(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置及び歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20230807BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20230807BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/04 D
F16H57/04 L
(21)【出願番号】P 2019171000
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-001757(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、
前記起振体により撓み変形する第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車と噛合う第1内歯歯車と、
前記第2外歯歯車と噛合う第2内歯歯車と、
を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1外歯歯車及び前記第1内歯歯車の第1噛合い部と、前記第2外歯歯車及び前記第2内歯歯車の第2噛合い部との間
であって、前記第1噛合い部から軸方向に離れるとともに前記第2噛合い部からも軸方向に離れた位置に、摩耗粉の流通を阻害する阻害部を有する、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
起振体と、
前記起振体により撓み変形する第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車と噛合う第1内歯歯車と、
前記第2外歯歯車と噛合う第2内歯歯車と、
を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1外歯歯車及び前記第1内歯歯車の第1噛合い部と、前記第2外歯歯車及び前記第2内歯歯車の第2噛合い部との間で、摩耗粉の流通を阻害する阻害部を有し、
前記第1噛合い部と前記阻害部との間の距離が、前記第2噛合い部と前記阻害部との間の距離より大きい
、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
起振体と、
前記起振体により撓み変形する第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車と噛合う第1内歯歯車と、
前記第2外歯歯車と噛合う第2内歯歯車と、
を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1外歯歯車及び前記第1内歯歯車の第1噛合い部と、前記第2外歯歯車及び前記第2内歯歯車の第2噛合い部との間で、摩耗粉の流通を阻害する阻害部を有し、
前記阻害部と前記第1噛合い部の間に、摩耗粉を保持するための凹部を有する
、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車は、共通の基部に一体的に設けられ、
前記阻害部は、前記第1外歯歯車と前記第2外歯歯車の間において基部に外嵌されたOリングである、
請求項
1から請求項3のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
前記第1噛合い部の方が、前記第2噛合い部よりも摩耗粉が発生する構成を有する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
前記第1外歯歯車と前記第1内歯歯車は歯数が異なり、前記第2外歯歯車と前記第2内歯歯車は歯数が同じ、
請求項5に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、
前記第1外歯歯車と噛合う第1内歯歯車と、
前記第2外歯歯車と噛合う第2内歯歯車と、
を備えた歯車装置であって、
前記第1外歯歯車及び前記第1内歯歯車の第1噛合い部と、前記第2外歯歯車及び前記第2内歯歯車の第2噛合い部との間
であって、前記第1噛合い部から軸方向に離れるとともに前記第2噛合い部からも軸方向に離れた位置に、摩耗粉の流通を阻害する阻害部を有する、
歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置及び歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撓み変形する外歯歯車を備えた撓み噛合い式歯車装置のように、並んで配設された二つの外歯歯車とこれらに個別に噛合する二つの内歯歯車とを備える歯車装置が、従来から活用されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の歯車機構は、噛合いの条件や歯車の設計条件、その他、部品精度のばらつき等により、一方で噛合う歯車の摩耗が多くなることがある。
