(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20230802BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230802BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20230802BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20230802BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20230802BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20230802BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20230802BHJP
B60W 40/068 20120101ALI20230802BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/52
B60K6/54
B60L50/16
F02D29/02 311A
B60W20/00
B60W40/068
F02D45/00 364A
(21)【出願番号】P 2019184343
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】米田 毅
(72)【発明者】
【氏名】家永 寛史
(72)【発明者】
【氏名】阪口 晋一
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/091896(WO,A1)
【文献】特開2003-047109(JP,A)
【文献】特開2017-013583(JP,A)
【文献】特開2010-163157(JP,A)
【文献】特開2012-101771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60W 40/068
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
F02D 29/02
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪を駆動するエンジンと、
前記エンジンと並行して前記前輪および前記後輪を駆動するモータと、
前記エンジンおよび前記モータと前記後輪との間のトルクの伝達経路に設けられ、前記エンジンおよび前記モータから出力されるトルクのうちトランスファートルク容量分のトルクを前記後輪に伝達するトランスファークラッチと、
前記前輪のスリップを検出するスリップ検出部と、
前記前輪のスリップの開始が検出された時点または前記スリップからの復帰が検出された時点である摩擦係数導出タイミングにおいて、前記エンジンの目標トルクを示すエンジントルク指令値、前記モータの目標トルクを示すモータトルク指令値、および、前記トランスファートルク容量の目標値を示すトランスファートルク容量指令値に基づいて、前記エンジントルク指令値に対する前記エンジンの実トルクを示すエンジントルク精度を導出する精度導出部と、
を備えるハイブリッド車両。
【請求項2】
前記精度導出部は、前記摩擦係数導出タイミングにおいて、前記エンジントルク指令値、前記モータトルク指令値および前記トランスファートルク容量指令値に基づいて、前記トランスファートルク容量指令値に対する実際の前記トランスファートルク容量を示すトランスファートルク容量精度を導出する請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記精度導出部は、前記摩擦係数導出タイミングごとの前記エンジントルク指令値、前記モータトルク指令値および前記トランスファートルク容量指令値を用いて、前記エンジントルク精度と前記トランスファートルク容量精度とが関連付けられた連立方程式を解くことで前記エンジントルク精度および前記トランスファートルク容量精度を導出する請求項2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記精度導出部は、
前記摩擦係数導出タイミングとなるごとに、所定条件を満たしていれば前記エンジントルク指令値、前記モータトルク指令値および前記トランスファートルク容量指令値を記憶領域に記憶させ、
前記記憶領域に記憶された前記エンジントルク指令値、前記モータトルク指令値および前記トランスファートルク容量指令値の前回値と、今回の前記摩擦係数導出タイミングにおける前記エンジントルク指令値、前記モータトルク指令値および前記トランスファートルク容量指令値の今回値とを用いて、前記連立方程式を解くことで前記エンジントルク精度および前記トランスファートルク容量精度を導出する請求項3に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記精度導出部は、複数の前記摩擦係数導出タイミングの各々における連立解の前記エンジントルク精度を平均した平均値および前記トランスファートルク容量精度を平均した平均値を、最新の前記エンジントルク精度および最新の前記トランスファートルク容量精度として導出する請求項3または4に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
前記エンジンが前記前輪および前記後輪を駆動せず、前記モータのみが前記前輪および前記後輪を駆動する状態において、
