(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-25
(45)【発行日】2023-09-04
(54)【発明の名称】レンチ
(51)【国際特許分類】
B25B 13/00 20060101AFI20230828BHJP
B25B 13/46 20060101ALI20230828BHJP
B25B 23/142 20060101ALI20230828BHJP
B25B 23/157 20060101ALI20230828BHJP
【FI】
B25B13/00 C
B25B13/46 D
B25B23/142
B25B23/157 B
(21)【出願番号】P 2019074451
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2022-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 孝行
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0113932(US,A1)
【文献】特開2001-121445(JP,A)
【文献】実開昭60-061162(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0091992(US,A1)
【文献】特開平08-090441(JP,A)
【文献】特開2012-056046(JP,A)
【文献】特開2007-190666(JP,A)
【文献】特開平11-179673(JP,A)
【文献】特開昭52-089898(JP,A)
【文献】特開平11-138454(JP,A)
【文献】実開平03-126563(JP,U)
【文献】実開昭59-097870(JP,U)
【文献】特開平09-136265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 13/00
B25B 13/46
B25B 23/142
B25B 23/157
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンチであって、
固定側の部材の外周を把持可能な固定チャックを備えた固定レンチ部と、
前記固定チャックの中心と同軸上に配置された回転軸回りに回転可能
で且つ可動側の部材の外周を把持可能な回転チャックと、前記回転チャックの回転方向を規制するラチェット機構と、を備え、前記回転軸を中心として開閉自在に前記固定レンチ部に連結されたラチェットレンチ部と、
前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を互いに開く向きに付勢するトーションスプリングと、
を備え、
前記ラチェット機構は、前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を閉じる向きに外力が作用すると、前記外力を前記回転チャックに伝達して回転させ、前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を開く向きに前記トーションスプリングの付勢力が作用すると、前記ラチェットレンチ部が前記回転チャックに対してフリーで回転することを特徴とするレンチ。
【請求項2】
前記固定レンチ部は、
前記固定チャック
が先端に接続されたシャフトと、
前記シャフトを
長手方向に沿ってスライド可能に収容する
収容孔が形成されたグリップと、
前記収容孔内で且つ前記シャフトの後端と前記グリップとの間に収容され、前記シャフトを前記グリップ内から押し出す方向に
前記シャフトを付勢するコイルスプリングと、
前記シャフトの中腹に連結されるとともに前記グリップの外部まで延伸され、前記コイルスプリングの付勢力に抗して前記シャフトを前記グリップ内に収める方向に前記シャフトをスライド操作可能なシフトレバーと、
を備えていることを特徴とする請求項1記載のレンチ。
【請求項3】
前記ラチェットレンチ部は、
前記トーションスプリングを介して前記固定レンチ部に接続される可動レバーと、
一端側が前記回転軸回りに回転可能に前記固定レンチ部に取り付けられ、他端側が前記可動レバーの軸部を回転可能に収容するブラケットと、
前記可動レバーから前記ブラケットへのトルク伝達をオンオフ切替可能なクラッチ機構と、
を備え、
