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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-28
(45)【発行日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ダイヤモンド電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/083 20210101AFI20230731BHJP
   C25B 11/063 20210101ALI20230731BHJP
【FI】
C25B11/083
C25B11/063
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023057708
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2023-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 直宏
(72)【発明者】
【氏名】守田 俊章
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-099080(JP,A)
【文献】特開平9-268395(JP,A)
【文献】特開2005-240074(JP,A)
【文献】特開2008-1932(JP,A)
【文献】特開2011-184749(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0070049(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108486546(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109750291(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/461 - 1/467
C04B 35/52
C23C 16/27
C25B 11/00 - 11/097
C30B 29/04
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ニオブからなる基板と、
前記基板の少なくとも一方の主面上に形成された導電性ダイヤモンド膜と、
前記基板と前記導電性ダイヤモンド膜との間に形成された遷移層と、を有し、
前記遷移層は、ニオブと炭素を主成分とする微結晶、および、ニオブと酸素を主成分とする微結晶の集合体からなる、ダイヤモンド電極。
【請求項2】
前記遷移層中のニオブの平均組成が、前記基板側から前記導電性ダイヤモンド膜側にかけて、連続的に減少している、請求項1に記載のダイヤモンド電極。
【請求項3】
前記ニオブと炭素を主成分とする微結晶は、化学式NbCまたはNbCの炭化ニオブ微結晶である、請求項1に記載のダイヤモンド電極。
【請求項4】
前記遷移層は、化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の存在割合が化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の存在割合よりも多い第1遷移層と、化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の存在割合が化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の存在割合よりも多い第2遷移層とを有し、
前記第1遷移層は前記導電性ダイヤモンド膜側に存在し、前記第2遷移層は前記基板側に存在する、請求項3に記載のダイヤモンド電極。
【請求項5】
前記ニオブと酸素を主成分とする微結晶は、化学式NbOの酸化ニオブ微結晶であり、前記第1遷移層に、前記酸化ニオブ微結晶が混在している、請求項4に記載のダイヤモンド電極。
【請求項6】
前記第1遷移層に含まれる前記化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、5nm以上100nm以下であり、前記第2遷移層に含まれる前記化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、10nm以上2000nm以下である、請求項4に記載のダイヤモンド電極。
【請求項7】
前記化学式NbOの酸化ニオブ微結晶の結晶子径は、5nm以上100nm以下である、請求項5に記載のダイヤモンド電極。
【請求項8】
前記第1遷移層の厚さは、10nm以上500nm以下であり、前記第2遷移層の厚さは、1μm以上10μm以下である、請求項4に記載のダイヤモンド電極。
【請求項9】
前記第1遷移層における、前記化学式NbCの炭化ニオブ微結晶に対する、前記化学式NbOの酸化ニオブ微結晶の体積存在比率は、50%以上100%以下である、請求項5に記載のダイヤモンド電極。
【請求項10】
前記遷移層内部の前記導電性ダイヤモンド膜との境界近傍に、空隙を有する多孔質部が存在する、請求項1に記載のダイヤモンド電極。
【請求項11】
前記導電性ダイヤモンド膜の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、前記基板または前記遷移層まで達するピンホールが存在しない、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のダイヤモンド電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ダイヤモンドは、水系・非水系における電位窓が広く、バックグラウンド電流も小さいため、広い電位範囲で安定な電気化学反応が可能な電極材料として知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ニオブ、タンタル、チタン及びジルコニウムから成る群から選択されるバルブメタル及びこれらの金属基合金から選択される材料を含んで成る電極基材の少なくともその表面を塑性加工し、次いで前記電極基材を真空中又は不活性雰囲気中で加熱処理し、該加熱処理した電極基材表面に導電性ダイヤモンド膜を形成することを含んで成ることを特徴とする導電性ダイヤモンド電極の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4456378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、導電性ダイヤモンド膜の剥離を抑制し、ダイヤモンド電極の耐久性を向上させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
金属ニオブからなる基板と、
前記基板の少なくとも一方の主面上に形成された導電性ダイヤモンド膜と、
前記基板と前記導電性ダイヤモンド膜との間に形成された遷移層と、を有し、
前記遷移層は、ニオブと炭素を主成分とする微結晶、および、ニオブと酸素を主成分とする微結晶の集合体からなる、ダイヤモンド電極が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、導電性ダイヤモンド膜の剥離を抑制し、ダイヤモンド電極の耐久性を向上させることができる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態のダイヤモンド電極10の断面を示す模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態のダイヤモンド電極10の遷移層30と導電性ダイヤモンド膜40との境界近傍の拡大模式図である。
図3図3は、本発明の実施形態のダイヤモンド電極10の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の実施形態の多孔質部形成工程S102を説明する模式図である。
図5図5は、本発明の他の実施形態のダイヤモンド電極10の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の実施例のサンプル1の断面写真である。
図7図7は、本発明の実施例のサンプル1のTEM-EDXによる組成分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<発明者の得た知見>
まず、発明者が得た知見について説明する。
【0010】
