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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-15
(45)【発行日】2023-08-23
(54)【発明の名称】耐力壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/56 20060101AFI20230816BHJP
【FI】
E04B2/56 622H
E04B2/56 622J
E04B2/56 622B
E04B2/56 631B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022116811
(22)【出願日】2022-07-22
【審査請求日】2022-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】307042385
【氏名又は名称】ミサワホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 修
(72)【発明者】
【氏名】三津橋 歩
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-152852(JP,A)
【文献】特開平10-131355(JP,A)
【文献】特開2007-063767(JP,A)
【文献】特開2002-294904(JP,A)
【文献】特開平06-264535(JP,A)
【文献】特開2017-128894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56-2/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の柱材と、
前記一対の柱材の上端部間に架け渡されるとともに、前記一対の柱材のうち少なくとも一方の柱材よりも外方に突出する上部構造部と、
前記一対の柱材と前記上部構造部とを含んで構成された架構内に、前記一対の柱材及び前記上部構造部に接して設けられた耐力壁部と、
前記少なくとも一方の柱材の上端部から前記外方に突出して設けられ、かつ、前記上部構造部のうち前記少なくとも一方の柱材よりも前記外方に突出した部位の下面に接して前記上部構造部を支持する支持部材と、を備えており、
前記支持部材は、上下方向よりも前記上部構造部が前記外方に突出している方向に長く形成されて、かつ、前記少なくとも一方の柱材の長さ方向と直交する方向に伸びており、
前記耐力壁部の上端部と、前記少なくとも一方の柱材の上端部及び前記支持部材とが接合手段によって接合されていることを特徴とする耐力壁構造。
【請求項2】
請求項1に記載の耐力壁構造において、
前記接合手段は、接合ボルトであり、
前記接合ボルトは、前記少なくとも一方の柱材の上端部を貫通した状態で前記耐力壁部の上端部と前記支持部材にかけて配置されて固定されていることを特徴とする耐力壁構造。
【請求項3】
請求項2に記載の耐力壁構造において、
前記支持部材における前記柱材側の端部には、前記接合ボルトの一端部が露出する第一開口部が形成され、当該第一開口部内で前記接合ボルトの一端部にナットが締め付けられており、
前記耐力壁部の上端部における前記柱材側の端部には、前記接合ボルトの他端部が露出する第二開口部が形成され、当該第二開口部内で前記接合ボルトの他端部にナットが締め付けられていることを特徴とする耐力壁構造。
【請求項4】
請求項3に記載の耐力壁構造において、
前記耐力壁部の前記第二開口部には、低降伏点鋼材製のダンパーが設けられ、
前記接合ボルトの他端部は、前記ダンパーを貫通した状態で前記ナットが締め付けられていることを特徴とする耐力壁構造。
【請求項5】
請求項2に記載の耐力壁構造において、
前記支持部材における前記柱材側の端部には、前記接合ボルトの一端部が露出する開口部が形成され、当該開口部内で前記接合ボルトの一端部にナットが締め付けられており、
前記耐力壁部の上端部における前記柱材側の端部には、前記接合ボルトの他端部が埋設されて接着固定されていることを特徴とする耐力壁構造。
【請求項6】
請求項1に記載の耐力壁構造において、
前記上部構造部は、前記一対の柱材よりも左右側方に突出しており、
前記支持部材は、前記一対の柱材における上端部のそれぞれから前記左右側方に突出して設けられ、かつ、前記上部構造部のうち前記一対の柱材よりも前記左右側方に突出した部位の下面に接しており、
前記接合手段は、一本の接合ボルトであり、
前記接合ボルトは、前記一対の柱材及び前記耐力壁部を貫通した状態で前記左右側方の前記支持部材間に亘って配置されて固定されており、
前記左右側方の前記支持部材における前記柱材側の端部には、前記接合ボルトの一端部及び他端部が露出する開口部がそれぞれ形成され、当該開口部内で前記接合ボルトの一端部及び他端部にナットがそれぞれ締め付けられていることを特徴とする耐力壁構造。
【請求項7】
請求項1に記載の耐力壁構造において、
前記接合手段は、表裏両面に設けられる複数の接合プレートであり、
前記表裏両面における前記複数の接合プレートは、前記少なくとも一方の柱材の上端部と前記耐力壁部の上端部と前記支持部材に跨って配置されて固定されていることを特徴とする耐力壁構造。
【請求項8】
一対の柱材と、
前記一対の柱材の上端部間に架け渡されるとともに、前記一対の柱材のうち少なくとも一方の柱材よりも外方に突出する上部構造部と、
前記一対の柱材と前記上部構造部とを含んで構成された架構内に、前記一対の柱材及び前記上部構造部に接して設けられた耐力壁部と、
前記少なくとも一方の柱材の上端部から前記外方に突出して設けられ、かつ、前記上部構造部のうち前記少なくとも一方の柱材よりも前記外方に突出した部位の下面に接して前記上部構造部を支持する支持部材と、を備えており、
前記耐力壁部の上端部と、前記少なくとも一方の柱材の上端部及び前記支持部材とが接合手段によって接合されており、
前記支持部材を補強するための補強横材が、前記少なくとも一方の柱材の上端部から前記外方に突出し、かつ、前記支持部材の下面に接して設けられていることを特徴とする耐力壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐力壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、木造建物においては、その規模の大小を問わず、必要壁量を満たすように耐力壁を適宜配置して耐震性を確保している。
