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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】車両用走行装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/682 20060101AFI20230802BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20230802BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20230802BHJP
   F16H 3/089 20060101ALI20230802BHJP
   F16H 3/083 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
F16H61/682
F16H59/68
F16H59/44
F16H3/089
F16H3/083
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020029782
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021134821
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊津井 裕
(72)【発明者】
【氏名】有田 克也
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-265003(JP,A)
【文献】特開2005-313893(JP,A)
【文献】特開2006-298063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/00- 3/78
59/00-61/12
61/16-61/24
61/66-61/70
63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにクラッチを介して接続された入力軸と、前記入力軸に平行に配置された出力軸と、前記入力軸或いは前記出力軸のうちの何れか一方の軸に固定されて発進用の変速ギヤ列を構成する第1の歯車と、前記第1の歯車に噛み合うとともに、前記入力軸或いは前記出力軸のうちの何れか他方の軸に回転可能に支持されて前記発進用の変速ギヤ列を構成する第2の歯車と、前記第2の歯車の一側に配設され、ドライバの変速操作により前記他方の軸と前記第2の歯車との間の動力伝達を可能或いは不能に切り替える切替機構と、を備えた手動変速装置を搭載した車両に適用される車両用走行装置であって、
前記第2の歯車の他側に配設され、前記ドライバの変速操作によらず前記他方の軸と前記第2の歯車との間を締結可能な補助クラッチと、
前記手動変速装置がニュートラル状態にあるとき、前記補助クラッチの締結制御或いは解放制御を通じて自車両を設定車速以下の低速にて走行制御を行う走行制御部と、を備えたことを特徴とする車両用走行装置。
【請求項2】
前方走行環境を認識して自車両が走行する走行車線上の先行車をする認識する走行環境認識装置を備え、
前記走行制御部は、自車両の車速が「0」となり、前記手動変速装置がニュートラル状態にあり、クラッチペダルがオフされており、且つ、自車両の前方に前記先行車が認識されているとき、前記先行車に追従するための前記走行制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両用走行装置。
【請求項3】
前記補助クラッチは、油圧多板クラッチであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速装置として手動変速装置を搭載した車両に適用される車両用走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両においては、運転者の負担を軽減し、快適且つ安全に運転できるようにするための運転支援の技術が種々提案され、一部は既に実用化されている。
【0003】
この種の運転支援は、追従車間距離制御(ACC:Adaptive Cruise Control)機能と車線維持制御(Lane Keeping)機能とを備えることで、先行車との車間を維持しつつ走行車線に沿って車両を自動走行させることができる。更に、ロケータ機能を備えることで、自車両を目的地まで自動走行させることもできる。
