(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】窒素元素を含む球状炭素粒子、その製造方法、電極および電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20230831BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230831BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2020009394
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】荻 崇
(72)【発明者】
【氏名】川上 知洋
(72)【発明者】
【氏名】長谷中 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-132562(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009333(WO,A1)
【文献】特開平03-252053(JP,A)
【文献】特開2016-056038(JP,A)
【文献】特開2006-188366(JP,A)
【文献】特開2013-030405(JP,A)
【文献】特開2011-198685(JP,A)
【文献】特開2009-200014(JP,A)
【文献】特開2015-179666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
H01M 10/0525、10/54
JST7580/JSTPlus/JSTchina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄元素含有量は0.5質量%以上であり、窒素元素含有量は1質量%以上20質量%未満であり、酸素元素含有量は1質量%以上5質量%以下であり、CuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d
002は3.5Å以上3.8Å以下である、球状炭素粒子。
【請求項2】
前記球状炭素粒子のラマンスペクトルによる1360cm
-1付近のDバンドの半値幅は200cm
-1以上270cm
-1以下である、請求項1に記載の球状炭素粒子。
【請求項3】
前記球状炭素粒子の体積平均粒子径は100nm以上5.0μm以下である、請求項1または2に記載の球状炭素粒子。
【請求項4】
0.1質量%以上の硫黄を含むリグニン、アミン、水、および
リグニンの質量に対して0.01質量%以上のアルヒデドを混合して水溶液を得る工程、
前記水溶液を噴霧乾燥する工程、および、
得られた噴霧乾燥物を
不活性ガス雰囲気下500℃以上1800℃以下の温度で炭化して球状炭素粒子を得る工程
を含む、請求項1~3のいずれかに記載の球状炭素粒子の製造方法。
【請求項5】
前記炭化工程は
、700℃以上1800℃以下の温度で行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の球状炭素粒子を含む、非水電解質電池用電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電極を含む、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素元素を含む球状炭素粒子、その製造方法、電極および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、熱的および化学的に安定であり、導電性を有することから、電池材料として用いられている。また、近年は、様々な粒子材料において、粒径を小さくし、粒子材料を球状化することによって、粒子性能の向上が試みられており、電池材料においては、導電性および出力性の向上が期待される。
【0003】
例えば、特許文献1には、コロイダルシリカの水性懸濁下で、多官能性アミノ化合物からなる少なくとも1種のアミノ系モノマー化合物とアルデヒド化合物とを塩基性条件下で反応させ、水に可溶なアミノ系樹脂の初期縮合物の水溶液を生成させる工程、及び該水溶液に少なくとも2種の酸触媒を加えて球状の硬化アミノ樹脂粒子を析出させる工程、とを含む、硬化アミノ樹脂粒子の製造方法が開示されており、多官能性アミノ化合物がメラミンであってよいことも開示されている。
【0004】
特許文献2には、(1)無機顔料を水性媒体中で湿式解砕して、無機顔料の水分散体を調製する工程、(2)水性分散体とアミノ樹脂初期反応物とを混合し、着色された樹脂液を調製する工程、(3)着色樹脂液を水媒体中に乳化または懸濁分散し、着色樹脂分散液を調製する工程、(4)着色樹脂の分散液を加熱下に縮合硬化した後に、分離して着色樹脂微粒子を得る工程からなる、着色樹脂球状微粒子の製造方法が開示されており、アミノ樹脂初期反応物がメラミンとホルムアルデヒドを重縮合反応して得られる樹脂であってよいことも開示されている。
【0005】
特許文献3には、無粉砕で、真円度が0.9~1.0であり、粒径が0.01~10μmの形態を有する球状超微粒子が開示されており、その製造方法として、多数の貫通孔を有する基盤を定速度振動させることにより、圧送される無機物または有機物のスラリー状液状物を均一液状粒子に分断し、均一液状粒子を炭化、賦活、酸化、還元および脱アルカリ工程等に付すことを特徴とする、球状超微粒子の製造方法も開示されている。同文献には、有機物がフェノール樹脂およびメラミン樹脂のような熱硬化性樹脂であってよいことも開示されている。
【0006】
更に特許文献4には、原料のリグニンを、炭化および微粉砕したのちに、プラズマ処理をする、カーボン微粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/176057号公報
【文献】特開2002-201336号公報
【文献】特開2006-168593号公報
