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特許7336366シール装置、真空装置、成膜装置及び多層フィルム製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-23
(45)【発行日】2023-08-31
(54)【発明の名称】シール装置、真空装置、成膜装置及び多層フィルム製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20230824BHJP
   C23C 16/54 20060101ALI20230824BHJP
   F16J 15/40 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C23C14/56 C
C23C16/54
F16J15/40 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019209919
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021080529
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】村上 協司
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094276(JP,A)
【文献】特開昭58-131470(JP,A)
【文献】特開平03-240509(JP,A)
【文献】米国特許第05054212(US,A)
【文献】実開昭63-014558(JP,U)
【文献】特開昭63-007368(JP,A)
【文献】実開昭57-162370(JP,U)
【文献】特表2006-522217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
C23C 16/54
F16J 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1空間と前記第1空間よりも圧力が低い第2空間とを隔離しつつウェブを連続搬送可能とするシール装置であって、
前記第1空間と前記第2空間との間を区分する隔壁に配設され、前記ウェブが通過する搬送開口を有する枠体と、
前記搬送開口の内部に配設され、前記ウェブを案内する封止ローラと、
を備え、
前記搬送開口の内壁面は、前記封止ローラの周面に一定の間隔を空けて対向する一対の周封止面と、前記封止ローラの端面に対向する一対の端封止面と、を有し、
前記枠体は、前記周封止面に開口し、低圧源に接続される排気流路と、前記周封止面から前記端封止面に連続して形成され、前記排気流路と連通する吸引溝と、
を有する、シール装置。
【請求項2】
前記吸引溝は、前記封止ローラを取り囲むよう、前記一対の周封止面及び前記一対の端封止面に連続して形成されている、請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
前記排気流路は、一方の前記周封止面のみに開口する請求項2に記載のシール装置。
【請求項4】
前記枠体と前記封止ローラの周面との間を封止するシール部材をさらに備える、請求項1から3のいずれかに記載のシール装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のシール装置と、前記第2空間を画定する減圧室とを備える真空装置。
【請求項6】
請求項5に記載の真空装置と、
前記減圧室内に設けられ、前記ウェブの表面に異なる材料を積層する成膜機構と、
を備える成膜装置。
【請求項7】
請求項6に記載の成膜装置を用いて、前記ウェブの表面に異なる材料を積層する工程を備える、多層フィルム製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール装置、真空装置、成膜装置及び多層フィルム製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば蒸着フィルムのような多層フィルムの製造等では、ウェブを大気圧と異なる圧力の空間に配置して加工を行う工程が必要とされる。このような加工工程は、ウェブを巻き取ったリールを加工チャンバの内部に搬入し、ウェブを巻き戻しながら所定の加工を行い、加工したウェブを巻き取ったリールを加工チャンバから搬出するバッチ処理により行われていた。リールの搬入及び搬出時にも加工チャンバ内の圧力を一定に保持してバッチ処理を効率的に行うために、加工チャンバに隣接する前室(ロードロック)を設け、この前室の圧力を外部の圧力と加工チャンバの圧力との間で増減する成膜装置が知られている。
【0003】
しかしながら、前室を設けたとしてもバッチ処理では生産性を十分に向上できないため、ウェブを連続的に加圧又は減圧された空間内に供給し、加工されたウェブを加圧又は減圧された空間から連続的に排出する連続処理が求められている。
【0004】
ウェブの連続処理を行う場合、圧力が異なる2つの空間を区分する隔壁にウェブが通過する開口(スリット)が必要となるが、この開口を通して高圧側の空間内の雰囲気ガスが低圧側の空間内に流入する。そこで、各空間の圧力を効率よく要求される圧力で保持するために、ウェブが通過する開口部に雰囲気ガスの移動を抑制するシール装置を配設する技術が知られている。
【0005】
