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  • 特許-低圧縮比を有する機械的蒸気圧縮装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】低圧縮比を有する機械的蒸気圧縮装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 1/28 20060101AFI20230818BHJP
   C02F 1/04 20230101ALI20230818BHJP
【FI】
B01D1/28
C02F1/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020530972
(86)(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 ES2018070782
(87)【国際公開番号】W WO2019110862
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】U201731494
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(31)【優先権主張番号】U201731521
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(31)【優先権主張番号】PCT/ES2018/070781
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】517368305
【氏名又は名称】ダブリュージーエイ ウォーター グローバル アクセス ソシエダッド デ レスポンサビリダッド リミターダ
(73)【特許権者】
【識別番号】517368338
【氏名又は名称】ノーメン カルヴェ フアン エウセビオ
(73)【特許権者】
【識別番号】517368327
【氏名又は名称】ハンガヌ ダン アレクサンドル
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ノーメン カルヴェ フアン エウセビオ
(72)【発明者】
【氏名】ハンガヌ ダン アレクサンドル
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-528035(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170200(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/026953(WO,A1)
【文献】特開2006-181516(JP,A)
【文献】米国特許第3305454(US,A)
【文献】特開昭51-093461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/00- 8/00
C02F 1/04
F28F 1/00- 1/44
F28D 3/00- 7/16
F28B 1/00- 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低圧縮比を有する機械的蒸気圧縮MVCによる脱塩装置であって、潜熱交換器は、食塩水が流れることによってメニスカス(7)を形成して前記メニスカス(7)の端部から水蒸気が蒸発する構造によって少なくとも部分的に覆われた蒸発面と、毛管凝縮領域において蒸気が凝縮することによってメニスカス(8)を形成する毛管構造によって少なくとも部分的に覆われた凝縮面とを有する少なくともエバポレータ-コンデンサ管又はチャンバを備え、凝縮潜熱の放出地点と蒸発潜熱の吸収地点との間の熱経路(9)に水層が存在せず、前記潜熱交換器は、一次蒸気と二次蒸気との間の0.5℃~0.8℃又はそれ未満の熱上昇に前記食塩水の沸点に関連する上昇をプラスした状態での凝縮及び蒸発サイクルの実行を可能にする高い包括的総潜熱伝達係数を有するように構成され、前記二次蒸気と前記一次蒸気との間の圧縮比は1.11以下であり、前記脱塩装置は、前記熱交換器の前記蒸発面から一次蒸気を引き込み、該一次蒸気の温度及び圧力を高めて前記潜熱交換器の前記凝縮面に供給される二次蒸気を発生させるように構成された、圧縮比が1.11以下の少なくとも