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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】電動モータ式4輪駆動車の駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/356 20060101AFI20230816BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20230816BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20230816BHJP
   B60K 17/348 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B60K17/356 B
B60L15/20 S
B60L9/18 P
B60K17/348 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019140615
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021024290
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 守
(72)【発明者】
【氏名】今村 直寛
(72)【発明者】
【氏名】稲生 崇人
(72)【発明者】
【氏名】満元 弘毅
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-116697(JP,A)
【文献】特開平09-095149(JP,A)
【文献】特開2007-223588(JP,A)
【文献】特表2019-516604(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0021112(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/356
B60L 15/20
B60L 9/18
B60K 17/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪側と後輪側との間で動力を伝達するプロペラシャフトと、
前記前輪側の駆動軸に設けられた第1差動機構と、
前記後輪側の駆動軸に設けられた第2差動機構と、
前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離す第1切り離し機構と、
前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離す第2切り離し機構と、
前記プロペラシャフトに対し、前記第1切り離し機構よりも前輪側および前記第2切り離し機構よりも後輪側のうちの一方側に接続された第1モータと、
前記第1切り離し機構と前記第2切り離し機構との間に接続されると共に前記第1モータの最大出力より高い最大出力を有する第2モータと、
を備える、電動モータ式4輪駆動車の駆動装置。
【請求項2】
前記第1モータの出力軸は、前記前輪側の駆動軸と平行となるように配置されてなる、請求項1に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置。
【請求項3】
前記第2モータの出力軸は、前記プロペラシャフトと平行となるように配置されてなる、請求項1又は2に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置。
【請求項4】
前記第2モータは、変速機又は減速機を介して前記プロペラシャフトと接続されてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置。
【請求項5】
前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構の切り離しを制御する制御装置をさらに含み、
前記制御装置は、前記第1モータと前記第2モータの出力状態に応じて前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構における切り離しの制御を行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するとともに前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するように、前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構を制御し、
前記第1モータからの出力は行われず前記第2モータからの出力が前記プロペラシャフトを介して前記前輪側の駆動軸と前記後輪側の駆動軸に伝達される、請求項5に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離すとともに前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離すように、前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構を制御し、
前記第2モータからの出力は行われず前記第1モータからの出力が前記前輪側の駆動軸に伝達される、請求項5又は6に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するとともに前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するように、前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構を制御し、
