】
ここで、構造物ヘルスモニタリングシステム10、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は互いに依存せず、独立に動作する。そして構造物ヘルスモニタリングシステム10が正常に動作しない場合に、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20が利用者に構造物の損傷状況を通知する。このように、早期損傷把握システム1は、2系統のサブシステムを含む冗長構成を有している。
【0016】
構造物ヘルスモニタリングシステム10は、構造物内外に設置された1以上の地震計101、地震計101と収集サーバ103とを通信可能に接続するネットワーク102、データセンタやクラウドに設けられた収集サーバ103、収集サーバ103と早期損傷把握サーバとを通信可能に接続するネットワーク104、データセンタやクラウドに設けられた早期損傷把握サーバ105、早期損傷把握サーバ105と利用者の端末装置107とを通信可能に接続するネットワーク106、利用者が使用するスマートフォン等の端末装置107を含む。
【0017】
地震計101は、任意の観測点における地震の揺れ(地震動)を計測及び出力する装置である。典型的な地震計101は、3軸の加速度計と、加速度に基づく計測データを計算及び出力する処理部とを含む。計測データは、例えば最大加速度、計測震度、地震波(加速度の時系列的変化を示すデータセット、具体的には所定時間ごとに取得された加速度のセット等)等である。地震計101は、構造物内外の観測点(構造物上に設けられるほか、構造物が位置する地表に設けられるものもある)に1以上設置され、観測点における地震動を計測データとして出力する。
【0018】
地震計101が出力した計測データは、ネットワーク102を介して収集サーバ103に送信される。ネットワーク102は、典型的には移動体通信網、専用回線、インターネットやその組み合わせ等である。
【0019】
収集サーバ103は、地震計101から計測データを受信及び蓄積する受信部1031、受信した計測データを外部に出力する出力部1032を含む情報処理装置である(図3参照)。収集サーバ103は、典型的にはデータセンタやクラウドコンピューティング環境等に設けられたサーバコンピュータである。
【0020】
収集サーバ103が取得した計測データは、ネットワーク104を介して早期損傷把握サーバ105に送信される。ネットワーク104は、典型的には専用回線等である。
【0021】
早期損傷把握サーバ105は、収集サーバ103から計測データを受信及び蓄積する受信部1051、受信した計測データに基づいて構造物の損傷を推定する推定部1052、推定結果を外部に出力する出力部1053を有する情報処理装置である(図4参照)。早期損傷把握サーバ105は、典型的にはデータセンタやクラウドコンピューティング環境等に設けられたサーバコンピュータである。
【0022】
早期損傷把握サーバ105が実行する構造物の損傷推定処理方法を二例示す。
(1)シミュレーションを用いる方法
推定部1052は、構造物の地震応答解析モデルを予め記憶しているものとする。構造物の地震応答解析モデルとは、観測点に地震波を入力すると、構造物の挙動を推定するシミュレーションモデルである。
受信部1051は、構造物内外の観測点に設置された地震計101によって計測された地震波を受信する。
推定部1052は、構造物の地震応答解析モデルの観測点に、受信した地震波をそれぞれ入力する。地震応答解析モデルは、入力された地震波に基づいて構造物の挙動を推定する。これにより、地震波が直接計測されていない観測点における揺れの大きさも算出できる。例えば、建物であれば地震計101が設置されていないフロアを含め、各フロアの変形量がそれぞれ得られる。推定部1052は、建物の各フロアの変形量に基づいて建物の損傷度や建物侵入可否等を評価する。すなわち、変形量の関数として表現される指標である損傷度を算出し、変形量の関数として表現される他の指標である建物侵入可否の判定を行う。推定部1052によるこの評価結果を、以下、構造物の損傷に関する情報という。
出力部1053は、構造物の損傷に関する情報を外部に出力する。
【0023】
(2)シミュレーションを用いない方法
受信部1051は、構造物内外の観測点に設置された地震計101によって計測された地震波を受信する。例えば、建物であれば各フロアに設置された地震計101からそれぞれ地震波を受信する。
