(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20230830BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20230830BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20230830BHJP
H02P 5/46 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L3/00 H
B60L9/18 P
H02P5/46 K
(21)【出願番号】P 2019131248
(22)【出願日】2019-07-16
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 孝史
(72)【発明者】
【氏名】柳田 歩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩史
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-062705(JP,A)
【文献】特開2009-247205(JP,A)
【文献】特開2010-115053(JP,A)
【文献】特開2012-095378(JP,A)
【文献】特開2019-103235(JP,A)
【文献】特開平07-046721(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0050536(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
H02P 5/46
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪を駆動する前輪モータと、
後輪を駆動する後輪モータと、
前記前輪モータの温度および前記後輪モータの温度を検出する温度検出部と、
前記前輪モータの温度および前記後輪モータの温度のいずれか一方が、前記前輪モータおよび前記後輪モータにおける出力を制限するか否かの閾値である第1温度よりも低い値に設定される第2温度より高くなった場合、前記前輪モータおよび前記後輪モータのうち温度が相対的に高い方のトルクを低くし、温度が相対的に低い方のトルクを高くする配分比制御部と、
を備え
、
前記配分比制御部は、前記前輪モータの温度および前記後輪モータの温度のいずれか一方が前記第2温度より高くなった場合、前記第1温度と前記前輪モータの温度との差分である前輪側温度差と、前記第1温度と前記後輪モータの温度との差分である後輪側温度差との温度差比に従って、前記前輪モータのトルクと前記後輪モータのトルクとの配分比を導出する、車両。
【請求項2】
前記配分比制御部は、加速操作を受け付けるペダルが踏み込まれている場合における、前記配分比を目標値となるように制御するための指令値の時間変化量を、前記ペダルが踏み込まれていない場合における前記指令値の時間変化量よりも少なくする請求項
1に記載の車両。
【請求項3】
前記配分比制御部は、前記前輪および前記後輪の駆動態様に従って前記第2温度を異ならせる請求項1
または2に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
前輪を駆動する駆動装置のトルクと後輪を駆動する駆動装置のトルクとの配分比を制御する技術がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前輪を駆動する前輪モータおよび後輪を駆動する後輪モータは、配分されるトルクが高いほど温度が高くなり易い。前輪モータおよび後輪モータは、温度が過度に高くなった場合には、故障を防止するために出力が制限される。前輪モータおよび後輪モータのいずれか一方の出力が制限されると、車両は、強制的に前輪駆動または後輪駆動(所謂、2WD)とされる。そうすると、車両は、全輪駆動(所謂、AWD)とすることができず、走行の効率や安定性が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、前輪モータまたは後輪モータの出力が制限されることを抑制可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両は、前輪を駆動する前輪モータと、後輪を駆動する後輪モータと、前輪モータの温度および後輪モータの温度を検出する温度検出部と、前輪モータの温度および後輪モータの温度のいずれか一方が、前輪モータおよび後輪モータにおける出力を制限するか否かの閾値である第1温度よりも低い値に設定される第2温度より高くなった場合、前輪モータおよび後輪モータのうち温度が相対的に高い方のトルクを低くし、温度が相対的に低い方のトルクを高くする配分比制御部と、を備え、配分比制御部は、前輪モータの温度および後輪モータの温度のいずれか一方が第2温度より高くなった場合、第1温度と前輪モータの温度との差分である前輪側温度差と、第1温度と後輪モータの温度との差分である後輪側温度差との温度差比に従って、前輪モータのトルクと後輪モータのトルクとの配分比を導出する。
【0008】
また、配分比制御部は、加速操作を受け付けるペダルが踏み込まれている場合における、配分比を目標値となるように制御するための指令値の時間変化量を、ペダルが踏み込まれていない場合における指令値の時間変化量よりも少なくしてもよい。
