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特許7323402繊維強化樹脂複合材及び繊維強化樹脂複合材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂複合材及び繊維強化樹脂複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 29/04 20060101AFI20230801BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20230801BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20230801BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20230801BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20230801BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20230801BHJP
   B62D 25/04 20060101ALN20230801BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
B62D29/04 Z
F16F7/00 J
F16F7/12
B29C43/18
B29C70/16
B29C70/42
B62D25/04 B
B29K105:08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019176137
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021054105
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向中野 侑哉
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-291232(JP,A)
【文献】特開2006-027433(JP,A)
【文献】特開2005-225364(JP,A)
【文献】特開平01-166936(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015224388(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0010688(US,A1)
【文献】特開2006-188141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
B62D 29/04
F16F 7/00
F16F 7/12
B29C 70/32
B29C 70/86
B29C 70/16
B29C 70/42
B29C 43/18
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体構造に用いられる長手方向を有する筒状の繊維強化樹脂複合材において、
前記筒状の軸方向に沿って配置された第1の繊維と、
前記筒状の軸方向に交差する方向に沿って全周面に渡って巻回された第2の繊維と、を含み、
車体の衝突時に主として引張応力を受ける引張面における単位面積当たりの前記第1の繊維の数が、車体の衝突時に主として圧縮応力を受ける圧縮面における単位面積当たりの前記第1の繊維の数よりも多く、かつ、
前記筒状を形成するそれぞれの面のうちの少なくとも一つの面内において、前記車体の衝突時に受ける引張応力が相対的に大きい領域における単位面積当たりの前記第1の繊維の数が、前記車体の衝突時に受ける引張応力が相対的に小さい領域における単位面積当たりの前記第1の繊維の数よりも多い、繊維強化樹脂複合材。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂複合材の少なくとも最表面側に前記第2の繊維が巻回される、請求項に記載の繊維強化樹脂複合材。
【請求項3】
車体構造に用いられる筒状の繊維強化樹脂複合材の製造方法において、
芯材に対して、前記筒状の軸方向に沿って配置された第1の繊維を含む繊維強化樹脂シートを配置することと、前記筒状の軸方向に交差する方向に沿って全周面に渡って第2の繊維を巻回することと、を所定の回数及び順序で実施する工程と、
少なくとも前記繊維強化樹脂シートに含まれるマトリックス樹脂を硬化させる工程と、
を備え、
