(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】温度応答性イオン液体を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/08 20060101AFI20230801BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230801BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230801BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230801BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230801BHJP
A61K 31/197 20060101ALN20230801BHJP
A61P 25/04 20060101ALN20230801BHJP
A61K 31/407 20060101ALN20230801BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20230801BHJP
A61K 31/167 20060101ALN20230801BHJP
A61P 23/02 20060101ALN20230801BHJP
A61K 31/135 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/20
A61K47/18
A61K47/24
A61K31/197
A61P25/04
A61K31/407
A61P29/00
A61K31/167
A61P23/02
A61K31/135
(21)【出願番号】P 2020558988
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038097
(87)【国際公開番号】W WO2021070893
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019187274
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本白水 崇光
(72)【発明者】
【氏名】須藤 真史
(72)【発明者】
【氏名】高木 卓
(72)【発明者】
【氏名】平形 美樹人
(72)【発明者】
【氏名】梶原 由里
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-044849(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129527(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/119836(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121753(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/075094(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/093686(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/066457(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物と、40℃以下の下限臨界溶液温度を有する温度応答性イオン液体とを含
み、前記温度応答性イオン液体のアニオンは下記の式(I)及び/又は一般式(II)で示されるアニオンであり、前記温度応答性イオン液体のカチオンは、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンである、経口投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与又は経粘膜投与に用いる医薬組成物。
【化1】
[式(II)中、R
1
は、水素原子又はアシル基を表し、R
2
は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はスルホ基を表す。]
【請求項2】
外用剤である、請求項
1記載の医薬組成物。
【請求項3】
下限臨界溶液温度を有する温度応答性イオン液体であって、
炭素数が13以上35以下のテトラアルキルホスホニウムイオン及び/又はテトラアルキルアンモニウムイオンと、
下記の一般式(II)で示されるアニオンを有する、温度応答性イオン液体。
【化2】
[式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はスルホ基を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度応答性イオン液体を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の投与経路としては、経口投与、静脈内投与、経皮投与等が知られており、有効成分の物性や特性等に合わせて適宜開発されている。
【0003】
なかでも経皮投与は、高齢者や認知症患者等の嚥下困難な患者の服薬を容易にする、経口・注射によって医薬品の血中濃度が高くなることに起因する副作用を避ける、更に、食事による影響を受けにくいため多忙で食生活が乱れがちな患者も安定した薬効を得やすい等、患者の薬に関わるコンプライアンスを向上させるといったメリットがあるため、近年薬物透過性向上のための技術開発が進んでいる。しかしながら、一般的に水溶性薬物や分子量の大きい薬物は、高いバリア機能を持つ皮膚の角質層に阻まれるために皮膚透過性が低く、経皮吸収性が著しく低いため、経口投与や静脈内投与と比べて、投与された薬物が十分に生体内で利用されないという課題が存在する。そのため、経皮投与に適用できる薬物が限定的であるという技術課題が存在する。
【0004】
これまで、経皮投与での薬物の皮膚透過性を向上させる技術として、製剤処方としては、例えば経皮吸収促進剤の添加、投与技術としては、例えばイオントフォレーシス、マイクロニードル等様々な手法が開発されている。しかしながら、経皮吸収促進剤は薬物によって最適なものが異なるため汎用性に乏しいことや、薬物によっては経皮吸収促進剤と相溶せず、別の相溶化剤が必要になる場合がある。一方、上記の投与技術では投与時に痛みを伴ったり、原理的に皮膚に一定の損傷を与えることで感染症のリスクを有していたりと課題が残っている。
【0005】
近年、従来の経皮吸収促進剤の課題である、薬物との相溶性や薬物溶解性を改善し、経皮吸収促進効果も期待できる技術として、イオン液体による経皮吸収技術が注目されている。イオン液体はカチオンとアニオンの組み合わせが無数にあることから、物性の設計自由度が高いことが利点である。
【0006】
例えば、特許文献1では、脂肪酸系イオン液体を用いてリドカイン等の塩基性薬物やエトドラク等の酸性薬物の経皮吸収性を向上させる技術が開示されている。
【0007】
特許文献2では、薬物のバイオアベイラビリティ向上を目的として、イミダゾリウム系イオン液体である1-ブチル-3-メチル-1H-イミダゾリウムブロマイドを用いて、タキソールの溶解度を向上させる技術が開示されている。
【0008】
一方、特許文献3では、水溶性薬物の皮膚透過性を向上させることを目的として、コリン、グアニジン等の分子量が50~120、融点が50~350℃である塩基性官能基含有化合物と、LogPが-4~7.3である酸性官能基含有化合物との等モル塩を含む、経皮吸収促進剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2009/066457号
【文献】特開2007-022942号
【文献】国際公開第2016/068336号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の技術を適用できる薬物は、酸性を示す薬物あるいは塩基性を示す薬物に限定されており、汎用性に乏しい。
【0011】
特許文献2では、1-ブチル-3-メチル-1H-イミダゾリウムブロマイドにより、難溶性の薬効成分であるタキソールの溶解度を向上させる効果のみが記載されているだけであり、薬物の皮膚透過性に関する記載や示唆は一切なく、温度応答性イオン液体について開示も示唆もない。さらに、使用しているイオン液体が水溶性のため、脂溶性である角質層のバリアを乱す効果が弱く、効果が不十分であると推測される。
【0012】
特許文献3において、塩基性官能基含有化合物として実施例にて具体的なデータが開示されているのはコリン、ヒスタミン、グアニジン、イミダゾールに限られており、経皮吸収促進剤とイオン液体との関係について開示はなく、ましてや温度応答性イオン液体について開示も示唆もない。
【0013】
そこで本発明は、皮膚や粘膜等での薬物の透過性を向上させた医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、温度応答性イオン液体を用いることで、皮膚や粘膜等での薬物の透過性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を包含する。
[1] 薬物と温度応答性イオン液体とを含む、医薬組成物。
[2] 上記温度応答性イオン液体のアニオンは、芳香族カルボキシレートイオン及び芳香族スルホネートイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種類を含む、[1]記載の医薬組成物。
[3] 上記温度応答性イオン液体のアニオンは、下記の式(I)及び/又は一般式(II)で示されるアニオンである、[1]又は[2]記載の医薬組成物。
【化1】
[式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はスルホ基を表す。]
[4] 上記温度応答性イオン液体は下限臨界溶液温度を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5] 上記下限臨界溶液温度が40℃以下である、[4]記載の医薬組成物。
[6] 上記温度応答性イオン液体のカチオンは、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンである、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7] 外用剤である、[1]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[8] 下記の一般式(II)で示されるアニオンを有する、温度応答性イオン液体。
【化2】
[式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はスルホ基を表す。]
[9] 下限臨界溶液温度を有する、[8]記載の温度応答性イオン液体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、薬物の透過性に優れた医薬組成物を提供することができるため、各種剤形に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の医薬組成物は、有効成分である薬物と温度応答性イオン液体とを含むことを特徴としている。