1つのファンを組み込む、ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記脱塩される食塩水は、前記潜熱交換器の前記蒸発面に室温と同等又は同様の温度で供給される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記装置は、前記一次蒸気と前記二次蒸気との間に配置された複数のコンデンサ-エバポレータ作用又はサイクルを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記ファンは、風力、太陽光又は海洋エネルギーの再生可能なエネルギー源によって駆動される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記熱交換器の前記蒸発面上に供給される前記食塩水は、海水又は汽水以外の食塩水である、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧縮比を有する機械的蒸気圧縮(MVC)脱塩装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的蒸気圧縮(MVC)又は機械的蒸気再圧縮(MVR)を通じた脱塩装置は、運動エネルギーを一次蒸気の圧縮仕事(compression work)に変換して二次蒸気の圧力及び温度の上昇を達成することに基づく。二次蒸気は、圧縮機から離れ、潜熱交換器の凝縮壁において凝縮して潜在的凝縮熱を放出し、この熱が潜熱交換器の壁を通過して蒸発面上で潜在的蒸発熱に変換されて一次蒸気が発生し、この一次蒸気が圧縮機内に再導入されて新たな二次蒸気が発生する。従って、MVCは、実質的に全ての潜熱をリサイクルする装置であり、MVCが消費するエネルギーは、基本的に蒸気圧縮機を動かす機械的エネルギーである。この機械的エネルギーは、蒸気にリサイクルされるエンタルピーのごく一部である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在のMVC装置の1つの問題点は、液体薄膜潜熱交換器(thin liquid film latent heat exchangers)を使用する点である。現在の液体薄膜熱交換器の潜熱交換係数は約2,000W/m2Kであり、垂直構成では6,000W/m2Kに達する。
【0004】
この制限された潜熱交換係数は、現在のMVCが一次蒸気と二次蒸気との間の高い温度勾配、熱上昇を必要とすることを意味する。多重作用MED-MVC構成(multi-effect MED-MVC configurations)の場合には、この温度差が倍増する。最新式のMVC装置は、一次蒸気と二次蒸気との間の温度差又は熱勾配が作用当たり約5℃又はそれを上回るように構成される。発生した蒸気の圧力と吸入蒸気(intake vapour)の圧力との間の商である圧縮比は、5度の勾配では1.3であり、すなわち1.2を上回る。このため、MVCは、規定により1.2又はそれ以上の圧縮比を有する圧縮機を備えているのに対し、ファンは1.11の圧縮比にしか到達せず、ブロワの圧縮比は1.11~1.2である。一次蒸気と二次蒸気との間の温度勾配が高ければ高いほど、機械的圧縮機に供給される一次蒸気と圧縮機から出なければならない二次蒸気との間の圧力差も大きくなる。従って、使用される必要な機械的蒸気圧縮機は、より高い圧縮比を必要とする。機械的圧縮機の圧縮比を高めると、圧縮機の設計が複雑化し、設備投資が高くなり、保守の複雑性が高まり、エネルギー消費量が高まる。
【0005】
最新の技術では、約2,000W/m2Kの現在の液体薄膜熱交換器のパラダイムを上回る潜熱伝達係数の上昇を可能にする微細溝を蒸発面及び凝縮面上に有する、凝縮及び毛管蒸発に基づく高熱効率熱交換管が存在する。潜熱伝達係数が上昇すると、潜熱交換器の凝縮面と蒸発面との間の温度勾配が減少する。温度勾配は、作用当たり約1℃の差異まで減少することができる。
【0006】
現在のMVCの別の問題点は、これらが1.2よりも高い圧縮比を必要とするため蒸気圧縮機を組み込む必要があり、ブロワ又はファンと連動することができず、圧縮機の流量が低いことによって管理できる蒸気流が比較的低いため、現在の最新式のMVCの蒸留水生成能力が制限されてしまう点である。
【0007】
