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特許7339696生物学的実体の選択的捕捉のためのマイクロ流体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】生物学的実体の選択的捕捉のためのマイクロ流体装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230830BHJP
   C12N 1/02 20060101ALN20230830BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230830BHJP
   C12N 5/079 20100101ALN20230830BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N1/02
C12N5/071
C12N5/079
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021537123
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 TR2019050649
(87)【国際公開番号】W WO2020139229
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】PCT/TR2018/050934
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(73)【特許権者】
【識別番号】521275529
【氏名又は名称】ミクロ ビヨシステムラー エレクトロニク サナイ ベ ティカレット エー.エス.
【氏名又は名称原語表記】MIKRO BIYOSISTEMLER ELEKTRONIK SANAYI VE TICARET A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セン ドガン,ベグム
(72)【発明者】
【氏名】イルディリム,エンダー
(72)【発明者】
【氏名】ゾール,オッジ
(72)【発明者】
【氏名】オズガー,エブル
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0197214(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0248508(US,A1)
【文献】Adv. Clin. Chem.,2016年04月21日,Vol.75,pp.1-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的となる生物学的実体の選択的捕捉のためのマイクロ流体装置であって、
a) 対称水中翼形状をしたピラー(1)のアレイであって、前記ピラーの幾何学的中心は菱形格子(4)を形成し、前記格子(4)は、当該格子内の菱形の辺の長さ、すなわち、2つの隣り合う対称水中翼形状ピラー(1)の幾何学的中心間のユークリッド距離によって特徴付けられ、前記ピラーの翼弦線(5)が互いに平行である、対称水中翼形状をしたピラー(1)のアレイと、
b) 障害物として作用する前記対称水中翼形状ピラー(1)を含んでなる蛇行マイクロ流体チャネル(2)と、
c) 捕捉容積(3)と、
を備え、
前記対称水中翼形状ピラー(1)の表面は、標的となる生物学的実体の捕捉に適した少なくとも一種類の抗体(7)でコーティングされており、
前記捕捉容積(3)は、前記蛇行マイクロ流体チャネルからの前記対称水中翼形状ピラーのアレイのブール減算によって定義される、ことを特徴とするマイクロ流体装置。
【請求項2】
前記蛇行マイクロ流体チャネル(2)は、楕円の長軸又は短軸のいずれかに平行な翼弦によって特徴付けられる楕円セグメント(13,21,22)を含み、
前記翼弦は、流入部(17)と流出部(18)とに分割され、標的となる生物学的実体は、それぞれ前記流入部(17)及び前記流出部(18)を通って前記楕円セグメントに出入りする、ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体装置。
【請求項3】
前記流入部(17)の長さが前記流出部(18)と等しい、請求項2に記載のマイクロ流体装置。
【請求項4】
前記蛇行マイクロ流体チャネルは、