前記第1モータからの出力および前記第2モータからの出力が、前記プロペラシャフトを介して前記前輪側の駆動軸と前記後輪側の駆動軸に伝達される、請求項5~7のいずれか一項に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離すとともに前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するように、前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構を制御し、
前記第1モータからの出力が前記前輪側の駆動軸に伝達されるとともに、
前記第2モータからの出力が前記後輪側の駆動軸に伝達される、
請求項5~8のいずれか一項に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータで駆動する電気自動車の駆動系技術に関し、より詳細には複数の電動モータで前輪および後輪を駆動させる電動モータ式4輪駆動車の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油などの化石燃料の枯渇問題あるいは省エネルギーの観点などから、近年では電動モータで駆動する電気自動車が再び注目されている。かような電気自動車では、例えば前輪または後輪を駆動輪とする2輪駆動方式や、4輪すべてを駆動輪とする4輪駆動方式が既知である。
【0003】
このうち電気自動車における4輪駆動方式としては、大別してホイールに電動モータを設置するタイプと、電動モータから動力伝達機構を介して各駆動輪に動力を伝達するタイプが挙げられる。
【0004】
4輪の各ホイールに電動モータを搭載するインホイールモータ式としては、例えば特許文献1などが例示できる。また、2つの電動モータで前輪と後輪をそれぞれ分担して駆動するツインモータ式としては、例えば特許文献2などが例示できる。さらに1つの電動モータで前後輪のいずれか一方を駆動させつつ他方の輪をインホイールモータとする混合式としては、例えば特許文献3などが例示できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-92995号公報
【文献】特開2018-70076号公報
【文献】特開2014-87251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した各特許文献に限らず現在の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず、上記した各方式では以下に述べる課題が存在する。
まず上記した特許文献などに例示される駆動方式は、すべて機械構造部品としてのプロペラシャフトを持たない構造である。プロペラシャフトを搭載しないことは、軽量化の観点では良い面もあるものの、従来の確立された内燃機関における4輪駆動車のごとき性能を達成することが困難となる。
【0007】
すなわち、例えば不整路などで左右のいずれかの駆動輪がスリップした場合、電動モータで発生する駆動力を非スリップ側の駆動輪に再分配することは構造的に不可能である。さらにこのようなスリップ状態において非スリップ側の駆動輪だけで対処しようとすれば、車両に搭載される電動モータのトルク容量を増大させねばならず、著しいコストアップや体積増を招いてしまい現実的ではない。
【0008】
このように既存の技術においては、内燃機関の4輪駆動車と同等の性能は確保することは非常に困難であり、電動モータにおける効率的な駆動力の伝達に関しては未だに改善の余地が大きくある。
本発明は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、プロペラシャフトを用いて電動モータの効率的な駆動力伝達を実現可能な電動モータ式4輪駆動車の駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態における電動モータ式4輪駆動車の駆動装置は、(1)前輪側と後輪側との間で動力を伝達するプロペラシャフトと、前記前輪側の駆動軸に設けられた第1差動機構と、前記後輪側の駆動軸に設けられた第2差動機構と、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離す第1切り離し機構と、前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離す第2切り離し機構と、前記プロペラシャフトに対し、前記第1切り離し機構よりも前輪側および前記第2切り離し機構よりも後輪側のうちの一方側に接続された第1モータと、前記第1切り離し機構と前記第2切り離し機構との間に接続されると共に前記第1モータの最大出力より高い最大出力を有する第2モータと、を備える。
【0010】
なお、上記した(1)に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置においては、(2)前記第1モータの出力軸は、前記前輪側の駆動軸と平行となるように配置されてなることが好ましい。
【0011】
また、上記した(1)又は(2)に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置においては、(3)前記第2モータの出力軸は、前記プロペラシャフトと平行となるように配置されてなることが好ましい。
【0012】