ホウ素等を含有させることで導電性を付与したダイヤモンド電極は、オゾン等の酸化剤の生成に用いることができる。このようなダイヤモンド電極においては、耐久性が大きな課題である。特許文献1等に記載されている技術により、基板とダイヤモンド膜との密着性、剥離強度は改善されたものの、実用的なレベルの耐久性を得ることは困難であることがわかった。
【0011】
例えば、特許文献1の段落0009には、「中間層を基材由来の炭化物にすれば、基材とその基材から成長する炭化物、炭化物とその炭化物を核として発生するダイヤモンドという関係から、ダイヤモンド膜の密着性が高まることが期待されるが、実際には炭化物は強酸性中における陽極として電位が印加されたときには酸化物に比べて耐食性に劣る場合が多い。高温中で炭化水素ラジカルやダイヤモンドと接触する基材には炭化物が生成しやすいので、陽極として用いる場合には注意が必要である。」と記載されており、耐久性を向上させる観点からは、基板とダイヤモンド膜との中間層に、炭化物を出来るだけ生成させないようにするのが好ましいと考えられていた。
【0012】
本願発明者は、上述のような問題に対して鋭意研究を行った。その結果、炭化物の微結晶と酸化物の微結晶の集合体からなる中間層(遷移層)を形成することで、ピンホールの発生を抑制し、さらに、酸化物の微結晶が発揮するバインダ効果により、ダイヤモンド膜の剥離を抑制できることがわかった。これにより、ダイヤモンド電極の耐久性をさらに向上させることが可能となる。
【0013】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0014】
<本発明の実施形態>
(1)ダイヤモンド電極10の構成
まず、本実施形態のダイヤモンド電極10の構成について説明する。本実施形態のダイヤモンド電極10は、例えば、電気化学反応用(例えば、オゾン生成用)のダイヤモンド電極10として用いることができる。この場合、ダイヤモンド電極10の通電劣化を抑制し、耐久性を向上させることができる。また、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制し、ダイヤモンド電極10の耐久性を向上させることができる。
【0015】
図1は、本実施形態のダイヤモンド電極10の断面を示す模式図である。図1に示すように、ダイヤモンド電極10は、例えば、基板20と、遷移層30と、導電性ダイヤモンド膜40と、を有している。また、遷移層30は、第1遷移層31と、第2遷移層32とを有している。
【0016】
基板20は、例えば、導電性ダイヤモンド膜40を堆積させるため、および、導電性ダイヤモンド膜40を支持するための平板状の金属ニオブ板材である。基板20の主面の大きさ、および厚さは特に限定されないが、例えば、主面は一辺が20mm以上500mm以下の角形状であり、厚さは0.5mm以上5mm以下である。
【0017】
遷移層30は、例えば、基板20と導電性ダイヤモンド膜40との間に形成されており、ダイヤモンド結晶の核発生密度を高めるための中間層として機能する。遷移層30は、ニオブと炭素を主成分とする微結晶(炭化ニオブ微結晶)、および、ニオブと酸素を主成分とする微結晶(酸化ニオブ微結晶)の集合体からなる。遷移層30が存在することで、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を効率的に高めることができる。また、ニオブと酸素を主成分とする微結晶が、バインダ効果を発揮するため、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制することができる。
【0018】
遷移層30の厚さは、例えば、0.5μm以上10μm以下(より好ましくは、0.8μm以上2.5μm以下)であることが好ましい。つまり、遷移層30の最小厚みおよび最大厚みが、0.5μm以上10μm以下(より好ましくは、0.8μm以上2.5μm以下)の範囲に収まっていることが好ましい。遷移層30の厚さが0.5μm未満では、連続的な遷移層30が形成され難い可能性がある。これに対し、遷移層30の厚さを0.5μm以上とすることで、連続的な遷移層30が形成されやすくなる。一方、遷移層30の厚さが10μmを超えると、内部応力が大きくなり、ダイヤモンド電極10が反ってしまう可能性がある。これに対し、遷移層30の厚さを10μm以下とすることで、内部応力を低減し、ダイヤモンド電極10の反りを低減することができる。
【0019】
導電性ダイヤモンド膜40は、例えば、基板20の少なくとも一方の主面上に、遷移層30を介して形成されている、導電性を有する多結晶膜である。導電性ダイヤモンド膜40は、多結晶ダイヤモンド膜、または、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)膜のいずれかであってもよい。導電性ダイヤモンド膜40は、例えば、ホウ素を1×1019cm-3以上1×1022cm-3以下の濃度で含むことが好ましい。導電性ダイヤモンド膜40の厚さは、例えば、0.5μm以上10μm以下であり、耐久性とコストとのバランスを保つ観点からは、1μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0020】
導電性ダイヤモンド膜40の表面を、例えば、走査型電子顕微鏡(例えば、倍率5000倍)を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、基板20または遷移層30まで達するピンホールは存在しないことが好ましい。これにより、例えば、強酸性の液中でダイヤモンド電極10を使用したとしても、強酸性の液が基板20または遷移層30と接するリスクを低減できるため、ダイヤモンド電極10の耐久性を向上させることが可能となる。なお、ダイヤモンド電極10の耐久性をさらに向上させる観点からは、1mm×1mmの視野内に、基板20または遷移層30まで達するピンホールが存在しないことがより好ましく、導電性ダイヤモンド膜40の全面において、ピンホールが存在しないことが特に好ましい。
【0021】
また、導電性ダイヤモンド膜40の断面(縦断面または横断面)を、例えば、走査型電子顕微鏡(例えば、倍率5000倍)を用いて観察した場合にも、20μm×20μmの視野内に、基板20または遷移層30まで達するピンホールが存在しないことが好ましい。つまり、導電性ダイヤモンド膜40は、表面から観察できるピンホールだけではなく、内部のピンホールも低減されている。これにより、ダイヤモンド電極10の耐久性をさらに向上させることが可能となる。なお、導電性ダイヤモンド膜40の断面(縦断面または横断面)において、1mm×1mmの視野内に、基板20または遷移層30まで達するピンホールが存在しないことがより好ましく、導電性ダイヤモンド膜40の断面全面において、ピンホールが存在しないことが特に好ましい。
【0022】
ダイヤモンド電極10の断面を、例えば、走査型電子顕微鏡(例えば、倍率5000倍)を用いて観察した際、20μm以上の幅(基板20の主面に平行な方向の長さ)に渡って、厚さ0.5μm以上の連続的な遷移層30が形成されていることが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高め、ピンホールの発生を抑制することができる。なお、ピンホールの発生をさらに抑制する観点からは、1mm以上の幅に渡って、厚さ0.5μm以上の連続的な遷移層30が形成されていることがより好ましく、基板20の主面の全面に、連続的な厚さ0.5μm以上の遷移層30が形成されていることが特に好ましい。
【0023】
遷移層30中のニオブの平均組成は、基板20側から導電性ダイヤモンド膜40側にかけて、連続的に減少していることが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制することができる。
【0024】
遷移層30に含まれている、ニオブと炭素を主成分とする微結晶は、化学式NbCの炭化ニオブ微結晶(以下、NbC微結晶ともいう)または化学式NbCの炭化ニオブ微結晶(以下、NbC微結晶ともいう)であることが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を効率的に高めることができる。
【0025】
第1遷移層31は、NbC微結晶の存在割合がNbC微結晶の存在割合よりも多く、第2遷移層32は、NbC微結晶の存在割合がNbC微結晶の存在割合よりも多いことが好ましい。遷移層30は表面側から炭化されるため、表面側から拡散してくる炭素源22が多い第1遷移層31では、C成分が多いNbCが形成されやすく、表面側から拡散してくる炭素源22が少ない第2遷移層32では、Nb成分が多いNbCが形成されやすい。このように、遷移層30のうち、導電性ダイヤモンド膜40側に存在する第1遷移層31は、基板20側に存在する第2遷移層32に比べてC成分が多いため、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高め、ピンホールの発生を抑制することができる。