このようなシール装置としては、ウェブを案内するローラと、ローラを収容し、低圧側の空間及び高圧側の空間にそれぞれ開放され、ローラとの間に小さい隙間を形成するハウジングと、を備え、ローラとハウジングとの隙間の気体をハウジング側に吸引するよう構成されたものがある(例えば特許文献1参照)。この構成では、ローラとハウジングとの隙間を通過しようとする気体を強制的に系外に排出することで、低圧側の空間に流入する気体の量を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-131470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるシール装置では、ローラの周面とハウジングとの隙間を通過する気体の量を低減することができるが、気体は、ローラの端面とハウジングとの間に形成される隙間を通しても高圧側の空間から低圧側の空間に流れ込む。このため、特許文献1に記載されるシール装置では、低圧空間の圧力を低く設定するためには、依然として真空ポンプに大きな能力が求められるため、高価な真空ポンプ又は複数の真空ポンプを必要とする。
【0008】
ローラの端面とハウジングとの隙間から低圧側の空間に気体が流れ込むことを抑制する手段として、ローラの端面とハウジングとの隙間を小さくすることが考えられる。しかしながら、ローラの軸方向両側には軸受や軸受を保持する構造が配置されるため、これらの寸法公差や位置決め精度等も考慮すると、ローラの端面とハウジングとの隙間を小さくすることには限界がある。また、ローラの端面とハウジングの間に例えばゴム製のシール部材を有する接触シールを設ける方法も考えられるが、ローラの回転制御が困難となることに加え、シール部材の摩耗粉がウェブに付着するリスクがある。そこで、本発明は、比較的安価に大きな差圧を形成できるシール装置及び真空装置、並びに比較的安価に成膜できる成膜装置及び多層フィルム製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るシール装置は、第1空間と前記第1空間よりも圧力が低い第2空間とを隔離しつつウェブを連続搬送可能とするシール装置であって、前記第1空間と前記第2空間との間を区分する隔壁に配設され、前記ウェブが通過する搬送開口を有する枠体と、前記搬送開口の内部に配設され、前記ウェブを案内する封止ローラと、を備え、前記搬送開口の内壁面は、前記封止ローラの周面に一定の間隔を空けて対向する一対の周封止面と、前記封止ローラの端面に対向する一対の端封止面と、を有し、前記枠体は、前記周封止面に開口し、低圧源に接続される排気流路と、前記周封止面から前記端封止面に連続して形成され、前記排気流路と連通する吸引溝と、を有する。
【0010】
本発明の一態様に係るシール装置において、前記吸引溝は、前記封止ローラを取り囲むよう、前記一対の周封止面及び前記一対の端封止面に連続して形成されていてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係るシール装置において、前記排気流路は、一方の前記周封止面のみに開口してもよい。
【0012】
本発明の一態様に係るシール装置において、前記枠体と前記封止ローラの周面との間を封止するシール部材をさらに備えてもよい。
【0013】
本発明の別の態様に係る真空装置は、前記シール装置と、前記第2空間を画定する減圧室とを備える。
【0014】
本発明のまた別の態様に係る成膜装置は、前記真空装置と、前記減圧室内に設けられ、前記ウェブの表面に異なる材料を積層する成膜機構と、を備える。
【0015】
本発明のさらに別の態様に係る多層フィルム製造方法は、前記成膜装置を用いて、前記ウェブの表面に異なる材料を積層する工程を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比較的大きな差圧を形成できるシール装置及び真空装置、並びに比較的安価に成膜できる成膜装置及び多層フィルム製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る成膜装置を示す模式断面図である。
図2図1のシール装置を詳細に示す軸直角模式断面図である。
図3図2のシール装置の軸方向模式断面図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る成膜装置を示す模式断面図である。
図5図4のシール装置を詳細に示す軸直角模式断面図である。
図6図4のシール装置の変形例を示す軸方向模式断面図である。
図7図4のシール装置の別の変形例を示す軸方向模式断面図である。
図8図4のシール装置のさらに別の変形例を示す軸方向模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチング及び部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る成膜装置Mを示す模式断面図である。成膜装置Mは、ウェブWの表面に被膜を積層する装置である。成膜装置Mは、周囲の空間である第1空間よりも低圧の第2空間を形成する真空装置Uと、真空装置Uの内部に配設される成膜機構Fと、を備える。真空装置Uは、本発明に係る真空装置の一実施形態である。なお、「真空」とは、いわゆる高真空に限られず、低真空を含み、大気圧よりも圧力が低い状態を広く包含する概念である。
【0020】
成膜装置Mにおいて、ウェブWは、減圧室Rを通過するよう連続搬送される。ウェブWとしては、特に限定されないが、典型的には樹脂フィルムが考えられる。樹脂フィルムの具体的な材質としては、例えばポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリオレフィン、トリアセチルセルロース等を挙げることができる。また、樹脂フィルムは、保護膜を両面に有するもの、片面に有するもの、保護膜がないもの等、どのようなフィルムであってもよい。
