(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-21
(45)【発行日】2023-08-29
(54)【発明の名称】離型フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230822BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 L
(21)【出願番号】P 2019022268
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智博
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-144381(JP,A)
【文献】特開2018-016077(JP,A)
【文献】特開2006-328289(JP,A)
【文献】特開2018-065282(JP,A)
【文献】特開2010-203002(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038502(WO,A1)
【文献】特開平06-093095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08G 63/00- 64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸及び「その他のジカルボン酸成分」と、エチレングリコール及び「その他のアルコール成分」との共重合体からなる共重合ポリエステルAを主成分樹脂として含有する共重合ポリエステル層(I層)を備えた共重合ポリエステルフィルムの少なくとも片面側に、カチオン重合性紫外線硬化型シリコーン離型剤組成物を硬化してなる離型層を備え、前記共重合ポリエステルAは、ジカルボン酸成分に占める「その他のジカルボン酸成分」の割合が5mol%以上20mol%以下であり、アルコール成分に占める「その他のアルコール成分」の割合が1mol%以上50mol%以下であり、前記「その他のジカルボン酸成分」がダイマー酸を含む離型フィルム。
【請求項2】
前記カチオン重合性紫外線硬化型シリコーン離型剤組成物が、γ-グリシジルオキシプロピル基、β(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、及び、β(4-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基からなる群の中から選択されるエポキシ基を少なくとも一つ有する化合物を含有する、請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項3】
前記離型層の常態剥離力(F1)、加熱剥離力(F2)及び空気暴露剥離力(F3)は、F2-F1≦10(mN/cm)、及び、F3-F1≦10(mN/cm)の関係を満足することを特徴とする、請求項1又は2に記載の離型フィルム。
F1:離型層表面に粘着テープを貼り合せてから、室温にて1時間放置後の180°剥離力
F2:離型層表面に粘着テープを貼り合せてから、100℃にて1時間熱処理後の180°剥離力
F3:離型層を室温にて24時間放置後に粘着テープを張り付けて測定した180°剥離力
【請求項4】
前記共重合ポリエステル層(I層)は、前記共重合ポリエステルAと、これと相溶する樹脂Bとを含む層である、請求項1~3の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項5】
前記樹脂Bとして、1種又は2種以上のポリエステルを含み、当該ポリエステルは、
ジカルボン酸成分であるテレフタル酸及び「その他のジカルボン酸成分」と、アルコール成分であるエチレングリコール及び「その他のアルコール成分」とを含み、ジカルボン酸成分の合計含有量に対する「その他のジカルボン酸成分」の合計含有量の割合が5mol%以上20mol%以下であり、アルコール成分の合計含有量に対する「その他のアルコール成分」の合計含有量の割合が1mol%以上50mol%以下である、請求項4に記載の離型フィルム。
【請求項6】
共重合ポリエステル層(I層)に含まれる全ポリエステルにおいて、ジカルボン酸成分の含有量合計に占める「その他のジカルボン酸成分」の含有量合計の割合は5mol%以上20mol%以下であり、アルコール成分の含有量合計に占める「その他のアルコール成分」の含有量合計の割合は1mol%以上50mol%以下である請求項1~5の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項7】
前記「その他のジカルボン酸成分」が、ダイマー酸と、イソフタル酸又は脂肪族ジカルボン酸とを含む、請求項1~6の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項8】
前記「その他のアルコール成分」がジエチレングリコールを含む、請求項1~7の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項9】
共重合ポリエステルAは、テレフタル酸、イソフタル酸及びダイマー酸からなるジカルボン酸成分と、エチレングリコール及びジエチレングリコールからなるアルコール成分との共重合体であり、ジカルボン酸成分に占めるイソフタル酸及びダイマー酸の合計割合が5mol%以上20mol%以下であり、アルコール成分に占めるジエチレングリコールの割合が1mol%以上50mol%以下であり、結晶性の共重合ポリエステルである請求項1~8の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項10】
前記ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の二量体からなるジカルボン酸であって不飽和脂肪酸の炭素数が20~80である請求項1~9の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項11】
前記ダイマー酸は、互いに異なる又は同一の不飽和脂肪酸を用いて二量化した後に水素添加された水添ダイマー酸である請求項1~10の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項12】
共重合ポリエステル層(I層)の表裏両側に、ポリエステルCを主成分樹脂として含有するポリエステル層(II層)を積層してなる構成を備えており、当該ポリエステルCは、共重合ポリエステルAが結晶性の場合は、共重合ポリエステルAの融点よりも高い融点を有するポリエステルであり、共重合ポリエステルAが非晶性の場合は、共重合ポリエステルAのガラス転移点よりも高い温度の融点を有するポリエステルである、請求項1~11の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項13】
ポリエステル層(II層)の各層厚みは、共重合ポリエステル層(I層)の厚みの1~20%である、請求項12に記載の離型フィルム。
【請求項14】
前記共重合ポリエステルフィルムの全厚みが20μm以上である、請求項1~13の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項15】
工程紙である、請求項1~14の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項16】
粘着層保護用である、請求項1~14の何れかに記載の離型フィルム。
【請求項17】
請求項1~14の何れかに記載の離型フィルム、粘着層、他の離型フィルムが順次積層されてなる構成を備えた積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面側に、紫外線硬化型シリコーン系離型剤を硬化してなる離型層を備えた離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムとして代表的なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、特に2軸延伸PETフィルムは、透明性、機械強度、耐熱性、柔軟性などに優れているため、工業材料、光学材料、電子部品材料、電池用包装材など様々な分野に使用されている。