車体の衝突時に主として引張応力を受ける引張面における単位面積当たりの前記第1の繊維の数が、車体の衝突時に主として圧縮応力を受ける圧縮面における単位面積当たりの前記第1の繊維の数よりも多くなるように、かつ、
前記筒状を形成するそれぞれの面のうちの少なくとも一つの面内において、前記車体の衝突時に受ける引張応力が相対的に大きい領域における単位面積当たりの前記第1の繊維の数が、前記車体の衝突時に受ける引張応力が相対的に小さい領域における単位面積当たりの前記第1の繊維の数よりも多くなるように、前記第1の繊維を含む前記繊維強化樹脂シートを配置する、繊維強化樹脂複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂を用いた繊維強化樹脂複合材及び繊維強化樹脂複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車等の車両の軽量化を目的として、センターピラー等の車体の構造材を、炭素繊維等の強化繊維を含有する繊維強化樹脂を用いて製造することが検討されている。繊維強化樹脂製の部材は、高い剛性を有し、特に繊維の配向方向に作用する引張応力に対して高い強度を発揮する。
【0003】
かかる繊維強化樹脂複合材の一態様として、複合材を構成する複数の平面又は曲面それぞれを、異なる強度特性を有するCFRP(炭素繊維強化樹脂)材で構成した自動車用衝撃吸収部材がある。繊維強化樹脂シートは、連続繊維の配向方向によって得られる強度特性が異なる。したがって、繊維強化樹脂複合材を構成するそれぞれの面に配置される繊維強化樹脂シートの連続繊維の配向方向を異ならせることにより、面ごとに強度特性を異ならせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-225364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記のような繊維強化樹脂複合材を製造する方法として、芯材の周囲に強化繊維を連続的に巻回し、あるいは、芯材の周囲に繊維強化樹脂シートを巻回し、強化繊維に含侵させたマトリックス樹脂を硬化させて成形する方法が知られている。芯材の周囲に強化繊維あるいは繊維強化樹脂シートを巻回する方法で繊維強化樹脂複合材を製造することにより、筒状の繊維強化樹脂層の連続性が得られ、車両の衝突時等において破壊の起点となり得る部位を少なくすることができる。
【0006】
しかしながら、単純に繊維強化樹脂や繊維強化樹脂シートを巻回する方法では、筒状の繊維強化樹脂の周囲の側面がすべて同じ積層構造になるため、それぞれの側面に求められる特性を適切に実現させることができない。例えば、車体構造に用いられる繊維強化樹脂複合材として、一側面には引張応力に対する強度が求められ、別の側面には圧縮応力に対する強度が求められる部材があるが、同じ積層構造になると、ある側面に対して強度が弱くなったり過剰になったりするおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、芯材の周囲に繊維強化樹脂や繊維強化樹脂シートを巻回して形成される筒状の繊維強化樹脂複合材において、車両の衝突時にそれぞれの側面に作用する引張応力又は圧縮応力に対して適切な強度特性を得ることが可能な、繊維強化樹脂複合材及び繊維強化樹脂複合材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、車体構造に用いられる長手方向を有する筒状の繊維強化樹脂複合材であって、筒状の軸方向に沿って配置された第1の繊維と、筒状の軸方向に交差する方向に沿って全周面に渡って巻回された第2の繊維と、を含み、車体の衝突時に主として引張応力を受ける引張面における単位面積当たりの第1の繊維の数が、車体の衝突時に主として圧縮応力を受ける圧縮面における単位面積当たりの第1の繊維の数よりも多く、かつ、筒状を形成するそれぞれの面のうちの少なくとも一つの面内において、車体の衝突時に受ける引張応力が相対的に大きい領域における単位面積当たりの第1の繊維の数が、車体の衝突時に受ける引張応力が相対的に小さい領域における単位面積当たりの第1の繊維の数よりも多い、繊維強化樹脂複合材が提供される。
【0010】