前記クラッチ機構は、前記可動レバーを介して入力されたトルクが所定の閾値を下回る場合には、前記可動レバー及びブラケットを一体で回転させ、前記可動レバーを介して入力されるトルクが前記閾値以上の場合には、前記可動レバーが前記ブラケットに対してフリーで回転することを特徴とする請求項1又は2記載のレンチ。
【請求項4】
前記クラッチ機構は、
前記軸部の外周に設けられ、前記可動レバーの回転に伴って移動する第1のローラと、
前記第1のローラに対して前記径方向の外側で前記ブラケットに設けられた第2のローラと、
前記第2のローラを挟んで前記第1のローラの反対側で前記軸部の外周に嵌め込まれ、前記第2のローラを前記径方向の内側に付勢する略C字状のリング状スプリングと、
を備え、
前記可動レバーを介して入力されたトルクが所定閾値を下回る場合には、前記第1のローラ及び前記第2のローラが係合し、前記可動レバー及びブラケットが一体で回転し、前記可動レバーを介して入力されるトルクが前記閾値以上の場合には、前記第2のローラが前記径方向の外側に退避し、前記第1のローラが前記第2のローラから離れ、前記可動レバーを前記ブラケットに対してフリーで回転させることを特徴とする請求項3記載のレンチ。
【請求項5】
前記ラチェット機構は、
前記回転チャックの外周に設けられたラチェット歯と、
前記ブラケットに設けられ、前記ラチェット歯に係合可能な遊動爪と、
前記遊動爪を前記ラチェット歯に向けて付勢するコイルスプリングと、
を備え、
前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を閉じる向きに外力が作用すると、前記遊動爪が前記ラチェット歯に係合し、前記ブラケット及び前記回転チャックが一体で回転し、前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を開く向きに前記トーションスプリングの付勢力が作用すると、前記遊動爪が前記ラチェット歯から外れて前記ブラケットが前記回転チャックに対してフリーで回転することを特徴とする請求項3又は4記載のレンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、雌ネジが形成された一方の部材と雄ネジが形成された他方の部材とを螺合させる場合、各部材の外周(例えば、Dカット部等)をスパナでそれぞれ把持し、2つのスパナを相対回転させるダブルスパナによって締め付けるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した方法で2つの部材を螺合させる場合、作業者は左右の手でそれぞれ別のレンチを持つため、例えば部材が揺れた場合であっても、その揺れを抑えることができないという問題があった。また、両部材の脱着を頻繁に繰り返す場合には、レンチを保持する度に両手がふさがるため、作業性が悪化するという問題があった。
【0005】
そこで、利便性に優れたレンチを提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明に係るレンチは、レンチであって、固定側の部材の外周を把持可能な固定チャックを備えた固定レンチ部と、前記固定チャックの中心と同軸上に配置された回転軸回りに回転可能で且つ可動側の部材の外周を把持可能な回転チャックと、前記回転チャックの回転方向を規制するラチェット機構と、を備え、前記回転軸を中心として開閉自在に前記固定レンチ部に連結されたラチェットレンチ部と、前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を互いに開く向きに付勢するトーションスプリングと、を備え、前記ラチェット機構は、前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を閉じる向きに外力が作用すると、前記外力を前記回転チャックに伝達して回転させ、前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を開く向きに前記トーションスプリングの付勢力が作用すると、前記ラチェットレンチ部が前記回転チャックに対してフリーで回転する。
【0007】
この構成によれば、作業者が固定レンチ部及びラチェットレンチ部を片手で把持し、作業者がラチェットレンチ部を固定レンチ部に接近させるように握って外力を付与すると、回転チャックが固定チャックに対して相対回転して回転チャックが把持する部材を締め付け、外力が取り除かれると、回転チャックが回転することなくラチェットレンチ部のみが固定レンチ部から離れる。このように固定レンチ部に対してラチェットレンチ部を繰り返し開閉することにより、作業者は片手で回転チャックが把持する部材を固定チャックが把持する部材に締め付けることができる。