【文献】国際公開第2019/111770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1および2には、得られた粒子を炭化処理することは記載されていない。また、本発明者らの検討によれば、仮に特許文献1および2に記載の粒子を炭化処理に付したとしても、これらの粒子に含まれるコロイダルシリカまたは無機顔料といったテンプレート(核剤)は炭化処理後も粒子中に残存するため、純粋な炭素粒子を得にくく、したがって、このような方法で得られた炭素粒子を電池に使用しても優れた特性を得ることは難しい。さらに、これらの粒子を炭化処理に付した場合、テンプレートによる賦活(乳化剤として添加している金属化合物が熱還元されることによる炭素浸食)が起こるため、炭素粒子の生産性が著しく低いものとなり得る。特許文献3に記載の方法は、特殊な装置が必要とされ、工程数も多いといった問題がある。また、特許文献4では、リグニンを使用した微粒子の製造方法が検討されているが、本発明者らの検討によれば、熱プラズマ処理を必要とする等、特殊な装置を必要とするといった問題がある。
【0009】
このような状況下、本発明が解決しようとする課題は、球状炭素粒子および該球状炭素粒子の効率的かつ安全な製造方法を提供し、電気特性に優れた非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために詳細に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
〔1〕硫黄元素含有量は0.5質量%以上であり、窒素元素含有量は1質量%以上20質量%未満であり、酸素元素含有量は1質量%以上5質量%以下であり、CuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002は3.5Å以上3.8Å以下である、球状炭素粒子。
〔2〕前記球状炭素粒子のラマンスペクトルによる1360cm-1付近のDバンドの半値幅は200cm-1以上270cm-1以下である、〔1〕に記載の球状炭素粒子。
〔3〕前記球状炭素粒子の体積平均粒子径は100nm以上5.0μm以下である、〔1〕または〔2〕に記載の球状炭素粒子。
〔4〕リグニン、アミン、水、およびアルヒデドを混合して水溶液を得る工程、
前記水溶液を噴霧乾燥する工程、および、
得られた噴霧乾燥物を炭化して球状炭素粒子を得る工程
を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の球状炭素粒子の製造方法。
〔5〕前記炭化工程は、不活性ガス雰囲気下700℃以上1800℃以下の温度で行う、〔4〕に記載の方法。
〔6〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の球状炭素粒子を含む、非水電解質電池用電極。
〔7〕〔6〕に記載の電極を含む、非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、球状炭素粒子および該球状炭素粒子の効率的かつ安全な製造方法を提供し、電気特性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例2にしたがって製造した、球状炭素粒子の電子顕微鏡観察写真である。
【
図2】比較例2にしたがって製造した、炭化物の電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、以下は本発明の実施形態を例示する説明であって、本発明を以下の実施形態に限定することは意図されていない。
【0015】
<球状炭素粒子>
本発明の球状炭素粒子において、硫黄元素含有量は0.5質量%以上であり、窒素元素含有量は1質量%以上20質量%未満であり、酸素元素含有量は1質量%以上5質量%以下であり、CuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002は3.5Å以上3.8Å以下である。
【0016】
[硫黄元素含有量]
本発明の球状炭素粒子の硫黄元素含有量は、0.5質量%以上である。硫黄元素含有量が0.5質量%未満であると、電池容量が劣る電池となる可能性がある。硫黄元素含有量は、好ましくは0.6質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上である。また、本発明の球状炭素粒子の硫黄元素含有量の上限値は、特に限定されないが、通常は3.0質量%以下であり、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下である。球状炭素粒子の硫黄元素含有量が前記下限値以上であることにより、電池容量の優れた電池を得やすい。本発明の球状炭素粒子の硫黄元素含有量は、例えば、硫黄元素を含有する球状炭素粒子の原料となる物質を苛性ソーダ水溶液と加熱する等加水分解を行う、または球状炭素粒子の原料となる物質を硫酸等の硫黄元素を含む物質で変性させ、その変性量を調節することによって、前記下限値以上に調整することができる。また、硫黄元素含有量は、例えば元素分析法、または蛍光X線分析法等によって求めることができる。
【0017】
[窒素元素含有量]
本発明の球状炭素粒子の窒素元素含有量は、1質量%以上20質量%未満である。窒素元素含有量が1質量%未満であると、窒素元素導入による炭素構造の乱れが発生しにくく、リチウムイオンを導入する際の吸蔵サイトを増大することが難しく、所望の電池容量が得られない可能性がある。窒素元素含有量が20質量%以上であると、熱安定性が低く、形状を維持することができない可能性がある。窒素元素含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。窒素元素含有量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、球状炭素粒子中の炭素構造に欠陥または乱れを適度に導入することができ、また窒素元素によってもリチウムイオンが捕捉されるため、リチウムイオンをドープする際の吸蔵サイトを増大させることができる。本発明の球状炭素粒子の窒素元素含有量は、例えば球状炭素粒子の原料となる物質を、窒素元素を含む物質、例えばアミン等と複合化することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整することができる。また、窒素元素含有量は、例えば後述の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0018】
[酸素元素含有量]
