(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】リアサスペンションとそのコイルスプリング
(51)【国際特許分類】
B60G 11/16 20060101AFI20230816BHJP
F16F 1/12 20060101ALI20230816BHJP
F16F 15/067 20060101ALI20230816BHJP
【FI】
B60G11/16
F16F1/12 D
F16F15/067
(21)【出願番号】P 2020161376
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 恒生
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 秀典
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-242968(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1986328(KR,B1)
【文献】実開昭59-172846(JP,U)
【文献】実開昭57-042232(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2004/0094879(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102007062596(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 - 99/00
F16F 1/00 - 6/00
F16F 15/00 - 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のリアサスペンションであって、
車体と車軸との間に介在するコイルスプリングを備え、
前記コイルスプリングは、前記車体側に取り付けられる第1の端と、前記車軸側に取り付けられる第2の端とを有し、
前記第1の端では、座巻部が粘弾性材料によって被覆されており、
前記コイルスプリングの前記第2の端では、座巻部が粘弾性材料によって被覆されていない、リアサスペンション。
【請求項2】
前記コイルスプリングの前記第1の端は、前記コイルスプリングの上端であり、
前記コイルスプリングの前記第2の端は、前記コイルスプリングの下端であり、
前記コイルスプリングが前記車両に組み付けられたときに、前記コイルスプリングの前記上端は前記下端よりも上方に位置する、請求項
1に記載のリアサスペンション。
【請求項3】
前記粘弾性材料は、ゴム材料である、請求項1
又は2に記載のリアサスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、車両用のリアサスペンションに関する。
【0002】
特許文献1に、車両用のリアサスペンションが開示されている。このリアサスペンションは、車体と車軸との間に介在するコイルスプリングを備え、コイルスプリングの一端が、スプリングシートラバーを介して車体に取り付けられる構成となっている。スプリングシートは、スプリングインシュレータとも称され、振動の伝達や異音の発生を抑制するために設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したリアサスペンションでは、車体に対してコイルスプリングを組み付けるときに、スプリングシートラバーの脱落や位置ずれといった不具合が生じることがあり、それによって車両の生産性が低下するという問題がある。本明細書は、そのような不具合を回避して、車両の生産性を向上し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、車両用のリアサスペンションに具現化される。このリアサスペンションは、車体と車軸との間に介在するコイルスプリングを備え、コイルスプリングの少なくとも一方の端では、座巻部が粘弾性材料によって被覆されている。
【0006】
上記した構造によると、座巻部を被覆する粘弾性材料が、スプリングシートラバーと同様に機能して、振動の伝達や異音の発生を抑制することができる。従って、コイルスプリングの両端のうち、座巻部が粘弾性材料によって被覆された少なくとも一方の端では、スプリングシートラバーを設ける必要がなく、その脱落や位置ずれといった不具合を避けることができる。これにより、車両の生産性を有意に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】車両に取り付けられたリアサスペンション10を後方から示す図。
【
図4】一変形例のコイルスプリング12Aを単体で示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本技術の一実施形態において、コイルスプリングは、車体側に取り付けられる第1の端と、車軸側に取り付けられる第2の端とを有してもよい。この場合、第1の端では、座巻部が粘弾性材料によって被覆されていてもよい。このような構成によると、車体とコイルスプリングとの間において、スプリングシートラバーを省略することできる。この点に関して、従来のリアサスペンションでは、コイルスプリングを車体へ組み付けるときに、車体とコイルスプリングとの間に配置されるスプリングシートラバーにおいて、脱落や位置ずれといった不具合が生じやすいことが確認されている。従って、車体とコイルスプリングとの間でスプリングシートラバーを省略することができれば、車両の生産性を効果的に向上することができる。
【0009】