【0026】
第1遷移層31に含まれる炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、第2遷移層32に含まれる炭化ニオブ微結晶の結晶子径より小さい。具体的には、例えば、第1遷移層31に含まれる炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、例えば、5nm以上100nm以下であり、第2遷移層32に含まれる炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、例えば、10nm以上2000nm以下である。なお、各微結晶の結晶子径は、例えば、XRDのScherrer法により測定することができる。第1遷移層31をXRDで測定すると、NbC(111)、NbC(200)、NbC(222)、NbC(400)等のピークが観察されるが、NbC(200)のピークが最も強いため、本明細書においては、特に断りのない限り、第1遷移層31に含まれる炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、XRDのNbC(200)のピークから算出した。同様に、第2遷移層32に含まれる炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、XRDのNbC(211)のピークから算出した。したがって、本明細書においては、第1遷移層31に含まれる炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、NbC微結晶の結晶子径と言い換えてもよく、第2遷移層32に含まれる炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、NbC微結晶の結晶子径と言い換えてもよい。
【0027】
第1遷移層31に含まれるNbC微結晶の結晶子径は、例えば、5nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上60nm以下であることがより好ましい。NbC微結晶の結晶子径が上記範囲外では、厚さ0.5μm以上の連続的な遷移層30が形成され難い可能性がある。これに対し、NbC微結晶の結晶子径を上記範囲内とすることで、厚さ0.5μm以上の連続的な遷移層30が形成されやすくなり、その結果、ピンホールの発生を抑制しやすくなる。また、第2遷移層32に含まれるNbC微結晶の結晶子径は、例えば、10nm以上2000nm以下であることが好ましく、20nm以上1000nm以下であることがより好ましい。
【0028】
遷移層30に含まれている、ニオブと酸素を主成分とする微結晶は、化学式NbOの酸化ニオブ微結晶(以下、NbO微結晶ともいう)であり、NbO微結晶は、第1遷移層31に混在していることが好ましい。これにより、バインダ効果がより発揮され、導電性ダイヤモンド膜40の剥離をさらに抑制することができる。
【0029】
NbO微結晶の結晶子径は、例えば、5nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上60nm以下であることがより好ましい。NbO微結晶の結晶子径を上記範囲内にすることで、バインダ効果がより発揮され、導電性ダイヤモンド膜40の剥離をさらに抑制することができる。なお、NbO微結晶の結晶子径もXRDのScherrer法により測定することができる。NbO微結晶をXRDで測定すると、NbO(100)、NbO(110)、NbO(111)、NbO(200)、NbO(220)等のピークが観察されるが、NbC(111)のピークが最も強いため、本明細書においては、特に断りのない限り、遷移層30に含まれる酸化ニオブ微結晶の結晶子径は、XRDのNbO(111)のピークから算出した。
【0030】
第1遷移層31の厚さは、例えば、10nm以上500nm以下であり、第2遷移層32の厚さは、例えば、1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、第2遷移層32の厚さは、第1遷移層31の厚さの1.5倍以上10倍以下であることが好ましい。第1遷移層31および第2遷移層32の厚さを上記範囲内にすることで、連続的な遷移層30を形成しやすくし、かつ、ダイヤモンド電極10の反りを低減することができる。
【0031】
第1遷移層31における、NbC微結晶に対する、NbO微結晶の体積存在比率は、例えば、50%以上100%以下(つまり、NbO微結晶は、NbC微結晶の半量以上、等量以下で存在している)であることが好ましい。NbO微結晶の体積存在比率が50%未満では、バインダ効果が不充分であり、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制しにくい可能性がある。これに対し、NbO微結晶の体積存在比率を50%以上とすることで、バインダ効果を充分に発揮し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離をさらに抑制できる。一方、NbO微結晶の体積存在比率が100%を超えると、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度が低下してしまう可能性がある。これに対し、NbO微結晶の体積存在比率を100%以下とすることで、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を効率的に高めることができる。
【0032】
図2は、遷移層30と導電性ダイヤモンド膜40との境界近傍の拡大模式図である。図2に示すように、遷移層30は、多数の空隙を有する多孔質部33を備えていることが好ましい。これにより、ニオブと導電性ダイヤモンド膜40との熱膨張係数差を緩和し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制できる。つまり、ダイヤモンド電極10の耐久性をさらに向上させることが可能となる。
【0033】
図2に示すように、多孔質部33は、遷移層30内部の導電性ダイヤモンド膜40との境界近傍(例えば、第1遷移層31)に存在することが好ましい。これにより、ニオブと導電性ダイヤモンド膜40との熱膨張係数差を緩和する効果をより高めることができる。なお、本明細書において、遷移層30内部の導電性ダイヤモンド膜40との境界近傍とは、例えば、遷移層30と導電性ダイヤモンド膜40との境界から、遷移層30側へ、深さ1μmまでの領域を意味する。
【0034】
多孔質部33の空隙率は、例えば、20%以上80%以下であることが好ましい。多孔質部33の空隙率が20%未満では、熱膨張係数差を緩和する効果が得られ難い可能性がある。これに対し、多孔質部33の空隙率を20%以上とすることで、熱膨張係数差を緩和する効果を充分に得ることができる。一方、多孔質部33の空隙率が80%を超えると、ダイヤモンド電極10の強度が低下してしまう可能性がある。これに対し、空隙率を80%以下とすることで、ダイヤモンド電極10の強度を保つことができる。なお、多孔質部33の空隙率を測定する際は、例えば、走査型電子顕微鏡により多孔質部33の断面を観察し、多孔質部33における任意の観察視野内に存在する空隙の総面積Svを画像解析によって算出し、観察視野の面積Sに対する空隙の総面積Svの比率を、多孔質部33の空隙率とすればよい。
【0035】
(2)ダイヤモンド電極10の製造方法
次に、本実施形態のダイヤモンド電極10の製造方法について説明する。上述のように、本実施形態のダイヤモンド電極10は、電気化学反応用(例えば、オゾン生成用)のダイヤモンド電極10として用いることができる。
【0036】
図3は、本実施形態のダイヤモンド電極10の製造方法の一例を示すフローチャートである。図3に示すように、本実施形態のダイヤモンド電極10の製造方法は、例えば、多孔質部形成工程S102と、炭素源埋め込み工程S103と、ニオブ炭化物層形成工程S105と、酸化工程S106と、ダイヤモンド膜堆積工程S107と、を有している。本実施形態では、金属ニオブからなる基板20から、ダイヤモンド電極10を製造する場合について説明する。
【0037】
(多孔質部形成工程S102)