本発明の球状炭素粒子の酸素元素含有量は、1質量%以上5質量%以下である。酸素元素含有量が1質量%未満であると、酸素元素を含有することによる効果(例えば溶媒親和性)を得ることが困難であり得る。酸素元素含有量が5質量%を超えると、空気中の水分を吸着しやすくなり、吸着した水分とリチウムイオンとの反応により自己放電が起こり得る。酸素元素含有量は、好ましくは1.1質量%以上、より好ましくは1.2質量%以上、さらに好ましくは1.3質量%以上であり、好ましくは4.9質量%以下、より好ましくは4.8質量%以下、さらに好ましくは4.7質量%以下である。酸素元素含有量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、吸湿量を抑えつつも溶媒親和性に優れるため、繰り返し充放電時の安定性が高く、出力特性に優れる電池を得やすい。本発明の球状炭素粒子の酸素元素含有量は、例えば、後述の本発明の球状炭素粒子の製造方法に記載の通り、出発原料としてリグニンを使用し、前記リグニンを水溶化し、熱分解を抑制した温度で炭化することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整することができる。また、酸素元素含有量は、例えば、後述の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0019】
[CuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002]
本発明の球状炭素粒子のCuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002(以下、単に「面間隔d002」とも称する)は、3.5Å以上3.8Å以下である。面間隔d002が3.5Å未満であると、リチウムイオンが炭素粒子に挿入される際の抵抗が大きくなり、その結果、出力時の抵抗が大きくなることで、リチウムイオン二次電池としての入出力特性が低下することがある。面間隔d002が3.8Åを超えると、炭素粒子の体積が大きくなり、体積あたりの電池容量が小さくなる可能性がある。面間隔d002は、好ましくは3.55Å以上、より好ましくは3.6Å以上であり、好ましくは3.8Å以下、より好ましくは3.76Å以下、さらに好ましくは3.7Å以下である。面間隔d002が前記下限値以上および前記上限値以下であると、炭素の結晶性が高く、副反応起点が少ないため、電池の不可逆容量が低減されやすい。面間隔d002は、例えば噴霧乾燥時の固形分濃度もしくは吐出速度、または炭化時の温度もしくは時間等により調整することができる。また、面間隔d002は、X線回折で求めることができる。
【0020】
[ラマンスペクトルにおける1360cm-1付近のDバンドの半値幅]
本発明の球状炭素粒子は、レーザーラマン分光法において、1360cm-1付近にピークを有する。前記ピークは一般にDバンドと称されるラマンピークであり、グラファイト構造の乱れおよび欠陥に起因する。1360cm-1付近のDバンドの半値幅は、乱れた構造の量を表しており、本発明の好ましい一実施態様では、好ましくは200cm-1以上、より好ましくは210cm-1以上であり、好ましくは270cm-1以下、より好ましくは250cm-1以下である。Dバンドの半値幅が、前記下限値以上および前記上限値以下であると、末端構造が多すぎず、電気抵抗の増加が抑制されるため、不可逆容量が低減およびサイクル耐久性が向上する傾向にある。Dバンドの半値幅を前記下限値以上および前記上限値以下に調整する方法は、例えば、後述の本発明の球状炭素粒子の製造方法に記載の通り、出発原料となる物質と、窒素元素を含む物質、例えばアミン等と複合化した後、熱分解を抑制した温度で炭化することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整することができる。また、ラマンスペクトルによるDバンドの半値幅の測定方法は、後述の実施例に記載する通りである。
【0021】
[体積平均粒子径]
本発明の球状炭素粒子の体積平均粒子径(以下「D50」または「平均粒子径」とも称する)は、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上、さらに好ましくは120nm以上、よりさらに好ましくは150nm以上であり、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは4.9μm以下、さらに好ましくは4.5μm以下、よりさらに好ましくは3.0μm以下である。本発明の球状炭素粒子の体積平均粒子径が前記下限値以上および前記上限値以下であると、球状炭素粒子の良好な機械的強度が得やすく、球状を維持しやすいため好ましい。本発明の球状炭素粒子の体積平均粒子径は、例えば後述の実施例に記載の通り、球状炭素粒子の製造方法における噴霧乾燥条件を適宜変更することにより調整できる。本発明の球状炭素粒子の体積平均粒子径は、例えば後述の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0022】
本発明の球状炭素粒子は、粒子形状を球状とすることで、副反応の起点となるエッジ部分を少なくすることができ、電池の不可逆容量を低減できる。また、充填密度を向上でき、電極密度向上による電池の体積効率向上が期待できる。本発明の球状炭素粒子は、尖頭部分または平面部分を有さない粒子が全球状炭素粒子数に対して、個数換算で全体の好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。尖頭部分または平面部分を有さない粒子の個数は、例えば、走査型顕微鏡等により測定できる。
本発明において、球状は、真球状、楕円球状、ドーナツ状および複数個の孔を持つ球状からなる群から選択される1以上の形状のことをいう。本発明の球状炭素粒子は、例えば、表面に凹凸を有していてもよいし、歪みまたは一部欠けた部分を有していてもよい。さらに、球状炭素粒子は、球状炭素粒子が2~10個結合した形状(例えば、雪だるま状、蝶ネクタイ状およびブドウの房状等)の粒子を含んでいてもよい。本発明の球状炭素粒子の形状は、例えば形状観察装置付き粒径測定装置、または走査型電子顕微鏡等により観察できる。なお、球状は、棒状、繊維状および板状等ではない。
【0023】
<球状炭素粒子の製造方法>
本発明の球状炭素粒子は、例えば、
リグニン、アミン、水、およびアルヒデドを混合して水溶液を得る工程、
前記水溶液を噴霧乾燥する工程、および、
得られた噴霧乾燥物を炭化して球状炭素粒子を得る工程
を含む方法によって製造することができる。この製造方法により、本発明の球状炭素粒子は、効率的かつ安全に製造できる。
【0024】