【0009】
また、配分比制御部は、前輪および後輪の駆動態様に従って第2温度を異ならせてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前輪モータまたは後輪モータの出力が制限されることを抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態による車両の構成を示す概略図である。
【
図2】前輪モータの温度と後輪モータの温度の一例を示す図である。
【
図3】配分比制御部における配分比の制御状態の遷移を説明する状態遷移図である。
【
図5】配分比制御部の動作の流れを説明するフローチャートである。
【
図6】走行優先制御の流れを説明するフローチャートである。
【
図7】均温制御の流れを説明するフローチャートである。
【
図8】出力制限制御の流れを説明するフローチャートである。
【
図9】テンポラリAWD制御の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態による車両1の構成を示す概略図である。
図1では、制御信号の流れを破線の矢印で示している。以下では、本実施形態に関係する構成や処理について詳細に説明し、本実施形態と無関係の構成や処理については説明を省略する。
【0014】
車両1は、前輪10、前輪モータ12、後輪14、後輪モータ16、フロントディファレンシャルギヤ18、フロントドライブシャフト20、リアディファレンシャルギヤ22、リアドライブシャフト24、バッテリ26、インバータ28、32、中央制御部30、冷却機構34、温度検出部36、38、踏込み量センサ40、駆動切替スイッチ42を含んで構成される。
【0015】
車両1は、前輪10を駆動する前輪モータ12と後輪14を駆動する後輪モータ16とをそれぞれ駆動源とした電気自動車である。前輪モータ12および後輪モータ16は、例えば、永久磁石形同期モータであるが、これに限らず、誘導モータなどであってもよい。また、前輪モータ12および後輪モータ16は、仕様(例えば、定格出力など)が異なっていてもよいし、同仕様であってもよい。以後、前輪モータ12および後輪モータ16を総称して、単にモータと呼ぶ場合がある。
【0016】
前輪モータ12は、回転軸がフロントディファレンシャルギヤ18に接続されている。フロントディファレンシャルギヤ18は、フロントドライブシャフト20を通じて前輪10に接続されている。後輪モータ16は、回転軸がリアディファレンシャルギヤ22に接続されている。リアディファレンシャルギヤ22は、リアドライブシャフト24を通じて後輪14に接続されている。
【0017】
バッテリ26は、例えば、リチウムイオン電池等の二次電池である。インバータ28は、バッテリ26および前輪モータ12に接続される。インバータ28は、バッテリ26の直流電力を、中央制御部30から送信されるトルク指令に従った交流電力に変換して前輪モータ12に供給する。前輪モータ12は、インバータ28を通じて供給される交流電力を消費して回転軸を駆動する。その結果、前輪モータ12は、フロントディファレンシャルギヤ18およびフロントドライブシャフト20を通じて、トルク指令に従ったトルクで前輪10を駆動する。
【0018】
上記の前輪モータ12は、前輪10の回転に応じて発電機として機能してもよい。この場合、前輪モータ12で発生された交流電力は、インバータ28によって直流電力に変換されてバッテリ26に回生される。
【0019】
インバータ32は、バッテリ26および後輪モータ16に接続される。インバータ32は、バッテリ26の直流電力を、中央制御部30から送信されるトルク指令に従った交流電力に変換して後輪モータ16に供給する。後輪モータ16は、インバータ32を通じて供給される交流電力を消費して回転軸を駆動する。その結果、後輪モータ16は、リアディファレンシャルギヤ22およびリアドライブシャフト24を通じて、トルク指令に従ったトルクで後輪14を駆動する。
【0020】
上記の後輪モータ16は、後輪14の回転に応じて発電機として機能してもよい。この場合、後輪モータ16で発生された交流電力は、インバータ32によって直流電力に変換されてバッテリ26に回生される。
【0021】
冷却機構34は、バッテリ26の電力を消費して駆動する冷却ポンプ(不図示)および熱交換器(不図示)を含む。冷却ポンプは、冷却水を、前輪モータ12と熱交換器との間、および、後輪モータ16と熱交換器との間で循環させる。その結果、冷却機構34は、前輪モータ12および後輪モータ16を冷却する。
【0022】
温度検出部36は、前輪モータ12の温度(以後、前輪モータ温度という場合がある)を検出し、温度検出部38は、後輪モータ16の温度(以後、後輪モータ温度という場合がある)を検出する。温度検出部36、38は、モータの筐体内に設けられてもよいし、モータの筐体の外側面に設けられてもよい。
【0023】
踏込み量センサ40は、運転者による加速操作を受け付けるペダル(アクセルペダル)(不図示)の踏込み量を検出する。つまり、踏込み量センサ40は、運転者による加速操作を検出する。
【0024】
駆動切替スイッチ42は、前輪10および後輪14の駆動態様(以後、駆動モードという場合がある)の運転者による切り替え操作を受け付ける。具体的には、駆動切替スイッチ42は、電費優先駆動モードおよび通常全輪駆動モードの切り替え操作を受け付ける。