【0004】
ACC制御は、例えば車両に搭載されている車載カメラや各種レーダセンサ、或いはそれらの組み合わせからなる前方認識装置により、先行車との距離を認識し、先行車に追従して走行させるものである。そして、このACC制御では、先行車が停車した場合は所定車間距離を開けて自車両を停車させ、先行車の発進に従って自車両を発進させる全車速追従制御が行われる。
【0005】
このようなACC制御は、一般に、自動変速装置を搭載した車両に適用される。すなわち、一般に、手動変速装置は、クリープ走行等を行うことができず、自車両の発進や変速をドライバの運転操作に委ねる必要があるため、ACC制御は手動変速装置を搭載した車両には適用されない。従って、手動変速装置を搭載した車両では、特に、渋滞時等のように発進と停止を繰り返す場面において、ドライバは、頻繁にクラッチ操作等を行う等の負担を強いられる。
【0006】
ここで、手動変速装置を搭載した車両においても自動変速装置のクリープ走行に相当する走行を実現してドライバの負担を軽減するための技術が提案されている。例えば、特許文献1には、入力軸とこれに連結自在に配置されたメインシャフト上と、これらに平行に配設された第1のカウンタシャフト上に、前進用の第1速と後進用の各歯車対を除いた前進用の各歯車対を選択的に両シャフト間に連結可能になるよう配設し、この第1のカウンタシャフトとは別体になった第2のカウンタシャフトをメインシャフトに平行に配設し、この第2のカウンタシャフトと第1のカウンタシャフト間に伝達力可変型のクラッチを配設し、第2のカウンタシャフト上とメインシャフト上に前進用の第1速と後進用の歯車対を選択的に両シャフト間に連結可能になるよう配設した技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-265003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術では、第2のカウンタシャフトを追加する必要があるため、手動変速装置の構造が複雑化する虞がある。
【0009】
また、上述の特許文献1に開示された技術では、ドライバがニュートラルに操作した場合、及び、第1速にシフト操作した場合の何れの場合にも、歯車選択手段が第1速用の歯車をメインシャフトに連結するものであるため、通常の発進時における操作感が手動変速装置の本来の操作感と異なる虞がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、簡単な構成により、手動変速装置の操作感を損なうことなく、ドライバのクラッチ操作を必要としない自車両の発進を実現することができる車両用走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様による車両用走行装置は、エンジンにクラッチを介して接続された入力軸と、前記入力軸に平行に配置された出力軸と、前記入力軸或いは前記出力軸のうちの何れか一方の軸に固定されて発進用の変速ギヤ列を構成する第1の歯車と、前記第1の歯車に噛み合うとともに、前記入力軸或いは前記出力軸のうちの何れか他方の軸に回転可能に支持されて前記発進用の変速ギヤ列を構成する第2の歯車と、前記第2の歯車の一側に配設され、ドライバの変速操作により前記他方の軸と前記第2の歯車との間の動力伝達を可能或いは不能に切り替える切替機構と、を備えた手動変速装置を搭載した車両に適用される車両用走行装置であって、前記第2の歯車の他側に配設され、前記ドライバの変速操作によらず前記他方の軸と前記第2の歯車との間を締結可能な補助クラッチと、前記手動変速装置がニュートラル状態にあるとき、前記補助クラッチの締結制御或いは解放制御を通じて自車両を設定車速以下の低速にて走行制御を行う走行制御部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用走行装置によれば、簡単な構成により、手動変速装置の操作感を損なうことなく、ドライバのクラッチ操作を必要としない自車両の発進を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】走行制御装置の概略構成図
図2】手動変速装置の要部断面図
図3】運転支援装置の概略構成図
図4】低速走行制御ルーチンを示すフローチャート
図5】低速追従モード実行サブルーチンを示すフローチャート
図6】低速走行制御モードでの自車両と先行車との関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係り、図1は手動変速装置を示すスケルトン図である。