後続の楕円セグメント(22)が、先行する楕円セグメント(21)をその翼弦を中心として反転させると共に前記翼弦に沿って前記流入部(17)に等しい距離だけ平行移動させることによって形成されるところの、互いに接続された楕円セグメント(21,22)の列を含んでなる、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のマイクロ流体装置。
【請求項5】
当該マイクロ流体装置は、少なくとも1つのチャネルユニットを備えており、このユニットは、2つの楕円セグメント(21,22)からなり、
これら楕円セグメントにおいては、先行する楕円セグメント(21)の流出部(18)が、直線マイクロチャネル(23)を介して後続の楕円セグメント(22)の流入部(17)に接続されてなると共に、前記直線マイクロチャネルが対称水中翼形状ピラーのアレイを含んでいる、ことを特徴とする請求項2又は3に記載のマイクロ流体装置。
【請求項6】
楕円セグメント(13,21,22)が半円形である、ことを特徴とする請求項2~5のいずれか一項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項7】
隣り合う対称水中翼形状ピラー間の距離が、前記標的となる生物学的実体の特性寸法の3~10倍である、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項8】
前記標的となる生物学的実体は、循環性腫瘍細胞、希少細胞、末梢血細胞、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のマイクロ流体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体中に懸濁された生物学的実体を選択的に捕捉するためのマイクロ流体装置と、医療的診断とに関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、全世界で2番目に多い死因(2015年に880万人が死亡)であり、重大な経済的損失(世界のGDPの最大4%)を伴う。
【0003】
癌の初期診断には、腫瘍の侵襲性組織生検が必要であるが、これは高価で時間がかかり、痛みを伴うプロセスであり、感染のリスクが高い。その最大の欠点は、癌が経時的に遺伝的に進化し、個別化治療のための継続的なモニタリングを必要とするため、存在する全ての突然変異を単一の腫瘍のサンプリングによって必ずしも捕捉できるわけではないことである。有望な解決策は、癌バイオマーカを分析するために体液、主に血液からサンプリングすることを含む液体生検である。
【0004】
循環性腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell:CTC)の濃縮/単離システムは、液体生検市場における主要な柱の1つであり、2020年には87億ドルに達すると予想され、CAGRは15%である(Grand View Research、2016年)。
【0005】
CTCは、原発性又は転移性腫瘍から血液中に広がり、転移カスケードにおいて重要な役割を果たす細胞である。CTCの予後値は、乳癌、前立腺癌及び結腸直腸癌についてFDAによって証明され承認されており、CellSearch(登録商標)研究の結果として、CTCの数が多い(>5 CTC/血液7.5ml)ほど全生存率(overall survival rate:OSR)が低くなる。
【0006】
CTCの他の潜在的な臨床的有用性としては、疾患モニタリング、治療ガイダンス、精密医療及び個別化治療のための患者層別化、早期診断のためのスクリーニング、癌研究、及び薬物開発が挙げられる。日常的な臨床診療におけるCTCの使用における主な課題は、CTCが極めて稀である(10億個の血液細胞中に1個のCTCしか存在しない)ために血液から単離することが困難であることから生じる。
【0007】
現在のCTC単離技術はいずれも、臨床的及び経済的観点から最も重要なユーザニーズであるところの、必要な感度、信頼性、堅牢性、使いやすさ及びコスト効率を提供することができない。
【0008】
現在、CTC市場で競合している企業は約40社である。これらの中で、市場には、最近Menarini Silicon Biosystemsによって取得されたJanssen Diagnostic companyからのFDA承認済みCTC検出システム(CellSearch(登録商標))が1つしかない。このシステムは、乳癌、前立腺癌及び結腸直腸癌のCTCの計数のためのゴールドスタンダードであると広く考えられている。単一の検査のコストは、米国及び欧州で約450ドルから600ドルである。CellSearch(登録商標)は、FDAによって承認されているが、主にインフラストラクチャのコストが高く、特定の診療所への集中化がサンプルの移送の問題を引き起こすため、日常的には臨床使用されていない。