【0025】
電費優先駆動モードでは、電費(バッテリ26の電力の消費に対する効率)が高くなるように前輪10および後輪14が駆動制御される。電費優先駆動モードでは、例えば、加速時に、前輪10に対して後輪14のトルクが大きくなるようにし、高速走行時に、後輪14に対して前輪10のトルクが大きくなるように駆動制御される。このように、電費優先駆動モードでは、現在の走行モード(例えば、加速、定速、減速、旋回など)によって前輪10および後輪14へのトルクの配分を詳細に制御することで、車両1を効率よく走行させることができる。
【0026】
通常全輪駆動モードでは、現在の走行モードに依らず、前輪10および後輪14へのトルクの配分が大凡均等になるように駆動制御される。これにより、通常全輪駆動モードでは、安定して車両1を走行させることができる。以後、前輪10および後輪14の全ての車輪を駆動させる全輪駆動をAWDと表記する場合がある。
【0027】
なお、通常全輪駆動モードでは、必ず全輪駆動(AWD)となるが、電費優先駆動モードでは、全輪駆動(AWD)となる場合もあれば、前輪駆動または後輪駆動(所謂、2WD)となる場合もある。
【0028】
中央制御部30は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路から構成される。中央制御部30は、プログラムを実行することで配分比制御部50として機能する。
【0029】
配分比制御部50は、踏込み量センサ40から取得される踏込み量に基づいて車両1に要求される要求トルク(以後、単にトルクという場合がある)を導出する。配分比制御部50は、導出された要求トルクを、前輪モータ12が担当するトルクと後輪モータ16が担当するトルクとに配分する。換言すると、配分比制御部50は、要求トルクを前輪モータ12と後輪モータ16とで按分する。
【0030】
配分比制御部50は、前輪モータ12と後輪モータ16とのトルクの配分の比率、すなわち、トルクの配分比(以後、単に配分比という場合がある)を制御する。
【0031】
配分比制御部50は、基本的には、車両1の走行を優先させるようにトルクの配分比を制御する。例えば、駆動切替スイッチ42を通じて電費優先駆動モードが設定された場合、配分比制御部50は、電費が高くなるように車両1を走行させることを優先して配分比を制御する。また、駆動切替スイッチ42を通じて通常全輪駆動モードが設定された場合、配分比制御部50は、安定して車両1を走行させることを優先して配分比を制御する。以後、車両1の走行を優先した配分比の制御を、走行優先制御と呼ぶ場合がある。
【0032】
なお、ここでは、駆動切替スイッチ42を通じて駆動モードが設定される例を挙げているが、駆動モードの設定は、駆動切替スイッチ42を通じて行われる態様に限らない。例えば、配分比制御部50は、走行モードやバッテリ26のSOC(State Of Charge)などを考慮して駆動モード(電費優先駆動モードまたは通常全輪駆動モード)の設定を行ってもよい。
【0033】
ここで、モータのトルクを上昇させるには、トルクに寄与する電流(q軸電流Iq)をモータに多く流すこととなる。このため、モータのトルクを上昇させるに従って(すなわち、トルクの配分を多くするに従って)、モータの温度が漸増していくこととなる。
【0034】
また、車両1の走行を優先してトルクの配分比を制御していると、いずれか一方のモータのトルクが高い状態が継続されるようなことがある。例えば、電費優先駆動モードで長時間高速走行されると、後輪モータ16のトルクが低く、前輪モータ12のトルクが高い状態が継続される場合がある。このようなとき、トルクが相対的に高い前輪モータ12の温度が、トルクが相対的に低い後輪モータ16の温度に比べ、相対的に高くなることがある。つまり、車両1では、前輪モータ12の温度と後輪モータ16の温度とに偏りが生じ、いずれか一方のモータの温度が過度に高くなるおそれがある。
【0035】
モータの温度が過度に高くなると、モータが故障するおそれがある。このため、モータの温度が過度に高くなった場合には、そのモータの駆動を停止させ、温度が過度に高くなっていない方のモータのみで車両1を駆動する。そうすると、前輪10および後輪14の両方で車両1を駆動することができなくなり、車両1の効率や安定性が低下するおそれがある。
【0036】
そこで、配分比制御部50は、モータの温度が過度に高くなる前に、モータの温度に応じて、前輪モータ12および後輪モータ16の温度の偏りを抑制するような配分比の制御を行う。以後、前輪モータ12および後輪モータ16の温度の偏りを抑制するような配分比の制御を、均温制御という場合がある。
【0037】
図2は、前輪モータ12の温度と後輪モータ16の温度の一例を示す図である。
図2では、上限温度を実線60で示し、第1温度を一点鎖線62で示し、第2温度を二点鎖線64で示している。
【0038】
実線60で示す上限温度は、出力を制限させずにモータを駆動可能な温度の上限値である。上限温度は、例えば、モータの定格温度であり、モータの仕様で決定される。
【0039】
一点鎖線62で示す第1温度は、上限温度よりも低い値に設定される。第1温度は、前輪モータ12および後輪モータ16における出力を実際に制限するか否かの判断に用いられる閾値である。後に詳述するが、モータの温度が第1温度より高くなった場合、第1温度より温度が高くなったモータの出力が制限される。