【0008】
また、本発明に係るレンチは、前記固定レンチ部が、前記固定チャックが先端に接続されたシャフトと、前記シャフトを長手方向に沿ってスライド可能に収容する収容孔が形成されたグリップと、前記収容孔内で且つ前記シャフトの後端と前記グリップとの間に収容され、前記シャフトを前記グリップ内から押し出す方向に前記シャフトを付勢するコイルスプリングと、前記シャフトの中腹に連結されるとともに前記グリップの外部まで延伸され、前記コイルスプリングの付勢力に抗して前記シャフトを前記グリップ内に収める方向に前記シャフトをスライド操作可能なシフトレバーと、を備えていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、シャフトのスライド操作に応じて、固定チャックをグリップに対して突出させて部材の外周に把持したり、固定チャックを部材から退避させることができる。
【0010】
また、本発明に係るレンチは、前記ラチェットレンチ部が、前記トーションスプリングを介して前記固定レンチ部に接続される可動レバーと、一端側が前記回転軸回りに回転可能に前記固定レンチ部に取り付けられ、他端側が前記可動レバーの軸部を回転可能に収容するブラケットと、前記可動レバーから前記ブラケットへのトルク伝達をオンオフ切替可能なクラッチ機構と、を備え、前記クラッチ機構は、前記可動レバーを介して入力されたトルクが所定の閾値を下回る場合には、前記可動レバー及びブラケットを一体で回転させ、前記可動レバーを介して入力されるトルクが前記閾値以上の場合には、前記可動レバーが前記ブラケットに対してフリーで回転することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、クラッチ機構が過度なトルクで部材が損傷することを抑制するため、回転チャックが把持する部材を固定チャックが把持する部材に簡便に締め付けることができる。
【0012】
また、本発明に係るレンチは、前記クラッチ機構が、前記軸部の外周に設けられ、前記可動レバーの回転に伴って移動する第1のローラと、前記第1のローラに対して前記径方向の外側で前記ブラケットに設けられた第2のローラと、前記第2のローラを挟んで前記第1のローラの反対側で前記軸部の外周に嵌め込まれ、前記第2のローラを前記径方向の内側に付勢する略C字状のリング状スプリングと、を備え、前記可動レバーを介して入力されたトルクが所定閾値を下回る場合には、前記第1のローラ及び前記第2のローラが係合し、前記可動レバー及びブラケットが一体で回転し、前記可動レバーを介して入力されるトルクが前記閾値以上の場合には、前記第2のローラが前記径方向の外側に退避し、前記第1のローラが前記第2のローラから離れ、前記可動レバーを前記ブラケットに対してフリーで回転させることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、リング状スプリングの弾性力を上回るトルクが回転チャックに作用することが抑制されるため、回転チャックが把持する部材を固定チャックが把持する部材に簡便に締め付けることができる。
【0014】
また、本発明に係るレンチは、前記ラチェット機構が、前記回転チャックの外周に設けられたラチェット歯と、前記ブラケットに設けられ、前記ラチェット歯に係合可能な遊動爪と、前記遊動爪を前記ラチェット歯に向けて付勢するコイルスプリングと、を備え、前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を閉じる向きに外力が作用すると、前記遊動爪が前記ラチェット歯に係合し、前記ブラケット及び前記回転チャックが一体で回転し、前記固定レンチ部及び前記ラチェットレンチ部を開く向きに前記トーションスプリングの付勢力が作用すると、前記遊動爪が前記ラチェット歯から外れて前記ブラケットが前記回転チャックに対してフリーで回転することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、作業者がラチェットレンチ部を固定レンチ部に接近させるように握って外力を付与すると、遊動爪がラチェット歯に係合し、回転チャックが固定チャックに対して相対回転して回転チャックが把持する部材を締め付け、外力が取り除かれると、回転チャックが回転することなくラチェットレンチ部のみが固定レンチ部から離れるため、作業者が片手で回転チャックが把持する部材を固定チャックが把持する部材に締め付けることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、作業者が固定レンチ部及びラチェットレンチ部を片手で把持し、作業者がラチェットレンチ部を固定レンチ部に接近させるように握って外力を付与すると、回転チャックが固定チャックに対して相対回転して回転チャックが把持する部材を締め付け、外力が取り除かれると、回転チャックが回転することなくラチェットレンチ部のみが固定レンチ部から離れる。