現在のMVCの別の問題点は二次蒸気の過熱であり、すなわち蒸気の機械的圧縮によって飽和蒸気の温度が温度と圧力との間の平衡温度よりも上昇してしまう点である。この蒸気の過熱は、一次蒸気と二次蒸気との間で達成する必要がある圧力勾配の増加によって倍増する。過熱には除去プロセスが必要であり、エネルギーコストが伴う。
【0008】
現在のMVCの別の問題点は、高圧縮比を有する圧縮機の限られた体積流量をさらにうまく活用することによって機械的圧縮機の十分な効率レベルを達成するのに十分な濃度に達するために一次蒸気の温度が上昇する点である。通常、一次蒸気の作業温度は50℃~65℃である。一次蒸気の作業温度を高める要件はエネルギー消費を伴い、設備の断熱要件を高めてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、特許請求の範囲に定めるような低圧縮比を有するMVC脱塩装置によって、上述した問題点のうちの1つ又は複数を解決し、脱塩能力を高め、単位脱塩水当たりエネルギー原価率(specific energy cost per unit of desalinated water)を低減しようとするものである。
【0010】
この低圧縮比を有する新たなMVC脱塩装置は、以下の際立った特徴を有する。
【0011】
現在のMVCの場合の作用当たり約5℃又はそれよりも高い熱勾配の代わりに熱上昇が作用当たり約1℃又はそれ未満になるように、毛管蒸発及び毛管凝縮を通じた高潜熱交換係数を有する高効率な潜熱交換器を組み込む。
【0012】
この一次蒸気と二次蒸気との間の温度差の減少、及び対応する一次蒸気と二次蒸気との間の圧力差の減少により、圧縮比が1.11未満に低下するようになる。
【0013】
圧力差の減少は、システムへの作業入力の減少、すなわち単位凝縮水当たりエネルギー消費率(specific consumption of energy per unit of condensed water)の低減を可能にする。
【0014】
圧縮比が1.11未満に低下することで、最新式のMVC装置の圧縮機を、必要な設備投資及びメンテナンスコストが圧縮機よりも安い機械的装置であるファンに置き換えることが可能になる。
【0015】
ファンを組み込むことによって、圧縮機よりも高い流量の達成が可能になり、これにより圧縮機を備えた最新式のMVCに対して脱塩水の量を倍増させることができる。
【0016】
低圧縮比を有するMVC脱塩装置は、圧縮機によって課せられる流量制限に由来する蒸気濃度要件を有していないので、一次蒸気の温度が低い状態で作動することができる。従って、一次蒸気の温度が、脱塩される常温の食塩水に近い又は等しい温度まで低下して、一次蒸気の作業温度を高めるために必要なエネルギー入力を低減又は排除することができる。
【0017】
一次蒸気と二次蒸気との間の圧力差が減少すると、二次蒸気の過熱効果が低下して対応するエネルギーが節約される。
【0018】
MVC装置に特有の実質的に全ての一次蒸気のリサイクルプロセスが、最新式のMVCで必要とされるよりも少ないエネルギー供給で達成され、従って大きなエンタルピーをリサイクルするために提供される機械的エネルギーの一部が低減される。このため、単位脱塩水当たり原単位(specific consumption per unit of desalinated water)が理論的最小値に比較的近いレベルになる。
【0019】
従って、この低圧縮比を有するMVC脱塩装置は、工業用脱塩システムの中で最も低い単位脱塩水当たりエネルギー消費率の達成を可能にする。
【0020】
低圧縮比を有する脱塩プラントの低いエネルギー消費率は、脱塩プラントが風力、太陽光又は海洋エネルギー源などの100%再生可能なオフグリッドエネルギー源に結合されることを可能にする。
【0021】
単一の脱塩装置よりも能力の高い脱塩プラントを構築するために、コストが最小化されて利益が最大化されるミニマックス設計(minmax formulation)に従う寸法をそれぞれが有する複数の脱塩プラントから成るモジュラーシステムを形成することもできる。
【0022】
添付図に基づく以下の説明に本発明のさらに詳細な解説を示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】圧縮機を含む最新式のMVC装置の長手方向断面を示す図である。
図2】微細溝を有する蒸発凝縮チャンバのジグザグ断面を示す図である。
