(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-14
(45)【発行日】2023-08-22
(54)【発明の名称】表面処理装置及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/36 20140101AFI20230815BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20230815BHJP
B23K 26/70 20140101ALI20230815BHJP
B23K 26/352 20140101ALI20230815BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230815BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/03
B23K26/70
B23K26/352
B23K26/00 M
(21)【出願番号】P 2019184758
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】509328928
【氏名又は名称】株式会社日立プラントコンストラクション
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】北原 隆
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 浄治
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 憲弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 耕二
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-210290(JP,A)
【文献】特開平10-309515(JP,A)
【文献】特開平2-108489(JP,A)
【文献】特開昭57-109234(JP,A)
【文献】特開昭52-8594(JP,A)
【文献】特表2013-532067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部を被処理面に対向させた際、前記被処理面に下ろされる垂線を回転中心とする回転軸により回転するヘッドプレートを有するアーム型ロボットと、
前記回転軸を基点として半径方向に離間した状態で前記ヘッドプレートに配置され、前記被処理面に対して前記回転軸と平行な方向にレーザ光を照射するレーザ照射装置と、
前記ヘッドプレートに対して前記レーザ照射装置よりも半径方向外側に配置された反射鏡と、を備え、
前記反射鏡は、使用状態と格納状態との切換えを可能とする反射面を有し、前記使用状態では、前記反射面が前記レーザ光の照射経路と交差する位置に配置されることを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記先端部には、前記被処理面との距離を計測する測距センサが備えられていることを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記先端部には、撮像手段が備えられていることを特徴とする請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記ヘッドプレートの回転軸と前記レーザ照射装置との離間距離を変化させるアクチュエータを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記レーザ照射装置を前記ヘッドプレートの回転軸の軸線方向に沿って移動させるアクチュエータを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項6】
被処理面から突出したボルトまたはナットの中心に下ろされる垂線を回転軸として定め、
前記回転軸から半径方向に離間した位置から前記被処理面に向けてレーザ光を照射すると共に、前記レーザ光を反射鏡により屈折させて前記ボルトまたは前記ナットの側面に集光させ、
前記回転軸周りに前記レーザ光の光源と、前記反射鏡を回転させることを特徴とする表面処理方法。
【請求項7】
前記被処理面の平坦部を処理する場合には、前記回転軸周りの前記レーザ光の光源と前記反射鏡の回転を停止させ、
前記レーザ光の照射経路から前記反射鏡を退避させることを特徴とする請求項6に記載の表面処理方法。
【請求項8】