このように固定レンチ部に対してラチェットレンチ部を繰り返し開閉することにより、作業者が片手で回転チャックが把持する部材を固定チャックが把持する部材に締め付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレンチを示す斜視図。
【
図11】固定レンチにブラケットを組み付ける様子を示す組立図。
【
図12】ブラケットにラチェット機構を組み付ける様子を示す組立図。
【
図13】ブラケットに可動レバー及びクラッチ機構を組み付ける様子を示す組立図。
【
図14】ラチェットレンチ部にカバーを組み付ける様子を示す組立図。
【
図15】クラッチ機構がラチェット機構へのトルク伝達を行っている状態(ロック状態)を示す図。
【
図16】クラッチ機構に作用するトルクが過度に大きくなった状態を示す図。
【
図17】クラッチ機構がラチェット機構へのトルク伝達を行っていない状態(アンロック状態)を示す図。
【
図18】トーションスプリングの付勢力で、可動レバーが初期位置に戻る状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0019】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0020】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0021】
なお、本実施形態において、上下や左右等の方向を示す表現は、絶対的なものではなく、各構成要素が図面に描かれている姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。
【0022】
図1は、レンチ1を示す斜視図である。
図2~4は、レンチ1の平面図、側面図及び底面図である。レンチ1は、雌ネジが形成された一方の部材及び雄ネジが形成された他方の部材のそれぞれの外周(例えば、Dカット部)を把持し、作業者が片手で締め付けを行うものである。レンチ1は、例えば、エンドエフェクタ等の脱着が頻繁に行われる医療用器具等に好適である。レンチ1は、固定レンチ部2と、ラチェットレンチ部3と、を備えている。
【0023】
固定レンチ部2の一方端には、部材の外周を把持可能な開口21が形成されている。また、固定レンチ部2の他方側には、作業者が把持可能なグリップ22が設けられている。
【0024】
ラチェットレンチ部3の一方端には、部材の外周を把持可能な開口31が形成されている。また、ラチェットレンチ部3の他方側には、作業者が把持可能な可動レバー32が設けられている。なお、符号33は、後述するラチェット機構7及びクラッチ機構8を覆うようにラチェットレンチ部3上に組み付けられたカバーである。
【0025】
グリップ22及び可動レバー32の間を跨ぐようにトーションスプリング4が設けられている。トーションスプリング4は、固定レンチ部2及びラチェットレンチ部3を互いに離す向きに付勢している。
【0026】
図5は、
図3中のA-A線断面図である。固定レンチ部2は、グリップ22と、固定チャック23と、シャフト24と、第1のコイルスプリング25と、を備えている。
【0027】
グリップ22は、その内部に長手方向に沿って先端側から所定長さだけ延伸する収容孔22aが形成されている。
【0028】
固定チャック23には、開口21が形成されている。開口21の幅寸法は、把持する部材の口径に応じて設定されている。固定チャック23は、シャフト24の先端に設けられている。
【0029】
シャフト24の中腹には、シフトレバー26が接続されている。シフトレバー26は、シャフト24の長手方向に対して垂直に設けられている。シフトレバー26の一部は、グリップ22の外部まで延伸されている。これにより、作業者がシフトレバー26を把持してスライドさせるスライド操作に連動してシャフト24をスライドさせることができる。
【0030】