推定部1052は、受信した地震波(加速度の時系列データ)を積分し、変位波形を算出する。そして、観測点間の変位波形の差から変形量を算出し、変形量に基づいて構造物の損傷度を評価する。例えば、建物上階の変位波形から建物下階の変位波形を差し引くことで各フロアの変形量を算出できる。推定部1052は、建物の各フロアの変形量に基づいて建物の損傷度や建物侵入可否等を評価する。
出力部1053は、構造物の損傷に関する情報を外部に出力する。
【0024】
早期損傷把握サーバ105が推定した構造物の損傷に関する情報は、ネットワーク106を介して利用者が使用する端末装置107に通知される。ネットワーク106は、典型的には移動体通信網、公衆電話網、衛星通信網、専用回線等である。
【0025】
端末装置107は、構造物の損傷に関する情報を受信して利用者に画面表示、音声等の手段により通知する。通知は、例えばSMS(ショートメッセージサービス)、電子メール、チャットまたはSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)等により文字情報や画像情報として伝達されても良く、電話等により音声情報として伝達されても良い。端末装置107は、典型的にはスマートフォン、タブレットコンピュータ、PC(パーソナルコンピュータ)、携帯電話、固定電話、衛星電話、ファクシミリ等である。
【0026】
第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、構造物の近傍に設置された1以上の地震計201、地震計201と収集サーバ203とを通信可能に接続するネットワーク202、データセンタやクラウドに設けられた収集サーバ203、収集サーバ203と早期損傷把握サーバとを通信可能に接続するネットワーク204、データセンタやクラウドに設けられた早期損傷把握サーバ205、早期損傷把握サーバ205と利用者の端末装置207とを通信可能に接続するネットワーク206、利用者が使用するスマートフォン等の端末装置107を含む。
【0027】
第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、上述の構造物ヘルスモニタリングシステム10とは完全に別系統のシステムであることが好ましい。すなわち、両システムはシステムを構成する情報処理装置やネットワーク等を共有しないことが好ましい。
【0028】
地震計201の構成及び機能は、地震計101と同様である。但し、地震計201は、構造物から離れた地表又は地中の観測点に設置され、当該観測点における地震動の計測データを出力する。
【0029】
なお、各地に設置された地震計の計測データが第三者により提供されている場合は、当該計測データを取得し、地震計201による計測データとみなして利用しても良い。例えば、国立研究開発法人防災科学技術研究所が運用するK-NET(Kyoshin Network:全国強震観測網)やKiK-net(Kiban Kyoshin Network:基盤強震観測網)は、全国の観測施設で観測された地震動の計測データを即時に公開しているので、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20が利用するのに好適である。
【0030】
ネットワーク202、収集サーバ203(図5参照)、ネットワーク204の構成及び機能は、ネットワーク102、収集サーバ103、ネットワーク104と同様である。
【0031】
早期損傷把握サーバ205は、収集サーバ203から計測データを受信及び蓄積する受信部2051、受信した計測データに基づいて構造物の損傷を推定する推定部2052、推定結果を外部に出力する出力部2053を有する情報処理装置である(図6参照)。早期損傷把握サーバ205は、典型的にはデータセンタやクラウドコンピューティング環境等に設けられたサーバコンピュータである。
【0032】
早期損傷把握サーバ205が実行する構造物の損傷推定処理方法の一例を示す。
推定部2052は、構造物の地震応答解析モデルに加え、表層地盤の地震応答解析モデルを予め記憶しているものとする。表層地盤の地震応答解析モデルとは、観測点に地震波を入力すると、表層地盤すなわち構造物が載っている地盤の挙動を推定するシミュレーションモデルである。構造物の地震応答解析モデルは、表層地盤の地震応答解析モデルの出力を構造物の接地点に入力することで、構造物の挙動を推定することができる。
