(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】インフレーション成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20230824BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20230824BHJP
B29C 48/32 20190101ALI20230824BHJP
B29C 55/28 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/08
B29C48/32
B29C55/28
(21)【出願番号】P 2019060879
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一優
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-314589(JP,A)
【文献】特開平10-086217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96,55/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイから押し出されたチューブ状の樹脂に関するデータを取得する取得部と、
チューブ状の樹脂に生じている応力を推定し、推定した応力を所定の閾値と比較して、チューブ状の樹脂が破断するおそれがあるか否かを判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、(i)チューブ状の樹脂の
粘度およびひずみ速度
、(ii)チューブ状の樹脂の粘度、引取速
度およびフロストライン高さ、または(
iii)
(a)チューブ状の樹脂を引き取る引取
力もしくはチューブ状の樹脂を引き取るピンチロールを駆動するモータのトルク
ならびに(
b)チューブ状の樹脂のフロストラインにおける
半径および厚み
、折りたたまれたチューブ状の樹脂の幅
およびチューブ状の樹脂の厚み、もしくはチューブ状の樹脂の断面積、に基づいてチューブ状の樹脂に生じる応力を推定することを特徴とするインフレーション成形装置。
【請求項2】
前記判定部は、成形に関する設定値に基づいて、当該設定値で成形した場合にチューブ状の樹脂に生じる応力を推定し、推定した応力を所定の閾値と比較して、チューブ状の樹脂が破断するおそれがあるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のインフレーション成形装置。
【請求項3】
前記閾値は、過去の成形においてチューブ状の樹脂が破断したときの、当該チューブ状の樹脂に生じていた応力に関する情報に基づくことを特徴とする請求項1または2に記載のインフレーション成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフレーション成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶かした樹脂をダイからチューブ状に押し出し、その内側に空気を吹き込んで膨らませて薄いフィルム状に成形するインフレーション成形が知られている。従来では、リップ幅や冷却風の風量、風温を調節することにより、樹脂の厚みを目標範囲内に収める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、成形中に樹脂が破断してしまう現象が起きている。破断した場合、インフレーション成形装置を再度立ち上げなければならず、作業効率が低下する。また、樹脂も無駄にしてしまう。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、樹脂の破断を抑止できるインフレーション成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のインフレーション成形装置は、ダイから押し出されたチューブ状の樹脂に関するデータを取得する取得部と、取得部により取得されたデータに基づいて、チューブ状の樹脂に生じている応力を推定し、推定した応力を所定の閾値と比較して、チューブ状の樹脂が破断するおそれがあるか否かを判定する判定部と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様もまた、インフレーション成形装置である。