(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-22
(45)【発行日】2023-08-30
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系フィルム、偏光膜および偏光板、ならびにポリビニルアルコール系フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20230823BHJP
B29C 41/24 20060101ALI20230823BHJP
B29C 55/08 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C41/24
B29C55/08
(21)【出願番号】P 2018521689
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2018016752
(87)【国際公開番号】W WO2018199139
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-11-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2017086844
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】北村 秀一
(72)【発明者】
【氏名】寺本 裕一
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】杉山 輝和
【審判官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/071094(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068152(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を連続キャスト法により製膜する製膜工程と、その製膜したフィルムを、流れ方向に搬送しながら、そのフィルムに対し連続的な乾燥および連続的な延伸を施す乾燥・延伸工程とを備え
、上記乾燥・延伸工程において、上記製膜したフィルムを幅方向に1.05~1.3倍延伸する、ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法であって、製造されるポリビニルアルコール系フィルムが、下記式(A)~(C)を全て満足するようにすることを特徴とする、偏光膜製造用の原反フィルムとして用いられる
、厚み5~60μmの長尺のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
1.0≦Δn
MDA/Δn
MDB≦1.5・・・(A)
10×10
-3
>Δn
MDB-Δn
MDC≧0.2×10
-3・・・(B)
10×10
-3
>Δn
MDA≧4.0×10
-3・・・(C)
上記式(A)~(C)中、Δn
MDAは上記ポリビニルアルコール系フィルムの第1の面の流れ方向の複屈折率(フィルムの長さ方向と厚み方向の屈折率の差)、Δn
MDBは上記ポリビニルアルコール系フィルムの第2の面の流れ方向の複屈折率(フィルムの長さ方向と厚み方向の屈折率の差)、Δn
MDCは上記ポリビニルアルコール系フィルムの厚み方向中央部の複屈折率を表す。
【請求項2】
上記乾燥・延伸工程において、上記製膜したフィルムを幅方向に、一時的に1.3倍を超えて延伸した後、最終的な幅方向の延伸倍率が1.3倍以下になるよう寸法収縮させることを特徴とする請求項
1記載の偏光膜製造用の原反フィルムとして用いられるポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項
1または2記載の製造方法により得られた偏光膜製造用の原反フィルムとして用いられるポリビニルアルコール系フィルムを用いて偏光膜を製造することを特徴とする偏光膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた染色性を有し、高偏光度でかつ色ムラの少ない偏光膜の形成材料となることができるポリビニルアルコール系フィルム、そのポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜および偏光板、ならびに上記ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコール系フィルムは、透明性に優れたフィルムとして多くの用途に利用されており、その有用な用途の一つに偏光膜が挙げられる。その偏光膜は液晶ディスプレイの基本構成要素として用いられており、近年では高品位で高信頼性の要求される機器へとその使用が拡大している。
【0003】
このような中、液晶テレビや多機能携帯端末等の画面の高輝度化、高精細化、大面積化、薄型化に伴い、光学特性に優れた偏光膜が要求されている。その具体的な要求は、さらなる偏光度の向上や色ムラの解消である。
【0004】
一般的に、ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を材料として、連続キャスト法により製造される。具体的には、まず、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を、キャストドラムやエンドレスベルト等のキャスト型に流延して製膜し、つづいて、その製膜されたフィルムを、キャスト型から剥離した後、ニップロール等を用いて流れ方向(MD)に搬送しながら、熱ロールやフローティングドライヤー等を用いて乾燥することにより製造される。上記搬送工程では、上記製膜されたフィルムは、流れ方向(MD)に引っ張られるため、ポリビニルアルコール系高分子は流れ方向(MD)に配向しやすい。
【0005】
一方、一般的に、偏光膜は、その原反であるポリビニルアルコール系フィルムを、まず、水(温水を含む)で膨潤させ、ついで、ヨウ素等の二色性染料で染色し、その後、延伸することにより製造される。
そして、上記膨潤工程において重要なことは、ポリビニルアルコール系フィルムを厚み方向に速やかに膨潤させること、および上記染色工程においてフィルム内部に染料がスムーズに浸入できるようにポリビニルアルコール系フィルムを均一に膨潤させることである。
また、上記延伸工程は、染色後のフィルムを流れ方向(MD)に延伸して、ポリビニルアルコール系フィルム中の二色性染料を高度に配向させる工程であり、偏光膜の偏光性能を向上させるためには、この延伸工程において、原反となるポリビニルアルコール系フィルムが流れ方向(MD)に良好な延伸性を示すことが重要である。
【0006】
なお、偏光膜製造において、延伸工程と染色工程の順序が上記と逆のケースも実施されている。すなわち、原反であるポリビニルアルコール系フィルムを、まず、水(温水を含む)で膨潤させ、ついで、延伸し、その後、ヨウ素等の二色性染料で染色するケースである。このケースにおいても、偏光膜の偏光性能を向上させるために重要なことは、原反のポリビニルアルコール系フィルムが、厚み方向に良好な膨潤性を示し、かつ流れ方向(MD)に良好な延伸性を示すことである。
【0007】
さらに、近年、偏光膜の薄型化のために、原反であるポリビニルアルコール系フィルムも薄型化されてきている。ところが、その薄型のポリビニルアルコール系フィルムは、偏光膜を製造する際の延伸によって破断してしまう等の生産性の問題がある。
【0008】
ポリビニルアルコール系フィルムの膨潤性を改良する方法としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂に多価アルコールを水膨潤助剤として添加する方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
また、ポリビニルアルコール系フィルムの延伸性を改良する方法として、例えば、フィルムを製膜する時のキャストドラムの速度と最終的なポリビニルアルコール系フィルムの巻き取り速度との比を特定する方法(例えば、特許文献2参照)、キャストドラムで製膜後にフィルムを浮遊させて乾燥する方法(例えば、特許文献3参照)、製膜されたフィルムの乾燥工程における引っ張り具合を制御する方法(例えば、特許文献4参照)、スキン層とコア層の複屈折率を特定の範囲に制御する方法(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-302867号公報