【0009】
また、その後開発された技術は、同じ臨床試料に対してはるかに高いCTC数が報告されており、システムの信頼性が低い。
【0010】
イソフラックス(Fluxion Biosciences)、リキッドバイオプシー(Cynvenio)、Biocept、及び、Biofluidicaは、マイクロ流体技術を利用して免疫親和性ベースのCTC単離を行うCTC単離プラットフォームである。
【0011】
イソフラックス・プラットフォーム(Harb W.,et al., 2013)及びリキッドバイオプシー・プラットフォーム(Winer-Jones J.P.et al., 2014)は、マイクロ流体流下での磁気分離のためにサンプルをマイクロ流体チップにロードする前に、Ficoll密度勾配遠心分離を利用してサンプル中のCTCの事前濃縮及びオフチップ免疫磁気標識を行う。これらの技術の主な欠点は、試料負荷前にCTCを濃縮するための試料調製の前処理時間が長いことである。他方、後者の2つのシステムは、本発明の枠内で提案された方法及び装置と同様に、抗体でコーティングされたマイクロ流体チャネルを利用してCTCを生体液から単離する。
【0012】
特許文献1に提示されている技術は、表面上の細胞のローリング運動を促進する、抗体でコーティングされた平行で狭く(25μm)深い正弦曲線状のマイクロ流体チャネルに基づく。対照的に、本発明は、生物学的実体の流路を変化させるための複数のピラーを含む、より広いチャネルを提案する。
【0013】
特許文献2に提示されているチャネル設計は、マイクロ流体チャネル内にランダムに配置された、抗体でコーティングされた複数の円筒形のピラーに基づく。円筒形のピラーは異なる直径を有する。その装置は、直線状の流れが横方向ポストのパターンによって中断されるように、生物学的実体の流路を増強する。同様に、特許文献3は、入力、出力、及び、それらの間に配置され、抗体でコーティングされた複数の支持ピラーを更に含む障害物のアレイを含む、癌の診断のための方法及びマイクロ流体装置を包含する。各支持ピラーの直径及びピラー間の距離は、異なるチャネル領域に応じて変化し得る。特許文献4は、循環性腫瘍細胞及び他の粒子を検出、濃縮及び分析する方法を開示している。障害物の形状は円筒形である。ピラー上の抗体-抗原相互作用によって、細胞を捕捉することが可能である。これら従来の発明で提案されている円筒形の障害物とは対照的に、本願開示で提案する発明は、楕円形の複数のセグメントによって形成されたマイクロ流体チャネルの内側に規則的に配置された対称な水中翼形のピラーによって、生物学的実体のためのカオス的軌道を実現する。全てのピラーは同じ寸法を有し、本発明は、表面積を増加させ、全ての迎え角を走査することによって、生物学的実体とピラーとの間の衝突を増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第9250242号公報(B2)
【文献】米国特許出願公開第2006/0160243号公報(A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0154703号公報(A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0026417号公報(A1)
【非特許文献】
【0015】
【文献】(本明細書末の参考文献一覧(REFERENCES)参照)
【発明の概要】
【0016】
本発明では、媒体中に懸濁された生物学的実体を選択的に捕捉するためのマイクロ流体装置が提案される。
【0017】
本装置は、迎え角の連続的な変化を可能にすることで、チャネル全体にわたって生物学的実体のカオス的軌道を維持する。
【0018】
本装置は液滴形状のピラーを含み、その結果、捕捉容積に入る標的生物学的実体の総数に対する捕捉容積中の捕捉された標的生物学的実体の数のパーセント比として定義される、実体/表面相互作用が懸濁液中の様々な他の実体の中から標的生物学的実体を捕捉する確率が増加して、捕捉効率(感度)が向上する。
【0019】