この装置は、成形に関する設定値に基づいて、当該設定値で成形した場合に、ダイから押し出されるチューブ状の樹脂に生じる応力を推定し、推定した応力を所定の閾値と比較して、チューブ状の樹脂が破断するおそれがあるか否かを判定する判定部を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂の破断を抑止できるインフレーション成形装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係るインフレーション成形装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1の制御装置の機能および構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図1のインフレーション成形装置による、設定時におけるバブル破断の判定についての動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図1のインフレーション成形装置による、成形時におけるバブル破断の判定についての動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0012】
インフレーション成形では、ダイからチューブ状に押し出された樹脂が破断することがある。破断する原因としては、樹脂の破断強さに対して樹脂にかかる力が大きくなっていることが考えられる。そこで本実施の形態では、破断するおそれがある応力がチューブ状の樹脂に生じているか否かを例えば定期的に判定する。具体的には、成形中に取得されるチューブ状の樹脂に関するデータに基づいて樹脂に生じている応力を推定し、推定された応力が閾値以上である場合、樹脂が破断するおそれがあると判定する。これにより、ユーザは、バブルが破断するおそれがある場合にこれをいち早く察知でき、いち早く対策を講じることができる。
【0013】
図1は、実施の形態に係るインフレーション成形装置1の概略構成を示す。インフレーション成形装置1は、ダイ2と、冷却装置3と、一対の安定板4と、引取機5と、厚み取得部6と、幅取得部22と、フロストライン高さ取得部26と、制御装置7と、を備える。
【0014】
押出機(不図示)から供給される溶融した樹脂が、ダイ2に形成されたリング状の吐出口2aから押し出される。その際、ダイ2の中心部に形成されたエア噴出口2bから、押し出された樹脂の内側にエアが噴出され、チューブ状に膨らんだ薄肉の樹脂フィルム(以下、「バブル」とも呼ぶ)が成形される。
【0015】
冷却装置3は、ダイ2の上方に配置される。冷却装置3は、バブルに冷却風を吹き付けてバブルを冷却する。
【0016】
一対の安定板4は、冷却装置3の上方に配置され、バブルを引取機5に案内する。引取機5は、安定板4の上方に配置される。引取機5は、一対のピンチロール38を含む。一対のピンチロール38は、不図示のモータに駆動されて回転し、案内されたバブルを引っ張り上げながら扁平に折りたたむ。巻取機20は、折りたたまれた樹脂フィルムを巻き取り、フィルムロール体11を形成する。
【0017】
厚み取得部6は、冷却装置3と安定板4との間に配置される。厚み取得部6は、バブルの周りを回りながら、周方向の各位置におけるバブルの厚みを取得(計測)する。厚み取得部6により取得された厚みデータは制御装置7に送信される。
【0018】
幅取得部22は、引取機5と巻取機20との間に配置される。幅取得部22は、折りたたまれた樹脂フィルムのフィルム幅を取得(計測)する。幅取得部22により取得された幅データは制御装置7に送信される。
【0019】
フロストライン高さ取得部26は、冷却装置3と安定板4との間に配置される。フロストライン高さ取得部26は、バブルの周りを回りながら、周方向の各位置におけるフロストライン高さを検出する。フロストライン高さは、ダイ2の吐出口2aから、樹脂が固まる位置であるフロストラインまでの高さである。フロストライン高さ取得部26の構成は特に限定されない。例えば、フロストライン高さ取得部26は、吐出口2aおよびフロストラインを含むようにフィルムの外観を撮影する可視光カメラと、撮影された画像を画像処理することによりフロストライン高さを特定する画像処理部と、を含んで構成されてもよい。また例えば、フロストライン高さ取得部26は、フィルムの熱画像を撮影する赤外線センサと、撮影された熱画像を画像処理することによりフロストライン高さを特定する画像処理部と、を含んで構成されてもよい。フロストライン高さ取得部26による検出結果は制御装置7に送信される。
【0020】
制御装置7は、インフレーション成形装置1を統合的に制御する装置である。
【0021】
図2は、制御装置7の機能および構成を模式的に示すブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0022】
制御装置7は、種々の通信プロトコルにしたがって厚み取得部6およびフロストライン高さ取得部26との通信処理を実行する通信部40と、ユーザによる操作入力を受け付け、また各種画面を表示部に表示させるU/I部42と、通信部40およびU/I部42から取得されたデータをもとにして各種のデータ処理を実行するデータ処理部46と、データ処理部46により参照、更新されるデータを記憶する記憶部48と、を含む。