なお、固定チャック23が部材を把持する位置(締付位置)に対応したシフトレバー26の位置にシフトレバー26を位置決め固定する図示しない位置決め凹部をグリップ22に形成し、シフトレバー26を位置決め凹部に嵌め込むことにより、固定チャック23が部材を把持する位置に位置決めされるように構成するのが好ましい。
【0031】
第1のコイルスプリング25は、収容孔22a内に収容され、シャフト24をグリップ22から押し出す向きに付勢する。ここで、シフトレバー26を位置決め凹部から第1のコイルスプリング25を圧縮する方向に移動させると、固定チャック23を部材から退避させることができる。
【0032】
図6は、カバー33を外した状態のレンチ1を示す斜視図である。
図7は、
図6のレンチ1を示す平面図である。ラチェットレンチ部3は、ブラケット5と、回転チャック6と、ラチェット機構7と、クラッチ機構8と、を備えている。
【0033】
ブラケット5は、回転チャック6の回転軸61回りに固定レンチ部2に対して相対回転可能に構成されている。ブラケット5は、先端側に設けられた第1のホルダ51に回転チャック6を収容し、基端側に設けられた第2のホルダ52に可動レバー32の軸部32aを収容している。
【0034】
第1のホルダ51内において、回転チャック6は、回転チャック6の回転軸61回りに回転可能に収容されている。また、第2のホルダ52内において、軸部32aは、その中心回りに回転可能に収容されている。
【0035】
回転チャック6は、外周から中心に亘って所定幅の開口31が形成されている。開口31の幅寸法は、把持する部材の口径に応じて設定されている。回転チャック6の回転軸61は、平面から視て締付位置における固定チャック23の中心と略一致するように配置されている。回転チャック6の外周には、ラチェット歯62が形成されている。
【0036】
図8は、回転チャック6及びラチェット機構7を示す図である。ラチェット機構7は、ラチェット歯62と、遊動爪71と、第2のコイルスプリング72と、を備えている。
【0037】
遊動爪71は、丸く膨出した基部73と、先端が略L字状に形成された爪部74と、を備えている。基部73が、ブラケット5の基部収容孔53内に収容され、遊動爪71は、基部73を中心として僅かに搖動可能に構成されている。
【0038】
第2のコイルスプリング72は、ブラケット5と遊動爪71との間に介装されている。第2のコイルスプリング72は、爪部74をラチェット歯62に係合させるように遊動爪71を回転チャック6に向けて付勢している。これにより、爪部74が、
図8の紙面上で回転チャック6が時計回り(締付方向)に回転することを許容する一方、反時計回りに回転することを規制する。
【0039】
なお、遊動爪71は、回転チャック6の周方向に沿って間隔を空けて2つ設けられている。これにより、部材の締め付けに伴って開口31が一方の遊動爪71に到達するまで回転チャック6が回転する場合であっても、他方の遊動爪71がラチェット歯62に係合する状態を維持でき、換言すれば、少なくとも1つの遊動爪71がラチェット歯62に常に係合する状態を維持できる。なお、遊動爪71の数は、2つに限定されるものではない。
【0040】
図9は、クラッチ機構8を示す図である。クラッチ機構8は、第1のローラ81と、第2のローラ82と、第3のコイルスプリング83と、リング状スプリング84と、を備えている。
【0041】
第1のローラ81及び第2のローラ82は、ニードルローラである。軸部32aの径方向において内側から外側に向かって、第1のローラ81、第2のローラ82がこの順で配置されている。
【0042】
第1のローラ81は、軸部32aの外周に開口するスプリング収容孔34及び第2のホルダ52の内周面に刻設された規制溝52a内に収容されている。
【0043】
第2のローラ82は、第2のホルダ52の規制溝52aから外周面52bに亘って形成された連通孔52c内に収容されている。なお、第2のローラ82は、第1のローラ81に対して軸部32aの周方向にオフセットして配置されている。
【0044】
第3のコイルスプリング83は、スプリング収容孔34内に収容されており、第1のローラ81を軸部32aの径方向の外側に向かって付勢している。スプリング収容孔34は、軸部32aの径方向に対して傾斜している。
【0045】
第1のローラ81、第2のローラ82及び第3のコイルスプリング83は、軸部32aの軸心を挟んでそれぞれ1対ずつ配置されている。
【0046】
リング状スプリング84は、平面から視てC字状に形成されている。リング状スプリング84は、第2のローラ82を介して第1のローラ81の反対側に配置され、軸部32aの外周に嵌め込まれている。リング状スプリング84の材質、厚みは、後述するように、ラチェット機構7へのトルク伝達をオフにする所定閾値に応じた弾性力を示すように設定される。
