(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-09
(45)【発行日】2023-08-18
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂製構造体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230810BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230810BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230810BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20230810BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20230810BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20230810BHJP
F21V 3/00 20150101ALI20230810BHJP
F21V 3/06 20180101ALI20230810BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/36
C08K3/22
C08K3/40
C08L33/04
C08F2/44 A
F21V3/00 320
F21V3/06
(21)【出願番号】P 2020532413
(86)(22)【出願日】2019-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2019028879
(87)【国際公開番号】W WO2020022341
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018140475
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】小西 翔太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昇
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002359(WO,A1)
【文献】特開平05-179054(JP,A)
【文献】特開平09-306217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)を満たす単層構造を有する熱可塑性樹脂製構造体。
(1)前記構造体中の無機粒子の
レーザー回折式粒度分布測定において測定された平均一次粒子径が、0.01μm以上10μm以下であり、その含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.8質量部未満であり、前記無機粒子が、シリカ粒子、シリカ複合酸化物粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子及びガラスフィラーからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。
(2)前記構造体表面のSEM像の画像解析から同定した無機粒子の個数をN個/μm
2、粒子の円相当平均径をdμm、その標準偏差をσμm、視野の面積をSμm
2とし、π/4×r
2N/S(式中、r=d+3σ)で定義される無機粒子の面積率が少なくとも前記構造体の一つの面において0.5%以上である。
【請求項2】
前記の無機粒子の面積率が少なくとも前記構造体の一つの面において2%以上である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂製構造体。
【請求項3】
前記無機粒子が、シリカ-チタニア複合酸化物である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂製構造体。
【請求項4】
JIS K7136に従って測定されるヘイズが4%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂製構造体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂製構造体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂製構造体を含むランプカバー。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂製構造体を製造する方法であって、モノマー及び/又はポリマーと無機粒子を含む混合物を静置し、無機粒子を沈降させ、無機粒子が沈降した状態で重合することを含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱可塑性樹脂製構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、優れた透明性、機械的特性及び成形加工性を有し得ることから、様々な用途に用いられている。
【0003】
上記熱可塑性樹脂は、種々の用途においてガラス代替品として注目されているが、耐久性、特に耐擦傷性が十分でないことから、耐擦傷性を向上させるために、ポリメチルメタクリレートのシートにシリカ含有の熱硬化性樹脂組成物によりコーティングを施し、耐擦傷性を向上させたシートが開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱可塑性樹脂製構造体は、用途に応じて種々の形状に加工される。しかしながら、特許文献1に記載の表面コーティングを有するプラスチック体は、ある程度の耐擦傷性を有するものの、加工時にコーティングに皺やクラックが発生する問題が生じ得る。
【0006】
従って、本開示は、耐擦傷性と加工性に優れた熱可塑性樹脂製構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 下記(1)及び(2)を満たす熱可塑性樹脂製構造体。
(1)前記構造体中の無機粒子の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.8質量部未満である。
(2)前記構造体表面のSEM像の画像解析から同定した無機粒子の個数をN個/μm2、粒子の円相当平均径をdμm、その標準偏差をσμm、視野の面積をSμm2とし、π/4×r2N/S(式中、r=d+3σ)で定義される無機粒子の面積率が少なくとも前記構造体の一つの面において0.5%以上である。
[2] 前記の無機粒子の面積率が少なくとも前記構造体の一つの面において2%以上である、上記[1]に記載の熱可塑性樹脂製構造体。
[3] 前記無機粒子が、シリカ粒子、シリカ複合酸化物粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子及びガラスフィラーからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、上記[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂製構造体。
[4] JIS K7136に従って測定されるヘイズが4%以下である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂製構造体。
[5] 前記熱可塑性樹脂が(メタ)アクリル樹脂を含む、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂製構造体。
[6] 単層構造を有する、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂製構造体。
[7] 上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂製構造体を含むランプカバー。