前記精度導出部は、前記摩擦係数導出タイミングにおいて、前記モータトルク指令値および前記トランスファートルク容量指令値に基づいて、前記トランスファートルク容量精度を導出する請求項2に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンとモータとが並行して前輪および後輪を駆動するハイブリッド車両がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンおよびモータのトルクを路面の状況に応じて前輪および後輪に適切に配分するためには、路面の摩擦係数を正確に推定する必要がある。摩擦係数は、例えば、走行中に前輪がスリップした場合、スリップの開始時点において前輪に実際にかかったと推定される実トルクの推定値に基づいて推定される。しかし、実トルクの推定精度が低いと、摩擦係数を精度よく導出することができない。
【0005】
そこで、本発明は、路面の摩擦係数を精度よく推定可能なハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のハイブリッド車両は、前輪および後輪を駆動するエンジンと、エンジンと並行して前輪および後輪を駆動するモータと、エンジンおよびモータと後輪との間のトルクの伝達経路に設けられ、エンジンおよびモータから出力されるトルクのうちトランスファートルク容量分のトルクを後輪に伝達するトランスファークラッチと、前輪のスリップを検出するスリップ検出部と、前輪のスリップの開始が検出された時点またはスリップからの復帰が検出された時点である摩擦係数導出タイミングにおいて、エンジンの目標トルクを示すエンジントルク指令値、モータの目標トルクを示すモータトルク指令値、および、トランスファートルク容量の目標値を示すトランスファートルク容量指令値に基づいて、エンジントルク指令値に対するエンジンの実トルクを示すエンジントルク精度を導出する精度導出部と、を備える。
【0007】
また、精度導出部は、摩擦係数導出タイミングにおいて、エンジントルク指令値、モータトルク指令値およびトランスファートルク容量指令値に基づいて、トランスファートルク容量指令値に対する実際のトランスファートルク容量を示すトランスファートルク容量精度を導出してもよい。
【0008】
また、精度導出部は、摩擦係数導出タイミングごとのエンジントルク指令値、モータトルク指令値およびトランスファートルク容量指令値を用いて、エンジントルク精度とトランスファートルク容量精度とが関連付けられた連立方程式を解くことでエンジントルク精度およびトランスファートルク容量精度を導出してもよい。
【0009】
また、精度導出部は、摩擦係数導出タイミングとなるごとに、所定条件を満たしていればエンジントルク指令値、モータトルク指令値およびトランスファートルク容量指令値を記憶領域に記憶させ、記憶領域に記憶されたエンジントルク指令値、モータトルク指令値およびトランスファートルク容量指令値の前回値と、今回の摩擦係数導出タイミングにおけるエンジントルク指令値、モータトルク指令値およびトランスファートルク容量指令値の今回値とを用いて、連立方程式を解くことでエンジントルク精度およびトランスファートルク容量精度を導出してもよい。
【0010】
また、精度導出部は、複数の摩擦係数導出タイミングの各々における連立解のエンジントルク精度を平均した平均値およびトランスファートルク容量精度を平均した平均値を、最新のエンジントルク精度および最新のトランスファートルク容量精度として導出してもよい。
【0011】
また、エンジンが前輪および後輪を駆動せず、モータのみが前輪および後輪を駆動する状態において、精度導出部は、摩擦係数導出タイミングにおいて、モータトルク指令値およびトランスファートルク容量指令値に基づいて、トランスファートルク容量精度を導出してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、路面の摩擦係数を精度よく推定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態による車両の構成を示す概略図である。
【
図2】エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度の導出を時系列で説明する図である。
【
図3】連立方程式の具体的な一例を説明する図である。
【
図4】車両制御部の動作を説明するフローチャートである。
【
図5】EVモードにおける車両制御部の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態による車両1の構成を示す概略図である。以下では、本実施形態に関係する構成や処理について詳細に説明し、本実施形態と無関係の構成や処理については説明を省略する。
【0016】
車両1は、エンジン10、モータ12、前輪14、後輪16、変速機18、フロントドライブシャフト20、トランスファークラッチ22、プロペラシャフト24、ディファレンシャルギヤ26、リアドライブシャフト28、車輪速センサ30、速度センサ32、加速度センサ34、車両制御部36を含む。なお、
図1では、トランスファークラッチ22をTRFと略記している。
【0017】
車両1は、エンジン10とモータ12とが並行して前輪14および後輪16を駆動可能なパラレル式のハイブリッド車両である。以後、車両1を、自車両と呼ぶ場合がある。
【0018】
エンジン10は、例えば、ガソリン等の燃料を燃焼させてピストンを往復運動させる。ピストンの往復運動は、コネクティングロッドを通じてクランクシャフトの回転運動に変換される。クランクシャフトは、エンジン10の出力軸に接続される。エンジン10の出力軸は、変速機18に接続される。
【0019】
モータ12は、バッテリの電力を消費して回転軸を回転させる。モータ12の回転軸は、変速機18に接続される。
【0020】
変速機18は、例えば、無段変速機などである。変速機18のプライマリ側は、エンジン10の出力軸およびモータ12の回転軸に接続され、セカンダリ側は、フロントドライブシャフト20およびトランスファークラッチ22に接続される。変速機18のプライマリ側には、エンジン10から出力されるトルクおよびモータ12から出力されるトルクが入力される。変速機18は、プライマリ側に入力されたトルクを、プライマリとセカンダリとの変速比に従ったトルクに変換してセカンダリ側に出力する。
