(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】シート状物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/564 20060101AFI20230801BHJP
D06M 15/03 20060101ALI20230801BHJP
D06M 13/322 20060101ALI20230801BHJP
D06N 3/14 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
D06M15/564
D06M15/03
D06M13/322
D06N3/14
(21)【出願番号】P 2019139738
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石井 孝樹
(72)【発明者】
【氏名】宿利 隆司
(72)【発明者】
【氏名】芝野 卓也
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129602(WO,A1)
【文献】特開2013-112905(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114956(WO,A1)
【文献】特開2011-214210(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084253(WO,A1)
【文献】特開2017-172074(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203356(WO,A1)
【文献】米国特許第6395824(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/564
D06M 15/03
D06M 13/322
D06N 3/14
D06M 101/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基材と高分子弾性体とを含有するシート状物であって、前記繊維質基材は平均単繊維繊度が0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、前記高分子弾性体は、親水性基並びにN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有し、シート状物を厚み方向に切断した断面中の極細繊維の断面部500本以上を含む500μm四方の範囲において、極細繊維との接着部分からの長さが10μm以上であり、かつ、極細繊維との接着部分から10μm以内の部分の最大幅が0μmを超えて5μm以下の高分子弾性体の本数が20本以上であるシート状物。
【請求項2】
前記高分子弾性体の本数が30本以上である、請求項1に記載のシート状物。
【請求項3】
立毛層を有し、前記立毛層における極細繊維の表面被覆率が60%以上90%以下である、請求項1または2に記載のシート状物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のシート状物を製造する方法であって、繊維質基材に水分散液を含浸せしめる工程、pHが1以上3以下の凝固溶媒にて凝固処理を行う酸凝固法又は80℃以上100℃以下の熱水中にて凝固処理を行う熱水凝固法により凝固処理を行う工程、100℃以上180℃以下で乾燥する工程を含み、前記繊維質基材は平均単繊維繊度が0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、前記水分散液は、親水性基を有する高分子弾性体、架橋剤、前記親水性基を有する高分子弾性体固形分質量100質量部に対して10質量部以上50質量部以下の1価陽イオン含有無機塩、および増粘剤を含有する、シート状物の製造方法。
【請求項5】
前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤である、請求項4に記載のシート状物の製造方法。
【請求項6】
前記増粘剤がノニオン性増粘剤である、請求項4または5に記載のシート状物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物およびその製造方法、特に好適には、立毛層を有するシート状物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として不織布等の繊維質基材とポリウレタンからなるシート状物は、天然皮革にない優れた特徴を有しており、人工皮革等の種々の用途に広く利用されている。とりわけ、ポリエステル系繊維質基材を用いたシート状物は、耐光性に優れているため、衣料や椅子張りおよび自動車内装材用途等にその使用が年々広がってきた。
【0003】
このようなシート状物を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材をポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤水溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程の組み合わせが、一般的に採用されている。この場合、ポリウレタンの溶媒である有機溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」とも表すことがある。)等の水混和性有機溶剤が用いられる。しかしながら、一般的に有機溶剤は、人体や環境への有害性が高いことから、シート状物の製造に際しては、有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
【0004】
具体的な解決手段として、従来の有機溶剤系のポリウレタンに代えて、水中にポリウレタン樹脂を分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されている。これまでに、水分散型ポリウレタンを用いて柔軟な風合いのシート状物を得るため、例えば、不織布等の布帛からなるシート等の繊維質基材に、発泡剤を含有する水分散型ポリウレタン液を付与し、加熱によってポリウレタン中にガスを生じさせ、繊維質基材内でのポリウレタンの構造を多孔構造とする方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0005】
また、水分散型ポリウレタンおよび増粘剤を含む溶液中に繊維質基材を含浸させ、熱水に浸すことでポリウレタン樹脂のサイズを縮小化し、水分散型ポリウレタンによる繊維の交絡部分の把持力を低下させる方法が提案されている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-214210号公報
【文献】国際公開第2015/129602号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水分散型ポリウレタンを液中に分散させた水分散型ポリウレタン分散液を繊維質基材に含浸し、ポリウレタンを凝固したシート状物は、風合いが硬くなりやすいという課題がある。
【0008】
その主な理由の一つとして、両者の凝固方式の違いがある。すなわち、有機溶剤系ポリウレタン液の凝固方式は、有機溶剤に溶解しているポリウレタン分子を、水で溶媒置換して凝固する、いわゆる湿式凝固方式であり、ポリウレタン膜で見ると、密度が低い多孔膜が形成される。そのため、ポリウレタンが繊維質基材内に含浸され、凝固された場合も繊維とポリウレタンの接着面積が少なくなり、柔らかいシート状物となる。
【0009】
一方、水分散型ポリウレタンは、主に加熱することにより、水分散型ポリウレタン分散液の水和状態を崩壊させ、ポリウレタンエマルジョン同士を凝集させることにより凝固する、いわゆる湿熱凝固方式が主流であり、得られるポリウレタン膜構造は密度が高い無孔膜となる。そのため、繊維質基材とポリウレタンの接着は密になり、繊維の交絡部分が強く把持されるため、風合いが硬くなる。
【0010】
特許文献1に開示された方法においては、水分散型ポリウレタンを多孔とすることにより、繊維とポリウレタンとの接着面積が少なくなり、繊維の交絡点の把持力は弱まり、触感が柔軟である良好な風合いを有するシート状物を得ることが可能であるが、有機溶剤系ポリウレタンを付与させた場合と比較すると、まだ柔軟性に乏しい傾向である。
【0011】
一方、特許文献2に開示された方法においては、水分散型ポリウレタンを多孔とすることにより繊維とポリウレタンとの接着面積が少なくなり、繊維の交絡点の把持力は弱まり、触感が柔軟である良好な風合いを有するシート状物を得ることが可能であるが、2価陽イオン含有無機塩を感熱凝固調整剤として用いているため、含浸液のゲル化による含浸ムラの発生が課題である。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記の従来技術の背景に鑑み、表面品位、光沢感、風合い良好なシート状物、およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有する。すなわち、本発明のシート状物は、繊維質基材と高分子弾性体とを含有するシート状物であって、前記繊維質基材は平均単繊維繊度が0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、前記高分子弾性体は、親水性基並びにN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有し、シート状物を厚み方向に切断した断面中の極細繊維の断面部500本以上を含む500μm四方の範囲において、極細繊維との接着部分からの長さが10μm以上であり、かつ、極細繊維との接着部分から10μm以内の部分の最大幅が0μmを超えて5μm以下の高分子弾性体の本数が20本以上である。
【0014】
また、本発明のシート状物の製造方法は、本発明のシート状物を製造する方法であって、繊維質基材に水分散液を含浸せしめる工程、pHが1以上3以下の凝固溶媒にて凝固処理を行う酸凝固法又は80℃以上100℃以下の熱水中にて凝固処理を行う熱水凝固法により凝固処理を行う工程、100℃以上180℃以下で乾燥する工程を含み、前記繊維質基材は平均単繊維繊度が0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、前記水分散液は、親水性基を有する高分子弾性体、架橋剤、前記親水性基を有する高分子弾性体固形分質量100質量部に対して10質量部以上50質量部以下の1価陽イオン含有無機塩、および増粘剤を含有する。
【0015】
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、前記高分子弾性体の本数が30本以上である。
【0016】
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、立毛層を有し、前記立毛層における極細繊維の表面被覆率が60%以上90%以下である。