【0047】
次に、レンチ1を組み立てる手順について、図面に基づいて説明する。
【0048】
[固定レンチ部組立]
図10に示すように、固定チャック23とシャフト24と接合し、第1のコイルスプリング25を介装した状態でシャフト24をグリップ22内に挿入する。また、シャフト24がグリップ22内に収容された状態で、シフトレバー26の先端がシャフト24のボルト孔24aに螺合されることにより、シフトレバー26がシャフト24に取り付けられる。
【0049】
[ブラケット取付]
図11に示すように、ブラケット5を固定レンチ部2に取り付ける。具体的には、グリップ22先端の開口27の外周に凸設された規制部28に、第1のホルダ51内に形成された図示しないスリットが嵌合される。スリットの弧寸法は、規制部28の弧寸法より長く設定されている。また、規制カバー54が規制部28にボルト55で締結されており、規制カバー54を介して規制部28とブラケット5とが連結されている。これにより、ブラケット5は、スリットと規制部28との弧寸法の差だけ回動可能である。
【0050】
[ラチェット機構組付]
図12に示すように、ラチェット機構7をブラケット5に組み付ける。具体的には、第1のホルダ51内に回転チャック6を配置する。また、遊動爪71の基部73を基部収容孔53内に収容するとともに、略L字状の爪部74をラチェット歯62に係合させ、爪部74をラチェット歯62に向けて付勢するように第2のコイルスプリング72を遊動爪71とブラケット5との間に設ける。
【0051】
[クラッチ機構組付]
図13に示すように、可動レバー32及びクラッチ機構8をブラケット5に組み付ける。具体的には、第1のローラ81及び第3のコイルスプリング83をスプリング収容孔34内に収容した状態で、第2のホルダ52内に可動レバー32の軸部32aを配置する。そして、第2のローラ82を連通孔52c内に収容し、リング状スプリング84を軸部32aの外周に嵌め込む。
【0052】
[カバー取付]
図14に示すように、ボルト36でカバー33をブラケット5に取り付けて、ブラケット5をカバー33で塞ぐ。これにより、ラチェット機構7やクラッチ機構8の内部に異物が侵入することが抑制される。
【0053】
そして、トーションスプリング4を固定レンチ部2及びラチェットレンチ部3を跨ぐように設ける。これにより、
図1に示すようなレンチ1を得ることができる。
【0054】
次に、レンチ1の作用について、図面に基づいて説明する。以下、固定側の部材に対して可動側の部材を相対回転させて、これらの部材を締め付ける場合について説明する。
【0055】
[レンチ取付]
レンチ1に外力が作用していない場合、トーションスプリング4の付勢力によって、固定レンチ部2とラチェットレンチ部3とは互いに離れるように構成されている(初期状態)。
【0056】
次に、固定側の部材の外周に固定チャック部2の開口21を嵌め込んで、固定チャック23で固定側の部材を把持し、且つ、可動側の部材の外周にラチェットレンチ部3の開口31を嵌め込んで、回転チャック6で可動側の部材を把持する。
【0057】
[トルク伝達]
作業者等がグリップ22及び可動レバー32を把持し、トーションスプリング4の付勢力に抗してこれらを閉じるような外力が作用すると、可動レバー32を介して入力されたトルクが、クラッチ機構8に伝達される。
【0058】
クラッチ機構8は、可動レバー32を介して入力されたトルクをラチェット機構7に伝達する。具体的には、
図15に示すように、軸部32aがその中心回りに
図15の紙面上で時計回りに回転すると、第1のローラ81が第2のローラ82に係合する。このとき、リング状スプリング84は、第2のローラ82を軸部32aの径方向内側に付勢して、第2のローラ82が第1のローラ81に押し出されるように軸部32aの径方向外側にスライドすることを規制する。これにより、ブラケット5が、第1のローラ81及び第2のローラ82を介して可動レバー32と一体となり、可動レバー32の回転に連動して回転軸61回りに回転する。なお、スプリング収容孔34が軸部32aの径方向に対して傾斜しており、トルク伝達時には、第3のコイルスプリング83は圧縮されない。
【0059】
ブラケット5が、
図8の紙面上で回転軸61回りに時計回り(締付方向)で回転すると、ラチェット歯62に係合する遊動爪71が、ブラケット5の回転に連動して回転チャック6を回転させ、可動側の部材が固定側の部材に締め付けられる。
