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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】鋳型造型用粘結剤組成物
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/22 20060101AFI20230810BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
B22C1/22 C
B22C9/02 101Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019151000
(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2020040121
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2018169386
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 大典
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊樹
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-021232(JP,A)
【文献】特開2013-063466(JP,A)
【文献】特開2000-246391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸硬化性樹脂、酸触媒、及び炭素数4以上12以下の脂肪族多価カルボン酸を含有し、
前記酸触媒が、ヒドロキシモノカルボン酸、モノカルボン酸、芳香族カルボン酸、スルホン酸、アスコルビン酸、及び無機酸からなる群より選ばれる1種以上であり、
25℃におけるpHが6以下である、鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項2】
前記脂肪族多価カルボン酸の鋳型造型用粘結剤組成物中の含有量が0.1質量%以上8.0質量%以下である、請求項1に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項3】
前記酸触媒の鋳型造型用粘結剤組成物中の含有量が0.1質量%以上6.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項4】
前記脂肪族多価カルボン酸が、リンゴ酸、酒石酸、及び下記一般式(1)で示される脂肪族多価カルボン酸からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
HOOC-R-COOH (1)
(Rは炭素数が2以上10以下の飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基を示す)
【請求項5】
前記粘結剤組成物中の前記脂肪族多価カルボン酸の含有量に対する前記酸触媒の含有量の比(酸触媒/脂肪族多価カルボン酸)が0.2以上30以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項6】
前記酸硬化性樹脂が、フラン樹脂である、請求項1~5の何れか1項に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項7】
前記酸硬化性樹脂が、前記酸触媒を用いて製造され、
前記酸硬化性樹脂と、前記脂肪族多価カルボン酸とを配合してなる、請求項1~6の何れか1項に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項8】
前記酸硬化性樹脂が、前記脂肪族多価カルボン酸と前記酸触媒とを用いて製造される、
請求項1~6の何れか1項に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項9】
耐火性粒子と、請求項1~の何れか1項に記載の鋳型造型用粘結剤組成物と、当該鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを混合して鋳型用組成物を得る混合工程、及び前記鋳型用組成物を型枠に詰め、当該鋳型用組成物を硬化する硬化工程を含む鋳型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型造型用粘結剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸硬化性自硬性鋳型は、鋳型造型用粘結剤組成物、及び鋳型造型用硬化剤組成物を、供給装置によって配管を通して混練機に供給し、耐火性粒子と混練した後、得られた混練砂を木型等の原型に充填し、酸硬化性樹脂を硬化させて製造される(例えば、特許文献1)。一般に、前記供給装置の配管は配管用炭素鋼鋼管に亜鉛めっきを施した白管が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-88591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記酸硬化性樹脂の製造には酸触媒が用いられるため、前記鋳型造型用粘結剤組成物は当該酸触媒を含むことがある。前記鋳型造型用粘結剤組成物が特定の酸触媒を含有する場合、当該鋳型造型用粘結剤組成物をpHが6以下で用いると、白管を用いた配管が腐食するおそれがあることが判明した。