【文献】特開2001-315141号公報
【文献】特開2001-315142号公報
【文献】特開2002-79531号公報
【文献】特開2005-324355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記薄型のポリビニルアルコール系フィルムに対して、上記特許文献1の方法では、上記膨潤性の改良が不充分であり、上記特許文献2~5の方法では、偏光膜製造時の延伸性の改良が不充分である。
【0011】
すなわち、上記特許文献1に開示の技術では、ポリビニルアルコール系フィルム全体の膨潤性を向上できても、ポリビニルアルコール系高分子の配向状態までは考慮されておらず、偏光膜製造時の流れ方向(MD)への延伸性を効率的に改良するのは困難である。逆に、水膨潤助剤の添加により、高分子の配向状態が乱れ、流れ方向(MD)への均一な延伸が困難となる傾向がある。
【0012】
上記特許文献2に開示の技術は、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する際の流れ方向(MD)への延伸度合い(引っ張り具合)を特定したものであるが、幅方向(TD)への延伸も考慮しなければ、偏光膜製造時の延伸性を改良するには不充分である。
【0013】
上記特許文献3に開示の技術では、製膜されたフィルムを均一に乾燥できるものの、高分子の配向までは制御できず、偏光膜製造時の膨潤性や延伸性を改良するには不充分である。
また、上記特許文献4に開示の技術では、ポリビニルアルコール系フィルムの膜厚を均一にできるものの、高分子の配向までは制御できず、偏光膜製造時の膨潤性や延伸性を改良するには不充分である。
【0014】
上記特許文献5に開示の技術では、実施例で用いられている厚みが75μm程度と厚いポリビニルアルコール系フィルムでは高い延伸性を発揮することができるものの、スキン層とコア層の複屈折率の特定が上記厚みの厚いポリビニルアルコール系フィルムに対するものであることから、偏光膜のさらなる薄型化に対応するのは困難であり、膜厚が60μm以下といった薄膜のポリビニルアルコール系フィルムにおいて、偏光膜製造時の膨潤性や延伸性を改良するには不充分である。
【0015】
そこで、本発明は、このような背景下において、偏光膜製造時の膨潤性と延伸性とのバランスによく優れ、薄型偏光膜の製造時にも破断が生じず、高い偏光性能を示し、かつ色ムラの少ない偏光膜を得ることができるポリビニルアルコール系フィルム、そのポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜および偏光板、ならびに上記ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、このような事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系フィルムにおいて、そのフィルム両面の複屈折率を近づけ、そのフィルム内部の複屈折率をフィルム両面の複屈折率より小さくし、従来よりもフィルム両面の複屈折率を大きくすると、偏光膜製造時の膨潤性と延伸性とのバランスによく優れ、薄型偏光膜の製造時にも破断が生じず、高い偏光性能を示しかつ色ムラの少ない偏光膜を得られることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明は、厚み5~60μmの長尺のポリビニルアルコール系フィルムであって、そのフィルムの第1の面の長さ方向(MD)の複屈折率をΔnMDA、上記フィルムの第2の面の長さ方向(MD)の複屈折率をΔnMDB、上記フィルムの厚み方向中央部の複屈折率をΔnMDCとしたとき、下記式(A)~(C)を全て満足することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムを第1の要旨とする。
1.0≦ΔnMDA/ΔnMDB≦1.5・・・(A)
ΔnMDB-ΔnMDC≧0.2×10-3・・・(B)
ΔnMDA≧3.0×10-3・・・(C)
【0018】
また、本発明は、上記ポリビニルアルコール系フィルムが用いられていることを特徴とする偏光膜を第2の要旨とする。さらに、その偏光膜と、その偏光膜の少なくとも片面に設けられた保護フィルムとを備えていることを特徴とする偏光板を第3の要旨とする。
【0019】
そして、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を連続キャスト法により製膜する製膜工程と、その製膜したフィルムを、流れ方向(MD)に搬送しながら、そのフィルムに対し連続的な乾燥および連続的な延伸を施す乾燥・延伸工程とを備えたポリビニルアルコール系フィルムの製造方法であって、製造されるポリビニルアルコール系フィルムが、下記式(A)~(C)を全て満足するようにすることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムの製造方法を第4の要旨とする。
1.0≦ΔnMDA/ΔnMDB≦1.5・・・(A)
ΔnMDB-ΔnMDC≧0.2×10-3・・・(B)
ΔnMDA≧3.0×10-3・・・(C)
〔上記式(A)~(C)中、ΔnMDAは上記ポリビニルアルコール系フィルムの第1の面の流れ方向(MD)の複屈折率、ΔnMDBは上記ポリビニルアルコール系フィルムの第2の面の流れ方向 (MD)の複屈折率、ΔnMDCは上記ポリビニルアルコール系フィルムの厚み方向中央部の複屈折率を表す〕。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、上記式(A)~(C)を全て満足するため、偏光膜製造時の膨潤性および延伸性に優れており、それ自体を薄型にして、薄型の偏光膜の製造に用いても破断が生じないようにすることができる。さらに、そのポリビニルアルコール系フィルムを用いると、高い偏光性能を示しかつ色ムラの少ない偏光膜を得ることができる。
【0021】
さらに、上記ポリビニルアルコール系フィルムの第1の面の上記長さ方向(MD)と直角な幅方向(TD)の複屈折率をΔnTDA、上記フィルムの第2の面の上記長さ方向(MD)と直角な幅方向(TD)の複屈折率をΔnTDBとしたとき、下記式(D)および(E)の少なくとも一方を満足する場合には、偏光膜製造時の膨潤性および延伸性により優れ、性能により優れた偏光膜を得ることができる。
ΔnMDA/ΔnTDA≦1.0・・・(D)
ΔnMDB/ΔnTDB≦1.0・・・(E)
【0022】
特に、上記ポリビニルアルコール系フィルムの厚みが5~45μmである場合には、偏光膜製造時の膨潤性および延伸性がさらに向上し、性能がさらに向上した偏光膜を得ることができる。
【0023】
また、本発明の偏光膜は、上記ポリビニルアルコール系フィルムが用いられているため、高い偏光性能を示し、かつ色ムラの少ないものとなっている。
【0024】
さらに、本発明の偏光板は、上記偏光膜が用いられているため、高い偏光性能を示し、かつ色ムラの少ないものとなっている。
【0025】
そして、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法は、連続キャスト法による製膜工程と、その製膜したフィルムを流れ方向(MD)に搬送しながら、そのフィルムに対し連続的な乾燥および連続的な延伸を施す乾燥・延伸工程とを備えているため、それら各工程における製造条件が相俟って、特定の複屈折率を有する本発明の上記ポリビニルアルコール系フィルムを得ることができる。
【0026】
特に、上記乾燥・延伸工程において、上記製膜したフィルムを幅方向(TD)に1.05~1.3倍延伸する場合には、複屈折率が好適となり、偏光膜製造時の膨潤性および延伸性により優れたポリビニルアルコール系フィルムを得ることができる。
【0027】