【0019】
温度応答性イオン液体とは、カチオンとアニオンとから構成されるものであって、温度応答性を示すものであれば特に限定されない。なお、温度応答性イオン液体の融点については特に制限はない。
【0020】
ここで、温度応答性とは、温度(熱)変化に応答し、形状及び/又は性質等が変化する性質をいい、例えば、膨張と収縮等の体積変化、下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)や上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature:UCST)といった疎水性の変化等があり、これら温度応答性を示すイオン液体を温度応答性イオン液体と呼ぶ。
【0021】
上記医薬組成物において、温度応答性イオン液体としては、下限臨界溶液温度(LCST)を有することが好ましい。下限臨界溶液温度とは、温度応答性イオン液体において、低い温度から高い温度に向かって温度を上昇させていった際に、ある温度を境に温度応答性イオン液体の疎水性が急激に上昇する時の温度を意味する。このとき、温度応答性イオン液体が水を含む場合において、下限臨界溶液温度より低温側で温度応答性イオン液体が水と相溶しているかどうかは問わない。これは、下限臨界溶液温度より低温側であっても温度応答性イオン液体は水を一定量含む性質を持つことから、下限臨界溶液温度より低温側で水と相分離しているイオン液体であっても、下限臨界溶液温度以上に加熱した場合に、温度応答性イオン液体の疎水性が急激に上昇する挙動を示すためである。
【0022】
下限臨界溶液温度を有する温度応答性イオン液体(以下、LCST型の温度応答性イオン液体とも称する。)かどうかは、可視光領域の波長の吸光度を、温度を徐々に上昇させながら測定したときに、ある温度で疎水性の上昇による白濁が起こり、吸光度が急激に増加する現象を見ることで確認できる。具体的な手順は次の通りである。最初に、イオン液体と水の混合液を作製し、室温における層状態を観察する。次に、その混合液を4℃の冷蔵庫に入れてよく撹拌後、1時間静置した後の状態を観察する。ここで、イオン液体と水の混合液の室温での層状態と4℃での層状態が同じ場合は、20℃から95℃までの範囲で、0.5℃/分で昇温させた場合の450nmにおける吸光度変化を測定することで、測定したイオン液体がLCST型の温度応答性イオン液体かどうかを確認できる。また、得られた吸光度変化のデータをTm(核酸融解温度)解析プログラムの微分法で解析することで、下限臨界溶液温度を求めることができる。一方、イオン液体と水の混合液の室温での層状態と4℃での層状態とが異なる場合は、5℃から40℃までの範囲で、0.5℃/分で昇温させた場合の450nmにおける吸光度変化を測定することで、測定したイオン液体がLCST型の温度応答性イオン液体かどうかを確認できる。下限臨界溶液温度を有する温度応答性イオン液体が好ましい理由として以下のことに考えられるが、本願発明は以下の説明に特に制限されない。下限臨界溶液温度を有する温度応答性イオン液体は、下限臨界溶液温度より低い温度では、温度応答性イオン液体の両親媒性により、水溶性薬物や脂溶性薬物のいずれも効率的に溶解させることができる。一方、下限臨界溶液温度以上では、温度応答性イオン液体の疎水性がより強くなるため、脂溶性が高い角質層や粘膜と温度応答性イオン液体との間の親和性が増大し、温度応答性イオン液体が角質層や粘膜に対して効率的に作用する。加えて、疎水性の局所的変化により医薬組成物中及び、医薬組成物と角質層間において薬物の濃度勾配が生じる。これらの結果として、薬物は医薬組成物の基剤中を移動しやすく、角質層や粘膜のバリアを薬物がすり抜けやすくなり、薬物の透過性を向上させることができる。
【0023】
ヒトの平熱は37℃付近であり、薬物が投与される環境において、イオン液体が温度応答性を示すことにより、効率的に薬物の透過性を高めることができることが期待できるため、一実施形態では、温度応答性イオン液体の下限臨界溶液温度は、40℃以下であってよく、例えば、35℃以下、30℃以下、25℃以下又は20℃以下であってよい。下限値としては特に制限はなく、例えば、5℃以上、10℃以上、15℃以上である。上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、温度応答性イオン液体の下限臨界溶液温度は、5℃以上40℃以下、5℃以上30℃以下、5℃以上25℃以下、5℃以上20℃以下、10℃以上40℃以下、10℃以上30℃以下、10℃以上25℃以下、15℃以上40℃以下、15℃以上30℃以下である。
【0024】
上限臨界溶液温度を有する温度応答性イオン液体(以下、UCST型の温度応答性イオン液体とも称する。)かどうかは、可視光領域の波長の吸光度を、温度を徐々に上昇させながら測定したときに、ある温度で親水性の上昇により透明になることで、吸光度が急激に減少する現象を見ることで確認できる。具体的には、上記のLCST型の温度応答性イオン液体の確認方法と同じ方法で吸光度変化を測定することで、UCST型の温度応答性イオン液体かどうかを確認できる。また、得られた吸光度変化のデータをTm(核酸融解温度)解析プログラムの微分法で解析することで、上限臨界溶液温度を求めることができる。
【0025】
温度応答性イオン液体は、温度応答性を示す組み合わせであれば、任意のカチオンとアニオンの組み合わせを選択することができる。例えば、両者を等モルで組み合わせることができる。
【0026】
温度応答性イオン液体を構成するカチオンとしては、例えば、窒素原子をイオン中心とするもの、リン原子をイオン中心とするもの、硫黄原子をイオン中心とするもの、またイオン中心として窒素原子と硫黄原子とを持つもの等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
窒素原子をイオン中心とするカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムイオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、キノリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピペラジニウムイオン、モルホリニウムイオン、ピリダジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、オキサゾリウムイオン、トリアゾリウムイオン、グアニジウムイオン、4-アザ-1-アゾニア-ビシクロ-[2,2,2]オクタニウムイオン等が挙げられる。また、これらのカチオンにおいては任意の位置にアルキル基に代表される置換基を有していてもよく、置換基の数は複数でもよい。
【0028】
上記窒素原子をイオン中心とするカチオンとしては、イミダゾリウムイオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン又はピペリジニウムイオンが好ましい。
【0029】
イミダゾリウムイオンの具体例としては、1-メチルイミダゾリウムイオン、1-エチルイミダゾリウムイオン、1-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,3-ジアリルイミダゾリウムイオン、1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-シアノプロピル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,3-ビスシアノメチルイミダゾリウムイオン、1,3-ビス(3-シアノプロピル)イミダゾリウムイオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メトキシエチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-[2-(2-メトキシエトキシ)-エチル]-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,3-ジエトキシイミダゾリウムイオン、1,3-ジメトキシイミダゾリウムイオン、1,3-ジヒドロキシイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-[(トリエトキシシリル)プロピル]イミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0030】
アンモニウムイオンの具体例としては、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラへキシルアンモニウムイオン、トリヘキシルテトラデシルアンモニウムイオン等のテトラアルキルアンモニウムイオン、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムイオン、N,N-ジエチル-N-(2-メトキシエチル)-N-メチルアンモニウムイオン、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオン、トリメチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)アンモニウムイオン、トリメチル-(4-ビニルベンジル)アンモニウムイオン、トリブチル-(4-ビニルベンジル)アンモニウムイオン、2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムイオン、ベンジルジメチル(オクチル)アンモニウムイオン、N,N-ジメチル-N-(2-フェノキシエチル)-1-ドデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0031】
ピリジニウムイオンの具体例としては、1-エチルピリジニウムイオン、1-ブチルピリジニウムイオン、1-(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウムイオン、1-エチル-3-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-3-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-(3-シアノプロピル)ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0032】
ピロリジニウムイオンの具体例としては、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムイオン、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムイオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルピロリジニウムイオン、1-エチル-1-メチルピロリジニウムイオン等が挙げられる。
【0033】
