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特許7329252乳化剤、及び、乳化維持方法、並びに、乳化剤を含有する乳化液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】乳化剤、及び、乳化維持方法、並びに、乳化剤を含有する乳化液
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/14 20220101AFI20230810BHJP
   A23J 7/00 20060101ALI20230810BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20230810BHJP
   B01F 23/411 20220101ALI20230810BHJP
【FI】
C09K23/14
A23J7/00
A23D7/01
B01F23/411
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020072399
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021107070
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2019238467
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520001187
【氏名又は名称】株式会社CFCプランニング
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中村 修一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-313783(JP,A)
【文献】特開昭54-084041(JP,A)
【文献】特開昭60-099333(JP,A)
【文献】特開2013-236605(JP,A)
【文献】特開昭61-025447(JP,A)
【文献】特開平03-087133(JP,A)
【文献】特開平07-039303(JP,A)
【文献】特開昭63-171629(JP,A)
【文献】特開2008-245588(JP,A)
【文献】特開昭51-106750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 23/00-23/56
A23D 7/00-9/06
A23L 5/00-29/10
C11D 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚由来の油が油滴として分散した水中油滴型の90℃以上の乳化液の乳化状態を維持する乳化剤であって、
10質量%以上30質量%以下の卵黄レシチン及70質量%以上90質量%以下のラードを含有することを特徴とする乳化剤。
【請求項2】
豚由来の油が投入されている溶液に、10質量%以上30質量%以下の卵黄レシチン及70質量%以上90質量%以下のラードを含有する乳化剤を混合してハンドブレンダーで攪拌し、前記油が油滴として分散した水中油滴型の90℃以上の前記溶液の乳化状態を維持する乳化維持方法。
【請求項3】
溶液中に豚由来の油が油滴として分散した水中油滴型の乳化液において、10質量%以上30質量%以下の卵黄レシチン及70質量%以上90質量%以下のラードを含有する乳化剤が混合されて、90℃以上で乳化状態が維持されていることを特徴とする乳化液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤、及び、乳化維持方法、並びに、乳化剤を含有する乳化液に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリンやアイスクリーム等の食品や化粧品に含有されている乳化剤は、疎水基及び親水基を有して、乳化状態を形成しその状態を保つ(特許文献1、2参照)。
例えば、豚骨スープは、煮沸によって豚骨から抽出されるゼラチンが乳化剤となって、豚由来の油脂が油滴として水中に分散した水中油滴型(oil-in-water)の乳化状態となる。飲食店では、乳化した豚骨スープを鍋に入れ継続的に加熱して、客に提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-102602号公報