【0021】
真空装置Uは、第2空間を画定する減圧室Rと、ウェブWが減圧室Rに進入する部分及び減圧室Rから退出する部分にそれぞれ設けられ、第1空間と第2空間とを隔離しつつウェブWを連続搬送可能とする2つのシール装置1と、を備える。シール装置1は、本発明に係るシール装置の一実施形態である。
【0022】
減圧室Rは、第1空間と第2空間との間を区分する隔壁Pを有する。減圧室Rには、第2空間の内部の気体を排出する低圧源V1が接続される。これにより、第2空間は、大気圧に保持される第1空間よりも低い圧力に減圧される。低圧源V1は、例えば真空ポンプ、イジェクタ等の排気装置によって構成することができる。低圧源V1として用いられる真空ポンプとしては、例えばダイヤフラム式ポンプ、ロータリーポンプ、ドライポンプ、クライオポンプ、メカニカルブースターポンプ、ターボ分子ポンプ、イオンポンプ、ゲッターポンプ等が挙げられ、これらを複数組み合わせた装置を用いてもよい。
【0023】
また、成膜装置Mは、減圧室Rの内部の気体を排出する低圧源V1と、シール装置1aにそれぞれ接続された複数の低圧源V11,V12,V13と、を備える。低圧源V11,V12,V13は、低圧源V1と同様の排気装置によって構成することができる。
【0024】
成膜機構Fは、ウェブWの表面に異なる材料を積層することにより膜を形成する。図示する例では、成膜機構Fは、ウェブWが巻き付けられるドラムDと、このドラムDに巻き付けられているウェブWの表面に他の材料を供給して積層するスパッタリングデバイスEとを有する。
【0025】
<シール装置>
以下、成膜装置Mのシール装置1について、詳しく示す図2及び図3を参照しながら説明する。なお、図2には、上流側のシール装置1を示すが、下流側のシール装置1では、装置全体が上流側と下流側を入れ替えるよう鏡写しに配置される。これは、視点を変えれば図2においてウェブWの搬送方向を逆にしたものと考えることもできる。
【0026】
シール装置1は、ウェブWが通過する搬送開口11を有する枠体10と、搬送開口11の内部に配設され、ウェブWを案内する封止ローラ20と、封止ローラ20の前後でウェブWを案内する一対の案内ローラ30と、を備える。
【0027】
枠体10は、隔壁Pに配設され、封止ローラ20を支持する不図示の軸受等を保持する。枠体10は、隔壁Pに気密に取り付けられてもよく、隔壁Pと一体に形成されてもよい。
【0028】
枠体10の搬送開口11は、第1空間及び第2空間に連通するよう形成される。この搬送開口11の内壁面は、封止ローラ20の周面に一定の間隔を空けて対向する一対の周封止面(封止ローラ20の周面のウェブWを案内する領域に対向するウェブ側周封止面111、及び封止ローラ20の周面のウェブWを案内しない領域に対向するローラ側周封止面112)と、封止ローラ20の端面に対向する一対の端封止面113と、を有する。
【0029】
周封止面111,112は、封止ローラ20との間隔を略一定にするために、封止ローラ20と同心の円筒面状に形成される。また、一対の端封止面113は、互いに平行な平面状に形成されることが好ましい。
【0030】
また、枠体10は、ウェブ側周封止面111に開口し、対応する低圧源V11,V12,V13のいずれかに接続され、封止ローラ20との間の空間内の気体を外部に排出する複数のウェブ側排気流路(第1空間側から順に第1ウェブ側排気流路121、第2ウェブ側排気流路122及び第3ウェブ側排気流路123)と、ローラ側周封止面112に開口し、対応する低圧源V11,V12,V13のいずれかに接続され、封止ローラ20との間の空間内の気体を外部に排出する複数のローラ側排気流路(第1空間側から順に第1ローラ側排気流路131、第2ローラ側排気流路132及び第3ローラ側排気流路133)と、周封止面111,112から端封止面113に連続して形成され、ウェブ側排気流路121,122,123及びローラ側排気流路131,132,133にそれぞれ連通する複数の吸引溝(第1空間側から順に第1吸引溝141、第2吸引溝142及び第3吸引溝143)と、を有する。なお、搬送開口11に、3つの吸引溝141,142,143が形成されているが、搬送開口11に形成される吸引溝の数、ひいては排気流路の数は任意である。
【0031】
本実施形態の吸引溝141,142,143は、搬送開口11の内面に全周に亘って形成される。具体的には、吸引溝141,142,143は、ウェブ側周封止面111の全長に亘って形成されるウェブ側周面吸引部146と、ローラ側周封止面112の全長に亘って形成されるローラ側周面吸引部147と、一対の端封止面113の全長に亘って形成され、ウェブ側周面吸引部146及びローラ側周面吸引部147の端部の間をそれぞれ接続する一対の端面吸引部148と、それぞれ有する。つまり、吸引溝141,142,143は、それぞれ封止ローラ20を取り囲むよう、搬送開口11の内壁面の全周に亘って無端の長方形状に形成されている。
【0032】
ウェブ側周面吸引部146及びローラ側周面吸引部147は、封止ローラ20の回転軸と平行な直線状に形成されることが好ましいが、端面吸引部148は、図2に示す第2吸引溝142のように、封止ローラ20の回転軸及び回転軸を支持する軸受構造等を迂回するよう形成され得る。
【0033】