ポリエステルフィルムを基材として、シリコーン樹脂を主成分とする紫外線硬化型シリコーン系離型剤を硬化してなる離型層を設けた離型フィルムは、多くの分野で使用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、二軸延伸ポリエステルフィルムからなる基材に、第一下引き層、第二下引き層、および硬化型シリコーン樹脂を含有する離型層が順次積層されてなることを特徴とする離型フィルムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ポリエステルフィルムの少なくとも片面にシリコーン離型層を有し、当該離型層を形成する組成物は、紫外線硬化型シリコーン樹脂およびオニウム塩を含む離型フィルムが開示されている。
【0005】
近年、部材の表面保護フィルムとして離型フィルムが使用されている。この種の表面保護フィルムの構成としては、基材フィルムの裏面側に離型層を介して粘着層を設ける一方、基材フィルムの表面側にハードコート層を設けた構成のものが一般的であった。
例えば特許文献3には、厚さ8~26μmのポリエステルフィルムを基材とし、当該フィルムの製膜ラインにおいて設けられた、乾燥後の塗布量が0.02~0.3g/m2の離型層を有する離型フィルムであり、当該離型層と粘着剤層間の180度剥離強度が1~6gf/25mmであることを特徴とする光学部材表面保護フィルム用離型フィルムが開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、粘着シートと、当該粘着シートの片面に剥離可能に積層してなる塗布フィルムとを備えた粘着シート積層体に関し、被着体表面の凹凸部と符合する凹凸形状を精度高く粘着シート表面に形成することが可能な塗布フィルムとして、共重合ポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層を設けた塗布フィルムであり、100℃での貯蔵弾性率E’が1.5×109Pa以下であり、かつ、120℃で5分間加熱後の収縮率が3.0%以下であることを特徴とする塗布フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-202657号公報
【文献】特開2018-16077号公報
【文献】特開2004-346093号公報
【文献】特開2018-144381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、自由自在に屈曲可能なフレキシブルディスプレイなどが開発され、保護フィルムの用途は広範囲になってきている。そのため、離型フィルムをより広範囲の用途に適用するためには、単に柔軟であるばかりでなく、よりしなやかな離型フィルムを開発する必要がある。
【0009】
ところで、特許文献2に開示されているように、紫外線硬化型シリコーン樹脂から離型層を形成する場合、紫外線照射によって離型層を硬化させるため、100℃以下の低温で離型層を形成することになる。しかし、このような低温で離型層を形成した場合、その後の加工によって離型層の性質が変動し易くなるため、剥離力が安定しないという課題を抱えていた。
【0010】
そこで本発明の課題は、単に柔軟であるばかりでなく、よりしなやかな離型フィルムであって、且つ、高温でない条件、例えば100℃以下の加熱条件で離型層を形成した場合であっても、剥離力が安定している、新たな離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、テレフタル酸及び「その他のジカルボン酸成分」と、エチレングリコール及び「その他のアルコール成分」との共重合体からなる共重合ポリエステルAを主成分樹脂として含有する共重合ポリエステル層(I層)を備えた共重合ポリエステルフィルムの少なくとも片面側に、カチオン重合性紫外線硬化型シリコーン離型剤組成物を硬化してなる離型層を備えた離型フィルムを提案する。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提案する離型フィルムは、単に柔軟であるばかりでなく、よりしなやかな離型フィルムである。よって、本発明が提案する離型フィルムは、例えば、電池用構成部材、粘着剤層保護(OCA(Optical Clear Adhesive)用保護、粘着テープ用保護など)、医療分野の経皮吸収型貼付薬用セパレータ、製造工程に用いる工程紙、画像表示用部材の保護、中でもフレキシブルディスプレイやウェアラブル端末などのしなやかさが必要とされる構成部材に追従できる保護フィルムとしても好適である。
さらに、本発明が提案する離型フィルムは、例えばその後の加工などによって離型層の性質が変動せず、安定した剥離力を発揮することができる。よって、例えばその後の加工工程において、100℃以上の熱をかけたくない部材表面を保護する保護フィルムや、曲面や凹凸への追従性が必要とされる面に貼着する離型フィルム、さらには、特に剥離力が極力安定していることが必要とされる工程紙などの用途に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例で行ったたわみ測定法の方法を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。但し、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<<<本離型フィルム>>>
本発明の実施形態の一例に係る離型フィルム(「本離型フィルム」と称する)は、共重合ポリエステルAを主成分樹脂として含有する共重合ポリエステル層(I層)を備えた共重合ポリエステルフィルム(「本共重合ポリエステルフィルム」と称する)の少なくとも片面側に離型層(「本離型層」)を備えた離型フィルムである。
【0016】
本離型フィルムは、本共重合ポリエステルフィルムの少なくとも片面側に離型層を備えていればよいから、本共重合ポリエステルフィルムの両面側に離型層を備えていてもよいし、本共重合ポリエステルフィルムと離型層との間に他の層を備えていてもよい。
【0017】
<<本共重合ポリエステルフィルム>>
本離型フィルムの基材としての役割を為す本共重合ポリエステルフィルムは、前述のように、共重合ポリエステルAを主成分樹脂として含有する共重合ポリエステル層(I層)を備えた単層又は積層のフィルムである。
【0018】
本共重合ポリエステルフィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであるのが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性に優れる点で、二軸延伸フィルムであるのが好ましい。
【0019】
<共重合ポリエステル層(I層)>
共重合ポリエステル層(I層)は、共重合ポリエステルAを主成分樹脂として含有する層である。
【0020】
ここで、前記「主成分樹脂」とは、共重合ポリエステル層(I層)を構成する樹脂のうち最も含有割合の多い樹脂の意味である。当該主成分樹脂は、共重合ポリエステル層(I層)を構成する樹脂のうち30質量%以上、中でも50質量%以上、その中でも80質量%以上(100質量%を含む)を占める場合がある。
【0021】
共重合ポリエステル層(I層)は、構成する樹脂が共重合ポリエステルAのみであってもよいし、共重合ポリエステルA以外の樹脂Bを含むものであってもよい。
この際、樹脂Bとしては、共重合ポリエステルAと相溶する樹脂であるのが好ましい。
共重合ポリエステル層(I層)が、共重合ポリエステルAと、これと相溶する樹脂Bとを含む場合については後述する。
【0022】
(共重合ポリエステルA)
共重合ポリエステルAは、テレフタル酸及びその他のジカルボン酸成分と、エチレングリコール及びその他のアルコール成分との共重合体である共重合ポリエステルである必要がある。
共重合ポリエステルAは、結晶性であっても、非晶性であってもよい。
【0023】
前記「その他のジカルボン酸成分」としては、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、多官能酸などを挙げることができる。なお、「その他のジカルボン酸成分」は2種以上を併用してもよい。このように2種以上を併用することにより、本共重合ポリエステルフィルムをより効果的に柔軟化できるだけでなく、結晶構造を保持させることができ、耐熱性を有する場合もある。
中でも、本共重合ポリエステルフィルムを柔軟化し易くする観点から、「その他のジカルボン酸成分」としては、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコ酸及びそれらの誘導体などの脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロペンタンジカルボン酸、シクロオクタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、又は、ダイマー酸が好ましい。