上記の繊維強化樹脂複合材において、繊維強化樹脂複合材の少なくとも最表面側に第2の繊維が巻回されてもよい。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、車体構造に用いられる筒状の繊維強化樹脂複合材の製造方法であって、芯材に対して、筒状の軸方向に沿って配置された第1の繊維を含む繊維強化樹脂シートを配置することと、筒状の軸方向に交差する方向に沿って全周面に渡って第2の繊維を巻回することと、を所定の回数及び順序で実施する工程と、少なくとも繊維強化樹脂シートに含まれるマトリックス樹脂を硬化させる工程と、を備え、車体の衝突時に主として引張応力を受ける引張面における単位面積当たりの第1の繊維の数が、車体の衝突時に主として圧縮応力を受ける圧縮面における単位面積当たりの第1の繊維の数よりも多くなるように、かつ、筒状を形成するそれぞれの面のうちの少なくとも一つの面内において、車体の衝突時に受ける引張応力が相対的に大きい領域における単位面積当たりの第1の繊維の数が、車体の衝突時に受ける引張応力が相対的に小さい領域における単位面積当たりの第1の繊維の数よりも多くなるように、第1の繊維を含む繊維強化樹脂シートを配置する、繊維強化樹脂複合材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、芯材の周囲に繊維強化樹脂や繊維強化樹脂シートを巻回して形成される筒状の繊維強化樹脂複合材において、車両の衝突時にそれぞれの側面に作用する引張応力又は圧縮応力に対して適切な強度特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】車体側部構造の外観を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材を用いたセンターピラーをY方向に見た模式図である。
図3】車両の側面衝突時のセンターピラーの様子を示す説明図である。
図4】センターピラーの筒状部の構成を示す断面図である。
図5】センターピラーの筒状部の構成を示す側面図である。
図6】一面内で単位面積当たりの0°繊維の数を異ならせた構成例を示す説明図である。
図7】繊維強化樹脂積層体の接続部の構成例を示す説明図である。
図8】本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材としての筒状部の第1の製造方法の一例を示す説明図である。
図9】ホットプレス成形法により繊維強化樹脂層を形成する例を示す説明図である。
図10】オートクレーブ成形法により繊維強化樹脂層を形成する例を示す説明図である。
図11】本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材としての筒状部の第2の製造方法の一例を示す説明図である。
図12】本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材としての筒状部の第3の製造方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
<繊維強化樹脂複合材>
以下、本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂複合材の一例として、繊維強化樹脂複合材を用いたセンターピラーを例に採って説明する。図1及び図2は、センターピラーの全体構成を説明するために示す図である。図1は、車体側部構造1の外観を示す模式図である。図1に示す車体側部構造1は、車両の左側部の構造の一部を概略的に示している。図2は、センターピラー3を、車両の外側から車幅方向に見た図である。なお、図1及び図2に示すように、本明細書において、車幅方向をY方向、車両の前後方向(車長方向)をX方向、車高方向をZ方向と表記する場合がある。
【0018】
車体側部構造1は、ルーフサイドレール5、リアピラー4、フロントピラー2、センターピラー3及びサイドシル6等により構成されている。ルーフピラー5は、車両の車室空間の上部にX方向に沿って延在し、車両の屋根のサイド部分を形成している。サイドシル6は、車両の側部の下部にX方向に沿って延在する。
【0019】
フロントピラー2は、下端がサイドシル6の前端に接続され、上端がルーフサイドレール5の前端に接続されている。フロントピラー2は、車両の車室空間を構成する前部を形成し、フロントガラスのサイドを支持するように配置される。リアピラー4は、下端がサイドシル6の後端に接続され、上端がルーフサイドレール5の後端に接続される。センターピラー3は、下端がサイドシル6のX方向中央部に接続され、上端がルーフサイドレール5のX方向中央部に接続される。
【0020】
サイドシル6、ルーフピラー5、フロントピラー2及びセンターピラー3の間には、フロントドア用の開口部が形成されている。また、サイドシル6、ルーフピラー5、リアピラー4及びセンターピラー3の間には、リアドア用の開口部が形成されている。
【0021】