【0017】
本発明のシート状物の製造方法の好ましい態様によれば、前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤である。
【0018】
本発明のシート状物の製造方法の好ましい態様によれば、前記増粘剤がノニオン性増粘剤である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優美な表面品位、光沢感と良好な風合いを有するシート状物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のシート状物における、高分子弾性体と繊維の接着部の断面顕微鏡写真の一例である。
【
図2】本発明のシート状物における、糸状の高分子弾性体の規定方法の一例を示す概念図である。
【
図3】本発明のシート状物における、糸状の高分子弾性体の規定方法の別の一例を示す概念図である。
【
図4】本発明に係るシート状物の表面品位の評価方法を例示する概念斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシート状物は、繊維質基材と高分子弾性体とを含有するシート状物であって、前記繊維質基材は平均単繊維繊度が0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、前記高分子弾性体は、親水性基並びにN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有し、シート状物を厚み方向に切断した断面中の極細繊維の断面部500本以上を含む500μm四方の範囲において、極細繊維との接着部分からの長さが10μm以上であり、かつ、極細繊維との接着部分から10μm以内の部分の最大幅が0μmを超えて5μm以下の高分子弾性体の本数が20本以上である。以下にこの構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0022】
[極細繊維]
本発明に用いられる極細繊維には、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールとから得られるポリエステル系樹脂、すなわちポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリトリメチレンテレフタレートなどの樹脂を用いることができる。
【0023】
前記ポリエステル系樹脂に用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。なお、本発明でいうエステル形成性誘導体とは、ジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物およびアシル塩化物などである。具体的には、メチルエステル、エチルエステルおよびヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
【0024】
前記ポリエステル系樹脂に用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、およびシクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0025】
また、前記ポリエステル系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、通常用いられる金属酸化物や顔料等の粒子、難燃剤および帯電防止剤等の添加剤を含有させることができる。
【0026】
極細繊維の断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形および十字型などの異形断面のものを採用することができる。
【0027】
本発明において、極細繊維の平均単繊維繊度は、0.1μm以上10μm以下であることが重要である。極細繊維の平均単繊維繊度が10μm以下、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下であることによって、シート状物をより柔軟なものとすることができる。また、シート状物が立毛を有する場合は、立毛の表面品位を向上させることができる。一方、極細繊維の平均単繊維繊度が0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.7μm以上であることによって、染色後の発色性に優れたシート状物とすることができる。また、シート状物が立毛を有する場合、バフィングによる立毛処理を行う際に、束状に存在する極細繊維の分散しやすさ、さばけやすさを向上させることができる。
【0028】
本発明でいう平均単繊維繊度とは、以下の方法で測定されるものである。すなわち、
(1)シート状物を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。
(2)観察面内の任意の50本の極細繊維の繊維直径を、それぞれの極細繊維断面において3方向で測定する。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面積となる円の直径を以下の式で算出する。これより得られた直径をその単繊維の単繊維直径とする。
・単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm2))/π)1/2
(3)得られた合計150点の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第二位で四捨五入する。
【0029】
本発明で用いられる極細繊維を得る手段としては、直接紡糸や極細繊維発現型繊維を用いることができる。中でも極細繊維発現型繊維を用いることが好ましい態様である。極細繊維発現型繊維は、溶剤に対する溶解性が異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、海成分だけを溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面放射状あるいは層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維や多層型複合繊維などを採用することができるが、シート状物の表面品位を均一にしやすいことから、海島型複合繊維が好ましく用いられる。
【0030】
海島型複合繊維の海成分としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、スルホイソフタル酸ナトリウムやポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコールまたはその共重合体などが挙げられる。
【0031】
海島型複合繊維の繊維極細化処理(脱海処理)は、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、搾液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液や熱水を用いることができる。
【0032】
繊維極細化処理には、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機およびジッガー染色機等の装置を用いることができる。
【0033】
海成分の溶解除去は、高分子弾性体の付与前および付与後のいずれのタイミングでも行うことができる。高分子弾性体付与前に脱海処理を行うと、極細繊維に直接高分子弾性体が密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性がより良好となる。一方、高分子弾性体付与後に脱海処理を行うと、高分子弾性体と極細繊維間に、脱海された海成分に起因する空隙が生成することから、極細繊維を直接高分子弾性体が把持せずにシート状物の風合いはより柔軟となる。
【0034】
本発明で用いられる海島型複合繊維における海成分と島成分の質量割合は、海成分:島成分=10:90~80:20の範囲であることが好ましい。海成分の質量割合が10質量%以上であると、島成分が十分に極細化されやすくなる。また、海成分の質量割合が80質量以下であると、溶出成分の割合が少ないため生産性が向上する。海成分と島成分の質量割合は、より好ましくは、海成分:島成分=20:80~70:30の範囲である。
【0035】
本発明において、海島型複合繊維で代表される極細繊維発現型繊維を延伸する場合は、未延伸糸を一旦巻取り後、別途延伸を行うか、もしくは未延伸糸を引取りそのまま連続して延伸を行うなど、いずれの方法も採用することができる。延伸は、湿熱または乾熱あるいはその両者によって、1段~3段延伸する方法で適宜行うことができる。次に、延伸された海島型複合繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカットして不織布の原綿を得ることができる。捲縮加工やカット加工は通常の方法を用いることができる。
【0036】
本発明で用いられる海島型複合繊維等の複合繊維は、座屈捲縮が付与されていることが好ましい。それは、座屈捲縮により、短繊維不織布を形成した場合の繊維間の絡合性が向上し、高密度と高絡合化が可能となるためである。複合繊維に座屈捲縮を付与するためには、通常のスタッフィングボックス型のクリンパーが好ましく用いられるが、本発明において好ましい捲縮保持係数を得るためには、処理繊度、クリンパー温度、クリンパー加重および押込み圧力等を適宜調整することが好ましい態様である。
【0037】
座屈捲縮が付与された極細繊維発現型繊維の捲縮保持係数は、3.5以上15以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは4以上10以下の範囲である。捲縮保持係数が3.5以上であることにより、不織布を形成した際に不織布の厚み方向の剛性が向上し、ニードルパンチ等の絡合工程における絡合性を維持することが可能である。また、捲縮保持係数を15以下とすることにより、捲縮がかかりすぎることなく、カーディングにおける繊維ウェッブの開繊性に優れる。
【0038】
ここでいう捲縮保持係数とは、次の式で表されるものである。
・捲縮保持係数=(W/L-L0)1/2
・W:捲縮消滅荷重(捲縮が伸びきった時点の荷重:mg/dtex)
・L:捲縮消滅荷重下の繊維長(cm)
・L0:6mg/dtex下での繊維長(cm)。30.0cmをマーキングする。
【0039】
測定方法としては、まず、試料に100mg/dtexの荷重をかけ、その後、10mg/dtex刻みで荷重を増加させ、捲縮の状態を確認する。捲縮が伸びきるまで荷重を加えていき、捲縮が伸びきった状態における、マーキングの長さ(30.0cmからの伸び)を測定する。
【0040】
本発明で用いられる複合繊維の単繊維繊度は、ニードルパンチ工程等の絡合性の観点から、2dtex以上10dtex以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは3dtex以上9dtex以下の範囲である。