図4は、多孔質部形成工程S102を説明する模式図である。図4に示すように、多孔質部形成工程S102は、例えば、基板20の少なくとも一方の主面の内部に、多数の空隙を有する多孔質部33を形成する工程である。多孔質部33を形成することで、多孔質部33の空隙が、ニオブと導電性ダイヤモンド膜40との熱膨張係数差による歪みを緩和するため、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制できる。
【0038】
多孔質部形成工程S102では、例えば、基板20の主面に対して、塑性変形加工(例えば、粗面プレス加工)を深さ1μm以上付与した後、水素雰囲気中で基板20を熱処理することで、多孔質部33を形成することができる。塑性変形加工の目的は、ニオブ表面と水素との接触面積を増やすことと、ニオブ表面に加工ひずみを導入して水素の拡散を促進させるためであり、水素雰囲気中で基板20を熱処理すると、塑性変形加工を付与した領域の金属ニオブが脆化し、その後、室温まで冷却する過程で、脆化した金属ニオブにマイクロクラックが発生し、そのマイクロクラックが進展して空隙となる。発生するマイクロクラック(または空隙)の数や大きさは、熱処理の条件(温度、時間、冷却速度等)によって制御することができる。多孔質部33の空隙を効率的に多数形成する観点からは、熱処理を行い、冷却した後に、基板20に対してさらにプレス加工等の機械加工を行ってもよい。多孔質部形成工程S102における、熱処理の条件としては、以下が例示される。
熱処理温度(基板温度):600~800度
熱処理時間:30~90分
冷却速度:10~200度/分
なお、上記の脆化処理により金属ニオブと結合した水素は、後述のニオブ炭化物層形成工程S105にて除去されるため、最終的に基板20内に大量に残留することはなく、ダイヤモンド電極10の強度等に悪影響を及ぼすことはない。
【0039】
多孔質部形成工程S102では、多孔質部33の空隙率が、例えば、20%以上80%以下となるように多孔質部33を形成することが好ましい。多孔質部33の空隙率が20%未満では、熱膨張係数差を緩和する効果が得られ難い可能性がある。これに対し、多孔質部33の空隙率を20%以上とすることで、熱膨張係数差を緩和する効果を充分に得ることができる。一方、多孔質部33の空隙率が80%を超えると、ダイヤモンド電極10の強度が低下してしまう可能性がある。これに対し、空隙率を80%以下とすることで、ダイヤモンド電極10の強度を保つことができる。
【0040】
なお、多孔質部形成工程S102は、省略してもよい。この場合、多孔質部33は形成されないが、以降の工程により、ニオブと炭素を主成分とする微結晶、および、ニオブと酸素を主成分とする微結晶の集合体からなる遷移層30を形成することはできるため、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を効率的に高めることができる。また、ニオブと酸素を主成分とする微結晶が、バインダ効果を発揮するため、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制することができる。
【0041】
(炭素源埋め込み工程S103)
炭素源埋め込み工程S103は、基板20の主面の内部に、炭素または炭素化合物の固体からなる炭素源22を埋め込む工程である。具体的には、例えば、塑性変形加工を施し、多孔質部33を形成した基板20の表面に炭素源22をまぶし、同サイズの基板20等と表面を擦り合わせることにより、炭素源22を多孔質部33の空隙と同程度のサイズ(例えば、平均粒径200nm以下)になるまで粉砕しながら炭素源22を基板20の表面に埋め込めばよい。炭素源22は、固体であるため、炭化水素ガス等と比べて、炭素原子をより高濃度に基板20の主面の内部に導入することが可能である。これにより、金属ニオブ中に、炭素原子が拡散されやすくなり、連続的な遷移層30を形成しやすくなる。
【0042】
炭素源22としては、例えば、グラファイト、炭化ホウ素、ダイヤモンドパウダー等を用いることができる。炭素源22として、ダイヤモンドパウダーを用いる場合、金属ニオブとの反応性を高めるため、少なくとも外周部がアモルファス層(sp炭素)で覆われたダイヤモンドパウダーを用いることが好ましい。金属ニオブとの反応性を高め、かつ、コストを低減する観点からは、炭素源22として、グラファイトを用いることが好ましい。
【0043】
炭素源22の平均粒径は、200nm以下であることが好ましい。これにより、基板20の内部に炭素源22を埋め込みやすくなる。また、炭素源22の表面積が大きくなり、金属ニオブとの反応性を向上させることができる。なお、炭素源22の平均粒径の下限値は、特に限定されないが、例えば、5nm以上である。
【0044】
炭素源埋め込み工程S103において、炭素源22としてグラファイト(平均粒径5~200nm)を基板20の主面の内部に埋め込む場合、ニオブ板1cmあたりに使用するグラファイト(炭素源22)の量を、例えば、200μg以上1000μg以下とすることが好ましい。使用する炭素源22の量が200μg/cm未満では、金属ニオブの炭化が不充分となり、連続的な遷移層30が形成され難い可能性がある。また、炭素源22の量が200μg/cm未満だと、多孔質部形成工程S102で金属ニオブと結合した水素原子を完全に脱離させることができず、脆化領域が残ってダイヤモンド膜の剥離が起こりやすくなるおそれがある。これに対し、使用する炭素源22の量を200μg/cm以上とすることで、金属ニオブを充分に炭化し、連続的な遷移層30を形成しやすくなるとともに、金属ニオブと結合している水素原子を除去し、金属ニオブの脆化領域も消失させることができる。一方、使用する炭素源22の量が1000μg/cmを超えると、遷移層30の形成後に、多量の炭素源22が残留し、導電性ダイヤモンド膜40の堆積に悪影響を及ぼす可能性がある。これに対し、使用する炭素源22の量を1000μg/cm以下とすることで、残留する炭素源22を低減することができる。また、炭素源22を埋め込むためのエネルギー(コスト)を低減する観点から、炭素源22は、深さ1μm以下の範囲に埋め込むことが好ましい。なお、基板20の主面の内部における、炭素源22を確認する際は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて、基板20の断面観察(例えば、深さ1μm付近)を行えばよい。
【0045】
(ニオブ炭化物層形成工程S105)
ニオブ炭化物層形成工程S105は、基板20に熱処理を施し、金属ニオブおよび炭素源22を反応させることで、基板20の主面を連続的に覆うニオブ炭化物層(後の工程により、遷移層30になる層)を形成する工程である。これにより、導電性ダイヤモンド膜40の表面のピンホール発生を抑制することができる。また、ニオブ炭化物層(遷移層30)が多孔質部33を備えているため、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制できる。
【0046】
ニオブ炭化物層形成工程S105では、上述の多孔質部形成工程S102における脆化処理により金属ニオブと結合した水素を、基板20から除去する効果も有する。また、多孔質部形成工程S102で形成された空隙を、本熱処理により角のとれた形状に変化させることができる。
【0047】
ニオブ炭化物層形成工程S105では、例えば、後述する熱フィラメントCVD装置を熱処理用の加熱炉として用いて、ニオブ炭化物層を形成することができる。
【0048】
ニオブ炭化物層形成工程S105は、不活性雰囲気下(例えば、窒素雰囲気や希ガス雰囲気)で熱処理を行うことが好ましい。大気中等の酸化雰囲気では、ニオブ炭化物層が還元され、純ニオブ層に変化してしまう可能性がある。この場合、導電性ダイヤモンド膜40を均一に形成することが困難となる。これに対し、不活性雰囲気下で熱処理を行うことで、ニオブ炭化物層を形成しやすくなり、導電性ダイヤモンド膜40を均一に形成することができる。
【0049】
ニオブ炭化物層形成工程S105における熱処理の条件としては、以下が例示される。
熱処理温度(基板温度):550~850度
圧力:10~50Torr
熱処理時間:30~120分
【0050】
ニオブ炭化物層形成工程S105では、ニオブ炭化物層の上部(第1遷移層31になる部分)に含まれるNbC微結晶の結晶子径が、例えば、1nm以上100nm以下、より好ましくは5nm以上60nm以下になるように、ニオブ炭化物層を形成することが好ましい。これにより、連続的なニオブ炭化物層が形成されやすくなるため、ピンホールの発生を抑制しやすくなる。なお、ニオブ炭化物層の上部に含まれるNbC微結晶の結晶子径を小さくするには、あらかじめ、多孔質部形成工程S102において、第1遷移層31となる領域の金属ニオブに塑性変形加工を施して金属ニオブの結晶子径を小さくしておくことが効果的である。
【0051】
(酸化工程S106)