図3】ファンを含む低圧縮比のMVC脱塩装置の長手方向断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、降下又は上昇薄膜プロセスにおいて蒸発面上に食塩水が加えられる管又はチャンバ潜熱交換器1を有する最新式の機械的蒸気圧縮脱塩プラントの図を示す。最新式のMVCは、水平又は垂直に配置することができる。最新式のMVCは、潜熱交換器1の蒸発面からの一次蒸気2を受け取る蒸気圧縮機4を有する。圧縮機4は、一次蒸気2の圧力を高めて二次蒸気5を生成する。二次蒸気5は、交換器1の凝縮面に供給され、そこで凝縮して装置から凝縮水6が引き出される。熱交換器の凝縮面上で二次蒸気を凝縮させることによって潜熱が放出され、このエネルギーが潜熱交換器の壁を通じて蒸発面に伝わり、ここで蒸発面上に供給された食塩水の蒸発部分によってエネルギーが潜熱に変換されて塩水(brine)3が生成され、これが装置から抽出されて新たな一次蒸気2が圧縮機4に再導入され、新たなサイクルを再開する。食塩水は、熱交換器1の蒸発面上を液体薄膜の形で流れる。水層の熱抵抗は、最新式の潜熱交換器の壁の総潜熱伝達係数を制限し、この係数は約2,000W/m2Kであり、垂直構成では約6,000W/m2Kの係数に達することができる。水層によって課される熱抵抗は、作用毎に約5℃又はそれを上回る差異又は温度勾配を必要とする。最新式のMVC装置には、複数の作用を有するものもある。
【0025】
二次蒸気5は、圧縮プロセスの結果として過熱と呼ばれる現象に見舞われる。一次蒸気の温度は、その圧力に関連する平衡温度よりも上昇する。すなわち、コンデンサ4の出口に過熱防止装置を組み込んで、この過熱及び対応するエネルギー損失を排除する必要がある。
【0026】
通常、最新式のMVC装置は、塩の沈殿を避けるために二次蒸気の70℃を超えることなく最大濃度の蒸気を有するように、55℃~65℃の一次蒸気温度で作動する。
【0027】
図3に、低圧縮比を有するMVC脱塩プラントを示す。このMVC脱塩プラントは、図3のような垂直構成、又は水平構成を採用することができる。低圧縮比のMVC脱塩装置は、最新式のMVC装置との差別化をもたらす以下の特定の特徴を有する。
【0028】
この装置は、低大気圧条件で作動するシェル及び管又はチャンバ装置であり、潜熱交換器10は、以下の構成を有するエバポレータ-コンデンサ管又はチャンバで構成される。
【0029】
これらの管又はチャンバの凝縮面は、微細溝又は別の毛管構造で少なくとも部分的に覆われ、これらの毛管凝縮領域において水蒸気が凝縮する。これらの微細溝又はその他の毛管構造の断面、傾斜及び長さは、エネルギーフロー及び凝縮率を考慮して、凝縮水が毛管構造内に流入し、メニスカス8の端部と微細溝又はその他の毛管構造の端部との間に水層のない空間を残すように選択される。
【0030】
これらの管又はチャンバの蒸発面は、微細溝又は微小うねりによって少なくとも部分的に覆われ、これらの内部を流れる食塩水のメニスカス7の端部から蒸発が行われる。これらの微細溝の断面、傾斜及び長さ、並びに微細溝又は微小うねり内に供給される食塩水の流れは、エネルギーフロー及び蒸発率を考慮して、これらの微細溝又は微小うねりに沿って食塩水の流れが乾燥せず、メニスカス7の端部と微細溝又は微小うねりの端部との間に水層のない間隙が存在するように選択される。
【0031】
図2に示すように、これらのエバポレータ-コンデンサ管又はチャンバ10の1つの構成における壁断面は、連続するジグザグ、ギザギザ又は波形の連続線の形状を採用する。従って、凝縮面上に形成される凝縮水メニスカス8上の毛管凝縮点と、蒸発面上の蒸発が行われる食塩水メニスカス7の上端との間の熱経路9には水層が存在しない。従って、液体層を通過することなくエネルギーが伝わる。
【0032】
潜熱交換器のエバポレータ-コンデンサ管又はチャンバの蒸発面上における食塩水の供給は、蒸発面上の微細溝又は微小うねり内で行われる。この食塩水の供給は、潜熱交換器の壁で降下水層の熱抵抗が生じないように、降下水層領域では行われない。水層の熱障壁の低減又は排除、並びに脱塩装置の毛管凝縮及び蒸発の熱効率は、潜熱交換器の壁の総潜熱伝達係数を大いに高めることができる。脱塩装置25の潜熱交換器10の潜熱伝達係数は、40,000W/m2Kを超えることができる。
【0033】
