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  • 特許-給油装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-17
(45)【発行日】2023-08-25
(54)【発明の名称】給油装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/02 20060101AFI20230818BHJP
【FI】
F01M1/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019032515
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020133603
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢代 光弘
(72)【発明者】
【氏名】吉川 朝翔
(72)【発明者】
【氏名】本田 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 一樹
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-144623(JP,A)
【文献】特開昭60-032921(JP,A)
【文献】実開昭50-078838(JP,U)
【文献】特開平11-153013(JP,A)
【文献】実開昭55-146805(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/00~11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯油部に配されたストレーナと、
エンジンの動力で駆動する第1オイルポンプと、
前記ストレーナと、前記第1オイルポンプとを接続する第1油路と、
前記第1オイルポンプと接続され、前記第1オイルポンプから吐出されるオイルが送られる吐出油路と、
前記貯油部と、前記第1油路とを接続するものの、前記吐出油路とは接続されていない第2油路と、
前記第2油路に設けられ、電力で駆動する第2オイルポンプと、
を備え、
前記第2油路のうちの前記第1油路との接続部位と前記第1オイルポンプとの距離は、前記接続部位と前記ストレーナとの距離よりも短く、
前記エンジンの停止後、かつ、始動前において、前記第2オイルポンプは、前記貯油部のオイルを吸い上げて前記第2油路から前記第1油路に吐出し、当該オイルを前記第1油路において前記ストレーナ側に逆流させる給油装置。
【請求項2】
前記第2オイルポンプの少なくとも一部は、前記貯油部のオイル中に位置する請求項1に記載の給油装置。
【請求項3】
前記エンジンの始動前、所定条件を満たすと、前記第2オイルポンプを駆動させる制御部
を備える請求項1または2に記載の給油装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2オイルポンプを駆動させている間、前記エンジンの始動を遅延させる請求項3に記載の給油装置。
【請求項5】
前記所定条件には、前記エンジンの直前の停止期間が所定時間以上であることが含まれる請求項3または4に記載の給油装置。
【請求項6】
前記給油装置は、車両に搭載され、
前記所定条件には、前記車両のドアロックの解除、または、前記車両のドアが開かれたことが含まれる請求項3から5のいずれか1項に記載の給油装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給油装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、エンジンの動力で駆動する機械式のオイルポンプが設けられる。オイルポンプは、オイルパンに貯留されたオイルを吸い上げて車両の各部に循環させる。例えば、特許文献1に記載されているように、オイルポンプとオイルパンの間にはストレーナが配されており、ストレーナの内部に設けられたフィルタ部によって、オイルから異物が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-151175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のオイルには小さな気泡が混ざっている。エンジンの停止後、時間の経過に伴い、オイルに混ざった気泡が集合して大きな気泡となる。エンジンの始動後、ストレーナ内部などに溜まった気泡は、オイルと共に機械式のオイルポンプに吸い上げられる。このとき、気泡によりオイルポンプ内で音が発生してしまう。