(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20230810BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20230810BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60L3/00 H
(21)【出願番号】P 2019105924
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 直也
(72)【発明者】
【氏名】下條 和真
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-115053(JP,A)
【文献】特開2011-079451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源を有する電動車両が走行する際に、前記駆動力源の駆動力を制御する走行制御部と、
所定の予測演算を利用した判定を行う判定部と
を備え、
前記走行制御部は、
前記駆動力源の温度を示す温度情報において異常が検知された場合には、前記駆動力を制限すると共に、
前記判定部における前記予測演算に基づき、以下の条件(A)
~(C)がそれぞれ成立するとの前記判定がなされた場合には、前記駆動力の制限を一時的に緩和させる
車両制御装置。
(A)前記駆動力が制限されている際の最大駆動力である制限時最大駆動力が、前記電動車両に必要とされる必要駆動力以下となる走行区間である、駆動力不足区間が存在することが事前に予測されること
(B)前記駆動力の制限を一時的に緩和させた場合における前記温度の上昇予測値が、前記温度の許容値未満であること
(C)前記駆動力不足区間において、前記電動車両を停止または一時停止すべき状況の発生が、予測されないこと
【請求項2】
前記走行制御部は、
前記制限時最大駆動力から前記必要駆動力を差し引いて得られる差分値が、所定の閾値まで減少すると予測されるタイミングにおいて、
前記駆動力の制限の一時的緩和を開始させる
請求項
1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記走行制御部は、
前記駆動力の制限の一時的緩和が開始された後において、前記必要駆動力が前記制限時最大駆動力を下回る状態が、所定期間継続すると予測されるタイミングにおいて、
前記駆動力の制限の一時的緩和を終了させる
請求項1
または請求項2に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動車両の動作を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンと電動モータとを併用することによって車両の燃料消費率(燃費)を効果的に向上させるようにした、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)が広く実用化されている。また、電動モータのみを駆動力源として排気ガスを排出しないようにした、電気自動車(EV:Electric Vehicle)も実用化されている。このようなHEV,EV等の電動車両における各種制御については、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような電動車両では一般に、走行の際の利便性を向上させることが求められている。走行の際の利便性を向上させることが可能な車両制御装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施の形態に係る車両制御装置は、駆動力源を有する電動車両が走行する際に、駆動力源の駆動力を制御する走行制御部と、所定の予測演算を利用した判定を行う判定部とを備えたものである。上記走行制御部は、駆動力源の温度を示す温度情報において異常が検知された場合には、駆動力を制限すると共に、判定部における予測演算に基づき、以下の条件(A)~(C)がそれぞれ成立するとの判定がなされた場合には、駆動力の制限を一時的に緩和させる。
(A)駆動力が制限されている際の最大駆動力である制限時最大駆動力が、電動車両に必要とされる必要駆動力以下となる走行区間である、駆動力不足区間が存在することが事前に予測されること
(B)駆動力の制限を一時的に緩和させた場合における温度の上昇予測値が、その温度の許容値未満であること