脂肪族ジカルボン酸の中でも、ガラス転移温度をより下げることができる観点から、炭素数20~80、中でも30以上或いは60以下、その中でも36以上或いは48以下の脂肪族ジカルボン酸が特に好ましい。
【0024】
前記ダイマー酸としては、不飽和脂肪酸の二量体からなるジカルボン酸であって不飽和脂肪酸の炭素数が18以上のものが好ましい。そのようなダイマー酸の例として、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リノール酸、リノレン酸等から選ばれた互いに異なる又は同一の不飽和脂肪酸を用いて二量化したものを挙げることができる。さらに、そのような二量化後に水素添加したものも使用することができる。なお、前記ダイマー酸は芳香族環や脂環族単環および脂環族多環を含むものでもよい。
このようなダイマー酸の中でも、ガラス転移温度をより下げることができる観点から、炭素数20~80、中でも26以上或いは60以下、その中でも30以上或いは50以下のダイマー酸が好ましい。
【0025】
前記の通り、「その他のジカルボン酸成分」は任意に選択することができる。中でも、芳香族ジカルボン酸から1種以上を選択し、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、ダイマー酸から1種以上を選択して併用することが好ましい。「その他のジカルボン酸成分」として芳香族ジカルボン酸を用いると、強度及び耐熱性を維持しつつフィルムを柔軟化することが出来る傾向がある。一方、「その他のジカルボン酸成分」として脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、ダイマー酸から選択して用いると、伸度(破断伸度)を維持しつつ、より少量の含有割合でフィルムを柔軟化することが出来る傾向があり、中でも、ダイマー酸を用いることが最も効果的である。従って、「その他のジカルボン酸成分」を上記のように組み合わせて併用することにより、強度、耐熱性、伸度、柔軟性を良好に兼ね備えたフィルムとすることが可能となる。
【0026】
共重合ポリエステルAにおいて、ジカルボン酸成分に占める「その他のジカルボン酸成分」の割合は、5~20mol%であるのが好ましく、中でも8mol%以上或いは18mol%以下、その中でも10mol%以上或いは15mol%以下であるのがさらに好ましい。ここで「その他のジカルボン酸成分」を2種以上併用する場合は、それらの合計量を意味する。
「その他のジカルボン酸成分」の割合が前記範囲であると、本共重合ポリエステルフィルムが、良好な伸度、強度及び耐熱性を有しつつ、効果的に柔軟化できる傾向がある。
【0027】
前記「その他のアルコール成分(ジオール成分)」としては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールおよびそれらの誘導体などを挙げることができる。中でも、柔軟性の観点からはジエチレングリコールが好ましく、耐熱性及び強度の観点からは1,4-ブタンジオールが好ましい。
なお、通常、エチレングリコールを原料の1つとしてポリエステルを製造(重縮合)する場合、エチレングリコールの一部は変性してジエチレングリコールとなってポリエステル骨格に導入される。このジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールと称し、その副生量は、重縮合の様式(エステル交換法、直接重縮合)等によっても異なるが、エチレングリコールのうち1~5モル%程度である。本発明においては、このようにエチレングリコールから副生されるジエチレングリコールも共重合成分として扱い、「その他のアルコール成分」に包含するものとする。
【0028】
共重合ポリエステルAにおいて、アルコール成分(ジオール成分)に占める「その他のアルコール成分(ジオール成分)」の割合は1mol%以上50mol%以下であるのが好ましく、中でも2mol%以上或いは40mol%以下、その中でも3mol%以上或いは30mol%以下であるのがさらに好ましい。ここで「その他のアルコール成分」を2種以上併用する場合は、それらの合計量を意味する。
「その他のアルコール成分」の割合が前記範囲であると、本共重合ポリエステルフィルムが、良好な伸度、強度及び耐熱性を有しつつ、効果的に柔軟化できる傾向がある。
なお、「その他のアルコール成分」は2種以上を併用してもよい。2種以上を併用することにより、本共重合ポリエステルフィルムをより効果的に柔軟化できる場合がある。
【0029】
また、「その他のジカルボン酸成分」と「その他のアルコール成分」とを合計して、3種以上を併用することが好ましい。共重合成分を複数併用することにより、より少量の含有割合でフィルムを柔軟化することが出来る傾向がある。なお、共重合成分の種類が多すぎると、フィルムの特性を安定化させることが困難な場合があるため、「その他のジカルボン酸成分」と「その他のアルコール成分」は、合計して3~5種であることが好ましく、中でも3種又は4種であることが好ましい。
【0030】
前記の中でも特に好ましい共重合ポリエステルAとして、テレフタル酸、イソフタル酸及び脂肪族ジカルボン酸もしくはダイマー酸と、エチレングリコール及びジエチレングリコールとの共重合体であり、ジカルボン酸成分に占めるイソフタル酸、脂肪族ジカルボン酸もしくはダイマー酸の合計割合が5mol%以上20mol%以下であり、アルコール成分に占めるジエチレングリコールの割合が1mol%以上50mol%以下であり、結晶性の共重合ポリエステルAaを挙げることができる。
通常、共重合ポリエステルは、弾性率を下げるために共重合成分の比率を高めると結晶性が低下し、更にその比率を高めると非晶性となる。前記共重合ポリエステルAaは共重合成分の比率が高く、低い弾性率を実現することができるにもかかわらず、結晶性を維持しているため、延伸後の熱処理により熱固定することができる。その結果、共重合ポリエステルAaはしなやかであり、それでいて、伸度、強度が良好であり、更に、熱収縮を抑えることができる。
【0031】
(樹脂B)
上述したように、共重合ポリエステル層(I層)は、共重合ポリエステルAと、これと相溶する樹脂Bとを含む層であってもよい。
共重合ポリエステル層(I層)が、共重合ポリエステルA及び樹脂Bを含む層である場合、樹脂Bは、共重合ポリエステルAと相溶する樹脂であって、融点が270℃以下、或いは、非晶性であり、ガラス転移温度が30~120℃である樹脂が好ましい。このような樹脂Bを選択することにより、共重合ポリエステル層(I層)のガラス転移温度を高くすることができ、耐熱性を高めることができる。樹脂Bとして、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルを選択することにより、寸法安定性、耐熱性を付与することができる。
【0032】
また、柔軟性と耐熱性を両立させる観点から、樹脂Bとして、1種又は2種以上のポリエステルを含み、当該ポリエステル(1種又は2種以上のポリエステル含む)は、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸及び「その他のジカルボン酸成分」と、アルコール成分であるエチレングリコール及び「その他のアルコール成分」とを含み、ジカルボン酸成分の合計含有量(2種以上のポリエステル含む場合は、各ポリエステルに含まれるジカルボン酸成分の合計)に対する「その他のジカルボン酸成分」の合計含有量の割合が5mol%以上20mol%以下、中でも好ましくは8mol%以上或いは18mol%以下、その中でも好ましくは10mol%以上或いは15mol%以下であり、アルコール成分の合計含有量(2種以上のポリエステル含む場合は、各ポリエステルに含まれるアルコール成分の合計)に対する「その他のアルコール成分」の合計含有量の割合が1mol%以上50mol%以下、中でも好ましくは2mol%以上或いは40mol%以下、その中でも好ましくは3mol%以上或いは30mol%以下であるのが好ましい。すなわち、主成分樹脂以外の成分(樹脂B)として、前記共重合ポリエステルAに包含される樹脂と同様の樹脂を選択することができる。
【0033】
なお、共重合ポリエステル層(I層)は、共重合ポリエステルAと、これと相溶しない樹脂Dとを含む層であってもよい。
この樹脂Dとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができる。
【0034】
共重合ポリエステル層(I層)において、共重合ポリエステルAと樹脂Bの質量割合は98:2~50:50であるのが好ましく、中でも95:5~60:40、その中でも90:10~65:35であるのがさらに好ましい。