かかる車体側部構造1において、センターピラー3は、Z方向に沿う長手方向を有し、略筒状に形成されている。センターピラー3は、上端に設けられたルーフサイドレール接続部16と、下端に設けられたサイドシル接続部14と、ルーフサイドレール接続部16とサイドシル接続部14との間に位置するピラー本体部12とを有する。本実施形態において、センターピラー3は、繊維強化樹脂を用いて成形されている。
センターピラー3のルーフピラー接続部16及びサイドシル接続部14は、いずれも軸方向がX方向に沿って配置された略筒状を有する。ピラー本体部12は、軸方向がZ方向に沿って配置された略筒状を有する。ルーフサイドレール接続部16及びサイドシル接続部14は、中空の筒状であってもよく、中実の筒状であってもよい。ピラー本体部12は、本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材として構成された筒状部40と、筒状部40のX方向の両側に設けられたフランジ部21,31とを有する。フランジ部21,31は、例えば接着剤により筒状部40の側面に接合されている。フランジ部21,31は、例えば、フロントドア及びリアドアの戸当たりとしての機能を有している。少なくとも筒状部40は、強化繊維に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含浸させた繊維強化樹脂を用いて構成された複合材料であり、高強度、かつ、軽量化を実現可能になっている。
【0022】
図3は、車両の側面衝突時のセンターピラー3の様子を示す説明図である。図3に示すように、ピラー本体部12の上部に位置する領域(「第1の領域」ともいう)Aは、少なくとも乗用車のバンパの高さに対応する側面衝突想定部位Cよりも上方に位置する。また、ピラー本体部12の下部に位置する領域(「第2の領域」ともいう)Bは、側面衝突想定部位Cを含む。第1の領域Aは、第2の領域Bに比べて変形しにくく、側面衝突時において搭乗者の頭部を保護する機能を有する。第2の領域Bは、第1の領域Aに比べて変形しやすく、側面衝突時に入力される衝突荷重を吸収する機能を有する。
【0023】
車両の側面衝突時において、ピラー本体部12に衝突荷重が入力されると、ピラー本体部12のうち、車室側(インナ側)に位置する側面は、主としてZ方向への引張応力が発生する引張面となる一方、車外側(アウタ側)に位置する側面は、主としてZ方向の圧縮応力が発生する圧縮面となる。また、インナ側の側面とアウタ側の側面とを繋ぐ2つの側面は、衝突荷重の入力時において、引張場及び圧縮場の両方が存在する。このため、本実施形態に係るセンターピラー3において、アウタ側に位置するピラー本体部12の側面は、主として圧縮応力に対する強度が高められて構成されている。また、インナ側に位置するピラー本体部12の側面は、主として引張応力に対する強度が高められて構成されている。
【0024】
図4及び図5は、ピラー本体部12の筒状部40の構成例を示す説明図である。図4は、図2に示すI-Iの位置におけるピラー本体部12の筒状部40を矢印方向に見た断面図である。つまり、図4は、ピラー本体部12の第2の領域Bの断面図を示している。図5は、筒状部40の側面図であり、圧縮面となり得る側面を示している。
【0025】
本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材としての筒状部40は、芯材41と、芯材41の周囲に設けられた繊維強化樹脂層43とを備える。芯材41は、例えば、筒状部40の強度を高めるため、あるいは、筒状部40の成形を容易にするために備えられるが、その機能は特に限定されるものではない。芯材41は、例えば、樹脂、金属、多孔質材料、ハニカム構造材又は木材等で構成されていてもよい。なお、センターピラー3は、芯材41を備えていなくてもよい。
【0026】
繊維強化樹脂層43は、芯材41の周囲の全周に亘って形成されている。このため、筒状部40は、閉断面構造を有している。繊維強化樹脂層43は、連続繊維を含む樹脂を硬化させて形成されている。繊維強化樹脂層43は、連続繊維以外にも短繊維を含んでいてもよい。使用可能な連続繊維としては、代表的には炭素繊維が挙げられるが、他の繊維であってもよく、さらには、複数の繊維が組み合わせられて用いられてもよい。ただし、炭素繊維は機械特性に優れていることから、強化繊維が炭素繊維を含むことが好ましい。
【0027】