(C)上記駆動力不足区間において、電動車両を停止または一時停止すべき状況の発生が、予測されないこと
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施の形態に係る車両制御装置によれば、走行の際の利便性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る車両制御装置を備えた電動車両の概略構成例を表すブロック図である。
【
図2】実施の形態に係る電動車両の制御状況の一例を表す模式図である。
【
図3】実施の形態に係る駆動力の制御処理の一例を表す流れ図である。
【
図4】実施の形態に係る駆動力の制御処理の一例を表すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(電動車両において駆動力制限の一時的緩和を行うための制御処理の例)
2.変形例
【0009】
<1.実施の形態>
[概略構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る車両制御装置(後述する車両制御部15)を備えた電動車両1の概略構成例を、ブロック図で表したものである。
【0010】
この電動車両1は、
図1に示したように、主に、モータ10a(電動モータ)、温度センサ10b、バッテリ11、車速センサ121、加速度センサ122、ステレオカメラ13、アクセルペダルセンサ141、ブレーキペダルセンサ142および車両制御部15を備えている。
【0011】
(A.モータ10a,温度センサ10b)
モータ10aは、電動車両1における駆動力源として設けられている。すなわち、この電動車両1は、モータ10aを駆動力源として有する、電気自動車(EV)として構成されている。
【0012】
なお、このモータ10aは、本開示における「駆動力源」の一具体例に対応している。
【0013】
温度センサ10bは、例えばモータ10aに取り付けられており、このモータ10aの温度(モータ温度Tm)を示す温度情報を、車両制御部15へと出力するようになっている(
図1参照)。
【0014】
なお、このようなモータ温度Tmは、本開示における「駆動力源の温度」の一具体例に対応している。
【0015】
(B.バッテリ11)
バッテリ11は、電動車両1において使用される電力を貯蔵するものであり、例えばリチウムイオン電池等の各種の2次電池を用いて構成されている。なお、このバッテリ11には、電動車両1の外部からの充電により得られる電力(充電電力)の他、例えば、モータ10aから供給される回生電力が貯蔵されるようになっている。
【0016】
(C.車速センサ121,加速度センサ122)
車速センサ121は、電動車両1の走行の際の速度(車速V)を検出するセンサである。この車速センサ121によって検出された車速Vは、
図1に示したように、車両制御部15(後述する走行制御部151等)へと出力されるようになっている。
【0017】
加速度センサ122は、電動車両1の走行の際の加速度aを検出するセンサである。この加速度センサ122によって検出された加速度aは、
図1に示したように、車両制御部15(後述する走行制御部151等)へと出力されるようになっている。
【0018】
(D.ステレオカメラ13)
ステレオカメラ13は、電動車両1の周囲状況(走行環境)を撮像して検出するもの(撮像装置)である。このステレオカメラ13は、右側カメラおよび左側カメラの2つのカメラにより構成されている。このようにしてステレオカメラ13によって得られた、撮像画像や距離(車間距離等)などの周囲状況の情報は、
図1に示したように、車両制御部15(後述する走行制御部151等)へと出力されるようになっている。
【0019】
なお、このようなステレオカメラ13の代わりに、単一のカメラやレーダ装置等が、電動車両1に設けられているようにしてもよい。
【0020】
(E.アクセルペダルセンサ141,ブレーキペダルセンサ142)
アクセルペダルセンサ141は、電動車両1の運転者によるアクセルペダル(不図示)の踏み込み量(アクセル開度)を検出するセンサである。ブレーキペダルセンサ142は、電動車両1の運転者によるブレーキペダル(不図示)の踏み込み量(ブレーキストローク量)を検出するセンサである。
【0021】
このようにして、アクセルペダルセンサ141によって検出されたアクセル開度と、ブレーキペダルセンサ142によって検出されたブレーキストローク量とはそれぞれ、
