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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-10
(45)【発行日】2023-08-21
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20230814BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/145
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019118448
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2021005617
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190091
【氏名又は名称】ルビコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】野澤 陽介
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-039245(JP,A)
【文献】特開2005-019773(JP,A)
【文献】特開昭57-034326(JP,A)
【文献】特開平06-151251(JP,A)
【文献】特公昭62-008004(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に導入された電解液とを備え、
前記電解液はエチレングリコールと、10~30質量%の水と、1~12質量%のカルボン酸のアミン塩とを含有し、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アミン塩、次亜リン酸のいずれか一種以上を0.01~2質量%添加しており、
前記カルボン酸は、鎖状の炭化水素骨格を有するとともに分子量が140~240の多価カルボン酸であるとともに、前記カルボン酸のアミン塩は、アジピン酸ジメチルアミン、アジピン酸ジエチルアミン、アゼライン酸ジメチルアミン、アゼライン酸ジエチルアミン、セバシン酸ジメチルアミン、セバシン酸ジエチルアミン、セバシン酸エチルジメチルアミン、2-メチルノナン二酸ジメチルアミン、2-メチルノナン二酸ジエチルアミン、3-tert-ブチルヘキサン二酸ジメチルアミン、3-tert-ブチルヘキサン二酸ジエチルアミン、1,6-デカンジカルボン酸ジメチルアミン、1,6-デカンジカルボン酸ジエチルアミン、から選択される一種以上であること
を特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記陽極箔として皮膜耐電圧と単位投影面積あたりの静電容量との積が300V・μF/cm2以上のアルミニウム箔を用いており、耐電圧が400V以上であること
を特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、一例として、端子とそれぞれ電気接続している陽極箔と陰極箔とがセパレータを介して配設されてコンデンサ素子が形成され、コンデンサ素子に電解液が導入されている構成である。アルミニウム電解コンデンサは、電気化学的な表面処理によってアルミニウム箔の表面に形成した酸化皮膜を誘電体として利用しており、自己修復機能に優れている。
【0003】
一例として、LED照明や電源回路等での用途に中高圧用の電解コンデンサの需要が高まっている。中高圧用の電解コンデンサにおいては、低インピーダンスと高信頼性の両立が課題となっている。
【0004】
従来、電解コンデンサの電解液としてエチレングリコールを主溶媒としつつ、水を5~7[重量%]、アジピン酸アンモニウムを7~15[重量%]含有し、次亜リン酸を0.2~0.5[重量%]添加した構成が提案されている(特許文献1:特公昭62-8004号公報)。また、電解コンデンサの電解液としてエチレングリコールを主溶媒としつつ、水を5~10[重量%]、安息香酸アンモニウムを5~10[重量%]、P-ニトロ安息香酸アンモニウムを0.5~2[重量%]含有し、次亜リン酸アンモニウムを0.5~4[重量%]添加した構成が提案されている(特許文献2:特開平6-151251号公報)。そして、電解液としてエチレングリコールを含有しつつ、水を10~50[wt%]、安息香酸トリエチルアミンを10[wt%]含有した電解コンデンサが提案されている(特許文献3:特開2002-270473号公報)。
【0005】
また、電解液としてエチレングリコールを主溶媒としつつ、水を5~20[質量%]、アゼライン酸ジエチルアミンを14~22[質量%]含有した電解コンデンサが提案されている(特許文献4:特開2011-071238号公報)。そして、電解液としてエチレングリコールを主溶媒としつつ、水を20[wt%]、トリエチルアミン塩を10[wt%]、アジピン酸アンモニウムを5[wt%]含有し、次亜リン酸アンモニウムを0.5[wt%]添加して、トリブチルリン酸エステルを0.3[wt%]添加した構成が提案されている(特許文献5:特開2005-039245号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭62-8004号公報