繊維強化樹脂シートのマトリックス樹脂には、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂)、ポリスチレン樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合合成樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、又はポリイミド樹脂等が例示される。
【0028】
マトリックス樹脂としては、これらの熱可塑性樹脂のうちの1種類、あるいは2種類以上の混合物が使用され得る。あるいは、マトリックス樹脂は、これらの熱可塑性樹脂の共重合体であってもよい。熱可塑性樹脂が混合物である場合には、さらに相溶化剤が併用されてもよい。さらに、熱可塑性樹脂には、難燃剤として臭素系難燃剤、シリコン系難燃剤、赤燐などが加えられてもよい。
【0029】
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂等が例示される。マトリックス樹脂としては、これらの熱硬化性樹脂のうちの1種類、あるいは2種類以上の混合物が使用され得る。これらの熱硬化性樹脂が用いられる場合、熱硬化性樹脂に、適宜の硬化剤や反応促進剤が加えられてもよい。
【0030】
繊維強化樹脂層43は、筒状部40の軸方向(Z方向)に沿う連続繊維(以下、「0°繊維」ともいう)と、筒状部40の軸方向(Z方向)に対してプラスマイナス45°の方向に沿う連続繊維(以下、「45°繊維」ともいう)とを含む。図4において、破線が45°繊維を表し、黒丸●が0°繊維の断面を表している。本実施形態において、0°繊維が第1の繊維に相当し、45°繊維が第2の繊維に相当する。また、本実施形態においては、軸方向に沿うZ方向が第1の方向に相当し、Z方向に対して45°に交差する方向が第2の方向に相当する。なお、本実施形態では第2の繊維が45°繊維であるが、第2の繊維の配向方向のZ方向に対する傾きは、プラスマイナス45°に限られない。
【0031】
45°繊維は、筒状部40の全周面に渡って巻回されている。したがって、45°繊維は、アウタ側に位置する圧縮面、インナ側に位置する引張面、圧縮面と引張面とを繋ぐ両側面のすべての面において、任意の大きさの単位面積当たりの数が同一となるように配置されている。単位面積当たりの繊維の数とは、図4に示すように、筒状部40の軸方向断面において、圧縮面及び引張面の任意の大きさの単位面積の断面を見たときに存在する繊維の数を意味する。
【0032】
45°繊維は、ブレーディング法やフィラメントワインディング法により芯材41の周囲に連続的に巻回されてもよく、マトリックス樹脂中に45°繊維が配置された繊維強化樹脂シートを芯材41の周囲に巻回することにより配置されてもよい。中でも、ブレーディング法やフィラメントワインディング法により巻回された45°繊維であれば、芯材41の全周に渡って切れ目がなく、繊維強化樹脂層43の連続性が形成されるために好適である。
【0033】
筒状部40の断面は略矩形状を有しており、筒状部40は、それぞれ長手方向に沿う4つの稜線部42a-42dを有する(以下、特に区別を要しない場合には稜線部42と総称する)。45°繊維は、稜線部42を交差するように稜線部42を跨ぐように配置されている。このため、稜線部42における繊維強化樹脂層43の連続性が生じ、衝突荷重の入力時に破壊の起点となることを抑制することができる。
【0034】
一方、0°繊維に関して、少なくともインナ側に位置する引張面における単位面積当たりの0°繊維の数が、アウタ側に位置する圧縮面における単位面積当たりの0°繊維の数よりも多くされている。図4に示した筒状部40の断面において、引張面における0°繊維の密度が圧縮面における0°繊維の密度よりも大きくなっている。これにより、引張面において、0°繊維を含む繊維強化樹脂シートの層を増やすことなく、Z方向への引張応力に対する強度が相対的に高められている。また、圧縮面においては、0°繊維を過剰に含んでいないために、筒状部40の軽量化を阻害しない。図4に示した例では、圧縮面と引張面とを繋ぐ両側面における0°繊維の密度が圧縮面における0°繊維の密度よりもさらに小さくなっており、必要な強度特性を実現しつつ、より筒状部40の軽量化が図られている。
【0035】
0°繊維は、マトリックス樹脂を含侵した0°繊維を、密度(数)を異ならせてそれぞれの側面に配置することによって設けられてもよい。あるいは、0°繊維は、密度(数)が異なる0°繊維を含む繊維強化樹脂シートをそれぞれの側面に配置することによって設けられてもよい。ただし、繊維強化樹脂層43の最表面側に、45°繊維が巻回されていることが好ましい。筒状部40の製造段階において、45°繊維を最表面に巻回することによって、繊維強化樹脂層43の硬化前に、0°繊維を容易に固定することができる。