ピペリジニウムイオンの具体例としては、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムイオン、1-ブチル-1-メチルピペリジニウムイオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルピペリジニウムイオン、1-エチル-1-メチルピペリジニウムイオン等が挙げられる。
【0034】
リン原子をイオン中心とするカチオンは、一般的にホスホニウムイオンと呼ばれ、具体的には、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラヘキシルホスホニウムイオン、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムイオン、トリフェニルメチルホスホニウムイオン、トリイソブチルメチルホスホニウムイオン、トリエチルメチルホスホニウムイオン、トリブチルメチルホスホニウムイオン、トリブチルヘキサデシルホスホニウムイオン等のテトラアルキルホスホニウムイオンや(2-シアノエチル)トリエチルホスホニウムイオン、(3-クロロプロピル)トリオクチルホスホニウムイオン、トリブチル(4-ビニルベンジル)ホスホニウムイオン、3-(トリフェニルホスホニオ)プロパン-1-スルホン酸イオン等が挙げられる。
【0035】
硫黄原子をイオン中心とするカチオンは、一般的にスルホニウムイオンと呼ばれ、具体的には、トリエチルスルホニウムイオン、トリブチルスルホニウムイオン、1-エチルテトラヒドロチオフェニウムイオン、1-ブチルテトラヒドロチオフェニウムイオン等が挙げられる。
【0036】
適度な脂溶性を持ち、温度応答性と薬剤の溶解性を両立する観点から、温度応答性イオン液体を構成するカチオンの好ましい実施形態としては、アンモニウムイオン又はホスホニウムイオンが挙げられ、より好ましくは、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンが挙げられる。一実施形態では、4つのアルキル基の合計の炭素数が13以上35以下である、テトラアルキルアンモニウムイオン(例えば、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、テトラオクチルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウムイオン、)又はテトラアルキルホスホニウムイオン(例えば、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラペンチルホスホニウムイオン、テトラオクチルホスホニウムイオン、トリブチルヘキシルホスホニウムイオン、トリブチルヘプチルホスホニウムイオン、トリブチルオクチルホスホニウムイオン、トリブチルドデシルホスホニウムイオン、トリブチルトリデシルホスホニウムイオン、トリブチルペンタデシルホスホニウムイオン、トリブチルヘキサデシルホスホニウムイオン、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムイオン)が挙げられる。テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンにおいて、4つのアルキル基はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンにおいて、カチオンの疎水性を示すCLogPの値は-1.0より大きいことが好ましい。
【0037】
温度応答性イオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等のイミド系イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン、ホスホン酸イオン、ホスフィン酸イオン、アミノ酸イオン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、これらのアニオンにおいては、任意の位置にアルキル基やアリール基に代表される置換基を有していてもよく、置換基の数は複数でもよい。
【0038】
温度応答性イオン液体を構成するアニオンとしては、芳香族カルボキシレートイオン及び芳香族スルホネートイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましい。
【0039】
芳香族カルボキシレートイオンの例としては、置換又は無置換の安息香酸イオン、例えば、安息香酸イオン、トルイル酸イオン若しくはトリフルオロメチル安息香酸イオン等の置換されていてもよいアルキル基で置換された安息香酸イオン、フルオロ安息香酸イオン、クロロ安息香酸イオン、ブロモ安息香酸イオン若しくはヨード安息香酸イオン等のハロゲン化安息香酸イオン、ホルミル安息香酸イオン若しくはアセチル安息香酸イオン等のアシル化安息香酸イオン、ヒドロキシ安息香酸イオン、アミノ安息香酸イオン、メトキシ安息香酸イオン等のアルコキシ化安息香酸イオン若しくはスルホ安息香酸イオン、又は、置換又は無置換の多環芳香族カルボン酸イオン、例えば、ナフタレンカルボン酸イオン若しくはアントラセンカルボン酸イオン等が挙げられる。温度応答性イオン液体となる組み合わせであれば、芳香族カルボキシレートイオン上の置換基の位置については、任意の位置にあって構わず、置換基の数や種類も特に制限はない。置換基としてヒドロキシ基やアミノ基等を含む場合は、該ヒドロキシ基や該アミノ基等はアシル基等でさらに置換されていてもよい。
【0040】
芳香族スルホネートイオンの例としては、置換又は無置換のベンゼンスルホン酸イオン、例えば、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、キシレンスルホン酸イオン若しくはトリクロロメチルスルホン酸イオン等の置換されていてもよいアルキル基で置換されたベンゼンスルホン酸イオン、フルオロベンゼンスルホン酸イオン、クロロベンゼンスルホン酸イオン、ブロモベンゼンスルホン酸イオン若しくはヨードベンゼンスルホン酸イオン等のハロゲン化ベンゼンスルホン酸イオン、ヒドロキシベンゼンスルホン酸イオン、アミノベンゼンスルホン酸イオン又はメトキシベンゼンスルホン酸イオン等のアルコキシ化ベンゼンスルホン酸イオン等が挙げられる。温度応答性イオン液体となる組み合わせであれば、芳香族スルホネートイオン上の置換基の位置については、任意の位置にあって構わず、置換基の数や種類も特に制限はない。置換基としてヒドロキシ基やアミノ基等を含む場合は、該ヒドロキシ基や該アミノ基等はアシル基等でさらに置換されていてもよい。
【0041】
温度応答性イオン液体を構成するアニオンの好ましい例としては、サリチル酸又はサリチル酸誘導体由来のアニオンが挙げられる。ここで、サリチル酸誘導体としては、例えば、サリチル酸のベンゼン環上に置換基を有する化合物やフェノール性水酸基に置換基を有する化合物が挙げられる。一実施形態では、上記温度応答性イオン液体を構成するアニオンは、例えば、下記の式(I)及び/又は一般式(II)で示されるアニオンである。
【化3】
【0042】
式(II)中、R1は、水素原子又はアシル基である。ここで、アシル基としては、例えば、アセチル基が挙げられる。
【0043】
式(II)中、R2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はスルホ基である。ここで、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2-フルオロエチル基が挙げられるが、これらに限定されない。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。R2の位置については、任意の位置にあって構わない。
【0044】
本発明の医薬組成物に用いられる温度応答性イオン液体としては、例えば、アンモニウムイオン(例えば、テトラアルキルアンモニウムイオン)と芳香族カルボキシレートイオン(例えば、サリチル酸又はサリチル酸誘導体由来のアニオン)とを含む温度応答性イオン液体、アンモニウムイオン(例えば、テトラアルキルアンモニウムイオン)と芳香族スルホネートイオンとを含む温度応答性イオン液体、ホスホニウムイオン(例えば、テトラアルキルホスホニウムイオン)と芳香族カルボキシレートイオン(例えば、サリチル酸又はサリチル酸誘導体由来のアニオン)とを含む温度応答性イオン液体、ホスホニウムイオン(例えば、テトラアルキルホスホニウムイオン)と芳香族スルホネートイオンとを含む温度応答性イオン液体が挙げられる。より具体的には、温度応答性イオン液体としては、テトラブチルアンモニウム=サリチレート、テトラブチルアンモニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート、テトラブチルホスホニウム=サリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート、テトラブチルホスホニウム=アセチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-ブロモサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-クロロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-クロロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-ヨードサリチレート、テトラブチルホスホニウム=3-メチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-メチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=3-カルボキシ-4-ヒドロキシベンゼンスルホネート、テトラブチルホスホニウム=p-トルエンスルホネート、テトラブチルホスホニウム=m-キシレン-4-スルホネート、テトラブチルホスホニウム=4-クロロベンゼンスルホネート、テトラブチルホスホニウム=4-ヒドロキシベンゼンスルホネート、テトラブチルホスホニウム=4-アミノトルエン-3-スルホネート等が挙げられる。
【0045】
また、本発明の医薬組成物に用いる温度応答性イオン液体には、単独で用いた場合に温度応答性を示すイオン液体だけではなく、2種類以上併用した際に温度応答性を示すイオン液体の組み合わせや、2種類以上のカチオン及び/又はアニオンを含む温度応答性イオン液体も含まれる。その際、最終的なイオン液体が温度応答性を示せば、単独では温度応答性を示さないイオン液体と温度応答性イオン液体とを組み合わせてもよい。
【0046】
例えば、イオン液体であるテトラブチルホスホニウム=4-アミノサリチレートは単独では温度応答性を示さないが、テトラブチルホスホニウム=サリチレートと等モル量混合することで、混合後のイオン液体は温度応答性を示すようになる。さらに、両者の混合比を適宜変更することで、下限臨界溶液温度を任意の値にコントロールすることができる。
【0047】
さらに、2種類以上の温度応答性イオン液体を任意の比率で混合する方法、又は温度応答性イオン液体を合成する際に、1種類のカチオンと2種類以上のアニオン、2種類以上のカチオンと1種類のアニオン、2種類以上のカチオンと2種類以上のアニオンを使用する方法でも、下限臨界溶液温度を任意の値にコントロールすることができる。例えば、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド1モルに対して、サリチル酸:4-(トリフルオロメチル)サリチル酸の合計が1モルになるように両者を任意の割合で混合することで、2種類のアニオンを含む温度応答性イオン液体を得ることができる。