受信部2051は、地表又は地中の観測点に設置された地震計201によって計測された地震波を受信する。
推定部2052は、表層地盤の地震応答解析モデルの観測点、すなわち地震計201の設置地点に、地震計201から受信した地震波をそれぞれ入力する。表層地盤の地震応答解析モデルは、入力された地震波に基づいて表層地盤の挙動を推定する。これにより、地震波が直接計測されていない構造物の接地点における地震波も算出できる。推定部2052は、構造物の地震応答解析モデルにおける接地点に、表層地盤の地震応答解析モデルが出力する地震波を入力する。これにより、構造物の地震応答解析モデルは、入力された地震波に基づいて構造物の挙動を推定する。例えば、各フロアごとの変形量が得られる。推定部2052は、建物の各フロアの変形量に基づいて建物の損傷度や建物侵入可否等を評価する。
出力部2053は、推定部2052による評価結果を、構造物の損傷に関する情報として外部に出力する。
【0033】
ここで、出力部2053は、構造物ヘルスモニタリングシステム10が正常に動作しない場合にのみ、構造物の損傷に関する情報を出力することができる。このような動作を実現するための方法としては、例えば次のようなものがある。
・出力部2053は、構造物ヘルスモニタリングシステム10の各構成要素(情報処理装置やネットワーク等)の死活監視又は性能監視を定期的に実施する。これらの構成要素のいずれかがダウンしている又は所定の性能を満たさなくなっていると判定した場合に、構造物の損傷に関する情報を出力する。
・出力部2053は、地震計201が地震波を検知してから一定時間以内に、構造物ヘルスモニタリングシステム10から出力される構造物の損傷に関する情報が、端末装置107に到達したか否かを確認する。例えば、出力部2053を、構造物ヘルスモニタリングシステム10による構造物の損傷に関する情報の出力先のひとつとして設定しておくことにより、確認を行うことができる。到達を確認できない場合、出力部2053が、端末装置107に構造物の損傷に関する情報を出力する。
【0034】
ネットワーク206の構成及び機能は、ネットワーク106と同様である。また、構造物の損傷に関する情報の出力先は、構造物ヘルスモニタリングシステム10と同じく利用者の端末装置107である。
【0035】
図7は、実施の形態1にかかる早期損傷把握システム1の動作の一例を示すフローチャートである。
S1-1:地震発生
地震が発生する。構造物ヘルスモニタリングシステム10、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20が並行して動作を開始する。
【0036】
(構造物ヘルスモニタリングシステム10の動作)
S1-21:構造物に設置された地震計101が計測データを出力
構造物に設置された地震計101が地震動を検知し、計測データを出力する。
【0037】
S1-22:収集サーバ103が計測データを収集
収集サーバ103が計測データを収集し、早期損傷把握サーバ105に送信する。
【0038】
S1-23:早期損傷把握サーバ105が構造物の損傷等を推定
早期損傷把握サーバ105が、計測データに基づいて構造物の損傷度の推定や立入可否の判定等を行う。これらの処理結果は構造物の損傷に関する情報として保持される。
【0039】
S1-24:早期損傷把握サーバ105が構造物の損傷に関する情報を配信
早期損傷把握サーバ105が構造物の損傷に関する情報を利用者の端末装置107に配信する。
【0040】
(第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20の動作)
S1-31:構造物近傍の地盤に設置された地震計201が計測データを出力
構造物近傍の地盤に設置された地震計201が地震動を検知し、計測データを出力する。
【0041】
S1-32:収集サーバ203が計測データを収集
収集サーバ203が計測データを収集し、早期損傷把握サーバ205に送信する。
【0042】
S1-33:早期損傷把握サーバ205が構造物の損傷度等を推定
早期損傷把握サーバ205が、計測データと、表層地盤の地震応答解析モデルおよび構造物の地震動応答解析モデルとに基づいてシミュレーションを行い、構造物の損傷度の推定や立入可否の判定等を行う。これらの処理結果は構造物の損傷に関する情報として保持される。
【0043】
S1-34:早期損傷把握サーバ105が構造物の損傷に関する情報を配信したか?