本発明の球状炭素粒子は好ましくはリグニンに由来し、より好ましくは、0.1質量%以上の硫黄を含むリグニンを使用する。一般に、このようなリグニンは、クラフトリグニンと呼ばれ、製紙業にあって、セルロース抽出後の廃棄物として得られる。具体的には、例えばパルプの製造過程で生成した黒液を鉱酸で酸性化し、析出した沈殿を洗浄して得ることができる。クラフト法による蒸留中に、木材細胞壁中のリグニンは、その主要な結合であるエーテル結合が切断されて著しく低分子化され、その分子量は通常約3500~4500となる。リグニンに含まれる硫黄元素の含有量は、より好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下である。硫黄元素含有量が前記下限値以上であると、リグニンの分子量の低下を抑制しやすく、十分な炭素縮合の進行が達成されやすい。また、硫黄元素含有量が前記上限値以下であると、使用する機器を腐食する可能性のある二酸化硫黄等の排出が抑制されやすい。硫黄元素含有量は、例えば硫黄元素を含有するリグニンを苛性ソーダ水溶液と一緒に加熱する等の方法により加水分解すること、またはリグニンを硫酸等の硫黄元素を含む物質で変性させ、その変性量を調節することによって前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。硫黄元素含有量は、元素分析または蛍光X線分析によって測定できる。また、クラフトリグニンは他の方法で単離されたリグニンに比べ、多量のフェノール性水酸基を有しており、化学的活性に富んでいることも、高い密度の炭素形成に好ましい。リグニンは1種のみを使用してもよいし、硫黄元素含有量、融点、分子量および揮発性成分含量の1つ以上が異なる2種以上のリグニンを組み合わせて使用してもよい。2種以上のリグニンを組み合わせて使用する場合、そのうちの少なくとも1種のリグニンは、好ましくは、上述した好ましい硫黄元素含有量および/または分子量を有する。
【0025】
[水溶化工程]
本発明の球状炭素粒子の製造方法では、窒素を含む球状炭素粒子を得るために、リグニン、アミン、水およびアルデヒドを混合して水溶液を得る。この工程において、リグニンとアミンを反応させ、リグニンのアンモニウム塩が形成されることで、リグニンを水溶性にすることができる。さらに、溶解したリグニンをアルデヒドと反応させることで、リグニンのフェノール基およびアルデヒド間に架橋を形成させることができる。ここで、アミンはリグニンを架橋する際の触媒として働き得る。また、アミンの一部はアルデヒドと反応することもあり、イミン構造を形成することによって、アルデヒドによる架橋速度を増大し得る。リグニンを架橋させることにより、炭化時の融解による形状の損失、もしくは装置の汚染または腐食を防ぐことができる。架橋は室温においても進行し得るが、加温処理により促進させることができる。また、より均一に架橋反応を進行させるために、アルデヒド添加前に、アミンによるリグニンの水溶化を実施することが好ましい。
【0026】
本発明の球状炭素粒子の製造工程で使用できるアミンとしては、特に制限されるものではなく、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミンおよびアニリン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンおよびジブチルアミン等の2級アミン、エチレンジアミンおよびポリエチレンイミン等のポリアミン、またはアンモニア等を使用することができる。これらは単独で使用しても、複数を組み合わせて使用しても構わない。入手性、経済性および炭化効率を考慮して、アンモニアの使用が好ましい。
【0027】
本発明の球状炭素粒子の製造工程におけるアミンの使用量は、使用するリグニンおよびアルデヒドによって左右されるため、制限されるものではないが、架橋効率および水溶性を考慮して、通常、使用するアルデヒドの質量に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.02~9質量部、さらに好ましくは0.05~8質量部である。
【0028】
本発明の球状炭素粒子の製造工程で使用できるアルデヒドとしては、特に制限されるものではなく、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキサナールおよびベンズアルデヒド等のモノアルデヒド、またはグリオキサール、1,4-ブタンジアール、1,6-ヘキサンジアール、1,9-ノナンジアール、オルトフタルアルデヒド、メタフタルアルデヒドおよびテレフタルアルデヒド等のジアルデヒド等を使用することができる。これらは、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用しても構わない。入手性、経済性および炭化効率を考慮して、好ましくはホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキサールおよびテレフタルアルデヒドであり、より好ましくはホルムアルデヒドである。水に難溶なアルデヒドを使用する場合には、有機溶媒を使用してもよい。使用する有機溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類を用いることができる。本明細書では、水溶液調製工程において有機溶媒を用いた場合でも、便宜上「水溶液」と称する。使用する有機溶媒の量は、アルデヒドの種類により適宜調整して良いが、通常、アルデヒドの質量に対して2~100倍の質量を用いることが好ましい。
【0029】
本発明の球状炭素粒子の製造工程で使用するアルデヒドの使用量は、使用するリグニンの性状によって異なるため、特に制限されるものではないが、アルデヒドの反応性および架橋効率を考慮して、通常、リグニンの質量に対して、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.05~18質量%、さらに好ましくは0.1~15質量%である。
【0030】
本発明の球状炭素粒子の製造工程において、リグニン水溶液中のリグニンの濃度は特に制限されるものではないが、次工程の噴霧乾燥を容易に行うという観点、および、得られる球状炭素粒子の粒子径を所望の範囲に調整するという観点から、リグリン水溶液全体の質量に対して、好ましくは0.1~40質量%、より好ましくは0.2~30質量%、さらに好ましくは0.4~20質量%である。
【0031】