【文献】特開2009-148190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、豚骨スープは継続的な加熱によって時間の経過と共に解乳化する。解乳化が進んだ豚骨スープは、独特のまろやかな味わいが損なわれることから、客に提供されず廃棄される。
乳化状態が長時間維持されないという現象は、豚骨スープ以外の乳化液にも見られる。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、溶液中に油滴が分散した乳化液の乳化状態を安定的に維持可能な乳化剤、及び、乳化維持方法、並びに、乳化剤を含有する乳化液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係る乳化剤は、豚由来の油が油滴として分散した水中油滴型の90℃以上の乳化液の乳化状態を維持する乳化剤であって、10質量%以上30質量%以下の卵黄レシチン及70質量%以上90質量%以下のラードを含有する。
【0006】
前記目的に沿う第2の発明に係る乳化維持方法は、豚由来の油が投入されている溶液に、10質量%以上30質量%以下の卵黄レシチン及70質量%以上90質量%以下のラードを含有する乳化剤を混合してハンドブレンダーで攪拌し、前記油が油滴として分散した水中油滴型の90℃以上の前記溶液の乳化状態を維持する。
【0007】
前記目的に沿う第3の発明に係る乳化液は、溶液中に豚由来の油が油滴として分散した水中油滴型の乳化液において、10質量%以上30質量%以下の卵黄レシチン及70質量%以上90質量%以下のラードを含有する乳化剤が混合されて、90℃以上で乳化状態が維持されている。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明に係る乳化剤は、界面活性剤のみでなく、これに加えて動物性油脂を含有しているので、溶液中に油滴が分散した乳化液の解乳化を安定的に防止可能である。本発明者らは、界面活性剤のみからなる乳化剤を用いて、当該乳化液の乳化状態の長時間の維持を試みたが、解乳化を安定的に抑制することができず、試行錯誤を繰り返し、界面活性剤に動物性油脂を混合した乳化剤を用いることによって、乳化液の乳化状態を安定的に維持可能なことを見出した。
【0009】
また、第2の発明に係る乳化維持方法は、油が投入されている溶液に、界面活性剤及び動物性油脂を含有する乳化剤を混合して、当該溶液の乳化状態を維持するので、乳化状態を安定的に維持可能である。
第3の発明に係る乳化液は、溶液中に油滴が分散した乳化液において、界面活性剤及び動物性油脂の混合物を含有しているので、乳化状態の安定的な維持が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る乳化剤は、界面活性剤及び動物性油脂を含有し、溶液中に油滴が分散した乳化液の乳化状態を維持(解乳化を抑制)する。
【0011】
本実施の形態の乳化剤は、界面活性剤及び動物性油脂を攪拌して混合したものであり、界面活性剤が動物性油脂に対し偏在することなく均一に分布している。乳化剤は、界面活性剤及び動物性油脂以外の物質、例えば、酸化を防止するビタミンEやパーム油等の植物性油脂を含んでいても良い。
本実施の形態では、動物性油脂にラード(豚脂)を用いている。しかし、これに限定されず、ラードの代わりに鶏油や牛脂等を用いることができる。
【0012】
界面活性剤は、特に限定されず、例えば、動物由来のレシチン、植物由来のレシチン、ガゼインナトリウム、グリセリン脂肪酸エステルを、界面活性剤として採用することができる。
界面活性剤が限定されないのは、複数の異なる界面活性剤について、界面活性剤及び動物性油脂の混合物からなる乳化剤が界面活性剤単体の乳化剤に比べて、乳化液(乳化液に乳化剤を投入したもの、及び、水及び油を含む未乳化の溶液に乳化剤を投入して乳化液としたものの双方を含む)の乳化状態を安定的に維持可能なことを実験的検証によって知得したためである。
【0013】
界面活性剤として用いられる動物由来のレシチンの例としては、鳥類由来のレシチンである卵黄レシチン、その他の哺乳類由来のレシチン(鶏肉、豚肉、牛肉等を由来とするレシチン)及び魚類を由来とするレシチンが挙げられる。界面活性剤に採用できる植物由来のレシチンの例として、大豆レシチンが挙げられる。
【0014】
乳化剤によって乳化状態が安定的に維持される乳化液は、例えば、動物由来の油(ラードや鶏油等)が油滴として分散している乳化液(以下、「動物性乳化液」と言う)や、植物由来の油(ごま油やサラダ油等)が油滴として分散している乳化液である。
【0015】