上記した実施形態において、コイルスプリングの第2の端では、座巻部が粘弾性材料によって被覆されていなくてもよい。即ち、コイルスプリングと車軸との間については、従来と同様に、スプリングシートラバー(あるいは、スプリングインシュレータ)が設けられてもよい。コイルスプリングを車体へ組み付けるときに、通常、コイルスプリングを含むリアサスペンションは、車軸とともに予め組み立てられている。この場合、コイルスプリングに対して車軸側に配置されたスプリングシートラバーに、脱落や位置ずれといった不具合は生じ難い。そのことから、コイルスプリングの車軸側の端(即ち、第2の端)については、スプリングシートラバーの利用を前提として、粘弾性材料による被覆を省略してもよい。
【0010】
上記した実施形態において、コイルスプリングの第1の端は、コイルスプリングが車両に組み付けられたときに、コイルスプリングの第1の端は、コイルスプリングの第2の端よりも上方に位置してもよい。即ち、車体側に取り付けられる第1の端が、コイルスプリングの上端であって、車軸側に取り付けられる第2の端が、コイルスプリングの下端であってもよい。但し、他の実施形態として、コイルスプリングは、水平に配置されてもよい。あるいは、車体側に取り付けられる第1の端が、コイルスプリングの下端であって、車軸側に取り付けられる第2の端が、コイルスプリングの上端であってもよい。
【0011】
本技術の一実施形態において、粘弾性材料はゴム材料であってもよい。ゴム材料は、適度な柔軟性や耐久性を有しており、また、振動の伝達や異音の発生を抑制する機能においても優れている。但し、他の実施形態として、粘弾性材料は、樹脂材料やエラストマであってもよい。
【実施例】
【0012】
図面を参照して、実施例のリアサスペンション10について説明する。本実施例のリアサスペンション10は、路面を走行する車両(いわゆる自動車)用のサスペンションであって、特に、その後輪8のためのサスペンションである。本実施例のリアサスペンション10は、特に限定されないが、エンジン車、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車といった各種の車両に採用することができる。
【0013】
ここで、図面における方向FRは、車両の前後方向(車長方向)における前方を示し、方向RRは車両の前後方向における後方を示す。また、方向LHは車両の左右方向(車幅方向)における左方を示し、方向RHは車両の左右方向における右方を示す。そして、方向UPは車両の上下方向(車高方向)における上方を示し、方向DNは車両の上下方向における下方を示す。なお、本明細書では、車両の前後方向、左右方向及び上下方向を、それぞれ単に前後方向、左右方向及び上下方向と称することがある。
【0014】
図1、
図2に示すように、リアサスペンション10は、コイルスプリング12と、ショックアブソーバ14と、複数のサスペンションアーム16と、スプリングインシュレータ18とを備える。コイルスプリング12は、ばね部品の一種であって、弾性材料で構成された素線を、コイル状に成形したものである。なお、コイルスプリング12は、圧縮荷重のために設計された圧縮コイルスプリングである。特に限定されないが、本実施例におけるコイルスプリング12は、スプリング鋼で構成されており、概して円筒形状を有している。但し、コイルスプリング12を構成する材料や、コイルスプリング12の形状については、特に限定されない。コイルスプリング12は、円筒コイルスプリングに限定されず、例えば、円すいコイルスプリング、たる形コイルスプリング、つづみ形コイルスプリングであってもよい。
【0015】
コイルスプリング12は、車体2とサスペンションアーム16との間に位置しており、車体2と車軸6との間に介在するように配置されている。詳しくは、コイルスプリング12の上端20は、車体2に下方から当接しており、車体2に取り付けられている。コイルスプリング12の下端30は、複数のサスペンションアーム16の一つに上方から当接しており、当該サスペンションアーム16を介して車軸6に取り付けられている。ここでいう車軸6とは、後輪8を回転可能に支持する機械的アセンブリを意味する。詳しくは後述するが、車軸6は、複数のサスペンションアーム16によって、上下方向へ変位可能に支持されている。車軸6が上下方向に変位すると、複数のサスペンションアーム16はそれぞれ揺動する。コイルスプリング12は、サスペンションアーム16の揺動に応じて(即ち、車軸6の変位に応じて)変形することで、路面の凹凸を車体2に伝えないように機能する。
【0016】
特に限定されないが、
図1に示す車体2の一部は、リアサイドメンバであって、車体2の前後方向に延びる骨格部材である。車体2のリアサイドメンバには、コイルスプリング12の上端20を保持するためのスプリングシート2aが設けられている。スプリングシート2aは、車体2と同じく金属で構成されており、リアサイドメンバに溶接によって固定されている。また、車体2には、リアサスペンションメンバ4が取り付けられている。リアサスペンションメンバ4は、車両の製造時において、リアサスペンション10とともに車体2に取り付けられる。リアサスペンションメンバ4は、車体2に固定されており、車体2の一部と解釈することもできる。言い換えると、リアサスペンションメンバ4、又はそれに類する構造体が、車体2に対して一体に設けられていてもよい。
【0017】
一方、本実施例における車軸6は、車軸本体6aと、ハブ6bと、ブレーキユニット6cとを備える。車軸本体6aは、複数のサスペンションアーム16を介して、車体2及びリアサスペンションメンバ4に取り付けられており、車体2に対して上下方向へ変位可能となっている。ハブ6bは、車軸本体6aによって回転可能に支持されているとともに、後輪8が着脱可能に構成されている。ブレーキユニット6cは、例えばユーザのブレーキ操作に応じて、後輪8が取り付けられたハブ6bに制動力を加えることができる。なお、ここで説明した車軸6の構成は一例であり、車軸6の具体的な構成については特に限定されない。
【0018】