【文献】特開平6-151251号公報
【文献】特開2002-270473号公報
【文献】特開2011-071238号公報
【文献】特開2005-039245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~3の構成は、水の含有量を多くすると、高温で電解コンデンサの陽極箔や陰極箔が水和反応してガスが発生し、内圧が上昇することによる不具合や陽極箔や陰極箔の劣化によるコンデンサ特性の劣化が生じやすくなり、電解コンデンサの寿命が短くなってしまうという課題がある。この点、特許文献4の構成は、アゼライン酸ジエチルアミンを電解質として用いており、また、特許文献5の構成は、トリエチルアミン塩を電解質として用いているので、いずれも特許文献1~3の構成に比べて熱的安定性に優れている。また、アゼライン酸ジエチルアミンやトリエチルアミン塩を含有したことで、多量の水による電極箔(特に陰極箔)の水和反応がある程度抑制されている。しかし、特許文献4や特許文献5の構成は、良好な化成性と高い耐電圧の両立はできておらず、電解コンデンサの使用条件によっては、陽極箔の劣化の進行や耐電圧不足による不具合等の問題が生じることが判明した。
【0008】
近年、低インピーダンスとしつつ、高い耐電圧を有するとともに、長寿命の電解コンデンサの要求は益々高まってきている。特に、耐電圧が400[V]以上であって、高温条件下に無負荷で放置された後も広い温度範囲で良好な特性が維持される構成の電解コンデンサが市場から求められている。しかし、特許文献1~5の従来技術を適用した電解コンデンサはこのような高い要求を満足できていないのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、水の含有量を増加させて低インピーダンスとしたうえで、耐電圧400[V]以上を満たすとともに、長期信頼性を高めることが可能な構成の電解コンデンサを提供することを目的とする。
【0010】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0011】
本発明の電解コンデンサは、酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子に導入された電解液とを備え、前記電解液はエチレングリコールと、10~30質量%の水と、1~12質量%のカルボン酸のアミン塩とを含有し、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アミン塩、次亜リン酸のいずれか一種以上を0.01~2質量%添加しており、前記カルボン酸は、鎖状の炭化水素骨格を有するとともに分子量が140~240の多価カルボン酸であるとともに、前記カルボン酸のアミン塩は、アジピン酸ジメチルアミン、アジピン酸ジエチルアミン、アゼライン酸ジメチルアミン、アゼライン酸ジエチルアミン、セバシン酸ジメチルアミン、セバシン酸ジエチルアミン、セバシン酸エチルジメチルアミン、2-メチルノナン二酸ジメチルアミン、2-メチルノナン二酸ジエチルアミン、3-tert-ブチルヘキサン二酸ジメチルアミン、3-tert-ブチルヘキサン二酸ジエチルアミン、1,6-デカンジカルボン酸ジメチルアミン、1,6-デカンジカルボン酸ジエチルアミン、から選択される一種以上であることを特徴とする。
【0012】
本構成によれば、水の含有量を10[質量%]以上にしたのでインピーダンスが十分に低くなり、且つ、水の含有量を30[質量%]以下にしたので高温で電極箔との水和反応によってガスが発生し内圧が上昇することによる不具合が防止できて、電極箔の劣化による特性劣化の進行を抑制できる。尚且つ、鎖状の炭化水素骨格を有するとともに分子量が140~500の多価カルボン酸を採用しつつ、多価カルボン酸のアミン塩の含有量を1~12[質量%]としたので、耐電圧400[V]以上を満たす構成となる。さらに、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アミン塩、次亜リン酸のいずれか一種以上を0.01~2[質量%]添加したので、陽極箔や陰極箔への吸着及び保護作用が十分にできるとともに、次亜リン酸またはその塩の余剰を防止できて、さらに化成性の向上に寄与できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電解液における水の含有量を適切な範囲内で増加させてインピーダンスを低くしつつ、多価カルボン酸のアミン塩の濃度を適度に低減するとともに次亜リン酸またはその塩を添加したことで高い耐電圧と良好な化成性が得られ、陽極箔や陰極箔の劣化抑制効果によって良好な寿命特性を得ることが可能な構成となる。したがって、低インピーダンス、高耐電圧および長寿命をいずれも満たす構成の電解コンデンサが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の実施形態に係る実施例と比較例とについて、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量と、常温での火花電圧測定試験における400V到達時間との関係を比較して示すグラフ図である。