これにより一方で噛合う歯車から生じた摩耗粉が他方の歯車の噛合い部に入り込むと、その噛合い部でもアブレッシブ摩耗が増加してロストモーションの原因となり、歯車機構に要求される仕様を満たせなくなるおそれがあった。
【0005】
本発明は、適正な動作を行う撓み噛合い式歯車装置及び歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、起振体と、前記起振体により撓み変形する第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、前記第1外歯歯車と噛合う第1内歯歯車と、前記第2外歯歯車と噛合う第2内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、前記第1外歯歯車及び前記第1内歯歯車の第1噛合い部と、前記第2外歯歯車及び前記第2内歯歯車の第2噛合い部との間であって、前記第1噛合い部から軸方向に離れるとともに前記第2噛合い部からも軸方向に離れた位置に、摩耗粉の流通を阻害する阻害部を有する構成とした。
また、他の本発明は、起振体と、前記起振体により撓み変形する第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、前記第1外歯歯車と噛合う第1内歯歯車と、前記第2外歯歯車と噛合う第2内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、前記第1外歯歯車及び前記第1内歯歯車の第1噛合い部と、前記第2外歯歯車及び前記第2内歯歯車の第2噛合い部との間で、摩耗粉の流通を阻害する阻害部を有し、前記第1噛合い部と前記阻害部との間の距離が、前記第2噛合い部と前記阻害部との間の距離より大きい、という構成とした。
さらに、他の本発明は、起振体と、前記起振体により撓み変形する第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、前記第1外歯歯車と噛合う第1内歯歯車と、前記第2外歯歯車と噛合う第2内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、前記第1外歯歯車及び前記第1内歯歯車の第1噛合い部と、前記第2外歯歯車及び前記第2内歯歯車の第2噛合い部との間で、摩耗粉の流通を阻害する阻害部を有し、前記阻害部と前記第1噛合い部の間に、摩耗粉を保持するための凹部を有する構成とした。
【0007】
また、本発明は、第1外歯歯車及び第2外歯歯車と、前記第1外歯歯車と噛合う第1内歯歯車と、前記第2外歯歯車と噛合う第2内歯歯車と、を備えた歯車装置であって、前記第1外歯歯車及び前記第1内歯歯車の第1噛合い部と、前記第2外歯歯車及び前記第2内歯歯車の第2噛合い部との間であって、前記第1噛合い部から軸方向に離れるとともに前記第2噛合い部からも軸方向に離れた位置に、摩耗粉の流通を阻害する阻害部を有する構成とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アブレッシブ摩耗の発生を低減し、ロストモーションの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態1に係る撓み噛合い式歯車装置を示す軸方向断面図である。
【
図2】第1噛合い部及び第2噛合い部の周辺を拡大して示した軸方向断面図である。
【
図3】第1噛合い部及び第2噛合い部の周辺に凹部を設けた例の軸方向断面図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係る偏心揺動型減速装置を示す軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係る撓み噛合い式歯車装置を示す軸方向断面図である。
なお、以下の説明では、後述する回転軸O1に平行な方向を軸方向、回転軸O1を中心とする円周に沿った方向を周方向、回転軸O1を中心とする円周の半径に沿った方向を半径方向という。
【0012】
実施形態1の撓み噛合い式歯車装置1は、例えば、減速装置である。この撓み噛合い式歯車装置1は、起振体軸30、起振体軸受31、第1外歯歯車32、第2外歯歯車33、第1内歯歯車411、第2内歯歯車421、ケーシング43、第1カバー44、第2カバー45、軸受46、47、主軸受48及びストッパーリング51、52を備える。
【0013】
起振体軸30は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体30Aと、起振体30Aの軸方向の両側に設けられた軸部30B、30Cとを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円である必要はなく、略楕円を含む。軸部30B、30Cは、回転軸O1に垂直な断面の外形が円形の軸である。