【0040】
二点鎖線64で示す第2温度は、第1温度よりも低い値に設定される。第2温度は、走行優先制御とするか均温制御とするかの判断に用いられる閾値である。後に詳述するが、モータの温度が第2温度以下の場合、走行優先制御とされ、モータ温度が第2温度より高くなった場合、均温制御とされる。つまり、第2温度は、モータの出力が制限される第1温度に到達する前に走行優先制御から均温制御に遷移させるために、第1温度より低く設定される。
【0041】
なお、
図2では、前輪モータ12の温度が第2温度より高く、かつ、第1温度以下であり、後輪モータ16の温度が第2温度以下である場合を例示している。
【0042】
また、
図2では、上限温度、第1温度および第2温度が、前輪モータ12および後輪モータ16で等しい例を挙げているが、上限温度、第1温度および第2温度は、前輪モータ12および後輪モータ16で異なっていてもよい。
【0043】
配分比制御部50は、前輪モータ温度および後輪モータ温度の両方が第2温度以下の場合、設定された電費優先駆動モードまたは通常全輪駆動モードに従った走行優先制御を行う。
【0044】
また、配分比制御部50は、前輪モータ温度および後輪モータ温度の少なくともいずれか一方が第2温度より高くなった場合、均温制御を行う。
図2では、前輪モータ温度が第2温度より高いため、均温制御が行われる。
【0045】
均温制御では、配分比制御部50は、前輪モータ12および後輪モータ16のうち温度が相対的に高い方のトルクを低くし、温度が相対的に低い方のトルクを高くする。例えば、
図2のように、前輪モータ温度が後輪モータ温度より高い場合、配分比制御部50は、前輪モータ12のトルクが相対的に低くなり、後輪モータ16のトルクが相対的に高くなるような配分比に制御する。
【0046】
さらに具体的には、均温制御において、配分比制御部50は、第1温度と前輪モータ12の温度との差分である前輪側温度差(ΔT1)、および、第1温度と後輪モータ16の温度との差分である後輪側温度差(ΔT2)を導出する。配分比制御部50は、前輪側温度差(ΔT1)と後輪側温度差(ΔT2)との比率である温度差比(例えば、ΔT1/ΔT2)を導出する。配分比制御部50は、導出された温度差比に従って、前輪モータ12のトルク(TQf)と後輪モータ16のトルク(TQr)との配分比(例えば、TQf/TQr)を導出する。例えば、配分比制御部50は、前輪側温度差(ΔT1)と後輪側温度差(ΔT2)との温度差比が1対5(ΔT1/ΔT2=1/5)であれば、前輪モータ12のトルク(TQf)と後輪モータ16のトルク(TQr)との配分比を1対5(TQf/TQr=1/5)にする。
【0047】
これにより、後輪モータ温度は、トルクが高くなったことで上昇し易くなるが、前輪モータ温度は、トルクが低くなったことで上昇が抑制される。そして、前輪モータ12は、冷却機構34によって冷却されることで、徐々に温度が低下する。その結果、配分比制御部50は、前輪モータ温度を第2温度以下に戻すことができ、前輪モータ温度と後輪モータ温度とを大凡均等にすることが可能となる。
【0048】
なお、温度差比と配分比とが、同一(1対5)である例を挙げたが、配分比の具体的な値は、温度差比と同一の値に限らない。少なくとも、前輪側温度差と後輪側温度差との大小関係と、前輪モータ12のトルクと後輪モータ16のトルクとの大小関係とが、同じであればよい。例えば、前輪側温度差と後輪側温度差との温度差比が1対5のように後輪側温度差の方が大きい場合、前輪モータ12のトルクと後輪モータ16のトルクとの配分比は、例えば、1対2や2対3などのように、後輪モータ16のトルクの方が大きくなればよい。
【0049】
また、配分比制御部50は、第2温度を、電費優先駆動モードまたは通常全輪駆動モードで異ならせてもよい。例えば、通常全輪駆動モードが設定されている場合、トルクが常に前輪モータ12と後輪モータ16とに配分されているため、前輪モータ温度と後輪モータ温度との偏りが比較的に小さくなり易い。このため、配分比制御部50は、通常全輪駆動モードの場合、第2温度を相対的に低く設定してもよい。また、電費優先駆動モードが設定されている場合、トルクが前輪モータ12および後輪モータ16のいずれか一方のみに配分されることもあるため、前輪モータ温度と後輪モータ温度との偏りが比較的に大きくなり易い。このため、配分比制御部50は、電費優先駆動モードの場合、第2温度を相対的に高く設定してもよい。
【0050】
このように、配分比制御部50は、前輪10および後輪14の駆動態様(すなわち、電費優先駆動モードや通常全輪駆動モードのような駆動モードの種類)に従って第2温度を異ならせてもよい。仮に、第2温度を固定値とした場合、駆動モードによっては、走行優先制御と均温制御とが頻繁に切り替わり、運転者に違和感を与えたり、処理負荷が増大するおそれがある。車両1では、駆動態様に従って第2温度を異ならせることで、処理負荷の増大や運転者に違和感を与えることを抑制できる。
【0051】
また、配分比制御部50は、前輪モータ温度および後輪モータ温度の少なくともいずれか一方が第1温度より高くなった場合、モータの出力を制限させる出力制限制御を行う。
【0052】
前輪モータ温度が第1温度より高くなった場合、配分比制御部50は、出力制限制御において前輪モータ12のトルクをゼロとし、後輪モータ16のみで車両1を駆動させる。また、後輪モータ16の温度が第1温度より高くなった場合、配分比制御部50は、出力制限制御において後輪モータ16のトルクをゼロとし、前輪モータ12のみで車両1を駆動させる。つまり、出力制限制御では、全輪駆動が中止され、前輪駆動または後輪駆動となる。