潜熱交換器10のコンデンサ-エバポレータ管又はチャンバの高い潜熱伝達係数は、低圧縮比を有するMVC脱塩装置が必要とする一次蒸気と二次蒸気との間の差異又は温度勾配を、わずか0.8℃~0.2℃に食塩水の沸点上昇に関連する温度差をプラスしたものとすることができる。海水では、沸点上昇に関連する温度差が約0.5℃であり、従ってこの脱塩装置での一次蒸気と二次蒸気との間の温度差は、1.3℃~0.7℃又はそれ未満の低さとなり、すなわち約1℃又はそれ未満の温度差になる。
【0034】
この脱塩装置は、一次蒸気と二次蒸気との間の熱勾配を低減して一次蒸気と二次蒸気との間の圧力差を減少させ、すなわち二次蒸気と一次蒸気との間の圧縮比を1.11未満のレベルに低下させることに専念する。
【0035】
圧縮比が1.11未満に低下すると、必然的に蒸気を圧縮するための作業入力の必要性が低下して、脱塩水の単位当たりエネルギー消費率が低下する。
【0036】
1.11未満のレベルへの圧縮比の低下を使用して、最新式の装置から圧縮機4を排除して低圧縮ファン型装置14を導入することもできる。ファンは、圧縮機よりも資本コスト及び動作コストが低く、圧縮機よりもはるかに大きな体積流量を動かすことができ、従ってファンのコストは単位質量流量当たりの圧縮機のコストよりもはるかに低く、ファンの方が圧縮機よりも高い生産能力での配置を可能にする。
【0037】
熱交換器10の蒸発面上で発生した一次蒸気12は、ファン14の入口13に導かれ、ここで蒸気圧が高まって二次蒸気15が発生し、この二次蒸気15が高潜熱伝達係数で熱交換器10の凝縮面上に供給される。
【0038】
ファン14は、わずかな圧力の上昇を生みだすように構成することができる。圧縮機4の使用と対比したファン14を使用する重要な利点は、ファン14には圧縮機の流量制限がなく、従って低圧縮比を有するMVC脱塩装置を、高い蒸留水生産能力を可能にする高蒸気流量まで圧力を高めるように構成できる点である。
【0039】
ファン14には、圧縮機によって課せられる流量制限に由来する蒸気濃度要件がない。このため、ファン14は、約65℃の温度の一次蒸気を対応する高密度で供給する必要がある最新式のMVCの場合のように、蒸発面に供給される食塩水の温度を65℃に近い温度まで上昇させる必要なく作動することができる。ファン14は、脱塩される常温の水と同等又は同様の温度で動作して対応するエネルギーを節約することができる。
【0040】
ファン14の1.11未満の低圧縮比は、圧縮比が1.2よりも高い圧縮機によって生じるよりも低い過熱レベルと、対応するエネルギーの節約とを前提とする。
【0041】
潜熱交換プレート又は管の高潜熱伝達係数を考慮すると、低圧縮比を有するMVC脱塩装置の実施形態は、一次蒸気と二次蒸気との間の温度勾配が0.7℃又はそれ未満になるように設計することができる。この場合、圧縮比が1.06又はそれ未満に低下して、低圧縮比を有するMVC脱塩装置へのエネルギー入力が全ての工業用脱塩装置の中で単位脱塩水当たり最も低いレベルに到達するようにエネルギー消費率が低下することに加え、このエネルギーを完全に再生可能な資源によってオフグリッドで、すなわちCO2フットプリントに対する影響が実質的にゼロの状態で提供できることによって脱塩の世界にパラダイム変化がもたらされ、エネルギー資源及び経済的資源に乏しい地域でも安全な水を利用できるようになるという利点も得られる。
【0042】
ファン14は、図3に示すようなケーシング内に配置することも、或いはダクトによって接続された別のケーシング内に配置することもできる。
【0043】
この低圧縮比を有するMVC脱塩装置を使用して、海水、汽水又はその他のタイプの食塩水を脱塩することができる。
【0044】
低圧縮比を有するMVC脱塩装置は、単一の脱塩装置よりも高い能力を有する脱塩プラントを形成して高い生産性及びグリッド接続を提供するように、コストが最小化されて利益が最大化されるミニマックス設計に従う寸法をそれぞれが有する複数の脱塩装置によって形成されたモジュール構成で実装することができる。低圧縮比を有するMVC脱塩装置は、遠隔地にある又は資源の少ない地域向けに設計された低コスト構成に基づいて実装することができ、100%再生可能エネルギーからオフグリッドで作動することができる。
【符号の説明】
【0045】
7 メニスカス
8 メニスカス
9 熱経路
図1
図2
図3