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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/18 20120101AFI20230810BHJP
   B60T 7/06 20060101ALI20230810BHJP
   B60W 50/10 20120101ALI20230810BHJP
【FI】
B60W30/18
B60T7/06 Z
B60W50/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019080979
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2020175846
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 達寛
(72)【発明者】
【氏名】柳田 歩
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-098307(JP,A)
【文献】特開2014-208522(JP,A)
【文献】特開2011-178385(JP,A)
【文献】特表2014-518803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60T 7/06
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏込み量に従った加速操作および減速操作を受け付ける共通ペダルと、
前記踏込み量が最大となる最大踏込み量に到達したときの自車両の駆動力である第1駆動力が前記自車両の駆動力の最大値よりも低くなり、かつ、前記自車両の駆動力の最大値が、加速操作のみを受け付けるアクセルペダルが前記最大踏込み量で踏込まれたと仮定したときの駆動力の最大値と同等となるように、前記踏込み量と前記自車両の駆動力とが関係付けられており、前記共通ペダルの前記最大踏込み量の継続時間に基づいて、前記自車両の駆動力を前記第1駆動力より高くさせる駆動力制御部と、
を備える車両。
【請求項2】
前記駆動力制御部は、前記自車両の駆動力を前記第1駆動力より高くした後に前記踏込み量が減少された場合、減少された前記踏込み量に対応する本来の駆動力を目標駆動力として、前記自車両の駆動力を追従して低下させる追従低下制御を行う請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記駆動力制御部は、前記追従低下制御時の前記踏込み量の時間変化量がゼロを含む所定範囲内に収まった場合、前記追従低下制御を一時的に停止し、停止した時点における駆動力を維持させる請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記駆動力制御部は、前記追従低下制御時の前記踏込み量が所定踏込み量を下回った場合、前記踏込み量の時間変化量に拘わらず、前記追従低下制御を継続する請求項2または3に記載の車両。
【請求項5】
前記駆動力制御部は、前記追従低下制御時の前記踏込み量の時間変化量に基づいて、前記追従低下制御における時定数を異ならせる請求項2から4のいずれか1項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
1のペダルで車両の加速操作および減速操作を可能とする技術(所謂、1ペダル機能)がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-141223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような1ペダル機能を有するペダル(以下、共通ペダルという場合がある)では、加速操作のみを可能とする通常のアクセルペダルに比べ、加速操作に対応するストロークが短い。これにより、共通ペダルでは、短いストロークで駆動力ゼロから最大駆動力までを表現することとなり、通常のアクセルペダルに比べ、踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量が多くなる。このように、共通ペダルでは、加速操作における加速度の感度が高いため、加速操作が難しい。このため、共通ペダルでは、加速操作に慣れていない運転者などでは車両を適切に走行させることができない場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、1ペダル機能を用いて適切に走行させることが可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両は、踏込み量に従った加速操作および減速操作を受け付ける共通ペダルと、踏込み量が最大となる最大踏込み量に到達したときの自車両の駆動力である第1駆動力が自車両の駆動力の最大値よりも低くなり、かつ、自車両の駆動力の最大値が、加速操作のみを受け付けるアクセルペダルが最大踏込み量で踏込まれたと仮定したときの駆動力の最大値と同等となるように、踏込み量と自車両の駆動力とが関係付けられており、共通ペダルの最大踏込み量の継続時間に基づいて、自車両の駆動力を第1駆動力より高くさせる駆動力制御部と、を備える。
