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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】ドライヤ
(51)【国際特許分類】
   A45D 20/10 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
A45D20/10 104
A45D20/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019138164
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2021019829
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 大介
(72)【発明者】
【氏名】下田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小柳 智裕
(72)【発明者】
【氏名】西川 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健志
【審査官】小松 竜一
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-506516(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109512122(CN,A)
【文献】特開2004-239729(JP,A)
【文献】特開2001-204011(JP,A)
【文献】特開2016-218053(JP,A)
【文献】特開2011-056123(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライヤであって、
上記ドライヤの吹出口から上記ドライヤの前方に送出される風を発生させるためのモータと、
上記ドライヤの内部において上記風を加熱するヒータと、
上記ドライヤの前方に位置する対象物との距離を測定し、当該距離を示す距離データを生成する距離センサと、
(i)上記距離データを補正して補正後距離データを生成するとともに、(ii)上記補正後距離データに基づき、上記モータおよび上記ヒータの少なくとも一方を制御する、制御部と、を備えており、
上記制御部における上記距離データの補正は、(i)上記距離センサから上記対象物までの距離と、(ii)上記吹出口から上記対象物までの距離と、の差に起因する上記距離データの偏りを考慮した第1補正を含んでいる、ドライヤ。
【請求項2】
上記制御部における上記距離データの補正は、上記距離データに対して所定の統計処理を施す第2補正をさらに含んでおり、
上記統計処理は、上記距離データの移動平均値を示す移動平均データを算出する処理を含んでいる、請求項1に記載のドライヤ。
【請求項3】
上記統計処理は、上記距離データの標準偏差を示す標準偏差データをさらに算出する処理を含んでいる、請求項2に記載のドライヤ。
【請求項4】
上記統計処理は、上記移動平均値の標準偏差を示す移動平均標準偏差データさらに算出する処理を含んでいる、請求項2または3に記載のドライヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、ドライヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドライヤ(例:ヘアドライヤ)に関する様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、距離センサ(例:赤外線近接センサ)を有するドライヤが開示されている。特許文献1のドライヤでは、距離センサによって測定された距離に基づき、当該ドライヤのヒータおよび送風装置(より具体的には、送風装置内のモータ)の少なくとも一方が制御される。
【0003】
特許文献1のドライヤによれば、距離に基づく動作制御を行うことにより、ユーザの髪に、過剰に高温の熱風が送出される可能性を低減できる。例えば、髪を傷める温度(熱損傷温度)の熱風を、当該髪に当てられる可能性を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-239535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、特許文献1のドライヤによれば、ユーザに手動操作を行わせることなく、髪が過剰に加熱されて傷むことを防止できる。それゆえ、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0006】
しかしながら、以下に述べるように、距離に応じたドライヤの動作制御の具体的な手法については、なお改善の余地がある。本発明の一態様は、従来よりも利便性に優れたドライヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るドライヤは、上記ドライヤの吹出口から上記ドライヤの前方に送出される風を発生させるためのモータと、上記ドライヤの内部において上記風を加熱するヒータと、上記ドライヤの前方に位置する対象物との距離を測定し、当該距離を示す距離データを生成する距離センサと、(i)上記距離データを補正して補正後距離データを生成するとともに、(ii)上記補正後距離データに基づき、上記モータおよび上記ヒータの少なくとも一方を制御する、制御部と、を備えており、上記制御部における上記距離データの補正は、(i)上記距離センサから上記対象物までの距離と、(ii)上記吹出口から上記対象物までの距離と、の差に起因する上記距離データの偏りを考慮した第1補正を含んでいる