【0014】
第1内歯歯車411は、剛性を有する第1内歯部材41の内周の一部に歯が設けられて構成される。
第2内歯歯車421は、剛性を有する第2内歯部材42の内周の一部に歯が設けられて構成される。
【0015】
第1外歯歯車32と第2外歯歯車33とは、可撓性を有する一つの金属製の円筒状の基部34の外周において、軸方向の一方と他方とに並んで一体的に設けられている。
そして、第1外歯歯車32は、第1内歯歯車411と噛合して、これらの噛合部分が第1噛合い部35を構成している(
図2参照)。
また、第2外歯歯車33は、第2内歯歯車421と噛合して、これらの噛合部分が第2噛合い部36を構成している(
図2参照)。
上記第1噛合い部35と第2噛合い部36とには、それぞれ、潤滑剤としてのグリスが予め塗布されている。
【0016】
起振体軸受31は、例えばコロ軸受であり、起振体30Aと第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33が形成された基部34との間に配置される。起振体30Aと第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33とは、起振体軸受31を介して相対的に回転可能にされる。
起振体軸受31は、基部34の内側に嵌入される外輪31aと、複数の転動体(コロ)31bと、複数の転動体31bを保持する保持器31cとを有する。
複数の転動体31bは、第1外歯歯車32及び第1内歯歯車411の径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第1群の転動体31bと、第2外歯歯車33及び第2内歯歯車421の径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第2群の転動体31bとを有する。これらの転動体31bは、起振体30Aの外周面と外輪31aの内周面とを転走面として転動する。起振体軸受31は、起振体30Aとは別体の内輪を有してもよい。
【0017】
ストッパーリング51、52は、第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33と起振体軸受31との軸方向の両側に配置され、第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33と起振体軸受31の軸方向の移動を規制する。
【0018】
ケーシング43は、第2内歯部材42の外周側を覆う。ケーシング43の内周部には、主軸受48の外輪部が形成されており、主軸受48を介して第2内歯部材42を回転自在に支持している。ケーシング43は、例えば、ボルト531のような連結部材を介して第1内歯部材41と連結される。
【0019】
主軸受48は、例えば、クロスローラ軸受であり、第2内歯部材42と一体化された内輪部とケーシング43と一体化された外輪部との間に配置される複数の転動体とを有する。なお、主軸受48は、第2内歯部材42とケーシング43との間で、軸方向に離間した複数の軸受(アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等)から構成されてもよい。
また、ケーシング43と第2内歯部材42との間であって、主軸受48よりも出力側には、オイルシール541が設けられ、軸方向外側(出力側)への潤滑剤の流出を抑制する。
【0020】
第1カバー44は、例えば、ボルト532のような連結部材を介して第1内歯部材41と連結され、第1外歯歯車32と第1内歯歯車411との第1噛合い部35を軸方向の反出力側から覆う。
なお、相手部材と連結されて減速された運動を相手部材に出力する側を出力側と呼び、軸方向における出力側とは反対側を反出力側と呼ぶ。第1カバー44と起振体軸30の軸部30Bとの間には軸受46が配置され、起振体軸30は、回転自在に第1カバー44に支持される。なお、軸受46は、玉軸受を例示しているが他のラジアル軸受を使用しても良い。
また、第1カバー44と起振体軸30の軸部30Bとの間であって、軸受46よりも反出力側には、オイルシール542が設けられ、軸方向外側(反出力側)への潤滑剤の流出を抑制する。
【0021】
第2カバー45は、例えば、ボルト533のような連結部材を介して第2内歯部材42と連結され、第2外歯歯車33と第2内歯歯車421との第2噛合い部36を軸方向の出力側から覆う。第2カバー45及び第2内歯部材42は、減速された運動を出力する相手部材に連結される。第2カバー45と起振体軸30の軸部30Cとの間には軸受47が配置され、起振体軸30は、回転自在に第2カバー45に支持される。なお、軸受47は、玉軸受を例示しているが他のラジアル軸受を使用しても良い。