【0007】
また、駆動力制御部は、自車両の駆動力を第1駆動力より高くした後に踏込み量が減少された場合、減少された踏込み量に対応する本来の駆動力を目標駆動力として、自車両の駆動力を追従して低下させる追従低下制御を行ってもよい。
【0008】
また、駆動力制御部は、追従低下制御時の踏込み量の時間変化量がゼロを含む所定範囲内に収まった場合、追従低下制御を一時的に停止し、停止した時点における駆動力を維持させてもよい。
【0009】
また、駆動力制御部は、追従低下制御時の踏込み量が所定踏込み量を下回った場合、踏込み量の時間変化量に拘わらず、追従低下制御を継続してもよい。
【0010】
また、駆動力制御部は、追従低下制御時の踏込み量の時間変化量に基づいて、追従低下制御における時定数を異ならせてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1ペダル機能を用いて適切に走行させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態による車両の構成を示す概略図である。
図2】共通ペダルについて説明する図である。
図3】踏込み量と駆動力との関係を示す図である。
図4】最大踏込み量の継続時間と駆動力との関係を示す図である。
図5】踏込み量の時間推移および駆動力の時間推移の一例を示す図である。
図6】自車両の駆動力が第1駆動力より高くなった後に踏込み量が減少された場合を説明する図である。
図7】踏込み量の減少速度と駆動力の関係を説明する図である。
図8】踏込み量を最大踏込み量から少し戻して一定とした後、さらに、踏込み量を少し戻して一定とした場合を説明する図である。
図9】踏込み量を最大踏込み量から少し戻して一定とした後、踏込み量を増加させた場合を説明する図である。
図10】追従低下制御時に踏込み量の減少量が多かった場合を説明する図である。
図11】駆動力制御部の動作の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態による車両1の構成を示す概略図である。図1では、制御信号の流れを破線の矢印で示している。以下では、本実施形態に関係する構成や処理について詳細に説明し、本実施形態と無関係の構成や処理については説明を省略する。
【0015】
車両1は、例えば、モータを駆動源とした電気自動車である。なお、車両1は、エンジンを駆動源とした自動車であってもよいし、エンジンとモータとが並行して設けられたハイブリッド電気自動車であってもよい。以後、車両1を、自車両と呼ぶ場合がある。
【0016】
車両1は、共通ペダル10、踏込み量センサ12、駆動機構14、制動機構16および制御部18を含む。共通ペダル10は、踏込み量に従った加速操作および減速操作を受け付ける。つまり、車両1は、1のペダル(共通ペダル10)で加速操作および減速操作を可能とする1ペダル機能を有する。踏込み量センサ12は、共通ペダル10の踏込み量を検出する。
【0017】
図2は、共通ペダル10について説明する図である。図2では、共通ペダル10の踏込み方向を実線の矢印で示している。また、図2では、車両1の姿勢が水平となっている。また、運転者は、図2中、共通ペダル10の右側に位置する。共通ペダル10は、例えば、運転席の前方の鉛直下方に設けられ、車体20に連結される。
【0018】
共通ペダル10が踏み込まれていない場合、共通ペダル10の車体20(車両1)に対する傾斜角度は、最も大きくなり、踏込み量は、最小(最小踏込み量)となる。また、共通ペダル10が最大限に踏み込まれた場合、共通ペダル10の車体20(車両1)に対する傾斜角度は、最も小さくなり、踏込み量は、最大(最大踏込み量)となる。また、共通ペダル10のストロークは、最小踏込み量から最大踏込み量までである。
【0019】
共通ペダル10の踏込み量(踏込み角度)は、加速領域および減速領域に区分される。加速領域は、加速操作を受け付ける領域であり、減速領域は、減速操作を受け付ける領域である。
