(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】粘着フィルム、複合膜、全固体電池及び複合膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230803BHJP
C09J 7/00 20180101ALI20230803BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230803BHJP
【FI】
C08J5/18
C09J7/00
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2020549416
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038073
(87)【国際公開番号】W WO2020067394
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018185978
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226091
【氏名又は名称】日榮新化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛史
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-167106(JP,A)
【文献】特開2017-199678(JP,A)
【文献】特開2017-204468(JP,A)
【文献】特表2017-509748(JP,A)
【文献】特開2018-006297(JP,A)
【文献】特開2017-216066(JP,A)
【文献】特開2019-065062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
C09J 7/00-7/50
H01M 10/05-10/0587、10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化型の粘着剤組成物を含む粘着剤層を備えた粘着フィルムの前記粘着剤層の第1の面の上に単層の固体粒子を分散させて載置する工程と、
前記粘着剤層の前記第1の面を第1の剥離ライナーで覆い、反対側の第2の面を第2の剥離ライナーにより覆った状態で圧力及び熱をかけることにより、前記粘着剤層内に前記固体粒子を押し込む工程と、
前記粘着剤層に光を照射することにより、前記粘着剤層を硬化させ、前記第1の面及び前記第2の面から端部が露出した状態で前記固体粒子が固定された樹脂膜を形成する工程とを備え、
前記固体粒子を分散させる際における前記粘着剤層の膜厚tは、前記固体粒子の平均粒径をDとするとき、0.45D以下である、複合膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の複合膜の製造方法において、
前記粘着剤層の120℃での周波数1Hzにおける貯蔵弾性率は、1×10
2Pa以上、1×10
6Pa以下であり、
前記樹脂膜の23℃での周波数1Hzにおける貯蔵弾性率は、硬化前の前記粘着剤層の23℃での周波数1Hzにおける貯蔵弾性率よりも大きく、且つ1×10
5Pa以上である、複合膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合膜の製造方法において、
平面視における(前記固体粒子の外形面積の合計値)/(前記固体粒子が固定された領域の前記樹脂膜の面積)の値は、30%以上80%以下である、複合膜の製造方法。
【請求項4】
光硬化型の粘着剤組成物の硬化物により形成された樹脂膜と、
前記樹脂膜に単層で固定された固体粒子とを備え
、
前記固体粒子は、すべてが前記樹脂膜の第1の面及び第2の面の両面から端部が露出し
、
前記樹脂膜は、温度23℃で相対湿度50%におけるプローブタック試験による測定値が0N/cm
2
である、複合膜。
【請求項5】
請求項4に記載の複合膜において、
平面視における(前記固体粒子の外形面積の合計値)/(前記固体粒子が固定された領域の前記樹脂膜の面積)の値は、30%以上80%以下である、複合膜。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の複合膜において、
平面視における(前記固体粒子の外形面積の合計値)/(前記固体粒子が固定された領域の前記樹脂膜の面積)の値は、55%以上80%以下である、複合膜。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の複合膜において、
前記樹脂膜は、23℃での周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が、1×10
5Pa以上である、複合膜。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか1項に記載の複合膜において、
前記樹脂膜は、23℃での周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が、1×10
6Pa以上である複合膜。
【請求項9】
請求項4~8のいずれか1項に記載の複合膜において、
前記固体粒子は、イオン伝導性を有する固体電解質粒子である、複合膜。
【請求項10】
請求項4~8のいずれか1項に記載の複合膜において、
前記固体粒子は、導電性粒子である、複合膜。
【請求項11】
請求項9に記載の複合膜と、
前記複合膜の前記第1の面上に、前記固体粒子と接するように設けられた固体の正極層と、
前記複合膜の前記第2の面上に、前記固体粒子と接するように設けられた固体の負極層と、を備えている全固体電池。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法に用いる粘着フィルムであって、
光硬化型の粘着剤組成物を含み且つ基材を有さない、固体粒子を固定するための粘着剤層を備え、
前記粘着剤層は、光の照射を受けると第1の状態から貯蔵弾性率が上昇して第2の状態へ移行し、
前記粘着剤層の膜厚tは、前記固体粒子の平均粒径をDとするとき、0.45D以下である、粘着フィルム。
【請求項13】
請求項12に記載の粘着フィルムにおいて、
前記粘着剤層は、前記第1の状態における120℃での周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が1×10
2Pa以上1×10