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、エンジン始動時のオイル中の空気による音を低減することが可能な給油装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の給油装置は、貯油部に配されたストレーナと、エンジンの動力で駆動する第1オイルポンプと、ストレーナと、第1オイルポンプとを接続する第1油路と、第1オイルポンプと接続され、第1オイルポンプから吐出されるオイルが送られる吐出油路と、貯油部と、第1油路とを接続するものの、吐出油路とは接続されていない第2油路と、第2油路に設けられ、電力で駆動する第2オイルポンプと、を備え、第2油路のうちの第1油路との接続部位と第1オイルポンプとの距離は、接続部位とストレーナとの距離よりも短く、エンジンの停止後、かつ、始動前において、第2オイルポンプは、貯油部のオイルを吸い上げて第2油路から第1油路に吐出し、当該オイルを第1油路においてストレーナ側に逆流させる
【0007】
第2オイルポンプの少なくとも一部は、貯油部のオイル中に位置してもよい。
【0008】
エンジンの始動前、所定条件を満たすと、第2オイルポンプを駆動させる制御部を備えてもよい。
【0009】
制御部は、第2オイルポンプを駆動させている間、エンジンの始動を遅延させてもよい。
【0010】
所定条件には、エンジンの直前の停止期間が所定時間以上であることが含まれてもよい。
【0011】
給油装置は、車両に搭載され、所定条件には、車両のドアロックの解除、または、車両のドアが開かれたことが含まれてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エンジン始動時のオイル中の空気による音を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】給油装置の概略図である。
図2】車両の制御系を説明するためのブロック図である。
図3】制御部の制御処理の流れを示すフローチャートである。
図4】ECUの制御処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、給油装置1の概略図である。給油装置1は、車両2に搭載される。図1に示すように、給油装置1は、オイルパン3を有する。オイルパン3は、鉛直上側(図1中、上側)が開口した容器である。オイルパン3の内部には、オイルが貯留される空間である貯油部4が形成される。
【0016】
貯油部4には、ストレーナ5が配される。ストレーナ5は、少なくとも鉛直下側の一部がオイルパン3内(貯油部4)に進入して配される。ストレーナ5は、フィルタ5aを有する。フィルタ5aは、ろ過材(メッシュや不織布)などで構成され、ストレーナ5の内部を、図1中、上下に仕切る。
【0017】
ストレーナ5のうち、図1中、下側には、不図示の流入口が形成される。ストレーナ5のうち、図1中、上側には、流出口5bが形成される。流出口5bには、第1油路6が接続される。第1油路6は、ストレーナ5および第1オイルポンプMOPに連通する。
【0018】
第1オイルポンプMOPは、エンジンの動力で駆動する機械式のポンプである。第1オイルポンプMOPは、第1油路6を介して貯油部4から吸い上げたオイルを、吐出油路7に吐出する。吐出油路7に吐出されたオイルは、不図示の変速機に供給される。オイルは、潤滑や油圧(動力伝達)の用途で用いられた後、不図示の還流路を通ってオイルパン3内に還流する。
【0019】
ところで、オイルには空気が溶け込んでおり、エンジンの停止後、時間の経過に伴い、オイルに溶け込んだ空気が気泡となって大きくなる。エンジンの始動後、ストレーナ5内部や、第1油路6に溜まった気泡が、オイルと共に第1オイルポンプMOPに吸い上げられると、第1オイルポンプ内で気泡が潰れて音が発生してしまう。
【0020】
そこで、給油装置1は、第2油路8および第2オイルポンプEOPを有する。第2油路8は、貯油部4および第1油路6に連通する。すなわち、第2油路8の一端は、オイルパン3の内部に位置する。第2油路8の他端は、第1油路6に接続される。
【0021】
第2油路8の一端には、フィルタ9が設けられる。フィルタ9は、ろ過材(メッシュや不織布)などで構成される。第2油路8の他端(第2油路8のうち、第1油路6との接続部位)は、ストレーナ5との距離よりも、第1オイルポンプMOPとの距離の方が短い。第2油路8の他端は、第1オイルポンプMOPの吸入口近傍であるとよい。
【0022】
第2オイルポンプEOPは、電動ポンプで構成され、電力で(不図示のモータの動力で)駆動する。第2オイルポンプEOPは、第2油路8に設けられる。第2オイルポンプEOPは、貯油部4のオイル中に設けられる。すなわち、第2オイルポンプEOPは、オイルの液面Lよりも鉛直下側に位置する。