【0020】
共通ペダル10では、最小踏込み量と最大踏込み量との間において、所定の境界値が設定されている。所定の境界値は、加速領域と減速領域とを区分する。具体的には、減速領域は、最小踏込み量から所定の境界値までの間に設定される。また、加速領域は、所定の境界値から最大踏込み量までの間に設定される。所定の境界値は、例えば、減速領域よりも加速領域が大きくなるように設定されるが、この例に限らない。
【0021】
加速領域では、踏込み量が多いほど(共通ペダル10の傾斜角度が小さいほど)、車両1の加速操作量が大きい。
【0022】
減速領域では、踏込み量が少ないほど(共通ペダル10の傾斜角度が大きいほど)、車両1の減速操作量が大きい。また、減速領域では、駆動用モータを発電機として機能させてバッテリに電力を回生する回生ブレーキが行われる。また、減速領域では、踏込み量に従った減速度を、回生のみで達成できない場合には、機械的なブレーキが併用される。
【0023】
また、踏込み量が最小踏込み量に維持されると、車両1は、機械的なブレーキがかけられた状態で維持される。このため、車両1は、共通ペダル10が最小踏込み量に維持されることで、運転者が共通ペダル10とは異なるブレーキペダルを踏み続けることなく、勾配がある路面などでも停止し続けることができる。
【0024】
図1に戻って、駆動機構14は、車輪を回転させる不図示の駆動用モータを含む。駆動用モータは、共通ペダル10の加速操作に基づいて駆動される。つまり、駆動機構14は、共通ペダル10の加速操作に基づいて車両1を加速させる。
【0025】
制動機構16は、機械的なブレーキおよび回生ブレーキを含む。制動機構16は、共通ペダル10の減速操作に基づいて車両1を減速および停止させる。
【0026】
制御部18は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路から構成される。制御部18は、プログラムを実行することで、駆動力制御部30および制動制御部32として機能する。
【0027】
駆動力制御部30は、踏込み量センサ12から取得される共通ペダル10の踏込み量に基づいて自車両の駆動力を導出し、導出された駆動力で自車両を駆動させるように駆動機構14に指示する。つまり、駆動力制御部30は、駆動機構14を制御する。駆動力制御部30については、後に詳述する。
【0028】
制動制御部32は、踏込み量センサ12から取得される共通ペダル10の踏込み量に基づいて自車両の減速度を導出し、導出された減速度で自車両を減速させるように制動機構16に指示する。つまり、制動制御部32は、制動機構16を制御する。また、制御部18は、駆動機構14および制動機構16の他、操舵機構(不図示)など、車両1の各部を制御する。
【0029】
上述のように、共通ペダル10では、ストロークが加速領域と減速領域とで按分されている。また、共通ペダル10のストロークは、加速操作のみを受け付ける通常のアクセルペダルのストロークと等しい。これにより、共通ペダル10では、加速領域のストロークが通常のアクセルペダルのストロークより短い。このため、共通ペダル10では、加速領域の短いストロークで、駆動力ゼロから最大駆動力までを表現することとなり、後述するように、通常のアクセルペダルに比べ、踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量が多くなる。
【0030】
図3は、踏込み量と駆動力との関係を示す図である。図3では、1ペダル機能を有さない通常のアクセルペダルに関して一点鎖線40で示し、従来の共通ペダルに関して二点鎖線42で示し、本実施形態の車両1の共通ペダル10に関して実線44で示している。また、図3では、踏込み量0%は、最小踏込み量を示し、踏込み量100%は、最大踏込み量を示している。
【0031】
図3の一点鎖線40で示すように、通常のアクセルペダルでは、踏込み量が増加するに従って駆動力がゼロから最大値まで漸増している。これに対し、図3の二点鎖線で示すように、従来の共通ペダルでは、踏込み量が増加するに従って、駆動力がゼロよりも低い最小値から最大値まで漸増している。つまり、従来の共通ペダルにおける踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量は、通常のアクセルペダルにおける踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量よりも多くなっている。
【0032】