【0041】
本発明のシート状物の製造方法で用いることができる複合繊維は、98℃の温度における収縮率が5%以上40%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以上35%以下である。収縮率をこの範囲とすることにより、熱水処理によって繊維密度を向上することができ、本革のような充実感を得ることできる。
【0042】
収縮率の測定法は、具体的には、まず、複合繊維の束に50mg/dtexの荷重をかけ、30.0cmをマーキングする(L0)。その後、98℃の温度の熱水中で10分間処理し、処理前後の長さ(L1)を測定し、(L0-L1)/L0×100を算出する。測定は3回実施し、その平均値を収縮率とするものである。
【0043】
本発明では、極細繊維束内の繊維数は8本/束以上1000本/束以下であることが好ましく、より好ましくは10本/束以上800本/束以下である。繊維数が8本/束以上であると、極細繊維が十分な緻密性を有しやすく、例えば、摩耗等の機械物性が向上しやすくなる傾向がある。また、繊維数1000本/束以下であると、立毛時の開繊性が向上し、立毛面の繊維分布が均一となって、より良好なシート状物の表面品位が得られやすくなる。
【0044】
[繊維質基材]
本発明で用いられる繊維質基材は、前記極細繊維からなる。なお、繊維質基材には、異なる原料の極細繊維が混合されていることが許容される。
【0045】
前記繊維質基材の具体的な形態としては、前記極細繊維それぞれが絡合してなる不織布や極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布を用いることができる。中でも、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布が、シート状物の強度や風合いの観点から好ましく用いられる。柔軟性や風合いの観点から、特に好ましくは、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布が好ましく用いられる。このように、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布は、例えば、極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発現させることによって得ることができる。また、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布は、例えば、海成分を除去することによって島成分の間を空隙とすることができる海島型複合繊維を用いることによって得ることができる。
【0046】
前記不織布としては、短繊維不織布、あるいは、長繊維不織布のいずれでもよいが、シート状物の風合いや表面品位の観点から短繊維不織布がより好ましく用いられる。
【0047】
短繊維不織布を用いた場合における短繊維の繊維長は、25mm以上90mm以下の範囲であることが好ましい態様である。繊維長が25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上であることにより、絡合により耐摩耗性に優れたシート状物となる。また、繊維長が90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下であることにより、より風合いや表面品位に優れたシート状物を得ることができる。
【0048】
本発明において、繊維質基材として不織布を用いる場合、強度を向上させるなどの目的で、不織布の内部に織物や編物を挿入し、または積層し、または裏張りすることもできる。かかる織物や編物を構成する繊維の平均単繊維繊度は、ニードルパンチ時における損傷を抑制し、強度を維持することができるため、0.3μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0049】
前記織物や編物を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸などのポリエステルや、6-ナイロンや66-ナイロンなどのポリアミド等の合成繊維、セルロース系ポリマー等の再生繊維、および綿や麻等の天然繊維などを用いることができる。
【0050】
本発明のシート状物を構成する繊維質基材に用いることができる不織布を得る方法としては、複合繊維ウェブをニードルパンチやウォータジェットパンチにより絡合させる方法、スパンボンド法、メルトブロー法、および抄紙法などを採用することができる。中でも、前述のような極細繊維束の態様とする上で、ニードルパンチやウォータジェットパンチなどの処理を経る方法が好ましく用いられる。
【0051】
不織布は、前述のように、不織布と織編物を積層一体化させてもよく、これらをニードルパンチやウォータジェットパンチ等により一体化する方法が好ましく用いられる。
【0052】
ニードルパンチ処理に用いられるニードルにおいては、ニードルバーブ(切りかき)の数は好ましくは1本以上9本以下である。ニードルバーブを好ましくは1本以上とすることにより、効率的な繊維の絡合が可能となる。一方、ニードルバーブを好ましくは9本以下とすることにより、繊維損傷を抑えることができる。
【0053】
バーブに引っかかる複合繊維の本数は、バーブの形状と複合繊維の直径によって決定される。そのため、ニードルパンチ工程で用いられる針のバーブ形状は、キックアップが0μm以上50μm以下であり、アンダーカットアングルが0°以上40°以下であり、スロートデプスが40μm以上80μm以下であり、そしてスロートレングスが0.5mm以上1.0mm以下のものが好ましく用いられる。
【0054】
また、パンチング本数は、1000本/cm2以上8000本/cm2以下であることが好ましい。パンチング本数を好ましくは1000本/cm2以上とすることにより、緻密性が得られ高精度の仕上げを得ることができる。一方、パンチング本数を好ましくは8000本/cm2以下とすることにより、加工性の悪化、繊維損傷および強度低下を防ぐことができる。
【0055】
また、ウォータジェットパンチ処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。具体的には、直径0.05mm以上1.0mm以下のノズルから圧力1MPa以上60MPa以下で水を噴出させることが好ましい態様である。
【0056】
ニードルパンチ処理あるいはウォータジェットパンチ処理後の不織布の見掛け密度は、0.15g/cm3以上0.45g/cm3以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm3以上とすることにより、シート状物が十分な形態安定性と寸法安定性が得られやすくなる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm3以下とすることにより、ポリウレタンを付与するための十分な空間を維持しやすくすることができる。
【0057】
このようにして得られた不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい態様である。また、不織布はカレンダー処理等により、厚み方向に圧縮することもできる。
【0058】
海島型複合繊維を用いた場合の当該繊維の海成分を除去するための脱海処理は、繊維質基材への親水性基を有する高分子弾性体を含む水分散液の付与前または/および付与後に行うことができる。水分散液付与前に脱海処理を行うと、極細繊維に直接高分子弾性体が密着する構造となりやすく、極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好となる。
【0059】
一方、前記水分散液付与前に極細繊維とセルロース誘導体やポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある。)等の阻害剤を付与した後に水分散液を付与することにより、極細繊維と高分子弾性体樹脂の密着性を下げることができ、さらに柔軟な風合いを達成することもできる。
【0060】
前記阻害剤付与は、海島構造の繊維の脱海処理前または後のいずれでも行うことができる。脱海処理前に阻害剤を付与することにより、繊維の目付が下がりシートの抗張力が低下した場合においても、繊維質基材の形態保持力を高めることができる。このため、薄物のシートも安定して加工できる他に、脱海処理工程での繊維質基材の厚み保持率を高めることができ、繊維質基材の高密度化を抑制することができる。一方、前記阻害剤付与を脱海処理後に行うことにより、繊維質基材の高密度化を実現することができるため、目的に応じ適宜調整することが好ましい態様である。
【0061】
前記阻害剤としては、繊維質基材の補強効果が高く、水に溶出にしにくいことから、
PVAが好ましく用いられる。PVAの中でも、親水性基を有する高分子弾性体を含む水分散液付与時に阻害剤を溶出しにくくでき、かつより極細繊維と高分子弾性体の密着を阻害できるという観点から、より水難性である高ケン化度PVAを適用することが、より好ましい態様である。
【0062】
高ケン化度PVAは、ケン化度が95%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは98%以上100%以下である。ケン化度を95%以上にすることにより、親水性基を有する高分子弾性体分散液付与時の溶出を抑制することができる。
【0063】
PVAの重合度は、500以上3500以下であることが好ましく、さらに好ましくは500以上2000以下である。PVAの重合度を500以上にすることにより、高分子弾性体分散液付与時の高ケン化度PVAの溶出を抑制することができる。また、PVAの重合度を3500以下にすることにより、高ケン化度PVA液の粘度が高くなりすぎず、安定して繊維質基材に高ケン化度PVAを付与することができる。
【0064】
繊維質基材へのPVAの付与量は、繊維質基材の繊維質量に対し、0.1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは1質量%以上45質量%以下である。PVAの付与量を0.1質量%以上とすることにより、柔軟性と風合いの良好なシート状物が得られ、PVAの付与量を50質量%以下とすることにより、加工性が良く、耐摩耗性等の物理特性が良好なシート状物が得られる。
【0065】
[高分子弾性体]
本発明のシート状物において、親水性基を有する高分子弾性体としては、水分散型シリコーン樹脂、水分散型アクリル樹脂、および水分散型ウレタン樹脂やそれらの共重合体が挙げられる。それらの中でも風合いの面から、水分散型ポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0066】