前記回転軸と前記レーザ光の照射位置との離間距離を変化させることにより、前記レーザ光の焦点位置を変化させることを特徴とする請求項6に記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記回転軸の軸線方向に沿って前記レーザ光の照射位置を移動させ、前記
レーザー光の焦点位置を変化させることを特徴とする請求項6に記載の表面処理
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置の技術に係り、特に、平板上に突出したボルト接合部等の凹凸部における塗膜や付着物の除去を行う場合に好適な表面処理装置、及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば火力発電所のボイラ建屋等の大型構造物は、一般的に鉄骨構造とされるものが多く、このような構造物の建設工事では、現場で鉄骨同士をボルト接合することで構築されていく。構造を成す鉄骨の端部には、予めボルトを通すための穴が設けられており、鉄骨の端部同士を突き合わせた後、十分な長さと厚みを持ち、かつ同じようにボルト通し穴が設けられた「目板」と呼ばれる鋼板を鉄骨の裏表に渡し、この目板で鉄骨を挟み込むようにしてボルト止めすることで接合が成される。この時、接合の強度を得るために、目板及び目板と接触する鉄骨端部は、ある程度錆させておくことが一般的である。このため、接合後には、接合強度に寄与しない錆や、鉄骨の塗装部と非塗装部(錆させた部分)の境界にある浮いた塗膜は除去し、ボルトナットを含め接合部に腐食止めの塗装を施す作業が行われる。従来、こうした錆や旧塗膜の除去(ケレン)は、ワイヤブラシ等を用いて行われると共に、新たな塗装は刷毛塗りなどで行われ、いずれも手作業の場合が多かった。
【0003】
特に、目板の表面に凹凸を成すボルト突出部分のケレン作業は、自動化が難しいとされてきた。これに対し、特許文献1-3には、平板から突出したボルト頭の塗膜や付着物を自動で除去するための技術が開示されている。具体的には、ボルト頭の突出部を中心とした外周部を覆うキャップと、このキャップの中に配置されたレーザ発振器とを備えた表面処理装置である。キャップの内側面には反射ミラーが備えられ、キャップの上部側から照射されるレーザ光を反射ミラーに反射させることで、ボルト頭の側面にレーザ光を照射し、ボルト頭側面の塗膜等を除去するという技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-221561号公報
【文献】特開2017-124430号公報
【文献】特開2017-124418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1-3に開示されている表面処理装置によれば、ケレン作業の対象となる凸部(ボルト頭)の周囲をキャップで覆うため、レーザ光の反射による周囲への影響を少なくすることができる。また、キャップの内側面に備えた反射ミラーを介して凸部の側面にレーザ光を当てて塗膜の剥離等が成されるため、凸部であっても自動でケレン作業を行うことが可能となる。
【0006】
しかし、特許文献1-3に開示されている表面処理装置はいずれも、鋼板等の磁性体で構成されている板(例えば従来技術の項で述べた目板)に対してキャップを固定した上で作業が成される。ここで、鋼板に対するキャップの固定は、いずれの発明においても磁石で成されている。このため、鋼板にキャップを着脱する際には必ず衝撃が発生する。こうした着脱に伴う衝撃は、作業のたび、すなわちボルトの数だけ繰り返されるため、光学系であるレーザ発振器等に過酷な環境となり、場合によっては焦点距離のズレなどを生じさせる虞もある。
【0007】
また、特許文献1-3に開示されている表面処理装置では、突出部(ボルト、ナット等)及び当該突出部同士の間の距離に応じた寸法のキャップ、すなわち複数種類のキャップを準備する必要がある。このため、対応可能なキャップが無い場合には、ケレン作業を実施することができなくなってしまう虞がある。
【0008】
そこで本発明では、突出部を有する部位のケレン作業であっても自動化を図る事ができ、かつ、簡易な構成とし様々な大きさ(直径)の突出部(ボルト、ナット等)に対応することのできる表面処理装置、及び表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る表面処理装置は、先端部を被処理面に対向させた際、前記被処理面に下ろされる垂線を回転中心とする回転軸により回転するヘッドプレートを有するアーム型ロボットと、前記回転軸を基点として半径方向に離間した状態で前記ヘッドプレートに配置され、前記被処理面に対して前記回転軸と平行な方向にレーザ光を照射するレーザ照射装置と、前記ヘッドプレートに対して前記レーザ照射装置よりも半径方向外側に配置された反射鏡と、を備え、前記反射鏡は、使用状態と格納状態との切換えを可能とする反射面を有し、前記使用状態では、前記反射面が前記レーザ光の照射経路と交差する位置に配置されることを特徴とする。