6Pa以下であり、前記第2の状態における23℃での周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が前記第1の状態における23℃での周波数1Hzにおける貯蔵弾性率よりも大きく、且つ1×10
5Pa以上である、粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示された技術は、固体粒子を固定する樹脂膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固体粒子を樹脂膜に固定する技術は、種々の分野において用いられている。例えば、リチウムイオン全固体電池や、リチウム空気電池等は、従来のリチウムイオン二次電池よりも理論上のエネルギー密度が高く、有望な技術であるが、これらの電池に固体電解質粒子が樹脂膜に固定された複合膜を用いることができる(特許文献1)。このような複合膜は、特許文献2、3、4にも記載されており、無機イオン伝導性材料の熱安定性と、樹脂を含むことによる柔軟性と加工性の良さとを併せて発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-509748号公報
【文献】米国特許第4977007号
【文献】特開2018-6297号公報
【文献】特開2017-216066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、3に記載の方法では、イオン伝導性粒子にバインダーを塗布し、乾燥後にエッチングして樹脂を一部除去することで、イオン伝導性粒子を樹脂膜から露出させている。しかしながら、この方法では、エッチング工程が入るために工程数が多くなるので、製造コストが高くなるとともに、量産性を向上させにくい。
【0005】
特許文献2に記載の方法では、固体電解質粒子が含まれたシリコーンゴム等の樹脂を基材に塗布した後、ローラーを通して樹脂膜と固体電解質粒子とを含む膜を形成している。この方法では、余剰な固体電解質粒子は成膜の際に除去されるので、材料の無駄が生じやすい。また、基材に使用する材料によっては、固体電解質粒子を確実に固定できない場合があり、固体電解質粒子が脱落する可能性がある。
【0006】
また、特許文献4に記載の方法では、樹脂粒子と固体電解質粒子とを同一面に一層に配列し、樹脂の融点以上に加熱することで、固体電解質粒子が樹脂膜の両面に露出した複合膜を形成している。しかしながら、この方法では、固体電解質粒子間に間隙が残存する可能性があり、二次イオン電池に当該複合膜を使用する場合に性能面で不安が生じる。また、熱可塑性樹脂が用いられるため、高温になった場合に変形して形状が維持しにくくなることがある。
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明の目的は、低コストで製造することができ、取り扱いが容易な、固体粒子及び樹脂膜を備えた複合膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示される粘着フィルムは、半硬化状態である第1の状態の粘着剤組成物を含む粘着剤層を備え、且つ基材を有さない、固体粒子を固定するための光硬化型の粘着フィルムであって、光の照射を受けると前記半硬化状態から貯蔵弾性率が上昇し、前記粘着剤層の膜厚tは、前記固体粒子の平均粒径をDとするとき、0.45D以下となっている。
【0009】
本明細書に開示された複合膜は、光硬化型の粘着剤組成物の硬化物により形成された樹脂膜と、前記樹脂膜の第1の面及び第2の面から端部が露出した状態で前記樹脂膜に単層で固定された固体粒子とを備えている。前記樹脂膜は、前記粘着剤組成物により形成された半硬化状態の粘着剤層に光を照射させることにより形成されている。
【0010】
本明細書に開示された複合膜の製造方法は、半硬化状態の粘着剤組成物を含む粘着剤層を備えた光硬化型の粘着フィルムの前記粘着剤層上に単層の固体粒子を分散させて載置する工程と、前記粘着剤層の両面を第1の剥離ライナー及び第2の剥離ライナーにより覆った状態で圧力及び熱をかけることにより、前記粘着剤層内に前記固体粒子を押し込む工程と、前記粘着剤層に光を照射することにより、前記粘着剤層を硬化させ、一方及び他方の主面から端部が露出した状態で前記固体粒子を固定する樹脂膜を形成させる工程とを備えている。前記固体粒子を分散させる時点での前記粘着剤層の膜厚tは、前記固体粒子の平均粒径をDとするとき、0.45D以下となっている。
【発明の効果】
【0011】
本明細書に開示された複合膜は、低コストで製造することができ、製造後に収縮による変形を起こしにくくなっているので、取り扱いが容易になっている。本明細書に開示された粘着フィルムは、複合膜の製造に好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る複合膜の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る複合膜を用いて作製された全固体電池の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す複合膜を作製するために用いられる粘着フィルムの構成を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)~(d)は、本発明の実施形態に係る複合膜の製造方法を示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施例7において固体粒子が分散された状態の熱プレス前の粘着剤層の主面を示す写真図である。
【
図6】
図6は、比較例2において固体粒子が分散された二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)の主面を示す写真図である。
【
図7】
図7は、実施例7において熱プレスをかけた後の複合膜(左側)と、比較例1において熱プレスをかけた後の複合膜(右側)とを示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
-複合膜の構成-
図1は、本発明の実施形態に係る複合膜の構成を模式的に示す断面図である。同図に示すように、本実施形態の複合膜10は、光硬化型の粘着剤組成物の硬化物により形成された樹脂膜1と、樹脂膜1の第1の面及び第2の面から端部が露出した状態で樹脂膜1に単層で固定された固体粒子3とを備えている。樹脂膜1は、後に説明するように、粘着剤組成物により形成された半硬化状態である第1の状態の粘着剤層に光を照射させることにより形成されている。本明細書において、「半硬化状態」とは、任意の基材上に塗工された場合に膜形状を維持できる程度の粘度を有しているとともに、後工程によってさらに硬化させて、硬化状態である第2の状態とすることが可能な状態のことを指すものとする。