【0015】
図1において、符号1は、例えば、歯車式変速装置としての手動変速装置を示す。この手動変速装置1は、エンジン10の出力軸であるクランク軸11に接続するクラッチ12と、クラッチ12を介してエンジン10からの駆動力が入力される変速機20と、を有して構成されている。なお、本実施形態における手動変速装置1は、車両の前後方向に沿って搭載される縦置き式の変速装置である。
【0016】
クラッチ12は、クランク軸11に連結されたフライホイール12aと、フライホイール12aの背面側(変速機20側)に接離可能なクラッチディスク12bと、フライホイール12aの背面側に固定されたクラッチカバー12cと、クラッチカバー12cに支持されたダイヤフラムスプリング12dと、ダイヤフラムスプリング12dの付勢力によってクラッチディスク12bをフライホイール12a側に押圧するためのプレッシャプレート12eと、図示しないレリーズフォークに連動して入力軸21の軸方向に移動することによりプレッシャプレート12eに対するダイヤフラムスプリング12dの付勢力を解放するレリーズベアリング12fと、を有して構成されている。
【0017】
変速機20は、エンジン10によって駆動される回転軸としての入力軸21と、入力軸21に平行に設けられ駆動輪に連結される中空の出力軸22と、を有して構成されている。そして、これら入力軸21と出力軸22との間には、変速機20の変速ギヤ機構が構成されている。
【0018】
すなわち、入力軸21には、変速ギヤとしての第1速、第2速の駆動歯車31a,32aが固定されている。また、入力軸21には、変速ギヤとしての第3速~第6速の駆動歯車33a~36aが回転自在に取り付けられている。
【0019】
一方、出力軸22には、第1速、第2速の従動歯車31b,32bが回転自在に取り付けられており、第3速~第6速の従動歯車33b~36bが固定されている。これらの駆動歯車31a~36aと従動歯車31b~36bとはそれぞれに噛み合って前進用の変速歯車列つまり変速段を形成する。
【0020】
出力軸22には、第1速と第2速の変速段を動力伝達可能状態と中立状態(動力伝達不能状態)とに切り替える切替機構41が装着されている。また、入力軸21には、第3速と第4速の変速段を動力伝達状態と中立状態とに切り替える切替機構42と、第5速と第6速の変速段を動力伝達状態と中立状態とに切り替える切替機構43とが装着されている。これらの切替機構41~43はシンクロメッシュ機構となっている。
【0021】
切替機構41は、第1速と第2速の2つの従動歯車31b,32bの間に配置されるとともに出力軸22に固定されるシンクロハブ41aと、これに常時噛み合うシンクロスリーブ41bと、を有している。このシンクロスリーブ41bを従動歯車31bに一体形成されたスプライン31cに噛み合わせると第1速に設定され、逆に従動歯車32bに一体形成されたスプライン32cに噛み合わせると第2速に設定される。
【0022】
他の切替機構42,43も切替機構41と同様の構造を備えており、入力軸21に固定されるシンクロハブ42a,43aと、シンクロハブ42a,43aのそれぞれに常時噛み合うシンクロスリーブ42b,43bとを有している。これらのシンクロスリーブ42b,43bを駆動歯車33a~36aのそれぞれに一体形成されたスプライン33c~36cに噛み合わせることにより、変速段は第3速~第6速のいずれかに設定される。
【0023】
また、入力軸21には後退用の駆動歯車37aが固定され、切替機構41のシンクロスリーブ41bには後退用の従動歯車37bが固定されている。入力軸21に対して平行に配置されたアイドル軸44には、後退用の駆動歯車37aと従動歯車37bとに噛み合う位置と噛み合いを外す位置とに移動自在なアイドル歯車45が装着されている。したがって、シンクロスリーブ41bを中立位置に作動させた状態のもとで、アイドル歯車45を移動させて駆動歯車37aと従動歯車37bとに噛み合わせると、駆動歯車37a、従動歯車37bおよびアイドル歯車45からなる後退用の変速段を介して入力軸21の回転は逆転されて出力軸22に伝達される。
【0024】
ドライバの変速操作により切替機構41~43を作動させるため、それぞれのシンクロスリーブ41b~43bはシフトフォーク(図示省略)に把持されており、シフトフォークの移動に伴ってシンクロスリーブ41b~43bは軸方向に移動する。このシフトフォークと車室内のシフトレバー(図示省略)とは、シフトロッド(図示省略)を介して連結されており、シフトレバーの手動操作に伴うシンクロスリーブ41b~43bの移動により所望の変速段が動力伝達状態に切り替えられる。