このため、従来の共通ペダルでは、通常のアクセルペダルと同じように加速領域における踏込み量を増加させた場合、通常のアクセルペダルに比べ、駆動力が大きく上昇し、自車両の加速度の増加量が多くなる。このように、従来の共通ペダルでは、加速操作における加速度の感度が高いため、加速操作が難しい。このため、従来の共通ペダルでは、加速操作に慣れていない運転者などでは車両を適切に走行させることができない場合がある。
【0033】
そこで、本実施形態の車両1では、図3の実線44で示すように、共通ペダル10における踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量を、通常のアクセルペダルにおける踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量と等しくしている。換言すると、本実施形態の車両1では、共通ペダル10についての実線44の傾きを、通常のアクセルペダルについての一点鎖線40の傾きと等しくしている。なお、共通ペダル10における踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量は、通常のアクセルペダルにおける踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量と完全に等しい態様に限らず、通常のアクセルペダルにおける踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量に近似していてもよい。
【0034】
具体的には、図3の実線44で示すように、本実施形態の共通ペダル10では、踏込み量が増加するに従って、駆動力がゼロよりも低い最小値から第1駆動力まで漸増している。第1駆動力は、最大踏込み量(踏込み量100%)に到達したときの自車両の駆動力であり、ゼロよりも高く、かつ、最大値よりも低く(ゼロと最大値との間に)設定される。また、駆動力の最大値と第1駆動力との差分は、駆動力の最小値と駆動力ゼロとの差分に等しい。
【0035】
つまり、本実施形態では、最大踏込み量に対応する第1駆動力が最大値よりも低くなるように、踏込み量と自車両の駆動力とが関係付けられている。
【0036】
これにより、本実施形態の共通ペダル10では、通常のアクセルペダルと同じように加速領域における踏込み量を増加させた場合、通常のアクセルペダルと同程度に自車両の加速度が増加する。したがって、本実施形態の車両1では、運転者が共通ペダル10の加速操作に慣れていなくても、共通ペダル10を必要以上に踏み込んでしまうことを防止することができる。
【0037】
しかし、この態様では、第1駆動力が最大値よりも低いため、踏込み量が最大踏込み量となっても、駆動力が最大値とならない。
【0038】
そこで、本実施形態の駆動力制御部30は、最大踏込み量に対応する第1駆動力が最大値よりも低くなるように、踏込み量と自車両の駆動力とが関係付けられていることに加え、最大踏込み量の継続時間に基づいて、自車両の駆動力を第1駆動力より高くさせる。
【0039】
図4は、最大踏込み量の継続時間と駆動力との関係を示す図である。図4において、継続時間ゼロは、踏込み量が最大踏込み量に到達した時点を示している。
【0040】
図4に示すように、駆動力は、最大踏込み量が継続するに従って第1駆動力から最大値まで漸増している。換言すると、駆動力は、最大踏込み量に維持される時間が長いほど、最大値に近づく。最大踏込み量の継続時間と駆動力とは、例えば、比例関係にあり、踏込み量が最大踏込み量で3秒間維持されると、駆動力が最大値に到達するように関係付けられている。なお、駆動力が最大値となる継続時間は、3秒に限らない。
【0041】
図5は、踏込み量の時間推移および駆動力の時間推移の一例を示す図である。図5(a)は、踏込み量の時間推移を示しており、図5(b)は、駆動力の時間推移を示している。
【0042】
図5(a)に示すように、時刻T10において共通ペダル10が踏み込まれ、時刻T11において踏込み量が90%となり、時刻T12において踏込み量が100%(最大踏込み量)となったとする。この際、図5(b)に示すように、駆動力は、踏込み量の増加に従って漸増し、時刻T12において第1駆動力となる。
【0043】
そして、図5(a)に示すように、時刻T12から時刻T13までの間、踏込み量は、100%に維持されたとする。この場合、図5(b)に示すように、駆動力は、第1駆動力から漸増していく。第1駆動力より高い領域での駆動力は、第1駆動力以下での駆動力の時間変化量と同程度の時間変化量で漸増する。
【0044】
このように、本実施形態の車両1では、最大踏込み量の継続時間に基づいて、自車両の駆動力が第1駆動力より高くなる。これにより、本実施形態の車両1では、自車両の駆動力を、通常のアクセルペダルにおける駆動力の最大値と同等の最大値まで上昇させることができる。その結果、本実施形態の車両1では、1ペダル機能を用いて適切に走行させることが可能となる。