また、上記乾燥・延伸工程において、上記製膜したフィルムを幅方向(TD)に、一時的に1.3倍を超えて延伸した後、最終的な幅方向の延伸倍率が1.3倍以下になるよう寸法収縮させる場合には、上記製膜したフィルムにかかる応力を緩和することができる。そのため、上記製膜したフィルムが薄型であっても、そのフィルムの破断を回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
つぎに、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、厚み5~60μmの長尺のポリビニルアルコール系フィルムであって、そのフィルムの第1の面(一方の片面)の長さ方向(MD)の複屈折率をΔnMDA、上記フィルムの第2の面(他方の片面)の長さ方向(MD)の複屈折率をΔnMDB、上記フィルムの厚み方向中央部の複屈折率をΔnMDCとしたとき、下記式(A)~(C)を全て満足することを特徴とするポリビニルアルコール系フィルムである。
1.0≦ΔnMDA/ΔnMDB≦1.5・・・(A)
ΔnMDB-ΔnMDC≧0.2×10-3・・・(B)
ΔnMDA≧3.0×10-3・・・(C)
【0029】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムの厚みは、5~60μmであることが必要であり、好ましくは、偏光膜の薄型化の点で5~50μmが好ましく、特に好ましくは、破断回避の点で5~45μm、さらに好ましくは10~40μmである。
上記厚みが薄すぎると、後述する偏光膜製造時に破断しやすくなり、好ましくなく、厚すぎても、延伸時に必要な張力が高くなり、好ましくない。
【0030】
上記ポリビニルアルコール系フィルムにおいて、上記第1の面の長さ方向(MD)の複屈折率を上記第2の面の長さ方向(MD)の複屈折率で除した値(ΔnMDA/ΔnMDB)は、1.0≦ΔnMDA/ΔnMDB≦1.5であることが必要であり、好ましくは1.0≦ΔnMDA/ΔnMDB≦1.4、特に好ましくは1.0≦ΔnMDA/ΔnMDB≦1.3、さらに好ましくは1.0≦ΔnMDA/ΔnMDB≦1.2である。
上記ΔnMDA/ΔnMDBの値が大きすぎると、上記ポリビニルアルコール系フィルムの両面の物性差が大きくなり、そのポリビニルアルコール系フィルムが水中で折れやすくなるため、本発明の目的を達成することができない。
なお、本発明では、上記ポリビニルアルコール系フィルムの両面の長さ方向(MD)の複屈折率うち、値の大きい方をΔnMDA、小さい方をΔnMDBとする。
【0031】
上記複屈折率が小さい側の上記フィルムの片面の複屈折率とそのフィルムの厚み方向中央部の複屈折率の差(ΔnMDB-ΔnMDC)は、ΔnMDB-ΔnMDC≧0.2×10-3であることが必要であり、好ましくはΔnMDB-ΔnMDC≧0.3×10-3、特に好ましくはΔnMDB-ΔnMDC≧0.4×10-3である。
上記ΔnMDB-ΔnMDCの値が小さすぎると、上記ポリビニルアルコール系フィルムの延伸性が悪化し、本発明の目的を達成することができない。
なお、上記ΔnMDB-ΔnMDCの上限は、通常10×10-3(好ましくは9.0×10-3)であり、上記ΔnMDB-ΔnMDCの値が大きすぎると、後述する偏光膜製造時に上記フィルムが部分的に白濁し、ムラが発生しやすい傾向がある。
【0032】
上記複屈折率が大きい側の上記フィルムの片面の複屈折率(ΔnMDA)は、ΔnMDA≧3.0×10-3であることが必要であり、好ましくはΔnMDA≧3.2×10-3、特に好ましくはΔnMDA≧3.5×10-3、さらに好ましくはΔnMDA≧4.0×10-3である。
上記ΔnMDAの値が小さすぎると、後述する偏光膜製造時に上記フィルムが破断しやすくなり本発明の目的を達成することができない。
なお、ΔnMDAの上限は、通常10×10-3(好ましくは9.0×10-3)であり、ΔnMDAの値が大きすぎると、後述する偏光膜製造時に必要な延伸張力が高くなりすぎる傾向がある。
【0033】
本発明において、上記式(A)~(C)を制御する方法としては、後述する連続キャスト法による上記ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法において、キャスト型で製膜したフィルムを、そのキャスト型から剥離した後に、幅方向(TD)に延伸する方法が好ましい。この場合、その幅方向(TD)の延伸条件(延伸倍率、延伸時の雰囲気温度、延伸時間等)に応じて、他の工程での条件が適正に調節される。その条件としては、例えば、上記ポリビニルアルコール系フィルムの形成材料であるポリビニルアルコール系樹脂の化学構造、可塑剤の種類や添加量、上記フィルムの製膜条件(キャスト型の温度等)、上記製膜したフィルムを乾燥させる乾燥条件(温度、時間)、上記製膜したフィルムの流れ方向(MD)への搬送速度等があげられる。これら条件のうちの少なくとも一つと、上記幅方向(TD)の延伸条件とを合わせて、上記式(A)~(C)が制御される。
【0034】
本発明における上記ΔnMDA、ΔnMDB、ΔnMDCの値は、例えば、下記の方法により測定される。なお、これらΔnMDA、ΔnMDB、ΔnMDCの測定位置は、ポリビニルアルコール系フィルムの50mm×50mmの領域内にある。
【0035】
〔ΔnMDA、ΔnMDB、ΔnMDCの測定方法〕
(1)ポリビニルアルコール系フィルムの流れ方向(MD)の任意の位置で、ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向(TD)における中央部からMD×TD=5mm×10mmの大きさの細片を切り出す。そして、その細片を厚み100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムで両側を挟み、それをさらに木枠に挟んでミクロトーム装置に取り付ける。
(2)ついで、前記で切り出した細片を、細片の流れ方向(MD)と平行に10μm間隔でスライスし、観察用のスライス片(MD×TD=5mm×10μm)を作製する。
(3)つぎに、スライス面が観察できるように、スライス片を倒してスライス面を上向きとしてスライドガラス上に載せてカバーガラスとリン酸トリクレジル(屈折率1.557)で封じ、二次元光弾性評価システム「PA-micro」(フォトニックラティス社製)を用いてレタデーションを測定する。
(4)スライス片のレタデーション分布を「PA-micro」の測定画面に表示した状態で、スライス片を横切るように当初の上記ポリビニルアルコール系フィルムの表面に垂直な線分Xを引き、その線分X上でライン解析を行ってスライス片の厚み方向のレタデーション分布データを取得する。なお、観察は対物レンズ40倍を用いて行い、線幅を3画素としてレタデーションの平均値を採用する。
(5)得られたスライス片の厚み方向のレタデーション分布データをスライス片の厚み10μmで除して、スライス片の厚み方向の複屈折率分布を求め、スライス片の両面付近の複屈折率の最大値を、そのスライス片の両面でそれぞれ複屈折率ΔnMDA、ΔnMDBとする。なお、先に述べたように、この際、値の大きい方をΔnMDA、小さい方をΔnMDBと設定する。また、スライス片の厚み方向の中央部の複屈折率ΔnMDCとする。
【0036】
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、さらに、そのフィルムの第1の面の上記流れ方向(MD)と直角な幅方向(TD)の複屈折率をΔnTDA、上記フィルムの第2の面の流れ方向(MD)と直角な幅方向(TD)の複屈折率をΔnTDBとした際に、下記式(D)および(E)の少なくとも一方を満足することが、偏光膜の色ムラを低減できる点で好ましい。
ΔnMDA/ΔnTDA≦1.0・・・(D)
ΔnMDB/ΔnTDB≦1.0・・・(E)
【0037】
〔ΔnTDA、ΔnTDBの測定方法〕
(1)ポリビニルアルコール系フィルムの流れ方向(MD)の任意の位置で、ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向(TD)における中央部からMD×TD=10mm×5mmの大きさの細片を切り出す。そして、その細片を厚み100μmのPETフィルムで両側を挟み、それをさらに木枠に挟んでミクロトーム装置に取り付ける。