【0023】
第2オイルポンプEOPは、貯油部4のオイルを吸い上げ、第2油路8のうち、第2オイルポンプEOPよりも第1油路6側に吐出する。吐出されたオイルは、第1油路6に流入する。エンジンの始動前、第1オイルポンプMOPは停止している。そのため、第1油路6に流入したオイルは、ほとんど、第1油路6をストレーナ5側に逆流し、ストレーナ5から流出する。ストレーナ5から流出したオイルは、貯油部4に拡散する。
【0024】
そのため、第1油路6のうち、第2油路8の接続部位からストレーナ5までの区間(以下、対象区間という)、および、ストレーナ5の内部に気泡があっても、気泡は、オイルによって押し流されて貯油部4に拡散し、オイルパン3の液面Lで割れる。そのため、対象区間やストレーナ5の内部の気泡が除去される。こうして、エンジン始動時のオイル中の空気による音を低減することが可能となる。
【0025】
また、上記のように、第1油路6のストレーナ5は、内部に気泡を溜めることがある。しかし、第2油路8の一端には、フィルタ9が設けられるものの、ストレーナは設けられていない。そのため、第2オイルポンプEOPが吸い上げるオイルには、気泡が含まれ難い。その結果、第2オイルポンプEOPの駆動時、オイル中の空気による音を低減することが可能となる。
【0026】
また、上記のように、第2オイルポンプEOPは、貯油部4のオイル中に設けられる。そのため、第2オイルポンプEOPがオイルの外に配される場合に比べ、第2オイルポンプEOPの内部に気泡が入り込み難い。その結果、第2オイルポンプEOPの駆動時、オイル中の空気による音を低減することが可能となる。
【0027】
図2は、車両2の制御系を説明するためのブロック図である。図2に示すように、車両2は、ドアロックセンサS1、ドアセンサS2、バッテリ10、操作部11、ECU(Engine Control Unit)12、制御部13、ソレノイド14、エンジン15を有する。
【0028】
ドアロックセンサS1は、車両2のドアロックが解除されると、ドアロックが解除されたことを示す信号を制御部13に出力する。ドアセンサS2は、ドアが開かれると、ドアが開かれたことを示す信号を制御部13に出力する。バッテリ10は、第2オイルポンプEOPなどの車両2の補機に電力を供給する。バッテリ10は、バッテリ電圧を示す信号を制御部13に出力する。
【0029】
操作部11は、例えば、エンジン15の起動ボタンや、イグニッションキーなどで構成され、搭乗者からのエンジン15の始動操作を受け付け、始動操作を示す信号を操作部11に出力する。ECU12は、エンジン15全体を制御する。ECU12は、例えば、操作部11からの信号を受けて、エンジン15を始動させる。
【0030】
また、ECU12は、エンジン15が停止すると、エンジン15が停止したことを示す信号を制御部13に出力する。
【0031】
制御部13は、例えば、TCU(Transmission Control Unit)などで構成される。制御部13は、エンジン15の始動前、ドアロックセンサS1、ドアセンサS2、バッテリ10、ECU12から入力された信号に基づいて、所定条件を満たすか否かを判定する。
【0032】
所定条件には、エンジン15の直前の停止期間が所定時間以上であることが含まれる。所定時間は、例えば、オイル中の気泡の成長速度などに応じて設定される。所定条件には、車両2のドアロックの解除、または、車両2のドアが開かれたことが含まれる。所定条件には、バッテリ電圧が所定電圧以上であることが含まれる。
【0033】
所定条件を満たすと(上記条件をすべて満たすと)、制御部13は、ECU12に、エンジン15の始動の遅延要求を出力する。ECU12は、制御部13から遅延要求を受け付けると、エンジン15の始動待ちであることを示す始動待ちメッセージを、車内のメータなどの表示部に表示させる。
【0034】
そして、制御部13は、ソレノイド14に供給する電流値を0mAに設定する。ソレノイド14は、変速機の油圧を制御する弁を開閉する。制御部13は、第2オイルポンプEOPを設定時間駆動させた後、第2オイルポンプEOPを停止させる。その後、制御部13は、ソレノイド14の駆動を開始し、ECU12に、エンジン15の始動要求を出力する。ECU12は、制御部13から始動要求を受け付けると、エンジン15を始動させる。
【0035】
図3は、制御部13の制御処理の流れを示すフローチャートである。図3に示す処理は、所定周期で繰り返し実行される。また、図3に示す処理は、ステップS100でYESとなることを契機に開始されてもよい。
【0036】
