(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-16
(45)【発行日】2023-08-24
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/63 20060101AFI20230817BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230817BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20230817BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230817BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20230817BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20230817BHJP
【FI】
A61K8/63
A61K8/34
A61K8/37
A61K8/73
A61K8/86
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2022075956
(22)【出願日】2022-05-02
(62)【分割の表示】P 2019148617の分割
【原出願日】2019-08-13
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 典敬
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-045786(JP,A)
【文献】特開2005-289917(JP,A)
【文献】特開2011-144160(JP,A)
【文献】特開昭60-226806(JP,A)
【文献】特開2018-020979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/63
A61K 8/34
A61K 8/37
A61K 8/73
A61K 8/86
A61Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)、(C)、(D)、並びに(E):
(A)グリチルレチン酸 0.18質量%以上0.5質量%以下
(B)セタノール(b1)及びステアリルアルコール(b2)を含む、炭素数12以上22以下の高級アルコール 1.5質量%以上8.5質量%以下
(C)ノニオン界面活性剤
(D)水
(E)SP値が9.3以上12.0以下であるセルロース誘導体 0.6質量%以上2.5質量%以下
を含有し、
流動パラフィンの含有量が0.15質量%未満であり、
成分(B)の含有量と成分(E)の含有量との質量比((B)/(E))が0.6以上70以下であり、
成分(B)の含有量と成分(C)との質量比((B)/(C))が3.8~10であり、かつ
成分(b1)の含有量と成分(b2)の含有量との質量比((b1)/(b2))が0.5以上10以下である口腔用組成物。
【請求項2】
成分(C)が、ソルビタン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
成分(C)の含有量が、0.2質量%以上10質量%以下である請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
成分(D)の含有量が、30質量%以上95質量%以下である請求項1~
3のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項5】
成分
(E)の含有量と成分
(A)の含有量との質量比(
(E)/
(A))が、0.5以上20以下である請求項1~
4のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項6】
界面活性剤及び香料以外の油性成分の含有量が、0.15質量%未満であるか、或いは界面活性剤及び香料以外の油性成分を含有しない請求項1~
5のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項7】
成分(E)以外の粘度調整剤の含有量が、2質量%以下であるか、或いは成分(E)以外の粘度調整剤を含有しない請求項1~
6のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項8】
ストロンチウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、鉄、銅、亜鉛、及びマンガンから選ばれる多価金属の含有量が、
0.1質量%
以下であるか、或いは含有しない請求項1~
7のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項9】
25℃におけるpHが、8以上10以下である請求項1~
8のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【請求項10】
成分(A)、(B)、(C)、界面活性剤、香料、及び流動パラフィン以外の油溶性を示す成分の含有量が、0.15質量%未満であるか、或いは油溶性を示す成分を含有しない請求項1~9のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、口腔用組成物には、う蝕や歯周病等の各種口腔内疾患の予防や防止、改善に寄与する薬理作用を付与すべく、種々の薬効成分が用いられている。なかでも、歯茎や口腔内粘膜への薬効成分の吸着量を増大させるにあたり、特定の高級アルコールとノニオン界面活性剤を併用して、組成物中にラメラ構造を形成させる技術を採り入れるのが有効であることが知られており、かかる技術を採用した口腔用組成物が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、口臭抑制や歯肉炎の予防に有効な亜鉛化合物を用いつつ、特定の高級アルコールとノニオン界面活性剤と薬効成分とを併用した口腔用組成物が開示されており、亜鉛化合物の金属味の抑制とともに薬効成分の歯茎や口腔内粘膜への吸着量の増大を図っている。また、特許文献2にも、油溶性薬効成分と、特定の高級アルコール及び特定のノニオン界面活性剤を含む界面活性剤とを特定量で併用した口腔用組成物が開示されており、歯茎や口腔内粘膜への油溶性薬効成分の高い吸着性を確保しながら、粘度の保存安定性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-197198号公報