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、従来よりも利便性に優れたドライヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1のドライヤの要部の構成を示すブロック図である。
図2図1のドライヤの概略的な構成を示す斜視図である。
図3】事例1における各データを示すグラフである。
図4】事例2における各データを示すグラフである。
図5】事例3における各データを示すグラフである。
図6】事例4における各データを示すグラフである。
図7】事例5における各データを示すグラフである。
図8】事例6における各データを示すグラフである。
図9】実施形態2のドライヤの要部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
実施形態1のドライヤ1について、以下に説明する。便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、以降の各実施形態では、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。公知技術(例:特許文献1の技術)と同様の事項についても、説明を適宜省略する。各図に示されている装置構成は、説明の便宜上のための単なる一例である。また、明細書中において以下に述べる各数値も、単なる一例である。
【0011】
(ドライヤ1の概要)
図1は、ドライヤ1の要部の構成を示すブロック図である。図2は、ドライヤ1の概略的な構成を示す斜視図である。ドライヤ1は、例えばヘアドライヤである。図1に示すように、ドライヤ1は、制御部10、距離センサ26、操作部27、ヒータ70、および送風ユニット71を備えている。
【0012】
送風ユニット71は、モータ710(ファンモータとも称される)およびファン711を備えている。モータ710によってファン711を駆動することにより、ドライヤ1に送風を行わせることができる。ヒータ70および送風ユニット71は、ドライヤ1の風路(後述)内に設けられている。
【0013】
制御部10は、ドライヤ1の各部を統括的に制御する。制御部10は、距離データ補正部110、ヒータ制御部120、およびモータ制御部130を備えている。距離データ補正部110については、後述する。
【0014】
ヒータ制御部120は、ヒータ70を制御する。具体的には、ヒータ制御部120は、ヒータ70を制御するための信号(ヒータ制御信号)を生成し、当該ヒータ制御信号をヒータ70に供給する。ヒータ70は、風路内を流れる風を加熱する。ヒータ70は、公知の加熱素子(発熱体)を含んでいる。一例として、加熱素子の発熱量は、ヒータ制御信号に応じて制御される。
【0015】
モータ制御部130は、モータ710を制御する。具体的には、モータ制御部130は、モータ710を制御するための信号(モータ制御信号)を生成し、当該モータ制御信号をモータ710に供給する。モータ710は、モータ制御信号に応じて動作(回転)する。そして、ファン711は、モータ710の動作に伴って回転する。ファン711は、自身の回転により、風路内において吸気口23から吹出口24(排気口)へ向かう空気の流れを発生させる。
【0016】
このように、モータ制御部130は、モータ710を介して、ファン711を制御する。すなわち、モータ制御部130は、モータ710を制御することにより、ドライヤ1の風量を調整する。一例として、モータ制御部130は、モータ710の回転速度(回転数)を制御することにより、ドライヤ1の風量を調整する。
【0017】
そして、図2に示すように、ドライヤ1は、ドライヤ本体部11を備えている。ドライヤ本体部11は、ドライヤ動作部21およびグリップ部22を有する。なお、ドライヤ1の上下方向、左右方向、および前後方向はいずれも、予め規定されているものとする。
【0018】
ドライヤ動作部21は、ドライヤ本体部11の上部に設けられている。図2の例では、ドライヤ動作部21の形状は、略円柱状である。グリップ部22は、ドライヤ本体部11の下部に設けられている。具体的には、グリップ部22は、ドライヤ動作部21から下方へ延設されている。
【0019】
ドライヤ動作部21の後端部には、吸気口23が設けられている。また、ドライヤ動作部21の前端部には、2つの吹出口24が設けられている。このことから、ドライヤ1の構造は、ツインフロー構造とも称される。ドライヤ動作部21の内部において、吸気口23と吹出口24との間には、風路が設けられている。送風ユニット71によって生成された風は、吹出口24から前方へと送出される。
【0020】
ドライヤ動作部21の前端部には、前側パネル25が設けられている。前側パネル25は、複数の(例:4つの)LED(Light Emitting Diode,発光ダイオード)表示部250を含んでいる。LED表示部250は、ドライヤ1の表示部の一例である。
【0021】
図2の例では、前側パネル25の形状は、円盤状である。より具体的には、前側パネルの形状は、ドライヤ1の後方へと湾曲した板形状である。前側パネル25の左右の外周部にはそれぞれ、吹出口24として、円弧状の切欠部が形成されている。
【0022】
前側パネル25の中心部には、距離センサ26が設けられている。実施形態1では、距離センサ26が、TOF(Time Of Flight)方式の距離センサである場合を例示する。距離センサ26は、所定の時間間隔(以下、ΔT)毎に、当該距離センサ26と対象物との間の距離d(以下、単にdと称することもある)を測定する。
【0023】
実施形態1では、対象物がユーザUの髪UHである場合を例示する。図2に示されるように、距離センサ26は、ドライヤ1の前方に位置する髪UHに対し、距離dを好適に測定できるように設けられている。
【0024】
距離センサ26は、距離dを示すデータ(距離データ)を、制御部10に供給する。距離データは、距離信号と称されてもよい。制御部10は、距離センサ26から、時系列データとしての距離データを取得する(以下の図3等を参照)。