【0048】
温度応答性イオン液体は、市販品を購入するか、一般的なイオン液体の合成法に準じて合成することができる。例えば、温度応答性イオン液体がアンモニウム塩である場合の製造例を挙げると、アミンをハロゲン化アルキル化合物等と反応させて得られるアンモニウム塩に対して、金属塩を用いたアニオン交換を行い、精製処理を行うことで、目的のアンモニウム塩を得る方法(アニオン交換法)や、アミンと酸を直接反応させて中和することで目的のアンモニウム塩を得る方法(中和法)等があるが、これらに限定されるものではない。温度応答性イオン液体がホスホニウム塩である場合にも、上記のアニオン交換法と中和法のいずれの方法を用いても合成することができる。中和法の場合は、ホスホニウムヒドロキシドと酸を直接反応させて中和することで目的のホスホニウム塩を得ることができる。
【0049】
本発明の医薬組成物に用いる薬物は、特に制限はなく、公知の薬物(有効成分)の中から適宜選択して用いることができる。
【0050】
薬物としては、例えば、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、フルオシノロンアセトニド、吉草酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、酪酸クロベタゾン、コハク酸プレドニゾロン等のステロイド系抗炎症剤、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、フルフェナム酸、ケトロラク、フルルビプロフェン、フェルビナク、スプロフェン、プラノプロフェン、チアプロフェン、ロキソプロフェン等の非ステロイド系抗炎症剤及びそのエステル誘導体、トラニラスト、アゼラスチン、ケトチフェン、イブジラスト、オキサトミド、エメダスチン等の抗アレルギ-剤、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、プロメタジン、トリペレナミン等の抗ヒスタミン剤、クロルプロマジン、ニトラゼパム、ジアゼパム、フェノパルビタ-ル、レセルピン等の中枢神経作用薬、インシュリン、テストステロン、ノルエチステロン、メチルテストステロン、プロゲステロン、エストラジオール等のホルモン剤、クロニジン、レセルピン、硫酸グアネチジン等の抗高血圧症剤、ジギトキシン、ジゴキシン等の強心剤、塩酸プロプラノロール、塩酸プロカインアミド、アジマリン、ピンドロール、塩酸ツロブテロール等の抗不整脈用剤、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、塩酸パパベリン、ニフェジピン等の冠血管拡張剤、リドカイン、ベンゾカイン、塩酸プロカイン、テトラカイン等の局所麻酔剤、モルヒネ、アスピリン、コデイン、トラマドール、プレガバリン、ミロガバリン、アセトアニリド、アミノピリン、エトドラク等の鎮痛剤、エペリゾン、チザニジン、トルペリゾン、イナペリゾン、メシル酸プリジノール等の骨格筋弛緩剤、アセトフェニルアミン、ニトロフラゾン、ペンタマイシン、ナフチオメート、ミコナゾール、オモコナゾール、クロトリマゾール、塩酸ブテナフィン、ビフォナゾール等の抗真菌剤、5-フルオロウラシル、ブスルファン、アクチノマイシン、プレオマイシン、マイトマイシン等の抗悪性腫瘍剤、塩酸テロリジン、塩酸オキシブチニン等の排尿障害剤、ニトラゼパム、メプロバメート等の抗てんかん剤、ロチゴチン、ロピニロール、クロルゾキサゾン、レポドパ等のパ-キンソン病治療薬、ブロナンセリン等の抗精神薬、ドネペジル、リバスチグミン等の認知症治療薬、ニコチン等の禁煙補助剤、さらにはビタミン類、プロスタグランジン類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの薬物は、その薬理学上許容される塩やそれらの溶媒和物であっても構わない。ここで、薬理学上許容される塩としては、例えば、無機酸との塩又は有機酸との塩が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩又はリン酸塩が挙げられ、有機酸との塩としては、例えば、シュウ酸塩、マロン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、グルタル酸塩、マンデル酸塩、フタル酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩又はケイ皮酸塩が挙げられる。溶媒和物としては、例えば、水和物が挙げられる。
【0051】
上記薬物の分子量に特に制限はないが、例えば、100~1000、150~600、150~500、150~400、150~350である。
【0052】
本発明の医薬組成物は、温度応答性イオン液体を含むことで、薬物の溶解度を向上させることができ、また、表皮だけではなく粘膜に対する薬物の透過性を向上させることができるため、経口投与や経鼻投与、静脈内投与、経肺投与又は経皮投与等の非経口投与といった一般に知られる投与経路を用いることができる。
【0053】
本発明の医薬組成物を経口投与する場合の剤形としては、例えば、錠剤(糖衣錠及びフィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤及びマイクロカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤又は懸濁剤が挙げられる。
【0054】
経口投与製剤の調製は、製剤分野で一般的に用いられている公知の製造方法に従って行うことができ、製剤分野において一般的に用いられる、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤及び/又は乳化剤等の薬理学的に許容しうる添加剤を適宜含有させて製造することができる。
【0055】
本発明の医薬組成物を非経口投与する場合の剤形としては、例えば、経鼻剤、点眼剤、注射剤、注入剤、点滴剤、外用剤又は坐剤が挙げられる。本発明の医薬組成物は、角質への透過促進効果を有することから、非侵襲な投与方法である外用剤が好ましい。
【0056】
上記外用剤は、従来使用されている任意の剤形、例えば、軟膏、クリーム、ゲル、ゲル状クリーム、ローション、スプレー、パップ剤、テープ剤、リザーバー型パッチ等を使用することができる。
【0057】
上記外用剤の調製は、製剤分野で一般的に用いられている公知の製造方法に従って行うことができ、製剤分野において一般的に用いられる薬理学的に許容しうる添加剤を適宜含有させて製造することができる。以下に代表的な剤形であるパップ剤とテープ剤について説明するが、これらに限定されるものではない。
【0058】
パップ剤の調製には、薬理学的に許容しうる添加剤として、例えば、水溶性高分子、多価アルコールを用いることができる。
【0059】
ここで、水溶性高分子としては、例えば、ゼラチン、カゼイン、プルラン、デキストラン、アルギン酸ナトリウム、可溶性デンプン、カルボキシデンプン、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルエーテル、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、イソブチレン無水マレイン酸共重合体、N-ビニルアセトアミド又はN-ビニルアセトアミドとアクリル酸及び/又はアクリル酸塩共重合体等が挙げられる。
【0060】
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1.3-ブチレングリコール、1.4-ブチレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン又はソルビトール等が挙げられる。
【0061】
テープ剤の調製には、薬理学的に許容しうる添加剤として、例えば、粘着性基剤、粘着付与剤を用いることができる。
【0062】
ここで、粘着性基剤としては、皮膚安全性、薬効成分放出性、皮膚への付着性等を考慮して公知のものより適宜選択でき、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等が挙げられる。
【0063】
アクリル系粘着剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体又は共重合体、あるいは上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他の官能性モノマ-との共重合体等が挙げられる。
【0064】
ゴム系粘着剤としては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ポリイソブチレン、ポリビニルエーテル、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0065】
シリコーン系粘着剤としては、例えば、ポリオルガノシロキサン又はポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0066】
粘着付与剤としては、ロジン系のものとしてロジン及び水添、不均化、重合、エステル化されたロジン誘導体、α-ピネン、β-ピネン等のテルペン樹脂、テルペン-フェノール樹脂、脂肪族系、芳香族系、脂環族系、共重合系の石油樹脂さらにアルキル-フェニル樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
【0067】
本発明の医薬組成物に含まれる温度応答性イオン液体の含有量は、特に制限はないが、薬物の溶解度を向上させ得る量を含有することが好ましく、例えば、薬物の重量に対して1重量%から1000000重量%が好ましい。温度応答性イオン液体の含有量が医薬組成物の重量に対して10重量%を超える場合、該温度応答性イオン液体はソフトカプセル剤等の内溶液とするか、適宜多孔質体を用いて該温度応答性イオン液体を粉末化して医薬組成物とすることができる。
【0068】
本発明は、本発明の医薬組成物に用いることができる温度応答性イオン液体を提供する。
【0069】
一実施形態では、下記の一般式(II)で示されるアニオンを有する温度応答性イオン液体が挙げられる。
【化4】
【0070】
式(II)中、R1は、水素原子又はアシル基であり、R2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はスルホ基である。
【0071】
上記の一般式(II)で示されるアニオンとしては、1種類でもよいし、2種類以上含んでいてもよい。
【0072】