早期損傷把握サーバ205は、早期損傷把握サーバ105による構造物の損傷に関する情報配信が成功したか否かを判定する。成功している場合、処理を終了する。失敗している場合、ステップS1-35に遷移する。
【0044】
S1-35:早期損傷把握サーバ205が構造物の損傷に関する情報を配信
早期損傷把握サーバ205が構造物の損傷に関する情報を利用者の端末装置107に配信する。
【0045】
本実施の形態では、構造物ヘルスモニタリングシステム10、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は互いに依存せず、独立に動作する。そして構造物ヘルスモニタリングシステム10が正常に動作しない場合に、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20が利用者に構造物の損傷状況を通知する。これにより、仮に地震により構造物ヘルスモニタリングシステム10に障害や性能低下等が発生した場合でも、その復旧を待つことなく、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20により早期に構造物の損傷状況を通知することができる。
【0046】
また、本実施の形態では、構造物ヘルスモニタリングシステム10は構造物内外に設置された地震計101を利用する。これにより、構造物ヘルスモニタリングシステム10が稼働している場合には、構造物の実際の挙動に基づく、高精度な構造物の損傷に関する情報を出力できる。
【0047】
一方、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は構造物から離隔した地盤に設置された地震計201を利用し、シミュレーションにより構造物の挙動を推定する。これにより、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、例えば構造物の損傷等の影響により地震計101等が正常に動作できない場合であっても、その影響を受けることなく構造物の損傷に関する情報を出力できる。
【0048】
そして、本実施の形態の早期損傷把握システム1によれば、構造物ヘルスモニタリングシステム10を単純に二重化する冗長構成と比較して、より低コストでシステムの冗長化を実現することが可能である。すなわち、高精度であるが高コストな構造物ヘルスモニタリングシステム10が、地震災害により正常に動作しなくなった場合であっても、即座に第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20がその機能を代替する。第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、低コストで災害に比較的強い構成を備えるが、十分な精度で損傷推定を行うことができる。よって、早期損傷把握システム1によれば、動作の確実性とコストとの優れたバランスを実現することが可能である。
【0049】
<実施の形態2>
実施の形態1の早期損傷把握システム1では、構造物ヘルスモニタリングシステム10による構造物の損傷に関する情報と、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20による構造物の損傷に関する情報と、のいずれを利用者に提供するかを出力部2053が判断していた。実施の形態2では、早期損傷把握システム1内に配信システム30をさらに設け、配信システム30に上記判断と利用者への情報配信とを実行させる。
【0050】
図8は、本発明の実施の形態2にかかる早期損傷把握システム1の構成を示すブロック図である。
【0051】
早期損傷把握システム1は、構造物ヘルスモニタリングシステム10、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20、配信システム30を含む。
【0052】
ここで、構造物ヘルスモニタリングシステム10、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は互いに依存せず、完全に独立して動作する。配信システム30については、ハードウェア二重化等の公知の手法により冗長化できる。これにより、構造物ヘルスモニタリングシステム10を二重化する場合よりは低いコストでシステム全体を冗長構成とすることができる。
【0053】
構造物ヘルスモニタリングシステム10は、地震計101、ネットワーク102、収集サーバ103、ネットワーク104、早期損傷把握サーバ105を有する。以上の構成要素の構成及び動作は実施の形態1とほぼ同じである。
なお本実施の形態では、構造物ヘルスモニタリングシステム10は、早期損傷把握サーバ105と配信サーバ301(後述)とを通信可能に接続するネットワーク108をさらに有する。そして早期損傷把握サーバ105は、構造物の損傷に関する情報を配信サーバ301に対して出力する
【0054】
第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、地震計201、ネットワーク202、収集サーバ203、ネットワーク204、早期損傷把握サーバ205を有する。以上の構成要素は実施の形態1と同じである。以上の構成要素の構成及び動作は実施の形態1とほぼ同じである。
なお本実施の形態では、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、早期損傷把握サーバ205と配信サーバ301(後述)とを通信可能に接続するネットワーク208をさらに有する。そして早期損傷把握サーバ205は、構造物の損傷に関する情報を配信サーバ301に対して出力する
【0055】