【0005】
本発明は、特定の酸触媒を含む鋳型造型用粘結剤組成物をpHが6以下で用いても白管における配管の腐食を抑制することができる鋳型造型用粘結剤組成物及び鋳型の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、酸硬化性樹脂、酸触媒、及び炭素数4以上12以下の脂肪族多価カルボン酸を含有し、前記酸触媒が、ヒドロキシモノカルボン酸、モノカルボン酸、芳香族カルボン酸、スルホン酸、アスコルビン酸、及び無機酸からなる群より選ばれる1種以上であり、25℃におけるpHが6以下である。
【0007】
また、本発明の鋳型造型用粘結剤組成物は、酸硬化性樹脂と、亜鉛腐食防止剤としての脂肪族多価カルボン酸とを含有する。
【0008】
また、本発明の鋳型の製造方法は、耐火性粒子と、前記鋳型造型用粘結剤組成物と、当該鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを混合して鋳型用組成物を得る混合工程、及び前記鋳型用組成物を型枠に詰め、当該鋳型用組成物を硬化する硬化工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の酸触媒を含む鋳型造型用粘結剤組成物をpHが6以下で用いても白管の腐食を抑制することができる鋳型造型用粘結剤組成物及び鋳型の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<鋳型造型用粘結剤組成物>
本実施形態の鋳型造型用粘結剤組成物(以下、単に粘結剤組成物とも称する)は、酸硬化性樹脂、酸触媒、及び炭素数4以上12以下の脂肪族多価カルボン酸を含有し、前記酸触媒が、ヒドロキシモノカルボン酸、モノカルボン酸、芳香族カルボン酸、スルホン酸、アスコルビン酸、及び無機酸からなる群より選ばれる1種以上であり、25℃におけるpHが6以下である。
【0011】
本実施形態の粘結剤組成物をpHが6以下で用いても白管の腐食を抑制することができる。
【0012】
ヒドロキシモノカルボン酸、モノカルボン酸、芳香族カルボン酸、スルホン酸、アスコルビン酸、及び無機酸からなる群より選ばれる1種以上の酸触媒を含有する酸性の粘結剤組成物を白管に通すと白管表面のめっきされた亜鉛の溶解が進む傾向があるが、前記粘結剤組成物に前記脂肪族多価カルボン酸が含有されると、めっきされた亜鉛表面で前記脂肪族多価カルボン酸が配位高分子となって膜を形成し、粘結剤組成物が亜鉛へ浸透することを抑制し、その結果、亜鉛を溶解することを抑制できると考えられる。また、アルカリ性の粘結剤組成物であっても含有される酸硬化性樹脂の経時変化によって酸性になることがあるが、そのような場合でも本実施形態の粘結剤組成物であれば脂肪族多価カルボン酸を含有するために、同様に亜鉛への浸透と溶解を抑制することができると考えられる。
【0013】
〔酸硬化性樹脂〕
前記酸硬化性樹脂としては、従来公知の樹脂が使用できる。前記酸硬化性樹脂としてはフラン樹脂、メラミンとアルデヒド類の縮合物、及び尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上が例示できる。前記酸硬化性樹脂は、鋳型の硬化速度を向上させる観点及び鋳型の強度を向上させる観点から、フラン樹脂を含むのが好ましい。
【0014】
前記フラン樹脂は、フルフリルアルコールを含有するモノマー組成物を重合して得られるものであり、鋳型造型用の粘結剤に使用できる限り、特に限定なく使用することができる。当該フラン樹脂の例としては、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールと尿素の縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類の縮合物、及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物(尿素変性フラン樹脂)よりなる群から選ばれる1種以上、並びに前記群から選ばれる2種以上の共縮合物が例示できる。
【0015】
前記フラン樹脂は、鋳型の硬化速度向上と鋳型強度向上の観点から、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールと尿素の縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類の縮合物、及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上、並びに前記群から選ばれる2種以上の共縮合物よりなる群から選ばれる1種以上が好ましい。フルフリルアルコールは、地球環境の観点からは、非石油資源である植物から製造されるフルフリルアルコールが好ましい。
【0016】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール、テレフタルアルデヒド、ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。鋳型強度向上の観点からは、ホルムアルデヒドを用いるのが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点からは、フルフラールやテレフタルアルデヒド、ヒドロキシメチルフルフラールを用いるのが好ましい。