【0025】
但し、距離センサ26の種類は、TOF方式に限定されない。距離センサ26は、距離dを測定できればよい。また、対象物は、髪UHに限定されない。例えば、対象物は、ユーザUの所定の部位の体表であってもよい。あるいは、対象物は、ユーザUの身体の部位とは別の物体(例:ユーザUが飼育しているペット、または、ユーザUが所有している衣服)であってもよい。
【0026】
グリップ部22の上部には、操作部27が設けられている。操作部27は、ユーザUの操作(以下、ユーザ操作)を受け付ける。図2の例では、操作部27は、ON/OFFボタン27A、1ショット冷風ボタン27B、モード変更ボタン27C、および風量変更ボタン27Dの、4つのボタンを含んでいる。
【0027】
図2の例では、ON/OFFボタン27Aは、スライド式のボタンである。また、1ショット冷風ボタン27B~風量変更ボタン27Dは、プッシュ式のボタンである。但し、操作部27は、ユーザ操作を受け付けられればよく、これらのボタンに限定されない。制御部10は、操作部27が所定のユーザ操作を受け付けたことを契機として、当該ユーザ操作に応じて、ドライヤ1の各部を制御する。
【0028】
ON/OFFボタン27Aは、ドライヤ1の動作(運転)のON/OFFを切り替えるためのボタンである。制御部10(より具体的には、モータ制御部130)は、ON/OFFボタン27AがON位置にスライドされたことを契機として、ドライヤ1の送風動作(より具体的には、モータ710の回転)を開始させる。また、制御部10は、ON/OFFボタン27AがOFF位置にスライドされたことを契機として、ドライヤ1の動作を停止させる。
【0029】
1ショット冷風ボタン27Bは、ドライヤ1(より具体的には、吹出口24)から、冷風(常温の風)を一時的に送出させるためのボタンである。一例として、1ショット冷風ボタン27Bは、オルタネイト動作するプッシュ式ボタンである。制御部10(より具体的には、ヒータ制御部120)は、1ショット冷風ボタン27Bが1度押下されたことを契機として、ヒータ70の動作を停止させる。この場合、ドライヤ1から、冷風を送出できる。また、制御部10は、1ショット冷風ボタン27Bがもう1度押下されたことを契機として、ヒータ70の動作を再び開始させる。この場合、ドライヤ1から、温風(常温よりも加熱された風)を送出できる。
【0030】
あるいは、1ショット冷風ボタン27Bは、モーメンタリ動作するプッシュ式ボタンであってもよい。この場合、制御部10は、1ショット冷風ボタン27Bが押下されている間だけ、ヒータ70の動作を停止させる。
【0031】
モード変更ボタン27Cは、ドライヤ1のモード(動作モード)を切り替えるためのボタンである。一例として、ドライヤ1では、高温モード、高温低温交互モード、低温モードの3つのモードが予め設定されていてよい。制御部10は、モード変更ボタン27Cが1度押下される毎に、ドライヤ1のモードを、「高温モード→高温低温交互モード→低温モード」の順に、循環的に(ローテーション式に)変更する。高温モードは、ドライヤ1から温風を送出させるモードである。これに対し、低温モードは、高温モードの場合に比べて低温の温風を、ドライヤ1から送出させるモードである。また、高温低温交互モードは、高温モードと低温モード(あるいは冷風モード)とが所定時間毎に切り替わるモードである。より具体的には、ヒータ制御部120は、ドライヤ1のモードに応じて、ヒータ70を制御する。
【0032】
風量変更ボタン27Dは、ドライヤ1の風量(吹出口24から送出される風の風量)を変更するためのボタンである。一例として、ドライヤ1では、風量1(風量:弱)、風量2(風量:中)、および風量3(風量:強)の、3段階の風量レベルが設定されていてよい。制御部10は、風量変更ボタン27Dが1度押下される毎に、ドライヤ1の風量レベルを、「風量1→風量2→風量3」の順に、循環的に変更する。より具体的には、モータ制御部130は、ドライヤ1の風量レベルに応じて、モータ710を制御する。
【0033】
なお、グリップ部22の下部からは、電源コード28が引き出されている。ドライヤ1は、電源コード28を介して、不図示の電源(例:商用電源)と接続可能である。
【0034】
(距離データ補正部110)
上述の通り、制御部10は、ユーザ操作に応じて、ドライヤ1の各部(例:ヒータ70およびモータ710の少なくとも一方)を制御できる。但し、ユーザUの利便性を向上させるためには、ユーザ操作に依らない制御(自動制御)を行うことが好ましい。そこで、例えば、距離センサ26から取得した距離データを用いて、制御部10にドライヤ1の各部を制御させることも考えられる(特許文献1も参照)。
【0035】
しかしながら、本願の発明者ら(以下、単に発明者ら)は、「距離データをそのまま用いた場合、ドライヤ1の各部を必ずしも適切に制御できない」という新たな問題点(以下、問題点A)を見出した。
【0036】
例えば、ドライヤ1の使用時には、当該ドライヤ1からの送風に起因して、髪UHが乱雑になびく。このため、距離データには、髪UHのなびきに起因するノイズが含まれる。髪UHのなびき具合は、当該髪UHが長いほど(当該UHのボリュームが多いほど)、顕著となる。
【0037】
さらに、長い髪UHを有しているユーザU(例:女性ユーザ)は、短い髪を有しているユーザ(例:男性ユーザ)に比べて、例えば手または櫛を用いて、自身のヘアスタイルを整える頻度が高い。ドライヤ1の使用時には、ユーザUのこのような手の動きも、距離データに対するノイズを発生させうる。
【0038】
また、ドライヤ1の使用時には、ユーザUは、自身の頭部に対する当該ドライヤ1の位置または方向を変更させる場合がある。この場合、ユーザUは、グリップ部22の把持態様を変更することにより、ドライヤ1の位置または方向を変更させる。ユーザUのこのような手の動きも、距離データにノイズを含有させる一因となる。