図1に示したように、車両制御部15(後述する走行制御部151等)へと出力されるようになっている。
【0022】
(F.車両制御部15)
車両制御部15は、電動車両1における各種動作を制御したり、各種の演算処理を行ったりする部分である。具体的には、車両制御部15は、演算を行うマイクロプロセッサ、このマイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)、演算結果などの各種データを記憶するRAM(Random Access Memory)、その記憶内容が保持されるバックアップRAM、および、入出力I/F(Interface)等を含んで構成されている。
【0023】
このような車両制御部15は、
図1に示した例では、走行制御部151、バッテリ制御部152および判定部153を有している。
【0024】
なお、この車両制御部15は、本開示における「車両制御装置」の一具体例に対応している。
【0025】
(F-1.走行制御部151)
走行制御部151は、電動車両1の走行動作を制御するものであり、電動車両1の走行に関する統括的な制御を行うようになっている。この走行制御部151は、
図1に示した例ではモータ制御部151aを有しており、電動車両1が走行する際に、モータ10aを駆動して電動車両1の駆動力Fdを制御するようになっている。
【0026】
モータ制御部151aは、モータ10aを駆動して各種動作を制御するものであり、この例ではインバータを用いて構成されている(
図1参照)。具体的には、モータ制御部151aは、例えば、モータ10aによる電動車両1の車輪の駆動動作や、モータ10aにおける回生動作等を、制御するようになっている。
【0027】
ここで本実施の形態では、走行制御部151(モータ制御部151a)は、温度センサ10bから出力される温度情報(前述したモータ温度Tmを示す温度情報)において、温度センサ10bの故障等に起因して異常が検知された場合には、モータ10aの駆動力Fdを制限する。また、走行制御部151(モータ制御部151a)は、後述する判定部153における予測演算に基づいて、後述する所定の条件を満たす場合(後述する条件(A)~(C)がそれぞれ成立する場合)には、モータ10aの駆動力Fdの制限を、一時的に緩和させるようになっている。
【0028】
なお、このような走行制御部151等による電動車両1の制御処理(駆動力Fdの制限手法や、駆動力Fdの制限の一時的な緩和手法等)の詳細については、後述する(
図2~
図4)。
【0029】
(F-2.バッテリ制御部152)
バッテリ制御部152は、バッテリ11に対する各種制御(充電制御等)を行うものである(
図1参照)。
【0030】
(F-3.判定部153)
判定部153は、所定の予測演算等を利用して、各種の判定を行うものである。具体的には、判定部153は、上記したように、モータ温度Tmを示す温度情報に異常があるのか否かについて、判定を行う。また、判定部153は、モータ温度Tmを示す温度情報に異常があることが検知された場合には、所定の予測演算に基づいて、後述する条件(A)~(C)がそれぞれ成立するのか否か等について、判定を行うようになっている。
【0031】
なお、このような判定部153における、予測演算を利用した各種判定の詳細については、後述する(
図2~
図4)。
【0032】
[動作および作用・効果]
続いて、本実施の形態の電動車両1における動作および作用・効果について説明する。
【0033】
(A.本実施の形態の車両制御処理)
以下、
図1に加えて
図2~
図4を参照して、本実施の形態の電動車両1における制御処理の一例について、詳細に説明する。
【0034】
(A-1.モータ温度Tmとモータ10aの駆動力Fdとの対応関係について)
図2は、そのような本実施の形態の電動車両1における制御状況の一例を、模式的に表したものである。具体的には、この
図2では、前述したモータ温度Tmとモータ10aの駆動力Fdとの対応関係の一例を、模式的に示している。なお、この
図2においては、後述する、駆動力Fdの一律制限時(符号G1参照)および制限緩和時(符号G2参照)における駆動力Fdをそれぞれ、駆動力F1,F2として示している。
【0035】
まず、モータ温度Tmを示す温度情報が正常である場合(温度情報が正確に取得できている場合)には、