[8] 上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂製構造体を製造する方法であって、モノマー及び/又はポリマーと無機粒子を含む混合物を静置し、無機粒子を沈降させ、無機粒子が沈降した状態で重合することを含む製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、耐擦傷性と加工性に優れた熱可塑性樹脂製構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、加熱曲げ試験を説明するための図である。
【
図2】
図2は、キャスト重合を説明するための図である。
【
図3】
図3は、JIS K 7136を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の熱可塑性樹脂製構造体について、詳細に説明する。
【0011】
本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、熱可塑性樹脂を含む。
【0012】
一の態様において、上記熱可塑性樹脂は、透明な熱可塑性樹脂であり得る。
【0013】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステル樹脂等、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素系樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル-スチレン)樹脂、ポリ塩化ビニル及びポリオレフィン樹脂が挙げられる。使用する熱可塑性樹脂は、所望の特性に応じて適宜選択され得る。上記熱可塑性樹脂は、1種であってもよく、又は2種以上の混合物であってもよい。透明性及び耐擦傷性の点からは(メタ)アクリル樹脂が好ましく、メタクリル樹脂がより好ましい。これらは、1種で用いても、2種以上で用いてもよい。
【0014】
本明細書において、用語「(メタ)アクリル樹脂」は、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂を包含する。
【0015】
上記メタクリル樹脂は、メタクリル基を有するモノマーに由来する単量体単位を有する重合体である。
【0016】
メタクリル樹脂としては、例えば、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する単量体単位のみを含むメタクリル単独重合体;炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する単量体単位を、85重量%以上100重量%未満と、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルに由来する単量体単位と共重合可能な他のビニル単量体に由来する単量体単位を、0重量%を超えて15重量%以下とを有するメタクリル共重合体等が挙げられる。
【0017】
上記「炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキル」とは、CH2=CH(CH3)COOR(Rは炭素数1~4のアルキル基)で表される化合物である。炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体とは、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能であり、且つビニル基を有する単量体である。
【0018】
上記炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、及びメタクリル酸イソブチルが挙げられる。上記炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルは、好ましくはメタクリル酸メチルである。上記のメタクリル酸アルキルは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0019】
上記炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸モノグリセロールなどのメタクリル酸エステル(但し、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルを除く);アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸モノグリセロール等のアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸又はこれらの酸無水物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の窒素含有モノマー;アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有単量体;スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体が挙げられる。
【0020】
メタクリル樹脂の製造方法としては、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと、必要に応じて、炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルと共重合可能なビニル単量体とを、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法で重合する方法が挙げられる。
【0021】
(ポリカーボネート樹脂)
本明細書において、「ポリカーボネート樹脂」とは、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂である。本開示において熱可塑性樹脂として用いることができるポリカーボネート樹脂としては、例えば、二価フェノールやイソソルバイドなどのジヒドロキシ化合物とカルボニル化剤とを界面重縮合法や溶融エステル交換法などで反応させることにより得られたもの;カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法などで重合させることにより得られたもの;及び、環状カーボネート化合物を開環重合法で重合させることにより得られたものが挙げられる。
【0022】
二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4'-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(3-イソプロピル-4-ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-フェニル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}フルオレン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-o-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、及び4,4'-ジヒドロキシジフェニルエステルが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
これらの二価フェノールの中でも、ビスフェノールA、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及びα,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンが好ましい。特に、ビスフェノールAの単独使用や、ビスフェノールAと、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、及びα,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種との併用が好ましい。
【0024】