【0021】
フロントドライブシャフト20は、前輪14に接続される。つまり、エンジン10から出力されるトルクおよびモータ12から出力されるトルクを合計した総合トルクの一部は、前輪14に伝達される。
【0022】
トランスファークラッチ22は、変速機18のセカンダリとプロペラシャフト24との間に設けられる。プロペラシャフト24は、ディファレンシャルギヤ26を通じてリアドライブシャフト28に接続される。リアドライブシャフト28は、後輪16に接続される。つまり、トランスファークラッチ22は、エンジン10およびモータ12と後輪16との間のトルクの伝達経路に設けられる。
【0023】
トランスファークラッチ22は、例えば、電磁クラッチである。トランスファークラッチ22は、励磁電流に基づく電磁力の大きさに従って、変速機18側とプロペラシャフト24側との締結力を変化させることができる。トランスファークラッチ22は、エンジン10およびモータ12の総合トルクのうち、締結力に従ったトランスファートルク容量分のトルクを、プロペラシャフト24を通じて後輪16に伝達する。トランスファートルク容量は、後輪16側へのトルクの伝達量を示す指標である。以後、トランスファートルク容量を、TRFトルク容量と呼ぶ場合がある。トランスファークラッチ22がTRFトルク容量分のトルクを後輪16側に伝達するため、前輪14には、総合トルクとTRFトルク容量との差分のトルクが伝達される。
【0024】
車輪速センサ30は、前輪14の各々および後輪16の各々に設けられる。以後、前輪14および後輪16を総称して、車輪と呼ぶ場合がある。車輪速センサ30は、対応する車輪の回転速度(車輪速)を検出する。速度センサ32は、自車両の速度(車速)を検出する。加速度センサ34は、少なくとも自車両の前後方向の加速度を検出する。
【0025】
車両制御部36は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路から構成される。車両制御部36は、プログラムを実行することで、駆動制御部40、スリップ検出部42、精度導出部44および摩擦係数導出部46として機能する。
【0026】
駆動制御部40は、アクセル開度に基づいて要求トルクを導出する。駆動制御部40は、要求トルクに基づいて、エンジン10の目標トルクおよびモータ12の目標トルクを導出する。駆動制御部40は、エンジン10の目標トルクを示すエンジントルク指令値をエンジン10に指示し、モータ12の目標トルクを示すモータトルク指令値をモータ12に指示する。
【0027】
また、駆動制御部40は、例えば、自車両の速度および加速度などに基づいて、TRFトルク容量の目標値を導出する。駆動制御部40は、TRFトルク容量の目標値を示すトランスファートルク容量指令値をトランスファークラッチ22に指示する。以後、トランスファートルク容量指令値を、TRFトルク容量指令値と呼ぶ場合がある。
【0028】
スリップ検出部42は、前輪14および後輪16のスリップを検出する。具体的には、スリップ検出部42は、各車輪速センサ30から前輪14の回転速度および後輪16の回転速度を取得する。スリップ検出部42は、左側の前輪14の回転速度と右側の前輪14の回転速度との平均値である前輪平均回転速度を導出する。スリップ検出部42は、左側の後輪16の回転速度と右側の後輪16の回転速度との平均値である後輪平均回転速度を導出する。スリップ検出部42は、前輪平均回転速度から後輪平均回転速度を減算した差分値が所定回転速度以上である場合、前輪14がスリップしていると判断する。
【0029】
前輪14がスリップした場合、駆動制御部40は、TRFトルク容量指令値を一定とし、エンジントルク指令値およびモータトルク指令値を徐々に低下させることで、前輪14をスリップから復帰させてもよい。また、駆動制御部40は、前輪14のスリップ中においてエンジントルク指令値およびモータトルク指令値の時間変化量が所定範囲内で安定しているならば、TRFトルク容量指令値を徐々に上げて、前輪14にかかるトルクを後輪16に逃がすことで、前輪14をスリップから復帰させてもよい。
【0030】
ここで、路面の摩擦係数は、前輪14のスリップの開始が検出された時点、または、スリップからの復帰が検出された時点における前輪14に実際にかかるトルク(実トルク)から推定することができる。以後、前輪14のスリップの開始が検出された時点、または、スリップからの復帰が検出された時点を、摩擦係数導出タイミングと呼ぶ場合がある。
【0031】
前輪14の実トルクは、エンジン10の実トルクとモータ12の実トルクとを合計した総合実トルクと、実際のTRFトルク容量との差分に相当する。このため、摩擦係数は、エンジン10の実トルクの推定値、モータ12の実トルクの推定値および実際のTRFトルク容量の推定値に基づいて推定される。
【0032】
モータ12は、モータトルク指令値に大凡等しい実トルクを出力することができる。このため、モータ12の実トルクは、モータトルク指令値から精度よく推定される。
【0033】
これに対し、エンジン10では、実トルクがエンジントルク指令値からずれているおそれがある。そうすると、エンジン10の実トルクの推定精度が低くなり、結果として、摩擦係数の推定精度が低下するおそれがある。
【0034】
また、トランスファークラッチ22では、実際のTRFトルク容量がTRFトルク容量指令値からずれているおそれがある。そうすると、実際のTRFトルク容量の推定精度が低くなり、結果として、摩擦係数の推定精度が低下するおそれがある。
【0035】