【0025】
出力軸22の後端部には、センタディファレンシャルユニット50が接続されている。センタディファレンシャルユニット50は、中空の出力軸22に挿通された前輪出力軸46を介してフロントディファレンシャル装置48に連結されている。さらに、センタディファレンシャルユニット50は、トランスファギヤ列51及び後輪出力軸49を介してリアディファレンシャル装置(図示せず)に連結されている。なお、センタディファレンシャルユニット50には、例えば、油圧多板式の差動制限機構50aが設けられており、前輪または後輪がスリップして差動回転が生じたときは、差動制限機構50aにより差動回転が抑制される。
【0026】
図1,2に示すように、このような変速機20において、発進用の変速ギヤ列である第1速のギヤ列を構成する従動歯車31bには、切替機構41を用いることなく従動歯車31bを出力軸22に動力伝達可能な状態に接続するための発進用補助クラッチとしての油圧多板クラッチ55が併設されている。
【0027】
具体的に説明すると、本実施形態においては、発進用の変速ギヤ列である第1速のギヤ列(変速段)を構成する駆動歯車31aが第1の歯車に相当し、従動歯車31bが第2の歯車に相当する。そして、油圧多板クラッチ55は、出力軸22上において、従動歯車31bを挟んで切替機構41とは反対側に設けられている。
【0028】
図2に示すように、油圧室5eに制御油圧が供給されて油圧多板クラッチ55は、例えば、出力軸22に固設されたクラッチドラム55aと、従動歯車31bに固設されたクラッチハブ55bと、これらクラッチドラム55aとクラッチハブ55bとの間に配設された複数のドライブプレートとドリブンプレートとからなるプレート列55cと、クラッチドラム55aの内部を出力軸22の軸心方向に移動可能なピストン55dと、クラッチドラム55aとピストン55dとの間に形成された油圧室55eと、を有して構成されている。
【0029】
そして、油圧多板クラッチ55がスリップ制御されることにより、手動変速装置1は、ニュートラル状態にあるとき、切替機構41を用いることなくエンジン10からの駆動力を出力軸22に伝達して、第1速の変速段を用いて、クリープ走行に相当する極定速での走行を実現することが可能となっている。さらに、自車両が極定速にて発進した後は、油圧多板クラッチ55が締結制御されることにより、手動変速装置1は、第1速の変速段を用いて、所定の低速走行を実現することが可能となっている。換言すれば、本実施形態の手動変速装置1は、変速機20がニュートラル状態にある場合であっても、油圧多板クラッチ55の締結制御を通じて、第1速の変速段を用いた設定車速(例えば、20Km/h)以下での低速走行(クリープ走行を含む)を実現することが可能となっている。
【0030】
なお、発進用補助クラッチとしては、油圧多板クラッチに代えて電磁クラッチを用いても良い。また、発進用補助クラッチとしての油圧多板クラッチ55は、他の発進用のギヤ列である第2速のギヤ列を構成する従動歯車32bに併設することも可能である。さらに、発進用のギヤ列の従動歯車が第1の歯車として出力軸22に固定されている構成においては、発進用補助クラッチとしての油圧多板クラッチ55を第2の歯車としての駆動歯車に併設することも可能である。
【0031】
このような手動変速装置1が搭載された本実施形態の車両Mには、運転支援装置70が設けられている。図3に示すように、運転支援装置70は、ナビゲーションユニット71と、前方走行環境認識装置としてのカメラユニット81と、走行制御ユニット91とを備えている。
【0032】
ナビゲーションユニット71は、地図ロケータ演算部72と、地図情報記憶部としての道路地図データベース76とを有している。この地図ロケータ演算部72、後述する前方走行環境認識部81d、及び走行制御ユニット91は、CPU,RAM,ROM、不揮発性記憶部等を備える周知のマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されており、ROMにはCPUで実行するプログラムやテーブル、マップ等の固定データ等が予め記憶されている。
【0033】
ここで、道路地図データベース76はHDD等の大容量記憶媒体であり、周知の道路地図情報が記憶されている。この道路地図情報には、道路の種別(一般道路、高速道路等)、道路形状、道路方位、車線幅、交差点(十字路、丁字路)等の道路状況を示す情報が記憶されている。