【0036】
また、引張面となり得る側面、圧縮面となり得る側面、引張面と圧縮面とを繋ぐ両側面それぞれの特性に応じて単位面積当たりの0°繊維の数を異ならせるだけでなく、それぞれの面内において、衝突荷重の入力時に引張応力が相対的に大きい領域、圧縮応力が相対的に大きい領域それぞれ単位面積当たりの0°繊維の数を異ならせてもよい。
【0037】
図6は、筒状部40の引張面となり得るインナ側の側面内で単位面積当たりの0°繊維の数を異ならせた構成例を示す。図6に示した例は、図3に示すピラー本体部12の第1の領域A及び第2の領域Bそれぞれの単位面積当たりの0°繊維の数を異ならせた例である。
【0038】
上述のとおり、ピラー本体部12の第1の領域Aは、側面衝突時において搭乗者の頭部を保護する機能を有する。また、ピラー本体部12の第2の領域Bは、第1の領域Aに比べて変形しやすく、側面衝突時に入力される衝突荷重を吸収する。このため、インナ側に位置する筒状部40の側面のうち第1の領域Aにおける単位面積当たりの0°繊維の数が、第2の領域Bにおける単位面積当たりの0°繊維の数よりも多くなっている。これにより、第1の領域Aにおけるインナ側の側面の引張応力に対する強度が、第2の領域Bにおけるインナ側の側面の引張応力に対する強度よりも大きくなって、ピラー本体部12に要求される特性を実現させることができる。
【0039】
なお、図7に例示するように、一つの側面内で単位面積当たりの0°繊維の数を異ならせる際に、0°繊維の数の異なる領域の接続部分において、それぞれの領域を構成する複数の強化繊維あるいは繊維強化樹脂シートを、一枚あるいは複数枚ずつ交互に積層することが好ましい。このように積層することにより、接続部分の連続性が形成されるために、異なる領域の界面が破壊の起点になることを抑制することができる。複数の繊維強化樹脂シートを交互に積層する態様は、図7に示した例に限られない。
【0040】
このように、本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材からなる筒状部40を備えたセンターピラー3は、衝突荷重の入力時にZ方向への引張応力を受ける引張面における単位面積当たりの0°繊維の数が、衝突荷重の入力時にZ方向の圧縮応力を受ける圧縮面における単位面積当たりの0°繊維の数よりも多くされている。このため、引張面に追加的に0°繊維を含む層を増やすことなく、また、圧縮面に過剰の0°繊維を含むことなく、所望の引張強度及び圧縮強度を有し、軽量化が図られた筒状部40を得ることができる。
【0041】
<繊維強化樹脂複合材の製造方法>
次に、本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材からなる筒状部40の製造方法の一例を説明する。
【0042】
(第1の製造方法)
筒状部40の第1の製造方法は、芯材41に対して、Z方向に沿って配置された0°繊維を含む繊維強化樹脂シートを配置することと、Z方向に交差する方向に沿って全周面に渡って45°繊維を巻回することと、を所定の回数及び順序で実施する工程と、少なくとも線強化樹脂シートに含まれるマトリックス樹脂を硬化させる工程とを含む。第1の製造方法では、ブレーディング法やフィラメントワインディング法等により45°繊維が芯材41の周囲に配置される。
【0043】
図8は、筒状部40の第1の製造方法を示す説明図である。図8において、芯材41の上面が引張面になり得る側面に相当し、下面が圧縮面になり得る側面に相当する。
【0044】
図8に示した例において、まず、芯材41の外周側面に、0°繊維を含む繊維強化樹脂シート54a-54dを配置する。このとき、少なくとも引張面になり得る側面に配置される繊維強化樹脂シート54a中の単位面積当たりの0°繊維の数が、圧縮面になり得る側面に配置される繊維強化樹脂シート54d中の単位面積当たりの0°繊維の数よりも多くなっている。それぞれの繊維強化樹脂シート54a-54dは、1枚のシートであってもよく、複数枚の積層体であってもよい。
【0045】
繊維強化樹脂シート54a-54dは、0°繊維だけでなく、45°繊維等の0°繊維に交差する連続繊維を含んでいてもよい。その場合、繊維強化樹脂シート54a-54dを配置する際に、いずれかの繊維強化樹脂シート54a-54dを、芯材41の稜線部(角部分)を跨ぐようにして配置することが好ましい。これにより、繊維強化樹脂シート54a-54dに含まれる連続繊維が芯材41の稜線部を跨ぐように配置されるために、稜線部における連続性を高めることができる。したがって、衝突荷重の入力時に、稜線部に作用する応力によって稜線部が繊維強化樹脂層の破壊の起点になることを抑制することができる。
