IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイエスピーの特許一覧

特許7323794発泡性アクリル系樹脂粒子、アクリル系樹脂発泡粒子、アクリル系樹脂発泡粒子成形体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】発泡性アクリル系樹脂粒子、アクリル系樹脂発泡粒子、アクリル系樹脂発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/16 20060101AFI20230802BHJP
   C08J 9/224 20060101ALI20230802BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20230802BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230802BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20230802BHJP
   B22C 7/02 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C08J9/16 CEY
C08J9/224
C08L33/06
C08L83/04
C08K5/103
B22C7/02 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019151104
(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2020147736
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019042911
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 準平
(72)【発明者】
【氏名】藤井 元輝
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214725(JP,A)
【文献】特開2015-183111(JP,A)
【文献】特開2018-104550(JP,A)
【文献】国際公開第2018/085217(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08J 9/00 - 9/42
B29C 44/00 - 44/60
B29C 67/20
B22C 1/00 - 3/02
B22C 5/00 - 9/30
B29B 7/00 - 11/14
B29B 13/00 - 15/06
B29C 31/00 - 31/10
B29C 37/00 - 37/04
B29C 71/00 - 71/02
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
C09K 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチルに由来する構成単位を50質量%以上含むアクリル系樹脂と、物理発泡剤とを含み、単位質量当たりの表面積が10mm2/mgを超え25mm2/mg以下である粒子本体と、
多価アルコールと炭素数12~24の脂肪酸とのエステルである高級脂肪酸エステル(A1)と、シリコーンオイル(A2)とを含み、前記粒子本体の表面を被覆する被覆剤(A)と、を有し、
前記高級脂肪酸エステル(A1)にはペンタエリスリトールと炭素数12~24の脂肪酸とのエステルであるペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルが含まれており、
前記高級脂肪酸エステル(A1)と前記シリコーンオイル(A2)との被覆量の合計は、前記粒子本体100質量部に対して0.05~0.5質量部であり、
前記シリコーンオイル(A2)の被覆量は、前記粒子本体100質量部に対して0.01~0.1質量部である、発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項2】
前記高級脂肪酸エステル(A1)には、更にグリセリンと炭素数12~24の脂肪酸とのエステルであるグリセリン高級脂肪酸エステルが含まれている、請求項1に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項3】
前記グリセリン高級脂肪酸エステルにはグリセリンモノステアレートが含まれており、前記ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルにはモノペンタエリスリトールジステアレートが含まれている、請求項2に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項4】
前記高級脂肪酸エステル(A1)中の前記ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルの含有量は3~40質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項5】
前記粒子本体の単位表面積当たりの前記高級脂肪酸エステル(A1)の被覆量は0.02~0.4μg/mm2である、請求項1~4のいずれか1項に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項6】
前記被覆剤(A)中の前記高級脂肪酸エステル(A1)に対する前記シリコーンオイル(A2)の質量比は0.1~0.5である、請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項7】
前記被覆剤(A)には、更に炭素数12~24の脂肪酸の金属塩である高級脂肪酸金属塩(A3)が含まれている、請求項1~6のいずれか1項に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項8】
前記被覆剤(A)中の前記高級脂肪酸エステル(A1)に対する前記高級脂肪酸金属塩(A3)の質量比は1.0を超え3.0以下である、請求項7に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項9】
前記被覆剤(A)中の前記高級脂肪酸エステル(A1)と前記高級脂肪酸金属塩(A3)との合計に対する前記シリコーンオイル(A2)の質量比は0.05~0.3である、請求項7または8に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡粒子。
【請求項11】
請求項10に記載のアクリル系樹脂発泡粒子を型内成形してなるアクリル系樹脂発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理発泡剤が含浸された発泡性アクリル系樹脂粒子、この発泡性粒子を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡粒子及びこの発泡粒子を型内成形してなるアクリル系樹脂発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋳造用の消失模型として発泡樹脂成形体が用いられている。具体的には、発泡樹脂成形体は、次のような鋳造法に用いられる。まず、所望形状の発泡樹脂成形体が鋳型となる砂中に埋設される。次いで、砂中の発泡樹脂成形体に溶融金属が流し込まれる。このとき、発泡樹脂成形体が熱分解して溶融金属に置き換わる。その後、溶融金属を冷却して凝固させることにより、発泡樹脂成形体の形状と同様の形状を有する金属の鋳物を得ることができる。
【0003】
消失模型用の発泡樹脂成形体としては、アクリル系樹脂からなる発泡粒子成形体等が用いられる。例えば特許文献1には、メタクリル酸エステル成分とアクリル酸エステル成分とを含有し、その少なくとも一方は、多環式飽和炭化水素基を有する成分を含有する発泡性アクリル系樹脂粒子、この発泡性アクリル系樹脂粒子を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡粒子及びこのアクリル系樹脂発泡粒子を型内成形してなるアクリル系樹脂発泡粒子成形体が開示されている。また、発泡性粒子の表面は、発泡性粒子の発泡時に発泡粒子同士が相互に融着するブロッキングと呼ばれる現象の抑制や帯電の抑制、型内成形時の融着率の向上などの種々の目的で、被覆剤により覆われていることがある。例えば、特許文献1の発泡性アクリル系樹脂粒子の表面は、ジメチルシリコーン、N,N’-ビス(2-ヒドロキシエチル)アルキルアミン、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム及びグリセリンモノステアレートの混合物により覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-183111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、消失模型を用いた鋳造においては、消失模型と同一の形状の鋳造物を得ることができる。そのため、所望する鋳造物の形状が複雑である場合、鋳造物の形状に対応した複雑な形状を有する消失模型が求められる場合がある。このような消失模型を発泡粒子の型内成形によって作製しようとする場合、金型のキャビティの形状が消失模型の形状に対応した複雑な形状となる。かかる金型への発泡粒子の充填性を向上させるためには、粒子径の小さい発泡粒子を用いることが好ましい。