リグニンをアミンと反応させ、リグニンのアンモニウム塩を形成する工程で、リグニンが溶解しにくい場合は、必要に応じて水溶液を90℃程度まで加温してよい。リグニンの溶解が不十分で、リグニン水溶液中に未溶解のリグニンに由来する固体が残存している場合、局所的に架橋が進行することにより、得られる球状炭素粒子の構造が不均一になる可能性がある。そのため、リグニンは完全に溶解させることが好ましいが、固体が残存した状態での架橋を排除するものではない。加温する方法は特に限定はされず、オイルバスまたはウォーターバス等を使用して加温してよい。
【0032】
水溶化工程において、リグニンをアミン、水およびアルデヒドと混合する温度は、特に限定されるものではないが、溶媒である水が沸騰により失われることを防ぐため、通常5~90℃の範囲であり、反応性および揮発性を考慮して、好ましくは10~70℃の範囲、より好ましくは20~60℃の範囲である。混合する時間も制限されるものではないが、通常0.1~10時間であり、好ましくは0.2~9時間、より好ましくは0.3~8時間である。
【0033】
水溶化工程において、アルデヒドによる架橋反応を円滑に進行させるために、触媒として酸を添加してもよい。酸を使用する場合、その使用量は特に限定されるものではなく、使用するリグニンの種類およびアミンの種類によって適宜変更してよい。一般に、アミンの質量に対して、0.1~50質量%、好ましくは0.5~30質量%の範囲で添加する。使用できる酸は、特に限定されるわけではなく、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸等の鉱酸類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸および酒石酸等の有機酸等を使用することができる。これらは単独で使用しても複数を併用しても構わない。経済性および反応性を考慮して、塩酸または酢酸の使用が好ましい。
【0034】
[噴霧乾燥工程]
本発明の球状炭素粒子の製造方法では、前記水溶化工程で得られた水溶液を噴霧乾燥して球状噴霧乾燥物を得ることができる。噴霧乾燥する方法としては、水溶液を液滴化して加熱し、水を揮発させる方法であれば特に限定されるものではなく、超音波または気体を導入しながら霧化して加熱乾燥してもよく、スプレー等の方法によって微細な液滴を作り、得られた液滴を加熱乾燥させてもよい。
【0035】
加熱乾燥による溶媒の除去は、常圧下および減圧下のいずれで行ってもよい。常圧下で行う場合には、不活性ガス雰囲気下、例えば窒素雰囲気下に行うことが、安全性の観点から好ましい。
【0036】
加熱乾燥する温度は特に限定されるものではないが、好ましくは水溶液を調製する温度以上であり、より好ましくは80~600℃、さらに好ましくは100~400℃、特に好ましくは120~300℃の範囲である。
【0037】
[炭化工程]
本発明の球状炭素粒子の製造方法では、前記で得られた球状噴霧乾燥物を炭化することにより、球状炭素粒子を得ることができる。炭化工程は一段の炭化工程でも多段の炭化工程でもよい。多段の炭化工程を行う場合には、連続的に行っても、一旦冷却して行ってもよい。
【0038】
本発明の製造工程における炭化工程は、具体的には、好ましくは不活性ガス雰囲気下、500℃以上1800℃以下の温度で行う。
【0039】
不活性ガスとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ヘリウム、窒素またはアルゴン等を単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。更には塩素等のハロゲンガスを前記不活性ガスと混合したガス雰囲気中で炭化を行うことも可能である。使用するガス中の酸化性ガスの濃度は低ければ低いほど好ましい。そのような場合、不活性ガス中の酸化性ガス(特に酸素)の混入量は、通常1体積%以下、好ましくは1000体積ppm以下である。酸化性ガスの混入量が前記上限値以下であると、炭化物生成過程で、酸化が進行しにくく、所望の構造構築が進みやすい。また、生成した構造の酸化分解が起きにくい。
【0040】
不活性ガスの供給量(流通量)も、限定されるものではないが、球状噴霧乾燥物1g当たり、好ましくは1mL/分以上、より好ましくは5mL/分以上、更に好ましくは10mL/分以上である。また、本炭化工程は、減圧下で行うこともでき、例えば、10KPa以下で行うこともできる。
【0041】
一段または多段の炭化工程において、各炭化工程の昇温速度は特に限定されるものではない。加熱の方法により異なるが、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは2℃/分以上であり、好ましくは20℃/分以下、より好ましくは18℃/分以下である。昇温速度が前記下限値以上および前記上限値以下であれば、良好な生産性を得やすく経済性の点から好ましい。また、発生する乾留ガスによる賦活の進行が抑制されやすく、良好な炭素密度が得やすい。
【0042】
一段または多段の炭化工程において、炭化温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは700℃以上であり、好ましくは1800℃以下、より好ましくは1500℃、さらに好ましくは1300℃以下である。炭化温度が前記下限値以上および前記上限値以下であると、目的の構造構築が進行しやすく、所望の特性を有する球状炭素粒子を得やすい。
【0043】
一段または多段の炭化工程において、各炭化工程における炭化温度の保持時間は特に限定されるものではなく、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上であり、好ましくは20時間以下、より好ましくは15時間以下である。保持時間が前記下限値以上および前記上限値以下であれば、炭化が十分に進行するため、球状炭化粒子を製造する過程で炭化物の発火が生じにくくなるため好ましい。また、所望の特性を有する球状炭素粒子を得やすく、経済性の観点からも適度な時間であるため好ましい。
【0044】
[解砕工程]
本発明の製造方法では、噴霧乾燥後または炭化工程後に解砕を実施してもよい。この工程では、噴霧乾燥および/または炭化工程での融着、および微粉の凝集を解消し、目的の粒子径に調整することができる。
【0045】
解砕に用いる装置は、特に限定されない。例えばジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミル等を単独でまたは組み合わせて使用することができる。微粉の発生が少ないという観点からは、分級機能を備えたジェットミルが好ましい。一方、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミル等を用いる場合は、解砕後に分級を行うことで微粉を除くことができる。解砕の際には、球状炭素粒子を粉砕して尖頭部分および平面部分が生じないよう、解砕強度および解砕時間を適切に設定する必要がある。