水分散型ポリウレタン樹脂としては、高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、鎖伸長剤との反応により得られる樹脂が好ましく用いられる。また、水分散型ポリウレタン樹脂の水分散液(以下、水分散型ポリウレタン分散液)の安定性を高めるために、親水性基を有する活性水素成分含有化合物を併用することが好ましい。以下に高分子弾性体として、水分散型ポリウレタン樹脂を用いた場合について説明する。
【0067】
(1)水分散型ポリウレタン樹脂の各反応成分
まず、水分散型ポリウレタン樹脂の各反応成分について説明する。
【0068】
(1-1)高分子ポリオール
本発明のシート状物において用いることができる高分子ポリオールとして、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等を挙げることができる。
【0069】
ポリエーテル系ポリオールとしては、多価アルコールやポリアミンを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリン、およびシクロヘキシレン等のモノマーを付加・重合して得られるポリオール、および、前記モノマーをプロトン酸、ルイス酸およびカチオン触媒等を触媒として開環重合して得られるポリオールが挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等およびそれらを組み合わせた共重合ポリオールを挙げることができる。
【0070】
ポリエステル系ポリオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルポリオールやラクトンを開重合することによって得られるポリオール等を挙げることができる。
【0071】
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1.8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等の分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、および1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族2価アルコール等から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させて得られる付加物も、低分子量ポリオールとして使用可能である。
【0072】
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸等からなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0073】
ポリカーボネート系ポリオールとしては、ポリオールとジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート等のカーボネート化合物との反応によって得られる化合物を挙げることができる。
【0074】
ポリカーボネートポリオールの製造原料のポリオールとしては、ポリエステルポリオールの製造原料で挙げたポリオールを用いることができる。ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネート等を用いることができ、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネート等を挙げることができる。
【0075】
本発明のシート状物において、前記高分子弾性体がポリエーテルジオールを構成成分として含有することが好ましい。なお、本明細書において、「構成成分として含有する」とは、高分子弾性体を構成するモノマー成分、オリゴマー成分として含有することをいう。ポリエーテルジオールは、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、且つ凝集力も弱い為に柔軟性に優れるポリウレタンが得られやすくなる。
【0076】
本発明のシート状物において、前記高分子弾性体が、構成成分としてポリエーテルジオールを含む、親水性基を有する高分子弾性体Aと、構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、親水性基を有する高分子弾性体Bとからなることが好ましい。柔軟性に優れる構成成分としてポリエーテルジオールを含む、親水性基を有する高分子弾性体Aと、光や熱などの外的刺激に対する耐久性に優れる構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、親水性基を有する高分子弾性体Bの両者をシート状物内部に含むことで、柔軟かつ耐久性に優れるシート状物が得られやすくなる。
【0077】
高分子ポリオールの数平均分子量は、500以上5000以下であることが好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。また、数平均分子量を5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、バインダーとしてのポリウレタンの強度を維持しやすくすることができる。
【0078】
(1-2)有機ジイソシアネート
本発明で用いられる有機ジイソシアネートとしては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0079】
前記炭素数が6以上20以下の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-および/または1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/または2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-および/または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0080】
前記炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、および2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
【0081】
前記炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、および2,5-および/または2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0082】
前記炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-および/またはp-キシリレンジイソシアネートや、α、α、α’、α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0083】
これらのうち、好ましい有機ジイソシアネートは、脂環式ジイソシアネートである。また、特に好ましい有機ジイソシアネートは、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートである。
【0084】
(1-3)鎖伸長剤
本発明に用いられる鎖伸長剤としては、水、「エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなど」の低分子ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなど」の脂環式ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなど」の芳香族ジオール、「エチレンジアミンなど」の脂肪族ジアミン、「イソホロンジアミンなど」の脂環式ジアミン、「4,4-ジアミノジフェニルメタンなど」の芳香族ジアミン、「キシレンジアミンなど」の芳香脂肪族ジアミン、「エタノールアミンなど」のアルカノールアミン、ヒドラジン、「アジピン酸ジヒドラジドなど」のジヒドラジド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0085】
これらのうち好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、更に好ましくは水、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0086】
(2)水分散型ポリウレタン樹脂の添加剤
本発明では後述する理由により、水分散型ポリウレタンを含む水分散液中に、1価陽イオン含有無機塩、増粘剤を含有することが重要である。
【0087】
またその他にも、必要により酸化チタンなどの着色剤、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)や酸化防止剤[4,4-ブチリデンービス(3-メチル-6-1-ブチルフェノール)などのヒンダードフェノール;トリフェニルホスファイト、トリクロルエチルホスファイトなどの有機ホスファイトなど]などの各種安定剤、無機充填剤(炭酸カルシウムなど)などを含有させることができる。
【0088】
(3)水分散型ポリウレタン樹脂の構成
本発明で用いられる水分散型ポリウレタンにおいて、ポリウレタンに親水性基を含有させる成分として、例えば、親水性基含有活性水素成分が挙げられる。親水性基含有活性水素成分としては、ノニオン性基および/またはアニオン性基および/またはカチオン性基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。
【0089】
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2つ以上の活性水素成分または2つ以上のイソシアネート基を含み、側鎖に分子量250~9000のポリオキシエチレングリコール基等を有している化合物、および、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
【0090】
アニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0091】
カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては、3-ジメチルアミノプロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0092】
前記親水性基含有活性水素成分は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。
【0093】
ポリウレタン分子内に用いられる親水性基含有活性水素成分は、水分散型ポリウレタン樹脂の機械的強度および分散安定性の観点から、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸およびこれらの中和塩を用いることが好ましい。
【0094】