【文献】特開2017-214347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記特許文献に記載の組成物中において、高級アルコールの含有量が高まるにつれ、口腔内へ適用した際に香味立ちが悪くなることに加えて、油っぽい使用感となるために、組成物の使用感触や嗜好性が低下してしまうおそれがあり、これを回避するには、可能な限り高級アルコールの含有量を低減するのが好ましい。
しかしながら、高級アルコールの含有量を減らしつつ、グリチルレチン酸の含有量の増大を試みると、組成物の保存中にグリチルレチン酸が析出してしまうことが、本発明者らにより判明した。
【0006】
すなわち、本発明は、高級アルコールの含有量が制限されるなかであっても、グリチルレチン酸の析出を有効に抑制することのできる口腔用組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、種々検討したところ、グリチルレチン酸とともに、ノニオン界面活性剤及び水を含有し、高級アルコールの含有量を極限られた範囲内に制限するなか、特定のSP値を有するセルロース誘導体を高級アルコールとの間で特定の量的関係を有するように用いることにより、グリチルレチン酸の析出を有効に抑制することのできる口腔用組成物が得られることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、次の成分(A)、(B)、(C)、(D)、並びに(E):
(A)グリチルレチン酸 0.18質量%以上0.5質量%以下
(B)炭素数12以上22以下の高級アルコール 1.5質量%以上8.5質量%以下
(C)ノニオン界面活性剤
(D)水
(E)SP値が9.3以上12.0以下であるセルロース誘導体
を含有し、かつ成分(B)の含有量と成分(E)の含有量との質量比((B)/(E))が0.6以上70以下である口腔用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔用組成物によれば、高級アルコールの含有量が極限られた範囲内に制限されるなかであっても、グリチルレチン酸が組成物の保存中において不要に析出してしまうのを有効に抑制することができる。そのため、歯茎や口腔内粘膜への吸着量が減じられることなく、グリチルレチン酸の薬効を充分に享受することができ、また組成物の良好な使用感触や塗布性を確保することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書において、「良好な使用感触」とは、本発明の口腔用組成物を口腔内に適用した際、適度な香味立ちがあり、油っぽい使用感がなく、滑らかに口腔内に溶け広がる感触がもたらされることを意味する。
【0012】
本発明の口腔用組成物は、成分(A)として、グリチルレチン酸を0.18質量%以上0.5質量%以下含有する。成分(A)のグリチルレチン酸は、抗炎症作用、歯槽骨吸収抑制作用、ヒスタミン遊離抑制作用等を有する。かかる成分(A)は、歯茎や口腔内粘膜へ有効に吸着して、歯周炎、歯周病等の予防改善作用をもたらすことができる。
【0013】
成分(A)の含有量は、本発明の口腔用組成物であれば、成分(A)による薬効を有効かつ効率的に確保する観点、及び後述する成分(B)の含有量が限られるなかでも成分(A)の析出を有効に抑制できるため、成分(A)の含有量を増大させることが可能である観点から、本発明の口腔用組成物中に、0.18質量%であって、好ましくは0.22質量%以上であり、より好ましくは0.25質量%以上である。また、成分(A)の含有量は、成分(A)の析出の抑制効果を有効に確保する観点から、本発明の口腔用組成物中に、0.5質量%以下であって、好ましくは0.4質量%以下であり、より好ましくは0.35質量%以下である。そして、成分(A)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、0.18質量%以上0.5質量%以下であって、好ましくは0.22~0.4質量%であり、より好ましくは0.25~0.35質量%である。なお、本発明におけるグリチルレチン酸の含有量とは、グリチルレチン酸が塩の形態の場合は酸換算したものをいう。
【0014】
本発明の口腔用組成物は、成分(B)として、炭素数12以上22以下の高級アルコールを1.5質量%以上8.5質量%以下含有する。かかる成分(B)をこのように制限された量で含有することにより、組成物の良好な使用感触を確保する一方、成分(A)の歯茎や口腔内粘膜への高い吸着量を確保することができる。
【0015】
成分(B)の炭素数12以上22以下の高級アルコールとしては、セタノール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、及びベヘニルアルコールから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、組成物の良好な使用感触を確保する観点から、炭素数14以上20以下の高級アルコールが好ましく、セタノール(b1)、及びステアリルアルコール(b2)から選ばれる1種又は2種がより好ましい。
【0016】
成分(B)の含有量は、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、本発明の口腔用組成物中に、1.5質量%以上であって、好ましくは2.5質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、さらに好ましくは4質量%以上であり、さらに好ましくは6質量%以上である。また、成分(B)の含有量は、組成物の良好な使用感触を確保し、油っぽい使用感をなくして香味立ちを良好にする観点から、本発明の口腔用組成物中に、8.5質量%以下であって、好ましくは8.4質量%以下であり、より好ましくは8.3質量%以下である。そして、成分(B)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、1.5質量%以上8.5質量%以下であって、好ましくは2.5~8.5質量%であり、より好ましくは3~8.4質量%であり、さらに好ましくは4~8.3質量%であり、さらに好ましくは6~8.3質量%である。