一実施形態では、温度応答性イオン液体の例として、上記の一般式(II)で示されるアニオンと、アンモニウムイオン(例えば、テトラブチルアンモニウムイオン)又はホスホニウムイオン(例えば、テトラアルキルホスホニウムイオン)とを有する温度応答性イオン液体が挙げられるが、これらに限定されない。より具体的には、テトラブチルアンモニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート、テトラブチルホスホニウム=アセチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-ブロモサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-クロロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-クロロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-ヨードサリチレート、テトラブチルホスホニウム=3-メチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-メチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=3-カルボキシ-4-ヒドロキシベンゼンスルホネート等が挙げられる。
【0073】
また、上記の一般式(II)で示されるアニオンを有する温度応答性イオン液体であれば、アニオンは2種類以上であってもよい。例えば、上記の一般式(II)で示されるアニオンとなる成分を2種類使用して合成してもよいし、上記の一般式(II)で示されるアニオンを有する温度応答性イオン液体を2種以上混合してもよい。その具体例としては、以下に限定されないが、テトラブチルアンモニウム=サリチレート・4-(トリフルオロメチル)サリチレート、テトラブチルホスホニウム=サリチレート・4-(トリフルオロメチル)サリチレート等が挙げられる。また、テトラブチルホスホニウム=3-メチルサリチレートとテトラブチルホスホニウム=4-アミノサリチレートを混合して得られる温度応答性イオン液体や、テトラブチルホスホニウム=4-メチルサリチレートとテトラブチルホスホニウム=4-アミノサリチレートを混合して得られるイオン液体のように温度応答性イオン液体と温度応答性のないイオン液体を混合することで得られる温度応答性イオン液体も含まれる。
【0074】
上記温度応答性イオン液体は、下限臨界溶液温度を有することが好ましい。一実施形態では、温度応答性イオン液体の下限臨界溶液温度は、40℃以下であってよく、例えば、35℃以下、25℃以下又は20℃以下であってよい。下限値としては特に制限はなく、例えば、5℃以上、10℃以上、15℃以上である。上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、温度応答性イオン液体の下限臨界溶液温度は、5℃以上40℃以下、5℃以上30℃以下、5℃以上25℃以下、5℃以上20℃以下、10℃以上40℃以下、10℃以上30℃以下、10℃以上25℃以下、15℃以上40℃以下、15℃以上30℃以下である。
【0075】
上記温度応答性イオン液体は、薬物の溶解度を向上させることができ、また、表皮だけではなく粘膜に対する薬物の透過性を向上させることができるため、可溶化剤、溶解補助剤、経皮吸収促進剤として利用することができる。
【実施例】
【0076】
以下、参考例及び実施例を示して本発明を具体的に詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
合成例及び参考例の化合物の合成に使用される化合物で合成法の記載のないものについては、市販の化合物を使用した。%は、収率についてはmol/mol%を、カラムクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーで用いられる溶媒については体積%を、その他については特に断らない限り重量%を示す。NMRデータ中に示される溶媒名は、測定に使用した溶媒を示している。400MHz NMRスペクトルは、日本電子製JNM-ECS400型核磁気共鳴装置を用いて測定した。ケミカルシフトはテトラメチルシランを基準として、δ(単位:ppm)で表し、シグナルはそれぞれs(一重線)、d(二重線)、t(三重線)、q(四重線)、m(多重線)、br(幅広)又はそれらの組合せで示した。水酸基やアミノ基等のプロトンが非常に緩やかなピークであった場合は記載していない。IRスペクトルは、日本分光社製FT/IR-6800を用いてATR法で測定を行った。分子量はLC-MS/MS(LC:島津製作所製Nexera 20A/30A、MS/MS:サイエックス社製QTRAP-5500(カチオン検出)、LC:Waters社製ACUQUITY UPLC I-Class、MS/MS:サイエックス社製API-5000(アニオン検出)を用いて測定した。各種薬物の透過量は、LC-MS/MS(LC:島津製作所製Nexera 20A/30A、MS/MS:サイエックス社製QTRAP-5500)を用いて測定した。試薬は特に断りのない限り、市販のものを精製することなく反応に用いた。
【0078】
(合成例1)テトラブチルホスホニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレートの合成:
【化5】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と4-(トリフルオロメチル)サリチル酸2.06g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、4-(トリフルオロメチル)サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレートと水の混合液(以下、合成例1のサンプル)を定量的に得た。合成例1のサンプルを後述の実施例1、実施例2、実施例4、実施例5に用いた。
得られた合成例1のサンプルの一部を取り、ジクロロメタンを加えて、イオン液体を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルホスホニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート(以下、合成例1の化合物)を得た。得られた合成例1の化合物の
1H-NMR、FT-IR及びMSの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ:8.01(1H,d,J=8.0Hz),7.06(1H,s),6.94(1H,d,J=8.0Hz),2.26-2.18(8H,m),1.51-1.44(16H,m),0.94(12H,t,J=8.0Hz).
FT-IR:3390cm
-1(OH伸縮)、1592cm
-1(C=O伸縮)
MS:[M]
+=259、[M-H]
-=205
【0079】
(合成例2)テトラブチルホスホニウム=5-ブロモサリチレートの合成:
【化6】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と5-ブロモサリチル酸2.17g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、5-ブロモサリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=5-ブロモサリチレートと水の混合液(以下、合成例2のサンプル)を定量的に得た。合成例2のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例2のサンプルの一部を取り、ジクロロメタンを加えて、イオン液体を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルホスホニウム=5-ブロモサリチレート(以下、合成例2の化合物)を得た。得られた合成例2の化合物の
1H-NMR、FT-IR及びMSの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ:8.01(1H,dd,J=2.9,1.3Hz),7.28(1H,dd,J=8.3,2.9Hz),6.72(1H,dd,J=8.3,1.3Hz),2.23-2.16(8H,m),1.51-1.43(16H,m),0.94(12H,t,J=7.8Hz).
FT-IR:3398cm
-1(OH伸縮)、1577cm
-1(C=O伸縮)
MS:[M]
+=259、[M-H]
-=217
【0080】
(合成例3)テトラブチルホスホニウム=3-メチルサリチレートの合成:
【化7】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と3-メチルサリチル酸1.52g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、3-メチルサリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=3-メチルサリチレートと水の混合液(以下、合成例3のサンプル)を定量的に得た。合成例3のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例3のサンプルの一部を取り、ジクロロメタンを加えて、イオン液体を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルホスホニウム=3-メチルサリチレート(以下、合成例3の化合物)を得た。得られた合成例3の化合物の
1H-NMR、FT-IR及びMSの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ:7.77(1H,d,J=7.7Hz),7.09(1H,d,J=7.7Hz),6.61(1H,t,J=7.7Hz),2.23(3H,s)2.22-2.13(8H,m),1.53-1.36(16H,m),0.93(12H,t,J=8.0Hz).
FT-IR:3398cm
-1(OH伸縮)、1577cm
-1(C=O伸縮)
MS:[M]
+=259、[M-H]
-=151
【0081】
(合成例4)テトラブチルホスホニウム=4-メチルサリチレートの合成:
【化8】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と4-メチルサリチル酸1.52g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、4-メチルサリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=4-メチルサリチレートと水の混合液(以下、合成例4のサンプル)を定量的に得た。合成例4のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例4のサンプルの一部を取り、ジクロロメタンを加えて、イオン液体を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルホスホニウム=4-メチルサリチレート(以下、合成例4の化合物)を得た。得られた合成例4の化合物の
1H-NMR、FT-IR及びMSの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ:7.78(1H,d,J=7.8Hz),6.63(1H,d,J=1.5Hz),6.53(1H,dd,J=7.8,1.5Hz),2.45(1H,br),2.27(3H,s),2.23-2.14(8H,m),1.51-1.39(16H,m),0.94(12H,t,J=7.4Hz).