【0023】
記憶部48は、破断時応力記憶部64を含む。破断時応力記憶部64は、過去の成形においてバブルが破断したときの、バブルに生じている応力に関する情報を記憶する。
応力に関する情報は、応力自体であってもよいし、応力を算出するための情報であってもよい。
【0024】
データ処理部46は、受信部50と、登録部52と、表示制御部54と、第1判定部56と、第2判定部58と、動作制御部60と、を含む。
【0025】
受信部50は、厚み取得部6、幅取得部22、フロストライン高さ取得部26からそれぞれ、バブルの厚み、樹脂フィルムのフィルム幅、フロストライン高さを受信する。
【0026】
判定部55は、バブルが破断するおそれがあるか否かを判定する。判定部55は、第1判定部56と、第2判定部58と、を含む。
【0027】
第1判定部56は、成形に関するインフレーション成形装置1の設計値や設定値、使用する樹脂の特性から、それら設計値、設定値および樹脂で成形した場合にバブルに生じる応力を推定する。第1判定部56による応力の推定方法については後述する。
【0028】
第1判定部56は、推定した応力に基づいて、バブルが破断するおそれがあるか否かを判定する。具体的には、第1判定部56は、推定した応力を第1閾値と比較して、推定した応力が第1閾値以上である場合、バブルが破断するおそれがあると判定し、推定した応力が第1閾値未満である場合、バブルが破断するおそれはないと判定する。第1閾値は、例えば破断時応力記憶部64に記憶される応力に関する情報に基づいて決定され、例えば破断時の応力自体であってもよいし、また例えば破断時の応力に安全率を乗じた値であってもよい。また、第1閾値は、例えば、使用する樹脂の樹脂特性に基づいて決定されてもよい。
【0029】
第1判定部56は、バブルが破断するおそれがあると判定した場合、その旨を、例えば表示制御部54を介した画面表示により、ユーザに警告(通知)する。なお、画面表示に限らず、音声出力やその他の方法で警告してもよい。この場合、ユーザは、各種の設定値(例えば樹脂の押出量、ブロー比、引取速度、ダイ出口温度、大気温度、リップ幅、冷却風の風温など)を変更すればよい。
【0030】
第2判定部58は、受信部50が受信したデータや成形に関するインフレーション成形装置1の設計値(例えばダイ2の吐出口2aの半径、ピンチロール38の半径など)から、成形中のバブルに生じている応力を推定する。第2判定部58による応力の推定方法については後述する。
【0031】
第2判定部58は、推定した応力に基づいて、バブルが破断するおそれがあるか否かを判定する。具体的には、第2判定部58は、推定した応力を第2閾値と比較して、推定した応力が第2閾値以上である場合、バブルが破断するおそれがあると判定し、推定した応力が第2閾値未満である場合、バブルが破断するおそれはないと判定する。第2閾値は、例えば破断時応力記憶部64に記憶される応力に関する情報に基づいて決定され、例えば破断時の応力自体であってもよいし、また例えば破断時の応力に安全率を乗じた値であってもよい。また、第2閾値は、例えば、使用する樹脂の樹脂特性に基づいて決定されてもよい。第2閾値は、第1閾値と同じ値であっても、異なる値であってもよい。
【0032】
第2判定部58は、バブルが破断するおそれがあると判定した場合、その旨を、例えば表示制御部54を介した画面表示により、ユーザに警告(通知)する。なお、画面表示に限らず、音声出力やその他の方法で警告してもよい。この場合、ユーザは、実際にバブルが破断してしまう前に、各種の設定値を見直し、適宜変更すればよい。
【0033】
表示制御部54は、画面表示を制御する。例えば表示制御部54は、各判定部56,58がバブルが破断するおそれがあると判定した場合に、その旨を画面上に表示する。また例えば表示制御部54は、各種の設定値を入力するための入力画面を表示する。
【0034】
登録部52は、バブルが破断したときに、例えばユーザからの指示を契機に、バブルに生じていた応力に関する情報を、例えばバブルが破断する直前に推定された応力を、破断時応力記憶部64に記憶させる。登録部52は、破断時応力記憶部64に既に応力に関する情報が記憶されている場合は、今回の応力がより低い応力であった場合に、破断時応力記憶部64に記憶されている応力に関する情報を更新すればよい。
【0035】