配信システム30は、利用者への情報配信を担う配信サーバ301、配信サーバ301と利用者の端末装置107とを通信可能に接続するネットワーク302、利用者の端末装置107を含む。
【0056】
配信サーバ301は、早期損傷把握サーバ105、早期損傷把握サーバ205の双方から構造物の損傷に関する情報を受信する。そして構造物ヘルスモニタリングシステム10から情報を正常に受信できない場合に、早期損傷把握サーバ205から情報を利用者に配信するべく動作する。このような動作を実現するための方法としては、例えば次のようなものがある。
・配信サーバ301は、早期損傷把握サーバ105から出力された構造物の損傷に関する情報を先に受信した場合は、当該情報を利用者の端末装置107に配信する。一方、早期損傷把握サーバ205から出力された構造物の損傷に関する情報を先に受信した場合は、早期損傷把握サーバ105からの情報を受信するまで所定時間待機する。
所定時間内に早期損傷把握サーバ105からの情報を受信できた場合は、当該情報を利用者の端末装置107に配信する。この場合、早期損傷把握サーバ205から出力された構造物の損傷に関する情報は配信しない。一方、所定時間を過ぎても早期損傷把握サーバ105からの情報を受信できない場合は、構造物ヘルスモニタリングシステム10に障害が発生したものとみなし、早期損傷把握サーバ205から出力された構造物の損傷に関する情報を利用者の端末装置107に配信する。
・配信サーバ301は、早期損傷把握サーバ105から出力された構造物の損傷に関する情報を先に受信した場合は、当該情報を利用者の端末装置107に配信する。一方、早期損傷把握サーバ205から出力された構造物の損傷に関する情報を先に受信した場合は、速報として当該情報を利用者の端末装置107に配信する。その後、早期損傷把握サーバ105から出力された構造物の損傷に関する情報を受信できた場合は、詳細情報として当該情報を利用者の端末装置107に配信する。
【0057】
配信サーバ301が出力した構造物の損傷に関する情報は、ネットワーク302を介して利用者が使用する端末装置107に通知される。ネットワーク302は、典型的には移動体通信網、公衆電話網、衛星通信網、専用回線等である。
【0058】
端末装置107の構成及び動作は実施の形態1と同様である。
【0059】
図9は、実施の形態1にかかる早期損傷把握システム1の動作の一例を示すフローチャートである。
S2-1:地震発生
地震が発生する。構造物ヘルスモニタリングシステム10、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20が並行して動作を開始する。
【0060】
(構造物ヘルスモニタリングシステム10の動作)
S2-21:構造物に設置された地震計101が計測データを出力
構造物に設置された地震計101が地震動を検知し、計測データを出力する。
【0061】
S2-22:収集サーバ103が計測データを収集
収集サーバ103が計測データを収集し、早期損傷把握サーバ105に送信する。
【0062】
S2-23:早期損傷把握サーバ105が構造物の損傷等を推定
早期損傷把握サーバ105が、計測データに基づいて構造物の損傷度の推定や立入可否の判定等を行う。これらの処理結果は構造物の損傷に関する情報として保持される。
【0063】
S2-24:早期損傷把握サーバ105が構造物の損傷に関する情報を出力
早期損傷把握サーバ105が構造物の損傷に関する情報を配信サーバ301に出力する。
【0064】
(第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20の動作)
S2-31:構造物近傍の地盤に設置された地震計201が計測データを出力
構造物近傍の地盤に設置された地震計201が地震動を検知し、計測データを出力する。
【0065】
S2-32:収集サーバ203が計測データを収集
収集サーバ203が計測データを収集し、早期損傷把握サーバ205に送信する。
【0066】
S2-33:早期損傷把握サーバ205が構造物の損傷度等を推定
早期損傷把握サーバ205が、計測データと、表層地盤の地震応答解析モデルおよび構造物の地震動応答解析モデルとに基づいてシミュレーションを行い、構造物の損傷度の推定や立入可否の判定等を行う。これらの処理結果は構造物の損傷に関する情報として保持される。
【0067】
S2-34:早期損傷把握サーバ205が構造物の損傷に関する情報を出力
早期損傷把握サーバ205が構造物の損傷に関する情報を配信サーバ301に出力する。
【0068】
S2-4:配信サーバ301が構造物の損傷に関する情報を配信
配信サーバ301は、早期損傷把握サーバ105又は早期損傷把握サーバ205から受信した情報のいずれを配信すべきかを判定し、利用者の端末装置107に対し配信する。
【0069】
<実施の形態3>
実施の形態3にかかる早期損傷把握システム1は、構造物ヘルスモニタリングシステム10による推定結果を利用して、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20のシミュレーション精度を向上させるための特別な構成を備える。
【0070】
構造物ヘルスモニタリングシステム10による推定結果は、構造物内外の観測点において実際に計測された地震波に基づいて計算されたものである。一方、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20による推定結果は、表層地盤の地震応答解析モデルを利用して推定された地震波に基づいて計算される。両推定結果の差分が小さいほど、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20による推定結果はより現実に近いもの、すなわち精度の高いものといえる。