カルボニル化剤としては、例えばカルボニルハライド(ホスゲンなど)、カーボネートエステル(ジフェニルカーボネートなど)、及びハロホルメート(二価フェノールのジハロホルメートなど)が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
熱可塑性樹脂の原料であるモノマー及び/又はポリマーは、該モノマー及び/又はポリマーと無機粒子とを混合し、該モノマー及び/又はポリマーの重合が開始されない条件下で無機粒子を分散させ、得られた分散液を静置した場合に、無機粒子の少なくとも一部が沈降するものであればよい。
【0026】
好ましい態様において、本開示の熱可塑性樹脂の原料であるモノマー及び/又はポリマーのカップ粘度は、好ましくは0.1秒以上18秒以下であり、より好ましくは0.5秒以上15秒以下であり、さらに好ましくは1秒以上13秒以下である。モノマー及び/又はポリマーのカップ粘度が0.1秒未満だと無機粒子が短時間で沈降してしまうため、調合容器から重合容器に無機粒子を分散させたモノマー及び/又はポリマーを移す際に、調合容器の底に無機粒子が沈降してしまい、所定の量の無機粒子を重合容器に移すことができない。モノマー及び/又はポリマーのカップ粘度が18秒より大きいと、重合容器内で無機粒子が沈降せず、重合後のキャスト板の耐擦傷性が劣る。ここで、キャスト重合において使用する加熱前のモノマー及び/又はポリマーをサンプルとし、下記の手順に従い、このサンプルが円錐台の形状を有する筒を通過するのにかかる時間をカップ粘度とした。上記円錐台の形状を有する筒は、ステンレス製であり、上面内径が37mm、下面内径が5mm、高さが65mmであるものを用いた。
【0027】
具体的な手順を以下に示す。内径100mm、高さ110mmの円柱型のビーカーに、液面の高さが80mm以上になるまでサンプルを注ぎ、上記円錐台の形状を有する筒をサンプルの液面より下になるように浸し、円錐台の形状を有する筒の中をサンプルで満たした。その後、円錐台の形状を有する筒をビーカーに入っているサンプルの液面よりも上になるように垂直に引き上げた。引き上げた瞬間から、円錐台の形状を有する筒の中のサンプルが流れ出るまでの時間を計測し、カップ粘度(単位:秒)とした。
【0028】
本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、無機粒子を含む。本開示の熱可塑性樹脂製構造体は無機粒子を含むことにより、優れた耐擦傷性を有する。
【0029】
上記無機粒子の形状は、略球状、直方体状や、複数の角を有した粉砕状などの形状であり得る。上記無機粒子の形状は、好ましくは略球状であり、より好ましくは真球状である。
【0030】
本開示に用いる無機粒子の平均一次粒子径は、0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.3μm以上1.5μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以上1.0μm以下である。平均一次粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定することができる。無機粒子の平均一次粒子径を上記の範囲にすることで、耐擦傷性と透明性との両方に優れる成形体を与え得る。
【0031】
上記無機粒子が真球状である場合、無機粒子の平均粒径(直径)は、好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.3μm以上2μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以上1.8μm以下である。無機粒子が真球状でない場合、無機粒子の平均長径は、好ましくは0.01μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.3μmを超えて2μm以下である。ここに、「長径」とは、粒子の直線距離で最も長い部分の長さを意味する。平均長径及び平均粒径は、走査電子顕微鏡による粒子の観測画像から読み取ることによって測定することができる。無機粒子の平均長径又は平均粒径を上記の範囲にすることにより、耐擦傷性と透明性との両方に優れる成形体を与え得る。
【0032】
上記無機粒子としては、例えば、シリカ(SiO2)粒子、シリカ複合酸化物粒子、アルミナ(Al2O3)粒子、チタニア(TiO2)粒子、及びガラスフィラー粒子からなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
【0033】
上記シリカ複合酸化物とは、シリカ中のケイ素(Si)元素の一部が他の元素に置き換わった材料、即ち、ケイ素と他の元素とが均一な構造の酸化物を共に形成している材料を意味する。かかるシリカ複合酸化物の構造は、X線吸収微細構造(XAFS)スペクトルにより解析することができる。
【0034】
上記他の元素は、ケイ素及び酸素以外の元素であって、ケイ素と共に均一な構造の酸化物を形成できるものであれば特に限定されない。上記他の元素としては、例えば、2族から14族までの元素、好ましくは、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、セリウム、ホウ素、鉄、インジウム、及びスズが挙げられる。より好ましい態様において、上記他の元素は、チタン、ジルコニウム又はアルミニウムであり、より好ましくはチタンである。
【0035】
即ち、一の態様において、上記シリカ複合酸化物は、シリカ-チタニア複合酸化物、シリカ-ジルコニア複合酸化物、又はシリカ-アルミナ複合酸化物であり得、好ましくは、シリカ-チタニア複合酸化物、又はシリカ-ジルコニア複合酸化物であり、より好ましくはシリカ-チタニア複合酸化物である。
【0036】
一の態様において、上記シリカ複合酸化物粒子に含まれる他の元素の含有量は、シリカ複合酸化物の全原子に対して、好ましくは0.01~10mol%であり、より好ましくは0.1~5mol%である。シリカ複合酸化物に含まれる他の元素の含有量は、ICP-AES法、SEM-EDX法、TEM-EDX法などにより測定することができる。
【0037】
上記シリカ複合酸化物粒子は、好ましくは1.47以上1.60以下、より好ましくは1.48以上1.52以下、さらに好ましくは1.49以上1.51以下の屈折率を有する。上記シリカ複合酸化物粒子の屈折率をかかる範囲とすることにより、高い透明性を有する樹脂組成物の成形体を得ることができる。ここに、本明細書において、屈折率とは25℃で測定した波長589nmの光線の屈折率を意味する。
【0038】
波長589nmの光線を25℃において照射したときの、上記熱可塑性樹脂の屈折率と、上記シリカ複合酸化物粒子の屈折率の差は、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.02以下、さらに好ましくは0.01以下である。特に好ましくは、両者の屈折率は同じである。両者の屈折率の差を0.03以下とすることにより、高い透明性を有する樹脂組成物の成形体を得ることができる。両者の屈折率の差をより小さくすることにより、より高い透明性を有する成形体を得ることができる。
【0039】
上記熱可塑性樹脂の屈折率は臨界角法、Vブロック法及び液浸法等を用いて測定することができる。また、上記シリカ複合酸化物粒子の屈折率は、液浸法等を用いて測定することができる。
【0040】
上記シリカ複合酸化物粒子は、火炎溶融法、火炎加水分解法、ゾル-ゲル法等、公知の方法によって得ることができる。
【0041】
ガラスフィラーとしては、例えばガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスフレーク等が挙げられる。
【0042】
上記ガラスフィラーは、好ましくは1.47以上1.60以下、より好ましくは1.49以上1.51以下の屈折率を有する。上記ガラスフィラーの屈折率をかかる範囲とすることにより、高い透明性を有する樹脂組成物の成形体を得ることができる。
【0043】