【0006】
しかし、特許文献1の発泡性アクリル系樹脂粒子を含め、従来の処方の被覆剤は、発泡性粒子の粒子径や発泡条件等によっては発泡や型内成形の際に発泡性粒子や発泡粒子の表面から脱離することがある。被覆剤の脱離が生じ、発泡性粒子や発泡粒子の表面に付着した被覆剤の量が減少すると、被覆剤の作用効果が不十分となるおそれがある。特に、粒子径の小さい発泡粒子は比表面積が大きいためより帯電しやすく、被覆剤の脱離による影響をより受けやすい。また、発泡性粒子の表面や発泡粒子の表面から脱離した被覆剤は、発泡機や型内成形機等に蓄積することにより、発泡機や型内成形機の汚染の原因となるおそれがある。
【0007】
また、消失模型として用いられる発泡粒子成形体においては、その表面の隙間が少なく、成形体が平滑であることが求められる。しかし、発泡粒子を被覆する被覆剤の効果が不十分である場合や、発泡粒子の表面から被覆剤が多量に脱離した場合には、発泡粒子を金型内に充填する際に、発泡粒子の帯電による影響を抑制することが難しくなるおそれがある。その結果、発泡粒子の金型への充填性が悪化し、得られる発泡粒子成形体の表面に隙間が生じやすくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、比表面積の大きい発泡性粒子であっても、被覆剤の脱離が起こりにくく、優れた発泡性及び成形性を有し、得られる発泡粒子の金型への充填が容易な発泡性アクリル系樹脂粒子、この発泡性アクリル系樹脂粒子を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡粒子及びこのアクリル系樹脂発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を50質量%以上含むアクリル系樹脂と、物理発泡剤とを含み、単位質量当たりの表面積が10mm2/mgを超え25mm2/mg以下である粒子本体と、
多価アルコールと炭素数12~24の脂肪酸とのエステルである高級脂肪酸エステル(A1)と、シリコーンオイル(A2)とを含み、前記粒子本体の表面を被覆する被覆剤(A)と、を有し、
前記高級脂肪酸エステル(A1)にはペンタエリスリトールと炭素数12~24の脂肪酸とのエステルであるペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルが含まれており、
前記高級脂肪酸エステル(A1)と前記シリコーンオイル(A2)との被覆量の合計は、前記粒子本体100質量部に対して0.05~0.5質量部であり、
前記シリコーンオイル(A2)の被覆量は、前記粒子本体100質量部に対して0.01~0.1質量部である、発泡性アクリル系樹脂粒子にある。
【0010】
本発明の他の態様は、前記の態様の発泡性アクリル系樹脂粒子を発泡させてなるアクリル系樹脂発泡粒子にある。
【0011】
本発明のさらに他の態様は、前記の態様のアクリル系樹脂発泡粒子を型内成形してなるアクリル系樹脂発泡粒子成形体にある。
【発明の効果】
【0012】
前記発泡性アクリル系樹脂粒子(以下、適宜「発泡性粒子」という。)における前記粒子本体の表面は、高級脂肪酸エステル(A1)及びシリコーンオイル(A2)を含む被覆剤(A)により覆われている。これにより、粒子本体からの被覆剤(A)の脱離を抑制することができる。その結果、被覆剤(A)による作用効果を十分に得るとともに、脱離した被覆剤による発泡機や成形機の汚染を低減することができる。
【0013】
また、被覆剤(A)には、高級脂肪酸エステル(A1)として、ペンタエリスリトールと高級脂肪酸とのエステルであるペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルが含まれている。
【0014】
ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルを含有する前記高級脂肪酸エステル(A1)は、発泡性粒子を発泡してなるアクリル系樹脂発泡粒子(以下、適宜「発泡粒子」という。)の帯電を抑制する作用を有している。そのため、高級脂肪酸エステル(A1)を含む被覆剤(A)で前記特定の範囲の表面積を備えた粒子本体の表面を被覆することにより、比表面積の大きい発泡粒子を金型へ充填する際の発泡粒子の帯電を効果的に抑制することができる。その結果、前記発泡粒子を金型内の隅々まで容易に充填することができる。そして、発泡粒子の充填性が向上することにより、隙間が少なく、平滑な表面を有するアクリル系樹脂発泡粒子成形体(以下、適宜「発泡粒子成形体」または「成形体」という。)を得ることができる。
【0015】
以上のように、前記発泡性アクリル系樹脂粒子は、被覆剤の脱離を抑制でき、優れた成形性を有している。また、前記発泡性粒子を発泡してなるアクリル系樹脂発泡粒子は、金型への充填が容易である。そして、前記発泡性粒子を用いて作製された発泡粒子成形体は、間隙が少なく平滑性に優れた表面を有している。前記発泡性粒子は、このような特性を有しているため、複雑な形状を有し、表面の平滑性に優れた発泡粒子成形体を容易に作製することができる。これらの特性を有する発泡粒子成形体は、特に鋳造用の消失模型に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、前記発泡性粒子、前記発泡粒子及び前記発泡粒子成形体の好ましい実施形態について説明する。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0017】
[粒子本体]
・アクリル系樹脂
前記発泡性粒子における粒子本体には、アクリル系樹脂(B)が含まれている。アクリル系樹脂は(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合してなる重合体であり、アクリル系樹脂(B)には、少なくとも、(メタ)アクリル酸エステル成分が含まれている。なお、前述した「(メタ)アクリル酸」という表現は、アクリル酸とメタクリル酸とを包含する概念である。例えば、アクリル系樹脂(B)は、メタクリル酸エステル及び/またはアクリル酸エステルの重合体であってもよいし、メタクリル酸エステル及び/またはアクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0018】
メタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル等の多環式飽和炭化水素基を備えたメタクリル酸エステル等を使用することができる。アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルや、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンタニル等の多環式飽和炭化水素基を備えたアクリル酸エステル等を使用することができる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
また、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレンやα-メチルスチレンなどを使用することができる。
【0020】
アクリル系樹脂中には、これらの(メタ)アクリル酸エステルの中でもメタクリル酸メチルに由来する成分(つまり、構成単位)が50質量%以上含有されている。アクリル系樹脂中には、メタクリル酸メチルに由来する成分が60質量%以上含有されていることがより好ましく、70質量%以上含有されていることがさらに好ましい。
【0021】
アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルと、スチレンと、α-メチルスチレンとの共重合体から構成されていてもよい。この場合には、発泡性粒子の発泡性および型内成形時の成形性に優れると共に、鋳造用消失模型として使用した際のススの発生を低減することができる。これらの作用効果をより確実に奏する観点からは、アクリル系樹脂中のメタクリル酸メチルに由来する成分の含有量が70~80質量%、スチレンに由来する成分の含有量が10~25質量%、α-メチルスチレンに由来する成分の含有量が5~10質量%であることが好ましい。ただし、前述した含有量は、メタクリル酸メチルに由来する成分、スチレンに由来する成分及びα-メチルスチレンに由来する成分の合計を100質量%とした場合の各成分の割合である。
【0022】
また、アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルと、アクリル酸メチルと、メタクリル酸イソボルニルとの共重合体から構成されていてもよい。この場合には、発泡性粒子の発泡性および型内成形時の成形性に優れ、鋳造模型として使用した際のススの発生をさらに低減するとともに、熱分解ガスの発生速度をより低減することができる。これらの作用効果をより確実に奏する観点からは、アクリル系樹脂中のメタクリル酸メチルに由来する成分の含有量が80~90質量%、アクリル酸メチルに由来する成分の含有量が2~8質量%、メタクリル酸イソボルニルに由来する成分の含有量が5~15質量%であることが好ましい。ただし、前述した含有量は、メタクリル酸メチルに由来する成分、アクリル酸メチルに由来する成分及びメタクリル酸イソボルニルに由来する成分の合計を100質量%とした場合の各成分の割合である。
【0023】
また、アクリル系樹脂がメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとメタクリル酸イソボルニルとの共重合体から構成されている場合、アクリル系樹脂のメタノール不溶分のガラス転移温度は112~125℃であることが好ましい。この場合には、見掛け密度の低い発泡粒子をより容易に作製することができる。更に、表面が平滑な成形体をより容易に作製することができる。
【0024】
アクリル系樹脂の重量平均分子量は、5~30万であることが好ましい。重量平均分子量を上記範囲とすることで、表面における樹脂の溶融を抑制することができる。また、この場合には、発泡粒子同士が十分に融着し、発泡粒子同士の間の間隙が小さく、平滑な表面を有する成形体をより容易に得ることができる。これらの作用効果をより高める観点からは、アクリル系樹脂の重量平均分子量は、6万~20万であることがより好ましく、7万~15万であることがさらに好ましく、8万~11万であることが特に好ましい。
【0025】
なお、アクリル系樹脂の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ法により測定されたポリスチレン換算分子量である。アクリル系樹脂の重量平均分子量の測定方法は実施例にてより具体的に説明する。
【0026】
・物理発泡剤(C)
粒子本体には、アクリル系樹脂(B)とともに物理発泡剤(C)が含まれている。物理発泡剤(C)としては、例えば、鎖式飽和炭化水素や脂環式飽和炭化水素などを使用することができる。発泡性粒子中の物理発泡剤(C)の含有量は、例えば、6~10質量%の範囲内から適宜設定することができる。
【0027】
鎖式飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n-ヘキサン等を使用することができる。これらの鎖式飽和炭化水素は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。鎖式飽和炭化水素としては、炭素数3~6の鎖式飽和炭化水素を使用することが好ましく、ペンタンを使用することが特に好ましい。
【0028】
脂環式飽和炭化水素としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等を使用することができる。これらの脂環式飽和炭化水素は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式飽和炭化水素は、発泡剤の機能に加えて、可塑剤の機能を有している。脂環式飽和炭化水素としては、炭素数5~7の脂環式飽和炭化水素を使用することが好ましい。
【0029】
脂環式飽和炭化水素を使用する場合、物理発泡剤(C)中の脂環式飽和炭化水素の含有量は、5~50質量%であることが好ましい。この場合には、脂環式炭化水素により、発泡性粒子の発泡性及び発泡粒子の成形性をより向上させることができる。これらの作用効果をより高める観点からは、物理発泡剤(C)中の脂環式飽和炭化水素の含有量は18~30質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
発泡性粒子における揮発成分の含有割合は、10質量%以下であることが好ましく、9質量%以下であることがより好ましい。揮発成分の含有割合がこの範囲内であれば、型内成形時の成形性がより向上し、発泡粒子中の気泡構成がより良好になる。その結果、発泡粒子成形体の強度をより向上させることができる。なお、発泡性粒子における揮発成分の含有割合は、概ね5質量%以上である。
【0031】
・その他の成分
また、粒子本体には、本発明の目的を阻害しない範囲内において、他の樹脂や添加剤等を配合することができる。他の成分の含有量は、アクリル系樹脂100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。
【0032】
・粒子本体の単位質量当たりの表面積
粒子本体の単位質量当たりの表面積(以下、単に比表面積ともいう。)は、10mm2/mgを超え25mm2/mg以下であり、より好ましくは12~21mm2/mgであり、さらに好ましくは13~20mm2/mgである。粒子本体の比表面積が大きすぎる場合には、発泡性粒子を発泡させにくく、見掛け密度の低い発泡粒子が得られにくくなると共に、得られる発泡粒子の型内成形性が低下するおそれがある。一方、粒子本体の比表面積が小さすぎる場合には、得られる発泡粒子の粒径が大きくなる傾向がある。そのため、例えば複雑な形状を有するキャビティにおいて、発泡粒子を隅々まで充填することが難しくなるおそれがある。
【0033】
粒子本体の単位質量当たりの表面積を前記特定の範囲とすることにより、前述した問題を回避し、発泡粒子を成形金型のキャビティの隅々まで容易に充填することができる。その結果、複雑な形状の発泡粒子成形体を、型内成形により容易に作製することができる。また、消失模型に用いる成形体は複雑な形状を有することが多いため、前記特定の範囲の比表面積を備えた発泡性粒子は、消失模型用の発泡粒子成形体の素材として好適である。
【0034】
粒子本体の単位質量当たりの表面積は、以下の方法によって算出することができる。まず、粒度分布測定装置を用いて粒子本体の粒度分布測定を行い、測定された粒度分布における体積積算値63%での粒径(d63)を求め、これを粒子本体の平均粒子径とする。粒度分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製「ミリトラック JPA」等を使用することができる。「ミリトラック JPA」を使用した場合における粒度分布の具体的な測定方法は、実施例において説明する。
【0035】
次に、この平均粒子径を有する真球の表面積(4×π×(d/2)2、d:平均粒子径)を算出し、算出された真球の表面積を粒子本体の表面積とする。次に、算出した表面積を、粒子本体の平均質量で除することで、粒子本体の単位質量当たりの表面積を求めることができる。なお、粒子本体の平均質量は、粒子本体の質量を測定することで求めてもよく、前述した平均粒子径を有する真球の体積((4/3)×π×(d/2)2、d:平均粒子径)を算出し、算出した体積に粒子本体を構成する樹脂の密度を乗ずることで求めてもよい。
【0036】
・平均粒子径
粒子本体の平均粒子径は、0.2mm以上0.5mm未満であることが好ましく、0.25mm以上0.45mm以下であることがより好ましい。平均粒子径がこの範囲内にあれば、発泡粒子の発泡性を高めることができる。また、この場合には、発泡性粒子を発泡させることで得られる発泡粒子の金型への充填性がより向上するため、例えば消失模型のような複雑な形状の成形体をより容易に得ることが可能となり、発泡粒子成形体の表面性状をより良化させることができる。
【0037】
粒子本体の平均粒子径は、前述したように、粒度分布測定装置を用いて測定された粒度分布における体積積算値63%での粒径(d63)である。粒度分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製「ミリトラック JPA」等を使用することができる。「ミリトラック JPA」を使用した場合における粒度分布の具体的な測定方法は、実施例において説明する。
【0038】
[被覆剤(A)]
