(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】粉体の乾燥装置ならびに粉体の乾燥方法
(51)【国際特許分類】
F26B 21/00 20060101AFI20230801BHJP
F26B 17/10 20060101ALI20230801BHJP
F26B 21/04 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
F26B21/00 P
F26B17/10 Z
F26B21/04 C
(21)【出願番号】P 2018171236
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-03-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】中須賀 朗
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-001438(JP,A)
【文献】特開平09-048612(JP,A)
【文献】特開2003-240437(JP,A)
【文献】特表2016-508596(JP,A)
【文献】特開2001-246630(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02392879(EP,A2)
【文献】特表2014-512507(JP,A)
【文献】特開平11-030482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 1/00ー25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱装置により供給される高温の媒体と湿潤粉体とを衝突させて粉体を乾燥させる方式を取る粉体の乾燥装置であって、乾燥管内において前記高温の媒体と前記湿潤
粉体とを接触させ、前記湿潤粉体から蒸発し前記乾燥管から排気される水蒸気の一部を
前記加熱装置により昇温して過熱水蒸気となし、前記過熱水蒸気を循環ラインによって前記高温の媒体として前記乾燥管に戻すことにより、前記乾燥管内の水蒸気濃度を上昇せしめ、もって前記乾燥管内の酸素濃度を粉体の燃焼限界酸素濃度よりも低く保ち、
前記加熱装置以外に蒸発潜熱に相当する熱源は存在しない、粉体の乾燥装置。
【請求項2】
前記媒体の内部圧力が装置周囲の圧力±10%以内に保たれている請求項1に記載の粉体の乾燥装置。
【請求項3】
加熱装置により供給される高温の媒体と湿潤粉体とを衝突させて粉体を乾燥させる方式を取る粉体の乾燥方法であって、乾燥管内において前記高温の媒体と前記湿潤
粉体とを接触させ、前記湿潤粉体から蒸発し前記乾燥管から排気される水蒸気の一部を
前記加熱装置により加熱して過熱水蒸気となし、前記過熱水蒸気を循環ラインよって前記高温の媒体として前記乾燥管に戻すことにより、前記乾燥管内の水蒸気濃度を上昇せしめ、もって前記乾燥管内の酸素濃度を粉体の燃焼限界酸素濃度よりも低く制御し、
前記加熱装置以外の熱源によって蒸発潜熱を生成することはしない、粉体の乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の乾燥装置の一種であるフラッシュドライヤ、リングドライヤ、スプレードライヤなどに関し、特にこれらの乾燥装置で数多く報告されている火災事故を防止するための機器構成ならびに運転方法に関する。
【0002】
これらの乾燥装置は、急速に流れている高温媒体中に湿潤粉体を投入し、湿潤粉体を高温媒体と激突させ装置内を浮遊状態で輸送しながら急速乾燥を行なうための装置であり、粉体としては例えば小麦粉、粉薬、トナー、肥料、酸化チタン、活性炭、セメント、アルミナ、粉末金属などが用いられ、産業上の各方面で応用されている。また、鉱石のような粉体よりは粒径が大きい物質や、粉体とはやや形状を異にするが木材パルプのような綿状の物質の乾燥に用いられている例もある。更に、牛乳などのように粉体よりも更に細かなエマルジョンとして液体に溶けている物質や、塩水のように完全に液体に溶解している物質についても、乾燥させ粉体として取り出す例もある。これらの粒状、綿状、エマルジョンまたは溶液状のものを含め、以下では「粉体」と総称するが、本発明の対象はここに例示された物質に限定されるわけではない。