【0017】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0018】
前記フラン樹脂は公知の方法で製造することができる。例えば、前記フラン樹脂が尿素変性フラン樹脂の場合、尿素変性フラン樹脂は、フルフリルアルコール100質量部に対し、尿素0.6~30質量部及びパラホルムアルデヒド0.4~50質量部反応させることにより得ることが出来る。
【0019】
前記粘結剤組成物における酸硬化性樹脂の含有量は、鋳型強度向上の観点から、65質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、75質量%以上が更に好ましい。前記粘結剤組成物における酸硬化性樹脂の含有量は、粘度低減の観点から、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。また、前記粘結剤組成物における酸硬化性樹脂の含有量は、鋳型強度向上の観点及び粘度低減の観点から、65~98質量%が好ましく、70~95質量%がより好ましく、75~93質量%が更に好ましい。
【0020】
〔酸触媒〕
前記酸触媒は、ヒドロキシモノカルボン酸、モノカルボン酸、芳香族カルボン酸、スルホン酸、アスコルビン酸、及び無機酸からなる群より選ばれる1種以上である。前記酸触媒は、前記酸硬化性樹脂を製造する際の酸触媒として用いることができる。
【0021】
前記ヒドロキシモノカルボン酸の具体例としては、グリコール酸、及び乳酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。前記モノカルボン酸の具体例としては、酢酸、イソ吉草酸、イソ酪酸、レブリン酸、フェニル酢酸、及びフェノキシ酢酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。前記芳香族カルボン酸の具体例としては、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、アニス酸、及びケイ皮酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。前記スルホン酸の具体例としては、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、及びメタンスルホン酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。前記無機酸の具体例としては、塩酸、硫酸、及びリン酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0022】
前記酸触媒は、亜鉛腐食の抑制の観点から、ヒドロキシモノカルボン酸及び芳香族カルボン酸からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、グリコール酸、乳酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸及びフタル酸からなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、乳酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上が更に好ましい。
【0023】
前記粘結剤組成物中の前記酸触媒の含有量は、前記酸硬化性樹脂の製造の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.7質量%以上が更に好ましく、1.0質量%以上がより更に好ましく、亜鉛腐食の抑制の観点及び保存安定性の観点から、6.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が更に好ましく、3.3質量%以下がより更に好ましい。また、前記粘結剤組成物中の前記酸触媒の含有量は、前記酸硬化性樹脂の製造の観点、亜鉛腐食の抑制の観点、及び保存安定性の観点から、0.1~6.0質量%が好ましく、0.5~5.0質量%がより好ましく、0.7~4.0質量%が更に好ましく、1.0~3.3質量%がより更に好ましい。
【0024】
〔炭素数4以上12以下の脂肪族多価カルボン酸〕
前記脂肪族多価カルボン酸の炭素数は、めっきされた亜鉛への浸透・溶解による腐食抑制(以下、亜鉛腐食の抑制ともいうことがある)の観点から、4以上であり、6以上が好ましく、酸硬化性樹脂への溶解度の観点から12以下であり、10以下が好ましい。前記脂肪族多価カルボン酸としては、亜鉛腐食の抑制の観点から、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。脂肪族多価カルボン酸の中でもリンゴ酸、酒石酸、及び下記一般式(1)で示される脂肪族多価カルボン酸からなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。
HOOC-R-COOH (1)