前記粒子本体の表面は、被覆剤(A)により覆われている。被覆剤(A)は、前述した作用効果を損なわない範囲であれば、粒子本体の表面の全部を覆っていてもよいし、一部を覆っていてもよい。被覆剤には、少なくとも、多価アルコールと炭素数12~24の脂肪酸とのエステルである高級脂肪酸エステル(A1)と、シリコーンオイル(A2)とが含まれている。前記発泡性粒子は、粒子本体の表面をこれら2種の化合物(A1)、(A2)を含む被覆剤(A)で被覆することにより、被覆剤(A)の脱離及び発泡粒子の帯電を効果的に抑制することができ、隙間が少なく、平滑な表面を有する成形体を得ることができる。なお、高級脂肪酸エステル(A1)における高級脂肪酸としては、炭素数14~20の脂肪酸を用いることがより好ましい。
【0039】
また、前記2種の化合物を含む被覆剤(A)は、発泡性粒子や発泡粒子の表面から脱落しにくい。それ故、前記発泡性粒子によれば、発泡機や成形機の汚染を低減することもできる。
【0040】
高級脂肪酸エステル(A1)と、シリコーンオイル(A2)との被覆量の合計は、粒子本体100質量部に対して0.05~0.5質量部である。これにより、被覆剤(A)の脱離を抑制しつつ、発泡粒子同士の融着が良好で、間隙の小さい成形体をより容易に作製することができる。かかる作用効果をより高める観点から、高級脂肪酸エステル(A1)と、シリコーンオイル(A2)との被覆量の合計は、粒子本体100質量部に対して0.1~0.3質量部であることがより好ましい。
【0041】
・高級脂肪酸エステル(A1)
高級脂肪酸エステル(A1)には、ペンタエリスリトールと炭素数12~24の脂肪酸とのエステルであるペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルが含まれている。つまり、高級脂肪酸エステル(A1)は、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルのみから構成されていてもよい。また、高級脂肪酸エステル(A1)には、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルと、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル以外の高級脂肪酸エステルとが含まれていてもよい。なお、高級脂肪酸エステル(A1)における高級脂肪酸としては、炭素数14~20の脂肪酸を用いることがより好ましい。また、高級脂肪酸は、飽和脂肪酸であることがより好ましい。
【0042】
前記高級脂肪酸エステル(A1)の被覆量(a1)は、粒子本体100質量部に対して0.05~0.5質量部であることが好ましく、0.1~0.3質量部であることがより好ましい。この場合には、発泡性粒子や発泡粒子からの被覆剤(A)の脱離をより効果的に抑制することができる。また、この場合には、発泡粒子成形体の表面の平滑性をより向上させることができる。
【0043】
前述した作用効果をより高める観点からは、前記粒子本体の単位表面積当たりの前記高級脂肪酸エステル(A1)の被覆量は、0.02~0.4μg/mm2であることが好ましく、0.05~0.3μg/mm2であることがより好ましい。なお、粒子本体の単位表面積当たりの被覆剤中の各成分の被覆量は、粒子本体の単位質量当たりの各成分の被覆量を、粒子本体の単位質量当たりの表面積で除することで求めることができる。
【0044】
被覆剤(A)における高級脂肪酸エステル(A1)としてペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルを用いることにより、金型内に発泡粒子を充填する際の発泡粒子の帯電を抑制することができる。それ故、前記発泡性粒子を発泡させて得られる発泡粒子によれば、発泡粒子成形体の表面における間隙を低減し、平滑性を向上させることができる。かかる作用効果を奏する観点からは、高級脂肪酸エステル(A1)中のペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルの含有量が2質量%以上であればよい。
【0045】
ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルとしては、例えば、モノペンタエリスリトールジステアレート、モノペンタエリスリトールトリステアレート、モノペンタエリスリトールテトラステアレート、モノペンタエリスリトールモノオレエート、モノペンタエリスリトールテトラパルミテート等の、ペンタエリスリトールと高級脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル及びテトラエステルを使用することができる。被覆剤(A)には、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルとして、ペンタエリスリトールと高級脂肪酸とのエステルのうち1種のエステルのみが含まれていてもよいし、2種以上のエステルが含まれていてもよい。これらのペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルの中でも、モノペンタエリスリトールジステアレートを用いることが好ましい。
【0046】
また、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル中のモノペンタエリスリトールジステアレートの割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%、つまり、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルがモノペンタエリスリトールジステアレートのみからなることが特に好ましい。
【0047】
高級脂肪酸エステル(A1)には、さらに、グリセリンと炭素数12~24の脂肪酸とのエステルである、グリセリン高級脂肪酸エステルが含まれていることが好ましい。グリセリン高級脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ミリスチン酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、ベヘニン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル等の、グリセリンと高級脂肪酸とのモノエステル、ジエステル及びトリエステルを使用することができる。被覆剤(A)には、グリセリン高級脂肪酸エステルとして、グリセリンと高級脂肪酸とのエステルのうち1種のエステルのみが含まれていてもよいし、2種以上のエステルが含まれていてもよい。これらのグリセリン高級脂肪酸エステルの中でも、グリセリンモノステアレートを用いることが好ましい。
【0048】
グリセリン高級脂肪酸エステル中のグリセリンモノステアレートの割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%、つまり、グリセリン高級脂肪酸エステルがグリセリンモノステアレートのみからなることが特に好ましい。また、前記グリセリンモノステアレートの被覆量は、粒子本体100質量部に対して0.05~0.3質量部であることが好ましく、0.06~0.2質量部であることがより好ましい。
【0049】
また、高級脂肪酸エステル(A1)には、前述した作用効果を損なわない範囲で、更に、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステルや、高級脂肪酸とソルビタンとのエステル硬化油等の、その他の高級脂肪酸エステルが含まれていてもよい。この場合、高級脂肪酸エステル(A1)中の、その他の高級脂肪酸エステルの割合は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%、つまり、高級脂肪酸エステル(A1)がペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルとグリセリン高級脂肪酸エステルとからなることが最も好ましい。
【0050】
高級脂肪酸と高級アルコールとのエステルとしては、例えば、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸オクチルドデシル、ベヘニン酸ベヘニル等から選択される1種または2種以上のエステルを使用することができる。高級脂肪酸とソルビタンとのエステルとしては、例えば、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノベヘネート等から選択される1種または2種以上のエステルを使用することができる。硬化油としては、例えば、牛脂極度硬化油、ヒマシ硬化油、極度硬化大豆油等から選択される1種または2種以上の硬化油を使用することができる。