実体/表面相互作用の増加は、ピラー間の距離を、捕捉効率を損なうことなく、標的実体の特性寸法の2~3倍の典型的な値の代わりに、標的実体の特性寸法の少なくとも3~10倍の値まで増加させることを可能にする。ピラー距離が広いほど、試料がチャネルを通過する間にチャネルが詰まる可能性が低くなる。これは、高濃度懸濁液で作業する場合に特に重要である。
【0020】
血液などの体液からCTCを捕捉するための一実施形態では、実体/表面相互作用の増加は、細胞捕捉効率を損なうことなく、50~70μmの代わりに75~150μmのピラー間距離を使用することを可能にする。
【0021】
ピラーは、チャネル全体にわたって同じ形状及び分布パターンであり、このため設計(上の)入力パラメータが大幅に低減され、設計手順が簡略化される。
【0022】
更に、より広いピラー間距離は、様々なポリマー成形オプションを含む自由度を製造プロセスにもたらす。
【0023】
本装置は、ピラーの形状及び配置を変更することなく、チャネル全体にわたって生物学的実体のカオス的軌道を維持する。これは、蛇行したマイクロ流体チャネル及び、アレイとして分布した対称な水中翼形状のピラーを利用することによって実現され、アレイ内のピラーの幾何学的中心は菱形格子を形成する。
【0024】
本発明の進歩的な点は、上述のようにチャネル構造を組み込むことによって均一に分布したピラーパターン上に流体流線を画定し、迎え角をチャネル全体にわたって連続的に変化させる点である。これにより、以下の利点がもたらされる。
・ 高感度: 実体/表面相互作用の頻度が高いことによる、生物学的実体のより高い捕捉効率。
・ 目詰まりしないチャネル動作: 実体/表面相互作用の増加は、ピラー間の距離を、捕捉効率を損なうことなく、標的実体の特性寸法の2~3倍の典型的な値の代わりに、標的実体の特性寸法の少なくとも3~10倍まで増加させることを可能にする。ピラー距離が広いほど、試料がチャネルを通過する間にチャネルが詰まる可能性が低くなる。これは、高濃度懸濁液で作業する場合に特に重要である。
・ 設計の容易さ: 均一に分布したピラーパターンにより設計入力(上の)パラメータが大幅に低減された、簡略化された設計手順。
・ 自由度及び費用効果の高い装置製造: より広いピラー間距離が、様々なポリマー成形オプションを含む自由度(versatility,多用途性)を製造プロセスにもたらす。
【0025】
本発明は、インビトロ診断(in vitro diagnostic:IVD)又は研究用途のみ(research use only:RUO)の目的で、バイオメディカルマイクロシステムを対象として使用される。用途の一例は、癌患者の血液試料からのCTCなどの生物学的実体の検出である。血液試料中のCTCは、それらの特徴的な表面タンパク質がチャネル表面上のコーティングされた抗体と選択的に相互作用することにより、他の末梢血細胞の中から選択的に捕捉され得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】例示的な配置構成における水中翼形状ピラーのアレイ(一群の配列)を有する蛇行マイクロ流体チャネルの概略図である。
図2】対称水中翼形状ピラー及びその翼弦線の概略図である。
図3】標的生物学的実体と、単一の対称水中翼形状ピラー上にコーティングされた抗体との間の相互作用の概略図である。
図4図4の(A、B、C、D、E)は、複数の異なる捕捉領域を有するマイクロ流体装置を示す図であり、直線マイクロ流体チャネル内の特異的抗体によって捕捉された標的生物学的実体の空間的局在化を示している。
図5】例示的な配置構成における対称水中翼形状ピラーのアレイを含む楕円セグメントの概略図である。
図6】例示的な配置構成における対称水中翼形状ピラーのアレイを含む楕円セグメントの列(sequence)の概略図である。
図7】対称水中翼形状ピラーのアレイを含む楕円セグメントの列(sequence)の例示的な配置構成による、標的生物学的実体を含有する媒体の様々な流路のコンピュータシミュレーションを示す図である。
図8】例示的な配置構成における対称水中翼形状ピラーのアレイを含む直線マイクロチャネルを介して接続された、対称水中翼形状ピラーのアレイを含む2つの楕円セグメントの概略図である。
図9】対称水中翼形状ピラーのアレイを含む楕円セグメントの列(sequence)と直線チャネルとを備えて形成された例示的な装置の顕微鏡画像である。
【0027】
[発明の構成要素及び部品についての説明]
マイクロ流体生物学的実体分離促進装置のより分かりやすい説明のために準備された各図に示す構成要素には別個に番号が付されており、各番号の説明は以下の通りである。
【0028】