【0071】
よって、本実施の形態では、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、自己の推定結果と、構造物ヘルスモニタリングシステム10による推定結果との差分がより小さくなるように、自己の推定アルゴリズムを随時チューニングする。具体的には、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、構造物の損傷に関する情報を推定した後に、以下のステップに示す処理を行う。チューニングは、地盤と構造物の2つのモデルに対してそれぞれ実施しうる。
【0072】
図10は、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20が実行する地盤モデルのチューニング処理の一例を示すフローチャートである。
<地盤モデルのチューニング>
S3-G1:構造物ヘルスモニタリングシステム10から計測データを取得
第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20の早期損傷把握サーバ205は、構造物ヘルスモニタリングシステム10の早期損傷把握サーバ105から、地震計101の計測データを取得する。
【0073】
S3-G2:推定の試行
早期損傷把握サーバ205は、構造物近傍の地盤に設置された地震計201の計測データ及び表層地盤の地震応答解析モデルに基づいて構造物直下の地面の揺れのスペクトル(Spec201と呼ぶ)又は時刻歴波形(Wave201と呼ぶ)を求める。また、早期損傷把握サーバ205は、S3-G1で取得した地震計101の計測データに基づいて揺れのスペクトル(Spec101)又は時刻歴波形(Wave101と呼ぶ)を求める。
【0074】
S3-G3:表層地盤の地震応答解析モデルのチューニング
早期損傷把握サーバ205は、Spec201がSpec101に近づくように、又はWave201がWave101に近づくように、表層地盤の地震応答解析モデルに含まれる複数の物性値を変更する。変更後の物性値は、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithms, GA)等の公知の最適化手法を用いることにより、自動的に計算することが可能である。すなわち、Spec201とSpec101との差分又はWave201とWave101との差分を目的関数、物性値を変数として、目的関数を最小化する変数を求める。
【0075】
S3-G4:評価への適用
早期損傷把握サーバ205は、S3-G3で求めた変更後の物性値を、揺れの大きさごとに分けて保持しておく。すなわち、S3-G3でいう目的関数を最小化する物性値は、揺れの大きさごとに異なることがある。そのため、例えば揺れの大きさをm段階に区分し、各区分ごとに最適な物性値を保持しておくことで、揺れの大きさに応じた最適な物性値を用いた表層地盤の地震応答解析モデルを提供することができる。
【0076】
早期損傷把握サーバ205は、次回揺れを観測した場合は、その揺れの大きさに対応する最適な物性値を読み出し、この物性値を用いた表層地盤の地震応答解析モデルを使用する。これにより、推定誤差を抑制した、構造物直下の地面の揺れの推定を行うことができる。
【0077】
なお、早期損傷把握サーバ205は、例えば地震計101の計測データ、Spec101、Wave101、地震計201の計測データ、Spec201、Wave201、Spec201とSpec101との差分、Wave201とWave101との差等を表やグラフにまとめたレポートを出力する機能を備えても良い。これにより、エンジニアが、表層地盤の地震応答解析モデルの推定精度を視覚的に確認することが可能となり、物性値を手動でチューニングする際に役立てることができる。
【0078】
図11は、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20が実行する構造物モデルのチューニング処理の一例を示すフローチャートである。
<構造物モデルのチューニング>
S3-B1:構造物ヘルスモニタリングシステム10から計測データを取得
第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20の早期損傷把握サーバ205は、構造物ヘルスモニタリングシステム10の早期損傷把握サーバ105から、地震計101の計測データを取得する。また、早期損傷把握サーバ105から、構造物の挙動(最大変形、固有周期、建物の非線形特性等)又は構造物の損傷に関する情報を取得する。
【0079】
S3-B2:推定の試行
早期損傷把握サーバ205は、構造物近傍の地盤に設置された地震計201の計測データと、表層地盤の地震応答解析モデルと、に基づいて構造物直下の表層地盤の挙動を推定する。
また、早期損傷把握サーバ205は、推定された構造物直下の表層地盤の挙動と、構造物の地震応答解析モデルと、に基づいて構造物の挙動(最大変形、固有周期、建物の非線形特性等)又は構造物の損傷に関する情報を推定する。
【0080】
S3-B3:構造物の地震応答解析モデルのチューニング
早期損傷把握サーバ205は、S3-B1で取得した構造物の挙動(最大変形、固有周期、建物の非線形特性等)又は構造物の損傷に関する情報と、S3-B2で推定した構造物の挙動(最大変形、固有周期、建物の非線形特性等)又は構造物の損傷に関する情報と、の差分が最小となるように、構造物の地震応答解析モデルに含まれる複数の物性値(剛性、減衰等)を変更する。変更後の物性値は、部分空間法等の公知の最適化手法を用いることにより、自動的に計算することが可能である。
【0081】
S3-B4:評価への適用