【0051】
高級脂肪酸エステル(A1)には、グリセリン高級脂肪酸エステルとしてのグリセリンモノステアレートと、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルとしてのモノペンタエリスリトールジステアレートとが含まれていることが好ましい。この場合には、発泡粒子の帯電をより効果的に抑制し、金型内への充填をより容易に行うことができる。その結果、発泡粒子の成形性をより向上させ、複雑な形状の発泡粒子成形体をより容易に作製することができる。
【0052】
これらの作用効果をより確実に奏する観点からは、高級脂肪酸エステル(A1)における、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルの含有量と、グリセリン高級脂肪酸エステルの含有量との比(質量比)は、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル:グリセリン高級脂肪酸エステル=2:98~40:60の範囲内であることが好ましく、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル:グリセリン高級脂肪酸エステル=3:97~35:65の範囲内であることがより好ましく、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル:グリセリン高級脂肪酸エステル=4:96~20:80の範囲内であることがさらに好ましい。
【0053】
また、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルの含有量と、グリセリン高級脂肪酸エステルの含有量との比は、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル:グリセリン高級脂肪酸エステル=5:95~9:91の範囲内であることが特に好ましい。この場合には、前述した作用効果に加え、コスト性に優れると共に、色目が良く、外観が良好な発泡性粒子を得ることができる。
【0054】
前記高級脂肪酸エステル(A1)中の前記ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルの含有量は、3~40質量%であることが好ましく、4~35質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましい。この場合には、発泡性粒子を発泡させる際のブロッキングを抑制する効果と、発泡粒子を金型内に充填する際の帯電を抑制する効果とをバランスよく向上させることができる。
【0055】
同様の観点から、前記ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルの被覆量は、粒子本体100質量部に対して0.002~0.05質量部であることが好ましく、0.005~0.03質量部であることがより好ましい。
【0056】
・シリコーンオイル(A2)
シリコーンオイル(A2)は、オルガノポリシロキサンからなり、常温においてオイル状を呈する化合物である。シリコーンオイル(A2)としては、例えば、メチルフェニルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル等を用いることができる。シリコーンオイル(A2)は、前述した化合物のうち1種のみから構成されていてもよいし、2種以上の化合物の混合物であってもよい。これらの中でも、ジメチルシリコーンオイルを用いることが好ましい。
【0057】
シリコーンオイル(A2)の被覆量(a2)は、粒子本体100質量部に対して0.01~0.1質量部である。シリコーンオイル(A2)の被覆量(a2)は、粒子本体100質量部に対して0.02~0.05質量部であることがより好ましい。この場合には、発泡性粒子や発泡粒子からの被覆剤(A)の脱落をより低減するとともに、発泡粒子の成形性をより向上させることができる。同様の観点からは、粒子本体の単位表面積当たりのシリコーンオイル(A2)の被覆量は、0.005~0.1μg/mm2であることが好ましく、0.01~0.05μg/mm2であることがより好ましい。
【0058】
前述した作用効果をより高める観点からは、被覆剤(A)中の高級脂肪酸エステル(A1)に対するシリコーンオイル(A2)の質量比(a2/a1)は0.1~0.5であることが好ましく、0.1~0.4であることがより好ましい。また、同様の観点から、被覆剤(A)中の高級脂肪酸エステル(A1)と後述する高級脂肪酸金属塩(A3)との合計に対するシリコーンオイル(A2)の質量比(a2)/(a1+a3)は0.05~0.3であることが好ましく、0.06~0.2であることがより好ましい。
【0059】
・高級脂肪酸金属塩(A3)
前記被覆剤(A)には、高級脂肪酸エステル(A1)及びシリコーンオイル(A2)に加えて、炭素数12~24の脂肪酸の金属塩である高級脂肪酸金属塩(A3)が含まれていてもよい。高級脂肪酸金属塩(A3)を含む被覆剤(A)は、発泡時のブロッキング、つまり、発泡性粒子同士が融着し、塊状になる現象をより効果的に抑制することができる。
【0060】
高級脂肪酸金属塩(A3)としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウム等のステアリン酸金属塩や、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム等のラウリン酸金属塩等を使用することができる。被覆剤(A)には、高級脂肪酸金属塩(A3)として、高級脂肪酸と金属との塩のうち1種の塩のみが含まれていてもよいし、2種以上の塩が含まれていてもよい。なお、高級脂肪酸金属塩における高級脂肪酸としては、炭素数14~20の脂肪酸を用いることがより好ましい。また、高級脂肪酸は、飽和脂肪酸であることがより好ましい。
【0061】
高級脂肪酸金属塩(A3)には、これらの化合物の中でも、ステアリン酸亜鉛及びステアリン酸カルシウムのうち少なくとも1種を含まれていることが好ましい。この場合には、発泡時のブロッキングをより効果的に抑制することができる。
【0062】
高級脂肪酸金属塩(A3)の被覆量(a3)は、粒子本体100質量部に対して0.1~0.4質量部であることが好ましい。この場合には、発泡粒子同士の融着性を維持しつつ、発泡時のブロッキングを抑制できると共に、発泡性粒子や発泡粒子からの被覆剤(A)の脱離を効果的に抑制することができる。同様の観点からは、粒子本体の単位表面積当たりの高級脂肪酸金属塩(A3)の被覆量は、0.05~0.5μg/mm2であることが好ましく、0.1~0.4μg/mm2であることがより好ましい。
【0063】
前述した高級脂肪酸金属塩(A3)による作用効果をより高める観点からは、被覆剤(A)中の高級脂肪酸エステル(A1)に対する高級脂肪酸金属塩(A3)の質量比(a3/a1)は1.0を超え3.0以下であることが好ましく、1.2以上2.5以下であることがより好ましい。
【0064】
被覆剤(A)の被覆量の合計は、粒子本体100質量部に対して0.1~0.8質量部であることが好ましく、0.2~0.6質量部であることがより好ましい。この場合には、発泡時のブロッキング及び被覆剤(A)の脱離をより効果的に抑制することができる。また、この場合には、発泡粒子同士の融着が良好で、間隙の少ない成形体をより容易に作製することができる。
【0065】
また、前述した作用効果を損なわない範囲で、N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)アルキルアミン、グリセリン等の帯電防止剤等を、被覆剤(A)と併用してもよい。帯電防止剤を使用する場合、帯電防止剤の被覆量は、粒子本体100質量部に対して、概ね0.005~0.06質量部であることが好ましく、0.01~0.05質量部であることがより好ましい。
【0066】
[発泡性粒子の製造方法]
前記発泡性粒子は、例えば懸濁重合等の従来公知の方法によって粒子本体を作製した後、粒子本体の表面に被覆剤(A)を被覆することによって製造することができる。
【0067】
粒子本体を懸濁重合により製造する場合には、例えば以下のような方法を採用することができる。まず、撹拌装置の付いた密閉容器内で、適当な懸濁剤や懸濁助剤を分散させた水性媒体中に、前述したモノマー成分としての(メタ)アクリル酸エステル等を、可塑剤、重合開始剤、連鎖移動剤等と共に添加し、モノマー成分を水性媒体中に分散させる。次に、モノマー成分の重合反応を開始する。そして、重合途中あるいは重合完了後に物理発泡剤を密閉容器内に添加し、前記重合反応によって生じた重合体であるアクリル系樹脂に含浸させる。このようにして、発泡性粒子を得ることができる。