【背景技術】
【0003】
これらの粉体乾燥装置において、特に酸化されやすい粉体を乾燥する場合には、温度を上げすぎると火災事故や爆発事故を起こす事例が多く報告されており、事故防止のために特別な火災検知器・消火装置を取り付ける例が見られる。または自然発火を引き起こす温度である燃焼限界温度を下回るように、乾燥効率や処理能力を低下させることを甘受して、運転温度に上限を設けて安全を確保することも行なわれている。
【0004】
また、特許文献1(特開平9-48612号公報)では、乾燥途中にアルコール類が副生する物質の乾燥を扱っているが、段落0015および段落0016に『爆発や火災を防ぎ安全に運転するためには乾燥に使用されるガス中の酸素濃度は10%以下、好ましくは5%以下に保つと良い』とあり、この様な条件を満たすには、媒体ガスとして『窒素、炭酸ガス、アルゴン等の有機溶媒と反応しない加熱媒体ガスを使うと良い』と例示して、火災事故や爆発事故を抑制する解決方法の一端を示している。本例は、乾燥途中に副生アルコールが発生するという特殊な条件の場合ではあるが、可燃性副生物が発生しない通常の可燃性物質の乾燥においても応用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1による方法は、燃焼可能酸素濃度が10%ないし5%を超える物質を真に安全に乾燥させるためには有効な方法であるが、段落0016に『これらの媒体ガスを使い捨てにしても良いが、コスト的観点から、乾燥に使用した媒体ガスから蒸発した水や有機溶媒を冷却等の方法で回収し、媒体ガスをリサイクルするクローズド方式を採用することもできる』とある通り、特殊な媒体ガスのもたらすコストが課題であり、またクローズド方式で媒体ガスをリサイクルするにしても、蒸発した水を冷却、回収する設備が不可欠である。設備コストならびに運転コストが課題となり、広く工業化に向く設備とは言い難かった。
【0007】
このように、特許文献1は、原理的に火災や爆発が発生しない真に安全な方法であり、広く応用すべきところではあるが、コストに縛られない高価な物質の乾燥以外への応用は、経済面から困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、経済的に低コストの媒体を利用して本質的に火災の危険性を抑制することのできる粉体の乾燥装置ならびにその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、このコスト問題を解決する手段として、媒体ガスに過熱水蒸気を使用することを提案するものである。水も100℃を超えればガスとして振る舞い、また窒素などと同じく、支燃性を持たない。特許文献1では、乾燥筒には除湿した媒体を送るのが当然という考えからアルコール類のみならず水をも媒体から取り除くことを選択しており、過熱水蒸気が乾燥した気体であり乾燥のための媒体と成り得るという真理に思い至っていなかったものと推察される。
【0010】
ただし、水から100℃を超える過熱水蒸気を生成したのでは、顕熱以外に蒸発潜熱に相当する熱源が必要であり、そのコストが新たな課題となることは明らかである。そこで、そもそも乾燥装置においては水を蒸発させて排気する事が基本的な機能であり、特に排気温度が100℃を超えている場合には、その排気中の水分は過熱水蒸気となっていることから、この過熱水蒸気を媒体の供給源としつつ必要に応じてリサイクルすれば、蒸発潜熱の生成コストの問題も解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の側面は、高温の媒体と湿潤粉体とを衝突させて粉体を乾燥させる方式を取る粉体の乾燥装置に関する。本発明に係る乾燥装置では、粉体から蒸発し排気される水蒸気の一部を昇温して過熱水蒸気となし、当該過熱水蒸気を高温の媒体として乾燥装置に戻すことにより、乾燥装置内の水蒸気濃度を上昇せしめ、もって乾燥装置内の酸素濃度を粉体の燃焼限界酸素濃度よりも低く保つ。本発明において、高温の媒体の内部圧力は、装置周囲の圧力±10%以内に保たれていることが好ましい。
【0012】