(Rは炭素数が2以上10以下の飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基を示す)
【0025】
前記一般式1中のRの炭素数は、亜鉛腐食の抑制の観点から、2以上であり、4以上が好ましく、酸硬化性樹脂への溶解度の観点から10以下であり、8以下が好ましい。
【0026】
前記一般式(1)で示される脂肪族多価カルボン酸の具体例としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、及びドデカン二酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0027】
前記脂肪族多価カルボン酸としては、亜鉛腐食の抑制の観点から、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸が好ましく、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、リンゴ酸がより好ましく、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸が更に好ましく、亜鉛腐食の抑制の観点及び経済性の観点からアジピン酸がより更に好ましい。
【0028】
前記粘結剤組成物中の前記脂肪族多価カルボン酸の含有量は、亜鉛めっきの腐食抑制の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上が更に好ましく、0.7質量%以上がより更に好ましく、保存時の沈殿発生抑制の観点から、8.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が更に好ましく、3.0質量%以下がより更に好ましく、2.0質量%以下がより更に好ましい。また、前記粘結剤組成物中の前記脂肪族多価カルボン酸の含有量は、亜鉛めっきの腐食抑制の観点、及び保存時の沈殿発生抑制の観点から、0.1~8.0質量%が好ましく、0.1~5.0質量%がより好ましく、0.3~4.0質量%が更に好ましく、0.3~3.0質量%がより更に好ましく、0.4~2.0質量%がより更に好ましく、0.7~2.0質量%がより更に好ましい。
【0029】
前記粘結剤組成物中の前記脂肪族多価カルボン酸の含有量に対する前記酸触媒の含有量の比(酸触媒/脂肪族多価カルボン酸)は、保存時の沈殿発生抑制の観点から、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.4以上がより更に好ましく、0.5以上がより更に好ましく、0.7以上がより更に好ましく、1.0以上がより更に好ましく、亜鉛めっきの腐食抑制の観点から、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、7以下が更に好ましく、5以下がより更に好ましく、3以下がより更に好ましい。また、前記粘結剤組成物中の前記脂肪族多価カルボン酸の含有量に対する前記酸触媒の含有量の比(酸触媒/脂肪族多価カルボン酸)は、亜鉛めっきの腐食抑制の観点、及び保存時の沈殿発生抑制の観点から、0.2~30が好ましく、0.3~20がより好ましく、0.4~20が更に好ましく、0.5~7がより更に好ましく、0.7~7がより更に好ましく、1~5がより更に好ましく、1~3がより更に好ましい。
【0030】
前記酸触媒を用いて前記酸硬化性樹脂を製造する場合、得られる酸硬化性樹脂組成物には前記酸触媒が含まれ得る。当該酸硬化性樹脂組成物が前記酸触媒を含有する場合、前記粘結剤組成物は、前記酸硬化性樹脂組成物に前記脂肪族多価カルボン酸を配合することによって製造することができる。すなわち、前記粘結剤組成物は、前記酸触媒を用いて製造された酸硬化性樹脂と、前記脂肪族多価カルボン酸とを配合してなる粘結剤組成物であってもよい。
【0031】
また、前記脂肪族多価カルボン酸も前記酸硬化性樹脂を製造する際の酸触媒として用いることができる。前記脂肪族多価カルボン酸を用いて前記酸硬化性樹脂を製造する場合、得られる酸硬化性樹脂組成物には前記脂肪族多価カルボン酸が含まれ得る。当該酸硬化性樹脂組成物が前記脂肪族多価カルボン酸を含有する場合、前記粘結剤組成物は、前記酸硬化性樹脂組成物に前記酸触媒を配合することによって製造することができる。すなわち、前記粘結剤組成物は、前記脂肪族多価カルボン酸を用いて製造された酸硬化性樹脂と、前記酸触媒とを配合してなる粘結剤組成物であってもよい。また、前記粘結剤組成物は、前記脂肪族多価カルボン酸と前記酸触媒とを用いて製造された酸硬化性樹脂を含有する粘結剤組成物であってもよい。
【0032】
前記粘結剤組成物のpHは、溶融金属を鋳型に注ぎ込む際のSOxガスの発生を抑制する観点から、25℃で6.0以下であり、5.5以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、4.7以下が更に好ましい。また、前記粘結剤組成物のpHは、亜鉛腐食の抑制の観点から、25℃で3.5以上が好ましく、4.0以上がより好ましい。前記粘結剤組成物のpHは、塩酸等の酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ剤で調整することができる。
【0033】