【0014】
固体粒子3の種類は特に限定されないが、例えばイオン伝導性を有する固体電解質粒子や、導電性粒子であってもよく、絶縁性粒子であってもよい。
【0015】
固体粒子3は、例えば硫化物系固体電解質粒子又は酸化物系固体電解質粒子であってもよい。酸化物系固体電解質としては、例えばγ-LiPO4型酸化物、逆蛍石型酸化物、NASICON型酸化物、ペロブスカイト型酸化物、及びガーネット型酸化物等が用いられる。NASICON型酸化物としては、例えばLi1+xMxTi2-x(PO4)3(ただしMはAlおよび希土類から選ばれた少なくとも1種の元素、xは、0.1~1.9を示す。)、ペロブスカイト型酸化物としては、例えばLa2/3-xLi3xTiO3、ガーネット型酸化物としては、例えばLi7La3Zr2O12が用いられる。イオン伝導性を高める目的、化学的な安定性を高める目的、及び加工性を高める観点から、基本結晶構造に対して元素を置換及び/又はドープした結晶性酸化物系固体電解質粒子を用いることもできる。好ましくは、NASICON型酸化物としてはLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、ガーネット型酸化物としてはLi7La3Zr2O12、元素置換体Li6.25Al0.25La3Zr2O12、Li7La3Zr2-xNbxO12(0<X<0.95)、及びLi7La3Zr2-xTaxO12(0<X<0.95)が挙げられる。
【0016】
以上の固体電解質粒子が固定された複合膜10を用いれば、柔軟性を有する全固体電池を実現することが可能となる。
【0017】
また、固体粒子3として導電性粒子が用いられる場合、複合膜10は例えば電子部品同士を電気的に接続させる異方性導電膜として用いられる。導電性粒子としては、金属粒子又は金属により被覆された粒子を用いることができる。
【0018】
金属粒子の構成材料としては、例えば、ニッケル、コバルト、銀、銅、金、パラジウム、半田などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0019】
金属により被覆された粒子としては、樹脂等からなる粒子の表面が金属膜により被覆された粒子であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、樹脂粒子の表面をニッケル、銀、半田、銅、金、及びパラジウムの少なくともいずれかの金属で被覆した粒子などが挙げられる。金又は銀で被覆された粒子を用いれば、複合膜10の膜厚方向の電気抵抗を小さくすることができる。
【0020】
樹脂膜1を形成するための粘着剤としては、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤及びゴム系粘着剤のうちから選ばれた1種又は2種以上の混合物が用いられる。固体電解質膜又は異方性導電膜として用いるため、樹脂膜1は絶縁性を有していることが好ましい。
【0021】
固体粒子3の平均粒径(平均一次粒子径)は特に限定されず、樹脂膜1の膜厚も固体粒子3の平均粒径より小さければ特に限定されない。なお、固体粒子3の平均粒径は、市販のレーザー回折式粒度分布計による測定に基づく。固体粒子3が不定形の場合の粒径は、二軸平均径を用いる。
【0022】
固体粒子3が固体電解質粒子である場合には、その平均粒径が2μm以上100μm以下であることが多い。平均粒径が2μm未満になると、固体粒子3を固定するための樹脂膜1も非常に薄くなるため、樹脂膜1の強度を確保しにくくなるとともに、樹脂膜1を形成するために用いられる粘着フィルムの粘着剤層の膜厚を精度良く均一にすることが困難になる。固体粒子3が異方性導電膜用の導電性粒子である場合も、その平均粒径は2μm以上100μm以下であることが多い。固体粒子3の平均粒径が100μm以下とすることにより、複合膜10の膜厚を薄くすることができるので、当該複合膜10が使用される電子機器の厚みやサイズを小さくすることができる。
【0023】
樹脂膜1の膜厚は、固体粒子3の平均粒径未満であればよいが、樹脂膜1の両面から固体粒子3をより確実に露出させるために、固体粒子3の平均粒径をDとした場合に0.8D以下としてもよい。また、樹脂膜1の膜厚を0.2D以上とすることで、固体粒子3を樹脂膜1から脱落しにくくすることができる。
【0024】
複合膜10の用途によらず、固体粒子3の形状は、
図1に示すように球状であってもよいが、両端(
図1の上下端)が樹脂膜1の主面から露出しているならば、楕円球状や表面に凹凸のある不定形の形状など、どのような形状であってもよい。固体粒子3が球状又は略球状である場合、粒径のばらつきが小さい方がより確実に樹脂膜1から固体粒子3を露出させるように設計しやすくなるので、好ましい。固体粒子3の粒径は、平均粒径の±10%以内の範囲に入っていてもよい。
【0025】
本実施形態の複合膜10において、固体粒子3は単層の状態で樹脂膜1に埋め込まれているが、このことにより、イオン伝導又は電子の移動が粒子-粒子間接触を介さずに行われるので、インピーダンスの増加を抑制することができる。
【0026】
本実施形態の複合膜10では、平面視における(固体粒子3の外形面積の合計値)/(固体粒子3が固定された領域の樹脂膜1の面積)の値(以下、この値を「固体粒子の充填率」と表記する)は、30%以上80%以下となっていてもよい。ここで、「固体粒子3が固定された領域の樹脂膜1の面積」とは、当該領域内の固体粒子3の面積を含む樹脂膜1全体の面積を意味する。電流密度の大きい全固体電池を作製するため、あるいは低抵抗の異方性導電膜を形成するためには、二次元上で固体粒子3が最密充填構造を取ることが理想である。しかしながら、本実施形態の樹脂膜1は、その製法上最密充填構造を実現するのが困難である。このため、固体粒子3の充填率は、特殊な処理を行わない限り80%以下となる。また、後述する製造方法を用いれば、固体粒子3の充填率を30%以上、より好ましくは55%以上とすることができる。
【0027】
樹脂膜1は、可視光や紫外線等の光の照射により硬化されたものであればよい。樹脂膜1中には、材料として用いられた粘着剤層に含まれていた光重合開始剤及びその反応生成物や、架橋剤が残存していてもよい。
【0028】
本実施形態の複合膜10において、樹脂膜1の23℃での1Hzにおける貯蔵弾性率は1×105Pa以上5×109Pa以下であってもよく、1×106Pa以上5×108Pa以下であってもよい。貯蔵弾性率が1×105Pa以上であることにより、残存応力による膜収縮が発生しにくくなっており、複合膜10の取り扱いが容易になっている。