【0010】
また、上記のような特徴を有する表面処理装置において前記先端部には、前記被処理面との距離を計測する測距センサを備えるようにすると良い。このような構成とすることによれば、ヘッドやレーザ照射装置と被処理面との距離を把握することができる。よって、ヘッドやレーザ照射装置が被処理面や周辺構造物に接触することを防止することができる。
【0011】
また、上記のような特徴を有する表面処理装置において前記先端部には、撮像手段を備えるようにすると良い。このような特徴を有することによれば、撮像手段によって得られた映像に基づいて表面処理装置を操作することが可能となる。よって、表面処理装置の遠隔操作が可能となる。
【0012】
また、上記のような特徴を有する表面処理装置では、前記ヘッドプレートの回転軸と前記レーザ照射装置との離間距離を変化させるアクチュエータを有することが望ましい。このような特徴を有することにより、回転軸の半径方向におけるレーザ光の焦点位置(焦点距離)を変化させることができる。よって、直径の異なるボルトやナットであっても容易に対応することが可能となる。
【0013】
また、上記のような特徴を有する表面処理装置では、前記レーザ照射装置を前記ヘッドプレートの回転軸の軸線方向に沿って移動させるアクチュエータを有することが望ましい。このような特徴を有することにより、レーザ光の焦点位置(焦点距離)を変化させることができる。よって、ボルトやナットの側面(高さ)方向に沿ってのケレン作業が行いやすくなる。
【0014】
また、上記目的を達成するための本発明に係る表面処理方法は、被処理面から突出したボルトまたはナットの中心に下ろされる垂線を回転軸として定め、前記回転軸から半径方向に離間した位置から前記被処理面に向けてレーザ光を照射すると共に、前記レーザ光を反射鏡により屈折させて前記ボルトまたは前記ナットの側面に集光させ、前記回転軸周りに前記レーザ光の光源と、前記反射鏡を回転させることを特徴とする。
【0015】
また、上記のような特徴を有する表面処理方法において前記被処理面の平坦部を処理する場合には、前記回転軸周りの前記光源と前記反射鏡の回転を停止させ、前記レーザ光の照射経路から前記反射鏡を退避させることが望ましい。このような特徴を有することによれば、平坦部の処理作業においてはレーザ光を屈折させることなく作業を行うことができる。この場合、反射によるエネルギー(熱量)の分散を抑えることができるため、ケレン作業の作業性(例えば走査速度等)を向上させることができる。
【0016】
さらに、上記のような特徴を有する表面処理方法では、前記回転軸と前記レーザ光の照射位置との離間距離を変化させることにより、前記レーザ光の焦点位置を変化させるようにしても良い。このような特徴を有することにより、回転軸の半径方向におけるレーザ光の焦点位置(焦点距離)を変化させることができる。よって、直径の異なるボルトやナットであっても容易に対応することが可能となる。
【0017】
さらにまた、上記のような特徴を有する表面処理方法では、前記回転軸の軸線方向に沿って前記レーザ光の照射位置を移動させ、前記焦点の位置を変化させるようにしても良い。このような特徴を有することにより、回転軸の半径方向におけるレーザ光の焦点位置(焦点距離)を変化させることができる。よって、ボルトやナットの側面(高さ)方向に沿ってのケレン作業が行いやすくなる。
【発明の効果】
【0018】
上記のような特徴を有する表面処理装置、及び表面処理方法によれば、突出部を有する部位のケレン作業であっても自動化を図る事ができる。また、簡易な構成とし様々な大きさの凸部に対応することが可能となり、汎用性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る表面処理装置と、被処理面を有する構造物の関係を示す図である。
【
図2】突出部の側面のケレン作業を行う場合の形態を示す図である。
【
図3】回転軸L4周りにヘッドプレートを回転させた状態を示す図である。
【
図4】レーザ光の照射経路と反射面に対する反射位置との違いによる焦点位置の変化を説明するための図である。
【