【0045】
図6は、自車両の駆動力が第1駆動力より高くなった後に踏込み量が減少された場合を説明する図である。図6では、時間の経過に従った踏込み量に対する駆動力の変化の様子を実線の矢印で示している。
【0046】
共通ペダル10が踏み込まれると、駆動力は、実線44のように第1駆動力に向かって増加する。共通ペダル10が最大踏込み量まで踏み込まれて維持されると、駆動力は、実線46のように最大値に向かって増加する。ここでは、駆動力が最大値となるまで最大踏込み量が維持されたとする。その後、共通ペダル10が最大踏込み量から戻されていったとする。そうすると、駆動力は、実線48のようにして、現在の踏込み量に対応する本来の駆動力に向かって低下する。この際、駆動力は、踏込み量の変化に対して遅れて追従する。
【0047】
つまり、駆動力制御部30は、自車両の駆動力が第1駆動力より高くなった後、踏込み量が減少された場合、減少された踏込み量に対応する本来の駆動力を目標駆動力として、自車両の駆動力を追従して低下させる。以後、この制御を、追従低下制御と呼ぶ場合がある。また、踏込み量と駆動力との関係(実線44)に基づいた、踏込み量に対応する本来の駆動力を、標準駆動力と呼ぶ場合がある。
【0048】
具体的には、駆動力制御部30は、現在の踏込み量(例えば、踏込み量90%)に対応する標準駆動力(例えば、駆動力P90)と現在の駆動力との差分(以後、駆動力差と呼ぶ場合がある)を導出する。駆動力制御部30は、駆動力差に、1次または複数次のローパスフィルタなどから構成される伝達関数を演算することで新たな駆動力を導出する。これにより、駆動力制御部30は、駆動力を目標駆動力に追従するように低下させることができる。
【0049】
このため、本実施形態の車両1では、第1駆動力以上に上昇した駆動力から踏込み量に対応する標準駆動力まで、駆動力を滑らかに変化させることができ、車両1の速度が急激に変化してしまうことを防止可能である。その結果、本実施形態の車両1では、1ペダル機能を用いて適切に走行させることが可能となる。
【0050】
また、踏込み量が100%(最大踏込み量)から90%に戻された後、踏込み量が90%で維持されたとする。そうすると、駆動力は、踏込み量が90%で維持された時点の駆動力P90Aに維持される。図6では、踏込み量が戻されて90%で維持された時点の踏込み量と駆動力との関係を黒丸印50で示している。
【0051】
踏込み量が90%で維持された時点の駆動力P90Aは、踏込み量90%に対応する標準駆動力(駆動力P90)よりも高くなっている。また、踏込み量が90%で維持された時点の駆動力P90Aは、第1駆動力以上となっている。つまり、本実施形態の車両1では、第1駆動力以上の駆動力を維持させることが可能である。
【0052】
図5の例で説明すると、時刻T13では、図5(b)に示すように、駆動力が最大値と第1駆動力との間の値となっている。図5(a)に示すように、時刻T13において100%だった踏込み量が、減少して時刻T14において90%となったとする。そうすると、図5(b)に示すように、駆動力は、減少された踏込み量に従って、時刻T13のときの値から滑らかに低下し、駆動力P90Aとなる。駆動力P90Aは、踏込み量90%に対応する標準駆動力(駆動力P90)以上となっている。そして、図5(a)に示すように、時刻T14以降、踏込み量が90%で維持されると、図5(b)に示すように、駆動力は、踏込み量が90%で維持されたときの駆動力P90Aで維持される。
【0053】
これを実現するため、駆動力制御部30は、追従低下時の踏込み量の時間変化量がゼロを含む所定範囲内に収まった場合、追従低下制御を一時的に停止し、停止した時点における駆動力を維持させる。踏込み量の時間変化量がゼロを含む所定範囲内に収まった場合とは、踏込み量が一定に維持された場合に相当する。ここでのゼロを含む所定範囲は、共通ペダル10の実際の加速操作による踏込み量の変動を考慮して、踏込み量が一定に維持されたとみなせる範囲に設定される。
【0054】
このように、本実施形態の車両1では、踏込み量が一定に維持された場合、追従低下制御を一時的に停止して駆動力を維持させることで、第1駆動力以上の駆動力を維持させることができる。これにより、運転者は、踏込み量を最大踏込み量から少し戻して一定とすることで、例えば、高速運転などを、通常のアクセルペダルと同様に行うことができる。したがって、本実施形態の車両1では、1ペダル機能を用いて適切に走行させることが可能となる。