【0029】
また、本実施形態の複合膜10は柔軟性を有しており、複合膜10を屈曲しても破損が生じにくくなっている。このため、複合膜10を例えばフィルム型の全固体電池に使用することが可能になる。
【0030】
なお、樹脂膜1にはいわゆるタック感が残っていてもよいが、残っていなくてもよい。樹脂膜1のプローブタック試験による測定値はほぼ0N/cm2以上であってもよい。樹脂膜1がタック性を有していない場合(すなわち、プローブタック試験による測定値がほぼ0N/cm2の場合)、使用時に複合膜10同士が折れ曲がって貼り付くことが無いので取り扱いが容易になる。
【0031】
-全固体電池の構成-
図2は、本発明の実施形態に係る複合膜を用いて作製された全固体電池の一例を示す断面図である。本実施形態に係る全固体電池はリチウムイオン二次電池であるが、リチウムイオン一次電池など、他の種類の全固体電池であってもよい。
【0032】
本実施形態に係る全固体電池は、正極層15と、固体電解質粒子である複数の固体粒子3が固定された複合膜10と、負極層17とがこの順に積層されてなる。正極層15は複合膜10の第1の面に露出する固体粒子3と接し、負極層17は複合膜10の第2の面に露出する固体粒子3と接している。なお、第1の面と第2の面とは逆であってもよい。
【0033】
本実施形態に係る全固体電池は、公知の方法に準じて製造される。例えば、全固体電池は、正極層15と、複合膜10と、負極層17とを重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成することにより作製される。フィルム型の全固体電池の場合、正極層15と負極層17も膜状にしたものを使用し、適宜折り曲げた状態の積層体が収納容器内に収納されていてもよい。また、正極層15、複合膜10及び負極層17を一つのユニットとしてこれらユニットが複数枚直列に接続されていてもよい。
【0034】
<正極層>
本実施形態の正極層15の構成は特に限定されず、全固体電池に一般的に用いられている材料及び構成を適用することができる。正極層15は、例えば、正極活物質を含む正極活物質層をアルミ箔等の集電体の表面に形成することにより得ることができる。
【0035】
正極活物質としてはリチウムイオンを可逆的に放出及び吸蔵でき、電子輸送が容易に行える電子伝導度が高い材料であれば特に限定されず、公知の固体正極活物質を用いることができる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、固溶体酸化物(Li2MnO3-LiMO2(M=Co、Niなど))、リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO4)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;Li2S、CuS、Li-Cu-S化合物、TiS2、FeS、MoS2、Li-Mo-S化合物等の硫化物;硫黄とカーボンの混合物等を用いることができる。これらの正極活物質は単独で使用されてもよいし、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0036】
正極活物質層は、正極活物質同士および正極活物質と集電体とを結着させる役割を持つバインダーを含んでもよい。バインダーは全固体電池に使用可能な通常のバインダーであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等から選ばれた1種又は2種以上の混合物であってもよい。
【0037】
正極活物質層は、正極層15の導電性を向上させる観点から、導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては全固体電池に使用可能な通常の導電助剤であれば特に限定されないが、例えば、アセチレンブラックやケチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンファイバー、黒鉛粉末、カーボンナノチューブ等の炭素材料を用いることができる。
【0038】
正極層15には、固体電解質材料が含まれていてもよい。固体電解質材料としては、固体粒子3と同様の材料を用いることができる。
【0039】
<負極層>
負極層17には、全固体電池に一般的に用いられている材料及び構成を適用することができる。例えば、負極活物質を含む負極活物質層を銅等の集電体の表面に形成することにより得ることができる。負極活物質層の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定される。
【0040】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に放出及び吸蔵でき、電子伝導度が高い材料であれば特に限定されず、種々の公知の材料が用いられる。例えば、黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素質材料や、スズ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、ガリウム、ガリウム合金、インジウム、インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を主体とした合金系材料、ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー、金属リチウム、リチウムチタン複合酸化物(例えばLi4Ti5O12)等が負極活物質として挙げられる。これらの負極活物質は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。負極活物質層は、本実施形態の負極活物質以外の成分として、固体電解質材料を含んでいてもよい。負極活物質層はまた、バインダー、導電助剤等を含んでもよい。
【0041】
-複合膜の製造方法-
<両面粘着フィルム>
本実施形態の複合膜10を作製するには、まず基材を有さない光硬化型の粘着フィルム20を準備する。
図3は、本発明の実施形態に係る製造方法において用いられる粘着フィルム20の一例を示す断面図である。
図3は模式図であるので、各部材の厚みや粒子の形状は同図に示す例に限定されない。
【0042】
粘着フィルム20は、主として半硬化状態の粘着剤により形成された粘着剤層1aと、粘着剤層1aの第2の面(
図3における下面)を覆う第1の剥離ライナー5と、粘着剤層1aの第1の面(