図2中の符号G0(通常時)で示したように、モータ温度Tmが上昇するのに応じて、モータ10aの駆動力Fdが、段階的に制限されるようになっている。つまり、走行制御部151(モータ制御部151a)は、そのようなモータ温度Tmを示す温度情報に基づいて、モータ10aの駆動力Fdを段階的に制限している。
【0036】
なお、
図2中に示した禁止温度領域ΔTi(モータ温度Tm≧許容温度Tthとなる温度領域)は、モータ10aの出力が禁止される温度領域であり、駆動力Fd=0となるように設定されている。
【0037】
ところが、このようなモータ温度Tmを示す温度情報において、温度センサ10bの故障等に起因して、異常が検知された場合(温度情報が正確に取得できない場合)には、上記したような、モータ温度Tmに応じた段階的な駆動力Fdの制限が、実現不可能となる。そのため、例えば
図2中の矢印P1で示したように、モータ温度Tmを示す温度情報に異常が検知された場合には、走行制御部151は、全ての温度領域において、駆動力Fdを一律的に制限するようにしている(
図2中の符号G1(一律制限時)を参照)。これにより、モータ温度Tmが正確に取得できない状況下で、連続的にモータ10aを使用しても、モータ温度Tmが禁止温度領域ΔTiまでは上昇しないようになっている。なお、このような駆動力Fdの一律制限時に許容される、モータ温度Tmの最大温度(
図2中に示した温度T1)は、禁止温度領域ΔTi(許容温度Tthとなる温度)に対して、十分なマージン(
図2中に示したマージン温度幅ΔTm)が設定されている。
【0038】
このようにして本実施の形態では、温度センサ10bの故障などによって、モータ温度Tmを示す温度情報に異常が検知された場合には、フェイルセーフ処理として、上記したような駆動力Fdの一律制限が実施される。これにより、モータ10aの温度上昇を抑制しながら、電動車両1の走行が継続されることになる。なお、他の手法としては、モータ温度Tmを示す温度情報に異常が検知された場合に、モータ10aの動作自体を停止させる手法も考えられる。
【0039】
しかしながら、上記したように、モータ10aの駆動力Fdを一律的に制限したり、モータ10aの動作自体を停止させたりする手法を用いた場合、電動車両1の動力性能が著しく低下することになる。一方で、走行の際に電動車両1に必要とされる駆動力(必要駆動力Fr)は、走行速度(車速V)や道路勾配などの走行環境によって、常に変化している。したがって、駆動力Fdを一律的に制限した状態で走行を継続した場合、電動車両1における必要駆動力Frを、実際に出力できる保証はない。その結果、電動車両1の駆動力Fdが不足した状態で、例えば登坂路や合流路等の走行区間に侵入した場合、ドライバの意図通りの走行ができなくなり、安定的な退避走行や再発進等が、困難となってしまうおそれがある。
【0040】
つまり、モータ温度Tmを示す温度情報に異常が検知された場合に、このままでは、電動車両1の走行環境に影響されずに、駆動力Fdの制限時における安定的な退避走行等が困難となり、その結果、電動車両1の走行の際の利便性が損なわれてしまうことになる。ただし、ただし、このような場面において、駆動力Fdの制限を常に緩和してしまうと、駆動力Fdの制限を実施する、本来の意図が達成されないおそれがある。
【0041】
(A-2.駆動力Fdの制御処理の詳細)
そこで本実施の形態の電動車両1では、車両制御部15(モータ制御部151a)において、以下のようにして、モータ10aの駆動力Fdの制御処理(駆動力Fdの制限手法や、駆動力Fdの制限の一時的な緩和手法等)を行うようにしている。つまり、モータ温度Tmを示す温度情報に異常が検知された場合には、上記したようにして駆動力Fdを(一律的に)制限しつつ、走行環境に応じて、そのような駆動力Fdの制限を一時的に緩和させるようにしている(
図2中の矢印P2,符号G2(制限緩和時)を参照)。
【0042】
ここで、
図3は、本実施の形態に係る駆動力Fdの制御処理の一例を、流れ図で表したものである。また、
図4は、本実施の形態に係る駆動力Fdの制御処理の一例を、タイミング図で表したものである。なお、この
図4において、横軸は、電動車両1が走行する際の時間t(走行する際の距離にも該当)を示し、縦軸は、モータ10aの駆動力Fdを示している。また、この
図4では、前述した通常時、駆動力Fdの一律制限時、駆動力Fdの制限緩和時における、電動車両1の最大の駆動力Fdをそれぞれ、最大駆動力F0max,F1max,F2maxとして示している。