(2)ついで、前記で切り出した細片を、細片の幅方向(TD)と平行に10μm間隔でスライスし、観察用のスライス片(MD×TD=10μm×5mm)を作製する。
(3)つぎに、スライス面が観察できるように、スライス片を倒してスライス面を上向きとしてスライドガラス上に載せてカバーガラスとリン酸トリクレジル(屈折率1.557)で封じ、二次元光弾性評価システム「PA-micro」(フォトニックラティス社製)を用いてレタデーションを測定する。
(4)スライス片のレタデーション分布を「PA-micro」の測定画面に表示した状態で、スライス片を横切るように当初の上記ポリビニルアルコール系フィルムの表面に垂直な線分Xを引き、その線分X上でライン解析を行ってスライス片の厚み方向のレタデーション分布データを取得する。なお、観察は対物レンズ40倍を用いて行い、線幅を3画素としてレタデーションの平均値を採用する。
(5)得られたスライス片の厚み方向のレタデーション分布データをスライス片の厚み10μmで除して、スライス片の厚み方向の複屈折率分布を求め、スライス片の両面付近の複屈折率の最大値を、そのスライス片の両面でそれぞれ複屈折率ΔnTDA、ΔnTDBとする。なお、この際、値の大きい方をΔnTDA、小さい方をΔnTDBと設定する。
【0038】
ここで、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法を、工程順に説明する。
【0039】
〔フィルム材料〕
まず、本発明で使用されるポリビニルアルコール系樹脂、およびそのポリビニルアルコール系樹脂水溶液に関して説明する。
本発明において、ポリビニルアルコール系フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂としては、通常、未変性のポリビニルアルコール系樹脂、すなわち、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて、酢酸ビニルと、少量(通常、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2~30のオレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、ケン化後の水酸基を化学修飾して得られる変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
【0040】
また、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。上記側鎖に1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4-ジアセトキシ-1-ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化および脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソランとの共重合体をケン化および脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0041】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、10万~30万であることが好ましく、特に好ましくは11万~28万、さらに好ましくは12万~26万である。重量平均分子量が小さすぎると、ポリビニルアルコール系樹脂を光学フィルムとする場合に、充分な光学性能が得られにくい傾向があり、大きすぎると、偏光膜製造時のポリビニルアルコール系フィルムの延伸が困難となる傾向がある。なお、上記ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC-MALS法により測定される重量平均分子量である。
【0042】
本発明で用いるポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度は、通常98モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは99モル%以上、さらに好ましくは99.5モル%以上、殊に好ましくは99.8モル%以上である。平均ケン化度が小さすぎると、ポリビニルアルコール系フィルムを偏光膜にする場合に、充分な光学性能が得られない傾向がある。
ここで、本発明における平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定されるものである。
【0043】
本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂として、変性種、変性量、重量平均分子量、平均ケン化度等の異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0044】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液には、ポリビニルアルコール系樹脂以外に、必要に応じて、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の一般的に使用される可塑剤や、ノニオン性、アニオン性、およびカチオン性の少なくとも一つの界面活性剤を含有させることが、製膜性の点から好ましい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0045】
このようにして得られるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の樹脂濃度は、15~60重量%であることが好ましく、特に好ましくは17~55重量%、さらに好ましくは20~50重量%である。上記水溶液の樹脂濃度が低すぎると、乾燥負荷が大きくなるため生産能力が低下する傾向があり、高すぎると、粘度が高くなりすぎて、均一な溶解ができにくくなる傾向がある。
【0046】
つぎに、得られたポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、脱泡処理される。脱泡方法としては、静置脱泡や多軸押出機による脱泡等の方法があげられる。多軸押出機としては、ベントを有した多軸押出機であればよく、通常はベントを有した2軸押出機が用いられる。
【0047】
〔製膜工程〕
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、キャスト法や溶融押出し法で製造されるが、本発明においては、透明性、厚み精度、表面平滑性等の点から、キャスト法が好ましく、特に好ましくは、生産性の点から、連続キャスト法である。
【0048】
その連続キャスト法とは、例えば、上記ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を、T型スリットダイから、回転するキャストドラム、エンドレスベルト、樹脂フィルム等のキャスト型に連続的に吐出および流延して製膜する方法である。
ここで、キャスト型がキャストドラムである場合の製膜工程を説明する。
【0049】
T型スリットダイ出口のポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度は、80~100℃であることが好ましく、特に好ましくは85~98℃である。
上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度が低すぎると、流動不良となる傾向があり、高すぎると、発泡する傾向がある。
【0050】
上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の粘度は、吐出時に(上記好ましい温度80~100℃において)50~200Pa・sであることが好ましく、特に好ましくは(上記特に好ましい温度85~98℃において)70~150Pa・sである。
上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の粘度が低すぎると、流動不良となる傾向があり、高すぎると、流延が困難となる傾向がある。
【0051】