酸化工程S106は、酸化性ガスを含む雰囲気下で基板20に熱処理を施し、ニオブ炭化物層の金属ニオブ(またはニオブ炭化物)と酸素原子とを反応させることで、ニオブ炭化物層の一部に酸化ニオブ微結晶を導入し、ニオブ炭化物層を遷移層30とする工程である。具体的には、不活性雰囲気下でニオブ炭化物層形成工程S105を行った後、加熱炉に酸素ガスまたは二酸化炭素ガスを導入し、熱処理を行えばよい。これにより、酸化ニオブ微結晶がバインダ効果を発揮するため、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制することができる。なお、二酸化炭素を用いることでニオブ表面を急激に酸化させず、ニオブ表面の残留ひずみ等を抑えられ、その後の導電性ダイヤモンド膜40の堆積を良好に行うことができるため、酸化工程S106では、二酸化炭素ガスを用いることが好ましい。
【0052】
酸化工程S106では、ニオブ炭化物層の上部(第1遷移層31となる部分)に、NbO微結晶が導入されるように、熱処理条件を制御することが好ましい。これにより、バインダ効果がより発揮され、導電性ダイヤモンド膜40の剥離をさらに抑制することができる。
【0053】
酸化工程S106では、ニオブ炭化物層の上部(第1遷移層31となる部分)における、NbC微結晶に対する、NbO微結晶の体積存在比率が、50%以上100%以下となるように、熱処理条件を制御することが好ましい。これにより、バインダ効果を充分に発揮し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離をさらに抑制できる。また、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を効率的に高めることができる。
【0054】
酸化工程S106では、例えば、後述する熱フィラメントCVD装置を熱処理用の加熱炉として用いて、遷移層30を形成することができる。
【0055】
酸化工程S106における熱処理の条件としては、以下が例示される。
熱処理温度(基板温度):800~1000度
圧力:750Torr(大気圧)
酸素モル分率(酸素ガスを用いる場合):0.4
(なお、二酸化炭素ガスを用いる場合は、ニオブと二酸化炭素ガスの反応性を考慮して、酸素モル分率0.4相当になるように、二酸化炭素ガスの量を調整すればよい。)
熱処理時間:30~120分
【0056】
(ダイヤモンド膜堆積工程S107)
ダイヤモンド膜堆積工程S107は、例えば、基板20の主面上に遷移層30を介して、導電性ダイヤモンド膜40を堆積する工程である。本実施形態では、上述のニオブ炭化物層形成工程S105および酸化工程S106において、連続的な遷移層30を形成しているため、導電性ダイヤモンド膜40の表面のピンホール発生を抑制することができる。なお、ダイヤモンド膜堆積工程S107では、例えば、熱フィラメントCVD装置を用いて、導電性ダイヤモンド膜40を堆積することができる。熱フィラメントCVD装置は、水素ガス、炭素含有ガス、ホウ素含有ガス等の各種ガスを成長室に供給可能なように構成されている。炭素含有ガスとしては、メタンガスまたはエタンガスを用いることができる。ホウ素含有ガスとしては、トリメチルボロン(TMB)ガス、トリメチルボレートガス、トリエチルボレートガス、またはジボランガスを用いることができる。具体的には、例えば、熱フィラメントCVD装置内を真空置換した後、水素ガス、メタンガス、およびTMBガスを導入して、導電性ダイヤモンド膜40の堆積を行えばよい。また、熱フィラメントCVD装置は、成長室の内部に構成された気密容器に、温度センサ、タングステンフィラメント、電極(例えば、モリブデン電極)等を有する。
【0057】
ダイヤモンド膜堆積工程S107におけるダイヤモンド結晶の成長条件としては、以下が例示される。
熱処理温度(基板温度):700~1000度
圧力:5~50Torr
熱処理時間:1~10時間
【0058】
以上の工程により、ダイヤモンド電極10を製造することができる。また、ダイヤモンド電極10を複数組み合わせ、ダイヤモンド電極10のユニットを製造してもよい。
【0059】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0060】
(a)本実施形態のダイヤモンド電極10は、ニオブと炭素を主成分とする微結晶、および、ニオブと酸素を主成分とする微結晶の集合体からなる、遷移層30を有している。これにより、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を効率的に高めることができる。また、ニオブと酸素を主成分とする微結晶が、バインダ効果を発揮するため、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制することができる。
【0061】
(b)本実施形態のダイヤモンド電極10において、遷移層30中のニオブの平均組成は、基板20側から導電性ダイヤモンド膜40側にかけて、連続的に減少していることが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制することができる。
【0062】
(c)本実施形態のダイヤモンド電極10において、遷移層30に含まれている、ニオブと炭素を主成分とする微結晶は、NbC微結晶またはNbC微結晶であることが好ましい。これにより、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を効率的に高めることができる。
【0063】
(d)本実施形態のダイヤモンド電極10において、遷移層30は、NbC微結晶の存在割合がNbC微結晶の存在割合よりも多い第1遷移層31と、NbC微結晶の存在割合がNbC微結晶の存在割合よりも多い第2遷移層32とを有し、第1遷移層31は導電性ダイヤモンド膜40側に存在し、第2遷移層32は基板20側に存在することが好ましい。導電性ダイヤモンド膜40側に存在する第1遷移層31は、基板20側に存在する第2遷移層32に比べてC成分が多いため、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を充分高め、ピンホールの発生を抑制することができる。
【0064】
(e)本実施形態のダイヤモンド電極10において、遷移層30に含まれている、ニオブと酸素を主成分とする微結晶は、NbO微結晶であり、NbO微結晶は、第1遷移層31に混在していることが好ましい。これにより、バインダ効果がより発揮され、導電性ダイヤモンド膜40の剥離をさらに抑制することができる。
【0065】
(f)本実施形態のダイヤモンド電極10において、第1遷移層31に含まれるNbC微結晶の結晶子径は、例えば、5nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上60nm以下であることがより好ましい。NbC微結晶の結晶子径が上記範囲外では、厚さ0.5μm以上の連続的な遷移層30が形成され難い可能性がある。これに対し、NbC微結晶の結晶子径を上記範囲内とすることで、厚さ0.5μm以上の連続的な遷移層30が形成されやすくなり、その結果、ピンホールの発生を抑制しやすくなる。
【0066】
(g)本実施形態のダイヤモンド電極10において、NbO微結晶の結晶子径は、例えば、5nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上60nm以下であることがより好ましい。NbO微結晶の結晶子径を上記範囲内にすることで、バインダ効果がより発揮され、導電性ダイヤモンド膜40の剥離をさらに抑制することができる。
【0067】
(h)本実施形態のダイヤモンド電極10において、第1遷移層31の厚さは、例えば、10nm以上500nm以下であり、第2遷移層32の厚さは、例えば、1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、第2遷移層32の厚さは、第1遷移層31の厚さの1.5倍以上10倍以下であることが好ましい。第1遷移層31および第2遷移層32の厚さを上記範囲内にすることで、連続的な遷移層30を形成しやすくし、かつ、ダイヤモンド電極10の反りを低減することができる。
【0068】