封止面111,112,113(吸引溝141,142,143は除外)と封止ローラ20との間隔としては、0.1mm以上1.0mm以下とすることが好ましい。これにより、封止ローラ20又はウェブWと枠体10との接触を防止しつつ、枠体10と封止ローラ20との間を通過する気体の流量を抑制することができる。
【0034】
吸引溝141,142,143の幅は、例えば5mm以上25mm以下とすることができる。このように、吸引溝141,142,143の幅を比較的小さくすることによって、第1空間から第2空間に至る気体の流路としての搬送開口11の封止面111,112,113と封止ローラ20との隙間の流路抵抗を大きくすることができるので、第1空間から第2空間に流入する気体の量を効果的に抑制できる。
【0035】
また、吸引溝141,142,143の深さは、それぞれの幅の1倍以上3倍以下とすることができる。吸引溝141,142,143の深さを前記範囲内とすることで、吸引効率を大幅に改善することができる。詳しく説明すると、気体は壁面に張り付く性質があるため、封止面111,112,113と封止ローラ20との間の狭い隙間では、気体が封止面111,112,113及び封止ローラ20の表面に沿って移動しやすい。壁面に張り付いた気体は、狭い空間から広い空間に広がった瞬間に壁面への張り付きから解放されやすい。このため、吸引溝141,142,143の断面積を大きくすることによって、気体を封止面111,112,113及び封止ローラ20への張り付きから解放して排気流路121,122,123,131,132,133に移動させやすくすることができる。なお、吸引溝141,142,143の幅及び深さは一定でなくてもよい。
【0036】
シール装置1は、排気流路121,122,123,131,132,133を通して吸引溝141,142,143の内側の気体が外部に排出されることにより、吸引溝141,142,143がその全長に亘って対向する封止ローラ20との間の空間の気体を吸い込む。これにより、シール装置1では、低圧源V11,V12,V13により、搬送開口11のウェブ側周封止面111及びローラ側周封止面112と封止ローラ20との隙間を通過しようとする気体だけでなく、搬送開口11の一対の端封止面113と封止ローラ20との隙間を通過しようとする気体も外部に排出することができるので、第1空間と第2空間との差圧を比較的容易に大きくすることができる。
【0037】
第1空間から第2空間に向かって順に圧力を低下させるために、第2空間側ほど吸引溝141,142,143ひいては排気流路121,122,123,131,132,133の内部の圧力を低くすることが必要である。このため、排気流路121,122,123,131,132,133は、それぞれ所望の圧力を実現するのに適した低圧源V11,V12,V13に接続されることが好ましい。また、排気抵抗を小さくするために、図3に示すように、各吸引溝141,142,143と低圧源V11,V12,V13との間に、それぞれ複数の排気流路121,122,123,131,132,133を並列に設けてもよい。
【0038】
排気流路121,122,123,131,132,133と低圧源V11,V12,V13との間でわずかでもリークを起こすと排気能力が著しく低下するので、排気流路121,122,123,131,132,133と低圧源V11,V12,V13とを接続する配管等の流路には強度が求められる。具体的には、排気流路121,122,123,131,132,133と低圧源V11,V12,V13との間には、例えばパイプ、フレキシブルホース等が配設されていてもよい。これらの流路は、フランジ等の管継手を用いて接続されてもよい。また、これらの流路を構成するパイプ等の材質としては、SUS304、SUS316等のステンレス鋼、炭素鋼、チタン、ニッケルなどを用いることができる。
【0039】
封止ローラ20は、搬送開口11の中に配置され、その周囲にわずかな隙間を残して搬送開口11を封止する。換言すると、封止ローラ20は、径方向一方側が第1空間に露出し、径方向他方側が第2空間に露出する。封止ローラ20の直径は、枠体10の搬送開口11における厚みよりも大きいことが好ましい。
【0040】
封止ローラ20は、その周面の所定の角度範囲にウェブWを支持することで搬送開口11を通過する際のウェブWの位置を定める。これによって、封止ローラ20は、ウェブWと搬送開口11の内壁との間隔を一定且つ最小限に保持する。つまり、ウェブWは、封止ローラ20の周面に密着する状態で搬送開口11内に進入し、封止ローラ20の周面に密着したまま搬送開口11から退出する。
【0041】
封止ローラ20は、ウェブWの温度を調節するために加温又は冷却可能に構成されてもよい。具体的には、封止ローラ20は、加温のために、内部にヒータを有してもよく、表面近傍に抵抗発熱体パターンが形成されていてもよく、隣接して配置される励磁コイルにより印加される高周波磁界により発熱する金属層を有していてもよい。第1空間内でウェブWをあらかじめ加温して水分を除去することによって、減圧に伴う水分の蒸発によりウェブWが封止ローラ20上で滑ることを防止できる。また、封止ローラ20は、冷却のために、内部に冷媒を挿通する流路を有していてもよい。水分を含んだウェブWが圧力の低い第2空間に進入する場合に、封止ローラ20によりウェブWを冷却するこことで飽和蒸気圧を低下させる。これにより、圧力低下に伴ってウェブWから水分が蒸発することを抑制し、ウェブWが水蒸気によって持ち上げられて封止ローラ20上で滑ることを防止できる。
【0042】
案内ローラ30は、ウェブWをその張力により封止ローラ20の周面の一定の角度範囲内に密着させるために、封止ローラ20の前後に配設される。