波長589nmの光線を25℃において照射したときの、上記熱可塑性樹脂の屈折率と、上記ガラスフィラーの屈折率の差は、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.02以下、さらに好ましくは0.01以下である。特に好ましくは、両者の屈折率は同じである。両者の屈折率の差を0.03以下とすることにより、高い透明性を有する樹脂組成物の成形体を得ることができる。両者の屈折率の差をより小さくすることにより、より高い透明性を有する成形体を得ることができる。
【0044】
上記熱可塑性樹脂の屈折率は臨界角法、Vブロック法及び液浸法等を用いて測定することができる。また、上記ガラスフィラーの屈折率は、液浸法等を用いて測定することができる。
【0045】
上記ガラスフィラーは、例えば、日本フリット株式会社製のCF0093-01(T1)(ガラスフリット、平均粒子径:1μm、屈折率:1.50)、CF0093-P5(T4)(ガラスフリット、平均粒子径:1μm、屈折率:1.50)及び日本板硝子株式会社製RXFX(8901)(ガラスフレーク、平均粒子径:40μm、屈折率:1.49)等を用いることができる。
【0046】
本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤等を含有していてもよい。例えば、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、及びオキサルアニリド系紫外線吸収剤が挙げられ、酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤が挙げられ、離型剤としては、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、及び脂肪酸誘導体が挙げられ、帯電防止剤としては、導電性無機粒子、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、カチオン系アクリル酸エステル誘導体、及びカチオン系ビニルエーテル誘導体が挙げられ、難燃剤としては、例えば、環状窒素化合物、リン系難燃剤、シリコン系難燃剤、籠状シルセスキオキサン又はその部分開裂構造体、及びシリカ系難燃剤が挙げられる。
【0047】
本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、染料や顔料などの着色剤を含有してもよい。着色剤を含有することで透明性は損なわれるが、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は良好な発色性を有するため、様々な色に着色できる。例えば、着色剤としては、ペリレン系染料、ペリノン系染料、ピラゾロン染料、メチン系染料、クマリン染料、キノフタロン系染料、キノリン系染料、アントラキノン系染料、アンスラキノン系染料、アスドラピリドン系染料、チオインジゴ系染料、クマリン系染料、イソインドリノン系顔料、シケトピロロピロール系顔料、縮合アゾ系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジオキサジン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ニッケル錯体系化合物、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリメチルシルセスキオキサン、ハロゲン化銅フタロシアニン、エチレンビスステアリン酸アマイド、群青、群青バイオレット、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、流動パラフィン、及びシリコンオイルが挙げられる。
【0048】
本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、下記(1)及び(2)を満たす。
(1)上記構造体中の無機粒子の含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して0.8質量部未満である。
(2)上記構造体表面のSEM像の画像解析から同定した無機粒子の個数をN個/μm2、粒子の円相当平均径をdμm、その標準偏差をσμm、視野の面積をSμm2とし、π/4×r2N/S(式中、r=d+3σ)で定義される無機粒子の面積率が少なくとも上記構造体の一つの面において0.5%以上である。
【0049】
(条件1)
本開示の熱可塑性樹脂製構造体において、無機粒子の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.8質量部未満である。該条件を満たすことにより、即ち、熱可塑性樹脂製構造体中の無機粒子の含有量を、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.8質量部未満とすることにより、高い透明性を有する構造体を得ることができる。
【0050】
上記無機粒子の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.03質量部以下、さらに好ましくは0.027質量部以下、特に好ましくは0.009質量部以下である。熱可塑性樹脂製構造体中の無機粒子の含有量をより少なくすることにより、より高い透明性を有する構造体を得ることができる。
【0051】
また、本開示の熱可塑性樹脂製構造体において、無機粒子の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.0010質量部以上、より好ましくは0.0016質量部以上、さらに好ましくは0.003質量部以上である。熱可塑性樹脂製構造体中の無機粒子の含有量を、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.0010質量部以上とすることにより、より高い耐擦傷性を有する構造体を得ることができる。また、熱可塑性樹脂製構造体中の無機粒子の含有量をより多くすることにより、より高い耐擦傷性を有する構造体を得ることができる。
【0052】
上記熱可塑性樹脂製構造体中の無機粒子の含有量は、ICP-AES法(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定することができる。例えば、無機粒子がシリカである場合、測定する構造体を3mm厚のシート状とし、1cm角に裁断した試験片をICP-AES法を用いて試験片中のケイ素元素の重量を定量する。この定量値をA(単位:ppm)とし、下記の式で表されるB(単位:ppm)をシリカの濃度とする。
B=A×60/28
(式中、60はシリカの化学式量、28はケイ素の原子量である。)
【0053】
無機粒子がシリカ-チタニアである場合、測定する構造体を3mm厚のシート状とし、1cm角に裁断した試験片をICP-AES法を用いて試験片中のケイ素元素およびチタン元素の重量を定量する。シリカ-チタニアはケイ素元素、チタン元素、酸素元素が均一に分散している場合もあるが、便宜的にシリカ濃度およびチタニア濃度をそれぞれ算出し、その合計値をシリカ-チタニア濃度とできる。すなわち、ケイ素元素の定量値をA(単位:ppm)とし、下記の式で表されるB(単位:ppm)をシリカの濃度とする。
B=A×60.1/28.1
(式中、60はシリカの化学式量、28はケイ素の原子量である。)
また、チタン元素の定量値をC(単位:ppm)とし、下記の式で表されるD(単位:ppm)をチタニアの濃度とする。
D=C×79.9/47.9
(式中、79.9はチタニアの化学式量、47.9はチタンの原子量である。)
BとDの合計値をシリカ-チタニア濃度とする。
【0054】
(条件2)
本開示の熱可塑性樹脂製構造体の少なくとも1つの面における無機粒子の面積率は0.5%以上である。ここに、無機粒子の面積率は、下記式により定義される。
無機粒子の面積率=π/4×r2N/S
(式中:
r=d+3σ、
Nは、構造体表面のSEM像の画像解析から同定した、単位面積あたりの無機粒子の個数(個/μm2)である。
dは、無機粒子の円相当平均径(μm)である。
σは、dの標準偏差(μm)である。
Sは、SEM像の視野の面積(μm2)である。)