図2図2は本発明の実施形態に係る実施例と比較例とについて、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量と、常温での火花電圧測定試験における最高到達電圧との関係を比較して示すグラフ図である。
図3図3は本発明の実施形態に係る電解コンデンサの概略構造を側面側から示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。電解コンデンサ1は、図3に示すように、電解液2eが導入されている巻回型のコンデンサ素子2と、リード端子5と、貫通穴が二箇所に形成された封口体3と、コンデンサ素子2を収納する有底形状のケース4とを備えており、ケース4の開口側が封口体3によって封止されている構成である。ケース4は有底筒状であり、アルミニウム等の金属からなる。封口体3は、水分の浸入や酸化皮膜修復物質の飛散を防止するために高気密性を有し、ケース4の内側形状に合わせた略円柱形状となっている。
【0016】
陽極箔2aはアルミニウム等の弁金属から形成されており、表面はエッチング処理により粗面化された後、化成処理によって酸化皮膜が形成されている。陰極箔はアルミニウム等の弁金属から形成されており、表面はエッチング処理により粗面化された後、自然酸化または化成処理によって酸化皮膜が形成されている。
【0017】
本実施形態は、一例として、陽極箔2aとして皮膜耐電圧と単位投影面積あたりの静電容量との積が300[V・μF/cm2]以上のアルミニウム箔を用いている。これにより、小形及び/または高容量の電解コンデンサを実現でき、電解液における水の含有量を増量して低インピーダンスを維持したまま小形化することもできる。さらには、電解液2eの酸化皮膜修復性能が特に陽極箔近傍で向上する効果を期待できる。これらの利点を考慮して、陽極箔2aの皮膜耐電圧と単位投影面積あたりの静電容量との積が350[V・μF/cm2]以上であるようにしてもよく、400[V・μF/cm2]以上であるようにしてもよい。ここで、アルミニウム箔の皮膜耐電圧並びに静電容量は、いずれもEIAJ RC-2364Aに記載の方法に準じた値である。
【0018】
陽極箔2aと陰極箔との間には既知の材料からなり電解液を保持できるセパレータが配設されている。そして、電解液2eはコンデンサ素子2に含浸されている。
【0019】
電解液2eの構成は、エチレングリコールと、10~30[質量%]の水と、1~12[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩と、を含有し、次亜リン酸またはその塩を0.01~2[質量%]添加しており、前記多価カルボン酸は、鎖状の炭化水素骨格を有するとともに、分子量が140~500である。電解液2eを有することで、低インピーダンス、高耐電圧かつ長寿命をいずれも満たす構成の電解コンデンサ1となる。
【0020】
ここで、より低インピーダンスとしつつ、電極箔の水和反応抑制効果をより高めるために、電解液2eにおける前記多価カルボン酸のアミン塩の含有量を3[質量%]以上にする場合があり、6[質量%]以上にする場合があり、9[質量%]以上にする場合がある。
【0021】
なお、多価カルボン酸のアミン塩の含有量を1[質量%]未満とした場合についても評価を試みたが、電解液の比抵抗が高くなってしまい、インピーダンスを十分に低くすることができなかった。また、多価カルボン酸のアミン塩の含有量を12[質量%]超とした場合について評価した結果、電解液に次亜リン酸またはその塩を添加しても化成性向上作用はあまり期待できないことが判明した(後述する参考例1~2を参照)。
【0022】
そして、より低インピーダンスとするために、電解液2eにおける水の含有量を13[質量%]以上にする場合があり、16[質量%]以上にする場合がある。また、より良好な化成性および高い耐電圧を両立するために、電解液2eにおける水の含有量を25[質量%]以下にする場合があり、20[質量%]以下にする場合がある。
【0023】
なお、水の含有量を10[質量%]未満とした場合についても評価を試みたが、電解液の比抵抗が高くなってしまい、インピーダンスを十分に低くすることができなかった。また、水の含有量を30[質量%]超とした場合について評価した結果、400V到達時間短縮率がマイナスの値となった(後述する参考例3~4を参照)。
【0024】