本発明において、親水性基を有する高分子弾性体における親水性基とは、活性水素を有する基である。親水性基の具体例としては、水酸基やカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基等が挙げられる。
【0095】
本発明のシート状物において、親水性基を有する高分子弾性体は、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有する。すなわち、本発明のシート状物において、高分子弾性体は、親水性基並びにN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有する。
【0096】
親水性基を有する高分子弾性体として、水分散型ポリウレタン樹脂を用いる場合、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合は、例えば、前述の親水性基含有活性水素成分として存在する水酸基および/またはカルボキシル基とカルボジイミド系架橋剤とを反応させて形成することができる。これにより親水性基を有する高分子弾性体の分子内に、耐光性や耐熱性、耐摩耗性等の物性、および柔軟性に優れるN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合による3次元架橋構造を付与し、シート状物の柔軟性を保持しながら、耐摩耗性等の物性を飛躍的に向上させることが出来る。なお、高分子弾性体に上記N-アシルウレア基やイソウレア基が存在することは、シート状物の断面に対して、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS分析)等のマッピング処理を行えば分析可能である。
【0097】
本発明に用いられる親水性基を有する高分子弾性体の数平均分子量は、樹脂強度の観点から20000以上であることが好ましく、また、粘度安定性と作業性の観点から500000以下であることが好ましい。数平均分子量は、更に好ましくは30000以上150000以下である。
【0098】
前記親水性基を有する高分子弾性体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めることができ、例えば次の条件で測定される。
・機器:東ソー(株)社製HLC-8220
・カラム:東ソーTSKgel α-M
・溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
・温度:40℃
・校正:ポリスチレン
本発明で用いられる親水性基を有する高分子弾性体は、シート状物中で繊維同士を適度に把持しており、好ましくはシート状物の少なくとも片面に立毛を有する観点から、繊維質基材の内部に存在していることが好ましい態様である。
【0099】
[シート状物]
本発明のシート状物は、シート状物を厚み方向に切断した断面中の極細繊維の断面部500本以上を含む500μm四方の範囲において、極細繊維との接着部分からの長さが10μm以上であり、かつ、極細繊維との接着部分から10μm以内の部分の最大幅が0μmを超えて5μm以下である高分子弾性体の本数が20本以上である。本明細書において、「極細繊維との接着部分からの長さが10μm以上であり、かつ、極細繊維との接着部分から10μm以内の部分の最大幅が0μmを超えて5μm以下である高分子弾性体」を「糸状の高分子弾性体」と称する場合がある。
【0100】
糸状の高分子弾性体は、極細繊維を拘束する力が弱いためシート状物の柔軟化、すなわち、風合い向上に寄与する。また、シート状物が立毛層を有する場合、糸状の高分子弾性体は、高分子弾性体のドメインサイズが小さいため、立毛発現性に優れることから光沢感が生じる。
【0101】
前記糸状の高分子弾性体の本数としては、30本以上が好ましい。
【0102】
糸状の高分子弾性体は、シート状物の厚み方向に切断した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM キーエンス社製VE-7800型)を用いて500倍で観察した5枚における極細繊維の断面部500本以上を含む500μm四方の範囲に存在する糸状の高分子弾性体の本数の1枚あたりの平均を算出する。ここで、極細繊維の断面部500本以上とは、シート状物の上記断面において、切断された断面を観測することができる極細繊維の本数が500本以上であることを表す。
【0103】
高分子弾性体が同時に3本以上の極細繊維と接着している場合、高分子弾性体の極細繊維との接着部分から枝分かれ部分までの長さが10μm以上であり、極細繊維との接着部分から10μm以内の部分の最大幅が0μmを超えて5μm以下であるとき、糸状の高分子弾性体と規定する。また、ここでの最大幅は奥行きを無視した観察断面での最大の幅を指す。
【0104】
図2に本発明のシート状物における、糸状の高分子弾性体の規定方法の一例を示す。
図2において、極細繊維3、4と接着する高分子弾性体1は最大幅0.6μmであり、長さaつまり極細繊維との接着部Aから極細繊維との接着部Bまでは14μmである。そのため、高分子弾性体1は、糸状の高分子弾性体とみなすことができる。また、極細繊維3、4、5と接着する高分子弾性体2の長さbの部分は最大幅0.6μmであり、極細繊維接着部分から枝分かれ部分までの長さbは14μmであり糸状の高分子弾性体とみなすことができる。また、長さcの部分も同様に最大幅0.6μm、長さcは16μmであり糸状の高分子弾性体とみなすことができる。一方、長さdの部分においては、最大幅2μmであり、極細繊維接着部分から枝分かれ部分までの長さdは8μmであり10μmに満たない。そのため、長さdの部分の高分子弾性体は糸状の高分子弾性体とみなすことができない。高分子弾性体2からは、2本の糸状の高分子弾性体が存在する。
【0105】
また、
図3に、本発明のシート状物における、糸状の高分子弾性体の規定方法の別の一例を示す。
図3の高分子弾性体は、枝分かれしている高分子弾性体の別の一例を示している。極細繊維7、8、9と接着する高分子弾性体6において、長さe部分は最大幅0.6μmであり、極細繊維接着部分から枝分かれ部分までの長さeの部分は15μmであり糸状の高分子弾性体とみなすことができる。長さfの部分は25μmであり糸状の高分子弾性体とみなすことができる。一方で、長さgの部分においては、最大幅0.6μmであり、極細繊維接着部分から枝分かれ部分までの長さgは6μmであり10μmに満たない。そのため、糸状の高分子弾性体とみなすことはできない。また、最大幅hの部分は最大幅が10μm以上あり、糸状の高分子弾性体とみなすことはできない。最大幅i、jの部分は最大幅が4μmであるものの、枝分かれ部分までの長さkが1μmと10μm未満であるため、どちらも糸状の高分子弾性体とみなすことはできない。つまり、高分子弾性体6は2本の糸状の高分子弾性体を含む。
【0106】
糸状の高分子弾性体の本数を20本以上とする方法としては、例えば後述の、1価陽イオン含有無機塩等を含む水分散液を繊維質基材に含浸させ、凝固処理、乾燥を行ってシート状物を得る方法が挙げられる。
【0107】
本発明において、シート状物が立毛層を有し、立毛層における極細繊維の表面被覆率が60%以上100%以下であることが好ましい。表面被覆率を60%以上、好ましくは65%以上とすることにより、より優雅な表面外観で、かつ光沢感のあるシート状物を得ることができる。光沢感が向上する原理としては、表面被覆率を上記範囲とすることにより、立毛層表面が平滑になりやすくなり、光の鏡面反射率が高い表面が得られやすくなるものと推測される。つまり、表面の繊維部分が密であれば光の反射率が上がり、光沢感が生じる。
【0108】
表面被覆率は、立毛面について、SEMにより立毛繊維の存在がわかるように観察倍率30倍~70倍に拡大し、画像分析ソフトを用いて合計面積4mm2あたりの立毛部分の総面積の比率を算出し、SEM画像5枚について、数値の平均値を立毛被覆率とした。総面積の比率は、撮影したSEM画像について、画像分析ソフトウェア「ImageJ」を用い、立毛部分と非立毛部分を閾値100に設定して2値化処理することで算出できる。また、立毛被覆率の算出において、立毛ではない物質が立毛として算出され立毛被覆率に大きく影響している場合、手動で画像を編集しその部分を非立毛部分として算出する。
【0109】
画像分析システムとしては、前記の画像分析ソフトウェア「ImageJ」が例示されるが、画像分析システムは、規定の画素の面積比率を計算する機能を有する画像処理ソフトウェアからなることであれば、画像分析ソフトウェア「ImageJ」に限らない。なお、画像処理ソフトウェア「ImageJ ver. 1.8.0_112」は通用のソフトウェアであり、アメリカ国立衛生研究所により開発された。該画像処理ソフトウェア「ImageJ」は、取り込んだ画像に対し、必要な領域を特定し、画素分析を行う機能を有している。
【0110】
[シート状物の製造方法]
次に、本発明のシート状物の製造方法について述べる。
【0111】
本発明のシート状物の製造方法は、本発明のシート状物を製造する方法であって、繊維質基材に水分散液を含浸せしめる工程、pHが1以上3以下の凝固溶媒にて凝固処理を行う酸凝固法又は80℃以上100℃以下の熱水中にて凝固処理を行う熱水凝固法により凝固処理を行う工程、100℃以上180℃以下で乾燥する工程を含み、前記繊維質基材は平均単繊維繊度が0.1μm以上10μm以下の極細繊維からなり、前記水分散液は、親水性基を有する高分子弾性体、架橋剤、前記親水性基を有する高分子弾性体固形分質量100質量部に対して10質量部以上50質量部以下の1価陽イオン含有無機塩、および増粘剤を含有する。
【0112】
本発明のシート状物の製造方法では、繊維質基材に親水性基を有する高分子弾性体樹脂を付与するため、繊維質基材に水分散液を含浸せしめる工程を含む。繊維質基材として不織布を用いる場合、複合繊維からなる不織布、極細繊維化された不織布のいずれでも用いることができる。
【0113】
親水性基を有する高分子弾性体の水分散液中の濃度(水分散液に対する、親水性基を有する高分子弾性体の含有率)は、水分散液の貯蔵安定性の観点から、水分散液全体の質量を100質量%として、10質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以上40質量%以下である。
【0114】
また、水分散液は、貯蔵安定性や製膜性向上のために、水溶性有機溶剤を、水分散液に対して40質量%以下含有していてもよいが、製膜環境の保全等の点から、水溶性有機溶剤の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0115】
本発明のシート状物の製造方法では、水分散液中に、親水性基を有する高分子弾性体固形分質量100質量部に対して10質量部以上50質量部以下の1価陽イオン含有無機塩を含有する。1価陽イオン含有無機塩を含有することで、水分散液に感熱凝固性を付与することが出来る。本発明において、感熱凝固性とは、水分散液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達すると水分散液の流動性が減少し、凝固する性質のことをいう。