具体的に、本発明に係る乾燥装置は、湿潤粉体を加熱媒体(例えば過熱水蒸気)に接触させることにより当該粉体を乾燥させる乾燥管(コラム)と、前記乾燥管に供給される加熱媒体を加熱する加熱装置と、前記乾燥管を通過した加熱媒体と粉体を分離する分離装置(サイクロン)と、前記分離装置を通過した加熱媒体を前記加熱装置に供給する循環ラインとを備える。少なくとも乾燥管から分離装置までの粉体輸送ライン内における酸素濃度は16%以下で、かつ、加熱媒体の温度は100℃超に制御されることが好ましい。
【0013】
特に、循環ライン内には装置外部の空気(メイクアップエア等)が流入しないようにすると良い。具体的には、循環ラインに外部空気を流入させる機構が存在しないことが好ましい。発明者は、常圧で100℃を超える過熱水蒸気(加熱媒体)は物理的に完全な気体であることに気付き、このことを利用すれば乾燥熱エネルギーを大きく削減できるという知見を得た。すなわち、過熱水蒸気は、窒素、酸素、アルゴン、及び二酸化炭素などの大気中にある周知の気体と同じく、その物理的性質はほぼ理想気体として扱える。従って、過熱水蒸気と他の気体は、お互いに0~100%の間の任意の比率で混合することができるのである。つまり、常圧で100℃を超えてさえいれば、空気に担持されるという意味の湿度という概念に囚われる必要はなく、仮に空気が全く存在しなくとも、過熱水蒸気は単体で空間を占めることができるのである。従って、過熱水蒸気を粉体を乾燥させるための加熱媒体として用いるのであれば、メイクアップエアを循環経路内に供給する必要はなく、むしろメイクアップエアを循環経路内に取り入れない方が、加熱媒体の温度低下を防止することができ、熱効率の向上、ひいては乾燥エネルギーの削減に繋がるといえる。このため、循環経路内には、加熱装置における燃焼に必要な空気以外に、メイクアップエアと呼ばれる大気を供給しないほうが好ましい。
【0014】
本発明の第2の側面は、高温の媒体と湿潤粉体とを衝突させて粉体を乾燥させる方式を取る粉体の乾燥方法に関する。本発明に係る乾燥方法では、乾燥装置内で粉体から蒸発し排気される水蒸気の一部を加熱して過熱水蒸気となし、当該過熱水蒸気を高温の媒体として乾燥装置に戻すことにより、乾燥装置内の水蒸気濃度を上昇せしめ、もって乾燥装置内の酸素濃度を粉体の燃焼限界酸素濃度よりも低く制御する
【0015】
具体的に、本発明に係る乾燥方法は、乾燥管に供給される媒体を加熱装置により加熱する工程と、前記乾燥管(コラム)内で湿潤粉体を加熱された加熱媒体(例えば過熱水蒸気)に接触させることにより当該粉体を乾燥させる工程と、前記乾燥管を通過した加熱媒体と粉体を分離装置(サイクロン)により分離する工程と、前記分離装置を通過した加熱媒体を前記加熱装置に供給する工程とを含む。少なくとも乾燥管から分離装置までの粉体輸送ライン内における酸素濃度を16%以下で、かつ、加熱媒体の温度は100℃超に制御されることが好ましい。特に、循環ライン内には装置外部の空気が流入しないようにすると良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、経済的に低コストの媒体を利用して本質的に火災の危険性を抑制することのできる粉体の乾燥装置ならびにその運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、特許文献1に記載のスプレードライヤをシングルコラム型フラッシュドライヤに適用した従来例を示している。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態であって、本発明をシングルコラム型フラッシュドライヤに適用した例を示している。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施形態であって、本発明をダブルコラム型フラッシュドライヤに適用した例を示している。
【
図4】
図4は、本発明の第3の実施形態であって、本発明を直火方式の直接熱交換タイプの加熱装置を備えるシングルコラム型フラッシュドライヤに適用した例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
特許文献1はスプレードライヤを念頭に置いているが、乾燥の原理的はフラッシュドライヤも同じである。特許文献1に開示された装置構成を乾燥管(コラム)が1基であるシングルコラム型フラッシュドライヤに適用した例を
図1に示す。
【0019】