図5】反射鏡(ヘッド)を回転軸L4の軸線方向に移動させた場合における焦点位置の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の表面処理装置、及び表面処理方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明を実施する上での好適な形態の一部であり、その効果を奏することのできる範囲において、構成の一部を変更したとしても、本発明の一部とみなすことができる。
【0021】
[構成]
まず、
図1、
図2を参照して、本実施形態に係る表面処理装置10の構成と、処理対象となる構造物の一部について説明する。本実施形態に係る表面処理装置10は、アーム型ロボット12と、レーザ照射装置30、及び反射鏡32を基本として構成されている。
【0022】
[アーム型ロボット]
アーム型ロボット12は、詳細を後述するレーザ照射装置30を備えるためのヘッド26と、このヘッド26に設けられたヘッドプレート28を回転可能な構成であれば、具体的な構成を限定するものではない。本実施形態では、一般的な6軸制御が可能なアーム型ロボット12を採用している。
【0023】
具体的には、ベース14と、複数のジョイント(第1ジョイント16から第3ジョイント20)、複数のアーム(第1アーム22と第2アーム24)、及びヘッド26を有する。ベース14は、アーム型ロボット12の基台となる部位であり、磁力やボルト固定などにより、アーム型ロボットを他の部材等に固定するための要素である。
図1に示す例では、被処理面40を構成する目板44により接合される鉄骨42に固定されている。
【0024】
第1ジョイント16は、ベース14の近傍に設けられ、第1アーム22の基端側端部が接続されている。第1ジョイント16は、第1アーム22を揺動させる動作と、ベース14を基点とした垂線に沿った回転軸L1周りの回転動作を担う要素である。また、第2ジョイント18は、第1アーム22の先端側端部が接続されると共に、第2アーム24の基端側端部を接続している。第2ジョイント18は、第2ジョイント18を基点として第2アーム24を揺動させる動作と、第1アーム22の延設方向に沿った回転軸L2周りの回転動作を担う要素である。さらに、第3ジョイント20は、第2アーム24の先端側端部が接続されると共に、ヘッド26が設けられている。第3ジョイント20は、第3ジョイント20を基点としてヘッド26を揺動させる動作と、第2アーム24の延設方向に沿った回転軸L3周りの回転動作を担う要素である。
【0025】
ヘッド26は、各種作業を担うためのアタッチメントを取り付けるための要素であり、本実施形態では、詳細を後述するレーザ照射装置30や、反射鏡32、および測距センサ36等が備えられる。ヘッド26には少なくとも、図示しないモータと、このモータによって回転可能に備えられたヘッドプレート28が設けられている。このような構成のアーム型ロボット12によれば、ヘッド26には、6軸の動きを与えることができると共に、ヘッドプレート28には、モータの回転軸L4(
図2参照)周りの回転動作を与えることができる。よって、ヘッド26に設けられたモータの回転軸L4の延長線が、被処理面40を構成する目板44に対して垂直に交わることとなるように、ヘッドプレート28を被処理面40を構成する目板44に対向(正対)させる動作と、ヘッドプレート28を正対させた状態で、モータの回転軸L4周りにヘッドプレート28を回転させる動作を実現することができる。
【0026】
[レーザ照射装置]
レーザ照射装置30は、レーザ光を照射すると共に、所定の距離に焦点を合わせて集光させることにより、被処理面40の表面に付着している塗装等を剥離するケレン作業を行うための要素である。
【0027】
レーザ照射装置30は、ヘッドプレート28に備えられている。また、ヘッドプレート28上の配置位置は、回転軸L4から半径方向に離間した位置とされている。回転軸からの離間距離は、定位置としても良いが、図示しないアクチュエータ(第1アクチュエータ)などにより、任意の位置に制御することができるようにしても良い。
【0028】
実施形態に係る表面処理装置10では、
図2に示すように、レーザ照射装置30から照射されたレーザ光を反射鏡32の反射面32bにより屈折させてケレン作業を行うことがある。この際、
図4に示すように、照射するレーザ光を幅W1のレーザ光(以下、ラインレーザと称す)とした場合、屈折と投光面の角度(目板44を基点とした角度)によって照射幅が変化する。この時、
図4に示すように投光面の角度が垂直な場合、投光されるラインレーザの焦点位置は、P1からP2までの範囲(幅W2の範囲)となり、P1以外の焦点距離は、ナット48の内側に位置することとなる。ケレン作業は、エネルギーが集中する焦点位置のみで行うことができるため