【0055】
図7は、踏込み量の減少速度と駆動力の関係を説明する図である。図7(a)は、踏込み量の時間推移の一例を示しており、図7(b)は、駆動力の時間推移の一例を示している。
【0056】
追従低下制御では、踏込み量の減少速度(共通ペダル10を戻す速度)に基づいて、駆動力の標準駆動力に戻る速度を異ならせている。具体的には、追従低下制御では、図7(a)の実線52で示すように、踏込み量の減少速度が高いほど、図7(b)の実線54で示すように、駆動力の減少速度が高く、駆動力が標準駆動力に早く戻るようにしている。また、追従低下制御では、図7(a)の実線56で示すように、踏込み量の減少速度が低いほど、図7(b)の実線58で示すように、駆動力の減少速度が低く、駆動力が標準駆動力に遅く戻るようにしている。
【0057】
これを実現するため、駆動力制御部30は、追従低下制御時の踏込み量の時間変化量に基づいて、追従低下制御における時定数を異ならせる。具体的には、駆動力制御部30は、伝達関数の時定数を踏込み量の時間変化量に基づいて導出する。そして、駆動力制御部30は、導出された時定数を伝達関数に適用し、その伝達関数を用いて新たな駆動力を導出する。これにより、駆動力制御部30は、踏込み量の減少速度に基づいて駆動力の標準駆動力に戻る速度を異ならせることができる。
【0058】
図7(a)の実線52で示すように、踏込み量を100%から90%に早く戻して、時刻T15において90%で維持させると、図7(b)の実線54で示すように、駆動力は、早く低下し、時刻T15において駆動力P90Bで維持される。また、図7(a)の実線56で示すように、踏込み量を100%から90%にゆっくり戻して、時刻T15以降の時刻T16において90%で維持させると、図7(b)の実線58で示すように、駆動力は、ゆっくり低下し、時刻T16において、駆動力P90B以上の駆動力P90Cで維持される。
【0059】
つまり、踏込み量を最大踏込み量から少し戻して一定とする場合、一定とする踏込み量が共通であっても、踏込み量の戻す速度によって、維持される駆動力の大きさが異なる。このため、運転者は、踏込み量の戻す速度によって駆動力を調整することができる。例えば、運転者は、踏込み量をゆっくり戻して一定とすることで、高速運転を継続することができ、踏込み量を速く戻して一定とすることで、高くなり過ぎた速度を早く抑えることができる。
【0060】
図8は、踏込み量を最大踏込み量から少し戻して一定とした後、さらに、踏込み量を少し戻して一定とした場合を説明する図である。図8(a)は、踏込み量の時間推移の一例を示しており、図8(b)は、駆動力の時間推移の一例を示している。
【0061】
図8(a)に示すように、踏込み量が90%で維持された後、時刻T17において90%だった踏込み量が、減少して時刻T18において80%になったとする。そうすると、図8(b)に示すように、駆動力は、減少された踏込み量に従って、時刻T17のときの値から滑らかに低下し、駆動力P80Aとなる。駆動力P80Aは、踏込み量80%に対応する標準駆動力(駆動力P80)以上となっている。そして、図8(a)に示すように、時刻T18以降、踏込み量が80%で維持されると、図8(b)に示すように、駆動力は、踏込み量が80%で維持されたときの駆動力P80Aで維持される。
【0062】
このように、駆動力制御部30は、追従低下制御が一時的に停止されて駆動力が維持された後、再度、踏込み量が減少した場合には、追従低下制御を再開する。そして、駆動力制御部は、追従低下制御が再開された後、再度、踏込み量が一定に維持された場合には、追従低下制御が、再度、一時的に停止されて駆動力が維持される。つまり、駆動力制御部30は、駆動力が踏込み量に対応する標準駆動力に戻るまで、追従低下制御および追従低下制御の一時的な停止を繰り返す。
【0063】
このため、本実施形態の車両1では、第1駆動力以上に上昇した駆動力から、踏込み量に対応する標準駆動力まで、駆動力を滑らかに変化させることができ、車両1の速度が急激に変化してしまうことを防止可能である。
【0064】
図9は、踏込み量を最大踏込み量から少し戻して一定とした後、踏込み量を増加させた場合を説明する図である。図9(a)は、踏込み量の時間推移の一例を示しており、図9(b)は、駆動力の時間推移の一例を示している。
【0065】
図9(a)に示すように、踏込み量が90%で維持された後、時刻T19において90%だった踏込み量が、増加して時刻T20において100%になったとする。そうすると、図9(b)に示すように、駆動力は、増加された踏込み量に従って、時刻T19のときの値から上昇する。この場合、駆動力は、踏込み量に対応する標準駆動力の時間変化量(例えば、踏込み量が90%から100%に増加するときの標準駆動力の上昇量)と等しい時間変化量で上昇する。