前記粘結剤組成物は、フランアルデヒド化合物を含有していてもよい。ただし、粘結剤組成物中のフランアルデヒド化合物の含有量が多いと鋳型硬化時に未反応のフランアルデヒド化合物が揮発し、作業環境が悪化するおそれがある。そのため、前記粘結剤組成物中の前記フランアルデヒド化合物の含有量は3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0034】
前記フランアルデヒド化合物としては、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール、及び5-アセトキシメチルフルフラールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上が例示できる。
【0035】
〔硬化促進剤〕
前記粘結剤組成物中には、鋳型強度を向上させる観点から、硬化促進剤が含まれていてもよい。硬化促進剤の具体例及び添加量は、国際公開公報2015/098642に記載されている。
【0036】
〔水〕
前記粘結剤組成物には、さらに水が含まれてもよい。例えば、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を製造する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水との混合物の形態で得られる。このような縮合物を前記粘結剤組成物に使用するにあたり、水は必要に応じて、トッピング等で除去しても構わないが、硬化反応速度を維持できる限り、製造の際にあえて除去する必要はない。また、前記粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的などで、水をさらに添加してもよい。前記粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的で水をさらに添加する場合、鋳型造型用組成物の製造時及び鋳型製造時作業性の観点から、前記粘結剤組成物の粘度(25℃時)は70mPa・s以下が好ましく、50mPa・s以下がより好ましい。また、前記粘結剤組成物が水を含有する場合、前記粘結剤組成物中の水の含有量は、前記粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する観点から、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、鋳型の強度を向上させる観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。
【0037】
〔シランカップリング剤〕
また、粘結剤組成物中には、更にシランカップリング剤等の添加剤が含まれていてもよい。例えば、粘結剤組成物中にシランカップリング剤が含まれていると、鋳型の強度をより向上させることができるため好ましい。シランカップリング剤の具体例としては、国際公開公報2015/098642に記載されているものが挙げられる。シランカップリング剤としては、鋳型の強度を向上させる観点から、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランが好ましく、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシランがより好ましい。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、鋳型の強度を向上させる観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、同様の観点から、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましい。
【0038】
〔チオ硫酸ナトリウム〕
前記粘結剤組成物は、亜鉛めっきの土台の配管用炭素鋼鋼管の腐食を抑制する観点から、チオ硫酸ナトリウムを含んでいてもよい。前記粘結剤組成物中のチオ硫酸ナトリウムの含有量は、0.006質量%以上が好ましく、0.012質量%以上がより好ましく、前記粘結剤組成物への溶解度の観点から、1.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましく、0.05質量%以下がより更に好ましい。
【0039】
前記脂肪族多価カルボン酸は、亜鉛腐食防止剤として作用する。従って、本実施形態の粘結剤組成物は、前記酸硬化性樹脂と、亜鉛腐食防止剤としての脂肪族多価カルボン酸とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物であってもよい。
【0040】
前記粘結剤組成物は自硬性鋳型の造型に好適に用いられる。ここで自硬性鋳型とは、砂に粘結剤組成物と硬化剤を混合すると、時間の経過と共に重合反応が進行し、鋳型が硬化する鋳型である。その際に用いられる砂の温度としては、-20℃~50℃の範囲であり、好ましくは0℃~40℃である。このような温度の砂に対して、それに適した量の硬化剤を選択し砂に添加する事で、鋳型を適切に硬化できる。
【0041】
<鋳型の製造方法>
本実施形態の鋳型の製造方法は、従来の鋳型の製造プロセスをそのまま利用して鋳型を製造することができる。好ましい鋳型の製造方法として、耐火性粒子と、前記粘結剤組成物と、前記粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを混合して鋳型用組成物を得る混合工程、及び前記鋳型用組成物を型枠に詰め、当該鋳型用組成物を硬化する硬化工程を有する鋳型の製造方法が挙げられる。