【0039】
以上のように、ドライヤ1の使用時には、様々な要因により、距離データにノイズが含まれる。従って、ドライヤ1の自動制御を適切に行うためには、このようなノイズの影響を低減する必要がある。
【0040】
発明者らは、問題点Aを解決するために、「補正後の距離データ(以下、補正後距離データ)に基づきドライヤ1の自動制御を行う」という新たな着想を見出した。ドライヤ1(特に、距離データ補正部110)は、当該着想に基づき、新たに創作された。
【0041】
距離データ補正部110は、距離データを補正することにより、補正後距離データを生成する。一例として、距離データ補正部110は、(i)ドライヤ1の設計要因(例:構造的要因)を考慮した補正(以下、第1補正)を行うとともに、(ii)距離データに所定の統計処理を施す補正(以下、第2補正)を行うことにより、距離データを補正する。このように、距離データ補正部110は、第1補正と第2補正とを行うことにより、補正後距離データを生成する。
【0042】
第1補正の一例は、(i)距離センサ26(吹出口24に対して、やや後部に位置している)から対象物までの距離と、(ii)吹出口24から当該対象物までの距離と、の差に起因する測定値の偏りを考慮した補正である。
【0043】
但し、距離データ補正部110は、必ずしも第1補正を行わなくともよい。距離データ補正部110は、第2補正を行えばよい。すなわち、距離データ補正部110は、統計処理後の距離データ(以下、統計データ)を、補正後距離データとして生成してもよい。
【0044】
以下に述べるように、統計データは、距離データに比べ、ノイズが低減されたデータである。それゆえ、距離データに替えて、統計データを用いてドライヤ1を制御することにより、上述のノイズの影響を低減することが可能となる。その結果、ドライヤ1の使用感(ドライヤ1の使用時の快適性)を、従来技術に比べて高めることができる。
【0045】
距離データ補正部110は、ヒータ制御部120およびモータ制御部130のそれぞれに、統計データを供給する。ヒータ制御部120は、当該統計データに基づき、ヒータ制御信号を生成する。また、モータ制御部130は、当該統計データに基づき、モータ制御信号を生成する。
【0046】
当該構成によれば、制御部10に、統計データに基づくドライヤ1の制御を行わせることができる。以下の説明では、高温モードにおいて、統計データに基づくドライヤ1の制御が行われるものとする。
【0047】
(事例1)
発明者らは、様々な事例(実験例)を通じて、距離データの補正手法について検討した。以下、これらの事例について述べる。まず、発明者らは、距離データ補正部110を用いて、距離dの移動平均値dm(より具体的には、単純移動平均値)(以下、単にdmと称することもある)を算出した。以下、dmを示すデータを、移動平均データと称する。移動平均データは、統計データの一例である。
【0048】
dmは、距離データに含まれる直近のP個のdの平均値である。Pは、2以上の任意の自然数である。以下では、Pを明示することが必要である場合には、上記dmを、dm(P)とも称する。また、dm(P)を、「移動平均P」とも称する。なお、dm(P)は、「P項移動平均」と称されてもよい。また、移動平均Pとの対比のため、d(あるいは距離データ)を「生データ」とも称する。以下の各グラフでは、生データを、「生」と略記する。
【0049】
図3は、事例1における各データを示すグラフである。図3のグラフにおいて、横軸は、測定回数(距離センサ26によって距離dが測定された回数)を示す。事例1では、約50回に亘り距離dが測定された。また、当該グラフにおいて、縦軸は、ある測定回数に対応する信号値(データ値)としての距離を示す。すなわち、縦軸は、距離dまたは移動平均値dmの大きさを示す。縦軸の単位は、mmである。特に明示されない限り、これらの事項は、以降の各グラフにも当てはまる。
【0050】
図3に示されるように、事例1では、測定開始時から30回目程度の測定時までの時間に亘って、dはほぼ一定(約180mm)であった。そして、上記期間の直後において、dが約20mmまで急激に低下した(図3の領域D1を参照)。さらに、その後、dは速やかに約180mm(略初期値)に復帰した。そして、測定終了時まで、上記略初期値が維持されたことが確認された。
【0051】
以上のことから、dの急激な低下は、ノイズに起因するものと考えられる。例えば、グリップ部22を把持するユーザUの手ぶれに起因して、髪UHとドライヤ1(より具体的には、距離センサ26)との間に、ユーザUの意図しない接近(以下、非意図的接近)が生じたことが考えられる。領域D1の一時的な小さいdは、このような非意図的接近に起因するものと考えられる。
【0052】
事例1において、発明者らは、距離データ補正部110を用いて、「P=3、5、7、9」の4通りのケースのそれぞれについて、dm(P)を算出した。このため、図3では、移動平均データの例として、移動平均3、移動平均5、移動平均7、および移動平均9が示されている。
【0053】
図3に示されるように、各dm(P)では、dに比べて、時間変化に伴う値の変化の程度が緩やかとなることが確認された。すなわち、移動平均データでは、距離データに含まれていたノイズが低減されたことが確認された。なお、図3に示されるように、事例1では、Pを大きくするにつれて、dm(P)の最小値がより大きくなる。すなわち、事例1では、Pを大きくするにつれて、ノイズをより効果的に低減できた。
【0054】
以上のことから、Pが過小である場合(例:後述する移動平均算出期間が短すぎる場合)には、距離データに含まれているノイズを有効に除去できない可能性が高いと言える。Pが過小である場合には、dの瞬時的な変化が、dm(P)に強く影響するためである。このため、ノイズを有効に除去するためには、ある程度Pを大きく設定することが好ましいと考えられる。