例えば特許文献1の耐力壁は、土台と、この土台の上に間隔を空けて立てられた一対の柱と、これら一対の柱の上端部間に横架させた梁と、で囲まれる矩形状の開口に面材が取り付けられて構成されている。また、この耐力壁における面材は、梁に釘・ビス等の固定材により固定された補強部分と、この補強部分の下側に当該補強部分と一体的に配され、開口を塞ぐように、土台、梁及び一対の柱に固定材により固定された構面部分とを有している。そして、補強部分と構面部分との間には、割れ誘発目地として溝が設けられており、例えば建物に大きな揺れが生じたときに、あえて溝に亀裂が入るようにして、面材を、構面部分と補強部分に分けることで、構面部分による耐力の保持を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6454045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、木造建物に大きな揺れが生じると、耐力壁と当該耐力壁に接して設けられた他の構造部分との間の接合部やその周囲の構造部分との間の接合部に隙間が空いてしまう場合があるが、耐震性を確保する上では当然好ましくない。そのため、木造建物に大きな揺れが生じても、耐力壁と当該耐力壁に接して設けられた他の構造部分との間の接合部やその周囲の構造部分との間の接合部に隙間が空いてしまうことを防ぐことが求められている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、耐力壁と当該耐力壁に接して設けられた他の構造部分との間の接合部やその周囲の構造部分との間の接合部に隙間が空いてしまうことを防いで、木造建物の耐震性を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、例えば図1図7に示すように、
一対の柱材1と、
前記一対の柱材1の上端部間に架け渡されるとともに前記一対の柱材1のうち少なくとも一方の柱材1よりも外方に突出する上部構造部2と、
前記一対の柱材1と前記上部構造部2とを含んで構成された架構内に、前記一対の柱材1及び前記上部構造部2に接して設けられた耐力壁部10と、
前記少なくとも一方の柱材1の上端部から前記外方に突出して設けられ、かつ、前記上部構造部2のうち前記少なくとも一方の柱材よりも前記外方に突出した部位の下面に接して前記上部構造部2を支持する支持部材3と、を備えており、
前記支持部材3は、上下方向よりも前記上部構造部2が前記外方に突出している方向に長く形成されて、かつ、前記少なくとも一方の柱材1の長さ方向と直交する方向に伸びており、
前記耐力壁部10の上端部と、前記少なくとも一方の柱材1の上端部及び前記支持部材3とが接合手段(接合ボルト20,21、接合プレート30)によって接合されていることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、接合手段によって、耐力壁部10の上端部と少なくとも一方の柱材1の上端部と支持部材3との一体性を高めることができる。これにより、木造建物に大きな揺れが生じても、耐力壁部10の上端部と少なくとも一方の柱材1の上端部との間や、少なくとも一方の柱材1の上端部と支持部材3との間に隙間が空いてしまうことを抑制できる。さらに、これら耐力壁部10と少なくとも一方の柱材1と支持部材3による上部構造部2の支持も安定性が増すので、結果的に、木造建物の耐震性を確保することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、例えば図1図5に示すように、請求項1に記載の耐力壁構造において、
前記接合手段は、接合ボルト20であり、
前記接合ボルト20は、前記少なくとも一方の柱材1の上端部を貫通した状態で前記耐力壁部10の上端部と前記支持部材3にかけて配置されて固定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、接合ボルト20によって、耐力壁部10の上端部と、少なくとも一方の柱材1の上端部及び支持部材3とを接合できるので、木造建物に大きな揺れが生じても、耐力壁部10の上端部と少なくとも一方の柱材1の上端部との間や、少なくとも一方の柱材1の上端部と支持部材3との間に隙間が空いてしまうことを抑制でき、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、例えば図1図4に示すように、請求項2に記載の耐力壁構造において、
前記支持部材3における前記柱材1側の端部には、前記接合ボルト20の一端部が露出する第一開口部3aが形成され、当該第一開口部3a内で前記接合ボルト20の一端部にナット22が締め付けられており、
前記耐力壁部10の上端部における前記柱材1側の端部には、前記接合ボルト20の他端部が露出する第二開口部10aが形成され、当該第二開口部10a内で前記接合ボルト20の他端部にナット22が締め付けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、接合ボルト20及びナット22を、耐力壁構造の表裏両面からはみ出ないように納めた状態で、耐力壁部10の上端部と、少なくとも一方の柱材1の上端部及び支持部材3とを接合できる。これにより、壁厚が必要以上に厚くなることを抑えつつ、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、例えば図4に示すように、請求項3に記載の耐力壁構造において、
前記耐力壁部10の前記第二開口部10aには、低降伏点鋼材製のダンパー24が設けられ、
前記接合ボルト20の他端部は、前記ダンパー24を貫通した状態で前記ナット22が締め付けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、木造建物に揺れが生じたときのエネルギーがダンパー24に伝達されて塑性変形し、揺れのエネルギーを効率良く吸収することができるので、木造建物の耐震性を確保することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、例えば図5に示すように、請求項2に記載の耐力壁構造において、
前記支持部材3における前記柱材1側の端部には、前記接合ボルト20の一端部が露出する開口部3aが形成され、当該開口部3a内で前記接合ボルト20の一端部にナット22が締め付けられており、
前記耐力壁部10の上端部における前記柱材1側の端部には、前記接合ボルト20の他端部20aが埋設されて接着固定されていることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、耐力壁部10の上端部における柱材1側の端部には、接合ボルト20の他端部20aが埋設されて接着固定されているので、耐力壁部10と接合ボルト20との一体性が高まり、木造建物に揺れが生じたときのエネルギーを、接合ボルト20を介して耐力壁部10に伝達できる。