また、第2カバー45と起振体軸30の軸部30Cとの間であって、軸受47よりも出力側には、オイルシール543が設けられ、軸方向外側(出力側)への潤滑剤の流出を抑制する。
【0022】
さらに、第1内歯部材41とケーシング43との間にはシール用のOリング551が介挿されている。
同様に、第1内歯部材41と第1カバー44との間にはシール用のOリング552が介挿され、第2内歯部材42と第2カバー45との間にはシール用のOリング553が介挿されている。
従って、撓み噛合い式歯車装置1の内部空間(第1噛合い部35、第2噛合い部36、主軸受48、軸受46,47、起振体軸受31等の存在する空間)は、潤滑剤が封入される潤滑剤封入空間とされ、オイルシール541~543やOリング551~553によって密封されている。
【0023】
[阻害部]
図2は、第1噛合い部35及び第2噛合い部36を拡大して示した軸方向断面図である。
上記撓み噛合い式歯車装置1では、第1噛合い部35と第2噛合い部36とがそれぞれ軸方向に沿って隣に並んで配置されている。
【0024】
それぞれの噛合い部35,36では、噛合いの条件や歯車の設計条件、その他、部品精度のばらつき等が、摩耗粉が発生する構成となって、一方の噛合い部の方よりも他方の噛合い部の方が歯車の摩耗が多くなる場合がある。
例えば、上記撓み噛合い式歯車装置1の場合、第2噛合い部36では第2外歯歯車33と第2内歯歯車421の歯数が等しく設定されているが、第1噛合い部35では第1外歯歯車32と第1内歯歯車411との間で歯数差が設定されている。
これが、第1噛合い部35の方が第2噛合い部36よりも摩耗粉が発生する構成となる場合がある。第1噛合い部35で摩耗が多くなると、第2噛合い部36にその摩耗粉が入り込み、他方の噛合い部36側でのアブレッシブ摩耗の原因となり得る。
【0025】
このため、撓み噛合い式歯車装置1では、摩耗粉の流通を阻害する阻害部として、第1外歯歯車32と第2外歯歯車33の間において基部34に外嵌されたOリング61を備えている。
基部34の外周面上には、周方向に沿って一周する凹溝341が形成され、当該凹溝341にOリング61が配置されている。Oリング61は、
図2に示すように、軸断面形状が円形であって、凹溝341の深さよりも外径が大きく設定されている。
Oリング61は、その内周部が周方向全周に渡って凹溝341の底部に密接し、その外周部が第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33の歯先よりも径方向外側に突出している。このため、第1噛合い部35から発生した摩耗粉がグリスと共に軸方向に沿って押し出された場合に、第2噛合い部36側まで移動しないようにせき止めることができる。
【0026】
また、
図2に示すように、第1噛合い部35から凹溝341までの距離をa、第2噛合い部36から凹溝341までの距離をbとした場合に、a>bとなるように設定されている。これにより、Oリング61が第2噛合い部36よりも第1噛合い部35から遠くなるように配置されている。
このため、Oリング61を中央に配置する場合に比べて、第1噛合い部35から発生した摩耗粉を第1噛合い部35とOリング61との間により多く溜めることができる。
【0027】
また、基部34の外周面上であって、第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33の軸方向外側、即ち、基部34の軸方向における一端部と他端部とには、周方向に沿って一周する凹溝342,343が形成され、当該凹溝342,343にはそれぞれOリング62,63が配置されている。これらのOリング62,63は、軸方向断面が、前述したOリング61よりも小径の円形である。
【0028】
これらのOリング62,63は、全周に渡ってそれぞれ凹溝342,343の底部に密接し、その外周部が第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33の歯先よりも径方向外側に突出している。また、これらのOリング62,63は、それぞれストッパーリング51,52に全周に渡って当接している。
これらのOリング62,63は、第1噛合い部35と第2噛合い部36から摩耗粉がグリスと共に基部34の軸方向の両端部から起振体軸受31への侵入することを阻害し、これら摩耗粉による起振体軸受31のアブレッシブ摩耗を抑制することができる。
【0029】
なお、
図3に示すように、基部34の外周面上におけるOリング61(凹溝341)と第1噛合い部35との間には、軸方向に沿って一周する溝状の凹部344を形成し、当該凹部344内にも摩耗粉を保持する構成としてもよい。
これにより、摩耗粉を第1噛合い部35とOリング61との間により多く溜めることができる。