1.対称水中翼形状ピラー
2.蛇行マイクロ流体チャネル
3.捕捉容積
4.菱形格子
5.翼弦線
6.対称軸
7.抗体
8.標的生物学的実体(標的となる生物学的実体)
9.標的生物学的実体(標的となる生物学的実体)を搬送する流線
10.障害物を含む直線チャネル
11.上流
12.下流
13.楕円セグメント
14.翼弦
15.長軸(Major axis)
16.短軸(Minor axis)
17.流入部
18.流出部
19.流れ方向
20.楕円セグメントの列(シーケンス)
21.先行する楕円セグメント
22.後続の楕円セグメント
23.直線マイクロチャネル
24.入口
25.出口
d.菱形の辺の長さ
α.迎え角
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に示すように、本装置は、対称水中翼形状のピラー(1)のアレイ(一群の配列)と、障害物として作用する対称水中翼形状ピラー(1)を含む蛇行マイクロ流体チャネル(2)と、捕捉容積(3)と、を備える。アレイ内の対称水中翼形状ピラー(1)の幾何学的中心は、菱形格子(4)を形成する。菱形格子(4)は、格子内の菱形の辺の長さ(d)、すなわち、2つの隣接する対称水中翼形状ピラー(1)の幾何学的中心間のユークリッド距離によって特徴付けられる。対称水中翼形状ピラー(1)のアレイの別の一態様では、翼弦線(5)が互いに平行である。翼弦線(5)は、その終点が対称水中翼形状ピラー(1)の境界上に位置する、対称水中翼形状ピラー(1)の対称軸(6)と一致する線分として定義される(図2参照)。蛇行マイクロ流体チャネル(2)からの対称水中翼形状ピラー(1)のアレイのブール減算(Boolean subtraction)は、図1に示す捕捉容積(3)を定義する。
【0030】
対称水中翼形状ピラー(1)の表面を含む捕捉容積(3)の境界は、少なくとも一種類の抗体(7)でコーティングされており(図3参照)、当該抗体は、標的生物学的実体を搬送する流線(9)に沿って捕捉容積(3)内を流れる懸濁液中の様々な他の実体の中から、標的生物学的実体(8)をそれらの特徴的な表面タンパク質によって特異的に捕捉すること(免疫親和性ベースの捕捉)に適したものである。
【0031】
障害物は、典型的には、免疫親和性ベースの捕捉装置において、表面積を増大させて、標的生物学的実体(8)が抗体(7)のコーティングされた表面に衝突する確率を高めるために使用される。これは、実体/表面相互作用、したがって装置の捕捉効率を高める。しかしながら、障害物(10)を含む直線チャネルの場合、標的生物学的実体/表面相互作用は、一般に、チャネルの上流(11)で起こり、標的生物学的実体がチャネルの上流(11)で捕捉されない場合、チャネルの下流(12)で捕捉される確率は劇的に減少する(図4参照)。図4のA~Eは、障害物(10)を含む直線マイクロチャネルの上流(11)及び下流(12)で捕捉された標的生物学的実体を示す。捕捉された細胞の数の上流から下流へのこの経路に沿った減少は、主に、流体の流れが均一になり、実体は、低いレイノルズ数(<<1)では、マイクロチャネル内の障害物と一致しない別個の流線に従うという事実によるものである。チャネル全体を通して実体/表面相互作用確率を高く維持するためには、標的生物学的実体(8)のカオス的軌道が維持されるべきである。
【0032】
本発明の装置は、図1に示すように、対称水中翼形状のピラー(1)の翼弦線(5)と標的生物学的実体を搬送する流線(9)との間の角度である迎え角(α)を連続的に変化させることによって、蛇行マイクロ流体チャネル(2)全体にわたって維持される標的生物学的実体(8)のカオス的軌道を実現する。
【0033】
装置の一実施形態では、蛇行マイクロ流体チャネル(2)は、楕円の長軸(15)又は短軸(16)のいずれかに平行な翼弦(14)を特徴とする楕円セグメント(13)を含む(図5参照)。翼弦は、流入部(17)と流出部(18)とに分割され、標的生物学的実体(8)は、流れ方向(19)によって示されるように、それぞれこれらの流入部(17)及び流出部(18)を通って楕円セグメント(13)に出入りする。
【0034】