また、上記した(1)~(3)のいずれかに記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置においては、(4)前記第2モータは、変速機又は減速機を介して前記プロペラシャフトと接続されてなることが好ましい。
【0013】
また、上記した(1)~(4)のいずれかに記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置においては、(5)前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構の切り離しを制御する制御装置をさらに含み、前記制御装置は、前記第1モータと前記第2モータの出力状態に応じて前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構における切り離しの制御を行うことが好ましい。
【0014】
また、上記した(5)に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置においては、(6)前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するとともに前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するように、前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構を制御し、前記第1モータからの出力は行われず前記第2モータからの出力が前記プロペラシャフトを介して前記前輪側の駆動軸と前記後輪側の駆動軸に伝達されることが好ましい。
【0015】
また、上記した(5)又は(6)に記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置においては、(7)前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離すとともに前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離すように、前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構を制御し、前記第2モータからの出力は行われず前記第1モータからの出力が前記前輪側の駆動軸に伝達されることが好ましい。
【0016】
また、上記した(5)~(7)のいずれかに記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置においては、(8)前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するとともに前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するように、前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構を制御し、前記第1モータからの出力および前記第2モータからの出力が、前記プロペラシャフトを介して前記前輪側の駆動軸と前記後輪側の駆動軸に伝達されることが好ましい。
【0017】
また、上記した(5)~(8)のいずれかに記載の電動モータ式4輪駆動車の駆動装置においては、(9)前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離すとともに前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するように、前記第1切り離し機構および前記第2切り離し機構を制御し、前記第1モータからの出力が前記前輪側の駆動軸に伝達されるとともに、前記第2モータからの出力が前記後輪側の駆動軸に伝達されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、様々な路面状況に対する高い走破性と操縦安定性を維持しつつ、効率的な駆動力の伝達を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る電動モータ式4輪駆動車における駆動力伝達系を示すブロック図である。
図2】制御部による各電動モータと切り離し機構の制御状態を示した状態比較図である。
図3】第1の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態を模式的に示した模式図である。
図4】第2の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態を模式的に示した模式図である。
図5】第3の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態を模式的に示した模式図である。
図6】第4の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態を模式的に示した模式図である。
図7】実施形態に係る電動モータ式4輪駆動車における駆動制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下の説明では、それぞれ便宜的に電動モータ式4輪駆動車100の車高方向をZ方向、車長方向をY方向、これらZ方向及びY方向と直交する車幅方向をX方向として定義して説明する。しかしながら本発明は上述した方向の規定に左右されるものではなく、特許請求の範囲を不当に減縮するものでないことは言うまでもない。また、以下で詳述する以外の構成については、上記した特許文献を含む公知技術を適宜補完してもよい。
【0021】
<電動モータ式4輪駆動車100>