ショックアブソーバ14は、コイルスプリング12に起因する振動を減衰するための機械要素である。ショックアブソーバ14は、車体2と車軸6との間に介在しており、車体2に対する車軸6の振動を減衰するように構成されている。特に限定されないが、本実施例におけるショックアブソーバ14は、その上端(図示省略)において車体2に固定されており、その下端において車軸6に固定されている。ショックアブソーバ14の具体的な構成については特に限定されない。例えば、ショックアブソーバは、伸縮式のショックアブソーバであってよく、また、オイル式といった流体式のショックアブソーバであってよい。なお、本実施例におけるリアサスペンション10では、ショックアブソーバ14がコイルスプリング12の外側に配置されている;が、他の実施形態として、ショックアブソーバ14がコイルスプリング12の内側に配置されてもよい。即ち、ショックアブソーバ14が、コイルスプリング12と同軸に配置されてもよい。
【0019】
複数のサスペンションアーム16は、前述したように、車軸6を上下方向へ変位可能に支持している。複数のサスペンションアーム16には、車両の左右方向に延びるものや、車両の前後方向に延びるものなど、様々な態様のものが含まれる。なお、
図1では、車両の左右方向に延びるサスペンションアーム16が図示されている。各々のサスペンションアーム16は、一端16aにおいて車軸6に枢動可能に接続されており、他端16bにおいて車体2又はリアサスペンションメンバ4に枢動可能に接続されている。複数のサスペンションアーム16の数や配置、並びに、各々のサスペンションアーム16の構造については特に限定されない。一例ではあるが、
図1に示すサスペンションアーム16は、上部が開放されたチャネル形状を有しており、その内部にコイルスプリング12の下端30を収容している(
図2参照)。
【0020】
図2、
図3に示すように、コイルスプリング12の上端20では、座巻部22に被膜24が設けられている。被膜24は、粘弾性材料によって構成されており、座巻部22を被覆している。被膜24は、コイルスプリング12の上端20の座巻部22と、車体2のスプリングシート2aとの間に介在しており、振動の伝達や異音の発生を抑制することができる。そのことから、コイルスプリング12の上端20では、スプリングインシュレータといった防振部材を設ける必要がない。これにより、車体2に対してコイルスプリング12を組み付けるときに、スプリングインシュレータの脱落や位置ずれといった不具合を避けることができる。これにより、車両の生産性を有意に向上することができる。
【0021】
一方、コイルスプリング12の下端30では、座巻部32が粘弾性材料によって被覆されていない。従って、コイルスプリング12の下端30では、座巻部32とサスペンションアーム16との間にスプリングインシュレータ18が設けられている。スプリングインシュレータ18は、ゴム材料といった粘弾性材料で構成されており、振動の伝達や異音の発生を抑制することができる。なお、車軸6側に位置するスプリングインシュレータ18は、車両の生産において、脱落や位置ずれといった不具合が生じ難い。その理由として、リアサスペンション10は、車体2へ取り付けられる前に、リアサスペンションメンバ4及び車軸6と合わせて、予め組み立てておくことができる。そのことから、コイルスプリング12の下端30(即ち、車軸6側に位置する端)については、スプリングインシュレータ18の利用を前提として、粘弾性材料による被覆を省略することができる。
【0022】
しかしながら、
図4に示すように、一変形例のコイルスプリング12Aでは、コイルスプリング12の上端20だけでなく、下端30においても座巻部32に粘弾性材料による被膜34が設けられてもよい。このような構成によると、スプリングインシュレータ18を省略することが可能となり、部品点数や作業工数を削減することによって、車両の生産性を向上することができる。なお、さらに別の変形例では、コイルスプリング12の下端30のみに対して、座巻部32に粘弾性材料による被膜34が設けられてもよい。
【0023】
以上のように、本実施例のリアサスペンション10では、コイルスプリング12の少なくとも一方の端において、座巻部22、32が粘弾性材料によって被覆されている。このような構造によると、座巻部22、32を被覆する粘弾性材料が、スプリングインシュレータ18と同様に機能して、振動の伝達や異音の発生を抑制することができる。従って、コイルスプリング12の両端20、30のうち、座巻部22、32が粘弾性材料によって被覆された少なくとも一方の端では、スプリングインシュレータを設ける必要がなく、その脱落や位置ずれといった不具合を避けることができる。これにより、車両の生産性を有意に向上することができる。
【0024】
粘弾性材料による被膜24、34の具体的な構成は、特に限定されない。例えば、被膜24、34の厚みは、0.5mm以上であって10mm以下であってもよいが、これに限定されるものではない。また、本実施例における被膜24、34は、ゴム材料によって構成されているが、被膜24、34を構成する材料には、任意の一つ又は複数の粘弾性材料を採用することができる。被膜24、34を形成する方法についても、金型を用いたインサート成形、溶融させた粘弾性材料のコイルスプリング12への吹き付け、溶融させた粘弾性材料へのコイルスプリング12の浸漬、シート状又はチューブ状に成形した粘弾性材料のコイルスプリング12への接着や圧着等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0026】
2:車体
2a:スプリングシート
4:リアサスペンションメンバ
6:車軸
6a:車軸本体
6b:ハブ
6c:ブレーキユニット
8:後輪
10:リアサスペンション
12:コイルスプリング
14:ショックアブソーバ
16:サスペンションアーム
18:スプリングインシュレータ
20:コイルスプリングの上端
22:コイルスプリングの上端の座巻部
24:コイルスプリングの上端の被膜
30:コイルスプリングの下端
32:コイルスプリングの上端の座巻部
34:コイルスプリングの下端の被膜