【0017】
ここで、本発明の口腔用組成物が、成分(B)としてセタノール(b1)及びステアリルアルコール(b2)を含有する場合、成分(b1)の含有量と成分(b2)の含有量との質量比((b1)/(b2))は、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは1以上であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下であり、さらに好ましくは6以下である。
また、成分(b1)及び成分(b2)以外の成分(B)を含有することができ、かかる成分として、例えばラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ベヘニルアルコールが挙げられる。
【0018】
本発明の口腔用組成物は、成分(C)として、ノニオン界面活性剤を含有する。これにより、成分(B)の含有量が制限されるなかであっても、成分(A)の歯茎や口腔内粘膜への高い吸着量を確保することができる。
【0019】
かかる成分(C)としては、モノカプリン酸ソルビタン、モノウンデシル酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノトリデシル酸ソルビタン、モノミリスチン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、テトラオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、及びトリステアリン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル;モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノミリスチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、及びモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0020】
成分(C)として、低温安定性を高める観点からは、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンから選ばれる1種又は2種以上を含有することが好ましい。
【0021】
成分(C)として、成分(A)の歯茎や口腔内粘膜への吸着性の観点からは、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン及びモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
なかでも、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとソルビタン脂肪酸エステルとを併用すること、とりわけ、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンとモノステアリン酸ソルビタンとを併用することで、成分(A)の析出を有効に抑制することができる。
【0022】
成分(C)の含有量は、成分(A)の析出の抑制効果を有効に確保するとともに、歯茎
や口腔内粘膜への吸着性能を効果的に高める観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.4質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、よりさらに好ましくは1.2質量%以上である。また、成分(C)の含有量は、組成物の安定性を確保する観点、及び風味とのバランスも保持する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下であり、よりさらに好ましくは3質量%以下である。そして、成分(C)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.2~10質量%であり、より好ましくは0.4~8質量%であり、さらに好ましくは0.5~6質量%であり、よりさらに好ましくは1.2~3質量%である。
【0023】
本発明の口腔用組成物において、成分(B)の含有量と、成分(C)との質量比((B)/(C))は、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、好ましくは1~10であり、より好ましくは2~9であり、さらに好ましくは3~8であり、さらに好ましくは4~6である。
【0024】
本発明の口腔用組成物は、成分(D)として、水を含有する。本発明における成分(D)の水とは、口腔用組成物に直接配合した精製水等だけでなく、例えば処方する際に用いる70%ソルビトール液(水溶液)のように、配合した各成分に含まれる水分をも含む、口腔用組成物中に含まれる全水分を意味する。かかる成分(D)の水を含有することにより、口腔用組成物としての良好な保形性を確保しつつ、各成分を良好に分散又は溶解させて、成分(A)の析出の抑制にも寄与することができる。
【0025】
成分(D)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは92質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下である。そして、成分(D)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは30~95質量%であり、より好ましくは40~92質量%であり、さらに好ましくは50~80質量%であり、よりさらに好ましくは55~70質量%である。
【0026】
なお、本発明の口腔用組成物の成分(D)の含有量、すなわち水分量は、配合した水分量及び配合した成分中の水分量から計算によって算出することもできるが、例えばカールフィッシャー水分計で測定することができる。カールフィッシャー水分計としては、例えば、微量水分測定装置(平沼産業社製)を用いることができる。この装置では、口腔用組成物を5gとり、無水メタノール25gにより懸濁させ、この懸濁液0.02gを分取して水分量を測定することができる。
【0027】