まず本発明の好適な実施形態における係る電動モータ式4輪駆動車100の構成について、図1を参照しながら説明する。
同図に示すとおり、本実施形態の電動モータ式4輪駆動車100は、駆動輪1を電動モータによって駆動する電気自動車であって、プロペラシャフト10、第1差動機構20、第2差動機構30、第1切り離し機構40、第2切り離し機構50、第1モータMG1、第2モータMG2及び制御部ECUを含んで構成されている。
【0022】
本実施形態における駆動輪1は、前輪側を構成する右前輪1RFと左前輪1LF、後輪側を構成する右後輪1RRと左後輪1LRを含んでいる。そして図1に示すとおり、右前輪1RFと左前輪1LFは、前輪側の駆動軸11F及び差動機構としての第1差動機構20を介して連結されている。また、右後輪1RRと左後輪1LRは、後輪側の駆動軸11R及び差動機構としての第2差動機構30を介して連結されている。
【0023】
プロペラシャフト10は、上記した前輪側と後輪側との間で駆動力(回転)を伝達する機能を有している。より具体的に、このプロペラシャフト10における前輪側の端部には、第5ギアg5としてのドライブピニオンが設けられている。この第5ギアg5は、後述する第1切り離し機構40と連動する第4ギアg4と噛み合うことが可能となっている。他方、プロペラシャフト10における後輪側の端部には、第6ギアg6としてのドライブピニオンが設けられている。この第6ギアg6は、後述する第2切り離し機構50と連動するリアドライブピニオン32と噛み合うことが可能となっている。
【0024】
第1差動機構20は、本実施形態においては前輪側の駆動軸11Fに設けられている。第1差動機構20は、上記差動機構として機能することで、旋回時などに右前輪1RFと左前輪1LFとに回転数の差を与えることが可能となっている。より具体的に、第1差動機構20は、後述する第3ギアg2と噛み合うリングギア22と、このリングギア22と共に回転可能に接合されたデフケース21を含んでいる。このデフケース21内には、他の公知のディファレンシャルギア構成と同様に、右前輪1RF及び左前輪1LFそれぞれの駆動軸11Fへと繋がるサイドギヤ(不図示)が左右に1つずつ、さらにその双方のギアに噛み合う形でピニオンギア(不図示)が2つ配されている。
【0025】
第2差動機構30は、本実施形態においては後輪側の駆動軸11Rに設けられている。第2差動機構30は、第1差動機構20と同様に、旋回時などに右後輪1RRと左後輪1LRとに回転数の差を与えることが可能となっている。より具体的に、第2差動機構30は、上記した第6ギアg6と噛み合う直交ギア32と、この直交ギア32と共に回転可能に接合されたデフケース31を含んでいる。このデフケース31には、上記した不図示のサイドギアとピニオンギアが設置される他、後述する第2切り離し機構50が設けられている。
【0026】
第1切り離し機構40は、上記した第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を切り離す機能を有して構成されている。より具体的に本実施形態の第1切り離し機構40は、後述する制御部ECUの制御の下で、第1差動機構20とプロペラシャフト10とが連結されて駆動力が伝達可能な維持状態と、これらの連結が切断されて駆動力が伝達されない切断状態と、の二通りの状態を作り出すことができる。かような第1切り離し機構40の具体的な構造としては、例えばドッグクラッチなど公知のクラッチ機構や、特開2018-17354号に例示されるディスコネクト機構を採用してもよい。
【0027】
第2切り離し機構50は、上記した第2差動機構30とプロペラシャフト10との接続を切り離す機能を有して構成されている。より具体的に本実施形態の第2切り離し機構50は、後述する制御部ECUの制御の下で、第2差動機構30とプロペラシャフト10とが連結されて駆動力が伝達可能な維持状態と、これらの連結が切断されて駆動力が伝達されない切断状態と、の二通りの状態を作り出すことができる。かような第2切り離し機構50の具体的な構造としては、上記第1切り離し機構40と同様の構造を採用してもよい。
【0028】
第1モータMG1は、上記したプロペラシャフト10に対し、第1切り離し機構40よりも前輪側および第2切り離し機構50よりも後輪側のうちの一方側に接続される。すなわち第1モータMG1は、前輪側で配置されていても後輪側に配置されていてもよい。本実施形態においては、図1に示すとおり、第1切り離し機構40よりも前輪側に接続されている。これにより、第1モータMG1からの駆動力は、前輪側の駆動軸11Fと、第1切り離し機構40を介してプロペラシャフト10の第5ギアg5に伝達される。
かような第1モータMG1の具体例としては、不図示のインバーターなどを介して制御される公知の同期モータなどを適用してもよい。
【0029】
さらに本実施形態においては、この第1モータMG1の出力軸OSは、図1から明らかなとおり、前輪側の駆動軸11Fと平行となるように配置(このモータの配置態様を「横置き」とも称する)されていてもよい。これにより、(本例の場合は前輪側の駆動軸11Fへ)直交ギアを介さず平歯車を適用して効率良く第1モータMG1で発生する駆動力を伝達することが可能となっている。
また、不図示のバッテリーへの回生充電時にも直交ギアが介在しないことで、駆動輪から第1モータMG1への伝達効率が下がってしまうことを抑制可能となっている。このように本実施形態では、プロペラシャフト10へ機械的に接続された第2モータMG2でなく前輪側と機械的に接続された第1モータMG1で回生充電を行っていることから、より高い効率でバッテリーへの回生充電を実行可能となっている。
【0030】