【0043】
図3に示した一連の各処理では、まず、判定部153が、温度センサ10bから出力される、モータ温度Tmを示す温度情報に異常があるのか否かについて、判定を行う(ステップS11)。ここで、モータ温度Tmを示す温度情報に異常がないと判定された場合には(ステップS11:N)、前述したフェイルセーフ処理(駆動力Fdの制限)は不要であると、判定される(ステップS12)。したがって、この場合には、そのようなフェイルセーフ処理は実施されず、
図3に示した一連の各処理が終了となる。
【0044】
一方、モータ温度Tmを示す温度情報に異常があると判定された場合には(ステップS11:Y)、まず、走行制御部151が、そのようなフェイルセーフ処理を実施する(ステップS13)。具体的には、走行制御部151は、前述した駆動力Fdの一律的な制限を行う(
図2中の矢印P1,符号G1、および、
図4中の矢印P1を参照)。
【0045】
次いで、判定部153は、以下説明する各条件(A)~(C)の判定のための、所定の予測演算を行う(ステップS14)。
【0046】
ここで、このような条件(A)~(C)はそれぞれ、以下のようになっている。
(A)駆動力Fdが制限されている際の最大駆動力(制限時最大駆動力:
図4中に示した最大駆動力F1maxを参照)が、電動車両1に必要とされる必要駆動力Fr(予測値)以下となる走行区間(駆動力不足区間ΔSi:
図4中の駆動力不足量ΔFを参照)が存在することが、事前に予測されること
(B)駆動力Fdの制限を一時的に緩和させた場合におけるモータ温度Tmの上昇予測値(
図2中の矢印P12,温度T2を参照)が、そのモータ温度Tmの許容値(
図2中に示した許容温度Tthを参照)未満であること(T2<Tthを満たすこと)
(C)上記した駆動力不足区間ΔSi(
図4中のタイミングt2~t3の走行区間内)において、電動車両1を停止または一時停止すべき状況の発生が、予測されないこと
【0047】
なお、上記した温度T2は、本開示における「温度の上昇予測値」の一具体例に対応しており、上記した許容温度Tthは、本開示における「温度の許容値」の一具体例に対応している。また、上記した最大駆動力F1maxは、本開示における「制限時最大駆動力」の一具体例に対応している。
【0048】
ここで、上記した各条件(A)~(C)の内容について詳細に説明すると、以下のようになっている。
【0049】
(条件(A)について)
例えば
図4に示したように、駆動力制限時の最大駆動力F1maxが必要駆動力Fr(予測値)以下となる(F1max≦Frを満たす)、駆動力不足区間ΔSiの存在が、予測演算に基づいて事前に予測される場合に、この条件(A)が成立することになる。このような条件(A)を設定することで、予測した必要駆動力Frの確からしさを確認しつつ、駆動力Fdの制限の緩和について判定することが可能となる。
【0050】
ちなみに、例えば、駆動力Fdが不足した状態になってから、駆動力Fdの制限をフィードバック的に緩和させることも可能ではある。ただし、このようなフィードバック的な手法を採用した場合、駆動力Fdが不足している最中に制限を緩和すると、ドライバによるアクセルペダルの操作と電動車両1の動きとに、乖離が生じる(アクセル開度を変えていないのに駆動力Fdが増加するという、違和感が生じる)おそれがある。したがって、本実施の形態では、このようなフィードバック的な手法は、採用していない。
【0051】
なお、このような条件(A)を判定する際の予測演算の手法としては、各種の手法を用いることが可能である。具体的には、例えば、前述したステレオカメラ13によって得られた撮像画像等の周囲状況の情報に基づいて、道路標識(制限速度,道路勾配など)やロードサイン等の情報を取得し、それらの情報を基に予測演算を行う手法が挙げられる。また、例えば、GPS(Global Positioning System)により得られる電動車両1の位置情報や地図情報などを利用して、電動車両1の前方の道路情報を出力する機器(ロケータ)等を用いる手法が、挙げられる。なお、例えば、ステレオカメラ13などを用いて、電動車両1の先行車における車速を取得できる場合には、実際の走行車速を考慮した駆動力Fdを予測することができるため、駆動力Fdの予測演算を、より的確に行うことが可能となる。
【0052】
ここで、駆動力Fdの制限の緩和を開始させるタイミングは、例えば