【0035】
なお、共重合ポリエステル層(I層)に含まれるポリエステル全体の成分割合が、共重合ポリエステルAと同様の成分割合であれば、共重合ポリエステルAを主成分樹脂として含む場合と同様の効果を得ることができると考えられる。
よって、共重合ポリエステル層(I層)が、1種又は2種以上のポリエステルを含有する場合において、共重合ポリエステル層(I層)に含まれる全ポリエステルの成分量合計において、ジカルボン酸成分の含有量合計に占める「その他のジカルボン酸成分」の含有量合計の割合は5mol%以上20mol%以下であり、アルコール成分の含有量合計に占める「その他のアルコール成分」の含有量合計の割合は1mol%以上25mol%未満であれば、共重合ポリエステルAを主成分樹脂として含む場合と同様の効果を得ることができる。
この際、ジカルボン酸成分の含有量合計に占める「その他のジカルボン酸成分」の含有量合計の割合の好ましい範囲は、共重合ポリエステルAにおける、ジカルボン酸成分に占める「その他のジカルボン酸成分」の割合の好ましい範囲と同様である。また、アルコール成分の含有量合計に占める「その他のアルコール成分」の含有量合計の割合の好ましい範囲は、共重合ポリエステルAにおける、アルコール成分に占める「その他のアルコール成分」の割合の好ましい範囲と同様である。
【0036】
<積層構成の場合>
本共重合ポリエステルフィルムは、上述したように、共重合ポリエステル層(I層)と他の層を備えた積層フィルムであってもよい。
【0037】
例えば、共重合ポリエステル層(I層)の表裏両側に、ポリエステルCを主成分樹脂として含有するポリエステル層(II層)を積層してなる構成を備えた積層フィルムを挙げることができる。
【0038】
(ポリエステルC)
前記ポリエステルCは、共重合ポリエステルAが結晶性の場合は、共重合ポリエステルAの融点よりも高い融点を有するポリエステルであるのが好ましく、共重合ポリエステルAが非晶性の場合は、共重合ポリエステルAのガラス転移点よりも高い温度の融点を有するポリエステルであるのが好ましい。
【0039】
このような構成を備えた積層フィルムであれば、ポリエステル層(II層)/共重合ポリエステル層(I層)/ポリエステル層(II層)となるように原料樹脂組成物を共押出などによって積層し、延伸した後に熱固定処理する際、共重合ポリエステル層(I層)の単層からなる場合に比べて高い温度で熱固定処理することができる。そのため、共重合ポリエステル層(I層)の単層では達成することができないレベルに柔軟化することができたり、耐熱性を上げたり、熱収縮をより一層防ぐことができたりする。
【0040】
前記積層フィルムにおいて、ポリエステル層(II層)の各層厚みは、共重合ポリエステル層(I層)の厚みの1~20%であるのが好ましい。
ポリエステル層(II層)の各層厚みが、共重合ポリエステル層(I層)の厚みの1%以上であれば生産性を大きく損なうことなく製膜が可能であり、20%以下であれば要求される柔軟性を十分に確保できるから好ましい。
かかる観点から、ポリエステル層(II層)の各層厚みは、共重合ポリエステル層(I層)の厚みの1~20%であるのが好ましく、中でも3%以上或いは15%以下、その中でも5%以上或いは12%以下であるのがさらに好ましい。
なお、共重合ポリエステル層(I層)の表裏両側に存在するポリエステル層(II層)の厚みは、表裏で異なっていてもよいし、同一でもよい。
【0041】
ポリエステルCは、共重合ポリエステルAが結晶性の場合、共重合ポリエステルAの融点よりも10~100℃高い、中でも20℃以上或いは90℃以下高い、その中でも40℃以上或いは70℃以下高い融点を有するポリエステルであるのが好ましく、他方、共重合ポリエステルAが非晶性の場合は、共重合ポリエステルAのガラス転移点よりも120~260℃高い、中でも140℃以上或いは230℃以下高い、その中でも160℃以上或いは200℃以下高い融点を有するポリエステルであるのが好ましい。
なお、共重合ポリエステル層(I層)の表裏両側に存在するポリエステル層(II層)の主成分となるポリエステルCは、表裏で異なっていてもよいし同一でもよい。中でも、表裏のポリエステルCの融点が大きく異ならないことが好ましい。具体的には、表裏両側に存在するポリエステル層(II層)の融点の差が80℃以下、中でも60℃以下、その中でも40℃以下であることが好ましい。共重合ポリエステル層Aの表裏両側のポリエステル層Cが同一であると、2種3層の共押出成形が可能となるので、この態様も好ましい。
【0042】
ポリエステルCとしては、例えば、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を含み、アルコール成分としてエチレングリコールを含むホモポリエステル若しくは共重合ポリエステルを好適に用いることができる。但し、これに限定するものではない。
【0043】
ポリエステルCが共重合ポリエステルである場合には、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、多官能酸などを挙げることができる。
ポリエステルCにおいて、ジカルボン酸成分に占める「テレフタル酸以外のジカルボン酸成分」の割合は、1~30mol%であるのが好ましく、中でも5mol%以上或いは25mol%以下、その中でも10mol%以上或いは20mol%以下であるのがさらに好ましい。
【0044】
ポリエステルCが共重合ポリエステルである場合には、エチレングリコール以外のアルコール成分としては、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールおよびそれらの誘導体などを挙げることができる。
ポリエステルCにおいて、アルコール成分に占める「エチレングリコール以外のアルコール成分」の割合は、1~100mol%であるのが好ましく、中でも5mol%以上或いは95mol%以下、その中でも10mol%以上或いは90mol%以下であるのがさらに好ましい。
【0045】
<本共重合ポリエステルフィルムの厚み>
本共重合ポリエステルフィルムの厚みは、特に限定するものではなく、用途によって適切な厚みを選択することができる。
中でも、本共重合ポリエステルフィルムの特徴をより発揮するという観点から、フィルムの全厚みが20μm以上であるのが好ましい。
フィルムのコシ(stiffness)の強さは厚さの三乗に比例すると言われている。しかし、本共重合ポリエステルフィルムは、20μm以上であっても、コシ(stiffness)が弱くてしなやか(flexible)であるという特徴を有しており、本発明の利益をより一層享受することができる。
かかる観点から、本共重合ポリエステルフィルムの全厚みは20μm以上が好ましく、中でも25μm以上、その中でも38μm以上であるのがさらに好ましい。
一方、本共重合ポリエステルフィルムの全厚みの上限は特に限定するものではない。1000μm以下であるのが好ましく、中でも500μm以下、その中でも250μm以下、その中でも125μm以下であるのがさらに好ましい。
【0046】
<本共重合ポリエステルフィルムの製造方法>
本共重合ポリエステルフィルムの製造方法の一例として、本共重合ポリエステルフィルムが二軸延伸フィルムの場合について説明する。但し、ここで説明する製造方法に限定するものではない。
【0047】
先ずは、公知の方法により、原料、例えば共重合ポリエステルチップを溶融押出装置に供給し、それぞれのポリマーの融点以上に加熱し、溶融ポリマーをダイから押し出し、回転冷却ドラム上でポリマーのガラス転移点以下の温度となるように冷却固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得るようにすればよい。
次に、当該未配向シートを、一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。この際、延伸温度は、通常25~120℃、好ましくは35~100℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは2.8~6倍である。
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸する。この際、延伸温度は通常50~140℃であり、延伸倍率は通常3.0~7倍、好ましくは3.5~6倍である。
そして、引き続き130~270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱固定処理を行い、二軸配向フィルムとしての本共重合ポリエステルフィルムを得ることができる。