【0046】
[分級工程]
本発明の製造方法は、炭化工程後または必要に応じて行ってよい解砕工程の後に分級を実施してもよい。分級によって、球状炭素粒子の体積平均粒子径をより正確に調整することができ、また、特定の寸法より小さい粒子(例えば体積平均粒子径が0.1μm未満の粒子)、および特定の寸法より大きい粒子(例えば体積平均粒子径が50μm以上の粒子)を除去することもできる。
分級を行う場合、その例として篩による分級、湿式分級、または乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、または遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、または遠心分級の原理を利用した分級機を挙げることができる。
【0047】
解砕工程後に分級を行う場合、上述したように、解砕と分級は、1つの装置(例えば、乾式の分級機能を備えたジェットミル)を用いて行うことができる。或いは、解砕機と分級機とが独立した装置を用いることもでき、この場合、解砕と分級とは連続して行ってもよいし、不連続に行ってもよい。
【0048】
<非水電解質電池用電極>
本発明の球状炭素粒子は、リチウムイオン二次電池のような非水電解質電池の電極として使用できる。
【0049】
本発明の球状炭素粒子を電極(負極電極)に使用することができる。具体的には、例えば、球状炭素粒子、結合剤(バインダー)および溶媒を混練することにより、電極合剤を調製し、金属板等からなる集電板に塗布し、乾燥した後、加圧成形することにより電極を製造することができる。
結合剤は、電解液と反応しないものであれば特に限定されない。結合剤の例としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物等が挙げられる。中でもPVDFは、活物質表面に付着したPVDFがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性を得るために好ましい。PVDFを溶解しスラリーを形成するために、N-メチルピロリドン(NMP)等の極性溶媒が好ましく用いられるが、SBR等の水性エマルジョンまたはCMCの水溶液を用いることもできる。結合剤の添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させるので好ましくない。また、結合剤の添加量が少なすぎると、負極材料粒子相互および集電材との結合が不十分となり好ましくない。結合剤の好ましい添加量は、使用する結合剤の種類によっても異なるが、PVDF系の結合剤では好ましくは電極合剤の総重量に対して3~13質量%であり、より好ましくは3~10質量%である。一方、溶媒に水を使用する結合剤では、SBRとCMCとの混合物等、複数の結合剤を混合して使用することが多く、使用する全結合剤の総量として、電極合剤の総重量に対して好ましくは0.5~5質量%であり、より好ましくは1~4質量%である。
本発明の球状炭素粒子を用いることにより、特に導電助剤を添加しなくとも高い導電性を有する電極を製造することができるが、更に高い導電性を賦与することを目的に必要に応じて電極合剤を調製する際に、導電助剤を添加してよい。導電助剤としては、導電性のカーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノチューブ等を用いることができる。添加量は、使用する導電助剤の種類によっても異なるが、添加する量が少なすぎると期待する導電性を得にくいので好ましくなく、多すぎると電極合剤中での分散が悪くなるので好ましくない。このような観点から、導電助剤を添加する場合の導電助剤の割合は、好ましくは0.5~10質量%(ここで、活物質量+結合剤量+導電助剤量=100質量%とする)であり、より好ましくは0.5~7質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%である。
電極活物質層は、通常は集電板の両面に形成するが、必要に応じて片面に形成してもよい。電極活物質層が厚いほど、集電板およびセパレータ等が少なくて済むため高容量化には好ましいが、活物質層が厚すぎると、電極内のイオン拡散抵抗が増大し、入出力特性が低下するため好ましくない。好ましい活物質層(片面当たり)の厚みは、10~80μmであり、より好ましくは20~75μm、さらに好ましくは20~60μmである。
【0050】
<非水電解質二次電池>
本発明の非水電解質二次電池は、本発明の電極を含むものである。本発明の球状炭素粒子を使用した非水電解質二次電池用負極電極を用いた非水電解質二次電池は、高い電極密度を有し、電池の体積容量効率を向上させる。
【0051】
本発明の球状炭素粒子を用いて、非水電解質二次電池の負極電極を形成した場合、正極材料、セパレータ、および電解液等、電池を構成する他の材料は特に限定されることなく、非水溶媒二次電池として従来使用され、あるいは提案されている種々の材料を使用することが可能である。
例えば、正極材料としては、層状酸化物系(LiMO2(ここで、Mは金属を表す)で表されるもの:例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、またはLiNixCoyMozO2(ここで、x、y、zは組成比を表わす))、オリビン系(LiMPO4(ここで、Mは金属を表す)と表されるもの:例えばLiFePO4等)、スピネル系(LiM2O4(ここで、Mは金属を表す)で表されるもの:例えばLiMn2O4等)の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合してもよい。例えば、これらの正極材料を適当なバインダーと電極に導電性を付与するための球状炭素粒子とともに成形して、導電性の集電材上に層形成することにより、正極を製造できる。
【0052】