図4中のタイミングt1で示したように、電動車両1が駆動力不足区間ΔSi(
図4中のタイミングt2~t3の走行区間)を走行する前のタイミングとし、例えば以下に示す条件を基に、決定されるものとする(
図4参照)。つまり、走行制御部151は、駆動力制限時の最大駆動力F1maxから必要駆動力Fr(予測値)を差し引いて得られる差分値が、所定の閾値Fthまで減少すると予測されるタイミング(
図4の例ではタイミングt1)において、駆動力Fdの制限の一時的緩和を開始させる。
・必要駆動力Fr(予測値)≒必要駆動力Fr(実値)
・(駆動力制限時の最大駆動力F1max-必要駆動力Fr(予測値))≦閾値Fth
【0053】
なお、上記した閾値Fthは、本開示における「所定の閾値」の一具体例に対応している。
【0054】
ここで、駆動力Fdの制限の緩和を終了させるタイミングは、例えば
図4中のタイミングt4で示したように、電動車両1の必要駆動力Fr(予測値)が駆動力制限時の最大駆動力F1maxを、所定期間Δtだけ下回ったタイミングとする(
図4参照)。つまり、走行制御部151は、駆動力Fdの制限の一時的緩和が開始された後において、必要駆動力Fr(予測値)が駆動力制限時の最大駆動力F1maxを下回る状態が、所定期間Δtだけ継続すると予測されるタイミング(
図4の例ではタイミングt4)において、駆動力Fdの制限の一時的緩和を終了させる。
【0055】
なお、ステレオカメラ13やGPSなどを用いて、電動車両1の現在地(位置情報)を取得できる場合には、例えば、駆動力不足区間ΔSiから脱したことを確認して、駆動力Fdの制限の一時的緩和を終了させる手法も、考えられる。
【0056】
(条件(B)について)
例えば
図2中の矢印P12で示したように、駆動力Fdの制限を一時的に緩和させた場合におけるモータ温度Tmの上昇予測値(温度T2)が、そのモータ温度Tmの許容値(許容温度Tth)未満である場合に、この条件(B)が成立することになる。このような条件(B)を設定することで、駆動力Fdの制限緩和時における、マージン温度幅ΔTmの減少の度合いを確認しつつ、駆動力Fdの制限の緩和について判定することが可能となる。
【0057】
具体的には、例えば、まず、駆動力不足区間ΔSiで想定される走行状況(電流、回転数、トルク、区間走行時間など)から、制限緩和を実施した場合における、モータ温度Tmの上昇予測値(
図2中の温度T2参照)を求める。そして、この上昇予測値とマージン温度幅ΔTmとを比較することで、条件(B)が成立するのか否かが判定される。
【0058】
なお、駆動力不足区間ΔSiで想定される走行状況は、例えば、条件(A)の判定の際に使用された、駆動力Fdについての予測演算結果を基に、推定することが可能である。また、温度上昇幅(温度変化量)の予測演算の手法としては、例えば、逐一演算を用いてもよいし、あるいは、判定部153内に予め設けられたテーブル(ルックアップテーブル)を用いるようにしてもよい。
【0059】
ここで、上記したモータ温度Tmの上昇予測値(例えば温度T2)が、マージン温度幅ΔTmの範囲内に収まる(モータ温度Tmの温度上昇幅<ΔTmを満たす)と判定された場合には、この条件(B)が成立すると判定される。これは、駆動力Fdの制限緩和を実施しても、モータ温度Tmが、依然として禁止温度領域ΔTi内まで上昇することは無いと予想されるためである(
図2参照)。
【0060】
一方、モータ温度Tmの上昇予測値(例えば温度T2)が、マージン温度幅ΔTmの範囲内に収まらない(モータ温度Tmの温度上昇幅≧ΔTmを満たす)と判定された場合には、この条件(B)が成立しないと判定される。これは、駆動力Fdの制限緩和を実施した場合に、モータ温度Tmが、禁止温度領域ΔTi内まで上昇するおそれがあるためである(
図2参照)。なお、この場合に、禁止温度領域ΔTi内までは温度上昇しない程度に、駆動力Fdの制限緩和を実施する手法も、考えられる。ただし、この手法を採用した場合、駆動力Fdの不足状況が、完全に解消されるわけではない。
【0061】
ちなみに、モータ10aの温度上昇(モータ温度Tmの上昇)は、モータ10a自身の発熱に加え、モータ10a周囲の温度(環境温度)に起因した、放熱や受熱の影響を受けることも、考えられる。このため、例えば、そのような環境温度が著しく低かったり、あるいは、逆に著しく高いような場合には、上記したマージン温度幅ΔTmの大きさを調整することで、走行環境に対するロバスト性を向上させることが可能となる。なお、そのような環境温度の情報の取得が困難である場合には、例えば、電動車両1に取り付けられた外気温度センサを用いるようにしてもよいし、あるいは、電動車両1に搭載されている他のユニットにおける冷却具合を基に、推測するようにしてもよい。