【0055】
(移動平均データを用いた制御の一例)
以下、移動平均データを用いたドライヤ1の制御の一例について述べる。ある時点においてdm(P)が小さい場合、同時点におけるdも比較的小さい(それほど大きくない)と考えられる。dが小さい場合には、吹出口24から前方へと送出された風は、それほど温度低下せずに、髪UHに到達すると考えられる。従って、dが小さい場合には、dが大きい場合に比べ、髪UHに熱損傷温度の熱風が当てられる可能性が高いと言える。
【0056】
そこで、ヒータ制御部120は、dm(P)が小さくなるにつれて、ヒータ70(より具体的には、加熱素子)の発熱量を低下させるよう、当該ヒータ70を制御してよい(ヒータ制御信号を生成してよい)。このようにヒータ70を制御することにより、髪UHの損傷を防止できる。また、dが大きい場合(髪UHに熱損傷温度の熱風が当てられる可能性が低い場合)に、適温の温風を髪UHに当てることができる。それゆえ、当該温風によって髪UHを一定温度で乾燥させることができる。
【0057】
なお、髪UHに含まれる主要なタンパク質は、60℃程度の温度を超えると変性し易くなることが知られている。従って、髪UHの損傷を防止しつつ、髪UHを速やかに乾燥させるためには、髪UHに当たる温風の温度が約50℃となるように、ヒータ70を制御することが好ましい。
【0058】
また、モータ制御部130は、dmが小さくなるにつれて、モータ710の回転速度を増加させるよう、当該モータ710を制御してよい(モータ制御信号を生成してよい)。つまり、モータ制御部130は、dmが小さくなるにつれて、ドライヤ1の風量を増加させるように、送風ユニット71を制御してよい。
【0059】
このようにモータ710を制御することにより、dmが小さくなるにつれて、ドライヤ1の風路内において、空気の流速を増加させることができる。すなわち、当該空気がヒータ70を通過する時間をより短くできる。従って、ヒータ70の発熱量が一定である場合には、dmの減少に伴い、上記空気の温度上昇を低減できる。すなわち、dmの減少に伴い、吹出口24から送出される熱風の温度を低下させることができる。当該構成によっても、髪UHの損傷を防止できる。
【0060】
(事例2)
図4は、事例2における各データを示すグラフである。事例2では、約100回に亘りdが測定された。事例2においても、事例1と同様に、距離データに一時的なノイズが含まれている(図4の領域D2を参照)。
【0061】
事例2では、事例1における上述の検討結果を踏まえ、当該事例1に比べ、Pがより大きく設定されている。具体的には、事例2において、発明者らは、距離データ補正部110を用いて、「P=30、40、50」の3通りのケースのそれぞれについて、dm(P)を算出した。
【0062】
このため、図4では、移動平均データの例として、移動平均30、移動平均40、および移動平均50が示されている。事例2においても、事例1と同様の傾向が確認された。事例2も、距離データに替えて移動平均データを用いることが、ノイズの影響を低減するために好適であることを裏付けている。
【0063】
しかしながら、Pをあまりに大きく設定することは、必ずしも好ましいとは言えない。例えば、Pが大きい場合(図4を参照)には、Pが小さい場合(図3を参照)に比べ、距離データの時間変化に対する移動平均データの追従性が低下する。
【0064】
このような追従性の低い移動平均データは、現時点における実際のdを適切に反映できていない可能性がある。この傾向は、dの時間変化が激しいほど顕著となる。それゆえ、追従性の低い移動平均データを使用してドライヤ1を制御した場合、ヒータ70(またはモータ710)に対する制御のリアルタイム性が低下するため、かえってユーザUの利便性を低下させてしまう懸念もある。
【0065】
また、Pが大きい場合には、Pが小さい場合に比べ、移動平均データには、より長期間に亘り、距離データに含まれていたノイズの影響が残存してしまう。事例2では、事例1に比べ、dm(P)が一定値に復帰するまでに、より長い時間を要する。つまり、Pが大きすぎる場合、距離データのノイズが実際には消失したにも関わらず、ノイズ消失後の時間においても、移動平均データには当該ノイズの影響が残存する。
【0066】
以上の通り、発明者らは、事例2に基づき、「Pをあまりに大きく設定することは、ユーザUの利便性向上の観点からは、必ずしも好ましくない」と結論付けた。Pの値は、ユーザUによるドライヤ1の使用態様およびドライヤ1の仕様等を考慮し、ドライヤ1の設計者によって適切に設定されることが好ましい。
【0067】
(事例3)
図5は、事例3における各データを示すグラフである。事例3では、事例1・2とは異なり、髪UHの全体を乾燥させるために、ユーザUがドライヤ1を振り回しながら(例えば、吹出口24の方向を左右へ振りながら)使用している場合が想定されている。このため、事例3では、事例1・2に比べ、dはより激しく変化する。なお、後述の事例4でも、事例3と同様の場合が想定されている。
【0068】
図5のグラフの横軸「時間」は、測定時間(測定開始時点からの経過時間)を示す。横軸の単位は、秒である。特に明示されない限り、この点は以降の各グラフにも当てはまる。図5のグラフの横軸「時間」は、図3図4のグラフの横軸「測定回数」に読み替え可能である。具体的には、測定回数iに対応する時間Tiは、Ti=i×ΔTと表される。事例3では、ΔT=0.02秒である。事例3では、4秒に亘ってdが測定された。すなわち、事例3では、200回に亘ってdが測定された。
【0069】
また、Pに対応する時間TP(単位:秒)を、移動平均算出期間とも称する。TP=P×ΔTである。以下では、TPを明示することが必要である場合には、上記dmを、dm(TP)とも称する。また、dm(TP)を、「TP秒移動平均」とも称する。
【0070】