さらに、接合ボルト20及びナット22を、耐力壁構造の表裏両面からはみ出ないように納めた状態で、耐力壁部10の上端部と、少なくとも一方の柱材1の上端部及び支持部材3とを接合できる。これにより、壁厚が必要以上に厚くなることを抑えつつ、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、例えば図6に示すように、請求項1に記載の耐力壁構造において、
前記上部構造部2は、前記一対の柱材1よりも左右側方に突出しており、
前記支持部材3は、前記一対の柱材1における上端部のそれぞれから前記左右側方に突出して設けられ、かつ、前記上部構造部2のうち前記一対の柱材1よりも前記左右側方に突出した部位の下面に接しており、
前記接合手段は、一本の接合ボルト21であり、
前記接合ボルト21は、前記一対の柱材1及び前記耐力壁部10を貫通した状態で前記左右側方の前記支持部材3間に亘って配置されて固定されており、
前記左右側方の前記支持部材3における前記柱材1側の端部には、前記接合ボルト21の一端部及び他端部が露出する開口部3aがそれぞれ形成され、当該開口部3a内で前記接合ボルト21の一端部及び他端部にナット22がそれぞれ締め付けられていることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、一本の接合ボルト21が、一対の柱材1及び耐力壁部10を貫通した状態で左右側方の支持部材3間に亘って配置されて固定されているので、耐力壁部10の上端部と、その左右側方に位置する一対の柱材1の上端部及び左右側方の支持部材3とを、一本の接合ボルト21によって効率良く接合できる。
さらに、一本の接合ボルト21及びナット22を、耐力壁構造の表裏両面からはみ出ないように納めた状態で、耐力壁部10の上端部と、一対の柱材1の上端部及び一対の支持部材3とを接合できる。これにより、壁厚が必要以上に厚くなることを抑えつつ、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、例えば図7に示すように、請求項1に記載の耐力壁構造において、
前記接合手段は、表裏両面に設けられる複数の接合プレート30であり、
前記表裏両面における前記複数の接合プレートは、前記少なくとも一方の柱材1の上端部と前記耐力壁部10の上端部と前記支持部材3に跨って配置されて固定されていることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、複数の接合プレート30が、耐力壁構造の表裏両面において設けられることになり、これら複数の接合プレート30を使って、耐力壁部10の上端部と、少なくとも一方の柱材1の上端部及び支持部材3とを面で接合できる。これにより、木造建物に揺れが生じたときのエネルギーを効果的に分散でき、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、例えば図1図7に示すように、
一対の柱材1と、
前記一対の柱材1の上端部間に架け渡されるとともに前記一対の柱材1のうち少なくとも一方の柱材1よりも外方に突出する上部構造部2と、
前記一対の柱材1と前記上部構造部2とを含んで構成された架構内に、前記一対の柱材1及び前記上部構造部2に接して設けられた耐力壁部10と、
前記少なくとも一方の柱材1の上端部から前記外方に突出して設けられ、かつ、前記上部構造部2のうち前記少なくとも一方の柱材よりも前記外方に突出した部位の下面に接して前記上部構造部2を支持する支持部材3と、を備えており、
前記耐力壁部10の上端部と、前記少なくとも一方の柱材1の上端部及び前記支持部材3とが接合手段(接合ボルト20,21、接合プレート30)によって接合されており、
前記支持部材3を補強するための補強横材4が、前記少なくとも一方の柱材1の上端部から前記外方に突出し、かつ、前記支持部材3の下面に接して設けられていることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、接合手段によって、耐力壁部10の上端部と少なくとも一方の柱材1の上端部と支持部材3との一体性を高めることができる。これにより、木造建物に大きな揺れが生じても、耐力壁部10の上端部と少なくとも一方の柱材1の上端部との間や、少なくとも一方の柱材1の上端部と支持部材3との間に隙間が空いてしまうことを抑制できる。さらに、これら耐力壁部10と少なくとも一方の柱材1と支持部材3による上部構造部2の支持も安定性が増すので、結果的に、木造建物の耐震性を確保することができる。
また、補強横材4が、少なくとも一方の柱材1の上端部から外方に突出し、かつ、支持部材3の下面に接して設けられているので、支持部材3の上下方向の寸法を長くできる。これにより、支持部材3による上部構造部2の支持の安定性が増し、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
さらに、例えば支持部材3に開口部3aが形成されるなどして部分的に剛性の向上が必要な部位があっても、補強横材4によって、支持部材3の上下寸法を大きくして当該支持部材3を補強できるので、支持部材3に必要な剛性を確保できる。
また、支持部材3は、柱材1が地震等の振動エネルギーを受けて外方(支持部材3側)に押された時に、支持部材3だけではその圧縮力を負担できない場合があるが、このように補強横材4が設けられていれば、柱材1が押された時の圧縮力を負担して補強することができ、結果的に、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐力壁と当該耐力壁に接して設けられた他の構造部分との間の接合部に隙間が空いてしまうことを防ぎ、木造建物の耐震性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】耐力壁構造の一例を示す図であり、(a)は立面図、(b)はA-A線断面図、(c)は耐力壁部を二枚重ねにした場合のA-A線断面図である。
図2】耐力壁部における耐力壁本体を示す斜視図である。
図3】接合ボルトによる接合構造の詳細を示す断面図である。
図4】耐力壁構造の他の一例を示す図であり、(a)は立面図、(b)はA-A線断面図、(c)は低降伏点鋼の構成を示す斜視図である。
図5】耐力壁構造の他の一例を示す図であり、(a)は立面図、(b)はA-A線断面図である。
図6】耐力壁構造の他の一例を示す図であり、(a)は立面図、(b)はA-A線断面図である。