【0053】
このように、温度が高くなったモータの出力を制限する(具体的には、トルクをゼロとする)ことで、出力が制限されたモータの温度の上昇を抑えることができる。そして、出力が制限されたモータは、冷却機構34によって冷却されることで、温度を第1温度以下に戻すことができる。
【0054】
これにより、車両1では、温度が高くなったモータの故障を、出力制限制御によって未然に防止することができる。また、配分比制御部50は、モータの温度が上限温度より高くなる前に、第1温度より高くなった時点で出力制限制御を行う。このため、車両1では、より確実にモータの故障を防止することができる。
【0055】
また、モータの温度が第1温度より高くなっても上限温度以下であれば、モータの仕様からすれば、モータを駆動させることが可能である。このことから、出力制限制御となっても、モータの温度が上限温度以下であり、かつ、一時的に全輪駆動(AWD)が必要となった場合、配分比制御部50は、出力制限制御を中止し、一時的に全輪駆動となるように配分比を制御する。以後、一時的に全輪駆動となるように配分比を制御することを、テンポラリAWD制御と呼ぶ場合がある。
【0056】
一時的に全輪駆動が必要な場合とは、例えば、スリップが生じた場合などである。配分比制御部50は、例えば、前輪10および後輪14のいずれかにおいて、左右の回転数差が所定回転数差以上となった場合、スリップが生じたとみなし、一時的に全輪駆動が必要であると判断する。例えば、前輪モータの出力が制限され、後輪駆動となっている状態で、後輪14がスリップした場合、配分比制御部50は、後輪モータ16のトルクを相対的に低下させ、前輪モータ12のトルクをゼロから上昇させて、一時的に全輪駆動とする。
【0057】
このように、車両1では、一時的に全輪駆動となることを許可することで、不測の事態に対応することができ、事故などを未然に防止することが可能となる。換言すると、車両1では、第1温度を上限温度より低く設定することで、このようなテンポラリAWD制御を行うことができ、より柔軟に車両1を制御可能となる。
【0058】
図3は、配分比制御部50における配分比の制御状態の遷移を説明する状態遷移図である。配分比制御部50は、上述の走行優先制御、均温制御、出力制限制御およびテンポラリAWD制御の各制御状態を、モータの温度に応じて遷移する。
【0059】
配分比制御部50は、前輪モータ温度が第2温度以下であり、かつ、後輪モータ温度が第2温度以下である場合に、走行優先制御の状態となる。走行優先制御の状態において、前輪モータ温度および後輪モータ温度の少なくともいずれか一方が第2温度より高くなると、配分比制御部50は、走行優先制御から均温制御の状態に遷移する。また、均温制御の状態において、前輪モータ温度および後輪モータ温度の少なくともいずれか一方が第1温度より高くなると、配分比制御部50は、均温制御から出力制限制御の状態に遷移する。また、出力制限制御の状態において、前輪モータ温度が上限温度以下であり、かつ、後輪モータ温度が上限温度以下であり、かつ、一時的にAWDが必要となると、配分比制御部50は、出力制限制御からテンポラリAWD制御の状態に遷移する。
【0060】
また、テンポラリAWD制御の状態において、前輪モータ温度が上限温度より高くなるか、後輪モータ温度が上限温度より高くなるか、または、一時的なAWDが必要ではなくなると、配分比制御部50は、テンポラリAWD制御から出力制限制御の状態に遷移する。また、出力制限制御の状態において、前輪モータ温度が第1温度以下であり、かつ、後輪モータ温度が第1温度以下となると、配分比制御部50は、出力制限制御から均温制御の状態に遷移する。また、均温制御の状態から、前輪モータ温度が第2温度以下であり、かつ、後輪モータ温度が第2温度以下となると、配分比制御部50は、均温制御から走行優先制御に遷移する。
【0061】
ここで、走行優先制御から均温制御に遷移する場合、および、均温制御から走行優先制御に遷移する場合、トルクの配分比の目標値が急激に変化する。運転者がアクセルペダルを踏み込んでいるときに、目標値に応じて実際のトルクの配分比が急激に変化すると、車両1の挙動が乱れ、運転者に違和感を与えるおそれがある。例えば、後輪モータ16のトルクの配分が多い状態で加速しているときに、均温制御に遷移して後輪モータ16のトルクが急激に低下したとすると、急に失速したような違和感を運転者に与えるおそれがある。
【0062】
そこで、配分比制御部50は、走行優先制御と均温制御との間で制御状態が遷移した場合、加速操作を受け付けるペダル(アクセルペダル)が踏み込まれていれば、実際のトルクの配分比の時間変化が大きくなることを抑制する。
【0063】
図4は、配分比の時間変化を説明する図である。
図4では、配分比の目標値を一点鎖線70で示し、配分比を目標値に制御するための配分比の指令値を実線72で示している。また、
図4では、配分比を、前輪モータ12のトルクと後輪モータ16のトルクとの合計トルクに対する後輪モータ16のトルクの比率で示している。つまり、