図4に示す例では、ナット48の外側面に位置する焦点P1のみでケレン作業を行うこととなる。このように焦点位置(焦点距離)に幅を持たせるようにラインレーザを使用した場合、レーザ光の照射範囲の中で焦点距離が一致する箇所を見つけやすく、突出部の側面(高さ)方向での位置決めや、直径が異なる場合など、その焦点位置に応じた箇所でのケレン作業を行い易くなる。
【0029】
[反射鏡]
反射鏡32は、上述したように、レーザ光の照射経路の反射面32bを交差させることで、レーザ光を屈折させる役割を担う要素である。反射鏡32の構成としては、ミラーベース32aと、反射面32bとを有し、反射面32bは、ミラーベース32aに対して傾倒自在とされている。また、反射面32bは、図示しないアクチュエータ(第2アクチュエータ)などにより、傾倒角度を制御することを可能としている。
【0030】
なお、反射鏡32は、回転軸L4を基点として、レーザ照射装置30よりも半径方向外側に配置されている。レーザ照射装置30から照射されるレーザ光を、回転軸L4側に反射させるためである。
【0031】
図1に示すように、被処理面40における平坦部(目板44表面)のケレン作業をする際には、レーザ光を屈折させる必要は無く、この場合には、反射面32bをレーザ光の照射経路から退避させることが望ましい。なお、レーザ光を屈折させる角度(入射角θと反射角θ)の制御によっても、レーザ光の焦点を調節することができる。
【0032】
また、反射鏡32には、エアノズル34などの塵埃除去手段を備えるようにしても良い。ケレン作業によって生じた塵埃が反射面32bに付着した場合、レーザ光の反射を妨げたり、拡散させたりすることで、ケレン作業の進行を妨げることがある。こうした場合、反射面32bの拭き取り作業等を行うことにより、反射面32bに付着した塵埃を除去することが必要になるが、エアノズル34からエアを噴出させて塵埃を除去することができれば、拭き取り作業を行う必要がなくなるといったメリットがある。
【0033】
[測距センサ]
測距センサ36は、ヘッド26(レーザ照射装置30)と被処理面40との距離を計測するための要素である。被処理面40とレーザ照射装置30との距離を調整して焦点距離に合わせることで、被処理面40のケレン作業が可能となるからである。
【0034】
測距センサ36は、レーザ距離計などであれば良く、本実施形態では、撮像手段(図示せず)を付帯する構成としている。撮像手段により得られた映像に基づいて得られる平面座標と、レーザ距離計などにより得られる距離情報を合わせれば、被処理面40とアーム型ロボット12の三次元的な位置関係を把握することができ、これによりロボットを任意の位置姿勢に位置決めすることが可能となる。また、被処理面40や周辺構造物に接触することを防ぐことができる。
【0035】
[処理対象となる構造物]
なお、上記のような構成の表面処理装置10によるケレン作業の対象となる被処理面40は、例えば、構造物の一部を構成する鉄骨42の端部同士を突き合せた部位を挟持する目板44と、この目板44の表面に位置する突出部である。ここで、突出部は、目板44と、鉄骨42の端部に設けられた貫通孔に挿通されたボルト46と、このボルト46を固定して、目板44による挟持状態を安定させ、鉄骨42の接合を成すナット48と、によって構成されている。
【0036】
[作用]
上記のような構成の表面処理装置では、被処理面40のケレン作業を次のようにして行うことができる。まず、平面部(目板44の表面)におけるケレン作業について説明する。平面部のケレン作業は、
図1に示すように、被処理面40にヘッドプレート28を正対させ、レーザ照射装置30からレーザ光を照射して行う。レーザ光を照射させた状態で、被処理面40を走査するようにヘッド26を移動させることで、平面部のケレン作業が完了する。
【0037】
次に、被処理面40の突出部であるボルト46部分とナット48部分のケレン作業を行う場合について説明する。ボルト46部分とナット48部分のケレン作業は、側面に付着している塗装等の剥離を行う作業である。この場合、ヘッドプレート28の回転中心(中心軸L4)の延長線上に、ボルト46とナット48における軸中心を合わせる。
【0038】
次に、反射鏡32の反射面32bをレーザ光の照射経路に交差させるように、所定角度θにセットする。反射面32bをセットした後、入射角θと反射角θの関係から、レーザ光の到達位置と焦点位置を求め、ヘッド26と被処理面40との距離や、回転軸L4とレーザ照射装置30との離間距離を求め、適正となる位置に調整する。この状態でレーザ照射装置30からレーザ光を照射することで、レーザ光は反射鏡32の反射面32bに反射し、ボルト46あるいは、ナット48の側面に照射され、側面部分のケレン作業が可能となる。