【0062】
(条件(C)について)
前述したように、駆動力不足区間ΔSiにおいて、電動車両1を停止または一時停止すべき状況(電動車両1の前方に、赤信号の箇所や一時停止箇所が存在する状況)の発生が予測されない場合に、この条件(C)が成立することになる。このような条件(C)を設定することで、電動車両1が停止または一時停止すべき状況の発生を確認しつつ、駆動力Fdの制限の緩和について判定することが可能となる。
【0063】
なお、電動車両1を停止または一時停止すべき状況の発生の予測演算としては、例えば、以下のような手法が挙げられる。すなわち、例えば、ステレオカメラ13によって得られた撮像画像等の周囲状況の情報を基にして、信号の現示状態や道路標識、先行車両の停止状態等の情報を取得し、それらの情報を利用して予測演算を行う手法などが、挙げられる。
【0064】
ここで、
図3に示した一連の各処理において、次に判定部153は、上記した条件(A)~(C)の全てが成立するのか否かについて、判定を行う(ステップS15)。条件(A)~(C)の全てが成立するわけではない(少なくとも1つの条件が成立しない)と判定された場合には(ステップS15:N)、以下説明する、駆動力Fdの制限の一時的な緩和は不要であると、判定される。したがって、この場合には、そのような駆動力Fdの制限の一時的な緩和は実施されず、
図3に示した一連の各処理が終了となる。
【0065】
一方、条件(A)~(C)の全てが成立すると判定された場合には(ステップS15:Y)、走行制御部151は、そのような駆動力Fdの制限の一時的な緩和を、開始させる(ステップS16)。
【0066】
次に、判定部153は、駆動力不足区間ΔSiが終了するのか否か(前述したような、駆動力Fdの制限の一時的緩和を終了させるための条件が成立したのか否か)について、判定を行う(ステップS17)。
【0067】
ここで、駆動力不足区間ΔSiがまだ終了しない(一時的緩和を終了させるための条件が成立せず、終了させるタイミングに到達していない)と判定された場合には(ステップS17:N)、このステップS17の判定が、再び行われることになる。
【0068】
一方、駆動力不足区間ΔSiが終了する(一時的緩和を終了させるための条件が成立し、終了させるタイミングに到達した)と判定された場合には(ステップS17:Y)、以下のようになる。すなわち、この場合には、走行制御部151は、上記した駆動力Fdの制限の一時的な緩和を、終了させる(ステップS18)。
【0069】
【0070】
(C.作用・効果)
このようにして本実施の形態の電動車両1では、走行制御部151が、電動車両1におけるモータ10aの温度(モータ温度Tm)を示す温度情報に異常が検知された場合に、そのモータ10aの駆動力Fdを制限する。また、走行制御部151は、判定部153における予測演算に基づき、少なくとも前述した条件(A),(B)がそれぞれ成立するとの判定がなされた場合には、その駆動力Fdの制限を、一時的に緩和させる。換言すると、走行制御部151は、電動車両1の走行状況を考慮して、前述したフェイルセール処理(駆動力Fdの制限)の度合いを、一時的に変更させる。
【0071】
これにより本実施の形態では、例えば温度センサ10bの故障などによって、モータ温度Tmを示す温度情報に異常が検知された場合であっても、電動車両1の走行環境に影響されずに、駆動力Fdの制限時における安定的な退避走行等が実現される。その結果、本実施の形態では、電動車両1の走行の際の利便性を、向上させることが可能となる。
【0072】
また、特に本実施の形態では、判定部153における予測演算に基づき、上記した条件(A),(B)に加え、前述した条件(C)が更に成立するとの判定がなされた場合(条件(A)~(C)の全てが成立する場合)に、駆動力Fdの制限を一時的に緩和させるようにしたので、以下のようになる。すなわち、前述した駆動力不足区間ΔSiにおける、電動車両1の停止または一時停止すべき状況の発生可能性を考慮したうえで、駆動力Fdの制限の一時的緩和が行われることから、駆動力Fdの制限時において、より安定的な退避走行等が実現されるようになる。その結果、電動車両1の走行の際の利便性を、更に向上させることが可能となる。