【0116】
本発明のシート状物の製造方法においては、水分散液を繊維質基材に含浸後、凝固処理、乾燥を行う。親水性基を持つ高分子弾性体は水溶液中で膨潤しやすいため、凝固処理後では完全に凝固が完了していない。そこで、親水性基を有する高分子弾性体が感熱凝固性を有していない場合、高分子弾性体がシート乾燥時に極細繊維に凝固が完了していない高分子弾性体が繊維周囲を覆い、その動きを強く拘束した構造となる。これは、水分の蒸発とともにシート表面に移行する、マイグレーションの発生と水分の蒸発とともに繊維の周囲に高分子弾性体が偏在した状態で凝固が進行するためである。これらによって、シート状物の風合いは硬化する。
【0117】
水分散液の感熱凝固温度は、55℃以上80℃以下であることが好ましく、60℃以上70℃以下がさらに好ましい。感熱凝固温度を55℃以上とすることにより、水分散液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時のマシンへの高分子弾性体の付着等を抑制しやすくなる。また、感熱凝固温度を80℃以下とすることにより、繊維質基材の表層への高分子弾性体のマイグレーション現象を抑制することができ、さらに繊維質基材からの水分蒸発前に高分子弾性体の凝固が進行することで、溶剤系高分子弾性体を湿式凝固させて得られる場合と類似した構造、すなわち高分子弾性体が強く繊維を拘束しない構造を形成することが出来、良好な柔軟性、反発感を達成することが可能である。
【0118】
1価陽イオン含有無機塩は、好ましくは塩化ナトリウムおよび/または、硫酸ナトリウムである。従来手法においては、感熱凝固剤としては硫酸マグネシウムや塩化カルシウムといった2価陽イオンを有する無機塩が好適に用いられてきたが、これらの無機塩は少量の添加によっても水分散液の安定性に大きく影響するため、高分子弾性体種によっては、その添加量調整による感熱ゲル化温度の厳密な制御が困難であり、また、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の調整時や貯蔵時におけるゲル化の懸念など課題があった。一方で、イオン価数が小さい1価陽イオン含有無機塩は、水分散液の安定性への影響が小さく、添加量を調整することで水分散液の安定性を担保しながらにして、感熱凝固温度を厳密に制御することが出来る。
【0119】
本発明のシート状物の製造方法では、1価陽イオン含有無機塩を、親水性基を有する高分子弾性体固形分質量100質量部に対して10質量部以上50質量部以下含有する。含有量を10質量部以上とすることで、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液中に多量に存在するイオンが、高分子弾性体粒子に均一に作用することで、特定の感熱凝固温度において速やかに凝固を完了させることが出来る。これにより、前述のような、繊維質基材中に多量の水分を含有した状態で高分子弾性体凝固を進行させることにおいて、より顕著な効果を得ることが出来る。結果、溶剤系高分子弾性体を湿式凝固させて得られる場合に非常に類似した構造を形成し、良好な柔軟性、反発感を達成することが可能である。一方で、含有量を50質量部以下とすることで、適度な高分子弾性体の連続被膜構造を残存させ、物性の低下を抑えることが出来る。また、水分散液の安定性も保持することが出来る。
【0120】
本発明のシート状物の製造方法では、水分散液は架橋剤を含有する。架橋剤によって高分子弾性体に3次元網目構造を導入することで、耐摩耗性等の物性を向上させることが出来る。さらに前述の1価陽イオン含有無機塩と併用することで、高分子弾性体と繊維の接着構造制御によってシート状物を柔軟化すると同時に、シート状物の高物性化も達成可能となる。
【0121】
反応後に得られる高分子弾性体が耐光性や耐熱性、耐摩耗性に優れ、かつ柔軟性も良好であることから、前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤であることが好ましい。
【0122】
さらに、水分散型ポリウレタン分散液に増粘剤を併用することにより、繊維質基材に含浸された水分散型ポリウレタン分散液はその液の粘度の影響で、液浴中に拡散せず、ポリウレタンの凝固工程時の脱落を抑制でき、生産性にも非常に優れた凝固プロセスを達成できる。
【0123】
水分散液に含有される増粘剤は、ノニオン系、アニオン系、カチオン系および両イオン系の増粘剤を適用することができる。中でも、水分散液の安定性に影響を及ぼしにくいことから、前記増粘剤がノニオン性増粘剤であることが好ましい。
【0124】
増粘剤の種類としては、会合型増粘剤と水溶性高分子型増粘剤の中から選択できる。
【0125】
会合型増粘剤としては、ウレタン変性化合物やアクリル変性化合物やそれらの共重合化合物等を適用することができる。
【0126】
水溶性高分子型増粘剤としては、天然高分子化合物、半合成高分子化合物および合成高分子化合物等が挙げられる。
【0127】
天然高分子化合物としては、タマリンドガム、グァーガム、ローストビーンガム、トラガントガム、デンプン、デキストリン、ゼラチン、アガロース、カゼイン、カードラン等のノニオン性のものや、キサンタンガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、コラーゲン、コンドロイチン硫酸ソーダ、ヒアルロン酸ソーダ、カルボキシメチルデンプン、リン酸デンプン等のアニオン性のものや、カチオンデンプン、キトサン等のカチオン性のものが挙げられる。
【0128】
半合成高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、可溶性デンプン、メチルデンプン等のノニオン性のものや、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、およびアルギン酸塩等のアニオン性の化合物が挙げられる。
【0129】
合成高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリイソプロピルアクリルアミド等のノニオン性のものやカルボキシビニルポリマ-やポリアクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ソーダ等のアニオン性のものや、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ポリアミジン、ポリビニルイミダゾリン、およびポリエチレンイミン等のカチオン性の化合物が挙げられる。
【0130】
増粘剤を含む水分散液の粘度は、200mPa・s~100000mPa・sであることが好ましい。前記水分散液の粘度を200mPa・s以上にすることにより、熱水凝固工程でのポリウレタンの脱落を抑制しやすくなり、また、粘度を100000mPa・s以下とすることにより、水分散液を繊維質基材内に均一に含浸させやすくなる。
【0131】
本発明のシート状物の製造方法では、親水性基を有する高分子弾性体付与後の凝固は、pH1以上3以下の凝固溶媒にて凝固処理を行う酸凝固法又は80℃以上100℃以下の熱水にて凝固処理を行う熱水凝固法を用いる。他の凝固方法、例えば乾熱凝固法は、親水性基を有する高分子弾性体を含浸したシートを熱風乾燥機等で加熱処理するという手法であり、シート状物から水が蒸発する過程を経て高分子弾性体の凝固が進行する。そのため、高分子弾性体同士が凝集しやすく、ドメインサイズが大きくなる。一方で本発明は液浴中で凝固処理を行うため、シート内部に高分子弾性体が拡散しながら凝固が進行する。そのため、高分子弾性体のドメインサイズは小さくなり、シートが光沢感をより持ちやすい。
【0132】
本発明のシート状物の製造方法において、酸凝固法における凝固溶媒はpH1以上3以下である。前記pHは、pH1.5以上2.5以下であることが好ましい。pHを3以下とすることで、高分子弾性体の凝固を進行させやすくなる。また、pHを1以上とすることで、高分子弾性体の劣化を防ぎやすくなる。
【0133】
酸凝固法における凝固溶媒の液温は、液温20℃以上95℃以下であることが好ましい。
【0134】
また、熱水凝固法における凝固溶媒の温度は80℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは、85℃以上95℃以下で凝固させることにより、多孔構造化を達成することができる。
【0135】
さらに、本発明のシート状物の製造方法では、水分散液は架橋剤を含有するが、上記凝固処理後に好ましくは100℃以上180℃以下、より好ましくは120℃以上160℃以下の温度で乾燥処理をすることで、架橋反応を十分に促進させ、物性を向上させることが出来る。また、加熱温度を180℃以下とすることで、高分子弾性体の熱劣化を抑制することが出来る。
【0136】
また、本発明のシート状物の製造方法は、必要に応じてさらに、親水性基を有する高分子弾性体を付与した繊維質基材からPVAを除去する工程を含んでも良い。親水性基を有する高分子弾性体付与後の繊維質基材から、PVAを除去することにより、柔軟なシート状物が得られやすくなる。PVAを除去する方法は特に限定されないが、例えば、60℃以上100℃以下の熱水にシートを浸漬し、必要に応じてマングル等で搾液することにより、溶解除去することが好ましい一態様である。
【0137】
本発明では、シート状物の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させてもよい。立毛を形成する方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。立毛長は短すぎると優美な外観が得られにくく、長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向にあることから、立毛長は0.2mm以上1mm以下とすることが好ましい。
【0138】
本発明のひとつの態様において、シート状物は、染色することができる。染色方法としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができる。シート状物の染色と同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いる方法が好ましい。
【0139】
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80℃以上150℃以下とすることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、高分子弾性体の劣化を防ぐことができる。
【0140】
本発明で用いられる染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0141】
また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0142】