【0030】
[減速動作]
図示略のモータ等から回転運動が入力され、起振体軸30が回転すると、起振体30Aの運動が第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33に伝わる。このとき、第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33は、起振体30Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、第1外歯歯車32は、固定された第1内歯部材41の第1内歯歯車411と長軸部分で噛合っている。このため、第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33は、起振体30Aと同じ回転速度で回転することはなく、第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33の内側で起振体30Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸30の回転周期に比例する。
【0031】
第1外歯歯車32及び第2外歯歯車33が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、第1外歯歯車32と第1内歯歯車411との噛合う位置が回転方向に変化する。ここで、第1外歯歯車32の歯数が100で、第1内歯歯車411の歯数が102だとすると、噛合う位置が一周するごとに、第1外歯歯車32と第1内歯歯車411との噛合う歯がずれていき、これにより第1外歯歯車32が回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸30の回転運動は減速比100:2で減速されて第1外歯歯車32に伝達される。
【0032】
一方、第1外歯歯車32と基部34を共通とする第2外歯歯車33は、第2内歯歯車421と噛合っているため、起振体軸30の回転によって第2外歯歯車33と第2内歯歯車421との噛合う位置も回転方向に変化する。一方、第2内歯歯車421の歯数と第2外歯歯車33の歯数とは一致しているため、第2外歯歯車33と第2内歯歯車421とは相対的に回転せず、第2外歯歯車33の回転運動が減速比1:1で第2内歯歯車421へ伝達される。これらによって、起振体軸30の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯部材42及び第2カバー45へ伝達される。そして、この減速された回転運動が相手部材に出力される。
【0033】
上記減速動作において、第1外歯歯車32と第1内歯歯車411の間で生じた摩耗粉はグリスと共に第1噛合い部35から軸方向の両側に押し出され得るが、Oリング61により、第2噛合い部36側への侵入は阻害される。
ここで、第1噛合い部35及び第2噛合い部36に使用される潤滑剤としては硬めのものが好ましい。例えば、グリスであれば、稠度がNLGI.NoでNo.1以上の硬さ、より好ましくはNo.2かそれ以上の硬さのグリスを使用する。
これにより、摩耗粉がグリスに混入され、阻害部としてのOリング61は、軸方向の移動を効果的に阻害することができる。
【0034】
[実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態の撓み噛合い式歯車装置1によれば、第1噛合い部35と第2噛合い部36との間に摩耗粉の流通を阻害する阻害部としてのOリング61を設けたので、第1噛合い部35と第2噛合い部36のいずれか一方における摩耗粉の発生量が多くなる場合に、摩耗粉の発生量が少ない方への摩耗粉の移動を阻害することができる。従って、摩耗粉の発生量が少ない方の噛合い部におけるアブレッシブ摩耗の発生を低減し、ロストモーションの発生を抑制することが可能となる。
【0035】
また、上記阻害部が、第1外歯歯車32と第2外歯歯車33の間において基部34に外嵌されたOリング61であることから、撓み変形を行う基部34に追従して変形し、基部34とOリング61との協働により、効果的に二つの噛合い部35,36の間での摩耗粉の移動を阻害することが可能である。
さらに、第1噛合い部35とOリング61との間の距離aを、第2噛合い部36とOリング61との間の距離bより大きくしているので、第1噛合い部35から生じる摩耗粉をOリング61と第1噛合い部35との間により多く保持することができる。このため、第1噛合い部35から第2噛合い部36への摩耗粉の移動をより効果的に阻害し、より長期間に渡って第2噛合い部36のアブレッシブ摩耗を抑制し、ロストモーションの発生を抑制することが可能となる。
【0036】