そこで、精度導出部44は、摩擦係数導出タイミングにおいて、エンジントルク精度およびトランスファートルク容量精度を導出する。エンジントルク精度は、エンジントルク指令値に対するエンジン10の実トルクを示す(エンジン精度=エンジン10の実トルク/エンジントルク指令値)。トランスファートルク容量精度は、TRFトルク容量指令値に対する実際のTRFトルク容量を示す(トランスファートルク容量精度=実際のTRFトルク容量/TRFトルク容量指令値)。以後、トランスファートルク容量精度を、TRFトルク容量精度と呼ぶ場合がある。エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度については、後に詳述する。
【0036】
摩擦係数導出部46は、精度導出部44で導出されたエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度に基づいて、路面の摩擦係数を導出(推定)する。具体的には、摩擦係数導出部46は、摩擦係数導出タイミングにおけるエンジントルク指令値にエンジントルク精度を乗算してエンジン10の実トルクを推定し、摩擦係数導出タイミングにおけるTRFトルク容量指令値にTRFトルク容量精度を乗算して実際のTRFトルク容量を推定する。摩擦係数導出部46は、エンジン10の実トルクの推定値および実際のTRFトルク容量の推定値に基づいて、前輪14の実トルクの推定値を導出する。摩擦係数導出部46は、前輪14の実トルクの推定値に基づいて路面の摩擦係数を導出する。
【0037】
次に、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度の導出について詳細に説明する。車両1はパラレル式のハイブリッド車両であるため、変速機18に入力される入力トルクは、以下の式(1)に示すように、エンジン10の実トルクとモータ12の実トルクとを合計したトルク(総合トルク)となる。
入力トルク=エンジン10の実トルク+モータ12の実トルク ・・・(1)
【0038】
変速機18は、入力トルクに変速比を掛けたトルクを出力するため、トランスファークラッチ22には、変速機18の入力トルクに変速比を掛けたトルクが入力される。ここで、説明の簡易化のため、変速機18の変速比を1と仮定する。この場合、トランスファークラッチ22には、変速機18の入力トルクと等しいトルクが入力される。
【0039】
トランスファークラッチ22は、入力されたトルクを前輪14および後輪16に配分する。このため、変速機18の入力トルクと等しいトルクがトランスファークラッチ22に入力された場合、以下の式(2)に示すように、変速機18およびトランスファークラッチ22の入力トルクは、前輪14に実際にかかるトルクである前輪トルクと、後輪16に実際にかかるトルクである後輪トルクとを合計した値となる。
入力トルク=前輪トルク+後輪トルク ・・・(2)
【0040】
ここで、スリップ検出部42によって前輪14のスリップの開始が検出され、摩擦係数導出タイミングとなったとする。このとき、後輪16は、スリップしていないとする。この場合、トランスファークラッチ22は、すべり始め、TRFトルク容量分のトルクを後輪16に伝達する。このため、摩擦係数導出タイミングでは、後輪トルクは、以下の式(3)に示すように、実際のTRFトルク容量に大凡等しくなる。
後輪トルク≒実際のTRFトルク容量 ・・・(3)
【0041】
また、このとき、前輪トルクは、以下の式(4)に示すように、後輪16にかかる荷重である後輪荷重に対する前輪14にかかる荷重である前輪荷重の比である前後荷重配分比(前後荷重配分比=前輪荷重/後輪荷重)と、後輪トルクとに基づいて導出される。
前輪トルク=後輪トルク×前輪荷重/後輪荷重 ・・・(4)
【0042】
前輪荷重は、自車両が静止しているときの前輪にかかる重量である静止時前輪重量と、自車両の加速度に従った荷重移動量とに基づいて導出される。例えば、加速時の前輪荷重は、以下の式(5)で導出され、減速時の前輪荷重は、以下の式(6)で導出される。
加速時の前輪荷重=静止時前輪重量-荷重移動量 ・・・(5)
減速時の前輪荷重=静止時前輪重量+荷重移動量 ・・・(6)
【0043】
後輪荷重は、自車両が静止しているときの後輪にかかる重量である静止時後輪重量と、自車両の加速度に従った荷重移動量とに基づいて導出される。例えば、加速時の後輪荷重は、以下の式(7)で導出され、減速時の後輪荷重は、以下の式(8)で導出される。
加速時の後輪荷重=静止時後輪荷重+荷重移動量 ・・・(7)
減速時の後輪荷重=静止時後輪荷重-荷重移動量 ・・・(8)
【0044】
荷重移動量は、以下の式(9)に示すように、自車両の重量、自車両の前後方向の加速度、重力加速度、地面から自車両の重心までの高さである重心高、および、前輪14の接地位置から後輪16の接地位置までの距離であるホイールベースに基づいて導出される。
荷重移動量=車両重量×(加速度/重力加速度)×(重心高/ホイールベース)
・・・(9)
【0045】
車両重量、重力加速度、重心高、ホイールベース、静止時前輪重量および静止時後輪重量は、車両1の特性として予め決められている。このため、前輪荷重および後輪荷重は、自車両の加速度に基づいて導出することができる。
【0046】
また、上述の式(2)の前輪トルクに式(4)を代入し、上述の式(2)および式(4)の後輪トルクに式(3)を代入して整理すると、以下の式(10)が導出される。
入力トルク=実際のTRFトルク容量×(1+前輪荷重/後輪荷重)
・・・(10)
【0047】
また、上述の式(1)の入力トルクと上述の式(10)の入力トルクが等しいため、以下の式(11)が導出される。
エンジン10の実トルク+モータ12の実トルク=実際のTRFトルク容量×(1+前輪荷重/後輪荷重) ・・・(11)
【0048】
エンジン10の実トルクは、以下の式(12)に示すように、エンジントルク指令値にエンジントルク精度を乗算して導出される。
エンジン10の実トルク=エンジントルク指令値×エンジントルク精度
・・・(12)
【0049】
モータ12の実トルクは、以下の式(13)に示すように、モータトルク指令値に大凡等しい。