装置の別の一実施形態では、蛇行マイクロ流体チャネル(2)は、互いに接続された楕円セグメントの列20(シーケンス20)を含む(図6参照)。楕円セグメントの列(20)は、列内の先行する楕円セグメント(21)をその翼弦(14)を中心として反転させると共に、流出部(18)の方向に翼弦(14)に沿って流入部(17)に等しい距離だけ平行移動させることによって形成される。図7は、標的生物学的実体を搬送する流線(9)の軌道を示す対称水中翼形状ピラー(1)の例示的なアレイを含む2つの楕円セグメントからなる列内の流れのコンピュータシミュレーションの結果を示す図である。標的生物学的実体(8)は、先行する楕円セグメント(21)の流入部(17)に入り、標的生物学的実体(8)を捕捉容積(3)の境界に向かわせる流体流線に従う。楕円セグメントの列内での流れの屈曲により、標的生物学的実体(8)は、様々な迎え角(0°~180°)で水中翼形状ピラー(1)と衝突する(図7参照)。
【0035】
別の一実施形態(図8参照)では、装置は、2つの楕円セグメントからなる少なくとも1つのチャネルユニットを備える。先行する楕円セグメント(21)の流出部(18)は、直線マイクロチャネル(23)を介して後続の楕円セグメント(22)の流入部(17)に接続されている。直線マイクロチャネルはまた、対称水中翼形状ピラー(1)のアレイを含む。流れ方向(19)を図8に示す。
【0036】
図9は、標的生物学的実体を含有する培地を導入するための入口(24)と、出口(25)と、半円形の楕円セグメントの列20(シーケンス20)と、直線マイクロチャネル(23)と、対称水中翼形状ピラー(1)のアレイとを備えてなる一実施形態の顕微鏡画像を示す。
【0037】
装置に含まれる楕円セグメント(13)は、図5に示すように、楕円の長軸(15)又は短軸(16)のいずれかに平行な翼弦(14)で任意の楕円を切断することによって形成することができる。したがって、楕円セグメントの一実施形態は、半円形である。更に、翼弦(14)の流入部(17)及び流出部(18)は、互いに等しくなるように特に選択することができる。
【0038】
装置内に捕捉される標的生物学的実体(8)は、循環性腫瘍細胞、希少細胞、末梢血細胞、又はそれらの任意の組み合わせであり得る。目詰まりを防止し、標的生物学的実体(8)と捕捉容積(3)の境界との相互作用を確実にするために、隣接する対称水中翼形状ピラー(1)間の距離を、標的生物学的実体(8)の特性寸法の3~10倍になるように選択することができる。
【0039】
[参考文献一覧(REFERENCES)]
Harb W., Fan A., Tran T., Danila D.C., Keys D., Schwartz M., Ionescu-Zanetti C., Mutational Analysis of Circulating Tumor Cells Using a Novel Microfluidic Collection Device and qPCR Assay, Translational Oncology Vol. 6, No. 5, 2013.
Winer-Jones J.P., Vahidi B., Arquilevich N., Fang C., Ferguson S., Harkins D., Hill C., Klem E., Pagano P.C., Peasley C., Romero J., Shartle R., Vasko R.C., Strauss W.M., Dempsey P.W., Circulating Tumor Cells: Clinically Relevant Molecular Access Based on a Novel CTC Flow Cell, PLOS ONE, Vol 9, Issue 1, e86717, 2014.
Martin G., Soper S., Witek M., Yeh J.J., (2016). United States Patent No. US 9250242B2.
Zhongliang T., Bhatt R.S., Tsinberg P., (2006). United States Patent No. US 2006/0160243A1.
Skelley A., Smirnov D., Dong Y., Merdek K.D., Sprott K., Carney W., Jiang C., Huang R., Lupascu I., (2014). United States Patent No. US 2014/0154703A1.
Fuchs M., Toner M., (2007). United States Patent No. US 2007/0026417A1.
(参考文献 以上)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9