事例3において、発明者らは、距離データ補正部110を用いて、「TP=0.05秒、0.2秒、0.3秒、0,7秒、1.0秒」の6通りのケースのそれぞれについて、dm(TP)を算出した。事例3では、非意図的接近に起因するdの一時的な低下が、ノイズとして確認された(図5の領域D3~D5を参照)。
【0071】
図5からも理解できるように、TPをあまりに大きく設定した場合には、距離データの変化に対する移動平均データの追従性が低下する。それゆえ、例えば、「0.7秒移動平均」および「1.0秒移動平均」の移動平均データでは、領域D3~D5に示されるdの急激な減少を十分に反映できていない。事例3からも、TPの値(換言すれば、Pの値)は、ドライヤ1の設計者によって適切に設定されることが好ましいと言える。
【0072】
ところで、上述した制御のリアルタイム性の観点からは、dを用いてドライヤ1の各部を制御することが最も好ましいと言える。但し、上述の通り、距離データは、移動平均データに比べ、ノイズの影響を受けやすいという問題がある。
【0073】
そこで、一例として、制御部10では、距離dに対する閾値TH(以下、単にTHと称することもある)が予め設定されてもよい。THは、第1距離閾値(または距離下限閾値)と称されてもよい。図5の例では、THは、「ドライヤ1が対象物(例:髪UH)に接近している」ことの判定基準として用いることができる距離として設定されている。
【0074】
一例として、THは、約40mmに設定されている。THの値は、ユーザUによるドライヤ1の使用態様およびドライヤ1の仕様等を考慮し、ドライヤ1の設計者によって適宜設定されてよい。この点は、後述するTH2についても同様である。
【0075】
以下、d≦THである状態を、「ドライヤ1が接近状態にある」とも称する。一例として、制御部10は、dとTHとを比較することにより、ドライヤ1が接近状態にあるか否かを判定してよい。
【0076】
そして、ヒータ制御部120は、ドライヤ1が接近状態にある場合には、少なくとも一定期間に亘ってヒータ70の発熱量を低下させるよう、当該ヒータ70を制御してよい。当該構成によれば、髪UHに熱損傷温度の熱風が当てられる可能性が高い場合に、速やかに熱風の温度を低下させることができる。
【0077】
このように、距離dと当該距離dに対する閾値THとの比較結果にさらに基づきヒータ70を制御することにより、当該ヒータ70に対する制御のリアルタイム性を向上させることができる。それゆえ、ユーザUの利便性をさらに高めることができる。当該構成は、髪UHの保護に特に好適である。
【0078】
なお、ヒータ制御部120についての上述の各説明は、モータ制御部130についても同様に当てはまる。このため、以下でも、ヒータ制御部120の動作について主に例示し、モータ制御部130の動作については説明を量略する。
【0079】
(事例4)
図6は、事例4における各データを示すグラフである。事例4では、事例3と同様に、移動平均データの例として、1.0秒移動平均が算出されている。そして、事例4では、発明者らは、距離データ補正部110を用いて、移動平均データとは別の統計データをさらに算出した。
【0080】
まず、発明者らは、距離データ補正部110を用いて、距離dの標準偏差σd(以下、単にσdと称することもある)を算出した。以下、σを示すデータを、標準偏差データと称する。標準偏差データは、統計データの別の例である。図6の例では、以下に述べる「移動平均標準偏差(移動平均の標準偏差)」(σdm)との区別のため、σを「生標準偏差」とも称する。
【0081】
さらに、発明者らは、距離データ補正部110を用いて、移動平均値dmの標準偏差σdm(以下、単にσdmと称することもある)を算出した。σdmは、移動平均値の標準偏差であるので、移動平均標準偏差とも称される。以下、σdmを示すデータを、移動平均標準偏差データと称する。移動平均標準偏差データは、統計データのさらに別の例である。
【0082】
以下、dm(TP)の標準偏差を、σdm(TP)と表記する。また、σdm(TP)を、「TP秒移動平均標準偏差」と称する。事例4では、発明者らは、距離データ補正部110を用いて、1.0秒移動平均標準偏差を算出した。図6のグラフの右端の縦軸は、信号値としての標準偏差を示す。当該右端の縦軸の単位は、mmである。このように、図6のグラフの左右の縦軸はそれぞれ、(i)距離dの標準偏差σdの大きさ、および、(ii)移動平均標準偏差σdmの大きさを示す。
【0083】
事例4においても、事例3と同様に、dの急激な低下が複数回生じたことが確認された。なお、図5の領域D6~D8におけるdの一時的な変化は、例えば意図的接近に起因している。意図的接近とは、ユーザUの意図に基づく、髪UHとドライヤ1との間の接近を意味する。
【0084】
制御部10は、σdにさらに基づいて、ドライヤ1の各部を制御してもよい。一例として、制御部10は、σdに応じて、上述のTHを補正(調整)してもよい。σdが大きい場合、σdが小さい場合に比べ、dの変動の度合い(例:ユーザUの手ブレの度合い)が激しいと言える。
【0085】
そこで、例えば、制御部10は、σdが大きくなるにつれて、THを増加させてもよい。dが激しく変動する場合には、非意図的接近が生じている可能性がより高いと考えられるためである。このようにTHを補正することにより、髪UHに熱損傷温度の熱風が当てられる可能性が高い場合に、ヒータ制御部120によって、熱風の温度をより確実に低下させることができる。
【0086】
また、ヒータ制御部120は、σdにさらに基づいて、ヒータ70を制御してもよい。例えば、ヒータ制御部120は、σdが大きくなるにつれて、ヒータ70の発熱量を低下させてもよい。この場合にも、髪UHを好適に保護できる。
【0087】
ところで、上述の通り、TPが適切に設定された場合、距離データの変化に対する移動平均データの追従性は比較的高いと考えられる。この場合、σdmも、σdと概ね同様に、dの変動の度合いを反映していると考えられる。