該条件を満たすことにより、即ち、熱可塑性樹脂製構造体の少なくとも1つの面において無機粒子の面積率を0.5%以上とすることにより、高い耐擦傷性を有する構造体を得ることができる。
【0055】
上記無機粒子の面積率は、好ましくは0.8%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、さらにより好ましくは10%以上、特に好ましくは20%以上、特により好ましくは25%以上である。無機粒子の面積率をより大きくすることにより、より高い耐擦傷性を有する構造体を得ることができる。
【0056】
また、本開示の熱可塑性樹脂製構造体において、上記無機粒子の面積率は、好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下である。無機粒子の面積率をより小さくすることにより、より高い透明性を有する構造体を得ることができる。
【0057】
一の態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、1つの面において無機粒子の面積率が0.5%以上であり、好ましくは2%以上であり、かかる面に対向する面において無機粒子の面積率が0.1%以下、好ましくは0.01%以下である。
【0058】
本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、構造体全体として無機粒子の含有量が少ないことから、高い透明性を有する。また、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、少なくとも1つの面において、無機粒子の面積率が0.5%以上であることから、この面において高い耐擦傷性を有する。
【0059】
一の態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、JIS K7136に従って測定されるヘイズが4%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。
【0060】
一の態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、Δヘイズが、1.0%未満、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。ここにΔヘイズとは、熱可塑性樹脂製構造体の平板表面(該表面は、無機粒子の面積率が0.5%以上である面である)に#0000のスチールウールを14kPaの圧力で押し付け、スチールウールの繊維方向と垂直の方向に15cm/秒の速さで11往復擦った際のヘイズ(%)の初期ヘイズ(%)に対する変化量である。
【0061】
上記JIS K 7136によるヘイズの測定方法は、以下の通りである。
【0062】
(序文)
この規格は、1999年に第1版として発行されたISO14782、Plastics-Determination of haze for transparent materialsを翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
1.適用範囲
この規格は、透明で基本的には無色のプラスチックについて、光線の広角散乱に関する特定の光学的性質であるヘイズの求め方について規定する。この試験方法は、この方法によって測定したヘイズ値40%以下の材料に適用できる。
2.定義
ヘイズ(haze)とは、試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から0.044rad(2.5°)以上それた透過光の百分率をいう。
3.装置
3-1.装置は、安定した光源、接続光学系、開口部を備えた積分球及び測光器から構成し、測光器は、受光器、信号処理装置及び表示装置又は記録計から構成される(
図3参照)。
3-2.使用する光源及び測光器は、フィルターを通ってその組合せの特性が、ISO/CIE10527による等色関数y(λ)と等しい明所視標準視感効率V(λ)(IEC60050-845で定義)と、ISO/CIE10526に規定するCIE標準の光D65の組合せに相当する出力を与えるものでなければならない。測光器の出力は、使用する光束の範囲で、入射光束に1%以内で比例しなければならない。光源及び測光器の分光特性並びに測光特性は、測定の間は一定に保たれることが望ましい。
3-3.光源は、光学系と組み合わされて平行な光束を作るものとする。この光束に含まれるどの光線も光軸との間の最大角が0.05rad(3°)を超えてはならない。この光束は、積分球のどちらの開口部においても不鮮明であってはならない。
3-4.装置は、光束がない場合に読取り値が一定になるように設計されている必要がある。
3-5.透過光束を集めるには、積分球を用いる。積分球の直径は、全開口部の面積が積分球の内面積の3.0%を超えない限りどのような値でもよい。積分球の直径は、大きな試料を測定できるように150mm以上であることが望ましい。
3-6.積分球には、入口開口、出口開口、補償開口及び受光開口がある(
図3参照)。入口及び出口開口の中心は、球の同一大円上にあって、それらの開口の中心間に対応する大円上の円弧の中心角は、3.14rad±0.03rad(180±2°)とする。出口開口の直径が、入口開口の中心に対して作る角度は、0.140rad±0.002rad(8±0.1°)とする。出口開口及び補償開口は、同じ大きさとする。入口開口、補償開口及び受光開口は、積分球の同一大円上にあってはならない。補償開口は、入口開口との中心角が1.57rad(90°)以内となる位置に設ける。
3-7.入口開口に試料を置いていない場合、出口開口での光束の断面は、ほぼ円形で明りょう(瞭)であり、出口開口と同心円で、出口開口のまわりに環状部が残らなければならない。その環状部が入口開口の中心に対して作る角度は0.023rad±0.002rad(1.3°±0.1°)になる。
3-8.積分球には、遮光板を取り付けて、試料を通過した光を受光器が直接検出しないようにする。受光器は、積分球上で入口開口から1.57rad±0.26rad(90°±15°)の中心角をなすものとする。出口開口及び補償開口に置く光トラップは、試料がないときに光を完全に吸収するものであるか又は、装置が出口開口及び補償開口に光トラップを必要としないように設計されていなければならない。
3-9.ISO772-2によって求めた、積分球の内面、遮光板及び参照白板(通常、これは装置製作者から供給される。)の三刺激値のY
10は90%以上及びその変動は±3%の範囲に入っていなければならない。積分球内面の反射率を直接測定することが難しい場合には、内面と同じ材料及び条件で別に作成した面を測定してもよい。
3-10.試験片ホルダーは、試験片を光束に±2°以内で直角に固定し、拡散光を含む全透過光を捕足できるように、試験片をできる限り積分球の近くに取り付けられるものとする。また、ホルダーは、柔軟性のある試験片を平たんに保持できるものとする。薄くて柔軟性のあるフィルムは、その端を二重のリング状ホルダーに挟むか、両面接着テープを用いてホルダーの端に取り付けるのがよい。後者の方法は、二重のリング状ホルダーに取り付けできない厚い試験片にも用いられる。真空ポンプや真空吸着板を用いて、試験片を試料台に取り付けてもよい。
4.試験片
4-1.試験片は、フィルム、シート又は射出成形や圧縮成形による成型品から切り出す。
4-2.試験片は、欠陥、ほこり、グリース、保護材料からの接着剤、かき傷、ごみなどがなく、目で見えるような空げきや異物があってはならない。
4-3.試験片は、積分球の入口開口及び補償開口を覆うのに十分な大きさとする。直径50mmの円板又は一辺50mmの正方形のものがよい。
4-4.試験片は、特に規定がない場合には、試験材料の各試料ごとに3個作製する。
5.状態調節
5-1.必要に応じて、試験片は、試験の前に、ISO291によって温度(23±2)℃、相対湿度(50±10)%の条件で40時間以上状態調節する。
5-2.必要に応じて、試験装置は、温度(23±2)℃、相対湿度(50±10)%に保った雰囲気に設置する。
6.手順
6-1.試験装置は、試験前に十分に時間をおき、熱平衡に到達させる。