前記多価カルボン酸のアミン塩は、一例として、アジピン酸ジメチルアミン、アジピン酸ジエチルアミン、アゼライン酸ジメチルアミン、アゼライン酸ジエチルアミン、セバシン酸ジメチルアミン、セバシン酸ジエチルアミン、セバシン酸エチルジメチルアミン、2-メチルノナン二酸ジメチルアミン、2-メチルノナン二酸ジエチルアミン、3-tert-ブチルヘキサン二酸ジメチルアミン、3-tert-ブチルヘキサン二酸ジエチルアミン、1,6-デカンジカルボン酸ジメチルアミン、1,6-デカンジカルボン酸ジエチルアミン、ブラシル酸ジメチルアミン、オクタデセン二酸ジメチルアミン、オクタデセン二酸ジエチルアミン、オクタデセン二酸エチルジメチルアミン、12-ビニル-8-オクタデセン二酸ジメチルアミン、ジメチルオクタデカジエンテトラカルボン酸ジメチルアミン、ジメチルオクタデカジエンテトラカルボン酸ジエチルアミン、その他既知の多価カルボン酸のアミン塩、から選択される一種以上である。
【0025】
鎖状の炭化水素骨格を有するとともに、分子量が140~500の多価カルボン酸は、一例として、アジピン酸(分子量146.1)、アゼライン酸(分子量188.2)、セバシン酸(分子量202.3)、1,6-デカンジカルボン酸(分子量230.3)、5,6-デカンジカルボン酸(分子量230.3)、1,10-デカンジカルボン酸(分子量230.3)、2-メチルノナン二酸(分子量202.3)、4-メチルノナン二酸(分子量202.3)、3-tert-ブチルヘキサン二酸(分子量202.3)、2,4-ジメチル-4-メトキシカルボニル-ウンデカン二酸(分子量302.4)、2,4,6-トリメチル-4,6-ジメトキシカルボニル-トリデカン二酸(分子量402.5)、8,9-ジメチル-8,9-ジメトキシカルボニル-ヘキサデカン二酸(分子量430.5)、ジメチルオクタデカンテトラカルボン酸(分子量458.6)、が挙げられる。上記以外にも、鎖状の炭化水素骨格を有するとともに、分子量が140~500の多価カルボン酸を適用できる。
【0026】
ここで、エチレングリコールまたは水に対する溶解のし易さや低インピーダンス特性を考慮すると、多価カルボン酸の分子量は240以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、多価カルボン酸の分子量が140未満の場合についても評価したが、十分な耐電圧特性が得られなかった。また、多価カルボン酸の分子量が500超の場合についても作製を試みたが、低温で十分な溶解性を保つことができず、また電解液の比抵抗が高くなってしまい、インピーダンスを十分に低くすることができなかった。
【0028】
そして、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アミン塩、次亜リン酸のいずれか一種以上の添加量は、0.03~1.5[質量%]の範囲がより効果的であり、0.05~1[質量%]の範囲がさらに効果的である。
【0029】
なお、次亜リン酸またはその塩の含有量を0.01[質量%]未満とした場合についても評価したが、十分な化成性向上効果が得られなかった。また、次亜リン酸またはその塩の含有量を2[質量%]超とした場合についても評価したが、さらなる化成性向上効果は乏しく、また十分な耐電圧特性が得られなかった。
【0030】
耐電圧特性を安定させるために、ポリエーテル系化合物などの耐電圧向上剤を電解液2eに添加する場合がある。ポリエーテル系耐電圧向上剤は、一例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、その他既知のポリエーテル系耐電圧向上剤が挙げられ、例えば分岐ポリエーテルなども含まれる。また、上記以外の耐電圧向上剤を電解液2eに添加する場合があり、一例として、ポリビニルアルコール、ポリシロキサン、糖アルコール(例えばマンニット)、その他既知の耐電圧向上剤が挙げられる。耐電圧向上剤は一種以上を添加する場合がある。
【0031】
化成性をより安定させるために、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アミン塩、次亜リン酸のいずれか一種以上に加えて、さらに上記以外のリン系化合物を電解液2eに添加する場合がある。次亜リン酸またはその塩以外のリン系化合物は、一例として、リン酸またはその塩(例えばリン酸、リン酸アンモニウム、リン酸のアミン塩)、亜リン酸またはその塩(例えば亜リン酸、亜リン酸アンモニウム、亜リン酸のアミン塩)、リン酸エステル(例えばメチルリン酸エステル、エチルリン酸エステル、ジメチルリン酸エステル、ジエチルリン酸エステル、トリメチルリン酸エステル、トリエチルリン酸エステル)、その他既知のリン系化合物が挙げられる。特に、次亜リン酸またはその塩に加えて、リン酸またはその塩を添加すると、陽極箔や陰極箔の水和反応を抑制する優れた作用が得られるのでより好ましい。
【0032】
上記に加えて、芳香族ニトロ化合物を電解液2eに添加する場合がある。芳香族ニトロ化合物は、一例として、ニトロアセトフェノン、ニトロ安息香酸、ニトロベンジルアルコール、ニトロフェノール、ニトロベンゼン、ニトロキシレン、その他既知の芳香族ニトロ化合物から選択される一種以上である。
【0033】