(i)本実施形態のダイヤモンド電極10において、第1遷移層31における、NbC微結晶に対する、NbO微結晶の体積存在比率は、例えば、50%以上100%以下であることが好ましい。NbO微結晶の体積存在比率が50%未満では、バインダ効果が不充分であり、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制しにくい可能性がある。これに対し、NbO微結晶の体積存在比率を50%以上とすることで、バインダ効果を充分に発揮し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離をさらに抑制できる。一方、NbO微結晶の体積存在比率が100%を超えると、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度が低下してしまう可能性がある。これに対し、NbO微結晶の体積存在比率を100%以下とすることで、導電性ダイヤモンド膜40を形成するためのダイヤモンド結晶の核発生密度を効率的に高めることができる。
【0069】
(j)本実施形態のダイヤモンド電極10において、遷移層30内部の導電性ダイヤモンド膜40との境界近傍に、多数の空隙を有する多孔質部33を備えていることが好ましい。これにより、ニオブと導電性ダイヤモンド膜40との熱膨張係数差を緩和し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制できる。つまり、ダイヤモンド電極10の耐久性をさらに向上させることが可能となる。
【0070】
(k)本実施形態のダイヤモンド電極10において、導電性ダイヤモンド膜40の表面を、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、基板20または遷移層30まで達するピンホールは存在しないことが好ましい。これにより、例えば、強酸性の液中でダイヤモンド電極10を使用したとしても、強酸性の液が基板20または遷移層30と接するリスクを低減できるため、ダイヤモンド電極10の耐久性を向上させることが可能となる。なお、ダイヤモンド電極10の耐久性をさらに向上させる観点からは、1mm×1mmの視野内に、基板20または遷移層30まで達するピンホールが存在しないことがより好ましく、導電性ダイヤモンド膜40の全面において、ピンホールが存在しないことが特に好ましい。具体的には、例えば、本実施形態のダイヤモンド電極10を、オゾン水生成用のダイヤモンド電極10として使用する場合、ダイヤモンド電極10の通電劣化を抑制し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を防止することができる。すなわち、ダイヤモンド電極10の耐久性を向上させることが可能となる。
【0071】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0072】
図5は、本発明の他の実施形態のダイヤモンド電極10の製造方法の一例を示すフローチャートである。上述の実施形態では、ダイヤモンド電極10の製造方法が有する各工程について説明したが、例えば、図5のフローチャートに示すように、多孔質部形成工程S102の前に、凹凸形成工程S101を行い、ニオブ炭化物層形成工程S105の前に、シーディング工程S104を行ってもよい。この場合も、上述の実施形態と同様に、連続的な遷移層30を形成し、導電性ダイヤモンド膜40のピンホールを抑制することができる。また、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制することができる。以下、凹凸形成工程S101およびシーディング工程S104について説明する。
【0073】
(凹凸形成工程S101)
凹凸形成工程S101は、例えば、基板20の少なくとも一方の主面に凹凸の起伏をつける加工を行う工程である。これにより、基板20と、導電性ダイヤモンド膜40との熱膨張係数差に起因する剥離を抑制することができる。つまり、ダイヤモンド電極10の剥離強度をより向上させることができる。凹凸形成工程S101では、例えば、主面の算術平均粗さRa(JIS B0601-2001参照)が0.5μm以上10μm以下となるように、凹凸をつけることが好ましい。なお、凹凸をつける加工としては、例えば、研削、ブラスト、ウェットエッチング、ドライエッチング等、公知の方法を用いることができる。
【0074】
凹凸形成工程S101は、例えば、多孔質部形成工程S102の前に行うことが好ましい。多孔質部33を形成した面に、凹凸をつける加工を行った場合、多孔質部33が除去されてしまう可能性がある。これに対し、多孔質部形成工程S102の前に、凹凸形成工程S101を行うことで、多孔質部33を存在させた状態で、後の工程を行うことができる。
【0075】
なお、上述の実施形態のように、凹凸形成工程S101は省略してもよい。凹凸形成工程S101を省略した場合でも、ニオブ炭化物層形成工程S105および酸化工程S106を行うことで、遷移層30を形成することができ、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制することができる。
【0076】
(シーディング工程S104)
シーディング工程S104は、例えば、基板20の主面(例えば、多孔質部33を形成した方の主面)に、ダイヤモンド粒子を種付け処理する工程である。一般的なシーディング工程S104は、ダイヤモンド膜堆積工程S107の直前に、遷移層30を形成した基板20の表面に、摺り合わせ、浸漬、ブラストなどの方法でダイヤモンド粒子を付着させる(種付けする)。こうして遷移層30と導電性ダイヤモンド膜40との界面に、ダイヤモンド粒子を介在させることで、導電性ダイヤモンド膜40を形成するための初期核生成に必要なエネルギー障壁を下げることができる。
【0077】
シーディング工程S104は、例えば、遷移層30を形成する前(つまり、ニオブ炭化物層形成工程S105より前)に、行うこともできる。つまり、シーディング工程S104と上述の炭素源埋め込み工程S103とを同時に行ってもよい。これは、炭素源埋め込み工程S103において用いる炭素源22と、シーディング工程S104において用いるダイヤモンド粒子とを、同一のダイヤモンド粒子で兼ねさせることにより可能となる。上述のように、炭素源22としては、sp炭素を含むことが好ましい。したがって、ダイヤモンド構造(sp構造)のコア部の周囲がアモルファス層(sp炭素)で覆われたダイヤモンド粒子(例えば、爆轟法により得られるナノダイヤ粒子)は、遷移層30の形成時にsp炭素が消尽され、sp構造のコア部を種付けしたダイヤモンド粒子として残すことができる。こうすることで、ニオブ炭化物層形成工程S105、酸化工程S106、およびダイヤモンド膜堆積工程S107を、同一装置内で連続的に行うことができる。
【0078】
なお、上述の実施形態のように、シーディング工程S104は省略してもよい。シーディング工程S104を省略した場合でも、上述の炭素源埋め込み工程S103を行うことで、ニオブ炭化物層形成工程S105および酸化工程S106において、基板20の主面が遷移層30で連続的に覆われ、これがダイヤモンド膜を堆積させる際の核発生を促進するため、導電性ダイヤモンド膜40のピンホールの発生を抑制することができる。
【0079】
また、上述の実施形態において、炭素源埋め込み工程S103では、基板20の主面の内部に、炭素源22を埋め込むと説明したが、必ずしも基板20の主面の内部に炭素源22を埋め込まなくてもよい。例えば、基板20の主面の内部の金属ニオブの結晶子径を充分小さく(例えば、20nm以下に)することで、結晶欠陥が高密度に集合、配列した粒界を多数形成することができる。これにより、炭素源22の拡散経路を充分確保し、かつ、炭化反応に寄与する金属ニオブの表面積を充分大きくできるため、基板20の主面の内部に炭素源22を埋め込まず、炭素源22が基板20の表面に接するように導入されている場合でも、遷移層30を形成することは可能である。炭素源22は、基板20の主面の内部に埋め込まれている状態でなくとも、金属ニオブの粒界等から内部へ拡散するため、拡散長に応じた厚さの遷移層30を得ることは可能である。しかしながら、充分な厚さ(例えば、0.5μm以上)の連続的な遷移層30を形成しやすくする観点からは、上述の実施形態のように、基板20の主面の内部に炭素源22を埋め込むことが好ましい。
【0080】
また、上述の実施形態では、導電性ダイヤモンド膜40が単層構造である場合について説明したが、導電性ダイヤモンド膜40は、複数の導電性ダイヤモンド層が積層された積層構造であってもよい。しかしながら、本発明によれば、上述の実施形態のように、導電性ダイヤモンド膜40が単層構造である場合でも、ピンホールの発生を抑制し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を抑制することが可能である。
【実施例
【0081】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0082】