モータ12の実トルク≒モータトルク指令値 ・・・(13)
【0050】
実際のTRFトルク容量は、以下の式(14)に示すように、TRFトルク容量指令値にTRFトルク容量精度を乗算して導出される。
実際のTRFトルク容量=TRFトルク容量指令値×TRFトルク容量精度
・・・(14)
【0051】
上述の式(11)に上述の式(12)、式(13)および式(14)を代入すると、以下の式(15)が導出される。
エンジントルク指令値×エンジントルク精度+モータトルク指令値=TRFトルク容量指令値×TRFトルク容量精度×(1+前輪荷重/後輪荷重) ・・・(15)
【0052】
上述の式(15)をエンジントルク精度について整理すると、以下の式(16)が導出される。
エンジントルク精度=(TRFトルク容量指令値×TRFトルク容量精度×(1+前輪荷重/後輪荷重)-モータトルク指令値)/エンジントルク指令値 ・・・(16)
【0053】
上述の式(16)において、エンジントルク指令値、モータトルク指令値、TRFトルク容量指令値は、摩擦係数導出タイミングにおいて取得可能である。また、前輪荷重および後輪荷重は、摩擦係数導出タイミングにおける自車両の加速度から導出可能である。つまり、上述の式(16)において、未知数は、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度である。
【0054】
そこで、精度導出部44は、摩擦係数導出タイミングごとのエンジントルク指令値、モータトルク指令値、TRFトルク容量指令値および自車両の加速度を用いて、エンジントルク精度とTRFトルク容量精度とが関連付けられた上述の式(16)の連立方程式を解くことで、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を導出する。
【0055】
図2は、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度の導出を時系列で説明する図である。
図2では、時刻T1において前輪14のスリップの開始が検出され、時刻T1後の時刻T2においてスリップからの復帰が検出されたとする。また、時刻T2後の時刻T3において再び前輪14のスリップの開始が検出され、時刻T3後の時刻T4においてスリップからの復帰が検出されたとする。また、時刻T4後の時刻T5において再び前輪14のスリップの開始が検出され、時刻T5後の時刻T6においてスリップからの復帰が検出されたとする。
【0056】
時刻T1、時刻T2、時刻T3、時刻T4、時刻T5および時刻T6は、スリップの開始時点、または、スリップから復帰した時点であるため、摩擦係数導出タイミングである。精度導出部44は、摩擦係数導出タイミングである時刻T1~時刻T6の各々において、エンジントルク指令値、モータトルク指令値、TRFトルク容量指令値および自車両の加速度を取得する。以後、エンジントルク指令値、モータトルク指令値、TRFトルク容量指令値、自車両の加速度、加速度から導出される前輪荷重および後輪荷重を、対象データと呼ぶ場合がある。
【0057】
まず、時刻T1において、精度導出部44は、現在の対象データを取得してレジスタなどの記憶領域に記憶させる。時刻T1よりも前には、対象データが取得されていないため、時刻T1の時点では、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度の導出は行われない。このため、時刻T1の時点では、摩擦係数の導出は行われない。
【0058】
次に、時刻T2において、精度導出部44は、現時点の対象データを取得して記憶領域に記憶させる。また、時刻T2において、精度導出部44は、直近の時刻T1における対象データを読み出し、上述の式(16)に適用して第1の方程式を導出する。また、精度導出部44は、現在の時刻T2(今回)における対象データを上述の式(16)に適用して第2の方程式を導出する。精度導出部44は、第1の方程式と第2の方程式とを連立して、時刻T2におけるエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を導出する。そして、摩擦係数導出部46は、連立方程式により導出されたエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度に基づいて、時刻T2における路面の摩擦係数を導出する。
【0059】
次に、時刻T3において、精度導出部44は、現在の対象データを取得して記憶領域に記憶させる。また、時刻T3において、精度導出部44は、直近の時刻T2における対象データを読み出し、上述の式(16)に適用して第1の方程式を導出する。また、精度導出部44は、現在の時刻T3(今回)における対象データを上述の式(16)に適用して第2の方程式を導出する。そして、精度導出部44は、第1の方程式と第2の方程式とを連立して、時刻T3におけるエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を導出する。
【0060】
ここで、上述のように、時刻T3より前の時刻T2において、連立方程式によりエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度が導出されている。そこで、精度導出部44は、直近の時刻T2(前回)における連立解(連立方程式の解)のエンジントルク精度と、現在の時刻T3(今回)における連立解のエンジントルク精度とを平均した平均値を、現在の時刻T3における最新のエンジントルク精度として導出する。また、精度導出部44は、直近の時刻T2(前回)における連立解のTRFトルク容量精度と、現在の時刻T3(今回)における連立解のTRFトルク容量精度とを平均した平均値を、現在の時刻T3における最新のTRFトルク容量精度として導出する。これにより、車両1では、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を、より精度よく導出することができる。