6-2.試験片ホルダーに試験片を取り付ける。
6-3.下記表に示す4個の値(τ1、τ2、τ3及びτ4)を計器から読み取る。
6-4.試験片の厚さを3か所で測定し、シートの場合0.02mm、フィルムの場合は1μmまで正確に測定する。
6-5.3個の試験片について前述の手順を順次行う。
7.計算
ヘイズ(%)は、次の式によって算出する。
ヘイズ=[(τ4/τ2)-τ3(τ2/τ1)]×100
ここに、τ1:入射光の光束
τ2:試験片を透過した全光束
τ3:装置で拡散した光束
τ4:装置及び試験片で拡散した光束
参考 シングルビーム装置を用いて正確に全光線透過率を求めるためには、(ISO13468-1に規定しているように)補償開口には光トラップの代わりに試験片を置く必要がある。これは積分球の効率が変化するのを打ち消すためである。もう一つの方法として、ダブルビーム装置で校正した標準試験片を用いて、測定値を補正して求めることができる。しかし、得られるヘイズ値に差はほとんどないので、補正開口には試験片の代わりに光トラップを置いて得られるτ1を用いれば実用上十分である。
【0063】
本開示の熱可塑性樹脂製構造体の厚みは、好ましくは0.3~100mm、より好ましくは0.5~20mm、さらに好ましくは1~10mm、より好ましくは1~5mmであり得る。熱可塑性樹脂製構造体の厚みを上記の範囲の厚みとすることにより、強度と透明度に優れた構造体を得ることができる。
【0064】
一の態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体の厚みは、0.3~100mm、より好ましくは0.5~20mm、さらに好ましくは1~10mm、より好ましくは1~5mmであり、JIS K7136に従って測定されるヘイズは、4%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。好ましい態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体の厚みは1~5mmであり、JIS K7136に従って測定されるヘイズは3%以下、好ましくは1%以下である。
【0065】
一の態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体において、無機粒子は、熱可塑性樹脂製構造体の少なくとも1つの面側に偏在する。無機粒子は、好ましくは熱可塑性樹脂製構造体の表面から深さ100μmまで、より好ましくは深さ20μmまで、さらに好ましくは深さ10μmまで、さらにより好ましくは5μmまでの範囲に偏在する。換言すれば、熱可塑性樹脂製構造体において、無機粒子が存在する領域の厚さは、好ましくは100μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、さらにより好ましくは5μm以下である。ここに、「偏在する」とは、本開示の熱可塑性樹脂製構造体中の無機粒子のうち、好ましくは80%質量以上、より好ましくは90%質量以上、さらに好ましくは95%質量以上、特に好ましくは98%質量以上、最も好ましくは実質的にすべての無機粒子が、所定の範囲に存在することを意味する。
【0066】
一の態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、単層構造を有する。ここに、「単層構造」とは、その層内に積層による界面を有しない構造を意味する。本開示においては、層の上部と下部の組成が完全に異なっていても、その層において両者の組成が連続的に変化している場合、単層構造とみなす。
【0067】
上記態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、好ましくは1つの面側に無機粒子が偏在する。特に、かかる熱可塑性樹脂製構造体の断面において、無機粒子は一方の面の表面に最も多く存在し、内部になるにしたがい(即ち、対向する面側に近づくにしたがい)連続的に減少する。
【0068】
一の態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、多層構造を有する。即ち、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は積層体であり得る。ここに、「多層構造」とは、その層内に積層による界面を有する構造を意味する。
【0069】
上記態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、好ましくは1つの最外層のみに無機粒子が存在する。
【0070】
一の態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、硬化性樹脂組成物からなるコーティング層を有しない。熱可塑性樹脂製構造体はコーティング層を有しないことにより、加工時に皺が生じるのを防止することができる。
【0071】
上記コーティング層は、上記構造体をクロロホルムに浸した際に、膜状の不溶物を与えるものを意味する。換言すれば、上記態様の熱可塑性樹脂製構造体は、クロロホルムに浸した際に、膜状の不溶物を生じない。
【0072】
本開示の熱可塑性樹脂製構造体の形状は、特に限定されず、用途に応じた形状であってよい。例えば、熱可塑性樹脂製構造体の形状は、フィルム状、シート状、板状、ブロック状等であり得る。また、一の態様において、熱可塑性樹脂製構造体の形状は、車両用のランプカバー、バイザー、フロントグリルなどの車両用外装材、メーターカバーや車載ディスプレー前面板などの車両用内装材、窓や遮音壁などの建築材料、看板、テーブルトップなどの家具、展示用の棚、カーポートなどのエクステリア、ディスプレーの前面板、カバーやグローブなどの照明器具部材などの形状であり得る。
【0073】
上記したように、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、高い耐擦傷性を有し、さらに高い透明性を有し得るので、例えば車両用ランプカバー、バイザー、フロントグリルなどの車両用外装材、メーターカバーや車載ディスプレー前面板などの車両用内装材、窓や遮音壁などの建築材料、看板、テーブルトップなどの家具、展示用の棚、カーポートなどのエクステリア、ディスプレーの前面板、カバーやグローブなどの照明器具部材などとして好適に用いられる。従って、本開示は、本開示の熱可塑性樹脂製構造体を含む車両用ランプカバー、バイザー、フロントグリルなどの車両用外装材、メーターカバーや車載ディスプレー前面板などの車両用内装材、窓や遮音壁などの建築材料、看板、テーブルトップなどの家具、展示用の棚、カーポートなどのエクステリア、ディスプレーの前面板、カバーやグローブなどの照明器具部材を含む。
【0074】
上記車両用ランプカバーとしては、前照灯(ヘッドランプ)、尾灯(テールランプ)、制動灯(ストップランプ)、方向指示灯(ウインカー)、霧灯(フォグランプ)、車幅灯、後退灯のカバー等が挙げられる。本開示の成形体及び積層体は、砂利等で擦れる頻度が高く、より優れた耐擦傷性が求められる前照灯(ヘッドランプ)のカバー、すなわちヘッドランプカバーとして、好適に用いることができる。
【0075】
本開示の成形体及び積層体は、擦傷以外による表面傷、例えば砂などの粒子の衝突によって生じる傷を抑制することができる。
【0076】
次に、本開示の熱可塑性樹脂製構造体の製造方法について説明する。
【0077】
本開示の熱可塑性樹脂製構造体の製造方法は、上記条件(1)及び(2)を満たす熱可塑性樹脂製構造体を与え得る方法であれば特に限定されない。例えば、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、原料モノマー及び/又はポリマーと無機粒子の混合物を静置し、無機粒子を下面に沈降させ、その後重合することにより得てもよく、あるいは、無機粒子を含有する層と無機粒子を含有しない層とを別途作製し、これらを貼り合わせることにより得てもよい。
【0078】