図4の一点鎖線70または実線72の下側の領域は、後輪モータ16のトルクの比率を示し、上側の領域は、前輪モータ12のトルクの比率を示している。また、アクセルONは、アクセルペダルが踏み込まれている(踏込み量がゼロより大きい)ことを示し、アクセルOFFは、アクセルペダルが踏み込まれていない(踏込み量がゼロである)ことを示している。
【0064】
図4に示すように、例えば、時刻T0から時刻T1までの期間、アクセルONであり、前輪モータ12のトルクが後輪モータ16のトルクより高かったとする。この期間では、配分比の指令値は、配分比の目標値に大凡一致している。そして、時刻T1において、配分比制御部50は、前輪モータ温度が第2温度より高くなり、走行優先制御から均温制御に遷移したとする。
【0065】
この場合、配分比制御部50は、前輪側温度差と後輪側温度差に従って、一点鎖線70に示すように、前輪モータ12のトルクを低くし、後輪モータ16のトルクを高くするような配分比の目標値を導出する。そうすると、時刻T1の前後において、一点鎖線70で示すように、配分比の目標値が急激に変化する。
【0066】
しかし、時刻T1では、アクセルONであるため、配分比制御部50は、配分比の指令値の時間変化量を少なくする。具体的には、配分比制御部50は、時刻T1からアクセルONが継続される時刻T2までの間、配分比の指令値を目標値に向かってゆっくりと(例えば、1秒間に約2~3%)変化させる。
【0067】
そして、アクセルOFFとなった時刻T2以後、配分比制御部50は、配分比の指令値を目標値に向かって早く(例えば、1秒間に約10%)変化させる。そうすると、時刻T2から時刻T3の間で示すように、配分比の指令値は、目標値に大凡一致するようになる。
【0068】
また、時刻T3においてアクセルONとなったとする。また、時刻T4において、配分比制御部50は、前輪モータ温度および後輪モータ温度の両方が第2温度以下となり、均温制御から走行優先制御に遷移したとする。また、時刻T4の直前では、後輪モータ16のトルクが前輪モータ12のトルクより高かったとする。また、時刻T4において、配分比制御部50は、電費優先駆動モードで後輪モータ16のトルクを低くし、前輪モータ12のトルクを高くするような配分比の目標値を導出したとする。そうすると、時刻T4の前後において、一点鎖線70で示すように、配分比の目標値が急激に変化する。
【0069】
しかし、時刻T4では、アクセルONであるため、配分比制御部50は、配分比の指令値の時間変化量を少なくする。具体的には、配分比制御部50は、時刻T4からアクセルONが継続される時刻T5までの間、配分比の指令値を目標値に向かってゆっくりと(例えば、1秒間に約2~3%)変化させる。
【0070】
そして、アクセルOFFとなった時刻T5以後、配分比制御部50は、配分比の指令値を目標値に向かって早く(例えば、1秒間に約10%)変化させる。そうすると、時刻T5から時刻T6の間で示すように、配分比の指令値は、目標値に大凡一致するようになる。
【0071】
このように、配分比制御部50は、アクセルペダル(加速操作を受け付けるペダル)が踏み込まれている場合における配分比の指令値の時間変化量を、アクセルペダルが踏み込まれていない場合における配分比の指令値の時間変化量よりも少なくする。
【0072】
これにより、車両1では、トルクがかかっている間のトルクの配分比の時間変化量が少なくなり、車両1の挙動が急変することを抑制することができる。その結果、車両1では、アクセルペダルが踏み込まれているときに走行優先制御および均温制御の間で制御状態が遷移しても、運転者に違和感を与えることを回避できる。
【0073】
図5は、配分比制御部50の動作の流れを説明するフローチャートである。配分比制御部50は、所定制御周期の割り込み制御として
図5の一連の処理を繰り返す。
【0074】
割り込み制御の開始タイミングとなると、配分比制御部50は、駆動切替スイッチ42によって電費優先駆動モードが選択されているか否かを判断する(S100)。駆動切替スイッチ42で電費優先駆動モードが選択されている場合(S100におけるYES)、配分比制御部50は、駆動モードを電費優先駆動モードとし(S110)、ステップS130の処理に進む。
【0075】
駆動切替スイッチ42で電費優先駆動モードが選択されていない(すなわち、通常全輪駆動モードが選択されている)場合(S100におけるNO)、配分比制御部50は、駆動モードを通常全輪駆動モードとし(S120)、ステップS130の処理に進む。
【0076】
駆動モードを設定した(S110、S120)後、配分比制御部50は、設定された駆動モードの種類に従って第2温度を設定する(S130)。具体的には、配分比制御部50は、電費優先駆動モードに設定されている場合、第2温度を相対的に高く設定し、通常全輪駆動モードに設定されている場合、第2温度を相対的に低く設定する。
【0077】
次に、配分比制御部50は、温度検出部36から前輪モータ温度を取得し、温度検出部38から後輪モータ温度を取得する(S140)。
【0078】
次に、配分比制御部50は、取得された前輪モータ温度が第1温度以下であるか否かを判断する(S150)。前輪モータ温度が第1温度以下ではない場合(S150におけるNO)、配分比制御部50は、ステップS210の処理に進む。
【0079】
前輪モータ温度が第1温度以下である場合(S150におけるYES)、配分比制御部50は、後輪モータ温度が第1温度以下であるか否かを判断する(S160)。後輪モータ温度が第1温度以下ではない場合(S160におけるNO)、配分比制御部50は、ステップS210の処理に進む。