第2モータMG2は、上記した第1切り離し機構40と第2切り離し機構50との間に接続されている。より具体的には、本実施形態においては、第1切り離し機構40と第2切り離し機構50との間であって、プロペラシャフト10に対して公知の減速機60を介して接続されている。なお本実施形態の第2モータMG2は、上記した減速機60を介してプロペラシャフト10に接続されているが、この形態に限られず減速機60に代えて公知の変速機を介して接続されていてもよい。
【0031】
さらに本実施形態においては、この第2モータMG2の出力軸OSは、図1に示すとおり、プロペラシャフト10と平行となるように配置されていてもよい。換言すれば、本実施形態においては、第1モータMG1の出力軸OSと第2モータMG2の出力軸OSとは、互いに直交する配置関係となっていることが好ましい。これにより、第2モータMG2についても直交ギアが介在せずにプロペラシャフト10に駆動力を伝達することが可能となっている。
【0032】
また、この第2モータMG2の最大出力(定格出力)は、上記した第1モータMG1の最大出力(定格出力)より高いことが好ましい。これにより、後述する制御部ECUによるトルク分配制御において、走行状態に応じてより最適なトルク分配を実現することが可能となっている。
【0033】
<駆動力伝達系の詳細な構成>
図1に示すとおり、本実施形態においては、第1モータMG1における出力軸OSには平歯車で構成された第1ギアg1が設けられている。また、第1モータMG1における出力軸OSと前輪側の駆動軸11Fとの間には、第1モータMG1からの駆動力や駆動輪からの回生力を中継可能な中間シャフトTsが設置されている。
【0034】
この中間シャフトTsは、本実施形態においては、第1モータMG1における出力軸OSや前輪側の駆動軸11Fと平行となるように設置されている。また、中間シャフトTsには、上記した第1ギアg1と噛み合う第2ギアg2と、リングギア22と噛み合う第3ギアg3と、直交ギアで構成された第4ギアg4および第1切り離し機構40とがそれぞれ接合されている。
【0035】
従って、例えば第1モータMG1から発生した駆動力は、第1ギアg1、第2ギアg2、第3ギアg3、リングギア22の順に伝達されて前輪側の駆動軸11Fの駆動輪へと到達するように構成される。また、第1切り離し機構40が維持状態の場合には、第1モータMG1から発生した駆動力は、第1ギアg1、第2ギアg2、第4ギアg4の順に伝達されてプロペラシャフト10の第5ギアg5へと到達するように構成される。換言すれば、第1モータMG1の回転は、少なくとも一部が第1切り離し機構40を介してプロペラシャフト10や後輪側の駆動軸11Rへと伝達され得る。
【0036】
<制御部ECUによるトルク分配制御>
次に図2を用いて本実施形態における制御部ECUによるトルク分配制御について詳述する。
本実施形態の制御部ECUは、公知のマイクロコンピュータを中心として構成され、不図示のインバーターを介して第1モータMG1や第2モータMG2を制御するとともに、車両挙動を制御する公知のビークルダイナミクス制御(VDC)部などを含んで構成されている。各種の制御ユニットは、通信バスによって形成される車内ネットワーク(CANなど)を介して各種演算値等の制御情報や車速センサーなど各種センサーによって検出した制御パラメータ情報を相互に交換してモータ駆動力制御や車両挙動制御等を実行している。
【0037】
さらに制御部ECUは、上記した駆動力伝達系を制御することで前後の駆動輪に対して最適なトルク分配を実行する機能を備えている。より具体的に、本実施形態における制御部ECUは、上記した第1切り離し機構40および第2切り離し機構50の切り離しを制御する機能を有している。
【0038】
かような制御装置ECUによる前後のトルク分配制御の一例を図2に示す。
同図に示されるとおり、制御装置ECUは、第1モータMG1と第2モータMG2の出力状態に応じて第1切り離し機構40および第2切り離し機構50における切り離しの制御を行うように構成されている。
【0039】
以下、ある特定の走行条件または走行状態における非制限的なトルク分配制御の例を、図3図6を用いて説明する。
[第1の状態]
図2に示されるとおり、第1の状態としては、電動モータ式4輪駆動車100の発進時または低μ路走行時が例示できる。また、この第1の状態における電動モータからの駆動力の伝達並びにトルク分配の状態を図3に示す。
【0040】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を維持するとともに第2差動機構30とプロペラシャフト10との接続を維持するように、第1切り離し機構40および第2切り離し機構50を制御する。これと並行して、制御装置ECUは、第1モータMG1の駆動を停止するとともに不図示のインバーターを介して第2モータMG2から駆動力をプロペラシャフト10へ伝達させる制御を行う。
【0041】
これにより、第1モータMG1からの出力は行われず、第2モータMG2からの出力がプロペラシャフト10を介して前輪側の駆動軸11Fと後輪側の駆動軸11Rにそれぞれ伝達される。
ここで、本実施形態では、第1の状態として、それなりにトルクを必要とする発進時や、積雪、氷結あるいは雨などで滑りやすくなった路面状態の時などを想定している。かような状態下においては、第1モータMG1に比して高出力の第2モータMG2を用いつつ上記の切り離し状態とすることで、プロペラシャフト10を介して高出力の第2モータMG2からすべての駆動輪に対して駆動力を安定して伝達させることが可能となっている。
【0042】
[第2の状態]