また、Oリング61と第1噛合い部35の間に、摩耗粉を保持するための凹部344を設けた場合には、第1噛合い部35から生じたさらに多くの摩耗粉をOリング61と第1噛合い部35との間に保持することができ、さらに長期間に渡って第2噛合い部36のアブレッシブ摩耗を抑制し、ロストモーションの発生を抑制することが可能となる。
【0037】
また、例えば、第1外歯歯車32と第1内歯歯車411は歯数が異なり、第2外歯歯車33と第2内歯歯車421は歯数が同じとすることにより、第1噛合い部35の方が第2噛合い部36よりも摩耗粉がより多く発生する構成となっている場合に、第1噛合い部35から第2噛合い部36への摩耗粉の移動を阻害することができ、第2噛合い部36のアブレッシブ摩耗を抑制し、より効果的にロストモーションの発生を抑制することが可能となる。
【0038】
[実施形態2]
この実施形態2では、歯車装置として偏心揺動型減速装置1Dに阻害部を設けた例を説明する。
【0039】
図1は偏心揺動型減速装置1Dの軸方向断面図である。この実施形態2の場合も、偏心揺動型減速装置1Dの回転軸O1に沿った方向を軸方向、回転軸O1を中心とする円の半径に沿った方向を径方向、回転軸O1を中心とする回転方向を周方向と定義する。
【0040】
偏心揺動型減速装置1Dは、二段式の減速装置であり、第1偏心体軸201D、第1偏心体202D、第1外歯歯車203D、第1内歯歯車204D、内ピン205Dを有する第1キャリア体206D、第2偏心体軸301D、第2偏心体302D、第2外歯歯車303D、第2内歯歯車304D、内ピン305Dを有する第2キャリア体306D、を備える。さらに、偏心揺動型減速装置1Dは、第1カバー部材43D、第2カバー部材44D、第3カバー部材45Dを備える。
【0041】
第1偏心体軸201Dは、モータ200Dの出力軸からなり、回転軸O1を中心とする回転駆動が行われる。第1偏心体軸201Dには、回転軸O1から偏心して設けられた第1偏心体202Dを有している。
【0042】
第1外歯歯車203Dは、第1偏心体202Dに軸受221Dを介して組み込まれ、第1偏心体軸201Dが回転することで揺動する。
第1外歯歯車203Dには、複数の内ピン205Dが遊挿される複数の内ピン孔208Dが周方向に離間して設けられている。内ピン孔208Dは、第1外歯歯車203Dの揺動を許容するように内ピン205Dに対して内径が大きく設定されている。
これにより、第1キャリア体206Dは、内ピン205Dを介して、第1外歯歯車203Dから回転が伝達される。また、第1キャリア体206Dは、第1偏心体軸201Dと同心であり、これらの間には軸受222Dが設けられている。
【0043】
第1内歯歯車204Dは、内周面に内歯としての外ピン209Dを周方向に一定間隔で保持している。そして、第1内歯歯車204Dは、第1外歯歯車203Dと噛み合って第1噛合い部を構成する。
これらの構成は、第1偏心体軸201Dから第1キャリア体206Dに接続された第2偏心体軸301Dに減速回転を伝える一段目の減速を行う構成である。
【0044】
第2偏心体軸301Dは、第1キャリア体206Dと一体的に連結されており、回転軸O1を中心として回転する。第2偏心体軸301Dは、軸受321Dにより第1カバー部材43Dに対して回転可能に支持されている。
第2偏心体軸301Dには、軸方向に並んで回転軸O1から偏心して設けられた二つの第2偏心体302Dを有している。二つの第2偏心体302Dは、180°の位相差で設けられている。
【0045】
第2外歯歯車303Dは、軸方向に並んで二つ設けられ、それぞれが第2偏心体302Dに軸受322Dを介して組み込まれ、第2偏心体軸301Dが回転することで180°の位相差で揺動する。
これらの第2外歯歯車303Dには、複数の内ピン305Dが遊挿される複数の内ピン孔308Dが周方向に離間して設けられている。内ピン孔308Dは、第2外歯歯車303Dの揺動を許容するように内ピン305Dに対して内径が大きく設定されている。
これにより、第2キャリア体306Dは、内ピン305Dを介して、第2外歯歯車303Dから回転が伝達される。また、第2キャリア体306Dは、第2偏心体軸301Dと同心であり、これらの間には軸受323Dが設けられている。
また、第2キャリア体306Dは、回転軸O1を中心とする軸部310Dを有しており、当該軸部310Dは、軸受324D、325Dを介して第2カバー部材44Dにより回転可能に支持されている。
【0046】
第2内歯歯車304Dは、内周面に内歯としての外ピン309Dを周方向に一定間隔で保持している。そして、第2内歯歯車304Dは、二つの第2外歯歯車303Dと噛み合って第2噛合い部を構成する。
これらの構成は、第2偏心体軸301Dから第2キャリア体306Dに設けられた軸部310Dに減速回転を伝える二段目の減速を行う構成である。
【0047】