(1)ダイヤモンド電極10の製造
(サンプル1)
まず、以下の手順により、サンプル1のダイヤモンド電極10を製造した。
【0083】
大きさが50mm×50mm、厚さが1mmの金属ニオブからなる基板20を準備し、プレス加工により主面に塑性変形加工を施した。具体的には、表面が粗面(Raが約1μm)となっている超硬合金性の金型を用い、プレス圧力60tでプレスすることにより、基板20の表面に塑性変形加工を施した。
【0084】
塑性変形加工後の基板20に対して、水素雰囲気中で600度、60分の熱処理を行い、室温まで冷却することで多孔質部33を形成した。走査型電子顕微鏡により多孔質部33を観察したところ、多孔質部33の空隙率は70%であった。
【0085】
多孔質部33を形成した基板20の主面に、炭素源22としてのグラファイト(粒径1~2μm)を約1mg/cmの量をまぶし、同サイズの基板20と表面を擦り合わせた。基板20の主面に埋め込まれているグラファイトの量を、擦り合わせ作業後に回収した炭素源22の減少量から計算し、基板20の主面の内部には、約300μg/cmのグラファイト(粒径5~70nm)が埋め込まれていることを確認した。
【0086】
なお、本実施例における各結晶子径の測定は、リガク社製、X線回析装置(RINT2500HLB)を用いて、広角X線回析測定を行った結果から算出したものである。測定条件は以下の通りとした。
測定波長:CuKα(0.15418nm)
X線出力:50kV-250mA
光学系:モノクロメータ付平行ビーム
発散スリット(DS):0.5°+10mmH
散乱スリット(SS):0.5°
受光スリット(RS):0.15mm
走査軸:2θ/θ
走査法:連続走査
走査範囲:5°≦2θ≦100°
走査速度:0.5°/min
サンプリング:0.01°
【0087】
グラファイトが埋め込まれた状態の基板20を、熱フィラメントCVD装置に投入し、遷移層30の形成(ニオブ炭化物層形成工程S105および酸化工程S106)と、導電性ダイヤモンド膜40の堆積(ダイヤモンド膜堆積工程S107)とを連続的に行った。具体的には、窒素ガスを導入し、圧力を20~50Torrに設定し、基板温度600~700℃で60分保持することで、ニオブ炭化物層の形成を行った。次に、二酸化炭素ガスを導入し、大気圧(酸素モル分圧0.4相当)で、基板温度800℃で60分間保持することで、遷移層30の形成を行った。その後、装置内を真空置換して酸化性ガスを除去した後、メタンガスを導入して、40cmのフィラメントに電圧(120~150V)を印加し、フィラメントが炭化して抵抗が一定になるまで保持した。その後、水素ガス、メタンガス、TMBガスを導入し、圧力を20~50Torrに設定し、フィラメントの電圧を175Vまで上げ、フィラメント温度2200~2400℃、基板温度700~800℃で180分保持することで、導電性ダイヤモンド膜40の堆積を行った。
【0088】
熱フィラメントCVD装置からダイヤモンド電極10を取り出し、3.21μmの厚さの導電性ダイヤモンド膜40が堆積されていることを確認した。また、ダイヤモンド電極10を導電性ダイヤモンド膜40側からXRDで測定したところ、炭化ニオブ(NbC)の結晶子径は30.8nmであり、酸化ニオブ(NbO)の結晶子径は43.4nmであった。
【0089】
(サンプル2)
また、以下の手順により、サンプル2のダイヤモンド電極10を製造した。
【0090】
金属ニオブからなる基板20を準備し、サンプル1と同様にプレス加工により主面に塑性変形加工を施した。
【0091】
塑性変形加工後の基板20の主面に対して、水素雰囲気中で600度、60分の熱処理を行い、室温まで冷却することで多孔質部33を形成した。走査型電子顕微鏡により多孔質部33を観察したところ、多孔質部33の空隙率は68%であった。
【0092】
サンプル2においては、炭素源22の埋め込みを行わず、多孔質部33を形成した基板20の表面に、ダイヤモンドの微粉末を含む懸濁液を塗布することで種付けを行い、十分に乾燥させた。その後、基板20を熱フィラメントCVD装置に投入し、サンプル1と同様の条件で熱処理を行い、導電性ダイヤモンド膜40の堆積を行った。
【0093】
熱フィラメントCVD装置からダイヤモンド電極10を取り出し、2.72μmの厚さの導電性ダイヤモンド膜40が堆積されていることを確認した。
【0094】
(サンプル3)
また、以下の手順により、サンプル3のダイヤモンド電極10を製造した。
【0095】
金属ニオブからなる基板20を準備し、サンプル1と同様にプレス加工により主面に塑性変形加工を施した。
【0096】
サンプル3においては、多孔質部33の形成を行わず、塑性変形加工を施した基板20の主面に、炭素源22としてのグラファイト(粒径1~2μm)を1mg/cmの量をまぶし、同サイズの基板20と表面を擦り合わせた。埋め込まれているグラファイトの量を埋め込み前後で測定し、基板20の主面の内部には、50μg/cmのグラファイト(粒径5~70nm)が埋め込まれていることを確認した。
【0097】
擦り合わせ後の基板20を、熱フィラメントCVD装置に投入し、サンプル1と同様の条件で、遷移層30の形成と、導電性ダイヤモンド膜40の堆積とを連続的に行った。
【0098】
熱フィラメントCVD装置からダイヤモンド電極10を取り出し、2.94μmの厚さの導電性ダイヤモンド膜40が堆積されていることを確認した。また、ダイヤモンド電極10を導電性ダイヤモンド膜40側からXRDで測定したところ、炭化ニオブの結晶子径は49.0nmであり、酸化ニオブの結晶子径は38.7nmであった。
【0099】
(サンプル4)
また、以下の手順により、サンプル4のダイヤモンド電極10を製造した。
【0100】
サンプル1と同様の条件で、多孔質部33の形成、および、炭素源22の埋め込みを行った。その後、基板20を熱フィラメントCVD装置に投入し、ニオブ炭化物層の形成と、導電性ダイヤモンド膜40の堆積とを連続的に行った。つまり、サンプル4においては、酸化工程S106を行わず、ニオブ炭化物層の一部にNbO微結晶を導入しなかった。なお、ニオブ炭化物層の形成と、導電性ダイヤモンド膜40の堆積とは、サンプル1と同様の条件で行った。
【0101】
(2)ダイヤモンド電極10の評価
サンプル1~4について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、断面を観察した。炭素源22の埋め込みを行わなかったサンプル2においては、基板20と導電性ダイヤモンド膜40との界面に、島状に形成された炭化ニオブが観察され、連続的な遷移層30は形成されていなかった。これに対し、基板20の主面の内部に炭素源22の埋め込みを行ったサンプル1、3においては、基板20と導電性ダイヤモンド膜40との界面に、連続的な遷移層30が形成されていることを確認した。また、サンプル4においては、基板20と導電性ダイヤモンド膜40との界面に、連続的なニオブ炭化物層が形成されていることを確認した。また、サンプル1の遷移層30、および、サンプル4のニオブ炭化物層は、導電性ダイヤモンド膜40との境界近傍に、多孔質部33を備えていることを確認した。図6に、サンプル1の断面写真を示す。
【0102】
また、サンプル1~4について、SEMを用いて、導電性ダイヤモンド膜40の表面を観察した。炭素源22の埋め込みを行わなかったサンプル2においては、導電性ダイヤモンド膜40の表面にピンホールが観察された。これに対し、基板20の主面の内部に炭素源22の埋め込みを行ったサンプル1、3、4においては、導電性ダイヤモンド膜40の表面に、ピンホールは観察されなかった。
【0103】
以上より、基板20の主面の内部に、炭素源22を埋め込むことで、連続的な遷移層30(またはニオブ炭化物層)を形成できることを確認した。また、連続的な遷移層30(またはニオブ炭化物層)を形成することで、導電性ダイヤモンド膜40の表面のピンホールの発生を抑制できることを確認した。
【0104】
また、サンプル1の遷移層30周辺の断面について、TEM-EELS、TEM-EDXにより組成分析を行った。TEM-EELSにより、サンプル1の遷移層30(第1遷移層31)には、連続的に酸素が分布していることを確認した。図7にサンプル1のTEM-EDXによる組成分析の結果を示す。図7に示すように、サンプル1の第1遷移層31は、酸素を含有していることを確認した。つまり、第1遷移層31にNbO微結晶が混在していることを確認した。また、遷移層30中のニオブの平均組成が、基板20側から導電性ダイヤモンド膜40側にかけて、連続的に減少していることを確認した。
【0105】
なお、本実施例において、断面SEM観察およびTEM-EELS、TEM-EDX組成分析は、以下の手順により行った。