T型スリットダイからキャストドラムに吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の吐出速度は、0.2~5m/分であることが好ましく、特に好ましくは0.4~4m/分、さらに好ましくは0.6~3m/分である。
上記吐出速度が遅すぎると、生産性が低下する傾向があり、速すぎると、流延が困難となる傾向がある。
【0052】
上記キャストドラムの直径は、好ましくは2~5m、特に好ましくは2.4~4.5m、さらに好ましくは2.8~4mである。
上記キャストドラムの直径が小さすぎると、乾燥長が不足し速度が出にくい傾向があり、大きすぎると、輸送性が低下する傾向がある。
【0053】
上記キャストドラムの幅は、好ましくは4m以上であり、特に好ましくは4.5m以上、さらに好ましくは5m以上、殊に好ましくは5~7mである。
上記キャストドラムの幅が小さすぎると、生産性が低下する傾向がある。
【0054】
上記キャストドラムの回転速度は、5~50m/分であることが好ましく、特に好ましくは6~40m/分、さらに好ましくは7~35m/分である。
上記キャストドラムの回転速度が遅すぎると、生産性が低下する傾向があり、速すぎると、乾燥が不充分となる傾向がある。
【0055】
上記キャストドラムの表面温度は、40~99℃であることが好ましく、特に好ましくは60~95℃である。
上記表面温度が低すぎると、乾燥不良となる傾向があり、高すぎると、発泡してしまう傾向がある。
【0056】
このようにして製膜工程がなされる。そして、その製膜されたフィルムは、上記キャストドラムから剥離され、流れ方向(MD)に搬送される。
上記製膜されたフィルムの含水率は、0.5~15重量%であることが好ましく、特に好ましくは1~13重量%、さらに好ましくは2~12重量%である。上記含水率が低すぎても高すぎても、目的とする膨潤性や延伸性の発現が困難となる傾向にある。
【0057】
〔乾燥・延伸工程〕
上記含水率の調整は、幅方向(TD)の延伸前のフィルムの含水率が高すぎる場合は、幅方向(TD)への延伸前にフィルムを乾燥することが好ましく、逆に、幅方向(TD)の延伸前のフィルムの含水率が低すぎる場合は、幅方向(TD)への延伸前に調湿することが好ましい。特に好ましくは、含水率が上記範囲となるように乾燥工程の条件を調整することである。
【0058】
上記乾燥は、連続的になされる。この連続的な乾燥は、加熱ロールや赤外線ヒーター等を使用し公知の方法で行うことができるが、本発明においては複数の加熱ロールで行うことが好ましく、特に好ましくは、加熱ロールの温度が40~150℃であり、さらに好ましくは50~140℃である。また、含水率の調整のため、幅方向(TD)への延伸前に、調湿エリアを設けてもよい。
【0059】
本発明において、製膜されたフィルムを流れ方向(MD)へは特段延伸する必要はなく、フィルムがたわまない程度の引っ張り張力で搬送すれば充分である。当然のことながら、幅方向(TD)への延伸により、流れ方向(MD)にはポアソン比に依存したネックインが起こり、乾燥中は流れ方向(MD)に脱水収縮も生じる。これらの収縮ため、搬送ロールや加熱ロールの回転速度が一定でも、流れ方向(MD)に適度な張力が得られ、前記特許文献2の様な煩雑な回転速度の制御は不要である。製造的な観点から、フィルムの流れ方向(MD)の寸法は一定であることが好ましく、特に好ましくは、幅方向(TD)の延伸前後において、流れ方向(MD)の寸法変化率は0.8~1.2であり、特に好ましくは0.9~1.1である。
【0060】
製膜されたフィルムの流れ方向(MD)への搬送速度は、5~30m/分であることが好ましく、特に好ましくは7~25m/分、さらに好ましくは8~20m/分である。この搬送速度が遅すぎると、生産性が低下する傾向があり、速すぎると、面内の均一性が低下する傾向がある。
【0061】
製膜されたフィルムの流れ方向(MD)への搬送と、幅方向(TD)への延伸を同時に行なう方法は、特に限定されないが、例えば、フィルムの幅方向両端部を複数のクリップで挟持して、搬送および延伸を同時に行なうことが好ましい。この場合、それぞれの端部でのクリップの配置は、ピッチ200mm以下であることが好ましく、特に好ましくはピッチ100mm以下、さらに好ましくはピッチ50mm以下である。
上記クリップのピッチが広すぎると、延伸後のフィルムにたわみが生じたり、得られるポリビニルアルコール系フィルムの面内の均一性が低下したりする傾向がある。また、クリップの挟持位置(クリップの先端部)は、製膜されたフィルムの幅方向両端縁から100mm以下が好ましい。クリップの挟持位置(先端部)がフィルム幅方向中心部に位置しすぎると、破棄するフィルム端部が増大し、製品幅が狭くなる傾向にある。
【0062】
本発明における幅方向(TD)の延伸倍率は、1.05~1.3倍であることが好ましく、特に好ましくは1.05~1.25倍、さらに好ましくは1.1~1.2倍である。幅方向(TD)の延伸倍率が高すぎても低すぎても、面内の均一性が低下する傾向がある。
【0063】
上記幅方向(TD)の延伸は、連続的になされる。この連続的な延伸は、1段階(1回)でもよいし、総延伸倍率が上記延伸倍率の範囲になるように複数段階(複数回)でもよい(逐次延伸とも呼ばれる)。例えば、1段階目の連続的な延伸を行った後、幅方向(TD)を固定した単純な搬送を行い、その後、2段階目以降の連続的な延伸を行ってもよい。特に、薄型フィルムの場合は、1段階目の連続的な延伸を行った後に、単純な幅固定の搬送工程を挿入することにより、フィルムの応力緩和がなされ、破断を回避することが可能になる。
幅固定の搬送工程を挿入する場合、固定幅を、1段階目の連続的な延伸後の幅よりも狭めることも可能である。延伸直後のフィルムは応力緩和のために収縮しやすく、脱水に伴う収縮も起きるため、固定幅をこれらの収縮幅まで狭めることが可能である。ただし、収縮幅以上に狭めると、フィルムにたわみが生じるため、好ましくない。
上記連続的な延伸は、先に述べたように、フィルムの乾燥工程後に行われることが好ましいが、フィルムの乾燥工程前、乾燥工程中、および乾燥工程後の少なくとも一つにて行われる。
【0064】
本発明の好ましい一形態として、製膜されたフィルムの幅方向(TD)に、一時的に1.3倍を超えて延伸した後、最終的な幅方向(TD)の延伸倍率が1.05~1.3倍になるよう寸法収縮させる方法を用いることができる。
この場合、一時的に1.3倍を超えて延伸した後、延伸倍率1.05~1.3の固定幅で、フィルムを単純に搬送すればよい。この方法により、フィルムの応力緩和がなされ、特に薄型フィルムの場合に、破断を回避することが可能になる。
【0065】
本発明において、製膜されたフィルムに対する幅方向(TD)の延伸は、50~150℃の雰囲気温度で行なうことが好ましい。この延伸時の雰囲気温度は、特に好ましくは60~140℃、さらに好ましくは70~130℃である。上記延伸時の雰囲気温度が低すぎても高すぎても、面内の均一性が低下する傾向がある。逐次延伸を行う場合、上記延伸時の雰囲気温度は、各延伸段階で変更してもよい。
【0066】
本発明において、製膜されたフィルムに対する幅方向(TD)の延伸時の延伸時間は、2~60秒間が好ましく、特に好ましくは5~45秒間、さらに好ましくは10~30秒間である。この延伸時間が短すぎると、フィルムに破断が生じやすい傾向があり、逆に、長すぎると、設備負荷が増大する傾向にある。逐次延伸を行う場合、上記延伸時間は、各延伸段階で変更してもよい。
【0067】
本発明においては、製膜されたフィルムを幅方向(TD)に延伸した後、必要に応じて、フローティングドライヤー等で上記フィルムの両面に対し熱処理を行ってもよい。この熱処理の温度は、60~200℃であることが好ましく、特に好ましくは70~150℃である。なお、上記フローティングドライヤーによる熱処理は、熱風を吹き付ける処理であり、その熱処理温度は、上記吹き付ける熱風の温度を意味する。
上記熱処理温度が、低すぎると、寸法安定性が低下しやすい傾向があり、逆に、高すぎると、偏光膜製造時の延伸性が低下する傾向がある。
また、熱処理時間は1~60秒間であることが好ましく、特に好ましくは5~30秒間である。熱処理時間が短すぎると、寸法安定性が低下する傾向があり、逆に、長すぎると、偏光膜製造時の延伸性が低下する傾向がある。