【0034】
地図ロケータ演算部72の入力側に、GNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)受信機73、及び自律センサ74、が接続されている。GNSS受信機73は複数の測位衛星から発信される測位信号を受信する。又、自律センサ74は、トンネル内走行等GNSS衛星からの受信感度が低く測位信号を有効に受信することのできない環境において、自車位置を推定するもので、車速センサ、ヨーレートセンサ、及び前後加速度センサ等で構成されている。地図ロケータ演算部72は、車速センサで検出した車速、ヨーレートセンサで検出したヨーレート(ヨー角速度)、及び前後加速度センサで検出した前後加速度等に基づいて移動距離と方位からローカライゼーションを行う。
【0035】
地図ロケータ演算部72は、GNSS受信機73で受信した測位信号に基づいて自車両Mの現在の位置座標(緯度、経度)を取得し、この位置座標を地図情報上にマップマッチングして、道路地図上の自車位置(現在位置)を推定すると共に走行車線を特定し、更に、自車位置の移動履歴から進行方向の方位(自車方位)を求める。
【0036】
又、地図ロケータ演算部72は、トンネル内走行等のようにGNSS受信機73の感度低下により測位衛星からの有効な測位信号を受信することができない環境では、自律センサ74からの情報に基づいてローカライゼーションを行う。
【0037】
一方、カメラユニット81は、自車両Mの車室内前部の上部中央に固定されており、車幅方向の中央(車幅中央)を挟んで左右対称な位置に配設されているメインカメラ81a及びサブカメラ81bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU)81c、及び前方走行環境認識部81dとを有している。このカメラユニット81は、メインカメラ81aで基準画像データを撮像し、サブカメラ81bで比較画像データを撮像する。そして、この両画像データをIPU81cにて所定に画像処理する。
【0038】
前方走行環境認識部81dは、IPU81cで画像処理された基準画像データと比較画像データとを読込み、その視差に基づいて両画像中の同一対象物を認識すると共に、その距離データ(自車両Mから対象物までの距離)を、三角測量の原理を利用して算出して、前方走行環境情報を認識する。
【0039】
この前方走行環境情報には、自車両Mが走行する車線(走行車線)の道路形状(左右を区画する区画線、区画線間中央の道路曲率[1/m]、及び左右区画線間の幅(車線幅))、交差点、信号機、道路標識、及び前方障害物(自車両Mが走行する走行車線上の先行車、横断歩行者、自転車、電柱、電信柱、駐車車両等)が含まれており、これらを周知のパターンマッチング等の手法を用いて認識する。
【0040】
走行制御ユニット91は、入力側に、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ92、ブレーキペダルが踏み込まれた際にオンするブレーキスイッチ93、クラッチペダルが踏み込まれた際にオンするクラッチスイッチ94、シフトポジションセンサ95、及びドライバが渋滞追従制御の実行を許可するための渋滞時追従スイッチ96が接続されている。
【0041】
又、この走行制御ユニット91の出力側に、強制ブレーキにより自車両Mを減速させるブレーキ制御部100、自車両Mの車速を制御する加減速制御部97、及びドライバに各種情報を報知する報知装置98が接続されている。
【0042】
走行制御ユニット91は、運転支援制御の機能の一つとして、ACC(Adaptive Cruise Control)機能を有している。従って、走行制御ユニット91は、カメラユニット81が目標進行路上に先行車を補足していない場合は、自車両Mをセット車速で走行させ、先行車が補足された場合は、所定車間距離を維持した状態で先行車に追従走行させる。ここで、手動変速装置1を搭載した本実施形態の車両Mにおいては、ACC機能の実行時に、例えば、加減速制御部97を通じたエンジン制御を行うとともに、報知装置98に設けられたインジケータ等を通じて、ドライバに対し手動変速装置1の変速指示を適宜行う。
【0043】
このACCは自車両Mが渋滞車列の最後尾車両Peに接近する際に実行される渋滞時制御にも適用される。
【0044】