【0061】
また、時刻T3において、摩擦係数導出部46は、導出された最新のエンジントルク精度(エンジントルク精度の平均値)、および、導出された最新のTRFトルク容量精度(TRFトルク容量精度の平均値)に基づいて、路面の摩擦係数を導出する。
【0062】
次に、時刻T4では、アクセル開度をゼロとすることで、すなわち、要求トルクをゼロとすることでスリップから復帰したとする。要求トルクがゼロである場合、エンジントルク指令値およびモータトルク指令値がともにゼロであるため、連立方程式を適切に解くことができない。このため、精度導出部44は、時刻T4において対象データを取得するが、要求トルクがゼロであるため、対象データを記憶させずに破棄する。
【0063】
次に、時刻T5において、精度導出部44は、現在の対象データを取得して記憶領域に記憶させる。また、時刻T5において、精度導出部44は、直近に記憶されている時刻T3の時点の(前回の)対象データを読み出し、上述の式(16)に適用して第1の方程式を導出する。また、精度導出部44は、現在の時刻T5(今回)における対象データを上述の式(16)に適用して第2の方程式を導出する。精度導出部44は、第1の方程式と第2の方程式とを連立して、時刻T5におけるエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を導出する。
【0064】
また、時刻T5において、精度導出部44は、直近の時刻T3における連立解(前回の連立解)のエンジントルク精度と、現在の時刻T5における連立解(今回の連立解)のエンジントルク精度とを平均した平均値を、現在の時刻T5における最新のエンジントルク精度として導出する。また、精度導出部44は、直近の時刻T3における連立解(前回の連立解)のTRFトルク容量精度と、現在の時刻T5における連立解(今回の連立解)のTRFトルク容量精度とを平均した平均値を、現在の時刻T5における最新のTRFトルク容量精度として導出する。そして、摩擦係数導出部46は、最新のエンジントルク精度および最新のTRFトルク容量精度に基づいて路面の摩擦係数を導出する。なお、時刻T6については、上述の時刻T5等と同様にして摩擦係数が導出される。
【0065】
このように、精度導出部44は、現在より前の摩擦係数導出タイミングにおいて記憶された対象データと、現在の摩擦係数導出タイミングにおいて取得された対象データとを用いて連立方程式を解くことで、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を導出する。また、精度導出部44は、現在より前の摩擦係数導出タイミングにおいて連立方程式により導出されたエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度と、現在の摩擦係数導出タイミングにおいて連立方程式により導出されたエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度とを平均することで、最新のエンジントルク精度および最新のTRFトルク容量精度を導出する。
【0066】
図3は、連立方程式の具体的な一例を説明する図である。摩擦係数導出タイミングである時刻T1、時刻T2および時刻T3のいずれにおいても、前後荷重配分比は6:4(前輪荷重/後輪荷重=6/4)であるとする。
【0067】
例えば、摩擦係数導出タイミングである時刻T1において、エンジントルク指令値は100Nmであり、モータトルク指令値は0Nmであり、TRFトルク容量指令値は45Nmであるとする。これらの値を上述の式(16)に適用すると、以下の式(17)が導出される。
エンジントルク精度=1.125×TRFトルク容量精度 ・・・(17)
【0068】
また、摩擦係数導出タイミングである時刻T2において、エンジントルク指令値は80Nmであり、モータトルク指令値は20Nmであり、TRFトルク容量指令値は43.5Nmであるとする。これらの値を上述の式(16)に適用すると、以下の式(18)が導出される。
エンジントルク精度=1.36×TRFトルク容量精度-0.25 ・・・(18)
【0069】
上述の式(17)を第1の方程式とし、上述の式(18)を第2の方程式とする連立方程式を解くと、エンジントルク精度は「1.20」となり、TRFトルク容量精度は「1.07」となる。
【0070】
エンジントルク精度は、「1」に近いほど、エンジン10の実トルクに近いことを示す。また、TRFトルク容量精度は、「1」に近いほど、実際のTRFトルク容量に近いことを示す。
【0071】
また、摩擦係数導出タイミングである時刻T3において、エンジントルク指令値は60Nmであり、モータトルク指令値は35Nmであり、TRFトルク容量指令値は40Nmであるとする。これらの値を上述の式(16)に適用すると、以下の式(19)が導出される。
エンジントルク精度=1.67×TRFトルク容量精度-0.58 ・・・(19)
【0072】
上述の式(18)を第1の方程式とし、上述の式(19)を第2の方程式とする連立方程式を解くと、エンジントルク精度は「1.22」となり、TRFトルク容量精度は「1.08」となる。
【0073】
導出されたエンジントルク精度「1.20」と「1.22」とを平均すると、エンジントルク精度は「1.21」となる。また、導出されたTRFトルク容量精度「1.07」と「1.08」とを平均すると、TRFトルク容量精度は「1.08」となる。
【0074】
摩擦係数導出部46は、このようにして導出されたエンジントルク精度「1.21」およびTRFトルク容量精度「1.08」を用いて路面の摩擦係数を導出する。
【0075】
図4は、車両制御部36の動作を説明するフローチャートである。精度導出部44は、所定制御周期ごとに、
図4の一連の処理を繰り返す。
【0076】