【0068】
なお、アクリル系樹脂の重量平均分子量は、重合時における連鎖移動剤の添加量等により調整することができる。連鎖移動剤を使用する場合、連鎖移動剤の添加量は、アクリル系樹脂を構成する単量体100質量部に対して、概ね0.20~0.60質量部であることが好ましく、0.25~0.50質量部であることがより好ましい。連鎖移動剤の添加量を前記特定の範囲とすることにより、アクリル系樹脂の重量平均分子量を前記特定の範囲に調整しやすくすることができる。
【0069】
連鎖移動剤としては、n-オクチルメルカプタンや、αメチルスチレンダイマー等の従来公知の連鎖移動剤を用いることができるが、n-オクチルメルカプタンを用いることがより好ましい。
【0070】
前述した方法により得られた粒子本体を被覆剤(A)で被覆する方法は、特に限定されることはない。粒子本体の表面への被覆剤(A)の被覆は、例えば、タンブラーミキサー等の容器中に粒子本体と被覆剤(A)とを供給し、容器内で粒子本体と被覆剤(A)とを撹拌混合することで、粒子本体の表面に被覆剤(A)を付着させる方法等により行うことができる。なお、被覆剤(A)の各成分は個別に粒子本体に被覆してもよく、各成分を予め混合した被覆剤(A)を粒子本体に被覆してもよい。
【0071】
[発泡粒子]
発泡粒子は、発泡性粒子を、例えば従来公知の方法により発泡させることにより得られる。発泡は、例えば発泡性粒子にスチーム等の加熱媒体を供給し、発泡性粒子を加熱することにより行うことができる。具体的には、例えば撹拌装置の付いた円筒形の発泡機を用いて、スチーム等により発泡性粒子を加熱して発泡させる方法がある。
【0072】
[発泡粒子成形体]
発泡粒子成形体は、例えば次のようにして製造される。まず、所望する成形体の形状に対応したキャビティを有する金型内に発泡粒子を充填し、蒸気などの加熱媒体により金型内で多数の発泡粒子を加熱する。キャビティ内の発泡粒子は、加熱によってさらに発泡すると共に、相互に融着する。これにより、多数の発泡粒子が一体化し、キャビティの形状に応じた発泡粒子成形体が得られる。
【0073】
発泡粒子成形体中の水の含有量は、1.0質量%以下であることが好ましい。水分量がこの範囲内であれば、鋳造時の欠陥がより発生しにくくなる。なお、発泡性粒子における水の含有割合の下限は、概ね0.3質量%である。
【実施例
【0074】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の要旨を超えない限り、種々の変更が可能である。また、オートクレーブ内の温度は、水性媒体の温度を意味する。
【0075】
(実施例1)
まず、撹拌装置の付いた内容積が3Lのオートクレーブ内に、脱イオン水700g、懸濁剤6.0g、界面活性剤4.2g、電解質としての酢酸ナトリウム1.1g、懸濁助剤2.5gを投入した。なお、懸濁剤は、具体的には濃度20.5質量%の第三リン酸カルシウムスラリー(太平化学産業株式会社製)である。また、界面活性剤は、具体的には濃度1質量%のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸二ナトリウム水溶液(具体的には、花王株式会社製「ペレックス(登録商標)SSH」)である。また、懸濁助剤は、具体的には濃度0.01質量%の過硫酸カリウム水溶液である。
【0076】
モノマー成分としてメタクリル酸メチル425gと、スチレン90gと、α-メチルスチレン35gとの混合物を準備した。この混合物に、重合開始剤としての過酸化ベンゾイルの水希釈粉体(具体的には、日油株式会社製「ナイパー(登録商標)BW」)2.5g及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(具体的には、日油株式会社製「パーブチル(登録商標)E」)0.67gと、連鎖移動剤としてのα-メチルスチレンダイマー(具体的には、日油株式会社製「ノフマー(登録商標)MSD」)1.0gと、可塑剤としてのキシレン7.5gと、を溶解させた。
【0077】
オートクレーブ内の空気を窒素にて置換した後、オートクレーブ内を密閉した。次いで、オートクレーブ内を撹拌速度400rpmで撹拌しながら1時間30分かけてオートクレーブ内の温度を80℃まで昇温させ、80℃の温度を6時間保持して前段重合工程を行った。
【0078】
前段重合工程が完了した後、オートクレーブ内の温度を6時間かけて115℃まで昇温させ、115℃の温度を5時間保持して後段重合工程を行った。また、後段重合工程においては、オートクレーブ内の温度が110℃に到達した時点で、物理発泡剤としてのペンタン(具体的には、n-ペンタン80質量%とi-ペンタン20質量%の混合物)80gを約1時間かけて添加した。そして、発泡剤の添加完了から30分後に、撹拌速度を350rpmに下げた。
【0079】
後段重合工程を完了した後、オートクレーブ内の温度を6時間かけて30℃まで冷却し、更に室温まで冷却した。
【0080】
冷却後、オートクレーブの内容物から粒子本体を取り出した。この粒子本体を硝酸で洗浄して表面に付着した第三リン酸カルシウムを溶解させた。その後、遠心分離機を用いて粒子本体の脱水及び洗浄を行い、さらに気流乾燥装置を用いて粒子本体の表面に付着した水分を除去した。
【0081】
次に、粒子本体を篩にかけて、直径が0.30~0.54mmの粒子を取り出した。次いで、粒子本体100質量部と、粒子本体100質量部に対して表1に示す量の被覆剤(A)と、帯電防止剤としてのN,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)アルキルアミン0.02質量部とを容積100Lのドラムタンブラーに供給した。そして、粒子本体、被覆剤(A)及び帯電防止剤を60分間攪拌して混合することにより、粒子本体の表面に被覆剤(A)及び帯電防止剤を付着させ、粒子本体の表面が被覆剤(A)及び帯電防止剤で被覆された発泡性粒子を得た。
【0082】
本例の仕込み組成等を後述する表1に示す。なお、表中においては、化合物名を以下のように省略した。
MMA:メタクリル酸メチル
IBOMA:メタクリル酸イソボルニル
MA:アクリル酸メチル
Sy:スチレン
MeSy:α-メチルスチレン
GMSt:グリセリンモノステアレート
PEDSt:モノペンタエリスリトールジステアレート
PDMS:ポリジメチルシロキサン
ZnSt:ステアリン酸亜鉛
CaSt:ステアリン酸カルシウム
【0083】
メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸メチル、スチレン及びα-メチルスチレンは単量体である。また、表中の「n-ペンタンの含有量」「i-ペンタンの含有量」「シクロヘキサンの含有量」欄に示した値は、発泡性粒子中に実際に取り込まれた各物理発泡剤の含有量である。
【0084】
以上により得られた粒子本体及び発泡性粒子を用い、後述する方法によりアクリル系樹脂の分子量、メタノール不溶分のガラス転移温度、揮発成分の含有量、水分量、平均粒子径、平均表面積及び比表面積の測定、被覆剤の脱離量の評価を行った。
【0085】
次に、発泡性粒子200gを容積30Lの常圧予備発泡機内に投入した。次いで、発泡性粒子を撹拌しながら予備発泡機内にスチームを供給して発泡性粒子を発泡させることにより、見掛け密度20kg/m3の発泡粒子を得た。得られた発泡粒子を室温で1日間放置して熟成させた。
【0086】
予備発泡機から取り出した発泡粒子を用い、後述する方法によりブロッキングの評価を行った。
【0087】
その後、型物成形機(DABO社製のDSM-0705VS)の金型のキャビティ内に発泡粒子を充填した。次いで、キャビティ内に0.07~0.09MPa(ゲージ圧力)のスチームを供給して発泡粒子を10秒間加熱した後、所定時間冷却した。その後、金型から発泡粒子成形体を取り出した。
【0088】
なお、金型としては、所定の直方体形状のキャビティを有する金型と、縦300mm×横300mm×厚さ25mmの直方体形状の本体部と、本体部から本体部の厚み方向に突出した板状の薄肉部とを備えるキャビティを有する、成形性評価用の金型を使用して型内成形を行った。成形性評価用の金型における薄肉部は、より具体的には、薄肉部の厚み方向から視た平面視において底辺:30mm、高さ:90mmの二等辺三角形形状を呈しており、前記底辺が本体部に接するように配置されている。また、薄肉部の厚みは4mmである。
【0089】
各金型から取り出した発泡粒子成形体を温度40℃で1日間乾燥させた後、後述する方法により成形性の評価を行った。
【0090】
(実施例2)