電解液2eに使用される電解質は、アミン塩に加えて、アンモニウム塩が挙げられる。熱的安定性をより高めつつ、電極箔の劣化抑制効果をより高めるために、電解液2eにおける全アンモニウム塩の含有量を5[質量%]以下にする場合があり、4[質量%]以下にする場合があり、3[質量%]以下にする場合がある。また、良好な耐電圧特性をより安定にするために、電解液2eにおける全アミン塩と全アンモニウム塩の含有量の合計を15[質量%]以下にする場合がある。
【0034】
続いて、本実施形態に係る電解液の実施例、参考例、及び比較例と、これらの電解液を電解コンデンサに適用する際に必要な性能評価結果について、以下に説明する。
【0035】
[実施例1~6]
実施例1~6の電解液2eは、エチレングリコールと、水と、1~12[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩とを含有し、次亜リン酸またはその塩を0.01~2[質量%]添加している。作製した実施例の各電解液2eについて火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]と最高到達電圧[V]を評価した。各電解液の組成、及び性能評価結果を次の表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
[参考例1~2]
参考例1~2の電解液は、エチレングリコールと、水と、14~20[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩とを含有し、次亜リン酸またはその塩を0.01~2[質量%]添加している。作製した参考例の各電解液について火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]と最高到達電圧[V]を評価した。各電解液の組成、及び性能評価結果を次の表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
[比較例1~8]
比較例1~8の電解液は、エチレングリコールと、水と、1~20[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩とを含有している。しかし、次亜リン酸またはその塩は添加していない。作製した比較例の各電解液について火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]と最高到達電圧[V]を評価した。各電解液の組成、及び性能評価結果を次の表3と表4に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
図1は、上述の実施例1~5、比較例1~5、比較例7~8の各電解液について、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量と、400V到達時間との関係を比較して示すグラフ図である。
【0043】
表1、表3、表4、図1によれば、多価カルボン酸のアミン塩の含有量を増減させた実施例1~5は、いずれも、電圧400[V]に短時間で到達しており到達時間の変動が小さくて安定している。一方、比較例1~5と比較例6は、多価カルボン酸のアミン塩の含有量が14[質量%]以下になると、400V到達時間が極端に増大しており到達時間の変動が大きくて不安定である。また、比較例1~5と比較例6に対して、実施例1~5と実施例6は、400V到達時間が大幅に短縮できている。尚且つ、比較例7~8に対して、実施例1~5は、400V到達時間が短縮できている。よって、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量を1~12[質量%]とした場合に、電解液に次亜リン酸またはその塩を添加したことによる化成性向上作用の効果は顕著である。
【0044】
表2と表4によれば、比較例7~8に対して、参考例1と参考例2は、400V到達時間が20%未満の短縮に留まっている。このことから、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量を12[質量%]超とした場合に、電解液に次亜リン酸またはその塩を添加しても化成性向上作用はあまり期待できないことが判明した。
【0045】
なお、多価カルボン酸のアミン塩の含有量を1[質量%]未満とした場合についても評価を試みたが、電解液の比抵抗が高くなってしまい、インピーダンスを十分に低くすることができなかった。また、次亜リン酸またはその塩の含有量を0.01[質量%]未満とした場合についても評価したが、十分な化成性向上効果が得られなかった。また、次亜リン酸またはその塩の含有量を2[質量%]超とした場合についても評価したが、さらなる化成性向上効果は乏しく、また十分な耐電圧特性が得られなかった。
【0046】
[実施例7~8]