【0068】
〔ポリビニルアルコール系フィルム〕
このようにして、本発明のポリビニルアルコール系フィルムが得られる。このポリビニルアルコール系フィルムは、流れ方向(MD)に長く、芯管にロール状に巻き取られることにより、フィルム巻装体に作製される。
本発明のポリビニルアルコール系フィルムの厚みは、先に述べたように、5~60μmであることが必要であり、好ましくは、偏光膜の薄型化の点で5~50μmが好ましく、特に好ましくは、破断回避の点で5~45μm、さらに好ましくは10~40μmである。
【0069】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムの幅は、2m以上であることが好ましく、特に好ましくは、破断回避の点で、2~6mである。
【0070】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムの長さは、2km以上であることが好ましく、特に好ましくは、大面積化の点で、3km以上、さらに好ましくは、輸送重量の点で、3~50kmである。
【0071】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、延伸性に優れるため、偏光膜用の原反として特に好ましく用いられる。
【0072】
つぎに、本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜の製造方法について説明する。
【0073】
〔偏光膜の製造方法〕
本発明の偏光膜は、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、前記フィルム巻装体から繰り出して水平方向に搬送し、膨潤、染色、ホウ酸架橋、延伸、洗浄、乾燥等の工程を経て製造される。
【0074】
膨潤工程は、染色工程の前に施される。膨潤工程により、ポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れを洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色ムラ等を防止する効果もある。膨潤工程において、処理液としては、通常、水が用いられる。その処理液は、主成分が水であれば、ヨウ化化合物、界面活性剤等の添加物、アルコール等が少量入っていてもよい。膨潤浴の温度は、通常10~45℃程度であり、膨潤浴への浸漬時間は、通常0.1~10分間程度である。
【0075】
染色工程は、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素-ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1~2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は1~100g/Lが適当である。染色時間は30~500秒間程度が実用的である。処理浴の温度は5~50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させてもよい。
【0076】
ホウ酸架橋工程は、ホウ酸やホウ砂等のホウ素化合物を使用して行われる。ホウ素化合物は水溶液または水-有機溶媒混合液の形で濃度10~100g/L程度で用いられ、液中にはヨウ化カリウムを共存させることが、偏光性能の安定化の点で好ましい。処理時の温度は30~70℃程度、処理時間は0.1~20分間程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0077】
延伸工程は、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸方向〔流れ方向(MD)〕に3~10倍、好ましくは3.5~6倍延伸することが好ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸〔幅方向(TD)の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸〕を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、40~70℃が好ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は1段階(1回)のみならず、偏光膜製造工程において複数回実施してもよい。
【0078】
洗浄工程は、例えば、水やヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液にポリビニルアルコール系フィルムを浸漬することにより行われ、そのポリビニルアルコール系フィルムの表面に発生する析出物を除去することができる。ヨウ化カリウム水溶液を用いる場合のヨウ化カリウム濃度は1~80g/L程度である。洗浄処理時の温度は、通常、5~50℃、好ましくは10~45℃である。処理時間は、通常、1~300秒間、好ましくは10~240秒間である。なお、水洗浄とヨウ化カリウム水溶液による洗浄は、適宜組み合わせて行ってもよい。
【0079】
乾燥工程は、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムを大気中で40~80℃で1~10分間乾燥することで行われる。
【0080】
また、偏光膜の偏光度は、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.8%以上である。偏光度が低すぎると、液晶ディスプレイにおけるコントラストを確保することができなくなる傾向がある。
なお、偏光度は、一般的に2枚の偏光膜を、その配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H11)と、2枚の偏光膜を、配向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H1)より、下記式にしたがって算出される。
偏光度(%)=〔(H11-H1)/(H11+H1)〕1/2
【0081】
さらに、本発明の偏光膜の単体透過率は、好ましくは42%以上である。この単体透過率が低すぎると、液晶ディスプレイの高輝度化を達成できなくなる傾向がある。
単体透過率は、分光光度計を用いて偏光膜単体の光線透過率を測定して得られる値である。
【0082】
つぎに、本発明の偏光膜を用いた、本発明の偏光板の製造方法について説明する。
本発明の偏光膜は、色ムラが少なく、偏光性能に優れた偏光板を製造するのに好適である。
【0083】
〔偏光板の製造方法〕
本発明の偏光板は、本発明の偏光膜の片面または両面に、接着剤を介して、光学的に等方性な樹脂フィルムを保護フィルムとして貼合することにより、作製される。保護フィルムとしては、たとえば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ-4-メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド等のフィルムまたはシートがあげられる。
【0084】
貼合方法は、公知の方法で行われるが、例えば、液状の接着剤組成物を、偏光膜もしくは保護フィルム、またはその両方に、均一に塗布した後、両者を貼り合わせて圧着し、加熱や活性エネルギー線を照射することで行われる。
【0085】
なお、偏光膜の片面または両面に、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂等の硬化性樹脂を塗布し、硬化して硬化層を形成し、偏光板とすることもできる。このようにすると、上記硬化層が上記保護フィルムの代わりとなり、薄膜化を図ることができる。
【0086】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いる偏光膜および偏光板は、偏光性能に優れており、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射低減層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。
【実施例】
【0087】