動作制御部60は、ユーザが決定した各種の設定値にしたがって、インフレーション成形装置1の動作を制御する。例えば、動作制御部60は、ユーザから成形開始の指示を受けた場合、第1判定部56による判定でバブル破断のおそれがあると判定されていれば、成形を開始せずにその旨をユーザに警告する。つまり、バブル破断のおそれがあると判定されていた場合は成形の開始が禁止される。一方、動作制御部60は、第1判定部56による判定でバブル破断のおそれがないと判定されていれば、成形を開始するようインフレーション成形装置1の動作を制御する。つまり、バブルバブル破断のおそれがないと判定されていた場合は成形の開始が許容される。具体的には、動作制御部60は、不図示の押出機からの樹脂の押出量、エア噴出口2bから噴出されるエアの流量、冷却装置3からバブルに吹き付けられる冷却風の風温、ピンチロール38を駆動するモータに流れる駆動電流などの動作を制御する。なお、ユーザは、厚み取得部6により取得されるバブルの厚みが目標範囲に収まるように各種の設定値を設定・変更すればよい。またユーザは、第2判定部58の判定結果を参考にして、各種の設定値を設定・変更すればよい。
【0036】
続いて、第1判定部56による応力の推定方法について説明する。
【0037】
バブル(特にそのフロストライン)に生じる応力(σ)は、以下の式(1)により算出される。
σ=4ηε ・・・(1)
ここで、
η:粘度
ε:ひずみ速度
である。
【0038】
ひずみ速度(ε)について、本実施の形態では、以下の式(2)が成立するものとみなす。
ε=(vf-vd)/L ・・・(2)
ここで、
vf:バブルが引き取られる速度である引取り速度
vd:吐出口2aにおける樹脂の流速
L:フロストライン高さ
である。
【0039】
したがって、式(1)は、以下の式(3)のように書き換えられる。
σ=4η×(vf-vd)/L ・・・(3)
つまり、応力(σ)は、バブルに関するデータに基づいて、具体的には粘度(η)、引取速度(vf)、吐出口2aにおける樹脂の流速(vd)およびフロストライン高さ(L)に基づいて推定できる。
【0040】
粘度(η)は、公知の技術により推定すればよい。例えば粘度(η)は、使用する樹脂の粘度をあらかじめ計測し、粘度モデル式によりフィッティングすることで、推定すればよい。粘度モデル式には例えばPowerlowモデルを用いてもよい。
【0041】
引取速度(vf)は、設定値である。
【0042】
吐出口2aにおける樹脂の流速(vd)は、以下の式(4)で表される。
vd=(m/ρmelt)/(2πR0H0) ・・・(4)
ここで、
m:樹脂の押出量(質量流量)
ρmelt:樹脂の溶融密度
R0:ダイ2の吐出口2aの半径
H0:リップ幅
なお、樹脂の押出量(m)およびリップ幅(H0)は設定値であり、樹脂の溶融密度(ρmelt)は樹脂特性であり、ダイ2の吐出口2aの半径(R0)は設計値である。
【0043】
フロストライン高さ(L)は、以下の式(5)で表される。
L=mCp/HTC×ln{-(Tdie-Tair)/(-Tsolid+Tair)}×1/(2πy) ・・・(5)
ここで、
Cp:樹脂の比熱容量
HTC:樹脂の熱伝達係数
Tdie:ダイ2の出口温度
Tair:冷却風の温度(周囲温度)
Tsolid:樹脂の固化温度
y:バブルの平均半径
なお、樹脂の比熱容量(Cp)および樹脂の固化温度(Tsolid)は樹脂特性であり、ダイ2の出口温度(Tdie)および周囲温度(Tair)は設定値である。また、熱伝達係数(HTC)は、あらかじめ実験により、冷却装置3からの冷却風の風量、風温ごとに求めておけばよい。
【0044】
なお、実際の成形では、フロストライン高さがユーザが所望する高さになるように冷却風の風量や風温を調節することも多い。この場合は、フロストライン高さ(L)を設定値とすればよい。
【0045】
バブルの平均半径(y)は、以下の式(6)で表される。
y=(BUR+1)×R0/2 ・・・(6)
ここで、
BUR:ブロー比
である。
なお、ブロー比(BUR)は設定値であり、ダイ2の吐出口2aの半径(R0)は設計値である。
【0046】
続いて、第2判定部58による応力の推定方法について説明する。
【0047】
上述したように、バブル(特にそのフロストライン)に生じる応力は、式(1)により算出される。以下に、式(1)を再掲する。
σ=4ηε ・・・(1)
【0048】
粘度(η)について、本実施の形態では、以下の式(7)が成立するものとみなす。つまり、温度の影響を考慮せずに、簡易的に粘度(η)を算出する。
η=FL/{8πRfHf(vf-vd)} ・・・(7)
ここで、
F:引取力
Rf:フロストラインにおけるバブルの半径
Hf:フロストラインにおけるバブルの厚み
である。
【0049】
上述したように、ひずみ速度(ε)について、本実施の形態では、式(2)が成立するものとみなす。以下に、式(2)を再掲する。
ε=(vf-vd)/L ・・・(2)
【0050】
したがって、式(1)は、式(2)、(7)より、以下の式(8)のように書き換えられる。
σ=F/{2πRfHf} ・・・(8)
つまり、応力(σ)は、成形中に取得されるバブルに関するデータに基づいて、具体的には引取力(F)、フロストラインにおけるバブルの半径(Rf)およびフロストラインにおけるバブルの厚み(Hf)に基づいて推定できる。