実施例7~8の電解液は、エチレングリコールと、水と、1~12[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩とを含有し、次亜リン酸またはその塩を0.01~2[質量%]添加している。作製した実施例の各電解液2eについて火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]と最高到達電圧[V]を評価した。各電解液の組成、及び性能評価結果を次の表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
[比較例9~10]
比較例9~10の電解液は、エチレングリコールと、水と、1~12[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩とを含有している。しかし、次亜リン酸またはその塩は添加していない。作製した比較例の各電解液について火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]と最高到達電圧[V]を評価した。各電解液の組成、及び性能評価結果を次の表6に示す。
【0049】
【表6】
【0050】
実施例7~8と比較例9~10は、いずれも、エチレングリコールと水からなる溶媒にアゼライン酸ジメチルアミンを6[質量%]含有した電解液である点が共通している。比較例9~10の電解液は、次亜リン酸をリン酸や亜リン酸に置き替えて添加している点が実施例7の電解液とは異なる。
【0051】
表5と表6によれば、次亜リン酸を添加した実施例7および実施例8は、どちらも、次亜リン酸を添加せずに亜リン酸を添加した比較例9、および次亜リン酸を添加せずにリン酸を添加した比較例10のそれぞれに対して、400V到達時間が大幅に短縮できている。よって、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量を1~12[質量%]としつつ、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アミン塩、次亜リン酸のいずれか一種以上を0.01~2質量%添加したことによる相乗効果によって顕著な化成性向上作用の効果が得られる。
【0052】
一方、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量を1~12[質量%]とした場合であっても、亜リン酸やリン酸は、次亜リン酸またはその塩の代わりにはならないので、化成性向上作用はあまり期待できない。さらに、次亜リン酸は添加したがリン酸を添加しなかった実施例8に対して、次亜リン酸とリン酸の両方を添加した実施例7は、400V到達時間がさらに短縮できている。よって、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量を1~12[質量%]としつつ、電解液に次亜リン酸またはその塩とリン酸またはその塩の両方を添加したことによる相乗効果によって、より一層顕著な化成性向上作用の効果が得られる。
【0053】
図2は、上述の実施例1~5、比較例1~5、比較例7~8の各電解液について、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量と、最高到達電圧との関係を比較して示すグラフ図である。例えば、最高到達電圧が440[V]以上であれば、耐電圧400[V]以上の電解コンデンサが実現できる。例えば、最高到達電圧が440[V]以上であれば、電解コンデンサの定格電圧を400[V]以上に設定することができる。
【0054】
表1、表3、表4、図2によれば、実施例1~5は、いずれも、最高到達電圧が440[V]以上である。比較例1~4は最高到達電圧が440[V]以上となっている。しかし、比較例5、比較例7および比較例8は最高到達電圧が440[V]を下回っている。よって、電解液に次亜リン酸またはその塩を添加しつつ、電解液における多価カルボン酸のアミン塩の含有量を1~12[質量%]とすることで、最高到達電圧を440[V]以上にでき、かつ、上述したように400Vの到達時間を大幅に短縮できる。
【0055】
続いて、多価カルボン酸のアミン塩の種を変更した実施例並びに比較例と、これらに係る電解液を電解コンデンサに適用する際に必要な性能評価結果について、以下に説明する。
【0056】
[実施例9~27]
実施例9~27の電解液2eは、エチレングリコールと、10[質量%]の水と、6[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩の種を変更したものとを含有し、次亜リン酸またはその塩を0.3[質量%]添加している。作製した実施例の各電解液2eについて火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]と最高到達電圧[V]を評価した。各電解液の組成、及び性能評価結果を次の表7に示す。
【0057】
【表7】
【0058】
[比較例11~29]