本発明の口腔用組成物は、成分(E)として、SP値が9.3以上12.0以下であるセルロース誘導体を含有する。かかる成分(E)のセルロース誘導体は、いわゆる粘度調整剤の1種であり、成分(A)のSP値と近しい粘度調整剤を採用したうえで、かかる成分(E)を成分(B)の含有量に対して適切な質量比で含有させることにより、成分(B)の含有量が極限られた範囲内に制限されるなかで、成分(A)が組成物の保存中において析出してしまうのを有効に抑制することができる。
【0028】
成分(E)のSP値は、成分(B)の含有量が極限られた範囲内に制限されても、組成物の保存中において成分(A)が析出してしまうのを効果的に抑制する観点に加え、その抑制効果をより充分に確保する上では、本発明者らにより判明した事項でもある、成分(A)のSP値に近似した値であるのが望ましい観点から、9.3以上であって、好ましくは9.5以上であり、より好ましくは9.8以上であり、12.0以下であって、好ましくは11.5以下であり、より好ましくは11以下であり、さらに好ましくは10以下で
ある。
【0029】
なお、成分(E)のSP値とは、いわゆる溶解度パラメーターδの値であって、液体の分子凝集エネルギーEと分子容Vからδ=(E/V)1/2(J/cm3)で与えられる物質定数である。この値から物質の相対的な極性の高さを推定することができ、かかるSP値は種々の方法で実測又は計算により決定される値である。本発明においては、成分(E)のSP値を「沖津の式(日本接着学会誌、vol.29, No.5, 204-211(1993))」により決
定される値とし、成分(E)が2種以上のセルロース誘導体である場合は、各々のセルロース誘導体単体でのSP値が、各々上記範囲であることを要する。
【0030】
かかる成分(E)としては、ヒドロキシセルロース誘導体が好ましい。なお、ヒドロキシセルロース誘導体とは、セルロースが有する少なくとも一部の水酸基がヒドロキシアルキル基によりエーテル化されてなるセルロースエーテル類を意味する。具体的には、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、成分(B)の含有量が極限られた範囲内に制限されても、組成物の保存中において成分(A)が析出してしまうのを効果的に抑制する観点から、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる1種又は2種が好ましい。これにより、ラメラ構造を有するα-ゲルが形成されるのを効果的に促進することができる。
【0031】
成分(E)の含有量は、成分(B)の含有量が極限られた範囲内に制限されるなかで、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.3質量%以上であり、より好ましくは0.6質量%以上であり、さらに好ましくは1.2質量%以上である。また、成分(E)の含有量は、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは2.5質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは1.6質量%以下である。そして、成分(E)の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.3質量%以上2.5質量%以下であり、より好ましくは0.6~2質量%であり、さらに好ましくは1.2~1.6質量%である。
【0032】
本発明の口腔用組成物において、成分(B)の含有量と成分(E)の含有量との質量比((B)/(E))は、成分(B)の含有量が極限られた範囲内に制限されるなかで、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、0.6以上であって、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは3以上である。また、成分(B)の含有量と成分(E)の含有量との質量比((B)/(E))は、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、70以下であって、好ましくは30以下であり、より好ましくは20以下である。そして、成分(B)の含有量と成分(E)の含有量との質量比((B)/(E))は、0.6以上70以下であって、好ましくは0.6以上30以下であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは2~9であり、またさらに好ましくは3~8.5である。
【0033】
本発明の口腔用組成物において、成分(E)の含有量と成分(A)の含有量との質量比((E)/(A))は、成分(B)の含有量が極限られた範囲内に制限されるなかで、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1.2以上であり、さらに好ましくは1.5以上である。また、成分(E)の含有量と成分(A)の含有量との質量比((E)/(A))は、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、好ましくは20以下であり、より好ましくは15以下であり、さらに好ましくは10以下である。そして、成分(E)の含有量と成分(A)の含有量との質量比((E)/(A))は、好ましくは0.5以上20以下であり、より好ましくは1.2~15であり、さらに好ましくは1.5~10である。
【0034】
なお、本発明の口腔用組成物においては、成分(B)の含有量が極限られた範囲内に制限されるなかで、成分(A)の析出を有効に抑制して、歯茎や口腔内粘膜への吸着量を有効に増大させる観点から、成分(E)以外の粘度調整剤の含有は、制限するのが好ましい。
かかる成分(E)以外の粘度調整剤とは、すなわち特定のSP値を有するセルロース誘導体以外のセルロース系粘度調整剤や、セルロース系粘結剤以外の粘度調整剤が挙げられるほか、その他「粘結剤」と称される剤も含む意味である。具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、エチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、ペクチン、寒天、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、ジェラガム、タマリドガム、サイリウムシードガム等が挙げられる。
【0035】