図7】耐力壁構造の他の一例を示す図であり、(a)は立面図、(b)はA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。また、各実施形態に挙げる各要素は可能な限り組み合わせてもよい。
なお、以下の実施形態及び図示例における方向は、あくまでも説明の便宜上設定したものである。また、以下の各実施形態において共通する要素には、共通の符号を付し、説明を適宜省略又は簡略する。
【0025】
〔第1実施形態〕
本実施形態の耐力壁構造は、木造建物において地震や風等による水平荷重に抵抗する機能を有するものであり、図1(a),(b)に示すように、一対の柱材1と、上部構造部2と、一対の支持部材3と、耐力壁部10と、を備えている。以下の説明において、耐力壁構造を構成する各部同士が接する部分は、適宜、接着剤が用いられたり、釘・ビス等の固定材が用いられたりすることで互いに接合固定されているものとする。
なお、本実施形態の木造建物は、中層建築物として建築された住宅であるが、これに限
られるものではなく、高層建築物でもよいし、床面積の広い中層以下の建築物であってもよい。
【0026】
柱材1は、図示しない下部構造部の上面に立設されるものであり、中身が詰まった中実の木材である。本実施形態においては、例えば無垢材(角材:製材)によって構成されているが、これに限られるものではなく、LVL(Laminated Veneer Lumber)、CLT(Cross Laminated Timber)、集成材、その他の材料による中実材でもよい。また、柱材1は、断面視において正方形とされている。
このような柱材1が、一対、下部構造部の上面において互いに間隔を空けて配置されている。
なお、本実施形態の下部構造部は、建築用木質パネルP(図2参照)によって構成された下階の床(以下、下階床パネル)とされているが、これに限られるものではない。その他にも、例えば胴差や梁材、桁材などの横架材でもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0027】
上部構造部2は、一対の柱材1の上端部間に架け渡されるとともに一対の柱材1よりも左右側方(耐力壁構造における幅方向の外側方)に突出するものである。上部構造部2の下面は、一対の柱材1における上端面に接している。
さらに、本実施形態の上部構造部2は、建築用木質パネルP(図2参照)によって構成された上階の床(以下、上階床パネル2)とされている。ただし、これに限られるものではなく、例えば胴差や梁材、桁材などの横架材でもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
なお、本実施形態の上部構造部2は、床であるため、一対の柱材1よりも左右側方に突出するだけでなく、正背方向(前後方向)の少なくとも一方にも突出した状態となっているものとする。
【0028】
一対の支持部材3は、一対の柱材1の上端部から左右側方に、上階床パネル2の下面に沿って突出して上階床パネル2を支持するものである。すなわち、支持部材3は、長さ方向側端面が柱材1における上端部の側面に接し、上面が上階床パネル2の下面に接している。また、支持部材3の厚さ寸法は、柱材1における木口の一辺の寸法と略等しい。
さらに、本実施形態の支持部材3は、建築用木質パネルP(図2参照)によって構成された小壁(以下、小壁パネル3)とされている。ただし、これに限られるものではなく、例えば梁材やまぐさなどの横架材でもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
なお、支持部材3が梁材等の横架材である場合、この横架材は、例えば無垢材(角材:製材)によって構成されるが、これに限られるものではなく、LVL、CLT、集成材等で構成されてもよい。
【0029】
耐力壁部10は、下階床パネルと一対の柱材1と上階床パネル2を含んで構成された架構内に、下階床パネルと一対の柱材1と上階床パネル2に接して設けられた壁体であり、本実施形態における耐力壁構造の本体部分を構成している。耐力壁部10の厚さ寸法は、小壁パネル3の厚さ寸法及び柱材1における木口の一辺の寸法と略等しい。
本実施形態の耐力壁部10は、耐力壁構造の本体部分として、地震や風などの水平荷重に抵抗する役割を担うものであり、耐力壁本体11と、調整材12と、を有する。
なお、調整材12は、例えば無垢材(角材:製材)、LVL、CLT、集成材等で構成されて、耐力壁本体11の高さ調整のために設けられている。耐力壁本体11の高さ調整が必要ない場合は省略してもよい。
【0030】
本実施形態の耐力壁本体11は、建築用木質パネルPによって構成されており、下端面は調整材12の上面に接し、両側端面は一対の柱材1に接し、上端面は上階床パネル2の下面に接している。なお、調整材12を用いない場合、下端面は、下階床パネルの上面に接する。
【0031】
ここで、建築用木質パネルPとは、壁や床、屋根といった建物の構成要素を予め工場でパネル化したものを指し、施工現場で建築用木質パネルPが適宜組み立てられて建物が構築される。
このような建築用木質パネルPは、図2に示すように、縦横の框材Fが矩形状に組み立てられるとともに、矩形枠の内部に補助桟材Cが縦横に組み付けられて枠体が構成され、この枠体の両面もしくは片面に、例えば合板からなる面材Bが貼設されたものであり、内部中空な構造となっている。さらに、その内部中空な部分には、通常、グラスウールやロックウール等の断熱材が装填される。
【0032】
建築用木質パネルPが、耐力壁本体11として用いられる場合、建築用木質パネルPは、その長さ方向が木造建物の上下方向と揃う状態で配置される。そして、耐力壁本体11を構成する建築用木質パネルPは、両面(正面・背面)に面材Bが貼設されて構成される。
【0033】
建築用木質パネルPが、下階床パネル及び上階床パネル2として用いられる場合、建築用木質パネルPは、その厚さ方向が木造建物の上下方向と揃う状態で配置される。そして、下階床パネル及び上階床パネル2を構成する建築用木質パネルPは、片面(上面)にのみ面材Bが貼設されて構成され、下面には面材Bが貼設されない。したがって、耐力壁本体11の上端面が上階床パネル2の下面に接する場合において、耐力壁本体11の上端面は、上階床パネル2のうち框材Fの下面もしくは補助桟材Cの下面に接することとなる。
【0034】
建築用木質パネルPが、小壁パネル3として用いられる場合、建築用木質パネルPは、その長さ方向及び厚さ方向が水平方向と揃う状態で配置される。そして、小壁パネル3を構成する建築用木質パネルPは、両面(正面・背面)に面材Bが貼設されて構成される。