【0073】
更に、走行制御部151は、駆動力制限時の最大駆動力F1maxから必要駆動力Frを差し引いて得られる差分値が、所定の閾値Fthまで減少すると予測されるタイミングにおいて、駆動力Fdの制限の一時的緩和を開始させるようにしたので、以下のようになる。すなわち、駆動力Fdの制限の一時的緩和を、より適切なタイミングで開始できるようになり、その結果、電動車両1の走行の際の利便性を、更に向上させることが可能となる。
【0074】
加えて、走行制御部151は、駆動力Fdの制限の一時的緩和が開始された後において、必要駆動力Frが駆動力制限時の最大駆動力F1maxを下回る状態が、所定期間Δtだけ継続すると予測されるタイミングにおいて、駆動力Fdの制限の一時的緩和を終了させるようにしたので、以下のようになる。すなわち、駆動力Fdの制限の一時的緩和を、より適切なタイミングで終了できるようになり、その結果、電動車両1の走行の際の利便性を、更に向上させることが可能となる。
【0075】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本開示を説明したが、本開示はこの実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。
【0076】
例えば、電動車両1における各部材の構成(形式、形状、配置、個数等)については、上記実施の形態で説明したものには限られない。すなわち、これらの各部材における構成については、他の形式や形状、配置、個数等であってもよい。また、上記実施の形態で説明した各種パラメータの値や範囲、大小関係等についても、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の値や範囲、大小関係等であってもよい。
【0077】
具体的には、例えば、上記実施の形態では、電動車両1内に1つのモータ(モータ10a)が設けられている場合を例に挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、電動車両1内に、例えば複数(2つ以上)のモータが設けられているようにしてもよい。また、上記実施の形態では、EVにより構成された電動車両1を例に挙げて説明したが、この例には限られず、例えば、HEV(エンジンおよびモータを駆動力源として有するハイブリッド車両)により構成された電動車両についても、本開示を適用することが可能である。
【0078】
また、上記実施の形態では、電動車両1の制御処理について、具体例を挙げて説明したが、これらの具体例には限られない。すなわち、他の手法を用いて電動車両1の制御処理等を行うようにしてもよい。具体的には、例えば、電動車両1における駆動力Fdの制御手法(駆動力Fdの制限手法や、駆動力Fdの制限の一時的な緩和手法)等については、上記実施の形態で説明した手法には限られない。詳細には、上記実施の形態では、前述した条件(A)~(C)の全てが成立した場合に、駆動力Fdの制限の一時的緩和を行うようにしているが、この場合には限られず、例えば、前述した条件(A),(B)の2つのみが成立した場合に、駆動力Fdの制限の一時的緩和を行うようにしてもよい。
【0079】
更に、上記実施の形態で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0080】
加えて、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。
【0081】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…電動車両(EV)、10a…モータ、10b…温度センサ、11…バッテリ、121…車速センサ、122…加速度センサ、13…ステレオカメラ、141…アクセルペダルセンサ、142…ブレーキペダルセンサ、15…車両制御部、151…走行制御部、151a…モータ制御部(インバータ)、152…バッテリ制御部、153…判定部、V…車速、a…加速度、Tm…モータ温度、T1,T2…温度、Tth…許容温度、ΔTm…マージン温度幅、ΔTi…禁止温度領域、Fd,F1,F2…駆動力、F0max,F1max,F2max…最大駆動力、Fr…必要駆動力、Fth…閾値、ΔF…駆動力不足量、ΔSi…駆動力不足区間、t…時間、t1~t4…タイミング、Δt…所定期間。