【0042】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の実施態様を開示する。
<1> 酸硬化性樹脂、酸触媒、及び炭素数4以上12以下の脂肪族多価カルボン酸を含有し、
前記酸触媒が、ヒドロキシモノカルボン酸、モノカルボン酸、芳香族カルボン酸、スルホン酸、アスコルビン酸、及び無機酸からなる群より選ばれる1種以上であり、
25℃におけるpHが6以下である、鋳型造型用粘結剤組成物。
<2> 酸硬化性樹脂、酸触媒、及び炭素数4以上12以下の脂肪族多価カルボン酸を含有し、
酸硬化性樹脂がフラン樹脂であり、
前記脂肪族多価カルボン酸が、リンゴ酸、酒石酸、及び下記一般式(1)で示される脂肪族多価カルボン酸からなる群より選ばれる1種以上であり、
前記酸触媒が、グリコール酸、乳酸、安息香酸、サリチル酸、イソ吉草酸、イソ酪酸、レブリン酸、アスコルビン酸、アニス酸、ヒドロキシ安息香酸、酢酸、ケイ皮酸、フェニル酢酸、フェノキシ酢酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、硫酸及びリン酸からなる群から選ばれる1種以上であり、
25℃におけるpHが6以下である、前記<1>に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
HOOC-R-COOH (1)
(Rは炭素数が2以上10以下の飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基を示す)
<3> 酸硬化性樹脂、酸触媒、及び炭素数4以上12以下の脂肪族多価カルボン酸を含有し、
酸硬化性樹脂がフラン樹脂であり、
前記脂肪族多価カルボン酸が、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸及び酒石酸からなる群から選ばれる1種以上であり、
前記酸触媒が、グリコール酸、乳酸、安息香酸、サリチル酸、イソ吉草酸、イソ酪酸、レブリン酸、アスコルビン酸、アニス酸、ヒドロキシ安息香酸、酢酸、ケイ皮酸、フェニル酢酸、フェノキシ酢酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、硫酸及びリン酸からなる群から選ばれる1種以上であり、
25℃におけるpHが6以下である、前記<1>または<2>に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<4> 前記脂肪族多価カルボン酸の鋳型造型用粘結剤組成物中の含有量が0.1質量%以上8.0質量%以下である、前記<1>乃至<3>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<5> 前記脂肪族多価カルボン酸の鋳型造型用粘結剤組成物中の含有量が0.3質量%以上3.0質量%以下である、前記<1>乃至<4>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<6> 前記脂肪族多価カルボン酸の鋳型造型用粘結剤組成物中の含有量が0.4質量%以上2.0質量%以下である、前記<1>乃至<5>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<7> 前記酸触媒の鋳型造型用粘結剤組成物中の含有量が0.1質量%以上6.0質量%以下である、前記<1>乃至<6>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<8> 前記酸触媒の鋳型造型用粘結剤組成物中の含有量が0.7質量%以上4.0質量%以下である、前記<1>乃至<7>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<9> 前記酸触媒の鋳型造型用粘結剤組成物中の含有量が1.0質量%以上3.3質量%以下である、前記<1>乃至<8>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。<10> 前記粘結剤組成物中の前記脂肪族多価カルボン酸の含有量に対する前記酸触媒の含有量の比(酸触媒/脂肪族多価カルボン酸)が0.2以上30以下である、前記<1>乃至<9>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<11> 前記粘結剤組成物中の前記脂肪族多価カルボン酸の含有量に対する前記酸触媒の含有量の比(酸触媒/脂肪族多価カルボン酸)が0.7以上7以下である、前記<1>乃至<10>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<12> 前記粘結剤組成物中の前記脂肪族多価カルボン酸の含有量に対する前記酸触媒の含有量の比(酸触媒/脂肪族多価カルボン酸)が1以上5以下である、前記<1>乃至<12>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<13> 前記pHが3.5以上である、前記<1>乃至<12>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<14> 前記pHが3.5以上5.5以下である、前記<1>乃至<13>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<15> 前記pHが4.0以上5.0以下である、前記<1>乃至<14>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<16> 前記酸硬化性樹脂が、前記酸触媒を用いて製造され、