図3における上面)を覆う第2の剥離ライナー7とを備えている。粘着剤層1aは基材の上に形成されていなくてよい。また、粘着剤層1aは、半硬化状態の第1の状態から、光の照射を受けると貯蔵弾性率が上昇して第2の状態へ移行する材料により形成することができる。なお、第1の面と第2の面とは逆であってもよい。
【0043】
粘着剤層1aの膜厚は特に限定されないが、
図1に示す複合膜10の作製に用いる場合、固体粒子3の平均粒径をDとするとき、0.45D以下となっていることが好ましい。この粘着剤層1aの膜厚が0.45D以下であることにより、後述する熱プレス工程後に固体粒子3の両端を樹脂膜1から露出させることができる。また、熱プレスの際に粘着剤層1aの余剰部分がプレス機からはみ出すのを防ぐことができる。さらに、粘着剤層1aの膜厚を0.35D以下とすれば、固体粒子3の平均粒径にばらつきがある場合であっても熱プレス工程後に固体粒子3の両端を確実に樹脂膜1から露出させることができる。
【0044】
第1の剥離ライナー5の粘着剤層1aに対する剥離力は、同一条件下で測定した場合の第2の剥離ライナー7の粘着剤層1aに対する剥離力よりも大きくなっている。これにより、粘着フィルム20を使用する際に、第2の剥離ライナー7側から容易に剥がせるようになっている。
【0045】
粘着剤層1aを形成するための粘着剤は、塗工後に乾燥され膜形状にされた後、紫外線や可視光線によって硬化できる粘着剤であってもよく、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤等の公知の粘着剤であってもよい。粘着剤は、必ずしも二段階硬化型である必要はなく、塗工後の乾燥によりゲル状になり、後に光により硬化可能な粘着剤を用いることもできる。また、硬化後の貯蔵弾性率を調整する目的で、粘着剤にマレイミドが導入されていてもよい。
【0046】
例えば、光重合開始剤を添加した熱硬化型のアクリル系粘着剤を塗工及び乾燥してからエージングすることにより、半硬化状態の粘着剤層1aを形成することができる。また、第1の波長の光を吸収してラジカルを発生させる第1の光重合開始剤と、第1の波長とは異なる第2の波長の光を吸収してラジカルを発生させる第2の光重合開始剤とを添加したアクリル系粘着剤を塗工後に第1の波長の光を照射することで、半硬化状態の粘着剤層1aを形成することもできる。光重合開始剤としては、公知のアルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、分子内水素引き抜き型光重合開始剤、オキシムエステル系光重合剤、カチオン系光重合開始剤から選ばれた1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0047】
また、粘着剤層1aは、イソシアネート系やエポキシ系等、公知の硬化剤由来の成分を含んでいてもよい。アクリル系粘着剤を用いる場合、添加する硬化剤の量を当量点以下の範囲で増やすことにより、粘着剤層1aの貯蔵弾性率を大きくすることができる。
【0048】
粘着剤層1aは、光照射前の第1の状態において、周波数1Hzにおける120℃での貯蔵弾性率(G’)が、1×102Pa以上1×106Pa以下であることが好ましく、1×104Pa以上1×105Pa以下であればより好ましい。貯蔵弾性率が1×102Pa以上であることにより、熱プレス前の粘着剤層1aの形状安定性を向上させることができる。貯蔵弾性率が1×104Pa以上であれば、熱プレス前の粘着剤層1aの形状安定性をより向上させることができる。一方、貯蔵弾性率が1×106Pa以下であることにより、熱プレス工程において固体粒子3を粘着剤層1a(樹脂膜1)に押し込みやすくなるので、樹脂膜1の第1の剥離ライナー5側に固体粒子3を露出させやすくすることができる。また、貯蔵弾性率が1×105Pa以下であれば、樹脂膜1の第1の剥離ライナー5側から固体粒子3をより確実に露出させることができる。
【0049】
また、粘着剤層1aは、熱プレスに続く光照射により硬化させて樹脂膜1とした第2の状態において、周波数1Hzにおける23℃での貯蔵弾性率が、光硬化前の第1の状態における23℃での1Hzにおける貯蔵弾性率よりも大きいことが好ましい。具体的には、第2の状態における23℃での1Hzにおける貯蔵弾性率は、1×105Pa以上5×109Pa以下であってもよく、1×106Pa以上5×108Pa以下であってもよい。光照射により硬化させて樹脂膜1を形成した後の貯蔵弾性率が1×105Pa以上であれば、熱プレス時の残存応力による複合膜10の収縮を低減することができる。硬化後の貯蔵弾性率が1×106Pa以上であれば、熱プレス後の複合膜10の収縮をより効果的に低減できるので、複合膜10をスケールアップした場合でも取り扱いが容易になり、量産化しやすくなる。
【0050】
なお、樹脂膜1は適度な柔軟性を有しているので、例えば折り曲げて積層されるフィルム型の全固体電池に適用することができる。
【0051】
また、粘着剤層1aは、いわゆるタック性を有している。プローブタック試験による粘着剤層1aの測定値は、0N/cm2より大きければよい。この場合、熱プレス工程において粘着剤層1a上に固体粒子3を分散させる際に、固体粒子3を粘着剤層1a上に保持させやすくなるので、固体粒子3の充填密度を向上させることができる。プローブタック試験の測定値は、1N/cm2以上であってもよい。
【0052】
第1の剥離ライナー5と第2の剥離ライナー7の基材は共にポリエチレンテレフタレート(PET)やポリオレフィン等からなる樹脂フィルムであってもよいし、グラシン紙や上質紙あってもよい。第1の剥離ライナー5及び第2の剥離ライナー7の粘着剤層1aとの剥離面は、公知のシリコーン処理やフッ素処理等の離型処理が施されていてもよい。
【0053】
粘着フィルム20を作製するためには、まず重剥離側の第1の剥離ライナー5の離型面上に公知のコーターを用いて乾燥後に所定の膜厚になるように粘着剤を塗布し、乾燥させることにより、半硬化状態の粘着剤層1aを形成する。次いで、粘着剤層1aの露出面に軽剥離側の第2の剥離ライナー7を貼り合わせて粘着フィルムを形成してから数日間エージングを行うことにより、粘着フィルム20を作製することができる。なお、この方法に代えて、粘着剤を第2の剥離ライナー7の離型面上に塗布し、乾燥させた後、第1の剥離ライナー5を貼り合わせてもよい。
【0054】
<複合膜10の作製>
図4(a)~(d)は、本発明の実施形態に係る複合膜の製造方法を示す断面図である。本実施形態の製造方法には、ロール状の粘着フィルム20を用いてもよいし、シート状に裁断された粘着フィルム20を用いてもよい。
【0055】
まず、
図4(a)に示すように、粘着フィルム20から軽剥離側の第2の剥離ライナー7を剥がした状態で、露出した粘着剤層1a上に均一に分散するように固体粒子3を載置する。