比較例11~29の電解液は、エチレングリコールと、10[質量%]の水と、6[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩の種を変更したものとを含有している。しかし、次亜リン酸またはその塩は添加していない。作製した比較例の各電解液について火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]と最高到達電圧[V]を評価した。各電解液の組成、及び性能評価結果を次の表8に示す。
【0059】
【表8】
【0060】
表7と表8によれば、実施例9~27は、いずれも電圧400[V]の到達時間の変動が小さくて安定しており、比較例11~29に対して電圧400[V]の到達時間が大幅に短縮できている。よって、多価カルボン酸のアミン塩の種を変更した場合においても、電解液に次亜リン酸またはその塩を添加したことによる化成性向上作用の効果は顕著である。
【0061】
なお、多価カルボン酸の分子量が140未満の場合についても評価したが、十分な耐電圧特性が得られなかった。また、多価カルボン酸の分子量が500超の場合についても作製を試みたが、低温で十分な溶解性を保つことができず、また電解液の比抵抗が高くなってしまい、インピーダンスを十分に低くすることができなかった。
【0062】
続いて、水の含有量を変更した実施例並びに参考例について、以下に説明する。
【0063】
実施例28~32の電解液2eと参考例3~4の電解液は、それぞれ、エチレングリコールと、水と、9[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩を含有し、次亜リン酸またはその塩を0.3[質量%]添加しており、作製した各電解液について火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]を評価した。ここで、実施例の各電解液2e並びに参考例の各電解液における400V到達時間をT1とする。そして、次亜リン酸またはその塩を添加しない以外は上記と同じ条件の各電解液について火花電圧測定を行って、400Vの到達時間[秒]を評価し、各電解液における400V到達時間をT2として、400V到達時間T2を基準とした400V到達時間短縮率[%]を算出した(400V到達時間短縮率=100×(T2-T1)/T2)。結果を、次の表9に示す。
【0064】
【表9】
【0065】
表9によれば、実施例28~32は、いずれも、400V到達時間短縮率が20[%]以上になっている。一方、参考例3~4は、いずれも、400V到達時間短縮率がマイナスの値となっている。よって、水の含有量を10~30[質量%]の範囲内で変更しつつ、電解液2eに次亜リン酸またはその塩を適量添加することで、相乗効果によって顕著な化成性向上作用の効果が得られる。
【0066】
なお、水の含有量を10[質量%]未満とした場合についても評価を試みたが、電解液の比抵抗が高くなってしまい、インピーダンスを十分に低くすることができなかった。
【0067】
続いて、皮膜耐電圧と単位投影面積あたりの静電容量の積を変更した陽極箔2aを電解コンデンサに適用する際に必要な性能評価結果について、以下に説明する。
【0068】
実施例33~34の電解液2eは、それぞれ、エチレングリコールと、水と、12[質量%]の多価カルボン酸のアミン塩を含有し、次亜リン酸またはその塩を0.3[質量%]添加しており、作製した実施例の各電解液2eについて火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]を評価した。ここで、実施例33~34の各電解液2eにおける400V到達時間をT3とする。そして、次亜リン酸またはその塩を添加しない以外は上記と同じ条件の各電解液について火花電圧測定を行って、400V到達時間[秒]を評価し、各電解液における400V到達時間をT4として、400V到達時間T4を基準とした400V到達時間短縮率[%]を算出した(400V到達時間短縮率=100×(T4-T3)/T4)。結果を、次の表10に示す。
【0069】
【表10】
【0070】
表10によれば、実施例33~34は、いずれも、400V到達時間短縮率が20[%]以上になっている。これは、陽極箔における皮膜耐電圧と単位投影面積あたりの静電容量の積が300未満であった場合においても、電解液2eに次亜リン酸またはその塩を適量添加することで、化成性向上作用の顕著な効果が得られることを示している。さらに、実施例33における400V到達時間短縮率は、実施例34における400V到達時間短縮率よりも約1.26倍大きくなっている。よって、特に、皮膜耐電圧と単位投影面積あたりの静電容量の積が300[V・μF/cm2]以上の陽極箔を用いつつ、電解液2eに次亜リン酸またはその塩を添加したことによる相乗効果によって、より一層顕著な化成性向上作用の効果が得られる。
【0071】
本発明は、上述の実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 電解コンデンサ
2 コンデンサ素子
2a 陽極箔
2e 電解液
3 封口体
4 ケース
5 リード端子
図1
図2
図3