【0046】
なお、図8は、芯材41の4つの側面のそれぞれに対して、独立した4枚の繊維強化樹脂シート54a-54dを配置する例を示したが、2つあるいはすべての側面に連続する繊維強化シートを芯材41の周囲に巻き付けて配置してもよい。この場合、それぞれの側面の所望の強度特性に応じて、部分的に0°繊維の密度(数)を異ならせた繊維強化樹脂シートを用いることによって、少なくとも少なくとも引張面になり得る側面に配置される繊維強化樹脂シート54a中の単位面積当たりの0°繊維の数と、圧縮面になり得る側面に配置される繊維強化樹脂シート54d中の単位面積当たりの0°繊維の数とを異ならせることができる。
【0047】
芯材41の周囲に、0°繊維を含む繊維強化樹脂シート54a-54dを配置した後、ブレーディング法やフィラメントワインディング法等により、マトリックス樹脂を含侵した連続繊維(45°繊維)を連続的に巻回する。その後、繊維強化樹脂積層体を形成した芯材41を成形型に投入し、加圧しながら繊維強化樹脂積層体を硬化させて筒状部40を成形する。
【0048】
図9は、筒状部40を型成形する方法を示す説明図である。図9は、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を含む繊維強化樹脂シートを用いて、ホットプレス成形法により繊維強化樹脂層43を形成する例を示している。例えば、熱硬化性樹脂及び連続繊維からなる繊維強化樹脂シートを用いて繊維強化樹脂層43を形成する場合、ホットプレス成形法を採用することができる。図9に示すように、周囲に繊維強化樹脂積層体43´が積層された芯材41を成形型51,53に投入し、加圧しながら加熱することによって、繊維強化樹脂複合材としての筒状部40を型成形する。
【0049】
あるいは、熱硬化性樹脂及び連続繊維からなる繊維強化樹脂シートを用いて繊維強化樹脂層43を形成する場合、例えばオートクレーブ成形法を採用することもできる。図10は、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を含む繊維強化樹脂シートを用いて、オートクレーブ成形法により繊維強化樹脂層43を形成する例を示す。
【0050】
図10に示すように、周囲に繊維強化樹脂積層体43´が形成された芯材41を成形型57に投入してバッギングした後、オートクレーブ装置内でバッグ59内を真空状態にしながら加熱することによって繊維強化樹脂積層体43´を硬化させる。これにより、所望の形状を有する筒状部40を成形することができる。
【0051】
(第2の製造方法)
筒状部40の第2の製造方法は、芯材41に対して、Z方向に沿ってマトリックス樹脂を含侵した0°繊維を配置することと、Z方向に交差する方向に沿って全周面に渡ってマトリックス樹脂を含侵した45°繊維を巻回することと、を所定の回数及び順序で実施する工程と、マトリックス樹脂を硬化させる工程とを含む。
【0052】
図11は、筒状部40の第2の製造方法を示す説明図である。図11において、芯材41の上面が引張面になり得る側面に相当し、下面が圧縮面になり得る側面に相当する。
【0053】
図11に示した例において、まず、第1の製造方法と同様に、芯材41の外周側面に、0°繊維を含む繊維強化樹脂シート54a-54dを配置する。このとき、少なくとも引張面になり得る側面に配置される繊維強化樹脂シート54a中の単位面積当たりの0°繊維の数が、圧縮面になり得る側面に配置される繊維強化樹脂シート54d中の単位面積当たりの0°繊維の数よりも多くなっている。それぞれの繊維強化樹脂シート54a-54dは、1枚のシートであってもよく、複数枚の積層体であってもよい。0°繊維を含む繊維強化樹脂シートの配置方法は、第1の製造方法と同様とすることができる。
【0054】
芯材41の周囲に、0°繊維を含む繊維強化樹脂シート54a-54dを配置した後、さらに芯材41の全周面に渡って、45°繊維を含む繊維強化樹脂シート65を巻回する。その後、繊維強化樹脂積層体を形成した芯材41を成形型に投入し、加圧しながら繊維強化樹脂積層体を硬化させて筒状部40を成形する。筒状部40を型成形する方法は、第1の製造方法と同様に実施することができる。
【0055】
なお、45°繊維を含む繊維強化樹脂シート65を配置する際に、芯材41の外周面の周方向に位置する繊維強化樹脂シート65の端部を、芯材41の稜線部(角部分)ではない位置に設けることが好ましい。芯材41の稜線部に繊維強化樹脂シートの端部を位置させないことにより、衝突荷重の入力時に、稜線部に作用する応力によって稜線部が繊維強化樹脂層の破壊の起点になることを抑制することができる。