【0080】
後輪モータ温度が第1温度以下である場合(S160におけるYES)、配分比制御部50は、ステップS170の処理に進む。つまり、配分比制御部50は、前輪モータ温度と後輪モータ温度との両方が第1温度以下である場合に、ステップS170の処理に進み、前輪モータ温度および後輪モータ温度の少なくともいずれか一方が第1温度より高い場合に、ステップS210の処理に進む。
【0081】
ステップS170において、配分比制御部50は、前輪モータ温度が第2温度以下であるか否かを判断する(S170)。前輪モータ温度が第2温度以下である場合(S170におけるYES)、配分比制御部50は、後輪モータ温度が第2温度以下であるか否かを判断する(S180)。
【0082】
後輪モータ温度が第2温度以下である場合(S180におけるYES)、配分比制御部50は、電費優先駆動モードや通常全輪駆動モードに従った走行優先制御を行い(S190)、一連の処理を終了する。走行優先制御の流れについては、後述する。
【0083】
前輪モータ温度が第2温度以下ではない場合(S170におけるNO)、または、後輪モータ温度が第2温度以下ではない場合(S180におけるNO)、配分比制御部50は、モータの温度に応じた均温制御を行い(S200)、一連の処理を終了する。均温制御の流れについては、後述する。
【0084】
また、ステップS210において、配分比制御部50は、前輪モータ温度が上限温度より高いか否かを判断する(S210)。前輪モータ温度が上限温度より高くない場合(S210におけるNO)、配分比制御部50は、後輪モータ温度が上限温度より高いか否かを判断する(S220)。後輪モータ温度が上限温度より高くない場合(S220におけるNO)、配分比制御部50は、一時的に全輪駆動(AWD)とする必要があるか否かを判断する(S230)。例えば、配分比制御部50は、左右の車輪の回転数差が所定回転数差以上である場合、スリップしているとみなし、一時的に全輪駆動とする必要があると判断する。
【0085】
前輪モータ温度が上限温度より高い場合(S210におけるYES)、後輪モータ温度が上限温度より高い場合(S220におけるYES)、または、一時的に全輪駆動とする必要がない場合(S230におけるNO)、配分比制御部50は、出力制限制御を行い(S240)、一連の処理を終了する。出力制限制御の流れについては、後述する。
【0086】
一時的に全輪駆動とする必要がある場合(S230におけるYES)、配分比制御部50は、テンポラリAWD制御を行い(S250)、一連の処理を終了する。テンポラリAWD制御の流れについては、後述する。
【0087】
図6は、走行優先制御の流れを説明するフローチャートである。配分比制御部50は、まず、踏込み量センサ40からアクセルペダルの踏込み量を取得する(S300)。次に、配分比制御部50は、取得された踏込み量に基づいて要求トルクを導出する(S310)。
【0088】
次に、配分比制御部50は、現在の駆動モード(電費優先駆動モードまたは通常全輪駆動モード)に従ってトルクの配分比の目標値を導出する(S320)。例えば、現在の駆動モードが電費優先駆動モードである場合、配分比制御部50は、現在の走行モードや各モータでの消費電力などに基づいて電費が高くなるような配分比の目標値を導出する。
【0089】
次に、配分比制御部50は、配分比の目標値に基づいて配分比の指令値を導出する(S330)。この際、配分比制御部50は、制御状態が均温制御から走行優先制御に遷移した時点から踏込み量が継続してゼロではない場合、指令値の変化量が少なくなるように現在の配分比の指令値を導出する。
【0090】
次に、配分比制御部50は、配分比の指令値および要求トルクに基づいて、前輪モータ12についてのトルク指令値および後輪モータ16についてのトルク指令値を導出する(S340)。
【0091】
次に、配分比制御部50は、前輪モータ12についてのトルク指令値をインバータ28に送信し、後輪モータ16についてのトルク指令値をインバータ32に送信し(S350)、一連の処理を終了する。
【0092】
図7は、均温制御の流れを説明するフローチャートである。配分比制御部50は、まず、踏込み量センサ40からアクセルペダルの踏込み量を取得する(S400)。次に、配分比制御部50は、取得された踏込み量に基づいて要求トルクを導出する(S410)。
【0093】
次に、配分比制御部50は、前輪モータ温度および第1温度から前輪側温度差を導出し(S420)、後輪モータ温度および第1温度から後輪側温度差を導出する(S430)。次に、配分比制御部50は、前輪側温度差および後輪側温度差から温度差比率を導出する(S440)。
【0094】
次に、配分比制御部50は、温度差比率に基づいてトルクの配分比の目標値を導出する(S450)。例えば、配分比制御部50は、前輪10側と後輪14側のうち温度差が相対的に大きい方のトルクが相対的に高くなり、温度差が相対的に小さい方のトルクが相対的に低くなるような配分比の目標値を導出する。
【0095】
次に、配分比制御部50は、配分比の目標値に基づいて配分比の指令値を導出する(S460)。この際、配分比制御部50は、制御状態が走行優先制御から均温制御に遷移した時点から踏込み量が継続してゼロではない場合、指令値の変化量が少なくなるように現在の配分比の指令値を導出する。