なお、建築用木質パネルPが、小壁パネル3として用いられる場合は、上下方向の寸法が短いため、縦横の補助桟材Cのいずれかが適宜省略されてもよい。
【0035】
そして、本実施形態の耐力壁構造においては、耐力壁部10の上端部と、一対の柱材1の上端部及び一対の小壁パネル3とが接合手段によって接合されている。
本実施形態の接合手段は、接合ボルト20であり、本実施形態においては長さ方向両端部に雄ネジが形成された両端ネジボルトとされているが、全ネジボルトであってもよい。
【0036】
接合ボルト20は、2本(一対)用いられている。そして、一方の接合ボルト20が、一方の柱材1の上端部を貫通した状態で、耐力壁部10の上端部における一方と一方の小壁パネル3にかけて配置されて固定されている。また、他方の接合ボルト20が、他方の柱材1の上端部を貫通した状態で、耐力壁部10の上端部における他方と他方の小壁パネル3にかけて配置されて固定されている。
一本の接合ボルト20の長さは短く、一方の柱材1の上端部を貫通した状態で、耐力壁部10の上端部における一方の柱材1側の端部と一方の小壁パネル3における柱材1側の端部にかけて配置できる程度の寸法に設定されている。
【0037】
より具体的に説明すると、一対の小壁パネル3における柱材1側の端部には、接合ボルト20の一端部(小壁パネル3側の端部)が露出する第一開口部3aが形成されている。そして、当該第一開口部3a内で接合ボルト20の一端部に、座金23が設けられて、その上からナット22が締め付けられて設けられている。
さらに、耐力壁部10の上端部における柱材1側の端部(すなわち、左右両側の端部)には、接合ボルト20の他端部(耐力壁部10側の端部)が露出する第二開口部10aが
形成されている。そして、当該第二開口部10a内で接合ボルト20の他端部に、座金23が設けられて、その上からナット22が締め付けられて設けられている。
【0038】
第一開口部3aは、図3に示すように、中空状の小壁パネル3における両面もしくは片面の面材Bに、柱材1側の一辺が、小壁パネル3における柱材1側の框材Fに沿うように角孔が形成されることで構成されている。座金23は、柱材1側の框材Fにおける中空部側の面に接している。
第二開口部10aは、図3に示すように、中空状の建築用木質パネルPである耐力壁本体11における両面もしくは片面の面材Bに、柱材1側の一辺が、耐力壁本体11における柱材1側の框材Fに沿うように角孔が形成されることで構成されている。座金23は、柱材1側の框材Fにおける中空部側の面に接している。
【0039】
すなわち、接合ボルト20は、小壁パネル3における柱材1側の框材Fを貫通し、柱材1の上端部も貫通し、さらに耐力壁本体11における柱材1側の框材Fも貫通している。これにより、柱材1の上端部を貫通した状態で耐力壁部10の上端部と支持部材3にかけて配置されている。
そして、接合ボルト20の両端部にナット22が締め付けられて設けられることで、小壁パネル3における柱材1側の框材Fと、柱材1の上端部と、耐力壁本体11における柱材1側の框材Fとが、ナット22及び座金23によって強固に挟み込まれる。
これにより、耐力壁部10の上端部と、一対の柱材1の上端部及び一対の小壁パネル3とが接合ボルト20によって接合された状態となっている。
【0040】
以上のように構成された耐力壁構造は、地震等の横揺れ振動によって変形が生じると、下階床パネルと上階床パネル2とが互いに水平方向(左右方向)逆方向に変位する。これによって、一対の柱材1も左右に振れて変位し、下階床パネルと一対の柱材1と上階床パネル2を含んで構成された架構が略平行四辺形状に変形する。このとき、耐力壁部10の上端部と一対の柱材1の上端部との間や、一対の柱材1の上端部と一対の支持部材3との間には、地震等による変形に応じて隙間が形成されそうになるが、接合ボルト20によって抑制できるようになっている。
【0041】
本実施形態によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、接合手段である接合ボルト20によって、耐力壁部10の上端部と少なくとも一方の柱材1の上端部と小壁パネル3との一体性を高めることができる。これにより、木造建物に大きな揺れが生じても、耐力壁部10の上端部と少なくとも一方の柱材1の上端部との間や、少なくとも一方の柱材1の上端部と小壁パネル3との間に隙間が空いてしまうことを抑制できる。さらに、これら耐力壁部10と少なくとも一方の柱材1と小壁パネル3による上部構造部2の支持も安定性が増すので、結果的に、木造建物の耐震性を確保することができる。
【0042】
また、接合ボルト20によって、耐力壁部10の上端部と、少なくとも一方の柱材1の上端部及び小壁パネル3とを接合できるので、木造建物に大きな揺れが生じても、耐力壁部10の上端部と少なくとも一方の柱材1の上端部との間や、少なくとも一方の柱材1の上端部と小壁パネル3との間に隙間が空いてしまうことを抑制でき、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【0043】
また、接合ボルト20及びナット22を、耐力壁構造の表裏両面からはみ出ないように納めた状態で、耐力壁部10の上端部と、少なくとも一方の柱材1の上端部及び小壁パネル3とを接合できる。これにより、壁厚が必要以上に厚くなることを抑えつつ、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【0044】
(変形例1)
図1(c)に示すように、耐力壁構造のうち、一対の柱材1と、耐力壁部10と、一対の小壁パネル3は、厚さ方向(正背方向)に重ね合わせられた状態で配置されてもよい。この場合、厚さ方向(正背方向)に重ね合わせられた一対の柱材1同士、耐力壁部10同士、一対の小壁パネル3同士は、例えば接着剤等によって互いに接合されてもよいし、接合されていなくてもよい。
また、このように二重に並べられた各部1,10,3の上には、上部構造部(上階床パネル2又は横架材)が設けられて支持されているものとする。
【0045】
(変形例2)
上記の実施形態において、上部構造部である上階床パネル2(又は横架材)は、一対の柱材1よりも左右側方に突出しているものとしたが、左右のいずれか一方に突出するものとしてもよい。
すなわち、耐力壁構造は、木造建物を構成する壁の中央部分にのみ設けられるものではなく、例えば平面視略L型やT型、十字型に形成されたコーナー部分にも設けられる場合がある。このような場合、上部構造部である上階床パネル2(又は横架材)は、必ずしも一対の柱材1の左右側方に突出するものではない。そのため、上部構造部である上階床パネル2(又は横架材)は、一対の柱材1のうち少なくとも一方の柱材1よりも外方に突出するものとする。小壁パネル3等の支持部材3も、上部構造部である上階床パネル2(又は横架材)が突出する方向に設けられるが、木造建物を構成する壁のコーナー部分の平面形状に合わせて、異なる方向に突出する支持部材3も適宜併用されるものとする(この場合、支持部材3の端部を受ける受け金物が使用されてもよい)。