早期損傷把握サーバ205は、S3-B3で求めた変更後の物性値を、揺れの大きさごとに分けて保持しておく。すなわち、S3-B3でいう目的関数を最小化する物性値は、揺れの大きさごとに異なることがある。そのため、例えば揺れの大きさをp段階に区分し、各区分ごとに最適な物性値を保持しておくことで、揺れの大きさに応じた最適な物性値を用いた構造物の地震応答解析モデルを提供することができる。
【0082】
早期損傷把握サーバ205は、次回揺れを観測した場合は、その揺れの大きさに対応する最適な物性値を読み出し、この物性値を用いた構造物の地震応答解析モデルを使用する。これにより、推定誤差を抑制した、構造物の挙動(最大変形、固有周期、建物の非線形特性等)又は構造物の損傷に関する情報の推定を行うことができる。
【0083】
なお、早期損傷把握サーバ205は、例えば地震計101の計測データ、早期損傷把握サーバ105から取得された構造物の挙動(最大変形、固有周期、建物の非線形特性等)又は構造物の損傷に関する情報、地震計201の計測データ、早期損傷把握サーバ205により推定された構造物の挙動(最大変形、固有周期、建物の非線形特性等)又は構造物の損傷に関する情報、早期損傷把握サーバ105と早期損傷把握サーバ205とが出力した構造物の挙動(最大変形、固有周期、建物の非線形特性等)又は構造物の損傷に関する情報の差分等を表やグラフにまとめたレポートを出力する機能を備えても良い。これにより、エンジニアが、構造物の地震応答解析モデルの推定精度を視覚的に確認することが可能となり、物性値を手動でチューニングする際に役立てることができる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものでなく、発明の趣旨を損なわない限りにおいて適宜変形(構成要素や処理の省略、追加、入替え等を含む)することが可能である。
【0085】
例えば、上述の実施の形態では地震計101は構造物に設置され、地震計201は構造物から離れた地表又は地中に設置されることとした。しかしながら、構造物に設けられた観測点における地震動を計測できるものであれば、地震計101は必ずしも当該観測点に設置されている必要はない。同様に、構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測できるものであれば、地震計201は必ずしも当該観測点に設置されている必要はない。
【0086】
また、上述の実施の形態では、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、構造物ヘルスモニタリングシステム10とは完全に別系統のシステムであることが好ましく、両システムはシステムを構成する情報処理装置やネットワーク等を共有しないことが好ましい旨説明した。しかしながら、第2の構造物ヘルスモニタリングシステム20は、構造物ヘルスモニタリングシステム10と一部の情報処理装置やネットワーク等を共有することとしても良い。例えば、図2に示す構成において、早期損傷把握サーバ105及び早期損傷把握サーバ205を同一サーバに実装しても良い。この場合、ネットワーク106及びネットワーク206も同一のネットワークであって良い(図12)。同様に、図8に示す構成においても、早期損傷把握サーバ105及び早期損傷把握サーバ205を同一サーバに実装して良い。この場合、ネットワーク108及びネットワーク208も同一のネットワークであって良い(図13)。このような構成により、上述の実施の形態よりもコストを抑えつつ、災害時における動作の確実性も現実的なレベルで確保することが可能となる。
【0087】
なお、本発明の情報処理はハードウェアにより実現されても良く、CPUがコンピュータプログラムを実行することにより実現されても良い。コンピュータプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)又は一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によりコンピュータに供給され得る。
【符号の説明】
【0088】
1 早期損傷把握システム
10 構造物ヘルスモニタリングシステム
20 第2の構造物ヘルスモニタリングシステム
101 地震計、
102 ネットワーク
103 収集サーバ
104 ネットワーク
105 早期損傷把握サーバ
1051 受信部
1052 推定部
1053 出力部
106 ネットワーク
107 端末装置
108 ネットワーク
201 地震計
202 ネットワーク
203 収集サーバ
204 ネットワーク
205 早期損傷把握サーバ
2051 受信部
2052 推定部
2053 出力部
206 ネットワーク
208 ネットワーク
30 配信システム
301 配信サーバ
302 ネットワーク

【要約】
【課題】冗長性を備えた早期損傷把握システム、冗長性を備えた早期損傷把握方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】冗長性を備えた早期損傷把握システム1は、構造物に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の地震計101と、地震計101の計測データに基づいて構造物の損傷を推定し、推定結果を含む通知を利用者の端末装置107に配信する早期損傷把握サーバ105と、構造物から離れた地表又は地中に設けられた観測点における地震動を計測する1以上の第2の地震計201と、第2の地震計の計測データに基づいて構造物の損傷を推定し、推定結果を含む第2の通知を端末装置107に配信する第2の早期損傷把握サーバ205と、を含む。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13