【0060】
外力が取り除かれると、トーションスプリング4が可動レバー32を付勢して、固定レンチ部2及びラチェットレンチ部3が
図9に示す初期状態に戻る。
【0061】
そして、可動レバー32及びブラケット5が一体となって回転軸61回りに回転する。しかしながら、遊動爪71がラチェット歯62から外れるため、回転チャック6は、可動レバー32の回転に追従せず回転しない。このような動作を繰り返し、可動側の部材を固定側の部材に徐々に締め付ける。
【0062】
[トルク伝達オフ]
可動側の部材と固定側の部材との締め付けが進み、可動側の部材の締め付けに所定閾値以上のトルクを要する場合、クラッチ機構8は、ラチェット機構7へのトルク伝達を遮断する。
【0063】
具体的には、第1のローラ81が第2のローラ82に係合している状態から過度なトルクが作用した場合、
図16に示すように、軸部32aの中心回りの回転に伴って第1のローラ81がリング状スプリング84の弾性力に抗して第2のローラ82を軸部32aの径方向外側に押し上げる。
【0064】
図17に示すように、軸部32aがさらに回転すると、第1のローラ81が第2のローラ82を乗り越え、第1のローラ81が第2のローラ82から離れて非接触となり、軸部32aがブラケット5に対してフリーで回転し、回転チャック6は回転しない。これにより、過度なトルクで部材を締め上げて部材が損傷することを抑制できる。
【0065】
また、
図17の状態から外力が取り除かれると、トーションスプリング4が可動レバー32を付勢して、固定レンチ部2及びラチェットレンチ部3が初期状態に戻る。
【0066】
そして、可動レバー32が、軸部32aの中心回りに
図18の紙面上で反時計回りに回転すると、第1のローラ81が、第2のローラ82に接触して第3のコイルスプリング83を押し縮め、軸部32aの径方向内側に落ち込んで第2のローラ82を乗り越えて、
図9に示す初期状態に戻る。
【0067】
[レンチ取外]
締め付けが完了すると、レンチ1から締め付け部材を取り外す。具体的には、シフトレバー26を操作して固定チャック23を固定側の部材から退避させる。次に、固定レンチ部2又はラチェットレンチ部3の何れか一方を回転させて、平面から視てラチェットレンチ部3の開口31を固定レンチ部2の開口21に略一致させる。これにより、回転チャック6を可動側の部材から退避させることができる。
【0068】
このようにして、本実施形態に係るレンチ1は、作業者が固定レンチ部2及びラチェットレンチ部3を片手で把持し、作業者がラチェットレンチ部3を固定レンチ部2に接近させるように握って外力を付与すると、回転チャック6が固定チャック23に対して相対回転して回転チャック6が把持する部材を締め付け、外力が取り除かれると、回転チャック6が回転することなくラチェットレンチ部3のみが固定レンチ部2から離れる。このように固定レンチ部2に対してラチェットレンチ部3を繰り返し開閉することにより、作業者は片手で可動側の部材を固定側の部材に締め付けることができる。
【0069】
さらに、本発明は、上記以外にも本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を成すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0070】
1 ・・・レンチ
2 ・・・固定レンチ部
21 ・・・(固定レンチ部の)開口
22 ・・・グリップ
22a ・・・収容孔
23 ・・・固定チャック
24 ・・・シャフト
24a ・・・ボルト孔
25 ・・・第1のコイルスプリング
26 ・・・シフトレバー
27 ・・・(グリップの)開口
28 ・・・規制部
3 ・・・ラチェットレンチ部
31 ・・・(ラチェットレンチ部の)開口
32 ・・・可動レバー
32a ・・・軸部
33 ・・・カバー
34 ・・・スプリング収容孔
4 ・・・トーションスプリング
5 ・・・ブラケット
51 ・・・第1のホルダ
52 ・・・第2のホルダ
53 ・・・基部収容孔
54 ・・・規制カバー
55 ・・・ボルト
6 ・・・回転チャック
61 ・・・回転軸
62 ・・・ラチェット歯
7 ・・・ラチェット機構
71 ・・・遊動爪
72 ・・・第2のコイルスプリング
73 ・・・基部
74 ・・・爪部
8 ・・・クラッチ機構
81 ・・・第1のローラ
82 ・・・第2のローラ
83 ・・・第3のコイルスプリング
84 ・・・リング状スプリング