図2に示されるとおり、第2の状態としては、電動モータ式4輪駆動車100がほぼ一定の速度で走行する時や、走路状態が悪くなく高いトルクを必要としない通常走行時が例示できる。また、この第2の状態における電動モータからの駆動力の伝達並びにトルク分配の状態を図4に示す。
【0043】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を切り離すとともに第2差動機構30とプロペラシャフト10との接続を切り離すように、第1切り離し機構40および第2切り離し機構50を制御する。これと並行して、制御装置ECUは、第2モータMG2の駆動を停止するとともに不図示のインバーターを介して第1モータMG1から駆動力を中間シャフトTsへ伝達させる制御を行う。
【0044】
これにより、第2モータMG2からの出力は行われず、第1モータMG1からの出力が前輪側の駆動軸11Fに伝達される。
上述したとおり、第2の状態では高いトルクを必要としないことから、第2モータMG2に比して低出力の第1モータMG1から前輪側のみに駆動力(トルク)が分配される省エネ重視の2輪駆動構成となっている。なお本実施形態では第1モータMG1から前輪側のみにトルクが分配される構成としたが、これに限られず例えば後輪側に第1モータMG1を設置する構成として後輪側のみに駆動力(トルク)が分配される構成としてもよい。
【0045】
また、第2差動機構30とプロペラシャフト10との接続を切り離すように第2切り離し機構50を制御しているが、第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を切り離しつつ第2モータMG2からの出力を停止する限りにおいて、第2差動機構30とプロペラシャフト10との接続は維持される形態としてもよい。
【0046】
[第3の状態]
図2に示されるとおり、第3の状態としては、路面状況が悪い不整路を走行する時や高いトルクを必要とする登坂走行時が例示できる。また、この第3の状態における電動モータからの駆動力の伝達並びにトルク分配の状態を図5に示す。
【0047】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を維持するとともに第2差動機構30とプロペラシャフト10との接続を維持するように、第1切り離し機構40および第2切り離し機構50を制御する。これと並行して、制御装置ECUは、不図示のインバーターを介して第1モータMG1および第2モータMG2の双方から駆動力をそれぞれ中間シャフトTsとプロペラシャフト10へと伝達させる制御を行う。
【0048】
これにより第1モータMG1からの出力および第2モータMG2からの出力が、プロペラシャフト10や中間シャフトTsを介して前輪側の駆動軸11Fと後輪側の駆動軸11Rに伝達される。
上述したとおり、第3の状態では高いトルクを必要とする状況であることから、第1モータMG1と第2モータMG2をフル駆動して前後すべての駆動輪に最大限の駆動力が分配されるハイパワー重視の構成となっている。これにより、例えばSUVタイプの車両には特に好適な高い走破性を、2つの電動モータとプロペラシャフト10を介して実現することが可能となっている。
【0049】
[第4の状態]
図2に示されるとおり、第4の状態としては、ハンドル操作が機微なスポーツ走行時が例示できる。また、この第4の状態における電動モータからの駆動力の伝達並びにトルク分配の状態を図6に示す。
【0050】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を切り離すとともに第2差動機構30とプロペラシャフト10との接続を維持するように、第1切り離し機構40および第2切り離し機構50を制御する。これと並行して、制御装置ECUは、不図示のインバーターを介して第1モータMG1および第2モータMG2の双方から駆動力をそれぞれ中間シャフトTsとプロペラシャフト10へと伝達させる制御を行う。
【0051】
これにより、第1モータMG1からの出力が前輪側の駆動軸11Fに伝達されるとともに、第2モータMG2からの出力が後輪側の駆動軸11Rに伝達される。
上述したとおり、第4の状態ではサーキット走行など車両の運動性が高くトルクも必要とする状況であることから、上記した第1モータMG1と第2モータMG2とで前輪側と後輪側をそれぞれ分担する形で互いに独立して駆動力が分配される構成となっている。これにより前輪側と後輪側でトルクベクタリングを図り、2つの電動モータとプロペラシャフト10を介して前後のトルク配分をコントロールしながら走行することが可能となっている。
【0052】
<電動モータ式4輪駆動車100における駆動制御方法>
次に図7を参照しつつ、本実施形態に係る制御部ECUによる電動モータ式4輪駆動車100の駆動制御方法について説明する。なお以下の説明では、制御部ECUによるトルク分配制御の一例として、上記した第1の状態乃至第4の状態を適宜選択する例について説明する。しかしながら当該第1の状態乃至第4の状態は例示であって、これら以外の状態を採用してもよい。
【0053】
電動モータ式4輪駆動車100に搭乗した運転者が電動モータを始動後、まずステップ1において自動モードが設定されているか否かが制御部ECUにおいて判定される。そしてステップ1で自動モードが設定されている場合にはステップ2-1に移行し、自動モードが設定されていない場合にはステップ2-2にそれぞれ移行する。
【0054】