なお、前記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。
【0048】
前記熱固定処理(「熱処理」とも称する)は、共重合ポリエステル層(I層)の単層からなる場合、共重合ポリエステルAの融点よりも10~70℃低い温度で行うのが好ましい。
【0049】
本共重合ポリエステルフィルムが共重合ポリエステル層(I層)とポリエステル層(II層)との積層構成を備える場合、共重合ポリエステル層(I層)及びポリエステル層(II層)は共押出した後、上述のように、一体のフィルムとして、延伸及び熱固定処理を行えばよい。
【0050】
この際の熱固定処理は、ポリエステルCの融点よりも低い温度に加熱して熱固定処理するのが好ましい。更に、共重合ポリエステルAが結晶性である場合は、共重合ポリエステルAの融点よりも高い温度で熱固定処理するのが好ましい。そのような温度で熱固定処理することにより、共重合ポリエステル層(I層)の単層では達成することができないレベルに柔軟化することができる。
これは、ポリエステルCの融点よりも低い温度で熱固定することにより、表層の延伸配向が固定されるため、伸度、強度及び耐熱性(熱収縮性)が良好となる一方、共重合ポリエステルAの融点よりも高い温度で熱固定することにより、中間層の延伸配向や歪みが緩和されるため、より一層しなやかなフィルムとすることが出来るためである。
【0051】
<<本離型層>>
本離型層は、カチオン重合性紫外線硬化型(以下、「UVカチオン系」と称する場合がある)シリコーン離型剤及び光重合開始剤と、必要に応じて他の成分とを含有する、UVカチオン系シリコーン離型剤組成物からなる層である。
【0052】
<UVカチオン系シリコーン離型剤組成物>
本離型層は、UVカチオン系シリコーン離型剤組成物を、本共重合ポリエステルフィルムの片側又は両側の表面に塗布し、紫外線照射処理を施して硬化させることにより形成することができる。
【0053】
UVカチオン系シリコーン離型剤は、紫外線照射によって硬化(架橋)して、剥離性皮膜を形成し、熱安定性に優れた剥離特性を発現する離型層を形成することができる。
【0054】
UVカチオン系シリコーン離型剤としては、紫外線照射により硬化(架橋)が可能なカチオン重合型のシリコーン系剥離処理剤であれば、特に制限なく用いることができる。
単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
UVカチオン系シリコーン離型剤は、主鎖のポリシロキサン成分中に、カチオン重合反応性官能基(またはカチオン重合反応部位)が1種又は2種以上導入された変性シリコーン系ポリマー成分(変性ポリシロキサン成分)が、1種又は2種以上を併用するのが一般的である。
このような変性シリコーン系ポリマー成分において、カチオン重合反応性官能基としては、例えば、エポキシ基(特に、脂環式エポキシ基など)を好適に用いることができる。また、前記カチオン重合反応性官能基は、変性シリコーン系ポリマー成分1分子中に、少なくとも2つ導入されていることが好ましい。
なお、カチオン重合反応性官能基は、変性シリコーン系ポリマー成分中の主鎖又は側鎖の珪素原子に、直接結合していてもよく、2価の基(例えば、アルキレン基、アルキレンオキシ基等の2価の有機基など)を介して結合していてもよい。
【0056】
前記UVカチオン系シリコーン離型剤は、γ-グリシジルオキシプロピル基、β(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、及び、β(4-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基からなる群の中から選択されるエポキシ基を少なくとも一つ有する化合物を含有するものであるのが好ましい。
【0057】
また、前記UVカチオン系シリコーン離型剤は、カチオン重合反応性官能基が導入された変性シリコーン系ポリマー成分としては、分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する変性シリコーン系ポリマー成分を好適に用いることができる。
分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する変性シリコーン系ポリマー成分としては、特に限定されるわけではない。例えば、主鎖のポリシロキサン成分中に、γ-グリシジルオキシプロピル基、β(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、β(4-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基などのエポキシ基含有基(特に、脂環式エポキシ基を含有する基)が、1分子中に少なくとも2つ導入された変性シリコーン系ポリマー成分などを挙げることができる。
【0058】
なお、前記エポキシ基含有基は、例えば、モノマー成分として「HOSi(R1)(R2)OH」(R1はエポキシ基含有基、R2は水素原子又は炭化水素基)を用いることにより、分子中に導入することができる。
【0059】
前記変性シリコーン系ポリマー成分は、直鎖状、分岐鎖状のいずれの鎖状形態を有していてもよく、また、これらの混合物であってもよい。
【0060】
市販品の具体例として、信越化学工業社製:X-62-7622、X-62-7629、X-62-7655、X-62-7660、モメンティブ・スペシャリティーケミカルズ社製:XS56-C2244、TPR6501S、TPR6500、UV9300、UV9315、XS56-A2982、荒川化学製:UVPOLY200、UVPOLY201、UVPOLY215などを例示することができる。
【0061】
<光重合開始剤>
UVカチオン系シリコーン離型剤と組み合わせて用いる光重合開始剤としては、オニウム塩系光重合開始剤が好適である。但し、光重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
オニウム塩系光重合開始剤としては、例えば、特開平6-32873号公報、特開2000-281965号公報、特開平11-228702号公報、特公平8-26120号公報で記載されているオニウム塩系光開始剤などを挙げることができる。
【0063】
中でも、オニウム塩系光重合型開始剤として、ジアリールヨードニウム塩を挙げることができる。
前記ジアリールヨードニウム塩としては、式:Y2I+X- (Yは置換基を有していてもよいアリール基を示す。また、X-は、非求核性且つ非塩基性の陰イオンである。)で表される化合物を挙げることができる。
なお、上記X-の非求核性且つ非塩基性の陰イオンとしては、例えば、SbF6
-、SbCl6
-、BF4
-、[B(C6H5)4]-、[B(C6H5)4]-、[B(C6H4CF3)4]-、[(C6H5)2BF2]-、[C6H5BF3]-、[B(C6H3F2)4]-、AsF6
-、PF6
-、HSO4
-、ClO4
-などを挙げることができる。
【0064】
また、オニウム塩系光重合型開始剤として、トリアリールスルホニウム塩、トリアリールセレノニウム塩、テトラアリールホスホニウム塩、アリールジアゾニウム塩などを挙げることができる。これらトリアリールスルホニウム塩、トリアリールセレノニウム塩、テトラアリールホスホニウム塩、アリールジアゾニウム塩の具体例として、それぞれ「Y3S+X-」、「Y3S+X-」、「Y4P+X-」、「YN2
+X-」(Y、X-は、前記に同じ)で表される化合物を挙げることができる。
【0065】
(その他の添加剤)
前記UVカチオン系シリコーン離型剤組成物は、UVカチオン系シリコーン離型剤及び光重合開始剤以外に、必要に応じて、白金含有触媒などの硬化反応触媒、希釈溶剤、その他の添加剤を含有することができる。
【0066】
前記希釈溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルメチルケトン(MEK)、イソブチルメチルケトン等のケトン類、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類などを挙げることができる。これらは、溶解性、塗工性や沸点等を考慮して単独または複数混合して使用するのが好ましい。
【0067】
また、反応調整剤、密着強化剤等の助剤を併用してもよい。
【0068】
<<その他の層>>
本離型フィルムは、本共重合ポリエステルフィルムと離型層との間に「他の層」を備えていてもよい。
当該「他の層」としては、例えば帯電防止層やオリゴマー封止層などの各種機能を備えた層を挙げることができる。
【0069】