つぎに、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り後記の実施例に限定されるものではない。
【0088】
そして、後記の実施例および比較例におけるポリビニルアルコール系フィルムの特性(ΔnMDA、ΔnMDB、ΔnMDC、ΔnTDA、ΔnTDB)と偏光膜の特性(偏光度、単体透過率、色ムラ)と偏光版の特性(耐光漏れ性)の測定および評価を下記のようにして行った。
【0089】
〔ΔnMDA、ΔnMDB、ΔnMDCの測定方法〕
(1)ポリビニルアルコール系フィルムの流れ方向(MD)の任意の位置で、ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向(TD)における中央部からMD×TD=5mm×10mmの大きさの細片を切り出した。そして、その細片を厚み100μmのPETフィルムで両側を挟み、それをさらに木枠に挟んでミクロトーム装置に取り付けた。
(2)ついで、前記で切り出した細片を、細片の流れ方向(MD)と平行に10μm間隔でスライスし、観察用のスライス片(MD×TD=5mm×10μm)を作製した。
(3)つぎに、スライス面が観察できるように、スライス片を倒してスライス面を上向きとしてスライドガラス上に載せてカバーガラスとリン酸トリクレジル(屈折率1.557)で封じ、二次元光弾性評価システム「PA-micro」(フォトニックラティス社製)を用いてレタデーションを測定した。
(4)スライス片のレタデーション分布を「PA-micro」の測定画面に表示した状態で、スライス片を横切るように当初の上記ポリビニルアルコール系フィルムの表面に垂直な線分Xを引き、その線分X上でライン解析を行ってスライス片の厚み方向のレタデーション分布データを取得した。なお、観察は対物レンズ40倍を用いて行い、線幅を3画素としてレタデーションの平均値を採用した。
(5)得られたスライス片の厚み方向のレタデーション分布データをスライス片の厚み10μmで除して、スライス片の厚み方向の複屈折率分布を求め、スライス片の両面付近の複屈折率の最大値を、そのスライス片の両面でそれぞれ複屈折率ΔnMDA、ΔnMDBとした。なお、この際、値の大きい方をΔnMDA、小さい方をΔnMDBと設定した。また、スライス片の厚み方向の中央部の複屈折率ΔnMDCとした。
【0090】
〔ΔnTDA、ΔnTDB の測定方法〕
(1)ポリビニルアルコール系フィルムの流れ方向(MD)の任意の位置で、ポリビニルアルコール系フィルムの幅方向(TD)における中央部からMD×TD=10mm×5mmの大きさの細片を切り出した。そして、その細片を厚み100μmのPETフィルムで両側を挟み、それをさらに木枠に挟んでミクロトーム装置に取り付けた。
(2)ついで、前記で切り出した細片を、細片の幅方向(TD)と平行に10μm間隔でスライスし、観察用のスライス片(MD×TD=10μm×5mm)を作製した。
(3)つぎに、スライス面が観察できるように、スライス片を倒してスライス面を上向きとしてスライドガラス上に載せてカバーガラスとリン酸トリクレジル(屈折率1.557)で封じ、二次元光弾性評価システム「PA-micro」(フォトニックラティス社製)を用いてレタデーションを測定した。
(4)スライス片のレタデーション分布を「PA-micro」の測定画面に表示した状態で、スライス片を横切るように当初の上記ポリビニルアルコール系フィルムの表面に垂直な線分Xを引き、その線分X上でライン解析を行ってスライス片の厚み方向のレタデーション分布データを取得した。なお、観察は対物レンズ40倍を用いて行い、線幅を3画素としてレタデーションの平均値を採用した。
(5)得られたスライス片の厚み方向のレタデーション分布データをスライス片の厚み10μmで除して、スライス片の厚み方向の複屈折率分布を求め、スライス片の両面付近の複屈折率の最大値を、そのスライス片の両面でそれぞれ複屈折率ΔnTDA、ΔnTDBとする。なお、この際、値の大きい方をΔnTDA、小さい方をΔnTDBと設定した。
【0091】
〔偏光度(%)、単体透過率(%)〕
得られた偏光膜の幅方向の中央部から、長さ4cm×幅4cmの試験片を切り出し、自動偏光フィルム測定装置(日本分光社製:VAP7070)を用いて、偏光度(%)と単体透過率(%)を測定した。
【0092】
〔色ムラ〕
得られた偏光膜の幅方向の中央部から、長さ30cm×幅30cmの試験片を切り出し、クロスニコル状態の2枚の偏光板(単体透過率43.5%、偏光度99.9%)の間に45°の角度で挟んだのちに、表面照度14,000lxのライトボックスを用いて、透過モードで光学的な色ムラを観察し、下記の基準で評価した。
(評価基準)
○・・・色ムラがなかった
△・・・かすかに色ムラがあった
×・・・はっきりとした色ムラがあった
【0093】
〔耐光漏れ性〕
得られた偏光板の片面にアクリル系粘着層(厚み25μm)を設け、粘着層付き偏光板を作製した。この偏光板をガラス板に吸収軸が45度となるように貼合し、さらに上記ガラス板の反対面にクロスニコル配置になるよう、偏光板を貼合し、耐光漏れ性評価用サンプルを作製した。なお、偏光板試験片のサイズは、上記耐光漏れ性評価用サンプルから20cm×15cmに打ち抜いて使用した。このサンプルを80℃の環境下、500時間放置し光漏れを目視観察し、下記の基準で評価した。
(評価基準)
○・・・偏光板試験片の4辺の端部に光漏れが発生しているがほとんど目立たなかった。
×・・・偏光板試験片の4辺の端部に強く光漏れが発生した。
【0094】
<実施例1>
(ポリビニルアルコール系フィルムの作製)
5,000Lの溶解缶に、重量平均分子量142,000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂1,000kg、水2,500kg、可塑剤としてグリセリン105kg、および界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルアミン0.25kgを入れ、撹拌しながら150℃まで昇温して加圧溶解を行い、濃度調整により樹脂濃度25重量%のポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を得た。ついで、このポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、2軸押出機に供給して脱泡した後、水溶液温度を95℃にし、T型スリットダイ吐出口より、表面温度が80℃のキャストドラムに吐出(吐出速度1.3m/分)および流延して製膜した。その製膜したフィルムをキャストドラムから剥離し、流れ方向(MD)に搬送しながら、そのフィルムの表面と裏面とを合計10本の熱ロールに交互に接触させながら乾燥を行った。それにより、含水率7重量%のフィルム(幅2m、厚み30μm)を得た。つぎに、上記フィルムの左右両端部をクリップピッチ45mmのクリップで挟持し、そのフィルムを流れ方向(MD)に速度8m/分で搬送しながら、延伸機を用いて80℃で幅方向(TD)に1.2倍延伸した後、そのフィルムを固定幅2.4mで130℃の乾燥機中を搬送させて、ポリビニルアルコール系フィルム(幅2.4m、厚み25μm、長さ2km)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性は後記の表1に示される通りであった。最後に、そのポリビニルアルコール系フィルムを芯管にロール状に巻き取り、フィルム巻装体を得た。
【0095】
(偏光膜および偏光板の作製)
得られたポリビニルアルコール系フィルムを上記フィルム巻装体から繰り出し、水平方向に搬送しながら、水温30℃の水槽に浸漬して膨潤させながら流れ方向(MD)に1.7倍に延伸した。その膨潤工程で、フィルムに折れや皺は発生しなかった。ついで、ヨウ素0.5g/L、ヨウ化カリウム30g/Lよりなる30℃の水溶液中に浸漬して染色しながら流れ方向(MD)に1.6倍に延伸し、つぎに、ホウ酸40g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(50℃)に浸漬してホウ酸架橋しながら流れ方向(MD)に2.1倍に一軸延伸した。最後に、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行い、50℃で2分間乾燥して総延伸倍率5.8倍の偏光膜を得た。この偏光膜製造中に破断は起きなかった。また、得られた偏光膜の特性は後記の表1に示される通りであった。