【0056】
次に、
図4(b)に示すように、第1の剥離ライナー5よりも粘着剤層1aに対する剥離力が小さい第3の剥離ライナー9を、固体粒子3が載置された粘着剤層1aの面に貼り合わせた後、熱プレス機を用いて第1の剥離ライナー5と第3の剥離ライナー9の両側から加熱しながら圧力11を加える。これにより、固体粒子3が粘着剤層1aの内部へと押し込まれるとともに、固体粒子3の下端は粘着剤層1aを突き抜けて直接第1の剥離ライナー5に接触する。第3の剥離ライナー9としては、先の工程で剥がされた第2の剥離ライナー7を用いてもよいし、別途準備した剥離ライナーを用いてもよい。
【0057】
本工程(熱プレス工程)において、粘着剤層1aの膜厚が0.45D以下であることにより、固体粒子3の両端を樹脂膜1から露出させやすくなっている。また、平面視において固体粒子3が重複しにくくできるので、複数の固体粒子3が単層に配置しやすくなる。なお、粘着剤層1aの膜厚が固体粒子3の粒径に対して大き過ぎると圧力を加えた際に粘着剤層1aが平面方向に広がるので、樹脂膜1の単位面積当たりの固体粒子3の密度は低くなる。
【0058】
本工程において、加熱温度は例えば100℃以上160℃以下程度であってもよく、印加される圧力11は1MPa/cm2以上5MPa/cm2以下程度であればよい。また、熱プレスを行う時間は例えば1分以上であればよく、10分以下程度であってもよい。処理時間が長過ぎると生産性が低下する。なお、熱プレスの際の温度は、使用する粘着剤の種類によって適宜変えればよく、粘着剤層が十分に軟化される温度であればよい。
【0059】
次に、
図4(c)に示すように、光照射機を用いて粘着剤層1a、第1の剥離ライナー5及び第3の剥離ライナー9に、粘着剤層1aの硬化に十分な線量の光13を両側から照射する。紫外線を照射する場合、その照射線量は、400mJ/cm
2以上程度であればよい。本工程において、粘着剤層1aが硬化して樹脂膜1となる。以上のようにして本実施形態の複合膜10が作製される。
【0060】
複合膜10が使用される際は、
図4(d)に示すように、軽剥離側の第3の剥離ライナー9を剥がして被着体に貼り付けた後、重剥離側の第1の剥離ライナー5を剥離すればよい。
【0061】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0062】
-複合膜の作製-
<粘着剤組成物1~6の調製>
まず、市販のUV硬化型の粘着剤A(主剤)に硬化剤としてトルエンジイソシアネート(TDI)-トリメチルプロパン(TMP)付加物を主剤100質量部に対して2.0質量部、4.0質量部、6.0質量部、8.0質量部をそれぞれ添加し、光重合開始剤としてα-ヒドロキシアルキルフェノン(iGM社製「Omnirad184」)をそれぞれ1.2質量部、1.2質量部、1.7質量部、1.7質量部添加することで、粘着剤組成物1~4を調製した。粘着剤Aは、アクリル系ポリマー及びビニルエステルを固形分として含有し、トルエン等の溶媒を含んでいた。表1に、粘着剤組成物の組成を示す。
【0063】
【0064】
また、市販のUV硬化型のアクリル系粘着剤B(主剤)にウレタン系硬化剤を主剤100質量部に対して0.14質量部、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(日本カーバイド社製「CK-938」)0.06質量部をそれぞれ添加し、粘着剤組成物5を調製した。この粘着剤組成物5を用いて粘着剤層を備えた粘着フィルムを作製した。
【0065】
次に、市販の熱硬化型のアクリル系粘着剤C(藤倉化成社製「LKG-1012」)にエポキシ硬化剤及び金属キレート化合物を添加することにより、粘着剤組成物6を調製した。この粘着剤組成物6を用いて粘着剤層を備えた粘着フィルムを作製した。
【0066】
<実施例1、2>
粘着剤組成物1、4をそれぞれ用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が10μmである粘着フィルムを作製した。次に、
図4(a)~(c)に示す手順により、これらの粘着フィルムと平均粒径が50μmの固体粒子Aとを用いて複合膜を作製した。熱プレス工程は、熱プレス機を用いて120℃、圧力2MPa/cm
2、5分間の条件で行った。熱プレス後の粘着剤層には、400mJ/cm
2の紫外線(UV)を照射して、これを硬化させた。ここで、固体粒子Aは、球状樹脂の表面にニッケルメッキ及び金メッキをこの順で形成することにより設けられた、導電性粒子である。
【0067】
後述する評価方法により評価を行ったところ、実施例1、2の複合膜はいずれも、第1の面(上面)及び第2の面(下面)から粒子が露出した状態となった。また、導電性はいずれも1~10Ωであった。実施例2における充填率は60.4%であった。実施例1、2共に膜の収縮は全く認められず、取り扱い性は優であった。
【0068】
<実施例3~5>
粘着剤組成物1、2、4をそれぞれ用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が15μmである粘着フィルムを作製した。次に、実施例1、2と同様の手順により、これらの粘着フィルムと平均粒径が50μmの固体粒子Aとを用いて複合膜を作製した。
【0069】
実施例3~5の複合膜はいずれも、第1の面及び第2の面から粒子が露出した状態となった。また、導電性はいずれも1~10Ωであった。実施例5における充填率は61.2%であった。実施例3~5共に膜の収縮は全く認められず、取り扱い性は優であった。
【0070】
<実施例6~8>
粘着剤組成物1、2、4をそれぞれ用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が20μmである粘着フィルムを作製した。次に、実施例1、2と同様の手順により、これらの粘着フィルムと平均粒径が50μmの固体粒子Aとを用いて複合膜を作製した。
【0071】
実施例6~8の複合膜はいずれも、第1の面及び第2の面から粒子が露出した状態となった。また、導電性はいずれも1~10Ωであった。実施例7における充填率は58.1%であり、実施例8における充填率は55.7%であった。実施例6~8共に膜の収縮は全く認められず、取り扱い性は優であった。
【0072】
図5に示すように、熱プレス前の粘着剤層上では、ほぼ単層状に高密度で固体粒子Aが保持されていた。
【0073】
<実施例9>