【0056】
(第3の製造方法)
筒状部40の第3の製造方法は、芯材41に対して、Z方向に沿って0°繊維を配置することと、Z方向に交差する方向に沿って全周面に渡って45°繊維を巻回することと、を所定の回数及び順序で実施する工程と、0°繊維及び45°繊維に対してマトリックス樹脂を供給する工程と、マトリックス樹脂を硬化させる工程とを含む。
【0057】
図12は、筒状部40の第3の製造方法を示す説明図である。図12において、芯材41の上面が引張面になり得る側面に相当し、下面が圧縮面になり得る側面に相当する。
【0058】
図12に示した例では、引張面となり得る芯材41の側面、圧縮面となり得る芯材41の側面、及び、芯材41の全周面に0°繊維71を配置する。このとき、引張面になり得る側面の単位面積当たりの0°繊維の数が、圧縮面になり得る側面の単位面積当たりの0°繊維の数よりも多くなるように0°繊維を配置する。0°繊維を配置する方法及び順序は特に限定されない。
【0059】
芯材41の周囲に0°繊維71を配置した後、さらにブレーディング法やフィラメントワインディング法等により、芯材41の全周面に渡って45°繊維75を巻回する。さらに、芯材41の周囲に配置した0°繊維71及び45°繊維75に対してマトリックス樹脂を供給して含侵させる。
【0060】
その後、繊維強化樹脂積層体を形成した芯材41を成形型に投入し、加圧しながら繊維強化樹脂積層体を硬化させて筒状部40を成形する。筒状部40を型成形する方法は、第1の製造方法と同様に実施することができる。
【0061】
このように、芯材41の周囲に配置した繊維強化樹脂シートを硬化させて繊維強化樹脂層43を形成することにより、本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材としての筒状部40を得ることができる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材によれば、繊維強化樹脂層43が、筒状の軸方向(Z方向)に沿って配置された0°繊維と、Z方向に交差する方向に沿って全周面に渡って巻回された45°繊維とを含み、引張面になり得る側面の単位面積当たりの0°繊維の数が、圧縮面になり得る側面の単位面積当たりの0°繊維の数よりも多くなるように0°繊維が配置される。したがって、車両の衝突時にそれぞれの側面に作用する引張応力又は圧縮応力に対して適切な強度特性を得ることができる。
【0063】
特に、引張面になり得る側面においては、0°繊維を含む繊維強化樹脂シートの層を増やすことなく、Z方向への引張応力に対する強度が相対的に高められている。また、圧縮面においては、0°繊維を過剰に含んでいないために、筒状部40の軽量化を阻害することなく、材料コストも低減することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材の製造方法によれば、引張面になり得る側面における単位面積当たりの0°繊維の数が、圧縮面になり得る側面における単位面積当たりの0°繊維の数よりも多くなるように、芯材41の周囲に0°繊維あるいは繊維強化樹脂シートを配置して、45°繊維を巻回することにより、本実施形態に係る繊維強化樹脂複合材としての筒状部40を効率的に製造することができる。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、上記の実施形態及び各変形例を互いに組み合わせた態様も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【0066】
例えば、上記実施形態では、筒状部40に芯材41が残存する例を説明したが、本発明は係る例に限定されない。繊維強化樹脂複合材の製造時にのみ芯材41が用いられ、製造後には芯材が除去されていてもよい。
【0067】
また、車体構造に用いられる長手方向を有する繊維強化樹脂構造体は、センターピラーに限られるものではなく、他の構造部材であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
3 センターピラー
12 ピラー本体部
40 筒状部(繊維強化樹脂複合材)
41 芯材
43 繊維強化樹脂層
54a-54d 繊維強化樹脂シート(0°繊維)
55 45°繊維
65 繊維強化樹脂シート(45°繊維)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12