【0051】
引取力(F)は、以下の式(9)で表される。
F=T/Rr ・・・(9)
ここで、
T:トルク
Rr:ピンチロール38の半径
である。
なお、トルク(T)は、ピンチロール38を駆動するモータに流れる駆動電流を検出することにより特定できる。ピンチロール38の半径(Rr)は、設計値であり、実測することにより特定できる。
【0052】
フロストラインにおけるバブルの半径(Rf)は、以下の式(10)で表される。
Rf=w/π ・・・(10)
ここで、
w:フィルム幅[m]
である。
なお、フィルム幅(w)は、幅取得部22により計測される。
【0053】
フロストラインにおけるバブルの厚み(Hf)は、厚み取得部6により取得される。
【0054】
以上が、インフレーション成形装置1の構成である。続いてその動作について説明する。
【0055】
まず、設定時におけるバブル破断の判定についての動作を説明する。
図3は、インフレーション成形装置1による、設定時おけるバブル破断の判定についての動作を示すフローチャートである。
図3のフローは、設定値が設定・変更されるたびに実行される。
【0056】
制御装置7は、ユーザが入力画面に入力した成形に関するインフレーション成形装置1の設定値、例えば以下の設定値を取得する(S10)。
・樹脂の押出量(質量流量)(m)
・ブロー比(BUR)
・引取速度(vf)
・ダイ2の出口温度(Tdie)
・冷却風の温度(Tair)
・リップ幅(H0)
【0057】
制御装置7は、インフレーション成形装置1の設計値、入力画面に入力された設定値、および使用する樹脂の特性から、成形した場合にバブルに生じる応力を推定する(S12)。制御装置7は、推定された応力を第1閾値と比較する(S14)。推定された応力が第1閾値以上である場合(S14のY)、破断のおそれがあるため設定値を変更するよう画面表示、音声出力、その他の方法によりユーザに警告して(S16)、フローを終了する。この場合、成形の開始が禁止される。推定された応力が第1閾値未満である場合(S14のN)、S16の処理をスキップして、フローを終了する。この場合、成形の開始が許容される。
【0058】
続いて、成形時におけるバブル破断の判定についての動作を説明する。
図4は、インフレーション成形装置1による、成形時おけるバブル破断の判定についての動作を示すフローチャートである。
図4のフローは、成形が開始されると実行される。
【0059】
制御装置7は、各取得部等からバブルに関するデータを受信する(S20)。制御装置7は、受信したデータやインフレーション成形装置1の設計値から、成形中のバブルに生じている応力を推定する(S22)。制御装置7は、推定された応力を第2閾値と比較する(S24)。推定された応力が第2閾値以上である場合(S24のY)、破断のおそれがあるため各種の調節要素を調節するよう画面表示、音声出力、その他の方法によりユーザに警告する(S26)。推定された応力が第2閾値未満である場合(S24のN)、S26の処理をスキップする。制御装置7は、成形が終了した場合(S28のY)、フローを終了し、成形が終了していない場合(S28のN)、S20に戻る。
【0060】
以上説明した本実施の形態によれば、破断するおそれのある応力がバブルに生じているか否かが判定される。これにより、ユーザは、バブルが破断するおそれがある場合にいち早くこれを察知でき、いち早く対策を講じることができる。
【0061】
また、本実施の形態によれば、入力された設定値で成形した場合に、バブルが破断するおそれがあるか否かが判定される。これにより、バブルの破断を招く設定値が設定されるのを抑止できる。
【0062】
以上、実施の形態に係るインフレーション成形装置の構成と動作ついて説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0063】
(変形例1)
第2判定部58による応力の推定方法は、実施の形態のそれには限定されない。
【0064】
バブル(特にそのフロストライン)に生じる応力(σ)は、以下の式(11)によっても算出できる。
σ=F/S ・・・(11)
ここで、
S:バブルの断面積
である。
【0065】
バブルの断面積(S)は、以下の式(12)で表される。
S=2πR0H0 ・・・(12)
【0066】
したがって、式(11)は、以下の式(13)のように書き換えられる。
σ=F/(2πR0H0) ・・・(13)
上述した通り、リップ幅(H0)は設定値であり、ダイ2の吐出口2aの半径(R0)は設計値である。
【0067】
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0068】
1 インフレーション成形装置、 6 厚み取得部、 7 制御装置、 10 ダイ、 26 フロストライン高さ取得部、 55 判定部、 56 第1判定部、 58 第2判定部。