<<本離型フィルムの製造方法>>
本離型フィルムは、本共重合ポリエステルフィルムの片面側又は両面側に、必要に応じて、帯電防止層やオリゴマー封止層などの塗布層を形成した後、これらの表面に、上記UV硬化シリコーン組成物を塗布し、必要に応じて紫外線照射して離型層を硬化させることにより、製造することができる。
【0070】
UVカチオン系シリコーン組成物の塗布方法としては、マルチロールコート、リバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、バーコート、ダイコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」(槇書店 原崎勇次著1979年発行)に記載例がある。
【0071】
UVカチオン系シリコーン組成物を塗布する前に予め、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を本ポリエステルフィルムに施してもよい。
【0072】
上記シリコーン組成物の塗布量、すなわち本離型層の厚み(乾燥後)は、ブロッキング防止と移行性(すなわち離型剤成分が粘着テープ等へ移行する特性)の増大抑制の観点からは、薄くするのが好ましく、他方、軽剥離性(剥離力の低さ)を維持する観点からは、厚くするのが好ましい。かかる点を考慮して、本離型層の厚みは、0.01~1g/m2であるのが好ましく、中でも0.05g/m2以上或いは0.5g/m2以下、その中でも0.05g/m2以上或いは0.2g/m2以下であるのがさらに好ましい。
【0073】
UVカチオン系シリコーン離型剤組成物から構成される離型層を加熱処理する際は、従来から公知の加熱処理装置を用いることが出来る。例えば、加熱オーブン、ホットプレート、熱風乾燥機、近赤外線ランプ、エアードライヤー等が例示される。また、加熱処理温度としては、35~100℃、好ましくは40~100℃、さらに好ましくは、50~100℃の範囲がよい。
さらに加熱処理時間としては、3秒~3分、好ましくは5秒~2分、さらに好ましくは5秒~1分の範囲がよい。
【0074】
加熱処理した離型層に紫外線照射処理を施す際には、従来から公知の紫外線照射装置を用いることができる。例えば、光源として、フュージョン(H)ランプ、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ(オゾン発生タイプ、オゾンレスタイプ)、UV-LEDなどが例示される。
【0075】
紫外線照射量としては特に限定されるわけではないが、積算光量換算として、10~3000(mJ/cm2)、好ましくは50~2000(mJ/cm2)、さらに好ましくは100~1000(mJ/cm2)の範囲がよい。
【0076】
<<本離型フィルムの物性>>
本離型フィルムは、次の物性を有することができる。
【0077】
<しなやかさ(コシ)>
本離型フィルムは、後述の実施例に記載されている“たわみ測定法”によって測定される「しなやかさ(コシ)」(flexible)すなわち、垂直方向に下がった長さを(a)、水平方向に突き出た長さを(b)とした時、(a)と(b)との比の値((a)/(b))は0.3以上であることが好ましく、中でも0.5以上、その中でも1.0以上であることがさらに好ましい。
前記(a)/(b)が0.3以上であることによって、フィルムに十分なしなやかさを有することが示唆される。
一方、前記(a)/(b)の上限は特に限定されないが、工程におけるハンドリング性の観点から、15.0以下であるのが好ましく、中でも10.0以下、その中でも6.0以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
本離型フィルムに関して、(a)/(b)を前記範囲に調整するには、先ずはフィルムの厚みを調整することが大切であり、次に、同一のフィルム厚みにおいては、本離型フィルムを構成する本共重合ポリエステルフィルムの層構成(単層又は積層)や、共重合ポリエステルAの共重合成分の種類と含有量を調整することによって達成することができる。更には、本共重合ポリエステルフィルムの製造条件、特に延伸条件を調整することによっても達成することができる。
かかる観点から、共重合ポリエステルAの共重合成分は、前記「その他のジカルボン酸成分」が脂肪族ジカルボン酸もしくはダイマー酸であるのが好ましく、その含有量は5mol%以上20mol%以下であるのが好ましい。他方、前記「その他のアルコール成分」がジエチレングリコールであるのが好ましく、その含有量は1mol%以上50mol%以下であるのが好ましい。
【0079】
<剥離力>
本離型フィルムは、離型層の剥離力の安定性の面から、前記離型層の常態剥離力(F1)、加熱剥離力(F2)及び空気暴露剥離力(F3)が、次の関係(1)(2)を同時に満足するのが好ましい。
(1)・・F2-F1≦10(mN/cm)
(2)・・F3-F1≦10(mN/cm)
【0080】
中でも、前記(1)については、F2-F1≦5(mN/cm)を満足するのがさらに好ましく、前記(2)については、F3-F1≦5(mN/cm)を満足するのがさらに好ましい。
【0081】
ここで、前記常態剥離力(F1)は、離型層表面に粘着テープを貼り合せてから、室温にて1時間放置後の180°剥離力である。より具体的には、アクリル系粘着テープ(日東電工社製、No.502)を、本離型フィルムの本剥離層に貼り付けて室温にて1時間放置後、引張速度0.3m/minの条件下で測定される180°剥離力である。
【0082】
前記加熱剥離力(F2)は、離型層表面に粘着テープを貼り合せてから、100℃にて1時間熱処理後の180°剥離力である。より具体的には、アクリル系粘着テープ(日東電工社製、No.502)を、本離型フィルムの本剥離層に貼り付けて100℃、1時間熱処理した後、引張速度0.3m/minの条件下で測定される180°剥離力である。
この加熱剥離離力(F2)は、フィルム上に硬化形成後、離型層表面に残存するハイドロジェンシラン基(Si-H基)と相間があると考えられる。常態剥離力(F1)に近い値を示すほど、表面に残存するSi-H基量が少ないことを示している。
【0083】
前記空気暴露剥離力(F3)は、離型層を室温にて24時間放置後に粘着テープを張り付けて測定した180°剥離力である。より具体的には、予め本離型フィルムの本剥離層の離型面を24時間、室温で暴露させた後、上記常態剥離力(F1)と同様の方法にて測定される剥離力である。
この空気暴露剥離力(F3)は、前記Si-H基と付加反応する相手方のビニル基(Si-CH=CH2基)がフィルム上に硬化形成後、離型層表面に残存する量と相関があると考えられている。空気暴露剥離力(F3)が常態剥離力(F1)に近い値を示すほど、表面に残存するビニル基(Si-CH=CH2基)量が少ないことを示している。
【0084】
本離型フィルムの前記常態剥離力F1は、35mN/cm以下とすることができる。好ましくは30mN/cm以下である。下限については5mN/cm以上、好ましくは10mN/cm以上、その中でも特に15mN/cm以上がよい。
【0085】
本離型フィルムの前記加熱剥離力F2は、30mN/cm以下とすることができる。好ましくは28mN/cm以下である。また、下限については10mN/cm以上、好ましくは15mN/cm以上がよい。
【0086】
本離型フィルムの前記空気暴露剥離力F3は、35mN/cm以下とすることができる。好ましくは30mN/cm以下である。また、下限については5mN/cm以上、好ましくは10mN/cm以上、その中でも特に15mN/cm以上がよい。
【0087】
本発明では、離型層の特性である、常態剥離力(F1)、加熱剥離力(F2)、空気暴露剥離力(F3)および常態剥離力(F1)を基準にした時にいずれも30mN/cm以下の範囲内に抑えることで、例えば、多段階硬化方式を採用する加工プロセスにおいて、工程紙として用いた場合、一旦加熱処理した粘着層を後に紫外線照射しても、離型面と粘着層とが、極端に重剥離化することなく、適度な力でもって剥離可能である特徴を有する。
【0088】
<<本離型フィルムの用途>>
本離型フィルムは、上述したように、柔軟性に優れており、単に柔軟であるだけでなく、よりしなやか、言い方を変えれば、コシ(stiffness)が殆ど無いという特徴を有している。よって、例えば、電池用包装材、粘着剤層保護(OCA(Optical CLEAR Adhesive)用構成部材、粘着テープ用保護など)、医療分野(経皮吸収型貼付薬用セパレータなど)、製造工程に用いる工程紙、画像表示用部材の保護、中でもフレキシブルディスプレイやウェアラブル端末などの構成部材の保護用として、しなやかさ(flexible)が必要とされる用途に好適である。