FT-IR:3398cm
-1(OH伸縮)、1581cm
-1(C=O伸縮)
MS:[M]
+=259、[M-H]
-=151
【0082】
(合成例5)テトラブチルホスホニウム=4-クロロサリチレートの合成:
【化9】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と4-クロロサリチル酸1.73g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、4-クロロサリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=4-クロロサリチレートと水の混合液(以下、合成例5のサンプル)を定量的に得た。合成例5のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例5のサンプルの一部を取り、ジクロロメタンを加えて、イオン液体を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、オレンジ色液体であるテトラブチルホスホニウム=4-クロロサリチレート(以下、合成例5の化合物)を得た。得られた合成例5の化合物の
1H-NMR、FT-IR及びMSの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ:7.83(1H,d,J=8.0Hz),6.82(1H,d,J=2.5Hz),6.53(1H,dd,J=8.0,2.5Hz),2.24-2.16(8H,m),1.51-1.41(16H,m),0.95(12H,t,J=7.2Hz).
FT-IR:3394cm
-1(OH伸縮)、1574cm
-1(C=O伸縮)
MS:[M]
+=259、[M-H]
-=171
【0083】
(合成例6)テトラブチルホスホニウム=5-クロロサリチレートの合成:
【化10】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と5-クロロサリチル酸1.73g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、5-クロロサリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=5-クロロサリチレートと水の混合液(以下、合成例6のサンプル)を定量的に得た。合成例6のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例6のサンプルの一部にジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルホスホニウム=5-クロロサリチレート(以下、合成例6の化合物)を得た。得られた合成例6の化合物の
1H-NMR、FT-IR及びMSの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ:7.87(1H,d,J=3.6Hz),7.15(1H,dd,J=9.0,3.6Hz),6.76(1H,d,J=9.0Hz),2.27-2.16(8H,m)1.53-1.41(16H,m),0.94(12H,t,J=7.6Hz).
FT-IR:3394cm
-1(OH伸縮)、1577cm
-1(C=O伸縮)
MS:[M]
+=259、[M-H]
-=171
【0084】
(合成例7)テトラブチルホスホニウム=5-ヨードサリチレートの合成:
【化11】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と5-ヨードサリチル酸2.64g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、5-ヨードサリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=5-ヨードサリチレートと水の混合液(以下、合成例7のサンプル)を定量的に得た。合成例7のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例7のサンプルの一部にジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルホスホニウム=5-ヨードサリチレート(以下、合成例7の化合物)を得た。得られた合成例7の化合物の
1H-NMR、FT-IR及びMSの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ:8.19(1H,d,J=3.5Hz),7.45(1H,dd,J=8.5,3.5Hz),6.62(1H,d,J=8.5Hz),2.40(1H,br),2.24-2.14(8H,m),1.55-1.40(16H,m),0.95(12H,t,J=7.9Hz).
FT-IR:3394cm
-1(OH伸縮)、1574cm
-1(C=O伸縮)
MS:[M]
+=259、[M-H]
-=263
【0085】
(合成例8)テトラブチルホスホニウム=3-カルボキシ-4-ヒドロキシベンゼンスルホネートの合成:
【化12】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と5-スルホサリチル酸二水和物2.54g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、5-スルホサリチル酸二水和物が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=3-カルボキシ-4-ヒドロキシベンゼンスルホネートと水の混合液(以下、合成例8のサンプル)を定量的に得た。合成例8のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例8のサンプルの一部にジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルホスホニウム=3-カルボキシ-4-ヒドロキシベンゼンスルホネート(以下、合成例8の化合物)を得た。得られた合成例8の化合物の
1H-NMR及びFT-IRの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ:8.49(1H,d,J=2.8Hz),7.96(1H,dd,J=8.1,2.8Hz),6.89(1H,d,J=8.1Hz),2.23-2.16(8H,m),1.51-1.38(16H,m),0.89(12H,t,J=7.6Hz).
FT-IR:3440cm
-1(OH伸縮)、1600cm
-1(C=O伸縮)
【0086】
(合成例9)テトラブチルホスホニウム=サリチレートの合成:
【化13】
Chem.Commun.10248-10250(2013)に記載の方法に準じて、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)とサリチル酸1.38g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=サリチレートと水の混合液(以下、合成例9のサンプル)を定量的に得た。合成例9のサンプルを後述の実施例1~6のサンプルに用いた。
【0087】
(合成例10)テトラブチルアンモニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレートの合成:
【化14】
テトラブチルアンモニウムヒドロキシド40%水溶液6.49g(10mmol)と4-(トリフルオロメチル)サリチル酸2.06g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、4-(トリフルオロメチル)サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルアンモニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレートと水の混合液(以下、合成例10のサンプル)を定量的に得た。合成例10のサンプルを後述の実施例1及び実施例2に用いた。
得られた合成例10のサンプルの一部にジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルアンモニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート(以下、合成例10の化合物)を得た。得られた合成例10の化合物の
1H-NMR、FT-IR及びMSの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ:8.02(1H,dd,J=8.0,3.0Hz),7.05(1H,dd,J=3.0Hz),6.94(1H,d,J=8.0Hz),3.20-3.21(8H,m)2.53(1H,br),1.60-1.50(8H,m),1.42-1.29(8H,m),0.95(12H,td,J=7.5,3.5Hz).
FT-IR:3417cm
-1(OH伸縮)、1593cm
-1(C=O伸縮)
MS:[M]
+=242、[M-H]
-=205
【0088】
(合成例11)テトラブチルアンモニウム=サリチレートの合成:
【化15】
テトラブチルアンモニウムヒドロキシド40%水溶液6.49g(10mmol)とサリチル酸1.38g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルアンモニウム=サリチレートと水の混合液(以下、合成例11のサンプル)を定量的に得た。合成例11のサンプルを後述の実施例1及び実施例2に用いた。
【0089】
(合成例12)テトラブチルホスホニウム=4-クロロベンゼンスルホネートの合成:
【化16】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と4-クロロベンゼンスルホン酸水和物1.93g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、4-クロロベンゼンスルホン酸水和物が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=4-クロロベンゼンスルホネートと水の混合液(以下、合成例12のサンプル)を定量的に得た。合成例12のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例12のサンプルの一部にジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルホスホニウム=4-クロロベンゼンスルホネート(以下、合成例12の化合物)を得た。得られた合成例12の化合物の
1H-NMR及びMSの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ: 7.84(2H,d,J=8.0Hz),7.30(1H,d,J=8.0Hz),2.33-2.25(8H,m),1.56-1.42(16H,m),0.96(12H,t,J=8.2Hz).
MS:[M]
+=259、[M-H]
-=191
【0090】
(合成例13)テトラブチルホスホニウム=4-ヒドロキシベンゼンスルホネートの合成:
【化17】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸水和物1.74g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸水和物が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=4-ヒドロキシベンゼンスルホネートと水の混合液(以下、合成例13のサンプル)を定量的に得た。合成例13のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例13のサンプルの一部にジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、淡黄色液体であるテトラブチルホスホニウム=4-ヒドロキシベンゼンスルホネート(以下、合成例13の化合物)を得た。得られた合成例13の化合物の
1H-NMRの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ: 7.59(2H,d,J=8.8Hz),6.89(1H,d,J=8.8Hz),2.08-1.98(8H,m),1.47-1.22(16H,m),0.89(12H,t,J=7.7Hz).