粘着剤組成物5を用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が20μmである粘着フィルムを作製した。次に、実施例1、2と同様の手順により、これらの粘着フィルムと平均粒径が50μmの固体粒子Aとを用いて複合膜を作製した。ただし、熱プレス後の粘着剤層には、1000mJ/cm2の紫外線(UV)を照射して、これを硬化させた。
【0074】
実施例9の複合膜は、第1の面及び第2の面から粒子が露出した状態となった。また、導電性は1~10Ωであった。実施例9における充填率は55.0%であった。実施例9ではわずかに膜の収縮が認められたが、使用のしやすさに影響を与えず、取り扱い性は良であった。
【0075】
<実施例10、11>
粘着剤組成物1、4をそれぞれ用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が10μmである粘着フィルムを作製した。次に、実施例1、2と同様の手順により、これらの粘着フィルムと平均粒径が30μmの固体粒子Bとを用いて複合膜を作製した。固体粒子Bは、直径約30μmの球状樹脂の表面がニッケルメッキで覆われることにより導電性粒子となった粒子である。
【0076】
実施例10、11の複合膜はいずれも、第1の面及び第2の面から粒子が露出した状態となった。実施例10における充填率は59.7%であり、実施例11における充填率は55.7%であった。実施例10、11共に膜の収縮は全く認められず、取り扱い性は優であった。
【0077】
<比較例1>
粘着剤組成物6を用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が10μmである粘着フィルムを作製した。次に、粘着剤層上に平均粒径が50μmの固体粒子Aを分散させた状態で載置した後、実施例1、2と同じ条件で熱プレスを行って複合膜を作製した。粘着剤層は熱プレスの前に既に硬化されているため、UV照射は行わなかった。
【0078】
比較例1の複合膜は、第1の面及び第2の面から粒子が露出した状態となった。また、導電性は1~10Ωであった。比較例1における充填率は60.4%であった。比較例1では大きく膜が収縮し、取り扱い性は不良であった。
【0079】
<比較例2>
膜厚が20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)上に固体粒子Aを分散させて載置した後、実施例1、2と同じ条件で熱プレスを行った。比較例2における充填率は、17.3~39.3%であった。しかし、固体粒子AはOPPフィルムの表面に存在しているだけであり、フィルム内に埋め込まれていなかった。
【0080】
なお、
図6に示すように、OPPフィルムはタック性を有していないため、熱プレス前のOPPフィルム上では、実施例7に比べて少数の固体粒子Aしか載置できなかった。
【0081】
<比較例3>
粘着剤組成物1を用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が25μmである粘着フィルムを作製した。次に、実施例1、2と同様の手順により、この粘着フィルムと平均粒径が50μmの固体粒子Aとを用いて複合膜を作製した。
【0082】
比較例3の複合膜は、第1の面から粒子が露出したが第2の面からは粒子が露出していない状態となった。また、第2の面から粒子が露出していないため導電性は測定できなかった。比較例3では膜の収縮は全く認められず、取り扱い性は優であった。
【0083】
<比較例4>
粘着剤組成物1を用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が30μmである粘着フィルムを作製した。次に、実施例1、2と同様の手順により、この粘着フィルムと平均粒径が50μmの固体粒子Aとを用いて複合膜を作製した。
【0084】
比較例4の複合膜は、第1の面から粒子が露出したが第2の面からは粒子が露出していない状態となった。また、第2の面から粒子が露出していないため導電性は測定できなかった。比較例4では膜の収縮は全く認められず、取り扱い性は優であった。
【0085】
<比較例5、6>
粘着剤組成物1、4をそれぞれ用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が15μmである粘着フィルムを作製した。次に、実施例1、2と同様の手順により、これらの粘着フィルムと固体粒子Bとを用いて複合膜を作製した。
【0086】
比較例5、6の複合膜はいずれも、第1の面から粒子が露出したが第2の面からは一部の粒子のみが露出した状態となった。比較例5における充填率は55.7%であり、比較例6における充填率は52.6%であった。比較例5、6共に膜の収縮は全く認められず、取り扱い性は優であった。
【0087】
<比較例7、8>
粘着剤組成物1、4をそれぞれ用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚が20μmである粘着フィルムを作製した。次に、実施例1、2と同様の手順により、これらの粘着フィルムと固体粒子Bとを用いて複合膜を作製した。
【0088】
比較例7、8の複合膜はいずれも、第1の面及び第2の面から粒子が露出していない状態となった。比較例7における充填率は52.6%であり、比較例8における充填率は50.2%であった。比較例7、8共に膜の収縮は全く認められず、取り扱い性は優であった。
【0089】
<比較例9、10>
粘着剤組成物1を用いて乾燥後の粘着剤層の膜厚がそれぞれ25μm及び30μmである粘着フィルムを作製した。次に、実施例1、2と同様の手順により、これらの粘着フィルムと固体粒子Bとを用いて複合膜を作製した。
【0090】
比較例9、10の複合膜はいずれも、第1の面及び第2の面から粒子が露出していない状態となった。比較例9における充填率は44.7%であり、比較例10における充填率は36.1%であった。比較例7、8共に膜の収縮は全く認められず、取り扱い性は優であった。
【0091】
-複合膜の観察及び測定方法-
<固体粒子の露出状態の評価方法>
上述の実施例及び比較例にて作製された複合膜から第3の剥離ライナー及び第1の剥離ライナーを剥離し、目視により両面の光沢の有無を確認した。光沢が失われている面では固体粒子が露出していると判断した。また、複合膜を膜厚方向に切断し、切断面を光学顕微鏡で観察することにより、固体粒子の露出の有無を判断した。
【0092】
また、剥離ライナーが剥がされた状態の複合膜を正電極板と負電極板の間に挟んだ状態でテスター(CUSTOM社製ポケットテスター「CDM-03D」)を用いて両電極間に所定の電圧を印加し、複合膜に導電性があるか否かを測定した。固体粒子A、B共に導電性を有しているので、正電極板と負電極板との間に電流が流れた場合には樹脂膜の両側から固体粒子が露出していると判断した。正電極板と負電極板との間に電流が流れない場合には、少なくとも一方の面で固体粒子が露出していないか、露出が不十分であると判断した。