また、加工工程において、100℃以上の熱をかけたくない部材表面(例えば、ガラス転移点が低い粘着層の凹凸賦型)の保護、曲面形状を有する成形体表面(スマートフォンなど)への追従性が必要とされる用途あるいは、特に剥離力が極力安定していることが必要とされる、多段階硬化方式を採用する加工工程に使用する工程紙として好適である。
なお、本離型フィルムの用途は前記に限定されるものではなく、例えば、各種包装用材料、建材、文房具、自動車部材、その他の構成部材の製造工程における工程紙あるいは部材の保護フィルムとして用いることができる。
【0089】
また、本離型フィルムを、他の粘着層付き離型フィルム(A)に貼り付けて積層体とし、該積層体から本離型フィルムを剥離して、残された粘着層付き離型フィルム(A)を光学部材に貼り付けた後、当該粘着層付き離型フィルム(A)の粘着層から離型フィルムを剥離し、再度、光学部材に貼り付けられた前記粘着層上に前記離型フィルム(本離型フィルム)を貼り付けることを特徴とする、いわゆる離型フィルムの再剥離使用も可能である。
なお、粘着層付き離型フィルム(A)の離型フィルムは、本離型フィルムとは異なり、0.3m/minの剥離速度による剥離力が本離型フィルムの2倍から10倍程度のものが好ましい。
【0090】
本離型フィルムを用いて、粘着加工あるいはハードコートなどの二次加工をする際には、加熱処理工程(ア)と紫外線処理工程(イ)とが同一の製造ラインで連続して加工してもよいし、別々の製造ラインで(ア)と(イ)とを分けて加工してもよい。
【0091】
<<<語句の説明など>>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、画像表示パネル、保護パネル等のように「パネル」と表現する場合、板体、シート及びフィルムを包含するものである。
【0092】
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例】
【0093】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明が、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0094】
<評価方法>
以下において、種々の物性等の測定及び評価は次のようにして行った。
【0095】
(1)常態剥離力(F1)
試料フィルムの離型層表面に粘着テープ(日東電工(株)製「No.502」)を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットし、室温にて1時間放置後の剥離力を測定した。剥離力は(株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」を使用し、引張速度0.3(m/min)の条件下、180°剥離を行った。
【0096】
(2)加熱剥離力(F2)
試料フィルムの離型層表面に粘着テープ(日東電工(株)製「No.502」)を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットし、熱風式オーブンにて、100℃、1時間熱処理した。その後、サンプルを取り出し、室温にて1時間放置後の剥離力を測定した。
剥離力は(株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」を使用し、引張速度0.3(m/min)の条件下、180°剥離を行った。加熱剥離力の値が低い方が良好である。
【0097】
(3)空気暴露剥離力(F3)
予め試料フィルムの離型層表面を24時間、室温で暴露させた後、常態剥離力(F1)と同様の方法にて剥離力を測定した。
【0098】
(4)残留接着率(離型層の移行性代用評価)
試料フィルムを、A4サイズ(210mm×297mm)の大きさに切り取り、その離型層表面に、75μm厚の2軸延伸PETフィルム(三菱ケミカル株式会社製:ダイアホイルT100-75)を重ねて、温度60℃、圧力1MPaの条件で2時間プレスした。そして、前記「75μm厚の2軸延伸PETフィルム」を移行性評価フィルムとした。
他方、離型層を設けていない未処理のPETフィルムに、上記と同じ「75μm厚の2軸延伸PETフィルム」を重ねて上記と同条件でプレスし、該「75μm厚の2軸延伸PETフィルム」を基準フィルムとした。
前記移行性評価フィルム及び前記基準フィルムに、粘着テープ(日東電工(株)製「No.31B」)を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットし、室温にて1時間放置後の剥離力を測定した。
【0099】
剥離力は、(株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」を使用し、引張速度0.3(m/min)の条件下、180°剥離を行った。
そして、測定した移行性評価フィルムの剥離力及び基準フィルムの剥離力を次の式に代入して残留接着率(%)を求めた。
【0100】
(5)粘着剤剥離力(UVあり、なし)
試料フィルムの離型層表面に下記粘着剤組成物を塗工後、150℃、3分間加熱処理して、乾燥後の厚み(DRY)が20μmの粘着層を得た。その後、PETフィルムとラミネートし、粘着層貼り合せ品を作製した。
「UVあり」の場合は、作製した粘着層貼り合せ品にウシオ電機株式会社製「UVC-402」UV照射装置を用いて、積算光量で500mJ/cm2の紫外線照射を施した。その後、室温で1日保管した後、試料フィルムをPETフィルムから剥がし、剥離力を測定した。
他方、「UVなし」の場合は、ラミネートした粘着層貼り合せ品をそのまま用い、試料フィルムをPETフィルムから剥がす際の剥離力を測定した。
剥離力は(株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」を使用し、引張速度0.3(m/min)の条件下、180°剥離を行った。
【0101】
《粘着剤組成物》
主剤:AT352(サイデン化学社製) 100質量部
硬化剤:AL(サイデン化学社製) 0.25質量部
添加剤:X-301-375SK(サイデン化学社製) 0.25質量部
添加剤:X-301-352S(サイデン化学社製) 0.4質量部
トルエン: 40質量部
【0102】
(6)しなやかさ(コシ)の評価 (たわみ測定法)
試料サンプルは、実施例・比較例で得た離型フィルム(サンプル)を23℃、50%RH雰囲気下で24時間静置した後に、長さ150mm、幅50mmのサイズに切り出して作製した。
図1に示すように、離型フィルム(サンプル)を、23℃の環境下、机の端から長さ50mm外へ突き出すように机の上に載置する共に、机の上の離型フィルム(サンプル)の上に200gの錘を置いて固定し、机の端から突き出たサンプルの先端側を自重によって下方向へ撓ませた。3分後、机の端から突き出たサンプルの先端部が垂直下方に撓んで垂れ下がった長さ(a)と、当該先端部が机の端から水平方向に突き出た長さ(b)とを測定した。
そして、水平方向に突き出た長さ(b)に対する撓んで垂れ下がった長さ(a)の比率((a)/(b))を計算し、0.30以上であれば「合格」、0.30未満であれば「不合格」と評価した。
【0103】
(7)総合評価
しなやかさ(flexible)と剥離力の安定性について、下記評価基準により判定を行った。
(判定基準)
○:しなやかさ(flexible)と剥離力の安定性がともに合格レベル。
×:しなやかさ(flexible)、剥離力の安定性のいずれか一方が不合格レベル。
【0104】
なお、剥離力の安定性に関しては、常態剥離力(F1)、加熱剥離力(F2)、空気暴露剥離力(F3)について、F2-F1≦10(mN/cm)、F3-F1≦10(mN/cm)を同時に満足するものを合格、そうでないものを不合格と判定した。
【0105】
[原料]
実施例及び比較例では次の原料を使用した。
【0106】
共重合ポリエステル1(「共PS1」):酸成分がテレフタル酸88モル%、炭素数36の水添ダイマー酸7モル%及びイソフタル酸5モル%からなり、ジオール成分がエチレングリコール90モル%及びジエチレングリコール10モル%からなる結晶性共重合ポリエステル。融点208℃、固有粘度0.68dl/g。
【0107】
共重合ポリエステル2(「共PS2」):酸成分がテレフタル酸88モル%及び炭素数36の水添ダイマー酸12モル%からなり、ジオール成分がエチレングリコール67モル%及び1,4-ブタンジオール33モル%(副生ジエチレングリコール0.1mol%未満)からなる結晶性共重合ポリエステル、融点200℃、固有粘度0.72dl/g。