【0039】
ボルト46部分とナット48部分の側面にレーザ光が照射されている状態で、ヘッドプレート28を回転軸L4周りに回転させる制御を行う。これによりレーザ照射装置30は、ボルト46とナット48の外周側に円を描くように移動することとなる。移動時における各位置においてレーザ光は、反射面32bによりボルト46とナット48の側面へ照射されることとなる。このため、ボルト46とナット48の外周に沿ってレーザ光が照射され、ケレン作業が成されることとなる。
【0040】
ボルト46とナット48の側面部分におけるケレン作業は、上記のようにしてレーザ照射装置30を円周に沿って移動させる動作と、ヘッド26(ヘッド26に付帯されているレーザ照射装置30と反射鏡32を含む)を回転軸L4の軸線方向に移動させることで、
図4、
図5に示すように、レーザ光の照射範囲をボルト46やナット48の突出方向に移動させる動作といった2つの動作の組み合わせにより行うことができる。
【0041】
なお、平面部のケレン作業についても、反射鏡32の反射面32bを介して屈折させたレーザ光で行うことはできるが、反射によるエネルギーの減衰や、照射範囲(幅W1)の変化を考慮した場合には、直接レーザ光を照射した場合の方がエネルギー効率が高い。
【0042】
[効果]
上記のような構成の表面処理装置10によれば、被処理面40に突出部を有する場合のケレン作業であっても自動化を図る事が可能となる。また、キャップなどにより突出部を覆う構成ではなく、比較的簡易な構成であるため、様々な大きさ(直径)の突出部(ボルト46、ナット48等)に対応することが可能となる。
【0043】
また、ヘッドプレート28を回転軸L4周りに回転させるだけで突出部外周のケレン作業を完了させることができる。よって、レーザ光が突出部の側面に照射されるように、ヘッド26を複雑に移動制御させる必要がない。また、レーザ光としてラインレーザを採用し、突出部の外周に対して焦点位置が異なる位置(ラインレーザの幅に合わせて焦点距離に奥行を持たせること)となるようにすることで、レーザ光の照射範囲の中で焦点距離が一致する箇所を見つけやすく、突出部の側面(高さ)方向での位置決めや、直径が異なる場合など、その焦点位置に応じた箇所でのケレン作業を行い易くなる。
【0044】
[応用形態]
上記実施形態では、測距センサ36について、撮像手段により得られる映像(画像)により平面座標を取得すると共に、レーザ距離計によって距離情報を取得する旨記載した。しかしながら、撮像手段により得られる映像から必ずしも平面座標を取得する必要は無く、映像そのものと、距離情報とに基づいて、ヘッド26の位置をアバウトに行い、ケレン作業を行うようにしても良い。
【0045】
また、上記実施形態では、レーザ照射装置30から照射されるレーザ光について、幅W1のラインレーザとした場合について説明している。しかしながら、レーザ照射装置30から照射されるレーザは、いわゆるスポット型のレーザ光(スポットレーザと称す)としても良い。照射されるレーザ光をスポットレーザとした場合には、ヘッドプレート28における回転軸L4とレーザ照射装置30との離間距離を変化させることで、ラインレーザと同等な照射範囲をカバーすることが可能となる。なお、レーザ照射装置30を固定とした場合でも、回転軸L4と反射鏡32との離間距離を調整する構成とすることで、同様な効果を得ることができる。また、当然に、レーザ照射装置30と反射鏡32の双方を動かす構成としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0046】
上記実施形態では表面処理装置10について、ヘッド26にレーザ照射装置30や反射鏡32、測距センサ36等を配置することで、ケレン作業を行うものとしている。しかしながら、アーム型ロボット12のヘッド26部分は、アタッチメント型として、他の機能を有する要素と切替可能としても良い。例えば、図示しないスプレーノズル等を備えた塗装手段を装着し、ケレン作業終了後に塗装を実行するようにしても良い。
【符号の説明】
【0047】
10………表面処理装置、12………アーム型ロボット、14………ベース、16………第1ジョイント、18………第2ジョイント、20………第3ジョイント、22………第1アーム、24………第2アーム、26………ヘッド、28………ヘッドプレート、30………レーザ照射装置、32………反射鏡、32a………ミラーベース、32b………反射面、34………エアノズル、36………測距センサ、40………被処理面、42………鉄骨、44………目板、46………ボルト、48………ナット。