本発明のシート状物は、家具、椅子および壁材や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井および内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴および婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布およびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0143】
次に、実施例により、本発明のシート状物、およびその製造方法について、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0144】
[評価方法]
(1)シート状物の平均単繊維繊度:
シート状物の繊維を含む厚さ方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEM キーエンス社製VE-7800型)を用いて3000倍で観察し、30μm×30μmの視野内で無作為に抽出した50本の単繊維直径をμm単位で、小数第1位まで測定した。ただし、これを3ヶ所で行い、合計150本の単繊維の直径を測定し、平均値を小数第1位までで算出した。繊維直径が50μmを超える繊維が混在している場合には、当該繊維は極細繊維に該当しないものとして平均繊維直径の測定対象から除外するものとする。また、極細繊維が異形断面の場合、前記したように、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めた。これを母集団とした平均値を算出し、平均単繊維繊度とした。
【0145】
(2)シート状物の柔軟性:
JIS L 1096:2010「織物および編物の生地試験方法」の8.21「剛軟度」の、8.21.1に記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×35cmの試験片を5枚作成し、45°の角度の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求めた。
【0146】
(3)親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の凝固温度
各実施例、比較例で調製される、親水性基を有する高分子弾性体を含む水分散液20gを内径12mmの試験管に入れ、温度計を先端が液面よりも下になるように差し込んだ後、試験管を封止し、95℃の温度の温水浴に親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の液面が温水浴の液面よりも下になるように浸漬した。温度計により試験管内の温度の上昇を確認しつつ、適宜1回あたり5秒以内の時間、試験管を引き上げて親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の液面の流動性の有無を確認できる程度に揺すり、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液の液面が流動性を失った温度を凝固温度とした。この測定を、親水性基を有する高分子弾性体の水分散液1種につき3回ずつ行い、平均値を算出した。
【0147】
(4)高分子弾性体中の結合種の同定
上記シート状物より分離した高分子弾性体について、日本分光(株)社製FT/IR 4000 seriesを用いて、赤外分光分析により結合種を同定した。
【0148】
(5)シート状物の外観品位:
得られたシート状物の表面品位は10人のパネラーによる評価で行い、下記の基準で評価して、最も人数の多かった評価結果を採用した。なお、表面品位の評価は、
図4に示すように床面10と平行の位置にある検査台11の上にシート状物12を置き、目視確認する位置とシート状物とを結ぶ線13の距離が50cmとなるように、シート状物14に対して検査台平面から45°の角度でシート状物14を目視確認して判断した。また、検査台には、検査台上面から垂直方向に150cm上部に32Wの蛍光灯15が設置されていた。その蛍光灯15の真下、すなわち、シート状物から蛍光灯への垂線16を引くことができる位置にシート状物12を置いて表面品位評価を実施した。外観品位は、4級~5級を良好とした。
5級:繊維の分散状態は良好でかつ光沢感を持つ外観は良好である。シート状物が立毛層を有する場合、均一な繊維の立毛がある。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:繊維の分散状態はやや良くない部分があるが、外観はまずまず良好であるものの光沢感はない。シート状物が立毛層を有する場合、均一ではないが、繊維の立毛がある。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:全体的に繊維の分散状態は非常に悪く、外観は不良である。シート状物が立毛層を有する場合、ムラが多く立毛が発現しない部分が多く存在する。
【0149】
[参考例1: 親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの調製]
ポリオールに数平均分子量(Mn)が2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(表ではPTMGと記載)、イソシアネートにMDI、親水性基を含有させる成分として、2,2-ジメチロールプロピオン酸を用い、トルエン溶媒中でプレポリマーを作成した。鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミン、外部乳化剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水を添加して、攪拌した。減圧化でトルエンを除去して親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waを得た。なお、高分子弾性体aは、高分子弾性体Aに該当する高分子弾性体である。
【0150】
[参考例2:親水性基を有する高分子弾性体bの水分散液Wbの調製]
ポリオールにMnが2,000のポリヘキサメチレンカーボネート(表ではPHCと記載)、イソシアネートに水添MDI、親水性基を含有させる成分として、側鎖にポリエチレングリコールを有するジオール化合物および2,2-ジメチロールプロピオン酸を用い、アセトン溶媒中でプレポリマーを作成した。鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミンと水を添加して、攪拌した。減圧化でアセトンを除去して親水性基を有する高分子弾性体bの水分散液Wbを得た。なお、高分子弾性体bは、高分子弾性体Bに該当する高分子弾性体である。
【0151】
[実施例1]
(不織布)
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、海成分が43質量%で島成分が57質量%の複合比率で、島数16島/1フィラメント、平均繊維直径が20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により不織布とした。このようにして得られた不織布を、97℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させた。
【0152】
(繊維補強)
上記の繊維質基材用不織布にケン化度99%、重合度1400のPVA(日本合成化学株式会社製NM-14)の10質量%水溶液を含浸させ、140℃の温度で10分間加熱乾燥を行い、繊維質基材用不織布の繊維質量に対するPVAの付着量が30質量%のPVA付与シートを得た。
【0153】
(繊維極細化)
得られたPVA付与シートを、95℃の温度に加熱した濃度8g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した極細繊維からなるシート(PVA付与極細繊維不織布)を得た。
【0154】
(高分子弾性体樹脂の付与)
親水性基を有する高分子弾性体aの固形分100質量%に対して、ポリウレタン固形分濃度を20%に調製した水分散型ポリウレタン分散液Waに、ノニオン性増粘剤(グアーガム) [太陽化学(株)製「ネオソフトG」]の有効成分をポリウレタン固形分対比1質量%、感熱凝固剤として硫酸ナトリウム(表1では「Na2SO4」と記載)を30質量%添加し、カルボジイミド系架橋剤3質量%加え、水によって全体を固形分17質量%に調製し、親水性基を有する高分子弾性体aを含む水分散液を得た。感熱凝固温度は、65℃であった。得られたPVA付与極細繊維不織布を、前記水分散液に浸漬し、次いで酸凝固処理つまりpH2の液中で10分間処理後、乾燥温度120℃で30分間熱風乾燥させ、不織布の島成分質量に対するポリウレタン質量が45質量%付与された厚みが2.0mmの高分子弾性体樹脂付与シートを得た。
【0155】
(補強樹脂の除去)
得られた高分子弾性体樹脂付与シートを、95℃に加熱した水中に浸漬して10分処理を行い、付与したPVAを除去してシート状物を得た。
【0156】
(半裁と起毛)
得られたPVA除去後の高分子弾性体樹脂付与シートを厚さ方向に垂直に半裁し、半裁面の反対側をサンドペーパー番手240番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが0.7mmの立毛を有するシート状物を得た。
【0157】
(染色と仕上げ)
得られた立毛を有するシート状物を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で黒色染料を用いて染色を行った。次いで乾燥機で乾燥を行い、極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、
図1と同様、繊維と高分子弾性体が部分的に接着する構造を形成し、表層繊維の長さが均一でかつ、光沢感を有していた。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合が存在しており、糸状の高分子弾性体が49本であり、表面被覆率は72%であった。
【0158】
[実施例2]
(不織布)
実施例1と同様に実施した。
【0159】
(極細繊維化)
実施例1と同様に実施した。
【0160】
(高分子弾性体樹脂の付与)
親水性基を有する高分子弾性体aの固形分100質量%に対して、ポリウレタン固形分濃度を20%に調製した水分散型ポリウレタン分散液Waに、ノニオン性増粘剤(グアーガム)の有効成分をポリウレタン固形分対比1質量%、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを30質量%添加し、カルボジイミド系架橋剤3質量%加え、水によって全体を固形分17質量%に調製し、親水性基を有する高分子弾性体aを含む水分散液を得た。感熱凝固温度は、65℃であった。得られたPVA付与極細繊維不織布を、前記水分散液に浸漬し、次いで温度90℃の熱水中で3分間処理後、乾燥温度120℃で30分間熱風乾燥させ、不織布の島成分質量に対するポリウレタン質量が45質量%付与された厚みが2.0mmの高分子弾性体樹脂付与シートを得た。