【0043】
以上の構成を備える成膜装置Mは、比較的安価に大きな差圧を形成できるシール装置1ひいては真空装置Uを備えるため、比較的安価にウェブWに成膜することができる。
【0044】
シール装置1では、複雑な流路を設けることなく、封止ローラ20の四方の隙間から空気を排出することができる。このため、シール装置1は、装置構成が比較的簡単でありまがら、大きな差圧を実現することができる。このため、真空装置Uは、少数のシール装置1により減圧室Rの内部の圧力を十分に低下させることができるので、比較的安価で、専有面積が小さい。
【0045】
<多層フィルム製造方法>
本発明に係る多層フィルム製造方法の一実施形態は、図1の成膜装置Mを用いてウェブWの表面に異なる材料を積層する加工を施す工程を備える。成膜装置Mの第1緩衝室R1には、ウェブWを巻き取ったリール(不図示)からウェブWを連続的に供給することができる。また、第6緩衝室R6から連続して排出される加工済みのウェブW(製造された多層フィルム)は、別のリール(不図示)に巻き取って回収することができる。
【0046】
この多層フィルム製造方法によれば、シール装置1によって容易に減圧室Rfの真空度を高めることができるので、基材となるウェブWに比較的安価に成膜して高品質な多層フィルムを製造することができる。
【0047】
また、成膜装置Mを用いて多層フィルムを製造することによって、成膜装置Mの上流側及び下流側において、つまり大気圧下において、オーブン乾燥工程、塗布工程、外観検査工程、スリット(フィルム分割)工程を行うことができる。つまり、成膜装置M内では、真空下で行う必要がある工程のみを行うようにすることができるので、全工程を真空下で行うことができるような大規模な製造設備を設けることなく、より安価に連続してフィルムを製造することができる。
【0048】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態に係る成膜装置Maについて説明する。図4に示す成膜装置Maは、図1の成膜装置Mと同様に、ウェブWの表面に被膜を積層する装置である。なお、図4の成膜装置Maについて、図1の成膜装置Maと同様の構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略することがある。
【0049】
成膜装置Maは、大気開放された第1空間よりも圧力が低い第2空間を画定する減圧室Raと、減圧室Raの単一の隔壁Paに配設された2つのシール装置1aと、を有する真空装置Uaと、真空装置Uaの減圧室Ra内部に配設される成膜機構Fと、を備える。真空装置Uaは、本発明に係る真空装置の別の実施形態であり、シール装置1aは、本発明に係るシール装置の別の実施形態である。
【0050】
本実施形態において、ウェブWは、一方のシール装置1aを通して減圧室Raに進入し、減圧室Raの中で折り返されて他方のシール装置1aから逆向きに退出する。成膜装置Maは減圧室RaにおいてウェブWを折り返して搬送するため、装置全体の専有面積が比較的小さい。
【0051】
<シール装置>
以下、成膜装置Maのシール装置1aについて、詳しく示す図5,6を参照しながら説明する。
【0052】
シール装置1aは、隔壁Paに配設され、第1空間及び第2空間に連通し、ウェブWが通過する搬送開口11を有する枠体10aと、搬送開口11の内部に配設され、ウェブWを案内する封止ローラ20と、封止ローラ20の前後でウェブWを案内する一対の案内ローラ30と、を備える。
【0053】
枠体10aは、図6に示すように、封止ローラ20の周面のウェブWを案内しない側に対向するローラ側周封止面112に開口する複数のローラ側排気流路131,132,133と、ローラ側周封止面112から両側の端封止面113、さらにはローラ側周封止面112と反対側のウェブ側周封止面111に連続して形成され、ローラ側排気流路131,132,133と連通する複数の吸引溝141,142,143と、を有する。つまり、本実施形態の枠体10aは、封止ローラ20の周面のウェブWを案内する側に対向するウェブ側周封止面111には排気流路が設けられていない。
【0054】
吸引溝141,142,143は、ウェブ側周封止面111の全長に亘って形成されるウェブ側周面吸引部146と、ローラ側周封止面112の全長に亘って形成されるローラ側周面吸引部147と、一対の端封止面113の全長に亘って形成され、ウェブ側周面吸引部146及びローラ側周面吸引部147の端部の間をそれぞれ接続する一対の端面吸引部148と、をそれぞれ有する。
【0055】
本実施形態では、ローラ側周封止面112側に設けられたローラ側排気流路131,132,133だけで封止ローラ20を取り囲むよう形成された吸引溝141,142,143の全体を負圧にすることで、封止ローラ20の四方の搬送開口11との隙間から気体を排出する。本実施系形態のシール装置1aは、ウェブ側周封止面111側にのみ排気流路121,122,123を設けるので、低圧源V11,V12,V13との接続がより簡単である。
【0056】
ローラ側周面吸引部147はウェブWに接する空気を吸引するため、ローラ側周面吸引部147の吸引力が大きすぎるとウェブWが封止ローラ20から浮き上がって位置ずれしたり枠体10aと接触して損傷したりするおそれがある。これに対して、本実施形態では、ローラ側排気流路131,132,133から遠いウェブ側周面吸引部146の吸引力がローラ側周面吸引部147の吸引力よりも小さくなる。つまり、シール装置1aでは、ウェブ側周封止面112からの気体の排出量を抑制しつつ、ローラ側周面吸引部147及び端面吸引部148からより多くの気体を外部に排出することで、第1空間から第2空間に流れ込む気体に量を十分に低減することができる。なお、本実施形態においても、吸引溝141,142,143の断面積を十分に大きくすることによって、排気流路が設けられていないローラ側周封止面112側においても吸引溝141,142,143の吸引力が小さくなり過ぎないようにできる。