図1に示されるように、冷却塔で除湿された媒体は、加熱装置で昇温されコラムの下部で湿潤粉体に出会う。湿潤粉体はコラムの中で媒体から熱を受けて乾燥され、次いでサイクロンに送られて媒体と分離され、乾燥粉体として取り出される。その時に多少の媒体も外部に出るため、N
2(窒素)ガスがサイクロンへ補充される。また、乾燥過程で粉体は分解しアルコール類を副生する。サイクロンで乾燥粉体と分離された水分ならびにアルコール類を含む媒体は、循環ファンによって冷却塔に送られる。冷却塔では冷却水によって媒体中の水分およびアルコール類が凝縮され、ドレン水として媒体から分離され、媒体が再生される。
【0020】
特許文献1では粉体が分解して可燃性のアルコール類を発生していたが、媒体はN2ガスと蒸発した水蒸気が主体であり、媒体には支燃性がない。フィーダ部から進入した若干の酸素が存在する可能性はあるが、経路内に設置されている酸素濃度計で監視し、10%ないし5%以下であることを監視することによって、アルコール類の燃焼限界酸素濃度以下であり燃焼・爆発の可能性がないことを保障している。
【0021】
本発明の第1の実施形態を、
図2に示し、同じくシングルコラム型フラッシュドライヤにて説明する。
図2に示されるように、本発明の第1の実施形態は、フィーダ、コラム、加熱装置、サイクロン、排気ファン、循環ライン、送風ファン、及び酸素濃度計を備える。フィーダは、乾燥対象となる湿潤粉体をコラムに供給する。コラムは、湿潤粉体を加熱媒体に接触させることにより当該粉体を乾燥させる。加熱装置は、媒体を加熱することにより加熱媒体(過熱水蒸気)を生成し、この加熱媒体をコラムに供給する。サイクロンは、コラムを通過した加熱媒体と粉体を分離する。さらに、サイクロンにおいては、粉体を乾燥が完了した乾燥粉体と乾燥が不足している湿潤粉体とに分離し、この湿潤粉体をフィーダに戻すこととしてもよい。乾燥粉体は成果物として回収される。排気ファンは、サイクロンにおいて分離された加熱媒体の一部を排気する。排気ファンでは、加熱媒体の排気量を調整することができる。なお、排気ファンを停止して加熱媒体の排気量をゼロにしたり、あるいは排気ファン自体を設けないようにすることもできる。循環ラインは、サイクロンにおいて分離された加熱媒体の全部又は一部を加熱装置に供給する。送風ファンは、循環ライン内に配置され、加熱装置へと供給する加熱媒体の量を調整する。サイクロンにおいて分離された加熱媒体の全量を循環ラインを介して加熱装置に供給することもできる。酸素濃度計は、例えばコラムの入口側及び出口側の両方又は一方に設けることができ、コラムに供給される媒体内の酸素濃度あるいはコラムから排出される媒体内の酸素濃度を測定する。ここで測定した酸素濃度に応じて、排気ファンによる排気量あるいは送風ファンにおける送風量を調整することができる。
【0022】
本発明ではサイクロンから排出された水蒸気を冷却して分離することはせず、積極的に加熱媒体として利用しているため、特許文献1と比較して冷却塔ならびに冷却水が不要となっており、設備ならびに運転コストが低下することが理解できる。特許文献1と同じくアルコール類などの可燃性ガスが発生した場合にも、系内に支燃性のガスが存在せず火災や爆発の恐れはない。なお、酸素濃度計の設置位置については実施例に限らず、設備の破損時に空気の進入しやすい場所などを選ぶことが好ましい。
【0023】
本発明による乾燥工程が一定以上進むと、初期段階に乾燥装置内にあった空気は全て加熱媒体である過熱水蒸気に置換される。それ以降、排出される媒体は全量が過熱水蒸気となるが、その量は湿潤粉体から蒸発した水の量に等しい。なぜならば、排気量が湿潤粉体から蒸発した水量よりも多くなれば装置内の負圧が大きくなって排気量が減り、やがて湿潤粉体から蒸発した水量と同じになってバランスする。少なくなった場合には逆の作用が起こり、やはり等量となってバランスする。
【0024】
このように装置の運転圧力は安定系を成すので、自然に任せても装置は運転できるが、より積極的に内部の圧力検出機構と圧力調整手段とを持ち、装置内部の圧力を一定に保つことも可能である。例えば、装置内部の圧力を装置の周囲よりも高く保てば、装置に亀裂や断裂が発生した場合にもその部分から外気が直ちに進入することがなく、火災や爆発に強い構成とすることができる。