動物性乳化液については、界面活性剤及び動物性油脂を含有する乳化剤を動物性乳化液に混合した場合が、界面活性剤及び植物性油脂を含有する乳化剤を動物性乳化液に混合した場合に比べ、動物性乳化液の乳化状態を安定的に維持可能なことも実験により確認している。
更に、動物性乳化液に対しては、動物由来のレシチン、ガゼインナトリウム又はグリセリン脂肪酸エステルを界面活性剤にすることが、植物由来のレシチンを界面活性剤にするよりも、動物性乳化液の乳化状態を安定的に維持できることを確認している。
【0016】
界面活性剤が動物由来のレシチンの場合、動物性乳化液の乳化状態を安定的に維持する観点において、動物性油脂の動物由来のレシチンに対する割合は、動物性油脂が、質量比で、動物由来のレシチンの1倍以上20倍以下であるのが好ましく、1.5倍以上10倍以下であるのがより好ましく、2倍以上8倍以下であるのが更に好ましく、3倍以上6倍以下であるのが最も好適である。
【0017】
本実施の形態では、動物性油脂に動物由来のレシチンを混合した乳化剤を、高温の乳化液(本実施の形態では、80℃以上100℃以下)に投入した後、乳化液を攪拌して乳化液中に当該乳化剤が均等に分布するようにしている。当該乳化剤が分布した乳化液の解乳化が抑制(乳化状態が維持)されているか否かは、当該乳化液を鍋等に入れて継続的に加熱した後(90℃以上の温度に保った後)に確認している。
【0018】
また、本発明の一実施の形態に係る乳化維持方法は、油が投入されている溶液(乳化状態の溶液及び未乳化状態の溶液の双方を含む)に、上述した乳化剤を混合して、油が分散した溶液の乳化状態を維持するものである。当該乳化維持方法は、加熱されている動物性乳化液の乳化状態の維持に特に好適である。
そして、本発明の一実施の形態に係る乳化液は、溶液中に油滴が分散した乳化液であって、界面活性剤及び動物性油脂を含有する乳化剤が混合されている。当該乳化液には、例えば、乳化剤が混合された食用スープが該当する。
【実施例
【0019】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
各実験で行った手順を以下に示す。
(1)水道水を浄水器で浄化した浄水と、ビタミンEを0.03質量%含有した調整ラード(以下、同様)との質量比10対1の混合液を、約95℃まで加熱した後、ハンドブレンダーで攪拌して動物性乳化液を得る。なお、実施例については、当該動物性乳化液の代わりに、実際の店舗で使用されていた豚骨ラーメン用のスープを使用した。
(2)動物性乳化液に、乳化剤を投入して、ハンドブレンダーで攪拌し、湯煎鍋に入れた状態で連続加熱して約97℃を保つようにする。なお、比較例1では乳化剤を投入していない。
(3)湯煎鍋から動物性乳化液を計量容器に取り出し、15分間放置した後、乳化剤を含有する動物性乳化液全体に対する解乳化層の体積比を視認した。15分間放置したのは、湯気で視界が遮られるのを防止するためである。
【0020】
<第1実験>
動物性油脂及び卵黄レシチンからなる乳化剤を用いる場合(実施例1~4)、乳化剤(界面活性剤)を使用しない場合(比較例1)、卵黄レシチンのみからなる乳化剤を用いる場合(比較例2)、及び、植物性油脂及び卵黄レシチンからなる乳化剤を用いる場合(比較例3、4)について、解乳化層の量を確認した結果を以下の表1、表2に示す。なお、実施例1~4及び比較例3、4では乳化剤全体に対する卵黄レシチンの割合を10質量%とし、実施例1~4及び比較例3、4では動物性乳化液:乳化剤の質量比を55:1とした。比較例2における動物性乳化液に対する卵黄レシチンの割合は約0.18質量%であり、これは実施例1~4及び比較例3、4における動物性乳化液に対する卵黄レシチンの割合と同じである。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
実施例1~4及び比較例2~4の卵黄レシチンは、キユーピー株式会社製のLPL-20Sであり(他の実験についても同じ)、実施例4の背油ラードは、豚の背油を140℃まで加熱した後に濾したものである。表1、表2の解乳化層の欄に記載している時間は、乳化剤が投入された動物性乳化液の連続加熱時間(乳化剤を投入してから湯煎鍋内の動物性乳化液を計量容器に取り出すまでの時間)を示している(他の表についても同じ)。
【0024】
表1、表2に示す実験結果より、動物性油脂及び卵黄レシチンを混合した乳化剤を用いた場合(実施例1~4)は、乳化剤を不使用の場合(比較例1)、卵黄レシチンのみからなる乳化剤を用いた場合(比較例2)及び植物性油脂及び卵黄レシチンを混合した乳化剤を用いた場合(比較例3、4)に比べ、動物性乳化液の解乳化の抑制が顕著となったことが確認できた。
【0025】