被覆剤(A)の配合量を、グリセリンモノステアレート0.11質量部、ステアリン酸亜鉛0.07質量部、ステアリン酸カルシウム0.10質量部にそれぞれ変更するとともに、N-ヒドロキシエチル-N-[2-ヒドロキシアルキル]アミンの配合量を0.01質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、発泡性粒子、発泡粒子、発泡粒子成形体を作製した。本例の仕込み組成等を後述する表1に示す。
【0091】
(実施例3)
モノマー成分の配合量を、メタクリル酸メチル425g、メタクリル酸イソボルニル50g、アクリル酸メチル25gにそれぞれ変更し、物理発泡剤としてのシクロヘキサンを10g添加し、連鎖移動剤をα-メチルスチレンダイマーからn-オクチルメルカプタン1.40gに変更した以外は、実施例1と同様にして発泡性粒子、発泡粒子及び発泡粒子成形体を作製した。本例の仕込み組成等を後述する表1に示す。
【0092】
(実施例4)
高級脂肪酸エステル(A1)の配合量を、グリセリンモノステアレート0.105質量部、モノペンタエリスリトールジステアレート0.025質量部にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして発泡性粒子、発泡粒子及び発泡粒子成形体を作製した。本例の仕込み組成等を後述する表1に示す。
【0093】
(実施例5)
高級脂肪酸エステル(A1)としてのグリセリンモノステアレートを添加せず、モノペンタエリスリトールジステアレートの配合量を0.13質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして発泡性粒子、発泡粒子及び発泡粒子成形体を作製した。本例の仕込み組成等を後述する表1に示す。
【0094】
(実施例6)
高級脂肪酸エステル(A1)の配合量を、グリセリンモノステアレート0.127質量部、モノペンタエリスリトールジステアレート0.003質量部にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして発泡性粒子、発泡粒子及び発泡粒子成形体を作製した。本例の仕込み組成等を後述する表1に示す。
【0095】
(比較例1)
高級脂肪酸エステル(A1)としてのモノペンタエリスリトールジステアレートを使用しない以外は、実施例1と同様にして発泡性粒子、発泡粒子及び発泡粒子成形体を作製した。本例の仕込み組成等を後述する表2に示す。
【0096】
(比較例2)
シリコーンオイル(A2)としてのポリジメチルシロキサンを使用しない以外は、実施例1と同様にして発泡性粒子、発泡粒子及び発泡粒子成形体を作製した。本例の仕込み組成等を後述する表2に示す。
【0097】
次に、諸物性の測定方法及び諸特性の評価方法を以下に説明する。
【0098】
「分子量の測定」
ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法によりアクリル系樹脂のクロマトグラムを取得した。そして、得られたクロマトグラムに基づき、アクリル系樹脂の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及びz平均分子量Mzを算出した。
【0099】
クロマトグラムの取得には東ソー(株)製のHLC-8320GPC EcoSECを使用した。測定試料としての発泡性粒子をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて濃度0.1wt%の試料溶液を調製した後、TSKguardcolumn SuperH-H×1本、TSK-GEL SuperHM-H×2本を直列に接続したカラムを用い、溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、THF流量:0.6ml/分という分離条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定試料を分子量の違いによって分離し、クロマトグラムを得た。なお、測定試料としては、発泡性粒子に替えて発泡粒子を用いてもよいし、発泡粒子成形体を用いてもよい。
【0100】
そして、標準ポリスチレンを用いて作成した較正曲線によって得られたクロマトグラムにおける保持時間を分子量に換算し、微分分子量分布曲線を得た。この微分分子量分布曲線からアクリル系樹脂の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及びz平均分子量Mzを算出した。これらの値は表1及び表2に示す通りであった。
【0101】
「メタノール不溶分のガラス転移温度の測定」
メタノールを用いた再沈殿精製により、アクリル系樹脂のメタノール不溶分を抽出した。具体的には、発泡性粒子1gをメチルエチルケトン10mLに溶解させた。次いで、500mLのメタノールを入れた容器を準備し、容器内のメタノールを攪拌しながら、メタノールにメチルエチルケトン溶液を滴下した。この滴下により、樹脂を沈殿させた。沈殿物をろ取し、室温で恒量になるまで真空乾燥させた。このようにして得られた沈殿物がメタノール不溶分である。なお、発泡性粒子に替えて、発泡粒子、発泡粒子成形体を用いて再沈殿精製を行っても、メタノール不溶分を抽出することが可能である。
【0102】
発泡性粒子から抽出されたメタノール不溶分2mgを秤量し、簡易密閉パンに充填し、ガラス転移温度の測定に用いた。ガラス転移温度の測定には示差走査熱量計(ティ・エイ・インスツルメンツ社製「Q1000」)を用い、JIS K 7121(1987年)に準拠して測定を行った。なお、DSC曲線の中間点温度をガラス転移温度とした。アクリル系樹脂のガラス転移温度は、表1及び表2に示す通りであった。
【0103】
「水分量の測定」
まず、約0.28gの発泡性粒子を秤量した。加熱水分気化装置を用いて発泡性粒子を温度160℃まで加熱することにより、発泡性粒子の内部の水分を気化させた。この水分を加熱水分気化装置に接続されたカールフィッシャー水分測定装置(平沼産業株式会社製「AQ-6」)へ導き、水分量を測定した。発泡性粒子中の水分量は表1及び表2に示す通りであった。
【0104】
「揮発成分の含有量の測定」
小数点以下4桁まで正確に秤量した約1gの発泡性粒子を温度120℃に設定した熱風乾燥機内で4時間乾燥させた。乾燥後の発泡性粒子を室温まで冷却した後、発泡性粒子を秤量した。加熱前後の質量変化から総揮発分量を求め、総揮発分量から水分量を減じることにより揮発成分の含有量を求めた。計算式はそれぞれ以下のとおりである。発泡性粒子中の揮発成分の含有量は表1及び表2に示す通りであった。
総揮発分(質量%)={加熱前質量(g)-加熱後質量(g)}÷加熱前質量(g)×100
揮発成分の含有量(質量%)=総揮発分(質量%)-水分(質量%)
【0105】
「発泡性粒子中の物理発泡剤の含有量の測定」
精秤した発泡性粒子1gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)25mlに溶解させ、ガスクロマトグラフィー(GC)による測定を行い、発泡性粒子中の物理発泡剤(シクロヘキサン、ペンタン)の含有量を定量した。なお、ガスクロマトグラフィーの測定条件は次の通りである。
測定装置:株式会社島津製作所製ガスクロマトグラフGC-9A
カラム材質:内径3mm、長さ3000mmのガラスカラム
カラム充填剤:
〔液相名〕PEG-20M
〔液相含浸率〕25質量%
〔担体粒度〕60/80メッシュ
〔担体処理方法〕AW-DMCS(水洗、焼成、酸処理、シラン処理)
キャリアガス:N2
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
定量方法:内部標準法
【0106】
「平均粒子径の測定」
以下の方法により、日機装社製の粒度分布測定装置「ミリトラック JPA」を用いて粒子本体の粒度分布を測定した。まず、被覆剤を被覆する前の粒子本体を篩にかけ、直径0.30~0.54mmの粒子本体を取り出した。この粒子本体30gを測定装置の試料供給部に供給した。次いで、試料供給部から粒子本体を自由落下させ、自由落下時の粒子本体の投影像をCCDカメラで撮像した。このようにして撮像した画像情報に対して演算・結合処理を順次行い、粒度分布結果を出力する画像解析方式の条件で、粒子本体の粒度分布を測定した。以上により得られた粒度分布における体積積算値63%での各粒径(d63)mmを求め、これを粒子本体の平均粒子径とした。粒子本体の平均粒子径は表1及び表2に示す通りであった。
【0107】
「平均表面積、単位質量当たりの表面積の測定」
まず、前記の方法により得られた粒子本体の平均粒子径(つまり、粒度分布から算出したd63の値)を有する真球の表面積を算出し、これを粒子本体の平均表面積とした。次に、無作為に選択された100個の粒子本体の質量を測定し、これらの算術平均値を粒子本体の平均質量とした。以上により得られた粒子本体の表面積を粒子本体の平均質量で除することにより、粒子本体の単位質量当たりの表面積を算出した。粒子本体の平均表面積、平均質量及び単位質量当たりの表面積は表1及び表2に示す通りであった。