この渋滞時制御において、走行制御ユニット91は、基本的には、自律センサであるカメラユニット81により取得した走行環境情報に基づいて最後尾車両(先行車)Peが検出(捕捉)された場合には、予め設定された減速度(ACC制御において予め設定された基本減速度a_acc)を用いて最後尾車両Peの手前で自車両Mを停止させるために必要な第1の制御目標距離として追従停止距離Z_accを算出し、最後尾車両Peまでの車間距離Zが追従停止距離Z_accを下回った場合には減速度a_accを用いた減速制御(追従減速制御)を行う。そして、走行制御ユニット91は、車間距離Zが追従停止距離Z_accに達した場合には、例えば、報知装置98のインジケータ等を通じてドライバに対し手動変速装置1をニュートラルに切り替える旨の指示を行うとともに、ブレーキ制御部100に対する制御を通じて、自車両Mを停車させる。
【0045】
一方、最後尾車両Peに対して自車両Mを追従停止させた後は、走行制御ユニット91は、手動変速装置1の油圧多板クラッチ55に対する油圧制御を通じて、ACC機能の一つとして低速走行(低速追従モード)での走行制御を行うことが可能となっている。このため、本実施形態において加減速制御部97には、油圧多板クラッチ55に供給する油圧を制御するための油圧コントロールバルブ99が接続されている。なお、詳細は省略するが、油圧コントロールバルブ99は、センタディファレンシャルユニット50の差動制限機構50aに対する油圧制御も併せて行う。
【0046】
この低速走行モードでの走行は、例えば、渋滞時等に自車両Mを先行車Peに追従走行させるべく実行されるものであり、本実施形態においては、少なくとも、自車両の車速が「0」であり、手動変速装置1がニュートラル状態にあり、クラッチペダルがオフ(締結)されており、且つ、自車両Mの前方に先行車Peが認識されていることを条件として実行される。
【0047】
次に、渋滞時等に走行制御ユニット91において実行される、油圧多板クラッチ55を用いた低速走行制御について、図4に示す低速走行制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。
【0048】
このルーチンは設定時間毎に繰り返し実行されるものであり、ルーチンがスタートすると、走行制御ユニット91は、先ず、ステップS101において、渋滞時追従スイッチ96がオンされているか否かを調べる。
【0049】
そして、ステップS101において、渋滞時追従スイッチ96がオフされていると判定場合、走行制御ユニット91は、そのままルーチンを抜ける。
【0050】
一方、ステップS101において、渋滞時追従スイッチ96がオンされていると判定した場合、走行制御ユニット91は、ステップS102に進み、自律センサ74の車速センサからの信号に基づき、自車速が「0」であるか否かを調べる。
【0051】
そして、ステップS102において、自車速が「0」ではなく、自車両Mが走行中であると判定した場合、走行制御ユニット91は、そのままルーチンを抜ける。
【0052】
一方、ステップS102において、自車速が「0」であると判定した場合、走行制御ユニット91は、ステップS103に進み、シフトポジションセンサ95からの信号に基づき、現在、手動変速装置1がニュートラル状態にあるか否かを調べる。
【0053】
そして、ステップS103において、手動変速装置1がニュートラル状態にないと判定した場合、すなわち、ドライバの変速操作によって手動変速装置1の前進または後進の何れかの変速段が選択されていると判定した場合、走行制御ユニット91は、そのままルーチンを抜ける。
【0054】
一方、ステップS103において、手動変速装置1がニュートラル状態にあると判定した場合、走行制御ユニット91は、ステップS104に進み、クラッチスイッチ94からの信号に基づき、クラッチスイッチがオフされているか否かを調べる。
【0055】
そして、ステップS104において、クラッチスイッチ94がオンされていると判定した場合、すなわち、ドライバによるクラッチ操作がされており、クラッチ12が解放されていると判定した場合、走行制御ユニット91は、そのままルーチンを抜ける。
【0056】
一方、ステップS104において、クラッチスイッチ94がオンされていると判定した場合、すなわち、ドライバによるクラッチ操作がされておらず、クラッチ12が締結されていると判定した場合、走行制御ユニット91は、ステップS105に進み、自車走行路の前方(直前)に先行車が認識されているか否かを調べる。
【0057】
そして、ステップS105において、自車走行路の前方に先行車が認識されていないと判定した場合、走行制御ユニット91は、そのままルーチンを抜ける。
【0058】