好ましい態様において、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、原料モノマー及び/又はポリマーと無機粒子の混合物を静置し、無機粒子を下面に沈降させ、その後重合することにより製造される。かかる態様において、好ましくは、本開示の熱可塑性樹脂製構造体は、キャスト重合法を用いて製造される。
【0079】
より具体的には、
図2に示されるように、二枚の支持板、典型的にはガラス板とガスケットを準備し、所定の距離で対向させた支持板の間にガスケットを挟みこむことにより、原料を流し込む空間(以下、「セル」ともいう)を形成する。支持板間の距離は、所望の厚さの構造体が得られるように適宜調製することができる。一の態様において、支持板間の距離は、好ましくは0.3~100mm、より好ましくは0.5~20mm、さらに好ましくは1~10mm、より好ましくは1~5mmであり得る。
【0080】
別途、セルに注入する分散液を調製する。分散液は、液状のモノマー及び/又はポリマーと無機粒子を混合し、脱気して、超音波などにより無機粒子を分散させることにより得ることができる。該分散液は、他の成分、例えば重合開始剤等を含有していてもよい。
【0081】
上記で得られた分散液を、セル内に注入し、一方の支持板を鉛直下側に、他方の支持板を鉛直上側にして静置する。静置は、モノマー及び/又はポリマーの重合が開始されない条件下で、支持板近傍における分散液中の無機粒子が所望の密度になるように沈降するまで行う。耐擦傷性に優れた熱可塑性樹脂製構造体得るためには、支持板近傍における分散液中の無機粒子を高くするほどよく、分散液が定常状態に達するまで静置をおこなえばよい。生産効率を優先させる場合には、生産に要する時間が短いほうが好ましく、分散液が定常状態に達するより短い時間静置を行えばよい。上記所望の密度を達成するために、分散液の粘度及び静置時間を選択すればよい。
【0082】
静置後、モノマー及び/又はポリマーを重合させることにより、本開示の熱可塑性樹脂製構造体を得ることができる。重合条件は、用いる原料に応じて適宜設定することができる。
【0083】
上記の方法により得られる熱可塑性樹脂製構造体は、沈降した無機粒子が一方の面側に偏在する。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本開示の樹脂組成物を説明するが、本開示の内容はこれらの実施例に特に限定されるものではない。
【0085】
(透明性)
JIS K7136に従い、得られた成形体又は積層体のヘイズを測定した(単位:%)。ヘイズが小さいほど、透明性が優れる。
【0086】
(耐擦傷性)
得られた成形体又は積層体の表面に対して、スチールウールによる摩耗試験を行った。具体的には、#0000のスチールウールを用いて、構造体の表面を、荷重14kPaで15cm/秒の速度で11往復擦った。JIS K7136に従って、摩耗試験前後の成形体又は積層体のヘイズを測定し、試験前後のヘイズの変化(Δヘイズ(単位:%))を算出した。Δヘイズが小さいほど、耐擦傷性が優れる。
【0087】
(全層に含まれる無機粒子濃度)
測定するシートを1cm角に裁断した試験片をICP-AES法を用いて試験片中のケイ素元素およびチタン元素の重量を定量した。ケイ素元素の定量値をA(単位:ppm)とし、下記の式で表されるB(単位:ppm)をシリカの濃度とした。
B=A×60/28
なお、60はシリカの化学式量、28はケイ素の原子量である。
また、チタン元素の定量値をC(単位:ppm)とし、下記の式で表されるD(単位:ppm)をチタニアの濃度とした。
D=C×79.9/47.9
なお、79.9はチタニアの化学式量、47.9はチタンの原子量である。
無機粒子としてシリカ-チタニアを用いた際はBとDの合計値を無機粒子濃度とした。
【0088】
(表面無機粒子面積率)
評価するシート表面を走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率に拡大し、130μm×90μmの視野の拡大像を得た。視野の大きさから面積Sμm2を算出した。得られた画像のコントラストを二値化し、各粒子の個数を数え、単位面積あたりに存在する無機粒子の個数N(単位:個/μm2)を算出した。また、粒子の面積の平均に相当する面積を有する円の半径を、円相当平均径d(単位:μm)として算出した。さらにdの標準偏差σを算出し、r=d+3σとした時にπ/4×r2N/Sを表面シリカ面積率として算出した。なお、画像解析には三谷商事株式会社製WinROOFを用いた。
【0089】
(加熱曲げ試験)
評価するシートを70mm×120mmに切出し測定サンプルとした。
図1のように80mmの間隔t
1をあけた台1の上に、サンプル2の端から20mmの幅t
2が台1上に乗るようにサンプル2を設置し、サンプルの中央部に620gの重り3を入れたディスポカップ4を乗せた。その後、110℃に加熱し、サンプルが撓むことにより、ディスポカップが初期位置から10mm下がった時点で加熱をやめ、表面のシワの有無を目視で確認した。シワが無いと加熱曲げ加工性が良好であることを意味する。この際、測定サンプルの鉛直上面と鉛直下面で硬度が異なる場合は硬度が高い方の面を鉛直上面に向けて試験した。なお、加熱温度はアクリル板の場合、110℃が好適だが、その他の基材の場合は適宜異なる温度にして、ディスポカップが初期位置から10mm下がる条件を探すことで同様の評価を行うことができる。
【0090】
(溶解試験)
評価するシートをクロロホルム中に浸し、23℃で1週間静置した際に膜状の不溶物の有無を目視により確認した。膜状の不溶物がある場合はコーティングしていることを示す。
【0091】
(カップ粘度)
キャスト重合において使用する加熱前のモノマー及び/又はポリマーをサンプルとし、下記の手順に従い、このサンプルが円錐台の形状を有する筒を通過するのにかかる時間をカップ粘度とした。上記円錐台の形状を有する筒は、上面内径が37mm、下面内径が5mm、高さが65mmであるものを用いた。
【0092】
具体的な手順を以下に示す。内径100mm、高さ110mmの円柱型のビーカーに、液面の高さが80mm以上になるまでサンプルを注ぎ、上記円錐台の形状を有する筒をサンプルの液面より下になるように浸し、円錐台の形状を有する筒の中をサンプルで満たした。その後、円錐台の形状を有する筒をビーカーに入っているサンプルの液面よりも上になるように垂直に引き上げた。引き上げた瞬間から、円錐台の形状を有する筒の中のサンプルが流れ出るまでの時間を計測し、カップ粘度(単位:秒)とした。
【0093】
(使用した無機粒子)
株式会社アドマテックス製 シリカ粒子 アドマファイン(登録商標)SO-C2(平均粒子径:0.5μm)
株式会社アドマテックス製 シリカ粒子 アドマファイン(登録商標)SO-C5(平均粒子径:1.5μm)
シリカ-チタニア SiTi0849(平均粒子径:0.8μm、屈折率:1.49)
【0094】
(無機粒子の分散性)
メタクリル酸メチル95質量部に対してSO-C2を5質量部混合した後、超音波で分散させた。これを30分間静置したところ、SO-C2は底部に沈降していた。
【0095】
[実施例1]
<キャスト重合>
ガラス製容器中でメタクリル酸メチル100質量部にジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム0.08質量部、テルピノレン0.01質量部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.08質量部を溶解させ、SO-C2を0.003質量部添加した。この際、メタクリル酸メチルのカップ粘度は1.6秒だった。減圧により脱気した後、超音波によりシリカ粒子を分散させ無機粒子分散液を調整した。この無機粒子分散液11を
図2のように2枚のガラス板12で3.8mm厚の塩化ビニル樹脂製ガスケット13を挟むことにより構成されたセルに注液し、片方のガラス板が鉛直下側(
図2中矢印の方向)、もう片方のガラス板が鉛直上側になるようにオーブンの中に置き、室温で30分間静置した。その後、下記の条件に従って加熱し、無機粒子分散液を重合させることで3mm厚のアクリル板を得た。
【0096】
(加熱条件)
ステップ1:30分かけて室温から72℃まで加熱
ステップ2:72℃のまま70分間保持