これら正極と負極との組み合わせで用いられる非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ-ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、または1,3-ジオキソラン等の有機溶媒の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、例えばLiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiCl、LiBr、LiB(C6H5)4、またはLiN(SO3CF3)2等を用いることができる。二次電池は、一般に前記のようにして形成した正極活物質層と負極活物質層とを必要に応じて不織布、その他の多孔質材料等からなる透過性セパレータを介して対向させ電解液中に浸漬させることにより形成される。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性セパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
なお、以下に本発明の球状炭素粒子の物性値(「元素含有量」、「(002)面の面間隔d002」、「ラマンスペクトルにおける1360cm-1付近のDバンドの半値幅」、「体積平均粒子径」および「粒子の形状」)の測定方法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0054】
<硫黄元素含有量>
硫黄元素含有量は、株式会社堀場製作所製「炭素・硫黄分析装置EMIA-920V2」を用いて測定した。この装置の検出方法は、酸素気流中燃焼(高周波誘導加熱炉方式)-非分散赤外吸収法(NDIR)であり、校正は、アルミナ坩堝に助燃剤であるW(タングステン)とSn(スズ)のみを入れてブランクとし、標準物質であるJSS152-18(S:0.0056%)およびJSS150-16(S:0.0296%)を用いて行った。前処理として250℃で約10分間脱水処理を施した試料50mgを、粒子状タングステン1.5gおよび粒子状スズ0.3gとともにアルミナ坩堝に量り取り、元素分析装置内で30秒間脱ガスした後、純酸素気流下で高周波により加熱燃焼させ測定を行った。3検体を分析し、その平均値を分析値とした。
【0055】
<窒素元素および酸素元素含有量>
窒素元素および酸素元素含有量は、株式会社堀場製作所製「酸素・窒素・水素分析装置EMGA-930」を用いて測定した。この装置の検出方法は、酸素:不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)、窒素:不活性ガス融解-熱伝導度法(TCD)であり、校正は、Snカプセル、およびSS-3(標準試料)により行った。前処理として250℃で約10分間脱水処理を施した試料20mgを、Snカプセルに量り取り、元素分析装置内で30秒間脱ガスした後、測定を行った。3検体を分析し、その平均値を分析値とした。
【0056】
<(002)面の面間隔d
002>
株式会社リガク製「MiniFlexII」を用い、球状炭素粒子を試料ホルダーに充填し、Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得た。回折図形のピーク位置は重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正した。CuKα線の波長を0.15418nmとし、以下に記すBraggの公式によりd
002を算出した。
【数1】
【0057】
<ラマンスペクトルにおける1360cm-1付近のDバンドの半値幅>
株式会社堀場製作所製「LabRAM ARAMIS」を用い、レーザー波長532nmの光源を用いて、ラマンスペクトルを測定した。試験は、各試料において無作為に3箇所の粒子をサンプリングし、さらにサンプリングした各粒子内から2箇所について測定した。測定条件は、波長範囲50~2000cm-1、積算回数100回であり、計6箇所の平均値を計測値として算出した。Dバンド半値幅は、前記測定条件にて得られたスペクトルに対し、Dバンド(1360cm-1付近)とGバンド(1590cm-1付近)とのピーク分離を、ガウス関数でフィッティングして実施した後、測定した。
【0058】
<体積平均粒子径>
体積平均粒子径(粒度分布)は、以下の方法により測定した。試料を界面活性剤(和光純薬工業株式会社製「TritonX100」)を0.3質量%含む水溶液に試料を投入し、超音波洗浄器で10分以上処理し、試料を水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、粒子径・粒度分布測定器(日機装株式会社製「マイクロトラックM T3000」)を用いて行った。D50は、累積体積が50%となる粒子径であり、この値を体積平均粒子径として用いた。
【0059】
<粒子の形状>
粒子の形状は走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社キーエンス製「VE-8800」)により観察した。100個以上の粒子を含む視野範囲で撮像し、その中から無作為に100個の粒子を選び取り、目視により尖頭部分または平面部分を有さない粒子の割合が90%以上のものを「球状」、90%未満のものを「非球状」とした。
【0060】
<実施例1>
1Lセパラブルフラスコに、硫黄元素含有量が2質量%であるリグニン60gを秤量し、イオン交換水570mLを添加し、メカニカルスターラーで撹拌しながら、アンモニア水(28質量%)を200mL添加した。そこに、ホルムアルデヒド水溶液(36質量%)を20.4mL、アンモニア水(28質量%)5mLおよび酢酸0.5gの混合溶液を添加し、室温で20分撹拌した。さらに、オイルバスで加熱を開始し、内温80℃で1.5時間撹拌した。その後、撹拌しながら室温に冷却し、リグニン水溶液を得た。
得られた水溶液16g(固形分量1.2g)をイオン交換水284mLに溶解し、スプレードライヤーB-290(Buchi製)にて、標準サイクロンを装着し、窒素量819L/時間にて流気しながら、挿入部を200℃に加熱した状態で、噴霧乾燥を行った。この時の固形分収率は68%であった。
得られた球状炭素粒子前駆体2gを舟形坩堝に入れ、アズワン株式会社製管状炉(管径42mmφ×500mm)に導入した。窒素気流1L/分の不活性ガス中、室温から1200℃(昇温速度10℃/分)まで昇温し、1200℃を3時間保持した後、8時間かけて1200℃から室温に自然放冷し、球状炭素粒子を取り出した。
収量は1.71g(収率85.5%)であった。得られた球状炭素粒子の分析結果を表1に示す。
【0061】
<実施例2>
炭化温度を1000℃とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、球状炭素粒子を得た。収量は1.80g(収率90%)であった。得られた球状炭素粒子の分析結果を表1に示す。また、得られた球状炭素粒子の電子顕微鏡観察写真を