【0066】
また、図9(a)に示すように、時刻T20以降、再度、踏込み量が100%で維持されたとする。そうすると、図9(b)に示すように、駆動力は、時刻T20のときの駆動力から最大値に向かって継続して上昇する。
【0067】
このように、駆動力制御部30は、追従低下制御が一時的に停止されて駆動力が維持された後、踏込み量が増加した場合には、追従低下制御を終了し、踏込み量の増加量および最大踏込み量の継続時間に従って、最大値となるまで駆動力を上昇させる。
【0068】
これにより、本実施形態の車両1では、駆動力を滑らかに変化させることができ、車両1の速度が急激に変化してしまうことを防止可能である。
【0069】
なお、駆動力制御部30は、追従低下制御後の駆動力の上昇の後、再度、踏込み量が減少した場合、追従低下制御を再度行ってもよい。
【0070】
また、駆動力制御部30は、追従低下制御時の踏込み量が所定踏込み量を下回った場合、踏込み量の時間変化量に拘わらず、追従低下制御を停止することなく、追従低下制御を継続してもよい。所定踏込み量は、加速領域における使用頻度の多い低速領域(加速領域における相対的に踏込み量が少ない領域)と使用頻度の少ない高速領域(加速領域における相対的に踏込み量が多い領域)との中間付近(例えば、踏込み量60%)に設定される。
【0071】
図10は、追従低下制御時に踏込み量の減少量が多かった場合を説明する図である。図10(a)は、踏込み量の時間推移の一例を示しており、図10(b)は、駆動力の時間推移の一例を示している。また、図10(a)では、所定踏込み量が60%に設定されている。
【0072】
図10(a)に示すように、時刻T13以降、踏込み量が100%から減少していき、途中で踏込み量が一定に維持されることなく、時刻T21において、踏込み量が所定踏込み量である60%となったとする。この場合、図10(b)に示すように、駆動力は、踏込み量に従って減少していき、時刻T21において、踏込み量60%に対応する標準駆動力(駆動力P60)以上の駆動力P60Aとなった。
【0073】
その後、図10(a)に示すように、踏込み量が所定踏込み量である60%を下回ってさらに減少し、時刻T22以降、踏込み量が55%で一定となったとする。この場合、図10(b)に示すように、駆動力は、時刻T22において、踏込み量55%に対応する標準駆動力(駆動力P55)以上の駆動力P55Aとなり、時刻T22以降、駆動力P55に向かって引き続き低下する。そして、駆動力は、時刻T23において、現在の踏込み量55%に対応する標準駆動力(駆動力P55)に等しくなった。
【0074】
つまり、駆動力制御部30は、所定踏込み量を下回った踏込み量で踏込み量が一定に維持された場合、追従低下制御を一時的に停止することを行わない(追従低下制御を継続する)。
【0075】
これにより、本実施形態の車両1では、踏込み量が加速領域における低速領域になっても駆動力が過度に高い状態で維持されることを防止できる。つまり、本実施形態の車両1では、運転者の意図に反して車両1の速度が高くなることを防止できる。
【0076】
図11は、駆動力制御部30の動作の流れを説明するフローチャートである。駆動力制御部30は、所定制御周期の割り込み制御として図11の一連の処理を繰り返す。
【0077】
割り込み制御の開始タイミングとなると、駆動力制御部30は、まず、踏込み量センサ12から踏込み量を取得し、取得された踏込み量が最大踏込み量であるか否かを判断する(S100)。踏込み量が最大踏込み量である場合(S100におけるYES)、駆動力制御部30は、最大踏込み量の継続時間に基づいて、追加する駆動力を導出し、その時点の駆動力に加算する(S110)。なお、駆動力制御部30は、踏込み量が最大踏込み量に到達した時点からの最大踏込み量の継続時間を計時している。
【0078】
次に、駆動力制御部30は、継続時間に基づいて導出された駆動力が最大値以上であるか否かを判断する(S120)。駆動力が最大値以上ではない場合(S130におけるNO)、駆動力制御部30は、継続時間に基づいて導出された駆動力を用いた駆動力制御を行う(S200)。
【0079】
駆動力が最大値以上である場合(S130におけるYES)、駆動力制御部30は、駆動力を最大値に書き換える(S130)。そして、駆動力制御部30は、最大値に書き換えられた駆動力を用いた駆動力制御を行う(S200)。
【0080】
また、踏込み量が最大踏込み量ではない場合(S100におけるNO)、駆動力制御部30は、現在の駆動力が標準駆動力であるか否かを判断する(S140)。