一方、ステップS105において、自車走行路の前方に先行車が認識されていると判定した場合、走行制御ユニット91は、認識している先行車Peに対する低速追従モードを実行した後、ルーチンを抜ける。
【0059】
ここで、ステップS106の低速追従モードは、例えば、図5に示す低速追従モード実行サブルーチンに従って行われる。このサブルーチンがスタートすると、走行制御ユニット91は、先ず、ステップS201において低速追従モードの解除条件が成立しているか否かを調べる。
【0060】
この解除条件としては、例えば、ドライバによるクラッチ操作によってクラッチスイッチがオンされた場合(ドライバによる変速操作によって前進または後進の何れかの変速段に変速された場合を含む)、或いは、先行車が設定車速(例えば、20Km/h)以上の車速にて走行を開始する等して先行車との車間距離が設定距離以上離間した場合等が該当する。
【0061】
そして、走行制御ユニット91は、ステップS201において、解除条件が成立していないと判定した場合にはステップS202に進み、解除条件が成立していると判定した場合にはステップS207に進む。
【0062】
ステップS201からステップS202に進むと、走行制御ユニット91は、現在の自車両Mが追従走行中であるか否かを調べる。
【0063】
そして、ステップS202において、自車両Mが追従走行中でないと判定した場合、すなわち、自車両Mが停車中であると判定した場合、走行制御ユニット91は、ステップS203に進み、現在の先行車Peとの車間距離Zが、予め設定された第1の車間距離Zth1(図6(B)参照)以上であるか否かを調べる。
【0064】
そして、ステップS203において、現在の先行車Peとの車間距離Zが第1の車間距離Zth1以上であると判定した場合、走行制御ユニット91は、ステップS204に進み、先行車Peに対する追従走行を開始した後、ステップS201に戻る。
【0065】
すなわち、走行制御ユニット91は、ブレーキ制御部100に対する制御を通じてブレーキを解除すると共に、加減速制御部97に対する制御を通じてスロットル制御を行う。さらに、走行制御ユニット91は、加減速制御部97を通じて油圧コントロールバルブ99に対する油圧制御を行うことにより、油圧多板クラッチ55に対する締結制御(スリップ制御を含む)を行う。これにより、自車両Mは、先行車Peに追従して走行を開始する。
【0066】
一方、ステップS203において、現在の先行車Peとの車間距離Zが第1の車間距離Zth1未満であると判定した場合、走行制御ユニット91は、そのまま(すなわち、自車両Mの停車状態を維持したまま)ステップS201に戻る。
【0067】
また、ステップS202において、自車両Mが追従走行中であると判定した場合、走行制御ユニット91は、ステップS205に進み、現在の先行車Peとの車間距離Zが、予め設定された第2の車間距離Zth2(図6(C)参照)未満であるか否かを調べる。ここで、図6(B),(C)からも明らかなように、第2の車間距離Zth2は、第1の車間距離Zth1よりも小さい値に設定されている。
【0068】
そして、ステップS205において、現在の先行車Peとの車間距離Zが第2の車間距離Zth2未満であると判定した場合、走行制御ユニット91は、自車両Mを先行車Peの直前にて停車させるべく追従停止制御を行った後、ステップS201に戻る。
【0069】
すなわち、走行制御ユニット91は、ブレーキ制御部100を通じたブレーキ制御及び加減速制御部97を通じたスロットル制御を行うことにより、自車両Mを先行車Peの直前にて停車させる。その際、走行制御ユニット91は、加減速制御部97を通じて油圧コントロールバルブ99に対する油圧制御を行うことにより、油圧多板クラッチ55に対するスリップ制御を行った後、油圧多板クラッチ55を解放させる。
【0070】
一方、ステップS205において、現在の先行車Peとの車間距離Zが第2の車間距離Zth2以上であると判定した場合、走行制御ユニット91は、そのまま(すなわち、自車両Mの先行車Peに対する追従走行を維持したまま)、ステップS201に戻る。
【0071】
また、ステップS201からステップS207に進むと、走行制御ユニット91は、低速追従モードを解除した後、サブルーチンを抜ける。このような制御により、自車両Mが先行車Peの直後に停車した後(図6(A)参照)、低速追従モードが開始されると、自車両は先行車Peに対する追従発進(図6(B)参照)と追従停止(図6(C)参照)とを繰り返す。そして、例えば、渋滞が解消する等して先行車Peが所定車速以上の車速まで加速し、先行車Peとの車間距離が設定車間距離以上となると(図6(D)参照)、低速追従制御は解除され、変速操作等がドライバに委ねられる。