ステップ3:20分かけて72℃から68℃まで冷却
ステップ4:68℃のまま60分間保持
ステップ5:30分かけて68℃から120℃まで加熱
ステップ6:120℃のまま40分間保持
ステップ7:75分かけて120℃から室温まで冷却
【0097】
得られたアクリル板の評価結果を表1に示す。なお、オーブン内で鉛直下側であった面を評価面とした。
【0098】
[実施例2]
SO-C2を0.03質量部添加した以外は実施例1と同様にしてアクリル板を得た。評価結果を表1に示す。なお、オーブン内で鉛直下側であった面を評価面とした。
【0099】
[比較例1]
<メタクリル樹脂Aの製造>
撹拌器を備えた重合反応器に、メタクリル酸メチル97.5質量部及びアクリル酸メチル2.5質量部の混合物と、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.016質量部と、n-オクチルメルカプタン0.16質量部とを、それぞれ連続的に供給し、175℃、平均滞留時間43分で重合反応を行った。次いで、重合反応器から出る反応液(部分重合体)を予熱した後、脱揮押出機に供給し、未反応の単量体成分を気化して回収するとともに、ペレット状のメタクリル樹脂Aを得た。得られたメタクリル樹脂Aの、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位が97.5重量%であり、アクリル酸メチルに由来する単量体単位の含有量が2.5重量%であり、MFRは2g/10分であった。
【0100】
<溶融混練>
メタクリル樹脂A100質量部にSO-C2を0.03質量部加えて混合した後、日本製鋼所製二軸押出機(型式:TEX30SS-30AW-2V)を使用し、以下の混練条件で溶融混練してストランド状に押出し、水冷してストランドカッターでカッティングすることにより、ペレット状のメタクリル樹脂組成物を得た。
(混練条件)
押出機温度:原料投入口から出口までの8つのヒーターについて、原料投入口側から、それぞれ200℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、240℃、250℃に設定した。
回転数:200rpm
原料の投入速度:12kg/時
【0101】
<射出成形>
得られたペレット状のメタクリル樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械株式会社製EC130SXII-4A)を用いて、以下の成形条件で150mm×90mm×3mm厚の平板形状に成形し、アクリル板を得た。
(成形条件)
スクリュー温度:原料投入口から出口までの5つのヒーターについて、原料投入口側から、それぞれ60℃、230℃、240℃、250℃、250℃に設定した。
射出速度:90mm/秒
最大射出圧力:200MPa
保圧:80MPa
金型温度:60℃
冷却タイマー:45秒
【0102】
得られたアクリル板を80℃のオーブン内で16時間静置し、その後4時間かけて40℃まで徐冷して各評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、射出成形時に金型のコア側の面を評価面とした。
【0103】
[比較例2]
溶融混練の際、メタクリル樹脂A100質量部にSO-C2を1質量部加えて混合した以外は比較例1と同様に実施しアクリル板を得た。評価結果を表1に示す。なお、射出成形時に金型のコア側の面を評価面とした。
【0104】
[比較例3]
溶融混練の際、メタクリル樹脂A100質量部にSO-C2を添加しなかったこと以外は比較例1と同様に実施しアクリル板を得た。評価結果を表1に示す。なお、射出成形時に金型のコア側の面を評価面とした。
【0105】
[比較例4]
SO-C2を添加しなかった以外は実施例1と同様に実施しアクリル板を得た。評価結果を表1に示す。なお、オーブン内で鉛直下側だった面を評価面とした。
【0106】
[比較例5]
<ハードコート>
表2に示す組成を混ぜ超音波でSO-C2を分散させて、ハードコート液を得た。ハードコート液を12の番手のバーコーターを用いて比較例4で得られたアクリルに塗布した後、単位面積あたりのエネルギーが500mJ/cm2になるように紫外線を照射した。その結果、硬化性樹脂を含む5μm厚のハードコート層が形成された。評価結果を表1に示す。なおハードコート層がある面を評価面とした。
【0107】
[比較例6]
メタクリル酸メチル80質量部に住友化学株式会社製 メタクリル樹脂 スミペックス(登録商標)MM 20質量部を添加し、溶解させた。このメタクリル酸メチル/メタクリル樹脂混合物のカップ粘度は19秒だった。このメタクリル酸メチル/メタクリル樹脂混合物100質量部をメタクリル酸メチル100質量部の代わりに用いた以外は実施例1と同様の方法でアクリル板を得た。得られたアクリル板の評価結果を表1に示す。なお、オーブン内で鉛直下側であった面を評価面とした。
【0108】
【0109】
【0110】
[実施例3]
実施例2の無機粒子分散液に住化ケムテックス株式会社製Sumiplast Black HB(黒色染料)を0.45質量部添加したものを無機粒子分散液とした以外は実施例2と同様にして黒色アクリル板を得た。オーブン内で鉛直下側であった面を評価面とした。黒色であるため透過光が少なくヘイズが測定しにくいため、20度鏡面光沢の変化で耐擦傷性を評価した。すなわち、#0000のスチールウールを用いて、評価面を、荷重14kPaで15cm/秒の速度で11往復擦った。JIS Z 8741に従って、摩耗試験前後の評価面の20度鏡面光沢を測定し、試験前後の20度鏡面光沢の変化(Δ光沢(単位:%))を算出した。Δ光沢が大きいほど、すなわちΔ光沢の絶対値が小さいほど、光沢の変化が小さいので、耐擦傷性に優れることを意味する。測定の結果、Δ光沢は-0.5%だった。
【0111】
[比較例7]
評価面をオーブン内で鉛直上側であった面とした以外は実施例3と同様に評価した。Δ光沢は-19.2%だった。
【0112】
[比較例8]
メタクリル酸メチル82質量部に住友化学株式会社製 メタクリル樹脂 スミペックス(登録商標)MM 18質量部を添加し、溶解させた。このメタクリル酸メチル/メタクリル樹脂混合物のカップ粘度は12秒だった。このメタクリル酸メチル/メタクリル樹脂混合物100質量部をメタクリル酸メチル100質量部の代わりに用い、SO-C2の代わりにSO-C5を0.003質量部用いた以外は実施例1と同様の方法で無機粒子分散液をセルに注液した。その後、オーブンの中で静置する時間を1時間とした以外は実施例1と同様の方法でアクリル板を得た。得られたアクリル板の評価結果を表3に示す。なお、オーブン内で鉛直下側であった面を評価面とした。
【0113】
[比較例9]
SO-C5の代わりにSiTi0849を0.009質量部用いた以外は比較例8と同様の方法でアクリル板を得た。得られたアクリル板の評価結果を表3に示す。なお、オーブン内で鉛直下側であった面を評価面とした。
【0114】
[実施例4]
SiTi0849を0.03質量部用いた以外は比較例95と同様の方法でアクリル板を得た。得られたアクリル板の評価結果を表3に示す。なお、オーブン内で鉛直下側であった面を評価面とした。
【0115】
[実施例5]
SiTi0849を0.1質量部用いた以外は比較例9と同様の方法でアクリル板を得た。得られたアクリル板の評価結果を表3に示す。なお、オーブン内で鉛直下側であった面を評価面とした。
【0116】
[実施例6]
オーブンの中で静置する時間を20時間とした以外は比較例9と同様の方法でアクリル板を得た。得られたアクリル板の評価結果を表3に示す。なお、オーブン内で鉛直下側であった面を評価面とした。
【0117】
【産業上の利用可能性】
【0118】
本開示の構造体は、透明性と耐擦傷性が要求される用途、例えば車両用ランプカバー、バイザー、フロントグリルなどの車両用外装材、メーターカバーや車載ディスプレー前面板などの車両用内装材、窓や遮音壁などの建築材料、看板、テーブルトップなどの家具、展示用の棚、カーポートなどのエクステリア、ディスプレーの前面板、カバーやグローブなどの照明器具部材などに好適に用いることができる。