【0108】
[実施例1]
表層および中間層として、共重合ポリエステル1(共PS1)のチップを280℃に設定したベント付き押出機に送り込み、ギヤポンプ、フィルターを介して、押出機の口金から押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を30℃に設定した冷却ロール上で急冷固化させ、未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートを、長手方向(MD)に50℃で3.3倍延伸した後、テンターに導き、次いで幅方向(TD)に80℃で4.2倍に延伸した後、200℃で10秒間熱処理を施し、幅方向(TD)に10%弛緩して、実質的に単層からなる厚み25μmの二軸延伸共重合ポリエステルフィルムを得た。
次に、下記組成物から構成される離型層組成物(UVカチオン系シリコーン1)を、塗布量(乾燥後)の厚みが0.08g/m2になるように、前記二軸延伸共重合ポリエステルフィルムの表面に塗布した後、70℃で10秒乾燥させた後、積算光量120mJ/m2となるように紫外線を照射し、離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0109】
(離型層組成物:UVカチオン系シリコーン1)
UVカチオン系シリコーン離型剤:TPR6500(モメンティブ・スペシャリティーケミカルズ社製)100質量部
光重合開始剤:UV9380C(モメンティブ・スペシャリティーケミカルズ社製)1質量部
溶媒:トルエン500質量部、MEK500質量部、ヘキサン500質量部
【0110】
[実施例2]
中間層として、共重合ポリエステル1(共PS1)のチップを280℃に設定したメインのベント付き二軸押出機に送り込んだ。
また表層として、ポリエステル(PET)のチップを280℃に設定したサブのベント付き二軸押出機に送り込んだ。
ギヤポンプ、フィルターを介して、メイン押出機からのポリマーが中間層、サブ押出機からのポリマーが表層となるように2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出して口金から押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を30℃に設定した冷却ロール上で急冷固化させ、未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートを、長手方向(MD)に80℃で3.2倍延伸した後、テンターに導き、次いで幅方向(TD)に100℃で4.0倍に延伸した後、200℃で10秒間熱処理を施し、幅方向(TD)に10%弛緩して、1μm(表層)/23μm(中間層)/1μm(表層)の厚み構成からなる厚み25μmの二軸延伸共重合ポリエステルフィルムを得た。
実施例1と同様の離型層組成物を同様に塗布、乾燥させ、実施例1と同様に紫外線を照射し、離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0111】
[実施例3~5]
表1に示すように条件を変更した以外は、実施例2と同様にして二軸延伸共重合ポリエステルフィルムを得た。
なお、表において、例えば実施例3の「共PS1/PET=80/20」とは、共PS1を80質量部と、PETを20質量部とを混合したという意味であり、他の実施例についても同様に質量割合を示している。
次に、実施例1と同様の離型層組成物を同様に塗布、乾燥させ、実施例1と同様に紫外線を照射し、離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0112】
[実施例6]
離型層組成物を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして、離型フィルム(試料フィルム)を得た。
(離型層組成物:UVカチオン系シリコーン2)
UVカチオン系シリコーン離型剤:X-62-7660(信越化学工業株式会社製)100質量部
光重合開始剤:CAT-7605(信越化学工業株式会社製) 1質量部
溶媒:トルエン500質量部、MEK500質量部、ヘキサン500質量部
【0113】
[比較例1]
ポリエステル(PET)のチップを280℃に設定したベント付き押出機に送り込み、ギヤポンプ、フィルターを介して、押出機の口金から押出し、静電印加密着法を用いて表面温度を30℃に設定した冷却ロール上で急冷固化させ、未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートを、長手方向(MD)に86℃で3.5倍延伸した後、テンターに導き、次いで幅方向(TD)に110℃で4.3倍に延伸した後、235℃で10秒間熱処理を施し、幅方向(TD)に10%弛緩して、厚み50μmの二軸延伸共重合ポリエステルフィルムを得た。
次に、実施例1と同様の離型層組成物を同様に塗布、乾燥させ、実施例1と同様に紫外線を照射し、離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0114】
[比較例2]
実施例1において、離型層の組成を下記離型層組成に変更して、塗布量(乾燥後)が0.15g/m2になるように塗布、70℃、10秒で熱処理した後に離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0115】
(離型層組成物:熱硬化型(溶剤付加型)シリコーン)
主剤:KS-847H(信越化学工業株式会社製)100質量部
触媒:PL-50T(信越化学工業株式会社製)1質量部
溶媒:トルエン200質量部、MEK200質量部、ヘキサン200質量部
【0116】
【0117】
【0118】
前記実施例及び発明者がこれまで行ってきた試験結果より、前記共重合ポリエステルAを主成分樹脂として含有する共重合ポリエステル層(I層)を備えた共重合ポリエステルフィルムを基材とし、その片面にUVカチオン系シリコーン組成物を塗布、硬化させた離型層を設けた離型フィルムとすることにより、柔軟性に優れており、単に柔軟であるだけでなく、よりしなやかである特徴を有する。
【0119】
さらに離型層の特徴として、100℃以下の低温で加工したにも関わらず、常態剥離力(F1)、加熱剥離力(F2)、空気暴露剥離力(F3)が、F2-F1≦10(mN/cm)、F3-F1≦10(mN/cm)の関係を同時に満足することで、実用上十分に安定した剥離特性を有することが分かった。
これらの剥離特性の安定性は、従来の熱硬化型シリコーン離型剤では達成困難なレベルでもある。
【0120】
前記加熱剥離離力は、フィルム上に硬化形成後、離型層表面に残存するハイドロジェンシラン基(Si-H基)と相間があると考えられる。常態剥離力に近い値を示すほど、表面に残存するSi-H基量が少ないことを示している。
また、前記空気暴露剥離力は、前記Si-H基と付加反応する相手方のビニル基(Si-CH=CH2基)がフィルム上に硬化形成後、離型層表面に残存する量と相関があると考えられている。この空気暴露剥離力が常態剥離力に近い値を示すほど、表面に残存するビニル基(Si-CH=CH2基)量が少ないことを示している。
【0121】
また、実用特性代用評価として用いた、粘着剤剥離力の評価結果からも、紫外線照射の有無によらず、本発明の離型フィルムは剥離力の変動が小さいことが分かった(実施例と比較例2との比較より)。
【0122】
本発明では、離型層の特性である、常態剥離力、加熱剥離力、空気暴露剥離力を特定の範囲内に抑えることで、例えば、多段階硬化方式を採用する加工工程において、一旦加熱処理した粘着層を後に紫外線照射しても、離型面と粘着層とが、極端に重剥離化することなく、適度な力でもって剥離可能である特徴を有する。
【0123】
離型フィルムの柔軟性の観点からは、構成する共重合ポリエステルフィルムの構成を工夫することで、良好な柔軟性、特にしなやかさを得ることができることも分かった。
例えば、実施例2~5のように、中間層の主成分樹脂が結晶性の共重合ポリエステルである場合、表層の主成分樹脂としてのポリエステルが、前記共重合ポリエステルの融点よりも高い融点を有するポリエステルであれば、前記中間層のみからなる単層の場合に比べて、延伸後の熱処理(熱固定)温度をより高くすることができる利点を有する。
【0124】
なお、中間層の主成分樹脂が非晶性の共重合ポリエステルである場合は、表層の主成分樹脂としてのポリエステルが、前記共重合ポリエステルのガラス転移点よりも高い融点を有するポリエステルであれば、前記中間層のみからなる単層の場合に比べて、延伸後の熱処理(熱固定)温度をより高くすることができる利点を有する。