【0161】
半裁から仕上げまでは、実施例1と同様に行い、極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、
図1と同様、繊維と高分子弾性体が部分的に接着する構造を形成し、表層繊維の長さが均一でかつ、光沢感を有していた。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合が存在しており、糸状の高分子弾性体が38本であり、表面被覆率は69%であった。
【0162】
[実施例3]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体を含む水分散液を変更した(具体的には、親水性基を有する高分子弾性体bの水分散液Wbに変更した)以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、
図1と同様、繊維と高分子弾性体が部分的に接着する構造を形成し、表層繊維の長さが均一でかつ、光沢感を有していた。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合が存在しており、糸状の高分子弾性体が44本であり、表面被覆率は66%であった。
【0163】
[実施例4]
実施例2の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体を含む水分散液を変更した(具体的には、親水性基を有する高分子弾性体bの水分散液Wbに変更した)以外は、実施例2と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、
図1と同様、繊維と高分子弾性体が部分的に接着する構造を形成し、表層繊維の長さが均一でかつ、光沢感を有していた。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合が存在しており、糸状の高分子弾性体が40本であり、表面被覆率は67%であった。
【0164】
[実施例5]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、感熱ゲル化剤として塩化ナトリウム(表1では「NaCl」と記載)を25質量%添加し、感熱凝固温度を60℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、
図1と同様、繊維と高分子弾性体が部分的に接着する構造を形成し、表層繊維の長さが均一でかつ、光沢感を有していた。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合が存在しており、糸状の高分子弾性体が46本であり、表面被覆率は70であった
[実施例6]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、感熱ゲル化剤として硫酸ナトリウムを45質量%添加し、感熱凝固温度を60℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、
図1と同様、繊維と高分子弾性体が部分的に接着する構造を形成し、表層繊維の長さが均一でかつ、光沢感を有していた。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合が存在しており、糸状の高分子弾性体が51本であり、表面被覆率は68%であった。
【0165】
[実施例7]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、感熱ゲル化剤として硫酸ナトリウムを18質量%添加し、感熱凝固温度を70℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、
図1と同様、繊維と高分子弾性体が部分的に接着する構造を形成し、表層繊維の長さが均一でかつ、光沢感を有していた。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合が存在しており、糸状の高分子弾性体が33本であり、表面被覆率は66%であった。
【0166】
[比較例1]
親水性基を有する高分子弾性体aの固形分100質量%に対して、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを30質量%添加し、カルボジイミド系架橋剤3質量%加え、水によって全体を固形分17質量%に調製し、親水性基を有する高分子弾性体aを含む水分散液を得た。感熱凝固温度は、65℃であった。得られたPVA付与極細繊維不織布を、前記水分散液に浸漬し、次いで120℃の温度の熱風で30分間乾燥することにより、繊維重量に対して高分子弾性体Aが45質量%付与された、厚みが1.9mmの高分子弾性体樹脂付与シートを得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いであったものの、外観品位が3級であった。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合を有しており、表面被覆率は67%であったが、糸状の高分子弾性体の本数は、14本であった。
【0167】
[比較例2]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、感熱凝固剤として硫酸マグネシウムを用いたこと以外は実施例1と同様にしておこなったところ、親水性基を有する高分子弾性体を含む水分散液が加工中にゲル化し、高分子弾性体樹脂付与シートを得ることは出来なかった。
【0168】
[比較例3]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、感熱ゲル化剤として硫酸マグネシウムを1.2質量%添加し、感熱凝固温度を60℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いであったものの、含浸ムラが生じ、外観品位が3級であった。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合を有しており、表面被覆率は63%であったが、糸状の高分子弾性体の本数は、17本であることを確認した。
【0169】
[比較例4]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、感熱ゲル化剤として硫酸ナトリウムを1.2質量%添加し、感熱凝固温度を95℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、硬い風合いであり、外観品位が2級であった。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合を有していたが、糸状の高分子弾性体の本数は、11本であり、表面被覆率は55%であったことを確認した。
【0170】
[比較例5]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、感熱ゲル化剤として硫酸ナトリウムを60質量%添加し、感熱凝固温度を60℃に調整したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いであったものの、外観品位が3級であった。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合を有しており、表面被覆率は69%であったが、糸状の高分子弾性体の本数は、14本であることを確認した。
【0171】
[比較例6]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、架橋剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いであったものの、外観品位が2級であった。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合を有していたが、糸状の高分子弾性体の本数は26本であり、表面被覆率は58%であったことを確認した。
【0172】
[比較例7]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、増粘剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いであったものの、外観品位が3級であった。また、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合を有していたが、糸状の高分子弾性体の本数は8本であり、表面被覆率は58%であったことを確認した。
【0173】
[比較例8]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、オキサゾリン系架橋剤を3質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、柔軟な風合いであったものの、外観品位が3級であった。また、糸状の高分子弾性体の本数が、39本であり、表面被覆率は63%であったが、高分子弾性体にN‐アシルウレア結合とイソウレア結合を確認することはできなかった。
【0174】
[比較例9]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、親水性基を有する高分子弾性体aの水分散液Waの固形分100質量%に対して、感熱凝固剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維繊度が4.4μmのシート状物を得た。得られたシート状物は、硬い風合いであり、外観品位が2級であった。また、高分子弾性体にN-アシルウレア結合とイソウレア結合を有していたが、糸状の高分子弾性体の本数は10本であり、表面被覆率は54%であったことを確認した。
【0175】
上記の実施例1~7および比較例1~9の結果を、表1、2にまとめて示す。
【0176】
【0177】
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明のシート状物は、家具、椅子および壁装や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井や内装などの表皮材、非常に優美な外観を有する内装材、および衣料や工業材料等として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0179】
1: 高分子弾性体
2: 高分子弾性体
3: 極細繊維
4: 極細繊維
5: 極細繊維
6: 高分子弾性体
7: 極細繊維
8: 極細繊維
9: 極細繊維
10: 床面
11: 検査台
12: シート状物
13: 目視確認する位置とシート状物とを結ぶ線
14: 目視確認する位置
15: 蛍光灯
16: シート状物から蛍光灯への垂線