【0081】
現在の駆動力が標準駆動力である場合(S140におけるYES)、駆動力制御部30は、踏込み量に基づいて駆動力を導出する(S150)。そして、駆動力制御部30は、踏込み量に基づいて導出された駆動力を用いた駆動力制御を行う(S200)。
【0082】
現在の駆動力が標準駆動力ではない場合(S140におけるNO)、駆動力制御部30は、踏込み量が一定となっているか否かを判断する(S160)。具体的には、駆動力制御部30は、前回の制御周期における踏込み量に対する今回の制御周期における踏込み量の時間変化量が所定範囲内に収まっている場合、踏込み量が一定となっていると判断する。
【0083】
踏込み量が一定となっていない場合(S160におけるNO)、駆動力制御部30は、現在の踏込み量に対応する標準駆動力と現在の駆動力との駆動力差に基づいて駆動力を導出する(S170)。具体的には、駆動力制御部30は、駆動力差に基づいて伝達関数の時定数を導出し、導出された時定数の伝達関数と駆動力差とを演算して駆動力を導出する。そして、駆動力制御部30は、駆動力差に基づいて導出された駆動力を用いた駆動力制御(すなわち、追従低下制御)を行う(S200)。
【0084】
踏込み量が一定となった場合(S160におけるYES)、駆動力制御部30は、現在の踏込み量が所定踏込み量以上であるか否かを判断する(S180)。
【0085】
現在の踏込み量が所定踏込み量以上である場合(S180におけるYES)、駆動力制御部30は、現在の駆動力を維持する(S190)。そして、駆動力制御部30は、維持された駆動力を用いた駆動力制御を行う(S200)。つまり、この場合、追従低下制御が一時的に停止される。
【0086】
現在の踏込み量が所定踏込み量以上ではない場合(S180におけるNO)、駆動力制御部30は、現在の踏込み量に対応する標準駆動力と現在の駆動力との駆動力差に基づいて駆動力を導出する(S170)。そして、駆動力制御部30は、駆動力差に基づいて導出された駆動力を用いた駆動力制御(すなわち、追従低下制御)を行う。つまり、この場合、追従低下制御が停止されずに継続される。
【0087】
以上のように、本実施形態の車両1では、自車両の駆動力の最大値よりも低くなるように、踏込み量と自車両の駆動力とが関係付けられており、最大踏込み量の継続時間に基づいて、自車両の駆動力が第1駆動力より高くなる。これにより、本実施形態の車両1では、踏込み量の変化量に対する駆動力の変化量を通常のアクセルペダルと同程度にすることができるとともに、通常のアクセルペダルにおける駆動力の最大値と同等の最大値まで駆動力を上昇させることができる。
【0088】
したがって、本実施形態の車両1によれば、1ペダル機能を用いて適切に走行させることが可能となる。
【0089】
また、本実施形態の車両1の駆動力制御部30は、自車両の駆動力を第1駆動力より高くした後に踏込み量が減少された場合、減少された踏込み量に対応する本来の駆動力を目標駆動力として、自車両の駆動力を追従して低下させる追従低下制御を行う。このため、本実施形態の車両1では、駆動力を滑らかに変化させることができ、車両1の速度が急激に変化してしまうことを防止可能である。
【0090】
また、本実施形態の車両1の駆動力制御部30は、追従低下制御時の踏込み量の時間変化量がゼロを含む所定範囲内に収まった場合、追従低下制御を一時的に停止し、停止した時点における駆動力を維持させる。このため、本実施形態の車両1では、第1駆動力以上の高い駆動力を維持させることができ、高速運転などを、通常のアクセルペダルと同様に行うことが可能となる。
【0091】
また、本実施形態の車両1の駆動力制御部30は、追従低下制御時の踏込み量が所定踏込み量を下回った場合、踏込み量の時間変化量に拘わらず、追従低下制御を継続する。このため、本実施形態の車両1では、踏込み量を少なくさせたにも拘わらず高い駆動力が維持されてしまうことを防止できる。
【0092】
また、本実施形態の車両1の駆動力制御部30は、追従低下制御時の踏込み量の時間変化量に基づいて、追従低下制御における時定数を異ならせる。このため、本実施形態の車両1では、運転者が踏込み量の戻す速度によって駆動力を調整することができる。
【0093】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、車両に利用できる。
【符号の説明】
【0095】
1 車両
10 共通ペダル
30 駆動力制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11