【0057】
〔第3実施形態〕
さらに、図7を参照しながら、本発明の第3実施形態に係るシール装置1bについて説明する。図7のシール装置1bは、図1の成膜装置Mのシール装置1及び図4の成膜装置Maのシール装置1aに換えて用いることができる。
【0058】
シール装置1bは、第1空間と第2空間との間を区分する隔壁に配設され、第1空間及び第2空間に連通し、ウェブWが通過する搬送開口11を有する枠体10bと、搬送開口11の内部に配設され、ウェブWを案内する封止ローラ20と、封止ローラ20の前後でウェブWを案内する一対の案内ローラ30と、枠体10bと封止ローラ20のウェブWを案内しない側との隙間を封止するシャッタ部40と、を備える。
【0059】
枠体10bは、封止ローラ20の周面のウェブWを案内する側に対向するウェブ側周封止面111に開口する複数のウェブ側排気流路121,122,123と、ウェブ側周封止面111から両側の端封止面113、さらにはウェブ側排気流路121,122,123と反対側のローラ側周封止面112に連続して形成され、ウェブ側排気流路121,122,123と連通する第2吸引溝142と、ウェブ側周封止面111から両側の端封止面113に連続して形成され、第2週封止面112には延伸せず、ウェブ側排気流路121,122,123と連通する第1吸引溝141b及び第3吸引溝143bと、を有する。本実施形態の枠体10bは、封止ローラ20の周面のウェブWを案内しない側に対向するローラ側周封止面112には排気流路が設けられていない。
【0060】
本実施形態において、第2吸引溝142は、ウェブ側周封止面111の全長に亘って形成されるウェブ側周面吸引部146と、ローラ側周封止面112の全長に亘って形成されるローラ側周面吸引部147と、一対の端封止面113の全長に亘って形成され、ウェブ側周面吸引部146及びローラ側周面吸引部147の端部の間をそれぞれ接続する一対の端面吸引部148と、を有する。しかしながら、本実施形態の第1吸引溝141b及び第3吸引溝143bは、ローラ側周面吸引部を有していない。
【0061】
シャッタ部40は、封止ローラ20の周面のウェブWを案内しない部分に対向するよう、枠体10の第1空間の側に配設されている。
【0062】
シャッタ部40は、先端縁を封止ローラ20の周面に近接させるシール部材41と、シール部材41を封止ローラ20との間隔を調節可能に保持する保持機構42と、を含む。
【0063】
シール部材41の少なくとも封止ローラ20に近接する先端部は、角棒状又は帯板状に形成されることが好ましい。シール部材41は、封止ローラ20の回転軸方向視において、その先端面が封止ローラ20の周面の対向部分と略平行になるよう配向されることが好ましい。これにより、シール部材41と封止ローラ20との隙間を通過する気体の流路抵抗を大きくし、第1空間と第2空間との差圧を大きくしやすくなる。また、シール部材41の先端縁は、成膜装置Mの定常運転時における封止ローラ20の撓みに合わせて封止ローラ20の側に凸状又は凹状に湾曲している。
【0064】
封止ローラ20は、自重及び第1空間と第2空間との差圧により撓む。このため、シール部材41の先端縁は、成膜装置Mbの定常運転時における封止ローラ20の撓みに合わせて封止ローラ20の側に凸状又は凹状に湾曲していることが好ましい。
【0065】
封止ローラ20の構造並びに第1空間及び第2空間の設定圧力によっても異なるが、封止ローラ20に作用する力は、第1空間と第2空間との差圧による成分が支配的となること多い。このため、封止ローラ20を撓ませる合力は、略搬送開口11の貫通方向となり得る。このため、第1空間側に配設されるシャッタ部40のシール部材41の先端縁は、封止ローラ20の側に凸状に湾曲する。
【0066】
封止ローラ20の成膜装置Mbの定常運転時のシャッタ部40が配設される角度位置における径方向の撓み量(長さ方向中央部において観測される最大変位)としては、例えば長さ1200mmの封止ローラ20において30μm程度となる。また、同じ条件で第1空間と第2空間との差圧がなく自重のみによって封止ローラ20が撓む場合、封止ローラ20の撓み量は5μ程度となる。
【0067】
成膜装置Mの定常運転時におけるシール部材41と封止ローラ20との間隔としては、得ようとする第1空間と第2空間との差圧にもよるが、例えば100μm以下とすることが必要となり得る。シール部材41と封止ローラ20との間隔が大きくなると、第1空間内の気体がシール部材41と封止ローラ20と隙間を通って第2空間に流れ込み、第2空間の内圧を上昇させ得る。また、シール部材41と封止ローラ20とが接触するとシール部材41又は封止ローラ20が摩耗し、摩耗粉がウェブWに付着するおそれがあるため、シール部材41と封止ローラ20とは接触しないようにしなければならない。
【0068】