【0072】
このような実施形態によれば、出力軸22に回転可能に支持されるとともに一側に切替機構41が配設され、発進用の変速ギヤ列である第1速のギヤ列を構成する従動歯車31bの他側に、ドライバの変速操作によらず出力軸22と従動歯車との間を締結可能な油圧多板クラッチ55を備え、手動変速装置1がニュートラル状態にあるとき、走行制御ユニット91が、油圧多板クラッチ55の締結制御或いは解放制御を通じて自車両Mを設定車速以下の低速にて走行制御することにより、簡単な構成により、手動変速装置の操作感を損なうことなく、ドライバのクラッチ操作を必要としない自車両Mの発進を実現することができる。
【0073】
すなわち、油圧多板クラッチ55は、切替機構41が配設された従動歯車31bの一側とは反対側の他側に配設される構成であるため、第2のカウンタシャフト等を追加する個となく簡単な構成により、ドライバの変速操作によらない発進及び低速走行を実現することができる。
【0074】
また、走行制御ユニット91は、手動変速装置1がニュートラル状態にある場合に限り、油圧多板クラッチ55を通じた発進制御を行うことができるため、油圧多板クラッチ55を追加した構成においても、ドライバが行う通常の変速操作に影響を与えることがなく、手動変速装置1の操作感を損なうことを防止できる。
【0075】
この場合において、運転支援装置70による制御に油圧多板クラッチ55を用いて低速走行モードによる走行制御を行うことにより、例えば、渋滞時等のように先行車に追従して設定車速以下での走行及び停止を繰り返し行う必要がある走行場面において、ドライバは頻繁なクラッチ操作等を行う必要がなく、ドライバのクラッチ操作等による疲労を軽減することができる。
【0076】
ここで、走行制御ユニット91は、自車両Mの前方に先行車Peが認識されていない場合であっても、例えば、自車両の車速が「0」であり、手動変速装置1がニュートラル状態にあり、且つ、クラッチペダルがオフ(締結)されているとき、ドライバが図示しない発進用のスイッチ等を操作することを条件として、変速操作に頼ることなく、低速走行モードにより自車両Mを走行させることも可能である。
【0077】
なお、上述の実施形態においては、地図ロケータ演算部72、前方走行環境認識部81d、及び走行制御ユニット91を、CPU,RAM,ROM、不揮発性記憶部等を備える周知のマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成した一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、プロセッサの全部若しくは一部の機能を、論理回路あるいはアナログ回路で構成してもよく、また各種プログラムの処理を、FPGAなどの電子回路により実現するようにしてもよい。
【0078】
以上の実施の形態に記載した発明は、それらの形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得るものである。
【符号の説明】
【0079】
1 … 手動変速装置
10 … エンジン
11 … クランク軸
12 … クラッチ
20 … 変速機
21 … 入力軸
22 … 出力軸
31a … 駆動歯車
31b … 従動歯車
31c … スプライン
32a … 駆動歯車
32b … 従動歯車
32c … スプライン
41 … 切替機構
41a … シンクロハブ
41b … シンクロスリーブ
55 … 油圧多板クラッチ
55a … クラッチドラム
55b … クラッチハブ
55c … プレート列
55d … ピストン
55e … 油圧室
70 … 運転支援装置
71 … ナビゲーションユニット
72 … 地図ロケータ演算部
73 … GNSS受信機
74 … 自律センサ
76 … 道路地図データベース
81 … カメラユニット
81a … メインカメラ
81b … サブカメラ
81d … 前方走行環境認識部
91 … 走行制御ユニット
92 … アクセル開度センサ
93 … ブレーキスイッチ
94 … クラッチスイッチ
95 … シフトポジションセンサ
96 … 渋滞時追従スイッチ
97 … 加減速制御部
98 … 報知装置
99 … 油圧コントロールバルブ
100 … ブレーキ制御部
M … 車両(自車両)
Pe … 先行車
図1
図2
図3
図4
図5
図6