【0091】
(合成例14)テトラブチルホスホニウム=4-アミノトルエン-3-スルホネートの合成:
【化18】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と4-アミノトルエン-3-スルホン酸1.87g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、4-アミノトルエン-3-スルホン酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=4-アミノトルエン-3-スルホネートと水の混合液(以下、合成例14のサンプル)を定量的に得た。合成例14のサンプルを後述の実施例1に用いた。
得られた合成例14のサンプルの一部にジクロロメタンを加えて、有機層を抽出した。その後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濃縮することで、黄色粘性液体であるテトラブチルホスホニウム=4-アミノトルエン-3-スルホネート(以下、合成例14の化合物)を得た。得られた合成例14の化合物の
1H-NMRの測定結果は次の通りであり、目的のイオン液体が得られたことを確認した。
1H-NMR(CDCl
3)δ: 7.59(1H,d,J=2.5Hz),6.89(1H,dd,J=8.2,2.5Hz),6.54(1H,d,J=8.2Hz),2.28-2.21(8H,m),2.19(3H,s),1.52-1.40(16H,m),0.94(12H,t,J=7.5Hz).
【0092】
(合成例15)テトラブチルホスホニウム=m-キシレン-4-スルホネートの合成:
【化19】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)とm-キシレン-4-スルホン酸水和物1.86g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、m-キシレン-4-スルホン酸水和物が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=m-キシレン-4-スルホネートと水の混合液(以下、合成例15のサンプル)を定量的に得た。合成例15のサンプルを後述の実施例1及び実施例2に用いた。
【0093】
(合成例16)テトラブチルホスホニウム=p-トルエンスルホネートの合成:
【化20】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)とp-トルエンスルホン酸一水和物1.90g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、p-トルエンスルホン酸一水和物が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=p-トルエンスルホネートと水の混合液(以下、合成例16のサンプル)を定量的に得た。合成例16のサンプルを後述の実施例1に用いた。
【0094】
(合成例17)テトラブチルホスホニウム=サリチレート・p-トルエンスルホネートの合成:
【化21】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)とサリチル酸0.69g(5mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物0.95g(5mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、サリチル酸とp-トルエンスルホン酸一水和物が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=サリチレート・p-トルエンスルホネートと水の混合液(以下、合成例17のサンプル)を定量的に得た。合成例17のサンプルを後述の実施例1に用いた。
【0095】
(参考例1)テトラブチルホスホニウム=4-アミノサリチレートの合成:
【化22】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)と4-アミノサリチル酸1.53g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、4-アミノベンゼンスルホン酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=4-アミノベンゼンスルホネートと水の混合液(以下、参考例1のサンプル)を定量的に得た。参考例1のサンプルを後述の実施例1に用いた。
【0096】
(合成例18)テトラブチルホスホニウム=サリチレート・4-(トリフルオロメチル)サリチレート(1:1)の合成:
【化23】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)とサリチル酸0.69g(5mmol)、4-(トリフルオロメチル)サリチル酸1.03g(5mmоl)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、サリチル酸と4-(トリフルオロメチル)サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=サリチレート・4-(トリフルオロメチル)サリチレートと水の混合液(以下、合成例18のサンプル)を定量的に得た。合成例18のサンプルを後述の実施例1に用いた。
【0097】
(合成例19)テトラブチルホスホニウム=サリチレート・4-(トリフルオロメチル)サリチレート(2:1)の合成:
【化24】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)とサリチル酸0.92g(6.7mmol)、4-(トリフルオロメチル)サリチル酸0.69g(3.3mmоl)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、サリチル酸と4-(トリフルオロメチル)サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=サリチレート・4-(トリフルオロメチル)サリチレート(2:1)と水の混合液(以下、合成例19のサンプル)を定量的に得た。合成例19のサンプルを後述の実施例1及び実施例2に用いた。
【0098】
(合成例20)テトラブチルホスホニウム=サリチレート・4-(トリフルオロメチル)サリチレート(3:1)の合成:
【化25】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)とサリチル酸1.04g(7.5mmol)、4-(トリフルオロメチル)サリチル酸0.690.52g(2.5mmоl)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、サリチル酸と4-(トリフルオロメチル)サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=サリチレート・4-(トリフルオロメチル)サリチレートと水の混合液(以下、合成例20のサンプル)を定量的に得た。合成例20のサンプルを後述の実施例1に用いた。
【0099】
(参考例2)テトラブチルホスホニウム=ベンゼンスルホネートの合成:
【化26】
テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40%水溶液6.91g(10mmol)とベンゼンスルホン酸一水和物1.76g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、ベンゼンスルホン酸一水和物が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=ベンゼンスルホネートと水の混合液(以下、参考例2のサンプル)を定量的に得た。参考例2のサンプルを後述の実施例1及び実施例2に用いた。
【0100】
(参考例3)コリニウム=デカノエートの合成:
【化27】
コリン50%水溶液2.42g(10mmоl)とデカン酸1.72g(10mmоl)、Milli-Q(登録商標:Merck KGaA)水4.5mLをそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、デカン酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、コリニウム=デカノエートと水の混合液(以下、参考例3のサンプル)を定量的に得た。参考例3のサンプルを後述の実施例1及び実施例2に用いた。なお、コリニウム=デカノエートは、特許文献3のコリン-カプリン酸に相当する。
【0101】
(参考例4)ジイソプロパノールアンモニウム=デカノエートの合成:
【化28】
ジイソプロパノールアミン20%水溶液6.65g(10mmоl)とデカン酸.72g(10mmоl)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、デカン酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、ジイソプロパノールアンモニウム=デカノエートと水の混合液(以下、参考例4のサンプル)を定量的に得た。参考例4のサンプルを後述の実施例1及び実施例2に用いた。なお、ジイソプロパノールアンモニウム=デカノエートは、特許文献1のカプリン酸ジイソプロパノールアミン塩に相当する。
【0102】
(参考例5)コリニウム=サリチレートの合成:
【化29】
コリン50%水溶液2.42g(10mmоl)とサリチル酸1.38g(10mmо1)、Milli-Q(登録商標:Merck KGaA)水4.5mLをそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、コリニウム=サリチレートと水の混合液(以下、参考例5のサンプル)を定量的に得た。参考例5のサンプルを後述の実施例1に用いた。
【0103】
(実施例1)イオン液体の温度応答性確認