前記酸硬化性樹脂と、前記脂肪族多価カルボン酸とを配合してなる、前記<1>乃至<15>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<17> 前記酸硬化性樹脂が、前記脂肪族多価カルボン酸と前記酸触媒とを用いて製造される、前記<1>乃至<15>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
<18> 酸硬化性樹脂と、亜鉛腐食防止剤としての炭素数4以上12以下の脂肪族多価カルボン酸とを含有する、鋳型造型用粘結剤組成物。
<19> 耐火性粒子と、前記<1>乃至<18>のいずれか一つに記載の鋳型造型用粘結剤組成物と、当該鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを混合して鋳型用組成物を得る混合工程、及び前記鋳型用組成物を型枠に詰め、当該鋳型用組成物を硬化する硬化工程を含む鋳型の製造方法。
【実施例
【0043】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。
【0044】
<尿素変性フラン樹脂の製造>
三ツ口フラスコにフルフリルアルコール100質量部、パラホルムアルデヒド35質量部及び尿素13質量部を混合し、該原料混合物を25%水酸化ナトリウム水溶液でpH9に調整した。原料混合物を100℃に昇温後、同温度で1時間反応させた後、酸触媒である乳酸を6.2質量部添加し、更に100℃で1時間反応させた。その後、尿素5質量部を添加して、100℃で30分反応させ、尿素変性フラン樹脂組成物を得た。尿素変性フラン樹脂組成物の組成は、尿素変性フラン樹脂72.1質量%、フルフリルアルコール14.5質量%、水9.8質量%、酸触媒3.9質量%であった。尚、未反応のフルフリルアルコール量、水分量は下記の分析方法で求めた。
【0045】
<尿素変性フラン樹脂組成物中の水分含有量>
JIS K 0068に示されるカールフィッシャー法に基づいて測定を行った。
【0046】
<尿素変性フラン樹脂組成物中のフルフリルアルコール含有量>
下記の条件のガスクロマトグラフィー分析にて測定を行った。
検量線:フルフリルアルコールを用いて作成した
内部標準溶液:1,6-ヘキサンジオール
カラム:PEG-20M Chromosorb WAW DMCS 60/80mesh(ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:80~200℃(8℃/min)
インジェクション温度:210℃
検出器温度:250℃
キャリアーガス:50mL/min(He)
【0047】
<粘結剤組成物のpH>
粘結剤組成物のpHは、該粘結剤組成物と、該粘結剤組成物と等質量のイオン交換水とを混合して、25℃にてpHメーター(横河電機株式会社製パーソナルpHメーターPH71)を用いて測定した。
【0048】
<実施例1>
上記で製造した尿素変性フラン樹脂組成物、フルフリルアルコール、アジピン酸、水、シランカップリング剤としてN-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、チオ硫酸ナトリウムを用いて、表1に示す組成になるように混合し、鋳型造型用粘結剤組成物を得た。なお、表1中、FFAはフルフリルアルコールを意味する。
【0049】
<実施例2~17、参考例1、2、比較例1~4>
表1の酸触媒を用いて製造した尿素変性フラン樹脂を用い、表1に記載の配合に変更した以外は実施例1と同様にして実施例2~17、参考例1、2、比較例1~4の粘結剤組成物を得た。
【0050】
<評価方法>
〔白管の腐食試験〕
SGPW水配管用亜鉛めっき鋼管を半円状に切断し、さらに長さ約50mmで切断し作成した試験片を、脱脂・乾燥処理後に実施例1~17、参考例1、2、比較例1~4の鋳型造型用粘結剤組成物100gにそれぞれ全面浸漬し、35℃で30日間静置した。試験期間終了後、鋳型造型用粘結剤組成物中の亜鉛濃度及び鉄濃度をICP質量分析により定量した。結果を表1に示す。なお、表1中の亜鉛溶出量は鋳型造型用粘結剤組成物中の亜鉛濃度を意味し、鉄溶出量は鋳型造型用粘結剤組成物中の鉄濃度を意味する。
【0051】
〔保存安定性〕
50mlのスクリュー管(形状または品番)に実施例1~17、参考例1、2、比較例1~4の鋳型造型用粘結剤組成物50gを入れ密封した。35℃の恒温槽内で静置保管し、7日、30日及び90日経過した時点で、沈殿の発生を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:90日経過後、沈殿の発生無し
B:90日経過後、沈殿の発生あり
C:30日経過後、沈殿の発生あり
D:7日経過後、沈殿の発生あり
【0052】
【表1】