図1に示した排気ファンは圧力調整手段として機能し得る。また、圧力検出機構としては、媒体が循環する管内の任意箇所に圧力計を設ければよい。
【0025】
逆に内部の圧力を負圧にした場合には、装置の僅かな隙間やフィーダのシールの悪い部分からの媒体のリークを防ぐことができ、湿潤粉体が臭気を含むような場合には、その外部への流出の制御が容易となる。
【0026】
但し、発明者が乾燥装置を運転した範囲では、その圧力は周囲の圧力の±10%以内に収めるべきであって、それ以上の圧力差は装置の膨張・収縮による破損を招くので避けることが好ましい。
【0027】
図3は、本発明の第2の実施形態であって、本発明をダブルコラム型フラッシュドライヤに適用した例を示している。第2の実施形態においても、前述した第1の実施形態と同じく、排気ファンの排出口と送風ファンの流入口を繋ぎ、媒体の大部分を循環使用しており、空気を取り入れていない。
【0028】
図3に示されるように、本発明の第2の実施形態は、フィーダ、第1コラム、第1サイクロン、第2コラム、第2サイクロン、ブーストファン、加熱装置、排気ファン、循環ライン、送風ファン、及び酸素濃度計を備える。フィーダは、乾燥対象となる湿潤粉体を第1コラムに供給する。第1コラムは、湿潤粉体を加熱媒体に接触させることにより当該粉体を乾燥させる。加熱媒体は、ブーストファンにより第1コラムに供給される。第1サイクロンは、第1コラムを通過した加熱媒体と粉体を分離する。第1サイクロンで分離された粉体は、第2コラムへと供給される。第2コラムは、第1サイクロンで分離された粉体を加熱媒体に接触させることにより当該粉体をさらに乾燥させる。第2サイクロンにおいては、粉体を乾燥が完了した乾燥粉体と乾燥が不足している湿潤粉体とに分離し、この湿潤粉体はブーストファンを経由して加熱媒体とともに第1コラムに戻される。乾燥粉体は成果物として回収される。加熱装置は、媒体を加熱することにより加熱媒体(過熱水蒸気)を生成し、この加熱媒体を第2コラムに供給する。排気ファンは、第1サイクロンにおいて分離された加熱媒体の一部を排気する。排気ファンでは、加熱媒体の排気量を調整することができる。なお、排気ファンを停止して加熱媒体の排気量をゼロにしたり、あるいは排気ファン自体を設けないようにすることもできる。循環ラインは、第1サイクロンにおいて分離された加熱媒体の全部又は一部を加熱装置に供給する。送風ファンは、循環ライン内に配置され、加熱装置へと供給する加熱媒体の量を調整する。第1サイクロンにおいて分離された加熱媒体の全量を循環ラインを介して加熱装置に供給することもできる。酸素濃度計は、例えば第1コラムの入口側及び出口側の両方又は一方に設けることができ、第1コラムに供給される媒体内の酸素濃度あるいは第1コラムから排出される媒体内の酸素濃度を測定する。ここで測定した酸素濃度に応じて、排気ファンによる排気量あるいは送風ファンにおける送風量を調整することができる。
【0029】
粉体と媒体が向流乾燥となるように2基のコラム装置を配置しているが、機能や特徴は第1の実施形態と同じである。また、設備が大きくなる結果、送風抵抗が大きくなるために、送風機を適宜分割して配置している。
【0030】
図4に、加熱装置として直火方式の直接熱交換タイプを用いた場合の第3の実施形態を示す。第3の実施形態は、加熱装置として、燃料を燃焼させることにより得られた熱エネルギーを利用して燃焼空気を加熱して熱風を生成する直火方式を採用しているが、その他の構成は
図1に示した第1の実施形態と同じである。
【0031】
直火方式では、通常、都市ガス、プロパンガス、メタンガスなどの気体化石燃料や、灯油、重油などの液体化石燃料が良く用いられる。これらを燃焼させるためには空気が主に用いられるため、媒体中には燃焼に使用されなかった酸素(残O2)ならびに窒素、二酸化炭素などの気体が存在する。燃焼空気を過剰に供給した場合には、残O2が増加する結果、媒体が粉体の燃焼限界酸素濃度以上の酸素濃度になることがあるため、燃焼空気の供給量には制限が必要である。また、過剰な空気量は排気が熱を持ち出すことによる熱損失を意味するため、この意味でも燃料流量に対する燃焼空気流量の制限が必要である。
【0032】