<第2実験>
界面活性剤に大豆レシチンを採用した場合の解乳化抑制効果を調べた。
調整ラード及び大豆レシチン(辻製油株式会社製のSLP-ホワイト)を混合した乳化剤を用いた場合(実施例5、6)、及び、大豆レシチンのみからなる乳化剤を用いた場合(比較例5)の実験結果を以下の表3に示す。実施例5、6は共に乳化剤全体に対する大豆レシチンの割合が10質量%であった。実施例5、6は動物性乳化液に投入する乳化剤の割合が異なり、動物性乳化液:乳化剤の質量比は、実施例5が55:1であり、実施例6が55:2であった。実施例6及び比較例5は共に動物性乳化液:大豆レシチンの質量比が275:1であった。
【0026】
【表3】
【0027】
表1に示す実施例1の結果及び表3に示す実施例5、6の結果より、調整ラード及び卵黄レシチンを混合した乳化剤は、調整ラード及び大豆レシチンを混合した乳化剤と比較して、動物性乳化液の解乳化を安定的に抑制できることが確認できた。
表3に示す実施例6及び比較例5の結果より、調整ラード及び大豆レシチンを混合した乳化剤は、大豆レシチン単体の乳化剤と比較して、若干ではあるが、動物性乳化液の解乳化を安定的に抑制可能なことが確認できた。
なお、実施例6及び比較例5において、乳化剤が投入された乳化液は、連続加熱前に全体が白色であったが、2.5時間連続加熱されることによって、淡い黄色がかったアイボリー色となっていた(このような変色は実施例1~4や比較例1~4では見られなかった)。
【0028】
<第3実験>
実際にラーメン店で使用されていた豚骨スープ(浄水に豚骨を入れて10時間以上加熱して作ったもの)からなる動物性乳化液に、調整ラード及び卵黄レシチンを混合した乳化剤を投入して解乳化の進捗を調べた。
乳化剤全体に対する卵黄レシチンの割合が10質量%であり、動物性乳化液:乳化剤の質量比は55:1であった。
実験結果を以下の表4に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
表4に示す結果より、実施例7は、調整ラード及び卵黄レシチンを混合した乳化剤による解乳化の抑制が、実施例1~4より顕著となることが確認された。
また、当該豚骨スープは、実験を始める前(乳化剤投入前)の常温状態で、大半以上が酸化層であったが、乳化剤が投入された後、30分間の連続加熱がなされた状態及び5時間の連続加熱がなされた状態のいずれにおいても、酸化した層は視認されなかった。
【0031】
<第4実験>
次に、乳化剤における調整ラード及び卵黄レシチンの割合を変えて、解乳化抑制作用を調べた。実施例8~13は、乳化剤の調整ラード及び卵黄レシチンの割合を除き、実施例1と同じ条件であった。
実験結果を以下の表5に示す。
【0032】
【表5】
【0033】
表5に示す結果より、乳化剤全体に対する卵黄レシチンの割合が20質量%(質量比で調整ラードが卵黄レシチンの4倍に相当)で解乳化を抑制する作用が最も高くなったことが確認された。
【0034】
<第5実験>
また、ガゼインナトリウム(日本新薬株式会社製のガゼインナトリウムLW)を界面活性剤に採用した場合(実施例14~16、比較例6~8)、及び、グリセリン脂肪酸エステル(太陽化学株式会社製のサンソフトA-141E)を界面活性剤に採用した場合(実施例17~19、比較例9~11)について、動物性乳化液の乳化状態の様子を調べた。実施例14~19、比較例7、8、10、11では、乳化剤として油脂及び界面活性剤の混合物が用いられ、比較例6、9では、界面活性剤のみからなる乳化剤が用いられた。実施例14~19、比較例7、8、10、11は全て、乳化剤全体に対する界面活性剤の割合が5質量%で、動物性乳化液:乳化剤の質量比は55:1であった。実施例14~19及び比較例6~11は全て、動物性乳化液:界面活性剤の質量比が1100:1であった。
実験結果を以下の表6、表7に示す。
【0035】
【表6】
【0036】
【表7】
【0037】
表6に示す比較例6及び表7に示す比較例9は、乳化剤に界面活性剤を投入してから30分後に解乳化層をはっきりと目視できる状態、即ち、実施例14~19と比較して明らかに解乳化が顕著な状態となった。表6及び表7に示す結果より、ガゼインナトリウム又はグリセリン脂肪酸エステルを界面活性剤として採用した場合、動物性油脂及び界面活性剤を混合した乳化剤が、界面活性剤単体の乳化剤や、植物性油脂及び界面活性剤を混合した乳化剤と比較して、動物性乳化剤の解乳化を安定的に抑制できることが確認された。
【0038】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。