【0088】
そこで、制御部10は、σdに替えて、σdmにさらに基づいて、ドライヤ1の各部を制御してもよい。例えば、制御部10は、σdmに応じて、THを補正してもよい。あるいは、ヒータ制御部120は、σdmにさらに基づいて、ヒータ70を制御してもよい。
【0089】
上述のdmとdとの関係からも理解できるように、σdmは、σdに比べて、ノイズの影響が低減されたデータと言える(図6も参照)。そこで、例えば、制御のリアルタイム性の確保に比べ、ノイズの影響の低減を重視する場合には、σdmに基づく制御が行われてよい。
【0090】
なお、制御部10は、σdおよびσdmの両方にさらに基づいて、ドライヤ1の各部を制御することもできる。
【0091】
(事例5)
図7は、事例5における各データを示すグラフである。図7のグラフでは、横軸の時間の値の記載が省略されている。この点は、後述する図8のグラフについても同様である。事例5では、髪UHのなびきが発生している場合が想定されている。事例5においても、事例1・2に比べ、dはより激しく変化する。なお、後述の事例6でも、事例5と同様の場合が想定されている。事例5では、事例3と同様の6種類の移動平均データが算出されている。
【0092】
図7の時間TTでは、極めて大きいdの値が検出されている。一例として、ドライヤ1から送出された風によって、長い髪UHの先端部が一時的にドライヤ1から遠ざかった場合に、このような過大なdが検出される。図7に示されるように、時間TTの付近では、dの急激な増加に伴い、各dmも急激に増加している。
【0093】
それゆえ、ドライヤ1の制御を適切に行うためには、このようなdの急激な増加をもたらすノイズの影響を低減することも重要である。そこで、発明者らは、以下の事例6に示す通り、当該ノイズの影響を低減するための手法について、さらに検討を行った。
【0094】
(事例6)
図8は、事例6における各データを示すグラフである。図8のグラフでは、標準偏差(右側の縦軸)の値の記載が省略されている。事例6では、距離データ補正部110は、dの過大な値(事例5の時間TTに相当する期間におけるdの値)を、例外値(異常値)として取り扱う。
【0095】
一例として、距離データ補正部110は、例外値をダミー値に置き換える。以下、例外値をダミー値に置き換える処理を、例外処理と称する(図8の領域Eを参照)。例外処理は、例外値を無視する処理(マスク処理)の一例である。
【0096】
図8の例では、ダミー値は、例外値が発生する直近のdの値に等しい値として設定されている。但し、ダミー値の設定手法は、上記の例に限定されない。ダミー値は、正常データの範疇にある値として設定されていればよい。例えば、ダミー値は、上記直近のdの値を、所定の補正手法を用いて補正することによって設定されてもよい。あるいは、ダミー値は、0として設定されてもよい。
【0097】
事例6では、距離データ補正部110は、例外処理が施された後の距離データを用いて、統計データを算出する。図8の例では、事例4と同様に、1.0秒移動平均、生標準偏差、および1.0秒移動平均標準偏差が算出されている。図8に示されるように、距離データに例外処理が施されたことにより、各統計データについても、値の急激な増加が抑制されている。このように、例外処理によれば、dの急激な増加をもたらすノイズの影響を効果的に低減できる。
【0098】
あるいは、制御部10では、距離dに対して、上述の閾値THとは別の閾値TH2(以下、単にTH2と称することもある)がさらに設定されてもよい。TH2は、第2距離閾値(または距離上限閾値)と称されてもよい。一例として、TH2は、「ドライヤ1が対象物(例:髪UH)から過度に離間している」ことの判定基準として用いることができる距離として設定されている。このため、TH2は、TH1よりも大きく設定されているものとする。
【0099】
以下、d≧TH2である状態を、「ドライヤ1が過離間状態にある」とも称する。一例として、制御部10は、dとTH2とを比較することにより、ドライヤ1が過離間状態にあるか否かを判定してよい。
【0100】
一例として、ヒータ制御部120は、ドライヤ1が過離間状態にある場合には、ヒータ70の発熱量を所定の値(例:比較的小さい値)に変更してよい。そして、ヒータ制御部120は、ドライヤ1の過離間状態が解消されるまで、ヒータ70に当該所定の発熱量を維持させてよい。
【0101】
(効果)
以上の通り、ドライヤ1によれば、従来のドライヤとは異なり、統計処理が施された後の距離データ(統計データ)に基づき、当該ドライヤ1の各部を制御できる。すなわち、距離データ(生データ)に比べノイズの影響が低減されたデータを用いて、ドライヤ1の各部を制御できる。それゆえ、距離に応じたドライヤ1の制御を従来よりも適切に行うことができるので、ユーザUの利便性を向上させることが可能となる。
【0102】
〔変形例〕
距離データ補正部110は、標準偏差σdの移動平均値σdn(以下、単にσdnと称することもある)を算出してもよい。σdnは、標準偏差の移動平均値であるので、標準偏差移動平均とも称される。以下、σdnを示すデータを、標準偏差移動平均データと称する。
【0103】
標準偏差移動平均データは、統計データのさらに別の例である。従って、実施形態1と同様に、制御部10は、標準偏差移動平均データに基づいて、ドライヤ1の各部を制御してもよい。
【0104】
〔実施形態2〕
図9は、実施形態2のドライヤ2の要部の構成を示すブロック図である。ドライヤ2の制御部を、制御部10Aと称する。制御部10Aは、制御部10とは異なり、距離データ補正部110に替えて、状態推定部210を備えている。なお、制御部10Aのヒータ制御部およびモータ制御部をそれぞれ、ヒータ制御部220およびモータ制御部230と称する。
【0105】