【0046】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態の耐力壁構造について説明する。
本実施形態の耐力壁構造は、図4(a),(b)に示すように、耐力壁部10の第二開口部10aに、低降伏点鋼材製のダンパー24が設けられ、接合ボルト20の他端部(耐力壁部10側の端部)は、ダンパー24を貫通した状態でナット22が締め付けられている。
【0047】
ここで、低降伏点鋼材とは、添加元素を極力低減した純鉄に近いものであり、従来の軟鋼に比べ強度が低く、延性が極めて高い鋼材を指す。このような低降伏点鋼材は、制振ダンパーとして建物に組み込まれると、建物の構造部分が塑性域に入る前に降伏して塑性変形し、建物の振動エネルギーを吸収することができる。なお、建物の構造部分が塑性域に入った後に降伏する場合もあるが、その場合も、建物の構造部分が大きなダメージを受ける前に降伏するため、振動エネルギーによる被害を極力軽減できる。
【0048】
本実施形態のダンパー24は、低降伏点鋼材製であり、図4(c)に示すように、直方体フレーム状に形成されている。
このようなダンパー24の一側面が、耐力壁本体11を構成する建築用木質パネルPのうち柱材1側の框材Fにおける中空部側の面に接し、反対側の他側面に座金23が接した状態となっている。
なお、ダンパー24の一側面は、耐力壁本体11における柱材1側の框材Fにおける中空部側の面に接するだけであってもよいし、接合固定されていてもよい。また、座金23は、ダンパー24の他側面に対して接するだけであってもよいし、接合固定されていてもよい。
そして、接合ボルト20の他端部(耐力壁部10側の端部)は、ダンパー24及び座金23を貫通した状態でナット22が締め付けられて設けられている。
なお、本実施形態において、ダンパー24は、耐力壁部10の第二開口部10aに設けられているが、これに限られるものではなく、小壁パネル3の第一開口部3aに設けられ
てもよいし、第一開口部3aと第二開口部10aの双方に設けられてもよい。
【0049】
また、例えば小壁パネル3又は横架材である支持部材3の上下方向の寸法(荷重方向の寸法)が短くて撓みが生じやすい場合には、図4(a)に示すように、補強横材4を設けて補強することが好ましい。
すなわち、支持部材3を補強するための補強横材4が、一対の柱材1の上端部から外方に突出し、かつ、支持部材3の下面に接して設けられることで、支持部材3の上下寸法を長くすることができる。補強横材4は、柱材1の側面及び支持部材3の下面に対して一体的に固定されている。これにより、支持部材3を撓みにくく補強することができる。
【0050】
以上のように構成された耐力壁構造は、地震等の横揺れ振動によって変形が生じると、下階床パネルと上階床パネル2とが互いに水平方向(左右方向)逆方向に変位する。これによって、一対の柱材1も左右に振れて変位し、下階床パネルと一対の柱材1と上階床パネル2を含んで構成された架構が略平行四辺形状に変形する。このとき、耐力壁部10の上端部と一対の柱材1の上端部との間や、一対の柱材1の上端部と一対の支持部材3との間には、地震等による変形に応じて隙間が形成されそうになるが、その前にダンパー24が降伏して地震等による振動エネルギーを吸収するとともに、接合ボルト20によって隙間が形成されそうになるのを抑制できる。
【0051】
本実施形態によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、上記の第1実施形態と同様に、接合手段である接合ボルト20によって、耐力壁部10と当該耐力壁部10に接して設けられた他の構造部分(柱材1)との間の接合部やその周囲の構造部分(支持部材3)との間の接合部に隙間が空いてしまうことを防いで、木造建物の耐震性を確保することができる。
【0052】
その上、耐力壁部10の第二開口部10aには、低降伏点鋼材製のダンパー24が設けられ、接合ボルト20の他端部は、ダンパー24を貫通した状態でナット22が締め付けられているので、木造建物に揺れが生じたときの振動エネルギーがダンパー24に伝達されて塑性変形する。これにより、振動エネルギーを効率良く吸収することができるので、木造建物の耐震性を確保することができる。
【0053】
しかも、補強横材4が、一対の柱材1の上端部から外方に突出し、かつ、支持部材3の下面に接して設けられているので、支持部材3の上下方向の寸法を長くできる。これにより、支持部材3による上部構造部2の支持の安定性が増し、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
さらに、例えば支持部材3に開口部(第一開口部3a)が形成されるなどして部分的に剛性の向上が必要な部位があっても、補強横材4によって、支持部材3の上下寸法を大きくして当該支持部材3を補強できるので、支持部材3に必要な剛性を確保できる。
また、支持部材3は、柱材1が地震等の振動エネルギーを受けて外方(支持部材3側)に押された時に、支持部材3だけではその圧縮力を負担できない場合があるが、このように補強横材4が設けられていれば、柱材1が押された時の圧縮力を負担して補強することができ、結果的に、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【0054】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態の耐力壁構造について説明する。
本実施形態の耐力壁構造は、図5(a),(b)に示すように、支持部材3における柱材1側の端部に、接合ボルト20の一端部が露出する開口部3a(第1実施形態の第一開口部3a)が形成され、当該開口部3a内で接合ボルト20の一端部に、座金23が設けられて、その上からナット22が締め付けられており、耐力壁部10の上端部における柱材1側の端部には、接合ボルト20の他端部20aが埋設されて接着固定されている。
【0055】
本実施形態の耐力壁部10は、図4(a)に示すように、耐力壁本体11の上端面と上階床パネル2との間に設けられた上端補助部材13を有している。本実施形態の上端補助部材13は、中身が詰まった中実の木材である。本実施形態においては、例えば無垢材(角材:製材)によって構成されているが、これに限られるものではなく、LVL、CLT、集成材、その他の材料による中実材でもよい。又は、中実ではない鋼材によって構成された上端補助部材13が用いられてもよく、その場合は、接合ボルト20の他端部20aが埋設されて接着固定される部分が設けられているものとする。