シャッタ部40は、シール部材41の先端縁が湾曲していることによって、シール部材41と封止ローラ20との間隔を全体的に小さくすることができる。逆に言うと、シール部材41の先端縁が直線状である場合、封止ローラ20の撓みによる封止ローラ20の端部と中央部とにおけるシール部材41との間隔の差に組み立ての誤差や機械的振動等が加わると、シール部材41と封止ローラ20との間隔を封止ローラ20の全長に亘って上述の範囲内に収めることができない。先端縁が湾曲しているシール部材41を有するシール装置1は、第1空間から第2空間に流れ込む気体の量を小さくできるので、第2空間から気体を排出する低圧源の能力が小さくても第1空間と第2空間との差圧を比較的大きくすることができる。
【0069】
シール部材41は、鋼、ステンレス鋼等によって形成することができる。また、シール部材41は、例えば停電等により真空ポンプが緊急停止して低圧側の圧力が急上昇した場合、何等かの原因で大きな振動を受けた場合などの不測の事態により封止ローラ20に接触しても封止ローラ20を傷つけないよう、先端部が樹脂等で被覆されることが好ましい。シール部材41の先端部を被覆する樹脂としては、硬度が高く耐摩耗性に優れるウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレア樹脂、NBR樹脂等を用いることが好ましい。シール部材41の先端部を被覆する樹脂の厚みとしては、シール部材41の先端縁の形状の誤差を抑制するために、数十μm程度とすることが好ましい。
【0070】
保持機構42は、成膜装置Mの定常運転時にはシール部材41の先端縁を封止ローラ20に近接させ、成膜装置Mの停止時及び非定常運転時にはシール部材41の先端縁を封止ローラ20から離間させることができるよう構成される。
【0071】
保持機構42は、枠体10に配設されるベース部材43と、シール部材41を封止ローラ20の径方向に突退可能に保持し、且つベース部材43に対して封止ローラ20の径方向に移動可能に取り付けられる可動支持部材44と、シール部材41を可動支持部材44上で位置決めする調節部45と、可動支持部材44ひいてはシール部材41を封止ローラ20に向かって突出するよう付勢する弾性部材46と、を有する構成とすることができる。
【0072】
保持機構42は、シャッタ部40にシール効果を発揮させるために、調節部45により可動支持部材44を封止ローラ20の側に突出させることによってシール部材41と封止ローラ20との隙間を小さくする。また、保持機構42は、何らかの不測の事態により封止ローラ20の撓みが減少してシール部材41に封止ローラ20が接触した場合には、弾性部材46の付勢力に抗してシール部材41が後退可能とすることで、封止ローラ20及びシール部材41の損傷を防止する。
【0073】
ベース部材43は、枠体10と一体に形成されてもよく、枠体10に気密に取り付けられてもよい。可動支持部材44は、ベース部材43に気密に取り付けられ、且つシール部材41を気密に保持することが好ましい。調節部45は、例えばマイクロメーターヘッド等によって構成することができる。弾性部材46は、通常は可動支持部材44を封止ローラ側の移動端に圧接するよう配設され、例えばつる巻ばね等によって構成することができる。
【0074】
調節部45は、真空装置Uの運転状態に合わせて自動的にシール部材41と封止ローラ20との隙間を調節するよう構成されてもよいが、手動で調節操作をできるよう構成されてもよい。調節部45を手動で操作されるよう構成する場合、本装置を運転中にも容易にアクセスできるよう、シャッタ部40は、第1空間、即ち減圧室Rの外側に設けられることが好ましい。
【0075】
また、真空装置Uの始動時に第2空間の圧力を迅速に低下させるためには、第1空間と第2空間との差圧に応じて変化する封止ローラ20の撓み量に合わせて、シール部材41の位置を刻々と変化させることが望まれる。この場合、シャッタ部40が第1空間側に配設されている場合、シール部材41の位置の調節が遅れたとしても、シール部材41と封止ローラ20との隙間が増大するため、シール部材41を誤って封止ローラ20に接触させるリスクが小さい。
【0076】
本実施形態のシール装置1bは、ウェブ側周封止面111の側に設けられたウェブ側排気流路121,122,123のみから吸引溝141b,142,143bを介して封止ローラ20の四方の搬送開口11との隙間から気体を排出する。このため、吸引溝141b,142,143bの流路抵抗が無視できない場合には、ローラ側周面吸引部147の圧力がウェブ側周面吸引部146の圧力よりも高くなる。この場合、ローラ側周封止面112と封止ローラ20との隙間から気体を排出する能力が、ウェブ側周封止面111と封止ローラ20との隙間から気体を排出する能力と比べて小さくなる恐れがある。しかしながら、シール装置1bは、ウェブ側周封止面111側にシャッタ部40を備えることで、ローラ側周封止面112と封止ローラ20との隙間に流入する気体の量を低減するため、ローラ側周封止面112と封止ローラ20との隙間を通して第2空間に流入する気体の量も十分に抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態のシール装置1bは、第1吸引溝141b及び第3吸引溝143bがローラ側周面吸引部を有しないことで、ウェブ側周封止面111と封止ローラ20との隙間及び端封止面113と封止ローラ20との隙間を通して第2空間に流入する気体の量を抑制する効果がシール装置1、シール装置1aに比べ相対的に大きい。
【0078】
〔第4実施形態〕
さらに、図8を参照しながら、本発明の第4実施形態に係るシール装置1cについて説明する。図8のシール装置1cは、図1の成膜装置Mのシール装置1及び図4の成膜装置Maのシール装置1aに換えて用いることができる。
【0079】