(a)観察目的箇所を含むサンプルを、低速回転ダイヤモンドカッターを用いて適当な大きさに切り出した。
(b)(a)のサンプルを、エポキシ樹脂を用いて包埋した。樹脂硬化条件は、120度、1時間、大気炉を用いて加熱した。
(c)(b)のサンプルの観察目的箇所付近の断面を、回転研磨機を用いて粗面を出し、研磨用ダイヤモンドペースト(粒径0.3μm)を用いてバフ研磨を実施した。
(d)観察目的箇所付近の断面は、日立ハイテク社製イオンミリング装置ArBlade5000を用いて仕上げた。これにより、観察面がフラットになり、微細構造が観察しやすくなる。
(e)(d)のサンプルに対し、日本電子社製Ptスパッタコーティング装置を用いて導電処理を施した。
(f)(e)のサンプルに対してSEM観察を実施した。観察時の加速電圧は5kVとした。SEMは日立ハイテク社製S-4800を用いた。
(g)(f)でSEM観察したサンプルに対し、観察目的箇所のTEM観察用薄膜試料を作製した。薄膜試料は収束イオンビーム(FIB)法で加工した。装置は日立ハイテク社製NB5000を用いた。加工条件は加速電圧40kVとした。
(h)(g)の薄膜試料に対し、TEM観察、および、TEM-EELS、TEM-EDXによる元素分析を行った。TEM装置は、日立ハイテク社製HD-2700を用いて、加速電圧は200kVとした。TEM-EELSには、アメテック社製EELS装置(GATAN Enfinium)を用いた。TEM-EDXには、アメテック社製EDX装置(EDAX Octane T Ultra W)を用いた。
【0106】
(3)ダイヤモンド電極10の耐久性試験
サンプル1~4のダイヤモンド電極10をそれぞれ陽極と陰極とに用いて、オゾン水を生成する耐久性試験を行った。耐久試験は、原水として水道水(流量200mL/min)を用い、高分子電解膜を間に挟んで固定した陽極と陰極とに12Vの電圧駆動で1分間駆動し、4分間休止するサイクルを10000回繰り返すことで行った。使用した高分子電解膜は、Nafion324(Du Pont社製)である。上記10000サイクルの通電前後の通電電流値および生成したオゾン水濃度と、10000サイクル後の導電性ダイヤモンド膜40の剥離の面積割合を確認した結果を、表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、炭素源22の埋め込みを行わなかったサンプル2においては、初回サイクル時に比べて、10000サイクル時のオゾン水濃度が著しく低下しており、通電劣化が確認され、導電性ダイヤモンド膜40の広範囲な剥離が確認された。また、多孔質部33を形成しなかったサンプル3においては、10000サイクル時のオゾン水濃度に低下が見られ、導電性ダイヤモンド膜40の部分的な剥離が確認された。また、NbO微結晶を導入しなかったサンプル4においては、10000サイクル時のオゾン水濃度に低下が見られ、導電性ダイヤモンド膜40の部分的な剥離が確認された。これに対し、多孔質部33を形成し、基板20の主面の内部に炭素源22の埋め込みを行い、NbO微結晶を導入したサンプル1においては、初回サイクル時のオゾン水濃度がサンプル2~4に比べて高く、10000サイクル時も、初回サイクル時と同程度(初回サイクル時の90%以上)のオゾン水濃度を得ることができた。また、導電性ダイヤモンド膜40の剥離はほぼ確認されなかった。
【0109】
以上より、ニオブと炭素を主成分とする微結晶、および、ニオブと酸素を主成分とする微結晶の集合体からなる遷移層30を形成することで、通電劣化を抑制し、導電性ダイヤモンド膜40の剥離を防止できることを確認した。すなわち、ダイヤモンド電極10の耐久性を向上できることを確認した。また、遷移層30に多孔質部33を形成することで、ダイヤモンド電極10の耐久性をさらに向上できることを確認した。
【0110】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を付記する。
【0111】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
前記基板の少なくとも一方の主面上に形成された導電性ダイヤモンド膜と、
前記基板と前記導電性ダイヤモンド膜との間に形成された遷移層と、を有し、
前記遷移層は、ニオブと炭素を主成分とする微結晶、および、ニオブと酸素を主成分とする微結晶の集合体からなる、ダイヤモンド電極が提供される。
【0112】
(付記2)
付記1に記載のダイヤモンド電極であって、
前記遷移層中のニオブの平均組成が、前記基板側から前記導電性ダイヤモンド膜側にかけて、連続的に減少している。
【0113】
(付記3)
付記1に記載のダイヤモンド電極であって、
前記ニオブと炭素を主成分とする微結晶は、化学式NbCまたはNbCの炭化ニオブ微結晶である。
【0114】
(付記4)
付記3に記載のダイヤモンド電極であって、
前記遷移層は、化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の存在割合が化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の存在割合よりも多い第1遷移層と、化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の存在割合が化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の存在割合よりも多い第2遷移層とを有し、
前記第1遷移層は前記導電性ダイヤモンド膜側に存在し、前記第2遷移層は前記基板側に存在する。
【0115】
(付記5)
付記4に記載のダイヤモンド電極であって、
前記ニオブと酸素を主成分とする微結晶は、化学式NbOの酸化ニオブ微結晶であり、前記第1遷移層に、前記酸化ニオブ微結晶が混在している。
【0116】
(付記6)
付記4に記載のダイヤモンド電極であって、
前記第1遷移層に含まれる前記化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、5nm以上100nm以下であり、前記第2遷移層に含まれる前記化学式NbCの炭化ニオブ微結晶の結晶子径は、10nm以上2000nm以下である。
【0117】
(付記7)
付記5に記載のダイヤモンド電極であって、
前記化学式NbOの酸化ニオブ微結晶の結晶子径は、5nm以上100nm以下である。
【0118】
(付記8)
付記4に記載のダイヤモンド電極であって、
前記第1遷移層の厚さは、10nm以上500nm以下であり、前記第2遷移層の厚さは、1μm以上10μm以下である。
【0119】
(付記9)
付記5に記載のダイヤモンド電極であって、
前記第1遷移層における、前記化学式NbCの炭化ニオブ微結晶に対する、前記化学式NbOの酸化ニオブ微結晶の体積存在比率は、50%以上100%以下である。
【0120】
(付記10)
付記1に記載のダイヤモンド電極であって、
前記遷移層内部の前記導電性ダイヤモンド膜との境界近傍に、空隙を有する多孔質部が存在する。
【0121】
(付記11)
付記1から付記10のいずれか1つに記載のダイヤモンド電極であって、
前記導電性ダイヤモンド膜の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した際、20μm×20μmの視野内に、前記基板または前記遷移層まで達するピンホールが存在しない。
好ましくは、1mm×1mmの視野内に、前記基板または前記遷移層まで達するピンホールが存在しない。
特に好ましくは、前記導電性ダイヤモンド膜の全面において、前記基板または前記遷移層まで達するピンホールが存在しない。
【符号の説明】
【0122】
10 ダイヤモンド電極
20 基板
22 炭素源
30 遷移層
31 第1遷移層
32 第2遷移層
33 多孔質部
40 導電性ダイヤモンド膜
S101 凹凸形成工程
S102 多孔質部形成工程
S103 炭素源埋め込み工程
S104 シーディング工程
S105 ニオブ炭化物層形成工程
S106 酸化工程
S107 ダイヤモンド膜堆積工程
【要約】
【課題】導電性ダイヤモンド膜の剥離を抑制し、ダイヤモンド電極の耐久性を向上させることができる技術を提供する。
【解決手段】金属ニオブからなる基板と、基板の少なくとも一方の主面上に形成された導電性ダイヤモンド膜と、基板と導電性ダイヤモンド膜との間に形成された遷移層と、を有し、遷移層は、ニオブと炭素を主成分とする微結晶、および、ニオブと酸素を主成分とする微結晶の集合体からなる、ダイヤモンド電極。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7