まず、精度導出部44は、摩擦係数導出タイミングとなったか否かを判断する(S100)。具体的には、精度導出部44は、スリップ検出部42が前輪14のスリップの開始またはスリップからの復帰を検知すると、摩擦係数導出タイミングとなったと判断する。
【0077】
摩擦係数導出タイミングとなっていない場合(S100におけるNO)、精度導出部44は、一連の処理を終了する。
【0078】
摩擦係数導出タイミングとなった場合(S100におけるYES)、精度導出部44は、駆動制御部40から現在のエンジントルク指令値を取得し(S110)、現在のモータトルク指令値を取得し(S120)、現在のTRFトルク容量指令値を取得する(S130)。次に、精度導出部44は、加速度センサ34から自車両の現在の加速度を取得する(S140)。
【0079】
次に、精度導出部44は、現在の要求トルクがゼロではないかを判断する(S150)。現在の要求トルクがゼロである場合(S150におけるNO)、精度導出部44は、取得された現在のエンジントルク指令値、モータトルク指令値、TRFトルク容量指令値および加速度を破棄し(S160)、一連の処理を終了する。
【0080】
現在の要求トルクがゼロではない場合(S150におけるYES)、精度導出部44は、現在の加速度に基づいて前輪荷重および後輪荷重を導出する(S170)。次に、精度導出部44は、現在(今回)の対象データであるエンジントルク指令値、モータトルク指令値、TRFトルク容量指令値、加速度、前輪荷重および後輪荷重をレジスタ等の記憶領域に記憶させる(S180)。
【0081】
次に、精度導出部44は、エンジントルク指令値等の対象データの前回値が記憶されているか否かを判断する(S190)。対象データの前回値が記憶されていない場合(S190におけるNO)、精度導出部44は、一連の処理を終了する。
【0082】
対象データの前回値が記憶されている場合(S190におけるYES)、精度導出部44は、対象データの前回値と対象データの今回値(現在の対象データ)とを用いた連立方程式を解くことで、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を導出する(S200)。次に、精度導出部44は、連立方程式を解くことで得られる連立解であるエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度をレジスタ等の記憶領域に記憶させる(S210)。
【0083】
次に、精度導出部44は、連立解の前回値が記憶されているか否かを判断する(S220)。連立解の前回値が記憶されていない場合(S220におけるNO)、摩擦係数導出部46は、現在(今回)の連立解であるエンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を用いて摩擦係数を導出し(S230)、一連の処理を終了する。
【0084】
連立解の前回値が記憶されている場合(S220におけるYES)、精度導出部44は、前回の連立解のエンジントルク精度と現在(今回)の連立解のエンジントルク精度とを平均した平均値を、最新のエンジントルク精度として導出し、前回の連立解のTRFトルク容量精度と現在(今回)の連立解のTRFトルク容量精度とを平均した平均値を、最新のTRFトルク容量精度として導出する(S240)。そして、摩擦係数導出部46は、平均して得られた最新のエンジントルク精度および最新のTRFトルク容量精度を用いて摩擦係数を導出し(S230)、一連の処理を終了する。
【0085】
以上のように、本実施形態の車両1では、摩擦係数導出タイミングにおいて、エンジントルク指令値、モータトルク指令値およびトランスファートルク容量指令値に基づいて、エンジントルク精度が導出される。このため、車両1では、エンジントルク精度とエンジントルク指令値とからエンジン10の実トルクを推定することで、エンジン10の実トルクを精度よく推定することができる。
【0086】
したがって、本実施形態の車両1によれば、エンジントルク精度に基づいて推定されるエンジン10の実トルクを用いて路面の摩擦係数を導出することで、路面の摩擦係数を精度よく推定可能となる。
【0087】
また、本実施形態の車両1では、摩擦係数導出タイミングにおいて、エンジントルク指令値、モータトルク指令値およびトランスファートルク容量指令値に基づいて、TRFトルク容量精度が導出される。このため、車両1では、TRFトルク容量精度とTRFトルク容量指令値とから実際のTRFトルク容量を推定することで、実際のTRFトルク容量を精度よく推定することができる。
【0088】
したがって、本実施形態の車両1によれば、TRFトルク容量精度に基づいて推定される実際のTRFトルク容量を用いて路面の摩擦係数を導出することで、路面の摩擦係数を精度よく推定可能となる。
【0089】
また、本実施形態の車両1の精度導出部44は、摩擦係数導出タイミングごとのエンジントルク指令値、モータトルク指令値およびTRFトルク容量指令値を用いて連立方程式を解くことで、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を導出する。このため、本実施形態の車両1では、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を的確に導出することができる。
【0090】
また、本実施形態の精度導出部44は、摩擦係数導出タイミングとなるごとに、所定条件を満たしていればエンジントルク指令値、モータトルク指令値およびTRFトルク容量指令値を記憶領域に記憶させる。所定条件は、例えば、要求トルクがゼロではないことである。そして、精度導出部44は、記憶領域に記憶されたエンジントルク指令値、モータトルク指令値およびTRFトルク容量指令値の前回値と、今回の摩擦係数導出タイミングにおけるエンジントルク指令値、モータトルク指令値およびTRFトルク容量指令値の今回値とを用いて、連立方程式を解く。このため、本実施形態の車両1では、より現在に近い摩擦係数を精度よく推定することができる。