自動モードが設定されているステップ2-1では、制御部ECUの制御の下で、電動モータ式4輪駆動車100に具備された速度/加速度センサーやジャイロセンサーからの速度・加速度・角速度に関する情報、アクセルペダルの開度やステアリングホイールの操舵角度などの運転者操作に関する情報などの各種センサーからの情報、あるいは車載カメラやナビゲーションシステムなどの車載機器から各種情報などが取得される。なお、本ステップ2-2で取得される情報の一例としては、例えば速度、加速度、角加速度、車速パルス、画像情報、位置情報あるいは地図情報などが例示できる。
【0055】
次いでステップ3-1では、制御部ECUの制御の下で、上記取得した各種の情報に基づいて最適な状態が決定される。より具体的には、制御部ECUは、例えば取得した車速情報に基づいて電動モータ式4輪駆動車100が発進時であると判定される場合には、上記した第1の状態となるように各電動モータや各切り離し機構を制御する。また、例えば加速度情報や上記地図情報に基づいて電動モータ式4輪駆動車100が登坂中であると判定される場合には、上記した第3の状態となるように各電動モータや各切り離し機構を制御する。
【0056】
このように本実施形態では、電動モータ式4輪駆動車100の走行状況を各種センサーや車載機器からの情報で判定し、この判定結果に基づいて最適なトルク分配となるように各電動モータや各切り離し機構を制御している。これにより、運転者が特に煩わしい操作を省略しつつ様々な路面状況に対する高い走破性と操縦安定性を両立することが可能となっている。また、電動モータ式4輪駆動車100の走行状況を各種センサーや車載機器からの情報で判定して最適なトルク分配を行えることから、2つの電動モータを用いて駆動輪への効率的な駆動力の伝達が実現される。
【0057】
続くステップ4-1では、運転者など搭乗者からモードの変更があったか否かが判定される。より具体的には、制御部ECUの制御の下で、自動モードから手動モードへの切り替えがあったかが判定され、手動モードへの切り替えがある場合にはステップ2-2に移行する。他方でモード変更がない場合には、続くステップ5-1で電動モータの電源OFFがなされたかが判定される。そしてステップ5-1で電動モータの電源がOFFとされていない場合には、ステップ2-1に戻って以降の処理を再び継続する制御が実行される。
【0058】
次に手動モードでスタートする場合の例について説明する。
すなわちステップ1で手動モードであると判定された場合には、ステップ2-2で現在の状態で制御が開始される。通常、電動モータの電源が投入されて始動となるときは発進時であるので、ステップ1から移行した際は第1の状態となるように各電動モータや各切り離し機構が制御される。他方でステップ4-1から移行した際には、そのときの状態が維持されて制御が継続される。
【0059】
そして続くステップ3-2ではモード変更の有無が判定され、変更があった場合には上記したステップ2-1へ移行するとともに、変更がない場合にはステップ4-2へ移行する制御が実行される。
モード変更がない場合に続くステップ4-2では、運転者などの搭乗者による状態の変更があるか否かが判定され、状態の変更がある場合にはステップ5-2で新たに選択された状態となるように各電動モータや各切り離し機構が制御される。他方、ステップ4-2で状態の変更がない場合にはステップ2-2へ戻って以降の制御が継続される。
上記したステップ5-2で新たに選択された状態で制御が開始された後は、ステップ6で電動モータの停止(電源OFF)がなされたか判定される。そしてステップ6で電動モータの電源がOFFとされていない場合には、ステップ2-2に戻って以降の処理を再び継続する制御が実行される。
【0060】
このように本実施形態における電動モータ式4輪駆動車100における駆動装置によれば、2つの電動モータとプロペラシャフトとで四輪を機械的に直結した構造を採用しつつ、上記した2つの切り離し機構によって駆動輪へのトルク/駆動力の分配を図っていることから、これら電動モータの回転を効率よく駆動輪に伝達することが可能となっている。
また、本実施形態における電動モータ式4輪駆動車100における駆動制御方法によれば、自動モードが選択される場合には車載されるセンサーや機器からの各種情報に基づいて取り得る最適な状態が設定されるので、様々な路面状況に対する高い走破性と操縦安定性を維持しつつ効率的な駆動輪への駆動力の伝達が実現できる。
【0061】
なお上記した実施形態は本発明の好適な一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、実施形態の各要素を適宜組み合わせて新たな構造や制御を実現してもよい。
例えば上記した実施形態では、第1モータMG1には減速機又は変速機が介在しない形態を説明したが、これに限られず第2モータMG2と同じ仕様としてもよく、さらに第1モータMG1側に減速機又は変速機を設置してもよい。
また、回生充電の効率を鑑みて第1モータMG1で回生充電を行う例を説明したが、これに限られず第2モータMG2で回生充電を行ってもよいし、双方のモータで回生充電を行ってもよい。
また、上記した実施形態では第1モータMG1と第2モータMG2のツインモータ構成としたが、これに限られず合計3つ以上の電動モータを搭載する形態であってもよい。
【0062】
以上説明したように、本発明の電動モータ式4輪駆動車における駆動装置およびその制御方法は、効率的なトルク配分によって高い走破性と操縦安定性を維持可能な4輪駆動車を実現するのに適している。
【符号の説明】
【0063】
100 電動モータ式4輪駆動車
10 プロペラシャフト
20 第1差動機構
30 第2差動機構
40 第1切り離し機構
50 第2切り離し機構
MG1 第1モータ
MG2 第2モータ
ECU 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7