制御部13は、ドアロックセンサS1、ドアセンサS2からの信号に基づいて、ドアロックが解除されたか、または、ドアが開かれたかを判定する(S100)。ドアロックが解除されず、ドアが開かれていない場合(S100におけるNO)、当該制御処理を終了する。
【0037】
ドアロックが解除されたか、または、ドアが開かれている場合(S100におけるYES)、制御部13は、ECU12からの信号に基づいて、エンジン15の直前の停止期間が所定時間以上であるか否かを判定する(S102)。エンジン15の直前の停止期間が所定時間以上でない場合(S102におけるNO)、当該制御処理を終了する。
【0038】
エンジン15の直前の停止期間が所定時間以上である場合(S102におけるYES)、制御部13は、バッテリ10からの信号に基づいて、バッテリ電圧が所定電圧以上であるか否かを判定する(S104)。バッテリ電圧が所定電圧以上でない場合(S104におけるNO)、当該制御処理を終了する。
【0039】
バッテリ電圧が所定電圧以上である場合(S104におけるYES)、制御部13は、ECU12にエンジン15の始動の遅延要求を出力する(S106)。制御部13は、ソレノイド14に供給する電流値を0mAに設定する(S108)。制御部13は、第2オイルポンプEOPを始動させる(S110)。
【0040】
制御部13は、第2オイルポンプEOPの始動後に設定時間経過したか否かを判定する(S112)。設定時間経過していない場合(S112におけるNO)、当該ステップS112を繰り返す。設定時間経過した場合(S112におけるYES)、第2オイルポンプEOPを停止する(S114)。
【0041】
続いて、制御部13は、ソレノイド14の駆動を開始し(S116)、ECU12にエンジン15の始動要求を出力し(S118)、当該制御処理を終了する。
【0042】
図4は、ECU12の制御処理の流れを示すフローチャートである。図4に示す処理は、所定周期で繰り返し実行される。また、図4に示す処理は、ステップS200でYESとなることを契機に開始されてもよい。
【0043】
ECU12は、操作部11からの信号に基づいて、エンジン15の始動操作があったか否かを判定する(S200)。始動操作がなかった場合(S200におけるNO)、当該制御処理を終了する。始動操作があった場合(S200におけるYES)、ECU12は、制御部13から遅延要求を受け付けたか否かを判定する(S202)。遅延要求を受け付けていない場合(S202におけるNO)、ステップS208に処理を移す。遅延要求を受け付けた場合(S202におけるYES)、ECU12は、エンジン15の始動待ちメッセージを表示部に表示させる(S204)。
【0044】
その後、ECU12は、制御部13から始動要求を受け付けたか否かを判定する(S206)。始動要求を受け付けていない場合(S206におけるNO)、当該ステップS206を繰り返す。始動要求を受け付けた場合(S206におけるYES)、ECU12は、エンジン15を始動させ(S208)、当該制御処理を終了する。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0046】
例えば、上述した実施形態では、第2オイルポンプEOPが、貯油部4のオイル中に位置する場合について説明した。しかし、第2オイルポンプEOPのうち、少なくとも一部が、貯油部4のオイル中に位置すればよい。また、第2オイルポンプEOPは、貯油部4のオイルの外に位置してもよい。
【0047】
また、上述した実施形態では、所定条件には、エンジン15の直前の停止期間が所定時間以上であること、車両2のドアロックの解除、車両2のドアが開かれたことが含まれる場合について説明した。ただし、所定条件には、これらのうち、いずれか1または複数が含まれてもよいし、いずれも含まれなくてもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、制御部13がTCUで構成される場合について説明した。しかし、制御部13は、ECU12で構成されてもよいし、他の制御装置で構成されてもよい。
【0049】
また、上述した実施形態では、給油装置1が、オイルを変速機に供給する場合について説明した。しかし、給油装置1は、オイルをエンジン15に供給してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ポンプおよびストレーナを有する給油装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 給油装置
2 車両
4 貯油部
5 ストレーナ
6 第1油路
8 第2油路
13 制御部
15 エンジン
MOP 第1オイルポンプ
EOP 第2オイルポンプ
図1
図2
図3
図4