シール装置1cは、第1空間と第2空間との間を区分する隔壁に配設され、第1空間及び第2空間に連通し、ウェブWが通過する搬送開口11を有する枠体10cと、搬送開口11の内部に配設され、ウェブWを案内する封止ローラ20と、封止ローラ20の前後でウェブWを案内する一対の案内ローラ30と、枠体10bと封止ローラ20のウェブWを案内しない側との隙間を封止するシャッタ部40cと、を備える。
【0080】
枠体10cは、封止ローラ20の周面のウェブWを案内する側に対向するウェブ側周封止面111に開口する複数のウェブ側排気流路121,122,123と、ウェブ側周封止面111から両側の端封止面113、さらにはウェブ側排気流路121,122,123と反対側のローラ側周封止面112に連続して形成され、ウェブ側排気流路121,122,123と連通する第3吸引溝143と、ウェブ側周封止面111から両側の端封止面113に連続して形成され、第2週封止面112には延伸せず、ウェブ側排気流路121,122,123と連通する第1吸引溝141b及び第2吸引溝142cと、を有する。本実施形態の枠体10cは、封止ローラ20の周面のウェブWを案内しない側に対向するローラ側周封止面112には排気流路が設けられていない。
【0081】
本実施形態において、第3吸引溝143は、ウェブ側周封止面111の全長に亘って形成されるウェブ側周面吸引部146と、ローラ側周封止面112の全長に亘って形成されるローラ側周面吸引部147と、一対の端封止面113の全長に亘って形成され、ウェブ側周面吸引部146及びローラ側周面吸引部147の端部の間をそれぞれ接続する一対の端面吸引部148と、を有する。しかしながら、本実施形態の第1吸引溝141b及び第2吸引溝142cは、ローラ側周面吸引部を有していない。
【0082】
シャッタ部40cは、先端縁を封止ローラ20の周面に近接させるシール部材41と、シール部材41を封止ローラ20との間隔を調節可能に保持する保持機構42cと、を含む。
【0083】
保持機構42cは、枠体10cに配設されるベース部材43cと、シール部材41を保持し、且つベース部材43cに対して封止ローラ20の周方向と径方向との間の傾斜した方向に移動可能に取り付けられる可動支持部材44cと、ベース部材43に対して可動支持部材44cを圧接して摩擦力により固定する圧接部47と、を有する構成とすることができる。保持機構42cは、可動支持部材44cのベース部材43cに対する固定位置に応じてシール部材41と封止ローラ20との間隔を調節することができる。このような保持機構42cを用いることによって、可動支持部材44cの取り付け位置によってシール部材41と封止ローラ20の隙間を制御できるため、簡便かつ安定的にシール部材41を固定することができる。
【0084】
圧接部47は、ベース部材43cに螺合する調節ネジ48と、調節ネジ48の頭部と可動支持部材44cとの間に挟み込まれる弾性部材49と、を有する構成とすることができる。弾性部材49は、可動支持部材44cのベース部材43cに対して圧接する。換言すると、弾性部材49は、シール部材41を封止ローラ20に向かって突出させる方向に付勢し、何らかの原因でシール部材41が封止ローラ20と接触した場合には、シール部材41を可動支持部材44cと共に後退させ得る。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更及び変形が可能である。
【0086】
本発明に係るシール装置において、枠体は、排気流路に連通する少なくとも1つの周面吸引部と、この周面吸引部から連続する一対の端面吸引部とを有する少なくとも1つの吸引溝を有していればよい。つまり、本発明に係るシール装置において枠体に設けられる排気流路及び吸引溝の数は1以上であれば任意である。
【0087】
本発明に係るシール装置において、複数の排気流路の一部又は全部が調節弁等の圧力調整手段を介して同じ低圧源に接続されてもよい。
【0088】
本発明に係る成膜装置において、シャッタ部は第2空間の側に配設されてもよい。これにより、成膜装置を停止して封止ローラの撓みが減少した場合には封止ローラの中央部がシール部材から遠ざかる方向に移動するため、シール装置の駆動部を省略することができる。
【0089】
本発明に係るシール装置において、シール部材と封止ローラとの接触による損傷を防止する手段は、弾性部材によりシール部材を付勢する構成に限られず、センサでシール部材と封止ローラ又はウェブとの接触を検出してシール部材を封止ローラから離間させる機構を設けてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1,1a,1b,1c シール装置
10,10a,10b,10c 枠体
11 搬送開口
111 ウェブ側周封止面
112 ローラ側周封止面
113 端封止面
121,122,123 ウェブ側排気流路
131,132,133 ローラ側排気流路
141,141b,142,142c,143,143b 吸引溝
146 ウェブ側周面吸引部
147 ウェブ側周面吸引部
148 端面吸引部
20 封止ローラ
30 案内ローラ
40,40c シャッタ部
41 シール部材
42,42c構
43,43c ベース部材
44,44c 可動支持部材
45 駆動部
46 弾性部材
圧接部47
調節ネジ48
弾性部材49
D ドラム
E スパッタリングデバイス
F 成膜機構
M,Ma 成膜装置
P,Pa 隔壁
R,Ra 減圧室
U,Ua 真空装置
V1,V11,V12,V13 低圧源
W ウェブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8