【0093】
<貯蔵弾性率(G’)の測定方法>
表1に示す粘着剤組成物1~6について、UV照射前の23℃、100℃、120℃での貯蔵弾性率と、UV照射後の23℃、100℃、120℃での貯蔵弾性率とを測定した。具体的には、ポリエステルからなるフィルムに粘着剤組成物1~6を塗布し、溶剤を揮発させて粘着剤層を形成し、直径8mmの円形に切り出し、試験片とした。得られた試験片を直径8mmのパラレルプレートにエポキシ樹脂で固定し、そこに直径25mm以下のプレートを密着させて粘着剤層の貯蔵弾性率を測定した。粘着剤層の厚みは約1mmとした。測定にはレオメーター(TAインスツルメント社製「AR2000ex」)を用いた。測定温度-40℃~160℃、昇温速度3℃/min、ひずみ0.05%、周波数1Hzの条件で測定を行った。
【0094】
<プローブタック>
表1に示す粘着剤組成物1~4を用いて乾燥後の膜厚が10μm、15μm、20μm、25μmの粘着剤層を有する粘着フィルムを作製し、当該粘着フィルムから幅20mm、長さ20mmの試験片を切り出した。また、膜厚が20μmのOPPフィルムからも他と同サイズの試験片を切り出した。次いで、23℃-50%RH雰囲気下にて、試験片から剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の表面のプローブタックを測定した。OPPフィルムの試験片については、そのままの状態でプローブタックを測定した。粘着剤層の表面に対して直径5mmφのステンレス製プローブを接触荷重1.5N/cm2で1秒間接触させた後、プローブを5cm/secの速度で粘着層の表面から離した。このときのプローブの剥がれる力を測定した。測定を10回行い、最大値と最小値を除いた8回の測定結果の平均値を求めた。
【0095】
<複合膜の取り扱い易さの判断>
上記の実施例及び比較例で作製された複合膜から軽剥離側の第3の剥離ライナーを剥がした状態で目視により膜の収縮度合いを確認した。膜の収縮が全く見られない場合には、「優」と判断し、一部収縮が見られるものの、使用のしやすさに影響を与えない場合には「良」と判断し、収縮が大きい場合には「不良」と判断した。
【0096】
<固体粒子の充填率の算出方法>
上記の実施例及び比較例で作製された複合膜を光学顕微鏡にて500倍に拡大し、一定面積の複合膜内に含まれる固体粒子の個数を数えた。固体粒子A、Bとも粒径のばらつきが非常に小さいことから、直径Dの固体粒子が占める面積をπD2/4として、複合膜における固体粒子の充填率を算出した。
【0097】
<測定及び観察結果>
粘着剤組成物1~6のUV照射前後の貯蔵弾性率の測定結果を表2にまとめた。また、粘着剤組成物1~4を用いて作製された粘着剤層のUV照射前とUV照射後の測定結果を表3にまとめた。なお、表2及び表3で斜線を引いてある欄については、測定を行っていないことを示す。
【0098】
【0099】
【0100】
また、実施例1~9、比較例1~4において作製された複合膜の測定及び評価結果を表4に示し、実施例10、11、比較例5~10において作製された複合膜の測定及び評価結果を表5に示す。
【0101】
【0102】
【0103】
まず、表1と、表2に示す粘着剤組成物1~4の結果から、同じ粘着剤を主剤として用いた場合でも、硬化剤の添加量を変えることで各温度における貯蔵弾性率を調整できることが分かった。
【0104】
表3から分かる通り、比較例2を除く実施例及び比較例で用いられたUV硬化前の粘着剤組成物1~6は、いずれもタック性を有しているので、固体粒子を粘着剤層上に分散させる際に高い密度で単層の固体粒子を保持できることが確認できた(
図5に示す実施例7を参照)。その結果、表4、5に示すように、実施例2、5、7~11、比較例5~8では、固体粒子の充填率が50%以上と高くなることが確認できた。ただし、表5に示す比較例5~10の結果から、固体粒子の平均粒径Dに対して粘着剤層の膜厚が厚くなるにつれ、固体粒子の充填率が低下することが分かった。これは、固体粒子の平均粒径に対して粘着剤層の膜厚が厚くなり過ぎると、プレスにより粘着剤層の余剰部分が引き延ばされてしまうためと考えられる。
【0105】
一方、タック性を有さないOPPフィルムを用いた比較例2では、
図6に示すように固体粒子の密度が低く、且つ均一に分散されていなかった。このため、比較例2では、固体粒子の充填率は40%以下と低く、固体粒子の密度のムラも大きくなることが確認できた。
【0106】
また、表4に示す実施例1~9で作製された複合膜と比較例3、4との比較、及び表5に示す実施例10、11と比較例5~10との比較から、固体粒子の平均粒径Dに対して使用した粘着フィルムの粘着剤層の膜厚が0.45D以下であれば、固体粒子の両端を樹脂膜から露出させられることが確認できた。
【0107】
また、実施例1~11及び比較例1において樹脂膜の両側から固体粒子を露出できたことから、UV硬化前の120℃での粘着剤層の貯蔵弾性率が1×102Pa以上1×106Pa以下であれば熱プレスによる固体粒子の押し込みが容易となることが確認できた。
【0108】
図7は、実施例7において熱プレスをかけた後の複合膜10(左側)と、比較例1において熱プレスをかけた後の複合膜10a(右側)とを示す写真図である。同図では、作製された複合膜から第1及び第3の剥離ライナーを剥がした状態を示している。
【0109】
図7に示すように、実施例7において作製された複合膜10では、熱プレス後にUV照射によって粘着剤層が硬化されているため、残留応力による収縮が生じなかった。これに対し、比較例1において作製された複合膜10aでは、熱プレス後にUVによる硬化を受けないので、残留応力により大きな収縮が生じることが確認できた。
【0110】
また、実施例6~8で作製された複合膜では熱プレス後の収縮がほとんど生じなかったのに対し、実施例9で作製された複合膜ではやや収縮が見られたことから、23℃におけるUV照射後の樹脂膜の貯蔵弾性率が1×106Pa以上であればより確実に収縮を抑えられることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本明細書に開示された複合膜は、例えば全固体電池や異方性導電膜を作製するために用いられる。
【符号の説明】
【0112】
1 樹脂膜
1a 粘着剤層
3 固体粒子
5 第1の剥離ライナー
7 第2の剥離ライナー
9 第3の剥離ライナー
10 複合膜
11 圧力
15 正極層
17 負極層
20 粘着フィルム