【0091】
また、本実施形態の車両1の精度導出部44は、複数の摩擦係数導出タイミングの各々における連立解のエンジントルク精度の平均値およびTRFトルク容量精度の平均値を、最新のエンジントルク精度および最新のTRFトルク容量精度として導出する。このため、本実施形態の車両1では、エンジントルク精度およびTRFトルク容量精度を、より精度よく導出することができる。その結果、本実施形態の車両1では、路面の摩擦係数を、より精度よく導出することができる。
【0092】
なお、本実施形態の精度導出部44は、現在の対象データと、直近に記憶された対象データとを用いて連立方程式を解いていた。しかし、精度導出部44は、現在の対象データと、少なくとも現在よりも前に記憶された対象データとを用いて連立方程式を解いてもよい。
【0093】
また、本実施形態の精度導出部44は、現在の連立解と直近の連立解とから、エンジントルク精度の平均値およびTRFトルク容量精度の平均値を導出していた。しかし、精度導出部44は、現在の連立解と、少なくとも現在よりも前の連立解とから、エンジントルク精度の平均値およびTRFトルク容量精度の平均値を導出してもよい。
【0094】
また、本実施形態の精度導出部44は、2個の連立解からエンジントルク精度の平均値およびTRFトルク容量精度の平均値を導出していた。しかし、精度導出部44は、3個以上の連立解のエンジントルク精度からエンジントルク精度の平均値を導出してもよいし、3個以上の連立解のTRFトルク容量精度からTRFトルク容量精度の平均値を導出してもよい。
【0095】
また、精度導出部44は、対象データおよび連立解の記憶を、所定時間が経過するごと、例えば、ドライビングサイクルが終了するごとにクリアしてもよい。この態様では、現在とは路面状況が異なる数日前の対象データが摩擦係数の推定に使用されるようなことを回避でき、結果として、摩擦係数の精度の低下を防止可能となる。
【0096】
(変形例)
上記実施形態では、エンジン10の実トルクを精度よく推定するためにエンジントルク精度を導出していた。しかし、エンジン10が前輪14および後輪16を駆動せず、モータ12のみが前輪14および後輪16を駆動するEVモードでは、エンジントルク精度を導出せずとも、エンジン10の実トルクはゼロと推定できる。このため、EVモードでは、TRFトルク容量精度のみを導出してもよい。
【0097】
EVモードで走行している状態において、スリップ検出部42によって前輪14のスリップの開始が検出され、摩擦係数導出タイミングとなったとする。このとき、後輪16は、スリップしていないとする。このような場合、実際のTRFトルク容量は、以下の式(20)に示すように、モータトルク指令値に等しくなる。
実際のTRFトルク容量=モータトルク指令値 ・・・(20)
【0098】
上述の式(14)に上述の式(20)を代入して整理すると、以下の式(21)が導出される。
TRFトルク容量精度=モータトルク指令値/TRFトルク容量指令値
・・・(21)
【0099】
EVモードの場合、精度導出部44は、上述の式(21)で示すように、モータトルク指令値およびTRFトルク容量指令値に基づいてTRFトルク容量精度を導出することができる。また、EVモードの場合、摩擦係数導出部46は、導出されたTRFトルク容量精度およびTRFトルク容量指令値に基づいて実際のTRFトルク容量を推定し、推定された実際のTRFトルク容量に基づいて路面の摩擦係数を導出できる。
【0100】
図5は、EVモードにおける車両制御部36の動作を説明するフローチャートである。精度導出部44は、所定制御周期ごとに、
図5の一連の処理を繰り返す。
【0101】
まず、精度導出部44は、摩擦係数導出タイミングとなったか否かを判断する(S300)。摩擦係数導出タイミングとなっていない場合(S300におけるNO)、精度導出部44は、一連の処理を終了する。
【0102】
摩擦係数導出タイミングとなった場合(S300におけるYES)、精度導出部44は、駆動制御部40から現在のモータトルク指令値を取得し(S310)、TRFトルク容量指令値を取得する(S320)。
【0103】
次に、精度導出部44は、要求トルクがゼロではないかを判断する(S330)。要求トルクがゼロである場合(S330におけるNO)、精度導出部44は、取得された現在のモータトルク指令値およびTRFトルク容量指令値を破棄し(S340)、一連の処理を終了する。
【0104】
要求トルクがゼロではない場合(S330におけるYES)、精度導出部44は、モータトルク指令値およびTRFトルク容量指令値からTRFトルク容量精度を導出する(S350)。次に、精度導出部44は、TRFトルク容量精度の導出結果をレジスタなどの記憶領域に記憶させる(S360)。
【0105】
次に、摩擦係数導出部46は、導出されたTRFトルク容量精度に基づいて路面の摩擦係数を導出し(S370)、一連の処理を終了する。
【0106】
以上のように、エンジン10が前輪14および後輪16を駆動せず、モータ12のみが前輪14および後輪16を駆動する状態において、精度導出部44は、摩擦係数導出タイミングにおいて、モータトルク指令値およびTRFトルク容量指令値に基づいてTRFトルク容量精度を導出する。
【0107】
したがって、この変形例においても、TRFトルク容量精度に基づいて推定される実際のTRFトルク容量を用いて路面の摩擦係数を導出することで、路面の摩擦係数を精度よく推定可能となる。
【0108】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、ハイブリッド車両に利用できる。
【符号の説明】
【0110】
1 車両
10 エンジン
12 モータ
14 前輪
16 後輪
22 トランスファークラッチ
42 スリップ検出部
44 精度導出部