さらに、第1キャリア体206Dの外周面と第1カバー部材43Dの内周面とは近接しており、これらには対向するように凹溝が設けられ、相互の凹溝の内側に、阻害部としてのOリング501Dが設けられている。Oリング501Dは、第1キャリア体206Dの外周面と第1カバー部材43Dの内周面との間の隙間をシールするように設けられている。
【0048】
第2内歯歯車304Dは、ボルトの締結により第1カバー部材43D及び第2カバー部材44Dに挟まれて連結されている。
第2カバー部材44Dは、第2キャリア体306Dを内包し、軸受324D及び325Dにより第2キャリア体306Dの軸部310Dと相対的に回転可能に連結されている。
【0049】
偏心揺動型減速装置1Dは、モータ200Dにより第1偏心体軸201Dが回転すると第1偏心体202Dが偏心回転し、第1外歯歯車203Dが揺動される。
そして、第1外歯歯車203Dは、第1内歯歯車204Dに対する歯数差分だけ相対回転(自転)する。第1外歯歯車203Dの自転成分は、内ピン205Dを介して第1キャリア体206Dに伝達される。これらの結果、歯数差を1とした場合、第1偏心体軸201Dの回転運動が、1/(第1外歯歯車203Dの歯数)の減速比で減速されて、第1キャリア体206Dの回転として取り出すことができる。
【0050】
さらに、第1キャリア体206Dと共に第2偏心体軸301Dが回転し、これにより、二つの第2偏心体302Dが180°の位相差で偏心回転し、二つの第2外歯歯車303Dが180°の位相差で揺動される。
この場合も、第2外歯歯車303Dは、第2内歯歯車304Dに対する歯数差分だけ相対回転(自転)する。従って、歯数差を1とした場合、1/(第2外歯歯車303Dの歯数)の減速比で減速されて、内ピン305Dを介して第2キャリア体306Dの回転として取り出すことができる。
【0051】
そして、上記減速動作において、第1外歯歯車203Dと第1内歯歯車204Dの間で生じた摩耗粉はグリスと共に第1噛合い部から軸方向に押し出され得る。同様に、第2外歯歯車303Dと第2内歯歯車304Dの間で生じた摩耗粉はグリスと共に第2噛合い部から軸方向に押し出され得る。
このとき、第1噛合い部と第2噛合い部のいずれか一方が他方よりも摩耗粉が多く発生する構成或いは構造である場合であっても、これらの噛合い部の間に阻害部としてのOリング501Dが設けられているので、第1噛合い部と第2噛合い部との間での摩耗粉の移動は阻害される。従って、摩耗粉の発生量が少ない方の噛合い部におけるアブレッシブ摩耗の発生を低減し、ロストモーションの発生を抑制することが可能となる。
【0052】
[その他]
上記各実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、実施形態1では、第1噛合い部35の方が第2噛合い部36よりも摩耗粉が発生する構成として、第1外歯歯車32と第1内歯歯車411は歯数が異なり、第2外歯歯車33と第2内歯歯車421は歯数が同じとした場合を例示したが、これに限定されない。
例えば、噛合いの条件や歯車の設計条件、その他、部品精度のばらつき等、歯数差以外の各種の条件により、第1噛合い部35の方が第2噛合い部36よりも摩耗粉が発生する構成となっている場合でも、阻害部は有効である。
また、第1外歯歯車32と第1内歯歯車411は歯数が同じであり、第2外歯歯車33と第2内歯歯車421は歯数が異なる場合であっても、上記他の条件により、第1噛合い部35の方が第2噛合い部36よりも摩耗粉が発生する構成となっている場合もありうるが、その場合も、阻害部は有効である。
【0053】
また、実施形態1では、阻害部としてOリング61を例示したが、第1噛合い部35から第2噛合い部36への摩耗粉の移動を阻害する他の構造や構成を利用しても良い。例えば、Oリング以外の可撓性を有する他のリングを利用しても良い。
また、撓み噛合い式歯車装置1の場合、第1外歯歯車32と第2外歯歯車33とを基部も含めて別部材で構成する。そして、第1外歯歯車32と第2外歯歯車33との間に、ストッパーリング51及び52のように、起振体30Aと干渉しないリング状の平板を阻害部として配置する構成としても良い。
【0054】
また、本発明の歯車装置は、撓み噛合い式や偏心揺動型に限定されるものではなく、第1噛合い部及び第2噛合い部を有する種々の歯車装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 撓み噛合い式歯車装置
30 起振体軸
30A 起振体
32 第1外歯歯車
33 第2外歯歯車
34 基部
35 第1噛合い部
36 第2噛合い部
411 第1内歯歯車
421 第2内歯歯車
61 Oリング(阻害部)
62,63 Oリング
341 凹溝
344 凹部
1D 偏心揺動型減速装置(歯車装置)
201D 第1偏心体軸
203D 第1外歯歯車
301D 第2偏心体軸
303D 第2外歯歯車
501D Oリング(阻害部)
O1 回転軸
a 距離
b 距離