まず、状態推定部210は、距離センサ26から距離データを取得する。状態推定部210は、当該距離データに基づき、ユーザUによるドライヤ2の使用状態(使用態様)を推定する。具体的には、状態推定部210は、上記使用状態の推定結果を示す状態推定信号を生成(導出)する。
【0106】
一例として、状態推定部210は、公知の状態推定モデル(より厳密には、確率モデル)を用いて、距離データに基づいて状態推定信号を生成する。状態推定モデルとしては、例えばHMM(Hidden Markov Model,隠れマルコフモデル)が用いられてよい。この場合、状態推定部210は、HMMに基づくビタビアルゴリズムを用いて、状態推定信号を生成してよい。あるいは、状態推定モデルとしては、カルマンフィルタを用いることもできる。
【0107】
なお、状態推定信号は、状態推定データと称されてもよい。状態推定データは、距離データが状態推定モデルに基づいて補正されたデータであるとも表現できる。このため、状態推定データも、補正後距離データの範疇に含まれる。同様に、状態推定部210も、本発明の一態様に係る距離データ補正部の一例であると言える。
【0108】
ドライヤ2では、状態推定部210は、ヒータ制御部220およびモータ制御部230のそれぞれに、状態推定信号を供給する。ヒータ制御部220は、状態推定信号に基づき、ヒータ制御信号を生成する。同様に、モータ制御部230は、状態推定信号に基づき、モータ制御信号を生成する。
【0109】
ドライヤ2によれば、ユーザUの使用状態の推定結果を示す補正後距離データ(状態推定データ)に基づき、当該ドライヤ2の各部を制御できる。すなわち、実施形態1に比べ、ユーザUの使用状態をより具体的に考慮して、ドライヤ2の各部を制御できる。その結果、ユーザUの利便性をさらに向上させることができる。
【0110】
〔ソフトウェアによる実現例〕
ドライヤ1・2の制御ブロック(特に制御部10・10A)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0111】
後者の場合、ドライヤ1・2は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の一態様の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0112】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るドライヤは、上記ドライヤの前方に送出される風を発生させるためのモータと、上記ドライヤの内部において上記風を加熱するヒータと、上記ドライヤの前方に位置する対象物との距離を測定し、当該距離を示す距離データを生成する距離センサと、(i)上記距離データを補正して補正後距離データを生成するとともに、(ii)上記補正後距離データに基づき、上記モータおよび上記ヒータの少なくとも一方を制御する、制御部と、を備えている。
【0113】
上記の構成によれば、距離データ(生データ)に比べノイズの影響が低減されたデータ(補正後距離データ)に基づき、ドライヤの各部を制御できる。それゆえ、距離に応じたドライヤの制御を従来よりも適切に行うことができるので、ユーザの利便性を向上させることが可能となる。
【0114】
本発明の態様2に係るドライヤでは、上記態様1において、上記制御部は、上記補正後距離データとして、上記距離データの移動平均値を示す移動平均データを算出することが好ましい。
【0115】
上述の通り、補正後距離データは、距離データに対して所定の統計処理を施すことによって導出されたデータ(統計データ)であってよい。上記の構成によれば、移動平均データ(統計データの一例)に基づいて、ドライヤの各部を制御できる。
【0116】
本発明の態様3に係るドライヤでは、上記態様2において、上記制御部は、上記補正後距離データとして、上記距離データの標準偏差を示す標準偏差データをさらに算出することが好ましい。
【0117】
上記の構成によれば、標準偏差データ(統計データの別の例)に基づいて、ドライヤの各部を制御することもできる。上述の通り、距離データの時間変動が激しい場合には、標準偏差データを考慮することが好ましいと考えられる。
【0118】
本発明の態様4に係るドライヤでは、上記態様2または3において、上記制御部は、上記補正後距離データとして、上記移動平均値の標準偏差を示す移動平均標準偏差データさらに算出してもよい。
【0119】
上記の構成によれば、標準偏差データ(統計データのさらに別の例)に基づいて、ドライヤの各部を制御することもできる。距離データの時間変動が激しい場合には、標準偏差データ(生標準偏差データ)に加え、移動平均標準偏差データをさらに考慮することが、より好ましいと考えられる。
【0120】
本発明の態様5に係るドライヤでは、上記態様1から4のいずれか1つにおいて、上記制御部は、ユーザによる上記ドライヤの使用状態を推定するための状態推定モデルを用いて上記距離データを補正することにより、上記補正後距離データとしての状態推定データを導出することが好ましい。
【0121】
上記の構成によれば、状態推定データに基づいて、ドライヤの各部を制御できる。これにより、ユーザの使用状態をより具体的に考慮してドライヤの各部を制御できるので、ユーザの利便性をさらに向上させることができる。
【0122】
〔付記事項〕
本発明の一態様は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成できる。
【符号の説明】
【0123】
1、2 ドライヤ
10、10A 制御部
26 距離センサ
70 ヒータ
71 送風ユニット
110 距離データ補正部
120、220 ヒータ制御部
130、230 モータ制御部
210 状態推定部(距離データ補正部)
710 モータ
711 ファン
U ユーザ
UH 髪(対象物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9