図1に示す。
【0062】
<実施例3>
アンモニア水の添加量を100mLとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、球状炭素粒子を得た。収量は1.60g(収率80%)であった。得られた球状炭素粒子の分析結果を表1に示す。
【0063】
<比較例1>
1Lセパラブルフラスコにリグニン60gを秤量し、イオン交換水570mLを添加し、メカニカルスターラーで撹拌しながら、アンモニア水(28質量%)を200mL添加した。そこに、ホルムアルデヒド水溶液(36質量%)を20.4mL、アンモニア水(28質量%)5mLおよび酢酸0.5gの混合溶液を添加し、室温で20分撹拌した。さらに、オイルバスで加熱を開始し、内温80℃で1.5時間撹拌した。その後、撹拌しながら室温に冷却し、リグニン水溶液を得た。
得られた水溶液を、エバポレータを用いてバス温80℃、3kPaの減圧下で、水400gを留去した。得られた濃縮液を1Lビーカーに移し、防爆熱風乾燥機にて80℃で12時間乾燥して、固化した。得られた固体は45g(収率75%)であった。
得られた固体10.0gを舟形坩堝に入れ、第一の炭化工程として、この舟形坩堝を株式会社モトヤマ製管状炉(管径200mmφ×1800mm)に導入した。第一の炭化工程として、10L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、室温から600℃(昇温速度2.5℃/分)まで昇温し、600℃を1時間保持した後、12時間かけて600℃から室温に自然放冷して取り出した。炭化物5.8g(収率58%)を得た。
得られた炭化物を、ミキサーミルで体積平均粒子径8.1μmに粉砕した後、粉砕物5.0gを舟形坩堝に入れ、第二の炭化工程として、再び株式会社モトヤマ製管状炉に導入、5L/分の流量で窒素を1時間導入して炉内を窒素置換し、常温から1200℃(昇温速度10℃/分)まで昇温し、1200℃を30分間保持した後、12時間かけて1200℃から室温に自然放冷して取り出した。炭化物4.52g(収率90.4%)を得た。得られた炭化物の物性を表1に示す。
【0064】
<比較例2>
第二の炭化温度を1000℃としたこと、および体積平均粒子径が8.0μmになるよう粉砕した以外は、比較例1と同様の操作を行い、炭化物を得た。収量は4.65g(収率93.0%)であった。得られた炭化物の分析結果を表1に示す。また、得られた炭化物の電子顕微鏡観察写真を
図2に示す。
【0065】
<電極および電池の作製>
実施例および比較例で得た球状炭素粒子または炭化物を用いて、以下の手順にしたがって負極を作製した。
【0066】
[負極の作製]
球状炭素粒子または炭化物95質量部、導電性カーボンブラック(TIMCAL製「Super-P(登録商標)」)2質量部、PVDF(クレハ製)3部およびNMP90質量部を混合し、スラリーを得た。得られたスラリーを厚さ18μmの銅箔に塗布し、乾燥後プレスして、厚さ45μmの電極を得た。
【0067】
[非水電解質二次電池の作製]
前記で作製した電極を作用極とし、金属リチウムを対極および参照極として使用した。溶媒として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを、体積比で1:1:1となるように混合して用いた。この溶媒に、LiPF6を1mol/L溶解し、得られた溶液を電解質として用いた。セパレータにはポリプロピレン膜を使用した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でコインセルを作製した。
【0068】
<初期充放電時の不可逆容量および充放電効率>
前記構成のリチウム二次電池について、充放電試験装置((株)東洋システム製「TOSCAT」)を用いて25℃にて充放電試験を行った。炭素極へのリチウムのドープ反応を定電流定電圧法により行い、脱ドープ反応を定電流法で行った。ここで、正極にリチウムカルコゲン化合物を使用した電池では、炭素極へのリチウムのドープ反応が「充電」であり、本発明の試験電池のように対極にリチウム金属を使用した電池では、炭素極へのドープ反応が「放電」と呼ぶことになり、用いる対極により同じ炭素極へのリチウムのドープ反応の呼び方が異なる。そこで、ここでは、便宜上炭素極へのリチウムのドープ反応を「充電」と記述することにする。逆に「放電」とは試験電池では充電反応であるが、球状炭素粒子からのリチウムの脱ドープ反応であるため便宜上「放電」と記述することにする。ここで採用した充電方法は定電流定電圧法であり、具体的には端子電圧が0mVになるまで0.5mA/cm2で定電流充電を行い、端子電圧を0mVに達した後、端子電圧0mVで定電圧充電を行い電流値が20μAに達するまで充電を継続した。このときの充電全容量を電極の球状炭素粒子の質量で除した値を球状炭素粒子の単位質量当たりの初期充電容量(mAh/g)と定義する。充電終了後、30分間電池回路を開放し、その後放電を行った。放電は0.5mA/cm2で定電流放電を行い、終止電圧を1.5Vとした。このとき放電した電気量を電極の球状炭素材料の重量で除した値を球状炭素材料の単位重量当たりの初期放電容量(mAh/g)と定義する。初期充電容量と初期放電容量の差を、不可逆容量(mAh/g)と定義する。また、初期充電容量に対する初期放電容量の比を、充放電効率(%)と定義し、電池内におけるリチウムイオンの利用効率の指標とした。結果を表2に示す。
【0069】
<3C/1C放電容量比>
各球状炭素粒子について、初期放電容量を5時間で充放電可能な電流密度を計算し、これを0.2C電流密度(mA/cm2)と定義する。各電池に対し0.2C電流密度にて充電を行った後、前期の5倍(1C)および15倍(3C)の電流密度にて放電を行った際の放電容量の比を、3C/1C放電容量比(%)と定義し、電池の出力特性の指標とした。結果を表2に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
実施例1~3の球状炭素粒子を含む負極を備える非水電解質二次電池は、不可逆容量が低く、電極密度が高いことが分かる。また、3C/1C放電容量比が高いことからも、出力特性に優れた電池であることが分かる。また、効率的かつ安全に、本発明の球状炭素粒子を製造できた。一方、比較例1および2の炭化物を含む負極を備える非水電解質二次電池は、不可逆容量が高く、電極密度も低い。また、3C/1C放電容量比の値も低くなっている。