すなわち、耐力壁本体11は、建築用木質パネルPによって構成されて中空状であるため、接合ボルト20の他端部20aを埋設する下地がない。そのため、耐力壁本体11の上に、接合ボルト20の他端部20aを埋設する下地として、中実材である上端補助部材13が設けられている。また、この上端補助部材13は、鉛直荷重を負担しにくい耐力壁本体11に代わって鉛直荷重を負担する機能を持つ。
なお、上端補助部材13は、耐力壁本体11の上端面に対して接着等により接合固定されているが、釘・ビス等の固定材を併用してもよい。
【0056】
上端補助部材13の長さ方向両端部には、接合ボルト20の他端部20aが差し込まれる差込穴(上端補助部材13を貫通していない状態)が形成されている。この差込穴には、接合ボルト20の他端部20aが差し込まれるとともに、当該他端部20aと差込穴との空隙には接着剤が充填されている。このような方法はグルードインロッド(GIR:Glued in Rod)と呼ばれており、充填された接着剤の硬化により、応力を接着剤の付着力と接合ボルト20の他端部20aを介して伝達し、接合耐力を発生させることができる。
なお、上端補助部材13の差込穴は、このように接合ボルト20の他端部20aが差し込まれるため、接合ボルト20の他端部20aが通過する柱材1の上端部及び小壁パネル3の框材Fには、柱材1の上端部及び小壁パネル3の框材Fを貫通する差込孔が形成されている。また、柱材1の上端部及び小壁パネル3の框材Fを貫通する差込孔にも接着剤が充填されてよい。
【0057】
以上のように構成された耐力壁構造は、地震等の横揺れ振動によって変形が生じると、下階床パネルと上階床パネル2とが互いに水平方向(左右方向)逆方向に変位する。これによって、一対の柱材1も左右に振れて変位し、下階床パネルと一対の柱材1と上階床パネル2を含んで構成された架構が略平行四辺形状に変形する。このとき、耐力壁部10の上端部と一対の柱材1の上端部との間や、一対の柱材1の上端部と一対の支持部材3との間には、地震等による変形に応じて隙間が形成されそうになるが、一端部にナット22が締め付けられて設けられ、他端部20aが上端補助部材13に埋設されて接着固定された接合ボルト20によって抑制できるようになっている。
【0058】
本実施形態によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、上記の第1実施形態等と同様に、接合手段である接合ボルト20によって、耐力壁部10と当該耐力壁部10に接して設けられた他の構造部分(柱材1)との間の接合部やその周囲の構造部分(支持部材3)との間の接合部に隙間が空いてしまうことを防いで、木造建物の耐震性を確保することができる。
【0059】
その上、耐力壁部10の上端部における柱材1側の端部には、接合ボルト20の他端部20aが埋設されて接着固定されているので、耐力壁部10と接合ボルト20との一体性が高まり、木造建物に揺れが生じたときのエネルギーを、接合ボルト20を介して耐力壁部10に伝達できる。
さらに、接合ボルト20及びナット22を、耐力壁構造の表裏両面からはみ出ないように納めた状態で、耐力壁部10の上端部と、少なくとも一方の柱材1の上端部及び支持部材3とを接合できる。これにより、壁厚が必要以上に厚くなることを抑えつつ、木造建物
の耐震性確保に貢献できる。
【0060】
〔第4実施形態〕
次に、第4実施形態の耐力壁構造について説明する。
本実施形態の耐力壁構造においては、図6(a),(b)に示すように、上記の第1実施形態等における接合ボルト20よりも長尺な一本の接合ボルト21が用いられている。また、上部構造部2である上階床パネル2は、一対の柱材1よりも左右側方に突出しており、支持部材3である小壁パネル3も、一対の柱材1における上端部のそれぞれから左右側方に突出して設けられている。また、これら一対の小壁パネル3は、上階床パネル2のうち一対の柱材1よりも左右側方に突出した部位の下面に接している。
【0061】
そして、長尺な一本の接合ボルト21は、一対の柱材1及び耐力壁部10を貫通した状態で左右側方の小壁パネル3間に亘って配置されて固定されている。
左右側方の小壁パネル3における柱材1側の端部には、接合ボルト21の一端部及び他端部が露出する開口部3a(第1実施形態の第一開口部3a)がそれぞれ形成され、当該開口部3a内で接合ボルト21の一端部及び他端部に、座金23が設けられて、その上からナット22がそれぞれ締め付けられている。
つまり、一本の接合ボルト21は、一方の小壁パネル3から他方の小壁パネル3にかけて設けられており、この接合ボルト21によって、耐力壁部10の上端部と、一対の柱材1の上端部及び一対の支持部材3とが接合されている。
【0062】
本実施形態の耐力壁部10は、上端補助部材13を有している。
この上端補助部材13には、長さ方向(左右方向)に亘って形成されて当該上端補助部材13を貫通する差込孔が形成されており、接合ボルト21は、当該差込孔に差し込まれている。接合ボルト21の両端部は、上記のように一対の小壁パネル3における開口部3aまで突出して露出している。
接合ボルト21の両端部が通過する柱材1の上端部及び小壁パネル3の框材Fにも、柱材1の上端部及び小壁パネル3の框材Fを貫通する差込孔が形成されているものとする。
なお、接合ボルト21が通過する上端補助部材13の差込孔と、柱材1の上端部及び小壁パネル3の框材Fを貫通する差込孔には、接着剤が充填されてもよい。接合ボルト21による耐力壁部10と、一対の柱材1及び一対の小壁パネル3との接合と併用して、グルードインロッドの接合方法も行うことができる。
【0063】
以上のように構成された耐力壁構造は、地震等の横揺れ振動によって変形が生じると、下階床パネルと上階床パネル2とが互いに水平方向(左右方向)逆方向に変位する。これによって、一対の柱材1も左右に振れて変位し、下階床パネルと一対の柱材1と上階床パネル2を含んで構成された架構が略平行四辺形状に変形する。このとき、耐力壁部10の上端部と一対の柱材1の上端部との間や、一対の柱材1の上端部と一対の支持部材3との間には、地震等による変形に応じて隙間が形成されそうになるが、一方の小壁パネル3から他方の小壁パネル3にかけて設けられた長尺な一本の接合ボルト21によって抑制できるようになっている。
【0064】