合成例1~20のサンプル、参考例1~5のサンプル、参考例1のサンプルと合成例9のサンプルとの体積比1:1の混合物、参考例1のサンプルと合成例3のサンプルとの体積比1:1の混合物、参考例1のサンプルと合成例4のサンプルとの体積比1:1の混合物、合成例9のサンプルと合成例16のサンプルとの体積比1:1及び体積比2:1混合物のそれぞれについて、温度応答性の有無を確認した。具体的には、以下の測定条件を用いて、各温度での450nmでの吸光度変化を測定することで、温度応答性の有無を確認した。なお、室温で水と相溶しているイオン液体(合成例3のサンプル、合成例4のサンプル、合成例9のサンプル、合成例11のサンプル、合成例14のサンプル、合成例16のサンプル、合成例17のサンプル、参考例1~5のサンプル)及びそれらの混合物については、イオン液体水溶液のままで測定を行い、室温で水と分離しているイオン液体(合成例1のサンプル、合成例2のサンプル、合成例5~8のサンプル、合成例10のサンプル、合成例12のサンプル、合成例13のサンプル、合成例15のサンプル)については、各合成例に記載の水とイオン液体との混合液を遠心又は静置によって分離することで得られるイオン液体層を抜き出して測定を行った。また、合成例18~20のサンプルについては、4℃の冷蔵庫に1時間以上静置後、4℃のまま攪拌し、再度4℃の冷蔵庫内で静置して均一な状態になった状態のサンプルを用いて測定を行った。得られた結果を表1-1、表1-2及び表1-3に示す。参考例1~5のサンプル以外は、いずれのイオン液体も下限臨界溶液温度を有する温度応答性を示し、温度応答性イオン液体であることを確認した。
【0104】
(測定条件)
・測定機器:島津製作所製分光光度計UV1650PC
・検出波長:450nm
・初期待機時間:10分
・昇温条件:20℃→95℃(0.5℃/分)
・解析方法:Tm(核酸融解温度)解析プログラムを用いて微分法で算出
【0105】
なお、参考例3~5のサンプルについては、以下の条件で測定を実施した。
・測定機器:日本分光製分光光度計V-750
・検出波長:450nm
・初期待機時間:5分
・昇温条件:20℃→95℃(0.5℃/分)
・解析方法:Tm(核酸融解温度)解析プログラムを用いて微分法で算出
【0106】
また、合成例18~20のサンプルは、以下の測定条件で実施した。
・測定機器:日本分光製分光光度計V-750
・検出波長:450nm
・初期待機時間:10分
・昇温条件:5℃→40℃(0.5℃/分)
・解析方法:Tm(核酸融解温度)解析プログラムを用いて微分法で算出
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
表1-1、表1-2及び表1-3中、LCSTは下限臨界溶液温度を示す。
【0111】
(実施例2)ヒト培養表皮モデルを用いたプレガバリンの透過性試験
ヒト培養表皮モデル(LabCyte EPI-MODEL12、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)を用い、角質層側をドナー相、基底層側をレセプター相として、プレガバリン(Pregabalin)のドナー相からレセプター相への透過性に対する温度応答性イオン液体の透過性亢進試験を行った。該試験は37℃のインキュベーター中で行った。ドナー相にはプレガバリンを10mg/mLになるように、水又は100mmol/Lの温度応答性イオン液体の水溶液若しくは水分散液に溶解した溶液を300μL添加し、24時間後にレセプター液をサンプリングして、LC-MS/MSによりプレガバリンの透過量を求めた。なお、レセプター液にはハンクス平衡塩溶液を用いた。試験サンプルとしては、合成例1のサンプル、合成例9のサンプル、合成例10のサンプル、合成例11のサンプル、合成例15のサンプル、合成例19のサンプル、参考例2~4のサンプルを上記の濃度に調整して使用した。
【0112】
得られた結果を表2に示す。プレガバリンを水に溶解させた場合(コントロール)に比べて温度応答性イオン液体に溶解させた場合では、皮膚透過性が低いとされる水溶性薬物であるプレガバリン(CLogP=-0.516)の透過量が顕著に増加し、プレガバリンの皮膚透過性の亢進が認められた。特に、サリチル酸又はサリチル酸誘導体由来のアニオンを有する温度応答性イオン液体で高い効果が認められた。一方、参考例2~4のサンプルを用いた場合は、温度応答性イオン液体を用いた場合に比べて、プレガバリンの皮膚透過性の亢進効果が低いものであった。
【0113】
【0114】
(実施例3)ヒト培養表皮モデルを用いたエトドラクの透過性試験
ヒト培養表皮モデル(LabCyte EPI-MODEL12、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)を用い、角質層側をドナー相、基底層側をレセプター相として、エトドラク(Etodolac)のドナー相からレセプター相への透過性に対する温度応答性イオン液体の透過性亢進試験を行った。該試験は37℃のインキュベーター中で行った。ドナー相にはエトドラクを1mmоl/Lになるように、0.5%メチルセルロース水溶液に懸濁させた溶液又は100mmol/Lの温度応答性イオン液体の水溶液に溶解した溶液を300μL添加し、24時間後にレセプター液をサンプリングして、LC-MS/MSによりエトドラクの透過量を求めた。なお、レセプター液にはハンクス平衡塩溶液を用いた。試験サンプルとしては、合成例9のサンプルを上記の濃度に調整して使用した。
【0115】
得られた結果を表3に示す。脂溶性薬物であるエトドラク(CLogP=3.43)を用いた場合にも、合成例9の温度応答性イオン液体を用いることでエトドラクの透過量の増加が見られた。なお、0.5%メチルセルロース水溶液を用いた場合(コントロール)は、エトドラクの一部が溶解せずに懸濁液となった。一方で、合成例9の温度応答性イオン液体を用いた場合は、溶液となり、エトドラクを完全溶解させることが可能になった。このことから、温度応答性イオン液体を用いることでエトドラク等の薬物の溶解度を向上させられることが明らかになり、薬物の皮膚透過性向上と溶解度向上を両立させることができることを確認した。
【0116】
【0117】
(実施例4)ヒト培養表皮モデルを用いたリドカイン塩酸塩・一水和物の透過性試験
ヒト培養表皮モデル(LabCyte EPI-MODEL12、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)を用い、角質層側をドナー相、基底層側をレセプター相として、リドカイン塩酸塩・一水和物(Lidocaine hydrochloride mоnоhydrate)のドナー相からレセプター相への透過性に対する温度応答性イオン液体の透過性亢進試験を行った。該試験は37℃のインキュベーター中で行った。ドナー相にはリドカイン塩酸塩・一水和物を10mg/mLになるように、水又は100mmol/Lの温度応答性イオン液体の水溶液若しくは水分散液に溶解した溶液を300μL添加し、24時間後にレセプター液をサンプリングして、LC-MS/MSによりリドカイン塩酸塩・一水和物の透過量を求めた。なお、レセプター液にはハンクス平衡塩溶液を用いた。試験サンプルとしては、合成例1のサンプル、合成例9のサンプルを上記の濃度に調整して使用した。
【0118】
得られた結果を表4に示す。塩基性薬物であるリドカイン(CLogP=1.95)塩酸塩・一水和物においても、水に溶解させた場合(コントロール)に比べ、温度応答性イオン液体に溶解させた場合では、リドカイン塩酸塩・一水和物の皮膚透過性が大きく向上することを確認した。
【0119】
【0120】
(実施例5)ヒト培養表皮モデルを用いたトラマドール塩酸塩の透過性試験
ヒト培養表皮モデル(LabCyte EPI-MODEL12、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)を用い、角質層側をドナー相、基底層側をレセプター相として、トラマドール塩酸塩(Tramadol hydrochloride)のドナー相からレセプター相への透過性に対する温度応答性イオン液体の透過性亢進試験を行った。該試験は37℃のインキュベーター中で行った。ドナー相にはトラマドール塩酸塩を10mg/mLになるように、水又は100mmol/Lの温度応答性イオン液体の水溶液若しくは水分散液に溶解した溶液を300μL添加し、24時間後にレセプター液をサンプリングして、LC-MS/MSによりトラマドール塩酸塩の透過量を求めた。なお、レセプター液にはハンクス平衡塩溶液を用いた。試験サンプルとしては、合成例1のサンプル、合成例9のサンプルを上記の濃度に調整して使用した。
【0121】
【0122】
得られた結果を表5に示す。塩基性薬物であるトラマドール(CLogP=3.10)塩酸塩においても、水に溶解させた場合(コントロール)に比べ、温度応答性イオン液体に溶解させた場合では、トラマドール塩酸塩の皮膚透過性が大きく向上することを確認した。
【0123】
(実施例6)エトドラクの経口製剤の調製
エトドラク0.287mgを1mоl/Lのテトラブチルホスホニウム=サリチレート(合成例9のサンプル)水溶液1mLと乳鉢で混合することで、エトドラクの液状経口製剤を調製した。コントロールとして、エトドラク0.287mgと水1mLとを乳鉢で混合したところ、均一溶液にならず、懸濁液が得られるのみであった。エトドラクの水に対する溶解度は0.11mg/mLであるが、テトラブチルホスホニウム=サリチレート(合成例9のサンプル)を用いることで、より高濃度(>0.287mg/mL)のエトドラクを用いた場合にも、均一な経口製剤を得ることができた。
【0124】
以上の結果から、温度応答性イオン液体を用いることにより、薬物の溶解度を向上させることができることが明らかになった。そして、医薬組成物中に温度応答性イオン液体を含有させることで、薬物の構造や物性にかかわらず薬物の透過性が向上することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の医薬組成物は、皮膚や粘膜等での薬物の透過性を向上させることができるため、外用剤等の医薬品として利用できる。