これら成分(E)以外の粘度調整剤の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.2質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%未満であり、さらに好ましくは0.05質量%未満であり、或いは本発明の口腔用組成物は、成分(E)以外の粘度調整剤を実質的に含有しないのが好ましい。
【0036】
本発明の口腔用組成物において、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、油性成分の含有を制限するのが好ましい。
かかる油性成分とは、上記成分(A)、(B)、(C)以外の油溶性を示す成分であり、かつ界面活性剤及び香料以外の油溶性を示す成分を意味し、具体的には、流動パラフィン、ワセリン、ミネラルオイル、軽質流動パラフィン、パラフィンワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、ミツロウ、スクワラン、スクワレン等の炭化水素油;ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸プロピル、セバシン酸ジエチル、グリセリン脂肪酸エステル等のエステル油;トリグリセライド及びこれを含むオリーブ油、ナタネ油、シア脂、米糠油等の植物油;シリコーン油;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル等の防腐剤;油溶性殺菌剤等が挙げられる。
【0037】
これら油性成分の含有量は、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは0.15質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%未満であり、さらに好ましくは0.05質量%未満であり、或いは本発明の口腔用組成物は、油性成分を実質的に含有しないのが好ましい。
【0038】
また、本発明の口腔用組成物は、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、ストロンチウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、鉄、銅、亜鉛、及びマンガンから選ばれる多価金属の含有を制限するのが好ましい。かかる多価金属の含有量は、金属原子換算量で、本発明の口腔用組成物中に、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.1質量%以下であり、或いは本発明の口腔用組成物は、ストロンチウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、鉄、銅、亜鉛、及びマンガンから選ばれる多価金属を実質的に含有しないのが好ましい。
【0039】
本発明の口腔用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記成分以外の成分として、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、還元パラチノース、及びマンニトール等の糖アルコール;グリセリン等の湿潤剤;フッ化物;トコフェロール酢酸エステル等の成分(A)以外の薬効成分;成分(C)以外の界面活性剤;塩化セチルピリジニウム等の抗菌剤;水酸化ナトリウム等のpH調整剤;香料;甘味料;色素等を含有することができる。
【0040】
本発明の口腔用組成物の25℃におけるpHは、成分(A)の析出を有効に抑制する観点から、好ましくは8以上であり、より好ましくは8.3以上であり、さらに好ましくは8.5以上であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは9.8以下であり、さらに好ましくは9.6以下である。そして、本発明の口腔用組成物の25℃におけるpHは、好ましくは8以上10以下であり、より好ましくは8.3~9.8であり、さらに好ましくは8.5~9.6である。
【0041】
本発明の口腔用組成物の好ましい形態としては、好ましくは塗布剤、練歯磨剤、含嗽剤、液状歯磨剤等が挙げられる。なかでも、成分(A)の析出を有効に抑制しつつ、本発明の口腔用組成物を歯茎又は口腔内粘膜へ充分に行き渡らせる観点から、塗布剤、練歯磨剤であるのが好ましい。
口腔内への適用方法は、塗布、歯ブラシによるブラッシング、又は含嗽のいずれであってもよく、指や道具を用いて歯茎などに塗り込む塗布又は歯ブラシによるブラッシングが好ましい。
【0042】
本発明の口腔用組成物の製造方法は、特に制限されず、常法により上記成分を適宜混合すればよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0044】
[実施例1~8、比較例1~4]
表1及び2に示す処方にしたがって、各口腔用組成物を製造した。
得られた口腔用組成物を用い、下記方法にしたがって測定及び評価を行った。
結果を表1及び2に示す。
【0045】
《pHの測定》
各口腔用組成物10gに、新たに煮沸し冷却した水90mLを加え、よく振り混ぜた液(25℃)について、pH/ION METER F53(HORIBA社製)を用いてpHを測定した。
【0046】
《安定性の評価》
各口腔用組成物を、アルミラミネートチューブに充填して50℃の恒温器で1か月間保存した後、チューブより組成物を絞り出し、外観の確認を行い、下記基準に従って評価した。また、成分(A)の析出を目視で確認したことに加えて、組成物をスライドガラスに絞り出してプレパラートで挟み、成分(A)の析出物の有無を顕微鏡観察(100倍)により確認し、下記基準にしたがって評価した。
なお、得られた評価結果は、表中において「組成物の外観/成分(A)の析出」と集約して記した。
・組成物の外観評価
A:組成物が均一で分離が認められない
B:組成物が分離しており分離が認められる
・成分(A)の析出の評価
A:目視及び顕微鏡観察のいずれによっても、析出物の存在は確認されなかった
B:顕微鏡観察により、析出物の存在が確認された
C:目視により、析出物の存在が確認された
【0047】
《使用感触及び塗布性の評価》
表2に示す口腔用組成物につき、各々0.3gを指に採り、歯茎に塗布した際の使用感触及び塗布性について評価した。
表2に示す実施例の口腔用組成物の使用感触は、いずれも良好であったことが確認されたため、塗布性の評価についてのみ表2に示す。
【0048】
【0049】