本実施形態によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、上記の第1実施形態等と同様に、接合手段である接合ボルト20によって、耐力壁部10と当該耐力壁部10に接して設けられた他の構造部分(柱材1)との間の接合部やその周囲の構造部分(支持部材3)との間の接合部に隙間が空いてしまうことを防いで、木造建物の耐震性を確保することができる。
【0065】
その上、一本の接合ボルト21が、一対の柱材1及び耐力壁部10を貫通した状態で左右側方の小壁パネル3間に亘って配置されて固定されているので、耐力壁部10の上端部
と、その左右側方に位置する一対の柱材1の上端部及び左右側方の小壁パネル3とを、一本の接合ボルト21によって効率良く接合できる。
さらに、一本の接合ボルト21及びナット22を、耐力壁構造の表裏両面からはみ出ないように納めた状態で、耐力壁部10の上端部と、一対の柱材1の上端部及び一対の小壁パネル3とを接合できる。これにより、壁厚が必要以上に厚くなることを抑えつつ、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【0066】
〔第5実施形態〕
次に、第5実施形態の耐力壁構造について説明する。
本実施形態の耐力壁構造は、図7(a),(b)に示すように、耐力壁部10の上端部と、一対の柱材1の上端部及び一対の小壁パネル3とを接合する接合手段が、表裏両面に設けられる複数の接合プレート30とされている。本実施形態においては、この接合プレート30として、例えば合板等からなる木製のガセットプレートが用いられているが、鋼製のガセットプレートが用いられてもよい。
このような接合プレート30は、耐力壁構造の表裏両面において、一対の柱材1の上端部と耐力壁部10の上端部と一対の小壁パネル3に跨って配置されて固定されている。
【0067】
より詳細に説明すると、接合プレート30は、耐力壁構造の正面側において左右一対、背面側において左右一対で設けられている。
すなわち、正面側における一方の接合プレート30は、一方の柱材1と耐力壁部10における上端部の一方と一方の小壁パネル3に跨って配置されて固定されている。また、正面側における他方の接合プレート30は、他方の柱材1と耐力壁部10における上端部の他方と他方の小壁パネル3に跨って配置されて固定されている。
さらに、背面側における一方の接合プレート30は、一方の柱材1と耐力壁部10における上端部の一方と一方の小壁パネル3に跨って配置されて固定されている。また、背面側における他方の接合プレート30は、他方の柱材1と耐力壁部10における上端部の他方と他方の小壁パネル3に跨って配置されて固定されている。
表裏両面における一対の接合プレート30同士は、互いの隣接する端部同士が接していてもよいし、離間していてもよい。
【0068】
接合プレート30は、耐力壁部10における上端部のうち、耐力壁本体11における上端部の側面と上端補助部材13の側面に跨って配置されて固定されている。
また、本実施形態においては、上部構造部2が上階床パネル2とされており、上階床パネル2は、左右方向に突出するだけでなく、正背方向にも突出している。そのため、接合プレート30は、上階床パネル2側には設けられない。ただし、上部構造部2が、例えば胴差等の横架材である場合、接合プレート30は、上部構造部2の側面に跨って配置されて固定されてもよい。
一方、接合プレート30は、一対の小壁パネル3における下面よりも下方には突出しないものとする。ただし、一対の小壁パネル3の下面に補強横材4が設けられる場合は、接合プレート30が、補強横材4の側面にも跨って配置固定されてもよい。
【0069】
接合プレート30は、一対の柱材1の上端部と耐力壁部10の上端部と一対の小壁パネル3に対して接着剤によって接合固定されているが、釘・ビス等の固定材が併用されてもよい。接合プレート30が、上部構造部2の側面にも跨って配置される場合も同様にして接合固定される。
【0070】
以上のように構成された耐力壁構造は、地震等の横揺れ振動によって変形が生じると、下階床パネルと上階床パネル2とが互いに水平方向(左右方向)逆方向に変位する。これによって、一対の柱材1も左右に振れて変位し、下階床パネルと一対の柱材1と上階床パネル2を含んで構成された架構が略平行四辺形状に変形する。このとき、耐力壁部10の
上端部と一対の柱材1の上端部との間や、一対の柱材1の上端部と一対の支持部材3との間には、地震等による変形に応じて隙間が形成されそうになるが、耐力壁構造の表裏両面に設けられた接合プレート30によって抑制できるようになっている。
【0071】
本実施形態によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、上記の第1実施形態等と同様に、接合手段である接合ボルト20によって、耐力壁部10と当該耐力壁部10に接して設けられた他の構造部分(柱材1)との間の接合部やその周囲の構造部分(支持部材3)との間の接合部に隙間が空いてしまうことを防いで、木造建物の耐震性を確保することができる。
【0072】
その上、複数の接合プレート30が、耐力壁構造の表裏両面において設けられることになり、これら複数の接合プレート30を使って、耐力壁部10の上端部と、一対の柱材1の上端部及び一対の小壁パネル3とを面で接合できる。これにより、木造建物に揺れが生じたときのエネルギーを効果的に分散でき、木造建物の耐震性確保に貢献できる。
【符号の説明】
【0073】
1 柱材
2 上部構造部
3 支持部材
3a 第一開口部
4 補強横材
10 耐力壁部
10a 第二開口部
11 耐力壁本体
12 調整材
13 上端補助部材
20 接合ボルト
21 接合ボルト
22 ナット
23 座金
24 ダンパー
30 接合プレート
P 建築用木質パネル
F 框材
C 補助桟材
B 面材
【要約】
【課題】耐力壁と当該耐力壁に接して設けられた他の構造部分との間の接合部やその周囲の構造部分との間の接合部に隙間が空いてしまうことを防いで、木造建物の耐震性を確保する。
【解決手段】耐力壁構造が、一対の柱材1と、一対の柱材1の上端部間に架け渡されるとともに、一対の柱材1のうち少なくとも一方の柱材1よりも外方に突出する上部構造部2と、一対の柱材1と上部構造部2とを含んで構成された架構内に、一対の柱材1及び上部構造部2に接して設けられた耐力壁部10と、少なくとも一方の柱材1の上端部から外方に突出して設けられ、かつ、上部構造部2のうち少なくとも一方の柱材よりも外方に突出した部位の下面に接して上部構造部2を支持する支持部材3と、を備えており、耐力壁部10の上端部と、少なくとも一方の柱材1の上端部及び支持部材3と、が接合手段によって接合されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7