【0096】
次に、配分比制御部50は、配分比の指令値および要求トルクに基づいて、前輪モータ12についてのトルク指令値および後輪モータについてのトルク指令値を導出する(S470)。
【0097】
次に、配分比制御部50は、前輪モータ12についてのトルク指令値をインバータ28に送信し、後輪モータ16についてのトルク指令値をインバータ32に送信し(S480)、一連の処理を終了する。
【0098】
図8は、出力制限制御の流れを説明するフローチャートである。配分比制御部50は、まず、踏込み量センサ40からアクセルペダルの踏込み量を取得する(S500)。次に、配分比制御部50は、取得された踏込み量に基づいて要求トルクを導出する(S510)。
【0099】
次に、配分比制御部50は、前輪モータ12および後輪モータ16のうち前輪モータ12が出力制限となったか否かを判断する(S520)。つまり、配分比制御部50は、前輪モータ温度が第1温度以上(
図5のS150におけるNO)となって出力制限制御(S240)となった場合に、前輪モータ12が出力制限となったと判断する。なお、配分比制御部50は、後輪モータ温度が第1温度以上(
図5のS160におけるNO)となって出力制限制御(S240)となった場合に、後輪モータ16が出力制限となったと判断する。
【0100】
前輪モータ12が出力制限となったと判断した場合(S520におけるYES)、配分比制御部50は、前輪モータ12のトルク指令値をゼロとし(S530)、後輪モータ16のトルク指令値を要求トルクの値とする(S540)。そして、配分比制御部50は、ゼロを示すトルク指令値を前輪モータ12側のインバータ28に送信し、要求トルクを示すトルク指令値を後輪モータ16側のインバータ32に送信し(S570)、一連の処理を終了する。
【0101】
前輪モータ12が出力制限となっていないと判断した場合(S520におけるNO)、後輪モータ16が出力制限となったとみなし、配分比制御部50は、後輪モータ16のトルク指令値をゼロとし(S550)、前輪モータ12のトルク指令値を要求トルクの値とする(S560)。そして、配分比制御部50は、要求トルクを示すトルク指令値を前輪モータ12側のインバータ28に送信し、ゼロを示すトルク指令値を後輪モータ16側のインバータ32に送信し(S570)、一連の処理を終了する。
【0102】
図9は、テンポラリAWD制御の流れを説明するフローチャートである。テンポラリAWD制御では、基本的には、走行優先制御と同様の流れの処理が行われる。
【0103】
具体的には、配分比制御部50は、踏込み量センサ40からアクセルペダルの踏込み量を取得し(S600)、取得された踏込み量に基づいて要求トルクを導出する(S610)。次に、配分比制御部50は、スリップなどのAWDが必要である車両1の状態に基づいてトルクの配分比の目標値を導出する(S620)。次に、配分比制御部50は、配分比の目標値に基づいて配分比の指令値を導出する(S630)。次に、配分比制御部50は、配分比の指令値および要求トルクに基づいて、前輪モータ12についてのトルク指令値および後輪モータ16についてのトルク指令値を導出する(S640)。次に、配分比制御部50は、前輪モータ12についてのトルク指令値をインバータ28に送信し、後輪モータ16についてのトルク指令値をインバータ32に送信し(S650)、一連の処理を終了する。
【0104】
以上のように、本実施形態の車両1の配分比制御部50は、前輪モータ温度および後輪モータ温度のいずれか一方が、前輪モータ12および後輪モータ16における出力を制限するか否かの閾値である第1温度よりも低い値に設定される第2温度以上となった場合、前輪モータ12および後輪モータ16のうち温度が相対的に高い方のトルクを低くし、温度が相対的に低い方のトルクを高くする。
【0105】
具体的には、配分比制御部50は、前輪モータ12の温度および後輪モータ16の温度のいずれか一方が第2温度より高くなった場合、第1温度と前輪モータの温度との差分である前輪側温度差と、第1温度と後輪モータの温度との差分である後輪側温度差との温度差比に従って、前輪モータ12のトルクと後輪モータ16のトルクとの配分比を導出する。
【0106】
これにより、本実施形態の車両1では、前輪モータ12または後輪モータ16の出力が制限される前に、温度が相対的に高いモータの温度の上昇を抑制することができる。本実施形態の車両1では、温度が相対的に高いモータの温度の上昇が抑制されることで、そのモータの温度が第1温度や上限温度に到達するまでの時間を長くすることができる。
【0107】
したがって、本実施形態の車両1によれば、前輪モータ12または後輪モータ16の出力が制限されることを抑制可能となる。その結果、本実施形態の車両1では、強制的に前輪駆動または後輪駆動(2WD)となることを抑制できる。
【0108】
なお、本実施形態では、第1温度が上限温度より低く設定される例を挙げていた。しかし、配分比制御部50は、テンポラリAWD制御を省略する場合には、第1温度を上限温度に設定してもよい。この態様においても、前輪モータ12または後輪モータ16の出力が制限されることを抑制可能となる。
【0109】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0110】
1 車両
10 前輪
12 前輪モータ
14 後輪
16 後輪モータ
36、38 温度検出部
50 配分比制御部