【0108】
「被覆剤の脱離量の評価」
目開き0.25mmの試験用篩上で100gの発泡性粒子を5分間振とうした後、ふるい下に落下した被覆剤(A)の質量を測定した。ふるい下に落下した被覆剤(A)の質量が0.15g以下の場合には表1及び表2の「被覆剤の脱離量」欄に記号「A」、0.15gを超えた場合には記号「B」を記載した。被覆剤の脱離量の評価においては、ふるい下に落下した被覆剤(A)の質量が0.15g以下である記号「A」の場合を被覆剤(A)の脱離が起こりにくいため合格と判断し、0.15gを超えた記号「B」の場合を被覆剤(A)の脱離が起こりやすいため不合格と判断した。
【0109】
「ブロッキングの評価」
JIS Z8801の規定に適合する試験用篩を用いて予備発泡機の内容物をふるい分けした。篩上に粒子同士が融着した融着体が残らなかった場合には表1及び表2の「ブロッキング」欄に記号「A」、融着体が残った場合には記号「B」を記載した。ブロッキングの評価においては、篩上に融着体が残らなかった記号「A」の場合をブロッキングが起こらなかったため合格と判断し、篩上に融着体が残った記号「B」の場合を、ブロッキングが起こったため不合格と判断した。
【0110】
「成形性」
型内成形時の成形性は、発泡粒子成形体における発泡粒子同士の融着率及び表面性状に基づいて評価することができる。
【0111】
・融着率
縦300mm×横75mm×厚さ25mmの板状を呈する発泡粒子成形体を長さ方向に略等分となるように折り曲げて成形体を破断させた。その後、試験片の破断面を観察し、目視により成形体内部で破断(材料破壊)した発泡粒子数と発泡粒子界面で剥離した発泡粒子数をそれぞれ計測した。次いで、成形体内部で破断した発泡粒子数と界面で剥離した発泡粒子数との合計に対する成形体内部で破断した発泡粒子数の割合を算出し、これを百分率で表して融着率(%)とした。発泡粒子成形体における発泡粒子同士の融着率は表1及び表2に示す通りであった。融着率の評価においては、融着率が60%以上の場合を合格と判定し、融着率が60%未満の場合を不合格と判定した。
【0112】
・表面性状(間隙)
成形性評価用金型を使用して成形した発泡粒子成形体の表面を目視観察し、薄肉部への発泡粒子の充填状況や、表面に露出した発泡粒子同士の間の隙間の発生状況について評価した。
【0113】
表1及び表2の「間隙」欄には、薄肉部の先端まで十分に発泡樹脂粒子が充填されて成形され、かつ、発泡粒子成形体の表面に発泡粒子間の隙間がほとんど確認されず、表面全体が平滑である場合に記号「A」、薄肉部の先端まで十分に発泡樹脂粒子が充填されて成形されたが、発泡粒子成形体の表面に発泡粒子間の隙間がわずかに確認される場合に記号「B」、薄肉部の先端まで発泡樹脂粒子が充填されず、欠陥が生じた場合に記号「C」を記載した。間隙の評価においては、記号「A」及び記号「B」の場合を、充填性及び表面性状が良好であるため合格と判定し、記号「C」の場合を、充填性が悪いため不合格と判定した。
【0114】
更に、以下の方法により、鋳造性及び強度の評価を行った。
【0115】
「鋳造性」
鋳造性は、鋳造物の鋳肌により評価した。まず、発泡性粒子を発泡させて見掛け密度約30kg/m3の発泡粒子を作製した。次に、この発泡粒子を型内成形して、30kg/m3の見掛け密度を有し、横75mm×縦150mm×厚み40mmの直方体状を呈する発泡粒子成形体を作製した。
【0116】
この発泡粒子成形体を消失模型として用い、フルモールド鋳造法により金属の鋳造を行った。具体的には、まず、ジルコン系塗型剤を塗布した発泡粒子成形体を、湯道及び堰とともに鋳枠内に配置した。そして、鋳枠内に鋳型となる砂を充填した。砂としては、アルカリフェノールガス硬化バインダー樹脂(花王株式会社製 カオーステップ(登録商標)C-800)を使用した。
【0117】
次に、二酸化炭素ガスを鋳枠全体に行き渡るように充填し、砂を硬化させた。湯口と逃がし口を取り付けた後、溶融金属を湯口より流し込み、鋳込みを行った。なお、溶融金属としては、球状黒鉛鋳鉄(つまり、FCD)を使用した。鋳込み時の溶融金属の温度は約1400℃であった。鋳込みが完了した後、鋳枠内で金属が凝固することにより、発泡粒子成形体に対応した形状の鋳物が形成された。鋳枠内で鋳物の温度を十分に低下させた後、鋳物を鋳枠から取り出し、ショットブラスト処理を行った。
【0118】
・鋳肌の評価
鋳物を目視観察し、発泡粒子成形体の表面性状に起因する陥没や隙間等の鋳肌表面の欠陥の有無を評価した。表1及び表2の「鋳肌」欄には、鋳物の表面に欠陥がほとんど確認されず、表面全体が平滑である場合に記号「A」、鋳物の表面に欠陥がわずかに確認される場合に記号「B」、鋳物の表面に隙間がいくらか確認される場合に記号「C」を記載した。鋳肌の評価においては、記号「A」及び記号「B」の場合を、表面性状が良好であるため合格と判定し、記号「C」の場合を、表面性状が悪いため不合格と判定した。
【0119】
「曲げ強度」
0.08MPaの成形スチーム圧で発泡粒子の型内成形を行うことにより、22kg/m3の見掛け密度を有し、縦300mm×横75mm×厚さ25mmの板状を呈する発泡粒子成形体を作製した。この成形体を試験片とし、JIS K7221-2(1999年)の附属書1に記載された大形試験片による曲げ試験方法に準拠して3点曲げ試験を行い、応力-歪曲線を取得した。この応力-歪曲線に基づいて算出した最大荷重における曲げ応力を発泡粒子成形体の曲げ強度とした。なお、3点曲げ試験には万能試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフ(登録商標)」)を使用し、下部支点間距離200mm、試験速度10mm/分の条件で試験を行った。発泡粒子成形体の曲げ強度は、表1及び表2に示す通りであった。
【0120】
「10%圧縮応力」
0.08MPaの成形スチーム圧で発泡粒子の型内成形を行うことにより作製した見掛け密度22kg/m3の発泡粒子成形体の中央部分から縦50mm、横50mm、厚み25mmの直方体状の試験片を採取した。この試験片を用いて、JIS K6767(1999年)に準拠して3点曲げ試験を行い、ひずみ10%における圧縮荷重を測定した。そして、ひずみ10%における圧縮荷重を試験片の受圧面積で除した値を圧縮応力(10%圧縮応力)とした。なお、3点曲げ試験には万能試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフ(登録商標)」)を使用し、下部支点間距離200mm、試験速度10mm/分の条件で試験を行った。発泡粒子成形体の10%圧縮応力は、表1及び表2に示す通りであった。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
表1に示したように、実施例1~6の発泡性粒子における被覆剤(A)には、高級脂肪酸エステル(A1)及びシリコーンオイル(A2)が含まれている。また、高級脂肪酸エステル(A1)には、グリセリン高級脂肪酸エステルと、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルとが含まれている。このように、実施例1~6の発泡性粒子は、前記特定の成分を含有する被覆剤(A)によって被覆されているため、被覆剤(A)の脱離を抑制することができる。また、これらの発泡性粒子は、被覆剤(A)の効果を十分に得ることができる。そのため、優れた成形性を有している。更に、これらの発泡性粒子を発泡してなる発泡粒子は金型内への充填時に帯電しにくいため、金型内の隅々まで容易に発泡粒子を充填することができる。これらの結果、間隙が少なく、平滑性に優れた表面を有する発泡粒子成形体を容易に作製することができる。
【0124】
表2に示したように、比較例1の発泡性粒子における被覆剤(A)には、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステルが含まれていない。そのため、金型内への充填時に発泡粒子が帯電しやすく、実施例1~6に比べて金型内への充填性に劣る。それ故、比較例1の発泡性粒子を用いた発泡粒子成形体は、表面に間隙が形成されやすい。そして、この発泡粒子成形体を用いて鋳造を行った場合には、鋳物の鋳肌に、発泡粒子成形体の表面の間隙に起因する凹凸が生じやすくなる。
【0125】
比較例2の発泡性粒子における被覆剤(A)には、シリコーンオイル(A2)が含まれていない。そのため、実施例1~6の発泡性粒子に比べて、被覆剤(A)が粒子本体から脱離しやすい。そして、被覆剤(A)が粒子本体から脱離することにより、被覆剤(A)による作用効果が低下し、充填性や表面性状の悪化を招きやすい。