例えば燃料としてメタンガスを用いる場合、理論空燃比は体積流量の比率としてメタンガス1に対し空気10である。但し未燃ガスを残さない事を考慮すると、熱効率を最大にする空燃比は1:12程度であると言われている。その他の燃料についても、理想的な空燃比のガイドラインが一般に知られている。そして、その空燃比に従って燃焼させた場合、燃焼ガス中の残O2濃度は、4~6%程度になることも知られている。従って、この燃焼ガスと過熱水蒸気が混合した媒体中の酸素濃度は4~6%を下回る。
【0033】
可燃性粉体の燃焼限界酸素濃度については、酸素と共存する気体が窒素の場合、小麦粉で11%、おがくずで10%とのデータがある。従来の空気を媒体としたフラッシュドライヤでは、酸素濃度21%の媒体と酸素濃度4~6%の燃焼ガスを混合する結果、混合比によっては媒体内の酸素濃度が燃焼限界酸素濃度になることがあった。これが火災が多く発生した理由である。しかしながら、本発明では、媒体は燃焼ガスと過熱水蒸気との混合体であって、その酸素濃度は燃焼ガスの酸素濃度である4~6%を超えることがない。その意味で、小麦粉やおがくずをはじめ、多くの可燃性粉体の乾燥において本質的に火災のリスクのない乾燥方法である。
【0034】
但し、空燃比制御を正確に行なうためには、空気流量の正しい測定並びに制御が必要である、また、気体の化石燃料を用いる場合には、その流量測定ならびに制御も必要である。しかしながら、気体の流量測定器は誤差の発生し易い測定器であり、誤差の程度によっては意図せず空気流量が増加して媒体の酸素濃度が上昇する場合がある。これによる火災事故の発生を防止するためにも、酸素濃度計の設置による監視が推奨される。
【0035】
このように、過熱水蒸気を主体とする媒体を用いれば、媒体中の酸素濃度を燃焼限界酸素濃度未満に維持し、もって火災の恐れのない設備とすることができる。安全・防災面では真に有用な発明である。しかしながら、これにより乾燥能力が大きく低下したり、同じ乾燥レベルを得るための燃料消費量が著しく増加したのでは工業的価値が損なわれる。そこで、本発明の方が従来の技術よりも熱効率に優れ、更に乾燥速度も向上する結果、運転コストでも設備コストでも有利であり、工業的に有用な方法であることを、以下に説明する。
【0036】
フラッシュドライヤでは、一定の容積の中で媒体から湿潤粉体に熱を移動せしめて、粉体が含む水分を気化させることによって粉体を乾燥させる。従って、一定の容積の中でより多くの熱量を含み、また媒体の持つ熱を粉体に移動させる速度が速いほど乾燥に有利な媒体ということになる。そこで、一例として200℃の場合の過熱水蒸気と空気の物性を比較する。
【0037】
(1)熱効率の比較
水1kgが蒸発するのに必要な熱量は乾燥方式に依らない。熱効率を決めるのは、乾燥させる工程でどれだけの熱が系外に失われるかである。本発明の方法では系外に出て行く物質は蒸発した水分のみである。一方、従来の技術では蒸発した水分とともに媒体である空気も昇温され同時に排気されている。この意味で、排出する時点での温度の違いの影響はあるが、系外へ出て行く空気がないだけ、熱効率では本発明が優れる。
【0038】
(2)保有熱量の比較
フラッシュドライヤによる乾燥は、主として一定の容積を持つ乾燥管の中で行なわれる。表1の通り、単位体積当りの比熱は過熱水蒸気の方が大きく、同じ容積の中でより大きな熱量を保有できる。つまり、より小さな容積の設備でも同じ熱量を保有して運転ができるため、設備を小型化するか、または同じ設備でより多くの粉体を乾燥することができる。
【0039】
(3)熱の移動速度の比較
過熱水蒸気は100℃以下の水に対して凝縮熱伝達することができ、その速度は接触熱伝達よりも2桁から3桁速いことが知られている。つまり、熱を伝える速度が圧倒的に速い。従って、より小さな接触面積で同じ熱量を伝えられるため、設備を小さくするか、または同じ設備でより多くの粉体を乾燥することができる。
【0040】
以上のことから、過熱水蒸気は熱を伝える媒体として空気よりも適した物性を持っていると言える。
【0041】
100℃を超えた過熱水蒸気は、空気と同じく理想気体に擬することのできる気体であって、液体になることはなく、つまり粉体を濡らすことはなく、却って粉体を乾燥することができる。そしてその能力は空気よりも優れるのである。
【0042】
以上、本願明細書では、本発明の内容を表現するために、図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。