上記で得られた偏光膜の両面に、ポリビニルアルコール水溶液を接着剤として用いて、膜厚40μmのトリアセチルセルロースフィルムを貼合し、70℃で乾燥して偏光板を得た。得られた偏光板の特性は後記の表1に示される通りであった。
【0096】
<実施例2>
実施例1において、延伸機を用いて80℃で幅方向(TD)に1.4倍延伸した後、130℃で固定幅2.4m(1.2倍延伸相当)まで応力緩和により収縮させ搬送する以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルム(幅2.4m、厚み25μm、長さ2km)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性は後記の表1に示される通りであった。
さらに、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。偏光膜製造時の膨潤工程において、上記ポリビニルアルコール系フィルムに折れや皺の発生はなく、また破断も起きなかった。得られた偏光膜および偏光板の特性は後記の表1に示される通りであった。
【0097】
<実施例3>
実施例1において、製膜時の吐出速度を0.8m/分とし、含水率5重量%のフィルム(幅2m、厚み20μm)を製膜し、延伸機を用いて80℃で幅方向(TD)に1.4倍延伸した後、130℃で固定幅2.4m(1.2倍延伸相当)まで応力緩和により収縮させ搬送する以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルム(幅2.4m、厚み17μm、長さ2km)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性は表1に示される通りであった。
さらに、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。偏光膜製造時の膨潤工程において、上記ポリビニルアルコール系フィルムに折れや皺の発生はなく、また破断も起きなかった。得られた偏光膜および偏光板の特性は表1に示される通りであった。
【0098】
<実施例4>
実施例1において、表面温度が90℃のキャストドラムにポリビニルアルコール系樹脂水溶液を吐出(吐出速度2.5m/分)および流延して製膜した。その製膜したフィルムをキャストドラムから剥離し、流れ方向(MD)に搬送しながら、上記製膜したフィルムの表面と裏面とを合計10本の熱ロールに交互に接触させながら乾燥を行った。それにより、含水率10重量%のフィルム(幅2m、厚み60μm)を得た。つぎに、そのフィルムの左右両端部をクリップピッチ45mmのクリップで挟持し、そのフィルムを流れ方向(MD)に速度8m/分で搬送しながら、延伸機を用いて80℃で幅方向(TD)に1.1倍延伸する以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルム(幅2.2m、厚み55μm、長さ2km)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性は後記の表1に示される通りであった。
さらに、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。偏光膜製造時の膨潤工程において、上記ポリビニルアルコール系フィルムに折れや皺の発生はなく、また破断も起きなかった。得られた偏光膜および偏光板の特性は後記の表1に示される通りであった。
【0099】
<実施例5>
実施例1において、表面温度が88℃のキャストドラムにポリビニルアルコール系樹脂水溶液を吐出(吐出速度1.9m/分)および流延して製膜した。その製膜したフィルムをキャストドラムから剥離し、流れ方向(MD)に搬送しながら、上記製膜したフィルムの表面と裏面とを合計10本の熱ロールに交互に接触させながら乾燥を行った。それにより、含水率10重量%のフィルム(幅2m、厚み45μm)を得た。つぎに、そのフィルムの左右両端部をクリップピッチ45mmのクリップで挟持し、そのフィルムを流れ方向(MD)に速度8m/分で搬送しながら、延伸機を用いて80℃で幅方向(TD)に1.4倍延伸した後、135℃で固定幅2.4m(1.2倍延伸相当)まで応力緩和により収縮させする以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルム(幅2.4m、厚み34μm、長さ2km)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性は後記の表1に示される通りであった。
さらに、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。偏光膜製造時の膨潤工程において、上記ポリビニルアルコール系フィルムに折れや皺の発生はなく、また破断も起きなかった。得られた偏光膜および偏光板の特性は後記の表1に示される通りであった。
【0100】
<比較例1>
実施例1において、表面温度が93℃のキャストドラムにポリビニルアルコール系樹脂水溶液を吐出(吐出速度3.1m/分)および流延して製膜した。その製膜したフィルムに対して、延伸機を用いた幅方向(TD)への延伸は行わずに、表面温度105℃の熱処理ロールで熱処理を行った以外は実施例1と同様にして、含水率2.6重量%のポリビニルアルコールフィルム(幅2m、厚み75μm、長さ2km)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性は後記の表1に示される通りであった。
さらに、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を得た。得られた偏光膜および偏光板の特性は後記の表1に示される通りであり、80℃耐熱試験を行ったところ光漏れが確認された。
【0101】
<比較例2>
実施例1において、製膜したフィルムに対して、延伸機を用いた幅方向(TD)への延伸は行わずに表面温度105℃の熱処理ロールで熱処理を行った以外は実施例1と同様にして、含水率1重量%のポリビニルアルコール系フィルム(幅2m、厚み30μm、長さ2km)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性は下記の表1に示される通りであった。
さらに、上記ポリビニルアルコール系フィルムを用いて、実施例1と同様にして、偏光膜および偏光板を製造したところ、膨潤工程において、フィルムに折れや皺が発生した。得られた偏光膜および偏光板の特性は下記の表1に示される通りであった。
【0102】
【0103】
上記実施例および比較例の結果から、ポリビニルアルコール系フィルムの第1の面の流れ方向(MD)の複屈折率ΔnMDA、第2の面の流れ方向(MD)の複屈折率ΔnMDB、厚み方向中央部の複屈折率ΔnMDCが式(A)~(C)を全て満足する実施例1~5のポリビニルアルコール系フィルムから得られる偏光膜は、高い偏光特性を有し、かつ色ムラも少なく均一で優れた偏光膜であることがわかる。
一方、膜厚が75μmと厚い比較例1のポリビニルアルコール系フィルムから得られる偏光板は、耐熱試験時に強い光漏れが発生した。
また、式(C)を満足しない比較例2のポリビニルアルコール系フィルムは偏光特性に劣り、色ムラも観察された。
【0104】
以上より、膜厚60μm以下の薄膜のポリビニルアルコール系フィルムは、式(A)~(C)を満足することで、高い偏光特性を有し、色ムラのない均一な偏光膜が得られ、また耐光漏れ性も良好な偏光板が得られることがわかる。
【0105】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光膜は、偏光性能に優れており、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射低減層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。